(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】吸収性材料からなる足場を用いたインビボ組織工学装置
(51)【国際特許分類】
A61F 2/12 20060101AFI20250121BHJP
【FI】
A61F2/12
(21)【出願番号】P 2022554192
(86)(22)【出願日】2020-10-26
(86)【国際出願番号】 US2020057329
(87)【国際公開番号】W WO2021194555
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-10-25
(32)【優先日】2020-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515204661
【氏名又は名称】バード シャノン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】レフンケ,ロバート ディー.
【審査官】大橋 俊之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0206978(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0301706(US,A1)
【文献】特表2011-521736(JP,A)
【文献】特表2015-517879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の筋膜の解剖学的空間に移植するための組織工学装置であって、
前記筋膜内に位置決めするための近位部分、前記近位部分から離間した遠位部分、前記近位部分と前記遠位部分との間に延在する中空の中心コア、及び前記中空の中心コアを囲む側壁を有する、多孔質吸収性材料からなる足場と、
前記側壁に形成され、前記中空の中心コアの周りに放射状に配置された、複数の部分的に開放された組織工学チャンバと、を備え、前記組織工学チャンバは、前記解剖学的空間内の筋膜表面積よりも大きい総表面積を有する、組織工学装置。
【請求項2】
前記足場が、前記多孔質吸収性材料の1つ以上のシートからなり、前記組織工学チャンバが、前記
多孔質吸収性材料の前記1つ以上のシートの1つ以上のプリーツによって形成される、請求項1に記載の人体の筋膜の解剖学的空間に移植するための組織工学装置。
【請求項3】
前記近位部分が、前記中空の中心コアと連通する開口部を内部に有するディスク状端面を含む、請求項1に記載の人体の筋膜の解剖学的空間に移植するための組織工学装置。
【請求項4】
前記遠位部分が、前記中空の中心コアと連通する開口部を内部に有するディスク状端面を含む、請求項3に記載の人体の筋膜の解剖学的空間に移植するための組織工学装置。
【請求項5】
内部に穴を有する前記近位部分の前記ディスク状端面の周りに延在する取り外し可能なチューブと、前記足場内に負圧を生成し、余分な流体を排出するために前記チューブと連結されたポンプと、を更に備える、請求項4に記載の人体の筋膜の解剖学的空間に移植するための組織工学装置。
【請求項6】
細胞外タンパク質マトリックスを生成するために、線維芽細胞を一時的に付着させるための前記遠位部分の前記ディスク状端面に配設された短期吸収性材料の層を更に備え、前記短期吸収性材料は、足場の多孔質吸収性材料の分解前に分解する、請求項5に記載の人体の筋膜の解剖学的空間に移植するための組織工学装置。
【請求項7】
前記組織工学チャンバが内部に前記短期吸収性材料を含む、請求項6に記載の人体の筋膜の解剖学的空間に移植するための組織工学装置。
【請求項8】
前記短期吸収性材料がセルロースマトリックスである、請求項7に記載の人体の筋膜の解剖学的空間に移植するための組織工学装置。
【請求項9】
前記足場の前記近位部分によって内部で担持される穴を有するチューブと、前記足場内に負圧を生成し、余分な流体を排出するために前記チューブと連結されたポンプと、を更に備える、請求項1に記載の人体の筋膜の解剖学的空間に移植するための組織工学装置。
【請求項10】
人体の筋膜の解剖学的空間に移植するための組織工学装置であって、
前記筋膜内に位置決めするための近位部分、前記近位部分から離間した遠位部分、前記近位部分と前記遠位部分との間に延在する中心コア、及び前記中心コアを囲む側壁を有する、多孔質吸収性材料からなる足場を備え、前記側壁は、
前記中心コアに沿う方向に積み重ねて配置された組織工学チャンバの複数の隣接するリングによって形成され、前記リングの各々は、前記中心コアの周りに放射状に配置された複数の部分的に開放された組織工学チャンバを含む、組織工学装置。
【請求項11】
前記足場は、前記組織工学チャンバを形成するために多孔質吸収性メッシュ材料の1つ以上のプリーツシートからなる、請求項10に記載の人体の筋膜の解剖学的空間に移植するための組織工学装置。
【請求項12】
前記1つ以上のプリーツシートが折り畳まれて前記組織工学チャンバのための底部を形成し、対向するパネルが前記底部から延在して前記組織工学チャンバの下側のもののための壁を形成し、前記パネルが前記組織工学チャンバの前記下側のもののための上部を画定する位置で、互いに固定される、請求項11に記載の人体の筋膜の解剖学的空間に移植するための組織工学装置。
【請求項13】
