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特許7623369歯垢の検出、監視及び除去のための自動化された精密デバイス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】歯垢の検出、監視及び除去のための自動化された精密デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61C 17/00 20060101AFI20250121BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20250121BHJP
【FI】
A61C17/00 Z
A61B5/00 102A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022524667
(86)(22)【出願日】2020-10-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-10
(86)【国際出願番号】 US2020057923
(87)【国際公開番号】W WO2021087088
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-09-26
(31)【優先権主張番号】62/927,414
(32)【優先日】2019-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500429103
【氏名又は名称】ザ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ ペンシルバニア
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クー、ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】スティーガー、エドワード
(72)【発明者】
【氏名】ハンター、エリザベス
(72)【発明者】
【氏名】バビーア、アラー
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0255498(US,A1)
【文献】特表2009-502214(JP,A)
【文献】特開昭54-147938(JP,A)
【文献】特表2018-510136(JP,A)
【文献】特表2014-506231(JP,A)
【文献】特表2001-520179(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 17/00
A61B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔ケアデバイスであって、
ユーザの上歯に適合するように構成された上部チャネル及び下歯に適合するように構成された下部チャネルを有する可撓性マウスピースを含み、
前記マウスピースが、酸化鉄ナノ粒子を含む懸濁液を含み、
1つ又は複数の磁気素子及び
前記酸化鉄ナノ粒子を再懸濁するための振動モータ
を更に含む、
口腔ケアデバイス。
【請求項2】
前記1つ又は複数の磁気素子が、バイオフィルムに磁場を印加して酸化鉄ナノ粒子を作動させ、抗菌ロボット又は自律磁気剛毛若しくはロボットに組み立てるように適合された永久磁石又は電磁石を含む、請求項1に記載の口腔ケアデバイス。
【請求項3】
前記デバイスが、光検出器又はRGBセンサを更に含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記光検出器が、発光ダイオードに結合されている、請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記マウスピースが、前記懸濁液と、前記ユーザの歯間を含む上歯、下歯、及び歯肉の表面との間の接触を提供するように構成される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記懸濁液が、過酸化水素、過酸化カルバミド、1つ又は複数の酵素、1つ又は複数の抗菌化合物、1つ又は複数の界面活性剤、1つ又は複数の洗浄剤、1つ又は複数のフッ化物イオン源、1つ又は複数の研磨化合物、グリセロール、1つ又は複数のフラボノイド、テルペノイド、ポリフェノール、プロアントシアニジン、タンニン、クマリン、ローズベンガル、ペルボラート、メタペルヨーダート、ソルビトール、キシリトール、1-デオキシノジリマイシン及びそれらの組み合わせからなる群から選択される成分を更に含む、請求項5に記載のデバイス。
【請求項7】
前記懸濁液が、過酸化水素を含む、請求項6に記載のデバイス。
【請求項8】
前記懸濁液が、1つ又は複数の酵素を含む、請求項6に記載のデバイス。
【請求項9】
前記1つ又は複数の酵素が、ムタナーゼ、デキストラナーゼ、DNase、プロテアーゼ、リパーゼ、アミログルコシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、又はそれらの組み合わせである、請求項8に記載のデバイス。
【請求項10】
前記懸濁液が、ペルオキシダーゼ感受性染料を更に含む、請求項7に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年10月29日に出願された米国仮特許出願第62/927,414号の優先権を主張し、その内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
歯及び歯肉を健康な状態に維持するには、歯磨き、デンタルフロッシング及び抗菌性含嗽液などの定期的な自己管理された口腔ケアが必要である。米国歯科協会は、成人と子供の両方に1日2回の歯磨きを推奨している。しかし、歯磨きは、推奨される基準未満、例えば、1日に推奨される回数未満又は推奨される時間間隔未満で行われることが多い。推奨される基準に歯磨きを行わない理由としては、例えば、上顎及び下顎の全ての歯を十分にきれいにするのに必要な時間及び努力、動作中のユーザの退屈、手の器用さ、及び雑事様の活動を行うことに対する関心の欠如を挙げることができる。更に、最適なプラーク除去には、(歯間の)フロッシング及び細菌を化学的に死滅させるための洗口などの複数の工程が必要である。
【0003】
