(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】運転訓練装置、及び、運転訓練方法
(51)【国際特許分類】
G09B 9/00 20060101AFI20250121BHJP
【FI】
G09B9/00 B
(21)【出願番号】P 2021142918
(22)【出願日】2021-09-02
【審査請求日】2023-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】梅谷 壮一郎
(72)【発明者】
【氏名】増田 浩平
(72)【発明者】
【氏名】小峰 友裕
【審査官】前地 純一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-202713(JP,A)
【文献】特開平06-035893(JP,A)
【文献】特開2016-071227(JP,A)
【文献】特開平05-323088(JP,A)
【文献】特開2014-115520(JP,A)
【文献】特開平11-338340(JP,A)
【文献】特開2013-200535(JP,A)
【文献】米国特許第04977529(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 1/00- 9/56
G09B 17/00-19/26
G21C 17/00-17/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1設備、及び、訓練対象であるとともに前記第1設備の運転に影響を与える第2設備を含むシステムを、演算モデルを用いて模擬するためのモデル演算部を備え、
前記演算モデルは、
前記第1設備を模擬する第1演算モデルと、
前記第2設備を模擬する第2演算モデルと、
を備え、
第1演算モデルは、前記第1設備が有する複数の系統の数を減らすよう簡略化された前記第1設備の構成に基づいて構築され
、
前記第2設備は原子力プラントの特定重大事故等対処施設であり、
前記第1設備は前記特定重大事故等対処施設の対処対象である、運転訓練装置。
【請求項2】
前記第1演算モデルは、前記複数の系統を1つの系統に簡略化した前記構成に基づいて構築される、請求項1に記載の運転訓練装置。
【請求項3】
予め設定されたシナリオに基づいて、前記システムの運転を模擬するシナリオ再生部を更に備え、
前記シナリオ再生部又は前記
モデル演算部による前記システムの運転の模擬を切り替えるための切替部と、
を備える、請求項1又は2に記載の運転訓練装置。
【請求項4】
前記切替部は、前記シナリオ
再生部によって前記システムの運転を模擬しているとき、所定条件が満足された場合に、前記シナリオ再生部から前記モデル演算部による前記システムの運転の模擬に切り替えるように構成される、請求項3に記載の運転訓練装置。
【請求項5】
前記所定条件は、(i)予め設定された時間が経過すること、(ii)予め指定された操作が行われること、或いは、(iii)前記システムの運転に関連するパラメータが予め設定された基準に達すること、の少なくとも1つを含む、請求項4に記載の運転訓練装置。
【請求項6】
前記システムの模擬状態が複数の画面で表示可能である、請求項1から5のいずれか一項に記載の運転訓練装置。
【請求項7】
前記複数の系統は、原子炉の冷却材が循環する複数のループである、請求項1から
6のいずれか一項に記載の運転訓練装置。
【請求項8】
第1設備、及び、訓練対象であるとともに前記第1設備の運転に影響を与える第2設備を含むシステムを、演算モデルを用いて模擬するためのモデル演算部を備え、
前記演算モデルは、
前記第1設備を模擬する第1演算モデルと、
前記第2設備を模擬する第2演算モデルと、
を備え、
第1演算モデルは、前記第1設備が有する複数の系統の数を減らすよう簡略化された前記第1設備の構成に基づいて構築され、
前記複数の系統は、原子炉の冷却材が循環する複数のループである、運転訓練装置。
【請求項9】
第1設備、及び、訓練対象であるとともに前記第1設備の運転に影響を与える第2設備を含むシステムを、演算モデルを用いて模擬する運転訓練方法であって、
前記演算モデルは、
前記第1設備を模擬する第1演算モデルと、
前記第2設備を模擬する第2演算モデルと、
を備え、
第1演算モデルは、前記第1設備が有する複数の系統の数を減らすよう簡略化された前記第1設備の構成に基づいて構築され