前記パネルは、前記組織工学チャンバの前記下側のものから離れた前記位置から延在して、前記組織工学チャンバの前記下側のものの上に上側組織工学チャンバを形成し、前記組織工学チャンバの前記下側のものは、前記リングのうちの1つを形成し、前記上側組織工学チャンバは、当該リングのうちの1つに隣接する組織工学チャンバの前記リングのうちの別のものを形成する、請求項12に記載の人体の筋膜の解剖学的空間に移植するための組織工学装置。
【請求項14】
複数の前記リングが、減少する直径を有する層状に配置され、それにより前記側壁が先
細りになり、前記足場が円錐台状の構成を有する、請求項10に記載の人体の筋膜の解剖学的空間に移植するための組織工学装置。
【請求項15】
人体の筋膜の解剖学的空間に移植するための組織工学装置であって、
前記筋膜内に位置決めするための近位部分、前記近位部分から離間した遠位部分、前記近位部分と前記遠位部分との間に延在する中心コア、及び前記中心コアを囲む側壁を有する、多孔質吸収性材料からなる足場を備え、前記側壁は、組織工学チャンバの複数の隣接するリングによって形成され、前記リングの各々は、前記中心コアの周りに放射状に配置された複数の部分的に開放された組織工学チャンバを含み、
前記中心コアが中空である
、組織工学装置。
【請求項16】
複数の前記リングが実質的に同じ直径を有し、それにより前記足場が管状の構成を有する、請求項15に記載の人体の筋膜の解剖学的空間に移植するための組織工学装置。
【請求項17】
前記リングが直径において変化して、球状の構成を生成する、請求項15に記載の人体の筋膜の解剖学的空間に移植するための組織工学装置。
【請求項18】
前記リングが直径において変化して、半球状の構成を生成する、請求項15に記載の人体の筋膜の解剖学的空間に移植するための組織工学装置。
【請求項19】
前記足場は、内部に開口部を有する前記近位部分の端部に配設されたディスクと、内部に開口部を有する前記遠位部分の端部に配設されたディスクと、を含み、前記ディスクの前記開口部は、前記中空の中心コアと位置合わせされる、請求項15に記載の人体の筋膜の解剖学的空間に移植するための組織工学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織形成及び脂肪生成を伴う様々な美容的及び審美的処置において、人体に移植された吸収性材料からなる足場を用いた組織工学装置及び方法、並びに乳房再建、豊胸術、乳房固定術及び乳房縮小術などの乳房処置におけるそのような装置及び方法の使用に関し、再生医療及び細胞医療において、インビボで臓器機能を強化及び補足する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の簡単な説明
乳房インプラントは、がんのために切除された乳房組織を置き換えるために一般的に使用され、豊胸術にも一般的に使用される。乳房切除後に乳房体を置換する乳房インプラントのほとんどは、生理食塩水又はシリコーンゲルが充填されている。無細胞マトリックスは、主に下極乳房をカバーしたり、再建された乳房の成形に使用される。これらの先行技術の乳房インプラントは、多くの欠点を有し、しばしば組織の壊死及び被膜拘縮を引き起こす。乳房手術が部分的乳房切除術(乳腺腫瘤摘出術と呼ばれることが多い)である場合、移植可能な装置が外科的欠陥への配置のために提案されてきた。BioZorbインプラントと呼ばれるそのような装置の1つは、Focal Therapeutics,Inc.によって販売されており、コイルなどの不連続な外周を生成するフレームワーク要素によって形成された剛性の生体吸収性本体を含む。その結果、多くの場合、装置は外科的欠陥を充填せず、したがって、乳腺腫瘤摘出術後に所望される結果である一貫して高品質の審美的外観が達成されない。更に、この装置は、乳房が小さく痩せた女性の欠陥に適切にステントを留置することはできず、そのような場合、瘢痕拘縮を伴わずに乳腺腫瘤摘出スペースの漸進的治癒を促進しない。Lebovicらの米国特許第9,615,915号及び第9,980,809号、及びHermannらの米国特許第10,413,381号は、これらのインプラントの代表例であり、美容的/審美的な望ましい結果が得られず、欠陥のサイズに依存するという欠点がある。
【0003】
自家脂肪移植は、美容外科及び再建外科の両方でますます一般的な処置となっている。移植された自家脂肪からの脂肪生成は、乳房及び臀部(殿筋)などの軟部組織の成形及びサポート、並びにインビボ組織工学など、多くの目的に役立つが、これらに限定されない。
【0004】
乳房再建及び豊胸手術において、自家脂肪移植は非常に重要なステップであり、脂肪の血管新生を促進することは、脂肪の生存を改善するために重要である。乳房処置のための自家脂肪移植では、通常、注射器を使用して患者から脂肪を吸引し、吸引した脂肪を乳房の軟部組織に注入する。これまで、注入された脂肪の血管密度を増加させる試みには、脂肪移植を補助するための体積拡張を提供する構造の使用が含まれていた。伸延力を提供するための構造を使用する乳房処置及び装置は、Khouriの米国特許第8,066,691号、第9,028,526号、及び第9,974,644号、及びRigottiらの米国特許出願公開第2008/03006812号に例示されており、「Megavolume Autologous Fat Transfer:Part I. Theory and Principles」(Khouriら著、PRS Journal、第133巻、第3号、2014年3月、550~557ページ)というタイトルの論文にも記載されている。脂肪の生存を改善しようとする先行技術の試みは、実際的な観点からは成功しておらず、主に外科的処置後に構造を除去する必要があるという多くの欠点があった。