不十分なデンタルケアは、バイオフィルムの形成をもたらし得る。バイオフィルムは、エキソポリサッカライド(EPS)などの細胞外ポリマー物質のマトリックスに囲まれた細菌細胞の構造化されたコミュニティであり、抗菌剤に対する保護、バイオフィルム構造への凝集、及び表面への強固な接着のための機械的安定性を提供するバリアとして作用することができる。歯に形成されるバイオフィルムは、齲蝕(虫歯)、歯肉炎及び歯周病に関連する。
【0004】
歯の上のバイオフィルムに対抗するための特定の技術は、細菌を死滅させて物理的に除去することができず、また、歯磨き及びデンタルフロスなどの手作業のバイオフィルム除去のための器用さを必要とするため、大部分が不十分であり面倒である。経口消毒剤及び含嗽液などの特定の抗菌剤は、バイオフィルムマトリックスを破壊することができず、保護されたバイオフィルム構造の内部に埋め込まれた細菌に対する死滅効果が限られており、バイオフィルムは、バイオフィルムの破片及び細菌が除去されない場合に迅速に再定着する能力を保持する。歯科医院(削る)及び家庭(歯ブラシ、デンタルフロス及び電動ブラシ)の両方で歯垢を機械的に除去するための特定のデバイス及び方法が利用可能であるが、それらは手先の器用さを必要とする。
【0005】
上述の技術は、コンプライアンスの欠如に起因するプラークの蓄積及び口腔疾患のリスクがある消費者、並びに、手先の器用さが不十分な可能性がある高齢者及び身体的及び認知的障害を有する患者の両方に課題をもたらす。
【0006】
これらの課題は、プラークの蓄積又はプラーク-バイオフィルムに関連する口腔の健康状態をリアルタイムで検出及び監視するための利用可能な技術の欠如によって悪化する。
【0007】
したがって、歯垢の検出、監視、及び除去を高精度で自動化された方法で同時に達成することができるデバイスが必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
歯から歯のバイオフィルムを除去し、そのような歯のバイオフィルム内の細菌を根絶するためのデバイス及び方法が本明細書に提示される。
他の記載と重複するが、本発明の諸態様は以下のとおりである。ただし、本発明は以下に限定されない。
[1]
口腔ケアデバイスであって、
ユーザの上歯に適合するように構成された上部チャネル及び下歯に適合するように構成された下部チャネルを有する可撓性マウスピースを含み、
前記マウスピースが、
1つ又は複数の磁気素子及び
振動モータ
を更に含む、
口腔ケアデバイス。
[2]
前記1つ又は複数の磁気素子が、バイオフィルムに磁場を印加して酸化鉄ナノ粒子を作動させ、抗菌ロボット又は自律磁気剛毛若しくはロボットに組み立てるように適合された永久磁石又は電磁石を含む、[1]に記載の口腔ケアデバイス。
[3]
前記デバイスが、光検出器又はRGBセンサを更に含む、[1]に記載のデバイス。
[4]
前記光検出器が、発光ダイオードに結合されている、[3]に記載のデバイス。
[5]
前記マウスピースが、酸化鉄ナノ粒子を含む懸濁液を含み、
前記マウスピースが、前記懸濁液と、前記ユーザの歯間を含む上歯、下歯、及び歯肉の表面との間の接触を提供するように構成される、[1]に記載のデバイス。
[6]
前記懸濁液が、過酸化水素、過酸化カルバミド、1つ又は複数の酵素、1つ又は複数の抗菌化合物、1つ又は複数の界面活性剤、1つ又は複数の洗浄剤、1つ又は複数のフッ化物イオン源、1つ又は複数の研磨化合物、グリセロール、1つ又は複数のフラボノイド、テルペノイド、ポリフェノール、プロアントシアニジン、タンニン、クマリン、ローズベンガル、ペルボラート、メタペルヨーダート、ソルビトール、キシリトール、1-デオキシノジリマイシン及びそれらの組み合わせからなる群から選択される成分を更に含む、[5]に記載のデバイス。
[7]
前記懸濁液が、過酸化水素を含む、[6]に記載のデバイス。
[8]
前記懸濁液が、1つ又は複数の酵素を含む、[6]に記載のデバイス。
[9]
前記1つ又は複数の酵素が、ムタナーゼ、デキストラナーゼ、DNase、プロテアーゼ、リパーゼ、アミログルコシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、又はそれらの組み合わせである、[8]に記載のデバイス。
[10]
前記懸濁液が、ペルオキシダーゼ感受性染料を更に含む、[7]に記載のデバイス。
[11]
歯のバイオフィルムを除去するための方法であって、前記方法が、
[1]に記載のデバイスを前記ユーザの口に挿入することと、
酸化鉄ナノ粒子を含む懸濁液を前記マウスピースの上部チャネル及び下部チャネルに投与することと、
歯のバイオフィルムの除去に適した抗菌ロボット又は自律磁気剛毛若しくはロボットに組み立てるために、前記酸化鉄ナノ粒子を1つ又は複数の磁気素子で作動させることと、
磁場を印加して、前記抗菌ロボット又は自律磁気剛毛若しくはロボットを、前記ユーザの歯間を含む上歯、下歯、及び歯肉の表面に沿って移動させ、歯のバイオフィルムを機械的に除去することと、
を含む、方法。
[12]
前記懸濁液が、過酸化水素、過酸化カルバミド、1つ又は複数の酵素、1つ又は複数の抗菌化合物、1つ又は複数のフッ化物イオン源、1つ又は複数の研磨化合物、グリセロール、界面活性剤、洗浄剤、フラボノイド、テルペノイド、ポリフェノール、プロアントシアニジン、タンニン、クマリン、ローズベンガル、ペルボラート、メタペルヨーダート、ソルビトール、キシリトール、1-デオキシノジリマイシン及びそれらの組み合わせからなる群から選択される成分を更に含む、[11]に記載の方法。
[13]
前記懸濁液が、過酸化水素を含み、
前記酸化鉄ナノ粒子が、過酸化水素を活性化して、歯のバイオフィルムを分解し、歯のバイオフィルム内の細菌を根絶することができるラジカルを生成する、[12]に記載の方法。
[14]
前記懸濁液が、50%グリセロール又は水性緩衝液1ミリリットル当たり2000マイクログラムの酸化鉄ナノ粒子を含む、[11]に記載の方法。
[15]
前記懸濁液が、ムタナーゼ、デキストラナーゼ及びそれらの組み合わせからなる群から選択される1つ又は複数の酵素を含む、[12]に記載の方法。
[16]
前記懸濁液が、1%H 及び1.75U/8.75Uムタナーゼ/デキストラナーゼを含む、[12]に記載の方法。
[17]
歯のバイオフィルムを検出及び除去するための方法であって、前記方法が、
[3]に記載のデバイスを前記ユーザの口に挿入することと、
