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特許7623359発熱的に製造されたジルコニウム含有酸化物でコーティングされた混合リチウム遷移金属酸化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】発熱的に製造されたジルコニウム含有酸化物でコーティングされた混合リチウム遷移金属酸化物
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20250121BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20250121BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20250121BHJP
   C01G 25/02 20060101ALI20250121BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/505
C01G25/02
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022513406
(86)(22)【出願日】2020-08-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-01
(86)【国際出願番号】 EP2020073832
(87)【国際公開番号】W WO2021037900
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-08-23
(31)【優先権主張番号】19193755.6
(32)【優先日】2019-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル エスケン
(72)【発明者】
【氏名】マーツェル ヘアツォーク
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-235666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/36
H01M 4/505
C01G 25/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティングされた混合リチウム遷移金属酸化物を製造するための方法において、
混合リチウム遷移金属酸化物と、発熱的に製造された二酸化ジルコニウム、および/またはジルコニウムを含む発熱的に製造された混合酸化物とを、前記混合リチウム遷移金属酸化物1kgあたり0.05~1.5kWの比電力を有する電気混合ユニットを用いた乾式混合に供し、
前記コーティングされた混合リチウム遷移金属酸化物を製造するために使用される、前記二酸化ジルコニウム、および/またはジルコニウムを含む前記混合酸化物のBET表面積が5~200m /gであることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記混合ユニットの比電力が0.1~1000kWであることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
使用される前記混合ユニットの容量が0.1L~2.5mであることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記混合ユニット内の混合ツールの速度が5~30m/sであることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記コーティングされた混合リチウム遷移金属酸化物を製造するために使用される、前記二酸化ジルコニウム、およびジルコニウムを含む前記混合酸化物が、凝結した一次粒子の形態にあり、一次粒子の数値平均直径が、透過型電子顕微鏡法(TEM)によって決定して、5~100nmであることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記コーティングされた混合リチウム遷移金属酸化物を製造するために使用される、前記二酸化ジルコニウム、および/またはジルコニウムを含む前記混合酸化物の粒子の平均粒径d50が、前記粒子5重量%と0.5g/Lのピロリン酸ナトリウム水溶液95重量%とからなる混合物の25℃での超音波処理60秒後に静的光散乱(SLS)によって決定して、10~150nmであることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記コーティングされた混合リチウム遷移金属酸化物を製造するために使用される、前記二酸化ジルコニウムの粒子および/またはジルコニウムを含む前記混合酸化物の粒子のスパン(d90-d10)/d50が、前記粒子5重量%と0.5g/Lのピロリン酸ナトリウム水溶液95重量%とからなる混合物の25℃での超音波処理60秒後に静的光散乱(SLS)によって決定して、0.4~1.2であることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
