(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】免疫療法で治療されたがん患者の応答の予測を改善する方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6827 20180101AFI20250121BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20250121BHJP
C12Q 1/6886 20180101ALI20250121BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20250121BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20250121BHJP
A61K 39/395 20060101ALN20250121BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20250121BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20250121BHJP
【FI】
C12Q1/6827 Z
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6886 Z
G01N33/53 M
G01N33/574 Z
A61K39/395 T
A61P35/00
C12N15/09 Z
(21)【出願番号】P 2021526801
(86)(22)【出願日】2019-11-15
(86)【国際出願番号】 US2019061710
(87)【国際公開番号】W WO2020102674
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-09-28
(32)【優先日】2018-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521209823
【氏名又は名称】パーソナル ゲノム ダイアグノスティクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ドラコポリ ニコラス シー.
(72)【発明者】
【氏名】セルケイラ グスタボ
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/183928(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/132749(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/151517(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/151502(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00
C12N 15/00
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
がん患者
のための治療レジメンを決定する方法であって、
前記患者に由来する試料
中の核酸に基づいて、前記患者についての腫瘍遺伝子変異量(TMB)スコア
を判定する工程であって、前記TMBスコアがメガベース(Mb)あたりの変異の数に基づき判定される、工程、
主要組織適合性複合体(MHC)クラスI遺伝子の10bp~200bp内の領域でヘテロ接合性消失(LOH)状態を判定する工程
、および
前記患者のための治療レジメンを決定する工程であって、(i)前記治療レジメンは、前記患者が高いTMBスコア
を有しかつLOHなしのときにチェックポイント阻害剤を用いて
前記患者が治療された場合
、正の転帰を示
すことを含み、
(ii)前記治療レジメンは、前記患者がLOHありでの高いTMBスコア
を有するときにチェックポイント阻害剤を用いて前記患者が治療された場合、負の転帰を示すことを含み、エクソームあたり120個を超える変異がある場合、TMBスコアが高い、工程
を含む前記方法。
【請求項2】
前記がんが、腫瘍である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試料が、血液、唾液、血漿、血清、尿、または他の生物学的流体に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記試料が、腫瘍由来である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記LOH状態が、TMBスコアを判定するために用いたデータを用いて判定される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
MHCクラスI遺伝子が、HLA-F、HLA-V、HLA-P、HLA-G、HLA-H、HLA-T、HLA-K、HLA-U、HLA-A、HLA-W、HLA-J、HLA-L、HLA-N、HLA-E、HLA-C、HLA-B、HLA-S、HLA-DRA、HLA-DRB9、HLA-DRB5、HLA-DRB6、HLA-DRB1、HLA-DQA1、HLA-DQB1、HLA-DQB1-AS1、HLA-DQB3、HLA-DQA2、HLA-DQB2、HLA-DOB、HLA-Z、HLA-DMB、HLA-DMA、HLA-DOA、HLA-DPA1、HLA-DPB1、HLA-DPA2、HLA-DPB2、およびHLA-DPA3からなる群から選択される1つまたは複数のヒト白血球抗原(HLA)遺伝子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記がんが、乳がん、膵臓がん、肺がん、黒色腫、造血がんおよび白血病、結腸がん、腎臓がん、頭頸部がん、脳がん、骨がん、卵巣がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、ならびに前立腺がんから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記チェックポイント阻害剤が、ペンブロリズマブ(KEYTRUDA)、ニボルマブ(OPDIVO)、アテゾリズマブ(TECENTRIQ)、またはイピリムマブ(YERVOY)である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記
TMBスコアを判定する工程が、前記試料に由来する1つ以上のエクソームまたは該1つ以上のエクソームの領域を配列決定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
腫瘍変異が、T細胞によって認識されるネオ抗原またはネオエピトープを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
チェックポイント阻害剤を用いた治療のためにがん患者を選択する方法であって、前記患者から得られた試料においてヘテロ接合性消失(LOH)が存在せずに腫瘍遺伝子変異量(TMB)スコアが高い場合に、前記チェックポイント阻害剤を用いた治療のために前記患者を選択する工程を含み、
前記TMBスコアがメガベース(Mb)あたりの変異の数に基づき決定され、かつエクソームあたり120個を超える変異がある場合、TMBスコアが高く、前記LOH状態が、主要組織適合性複合体(MHC)クラスI遺伝子の
10bp~200bp内の領域
で判定される
、方法。
【請求項12】
LOHなしと高いTMBスコアとの組み合わせが、前記チェックポイント阻害剤を用いて治療された場合の正の転帰を示し、LOHありでの高いTMBスコアが、
負の転帰を示す、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記試料が、腫瘍試料である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記試料が、血液、唾液、血漿、血清、尿、または他の生物学的流体に由来する、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記LOH状態が、TMBスコアを判定するために用いたデータを用いて判定される、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
MHCクラスI遺伝子が、HLA-F、HLA-V、HLA-P、HLA-G、HLA-H、HLA-T、HLA-K、HLA-U、HLA-A、HLA-W、HLA-J、HLA-L、HLA-N、HLA-E、HLA-C、HLA-B、HLA-S、HLA-DRA、HLA-DRB9、HLA-DRB5、HLA-DRB6、HLA-DRB1、HLA-DQA1、HLA-DQB1、HLA-DQB1-AS1、HLA-DQB3、HLA-DQA2、HLA-DQB2、HLA-DOB、HLA-Z、HLA-DMB、HLA-DMA、HLA-DOA、HLA-DPA1、HLA-DPB1、HLA-DPA2、HLA-DPB2、およびHLA-DPA3からなる群から選択される1つまたは複数のヒト白血球抗原(HLA)遺伝子を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記がんが、乳がん、膵臓がん、肺がん、黒色腫、造血がんおよび白血病、結腸がん、腎臓がん、頭頸部がん、脳がん、骨がん、卵巣がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、ならびに前立腺がんから選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記チェックポイント阻害剤が、ペンブロリズマブ(KEYTRUDA)、ニボルマブ(OPDIVO)、アテゾリズマブ(TECENTRIQ)、アベルマブ(BAVENCIO)、デュルバルマブ(IMFINZI)、またはイピリムマブ(YERVOY)である、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
TMBスコアおよびLOH状態の判定が、前記試料に由来する1つ以上のエクソームまたは該1つ以上のエクソームの領域を配列決定することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
腫瘍変異が、T細胞によって認識されるネオ抗原またはネオエピトープを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項21】
請求項11~20のいずれか一項に記載の方法に従って選択されたがん患者を治療するための組成物であって、有効量の前記チェックポイント阻害剤を含む組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年11月15日に出願された米国出願第62/767,979号に対する米国特許法第119条(e)に基づく優先権の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、全般的に、がんおよび免疫療法に関し、より具体的には、奏効性のがん療法を選択するための、ヘテロ接合性消失(LOH)と腫瘍遺伝子変異量(TMB)との組み合わせの分析に関する。
【背景技術】
【0003】
背景情報
がんは、異常細胞の増殖によって特徴付けられる。従来の治療の成功は、がんの種類およびがんが検出されるステージに依存する。多くの治療には、高価で苦痛を伴う手術および化学療法が含まれ、多くは成功しないか、または患者の寿命をわずかに延ばすだけである。開発中の有望な治療方法には、患者の免疫系が腫瘍細胞と健康な細胞とを区別し、その患者において免疫応答を引き出すことを可能にするような腫瘍抗原を標的とする腫瘍ワクチンまたはT細胞療法が挙げられる。Chen,et al.,Oncology Meets Immunology:The Cancer-Immunity Cycle,Immunity 39,Jul.25,2013(非特許文献1)(その内容は、あらゆる目的のために、その全体が本明細書に組み込まれる)を参照。
【0004】
ネオ抗原は、患者のがんに固有の腫瘍特異的な変異に関連する免疫原の一種である。ネオ抗原は、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を用いた養子T細胞移入、がんワクチン、およびチェックポイント阻害剤を含む、抗腫瘍免疫技術の標的として有望であることが示されてきた。Hacohen,et al.,Getting Personal with Neoantigen-Based Therapeutic Cancer Vaccines,Cancer Immunol Res,July 2013 1,11(非特許文献2)、Robbins,et al.,Mining exomic sequencing data to identify mutated antigens recognized by adoptively transferred tumor-reactive T cells,Nature Medicine 19,747-752(2013)(非特許文献3)を参照(これら各々の内容は、あらゆる目的のために、その全体が本明細書に組み込まれる)。
【0005】
PD-1の受容体-リガンド相互作用は、免疫制御を抑制するために腫瘍によってハイジャックされる主要経路である。健康な状態で活性化T細胞の細胞表面で発現するPD-1の正常な機能は、自己免疫反応を含め、望ましくないかまたは過剰な免疫応答を下方制御することである。PD-1のリガンド(PD-L1およびPD-L2)は、構成的に発現するか、または種々の腫瘍において誘導され得る。PD-1に対するいずれかのPD-1リガンドの結合は、T細胞受容体がトリガーとなるT細胞活性化を阻害する。PD-L1は、種々の非造血組織、最も顕著には、血管内皮上で低レベルに発現し、一方、PD-L2タンパク質は、リンパ系組織または慢性炎症環境において見出される抗原提示細胞上でのみ、検出可能に発現する。PD-L2は、リンパ系器官における免疫T細胞活性化を制御すると考えられ、一方、PD-L1は、末梢組織における正しくないT細胞機能を抑制する役割を果たす。健康な臓器は、PD-L1を(存在する場合でも)ほとんど発現しないが、種々のがんは、豊富なレベルのこのT細胞阻害剤を発現することが実証された。腫瘍細胞上でのPD-L1の高度な発現(およびそれより少ない程度までのPD-L2)は、腎細胞癌腫(RCC)、膵臓癌腫、肝細胞癌腫、卵巣癌腫、および非小細胞肺がん(NSCLC)を含む種々の種類のがんにおける予後および生存率の不良と相関関係があることが見出されている。さらに、PD-1は、悪性MEL患者における腫瘍特異的なT細胞拡大を調節することが示唆されている。複数のがんにおける臨床予後とPD-L1発現との観察された相関関係は、PD-1/PD-L1経路が、腫瘍の免疫回避において重要な役割を果たし、治療的介入のための魅力的な標的として考慮されるべきであることを示唆している。
【0006】
多くの腫瘍細胞は、腫瘍細胞の破壊を防ぐ抑制された免疫応答に起因して生存する。このことは、チェックポイント阻害剤を用いた治療中に克服される場合がある。チェックポイント阻害剤は、チェックポイント受容体とその同族リガンドとの相互作用を遮断することによって作用する。腫瘍遺伝子変異量(TMB)は、免疫系によって認識されるべきであるが、腫瘍による抑制された免疫応答に起因しない変化したタンパク質についての読み出しを提供するため、免疫応答の代替マーカーとして機能する。TMBは、がんゲノムのサンプリング領域を通して測定され、変異の数/Mbを推定する。高いTMBスコアは、腫瘍がより多くの体細胞変異を保有し、免疫原性ネオエピトープを提示する機会が多くなるため、免疫療法に対するより良好な応答と関連し得る。しかしながら、全ての高TMB腫瘍が治療によって影響を受けるわけではなく、チェックポイント阻害剤に対する応答性についてのバイオマーカーとしてのTMBの有用性を制限している。