、
前記第2設備は原子力プラントの特定重大事故等対処施設であり、
前記第1設備は前記特定重大事故等対処施設の対処対象である、運転訓練方法。
【請求項10】
第1設備、及び、訓練対象であるとともに前記第1設備の運転に影響を与える第2設備を含むシステムを、演算モデルを用いて模擬する運転訓練方法であって、
前記演算モデルは、
前記第1設備を模擬する第1演算モデルと、
前記第2設備を模擬する第2演算モデルと、
を備え、
第1演算モデルは、前記第1設備が有する複数の系統の数を減らすよう簡略化された前記第1設備の構成に基づいて構築され、
前記複数の系統は、原子炉の冷却材が循環する複数のループである、運転訓練方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、運転訓練装置、及び、運転訓練方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラントの運転に携わる運転員の訓練として、プラントを模擬したシミュレータ装置を用いた訓練が行われる。この種のシミュレータ装置は、実機であるプラントに基づいて構築された演算モデルを用いることでプラントの挙動を再現する。例えば特許文献1には、シミュレーションに用いる演算モデルを複数用意し、これらを場面に応じて切替ることにより、パラメータの挙動が異なる場面に応じた模擬を実現可能なシミュレータ装置が開示されている。また特許文献2には、原子力プラント全体のパラメータを計算するための演算モデルと、苛酷事故対応時に主要パラメータのみを計算するための演算モデルとを組み合わせてシミュレーションが可能な運転訓練シミュレータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-115520号公報
【文献】特開2014-006178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述のような従来のシミュレーション装置では、訓練対象を精度よく再現する観点で構築された演算モデルを用いることから、演算負荷が高い傾向がある。例えば、重大事故等に対処するために原子力プラントに併設される特定重大事故等対処施設を訓練対象とする場合、原子力プラントと特定重大事故等施設とを含むプラント全体について精度のよい演算モデルを構築すると、シミュレーション時の演算負荷が高くなってしまう。このような高い演算負荷を伴う訓練は、当該演算負荷に対応可能な特定の設備でしか実行することができず、制約が多い。
【0005】
本開示の少なくとも一実施形態は上述の事情に鑑みなされたものであり、演算モデルを用いた訓練を少ない演算負荷で実施可能な運転訓練装置及び運転訓練方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の少なくとも一実施形態に係る運転訓練装置は、上記課題を解決するために、
第1設備、及び、訓練対象であるとともに前記第1設備の運転に影響を与える第2設備を含むシステムを、演算モデルを用いて模擬するための演算モデル模擬部を備え、
前記演算モデルは、
前記第1設備を模擬する第1演算モデルと、
前記第2設備を模擬する第2演算モデルと、
を備え、
第1演算モデルは、前記第1設備が有する複数の系統の数を減らすよう簡略化された前記第1設備の構成に基づいて構築される。
【0007】
本開示の少なくとも一実施形態に係る運転訓練方法は、上記課題を解決するために、
第1設備、及び、訓練対象であるとともに前記第1設備の運転に影響を与える第2設備を含むシステムを、演算モデルを用いて模擬する運転訓練方法であって、
前記演算モデルは、
前記第1設備を模擬する第1演算モデルと、
前記第2設備を模擬する第2演算モデルと、
を備え、
第1演算モデルは、前記第1設備が有する複数の系統の数を減らすよう簡略化された前記第1設備の構成に基づいて構築される。
【発明の効果】
【0008】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、演算モデルを用いた訓練を少ない演算負荷で実施可能な運転訓練装置及び運転訓練方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に係るシステムの全体構成図である。
【
