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特許7623296R-10-ヒドロキシオクタデカン酸に基づく金属石けん及び金属複合石けんを含む潤滑グリース
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】R-10-ヒドロキシオクタデカン酸に基づく金属石けん及び金属複合石けんを含む潤滑グリース
(51)【国際特許分類】
   C10M 117/04 20060101AFI20250121BHJP
   C10M 117/02 20060101ALI20250121BHJP
   C10M 113/08 20060101ALI20250121BHJP
   C10M 113/12 20060101ALI20250121BHJP
   C10M 119/24 20060101ALI20250121BHJP
   C10M 119/22 20060101ALI20250121BHJP
   C10N 10/02 20060101ALN20250121BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20250121BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20250121BHJP
   C10N 10/06 20060101ALN20250121BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20250121BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20250121BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20250121BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20250121BHJP
   C10N 30/02 20060101ALN20250121BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20250121BHJP
【FI】
C10M117/04 ZHV
C10M117/02
C10M113/08
C10M113/12
C10M119/24
C10M119/22
C10N10:02
C10N10:04
C10N50:10
C10N10:06
C10N40:02
C10N40:04
C10N40:00 D
C10N30:08
C10N30:02
C10N20:02
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2021563384
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-30
(86)【国際出願番号】 DE2020100338
(87)【国際公開番号】W WO2020216417
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】102019110921.3
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】505448774
【氏名又は名称】フックス エスエー
【氏名又は名称原語表記】FUCHS SE
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】リッテルス,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ハーン,フローリアン
(72)【発明者】
【氏名】ルター,ロルフ
(72)【発明者】
【氏名】ウルバン,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ロッベン,アンジェラ
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-123954(JP,A)
【文献】特開2003-201492(JP,A)
【文献】特開昭62-275197(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03461901(EP,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1556362(KR,B1)
【文献】国際公開第2018/113850(WO,A2)
【文献】特開2010-248442(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0270646(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも1つの基油と、
(b)少なくとも1つの添加剤と、
(c)少なくとも1つの増粘剤とを含み、
前記少なくとも1つの増粘剤は、少なくとも1つのアルカリ又はアルカリ土類金属イオン又はその両方、及びC16~C18の脂肪酸から形成された少なくとも1つのカルボキシレートから構成された、金属石けん又は金属複合石けん又はその両方であり、前記C16~C18の脂肪酸は少なくともR-10-ヒドロキシオクタデカン酸を含み、前記10-ヒドロキシオクタデカン酸は、R異性体に対する鏡像体純度が80重量%を超え、
前記C16~C18の脂肪酸は、50重量%を超える10-ヒドロキシオクタデカン酸からなり、
(a)55~98重量%の前記基油、
(b)0.5~40重量%の前記添加剤、及び
(c1)1.5~25重量%の前記金属石けん、又は
(c2)0.1~20重量%の錯化剤を含む、1.5~40重量%の前記金属複合石けん、又は
(c3)1.5~25重量%の前記金属石けんと、0.1~20重量%の前記錯化剤を含む、1.5~40重量%の前記金属複合石けんとの両方を含む、潤滑グリース組成物。
【請求項2】
(i)前記C16~C18の脂肪酸は、80重量%を超える10-ヒドロキシオクタデカン酸からなる、又は、
(ii)前記10-ヒドロキシオクタデカン酸は、R異性体に対する鏡像体純度が、90重量%を超える又は、上記(i)及び(ii)の両方を満たす、請求項1に記載の潤滑グリース組成物。
【請求項3】
前記C16~C18の脂肪酸は、0.5重量%を超えるヘキサデカン酸を含む、請求項1又は2に記載の潤滑グリース組成物。
【請求項4】
前記C16~C18の脂肪酸は、0.2重量%を超えるヒドロキシヘキサデカン酸を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の潤滑グリース組成物。