【0005】
医薬品を細胞医療に置き換え、組織工学及び再生医療を使用して合成代替部品を置き換えるために、医学では多くの努力がなされてきた。科学はこれまで、人体の交換部品及び臓器を形成しようと試みてきた。ほとんどの努力は、幹細胞及び脱細胞化された同種移植臓器の使用に集中してきた。残念なことに、これらの試み及び関連する治療法は、主にこれらの治療法に必要な大量の組織への血管供給を発達させるという問題のために、臨床診療では成功していない。インビボ組織工学を達成しようとする先行技術の試みは、治癒組織の自己組織化特性を利用することに失敗した。マクロファージ2型炎症の影響下で、サイトカイン及び細胞外基質タンパク質などのタンパク質の影響下にある治癒組織は、生物学的に真正な秩序及び構造に組織化する能力を有している。この活動は、フラクタルオーダーで物理的なサポート及び血液供給を必要とし、従来技術はこれらの必要なものを提供できなかった。
【0006】
過去には、組織工学技術を使用し、足場を用いて幹細胞及びエキソームを組み合わせ、ドナー組織の不足の問題を克服する試みが行われてきた。これらの試みは、完全に機能する血管構造を光学的に作製された構築物に統合することができないため、臓器の機能(柔組織)に有益な影響を与えていない。したがって、臓器の生成及び/又は人体の臓器の機能の補足に使用するための組織工学装置が必要とされてきた。
【発明の概要】
【0007】
「吸収性」材料とは、体内で分解される材料を意味する。「吸収性」、「再吸収性」、及び「分解性」という用語は、接頭辞「バイオ」の有無にかかわらず、文献では交換可能に使用されることに留意されたい。したがって、本明細書で使用される吸収性材料とは、分解が加水分解又は代謝プロセスによるものであるかにかかわらず、分解され、身体によって徐々に吸収、排泄又は除去される材料を意味する。本発明で使用するための好ましい長期吸収性材料は、一般にP4HBと呼ばれ、Tepha,Inc.(Lexington,Massachusetts)によって製造されるポリ-4-ヒドロキシブチレートである。P4HBは、通常、二次元材料と呼ばれるシート状のものと、成形により成形可能な三次元材料のものがある。本発明による組織工学装置の足場を作るのに有用な吸収性材料は、生分解性ポリマーと呼ばれることが多く、例えば以下のものがある。ポリ乳酸、ポリグリコール酸、及びそれらのコポリマー及び混合物、例えば、ポリ(L-ラクチド)(PLLA)、ポリ(D,L-ラクチド)(PLA)、ポリグリコール酸又はポリグリコリド(PGA)、ポリ(L-ラクチド-co-D,L-ラクチド)(PLLA/PLA)、ポリ(L-ラクチド-co-グリコリド))(PLLA/PGA)、ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)(PLA/PGA)、ポリ(グリコリド-co-トリメチレンカーボネート)(PGA/PTMC)、ポリ(D,L-ラクチド-co-カプロラクトン)(PLA/PCL)及びポリ(グリコリド-co-カプロラクトン)(PGA/PCL);ポリヒドロキシアルカノエート、ポリ(オキサ)エステル、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリジオキサノン(PDS)、フマル酸ポリプロピレン、ポリ(エチルグルタメート-co-グルタミン酸)、ポリ(tert-ブチルオキシ-カルボニルメチルグルタメート)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリカプロラクトンco-ブチルアクリレート、ポリヒドロキシブチレート(PH BT)、及びポリヒドロキシブチレートのコポリマー、ポリ(リン酸ハゼン)、ポリ(リン酸エステル)、ポリ(アミノ酸)、ポリデプシペプチド、無水マレイン酸コポリマー、ポリイミノカーボネート、ポリ[(97.5% ジメチルトリメチレンカーボネート)-co-(s.5%トリメチレンカーボネート)]、ポリ(オルトエステル)チロシン由来、ポリアリエート、チロシン由来ポリカーボネート、チロシン由来ポリイミノカーボネート、チロシン由来ポリホスホネート、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアルキレンオキシド(PAO)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒアルロン酸、キトサン、再生セルロースなどの多糖類、ゼラチン及びコラーゲンなどのタンパク質、及びこれらの混合物及びコポリマー、特に並びにPEG誘導体又は上記のいずれかの混合である。望ましくは、ポリジオキサノン、シルクベースのポリマー及びコポリマー、ポリ4-ヒドロキシブチレートなどの、良好な強度保持を有するこれらのシステム及び方法のためにポリマー材料を選択することができる。
【0008】