【0007】
バイオマーカーとしてのTMBの限定された有用性は、全ての体細胞変異がネオ抗原になるわけではないということに起因している可能性がある(Miller A et al.High somatic mutation and neoantigen burden are correlated with decreased progression-free survival in multiple myeloma.Blood Cancer J.7,e612(2017)doi:10.1038/bcj.2017.94(非特許文献4))。潜在的なネオ抗原は、各変異およびMHCハプロタイプの組み合わせについて定義されており、500nM未満のIC50はWTであり、500nMを超えるIC50は変異体である。さらに、同じ変異についてのネオ抗原の予測は、各MHCクラスIのハプロタイプで異なっている。一例として、COMPASS研究における多発性骨髄腫の分析(Miller A et al.High somatic mutation and neoantigen burden are correlated with decreased progression-free survival in multiple myeloma.Blood Cancer J.7,e612(2017)doi:10.1038/bcj.2017.94(非特許文献4))は、患者あたり、63.9個のミスセンス変異と、23.5個のネオ抗原と、9.4個の発現したネオ抗原を示した。
【0008】
MHCクラスIのヘテロ接合性消失(LOH)は、いくつかの腫瘍で起こる。染色体6p21上のMHC領域のLOH頻度は、扁平上皮頭頸部がんでは70%、乳癌腫では96%、結腸癌腫では87%、膵臓がんでは39%、黒色腫では63%であると報告されている(Garrido F and Algarra I.MHC antigens and tumor escape from immune surveillance.Adv Cancer Res.2001;83:117-58(非特許文献5))。染色体15q21上のB2M領域のLOH頻度は、結腸癌腫では35%、黒色腫では16%、膀胱がんでは44%、腎臓がんでは7%であると報告されている(Maleno I.et al.Frequent loss of heterozygosity in the β2-microglobulin region of chromosome 15 in primary human tumors.Immunogenetics.2011 Feb;63(2):65-71(非特許文献6))。MHCおよびB2M遺伝子座でのLOHは、チェックポイント阻害剤を用いて治療された患者の生存期間が短くなることと相関関係にある(Chowell,D.,et al.Patient HLA class I genotype influences cancer response to checkpoint blockade immunotherapy.Science 359:582-587,2018(非特許文献7)、Sade-Feldman,M.,et al.,Resistance to checkpoint blockade therapy through inactivation of antigen presentation.Nature Communications 8:1136-1147,2017(非特許文献8))。さらに、HLAハプロタイプは、チェックポイント阻害剤を用いて治療された患者の生存率に影響を及ぼし、例えば、B44およびB62 HLAスーパータイプのハザード比は、3.7倍の差がある(Chowell,D.,et al.Patient HLA class I genotype influences cancer response to checkpoint blockade immunotherapy.Science 359:582-587,2018(非特許文献7))。
【0009】
したがって、がんにおける免疫応答に影響を及ぼす因子の複雑さに基づいて、治療レジメンの決定および治療対象患者の選択に有用な、免疫療法による治療転帰を予測することが必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Chen,et al.,Oncology Meets Immunology:The Cancer-Immunity Cycle,Immunity 39,Jul.25,2013
【文献】Hacohen,et al.,Getting Personal with Neoantigen-Based Therapeutic Cancer Vaccines,Cancer Immunol Res,July 2013 1,11
【文献】Robbins,et al.,Mining exomic sequencing data to identify mutated antigens recognized by adoptively transferred tumor-reactive T cells,Nature Medicine 19,747-752(2013)
【文献】Miller A et al.High somatic mutation and neoantigen burden are correlated with decreased progression-free survival in multiple myeloma.Blood Cancer J.7,e612(2017)doi:10.1038/bcj.2017.94
【文献】Garrido F and Algarra I.MHC antigens and tumor escape from immune surveillance.Adv Cancer Res.2001;83:117-58
【文献】Maleno I.et al.Frequent loss of heterozygosity in the β2-microglobulin region of chromosome 15 in primary human tumors.Immunogenetics.2011 Feb;63(2):65-71
【文献】Chowell,D.,et al.Patient HLA class I genotype influences cancer response to checkpoint blockade immunotherapy.Science 359:582-587,2018
【文献】Sade-Feldman,M.,et al.,Resistance to checkpoint blockade therapy through inactivation of antigen presentation.Nature Communications 8:1136-1147,2017
【発明の概要】
【0011】
本明細書で提供される方法は、腫瘍遺伝子変異量(TMB)スコアと組み合わせたHLAのヘテロ接合性消失(LOH)状態が、チェックポイント阻害剤を用いて治療されるがん患者の応答の予測を改善するという独創性に富んだ発見に基づいている。本願発明者らは、507の遺伝子組織パネルを使用して、全エクソーム配列決定を行わない状態で、MHC領域のLOHを発見し、信頼性高く検出することができることを以前示した。患者が高いTMBを有する場合、チェックポイント療法に対するレスポンダーであると以前は考えられていたが、本発明は、患者がTMBを有し、MHC領域のLOHも有する場合、実際にはチェックポイント阻害剤療法に対するレスポンダーではない場合があり、ある場合には、チェックポイント阻害剤を投与すべきではないことを示す。本発明に基づいて、患者の生存転帰が著しく改善され得る。
【0012】
いくつかの実施形態において、がん患者における治療レジメンを決定する方法であって、患者に由来する試料において腫瘍遺伝子変異量(TMB)およびヘテロ接合性消失(LOH)を判定する工程を含み、LOHなしと高いTMBとの組み合わせは、チェックポイント阻害剤を用いて治療された場合の正の転帰を示し、LOHありでの高いTMBは、不良な転帰を示す、方法が本明細書で提供される。いくつかの実施形態において、がんは腫瘍である。いくつかの実施形態において、試料は、血液、唾液、血漿、血清、尿、または他の生物学的流体に由来する。いくつかの実施形態において、試料は、腫瘍由来である。いくつかの実施形態において、MHCクラスI遺伝子の近傍領域内またはMHCクラスI遺伝子を含む領域内でLOHが判定される。いくつかの実施形態において、B2M遺伝子の領域内でLOHが判定される。いくつかの実施形態において、がんは、乳がん、膵臓がん、肺がん、黒色腫、造血がんおよび白血病、結腸がん、腎臓がん、頭頸部がん、脳がん、骨がん、卵巣がん、子宮頸がん、ならびに前立腺がんから選択される。いくつかの実施形態において、チェックポイント阻害剤は、ペンブロリズマブ(KEYTRUDA)、ニボルマブ(OPDIVO)、アテゾリズマブ(TECENTRIQ)、またはイピリムマブ(YERVOY)である。いくつかの実施形態において、判定する工程は、試料に由来する1つ以上のエクソームまたはその領域を配列決定することを含む。いくつかの実施形態において、腫瘍変異は、T細胞によって認識されるネオ抗原またはネオエピトープを含む。
【0013】
いくつかの実施形態において、チェックポイント阻害剤を用いた治療のためにがん患者を選択する方法であって、患者から得られた試料においてヘテロ接合性消失(LOH)が存在せずに腫瘍遺伝子変異量(TMB)が高い場合に、チェックポイント阻害剤を用いた治療のために前記患者を選択する工程を含む、方法が本明細書で提供される。いくつかの実施形態において、LOHなしと高いTMBとの組み合わせは、チェックポイント阻害剤を用いて治療された場合の正の転帰を示し、LOHありでの高いTMBは、不良な転帰を示す。いくつかの実施形態において、試料は、腫瘍試料である。いくつかの実施形態において、試料は、血液、唾液、血漿、血清、尿、または他の生物学的流体に由来する。いくつかの実施形態において、LOHは、MHCクラスI遺伝子の近傍領域内またはMHCクラスI遺伝子を含む領域内にある。いくつかの実施形態において、LOHは、B2M遺伝子の領域内にある。いくつかの実施形態において、がんは、乳がん、膵臓がん、肺がん、黒色腫、造血がんおよび白血病、結腸がん、腎臓がん、頭頸部がん、脳がん、骨がん、卵巣がん、子宮頸がん、ならびに前立腺がんから選択される。いくつかの実施形態において、チェックポイント阻害剤は、ペンブロリズマブ(KEYTRUDA)、ニボルマブ(OPDIVO)、アテゾリズマブ(TECENTRIQ)、アベルマブ(BAVENCIO)、デュルバルマブ(IMFINZI)、またはイピリムマブ(YERVOY)である。いくつかの実施形態において、TMBおよびLOHの判定は、試料に由来する1つ以上のエクソームまたはその領域を配列決定することを含む。いくつかの実施形態において、腫瘍変異は、T細胞によって認識されるネオ抗原またはネオエピトープを含む。
【0014】
いくつかの実施形態において、がん患者を治療する方法であって、(i)患者から得られた試料においてヘテロ接合性消失(LOH)が存在せずに腫瘍遺伝子変異量(TMB)が高い場合に、チェックポイント阻害剤を用いた治療のために患者を選択する工程と、(ii)有効量のチェックポイント阻害剤を患者に投与する工程と、を含む、方法が本明細書で提供される。いくつかの実施形態において、LOHなしと高いTMBとの組み合わせは、チェックポイント阻害剤を用いて治療された場合の正の転帰を示し、LOHありでの高いTMBは、不良な転帰を示す。いくつかの実施形態において、試料は、腫瘍試料である。いくつかの実施形態において、試料は、血液、唾液、血漿、血清、尿、または他の生物学的流体に由来する。いくつかの実施形態において、LOHは、MHCクラスI遺伝子の近傍領域内またはMHCクラスI遺伝子を含む領域内にある。いくつかの実施形態において、LOHは、B2M遺伝子の領域内にある。いくつかの実施形態において、がんは、乳がん、膵臓がん、肺がん、黒色腫、造血がんおよび白血病、結腸がん、腎臓がん、頭頸部がん、脳がん、骨がん、卵巣がん、子宮頸がん、ならびに前立腺がんから選択される。いくつかの実施形態において、チェックポイント阻害剤は、ペンブロリズマブ(KEYTRUDA)、ニボルマブ(OPDIVO)、アテゾリズマブ(TECENTRIQ)、アベルマブ(BAVENCIO)、デュルバルマブ(IMFINZI)、アベルマブ(BAVENCIO)、デュルバルマブ(IMFINZI)、またはイピリムマブ(YERVOY)である。いくつかの実施形態において、TMBおよびLOHの判定は、試料に由来する1つ以上のエクソームまたはその領域を配列決定することを含む。いくつかの実施形態において、腫瘍変異は、T細胞によって認識されるネオ抗原またはネオエピトープを含む。
[本発明1001]
がん患者における治療レジメンを決定する方法であって、前記患者に由来する試料において腫瘍遺伝子変異量(TMB)およびヘテロ接合性消失(LOH)を判定する工程を含み、LOHなしと高いTMBとの組み合わせが、チェックポイント阻害剤を用いて治療された場合の正の転帰を示し、LOHありでの高いTMBが、不良な転帰を示す、方法。
[本発明1002]
前記がんが、腫瘍である、本発明1001の方法。
[本発明1003]
前記試料が、血液、唾液、血漿、血清、尿、または他の生物学的流体に由来する、本発明1001の方法。
[本発明1004]
前記試料が、腫瘍由来である、本発明1001の方法。
[本発明1005]
前記LOHが、MHCクラスI遺伝子の近傍領域内またはMHCクラスI遺伝子を含む領域内で判定される、本発明1001の方法。
[本発明1006]
前記LOHが、B2M遺伝子の領域内で判定される、本発明1001の方法。
[本発明1007]
前記がんが、乳がん、膵臓がん、肺がん、黒色腫、造血がんおよび白血病、結腸がん、腎臓がん、頭頸部がん、脳がん、骨がん、卵巣がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、ならびに前立腺がんから選択される、本発明1001の方法。
[本発明1008]
前記チェックポイント阻害剤が、ペンブロリズマブ(KEYTRUDA)、ニボルマブ(OPDIVO)、アテゾリズマブ(TECENTRIQ)、またはイピリムマブ(YERVOY)である、本発明1001の方法。
[本発明1009]
前記判定する工程が、前記試料に由来する1つ以上のエクソームまたはその領域を配列決定することを含む、本発明1001の方法。
[本発明1010]
腫瘍変異が、T細胞によって認識されるネオ抗原またはネオエピトープを含む、本発明1001の方法。
[本発明1011]
チェックポイント阻害剤を用いた治療のためにがん患者を選択する方法であって、前記患者から得られた試料においてヘテロ接合性消失(LOH)が存在せずに腫瘍遺伝子変異量(TMB)が高い場合に、前記チェックポイント阻害剤を用いた治療のために前記患者を選択する工程を含む、方法。
[本発明1012]
LOHなしと高いTMBとの組み合わせが、前記チェックポイント阻害剤を用いて治療された場合の正の転帰を示し、LOHありでの高いTMBが、不良な転帰を示す、本発明1011の方法。
[本発明1013]
前記試料が、腫瘍試料である、本発明1011の方法。
[本発明1014]
前記試料が、血液、唾液、血漿、血清、尿、または他の生物学的流体に由来する、本発明1011の方法。
[本発明1015]
前記LOHが、MHCクラスI遺伝子の近傍領域またはMHCクラスI遺伝子を含む領域を含む、本発明1011の方法。
[本発明1016]
前記LOHが、B2M遺伝子の領域を含む、本発明1011の方法。
[本発明1017]
前記がんが、乳がん、膵臓がん、肺がん、黒色腫、造血がんおよび白血病、結腸がん、腎臓がん、頭頸部がん、脳がん、骨がん、卵巣がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、ならびに前立腺がんから選択される、本発明1011の方法。