【請求項5】
前記C16~C18の脂肪酸は、0.2重量%を超えるオクタデカン酸を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の潤滑グリース組成物。
【請求項6】
前記C16~C18の脂肪酸は、0.2重量%を超えるオクタデセン酸を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の潤滑グリース組成物。
【請求項7】
前記C16~C18の脂肪酸は、0.2重量%を超えるオクタデカジエン酸を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の潤滑グリース組成物。
【請求項8】
前記C16~C18の脂肪酸は、1重量%未満の12-ヒドロキシ-9-オクタデセン酸を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の潤滑グリース組成物。
【請求項9】
前記C16~C18の脂肪酸は、1重量%未満の12-ヒドロキシオクタデカン酸を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の潤滑グリース組成物。
【請求項10】
前記C16~C18の脂肪酸は、対応する不飽和のC16~C18の脂肪酸の酵素変換から得られる、ヒドロキシ置換したC16~C18の脂肪酸を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の潤滑グリース組成物。
【請求項11】
前記C16~C18の脂肪酸は、少なくとも1つの酵素変換を含む、食用の脂肪から得られる、請求項1~10のいずれか1項に記載の潤滑グリース組成物。
【請求項12】
前記金属石けん又は金属複合石けんは、
- リチウム石けん若しくはリチウム複合石けん、又は
- リチウム/カルシウム石けん若しくはリチウム/カルシウム複合石けんである、請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記錯化剤は、
(i)それぞれの場合に任意で置換した、
(a)2~8個の炭素原子を有する飽和若しくは不飽和モノカルボン酸若しくはヒドロキシカルボン酸の、若しくは
(b)2~16個の炭素原子を有するジカルボン酸のアルカリ若しくはアルカリ土類塩若しくはその両方、又は、
(ii)ホウ酸若しくはリン酸のアルカリ若しくはアルカリ土類塩、若しくは、アルカリ若しくはアルカリ土類水酸化物のホウ酸若しくはリン酸のエステルとの反応生成物、又は、
(iii)2~32個の炭素原子を有する、分岐のない又は分岐したアルキル基をもつホウ酸又はリン酸のエステル、又は、
(iv)上記(i)~(iii)の混合物から選択される、請求項1~12のいずれか1項に記載の潤滑グリース組成物。
【請求項14】
前記組成物は、
(a)70~95重量%の前記基油、
(b)2~20重量%の前記添加剤、及び
(c1)3~10重量%の前記金属石けん、又は
(c2)0.1~10重量%の前記錯化剤を含む、1.5~40重量%の前記金属複合石けん、又は
(c3)3~10重量%の前記金属石けんと、0.1~10重量%の前記錯化剤を含む、1.5~40重量%の前記金属複合石けんとの両方を含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
前記潤滑グリース組成物は、任意で錯化剤を含む、10~15個及び/又は19~24個の炭素原子を有する、飽和又は不飽和モノカルボン酸又はヒドロキシカルボン酸のさらなる金属石けん又はさらなる金属複合石けんを含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の潤滑グリース組成物。
【請求項16】
前記潤滑グリース組成物は、アルミノシリケート、アルミナ、疎水性及び親水性シリカ、ポリマー、ジ/ポリ尿素、ジ/ポリ尿素ポリウレタン、及びPTFEの群の1つ以上の成分から選択される補助増粘剤をさらに含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の潤滑グリース組成物。
【請求項17】
前記組成物は、ISO2137に従って測定される、210~475mm/10(25℃において)の混和稠度としての円錐稠度値を有する、請求項1~16のいずれか1項に記載の潤滑グリース組成物。
【請求項18】
前記基油は、40℃で、14~2500mmsの動粘度を有する、請求項1~17のいずれか1項に記載の潤滑グリース組成物。
【請求項19】
前記添加剤は、
酸化剤、
圧力添加剤、
- C2~C6ポリオール、脂肪酸、脂肪酸エステル、又は動物性若しくは植物性油、
腐食剤、
属不活性剤、
性促進剤、
耗保護添加剤、
擦調整剤、及び
体潤滑剤、の群から選択される1つ以上の成分を含む、請求項1~18のいずれか1項に記載の潤滑グリース組成物。
【請求項20】
車、等速ジョイントシャフト、すべり軸受ころ軸受、摺動ガイド、スピンドル駆動部、リニア駆動部、又はボールねじを潤滑するための、請求項1~19のいずれか1項に記載の潤滑グリース組成物の使用。
【請求項21】
舵システム、サンルーフ、窓昇降装置、サイドミラー調節装置、ドア錠、又はシャーシホイール軸受を潤滑するための、請求項1~19のいずれか1項に記載の潤滑グリース組成物の使用。
【請求項22】
気モーター軸受を潤滑するための、請求項1~19のいずれか1項に記載の潤滑グリース組成物の使用。
【請求項23】
(a)少なくとも1つの基油と、
(b)少なくとも1つの添加剤と、
(c)少なくとも1つの増粘剤とを合わせることによって、請求項1~19の少なくとも1項に記載の潤滑グリース組成物を調製する方法であって、前記少なくとも1つの増粘剤は、アルカリ又はアルカリ土類金属イオン及びR-10-ヒドロキシオクタデカン酸から構成された、金属石けん又は金属複合石けんであり、前記金属石けん又は金属複合石けんは、少なくとも170℃に加熱しながら前記基油中で調製され、前記添加剤は、100℃より低く冷却した後に添加される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R-10-ヒドロキシオクタデカン酸に基づくアルカリ金属石けん及び/又はアルカリ土類金属石けん、及び金属複合石けんに基づく潤滑グリース、並びにそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの技術用途又は摩擦システムにおいて、可動部品の接触面において摩擦及び摩耗を低減するため潤滑剤を使用することは重要である。用途に応じて、様々な粘稠度の潤滑剤が使用可能である。潤滑油は、液体の流動可能な粘稠度を有する一方、潤滑グリースは、半固体から固体の、多くの場合ゲルのような、粘稠度を有する。潤滑グリースは、液状油成分が増粘剤成分に取り込まれて保持されていることにより特徴づけられる。潤滑グリースのペースト状の性質、及び分散可能且つ容易に塑性変形可能な特性は、付着性の特性と併せて、潤滑グリースが潤滑点を湿潤にすること、及び潤滑効果が摩擦学的応力をかけた表面において生じることを確実にする。