酸化鉄ナノ粒子及び過酸化水素を含む懸濁液を前記マウスピースの前記上部チャネル及び前記下部チャネルに投与することであって、前記酸化鉄ナノ粒子の一部が前記歯のバイオフィルムに結合し、前記酸化鉄ナノ粒子の残りが未結合のままである、ことと、
3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジンを前記マウスピースの上部チャネル及び下部チャネルに投与して、結合した酸化鉄ナノ粒子を青色に染色することと、
前記結合した酸化鉄ナノ粒子を光検出器で検出することによって、歯のバイオフィルムの位置を特定することと、
前記未結合酸化鉄ナノ粒子を1つ又は複数の磁気素子で作動させて、歯のバイオフィルムの除去に適した抗菌ロボット又は自律磁気剛毛若しくはロボットに組み立てることと、
磁場を印加して、前記抗菌ロボット又は自律磁気剛毛若しくはロボットを、前記ユーザの歯間を含む上歯、下歯、及び歯肉の表面に沿って移動させ、歯のバイオフィルムを機械的に除去することと、
を含む、方法。
[18]
除去された前記歯のバイオフィルムの量を検出することを更に含む、[17]に記載の方法。
[19]
プラーク蓄積のレベル及びプラーク除去のレベルを監視することを更に含む、[17]に記載の方法であって、前記方法が、
サーバで、歯のバイオフィルムの位置及び量に関連するデータを収集することであって、前記データが、結合した酸化鉄ナノ粒子を検出することから得られる、ことと、
データを、プロセッサによって前記プラーク蓄積のレベル及び前記プラーク除去のレベルを示す数値に変換することと、
前記プラーク蓄積のレベル及び前記プラーク除去のレベルの表現を、端末デバイス又はウェブベースのアプリケーションのユーザインターフェースに表示することと、
を含む、方法。
[20]
前記プラーク蓄積のレベル及び前記プラーク除去のレベルの前記表現が、数値、グラフィック又は色/視覚出力のうちの1つ又は複数である、[19]に記載の方法。
【0009】
特定の実施形態では、本開示は口腔ケアデバイスを提供する。例示的なデバイスは、ユーザの上歯に適合するように構成された上部チャネル及び下歯に適合するように構成された下部チャネルとを有する可撓性マウスピースを含む。特定の実施形態では、マウスピースは、1つ又は複数の磁気素子及び振動モータを含む。特定の実施形態では、1つ又は複数の磁気素子は、バイオフィルムに磁場を印加して酸化鉄ナノ粒子を作動させ、抗菌ロボット又は自律磁気剛毛若しくはロボットに組み立てるように適合された永久磁石及び/又は電磁石を含む。
【0010】
特定の実施形態では、本開示の口腔ケアデバイスは、光検出器又はRGBセンサを更に含む。特定の実施形態では、光検出器は、発光ダイオードに結合される。
【0011】
特定の実施形態では、本開示のマウスピースの上部チャネル及び下部チャネルは、酸化鉄ナノ粒子を含む懸濁液を含み、マウスピースの上部チャネル及び下部チャネルは、懸濁液と、ユーザの上歯、下歯、歯間、及び歯肉の表面との接触を提供するように構成される。
【0012】
特定の実施形態では、マウスピースの上部チャネル及び下部チャネルは、酸化鉄ナノ粒子を含む懸濁液と、過酸化水素、過酸化カルバミド、酵素、抗菌化合物、フッ化物イオン源、研磨化合物、フラボノイド、テルペノイド、ポリフェノール、プロアントシアニジン、タンニン、クマリン、界面活性剤、洗浄剤、グリセロール、ローズベンガル、ペルボラート、メタペルヨーダート、ソルビトール、キシリトール、1-デオキシノジリマイシン、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される成分とを含む。特定の実施形態では、懸濁液は、過酸化水素を含む。特定の実施形態では、懸濁液は、1つ又は複数の酵素を含む。特定の実施形態では、1つ又は複数の酵素は、ムタナーゼ、デキストラナーゼ、又はそれらの組み合わせである。
【0013】
特定の実施形態では、懸濁液は、過酸化水素及びペルオキシダーゼ感受性染料を含む。特定の実施形態では、ペルオキシダーゼ感受性染料は、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)である。他の染料としては、2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸(ABTS)、o-フェニレンジアミン(OPD)、3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)、ピロガロール、4-アミノ-2,3-ジメチル-1-フェニル-3-ピラゾリノン(4-アミノアンチピリン)、5-アミノサリチル酸(5-AS)、3-メチル-2-ベンゾチアゾリノン(MBTH)、並びに10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン、テレフタル酸、ホモバニル酸、2-[6-(4-アミノフェノキシ)-3-オキソ-3H-キサンテン-9-イル]安息香酸、(2-[6-(4’-ヒドロキシ)フェノキシ-3H-キサンテン-3-オン-9-イル]安息香酸、2’,7’-ジクロロフルオレセインジアセタート、2,7-ジクロロジヒドロフルオレセインジアセタート、クマリンボロン酸、クマリンボロン酸ピナコラートエステル、ジヒドロローダミン123、ルシゲニン、ジヒドロエチジウムなどの蛍光染料が挙げられる。
【0014】
特定の実施形態では、本開示は、歯のバイオフィルムを除去する方法を提供する。例示的な方法は、本開示の口腔ケアデバイスをユーザの口に挿入すること、酸化鉄ナノ粒子を含む懸濁液をマウスピースの上部チャネル及び下部チャネルに投与すること、歯のバイオフィルムの除去に適した抗菌ロボット又は自律磁気剛毛若しくはロボットに組み立てるために、酸化鉄ナノ粒子を1つ又は複数の磁気素子で作動させること、磁場を印加して抗菌ロボット又は自律磁気剛毛若しくはロボットを、ユーザの歯間を含む上歯、下歯、及び歯肉の表面に沿って移動させ、歯のバイオフィルムを機械的に除去することを含む。
【0015】
特定の実施形態では、懸濁液は、過酸化水素、過酸化カルバミド、酵素、抗菌化合物、界面活性剤、洗浄剤、フッ化物イオン源、研磨化合物、グリセロール、フラボノイド、テルペノイド、ポリフェノール、プロアントシアニジン、タンニン、クマリン、ローズベンガル、ペルボラート、メタペルヨーダート、ソルビトール、キシリトール、1-デオキシノジリマイシン及びそれらの組み合わせから選択される成分を更に含む。
【0016】