[本発明1018]
前記チェックポイント阻害剤が、ペンブロリズマブ(KEYTRUDA)、ニボルマブ(OPDIVO)、アテゾリズマブ(TECENTRIQ)、アベルマブ(BAVENCIO)、デュルバルマブ(IMFINZI)、またはイピリムマブ(YERVOY)である、本発明1011の方法。
[本発明1019]
TMBおよびLOHの判定が、前記試料に由来する1つ以上のエクソームまたはその領域を配列決定することを含む、本発明1011の方法。
[本発明1020]
腫瘍変異が、T細胞によって認識されるネオ抗原またはネオエピトープを含む、本発明1011の方法。
[本発明1021]
がん患者を治療する方法であって、
(i)前記患者から得られた試料においてヘテロ接合性消失(LOH)が存在せずに腫瘍遺伝子変異量(TMB)が高い場合に、チェックポイント阻害剤を用いた治療のために前記患者を選択する工程と、
(ii)有効量の前記チェックポイント阻害剤を前記患者に投与する工程と
を含む、方法。
[本発明1022]
LOHなしと高いTMBとの組み合わせが、前記チェックポイント阻害剤を用いて治療された場合の正の転帰を示し、LOHありでの高いTMBが、不良な転帰を示す、本発明1021の方法。
[本発明1023]
前記試料が、腫瘍試料である、本発明1021の方法。
[本発明1024]
前記試料が、血液、唾液、血漿、血清、尿、または他の生物学的流体に由来する、本発明1021の方法。
[本発明1025]
前記LOHが、MHCクラスI遺伝子の近傍領域またはMHCクラスI遺伝子を含む領域を含む、本発明1021の方法。
[本発明1026]
前記LOHが、B2M遺伝子の領域を含む、本発明1021の方法。
[本発明1027]
前記がんが、乳がん、膵臓がん、肺がん、黒色腫、造血がんおよび白血病、結腸がん、腎臓がん、頭頸部がん、脳がん、骨がん、卵巣がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、ならびに前立腺がんから選択される、本発明1021の方法。
[本発明1028]
前記チェックポイント阻害剤が、ペンブロリズマブ(KEYTRUDA)、ニボルマブ(OPDIVO)、アテゾリズマブ(TECENTRIQ)、アベルマブ(BAVENCIO)、デュルバルマブ(IMFINZI)、アベルマブ(BAVENCIO)、デュルバルマブ(IMFINZI)、またはイピリムマブ(YERVOY)である、本発明1021の方法。
[本発明1029]
TMBおよびLOHの判定が、前記試料に由来する1つ以上のエクソームまたはその領域を配列決定することを含む、本発明1021の方法。
[本発明1030]
腫瘍変異が、T細胞によって認識されるネオ抗原またはネオエピトープを含む、本発明1021の方法。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】MHCクラスIのヘテロ接合性消失の異なるシナリオを示す。
【
図2A】MHCヘテロ接合性を検出するための染色体遺伝子座にわたる対立遺伝子頻度の分析を示す。
【
図2B】MHCヘテロ接合性を検出するための染色体遺伝子座にわたる対立遺伝子頻度の分析を示す。
【
図3A】MHCクラスIのLOHを検出する方法の検証に使用される標本の腫瘍純度の分布を示す。
【
図3B】全エクソーム配列決定(WES)とPGDx elio(商標)tissue complete(Wolverine)との間でMHC状態が一致していない試料における腫瘍純度の分析を示す。
【
図4】NSCLC患者における臨床転帰に対するin silicoでのTMBおよびMHCの状態の相関関係を示す。
【
図5】母系および父系のMHC対立遺伝子における単一ヒットおよび二重ヒットを示す。
【
図6】対立遺伝子頻度とヘテロ接合性との間の相関関係を示す。
【
図8】MHCの潜在的なLOHを有するものと、有さないものを含む数種類の試料のMHC遺伝子の近傍におけるヘテロ接合性のパイロット評価を示す。
【
図9】エクソームデータによる、PGDx elio(商標)complete(Wolverine)を用いて見出されたLOHシグナルの確認を示す。
【
図10A】PGRD00426についてのMHCのLOHが、腫瘍画分に特異的であることを示す。
【
図10B】PGRD00426についてのMHCのLOHが、腫瘍画分に特異的であることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
例えば、チェックポイント阻害剤を用いた治療などの免疫療法のバイオマーカーとしてのTMBスコアの解釈は、患者が機能的な免疫系を有する場合にのみ、正確なものであり得る。腫瘍細胞がネオ抗原をCD8+T細胞に提示することができない場合、高い遺伝子変異量(TMB)は免疫療法とは無関係であり、免疫療法に対する応答性を正確に予測することはできない。
【0017】
いくつかの実施形態において、がん患者における治療レジメンを決定するための方法であって、患者に由来する試料において腫瘍遺伝子変異量(TMB)およびヘテロ接合性消失(LOH)を判定する工程を含み、LOHなしと高いTMBとの組み合わせは、チェックポイント阻害剤を用いて治療された場合の正の転帰を示し、LOHありでの高いTMBは、不良な転帰を示す、方法が本明細書で提供される。
【0018】
いくつかの実施形態において、チェックポイント阻害剤を用いた治療のためにがん患者を選択する方法であって、患者から得られた試料においてLOHが存在せずにTMBが高い場合に、チェックポイント阻害剤を用いた治療のために当該患者を選択する工程を含む、方法が本明細書で提供される。
【0019】
いくつかの実施形態において、がん患者を治療する方法であって、(i)患者から得られた試料においてLOHが存在せずにTMBが高い場合に、チェックポイント阻害剤を用いた治療のために患者を選択する工程と、(ii)有効量のチェックポイント阻害剤を患者に投与する工程と、を含む、方法が本明細書で提供される。
【0020】
ヘテロ接合性消失
本明細書で使用される場合、「ヘテロ接合性消失」または「LOH」という用語は、細胞または個体に対する片親の寄与の消失を指す。LOHは、例えば、直接的な欠失、不均衡な再配列に起因する欠失、遺伝子変換、有糸分裂組換え、または染色体の消失(モノソミー)の結果であり得る。したがって、LOHは、遺伝子全体およびその周囲の染色体領域の消失を含み得る遺伝子材料の消失を指していてもよいが、遺伝子全体よりも少ない部分が消失していてもよい。例えば、LOHは、遺伝子の完全な消失または部分的な消失の結果としての機能性遺伝子の消失を指してもよい。本明細書で使用される場合、「コピー数変化のないLOH」という用語は、個体または細胞におけるコピー数または遺伝子の正味の変化がないLOHを指す。コピー数変化のないLOHは、例えば、片親性ダイソミー(UPD)および遺伝子変換から生じ得る。UPDにおいて、個体または細胞は、例えば、減数分裂Iまたは減数分裂IIにおけるエラーに起因して、片親からの染色体の2つのコピー、または染色体の一部を受け取る。本明細書で提供される方法は、LOHのための任意の機構を想定する。
【0021】
HLAクラスI/β-2-ミクログルリン(microglulin)(B2M)複合体を提示するネオ抗原のヘテロ接合性消失(LOH)は、ウイルス感染した細胞または腫瘍細胞における免疫回避の機構である。例えば、MHCクラスIの親対立遺伝子の消失は、有糸分裂中の不分離、片腕の消失、または中間部欠失に起因して起こる場合があり(
図1)、細胞表面に提示され得る潜在的なネオ抗原の数を制限してしまう場合がある。
【0022】
HLAクラスI遺伝子およびB2M遺伝子でのLOHの発生の大部分は、6番染色体(HLAクラスI)および15番染色体(B2M)の配列を含有するNGSデータのSNP分析およびコピー数変化(CNV)に対するバイオインフォマティクスアプローチを使用して特定することができる。6番染色体(HLAクラスI)の短腕および15番染色体の長腕に由来する配列情報は、これらの遺伝子/領域のLOHを導き出すのに特に重要である。
【0023】
HLAの対立遺伝子不均衡は、腫瘍細胞を生じさせる体細胞増幅/欠失として特徴付けられ、その個体の正常細胞において見出される2つの元々のHLA対立遺伝子の不均一な数のコピーを提示する。HLAのヘテロ接合性消失(LOH)は、腫瘍細胞における2つの元々のHLA対立遺伝子のうちの1つの完全な消失または検出不可能によって定義される対立遺伝子不均衡の極端な場合である。本明細書で使用される場合、HLAのヘテロ接合性消失(LOH)は、上述の両方の事象(HLAのLOH自体、およびHLAの対立遺伝子不均衡のより一般的な概念)を指す。
【0024】
免疫療法
本明細書で提供される方法は、がん患者における治療レジメンを決定する工程、治療についてがん患者を選択する工程、および/またはがん患者を治療する工程を含む。いくつかの実施形態において、治療レジメンまたは治療は、免疫療法である。いくつかの実施形態において、治療レジメンまたは治療は、チェックポイント阻害剤療法(以下に記載する)である。
【0025】
免疫療法には、活性化免疫療法を用いた治療と、抑制免疫療法を用いた治療が含まれる。活性化免疫療法は、免疫応答を誘発するか、または活性化し、一方、抑制免疫療法は、免疫応答を低下させるか、または抑制する。免疫療法は、インターロイキン、サイトカイン、ケモカイン、免疫調節イミド薬(IMiD)などの免疫調節因子を用いた治療を含んでいてもよい。免疫療法には、任意のインターロイキン、サイトカイン、ケモカイン、または免疫調節イミド薬(IMiD)を使用することができる。免疫療法のための例示的なインターロイキンとしては、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-10、IL-12、IL-15、IL-18、IL-21、およびIL-23が挙げられる。免疫療法のための例示的なサイトカインとしては、インターフェロン、TNF-α、TGF-β、G-CSF、およびGM-CSFが挙げられる。免疫療法のための例示的なケモカインとしては、CCL3、CCL26、およびCXCL7が挙げられる。例示的なIMiDとしては、サリドミド、およびその類似体レナリドミド、ポマリドミド、およびアプレミラストが挙げられる。他の免疫調節物質としては、例えば、シトシンリン酸グアノシン、オリゴデオキシヌクレオチド、およびグルカンが挙げられる。
【0026】
がん免疫療法は、一般に、免疫系の刺激を伴い、がん細胞および腫瘍を破壊する。例示的ながん免疫療法としては、患者のT細胞にキメラ抗原受容体(CAR)を導入し、CAR-T細胞を生成するCAR T細胞療法が挙げられる。次いで、CAR-T細胞を患者の血流に導入し、養子細胞移入(ACT)によって、がんを治療する。CARは、一般に、がん細胞の細胞表面上で発現する抗原を標的とすることができる抗原認識ドメインと、1つ以上のシグナル伝達ドメインと、を含む。したがって、CAR-T細胞は、標的抗原を発現するがん細胞を標的とし、破壊することができる。例示的なCAR-T細胞療法としては、チサゲンレクロイセル(KYMRIAH)およびアキシカブタゲンシロルユーセル(YESCARTA)が挙げられる。
【0027】
さらなるがん免疫療法としては、別の種類のACTであるTCR療法が挙げられる。CAR-T細胞療法と同様に、T細胞を患者から採取し、再設計し、患者に導入する。さらなる種類のACTとしては、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法が挙げられる。患者由来のTILを患者の腫瘍組織から単離し、インビトロで拡大させ、次いで、患者に導入する。
【0028】
さらに別の種類のがん免疫療法は、モノクローナル抗体を用いた治療である。免疫療法で使用するためのモノクローナル抗体は、裸(すなわち、コンジュゲート化されていない)であってもよく、またはコンジュゲート化されていてもよい(すなわち、それらに結合した化学療法薬物または放射性粒子を有する)。モノクローナル抗体に加えて、例えばインターロイキンおよびサイトカインなどの他の分子が、がん細胞を標的とするためにコンジュゲート化されてもよい。一例として、デニロイキンディフティトックス(ONTAK)は、ジフテリア毒素に接続したIL-2を含む。さらに、がん免疫療法のためのモノクローナル抗体は、二重特異性であってもよく、すなわち、2つの異なるタンパク質を認識して結合するように設計されてもよい。したがって、二重特異性モノクローナル抗体は、例えば、がん細胞の表面上の1つより多い抗原を認識することができる。別の例として、二重特異性抗体は、がん細胞上のタンパク質または抗原と、免疫細胞上のタンパク質または抗原を認識することができ、それによって、免疫細胞が、がん細胞を攻撃するのを促進する。
【0029】
がんを治療するための例示的なモノクローナル抗体としては、アレムツズマブ(CAMPATH)、トラスツズマブ(HERCEPTIN)、イブリツモマブチウキセタン(ZEVALIN)、ブレンツキシマブベドチン(ADCETRIS)、アドトラスツズマブエムタンシン(KADCYLA)、ブリナツモマブ(BLINCYTO)、ベバシズマブ(AVASTIN)、およびセツキシマブ(ERBITUX)が挙げられる。
【0030】
さらなるがん免疫療法としては、がん細胞に対する免疫応答を引き起こすがんワクチンが挙げられる。さらに別のがん免疫療法は、以下にさらに記載される「チェックポイント阻害剤療法」である。
【0031】
チェックポイント阻害剤療法
「チェックポイント阻害剤療法」は、免疫系の機能に影響を与える免疫チェックポイントを使用するか、または標的とするがん治療の一形態である。免疫チェックポイントは、刺激性であってもよく、または抑制性であってもよい。腫瘍は、これらのチェックポイントを使用して、免疫系の攻撃から自身を保護することができる。チェックポイント療法は、阻害チェックポイントを遮断し、免疫系の機能を回復させることができる。チェックポイントタンパク質としては、プログラム細胞死1タンパク質(PDCD1、PD-1、CD279としても知られる)およびそのリガンド、PD-1リガンド1(PD-L1、CD274)、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4)、A2AR(アデノシンA2A受容体)、B7-H3(またはCD276)、B7-H4(またはVTCN1)、BTLA(Bリンパ球およびTリンパ球アテニュエーター、またはCD272)、IDO(インドールアミン 2,3-ジオキシゲナーゼ)、KIR(キラー細胞免疫グロブリン様受容体)、LAG3(リンパ球活性化遺伝子-3)、TIM-3(T細胞免疫グロブリン様ドメインおよびムチンドメイン3)、ならびにVISTA(T細胞活性化のVドメインIgサプレッサー)が挙げられる。
【0032】
プログラム細胞死1タンパク質は、PD-1およびCD279(分化クラスター279)としても知られ、T細胞の炎症活性を抑制することによって、免疫系を下方制御し、自己寛容を促進する際に重要な役割を果たす細胞表面受容体である。理論に限定されるものではないが、PD-1は、免疫チェックポイントであり、リンパ節内で抗原特異的T細胞におけるアポトーシス(プログラム細胞死)を促進すると同時に、制御性T細胞(抗炎症性であり抑制性のT細胞)におけるアポトーシスを減らすという二重機構を介して、自己免疫から防御する。PD-1は、PD-L1およびPD-L2といった2つのリガンドを有し、これらはB7ファミリーのメンバーである。PD-L1タンパク質は、LPSおよびGM-CSF治療に応答してマクロファージおよび樹状細胞(DC)上で上方制御され、TCRおよびB細胞受容体シグナル伝達の際にT細胞およびB細胞上で上方制御され、一方、休息マウスにおいて、例えば、PD-L1 mRNAは、心臓、肺、胸腺、脾臓、および腎臓で検出され得る。PD-L1は、IFN-γでの治療時に、PA1骨髄腫、P815肥満細胞腫、およびB16黒色腫を含むほぼ全てのマウス腫瘍細胞株上で発現する。PD-L2発現は、さらに制限され、主に、DCおよびいくつかの腫瘍株において発現する。