【0003】
潤滑グリースは一般に、基油に均質に分散した増粘剤を含有する。増粘剤が基油中に安定的に分散することを確実にするため、多くの場合、乳化剤などのさらなる添加剤を用いる。基油として、多岐にわたる物質が知られている。有機化合物及び無機化合物を増粘剤として使用する。さらに、とりわけ摩耗保護性、摩擦特性、経時安定性、及び腐食保護性を向上させるため、多くの場合、添加剤を潤滑グリースに添加する。
【0004】
潤滑グリースの最も重要な粘弾特性は、流動点及びせん断粘度を含む。特に弾性流体力学的潤滑(EHL)が高摺動速度又は高回転速度にて存在するとき、双方とも、グリース潤滑駆動部又は軸受装置の効率に大きく影響する。特に低い適用温度において、流動点及びせん断粘度が、グリース潤滑部品及び集積部のいわゆるブレイクアウェイトルク及び回転トルクに大きく影響する。
【0005】
グリースは、自動車及び航空宇宙産業において潤滑目的で広く用いられている。これには、油と比較して、設計及びメンテナンスの観点から数多くの利点がある。したがって、これは、油による潤滑が不適切な乗用車や航空機における多数の可動部品の潤滑に用いられる。
【0006】
また、潤滑グリースの粘弾特性は不利点もあり、これは特に極めて低い温度で潤滑部品を動作させるときに見受けられる。おおむね冷えた車両(冬季、北極地方)を始動させると、操舵システム、サンルーフ、窓昇降装置、サイドミラー調節装置、又はドア錠などのグリース潤滑車両部品を手動で動作させる必要がある、又は低いサーボ電気駆動力で動作させるときに、「ブレイクアウェイトルク」が特に目立つ。したがって、自動車産業では、潤滑グリースは少なくとも-40℃の温度まで通常確実に機能する必要がある。航空機産業では、潤滑グリースは、-54℃もの低い温度で、一部の場合にはさらに-73℃もの低い温度で確実に機能する必要がある。航空機が長時間高高度にあり、着陸装置が極めて低い温度に曝されていても、着陸装置における車輪軸受の潤滑グリースは、着陸時正常に機能する必要がある。航空機の潤滑グリースの「ブレイクアウェイトルク」は、所定の値を超えてはならない。
【0007】
多くの場合、歯車、すべり軸受又はころ軸受、及び他のすべての種類の摩擦学的ペアリングなどのグリース潤滑部品の最大トルク設計は、潤滑に用いる潤滑グリースの品質よって決まる。低温における低い流動点及びせん断粘度により、ブレイクアウェイトルク及び回転トルクが低下し、設計者は比較的低い駆動力を有する集積部を選ぶことができる。これは、電気駆動部を用いる車両、例えばハイブリッド車両又は完全に電気の車両において特に重要な役割を果たす。より低い適用温度、例えば-40℃において特に低い付着性及び摺動摩擦性を有する潤滑グリースを用いることで、始動トルク及び回転トルクの低下により、電気駆動力及び電気の需要が少なくなり、これは一方で電池駆動車両の走行距離を延ばし、他方で断面積がより小さい電力ケーブルの使用を可能にして、車載供給システムにおける重量を小さくする。
【0008】
潤滑要件及び機器要件に応じて利用価値の高い潤滑グリースを作製するため、高度な実際の経験が必要とされる。
【0009】
ヒドロキシオクタデカン酸、特に12-ヒドロキシオクタデカン酸(12-ヒドロキシステアリン酸)は、金属石けんグリース、特にリチウム石けんグリース及びリチウム複合石けんグリースの製造に先般より用いられている脂肪酸である。12-ヒドロキシオクタデカン酸又はそのエステル若しくはトリグリセリドの出発物質は、リシノール酸((9Z,12R)-12-ヒドロキシ-9-オクタデセン酸)及びそのトリグリセリド、つまりヒマシ植物から主に得られるいわゆるヒマシ油である。この目的で、不飽和ヒドロキシ脂肪酸のリシノール酸又はそのトリグリセリドは、水素付加により飽和ヒドロキシ脂肪酸に変換されて、貯蔵において安定性にし、その熱安定性を高める。現在のところ、10-ヒドロキシオクタデカン酸などの他のヒドロキシオクタデカン脂肪酸は、実際に用いられることなく知的財産権において付加的に頻回引用されているものの、ほとんど技術的重要性がない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
先行技術の不利点及び本発明の目的
特に12-ヒドロキシオクタデカン酸に基づくリチウムグリースの製造において、また他の金属石けんグリースの製造においても、所望の粘稠度を得るため、比較的高い含有量の金属石けんが増粘剤として必要とされる。これは、そうした潤滑グリースが転がり軸受及び歯車用途又は他のグリース潤滑摩擦システムにおいて摩擦損失を増加させ得ることを意味する。本発明の目的は、効率及び低温での特性に関して上述の不利点を極力少なくすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の概要
この目的は、独立請求項の事項によって達成される。好ましい実施態様は、従属請求項の事項であるか、又は以下で説明される。
【0012】
本発明における潤滑グリース組成物は、
(a)少なくとも1つの基油と、
(b)少なくとも1つの添加剤と、
(c)少なくとも1つの増粘剤とを含有し、該少なくとも1つの増粘剤は、少なくとも1つのアルカリ及び/又はアルカリ土類金属イオン並びに少なくとも1つのカルボキシレートから形成された、金属石けん及び/又は金属複合石けんであるか、又はそれらを含み、該カルボキシレートはC16~C18の脂肪酸から構成され、該C16~C18の脂肪酸は少なくとも1つの10-ヒドロキシオクタデカン酸(R-10-ヒドロキシステアリン酸)を含み、該10-ヒドロキシオクタデカン酸は、R異性体に対する鏡像体純度が80重量%を超え、好ましくは90重量%を超え、特に98重量%を超え、金属複合石けんは、使用する場合、錯化剤を含む(以下、手短に、本発明において使用する金属石けん及び/又は金属複合石けん)。
【0013】
驚いたことに、酵素的に製造し、鏡像体純度が80%を超えるR-10ヒドロキシオクタデカン酸が、特に良好な増粘性能を示す(100%=R異性体及びS異性体の合計)ことが分かっている。同じ基油及び添加剤マトリックスにおいて、このように製造したR高含有量の10-ヒドロキシオクタデカン酸が、例えば12-ヒドロキシオクタデカン酸のものより50%を超えて良好な増粘効果を明らかに示した。
【0014】