特定の実施形態では、歯のバイオフィルムを除去するための方法は、本開示の口腔ケアデバイスをユーザの口に挿入することと、酸化鉄ナノ粒子及び過酸化水素を含む懸濁液を上部チャネル及び下部チャネルに投与することとを含む。特定の実施形態では、懸濁液は、懸濁液の総重量に基づいて、約0.1%w/w~約10%w/w、約0.5%w/w~約7.5%w/w、又は約1%w/w~約5%w/wの過酸化水素を含む。特定の実施形態では、懸濁液は、懸濁液の総重量に基づいて、少なくとも約0.1%w/w、少なくとも約0.5%w/w、少なくとも約1.0%w/w、少なくとも約2.0%w/w、少なくとも約3.0%w/w、少なくとも約4.0%w/w、少なくとも約5.0%w/w、少なくとも約6.0%w/w、少なくとも約7.0%w/w、少なくとも約8.0%w/w、少なくとも約9.0%w/w、又は少なくとも約10%w/wを含むことができる。特定の実施形態では、懸濁液は、懸濁液の総重量に基づいて、約0.5%w/w未満、約1.0%w/w未満、約2.0%w/w未満、約3.0%w/w未満、約4.0%w/w未満、約5.0%w/w未満、約6.0%w/w未満、約7.0%w/w未満、約8.0%w/w未満、約9.0%w/w未満、又は約10%w/w未満を含むことができる。酸化鉄ナノ粒子は過酸化水素を活性化して、歯のバイオフィルムを分解し、歯のバイオフィルム内の細菌を根絶することができる生物活性ラジカルを生成する。この方法は、歯のバイオフィルムの除去に適した抗菌ロボット又は自律磁気剛毛又はロボットに組み立てるために1つ又は複数の磁気素子で酸化鉄ナノ粒子を作動させること、磁場を印加して抗菌ロボット又は自律磁気剛毛若しくはロボットをユーザの上歯、下歯、歯間、及び歯肉の表面に沿って移動させ、歯のバイオフィルムを機械的に除去することを更に含む。特定の実施形態では、懸濁液は、水中の50%グリセロール、又は水、又は水性緩衝液1ミリリットル当たり、約500マイクログラム~約5000マイクログラム、約750マイクログラム~約4750マイクログラム、約1000マイクログラム~約4500マイクログラム、約1250マイクログラム~約4250マイクログラム、約1500マイクログラム~約4000マイクログラム、約1750マイクログラム~約3750マイクログラム、又は約2000マイクログラム~約3500マイクログラムの酸化鉄ナノ粒子を含む。特定の実施形態では、懸濁液は、水中の50%グリセロール、又は水1ミリリットル当たり、5000マイクログラム未満、4500マイクログラム未満、4000マイクログラム未満、3500マイクログラム未満、3000マイクログラム未満、2500マイクログラム未満、2000マイクログラム未満、1500マイクログラム未満、又は1000マイクログラム未満の酸化鉄ナノ粒子を含む。特定の実施形態では、懸濁液は、水中の50%グリセロール、又は水、又は水性緩衝液1ミリリットル当たり、少なくとも500マイクログラム、少なくとも1000マイクログラム、少なくとも1500マイクログラム、少なくとも2000マイクログラム、少なくとも2500マイクログラム、少なくとも3000マイクログラム、少なくとも3500マイクログラム、少なくとも4000マイクログラム、又は少なくとも4500マイクログラムの酸化鉄ナノ粒子を含む。一実施形態では、懸濁液は、50%グリセロール1ミリリットル当たり、2000マイクログラムの酸化鉄ナノ粒子を含む。特定の実施形態では、懸濁液は、ムタナーゼ、デキストラナーゼ及びそれらの組み合わせからなる群から選択される1つ又は複数の酵素を含む。特定の実施形態では、懸濁液は、1%過酸化水素及び1.75U/8.75Uのムタナーゼ/デキストラナーゼを含む。
【0017】
特定の実施形態では、本開示は、歯のバイオフィルムを検出及び除去する方法を提供し、方法は、本開示の口腔ケアデバイスをユーザの口に挿入すること、酸化鉄ナノ粒子及び過酸化水素を含む懸濁液を上部チャネル及び下部チャネルに投与することを含む。酸化鉄ナノ粒子の一部は歯のバイオフィルムに結合し、酸化鉄ナノ粒子の別の一部は未結合のままである。この方法は、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジンを上部チャネル及び下部チャネルに投与して、バイオフィルムに結合した酸化鉄ナノ粒子を青色に染色すること、結合した酸化鉄ナノ粒子を光検出器で検出することによって歯のバイオフィルムの位置を特定すること、歯のバイオフィルムの除去に適した抗菌ロボット又は自律磁気剛毛若しくはロボットに組み立てるために、未結合酸化鉄ナノ粒子を1つ又は複数の磁気素子で作動させること、及び結合した酸化鉄ナノ粒子を有する表面に沿って抗菌ロボット又は自律磁気剛毛若しくはロボットを移動させるために磁場を印加することによって歯のバイオフィルムを機械的に除去することを更に含む。特定の実施形態では、本方法は、除去された歯のバイオフィルムの量を検出することを更に含む。
【0018】
特定の実施形態では、本開示の方法は、プラーク蓄積のレベル及びプラーク除去のレベルを監視することを更に含み、この方法は、サーバで、歯のバイオフィルムの位置及び量に関連するデータを収集することであって、データが、結合した酸化鉄ナノ粒子を光検出器で検出することから得られること、データを、プロセッサによってプラーク蓄積のレベル及びプラーク除去のレベルを示す数値に変換すること、及びプラーク蓄積のレベル及びプラーク除去のレベルの表現を、端末デバイス又はウェブベースのアプリケーションのユーザインターフェースに表示することを含む。特定の実施形態では、プラーク蓄積のレベル及びプラーク除去のレベルの表現は、数値、グラフィック又は色/視覚出力のうちの1つ又は複数である。
【0019】
本開示の一部に組み込まれて構成される添付の図面は、本発明の好ましい実施形態を示し、本発明の原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1A】酸化鉄ナノ粒子の二重触媒-磁気官能性を示す図である。
図1B】抗菌剤に対するバイオフィルムの耐性及びEPSマトリックスによる機械的除去を示す図である。
図1C】バイオフィルムの検出及び破壊を示す図である。
図1D】バイオフィルムの磁気作動及び除去を示す図である。
図2A】歯列弓に適合する可撓性材料で作られたデバイスを示す図である。拡大図は、歯のバイオフィルムの除去並びにバイオフィルムの検出及び監視のための多機能性を有するデバイスを示す。