【0033】
PD-L1は、いくつかのがんにおいて発現する。PD-1を標的とするモノクローナル抗体は、がん治療のための免疫系を強化することができる。多くの腫瘍細胞は、免疫抑制性PD-1リガンドであるPD-L1を発現し、PD-1とPD-L1との間の相互作用の阻害は、インビトロでT細胞応答を増強し、前臨床抗腫瘍活性を媒介することができる。
【0034】
CTLA4またはCTLA-4(細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4)は、CD152(分化クラスター152)としても知られており、免疫チェックポイントとして機能し、免疫応答を下方制御するタンパク質受容体である。CTLA4は、制御性T細胞において構成的に発現するが、一般に、特にがんにおいて、活性化後に典型的なT細胞において上方制御される。CTLA4は、活性化T細胞によって発現され、阻害シグナルをT細胞に伝達する免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーである。CTLA4は、T細胞補助刺激タンパク質CD28と同様に機能し、両分子は、抗原提示細胞上でCD80およびCD86(それぞれB7-1およびB7-2とも呼ばれる)に結合する。理論に限定されるものではないが、CTLA-4は、CD28よりも高い親和性およびアビディティでCD80およびCD86に結合するため、そのリガンドについてCD28を上回ることができる。CTLA4は、阻害シグナルをT細胞に伝達し、一方、CD28は、刺激シグナルを伝達する。CTLA4は、制御性T細胞でも見出され、その阻害機能に寄与する。T細胞受容体およびCD28を介したT細胞活性化によって、CTLA-4の発現増加が起こる。
【0035】
がんを治療するために、いくつかのチェックポイント阻害剤を使用することができる。PD-1阻害剤としては、例えば、ペンブロリズマブ(KEYTRUDA)およびニボルマブ(OPDIVO)が挙げられる。PD-L1阻害剤としては、例えば、アテゾリズマブ(TECENTRIQ)、アベルマブ(BAVENCIO)およびデュルバルマブ(IMFINZI)が挙げられる。CTLA-4阻害剤としては、例えば、イピリムマブ(YERVOY)が挙げられる。他のチェックポイント阻害剤としては、例えば、B7-H3抗体(MGA271)、抗KIR抗体(リリルマブ)および抗LAG3抗体(BMS-986016)が挙げられる。本明細書に記載の方法において、任意のチェックポイント阻害剤を使用することができる。さらに、本明細書に記載の方法を使用して、任意のチェックポイント阻害剤に対する応答性を判定または予測することができる。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される方法のチェックポイント阻害剤は、ペンブロリズマブ(KEYTRUDA)、ニボルマブ(OPDIVO)、アテゾリズマブ(TECENTRIQ)、アベルマブ(BAVENCIO)、デュルバルマブ(IMFINZI)、またはイピリムマブ(YERVOY)である。
【0036】
腫瘍遺伝子変異量
本明細書に記載の方法は、例えば、患者試料において腫瘍遺伝子変異量(TMB)を判定する工程、および/またはTMBを使用して、治療のためにがん患者を選択する工程を含む。TMBは、免疫系によって認識されるべきであるが腫瘍による免疫応答の抑制に起因しない変化したタンパク質についての読み出し情報を提供するため、免疫応答の代替マーカーとして機能することができる。TMBは、がんゲノムのサンプリング領域を通して測定され、変異の数/Mbを推定することができる。高いTMBスコアは、腫瘍がより多くの体細胞変異を保有し、免疫原性ネオエピトープを提示する機会が多くなるため、免疫療法に対するより良好な応答と関連し得る。
【0037】
試料は、腫瘍ゲノムあたり、少なくとも100個、少なくとも200個、少なくとも300個、少なくとも400個、少なくとも500個、少なくとも600個、少なくとも700個、少なくとも800個、少なくとも900個、少なくとも1000個、少なくとも1100個、少なくとも1200個、少なくとも1300個、少なくとも1400個、少なくとも1500個、または少なくとも1600個の変異を有する腫瘍を特定することによって、高い遺伝子変異量について試験されてもよい。高い遺伝子変異量は、個体の正常組織と比較して腫瘍において体細胞変異が多いことを意味する。マイクロサテライト不安定性(MSI)ではない腫瘍における体細胞変異の平均数は、約70個の体細胞変異である。異なる種類の体細胞変異は、例えば、ミスセンス変異、ナンセンス変異、挿入および欠失を含むTMBに寄与し得る。
【0038】
LOHの判定
本明細書に記載の方法は、例えば、患者試料においてヘテロ接合性消失(LOH)を判定する工程、および/またはLOHを使用して、治療のためにがん患者を選択する工程を含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の方法によって提供されるように、がん患者における治療レジメンを決定するために、TMBとの組み合わせでLOHが判定される。いくつかの実施形態において、本発明で提供される方法は、治療のためにがん患者を選択するために、TMBと組み合わせてLOHを使用する。以下の実施例に記載されるように、本明細書に記載の方法は、PGDx elio(商標)tissue complete試験を用い、NGS配列決定からの既存データの使用を提供し、1)抗原提示複合体における遺伝子の体細胞変化を特定し、2)これらのデータを使用して、正常または異常な抗原提示複合体が存在するかどうかを推測し、3)これらのデータを使用して、免疫療法に対する応答性のTMBに基づく予測を精密化する。
【0039】
本明細書で提供される方法において、任意の遺伝子または複数の遺伝子をLOHについて分析することができる。いくつかの実施形態において、MHC遺伝子の近傍領域内またはMHC遺伝子を含む領域内でLOHが判定される。MHCクラスIおよびMHCクラスIIの両方の遺伝子をLOHについて分析することができる。いくつかの実施形態において、MHCクラスI遺伝子の近傍領域内またはMHCクラスI遺伝子を含む領域内でLOHが判定される。いくつかの実施形態において、MHCクラスII遺伝子の近傍領域内またはMHCクラスII遺伝子を含む領域内でLOHが判定される。いくつかの実施形態において、MHCクラスI遺伝子およびMHCクラスII遺伝子の近傍領域内またはMHCクラスI遺伝子およびMHCクラスII遺伝子を含む領域内でLOHが判定される。いくつかの実施形態において、B2M遺伝子の領域内でLOHが判定される。いくつかの実施形態において、B2M遺伝子の領域内と、MHC遺伝子の近傍領域内またはMHC遺伝子を含む領域内でLOHが判定される。いくつかの実施形態において、B2M遺伝子の領域内と、MHCクラスI遺伝子の近傍領域内またはMHCクラスI遺伝子を含む領域内でLOHが判定される。いくつかの実施形態において、B2M遺伝子の領域内と、MHCクラスII遺伝子の近傍領域内またはMHCクラスII遺伝子を含む領域内でLOHが判定される。
【0040】
本方法は、現在のバージョンのPGDx elio(商標)tissue complete試験を含め、関心対象の所望の遺伝子を提供する任意の利用可能な遺伝子パネルで有用である。(http://www.personalgenome.com/)。特定のソフトウェアアップデートは、一塩基多型(SNP)およびコピー数変化(CNV)を分析し、標的遺伝子におけるLOHの領域を呼び出すのに有用である。さらに、MHCクラスI遺伝子を含む関心対象のハイブリッド捕捉領域(ROI)をPGDx elio(商標)tissue completeパネルに追加してもよい。
【0041】
本方法は、TMB試験単独よりも正確に、免疫療法に対する応答性を予測することができる。現在は、全ての高TMB患者がレスポンダーである「可能性が高い」とみなされている。抗原提示複合体における遺伝子の体細胞変異の試験が、現在のTMB試験に追加され、患者が(1)高TMBおよび(2)正常な抗原提示の両方を有する場合、患者をレスポンダーである「可能性が高い」として特定することができる。これにより、表1の右上象限内の患者の診断が、転帰良好から転帰不良へと変更される場合がある。
【0042】
【0043】
抗原提示の消失は、免疫回避の一機構であり、本方法は、例えば、PGDx elio(商標)tissue complete試験または他のPCRもしくはNGS手法を使用して、これらの遺伝子におけるLOHを特定することができることを示す。
【0044】
本明細書で提供される方法のいくつかの実施形態において、LOHが存在しない場合の高TMBスコアは、良好な転帰を示し、すなわち、患者は免疫療法に応答する可能性が高い。いくつかの実施形態において、LOHが存在しない場合の低TMBスコアは、不良な転帰を示し、すなわち、患者は免疫療法に応答する可能性が低い。いくつかの実施形態において、LOHが存在する場合の低TMBスコアは、不良な転帰を示し、すなわち、患者は免疫療法に応答する可能性が低い。いくつかの実施形態において、LOHが存在する場合の高TMBスコアは、不良な転帰を示し、すなわち、患者は免疫療法に応答する可能性が低い。いくつかの実施形態において、免疫療法はチェックポイント阻害剤療法である。
【0045】
本明細書で使用される場合、「応答する可能性が低い」または「レスポンダーである可能性が低い」という用語は、治療に対して良好なまたは正の転帰または応答が予測される患者と比較した、治療に対する患者の応答性を指す。いくつかの実施形態において、「レスポンダーである可能性が低い」は、治療に対して良好なまたは正の転帰または応答が予測される患者よりも、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、またはその間の任意の数もしくは範囲だけ、治療に応答する可能性が低い。本明細書で使用される場合、「治療に対する正の応答」または「治療に対する良好な応答」は、以下に定義されるように、「治療」に関して互換的に使用され得る。本明細書で使用される場合、「応答する可能性が高い」または「レスポンダーである可能性が高い」という用語は、治療に対して不良なまたは負の転帰または応答が予測される患者と比較した、治療に対する患者の応答性を指す。いくつかの実施形態において、「レスポンダーである可能性が高い」は、治療に対して不良なまたは負の転帰または応答が予測される患者よりも、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、またはその間の任意の数もしくは範囲だけ、治療に応答する可能性が可能性が高い。本明細書で使用される場合、患者の治療について言及する場合の「不良な転帰」、「負の転帰」、または「負の応答」という用語は、以下に定義される「治療」に関して、患者が治療に応答しないこと、すなわち、治療が有効ではないことを意味する。
【0046】
いくつかの実施形態において、免疫療法は、チェックポイント阻害剤の投与を含む。任意のチェックポイント阻害剤が、本明細書で提供される方法で使用され得る。いくつかの実施形態において、チェックポイント阻害剤は、ペンブロリズマブ(KEYTRUDA)、ニボルマブ(OPDIVO)、アテゾリズマブ(TECENTRIQ)、アベルマブ(BAVENCIO)、デュルバルマブ(IMFINZI)、アベルマブ(BAVENCIO)、デュルバルマブ(IMFINZI)、またはイピリムマブ(YERVOY)である。
【0047】
試料
いくつかの実施形態において、本明細書で提供される方法は、がん患者に由来する試料における腫瘍遺伝子変異量(TMB)およびヘテロ接合性消失(LOH)の判定を含む。いくつかの実施形態において、がんは腫瘍である。固形腫瘍および液体腫瘍の両方に由来する試料が、本明細書に記載の方法で使用されてもよい。本明細書で使用される場合、「腫瘍」という用語は、異常な細胞の蓄積によって形成される組織の塊(mass)または塊(lump)を指す。腫瘍は、良性(すなわち、がんではない)、悪性(すなわち、がん)、または前悪性(すなわち、前がん性)であってもよい。「腫瘍」および「新生物」という用語は、互換的に使用され得る。一般に、腫瘍であるがんは、悪性である。
【0048】
本明細書で使用される場合、「固形腫瘍」という用語は、通常は嚢胞または液体領域を含まない異常な組織の塊を指す。例示的な固形腫瘍としては、例えば、肉腫および癌腫が挙げられる。本明細書で使用される場合、「液体腫瘍」という用語は、血液および骨髄などの体液中に存在する腫瘍またはがんを指す。例示的な液体腫瘍としては、例えば、リンパ腫が例えばリンパ節中で成長することによって固形腫瘍として成長する能力があるにもかかわらず、白血病およびリンパ腫などの造血腫瘍が挙げられる。「液体腫瘍」という用語は、文脈が別途明確に示さない限り、「血液がん」という用語と互換的に使用され得る。
【0049】
任意のがんに由来する試料を、本明細書で提供される方法によって分析することができる。いくつかの実施形態において、がんは、乳がん、膵臓がん、肺がん、黒色腫、造血がんおよび白血病、結腸がん、腎臓がん、頭頸部がん、脳がん、骨がん、卵巣がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、ならびに前立腺がんから選択される。したがって、本明細書で提供される方法の患者は、何らかのがんに罹患していてもよい。いくつかの実施形態において、がんは腫瘍である。いくつかの実施形態において、患者は、乳がん、膵臓がん、肺がん、黒色腫、造血がん、白血病、結腸がん、腎臓がん、頭頸部がん、脳がん、骨がん、卵巣がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、または前立腺がんに罹患している。
【0050】
任意の試料または種類の試料が、本明細書で提供される方法で使用され得る。いくつかの実施形態において、試料は、血液、唾液、血漿、血清、尿、または他の生物学的流体である。さらなる例示的な生物学的流体としては、漿液、リンパ液、脳脊髄液、粘膜分泌物、膣液、腹水液、胸膜液、心膜液、腹腔液、腹水が挙げられる。いくつかの実施形態において、試料は、組織試料である。いくつかの実施形態において、試料は、がん由来の組織試料である。いくつかの実施形態において、試料は、細胞試料である。いくつかの実施形態において、試料は、がん由来の細胞試料である。いくつかの実施形態において、試料は、がん試料である。がん試料は、固形腫瘍または液体腫瘍に由来する試料であってもよい。
【0051】
MHC/B2M遺伝子
上に記載されるように、任意の遺伝子または複数の遺伝子を、本明細書で提供される方法において、LOHについて分析することができる。いくつかの実施形態において、MHC遺伝子の近傍領域内またはMHC遺伝子を含む領域内でLOHが判定される。MHCクラスIおよびMHCクラスIIの両方の遺伝子をLOHについて分析することができる。いくつかの実施形態において、MHCクラスI遺伝子の近傍領域内またはMHCクラスI遺伝子を含む領域内でLOHが判定される。いくつかの実施形態において、MHCクラスII遺伝子の近傍領域内またはMHCクラスII遺伝子を含む領域内でLOHが判定される。いくつかの実施形態において、MHCクラスI遺伝子およびMHCクラスII遺伝子の近傍領域内またはMHCクラスI遺伝子およびMHCクラスII遺伝子を含む領域内でLOHが判定される。いくつかの実施形態において、B2M遺伝子の領域内でLOHが判定される。いくつかの実施形態において、B2M遺伝子の領域内と、MHC遺伝子の近傍領域内またはMHC遺伝子を含む領域内でLOHが判定される。いくつかの実施形態において、B2M遺伝子の領域内と、MHCクラスI遺伝子の近傍領域内またはMHCクラスI遺伝子を含む領域内でLOHが判定される。いくつかの実施形態において、B2M遺伝子の領域内と、MHCクラスII遺伝子の近傍領域内またはMHCクラスII遺伝子を含む領域内でLOHが判定される。
