(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】超伝導電磁石、粒子加速器、及び粒子線治療装置
(51)【国際特許分類】
H01F 7/18 20060101AFI20250121BHJP
A61N 5/10 20060101ALI20250121BHJP
H01F 6/00 20060101ALI20250121BHJP
H05H 7/04 20060101ALI20250121BHJP
【FI】
H01F7/18 V
A61N5/10 H
H01F6/00 180
H05H7/04 ZAA
(21)【出願番号】P 2021057183
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2024-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】江原 悠太
(72)【発明者】
【氏名】吉田 潤
【審査官】小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-231086(JP,A)
【文献】特開昭61-171105(JP,A)
【文献】特開平1-128505(JP,A)
【文献】特開2006-332577(JP,A)
【文献】特開2017-033977(JP,A)
【文献】特開2016-015422(JP,A)
【文献】特開2015-225871(JP,A)
【文献】柳澤 吉紀,REBCOコイルにおける遮蔽電流磁場のメカニズムと抑制方法,低温工学,日本,社団法人低温工学協会,2013年,48巻4号,p.165-171
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 6/00- 6/06
H01F 7/18
H05H 7/04
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルに電流を流すことで磁場を発生する超伝導電磁石であって、
前記コイルの電流値を制御する制御部を有し、
前記制御部は、前記コイルの所定の電流値が前記目標電流値より高い場合、前記所定の電流値から前記目標電流値へ電流値を下降させる制御を行い、
前記所定の電流値が前記目標電流値以下の場合、前記所定の電流値から前記目標電流値よりも高いフォーマット電流値へ電流値を上昇させた後、前記目標電流値まで降下させる制御を行う、超伝導電磁石。
【請求項2】
コイルに電流を流すことで磁場を発生する超伝導電磁石であって、
前記コイルの電流値を制御する制御部を有し、
前記制御部は、前記コイルの所定の電流値が前記目標電流値より低い場合、前記所定の電流値から前記目標電流値へ電流値を上昇させる制御を行い、
前記所定の電流値が前記目標電流値以上の場合、前記所定の電流値から前記目標電流値よりも低いフォーマット電流値へ電流値を下降させた後、前記目標電流値まで上昇させる制御を行う、超伝導電磁石。
【請求項3】
コイルに電流を流すことで磁場を発生する超伝導電磁石であって、
前記コイルの電流値を制御する制御部を有し、
前記制御部は、電流値の変化に伴って生じる前記コイルの磁化による磁場を推定し、当該コイルの磁化による磁場の分だけ前記目標電流値からずらした電流値を前記コイルへ流す、超伝導電磁石。
【請求項4】
前記制御部は、前記コイルの電流値を前記フォーマット電流値にて、所定時間、一定とする、請求項1又は2に記載の超伝導電磁石。
【請求項5】
前記制御部は、初回の電流値の掃引制御においては、二回目以降の掃引制御において取り得る最大電流値まで上昇させる制御を行う、請求項1~4の何れか一項に記載の超伝導電磁石。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項に記載の超伝導電磁石を備え、粒子を加速して粒子線を生成する粒子加速器。
【請求項7】