ジルコニウムを含む前記混合酸化物が、リチウムと、任意選択的にランタンおよび/またはアルミニウムのうちの少なくとも1つとをさらに含むことを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記混合リチウム遷移金属酸化物が、リチウム-コバルト酸化物、リチウム-マンガン酸化物、リチウム-ニッケル-コバルト酸化物、リチウム-ニッケル-マンガン-コバルト酸化物、リチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム酸化物、リチウム-ニッケル-マンガン酸化物、またはそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記酸化ジルコニウム、および/またはジルコニウムを含む前記混合酸化物の割合が、前記混合リチウム遷移金属酸化物と、前記酸化ジルコニウム、および/またはジルコニウムを含む前記混合酸化物との使用される混合物の総重量に対して、0.05重量%~5重量%であることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
10nm~150nmの数平均粒径d50を有する、発熱的に製造された二酸化ジルコニウム、および/またはジルコニウムを含む発熱的に製造された混合酸化物を混合リチウム遷移金属酸化物の表面上に含む、コーティングされた混合リチウム遷移金属酸化物であって、
前記二酸化ジルコニウム、および/またはジルコニウムを含む前記混合酸化物のBET表面積が5~200m /gであることを特徴とする、コーティングされた混合リチウム遷移金属酸化物
【請求項12】
請求項1記載のコーティングされた混合リチウム遷移金属酸化物を含む、リチウム電池用の活性正極材料。
【請求項13】
請求項1記載のコーティングされた混合リチウム遷移金属酸化物を含む、リチウム電池。
【請求項14】
リチウム電池の活性正極材料における、請求項1記載のコーティングされた混合リチウム遷移金属酸化物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティングされた混合リチウム遷移金属酸化物を製造するための方法、この方法によって得ることが可能なコーティングされた混合リチウム遷移金属酸化物、リチウム電池用のカソード、およびそのようなコーティングされた金属酸化物を含むリチウム電池に関する。
【0002】
近年、様々なエネルギー貯蔵技術が人々の注目を大きく集めており、産業界および学界で集中的な研究開発の対象となっている。エネルギー貯蔵技術が、携帯電話、カムコーダー、およびノートパソコンなどのデバイス、さらには電気自動車にまで拡大するにつれて、そのようなデバイスの電源として使用される高エネルギー密度のバッテリーの需要が高まっている。二次リチウム電池は、現在使用されている最も重要な電池の種類のうちの1つである。
【0003】
二次リチウム電池は、通常、炭素材料またはリチウム金属合金製のアノードと、リチウム金属酸化物製のカソードと、リチウム塩が有機溶媒に溶解されている電解質とからなる。リチウム電池のセパレータは、充電および放電プロセス中に、正極と負極との間でリチウムイオンの通過をもたらす。
【0004】
カソード材料についての一般的な問題のうちの1つは、それらの急速な経年変化、したがってサイクル中の性能の低下である。この現象は、高いニッケル含有量を有するニッケルマンガンコバルト混合酸化物(NMC)に特に関連する。正極材料の失活は、いくつかの電気化学的劣化メカニズムによって生じる。高度に脱リチウム化された状態でのNi4+の還元および酸素損失によるNiO様相の形成、ならびに遷移金属の転位などの表面変態によって、結晶構造が不安定になる。この相転移は、カソード粒子表面に現れる初期亀裂およびその後の粒子崩壊に関連している。さらに、電解質は、NMCの反応性表面で分解し、電解質分解生成物は、カソード材料の界面に堆積し、それによって、抵抗が増加する。さらに、液体電解質中で一般的に使用される導電性塩LiPFは、全ての市販の配合物中に存在する痕跡量のHOと反応して、HFを形成する。この反応性の高い化合物は、遷移金属イオンをカソード材料の表面から電解質に溶解させることによって、カソード材料に格子歪みを引き起こす。これらの全ての劣化メカニズムによって、容量、性能、およびサイクル寿命が低下する。
【0005】
混合リチウム遷移金属酸化物粒子をいくつかの金属酸化物でコーティングすると、電解質と電極材料との望ましくない反応を抑制し、したがって、リチウム電池の長寿命安定性を改善することができると知られている。
【0006】
国際公開第00/70694号には、Zr、Al、Zn、Y、Ce、Sn、Ca、Si、Sr、Mg、およびTiの酸化物または混合酸化物でコーティングされた混合遷移金属酸化物粒子が開示されている。これらは、コーティングされていない粒子を有機溶媒に懸濁し、懸濁液を加水分解性金属化合物の溶液および加水分解溶液と混合し、次いで、コーティングされた粒子を濾別、乾燥、および焼成することによって得られる。
【0007】
米国特許出願公開第2015/0340689号明細書には、遷移金属酸化物のコアと二酸化ジルコニウムを含むコーティング層とを含む、リチウム電池用のカソード活物質(CAM)が開示されている。そのようなコーティングされたCAMは、典型的には、遷移金属前駆体を、1μm未満の平均粒径を有するオキシ硝酸ジルコニウム(IV)と混合し、そのようにして得られた混合物を700℃で焼成して、ZrOでコーティングされたCAMを形成することによって調製される。代替的な実施形態(例5)は、遷移金属前駆体を、Aldrich Coから調達された1μm未満の平均粒径を有する二酸化ジルコニウム(IV)と混合し、得られたコーティングされたCAMを700℃で焼成することを示す。SEM顕微鏡法によるこれらの材料の分析は、コーティング中に存在するZrO粒子の平均粒径が約400nmであることを示す(図2、分析例1)。
【0008】
米国特許出願公開第2016/0204414号明細書には、遷移金属酸化物コアを含み、ジルコニウム化合物がこのコアの表面上に存在する、非水性電解質を含む電池用のCAMが記載されている。これらの例には、CAMのコーティングのための、1μmの平均粒径を有する二酸化ジルコニウムの使用が示されている。