【0052】
主要組織適合性複合体(MHC)クラスIおよびMHCクラスII複合体は、主要なMHC分子である。MHCクラスI分子は、全ての有核細胞の表面上および血小板上に見出される。MHCクラスI分子は、細胞内のタンパク質のペプチド断片を細胞傷害性T細胞に提示するように機能する。ペプチド断片の提示は、非自己抗原またはネオ抗原に対する免疫応答の引き金となる。MHCクラスI分子は、主に細胞質タンパク質(細胞質または内因性提示経路)の分解から生成されるペプチドを提示するが、クラスI MHCは、交差提示と呼ばれるプロセスにおいて外因性タンパク質から生成されるペプチドも提示することができる。
【0053】
MHCクラスI分子は、非共有結合している2つのポリペプチド鎖αおよびβ2-ミクログロブリン(b2m)を含むヘテロ二量体である。α鎖は多型であり、ヒトにおけるHLA遺伝子によってコードされる。b2mサブユニットは多型ではなく、β-2ミクログロブリン(B2M遺伝子)によってコードされる。
【0054】
本明細書で使用される場合、「MHCクラスI遺伝子」という用語は、MHCクラスI分子のαサブユニットをコードする遺伝子を指す。MHCクラスI分子のαサブユニットをコードする遺伝子は、染色体6p21上の約3Mbpの遺伝子伸長部に存在するヒト白血球抗原(HLA)遺伝子複合体の一部である(
図7)。HLA遺伝子複合体は、クラスII MHC分子をコードする遺伝子も含む。MHCクラスII分子は、通常、例えば、樹状細胞、単核食細胞、いくつかの内皮細胞、胸腺上皮細胞、およびB細胞などの専門的な抗原提示細胞上に見出される。MHCクラスI分子のαサブユニットをコードする例示的な遺伝子としては、高度に多型のHLA-A、HLA-B、およびHLA-C遺伝子が挙げられる。αサブユニットをコードするさらなる例示的な遺伝子としては、HLA-E、HLA-F、およびHLA-G、ならびに偽遺伝子HLA-KおよびHLA-Lが挙げられる。クラスII MHC分子をコードする例示的な遺伝子としては、HLA-DM、HLA-DO、HLA-DP、HLA-DQ、およびHLA-DR遺伝子が挙げられる。
【0055】
本明細書で使用される場合、「B2M遺伝子」という用語は、β2-ミクログロブリン(b2M)鎖をコードする遺伝子を指す。ヒトB2M遺伝子は、15番染色体の長腕上の21.1位に位置する。
【0056】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供される方法は、MHCクラスI遺伝子の近傍領域内またはMHCクラスI遺伝子を含む領域内でLOHを判定することを含む。いくつかの実施形態において、本明細書で提供される方法は、MHCクラスI遺伝子の近傍領域内またはMHCクラスI遺伝子を含む領域内にLOHを含む。
【0057】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供される方法は、B2M遺伝子の領域内でLOHを判定することを含む。いくつかの実施形態において、本明細書で提供される方法は、B2M遺伝子の領域内にLOHを含む。
【0058】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供される方法は、MHCクラスI遺伝子の近傍領域内またはMHCクラスI遺伝子を含む領域内と、B2M遺伝子の領域内でLOHを判定することを含む。いくつかの実施形態において、LOHは、MHCクラスI遺伝子の近傍領域内またはMHCクラスI遺伝子を含む領域内と、B2M遺伝子の領域内にある。
【0059】
本明細書で使用される場合、「遺伝子の近傍領域」という用語は、ある遺伝子、ある遺伝子クラスター内のある遺伝子、または遺伝子クラスター自体の、10bp以内、20bp以内、30bp以内、40bp以内、50bp以内、60bp以内、70bp以内、80bp以内、90bp以内、100bp以内、200bp以内、300bp以内、400bp以内、500bp以内、600bp以内、700bp以内、800bp以内、900bp以内、1,000bp以内、1,100bp以内、1,200bp以内、1,300bp以内、1,400bp以内、1,500bp以内、1,600bp以内、1,700bp以内、1,800bp以内、1,900bp以内、2,000bp以内、2,100bp以内、2,200bp以内、2,300bp以内、2,400bp以内、2,500bp以内、2,600bp以内、2,700bp以内、2,800bp以内、2,900bp以内、3,000bp以内、3,100bp以内、3,200bp以内、3,300bp以内、3,400bp以内、3,500bp以内、3,600bp以内、3,700bp以内、3,800bp以内、3,900bp以内、4,000bp以内、4,100bp以内、4,200bp以内、4,300bp以内、4,400bp以内、4,500bp以内、4,600bp以内、4,700bp以内、4,800bp以内、4,900bp以内、5,000bp以内、5,500bp以内、6,000bp以内、6,500bp以内、7,000bp以内、7,500bp以内、8,000bp以内、8,500bp,9,000bp以内、9,500bp以内、10,000bp以内、11,000bp以内、12,000bp以内、13,000bp以内、14,000bp以内、15,000、16,000bp以内、17,000bp以内、18,000bp以内、19,000bp以内、20,000bp以内、25,000bp以内、30,000bp以内、35,000bp以内、40,000bp以内、45,000bp以内、50,000bp以内、55,000bp以内、60,000bp以内、65,000bp以内、70,000bp以内、75,000bp以内、80,000bp以内、85,000bp以内、90,000bp以内、95,000bp以内、100,000bp以内、およびその間の任意の数もしくは範囲以内の位置を指す。
【0060】
本明細書で使用される場合、「遺伝子の領域」という用語は、タンパク質およびRNAをコードする遺伝子ならびに偽遺伝子を含む、遺伝的特徴を制御するDNAの領域内または遺伝の機能単位内の任意の位置を指す。遺伝子の領域は、例えば、コード配列、イントロンおよび非翻訳配列などの非コード配列、例えば、プロモーター、エンハンサー、およびインシュレーターなどの非コード制御配列を含む、完全な機能単位内の任意の位置を含んでいてもよい。「遺伝子の領域」は、任意の数の塩基対(bp)を含み得る。
【0061】
ネオ抗原
いくつかの実施形態において、本明細書で提供される方法における腫瘍変異は、T細胞によって認識されるネオ抗原またはネオエピトープを含む。いくつかの実施形態において、ネオ抗原またはネオエピトープは、腫瘍抗原または腫瘍エピトープである。例示的な腫瘍抗原としては、変異したがん遺伝子の産物、産物または変異した腫瘍抑制因子、がん遺伝子または腫瘍抑制因子以外の変異した遺伝子の産物、がん原性ウイルスによって産生される腫瘍抗原、改変された細胞表面糖脂質および糖タンパク質、がん胎児抗原などが挙げられる。
【0062】
ネオ抗原またはネオエピトープは、免疫系によって以前に認識されたことがない新たに形成された任意の抗原またはエピトープであってもよい。したがって、ネオ抗原またはネオエピトープは、免疫系によって非自己として認識され、免疫応答を引き起こし得る。ネオ抗原およびネオエピトープは、例えば、上に詳細に記載するように、変異の結果として変化した腫瘍タンパク質から、またはウイルスタンパク質から生じ得る。いくつかの実施形態において、例えば、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、Epstein-Barrウイルス(EBV)、ヒトパピローマウイルス(HPV)、ヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV)、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)、メルケル細胞ポリオーマウイルス、または任意の他の腫瘍ウイルスからのウイルスタンパク質を含め、ウイルスタンパク質は、ネオ抗原またはネオエピトープを生じる場合がある。
【0063】
エクソーム配列決定
いくつかの実施形態において、本明細書で提供される方法は、試料に由来する1つ以上のエクソームまたはその領域を配列決定することによって、がん患者に由来する試料において腫瘍遺伝子変異量(TMB)およびヘテロ接合性消失(LOH)を判定することを含む。本明細書で使用される場合、「エクソーム」という用語は、ゲノムのうちのエクソンから構成される部分を指す。エクソームは、任意の種類の細胞において成熟RNAに転写される全てのDNA領域を含んでいてもよい。ヒトエクソームは、ヒトゲノムの約1%、または約3000万塩基対のDNAを構成する約180,000個のエクソンを含む。
【0064】
本明細書で使用される場合、「エクソーム配列決定」という用語は、ゲノム内の遺伝子の全てのタンパク質コードエクソンを配列決定することを指す。エクソーム配列決定は、例えば、アレイベースの捕捉および核酸の溶液内捕捉などの標的濃縮方法を含んでいてもよい。標識されたターミネーターまたはプライマーを使用するサンガー配列決定、ならびにスラブまたはキャピラリー系におけるゲル分離、ならびに次世代配列決定(NGS)を含む、任意の配列決定方法を使用することができる。例示的な次世代配列決定方法としては、Roche 454シーケンサ、Life Technologies SOLiDシステム、Life Technologies Ion Torrent、ならびにIlluminaシステム、例えば、Illumina Genome Analyzer II、Illumina MiSeq、Illumina Hi Seq、およびIllumina NovaSeq装置が挙げられる。
【0065】
治療レジメンを決定するための方法
いくつかの実施形態において、がん患者における治療レジメンを決定する方法であって、患者に由来する試料において腫瘍遺伝子変異量(TMB)およびヘテロ接合性消失(LOH)を判定することを含み、LOHなしと高いTMBとの組み合わせは、チェックポイント阻害剤を用いて治療された場合の正の転帰を示し、LOHありでの高いTMBは、不良な転帰を示す、方法が本明細書で提供される。いくつかの実施形態において、LOHなしと低いTMBとの組み合わせは、チェックポイント阻害剤を用いて治療された場合の不良な転帰を示す。いくつかの実施形態において、LOHありと低いTMBとの組み合わせは、チェックポイント阻害剤を用いて治療された場合の不良な転帰を示す。
【0066】
いくつかの実施形態において、がんは腫瘍である。治療レジメンが決定される患者は、本明細書に記載される通り、乳がん、膵臓がん、肺がん、黒色腫、造血がん、白血病、結腸がん、腎臓がん、頭頸部がん、脳がん、骨がん、卵巣がん、子宮頸がん、および前立腺がんを含むが、これらに限定されない、任意の種類のがんを有していてもよい。同様に、治療レジメンが決定される患者は、本明細書に記載される通り、上に詳細に記載するような固形腫瘍または液体腫瘍を含む任意の種類のがんを有していてもよい。
【0067】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供される方法で使用される試料は、固形腫瘍または液体腫瘍に由来する試料である。いくつかの実施形態において、試料は、がん試料である。腫瘍またはがん試料は、がんまたは腫瘍細胞と正常(すなわち、非悪性腫瘍)細胞の両方を含んでいてもよい。乳がん、膵臓がん、肺がん、黒色腫、造血がん、および白血病、結腸がん、腎臓がん、頭頸部がん、脳がん、骨がん、卵巣がん、子宮頸がん、および前立腺がんに由来する試料、ならびに固形腫瘍または液体腫瘍に由来する試料を含む、任意のがんまたは腫瘍に由来する試料が、本明細書で提供される方法において使用され、または分析され得る。
【0068】
任意の種類の試料が、本明細書で提供される方法で使用され得る。いくつかの実施形態において、試料は、血液、唾液、血漿、血清、尿、または他の生物学的流体に由来する。さらなる例示的な生物学的流体としては、漿液、リンパ液、脳脊髄液、粘膜分泌物、膣液、腹水液、胸膜液、心膜液、腹腔液、腹水が挙げられる。いくつかの実施形態において、試料は、組織試料である。いくつかの実施形態において、試料は、がん由来の組織試料である。いくつかの実施形態において、試料は、細胞試料である。いくつかの実施形態において、試料は、がん由来の細胞試料である。いくつかの実施形態において、試料は、がん試料である。
【0069】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供される方法は、ヘテロ接合性消失(LOH)を判定する工程を含む。抗原提示複合体のタンパク質をコードする任意の遺伝子についてのLOHを判定することができる。いくつかの実施形態において、LOHは、MHCクラスI遺伝子複合体の遺伝子について判定される。いくつかの実施形態において、MHCクラスII遺伝子複合体の遺伝子についてのLOHが判定される。いくつかの実施形態において、MHCクラスI遺伝子の近傍領域内またはMHCクラスI遺伝子を含む領域内でLOHが判定される。いくつかの実施形態において、B2M遺伝子の領域内でLOHが判定される。いくつかの実施形態において、MHCクラスI遺伝子の近傍領域内またはMHCクラスI遺伝子を含む領域内と、B2M遺伝子の領域内でLOHが判定される。LOHは、MHCクラスI、MHCクラスII、およびB2M遺伝子の組み合わせを含む、遺伝子の任意の組み合わせの中にあってもよい。
【0070】
いくつかの実施形態において、LOHなしと高いTMBとの組み合わせは、チェックポイント阻害剤を用いて治療された場合の正の転帰を示し、LOHありでの高いTMBは、不良な転帰を示す。本明細書で提供される方法は、任意の免疫療法の使用、選択、またはそれを用いた治療を想定する。いくつかの実施形態において、免疫療法は、チェックポイント阻害剤を用いた治療である。いくつかの実施形態において、チェックポイント阻害剤は、ペンブロリズマブ(KEYTRUDA)、ニボルマブ(OPDIVO)、アテゾリズマブ(TECENTRIQ)、アベルマブ(BAVENCIO)、デュルバルマブ(IMFINZI)、またはイピリムマブ(YERVOY)である。
【0071】
いくつかの実施形態において、患者に由来する試料において腫瘍遺伝子変異量(TMB)およびヘテロ接合性消失(LOH)を判定する工程は、試料に由来する1つ以上のエクソームまたはその領域を配列決定することを含む。上に詳細に記載されるように、エクソーム配列決定は、例えば、アレイベースの捕捉および核酸の溶液内捕捉などの標的濃縮方法を含んでいてもよい。標識されたターミネーターまたはプライマーを使用するサンガー配列決定、ならびにスラブまたはキャピラリー系におけるゲル分離、ならびに次世代配列決定(NGS)を含む、任意の配列決定方法を使用することができる。例示的な次世代配列決定方法としては、Roche 454シーケンサ、Life Technologies SOLiDシステム、Life Technologies Ion Torrent、ならびにIlluminaシステム、例えば、Illumina Genome Analyzer II、Illumina MiSeq、Illumina Hi Seq、およびIllumina NovaSeq装置が挙げられる。
【0072】
腫瘍変異は、一般的に、TMBに寄与する。いくつかの実施形態において、腫瘍変異は、T細胞によって認識されるネオ抗原またはネオペピトープ(neopepitope)を含む。いくつかの実施形態において、ネオ抗原またはネオエピトープは、腫瘍抗原または腫瘍エピトープである。例示的な腫瘍抗原としては、変異したがん遺伝子の産物、産物または変異した腫瘍抑制因子、がん遺伝子または腫瘍抑制因子以外の変異した遺伝子の産物、がん原性ウイルスによって産生される腫瘍抗原、改変された細胞表面糖脂質および糖タンパク質、がん胎児抗原などが挙げられる。