10-ヒドロキシオクタデカン酸(10-ヒドロキシステアリン酸、CAS638-26-6)は、G.SchroepferによってBiological Chemistry(1966)、241(22)に既に掲載されているように、酵素的に製造可能である。R形態及びS形態の双方を潤滑グリース製造に使用可能である。
【0015】
R形態の構造形態は、以下のとおりである。
【化1】
【0016】
酵素変換の基質は、圧倒的に(9Z)-オクタデカ-9-エン酸(オレイン酸)であり、これは、例えば92%を超える(9Z)-オクタデカ-9-エン酸純度の国産の「高オレイン」ヒマワリ油から、また60%を超える(9Z)-オクタデカ-9-エン酸純度の工業グレードから、製造可能である。品質における副生成物は、例えばヘキサデカン酸(パルミチン酸)、ヘキサデセン酸(パルミトレイン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、又は、リノール酸((9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン酸)若しくはリノレン酸((9Z,12Z,15Z)-オクタデカ-9,12,15-トリエン酸)などの多価不飽和脂肪酸である。
【0017】
この酵素的方法の一利点は、国産の飼料原材料を使用し、国産の出発物質原料を含むようにサプライチェーンを拡張することである。「高オレイン」ヒマワリ油に加え、例えば、10-ヒドロキシオクタデカン酸の製造に、不飽和C18酸又はエステルを含有する高炭素廃棄物を使用することが可能である。具体的に、高炭素廃棄物を、一方で酵素製造の栄養素として、他方で目的の生成物をもたらすための「原材料」として使用可能である。使用した食用の脂肪及び油、バイオディーゼル製造の残留物(例えば、グリセロール、脂肪酸、メチルエステル)、並びに他の産業副生成物を、材料利用の基礎物質として使用可能である。
【0018】
12-ヒドロキシオクタデカン酸(12-ヒドロキシステアリン酸、CAS106-14-9)は、例えばSigma-Aldrich又はNidera B.Vより市販されている。12-ヒドロキシオクタデカン酸は、加水分解及び水素付加によってヒマシ油から化学的に製造される。ヒマシ油は、主にインド、ブラジル、及び中国で製造されている。市販の12-ヒドロキシオクタデカン酸の純度は通常、80~98重量%である。
【0019】
また、R-10-ヒドロキシオクタデカン酸の良好な増粘効果は、例えば、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)(C16:0)、9-ヒドロキシヘキサデカン酸、オクタデカン酸(ステアリン酸)、(9Z)-オクタデカ-9-エン酸(オレイン酸)などの鎖長がC16~C18の他の脂肪酸、又は、例えば、非ヒドロキシル化若しくはヒドロキシル化形態におけるリノール酸((9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン酸)若しくはリノレン酸((9Z,12Z,15Z)-オクタデカ-9,12,15-トリエン酸)などの多価不飽和脂肪酸を、特にR-10-ヒドロキシオクタデカン酸と共に、金属石けん製造に継続的に使用するとき、得られる。
【0020】
本発明において使用する金属石けん及び/又は金属複合石けんの製造のためのC16~C18の脂肪酸は、好ましくは、以下のように個別に又は共にさらに特徴づけられる。
- C16~C18の脂肪酸は、50重量%を超える、好ましくは80重量%を超える、特に95重量%を超える10-ヒドロキシステアリン酸からなる。
- C16~C18の脂肪酸は、特に0.5重量%を超える、好ましくは1.0重量%を超える、特に好ましくは1~10重量%のヘキサデカン酸を含む。
- C16~C18の脂肪酸は、特に0.2重量%を超える、好ましくは0.5重量%を超える、特に好ましくは1~10.0重量%のヒドロキシヘキサデカン酸、特に9-ヒドロキシヘキサデカン酸を含む。
- C16~C18の脂肪酸は、特に0.2重量%を超える、好ましくは0.5重量%を超える、特に好ましくは1~10.0重量%のオクタデカン酸を含む。
- C16~C18の脂肪酸は、特に0.2重量%を超える、好ましくは0.5重量%を超える、好ましくは1.0~10重量%のオクタデセン酸、特に(9Z)-オクタデカ-9-エン酸を含む。
- C16~C18の脂肪酸は、特に0.2重量%を超える、好ましくは0.5重量%を超える、特に好ましくは1~10重量%のオクタデカジエン酸、特に(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン酸を含む。
- C16~C18の脂肪酸は、1重量%未満の、好ましくは0.2重量%未満の、12-ヒドロキシ-9-オクタデセン酸、特に(9Z,12R)-12-ヒドロキシ-9-オクタデセン酸を含む。
- C16~C18の脂肪酸は、1重量%未満の、特に0.2重量%未満の、12-ヒドロキシオクタデカン酸を含む。
- ヒドロキシ置換したC16~C18の脂肪酸は、対応する不飽和のC16~C18の脂肪酸の酵素変換から得られる。
- C16~C18の脂肪酸は、少なくとも1つの酵素変換を含む、食用の脂肪、特に使用した食用の脂肪、及び/又はバイオディーゼルから得られる。
【0021】
本発明において使用する金属石けん及び/又は金属複合石けんは、特に、
- リチウム石けん若しくはリチウム複合石けん、又は
- リチウム/カルシウム石けん若しくはリチウム/カルシウム複合石けん、又は
- カルシウム石けん若しくはカルシウム複合石けん、である。
【0022】
驚いたことに、このように、R-10-ヒドロキシオクタデカン酸に基づく潤滑グリースが、同じ粘稠度で著しく少ない増粘剤含有量を有し、好ましくは、製造において少なくとも30重量%少ない増粘剤及び少なくとも30重量%少ない水酸化リチウム一水和物を必要とするということが分かっている。
【0023】
このようにして製造した潤滑グリースは、特に低温で、著しく低い流動圧力、低い流動点、並びにすべり軸受、ころ軸受、及び歯車における、著しく低い始動トルクを有する。特にリチウム石けん及びリチウム複合石けんグリースの場合、水酸化リチウム一水和物の使用を少なくすることによって、製造費用を抑えることができる。
【0024】
また、リチウム石けんで増粘した潤滑グリースの場合、12-ヒドロキシオクタデカン酸の代わりにR-10ヒドロキシオクタデカン酸を使用することにより、Li塩を用いる費用が著しく少なくなり、これは、リチウムヒドロキシオクタデカネート石けんを形成するため、最大62%少ない水酸化リチウム一水和物を必要とするからである。これは、特に電池製造及び電動輸送機器においてリチウム需要が増えているという背景に対し、グリース製造における重要な費用要因となる。
【0025】