【0009】
中国特許出願公開第105161710号明細書には、遷移金属混合酸化物コアと、5~100nmの粒径を有するアルミナまたはジルコニアを含有するコーティング層とを含む、CAMが開示されている。したがって、例4では、3μmの粒径を有する式LiNi0.5Co0.2Mn0.3Mg0.02の前駆体が、20nmの粒径を有するZrOとボールミル粉砕によって混合された。得られたコーティングされたCAMは、580℃で焼成された。
【0010】
特開2013-235666号公報には、遷移金属酸化物コアと、主に単斜晶系の結晶構造を有するZrO粒子を含有する層とを含む、CAMが記載されている。したがって、例1では、D50=10μmの平均粒径を有するLiNi1/3Co1/3Mn1/3粒子が、D50=27nmの平均粒径を有するZrO粒子と、4000rpmの回転速度で混合され、次いで800℃で焼成される。
【0011】
最後の2つの文書は、20~30nmの平均粒径を有するナノ構造ZrO粒子に言及しているが、そのような粒子の調製方法または供給源などのさらなる詳細は記載されていない。示されている平均粒径は、ZrOの一次粒子に関連する可能性が高い。そのような小さな一次粒子は、通常、凝結および凝集して、μmの範囲のはるかにより大きな粒子を形成する。
【0012】
Journal of the Chinese Institute of Engineers, Vol. 28, No. 7, pp 1139-1151 (2005)には、LiCoO粉末を、ゾルゲル法またはメカノサーマル法を使用した噴霧熱分解によって調製された500~600nmの平均粒径を有するZrOでコーティングすることができると開示されている。後者の方法では、LiCoO粉末は、エタノール中に入ったZrO分散液を用いて30分にわたって超音波処理され、それに続いて、50℃で溶媒の蒸発がゆっくりと行われ、10時間にわたって450℃で焼成が行われる。
【0013】
また、ジルコニウムを含むいくつかの混合金属酸化物が、リチウム電池での使用について報告されている。
【0014】
米国特許出願公開第2017179544号明細書には、ジルコニウムに基づく混合金属酸化物でドープされたリチウム正極材料の調製が開示されている。したがって、例1では、LiLaZrAl0.0712.0105は、金属塩を混合し、混合物を10時間にわたって1200℃で焼結し、それに続いて、混合リチウム遷移金属酸化物Li(Li10/75Ni18/75Co9/75Mn38/75)Oと乾式混合し、その後、20時間にわたって900℃で加熱して、リチウム正極材料を形成することによって調製された。この調製手順から、この例ではLiLaZrAl0.0712.0105の大きなサイズの焼結粒子しか使用できなかったことが明らかである。
【0015】
リチウム電池のカソード材料を、それらのサイクル性能を改善するために、Al、TiO、およびZrOなどの金属酸化物でコーティングすることが知られている。しかしながら、バッテリーの長寿命を改善する実践的な方法は、多くの場合、限定されている。したがって、二酸化ジルコニウムの場合、市販のナノサイズのZrO粒子を使用すると、多くの場合、コアカソード材料の表面上に、不均一な分布および大きな凝集したZrO粒子が生じ(そのような例については図2を参照)、結果として、コーティングされていないカソード材料と比較した場合、サイクル性能の改善は、最小限であるか、またはまったく観察されない。
【0016】
本発明によって対処される問題は、リチウム電池で使用するための、特に高ニッケルNMCタイプのカソード材料としての修飾された混合リチウム遷移金属酸化物を提供することである。そのような修飾されたカソード材料は、修飾されていない材料のサイクル安定性よりも高いサイクル安定性をもたらすはずである。
【0017】
入念な実験の過程で、驚くべきことに、発熱的に製造された二酸化ジルコニウム、またはジルコニウムを含む発熱的に製造された混合酸化物を、リチウム電池用のカソードとして適用可能な混合リチウム遷移金属酸化物のコーティングのために上手く使用することができると見出された。
【0018】
本発明は、コーティングされた混合リチウム遷移金属酸化物を製造するための方法であって、混合リチウム遷移金属酸化物と、発熱的に製造された二酸化ジルコニウム、および/またはジルコニウムを含む発熱的に製造された混合酸化物とを、混合リチウム遷移金属酸化物1kgあたり0.05~1.5kWの比電力を有する電気混合ユニットを用いた乾式混合に供する、方法を提供する。
【0019】
「電気混合ユニット」という用語は、本発明の文脈において、電気エネルギーの供給によって動作する任意の混合デバイスに関する。
【0020】
電力とは、電気回路によって電気エネルギーが伝達される単位時間あたりの速度である。「比電力」という用語は、本発明の文脈において、混合プロセス中に電気混合ユニットによって供給される、混合リチウム遷移金属酸化物1kgあたりの電力に関する。
【0021】
乾式混合とは、混合プロセス中に液体が添加または使用されないこと、すなわち、例えば、実質的に乾燥した粉末がまとめて混合されることを意味すると理解される。しかしながら、混合原料中に痕跡量の水分もしくは水以外のいくつかの液体が存在すること、またはこれらが結晶水を含むことが可能である。好ましくは、混合リチウム遷移金属酸化物と、発熱的に製造された二酸化ジルコニウム、および/またはジルコニウムを含む発熱的に製造された混合酸化物との混合物は、5重量%未満、より好ましくは3重量%未満、より好ましくは1重量%未満の水および/または他の液体を含有する。
【0022】