【0073】
ネオ抗原またはネオエピトープは、免疫系によって以前に認識されたことがない新たに形成された任意の抗原またはエピトープであってもよい。したがって、ネオ抗原またはネオエピトープは、免疫系によって非自己として認識され、免疫応答を引き起こし得る。ネオ抗原およびネオエピトープは、例えば、上に詳細に記載するように、変異の結果として変化した腫瘍タンパク質から、またはウイルスタンパク質から生じ得る。いくつかの実施形態において、例えば、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、Epstein-Barrウイルス(EBV)、ヒトパピローマウイルス(HPV)、ヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV)、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)、メルケル細胞ポリオーマウイルス、または任意の他の腫瘍ウイルスからのウイルスタンパク質を含め、ウイルスタンパク質は、ネオ抗原またはネオエピトープを生じる場合がある。
【0074】
患者選択方法
いくつかの実施形態において、チェックポイント阻害剤を用いた治療のためにがん患者を選択する方法であって、患者から得られた試料においてLOHが存在せずにTMBが高い場合に、チェックポイント阻害剤を用いた治療のために患者を選択する工程を含む、方法が本明細書で提供される。いくつかの実施形態において、LOHなしと高いTMBとの組み合わせは、チェックポイント阻害剤を用いて治療された場合の正の転帰を示し、LOHありでの高いTMBは、不良な転帰を示す。いくつかの実施形態において、LOHなしと低いTMBとの組み合わせは、チェックポイント阻害剤を用いて治療された場合の不良な転帰を示す。いくつかの実施形態において、LOHありと低いTMBとの組み合わせは、チェックポイント阻害剤を用いて治療された場合の不良な転帰を示す。
【0075】
いくつかの実施形態において、がんは腫瘍である。本明細書で提供される方法に従って治療のために選択される患者は、乳がん、膵臓がん、肺がん、黒色腫、造血がん、白血病、結腸がん、腎臓がん、頭頸部がん、脳がん、骨がん、卵巣がん、子宮頸がん、および前立腺がんを含むが、これらに限定されない、任意の種類のがんを有していてもよい。同様に、本明細書で提供される方法に従って治療のために選択される患者は、上に詳細に記載するような固形腫瘍または液体腫瘍を含む任意の種類の腫瘍を有していてもよい。
【0076】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供される方法で使用される試料は、固形腫瘍または液体腫瘍に由来する試料である。いくつかの実施形態において、試料は、がん試料である。腫瘍またはがん試料は、がんまたは腫瘍細胞と正常(すなわち、非悪性腫瘍)細胞の両方を含んでいてもよい。乳がん、膵臓がん、肺がん、黒色腫、造血がん、および白血病、結腸がん、腎臓がん、頭頸部がん、脳がん、骨がん、卵巣がん、子宮頸がん、および前立腺がんに由来する試料、ならびに固形腫瘍または液体腫瘍に由来する試料を含む、任意のがんまたは腫瘍に由来する試料が、本明細書で提供される方法において使用され、または分析され得る。
【0077】
任意の種類の試料が、本明細書で提供される方法で使用され得る。いくつかの実施形態において、試料は、血液、唾液、血漿、血清、尿、または他の生物学的流体に由来する。さらなる例示的な生物学的流体としては、漿液、リンパ液、脳脊髄液、粘膜分泌物、膣液、腹水液、胸膜液、心膜液、腹腔液、腹水が挙げられる。いくつかの実施形態において、試料は、組織試料である。いくつかの実施形態において、試料は、がん由来の組織試料である。いくつかの実施形態において、試料は、細胞試料である。いくつかの実施形態において、試料は、がん由来の細胞試料である。いくつかの実施形態において、試料は、がん試料である。
【0078】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供される方法は、ヘテロ接合性消失(LOH)を含む。LOHは、抗原提示複合体のタンパク質をコードする任意の遺伝子内にあってもよい。いくつかの実施形態において、LOHは、MHCクラスI複合体の遺伝子内にある。いくつかの実施形態において、LOHは、MHCクラスII複合体の遺伝子内にある。いくつかの実施形態において、LOHは、MHCクラスI遺伝子の近傍領域内またはMHCクラスI遺伝子を含む領域内にある。いくつかの実施形態において、LOHは、B2M遺伝子の領域内にある。いくつかの実施形態において、LOHは、MHCクラスI遺伝子の近傍領域内またはMHCクラスI遺伝子を含む領域内と、B2M遺伝子の領域内にある。LOHは、MHCクラスI、MHCクラスII、およびB2M遺伝子の組み合わせを含む、遺伝子の任意の組み合わせの中にあってもよい。
【0079】
いくつかの実施形態において、LOHなしと高いTMBとの組み合わせは、チェックポイント阻害剤を用いて治療された場合の正の転帰を示し、LOHありでの高いTMBは、不良な転帰を示す。本明細書で提供される方法は、任意の免疫療法の使用、選択、またはそれを用いた治療を想定する。いくつかの実施形態において、免疫療法は、チェックポイント阻害剤を用いた治療である。いくつかの実施形態において、チェックポイント阻害剤は、ペンブロリズマブ(KEYTRUDA)、ニボルマブ(OPDIVO)、アテゾリズマブ(TECENTRIQ)、アベルマブ(BAVENCIO)、デュルバルマブ(IMFINZI)、またはイピリムマブ(YERVOY)である。
【0080】
いくつかの実施形態において、患者に由来する試料において腫瘍遺伝子変異量(TMB)およびヘテロ接合性消失(LOH)を判定する工程は、試料に由来する1つ以上のエクソームまたはその領域を配列決定することを含む。上に詳細に記載されるように、エクソーム配列決定は、例えば、アレイベースの捕捉および核酸の溶液内捕捉などの標的濃縮方法を含んでいてもよい。標識されたターミネーターまたはプライマーを使用するサンガー配列決定、ならびにスラブまたはキャピラリー系におけるゲル分離、ならびに次世代配列決定(NGS)を含む、任意の配列決定方法を使用することができる。例示的な次世代配列決定方法としては、Roche 454シーケンサ、Life Technologies SOLiDシステム、Life Technologies Ion Torrent、ならびにIlluminaシステム、例えば、Illumina Genome Analyzer II、Illumina MiSeq、Illumina Hi Seq、およびIllumina NovaSeq装置が挙げられる。本明細書に記載の任意の試料をTMBおよびLOHについて分析して、治療のために患者を選択することができる。
【0081】
腫瘍変異は、一般的に、TMBに寄与する。いくつかの実施形態において、腫瘍変異は、T細胞によって認識されるネオ抗原またはネオペピトープ(neopepitope)を含む。いくつかの実施形態において、ネオ抗原またはネオエピトープは、腫瘍抗原または腫瘍エピトープである。例示的な腫瘍抗原としては、変異したがん遺伝子の産物、産物または変異した腫瘍抑制因子、がん遺伝子または腫瘍抑制因子以外の変異した遺伝子の産物、がん原性ウイルスによって産生される腫瘍抗原、改変された細胞表面糖脂質および糖タンパク質、がん胎児抗原などが挙げられる。
【0082】
ネオ抗原またはネオエピトープは、免疫系によって以前に認識されたことがない新たに形成された任意の抗原またはエピトープであってもよい。したがって、ネオ抗原またはネオエピトープは、免疫系によって非自己として認識され、免疫応答を引き起こし得る。ネオ抗原およびネオエピトープは、例えば、上に詳細に記載するように、変異の結果として変化した腫瘍タンパク質から、またはウイルスタンパク質から生じ得る。いくつかの実施形態において、例えば、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、Epstein-Barrウイルス(EBV)、ヒトパピローマウイルス(HPV)、ヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV)、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)、メルケル細胞ポリオーマウイルス、または任意の他の腫瘍ウイルスからのウイルスタンパク質を含め、ウイルスタンパク質は、ネオ抗原またはネオエピトープを生じる場合がある。
【0083】
治療方法
いくつかの実施形態において、がん患者を治療する方法であって、(i)患者から得られた試料においてLOHが存在せずにTMBが高い場合に、チェックポイント阻害剤を用いた治療のために患者を選択する工程と、(ii)有効量のチェックポイント阻害剤を患者に投与する工程と、を含む、方法が本明細書で提供される。いくつかの実施形態において、LOHなしと高いTMBとの組み合わせは、チェックポイント阻害剤を用いて治療された場合の正の転帰を示し、LOHありでの高いTMBは、不良な転帰を示す。いくつかの実施形態において、LOHなしと低いTMBとの組み合わせは、チェックポイント阻害剤を用いて治療された場合の不良な転帰を示す。いくつかの実施形態において、LOHありと低いTMBとの組み合わせは、チェックポイント阻害剤を用いて治療された場合の不良な転帰を示す。
【0084】
いくつかの実施形態において、がんは腫瘍である。本明細書で提供される方法に従って治療される患者は、乳がん、膵臓がん、肺がん、黒色腫、造血がん、白血病、結腸がん、腎臓がん、頭頸部がん、脳がん、骨がん、卵巣がん、子宮頸がん、および前立腺がんを含むが、これらに限定されない、任意の種類のがんを有していてもよい。同様に、本明細書で提供される方法に従って治療される患者は、上に詳細に記載するような固形腫瘍または液体腫瘍を含む任意の種類のがんを有していてもよい。
【0085】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供される方法で使用される試料は、固形腫瘍または液体腫瘍に由来する試料である。いくつかの実施形態において、試料は、がん試料である。腫瘍またはがん試料は、がんまたは腫瘍細胞と正常(すなわち、非悪性腫瘍)細胞の両方を含んでいてもよい。乳がん、膵臓がん、肺がん、黒色腫、造血がん、および白血病、結腸がん、腎臓がん、頭頸部がん、脳がん、骨がん、卵巣がん、子宮頸がん、および前立腺がんに由来する試料、ならびに固形腫瘍または液体腫瘍に由来する試料を含む、任意のがんまたは腫瘍に由来する試料が、本明細書で提供される方法において使用され、または分析され得る。
【0086】
任意の種類の試料が、本明細書で提供される方法で使用され得る。いくつかの実施形態において、試料は、血液、唾液、血漿、血清、尿、または他の生物学的流体に由来する。さらなる例示的な生物学的流体としては、漿液、リンパ液、脳脊髄液、粘膜分泌物、膣液、腹水液、胸膜液、心膜液、腹腔液、腹水が挙げられる。いくつかの実施形態において、試料は、組織試料である。いくつかの実施形態において、試料は、がん由来の組織試料である。いくつかの実施形態において、試料は、細胞試料である。いくつかの実施形態において、試料は、がん由来の細胞試料である。いくつかの実施形態において、試料は、がん試料である。
【0087】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供される方法は、ヘテロ接合性消失(LOH)を含む。抗原提示複合体のタンパク質をコードする任意の遺伝子についてのLOHを判定することができる。いくつかの実施形態において、LOHは、MHCクラスI複合体の遺伝子内にある。いくつかの実施形態において、LOHは、MHCクラスII複合体の遺伝子内にある。いくつかの実施形態において、LOHは、MHCクラスI遺伝子の近傍領域内またはMHCクラスI遺伝子を含む領域内にある。いくつかの実施形態において、LOHは、B2M遺伝子の領域内にある。いくつかの実施形態において、LOHは、MHCクラスI遺伝子の近傍領域内またはMHCクラスI遺伝子を含む領域内と、B2M遺伝子の領域内にある。
【0088】
いくつかの実施形態において、LOHなしと高いTMBとの組み合わせは、チェックポイント阻害剤を用いて治療された場合の正の転帰を示し、LOHありでの高いTMBは、不良な転帰を示す。本明細書で提供される方法は、任意の免疫療法の使用、選択、またはそれを用いた治療を想定する。いくつかの実施形態において、免疫療法は、チェックポイント阻害剤を用いた治療である。いくつかの実施形態において、チェックポイント阻害剤は、ペンブロリズマブ(KEYTRUDA)、ニボルマブ(OPDIVO)、アテゾリズマブ(TECENTRIQ)、アベルマブ(BAVENCIO)、デュルバルマブ(IMFINZI)、またはイピリムマブ(YERVOY)である。したがって、本明細書に記載の任意のチェックポイント阻害剤を用いた治療のために患者を選択することができ、有効量の任意のチェックポイント阻害剤を患者に投与することができる。いくつかの実施形態において、チェックポイント阻害剤は、ペンブロリズマブ(KEYTRUDA)、ニボルマブ(OPDIVO)、アテゾリズマブ(TECENTRIQ)、アベルマブ(BAVENCIO)、デュルバルマブ(IMFINZI)、アベルマブ(BAVENCIO)、デュルバルマブ(IMFINZI)、またはイピリムマブ(YERVOY)である。
【0089】
いくつかの実施形態において、患者に由来する試料において腫瘍遺伝子変異量(TMB)およびヘテロ接合性消失(LOH)を判定する工程は、試料に由来する1つ以上のエクソームまたはその領域を配列決定することを含む。上に詳細に記載されるように、エクソーム配列決定は、例えば、アレイベースの捕捉および核酸の溶液内捕捉などの標的濃縮方法を含んでいてもよい。標識されたターミネーターまたはプライマーを使用するサンガー配列決定、ならびにスラブまたはキャピラリー系におけるゲル分離、ならびに次世代配列決定(NGS)を含む、任意の配列決定方法を使用することができる。例示的な次世代配列決定方法としては、Roche 454シーケンサ、Life Technologies SOLiDシステム、Life Technologies Ion Torrent、ならびにIlluminaシステム、例えば、Illumina Genome Analyzer II、Illumina MiSeq、Illumina Hi Seq、およびIllumina NovaSeq装置が挙げられる。
【0090】
腫瘍変異は、一般的に、TMBに寄与する。いくつかの実施形態において、腫瘍変異は、T細胞によって認識されるネオ抗原またはネオペピトープ(neopepitope)を含む。いくつかの実施形態において、ネオ抗原またはネオエピトープは、腫瘍抗原または腫瘍エピトープである。例示的な腫瘍抗原としては、変異したがん遺伝子の産物、産物または変異した腫瘍抑制因子、がん遺伝子または腫瘍抑制因子以外の変異した遺伝子の産物、がん原性ウイルスによって産生される腫瘍抗原、改変された細胞表面糖脂質および糖タンパク質、がん胎児抗原などが挙げられる。
【0091】
ネオ抗原またはネオエピトープは、免疫系によって以前に認識されたことがない新たに形成された任意の抗原またはエピトープであってもよい。したがって、ネオ抗原またはネオエピトープは、免疫系によって非自己として認識され、免疫応答を引き起こし得る。ネオ抗原およびネオエピトープは、例えば、上に詳細に記載するように、変異の結果として変化した腫瘍タンパク質から、またはウイルスタンパク質から生じ得る。いくつかの実施形態において、例えば、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、Epstein-Barrウイルス(EBV)、ヒトパピローマウイルス(HPV)、ヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV)、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)、メルケル細胞ポリオーマウイルス、または任意の他の腫瘍ウイルスからのウイルスタンパク質を含め、ウイルスタンパク質は、ネオ抗原またはネオエピトープを生じる場合がある。