本発明は、血管を収容するために中空にすることができるコアの周りに配置された複数の組織工学チャンバにおいて、自家脂肪を含む大量の組織の物理的なサポートを提供するために、多孔質吸収性材料からなる足場を構成することによって、先行技術の欠点を克服する。一実施形態では、本発明の組織工学装置は、細胞付着及びタンパク質組織化のための生物学的足場マトリックスを提供するモノフィラメントポリマー編みメッシュで形成されたメッシュ吸収性材料からなる足場を使用する。マトリックスは、メッシュを人工筋膜に変換する造粒タイプのプロセスで、毛細血管によって侵入される。吸収性メッシュ材料構造は、複数の部分的に開放された組織工学チャンバを有する。チャンバは、吸収性材料の1つ以上のシートの折り目によって形成され、中心コアの周りに放射状に配置することができる。チャンバは、足場の表面積を増加させるためにセグメント化及び/又はサブセグメント化することができる。本発明の組織工学装置は、人体の筋膜の解剖学的空間に移植される形状を有し、組織工学チャンバは、解剖学的空間の筋膜表面積よりも大きい総表面積を有する。解剖学的空間は、組織工学装置が機能的実質細胞による再細胞化に使用される場合、外科手術中に、例えば乳房の表層筋膜、又は膵臓、腎臓の表層筋膜、又は肝臓等の臓器に隣接する深部筋膜に生じる欠陥である可能性がある。膵臓に関しては、本発明の組織工学装置を使用して、ある種の糖尿病で破壊されたインスリン産生膵島ベータ細胞を置換することができる。肝臓に関しては、本発明の組織工学装置を使用して、肝臓組織を再生し、代謝性疾患を治療するための豊富な肝細胞源を生成することができる。
【0009】
本発明の別の実施形態では、足場は、適切なサイズの動脈を有する血管茎をその大静脈、筋膜、及び関連する脂肪と共に受容するように設計された開放された又は中空のコアを有し、大量の人工組織が独自の循環を有する組織のフラクタル単位に分解される。セグメント及び関連するサブセグメントで形成できる組織工学チャンバの放射状配置は、コアを囲み、大量の組織を、毛細血管の成長の終点で自己組織化組織が出現する体積である約5ccの単位に分解する。大量の血管新生された生体組織の形成は、本発明を用いて、人為的及び設計された構造と、インビボの生物学的細胞及び健康な組織に組織化されるタンパク質との組み合わせによって達成される。
【0010】
本発明による組織工学装置及び方法は、組織移植、特に乳房及び臀部を含むがこれに限定されない軟部組織領域における自家脂肪に関連する様々な再建及び美容処置のための急速な組織内殖を促進するために、体内で利用することができる。これまでの自家脂肪移植は、注射器で患者から脂肪を吸引し、吸引した脂肪を軟部組織に注入することを伴っていた。上述のように、脂肪移植に利用される多くの先行技術の処置及び/又は装置は、伸延力の適用を伴うが、本発明の組織工学装置及び方法は、組織を収集して血管新生するために、中心コアの周りに組織工学チャンバを放射状に配置した足場を使用することによって、そのような伸延力の必要性を取り除く。
【0011】
本発明の組織工学装置及び方法は、吸収性材料からなる足場を使用する。一実施形態では、本発明は、吸収性材料の開孔ニットパターンを使用して、足場の微小孔を通る急速な組織内殖を促進する。
【0012】
本発明の組織工学装置で使用される足場は、組織工学チャンバ内に注入された脂肪吸引脂肪組織が吸収性材料と混合されることを可能にし、したがって、脂肪吸引された脂肪の微小球を適所に三次元の散らばった様式で保持して、血管新生を促進し、そうでなければ壊死につながる可能性のある脂肪の蓄積を阻止する。更に、組織工学チャンバは、体内に挿入する前に、組織再生を促進することが知られている物質でコーティングし、その後、膵島細胞、肝細胞、又は他の細胞などの選択された組織細胞、並びに幹細胞及び、患者の病気を治療するための遺伝子を含むように遺伝子操作されたエクソソームでコーティングすることができる。放射状に配置された組織工学チャンバは、単核炎症細胞及び多核巨細胞による良好な血管新生、並びに吸収性材料表面上、吸収性材料内、及び折り畳まれた吸収性材料の層間での脂肪生成を提供する。
【0013】
組織工学チャンバの数は様々であるが、通常は8~10の間で、組織拡張用のスペース全体の大きな容積をより小さなサブユニットスペースに分割する。中心コアの周りの組織工学チャンバの結合は、必要なメッシュ吸収性材料を最小限に抑えながら、足場の安定性を高める。
【0014】
本発明の組織工学装置の足場は、張力システムを形成するための複数の接続点を有し、組織工学チャンバを最終的に満たす脂肪組織が生成されて、曲がるが壊れずに、歪みの影響が除去された後の元の平衡形状に戻る構造を生成する。好適には、吸収性材料は、抗菌特性を有することが知られている天然に存在するポリマーであり、組織再生につながる炎症のM2期を誘発するポリ-4ヒドロキシブチレート(P4HB)のような吸収性ポリエステルなどの緩い編みのモノフィラメントから構成されるメッシュ材料である。
【0015】
毛細血管及び細動脈を備えた筋膜系のコラーゲンマトリックスは、新しい脂肪組織の生成場所、又は脂肪生成部位であることが知られているため、外科的解剖によってバラバラになった脂肪球及び部分的な小球が組織工学チャンバに落ちる。足場の大きな表面積は、血管新生のための構造と、脂肪吸引吸引物などのプライミング物質の分布のための三次元位置を提供する。他のプライミング操作では、足場の緩いニットの微孔性材料を、組織再生を促進することが知られているタンパク質でコーティングし、他の化合物で覆うことができる。足場は、成長して代謝化合物を生成する健康な細胞からの未分化幹細胞移植で定着させることができる。