請求項6に記載の粒子加速器を備え、前記粒子加速器で生成された粒子線を用いて治療を行う粒子線治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導電磁石、粒子加速器、及び粒子線治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導電磁石は、コイルと、真空容器と、を備える。コイルは、超伝導線材が巻回されることによって形成される円環状の部材である。コイルは、磁極を取り囲むように配置される。超伝導電磁石は、真空容器の内部を真空状態にした上で、冷却機によって超伝導状態とされたコイルに電流を流すことで強力な磁場を形成する。このような超伝導電磁石が用いられる装置として、例えば特許文献1に記載されたような粒子加速器が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、コイルに電流が流れると、コイルの周りに磁場が形成される。このとき、コイルでは、通電によって形成された磁場を外部磁場として、コイル内部の超伝導体が磁化を生じる(コイル磁化磁場)。このようなコイル磁化磁場は、コイルの周囲に形成される磁場に影響を及ぼす。このようなコイル磁化磁場は、例えば上述のような粒子加速器などにおいては、加速電圧周波数の位相ずれなどの問題を生じる場合がある。従って、コイル磁化磁場の影響を低減できる超伝導電磁石が求められていた。
【0005】
従って、本発明は、コイル磁化磁場の影響を低減できる超伝導電磁石、粒子加速器、及び粒子線治療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る超伝導電磁石は、コイルに電流を流すことで磁場を発生する超伝導電磁石であって、コイルの電流値を制御する制御部を有し、制御部は、コイルの所定の電流値が目標電流値より高い場合、所定の電流値から目標電流値へ電流値を下降させる制御を行い、所定の電流値が目標電流値以下の場合、所定の電流値から目標電流値よりも高いフォーマット電流値へ電流値を上昇させた後、目標電流値まで降下させる制御を行う。
【0007】
超伝導電磁石では、コイルの電流値を所定の電流値から目標電流値へ変更する場合、電流値を降下させる形で目標電流値へ到達する場合と、電流値を上昇させる形で目標電流値へ到達する場合とでは、同じ電流値であるにも関わらず、コイル磁化磁場に差がでてしまう。これに対し、制御部は、コイルの所定の電流値が目標電流値より高い場合、所定の電流値から目標電流値へ電流値を下降させる制御を行う。この場合、電流値は、下降する形で目標電流値に到達する。また、制御部は、所定の電流値が目標電流値以下の場合、所定の電流値から目標電流値よりも高いフォーマット電流値へ電流値を上昇させた後、目標電流値まで降下させる制御を行う。この場合、電流値は、下降する形で目標電流値に到達する。このように、電流値を変更する前の所定の電流値がどのような値であっても、電流値は、下降する形で目標電流値に到達する。これにより、電流値を変更する前の所定の電流値によらず、目標電流値へ到達したときのコイル磁化磁場を同じ状態にすることができる。以上より、コイル磁化磁場の影響を低減することができる。
【0008】
本発明の一側面に係る超伝導電磁石は、コイルに電流を流すことで磁場を発生する超伝導電磁石であって、コイルの電流値を制御する制御部を有し、制御部は、コイルの所定の電流値が目標電流値より低い場合、所定の電流値から目標電流値へ電流値を上昇させる制御を行い、所定の電流値が目標電流値以上の場合、所定の電流値から目標電流値よりも低いフォーマット電流値へ電流値を下降させた後、目標電流値まで上昇させる制御を行う。
【0009】
制御部は、コイルの所定の電流値が目標電流値より低い場合、所定の電流値から目標電流値へ電流値を上昇させる制御を行う。この場合、電流値は、上昇する形で目標電流値に到達する。また、制御部は、所定の電流値が目標電流値以上の場合、所定の電流値から目標電流値よりも低いフォーマット電流値へ電流値を下降させた後、目標電流値まで上昇させる制御を行う。この場合、電流値は、上昇する形で目標電流値に到達する。このように、電流値を変更する前の所定の電流値がどのような値であっても、電流値は、上昇する形で目標電流値に到達する。これにより、電流値を変更する前の所定の電流値によらず、目標電流値へ到達したときのコイル磁化磁場を同じ状態にすることができる。以上より、コイル磁化磁場の影響を低減することができる。
【0010】
本発明の一側面に係る超伝導電磁石は、コイルに電流を流すことで磁場を発生する超伝導電磁石であって、コイルの電流値を制御する制御部を有し、制御部は、電流値の変化に伴って生じるコイルの磁化による磁場を推定し、当該コイルの磁化による磁場の分だけ目標電流値からずらした電流値をコイルへ流す。
【0011】
制御部は、電流値の変化に伴って生じるコイルの磁化による磁場を推定し、当該コイルの磁化による磁場の分だけ目標電流値からずらした電流値をコイルへ流す。この場合、制御部は、所定の電流値から目標電流値へ変更するときに、コイル磁化磁場を予めフィードフォワード制御する形で、コイルへ流す電流値を制御することができる。これにより、コイルの周囲には、コイル磁化磁場が低減された態様での磁場が形成される。以上より、コイル磁化磁場の影響を低減することができる。