図2B】口腔の健康及び衛生(歯のバイオフィルムの蓄積及び除去)を監視するためのアプリ/モバイルに無線でリンクされたデバイスを示す図である。
図3A】酸化鉄ナノ粒子がヒトの歯肉上皮細胞に結合しないことを示す図である。
図3B】酸化鉄ナノ粒子がバイオフィルムに結合することを示す図である。
図3C】酸化鉄ナノ粒子のバイオフィルム細菌の根絶の有効性を示す図である。
図4A】バイオフィルム中の酸化鉄ナノ粒子の触媒活性を酸化鉄ナノ粒子の濃度の関数として示す図である。図4Aの挿入図は、酸化鉄ナノ粒子、TMB及び過酸化水素の処理後のバイオフィルムの(青色への)色変化を更に示す。
図4B】酸化鉄ナノ粒子、TMB及び過酸化水素の処理後のマウスモデルを使用した実際の歯上のバイオフィルムの(青色への)色の変化を示す図である。図4Bは、TMB及び過酸化水素がバイオフィルムのみを染色し、歯を染色しないことを更に示す。
図4C】歯の表面を染色せずにバイオフィルムを染色した歯の拡大図を示す図である。
図5A】青色を検出するために使用されるプラーク検出回路を示す図である。
図5B】青色が検出された場合に、プラーク検出回路のインジケータLEDが点灯することを示す図である。
図5C】青色が検出されない場合に、プラーク検出回路のインジケータLEDが消灯することを示す図である。
図5D】除去された様々なバイオフィルムの量と、バイオフィルム(プラーク)検出に使用される青色インジケータとの関係を示す図である。
図6A】磁気素子によって前後に操作されている酸化鉄ナノ粒子を示す図である。
図6B】磁気素子によって前後に操作されている酸化鉄ナノ粒子を示す図である。
図6C】磁気素子によって前後に操作されている酸化鉄ナノ粒子を示す図である。
図6D】磁気素子によって前後に操作されている酸化鉄ナノ粒子を示す図である。
図6E】磁気素子によって前後に操作されている酸化鉄ナノ粒子を示す図である。
図6F】磁気素子によって前後に操作されている酸化鉄ナノ粒子を示す図である。
図7A】酸化鉄ナノ粒子が磁場中で歯の表面上で呈する剛毛様構造を示す図である。
図7B】酸化鉄ナノ粒子が磁場中で歯の表面上で呈する剛毛様構造を示す図である。
図7C】酸化鉄ナノ粒子が磁場中で歯の表面上で呈する剛毛様構造を示す図である。
図7D】酸化鉄ナノ粒子が磁場中で歯の表面上で呈する剛毛様構造を示す図である。図7Bの左パネルは磁場オフを示し、図7Bの中央及び右パネルは磁場がオンになった直後を示し、剛毛様構造の組み立てを示す。
図8A】剛毛様酸化鉄ナノ粒子ロボット構造の磁気的に制御された動きによるエナメル質表面からのプラークバイオフィルムの除去を示す図である。
図8B】剛毛様酸化鉄ナノ粒子ロボット構造の磁気的に制御された動きによるエナメル質表面からのプラークバイオフィルムの除去を示す図である。
図8C】剛毛様酸化鉄ナノ粒子ロボット構造の磁気的に制御された動きによるエナメル質表面からのプラークバイオフィルムの除去を示す図である。
図8D】剛毛様酸化鉄ナノ粒子ロボット構造の磁気的に制御された動きによるエナメル質表面からのプラークバイオフィルムの除去を示す図である。
図9A】狭い近位間領域からのバイオフィルムのプラークの除去を示す図である。
図9B】狭い近位間領域からのバイオフィルムのプラークの除去を示す図である。
図9C】狭い近位間領域からのバイオフィルムのプラークの除去を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本開示の主題は、細菌を根絶し、酸化鉄ナノ粒子を含む懸濁液で歯垢のバイオフィルムマトリックスを分解することができる口腔ケアデバイスを提供する。特定の実施形態では、本開示のデバイスはまた、歯垢を検出及び監視することができる。本開示のデバイスは、歯垢の量及び除去のリアルタイム監視を可能にするために、Bluetoothなどのセンサ及びマイクロプロセシング特性を更に含むことができる。本開示はまた、抗菌ロボット又は自律磁気剛毛若しくはロボットを形成する酸化鉄ナノ粒子を含む懸濁液で、細菌を根絶し、歯垢のバイオフィルムマトリックスを分解する方法を提供する。
【0022】
限定ではなく明確にするために、この詳細な説明は以下の下位部分に分割される。
-定義、
-鉄ナノ粒子懸濁液、
-口腔ケアデバイス、
-歯のバイオフィルムを除去する方法。
【0023】
定義
本明細書で使用される用語は、一般に、この主題の文脈内及び各用語が使用される特定の文脈内で、当技術分野における通常の意味を有する。開示される主題の組成物及び方法並びにそれらを作製及び使用する方法を説明する際の更なる指針を提供するために、特定の用語を以下に定義する。
【0024】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「化合物」への言及は、化合物の混合物を含む。
【0025】
本明細書の詳細な説明において、「実施形態(embodiment)」、「実施形態(an embodiment)」、「一実施形態(one embodiment)」、「様々な実施形態では(in various embodiments)」などへの言及は、記載された実施形態が特定の特徴、構造、又は特性を含むことができるが、全ての実施形態が必ずしも特定の特徴、構造、又は特性を含むとは限らないことを示す。更に、そのような語句は、必ずしも同じ実施形態を指すとは限らない。更に、特定の特徴、構造、又は特性が実施形態に関連して説明される場合、他の実施形態に関連してそのような特徴、構造、又は特性に影響を及ぼすことは、明示的に記載されているか否かにかかわらず、当業者の知識の範囲内であると考えられる。説明を読んだ後、代替の実施形態において本開示をどのように実施するかは、当業者には明らかであろう。
【0026】
光検出器及び発光ダイオードに関して本明細書で使用される「結合された」という用語は、2つの構成要素間の電気的又は無線接続を指し、発光ダイオードは、光検出器によって検出された情報の視覚的インジケータを生成することができる。
【0027】
「歯のバイオフィルム」及び「歯垢」という用語は、本明細書では互換的に使用され、口中の表面上で増殖するバイオフィルム又は細菌の塊を指す。
【0028】
本明細書で使用される場合、「ユーザ」という用語は、動物又はヒトなどの哺乳動物を含む。好ましい実施形態では、対象はヒトである。特定の非限定的な実施形態では、「ユーザ」は、ユーザインターフェースを使用するか又はそれと対話することができる端末デバイスを使用するか又はそれと対話する任意の個人とすることができる。