図2】一実施形態に係る運転訓練装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】
図2の第1演算モデルを構築するために
図1の第1設備の構成を簡略化した例を示す模式図である。
【
図4】他の実施形態に係る運転訓練装置の構成を示すブロック図である。
【
図5】
図4の運転訓練装置から出力される演算結果の時間変化の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0011】
図1は一実施形態に係るシステム1の全体構成図である。システム1は、本開示の少なくとも一実施形態に係る運転訓練装置100の訓練対象である運転員によって操作され、第1設備2及び第2設備4を含んで構成される。第1設備2は、運転員が運転を行う設備であり、第2設備4は第1設備2の運転に影響を与える設備である。
以下では、
図1に示すように、システム1の一例として原子力プラントについて述べるが、これに限定されない。
【0012】
第1設備2は、原子炉設備6である。原子炉設備6は、原子炉格納容器7内に、原子炉8と、一次冷却系統10と、加圧器12と、蒸気発生器16とを備えて構成される。
【0013】
原子炉8は、圧力容器である原子炉容器18内に、燃料集合体、制御棒クラスタ、及び、その他の炉内構造物9を収容して構成される。 燃料集合体は、ペレット状の核燃料(例えばウラン燃料やMOX燃料等)を含む複数の燃料棒を有し、制御棒クラスタは、分散配置された複数の制御棒からなる。制御棒クラスタは、核燃料を含む炉心で生成される中性子を吸収可能となっており、燃料集合体に対して挿入及び引抜をすることにより中性子の数を調整することで原子炉出力を制御する。
【0014】
一次冷却系統10は、原子炉容器18と蒸気発生器16との間に熱媒体である一次冷却材を循環させる流路である、複数の一次冷却ループを有する。一次冷却ループには、一次冷却材を循環させるための一次冷却ポンプ20が設けられており、
図1では、これら複数の一次冷却ループのうち1つが代表的に示されている。
【0015】
加圧器12は、一次冷却系統10を流れる一次冷却材が沸騰しないように、一次冷却系統10の内部を加圧する。加圧器12は、例えば、一次冷却系統10から分岐するように逃がし弁13を介して接続されている。
【0016】
蒸気発生器16は、不図示のタービン設備を流通する二次冷却水と、一次冷却系統10を流れる一次冷却材とを熱交換させて、二次冷却水を加熱し、蒸気を発生させるための熱交換器である。
【0017】
第2設備4は、第1設備2である原子炉設備6の運転に影響を与える設備であり、本実施形態では、一例として、原子炉設備6に特定重大事故等が発生した場合に対処するための特定重大事故等対処施設22である。特定重大事故等対処施設22の具体的構成は限定されないが、
図1では、幾つかの例として、原子炉設備6に対して非常用電力を供給するためのガスタービン発電機24、原子炉格納容器7内の圧力が上昇した際に内部雰囲気に含まれる放射性物質等を除去して外部に排出するためのフィルタリング機能を備えたフィルタベント設備26、及び、原子炉格納容器7の内部温度が上昇した場合に容器内部に設置されたスプレイから冷却材として冷却水を注入することで冷却するためのCVスプレイ設備28が示されている。
【0018】
図2は一実施形態に係る運転訓練装置100の構成を示すブロック図である。運転訓練装置100は、上記構成を有するシステム1のうち第2設備4を取り扱う運転員の運転に関する訓練を行うための装置である。運転訓練装置100は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体等から構成されている。そして、各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で記憶媒体等に記憶されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。尚、プログラムは、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0019】
運転訓練装置100は、操作情報取得部110と、モデル演算部120と、演算結果出力部130とを備える。
【0020】