【0012】
制御部は、コイルの電流値をフォーマット電流値にて、所定時間、一定としてよい。この場合、コイル磁化磁場が変化するための十分な時間を確保することができる。
【0013】
制御部は、初回の電流値の掃引制御においては、二回目以降の掃引制御において取り得る最大電流値まで上昇させる制御を行ってよい。コイル磁化磁場の値は、初回の掃引制御にて、初期磁化過程に係る磁化曲線の全域を推移することができる。すると、二回目以降の掃引制御では、初期磁化過程に係る磁化曲線に沿ってコイル磁化磁場の値が変化することを抑制できる。
【0014】
本発明の一側面に係る粒子加速器は、上述の超伝導電磁石を備え、粒子を加速して粒子線を生成する。
【0015】
本発明の一側面に係る粒子線治療装置は、上述の粒子加速器を備え、粒子加速器で生成された粒子線を用いて治療を行う。
【0016】
これらの粒子加速器、及び粒子線治療装置によれば、上述の超伝導電磁石と同様の作用・効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、コイル磁化磁場の影響を低減できる超伝導電磁石、粒子加速器、及び粒子線治療装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態に係る超伝導電磁石が搭載された粒子加速器を示す概略断面図である。
【
図2】本実施形態に係る超伝導電磁石が搭載された粒子線治療装置を示す概略断面図である。
【
図3】コイル磁化磁場について説明するための模式図である。
【
図4】通電によってコイルが形成する磁場と、コイル磁化磁場との関係を示す磁化曲線のグラフである。
【
図5】コイル磁化磁場と電流との関係を示す図である。
【
図6】電流値の変化と、コイル磁化磁場の変化の態様を示すグラフである。
【
図7】電流値の変化と、コイル磁化磁場の変化の態様を示すグラフである。
【
図8】電流値の変化と、コイル磁化磁場の変化の態様を示すグラフである。
【
図9】電流値の変化と、コイル磁化磁場の変化の態様を示すグラフである。
【
図10】初期磁化過程に係る磁化曲線を解消するための制御内容を説明するための図である。
【
図11】推定したコイル磁化磁場分だけ目標電流値からずらした電流値をコイルへ流す態様を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して種々の実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
図1は、本実施形態に係る超伝導電磁石が搭載された粒子加速器を示す概略断面図である。
図1に示される粒子加速器1は、例えば、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT:Boron Neutron Capture Therapy)を用いたがん治療を行う中性子捕捉療法システム等において、イオン源(不図示)から供給された荷電粒子を加速して荷電粒子線を生成して出射するために用いられるサイクロトロンである。荷電粒子としては、例えば陽子、重粒子(重イオン)、電子等が挙げられる。また、粒子加速器1は、PET用サイクロトロン、RI製造用サイクロトロン、及び原子核実験用サイクロトロン等として用いることもできる。また、粒子加速器1は、
図2に示すような粒子線治療装置100に採用されてよい。
図2に示す粒子線治療装置100は、粒子加速器1と、輸送ライン121と、照射部102と、回転ガントリ105と、を備える。照射部102は、粒子加速器で生成されて輸送ライン121で輸送された粒子線を出射する。照射部102は、治療台104上の患者に照射される。照射部102は、回転ガントリ105に取り付けられており、当該回転ガントリ105によって回転方向における照射位置が調整される。なお、粒子加速器1は、サイクロトロンに限定されず、シンクロサイクロトロンであってもよい。
【0021】
図1に戻り、粒子加速器1は、ヨーク2と、超伝導電磁石3と、一対の磁極4A,4Bと、真空容器5と、を備えている。
【0022】
ヨーク2は、超伝導電磁石3、一対の磁極4A,4B、及び真空容器5等を支持するものである。ヨーク2は、中空の円盤型ブロックであり、その内部には、荷電粒子の加速に必要な磁場を形成する一対の磁極4A,4Bが設けられている。磁極4A,4Bは、平面視で円形状であり、メディアンプレーンMP(荷電粒子が加速する加速平面)を挟んで互いに対向して配置されている。磁極4A,4Bの周囲には、超伝導電磁石3が配置されている。