【0029】
「端末デバイス」という用語は、例えば、限定はしないが、パーソナルコンピュータ、ラップトップコンピュータ、ワークステーション、モバイルデバイス、端末デバイス、又は任意の他のユーザ機器を指す。いくつかの非限定的な例では、端末デバイスは、限定はしないが、プラーク検出、プラーク除去、及び口腔衛生状態のグラフィカル表現を端末デバイスのユーザに表示するために使用されるグラフィカルユーザインターフェースを含むことができる。特定の実施形態では、ウェブベースのアプリケーションをユーザの端末デバイスにインストールすることができる。ユーザは、ウェブベースのアプリケーションを使用して歯垢の除去の進行を監視することができる。
【0030】
本明細書で使用される場合、「高周波」は、10Hzを超える周波数を指す。
【0031】
鉄ナノ粒子懸濁液
特定の実施形態では、開示の主題による酸化鉄ナノ粒子は、歯垢を機械的に除去することができる。図6Aは、酸化鉄ナノ粒子が磁場中でクラスタを形成することができ、これが表面に沿って引っ張られて、制御された旋回運動を生成することを示す。図7A図7Dは、剛毛様構造体が磁場中で歯表面に形成される異なる機構を示す。図7A及び図7Bに示すように、磁場の方向及び勾配を制御することにより、酸化鉄ナノ粒子の剛毛様構造が溶液から形成され、エナメル質表面まで延在する。図7Cは、酸化鉄ナノ粒子の剛毛がバイオフィルム被覆表面まで延びることができ、バイオフィルムを掃引して除去するために横方向に作動されることを更に示す。特に、図7Dに示すように、酸化鉄ナノ粒子の剛毛は、バイオフィルムを分解及び除去しながら、変化する表面輪郭に適合する。
【0032】
代替的な実施形態では、永久磁石又は電磁石は、回転し、デバイス内で平行移動し、振動しながら使用することができる。
【0033】
特定の実施形態では、本開示の懸濁液は、酸化鉄ナノ粒子に加えて過酸化水素を含む。酸化鉄ナノ粒子は過酸化水素を活性化して、歯のバイオフィルムを分解し、歯のバイオフィルム内の細菌を根絶することができる生物活性ラジカルを生成する。特に、酸化鉄ナノ粒子は、過酸化水素の分解を触媒して、HO及びHO ラジカルなどのフリーラジカルを生成する。図1A及び図1Bは、開示される主題の実施形態による酸化鉄ナノ粒子の二重触媒-磁気官能性を示す。酸化鉄ナノ粒子は、過酸化水素(H)を触媒して細菌を実質的に根絶し、バイオフィルムマトリックスを分解することができる。バイオフィルムマトリックスの分解は、構造骨格を破壊しながら、浸透及び細菌の根絶も促進するために重要である。バイオフィルムマトリックスが分解されると、細菌根絶効果は実質的に増強される。バイオフィルムマトリックスは、実質的な細菌根絶(>99.999%の死滅)を可能にするのに十分に破壊されると分解される。酸化鉄ナノ粒子を磁気的に活性化して、抗菌ロボット又は自律磁気剛毛若しくはロボットに組み立てるために酸化鉄ナノ粒子を作動させ、抗菌ロボット又は自律磁気剛毛若しくはロボットを移動させてバイオフィルムの破片を除去することができる。
【0034】
図1C及び図1Dは、触媒抗菌ロボットを使用するプラーク除去及び検出システムの概念的フレームワークを示す。図1Cでは、酸化鉄ナノ粒子はバイオフィルムに結合して浸透し、in situでH2O2を触媒してバイオフィルムマトリックスを破壊し、細菌を死滅させる。同時に、ナノ粒子は、触媒作用中にTMBと反応して(請求項11を参照)、プラーク(バイオフィルム)の指標として機能する青色を生成し、それによってバイオフィルム蓄積の検出器として機能することができる。ナノ粒子が磁場によって作動される(図1D左パネル)と、ナノ粒子は凝集して剛毛様構造に集合し、バイオフィルムを除去及び擦り取り(図1D右パネル)、重要なことに、これらのナノ粒子は歯又は粘膜表面に結合しない。これらのバイオフィルムは青色で標識することもできるので(上記参照)、プラーク除去量も測定することができ、これにより、プラーク除去検出として機能する。
【0035】
特定の実施形態では、本開示の懸濁液は、酸化鉄ナノ粒子及び過酸化水素に加えてペルオキシダーゼ感受性染料を含む。特定の実施形態では、ペルオキシダーゼ感受性染料は、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジンである。他の染料としては、2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸(ABTS)、o-フェニレンジアミン(OPD)、3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)、ピロガロール、4-アミノ-2,3-ジメチル-1-フェニル-3-ピラゾリノン(4-アミノアンチピリン)、5-アミノサリチル酸(5-AS)、3-メチル-2-ベンゾチアゾリノン(MBTH)、並びに10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン、テレフタル酸、ホモバニル酸、2-[6-(4-アミノフェノキシ)-3-オキソ-3H-キサンテン-9-イル]安息香酸、(2-[6-(4’-ヒドロキシ)フェノキシ-3H-キサンテン-3-オン-9-イル]安息香酸、2’,7’-ジクロロフルオレセインジアセタート、2,7-ジクロロジヒドロフルオレセインジアセタート、クマリンボロン酸、クマリンボロン酸ピナコラートエステル、ジヒドロローダミン123、ルシゲニン、ジヒドロエチジウムなどの蛍光染料が挙げられる。酸化鉄ナノ粒子は、歯のバイオフィルムに結合することができ、過酸化水素及びペルオキシダーゼ感受性染料の存在下で、歯垢を検出するために使用することができる色を生成する。
【0036】
酸化鉄粒子を含む懸濁液は、バイオフィルムマトリックスの分解を更に助けるために、ムタナーゼ又はデキストラナーゼなどの1つ又は複数の酵素を更に含むことができる。特定の実施形態では、懸濁液を1%過酸化水素及び1.75U/8.75Uムタナーゼ/デキストラナーゼと共に配合して、細菌を実質的に根絶し、バイオフィルムマトリックスを分解することができる。図3Cは、酸化鉄ナノ粒子、過酸化水素及びムタナーゼ/デキストラナーゼを含む懸濁液のバイオフィルム根絶の有効性を示す。
【0037】
