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特許7623235建物の応答推定システムおよび建物の応答推定方法
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  • 特許-建物の応答推定システムおよび建物の応答推定方法 図1
  • 特許-建物の応答推定システムおよび建物の応答推定方法 図2
  • 特許-建物の応答推定システムおよび建物の応答推定方法 図3
  • 特許-建物の応答推定システムおよび建物の応答推定方法 図4
  • 特許-建物の応答推定システムおよび建物の応答推定方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】建物の応答推定システムおよび建物の応答推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20250121BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20250121BHJP
   G01H 1/00 20060101ALI20250121BHJP
   G01M 7/02 20060101ALI20250121BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01H17/00 Z
G01H1/00 E
G01M7/02 H
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021105751
(22)【出願日】2021-06-25
(65)【公開番号】P2023004201
(43)【公開日】2023-01-17
【審査請求日】2024-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】森井 雄史
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-101953(JP,A)
【文献】特開2017-125742(JP,A)
【文献】特開2019-020261(JP,A)
【文献】特開2019-144031(JP,A)
【文献】特開2020-143895(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0106696(US,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1431237(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 99/00
G01H 17/00
G01H 1/00
G01M 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層構造の建物に外力が作用した際の前記建物の全体の応答を推定する建物の応答推定システムにおいて、
前記建物の1階および中間階に設けられ、前記建物の1階および中間階の応答を検出するセンサと、
前記センサが検出した前記建物の1階および中間階の加速度情報を受信し、前記建物の1階および中間階の加速度情報から算出した前記建物に生じた振動の波形を与条件として、前記建物の設計モデルに基づいて前記建物の全層の層ごとの加速度を推定する演算部と、を有し、
前記演算部は、
前記建物の1階および中間階の加速度情報から伝達関数を算定して、前記建物の固有振動数および減衰定数を推定し、
前記建物の設計モデルの質量分布および剛性分布と、前記伝達関数と、から前記建物の頂部の加速度を推定し、
前記建物の1階および中間階の加速度情報と、前記建物の頂部の加速度と、を基にモード合成により前記建物の全層の層ごとの加速度を推定する建物の応答推定システム。
【請求項2】
多層構造の建物に外力が作用した際の前記建物の全体の応答を推定する建物の応答推定方法において、
前記建物の1階および中間階に設けられたセンサにより前記建物の1階および中間階の応答を検出するセンサ検出工程と、
前記センサ検出工程で検出された前記建物の1階および中間階の加速度情報から算出した前記建物に生じた振動の波形を与条件として、前記建物の設計モデルの質量分布および剛性分布と、前記建物の1階および中間階の加速度情報から伝達関数を算定し、前記建物の固有振動数および減衰定数を推定する固有振動数および減衰定数推定工程と、
前記建物の設計モデルの質量分布および剛性分布と、前記伝達関数と、から前記建物の頂部の加速度を推定する建物頂部応答推定工程と、