操作情報取得部110は、訓練対象である運転員の操作に関する情報(操作情報)を取得するための構成である。例えば、運転訓練装置100は、運転員がシステム1を運転する際に操作する端末に対応する入力装置を備えており、操作情報として、当該装置に対してヒューマンインターフェース(例えば操作ボタン、操作レバー、キーボード、マウス等)を介して入力される情報が取得される。
【0021】
モデル演算部120は、上記構成を有するシステム1に対応する演算モデルMを用いて、システムの運転状態を演算するための構成である。モデル演算部120が有する演算モデルMは、上記構成のシステム1の動作を模擬するように予め構築される。演算モデルMには、操作情報取得部110で取得される操作情報が入力されることにより、当該操作情報に対応するシステム1の動作を模擬した演算結果を出力するように構築される。
【0022】
尚、運転訓練装置100が備える演算結果出力部130は、モデル演算部120における演算結果を、複数の画面で表示するように構成されてもよい。これにより、システム1の模擬状態を複数の画面に表示することで、例えば、運転員が複数画面を参照しながら運用されるシステムや、複数人の運転員がそれぞれ画面を参照しながら運用されるシステムについて効果的な訓練を実施できる。
【0023】
演算モデルMは、第1演算モデルM1及び第2演算モデルM2を備える。第1演算モデルM1はシステム1のうち第1設備2を模擬する演算モデルであり、第2演算モデルM2はシステム1のうち第2設備4を模擬する演算モデルである。操作情報取得部110によって取得された操作情報に含まれる各パラメータは、第1演算モデルM1及び第2演算モデルM2にそれぞれ適宜入力され、第1演算モデルM1及び第2演算モデルM2の演算結果は、演算結果出力部130から出力される。
【0024】
本実施形態では、第2演算モデルM2は、訓練対象(運転員の操作対象)である第2設備4に対応しており、精度に優れた訓練を行うために、第2設備4の挙動を精度よく模擬するように構築される。そのため、第2演算モデルM2は、第2設備4の挙動を精度よく再現できるように比較的詳細に構築されることが好ましい。尚、第2演算モデルM2は、第2設備4を厳密に模擬せずに少なからず簡略化して構築されてもよいが、その簡略化の程度は、第2設備4の挙動を精度よく再現する目的が達成できる範囲が好ましく、比較的詳細に構築される。
【0025】
一方、第1演算モデルM1は、第2設備4が運転員によって操作された結果、その影響が及ぶ第1設備2に対応する。すなわち第1演算モデルM1は、第2設備4のような運転員の運転対象ではなく、運転の影響が派生する第1設備2を模擬するため、少なからず簡略化して構築される。前述の第2演算モデルM2と比較すると、第1演算モデルM1は簡略化の程度が高くなるように構築される。具体的に述べると、簡略化の程度を示すパラメータとして、厳密な挙動を再現するように構築された演算モデルを0%とする簡略度という概念を導入すると、第1演算モデルM1は第2演算モデルM2より簡略度が高くなるように構築される。
【0026】
例えば、特定重大事故時の炉心熱出力のような変化が多様となると思われるパラメータに対しては物理式を使用することで、簡略度が低い第2演算モデルM2に含めてもよい。また特定重大事故時の格納容器圧力のような変化が単調となると思われるパラメータは条件判定による関数式として、簡略度が高い第1演算モデルM1に含めることで、できる限り計算量を減らすようにしてもよい。
また特定重大事故等対処施設に関しては第2演算モデルM2に含めることで詳細に模擬を実施するとともに、その他の既設系統(原子炉冷却系(RCS)や原子炉格納容器(CV)、炉心等)に関してはパラメータ毎に適切な模擬方式とすることで第1演算モデルM1に含めて簡略化を実施してもよい。
尚、第1演算モデルM1及び第2演算モデルM2を用いたシミュレーションでは、実機と同じ感覚での監視操作訓練を可能とするため、基本的な計算速度として全てリアルタイムシミュレーションで実施してもよいが、計算速度のバリエーションとして、例えば1/2倍速、1倍速、2倍速、10倍速、20倍速のような倍速機能を設定できるようにしてもよい。
また第1演算モデルM1及び第2演算モデルM2の間ではインターフェース(不図示)を介して互いに必要なパラメータのやり取りが行われる。このようにモデル間でやり取りされるパラメータとしては、例えば、各系統の水量、熱量、機器の状態等がある。
【0027】