好ましくは、リチウムR-10-ヒドロキシオクタデカネート石けんは、その場で、すなわち水酸化リチウム一水和物をR-10-ヒドロキシオクタデカン酸と反応させることで、調製されるが、別のステップで調製したリチウム10-ヒドロキシオクタデカネートを基油に混合して、その後の熱処理及び機械処理によって増粘することもできる。
【0026】
また、鋼/鋼接触の場合、R-10-ヒドロキシオクタデカン酸に基づく潤滑グリースの摺動摩擦係数は、同等の12-ヒドロキシオクタデカン酸に基づく潤滑グリースのものより、例えば最大37%低いということが示され得る。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明における組成物は、少なくとも
(a)好ましくは55~98重量%、特に70~97重量%の、基油又は基油混合物であって、好ましい基油は例えばポリアルファオレフィン、鉱物油、及び/又はエステルであるもの、
(b)好ましくは0.5~40重量%、特に2~20重量%の添加剤、
(c)増粘剤を含み、該増粘剤は、R-10ヒドロキシオクタデカネート金属石けんを含む金属石けん又は金属複合石けんであるか、又はそれらを含み、本発明において使用する金属石けん又は本発明において使用する金属複合石けん(錯化剤を含む)は、(金属石けんにおいて)好ましくは1.5~25重量%、好ましくは3~10重量%、又は、金属複合石けんにおいて1.5~40重量%含まれ、0.1~20重量%の錯化剤を含み、好ましくは0.1~10重量%の錯化剤を含み、製造に使用する金属石けん塩はアルカリの金属水酸化物及び/又はアルカリ土類水酸化物である(本発明において使用する金属石けん)。
【0028】
特定した重量%は総組成物に関し、それぞれ互いに独立して適用する。
【0029】
室温で液体である標準の潤滑油が基油として適する。特に、基油は、それぞれの場合40℃で、14~2500mm/s、好ましくは30~500mm/sの動粘度を有する。
【0030】
基油は鉱物油又は合成油として分類可能である。鉱物油は、APIグループI分類における、ナフテン系鉱物油及びパラフィン系鉱物油であると考えられる。また、APIグループII III、グループIII+に従って分類され、低含有量の飽和化合物、及びグループIの油と比較して改善した粘性/温度特性を有する、化学修飾した低級芳香族及び低級硫黄鉱物油、並びにいわゆるガス・トゥー・リキッドプロセス(GTL油)において天然ガスから製造される合成油も適する。
【0031】
合成油の例は、ジ又はポリエーテル、エステル、ポリアルファオレフィン、ポリグリコール、及びアルキル芳香族化合物、並びにそれらの混合物である。ジエーテル化合物は、脂肪族残基及び/又は芳香族残基を有する化合物(例えばアルキル化ジフェニルエーテル)とすることができる。ポリエーテル化合物は、遊離ヒドロキシル基を有してよいが、これはまた、完全にエーテル化されているか、又は末端基エステル化されていてよく、並びに/又は1つ以上のヒドロキシ及び/若しくはカルボキシル基(-COOH)を有する出発化合物から作製してよい。また、該当する場合アルキル化された、ジフェニルエーテル又はポリフェニルエーテルは、唯一の成分、又はより望ましくは、混合した成分とすることが可能である。適切なエステルは、個別の成分としての、又は望ましい任意の混合物における、芳香族ジ-、トリ-又はテトラカルボン酸とC2~C30アルコールの1つ又はそれらの混合物とのエステル、アジピン酸、セバシン酸、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール又はジペンタエリスリトールと、脂肪族の、分岐した又は分岐のない飽和又は不飽和C2~C22カルボン酸とのエステル、C2~C22アルコールとのC18ダイマー酸エステル、複合エステルである。
【0032】
特に適切な基油は、例えば、必要に応じてメタロセン触媒を用いて、コポリマーとして、又はそれぞれのホモポリマーの混合物として、C4及びC14LAO(LAO=リニアアルファオレフィン)、C6及びC16LAO、C8、C10及びC12LAO、C8及びC14LAO、C6、C10及びC14LAO、C4及びC12LAOを重合することから得られるものである、ポリアルファオレフィンであるか、又はポリアルファオレフィンを含む。
【0033】
従来の12-ヒドロキシオクタデカネート金属グリースと対照的に、特にポリアルファオレフィンを含む又はポリアルファオレフィンからなる基油中における、金属R-10-ヒドロキシオクタデカネートに基づく潤滑グリースは、低温での特性及び効率において予期せぬ利点を示すことがさらに分かっている。これらの特性において、本発明において使用する石けんは従来の12-ヒドロキシオクタデカネート石けんと大きく異なる。
【0034】
任意で、上述のようなC16~C18の脂肪酸に加えて、他の脂肪酸も、金属水酸化物などの金属塩と反応させて、さらに金属石けんを得ることができる。これらは、必要に応じて好ましい対応するヒドロキシカルボン酸のように置換した、10~15個及び/又は19~24個の炭素原子を有する、1つ以上の飽和又は不飽和モノカルボン酸のアルカリ又はアルカリ土類塩であってもよい。適切なカルボン酸は、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、又はベヘン酸である。記載した、分岐のない鎖をもつ脂肪酸に加えて、飽和又は不飽和の分岐した鎖をもつ脂肪酸も使用可能である。また、ナフテン酸、ネオデカン酸、又は同等のネオ酸も使用可能である。
【0035】
また、Al-、Bi-、Ti-塩及びカルボン酸、又はLi-、Na-、Mg-、Ca-、Al-、Bi-、Ti-塩及びスルホン酸に基づく、単純な、混合した、又は複合の石けんを、基質脂肪製造時にさらなる金属石けんとして、又は後に添加剤として、添加することができる。あるいは、これらの石けんをまた、本発明において使用する金属石けんの製造時にその場で形成することができる。
【0036】
遊離酸基を有する脂肪酸の代わりに、例えば酸/ヒドロキシ酸の適切なトリグリセリド及びメチル-、エチル-、プロピル-、イソプロピル-又はsec-ブチルアセテートなどの、けん化した、適切な低級アルコールエステルも、より良好な分散を得るため、それぞれの金属石けんの製造に使用可能である。
【0037】
金属複合石けんの実施形態において、既に記載した金属石けんに加えて、錯化剤を製造時に使用する。本発明の意図内の錯化剤は、
(a)それぞれの場合に必要に応じて置換した、2~8個、特に2~4個の炭素原子を有する飽和若しくは不飽和モノカルボン酸若しくはさらにヒドロキシカルボン酸のアルカリ及び/若しくはアルカリ土類塩、若しくは、2~16個、特に2~12個の炭素原子を有するジカルボン酸のアルカリ及び/若しくはアルカリ土類塩、並びに/又は、