本発明の乾式混合プロセスには、湿式コーティング、例えば、金属酸化物含有分散液でのコーティングを含む混合プロセスに比べて、いくつかの利点がある。そのような湿式コーティングプロセスは、コーティングプロセスの完了後に蒸発させる必要のある溶媒の使用を必然的に伴う。したがって、本発明の乾式コーティングプロセスは、従来技術から公知の湿式コーティングプロセスよりも単純かつより経済的である。他方で、驚くべきことに、本発明の乾式コーティングプロセスはまた、混合リチウム遷移金属酸化物の表面上にジルコニウムを含む金属酸化物粒子のより良好な分布を提供することが見出された。
【0023】
使用される比電力が混合リチウム遷移金属酸化物1kgあたり0.05kW未満である場合、これによって、二酸化ジルコニウム、またはジルコニウムを含む混合酸化物の分布が不均一になり、これらが、リチウム遷移金属酸化物のコア材料にしっかりと結合していない場合がある。
【0024】
比電力が混合リチウム遷移金属酸化物1kgあたり1.5kW超であると、電気化学的特性がより弱くなる。さらに、コーティングが脆くなって割れ易くなるリスクがある。
【0025】
混合ユニットの公称電力は、広範囲で、例えば、0.1kW~1000kWで変化し得る。したがって、0.1~5kWの公称電力を有する実験室規模の混合ユニット、または10~1000kWの公称電力を有する生産規模の混合ユニットを使用することが可能である。公称電力は銘板であり、混合ユニットの最大絶対電力である。
【0026】
同様に、混合ユニットの容積を、広範囲で、例えば、0.1L~2.5mで変化させることが可能である。したがって、0.1~10Lの容量を有する実験室規模の混合ユニット、または0.1~2.5mの容量を有する生産規模の混合ユニットを使用することが可能である。
【0027】
「混合ユニットの容積」という用語は、本発明の文脈において、混合すべき物質を配置することが可能な電気混合ユニットのチャンバの最大容積を指す。
【0028】
好ましくは、本発明による方法において、強制ミキサは、高速混合ツールを有するインテンシブミキサの形態で使用される。5~30m/s、より好ましくは10~25m/sの混合ツールの速度によって最良の結果が得られることが見出された。「混合ツール」という用語は、本発明の文脈において、移動、例えば、回転、振とうなどが可能であり、したがって、混合ユニットの内容物を混合することができる、混合ユニット内の任意の物体を指す。そのような混合ツールの例は、様々な形態の撹拌機である。本発明の方法に良好に適した市販の混合ユニットは、例えば、ヘンシェルミキサまたはアイリッヒミキサである。
【0029】
混合時間は、好ましくは0.1~120分、より好ましくは0.2~60分、非常に好ましくは0.5~10分である。
【0030】
混合に続いて、混合物の熱処理を行うことができる。そのような処理によって、混合リチウム遷移金属酸化物粒子へのコーティングの結合を改善することができる。しかしながら、本発明によるこの方法において、この処理は必要ではない。というのも、この方法において、発熱的に製造された二酸化ジルコニウム、またはジルコニウムを含む混合酸化物は、混合リチウム遷移金属酸化物に十分な強さで付着するからである。したがって、本発明による方法の好ましい実施形態は、混合後の熱処理を含まない。
【0031】
混合リチウム遷移金属酸化物への酸化ジルコニウムの付着に関する最良の結果は、二酸化ジルコニウム、およびジルコニウムを含む混合酸化物が、5m/g~200m/g、より好ましくは10m/g~150m/g、最も好ましくは15~100m/gのBET表面積を有する場合に得られると見出された。BET表面積は、DIN 9277:2014に従って、Brunauer-Emmett-Teller手順に従った窒素吸着によって決定することができる。
【0032】
本発明による方法で使用される二酸化ジルコニウム、およびジルコニウムを含む混合酸化物は、発熱的に、すなわち、「ヒュームド」法としても知られる発熱的な方法によって製造される。
【0033】
そのような「発熱的な」方法または「ヒュームド」法は、金属酸化物を形成するための酸水素火炎中での火炎加水分解または火炎酸化における対応する金属前駆体の反応を伴う。この反応は、最初に、高度に分散したほぼ球状の一次金属酸化物粒子を形成し、これらの一次金属酸化物粒子は、反応のさらなる過程で合体して、凝結体を形成する。次いで、これらの凝結体は、蓄積して凝集体になり得る。概してエネルギーの導入によって比較的容易に分離して凝結体にすることができる凝集体とは対照的に、凝結体は、たとえ分解されるとしても、エネルギーの集中的な導入によってのみさらに分解される。該金属酸化物粉末は、適切な粉砕によって、部分的に破壊され、本発明にとって有利なナノメートル(nm)範囲の粒子に変換され得る。
【0034】
発熱性二酸化ジルコニウム(pyrogenic zirconium dioxide)の調製は、欧州特許出願公開第717008号明細書および国際公開第2009053232号にさらに記載されている。
【0035】
ジルコニウムを含むいくつかの発熱性混合酸化物の調製は、国際公開第2015173114号にさらに記載されている。
【0036】
発熱的に、特に火炎加水分解によって製造された二酸化ジルコニウム粉末、およびジルコニウムを含む他の混合金属酸化物は、Zr前駆体としてのハロゲン化ジルコニウム、好ましくは塩化ジルコニウムから出発して製造することができる。ZrClおよび該当する場合は他の金属前駆体を蒸発させることができ、得られる蒸気は、単独で、またはキャリアガス、例えば窒素と一緒に、バーナーの混合ユニット内で、他のガス、すなわち、空気、酸素、窒素、および水素と混合される。これらのガスは、密閉燃焼チャンバ内の火炎において互いに反応を起こし、二酸化ジルコニウム(または混合酸化ジルコニウム)および廃ガスを生成する。次いで、高温廃ガスおよび金属酸化物を熱交換器ユニット内で冷却し、廃ガスを金属酸化物から分離し、得られた金属酸化物に付着しているハロゲン化物の残留物を湿った空気で熱処理することによって除去する。