第1演算モデルM1では、第2演算モデルM2より高い簡略度を得るために、第1設備2において少なくとも一部を簡略化した構成を模擬するように構築される。
【0028】
ここで
図3は
図2の第1演算モデルM1を構築するために
図1の第1設備2の構成を簡略化した例を示す模式図である。この例では、
図1において原子炉容器7内に収容された原子炉8(原子炉容器18及び炉内構造物9)、加圧器12、逃し弁13、・・・の構成が簡易化されるとともに、その他の構成が省略されている。このように第1設備2において簡略化される構成は限定されないが、例えば、第1設備2に同等の要素が複数設けられている場合には、これら複数の要素の数を減らすように簡略化してもよい。前述の第1設備2では、一次冷却系統10が複数の一次冷却ループを有しているため、これらの一次冷却ループを1つにまとめた構成を模擬することで、模擬精度を比較的良好に保ちながら、演算負担の少ない第1演算モデルM1を得ることができる。
【0029】
以上説明したように、上記実施形態によれば、システム1を模擬するための演算モデルMが第1演算モデルM1及び第2演算モデルM2を含んで構成される。第1演算モデルM1は、システム1のうち訓練対象である第1設備2を模擬し、第2演算モデルM2は第1設備2に影響を与えるシステム1の他の構成である第2設備4を模擬する。第2演算モデルM2は、第2設備4が有する複数の系統(一次冷却ループ)の数を減らすよう簡略化された第2設備4の構成に基づいて構築されることで、訓練対象となる第1設備2に関する模擬精度を確保しながら、演算負荷を効果的に低減できる。これにより、例えばノートパソコン等のモバイル端末を含む広い機器において高い利便性のもと質のよい訓練が実施可能となる。
【0030】
続いて
図4は他の実施形態に係る運転訓練装置100の構成を示すブロック図である。この実施形態では、
図2に比べて訓練モード切替部140と、シナリオ再生部150とを更に備える。
【0031】
訓練モード切替部140は、運転訓練装置100の訓練モードを切り替えるための構成である。本実施形態では、運転訓練装置100には、モデル演算モードとシナリオ再生モードが容易されており、訓練モード切替部140によって、いずれか一方の訓練モードが選択されるように構成される。このような訓練モードの切替は、後述するように、訓練モード切替部140において所定の切替条件が成立した場合に実施される。
【0032】
モデル演算モードでは、前述したように、運転員の操作に基づく入力から演算モデルMを用いて演算結果を求めることで、運転訓練が行われるモードである。それに対してシナリオ再生モードでは、運転員の操作に関わらず、予め設定されたシナリオに基づいて、演算結果の時間変化が再生されるモードである。
【0033】
シナリオ再生部150は、訓練モード切替部140によってシナリオ再生モードが選択された場合に、演算結果出力部130から出力される演算結果の時間変化を、予め設定されたシナリオとして再生するための構成である。シナリオ再生部150によって再生されるシナリオは予め設定され、運転訓練装置100が有する記憶媒体(不図示)に読み出し可能に用意される。
【0034】
図5は
図4の運転訓練装置100から出力される演算結果(一例として、一次冷却材の温度[℃])の時間変化の一例である。
図4では、時刻t0~t1ではシナリオ再生モードが選択されており、時刻t1に所定の切替条件が成立することで、以降、モデル演算モードが選択された場合が例示されている。
【0035】
例えば原子力プラントでは、中央制御室等の他の場所にいる運転員が、特定重大事故等が発生したことをきっかけに、第2設備4である特定重大事故等対処施設に移動し、その後、特定重大事故等への対処が行われる。運転訓練装置100では、このような状況を訓練するために、特定重大事故等への対処が開始される前に対応する時刻t0~t1では、シナリオ再生モードが選択される。この時間帯では、運転員は特定重大事故等に対して対処を開始する前段階であるため、演算モデルを用いた模擬が不要であり、予め設定されたシナリオを再生することで演算負担を抑えながら、十分な模擬ができる。
【0036】
モデル演算モードへの切替が行われる時刻t1では、所定の切替条件が成立する。ここで所定の切替条件は適宜設定可能であるが、前述の原子力プラントの例では、運転員による特定重大事故等への対処操作が開始されることを、次の少なくとも1つの条件の成否に基づいて判定するように設定することができる。