前記センサ検出工程で検出された前記建物の1階および中間階の加速度情報と、前記建物頂部応答推定工程で推定された前記建物の頂部の加速度と、を基にモード合成により前記建物の全層の層ごとの加速度を推定する全層応答推定工程と、を有することを特徴とする建物の応答推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の応答推定システムおよび建物の応答推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中層や高層の多層構造の建物の構造モニタリングシステムでは、建物の設定された階にセンサを設置し、建物に地震などの外力が作用した際にセンサが検出した情報から建物全層の応答を推定する方法(建物の応答推定方法)が用いられることがある。例えば、特許文献1に開示された建物の応答推定方法では、一般化逆行列を使用して、建物の高次モードを取り込んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-195354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような建物の応答推定方法では、センサの設置が少ない場合でも、建物全層の応答を精度よく推定できることが望まれている。
【0005】
そこで本発明は、簡易な構成で建物全層の応答を精度よく推定できる建物の応答推定システムおよび建物の応答推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る建物の応答推定システムは、多層構造の建物に外力が作用した際の前記建物の全体の応答を推定する建物の応答推定システムにおいて、前記建物の1階および中間階に設けられ、前記建物の1階および中間階の応答を検出するセンサと、前記センサが検出した前記建物の1階および中間階の加速度情報を受信し、前記建物の1階および中間階の加速度情報から算出した前記建物に生じた振動の波形を与条件として、前記建物の設計モデルに基づいて前記建物の全層の層ごとの応答を推定する演算部と、を有し、前記演算部は、前記建物の1階および中間階の加速度情報から伝達関数を算定して、前記建物の固有振動数および減衰定数を推定し、前記建物の設計モデルの質量分布および剛性分布と、前記伝達関数と、から前記建物の頂部の加速度を推定し、前記建物の1階および中間階の加速度情報と、前記建物の頂部の加速度と、を基にモード合成により前記建物の全層の層ごとの加速度を推定する。
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る建物の応答推定方法は、多層構造の建物に外力が作用した際の前記建物の全体の応答を推定する建物の応答推定方法において、前記建物の1階および中間階に設けられたセンサにより前記建物の1階および中間階の応答を検出するセンサ検出工程と、前記センサ検出工程で検出された前記建物の1階および中間階の加速度情報から算出した前記建物に生じた振動の波形を与条件として、前記建物の設計モデルの質量分布および剛性分布と、前記建物の1階および中間階の加速度情報から伝達関数を算定し、前記建物の固有振動数および減衰定数を推定する固有振動数および減衰定数推定工程と、前記建物の設計モデルの質量分布および剛性分布と、前記伝達関数と、から前記建物の頂部の加速度を推定する建物頂部応答推定工程と、前記センサ検出工程で検出された前記建物の1階および中間階の加速度情報と、前記建物頂部応答推定工程で推定された前記建物の頂部の加速度と、を基にモード合成により前記建物の全層の層ごとの加速度を推定する全層応答推定工程と、を有する。
【0008】
本発明では、センサ検出工程で検出された建物の1階および中間階の加速度情報から建物の頂部の加速度を推定し、これらの建物の1階、中間階および頂部の加速度を基に、モード合成により建物の全層の層ごとの加速度を推定するため、建物全層の応答を精度よく推定できる。
また、センサを建物の1階と中間階に設けることにより、建物の低層部に集中する可能性が高い非線形性の追従を向上させることができる。
また、センサを建物の1階と中間階に設ければよいため、建物の応答推定システムおよび建物の応答推定方法を簡易な構成とすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡易な構成で建物全層の応答を精度よく推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態による建物の応答推定システムおよび建物の応答推定方法が採用される建物の斜視図である。
図2】建物の応答推定システムおよび建物の応答推定方法のイメージを示す図である。
図3】伝達関数を示すグラフである。
図4】従来の建物の応答推定方法による最大加速度と最大層間変形角の推定値のグラフである。
図5】本実施形態の建物の応答推定方法による最大加速度と最大層間変形角の推定値のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態による建物の応答推定システムおよび建物の応答推定方法について、図1図5に基づいて説明する。
本実施形態による建物の応答推定システムおよび建物の応答推定方法は、図1に示すような中層や高層などの多層構造の建物11において、建物11に地震などの外力が作用した際の建物11の全体の応答を推定する。
建物の応答推定システム1は、建物の1階および中間階に1つずつ設けられた2つのセンサ2と、建物11に地震などの外力が作用した際にセンサ2が検出した情報が送信されて建物の全体の応答を推定する演算部3と、を有している。