【0037】
二酸化ジルコニウム、またはジルコニウムを含む混合金属酸化物を調製するのに適した火炎噴霧熱分解(FSP)法は、以下のステップを含み得る:
1) ジルコニウム前駆体を含有する溶液を、例えば、空気または不活性ガスを用いて、好ましくは、多物質ノズルを使用して噴霧するステップ、ならびに
2) 燃焼ガス、好ましくは水素および/またはメタンと空気とを混合するステップ、ならびに
3) 混合物を火炎において燃焼させて、ケーシングに囲まれた反応チャンバに入れるステップ、
4) 高温ガスおよび固体生成物を冷却し、次いで、固体生成物をガスから除去するステップ。
【0038】
二酸化ジルコニウム、およびジルコニウムを含む混合酸化物を火炎噴霧熱分解法によって製造するために使用される好ましいZr金属前駆体は、カルボン酸ジルコニウム、特に、6~9個の炭素原子を有する脂肪族カルボン酸のカルボン酸ジルコニウム、例えば、2-エチルヘキサン酸ジルコニウムである。
【0039】
ジルコニウム混合金属酸化物を製造するために必要な他の金属前駆体は、硝酸塩、塩化物などの無機化合物、またはカルボン酸塩などの有機化合物のいずれかであり得る。
【0040】
使用される金属酸化物前駆体は、水または有機溶媒に溶解させて噴霧化することができる。適切な有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、tert-ブタノール、2-プロパノン、2-ブタノン、ジエチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、C1~C8カルボン酸、酢酸エチル、トルエン、石油、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0041】
したがって、本発明による方法で使用される、発熱的に製造された二酸化ジルコニウム、およびジルコニウムを含む発熱的に製造された混合酸化物は、凝結した一次粒子の形態にあり、一次粒子の数値平均直径は、透過型電子顕微鏡法(TEM)によって決定して、好ましくは5~100nm、より好ましくは10~90nm、さらにより好ましくは20~80nmである。この数値平均直径は、TEMによって分析された少なくとも500個の粒子の平均サイズを計算することによって決定することができる。
【0042】
発熱的に製造された二酸化ジルコニウム、およびジルコニウムを含む発熱的に製造された混合酸化物の凝結体の平均直径は、通常、約10~1000nmであり、凝集体の平均直径は、通常、1~2μmである。これらの平均数値は、適切な分散液中で、例えば水性分散液中で、静的光散乱(SLS)法によって決定することができる。凝集体および部分的に凝結体は、例えば、粒子を粉砕または超音波処理することによって破壊することができ、それによって、より小さな粒径を有する粒子が得られる。
【0043】
好ましくは、二酸化ジルコニウム、および/またはジルコニウムを含む混合酸化物の平均粒径d50は、粒子5重量%と0.5g/Lのピロリン酸ナトリウム水溶液95重量%とからなる混合物の25℃での超音波処理60秒後に静的光散乱(SLS)によって決定して、10~150nm、より好ましくは20~130nm、さらにより好ましくは30~120nmである。
【0044】
したがって、本発明の方法で使用される、発熱的に製造された二酸化ジルコニウム、およびジルコニウムを含む発熱的に製造された混合酸化物は、好ましくは、穏やかな超音波処理下での高い分散性、すなわち、比較的小さな粒子を形成する能力によって特徴付けられる。そのような穏やかな条件下での分散は、乾式コーティングプロセス中の条件と相関すると考えられている。これは、酸化ジルコニウムの凝集体が、超音波処理と同様の手段で本発明の混合プロセスにおいて破壊され、遷移金属酸化物の均一なコーティングを形成することができることを意味する。
【0045】
二酸化ジルコニウムの粒子および/またはジルコニウムを含む混合酸化物の粒子のスパン(d90-d10)/d50は、粒子5重量%と0.5g/Lのピロリン酸ナトリウム水溶液95重量%とからなる混合物の25℃での超音波処理60秒後に静的光散乱(SLS)によって決定して、好ましくは0.4~1.2、より好ましくは0.5~1.1、さらにより好ましくは0.6~1.0である。
【0046】
したがって、本発明の方法で使用される、発熱的に製造された二酸化ジルコニウム、およびジルコニウムを含む発熱的に製造された混合酸化物は、好ましくは、比較的狭い粒径分布によって特徴付けられる。これは、遷移金属酸化物の表面上で高品質の酸化ジルコニウムコーティングを達成するのに役立つ。
【0047】
d値d10、d50、およびd90は、通常、所定のサンプルの累積粒径分布を特徴付けるために使用される。例えば、d10直径は、サンプルの体積の10%がd10未満の粒子からなる直径であり、d50は、サンプルの体積の50%がd50未満の粒子からなる直径である。d50は、サンプルを体積で均等に分割するため、「体積中央値直径」とも呼ばれ、d90は、サンプルの体積の90%がd90未満の粒子からなる直径である。
【0048】