【0092】
本明細書で使用される場合、「治療する」、「治療」、「療法」、「治療的」などの用語は、限定されないが、効果または症状を軽減すること、遅延させること、またはその進行を遅らせること、減らすこと、発症を防ぐこと、ある疾患または障害の発症を抑えること、改善すること、ある疾患、障害、または医学的状態に関して有益または望ましい結果、例えば、治療的利益および/予防的利益を得ることを含め、所望の薬理学的および/または生理学的効果を得ることを指す。「治療」は、本明細書で使用される場合、哺乳動物、特にヒトにおける疾患の任意の治療を包含し、(a)疾患にかかりやすいと前診断されているか、または疾患に罹患するリスクがあるが、まだかかっていると診断されていなくてもよい対象において、疾患が発生することを予防すること、(b)疾患を抑えること、すなわち、その発生を止めること、および(c)疾患を緩和すること、すなわち、疾患を逆行させることを含む。治療的利益は、治療される基礎障害の根絶または改善を含む。また、治療的利益は、対象が依然として基礎障害に罹患し得るにもかかわらず、対象において改善が観察されるように、基礎障害に関連する生理学的症状のうちの1つ以上の根絶または改善を伴って達成される。いくつかの場合において、予防的利益のために、治療または治療のための組成物は、特定の疾患を発症するリスクがある対象に、またはある疾患の生理学的症状のうちの1つ以上を報告する対象に、この疾患の診断がなされていない場合であっても、投与される。本開示の方法は、任意の哺乳動物または他の動物に使用され得る。いくつかの場合において、治療は、症状の減少または停止をもたらすことができる。予防的効果としては、ある疾患または状態の出現を遅延させるか、またはなくすこと、ある疾患または状態の症状の発生を遅延させるか、またはなくすこと、ある疾患または状態の進行を遅らせること、止めること、または逆行させること、あるいは任意のこれらの組み合わせが挙げられる。
【0093】
本明細書で使用される場合、「有効量」または「治療有効量」という用語は、本明細書で定義される意図した用途(限定されないが、疾患治療を含む)に影響を与えるのに十分な本明細書に記載のチェックポイント阻害剤または他の組成物の量を指す。治療有効量は、意図する治療用途(インビボ)、または治療される患者および疾患状態、例えば、患者の体重および年齢、疾患状態の重篤度、投与様式などに応じて変化してもよく、これは当業者によって容易に決定され得る。この用語は、標的細胞において特定の応答を誘発する用量にも適用される。特定の用量は、選択される特定のチェックポイント阻害剤または他の組成物、従うべき投薬レジメン、他の化合物と組み合わせて投与されるかどうか、投与のタイミング、それが投与される組織、およびそれが運ばれる物理的送達系に応じて異なる。
【0094】
本明細書で提供される治療方法には、任意のがんを治療することが含まれてもよい。例示的ながんとしては、上に詳細に記載したように、乳がん、膵臓がん、肺がん、黒色腫、造血がんおよび白血病、結腸がん、腎臓がん、頭頸部がん、脳がん、骨がん、卵巣がん、子宮頸がん、ならびに前立腺がんが挙げられる。さらに、本明細書に記載の任意の試料をTMBおよびLOHについて分析して、治療のために患者を選択することができる。
【0095】
計算デバイス
当業者が必要と認識するか、または最も適していると認識するように、本明細書で提供される方法の性能は、プロセッサ(例えば、中央処理装置(CPU)、グラフィックス処理装置(GPU)など)、コンピュータ可読記憶デバイス(例えば、メインメモリ、静的メモリなど)、またはバスを介して互いに通信するこれらの組み合わせのうちの1つ以上を含む1つ以上の計算デバイス、計算システム、またはコンピュータを含んでいてもよい。
【0096】
プロセッサとしては、当該技術分野で既知の任意の好適なプロセッサ、例えば、Intel(サンタクララ、カリフォルニア)によって商標XEON E7で販売されるプロセッサ、またはAMD(サニーベール、カリフォルニア)によって商標OPTERON 6200で販売されるプロセッサを挙げることができる。
【0097】
メモリは、好ましくは、本明細書に記載の機能をシステムに実行させるように実行可能な命令の1つ以上のセット(例えば、本明細書中に見出される任意の方法論もしくは機能を具現化するソフトウェア、または上に言及されるコンピュータプログラム)、データ(例えば、医薬データのソース画像、個人データ、または医薬のデータベース)、またはその両方を格納することが可能な少なくとも1つの有形の非一過性媒体を含む。コンピュータ可読記憶デバイスは、例示的な実施形態において、単一の媒体であってもよいが、「コンピュータ可読記憶デバイス」という用語は、命令またはデータを格納する単一の媒体または複数の媒体(例えば、集中型もしくは分散型のデータベース、および/または関連するキャッシュおよびサーバ)を含むと解釈すべきである。したがって、「コンピュータ可読記憶デバイス」という用語は、限定されないが、ソリッドステートメモリ(例えば、加入者識別モジュール(SIM)カード、セキュアデジタルカード(SDカード)、マイクロSDカード、またはソリッドステートドライブ(SSD))、光学媒体および磁気媒体、ならびに任意の他の有形記憶媒体を含むと解釈される。
【0098】
任意の適切なサービス、例えば、Amazon Web Services、計算システムのメモリ、クラウドストレージ、サーバ、または他のコンピュータ可読ストレージなどが格納のために使用され得る。
【0099】
本明細書で提供される方法の入力/出力デバイスは、ディスプレイユニット(例えば、液晶ディスプレイ(LCD)もしくはブラウン管(CRT)モニタ)、英数字入力デバイス(例えば、キーボード)、カーソル制御デバイス(例えば、マウスもしくはトラックパッド)、ディスク駆動ユニット、プリンタ、シグナル生成デバイス(例えば、スピーカ)、タッチスクリーン、ボタン、加速度計、マイクロフォン、携帯無線周波数アンテナ、ネットワークインターフェースデバイスのうちの1つ以上を含んでいてもよく、ネットワークインターフェースデバイスは、例えば、ネットワークインターフェースカード(NIC)、Wi-Fiカードもしくはセルラーモデム、またはそれらの任意の組み合わせであってもよい。
【0100】
当業者は、本明細書に記載の方法を実装するために任意の好適な開発環境またはプログラミング言語が用いられ得ることを認識するであろう。例えば、本明細書の方法は、Perl、Python、C++、C#、Java、JavaScript、Visual Basic、Ruby on Rails、Groovy and Grails、または任意の他の好適なツールを使用して実装され得る。モバイルデバイスについては、ネイティブのxCodeまたはAndroid Javaを使用することが好ましい場合がある。
【0101】
本明細書で使用される場合、「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という単数形は、文脈が別途明確に指示しない限り、複数の参照物を含む。したがって、例えば、「その方法(the method)」との言及は、1つ以上の方法、および/または本開示などを読めば当業者に明らかになる本明細書に記載の種類の工程を含む。
【0102】
量、時間的な持続などの測定可能な値を指す場合に本明細書で使用される「約」は、指定された値から±20%、または±10%、または±5%、またはさらに±1%の変動を、そのような変動が、開示されている方法にとって適しているとき、または開示されている方法を実施するために適しているときに、包含することを意味する。「約」という用語は、文脈によって明確に矛盾しない限り、「およそ」という用語と互換的に使用され得る。
【0103】
別に定義しない限り、本明細書で使用する全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解される意味と同一の意味を有する。
【0104】
本明細書で使用される場合、「タンパク質」という用語は、アミノ酸の任意の高分子鎖を指す。「ペプチド」および「ポリペプチド」という用語は、「タンパク質」という用語と互換的に使用され、アミノ酸の高分子鎖も指す。「タンパク質」という用語は、タンパク質配列の天然または人工のタンパク質、タンパク質断片およびポリペプチド類似体を包含する。タンパク質は、単量体または高分子であってもよい。「タンパク質」という用語は、文脈によって別段の矛盾がない限り、その断片および変異体(バリアントの断片を含む)を包含する。
【0105】
本明細書で使用される場合、「核酸」という用語は、任意のデオキシリボ核酸(DNA)分子、リボ核酸(RNA)分子、または核酸類似体を指す。DNAまたはRNA分子は、二本鎖または一本鎖であってもよく、任意のサイズを有していてもよい。例示的な核酸としては、限定されないが、染色体DNA、プラスミドDNA、cDNA、セルフリーDNA(cfDNA)、mRNA、tRNA、rRNA、siRNA、マイクロRNA(miRNAまたはmiR)、hnRNAが挙げられる。例示的な核酸類似体としては、ペプチド核酸、モルホリノおよびロックド核酸、グリコール核酸、およびスレオース核酸が挙げられる。
【0106】
本明細書で使用される場合、「患者」という用語は、本明細書で開示される方法が実施される任意の個体または対象を指す。「患者」という用語は、「個体」または「対象」という用語と互換的に使用され得る。当業者には理解されようが、患者は動物であってもよいが、患者はヒトであってもよい。したがって、げっ歯類(マウス、ラット、ハムスターおよびモルモットを含む)、ネコ、イヌ、ウサギ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ブタなどを含む農場動物、ならびに霊長類(サル、チンパンジー、オランウータンおよびゴリラを含む)などの哺乳動物を含む他の動物が、患者の定義に含まれる。
【0107】
本明細書で使用される場合、「試料」および「生体試料」という用語は、本明細書で提供される方法に好適な任意の試料を指す。本方法で使用される試料は、対象由来の組織試料もしくは体液、または生検手順(例えば、針生検)もしくは外科的手順によって得られる組織から得ることができる。特定の実施形態において、本方法の生体試料は、例えば、体液、例えば、脳脊髄液(CSF)、血液、血清、血漿、尿、唾液、涙、および腹水の試料である。体液の試料は、当業者に既知の任意の好適な方法によって収集され得る。
【0108】
以下の特許出願は、本発明の背景となる教示を提供し、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。PCT/US2017/052908、PCT/US2015/062208、PCT/US2017/038942、PCT/US2017/056557、PCT/US2018/013637、PCT/US2016/042288、US20180064793A1、US20180251553A1、US20170016075A1、EP3288581A1およびEP3347039A1。
【実施例】
【0109】
実施例の材料および方法
腫瘍細胞と正常細胞の混合物からなる不均一な試料において、腫瘍画分におけるヘテロ接合性消失(LOH)によって影響を受ける領域中のヘテロ接合性部位は、一般に、例えば、予想される50%の対立遺伝子頻度(AF)ではなく、50%を超えるAFを有するものとして報告される。理論に限定されるものではないが、HLAは、一般的な集合体における高い変動性に起因して、ハイブリッドキャプチャを介して配列決定することが著しく困難である。本明細書で提供される方法は、LOHの検出のためにHLAクラスIの近傍のヘテロ接合性部位についての50%AF値からの偏差を利用することによって、この困難を回避する。
【0110】
理論に限定されるものではないが、LOHを有する領域中のヘテロ接合性部位の実際のAFは、腫瘍細胞の割合によって表されるような試料の腫瘍純度に応じて変化する。例えば、高い腫瘍純度を有する試料は、50%よりも相対的に高い偏差を有するAFを有し、低い腫瘍純度を有する試料は、一般に、相対的に低い偏差を示す。対立遺伝子頻度は、対立遺伝子に特異的なコピー数変化によっても影響を受ける場合がある。本明細書で提供される方法は、試料の腫瘍純度推定値および潜在的なコピー数変化に基づく補正および正規化を適用して、HLAクラスI上のLOHの検出精度を高める。
【0111】
開発されたアルゴリズム(例えば、以下の実施例1)の精度を評価するための基準セットは、226個の非小細胞肺がん(NSCLC)のホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)標本および対応するマッチした正常試料からエクソームデータを配列決定し、分析することによって定義された。このアルゴリズムを、PGDx elio(商標)tissue completeアッセイ(PGDxETC)(500を超える遺伝子を標的とし、1.3Mbを包含する)を用いてトレーニングし、同じアッセイにおいて、TMBおよび潜在的な抗原提示(MHCのLOH)を測定した。226個の試料のうち20個をトレーニングに使用した。残りの206個の試料を用い、結果を検証した。
【0112】
実施例1
この実施例は、TMBおよびLOHの分析のためのアルゴリズムの訓練について説明する。
【0113】
上(材料および方法)に記載したように、500個を超える遺伝子を標的とする組織ベースのゲノムプロファイリングアッセイであるPGDx elio(商標)tissue completeアッセイを使用し、MHCクラスIのLOH(MHCのLOH)を判定するためのアルゴリズムを開発した。このアルゴリズムの精度を評価するための基準セットは、226個の非小細胞肺がん(NSCLC)のホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)標本および対応するマッチした正常試料からエクソームデータセットを配列決定し、分析することによって定義された(
図2Aおよび
図2B)。
【0114】
このアルゴリズムを、最初に、226個の試料のうち20個のサブセットについてPGDx elio tissue completeを用いてトレーニングし、次いで、残りの206個の試料と関連するデータを用いて検証した。
【0115】
このデータは、6番染色体(MHC)、10番染色体、12番染色体(長腕のみのLOH)、15番染色体(B2M)、18番染色体、19番染色体、および21番染色体のLOHが、同じ個体由来の腫瘍試料および正常試料のエクソーム配列決定によって報告された多型部位の対立遺伝子頻度の分析によって検出されたことを示す。
【0116】
実施例2
この実施例は、WESとPGDx elio(商標)tissue completeとの間のLOH-MHC検出の相関関係を記載する。
【0117】
PGDx elio(商標)tissue completeによって報告されるMHCの予測LOHと、同じ試料のエクソーム配列決定に基づいて観察されたMHCのLOHとの間の一致を以下の表2に示す。
【0118】
(表2)WESとPGDx elio(商標)tissue completeとの間のLOH MHC検出の相関関係(206個の試料)
【0119】
PGDx elio(商標)tissue completeは、MHCのLOHを判定する際に、206個のNSCLC試料のエクソームベースの配列分析の基準セットと全体的に88%一致していた(表2)。腫瘍純度が35%を超える試料(n=86)のみを考慮すると、全体的な一致は94%まで増加した。PPA:陽性一致率、NPA:陰性一致率、OPA:全体的な一致率、CI:信頼区間。