【0023】
超伝導電磁石3は、一対のコイル30A,30Bと、真空容器5と、制御部20と、を備える。それぞれのコイル30A,30Bは円環状であり、超伝導線材が巻回されることによって形成される。コイル30A,30Bは、それぞれ磁極4A,4Bを取り囲むように配置される。超伝導線材の材料は特に限定されないが、NbTi、Nb3Sn、MgB2、Bi系超伝導(Bi2223、Bi2212など)、希土類系超伝導、鉄系超伝導などが採用されてよい。
【0024】
真空容器5は、コイル30A,30Bを真空状態で収容する容器である。真空容器5及び冷凍機(不図示)により、コイル30A,30Bを超伝導状態となるまで冷却可能なクライオスタットが構成されている。冷凍機としては、例えば、GM冷凍機(Gifford-McMhon cooler)が用いられ得る。なお、冷凍機の種類はGM冷凍機に限定されず、例えばスターリング冷凍機等のその他の冷凍機であってもよい。
【0025】
粒子加速器1では、真空容器5の内部を真空状態にした上で、冷却機によって超伝導状態とされた超伝導電磁石3のコイルに電流を流すことで強力な磁場を形成する。イオン源(不図示)から供給された荷電粒子は、磁極4Aと磁極4Bとの間の空間のメディアンプレーンMP上において磁場の影響によって加速され、荷電粒子線として出射される。
【0026】
制御部20は、コイル30A,30Bの電流値を制御する装置である。ここで、制御部20の制御内容について説明するため、
図3を参照して、コイル30のコイル磁化磁場について説明する。なお、コイル30A,30Bについて特に区別しない場合は、「コイル30」と称する。コイル30に電流が流れると、コイル30の周りに磁場MFが形成される。このとき、コイル30では、磁場MFを外部磁場として、コイル30内部の超伝導体が磁化を生じる(コイル磁化磁場)。このようなコイル磁化磁場は、コイル30の周囲に形成される磁場に影響を及ぼす。
図3において、「Berror」はコイル磁化磁場を示す。「Bext」は、通電によってコイル30が形成する磁場のうちBerrorを除いたものである。ここで、
図3(a)(b)に示すように、電流値を増加させてコイル30を励磁する場合と、電流値を減少させてコイル30を消磁する場合とでは、相互インダクタンスMの影響によって、コイル磁化磁場の値や挙動が互いに異なる。具体的に、
図4は、通電によってコイル30が形成する磁場と、コイル磁化磁場との関係を示す磁化曲線のグラフである。
図4の横軸は外部磁場を示しており、縦軸は超伝導体の磁化を示している。なお、電流値を横軸と見なして電流値とコイル磁化磁場の関係を描いた場合も、
図4と略同様な形状となる。従って、
図4の横軸は電流値と見なしてもよい。また、縦軸の値を単に「コイル磁化磁場の値」と称する場合がある。
図4に示すように、コイル30の電流値を正側の領域において増加させると、コイル磁化磁場の値は、グラフの負側の磁化曲線E1を推移する。コイル30の電流値を正側の領域において減少させると、コイル磁化磁場の値は、グラフの正側の磁化曲線E2を推移する。このように、コイル磁化磁場の影響によるコイル磁化磁場は、電流の掃引パターンに依存する。
【0027】
図5は、
図4のグラフの横軸の正側の領域を模式的に示している。ただし、横軸は、コイル30に対する電流値に置き換えている。例えば、コイル30の電流値をスタートの電流値から目標電流値(Ib)へ直接変更する場合、スタートの電流値と目標電流値との大小関係によって、コイル磁化磁場の値が異なるものとなってしまう。すなわち、スタートの電流値が「Ib」よりも小さい「Ia」の場合、コイル磁化磁場の値は、負側の磁化曲線E1で推移する。このとき、コイル磁化磁場の値は、スタート点S1の値から、磁化曲線E1を推移して、目標点F1の値となる。スタートの電流値が「Ib」よりも大きい「Ic」の場合、コイル磁化磁場の値は、正側の磁化曲線E2で推移する。このとき、コイル磁化磁場の値は、スタート点S2の値から、磁化曲線E2を推移して、目標点F2の値となる。このように、最終的に到達する目標電流値は「Ib」で同じであるにも関わらず、目標点F1のコイル磁化磁場の値と目標点F2のコイル磁化磁場の値とでは、互いに異なった値となる。
【0028】
従って、制御部20は、電流値を所定の電流値(以降、スタート電流値を称する)から目標電流値へ変更する制御において、スタート電流値の大きさによらず、目標電流値でのコイル磁化磁場の値が同じになるように制御する。制御部20は、目標電流値へ到達する直前においては、電流値を減少させることで(消磁)目標電流値へ到達させる。この場合、制御部20は、目標電流値へ到達する直前には、コイル磁化磁場の値が正側の磁化曲線E2を推移するように、電流値を制御する。