二酸化ジルコニウム、およびジルコニウムを含む混合酸化物は、好ましくは、本質的に親水性であり、すなわち、これらは、発熱プロセスによるそれらの合成後に、シランなどの疎水性試薬によってさらに処理されない。このようにして製造された粒子は、通常、少なくとも96重量%、好ましくは少なくとも98重量%、より好ましくは少なくとも99重量%の純度を有する。ジルコニウムを含む金属酸化物は、二酸化ハフニウムの形態のハフニウム化合物を含み得る。二酸化ハフニウムの割合は、ZrOに基づいて、1~4重量%であり得る。本発明の方法で使用される、二酸化ジルコニウム、およびジルコニウムを含む混合酸化物は、好ましくは、元素Cd、Ce、Fe、Na、Nb、P、Ti、Znを10ppm未満の割合で含み、元素Ba、Bi、Cr、K、Mn、Sbを5ppm未満の割合で含み、これらの全ての元素の割合の合計は、100ppm未満である。塩化物の含有量は、金属酸化物粉末の質量に基づいて、好ましくは0.5重量%未満、より好ましくは0.01~0.3重量%である。炭素の割合は、金属酸化物粉末の質量に基づいて、好ましくは0.2重量%未満、より好ましくは0.005重量%~0.2重量%、さらにより好ましくは0.01重量%~0.1重量%である。
【0049】
ジルコニウムを含む混合酸化物は、リチウムと、任意選択的にランタンおよび/またはアルミニウムのうちの少なくとも1つとをさらに含み得る。ジルコニウムを含む以下の混合金属酸化物が特に好ましい:LiZrO、および一般式LiLaZr8.5+0.5x+zの混合酸化物、
式中、6.5≦x≦8、好ましくは7.0≦x≦7.5;
0≦y≦0.5、好ましくは0≦x≦0.2;
M=Hf、Ga、Ge、Nb、Si、Sn、Sr、Ta、およびTiの場合、z=2y;
M=Al、Sc、V、およびYの場合、z=1.5y;
M=Ba、Ca、Mg、およびZnの場合、z=y;
最も好ましくはLiLaZr12
【0050】
本発明の文脈における「遷移金属」という用語は、以下の元素を含む:Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au。好ましくは、遷移金属は、ニッケル、マンガン、コバルト、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0051】
本発明による方法において好ましく使用される混合リチウム遷移金属酸化物は、リチウム-コバルト酸化物、リチウム-マンガン酸化物、リチウム-ニッケル-コバルト酸化物、リチウム-ニッケル-マンガン-コバルト酸化物、リチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム酸化物、リチウム-ニッケル-マンガン酸化物、またはそれらの混合物からなる群から選択される。
【0052】
混合リチウム遷移金属酸化物は、好ましくは、一般式LiMOを有し、式中、Mは、ニッケル、コバルト、マンガンから選択される少なくとも1つの遷移金属であり、より好ましくは、M=CoまたはNiMnCoであり、式中、0.3≦x≦0.9、0≦y≦0.45、0≦z≦0.4である。
【0053】
一般式LiMOの混合リチウム遷移金属酸化物は、少なくとも1つの他の金属酸化物、特に酸化アルミニウムおよび/または酸化ジルコニウムでさらにドープすることができる。
【0054】
コーティングされた混合リチウム遷移金属酸化物は、好ましくは、2~20μmの数値平均粒径を有する。数値平均粒径は、レーザー回折粒径分析によって、ISO 13320:2009に従って決定することができる。
【0055】
二酸化ジルコニウム、および/またはジルコニウムを含む混合酸化物の割合は、混合リチウム遷移金属酸化物と、二酸化ジルコニウム、および/またはジルコニウムを含む混合酸化物との使用される混合物の総重量に対して、好ましくは0.05重量%~5重量%、より好ましくは0.1重量%~2重量%である。
【0056】
二酸化ジルコニウム、および/またはジルコニウムを含む混合酸化物の割合が0.05重量%未満である場合、コーティングの有益な効果は、通常、まだ観察することはできない。それが5重量%超である場合、通常、5重量%超の追加量のジルコニウムコーティングの有益な効果は観察されない。
【0057】
コーティングされた混合リチウム遷移金属酸化物は、TEM分析によって決定して、好ましくは10~200nmの厚さのコーティング層を有する。
【0058】
本発明はさらに、10nm~150nm、好ましくは20nm~130nm、より好ましくは30nm~120nmの数平均粒径d50を有する、発熱的に製造された二酸化ジルコニウム、および/またはジルコニウムを含む発熱的に製造された混合酸化物を混合リチウム遷移金属酸化物の表面上に含む、コーティングされた混合リチウム遷移金属酸化物を提供する。コーティングされた混合リチウム遷移金属酸化物における、発熱的に製造された二酸化ジルコニウム、および/またはジルコニウムを含む発熱的に製造された混合酸化物の数平均粒径d50は、透過型電子顕微鏡法(TEM)での分析によって測定することができ、本発明の方法で使用される、発熱的に製造された二酸化ジルコニウム、および/またはジルコニウムを含む発熱的に製造された混合酸化物についての平均粒径d50値に対応し、この平均粒径d50値は、粒子5重量%と0.5g/Lのピロリン酸ナトリウム水溶液95重量%とからなる混合物の25℃での超音波処理60秒後に静的光散乱(SLS)によって決定することができる。
【0059】
本発明のコーティングされた混合リチウム遷移金属酸化物は、好ましくは、本発明による方法によって得ることが可能である。
【0060】
本発明による方法の好ましい実施形態における、先に記載されている、コーティングされた混合リチウム遷移金属酸化物、発熱的に製造された二酸化ジルコニウム、および/またはジルコニウムを含む発熱的に製造された混合酸化物のさらなる好ましい特徴はまた、本発明によるコーティングされた混合リチウム遷移金属酸化物に関して、これが本発明の方法によって製造されるかどうかに関係なく、コーティングされた混合リチウム遷移金属酸化物、発熱的に製造された二酸化ジルコニウム、および/またはジルコニウムを含む発熱的に製造された混合酸化物それぞれの好ましい特徴である。