【0016】
本発明の組織工学装置足場は、広範囲のポリマー加工技術を使用して製造することができる。組織工学足場を製造する方法には、溶媒キャスティング、溶融加工、繊維加工/紡糸/製織、又は繊維形成押出、射出及び圧縮成形、積層、並びに溶媒浸出/溶媒キャスティングの他の手段が含まれる。組織工学吸収性材料の足場を製造する1つの方法は、ブラベンダー押出機などの押出機を使用して押出チューブを作製することを含む。
【0017】
別の製造方法は、溶融物又は溶液から生成され、織られた又は不織のシートに加工された繊維から、不織の吸収性材料の足場を調製することを含む。シートの特性は、例えば、吸収性材料、繊維の寸法、繊維密度、材料の厚さ、繊維の向き、及び繊維の加工方法を変えることによって調整することができる。シートは、更に加工して中空管に成形することができる。
【0018】
別の方法は、適切な吸収性材料を適切な金型に溶融又は溶媒処理し、レーザー又は他の手段を使用して材料を穿孔して、所望の多孔性を達成することを含む。他の方法には、圧縮成形された吸収性材料シートをループ状に巻いてヒートシールすることが含まれる。本発明の組織工学装置は、移植前又は移植後に細胞を播種することができる。
【0019】
本発明の組織工学装置及び方法は、腎臓、膵臓、及び肝臓を含む臓器のインビボ組織工学に使用することができる。吸収性材料はメッシュであり、繊維芽細胞が侵入してコラーゲンを生成し、メッシュのモノフィラメント繊維を包み込む。毛細血管がメッシュ内に成長し、メッシュで形成された人工筋膜の大きな三次元空間に循環をもたらす。脂肪吸引体が追加され、メッシュ間のスペースで間質に自己組織化される。間質は、結合組織及び血管からなる臓器の支持組織である。別の追加成分は、移植時に足場に播種される幹細胞及びエクソソームである。幹細胞及び/又はエクソソームの種類は、形成される臓器の機能に応じて選択される。例えば、脂肪組織由来の幹細胞又は間葉系幹細胞は乳房再建に適している。糸球体幹細胞は、腎臓を形成するために使用される。膵島細胞に関連する幹細胞は、糖尿病を治療する膵臓に使用される。幹細胞は臓器の柔組織を発達させる。
【0020】
したがって、本発明の組織工学装置は、大きな三次元空間に血管分布をもたらす支持筋膜と、柔組織内の特定の臓器の支持的な充填剤及び機能細胞である間質細胞を工学的に形成するためのメッシュを提供する、という点でインビボでの器官開発(工学)又は補足のための構成要素を提供することが理解できる。
【0021】
組織工学における本発明の上記の利点に加えて、本発明は、本質的に、ホルモンペレットの必要性を不要にするホルモン補充療法のためのバイオハイブリッド臓器として使用されるという追加の利点を有する。すなわち、徐々に溶解するペレットを移植して一定量のエストロゲン又はテストステロンを放出する代わりに、本発明の組織工学装置を使用して、人体循環の一部である細胞を定着させてホルモンを自然に放出することができ、これは加齢によりホルモンレベルが低下した患者において特に有利である。同様に、本発明の組織工学装置は、甲状腺ホルモンを産生する移植細胞のコロニーを形成するように、甲状腺機能低下症の個体に移植することができる。本発明の組織工学装置がバイオハイブリッド臓器として使用される場合、内分泌細胞は、個体の視床下部及び脳下垂体が正常な機能に従ってホルモン産生量を制御して生成される。本発明による膵バイオハイブリッド組織工学装置はまた、膵島細胞コロニーが1型糖尿病患者の免疫系による攻撃を回避することを可能にすることができる。CRISPR技術を使用して、自家膵島細胞を取得し、そのNLRC5遺伝子を無効にすることができる。その後、膵島細胞を組織工学装置に移植することで、装置が免疫系に攻撃されることなくバイオハイブリッド内分泌器官として機能できるようになる。吸引された脂肪の小球を受け取った足場の開放された、多孔質表面に成長する表層筋膜からの毛細血管によって脂肪生成が促進されるため、乳房に移植された本発明の組織工学装置は、乳房再建に使用されるシリコーンインプラントにしばしば関連する被膜拘縮及び感染症の合併症を示さない。したがって、感染を避けるために、良好な血管分布を備えた健康な組織が生成される。本発明の組織工学装置が乳腺腫瘤摘出術に続いて移植されると、球状型の形状が欠損を埋め、瘢痕拘縮のない腫瘍摘出スペースの漸進的な治癒を促進する一方で、足場は、創傷拘縮及び瘢痕化を防止し、乳腺腫瘤摘出欠損のM2再生的治癒を促進するステントとして機能する。球状の足場の丸い表面は、デリケートな組織への損傷を最小限に抑え、押し出しを防ぎ、従来技術の装置よりも完全に乳腺腫瘤摘出欠損に近づく。
【0022】
本発明の組織工学装置及び組織工学方法の他の態様及び利点は、いくつかの図のそれぞれにおける同様の部分が同じ参照文字によって識別される添付の図面と併せて解釈される本発明の以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明のインビボ組織工学装置の一実施形態の斜視図である。
【
図3】本発明の組織工学装置の製造方法を示す破断斜視図である。
【
図4】本発明の組織工学装置のインプラントを示す破断斜視図である。
【
図5】乳房切除後の乳房への本発明の組織工学装置の移植を示す破断斜視図である。
【