【0029】
図6及び
図7を参照して、制御部20の制御内容について説明する。
図6(a)(b)の左側のグラフは、時間の推移と電流値の推移の関係を示すグラフである。
図6(a)(b)の右側のグラフは、電流値とコイル磁化磁場の値との関係を示すグラフである。
図7以降も同様である。以降の説明では、「スタート電流値Is」「目標電流値If」とする。また、スタート電流値Isの直前の電流値を「直前電流値Ip」とする。目標電流値Ifの直前において、コイル磁化磁場の値を正の磁化曲線E2で推移させるための電流値を「フォーマット電流値Io」とする。なお、電流値とコイル磁化磁場の値を示すグラフにおいて、スタート電流値Isに対応する点をスタート点S、フォーマット電流値Ioに対応する点をフォーマット点O、目標電流値Ifに対応する点を目標点Fとする。
【0030】
図6及び
図7は、フォーマット電流値Ioが目標電流値Ifよりも高い場合の制御部20の制御内容を示す。この場合、コイル磁化磁場の値が、フォーマット点Oへ至るまでにどのような推移をしていたとしても、フォーマット点Oから目標点Fへ至るときには、正側の磁化曲線E2を推移する。
【0031】
図6は、スタート電流値Isが目標電流値If及びフォーマット電流値Ioよりも高いときの制御内容を示す。
図6に示すように、制御部20は、スタート電流値Isが目標電流値Ifより高い場合、スタート電流値Isから目標電流値Ifへ電流値を下降させる制御を行う。
【0032】
図6(a)は、直前電流値Ipがスタート電流値Isよりも大きい場合の制御内容を示す。このとき、制御部20が直前電流値Ipからスタート電流値Isへ変更するために電流値を降下させるので(左側のグラフ)、スタート点Sは、正側の磁化曲線E2に存在する(右側のグラフ)。制御部20がスタート電流値Isからフォーマット電流値Ioへ電流値を降下させる。これにより、コイル磁化磁場の値は、正側の磁化曲線E2にて、スタート点Sからフォーマット点Oへ推移する。また、制御部20がフォーマット電流値Ioから目標電流値Ifへ電流値を降下させる。これにより、コイル磁化磁場の値は、正側の磁化曲線E2にて、フォーマット点Oから目標点Fへ推移する。
【0033】
図6(b)は、直前電流値Ipがスタート電流値Isよりも小さい場合の制御内容を示す。このとき、制御部20が直前電流値Ipからスタート電流値Isへ変更するために電流値を上昇させるので(左側のグラフ)、スタート点Sは、負側の磁化曲線E1に存在する(右側のグラフ)。制御部20がスタート電流値Isからフォーマット電流値Ioへ電流値を上昇させる。このとき、コイル磁化磁場の値は、負側の磁化曲線E1のスタート点Sから正側の磁化曲線E2へ飛び、当該正側の磁化曲線E2にてフォーマット点Oへ推移する。また、制御部20がフォーマット電流値Ioから目標電流値Ifへ電流値を降下させる。これにより、コイル磁化磁場の値は、正側の磁化曲線E2にて、フォーマット点Oから目標点Fへ推移する。
【0034】
図7は、スタート電流値Isが目標電流値If及びフォーマット電流値Io以下の制御内容を示す。
図7に示すように、制御部20は、スタート電流値Isが目標電流値If以下の場合、スタート電流値Isから目標電流値Ifよりも高いフォーマット電流値Ioへ電流値を上昇させた後、目標電流値Ifまで降下させる制御を行う。
【0035】
図7(a)は、直前電流値Ipがスタート電流値Isよりも大きい場合の制御内容を示す。このとき、制御部20が直前電流値Ipからスタート電流値Isへ変更するために電流値を降下させるので(左側のグラフ)、スタート点Sは、正側の磁化曲線E2に存在する(右側のグラフ)。制御部20がスタート電流値Isからフォーマット電流値Ioへ電流値を上昇させる。これにより、コイル磁化磁場の値は、正側の磁化曲線E2から、負側の磁化曲線E1へ飛び、当該負側の磁化曲線E1を推移し、フォーマット点Oに対応する電流値の位置まで推移する。制御部20がフォーマット電流値Ioから目標電流値Ifへ電流値を降下させる。これにより、コイル磁化磁場の値は、負側の磁化曲線E1から正側の磁化曲線E2へ飛び、当該正側の磁化曲線E2にて、フォーマット点Oから目標点Fへ推移する。
【0036】