(i)特定重大事故等が発生したときから予め設定された時間が経過したか。
(ii)特定重大事故等への対処を開始する際の所定の操作が行われたか。
(iii)シナリオ再生されたパラメータが予め設定された基準に達したか。
【0037】
切替条件として上記(i)を用いる場合、予め設定される時間として、特定重大事故等対処設備の利用において想定されるシナリオで、シミュレーションモデルに影響を与え始める(例えば特定重大事故等対処設備の機器を動作させて炉心に注入を開始する)時間を採用できる。この場合、シナリオ再生からシミュレーションに移行した際のプラント状態を同じにすることができ、その状態を基準に運転員の操作を開始できる。
また切替条件として上記(ii)を用いる場合、モデル演算モードへの切替が行われるトリガとして所定の操作を採用することで、ユーザである運転員によって、モデル演算モードへの切替タイミングを調整することができる。この場合、所定の操作として、例えば、特定重大事故等対処設備の機器を動作させて炉心に注入を開始する操作を採用することができる。
また切替条件として上記(iii)を用いる場合、特定重大事故等の発生によってパラメータが大きく変動する初期の状態模擬を、シナリオ再生によってモデル演算では再現が難しい過渡変化を忠実に再現できる点で有利である。
【0038】
以上説明したように本実施形態によれば、シナリオ再生とモデル演算とを切り替えることにより、訓練全体をモデル演算による行う場合に比べて、演算負担を効果的に低減することができる。これにより、例えばノートパソコン等のモバイル端末を含む広い機器において高い利便性のもと質のよい訓練が実施可能となる。
【0039】
その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0040】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0041】
(1)一態様に係る運転訓練装置(100)は、
第1設備(2)、及び、訓練対象であるとともに前記第1設備の運転に影響を与える第2設備(4)を含むシステム(1)を、演算モデル(M)を用いて模擬するためのモデル演算部(130)を備え、
前記演算モデルは、
前記第1設備を模擬する第1演算モデル(M1)と、
前記第2設備を模擬する第2演算モデル(M2)と、
を備え、
第1演算モデルは、前記第1設備が有する複数の系統の数を減らすよう簡略化された前記第1設備の構成に基づいて構築される。
【0042】
上記(1)の態様によれば、システムを模擬するための演算モデルが第1演算モデル及び第2演算モデルを含んで構成される。第1演算モデルは、システムのうち第1設備を模擬し、第2演算モデルは訓練対象であるとともに第1設備に影響を与えるシステムの他の構成である第2設備を模擬する。第1演算モデルは、第1設備が有する複数の系統の数を減らすよう簡略化された第1設備の構成に基づいて構築されることで、訓練対象となる第2設備に関する模擬精度を確保しながら、演算負荷を効果的に低減できる。これにより、例えばノートパソコン等のモバイル端末を含む広い機器において高い利便性のもと質のよい訓練が実施可能となる。
【0043】
(2)他の態様では、上記(1)の態様において、
前記第1演算モデルは、前記複数の系統を1つの系統に簡略化した前記構成に基づいて構築される。
【0044】
上記(2)の態様によれば、第1設備の構成に基づいて第1演算モデルを構築する際に、第1設備が有する複数の系統を1つに簡略化することで、第1演算モデルによる演算負荷を効果的に低減できる。
【0045】
(3)他の態様では、上記(1)または(2)の態様において、
予め設定されたシナリオに基づいて、前記システムの運転を模擬するシナリオ再生部(150)を更に備え、
前記シナリオ再生部又は前記モデル演算部による前記システムの運転の模擬を切り替えるための切替部(140)と、
を備える。
【0046】
上記(3)の態様によれば、システムの運転の模擬は、前述のような演算モデルを用いたが模擬に加えて、予め設定されたシナリオに従って行うことができる。演算モデルを用いた模擬とシナリオに基づく模擬とは切替部によって互いに切替可能である。シナリオに基づく模擬は演算モデルを用いた模擬に比べて演算負荷が少ないため、より演算負荷が少ない運転訓練装置を実現できる。