図6-7】ディスク状の遠位端面に吸収性材料の層を含み、ディスク状の近位端面に取り外し可能なチューブを含むように変更された、本発明の組織工学装置のそれぞれ上面斜視図及び底面図である。
【
図8】組織工学チャンバ内に短期吸収性材料を有する本発明の組織工学装置の斜視図である。
【
図9-10】腎機能を補うために使用される本発明の組織工学装置の破断斜視図である。
【
図11-12】様々なプロファイルを有する本発明の組織工学装置の側面図である。
【
図13】管状構成を有する本発明の組織工学装置の側面図である。
【
図14】乳腺腫瘤摘出術後のインプラントのための球状の構成を有する本発明の組織工学装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明によるインビボ組織工学装置20は、
図1及び2に示され、本質的に多孔性であるメッシュ吸収性材料の1つ以上のシートからなる足場22を含む。足場は、広い基部又は近位部分24、より狭い頂点又は遠位部分26、及び基部部分と頂点部分との間に延在する先細りの側壁28を有する。側壁28は、吸収性材料の1つ以上のシートのプリーツ又は折り目によって形成されるしわ状の構成を側壁が有するように、複数の部分的に開放された組織工学チャンバ30によって形成される。足場は中空の内側領域29を有し、これは基部部分と頂点部分との間に延在する中心コア32によって形成することができる。サイズ、体積、及び安定性が必要な場合は、吸収性材料で作られた複数のL字型の管状ストラット34を足場に放射状に配置し、脚部はコアを貫通して延在し、90°曲げて、基部部分の周囲に隣接して終了させることができる。図示されるように、足場は、足場が支持され、頂点部分が固定位置から離間される固定又は係留位置を画定するために、基部部分が身体組織に隣接する位置で体内に配置されるように設計された切頭幾何学的形状を有する。組織工学装置が乳房再建又は豊胸術などの乳房処置(例えば、乳房切除、インプラント置換、乳房固定術及び他の乳房処置の後)に使用される場合、足場は、足場の形状が円錐台状又はピラミッド状の三次元構造と考えることができるように、足場はブラジャーカップに似た切頭形状を有することができる。
【0025】
足場は、メッシュ吸収性材料の1つ以上のプリーツシートからなることができ、又は上記のように本質的に一体になるように多孔質吸収性材料から成形することができる。側壁28を形成する吸収性材料のセグメント36が
図3に示されている。吸収性材料のプリーツシートは、底部38で示されるように折り畳まれて組織工学チャンバ30を形成し、その各々は、底部から延在して内壁を形成する対向するパネル39によって画定される。吸収性材料の隣接するシート又はパネルは、サブセグメント組織工学チャンバ30’及び30’’を形成するために、40で示されるように固定又は連結され得る。足場が成形されていない場合、又は他の方法で一体的に形成されていない場合、40で示される接続は、溶接によって達成され、構造内の全ての接触点を取り付けることができる。隣接する組織工学チャンバの接続により、足場の連続した外面が生成され、身体組織によって足場に加えられる圧縮力及び張力が安定し、非剛性組織工学チャンバを介して浮遊平衡又はテンセグリティが達成される。組織工学チャンバ内で脂肪が成長すると、脂肪は足場の構造と協力して、バイオテンセグリティを生成する。ストラット34は、足場内の組織の重量のために余分な支持が必要な場合に使用され、好ましくは、ストラットは遠位部分の端面の下で終了し、近位部分のディスク表面の周囲を超えて延長しない。追加の組織工学チャンバ30Vは、隣接する組織工学チャンバのパネル39の間の空間に形成される。したがって、組織工学チャンバによって提供されるメッシュ吸収性材料の総表面積は、
図4及び5に見られるように、組織工学装置が移植される解剖学的空間の筋膜表面積よりも実質的に大きくなる。上述のように、組織工学チャンバ30は、サブセグメント30’及び30’’に形成又は分割され、サブセグメントは、テンセグリティにより足場の形状の安定性を高め、乳房再建に必要な脂肪組織工学全体の容積を支持する。組織工学チャンバはそれぞれ、望ましくは、50個の組織工学チャンバを有する足場が脂肪壊死なしで250ccの移植を可能にするように、平均5ccの脂肪生成を生成する。
図1の組織工学装置の実施形態で使用される足場では、チャンバ30は7ccの脂肪を保持し、チャンバ/サブセグメント30’は5ccの脂肪を保持し、チャンバ/サブセグメント30’’は3ccの脂肪を保持する。組織工学チャンバ/サブセグメントの数は、L字型ストラットによって提供される安定性、及び所望の吸収性材料の量によって異なる。組織工学チャンバ/サブセグメントは、足場が組織工学チャンバの複数のリングから形成されて足場の様々な幾何学的構成を形成するように、それぞれリング状に配置される。
図2を見ると、組織工学チャンバ30は外側リングを形成し、組織工学チャンバ30’は中間リングを形成し、組織工学チャンバ30’’は内側リングを形成する。例えば、複数のリングは、側壁28が先細りになり、足場が円錐台状の構成を有するように、減少する直径を有する段に配置することができる。複数のリングが実質的に同じ直径を有する場合、足場は、
図13に示されるように管状/円筒状の構成を有する。リングの直径を変えることにより、半球状及び球状の構成を実現できる。球状の構成は、