図7(b)は、直前電流値Ipがスタート電流値Is以下の場合の制御内容を示す。このとき、制御部20が直前電流値Ipからスタート電流値Isへ変更するために電流値を上昇させるので(左側のグラフ)、スタート点Sは、負側の磁化曲線E1に存在する(右側のグラフ)。制御部20がスタート電流値Isからフォーマット電流値Ioへ電流値を上昇させる。これにより、コイル磁化磁場の値は、スタート点Sから負側の磁化曲線E1を推移し、フォーマット点Oに対応する電流値の位置まで推移する。制御部20がフォーマット電流値Ioから目標電流値Ifへ電流値を降下させる。これにより、コイル磁化磁場の値は、負側の磁化曲線E1から正側の磁化曲線E2へ飛び、当該正側の磁化曲線E2にて、フォーマット点Oから目標点Fへ推移する。
【0037】
制御部20による制御内容は、
図6及び
図7に示すものに限定されず、
図8及び
図9に示す制御内容が採用されてもよい。
図8及び
図9は、フォーマット電流値Ioが目標電流値Ifよりも低い場合の制御部20の制御内容を示す。この場合、コイル磁化磁場の値が、フォーマット点Oへ至るまでにどのような推移をしていたとしても、フォーマット点Oから目標点Fへ至るときには、負側の磁化曲線E1を推移する。すなわち、制御部20は、目標電流値へ到達する直前には、コイル磁化磁場の値が負側の磁化曲線E1を推移するように、電流値を制御する。
【0038】
図8は、スタート電流値Isが目標電流値If及びフォーマット電流値Io以上であるときの制御内容を示す。
図8に示すように、制御部20は、スタート電流値Isから目標電流値Ifよりも低いフォーマット電流値Ioへ電流値を下降させた後、目標電流値Ifまで上昇させる制御を行う。
【0039】
図8(a)は、直前電流値Ipがスタート電流値Isよりも大きい場合の制御内容を示す。このとき、制御部20が直前電流値Ipからスタート電流値Isへ変更するために電流値を降下させるので(左側のグラフ)、スタート点Sは、正側の磁化曲線E2に存在する(右側のグラフ)。制御部20がスタート電流値Isからフォーマット電流値Ioへ電流値を降下させる。これにより、コイル磁化磁場の値は、正側の磁化曲線E2にて、スタート点Sからフォーマット点Oに対応する電流値の位置へ推移する。また、制御部20がフォーマット電流値Ioから目標電流値Ifへ電流値を降下させる。これにより、コイル磁化磁場の値は、正側の磁化曲線E2から負側の磁化曲線E1へ飛び、当該負側の磁化曲線E1にて、フォーマット点Oから目標点Fへ推移する。
【0040】
図8(b)は、直前電流値Ipがスタート電流値Isよりも小さい場合の制御内容を示す。このとき、制御部20が直前電流値Ipからスタート電流値Isへ変更するために電流値を上昇させるので(左側のグラフ)、スタート点Sは、負側の磁化曲線E1に存在する(右側のグラフ)。制御部20がスタート電流値Isからフォーマット電流値Ioへ電流値を上昇させる。このとき、コイル磁化磁場の値は、負側の磁化曲線E1のスタート点Sから正側の磁化曲線E2へ飛び、当該正側の磁化曲線E2にてフォーマット点Oに対応する電流値の位置へ推移する。また、制御部20がフォーマット電流値Ioから目標電流値Ifへ電流値を降下させる。これにより、コイル磁化磁場の値は、正側の磁化曲線E2から負側の磁化曲線E1へ飛び、当該負側の磁化曲線E1にて、フォーマット点Oから目標点Fへ推移する。
【0041】
図9は、スタート電流値Isが目標電流値If及びフォーマット電流値Ioより低い場合の制御内容を示す。
図9に示すように、制御部20は、スタート電流値Isから目標電流値Ifへ電流値を上昇させる制御を行う。
【0042】
図9(a)は、直前電流値Ipがスタート電流値Isよりも大きい場合の制御内容を示す。このとき、制御部20が直前電流値Ipからスタート電流値Isへ変更するために電流値を降下させるので(左側のグラフ)、スタート点Sは、正側の磁化曲線E2に存在する(右側のグラフ)。制御部20がスタート電流値Isからフォーマット電流値Ioへ電流値を上昇させる。これにより、コイル磁化磁場の値は、正側の磁化曲線E2から、負側の磁化曲線E1へ飛び、当該負側の磁化曲線E1を推移し、フォーマット点Oまで推移する。制御部20がフォーマット電流値Ioから目標電流値Ifへ電流値を上昇させる。これにより、コイル磁化磁場の値は、負側の磁化曲線E1にて、フォーマット点Oから目標点Fへ推移する。
【0043】
図9(b)は、直前電流値Ipがスタート電流値Isよりも小さい場合の制御内容を示す。このとき、制御部20が直前電流値Ipからスタート電流値Isへ変更するために電流値を上昇させるので(左側のグラフ)、スタート点Sは、負側の磁化曲線E1に存在する(右側のグラフ)。制御部20がスタート電流値Isからフォーマット電流値Ioへ電流値を上昇させる。これにより、コイル磁化磁場の値は、スタート点Sから負側の磁化曲線E1を推移し、フォーマット点Oまで推移する。制御部20がフォーマット電流値Ioから目標電流値Ifへ電流値を上昇させる。これにより、コイル磁化磁場の値は、負側の磁化曲線E1にて、フォーマット点Oから目標点Fへ推移する。