(b)ホウ酸及び/若しくはリン酸のアルカリ若しくはアルカリ土類塩、特にLiOH及び/若しくはCa(OH)との反応生成物、若しくは、アルカリ若しくはアルカリ土類水酸化物の反応生成物、特にLiOH及び/若しくはCa(OH)とのホウ酸若しくはリン酸のエステル、並びに/又は、
(c)2~32個の炭素原子、好ましくは8~32個の炭素原子を有する、分岐のない又は分岐したアルキル基をもつホウ酸及びリン酸のエステル、である。
好ましくは、錯化剤は(a)である。
【0038】
特に適切なモノカルボン酸は酢酸及びプロピオン酸である。また、適切なものは、ヒドロキシ安息香酸、例えば、パラヒドロキシ安息香酸、サリチル酸、2-ヒドロキシ-4-ヘキシル安息香酸、メタヒドロキシ安息香酸、2,5-ジヒドロキシ安息香酸(ゲンチシン酸)、2,6-ジヒドロキシ安息香酸(ガンマ-レソルシル酸)又は4-ヒドロキシ-4-メトキシ安息香酸である。特に適切なジカルボン酸は、アジピン酸(C10)、セバシン酸(C1018)、アゼライン酸(C16)、及び/又は3-tert-ブチルアジピン酸(C1018)である。
【0039】
例えば、メタボレート、ジボレート、テトラボレート、又はモノリチウムオルトボレートなどのオルトボレートをボレート(b)として使用可能である。可能性のあるホスフェートは、アルカリ(好ましくはリチウム)及びアルカリ土類(好ましくはカルシウム)の二水素ホスフェート、水素ホスフェート、若しくはピロホスフェート、又はカルシウム若しくはリチウムヒドロキシアパタイトである。ホウ酸及びリン酸のエステルは、2~32個、好ましくは8~32個の炭素原子を有する、分岐のない又は分岐したアルキル基をもつものとすることができる。
【0040】
任意で、ベントナイト、例えばモンモリロナイト(必要に応じて、ナトリウムイオンが有機修飾アンモニウムイオンで置換されていてよい若しくは部分的に置換されていてよい)、アルミノシリケート、アルミナ、疎水性及び親水性シリカ、油溶性ポリマー(例えば、ポリオレフィン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリイソブチレン、ポリブテン、若しくはポリスチレンコポリマー)、ポリ尿素、若しくはポリ尿素-ポリウレタン、又はPTFEもまた、補助増粘剤として使用可能である。ベントナイト、アルミノシリケート、アルミナ、シリカ、及び/又は油溶性ポリマーを、基質脂肪を製造するため添加する、又は後に第2ステップにおいて添加剤として添加することができる。
【0041】
金属又は金属複合石けんの製造時又は製造後、リグニン誘導体も補助増粘剤又は添加剤として添加可能である。リグニン誘導体は、潤滑グリースにおける有効な成分であり、摩耗保護特性及び腐食負荷特性を向上させるために使用可能である。
【0042】
その点で、リグニン誘導体は多機能成分に相当する。その多数の極性基及び芳香族構造と、その高分子構造と、あらゆる種類の潤滑油における低溶解性とから、粉末リグニン及び/又はリグノスルホネートはまた、潤滑グリース及び潤滑ペーストにおける固体潤滑剤としても適している。さらに、リグニン及びリグノスルホネートに含まれるフェノール性ヒドロキシ基は、経時変化を防ぐ効果をもたらす。リグノスルホネートの場合には、リグノスルホネートにおける硫黄含有量により、グリースにおけるEP/AW効果を促進する。好ましくは、リグニン並びに/又はカルシウム及び/若しくはナトリウムリグノスルホネート又はそれらの混合物を使用する。しかしながら、クラフトリグニン、ソーダリグニン、又はオルガノソルブリグニンもまた使用可能である。固体潤滑剤又は補助増粘剤として、トリテルペン、セルロース、又は変性セルロース、キチン及び/又はキトサンなどの生物に基づくオリゴマー又はポリマーの添加も可能である。
【0043】
特に、組成物が十分な増粘剤を含有して、210~475mm/10(25℃において)、好ましくは230~385mm/10(25℃において)の円錐稠度値(混和稠度)を得る(DIN ISO 2137又はASTM D 0217-97に従って測定する)ように、増粘剤(本発明における金属石けん、さらなる金属石けん及び補助増粘剤)を使用する。
【0044】
本発明における組成物は、さらなる物質として添加剤をさらに含有することができる。本発明の趣旨における一般的な添加剤は、抗酸化剤、抗摩耗剤、腐食抑制剤、洗浄剤、色素、潤滑促進剤、接着促進剤、粘性添加剤、摩擦調整剤、高圧添加剤、及び金属不活性剤である。
【0045】
これらの例は、以下のものである。
・ 一次抗酸化剤、例えば、アミン化合物(例えばアルキルアミン又は1-フェニル-アミノナフタレン)、芳香族アミン、例えばフェニル-ナフチルアミン若しくはジフェニルアミン、又はポリマーヒドロキシキノリン(例えばTMQ)、フェノール化合物(例えば2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール)、亜鉛ジチオカルバメート、又は亜鉛ジチオホスフェート。
・ 二次抗酸化剤、例えば、ホスファイト、例えばトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニルホスファイト)、又はビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-ペンタエリスリトールジホスファイト。
・ 高圧力添加剤、例えば、有機塩素化合物、硫黄又は有機硫黄化合物、リン化合物、無機又は有機ホウ素化合物、亜鉛ジチオホスフェート、有機ビスマス化合物。
・ 「油性」を向上させる活性成分、例えば、C2~C6ポリオール、脂肪酸、脂肪酸エステル、又は動物性若しくは植物性油。
・ 防腐食剤、例えば、石油スルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、又はソルビタンエステル;ジナトリウムセバケート;中性又は過塩基性のカルシウムスルホネート、マグネシウムスルホネート、ナトリウムスルホネート、カルシウム及びナトリウムナフタレンスルホネート、カルシウムサリシレート、アミンホスフェート、スクシネート、ベンゾトリアゾール又は亜硝酸ナトリウムなどの金属不活性剤。
・ 粘性促進剤、例えば、ポリメタクリレート、ポリイソブチレン、オリゴ-デカ-1-エン、ポリスチレン。
・ 摩耗保護添加剤及び摩擦調整剤、例えば、有機モリブデン複合体(OMC)、モリブデン-ジ-アルキル-ジチオホスフェート、モリブデン-ジ-アルキル-ジチオカルバメート、又はモリブデン-ジ-アルキル-ジチオカルバメート、特に、モリブデン-ジ-n-ブチル-ジチオカルバメート及びモリブデン-ジ-アルキル-ジチオカルバメート(Mo2mSn(ジアルキル-カルバメート)、ただし、m=0~3であり、n=4~1である)、亜鉛ジチオカルバメート、又は亜鉛ジチオホスフェート;又は以下の式に対応する三核モリブデン化合物、