特定の実施形態では、酸化鉄ナノ粒子を含む懸濁液は、グリセロール及び/又は水、又は水性緩衝液を含む。特定の実施形態では、懸濁液は、水中の50%グリセロール、又は水、又は水性緩衝液1ミリリットル当たり、約500マイクログラム~約5000マイクログラム、約750マイクログラム~約4750マイクログラム、約1000マイクログラム~約4500マイクログラム、約1250マイクログラム~約4250マイクログラム、約1500マイクログラム~約4000マイクログラム、約1750マイクログラム~約3750マイクログラム、又は約2000マイクログラム~約3500マイクログラムの酸化鉄ナノ粒子を含む。特定の実施形態では、懸濁液は、水中の50%グリセロール、又は水1ミリリットル当たり、5000マイクログラム未満、4500マイクログラム未満、4000マイクログラム未満、3500マイクログラム未満、3000マイクログラム未満、2500マイクログラム未満、2000マイクログラム未満、1500マイクログラム未満、又は1000マイクログラム未満の酸化鉄ナノ粒子を含む。特定の実施形態では、懸濁液は、水中の50%グリセロール、又は水1ミリリットル当たり、少なくとも500マイクログラム、少なくとも1000マイクログラム、少なくとも1500マイクログラム、少なくとも2000マイクログラム、少なくとも2500マイクログラム、少なくとも3000マイクログラム、少なくとも3500マイクログラム、少なくとも4000マイクログラム、又は少なくとも4500マイクログラムの酸化鉄ナノ粒子を含む。一実施形態では、懸濁液は、50%グリセロール1ミリリットル当たり、2000マイクログラムの酸化鉄ナノ粒子を含む。
【0038】
特定の実施形態では、酸化鉄ナノ粒子を含む懸濁液は、限定はしないが、過酸化カルバミド、抗菌化合物、フッ化物イオン源、研磨化合物、界面活性剤、洗浄剤、酵素、及びそれらの組み合わせなどの口腔ケア組成物に一般的に使用される追加の成分を含むことができる。抗菌化合物の非限定的な例としては、トリクロサン、エッセンシャルオイル、テルペノイド、フラボノイド、ポリフェノール、プロアントシアニジン、タンニン、クマリン、クロルヘキシジン、抗菌ペプチド、アルギニンが挙げられる。酵素の非限定的な例としては、デキストラナーゼ、ムタナーゼ、リパーゼ、DNAse、アミログルコシダーゼ、グルコースオキシダーゼが挙げられる。フッ化物イオン源の非限定的な例としては、フッ化ナトリウムなどのアルカリ金属フッ化物、モノフルオロリン酸アルカリ金属塩、フッ化第一スズなどが挙げられる。研磨化合物の非限定的な例としては、シリカ歯科用研磨剤、炭酸カルシウム、リン酸二カルシウム二水和物、β-ピロリン酸カルシウム、不溶性メタリン酸アルカリ金属塩、プラスチック歯科用研磨剤、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0039】
口腔ケアデバイス
本開示のデバイスは、酸化鉄ナノ粒子を含む懸濁液をユーザの歯及び歯肉の表面に接触させるように構成される。特定の実施形態では、本開示の口腔ケアデバイスは、ユーザの上歯に適合するように構成された上部チャネルと、ユーザの下歯に適合するように構成された下部チャネルとを含む可撓性マウスピースを含む。マウスピースは、子供から大人までの人間に典型的な範囲に適合するようなサイズにすることができる。成人の口の開きは30~70mmの範囲であり、成人の総アーチ長は35~45mmの範囲である。特定の実施形態では、マウスピースのサイズは調整可能である。図2A及び図2Bは、マウスピースの非限定的な例を提供する。具体的には、図2Aは、例示的な可撓性マウスピースを示し、これは、歯列弓に調整可能な上部チャネル及び下部チャネルを含む。拡大図は、プラークを除去する磁気制御剛毛、並びにリアルタイムでプラークを監視するための手段及び振動動作を提供するための手段を収容するデバイスを示す。
【0040】
図2Bは、口腔の健康及び衛生(歯のバイオフィルムの蓄積及び除去)を監視するためのアプリ/モバイルに無線でリンクされたデバイスを示す。
【0041】
特定の実施形態では、本開示のマウスピースは、磁場を生成するための1つ又は複数の磁気素子を含む。磁気素子の非限定的な例としては、引張力を集中させて増幅することができる磁気コアを含む電磁石が挙げられる。特定の実施形態では、これらの磁石によって生成される磁気勾配は、約0.01mT/ミリメートル~約200mT/ミリメートル、約1mT/ミリメートル~約180mT/ミリメートル、約25mT/ミリメートル~約150mT/ミリメートル、又は約50mT/ミリメートル~約100mT/ミリメートルの範囲であってもよい。特定の実施形態では、これらの磁石によって生成される磁気勾配は、少なくとも1mT/ミリメートル、少なくとも10mT/ミリメートル、少なくとも25mT/ミリメートル、少なくとも50mT/ミリメートル、少なくとも75mT/ミリメートル、少なくとも100mT/ミリメートル、少なくとも125mT/ミリメートル、少なくとも150mT/ミリメートル、又は少なくとも175mT/ミリメートルである。特定の実施形態では、最大勾配は200mT/ミリメートルを超えない。磁場の切り替えは、約0.2Hz~約100Hz、約5Hz~約75Hz、約20Hz~約60Hz、約30Hz~約50Hzの値を含むがこれらに限定されない周波数範囲にわたって起こり得る。特定の実施形態では、磁場は、鉄、鉄ニッケル合金、ネオジム鉄ホウ素、及びサマリウムコバルトなどであるがこれらに限定されない永久磁石によって生成される。
【0042】
特定の実施形態では、口腔ケアデバイスは、1つ又は複数の触覚アクチュエータ(例えば、振動アクチュエータ)を含む。特定の実施形態では、本明細書で使用されるアクチュエータは、振動を生成し、感知(触覚)することができ、更にナノ粒子を再懸濁し、及び/又はバイオフィルムの除去を助けることができる小型の振動デバイス(モータ又は圧電材料)である。振動アクチュエータの非限定的な例としては、不平衡質量を有する回転モータが挙げられ、これは、振動の周波数及び振幅に関して作動及び変更することができる。特定の実施形態では、1つ又は複数の振動アクチュエータは振動モータである。振動アクチュエータの非限定的な市販の実施形態として、Jinlong Machinery&Electronics社によるZ7AL2B1690002が挙げられる。特定の実施形態では、振動の周波数は約10Hz~約20,000Hzで変動する。特定の非限定的な実施形態では、振動動作は高周波磁気運動によって誘導され、電磁石及び/又は圧電アクチュエータは、約10Hz~約20,000Hzの高周波振動を介して酸化鉄ナノ粒子を輸送する。特定の実施形態では、酸化鉄ナノ粒子の移動を担う電磁石はまた、機械的振動を生成することができる。