演算部は、建物11の設計モデル(質量分布、剛性分布)を用いたモード合成法に基づいて、建物11の全体の応答を推理する。
図2は、建物の応答推定システムおよび建物の応答推定方法のイメージ図である。
【0012】
本実施形態の建物の応答推定システム1による建物の応答推定方法について説明する。
まず、建物11に地震などの外力が作用した際に建物の1階および中間階に設けられた2つのセンサ2がそれぞれの階の加速度を検出する(センサ検出工程)。センサ2が検出した応答は、演算部3に送信される。
【0013】
続いて、演算部3は、センサ検出工程で検出された1階および中間階の加速度情報から算出した地震波形を与条件として、建物11の設計モデルの質量分布および剛性分布と、センサ検出工程で検出された1階および中間階の加速度情報から伝達関数H(f)を算定し、建物11の固有振動数fおよび減衰定数hを推定する(固有振動数および減衰定数推定工程)。
【0014】
伝達関数H(f)は、下式で表される。但し、f:振動数、n:最高次のモード次数、j:各モード、h:j次の減衰定数、βu:刺激係数、f:固有振動数、i:虚数単位である。図3に伝達関数のグラフを示す。
【0015】
【数1】
【0016】
固有振動数fおよび減衰定数hの推定は、例えば、センサ情報を基に、非線形最小二乗法でフィッティングして求める方法(下記参考文献1参照)や、固有振動数は伝達関数のピーク振動数とし、減衰定数は、ハーフパワー法(下記参考文献2参照)によって求める方法を用いる。また、固有振動数fおよび減衰定数hは、2次モードまでを対象として推定する。
推定に必要な刺激係数βuは、設計モデルの質量分布と剛性分布による固有値解析から求めたものを使用する。
参考文献1 中川徹、小柳義夫:最小二乗法による実験データ解析-プログラムSALS、東京大学出版会、1982
参考文献2 日本建築学会:「建築物の減衰」
【0017】
建物11の設計モデルの質量分布および剛性分布と、伝達関数と、から建物11の頂部の応答(加速度)を推定する(建物頂部応答推定工程)。
建物11の頂部の応答Uは、伝達関数H(f)に1階の加速度情報(U)を乗じることで算定できる。
【0018】
センサ検出工程で検出された1階および中間階の加速度情報と、建物11の頂部応答推定工程で推定された建物11の頂部の応答Uと、からモードの重ね合わせ(モード合成)により建物11の全層の層ごとの応答(層ごとの最大加速度および最大層間変形角)を推定する(全層応答推定工程)。伝達関数を用いて、建物11の頂部の応答Uを推定してモード合成法を用いることで、2次モードまでを考慮することが可能となる。
健全性判定に必要となる層間変形角は、加速度を2階積分して変位を算定し、上下階の変位の差分をとって、階高さで除することで算定できる。最大層間変形角は、層間変形角の最大値である。
【0019】
図4には、建物11の1階および頂部のそれぞれ設けられたセンサで測定された加速度の情報から全層の最大加速度および全層の最大層間変形角を推定する従来の建物の応答推定方法による推定結果を示す。図5には、建物11の1階および中間階のそれぞれ設けられたセンサ2で測定された加速度の情報から全層の最大加速度および全層の最大層間変形角を推定する本実施形態による建物の応答推定方法による推定結果を示す。図4および図5の真値とは、各層それぞれに設けられたセンサで測定された全層の最大加速度および最大層間変形角の値である。本実施形態による建物の応答推定方法の方が従来の建物の応答推定方法よりも推定結果が真値に近いことが分かる。
【0020】
次に、本実施形態による建物の応答推定システム1および建物の応答推定方法の作用・効果について説明する。
上記の本実施形態による建物の応答推定システム1および建物の応答推定方法では、センサ検出工程で検出された建物11の1階および中間階の加速度情報から建物11の頂部の応答(加速度)を推定し、これらの建物11の1階、中間階および頂部の応答を基に、モード合成により建物の全層の層ごとの応答(加速度)を推定するため、高次モードまでを考慮することができて建物11の全層の応答を精度よく推定できる。
また、本実施形態による建物の応答推定システム1および建物の応答推定方法では、センサ2を建物11の1階と中間階に設けることにより、建物11の低層部に集中する可能性が高い非線形性の追従を向上させることができる。
また、センサ2を建物11の1階と中間階に設ければよいため、建物の応答推定システム1および建物の応答推定方法を簡易な構成とすることができる。
【0021】
さらに、本実施形態による建物の応答推定システム1および建物の応答推定方法では、センサ2を1階と中間階に設けることにより、建物11の1階と建物11の頂部にセンサ2を設置する場合と比べて、配線コストを低減させることができる。
中間階よりも上方の上層階にセンサを設置しないため、上層階の設計自由度を向上させることができる。
【0022】
以上、本発明による建物の応答推定システム1および建物の応答推定方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0023】
1 応答推定システム
2 センサ
3 演算部
11 建物
図1
図2
図3
図4
図5