【0044】
ここで、
図10(a)に示すように、電流の掃引パターンは、コイル磁化磁場の負側において、磁化曲線E1とは別に、初期磁化過程に係る磁化曲線E3を有する。初期磁化過程に係る磁化曲線E3は、コイル30に対して初めて上昇するような電流値を流す場合にコイル磁化磁場の値が推移する磁化曲線である。例えば、フォーマット電流値Ioから目標電流値Ifへ上昇する場合、コイル磁化磁場の値が磁化曲線E1を推移するときには、フォーマット点Oから目標点Fへ推移する。しかし、コイル磁化磁場の値が磁化曲線E3を推移するときには、異なるフォーマット点O`から異なる目標点F`へ推移する。
【0045】
ここで、コイル磁化磁場の値が、ある電流値において初期磁化過程に係る磁化曲線E3を一度でも通過すれば、次回以降は、磁化曲線E1を推移するようになる。従って、
図10(c)に示すように、制御部20は、初回の電流値の掃引制御においては、二回目以降の掃引制御において取り得る最大電流値Imaxまで上昇させる制御を行う。これにより、
図10(b)に示すように、コイル磁化磁場の値は、初回の掃引制御にて、初期磁化過程に係る磁化曲線E3の全域を推移することができる。すると、当該処理を行った以降は(
図10(c)の時間t1以降)、
図6~
図9に示す処理を行えば、磁化磁場の値が磁化曲線E1,E2を推移するような制御を行うことができる。
【0046】
次に、目標電流値Ifとフォーマット電流値I
Oとの差分の大きさについて説明する。この差分ΔIの大きさは、以下の式(1)によって設定される。μ
0は真空の透磁率、J
cは超伝導体の臨界電流値、r
fはフィラメント半径を示す。l
0は任意の通電電流値、B
mは通電電流値に対してコイル内で最も強い磁束密度の強さである。なお、臨界電流値J
cは温度、経験磁場で規定されるため、J
cは運用される温度と経験磁場に対して幅を持つ。例えば、αの値として式(2)にて求められる値を採用してよい。
【数1】
【0047】
制御部20は、コイル30の電流値をフォーマット電流値Ioにて、所定時間、一定とする。一定とする所定時間は特に限定されないが、例えば、制御部20が電流値をスタート電流値Isからフォーマット電流値Ioへ変化させたときに、コイル磁化磁場の値が、スタート点から、フォーマット点Oへ推移するのに十分な時間が確保されていればよい。例えば、一定とする所定時間は、30~600秒程度に設定されていればよい。
【0048】
図6~
図9に示す制御内容では、制御部20は、目標電流値へ到達する直前に、コイル磁化磁場の値が負側の磁化曲線E1を推移するように、またはコイル磁化磁場の値が正側の磁化曲線E2を推移するように、電流値を制御していた。これに代えて、
図11に示すように、制御部20は、コイルの電流値をスタート電流値から目標電流値へ変更する制御において、コイル磁化磁場(電流値の変化に伴って生じるコイル30の磁化による磁場)を推定し、コイル磁化磁場の分だけ目標電流値からずらした電流値をコイル30へ流してよい。
【0049】
具体的に、制御部20は、目標電流値Iに対して推定値ΔI`だけずらした電流値をコイル30へ流す。例えば、
図11(a)に示すように、制御部20は「I+ΔI`」という電流値をコイル30へ流す。または、
図11(b)に示すように、制御部20は「I-ΔI`」という電流値をコイル30へ流す。ΔI`は、式(3)によって設定される。各パラメータは上述の式(1)と同様である。αは式(4)を満たす必要がある。αは、超伝導体の単位体積あたり磁気モーメントが、コイル30周辺の任意点に作る磁場について、各単位体積の磁場の総和を演算することで求められてよい。
【数2】
【0050】
次に、本実施形態に係る超伝導電磁石3の作用・効果について説明する。
【0051】
上述のように、超伝導電磁石3では、コイル30は、磁場MFを外部磁場として、コイル30内部の超伝導体が磁化を生じる(コイル磁化磁場)。これにより、コイル30にはコイル磁化磁場が発生する。このようなコイル磁化磁場は、コイル30の磁場の絶対値に対する要求が高い場合には無視することができない。