【0061】
本発明はさらに、本発明によるコーティングされた混合リチウム遷移金属酸化物または本発明による方法によって得ることが可能なコーティングされた混合リチウム遷移金属酸化物を含む、リチウム電池用の活性正極材料を提供する。
【0062】
リチウム電池の正極であるカソードは、通常、集電体と、集電体上に形成された活性カソード材料層とを含む。
【0063】
集電体は、アルミニウム箔、銅箔、ニッケル箔、ステンレス鋼箔、チタン箔、導電性金属でコーティングされたポリマー基材、またはそれらの組み合わせであり得る。
【0064】
活性正極材料は、リチウムイオンを可逆的に挿入/脱離することが可能な材料を含み得て、当技術分野で周知である。そのような活性カソード材料は、Ni、Co、Mn、Vまたは他の遷移金属と任意選択的にリチウムとを含む混合酸化物などの遷移金属酸化物を含み得る。ニッケル、マンガン、およびコバルトを含む混合リチウム遷移金属酸化物(NMC)が特に好ましい。
【0065】
本発明はまた、コーティングされた混合リチウム遷移金属酸化物または本発明による方法によって得ることが可能なコーティングされた混合リチウム遷移金属酸化物を含む、リチウム電池を提供する。
【0066】
本発明のリチウム電池は、カソードとは別に、アノードと、任意選択的にセパレータと、リチウム塩またはリチウム化合物を含む電解質とを含み得る。
【0067】
リチウム電池のアノードは、リチウムイオンを可逆的に挿入/脱離することが可能な、二次リチウム電池で一般的に使用される任意の適切な材料を含み得る。その典型的な例は、プレート状、フレーク、球状もしくは繊維状のタイプのグラファイトの形態の天然もしくは人工グラファイトなどの結晶性カーボン、ソフトカーボン、ハードカーボン、メソフェーズピッチカーバイド、焼成コークスなどの非晶質カーボン、またはそれらの混合物を含む、炭素質材料である。さらに、リチウム金属または変換材料(例えば、SiまたはSn)をアノード活物質として使用することができる。
【0068】
リチウム電池の電解質は、液体、ゲル、または固体の形態にあり得る。
【0069】
リチウム電池の液体電解質は、無水エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ガンマブチロラクトン、ジメトキシエタン、フルオロエチレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、またはそれらの混合物などの、リチウム電池で一般的に使用される任意の適切な有機溶媒を含み得る。
【0070】
ゲル電解質としては、ゲル化ポリマーが挙げられる。
【0071】
リチウム電池の固体電解質は、酸化物、例えば、リチウム金属酸化物、硫化物、リン酸塩、または固体ポリマーを含み得る。
【0072】
リチウム電池の電解質は、リチウム塩を含有し得る。そのようなリチウム塩の例としては、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、ビス2-(トリフルオロメチルスルホニル)イミドリチウム(LiTFSI)、過塩素酸リチウム(LiClO)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、LiSiF、リチウムトリフレート、LiN(SOCFCF、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0073】
本発明はさらに、リチウム電池の活性正極材料における、請求項12または13記載のコーティングされた混合リチウム遷移金属酸化物の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0074】
図1】ヒュームドZrOの粒径分布を示す図である。
図2】「ナノZrO」の粒径分布を示す図である。
図3】ヒュームドZrOを使用することによって調製したZrOでコーティングされたNMC上のZr(白)のSEM-EDXマッピングを示す図である。
図4】「ナノZrO」でコーティングされたNMCの分析の結果を示す図である。
図5】定電流サイクル試験の結果を示す図である。
【0075】
実施例
出発材料
40~60m/gの比表面積(BET)を有するヒュームドZrOを、国際公開第2009053232号の例1に従って火炎噴霧熱分解によって製造した。
【0076】
35m/g以上のBET表面積を有する市販の「ナノZrO」粉末(粒径20~30nm)は、ChemPUR Feinchemikalien und Forschungsbedarf GmbHから調達した。
【0077】
0.30~0.60m/gのBET表面積、中央粒径d50=10.6±2μm(静的レーザー散乱法によって測定)を有する市販の混合リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物粉末NMC(7-1.5-1.5)(タイプPLB-H7)は、Linyi Gelon LIB Co.から調達した。
【0078】
様々なZrOタイプの粒径分布
ヒュームドZrOまたは市販の「ナノZrO」粉末(5重量%)のサンプルを、蒸留水中に入ったピロリン酸ナトリウムの溶液(0.5g/L)に分散させ、外部の超音波浴で1分にわたって25℃で処理した(160W)。
【0079】
図1は、ヒュームドZrOの粒径分布を示し、図2は、レーザー回折粒径分析装置(HORIBA LA-950)を使用して静的レーザー回折法(SLS)によって分析した「ナノZrO」の粒径分布を示す。ヒュームドZrOについては、単峰性の非常に狭い粒径分布が検出され(d10=0.06014μm、d50=0.07751μm、d90=0.11406μm、スパン=(d90-d10)/d50=0.7)、ChemPURの「ナノZrO」については、広い二峰性分布が検出され、これは、大きな非分散粒子を示していた(d10=0.10769μm、d50=3.16297μm、d90=5.80804μm、スパン=(d90-d10)/d50=1.8)。