Mo
式中、Lは、化合物を油中に溶解可能又は分散可能にするため、米国特許第6172013号明細書に開示されているように炭素原子を含む有機基を有する、独立して選択されたリガンドであり、nは1~4の範囲であり、kは4~7の範囲であり、Qは、アミン、アルコール、ホスフィン、及びエーテルからなる中性電子供与化合物の群より選択され、zは0~5の範囲であり、非化学量論的値を含む(独国特許出願公開第102007048091号を参照)。
・ 摩擦調整剤、例えば、機能性ポリマー、例えばオレイルアミド、ポリエーテル及びアミドに基づく有機化合物、例えばアルキルポリエチレングリコールテトラデシレングリコールエーテル、ポリイソブチレンスクシンイミド、ポリイソブチレンコハク酸イミド(PIBSI)又はポリイソブチレン無水コハク酸(PIBSA)。
・ さらに、本発明における潤滑グリース組成物は、腐食及び酸化に対する、並びにキレート化合物、ラジカル捕捉剤、UV変換剤、及び反応層の形成剤等として作用する金属の影響に対する保護のための、通常の添加剤を含有する。加水分解に対するエステル基油の耐性を向上する、カルボジイミド又はエポキシドなどの添加剤を加えることができる。
・ 使用可能な固体潤滑剤は、例えば、ポリマー粉末、例えばポリアミド、ポリイミド、又はPTFE、メラミンシアヌレート、グラファイト、金属酸化物、窒化ホウ素、シリケート、例えばマグネシウムシリケート水和物(タルカム)、ナトリウムテトラボレート、カリウムテトラボレート、金属硫化物、例えばモリブデンジスルフィド、タングステンジスルフィド、又はタングステン、モリブデン、ビスマス、スズ、及び亜鉛に基づく混合スルフィド、アルカリ及びアルカリ土類金属の無機塩、例えばカルシウムカーボネート、ナトリウムホスフェート、及びカルシウムホスフェートである。
同様に、カーボンブラック又はその他のカーボンに基づく固体潤滑剤、例えばナノチューブも使用可能である。また、リグニン誘導体も増粘剤成分又は固体潤滑剤として使用可能である。また、トリテルペン、変性セルロース、キチン、キトサン、又はポリペプチドなどの生物に基づくオリゴマー又はポリマーも可能である。
【0046】
本発明における潤滑グリースは、産業用途及び自動車用途における、すべり軸受及びころ軸受、歯車及び/又は等速ジョイントシャフトにおける使用に特に適する。低ブレイクアウェイトルク及び回転トルクを必要とし、低流動点及びせん断粘度が有利である場合、特に低温において、低摩擦潤滑グリースを得ることが、本発明の特有の態様である。自動車工業におけるすべり軸受及びころ軸受、及び歯車及び等速ジョイントシャフトの特定の潤滑の場合、より小さく且つ軽い駆動部をこのように使用可能であり、効率の利点が得られる。本発明において製造する潤滑グリースは、同等の潤滑グリースよりも、特に-35℃において、最大43%低い流動点(DIN51810-2に従って振動型レオメーターで測定)、及び最大50%低いせん断粘度(DIN51810-1に従ってせん断粘度計で測定)を有する。DIN51805-2に従った流動圧力試験において、本発明において製造する潤滑グリースは、-40℃において、同等の潤滑グリースよりも少なくとも50%低い値を示す。さらに、本発明における潤滑グリースは、同等の12-ヒドロキシオクタデカン酸に基づく潤滑グリースのものより最大37%低い、鋼/鋼接触における摺動摩擦係数を有する。
【0047】
潤滑グリースの流動点及びせん断粘度を試験するため、種々の研究用試験方法を利用可能である。振動型レオメーターを用いて流動点を測定する一方法は、DIN51810-2である。また、潤滑グリースの低使用温度を測定するため、DIN51805-2に従った流動圧力方法も使用される。流動圧力は、この基準にて特定される条件下で、試験ノズルからグリース線を押し出すために必要とされる、周囲圧力との圧力差である。これは、各試験温度における潤滑グリースの硬さの尺度であり、流動点の尺度としてDIN51810-2に従った試験に加えて使用可能である。
【0048】
IP186及びASTM D1478は、玉軸受の始動トルク及び回転トルクの測定を記述する。これらの試験方法により、潤滑グリースの機能性を、低温、例えば-40度又は-73℃において試験可能である。
【0049】
つまり、これらの試験方法は、自動車及び航空宇宙産業(民間及び軍事航空機産業)の数多くの規格、及びユーザー規格の一部である。これらは、長年有用な試験方法として証明されている。また、流動圧力測定のDIN51805-2は、主に、潤滑グリースの低使用温度を測定する国の方法として独国において使用されている。
【0050】
潤滑グリースは例えば以下のように製造可能である。塩/金属化合物をカルボン酸化合物に混合すること(これを、必要に応じて錯化剤を加え、必要に応じて基油成分で伸ばしてもよい)、必要に応じて、同時に、100℃を超える、特に170℃を超える温度まで混合物を加熱して、粘性の潤滑グリース生成物を形成すること、潤滑グリース生成物を冷却すること、及び必要に応じて、水を添加すること、例えば歯付きコロイドミル、高圧ホモジナイザー、及び/又は3本ロールミルで、混合物にせん断力を加えること。本発明のさらなる実施形態において、増粘剤は、オートクレーブなどの密閉反応容器内において圧力下及び上昇温度にて基油中でその場で合成される。
【0051】
潤滑グリース組成物は、特に、-20℃未満の低動作温度の、及び/又は自動車、航空機、ドローン、若しくはヘリコプターにおける、歯車、等速ジョイントシャフト、すべり軸受及びころ軸受、摺動ガイド、スピンドル駆動部、リニア駆動部、ボールねじを潤滑するために使用可能である。他の用途は、特に自動車、航空機、ドローン、又はヘリコプターにおける、操舵システム、サンルーフ、窓昇降装置、サイドミラー調節装置、ドア錠、シャーシ車輪用軸受の潤滑を含む。また、潤滑グリース組成物は、特にハイブリッド車両又は完全に電気の車両における、電気モーター用軸受の潤滑に適する。
【実施例
【0052】
実証実施例
実施例A(参考)
ポリアルファオレフィンを伴うリチウム-12-ヒドロキシオクタデカン酸脂肪
171gのポリアルファオレフィン(PAO6:PAO150=3:1の混合物)及びラセミ体としての45.25gの12-ヒドロキシオクタデカン酸を、かく拌槽型反応器に入れ、86℃に加熱した。その後、それまでに25gの蒸留水に溶解した、6.31gの水酸化リチウム一水和物を添加した。その後、この物質を210℃に加熱してから、20分の間100℃未満に冷却し、添加剤を加えた。
【0053】