【0043】
特定の実施形態では、本開示の口腔ケアデバイスは、光検出器又はRGBセンサを更に含む。特定の実施形態では、光検出器又はRGBセンサは、色又は蛍光検出の視覚的インジケータを提供するために発光ダイオードに結合される。このような構成の非限定的な例を図5Aに示す。図5Aは、トレイ502内の青色を検出するための電気回路500を示す。回路500は、発光ダイオード504及び光検出器506を含む。図5B及び図5Cは、インジケータ発光ダイオード504が、光検出器506によってトレイ502内で青色光が検出されたときにオンになり、青色光が検出されなかったときにオフのままであることを示している。
【0044】
本開示の口腔ケアデバイスは、バッテリ及びパワーエレクトロニクスを収容するような大きさである。特定の実施形態では、口腔ケアデバイスは、マイクロプロセッシング能力を更に含む。
【0045】
特定の実施形態では、口腔ケアデバイスは、歯のバイオフィルムの除去をリアルタイムで監視するために別のデバイスに無線で接続することができる。
【0046】
歯垢の検出及び除去方法
本開示は更に、本明細書に記載の口腔ケアデバイスを使用して歯垢を除去する方法に関する。特定の実施形態では、ユーザは、酸化鉄ナノ粒子を含む本明細書に開示される懸濁液をマウスピースの上部チャネル及び下部チャネルに投与し、マウスピースを上歯及び下歯に適合させることによって歯垢を除去することができる。デバイスをオンにすると、酸化鉄ナノ粒子は磁場及び/又は振動動作によって移動し、抗菌ロボット又は自律磁気剛毛若しくはロボットを形成し、それによって歯垢を機械的に除去する。
【0047】
特定の実施形態では、酸化鉄ナノ粒子及び過酸化水素を含む懸濁液をマウスピースの上部チャネル及び下部チャネルに投与し、マウスピースを上歯及び下歯に適合させることによって歯垢を除去することができる。酸化鉄ナノ粒子は、過酸化水素の分解を触媒してHO及びHO ラジカルを生成し、これがバイオフィルム内の細菌を根絶し、バイオフィルムを分解する。更に、デバイスをオンにすると、酸化鉄ナノ粒子が磁場及び/又は振動動作によって移動し、それによって歯垢を機械的に除去する。
【0048】
特定の実施形態では、酸化鉄ナノ粒子、過酸化水素及びペルオキシダーゼ感受性染料を含む懸濁液をマウスピースの上部チャネル及び下部チャネルに投与し、マウスピースを上歯及び下歯に適合させることによって歯垢を検出及び除去することができる。酸化鉄ナノ粒子の一部が歯垢に結合する。懸濁液は、図4A図4Cに示すように、歯を染色することなく、結合した酸化鉄粒子でプラークを青色に更に染色し、それによってプラーク検出として機能する。視覚的インジケータを更に使用して、歯垢の位置を特定し、続いて、未結合の酸化鉄ナノ粒子を、染色された歯垢に向けて歯垢に誘導し、それを機械的に除去することができる。また、バイオフィルムは青色に染色されているため、プラーク除去量も測定することができ、プラーク(バイオフィルム)除去検出として機能する。
【0049】
図8A図8Dは、歯から歯垢を除去するための抗菌ロボット又は自律磁気剛毛若しくはロボットの能力を更に示す。図8A及び図8Cは、歯のブロック上に形成されたピンク色に染色されたバイオフィルムの「前の」画像を示し、図8B及び図8Dは、自律磁気剛毛又はロボットによる自動洗浄を受けた後の同じ歯ブロックを示す「後の画像」を提供し、バイオフィルムが完全に除去されたことを示す。
【0050】
図9A図9Cは、例えば歯間の領域などの狭い領域から歯垢を除去するための抗菌ロボット又は自律磁気剛毛若しくはロボットの能力を更に示す。そのような洗浄は、酸化鉄ナノ粒子集合体を往復運動で隣接歯間空間を通して駆動することによって行われる。図9Bは、2つの「モデル歯」の間の狭い領域のプラークを示す「前」の画像を提供し、図9Cは、隣接歯間領域のプラークが除去されたことを示す「後」の画像を提供し、拡大図は、歯間の狭い空間においてバイオフィルムが完全に除去されたことを示す。
【0051】
特定の実施形態では、プラーク蓄積のレベル及びプラーク除去のレベルは、端末デバイス又は端末デバイス内のウェブベースのアプリケーションで監視及び/又は視覚化することができる。光検出器又はRGBセンサが歯垢に関するデータ及びその量を取得すると、データは、リアルタイム監視及び記憶のために、センサの外部に位置するメモリデバイスに送信されることができる。所与のセンサは、得られたデータをサーバに送信することができ、サーバはその後、歯垢の量及びその位置、並びに歯垢の除去に関するデータを収集することができる。特定の非限定的な実施形態では、集中型サーバは、データの全てを収集することができるが、他の非限定的な実施形態では、データの収集を複数のサーバに分散させることができる。各サーバは、収集された情報を格納する1つ又は複数のデータベースを含むことができる。集中型サーバがデータの全てを収集すると、データを1つのデータベース又は複数のデータベースに保持することができる。データベースは、収集されたデータのタイプなど、収集されたデータの特性を記述するタグ又は識別子を含むことができる。特定の実施形態では、データは、プロセッサによって、プラーク蓄積のレベル及びプラーク除去のレベルを示す数値に変換されることができる。特定の実施形態では、結果は、ある範囲の色を使用して視覚化することができる。特定の実施形態では、収集されたデータを使用して、長期間にわたって口腔衛生及び口腔健康状態を監視することができる。特定の実施形態では、ウェブベースのアプリケーション又は端末デバイスを使用して、歯垢のリアルタイム除去及び歯へのプラーク蓄積量のリアルタイム監視を監視することができる。
【0052】
上記は、開示された主題の原理を単に例示しているにすぎない。記載された実施形態に対する様々な修正及び変更は、本明細書の教示を考慮すれば当業者には明らかであろう。したがって、当業者は、本明細書に明示的に記載されていないが、開示された主題の原理を具体化し、したがってその精神及び範囲内にある多数の技術を考案することができることが理解されよう。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C
図8D
図9A
図9B
図9C