【0080】
実施例1
最初に、NMC粉末(217.8g)を、高強度実験室ミキサ(0.5Lの混合ユニットを有するSomakonのミキサMP-GL)内で、500rpm(比電力:350W/kgNMC)で1分にわたって2.2g(1.0重量%)のヒュームドZrO粉末と混合して、2つの粉末を均一に混合した。その後、混合強度を2000rpm(比電力:800W/kgNMC、混合ユニット内の混合ツールの先端速度:10m/s)に上昇させ、混合を5分にわたって続けて、ZrOによるNMC粒子の乾燥コーティングを達成した。
【0081】
コーティングされたNMC粒子は、TEM分析によって決定して、10~200nmの厚さのZrOコーティング層を示した。
【0082】
比較例1
実施例1の手順を正確に繰り返したが、唯一の違いは、ヒュームドZrOの代わりに「ナノZrO」粉末を使用したことであった。
【0083】
ZrOでコーティングされた混合リチウム遷移金属酸化物のSEM-EDXによる分析
図3は、ヒュームドZrOを使用することによって調製したZrOでコーティングされたNMC上のZr(白)のSEM-EDXマッピングを示し(例1)、図4は、「ナノZrO」でコーティングされたNMCの分析の結果を示す(比較例1)。図3および図4の軸は、以下のことを示す:x軸=粒径;左側のy軸=体積(%)、右側のy軸=累積体積(%)。ヒュームドZrOで乾式コーティングされたNMC混合酸化物は、ZrOによる全てのNMC粒子の完全かつ均一な被覆を示す。比較的大きなZrO凝集体は検出されず、これは、ナノ構造のヒュームドZrOの良好な分散性を示す。さらに、NMC粒子の隣に自由な結合していないZrO粒子は見られず、これは、コーティングと基材(NMC)との間の強い付着を示す。対照的に、図5は、「ナノZrO」の微細なZrO粒子のみがNMC粒子の表面に結合していることを示す。比較的大きなZrO粒子は、分散していないため、結合しておらず、NMC粒子の隣に位置している。結果として、NMC粒子は、酸化ジルコニウムで完全には覆われてはいない。
【0084】
電極の調製
電気化学的測定用の電極を、不活性ガス雰囲気下で90重量%のNMCを5重量%のポリフッ化ビニリデンバインダー(PVDF 5130、製造元:Solef)および5重量%の導電性カーボンブラック(SUPER PLi、製造元:TIMCAL)とブレンドすることによって調製した。N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を溶媒として使用した。スラリーをアルミ箔上に流し込み、空気中で加熱プレート上にて20分にわたって120℃で乾燥させた。その後、電極シートを2時間にわたって120℃の真空炉内で乾燥させた。12mmの直径を有する円形電極をより大きな部分から打ち抜き、次いで、90psiの圧力で2つのローラーの間で平らにし、12時間にわたって120℃の真空炉内で再び乾燥させて、残留水およびNMPを全て除去した。
【0085】
リチウム電池の組み立て
サイクル試験用のリチウム電池セルを、アルゴンを充填したグローブボックス(GLOVEBOX SYSTEMTECHNIK GmbH)内でCR2032タイプのコイン電池(MTI Corporation)として組み立てた。リチウム金属(ROCKWOOD LITHIUM GmbH)をアノード材料として使用した。Celgard 2500をセパレータとして使用した。エチレンカーボネートおよびエチルメチルカーボネート中に入ったLiPFの1M溶液25μL(50:50重量/重量;SIGMA-ALDRICH)を電解質として使用した。セルは、クリンパ(MTI)で固定した。
【0086】
定電流サイクル試験
組み立てたリチウム電池の定電流サイクル性能は、3.0~4.3Vのカットオフ電圧でMACCORのバッテリーサイクラーを使用して25℃で測定した。Cレート(充電/放電)は、0.1C/0.1C(充電/放電)から開始して、0.3C/0.3C、0.5C/0.5C、1.0C/1.0C、1.0C/2.0C、および1.0C/4.0Cまで、4サイクルごとに増加させた。その後、長期安定性試験のために、セルを0.5C/0.5Cでサイクルさせた。(0.5Cレートは、0.7mAh/cmの電流密度に対応する)。容量および比電流の計算では、活物質の質量のみを考慮した。これらの結果を図5に示す。図5の軸は、以下のことを示す:x軸=サイクル数;y軸=放電容量(mAh/g)。
【0087】
図5では、ヒュームドZrOでコーティングされたNMCのサイクル性能(三角形の線)が、「ナノZrO」でコーティングされたNMC(円の線)および参照としてのコーティングされていないNMC(正方形の線)と比較されている。これらの結果から、ヒュームドZrOコーティングが、NMCの安定性およびサイクル寿命を大幅に改善することが明らかである。ヒュームドZrOでコーティングされたNMCは、他の試験された材料と比較して、最初のレート試験および長期サイクル試験の両方で、全てのサイクルにわたって最大の放電容量を示す。また、このNMCが、0.1℃で他のサンプルよりも高い初期比放電容量を示すことは注目に値する。「ナノZrO」でコーティングされたNMCを有するセルは、著しくより悪いサイクル性能を示す。この材料の場合、4Cの放電レートでのレート性能および長期サイクル試験での容量保持は、コーティングされていないNMCの結果よりもさらに悪くなる。
図1
図2
図3
図4
図5