図1に示すように、上述のようなコイル磁化磁場の影響は粒子加速器1において問題となる場合がある。コイル磁化磁場と加速電圧周波数位相ずれとの間に相関関係があるため、コイル磁化磁場が粒子の加速に影響を及ぼす。従って、電流の掃引パターンに依存するコイル磁化磁場が、粒子加速器1の加速効率の低下を招く可能性がある。粒子加速器1には精度が要求されるため、コイル磁化磁場によるコイル磁化磁場の影響を低減できる超伝導電磁石が求められていた。
【0052】
ここで、超伝導電磁石3では、コイル30の電流値をスタート電流値Isから目標電流値Ifへ変更する場合、電流値を降下させる形で目標電流値Ifへ到達する場合と、電流値を上昇させる形で目標電流値Ifへ到達する場合とでは、同じ電流値であるにも関わらず、コイル磁化磁場によるコイル磁化磁場に差がでてしまう(
図5参照)。これに対し、
図6及び
図7に示すように、制御部20は、スタート電流値Isが目標電流値Ifより高い場合、スタート電流値Isから目標電流値Ifへ電流値を下降させる制御を行う。この場合、電流値は、下降する形で目標電流値Ifに到達する。また、制御部20は、スタート電流値Isが目標電流値If以下の場合、スタート電流値Isから目標電流値Ifよりも高いフォーマット電流値Ioへ電流値を上昇させた後、目標電流値Ifまで降下させる制御を行う。この場合、電流値は、下降する形で目標電流値Ifに到達する。このように、電流値を変更する前の所定の電流値がどのような値であっても、電流値は、下降する形で目標電流値Ifに到達する。これにより、電流値を変更する前のスタート電流値Isによらず、目標電流値Ifへ到達したときのコイル磁化磁場を同じ状態にすることができる。以上より、コイル磁化磁場の影響を低減することができる。
【0053】
また、
図8及び
図9に示すように、制御部20は、スタート電流値Isが目標電流値Ifより低い場合、スタート電流値Isから目標電流値Ifへ電流値を上昇させる制御を行う。この場合、電流値は、上昇する形で目標電流値Ifに到達する。また、制御部20は、所定の電流値が目標電流値If以上の場合、スタート電流値Isから目標電流値Ifよりも低いフォーマット電流値Ioへ電流値を下降させた後、目標電流値Ifまで上昇させる制御を行う。この場合、電流値は、上昇する形で目標電流値Ifに到達する。このように、電流値を変更する前のスタート電流値がどのような値であっても、電流値は、上昇する形で目標電流値Ifに到達する。これにより、電流値を変更する前のスタート電流値Isによらず、目標電流値Ifへ到達したときのコイル磁化磁場を同じ状態にすることができる。以上より、コイル磁化磁場の影響を低減することができる。
【0054】
また、
図11に示すように、制御部20は、電流値の変化に伴って生じるコイル30の磁化による磁場を推定し、コイル磁化磁場分だけ目標電流値からずらした電流値をコイル30へ流す。
【0055】
この場合、制御部20は、スタート電流値から目標電流値へ変更するときに、コイル磁化磁場を予めフィードフォワード制御する形で、コイル30へ流す電流値を制御することができる。これにより、コイル30の周囲には、コイル磁化磁場が低減された態様での磁場が形成される。以上より、コイル磁化磁場の影響を低減することができる。
【0056】
制御部20は、コイル30の電流値をフォーマット電流値Ioにて、所定時間、一定としてよい。この場合、コイル磁化磁場が変化するための十分な時間を確保することができる。
【0057】
制御部20は、初回の電流値の掃引制御においては、二回目以降の掃引制御において取り得る最大電流値Imaxまで上昇させる制御を行ってよい。コイル磁化磁場の値は、初回の掃引制御にて、初期磁化過程に係る磁化曲線E3の全域を推移することができる。すると、二回目以降の掃引制御では、初期磁化過程に係る磁化曲線E3に沿ってコイル磁化磁場の値が変化することを抑制できる。
【0058】
本実施形態に係る粒子加速器1は、上述の超伝導電磁石3を備え、粒子を加速して粒子線を生成する。
【0059】
本実施形態に係る粒子線治療装置100は、上述の粒子加速器1を備え、粒子加速器1で生成された粒子線を用いて治療を行う。
【0060】
これらの粒子加速器1、及び粒子線治療装置100によれば、上述の超伝導電磁石3と同様の作用・効果を得ることができる。
【0061】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0062】
例えば、超伝導電磁石は粒子加速器に採用されていたが、シリコン単結晶引き上げ装置などに採用されてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1…粒子加速器、3…超伝導電磁石、20…制御部、30,30A,30B…コイル、100…粒子線治療装置。