【0120】
78個のNSCLC試料の分析の結果および78個の試料の腫瘍純度の分布をそれぞれ表3および
図3A~Bに示す。
【0121】
(表3)WESとPGDx elio(商標)tissue completeとの間のLOH MHC検出の相関関係(78個の試料)
【0122】
PGDx elio(商標)tissue completeは、MHCのLOHを判定する際に、78個のNSCLC試料のエクソームベースの配列分析の基準セットと全体的に88%一致していた(表3)。腫瘍純度が35%を超える試料(n=31)のみを考慮すると、全体的な一致は97%まで増加した。PPA:陽性一致率、NPA:陰性一致率、OPA:全体的な一致率、CI:信頼区間。
【0123】
全エクソーム配列決定とPGDx elio(商標)tissue completeとの間のMHC状態について評価された78個の試料にわたる腫瘍純度の分布を
図3Aに示す。
図3Bは、誤ったMHC状態が割り当てられた症例間の腫瘍純度の分布を示す。MHCのLOH(表3)の偽陽性(3例)および偽陰性(6例)は、低い腫瘍純度と関連があった。より具体的には、腫瘍純度が35%未満の標本において、不一致が観察された。
【0124】
これらのデータは、WESとPGDx elio(商標)completeとの間のLOH-MHC検出の相関関係を示す。
【0125】
実施例3
この実施例は、NSCLC患者における臨床転帰に対するTMBおよびMHC状態のin silicoでの相関関係を記載する。
【0126】
TMBが、チェックポイント阻害剤療法に対する応答性の予測因子として、腫瘍がこれらの推定ネオ抗原を提示する能力と共に考慮されるべきであるという仮説を次に評価した。PGDx elio(商標)tissue completeの結果を、入手可能なWESデータを有する公開されたNSCLCコホートおよびチェックポイント阻害剤治療に対する患者の転帰結果から、in silicoでシミュレーションした(Rizvi NA,et al.Mutational landscape determines sensitivity to PD-1 blockade in non-small cell lung cancer.Science.2015 Apr 3;348(6230):124-8)。患者を、TMB低(エクソームあたり120個以下の変異、左から1番目、濃灰色)およびTMB高(エクソームあたり120個を超える変異)に、ならびに正常MHC(左から3番目、黒色)またはMHCのLOH(左から2番目、淡灰色)のいずれかに階層化した(
図4)。TMB高かつ正常MHCの患者(左から3番目、黒色)は、TMB高であるがLOH MHCの患者(左から2番目、淡灰色)およびTMB低の患者(左から1番目、濃灰色)よりも良好な応答を有していた。TMB高であるがMHCのLOHを有する患者は、TMB低の症例と同様の生存率パターンを示し、後者は、チェックポイント阻害剤治療に対してレスポンダーである可能性が低いとみなされた。
【0127】
図4に示す結果は、同じNGSアッセイにおいてTMBを測定し、潜在的な抗原提示を評価することが可能であるという仮説を確認するものであった。理論に限定されるものではないが、MHCクラスI遺伝子の変異およびヘテロ接合性消失(LOH)によって引き起こされる抗原提示の消失は、CD8+T細胞破壊を回避する一般的な手段であることが示されているため、MHC状態を監視することによって、応答性を予測するためのTMBの有用性を強化し得る。
【0128】
全エクソーム配列決定によって分析され、そのためのチェックポイント阻害剤療法(ペムブロリズマブ)の転帰が公的に入手可能である34個のNSCLC試料の上述のパネルについて(Rizvi NA,et al.Mutational landscape determines sensitivity to PD-1 blockade in non-small cell lung cancer.Science.2015 Apr 3;348(6230):124-8)、PGDx elio(商標)tissue completeパネルは、PGDx elio(商標)tissue completeパネル中に存在しないエクソーム由来の領域を除去することによってシミュレーションされた。本発明の方法は、正常なMHCクラスI遺伝子を有する高TMB患者と比較して、MHCクラスI遺伝子のLOHを有する高TMB患者において、無増悪生存期間(PFS)がより短くなることを示している(例えば、
図2~4および表2~3を参照)。したがって、PGDx elio(商標)tissue completeパネルを用いた現在のTMB試験に、抗原提示複合体の2つの遺伝子(MHCクラスIおよびB2M)のNGS分析を加えることで、ペムブロリズマブおよびニボリムマブを含むがこれらに限定されないチェックポイント阻害剤を用いた治療について検討されるがん患者のより良い転帰予測を提供する。
【0129】
まとめると、TMB-低(エクソームあたり120個以下の変異)患者またはTMB-高であるがMHCのLOHが予測された患者は、高TMBであり、インタクトなMHCを有する患者よりも転帰が不良であり、高いハザード比を有していた(7.9、CI95% 1.3~49)。190名のがん患者の試験は、腫瘍含有量が20%以上であるFFPE組織試料において、MHCクラスIのLOHを88%の精度で検出することができることを示した。これらの結果は、患者の転帰を予測するためのTMBと抗原提示の可能性を組み合わせた評価の使用を裏付けている。したがって、高い遺伝子変異量を有する患者は、MHC状態に応じて、免疫療法に対する異なる応答を有する場合がある(表4)。
【0130】
(表4)MHCの状態による、免疫チェックポイント阻害剤療法に対するレスポンダーの可能性の予測
【0131】
理論に限定されるものではないが、本願発明者らは、予想されないことであったが、このような小さな試料セット(n=34)における生存率の差をみるために非常に強い生物学的効果があるようにみえることを見出した。全エクソーム配列決定を用いて、このような結果をみることは可能であろう。しかしながら、制限された遺伝子セットのみ、例えば、HLAクラスI遺伝子の周囲の6p21中の71のROIのみを有するPGDx elio(商標)tissue complete試験を使用して、遺伝子が十分に近いかどうか、または遺伝子が、MHCクラスI遺伝子自体を含むように507の遺伝子パネルを再設計する必要があるかどうかは不明であり、予測不可能であった。一態様において、MHCクラスI遺伝子をPGDx elio(商標)tissue complete試験中の507の遺伝子(または任意の他の遺伝子パネル)に追加することができるか、またはLOH検出に新規な機械学習アプローチを潜在的に適用することができる。
【0132】
まとめると、このデータは、PGDx elio(商標)tissue completeがTMBを測定し、開発中の単一の次世代配列決定産物中の抗原提示に関与する遺伝子を評価する能力を示している。このデータは、さらに、TMBおよびMHC状態が、in silicoでNSCLC患者の臨床転帰と相関関係にあったことを示している。理論に限定されるものではないが、これらのデータは、例えば、治療レジメンを決定し、チェックポイント阻害剤療法などの免疫療法を用いた治療のために患者を選択するために、MHCのLOHによって測定される推定ネオ抗原を腫瘍が提示する能力と共にTMBを考慮することを裏付けている。
【0133】
実施例4
この実施例は、がんにおけるTMBおよび抗原提示複合体の体細胞変化の分析について記載する。
【0134】
限定されないが、乳がん、膵臓がん、肺がん、黒色腫、造血がん、白血病、結腸がん、腎臓がん、頭頸部がん、脳がん、骨がん、卵巣がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、および前立腺がんを含むがん由来の試料を、上の実施例1~3に記載されるアルゴリズムおよびPGDx elio(商標)tissue completeアッセイを使用して分析する。ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織または当該技術分野で既知の任意の他の方法によって保存された組織を含む、新鮮な組織試料および凍結乾燥または保存された組織試料の両方を分析することができる。
【0135】
MHCクラスIおよび/またはB2M遺伝子座におけるTMBおよびLOHの測定結果の組み合わせを用いて、チェックポイント阻害剤療法などの免疫療法に対する応答性を判定する。例えば、MHCクラスIおよび/またはB2M遺伝子座において高いTMBを示し、かつLOHが存在しないかまたは異常が存在しないがん試料は、チェックポイント阻害剤療法などの免疫療法に対する正の応答性を示す。したがって、試料を採取した患者は、レスポンダーである可能性が高く、チェックポイント阻害剤療法を含む免疫療法を受けるように選択されることができる。試料が低いTMBを示しかつLOHが存在しない(すなわち、MHCクラスIおよび/またはB2M遺伝子座に異常がない)患者、および低TMBまたは高TMBのいずれかの状況で試料がMHCクラスIおよび/またはB2M遺伝子座においてLOHまたは異常を示す患者は、チェックポイント阻害剤療法などの免疫療法に対するレスポンダーである可能性が低い。したがって、これらの患者は、チェックポイント阻害剤療法などの免疫療法に関して選択されない場合があるが、他の治療レジメンに関して選択されてもよい。
【0136】
まとめると、本明細書で提供される方法を使用して、治療レジメンに対する患者の応答を予測し、がんの治療のための治療レジメンを選択し、免疫療法を用いた治療のために患者を選択することができる。
【0137】
実施例5
この実施例は、PGDx elio(商標)complete(Wolverine)を用いたヘテロ接合性消失(LOH)の試験を示す。
【0138】
理論に限定されるものではないが、MHCクラスIおよびβ2M遺伝子のLOHは、腫瘍細胞によるネオ抗原提示を防ぐことによる免疫療法に対する耐性と関連付けられる。PGDx elio(商標)complete((Wolverine)パネルが染色体6p21上のMHCクラスI遺伝子のLOHを信頼性高く検出することができたかどうかを、以下にさらに記載するように試験した。さらに、腫瘍遺伝子変異量(TMB)と組み合わせたMHCクラスI遺伝子のLOH状態の分析が、例えば、ペンブロリズマブ(KEYTRUDA)、ニボルマブ(OPDIVO)、アテゾリズマブ(TECENTRIQ)、アベルマブ(BAVENCIO)、デュルバルマブ(IMFINZI)、またはイピリムマブ(YERVOY)などのチェックポイント阻害剤を用いて治療されたがん患者の転帰予測を改善するかどうかを評価した(例えば、上の実施例3および4)。
【0139】
母系および父系のMHC遺伝子の単一変異および二重変異の効果を
図5に示す。母系および父系のMHC対立遺伝子の両方の変異は、MHC提示の消失を引き起こす。LOH試験のためのヘテロ接合性と対立遺伝子頻度との間の相関関係を
図6に示す。ヘテロ接合性を使用して、染色体領域の消失を確認することができる。ヘテロ接合性は、対立遺伝子頻度に正比例し、遺伝子座あたり0.0~0.5の変動性を有する。理論に限定されるものではないが、LOHは、二倍体細胞内で偶然発生することは不可能な連続したホモ接合性の存在によって推測することができる。例えば、長期にわたるホモ接合性は、隣接する一塩基多型(SNP)におけるホモ接合性の分布機会に起因するよりも、染色体領域の体細胞消失に起因する可能性が高い。
【0140】
染色体6p21上のMHC領域を
図7に示す。6番染色体の28、510、120~33、480、577の領域は、全てまたはほぼ全てのHLA遺伝子、例えば、表5に示されている例示的な遺伝子に及んでいる。
【0141】
(表5)6番染色体の28、510、120~33、480、577の領域は、全て/大部分のHLA遺伝子に及んでいる。
【0142】
初期の分析において、調査された領域の長さは、4,970,457Mb(約5Mb)に広がっていた。合計102個の試料を評価した。エクソーム分析の場合、この領域内の重複していないエクソンの数は、1750であった。この領域内のエクソンの全長は、約727kb(約14%)であった。エクソームデータ中の調査されたヘテロ接合性部位の数は、1217であった。PGDx elio(商標)complete((Wolverine)パネルを使用した分析の場合、領域内の関心対象領域(ROI)の数は、71であった。この領域内のROIの全長は、約19kb(約0.4%)であった。これらのROI中の調査されたヘテロ接合性部位の数は、52であった。PGDx elio(商標)complete(Wolverine)パネルを使用してLOHの検出を評価するために、スペクトルの2つの末端で選択された試料を
図8に示す。
【0143】
図9Aおよび
図9Bは、同じ試料のエクソームデータによる、PGDx elio(商標)complete(Wolverine)を用いて得られたLOHシグナルの確認を示す。ヘテロ接合体(0448)およびホモ接合体(0426)としてPGDx elio(商標)complete(Wolverine)によって特定された試料を示す。
図9Aに示すプロットは、試料0048をヘテロ接合体として確認した全エクソーム配列決定(WES)データを示す。
図9Bに示すプロットは、試料0426をホモ接合体として確認した全エクソーム配列決定(WES)データを示す。したがって、WESデータは、PGDx elio(商標)complete(Wolverine)を用いて作成されたLOH呼び出しを確認した。
【0144】
図10Aおよび
図10Bは、試料PGRD00426中のMHCのLOHが、WESによって確認されるように、腫瘍分率に特異的であったことを示す。PGDx elio(商標)complete(Wolverine)を使用し、WESによって確認された腫瘍試料中のLOH呼び出し(
図10A)は、同じ患者由来のマッチング正常試料中には見出されなかった(
図10B)。これらの結果は、LOHが腫瘍特異的であることを確認するものであった。
【0145】
まとめると、これらのデータは、PGDx elio(商標)complete(Wolverine)が、MHCクラスI遺伝子クラスターの染色体6pでLOHを報告し、6番染色体全体の消失を報告することができることを示す。MHC遺伝子クラスターにおける上述の52のSNPを用いた分析は、エクソームデータと良好な一致を示した。理論に限定されるものではないが、PGDx elio(商標)complete(Wolverine)にLOH検出を追加すると、上に詳細に記載したように(例えば、実施例3~4)、クラス免疫療法応答の予測において最良のものを提供し、本明細書で提供されるTMB試験のための方法を、他の方法と明確に区別する。
【0146】
理論に限定されるものではないが、PGDx elio(商標)complete(Wolverine)を用いたLOH MHCの検出は、例えば、より精密化されたアルゴリズムを用いて改善することができる。一例として、評価されるSNPの数は、分析される領域を拡大することによって、拡大することができる。理論に限定されるものではないが、ほとんどのLOH症例は、6番染色体の片方の腕の消失または完全な消失に起因するものであるため、このような拡大が可能である。さらに、コピー数変化(CNV)および腫瘍純度の推定値を含んでいてもよい。これに加えて、PGDx elio(商標)complete(Wolverine)を用いてLOHを呼び出すためのより良好なカットオフは、標準としての腫瘍エクソームデータのLOHに基づいて定義することができる(例えば、TMB試験で使用される試料について)。
【0147】
本発明は、上記の実施例を参照して説明されてきたが、修正および変形が、本発明の趣旨および範囲内に包含されることが理解されるであろう。したがって、本発明は以下の特許請求の範囲によってのみ限定される。