図14に示すように、2つの半球状の足場を一緒に固定することによっても実現できる。足場の近位部分24はディスク状端面42を有し、足場の遠位部分26はディスク状端面44を有し、両方の端面は吸収性材料からなる。
図1に示される切頭幾何学的形状において、端面42及び44は、それぞれ足場の基部及び頂点に配設され、中空の中心コア32と位置合わせされた開口部46及び48をそれぞれ内部に有する。
【0026】
本発明による組織工学方法は、乳房切除後の乳房処置に関連して、
図4及び5を参照して説明される。筋膜の解剖学的空間、すなわち乳房切除欠損をステントで留置し、開いたままにして、脂肪の再生、すなわち脂肪生成を阻害する創傷の瘢痕拘縮を防止することが重要である。脂肪生成が起こるためには、低い組織張力が必要であり、近くの毛細血管の血液供給が必要である。組織工学方法は、乳房切除術中に生成された筋膜50の解剖学的空間に足場22を移植するステップと、筋膜に隣接する近位端のディスク状表面で空間50に足場の近位部分を固定するステップと、組織工学チャンバ30内に自家組織、通常は自家の脂肪吸引された脂肪を挿入するステップと、血管(
図4に示される穿孔器54)と共に血管皮弁茎(flap pedicle)52を、中空コア32によって形成された足場の中空の内側領域29内に引っ張るステップと、組織工学チャンバ30内の自家組織に毛細血管の血液供給を提供するために、血管54を中空の内側領域に沿って位置決めするために、足場の遠位部分の血管皮弁茎を位置決めするステップと、を備えている。乳房処置では、胸肩峰動脈に端を発する穿孔器を有する小さな胸筋島皮弁から血管皮弁茎を切開し、遠位部分26のディスク状端面44の開口部48を通過する器具によって穿孔器/血管皮弁茎にアクセスする。鉗子56が、血管皮弁茎の周りに結ばれた縫合糸58を把持しているのが示されている。したがって、血管は、足場の移植時に基部から頂点まで中央の中空コアを介して縫合糸によって引っ張ることができ、解剖学的空間内の足場の回転又は変位を防止するために、足場が解剖学的空間50内の周囲の筋膜に縫合される前に、縫合糸を足場の頂点に結び付けて、血管皮弁茎を適所に固定することができる。自家組織挿入ステップは、足場の移植前、足場の移植後、又は足場の移植の前及び後に行うことができる。組織工学方法は、足場内に負圧を生成し、脂肪を挿入する前に、組織工学チャンバを緩いフェルトセルロースマトリックスで充填することによって強化できる。
【0027】
図5は、乳房内の乳房切除後に空間50に移植された本発明による足場22を示し、足場は、
図1及び4に示される足場よりも少ない組織工学チャンバ30を有し、直径約1~1.5mmで、皮膚エンベロープと足場22との間に、足場の下部及び胸壁の近くに、かつ組織工学チャンバ30及び30’内に脂肪の微小球を注入するためのカニューレ62を示す。足場の中空コア32内の胸筋血管皮弁/穿孔器52から発せられる豊富な毛細血管成長と混合された繊維芽細胞によって生成されるコラーゲン及び細胞外タンパク質マトリックスである肉芽組織は、足場の中心に生成されて、中心に位置する支持血管組織を生成し、この支持血管組織は、周囲の表面から、及び乳房切除解剖からの周囲の表層筋膜の残骸から成長する組織によって模倣される。したがって、組織工学チャンバを形成するようにセグメント化されたメッシュ吸収性材料の表面は、外側から内側へ、かつ内側から外側へ血管支持組織内殖を行い、脂肪生成を維持できる大きな血管化された吸収性メッシュ足場を生成する。足場の基部の周囲を超えて延在しないストラット34の終端は、64で示されている。
【0028】
図6、7及び8は、
図1に示される組織工学装置20の変形を示す。
図6は、約1cmの厚さを有する遠位端のディスク状表面44上に配設された、メチルセルロースなどのセルロースマトリックス66の層を示す。層に脂肪が注入され、層は足場から乳輪真皮の分離として機能し、必要に応じて、その後の脂肪移植中に足場から皮膚エンベロープ及び乳頭乳輪真皮の持ち上げを容易にする。
図7は、小さな吸引ポンプ70と連通して足場内に負圧を生成し、余分な流体を排出する近位部分ディスク状端面42上に取り外し可能に担持された穴を内部に有するチューブ68を示す。チューブ68も
図6に示されている。
【0029】
図8は、メチルセルロースなどのセルロースマトリックス72の緩いフェルト(ルースフェルト)を、足場の組織工学チャンバ30、30’、及び30’’を形成するメッシュ吸収性材料に適用することを示す。緩いフェルト(ルースフェルト)は、メッシュ吸収材料の表面積を大幅に増加させるが、足場を製造するために使用される吸収性材料は、短期吸収性材料であると考えられるセルロースマトリックスに比べて長期吸収性材料であると考えられるため、はるかに速く溶解する。セルロースマトリックスのセルロース繊維は、更に脂肪球を所定の位置に保持し、毛細血管の内部成長のための追加の表面としても機能する。
【0030】
腎臓タイプの機能を提供するための
図1の組織工学装置の変形が、
図9及び10に示され、それらの機能を説明するために部品がラベル付けされている。足場22は、チャンバを半分に分割するチャンバ30内に配設された半透膜に微小管が追加された、
図5に示される足場と本質的に同じ構造を有する。
図9では、足場の遠位部分のディスク状端面の開口部48でチューブが中空の中心コアと連通し、尿素を排出して膀胱への排液を可能にする。
図10において、尿素は足場の近位部分から出る。
【0031】