その後、潤滑グリースを3本ロールミルで均質化し、さらなるポリアルファオレフィンを徐々に添加することで所望の粘稠度に調整した。このように製造した潤滑グリースは、12.13重量%の増粘剤含有量及び332 0.1mmの混和稠度を有するものであった。
【0054】
実施例B1、B2、B3(発明)
ポリアルファオレフィンを伴うリチウム-10-ヒドロキシオクタデカン酸脂肪
171gのポリアルファオレフィン(PAO6(メタロセンに基づく):PAO150=3:1の混合物)及び35.16gのR-10-ヒドロキシオクタデカン酸を、かく拌槽型反応器に入れ、91℃に加熱した。その後、それまでに21gの蒸留水に溶解した、5.07gの水酸化リチウム一水和物を添加した。その後、この物質を210℃に加熱してから、20分の間100℃未満に冷却し、添加剤を加えた。その後、潤滑グリースを3本ロールミルで均質化し、さらなるポリアルファオレフィンを徐々に添加することで所望の粘稠度に調整した。このようにして製造した潤滑グリースは、4.64重量%(B1)、4.97重量%(B2)、及び5.06重量%(B3)の増粘剤含有量、並びに339 0.1mm(B1)、332 0.1mm(B2)、及び320 0.1mm(B3)の混和稠度を有するものであった。
【0055】
実施例C(参考)
ポリアルファオレフィンを伴うリチウム-12-ヒドロキシオクタデカン酸複合脂肪
171gのポリアルファオレフィン(PAO6:PAO150=3:1の混合物)及びラセミ体としての45.25gの12-ヒドロキシオクタデカン酸を、かく拌槽型反応器に入れ、91℃に加熱した。その後、それまでに25gの蒸留水に溶解した、6.31gの水酸化リチウム一水和物を添加した。その後、この物質を210℃に加熱してから、15分の間122℃未満に冷却した。その後、1.25gの(トリス(2-エチルヘキシル)オルトボレートを添加して、100℃未満に冷却し、添加剤を加えた。その後、潤滑グリースを3本ロールミルで均質化し、さらなるポリアルファオレフィンを徐々に添加することで所望の粘稠度に調整した。このように製造したグリースは、10.52重量%の増粘剤含有量及び328 0.1mmの混和稠度、並びに300℃より高い滴点を有するものであった。
【0056】
実施例D(発明)
ポリアルファオレフィンを伴うリチウムR-10-ヒドロキシオクタデカン酸複合脂肪
171gのポリアルファオレフィン(PAO6:PAO150=3:1の混合物)及び35.16gのR-10-ヒドロキシオクタデカン酸を、かく拌槽型反応器に入れ、91℃に加熱した。
【0057】
その後、それまでに21gの蒸留水に溶解した、5.07gの水酸化リチウム一水和物を添加した。その後、この物質を210℃に加熱してから、15分の間122℃未満に冷却した。その後、1.19gの(トリス(2-エチルヘキシル)オルトボレートを添加して、100℃未満に冷却し、添加剤を加えた。その後、潤滑グリースを3本ロールミルで均質化し、さらなるポリアルファオレフィンを徐々に添加することで所望の粘稠度に調整した。このように製造したグリースは、4.68重量%の増粘剤含有量及び335 0.1mmの混和稠度、並びに293℃の滴点を有するものであった。
【0058】
実施例E(参考)
鉱物油を伴うリチウム-12-ヒドロキシオクタデカン酸脂肪
107.48gの鉱物油、グループII(40℃において動粘度=110mm/s)及び22.08gの12-ヒドロキシオクタデカン酸(ラセミ体)を、かく拌槽型反応器に入れ、91℃に加熱した。その後、それまでに15gの蒸留水に溶解した、3.18gの水酸化リチウム一水和物を添加した。その後、この物質を210℃に加熱してから、20分の間100℃未満に冷却し、添加剤を加えた。その後、潤滑グリースを3本ロールミルで均質化し、さらなる鉱物油、グループII SN600を徐々に添加することで所望の粘稠度に調整した。このように製造した潤滑グリースは、8.3%の増粘剤含有量及び317 0.1mmの混和稠度を有するものであった。
【0059】
実施例F(発明)
鉱物油を伴うリチウム-10-ヒドロキシオクタデカン酸脂肪
107.12gの鉱物油、グループII(40℃において動粘度=110mm/s)及び22.04gのR-10-ヒドロキシオクタデカン酸を、かく拌槽型反応器に入れ、91℃に加熱した。その後、それまでに15gの蒸留水に溶解した、3.17gの水酸化リチウム一水和物を添加した。その後、この物質を210℃に加熱してから、20分の間100℃未満に冷却し、添加剤を加えた。その後、潤滑グリースを3本ロールミルで均質化し、さらなる鉱物油、グループII SN600を徐々に添加することで所望の粘稠度に調整した。このように製造した潤滑グリースは、4.21重量%の増粘剤含有量及び328 0.1mmの混和稠度を有するものであった。
【0060】
実施例G(参考)
エステル油を伴うリチウム-12-ヒドロキシオクタデカン酸脂肪
107.48gのペンタエリスリトールエステル(40℃において96mm/sの粘度)及び22.08gの12-ヒドロキシオクタデカン酸を、かく拌槽型反応器に入れ、91℃に加熱した。
【0061】
その後、それまでに15gの蒸留水に溶解した、3.18gの水酸化リチウム一水和物を添加した。その後、この物質を210℃に加熱してから、20分の間100℃未満に冷却し、添加剤を加えた。その後、潤滑グリースを3本ロールミルで均質化し、さらなるペンタエリスリトールエステルを徐々に添加することで所望の粘稠度に調整した。このように製造した潤滑グリースは、6.13%の増粘剤含有量及び328 0.1mmの混和稠度を有するものであった。
【0062】
実施例H(発明)
エステル油を伴うリチウムR-10-ヒドロキシオクタデカン酸脂肪
107.12gのペンタエリスリトールエステル(40℃において96mm/sの粘度)及び22.04gの12-ヒドロキシオクタデカン酸を、かく拌槽型反応器に入れ、91℃に加熱した。その後、それまでに15gの蒸留水に溶解した、3.17gの水酸化リチウム一水和物を添加した。その後、この物質を210℃に加熱してから、20分の間100℃未満に冷却し、添加剤を加えた。その後、潤滑グリースを3本ロールミルで均質化し、さらなるペンタエリスリトールエステルを徐々に添加することで所望の粘稠度に調整した。このように製造した潤滑グリースは、4.08重量%の増粘剤含有量及び335 0.1mmの混和稠度を有するものであった。
【0063】
同じ基油及び添加剤マトリックスにおいて、R-10-ヒドロキシオクタデカン酸で製造した本発明における潤滑グリースが、12-ヒドロキシオクタデカン酸のものよりも最大62%良好な増粘効果を示した。
【0064】
実施例の表を示す。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】