【0047】
(4)他の態様では、上記(3)の態様において、
前記切替部は、前記シナリオ模擬部によって前記システムの運転を模擬しているとき、所定条件が満足された場合に、前記シナリオ再生部から前記モデル演算部による前記システムの運転の模擬に切り替えるように構成される。
【0048】
上記(4)の態様によれば、所定条件が満足されることを条件として、シナリオに基づく模擬から演算モデルを用いた模擬に切替えることで、演算負荷を低減しつつ、システムの挙動を精度よく再現した訓練が可能である。
【0049】
(5)他の態様では、上記(4)の態様において、
前記所定条件は、(i)予め設定された時間が経過すること、(ii)予め指定された操作が行われること、或いは、(iii)前記システムの運転に関連するパラメータが予め設定された基準に達すること、の少なくとも1つを含む。
【0050】
上記(5)の態様によれば、シナリオに基づく模擬から演算モデルを用いた模擬への切替が、(i)~(iii)の少なくとも1つを満たすことを条件として行われる。
【0051】
(6)他の態様では、上記(1)から(5)のいずれか一態様において、
前記システムの模擬状態が複数の画面で表示可能である。
【0052】
上記(6)の態様によれば、システムの模擬状態を複数の画面に表示することで、例えば、運転員が複数画面を参照しながら運用されるシステムや、複数人の運転員がそれぞれ画面を参照しながら運用されるシステムについて効果的な訓練を実施できる。
【0053】
(7)他の態様では、上記(1)から(6)のいずれか一態様において、
前記第2設備は原子力プラントの特定重大事故等対処施設であり、
前記第1設備は前記特定重大事故等対処施設の対処対象である。
【0054】
上記(7)の態様によれば、原子力プラントで重大事故等が発生した場合に対処するための特定重大事故等対処施設が併設された原子力プラントの訓練を好適に行うことができる。特に、訓練対象である特定重大事故等対処施設以外である原子力プラントを模擬する第2演算モデルを上述のように簡略化することで、全体のモデル演算負荷を好適に低減できる。
【0055】
(8)他の態様では、上記(1)から(7)のいずれか一態様において、
前記複数の系統は、原子炉の冷却材が循環する複数のループである。
【0056】
上記(8)の態様によれば、原子炉の冷却材が循環する複数のループを簡略化した構成に基づいて第1演算モデルを構築することで、全体の演算負荷を効果的に低減できる。
【0057】
(9)一態様に係る運転訓練方法は、
第1設備(2)、及び、訓練対象であるとともに前記第1設備の運転に影響を与える第2設備(4)を含むシステム(1)を、演算モデル(M)を用いて模擬する運転訓練方法であって、
前記演算モデルは、
前記第1設備を模擬する第1演算モデル(M1)と、
前記第2設備を模擬する第2演算モデル(M2)と、
を備え、
第1演算モデルは、前記第1設備が有する複数の系統の数を減らすよう簡略化された前記第1設備の構成に基づいて構築される。
【0058】
上記(9)の態様によれば、システムを模擬するための演算モデルが第1演算モデル及び第2演算モデルを含んで構成される。第1演算モデルは、システムのうち第1設備を模擬し、第2演算モデルは訓練対象であるとともに第1設備に影響を与えるシステムの他の構成である第2設備を模擬する。第1演算モデルは、第1設備が有する複数の系統の数を減らすよう簡略化された第1設備の構成に基づいて構築されることで、訓練対象となる第2設備に関する模擬精度を確保しながら、演算負荷を効果的に低減できる。これにより、例えばノートパソコン等のモバイル端末を含む広い機器において高い利便性のもと質のよい訓練が実施可能となる。
【符号の説明】
【0059】
1 システム
2 第1設備
4 第2設備
6 原子炉設備
7 原子炉格納容器
8 原子炉
9 炉内構造物
10 一次冷却系統
12 加圧器
13 逃がし弁
16 蒸気発生器
18 原子炉容器
20 一次冷却ポンプ
22 特定重大事故等対処施設
24 ガスタービン発電機
26 フィルタベント設備
28 スプレイ設備
100 運転訓練装置
110 操作情報取得部
120 モデル演算部
130 演算結果出力部
140 訓練モード切替部
150 シナリオ再生部
M 演算モデル
M1 第1演算モデル
M2 第2演算モデル