本発明の組織工学装置で使用する足場22の実施形態が
図11及び12に示され、組織工学チャンバ30はサブセグメントで形成されていない。内部中空コア32及びLストラット34は、メッシュ吸収性材料のしわ状ドレープシートによって覆われている。
図11に示される実施形態は、その高さよりも広い基部を有し、脂肪吸引された脂肪で覆われるが、
図12に示される実施形態は、その基部の幅よりも大きい高さを有し、乳腺(乳房体)の後ろに移植され、乳房の突出を増加させる。これらの実施形態は、移植後の乳房縮小術及び乳房固定術の場合に使用することができる。コラーゲンを生成する線維芽細胞及び毛細血管を含む患者の細胞は足場に成長し、メッシュ繊維が吸収された後も持続する人工筋膜様組織を生成する。
【0032】
図13に示される足場22の実施形態は、管状であり、本質的に円筒形であり、フィルタータイプの器官と共に使用される組織工学装置に使用される。中空の中心コア32は、円筒形の足場の長さにわたって延びている。腎臓に使用される場合、微小管集合管を含む半透膜である二次元の円形ディスクが足場の縦軸に沿って一定の間隔で広げられる。各半透膜の両側に隣接するのは、人工脂肪組織が成長する吸収性材料チャンバ/セグメント30である。脂肪組織は、下腹部の筋肉から切り離された血管皮弁茎(腎臓で使用する場合、下腹壁動脈)によって血液供給を受け、中心コアを通って引き出される。
図9及び10に示すドレナージチューブは、尿を収集し、遠位端から近位端まで走り、そこで尿管のように膀胱までトンネル状に通る。
【0033】
球状型の足場22が
図14に示され、乳房切除後の全乳房再建に使用される足場よりも小さいサイズである。
図14の実施形態は、乳腺腫瘤摘出術としても知られる部分的な乳房切除術を再建するために使用するように設計されている。球状型の足場の直径は、通常、2.5cm~5cmの間であり、中央の中空コア32は、通常、約1cmの直径を有し、組織内殖を促進し、吸収を促進する。乳腺腫瘤摘出術後に使用するための球状型の足場は、急速な組織の内殖を保証する体積に対する表面積の比が大きいため、脂肪移植又は血管穿孔ペディクル(茎)の使用を必要としない。球状型の足場は、乳腺腫瘤摘出欠損を囲む残りの組織を離して保持し、崩壊及び瘢痕化を防ぐ。解剖学的腫瘍摘出スペースの負圧は、脂肪移植を必要とせずに、前述の組織工学チャンバと同じ方法で、組織内殖及び脂肪生成を誘発する。球状型の足場のフラクタルバージョンは、1~1.5mmのオーダーであってもよく、既存の表層筋膜への充填剤としての注入を可能にし、脂肪吸引及び脂肪移植を必要とせずに脂肪生成による組織及び脂肪に置き換えられる。乳腺腫瘤摘出術後に望ましい審美的結果を達成するために、小さな球状型の足場が移植され、欠損を埋めて、瘢痕拘縮なしに乳腺腫瘤摘出スペースの段階的な治癒を促進する。球状型の足場は、創傷拘縮及び瘢痕化に対するステントとして機能し、乳腺腫瘤摘出欠損のM2再生的治癒を促進する。球状型の足場は、前述のように互いに接続された複数の組織工学チャンバを含み、欠損を充填するために隣接する周辺を提供する。チタンマイクロクリップは、球状型の足場の表面に取り付けて、乳腺腫瘤摘出術後の乳房処置及びマンモグラムの位置を画定することができる。直径が2.5~5cmの球型足場のサイズが小さいため、通常、足場は12個のセグメントと24個のサブセグメントしか備えていない。各サブセグメントには、約5ccの体積がある。
【0034】
本発明の組織工学装置は、身体の様々な場所、特に筋膜の解剖学的空間、表層筋膜及び深部筋膜の両方に移植することができる。組織工学装置の足場は、筋膜の解剖学的空間及び足場の機能的要件に応じて、任意の形状又はサイズを有することができる(例えば、乳房切除後の乳房再建のため、乳房、又は臀部など他の軟部組織に関連する美容又は審美目的のため、又は身体の様々な機能器官用)。したがって、足場は、サイズが小さくなり、乳腺腫瘤摘出術のために実質的に球形になる。足場は、外科的解剖によって生成された体内のスペースに配置して、スペースをセグメント及びサブセグメントに分割することができる。足場の表面は、吸収性材料のポリマーフィラメントを囲むコラーゲン線維を作る線維芽細胞からなる組織内殖及び毛細血管の内部成長を引き起こす。プリーツ/チャンバ間のスペースは、外科的解剖を足場と離して保持することによって生成される低い組織張力のために、機械的信号によって媒介されるプロセスを通じて、新しい脂肪組織生成の余地を残す。これは、筋膜の間質細胞を刺激して、CXCL12などのタンパク質「サイトカイン」を分泌させる。CXCL12は、循環から幹細胞を引き寄せて、組織工学装置が占有する空間に移動及び集合させる。その結果、健康で十分に血管新生された人工組織が、組織工学装置の移植の場所となる。吸収性材料の足場は、様々な再生治療の目標に応じて、移植前に様々な化合物、細胞、及びタンパク質で覆うことができる。したがって、組織工学装置は、例えばCRISPR技術を用いて遺伝子改変又は修復された、遺伝子修復された自家患者細胞、又は同種移植ドナー細胞の保管場所として機能するインビボバイオリアクターになる。細胞がインビトロで遺伝子改変されると、細胞は組織工学装置のバイオリアクター環境に移植される。そこで細胞は成長のためのインキュベーター環境を見つけ、修復された細胞株の産物を患者の血流に送ることができる豊富な循環にさらされる。その一例が糖尿病の治療である。I型糖尿病患者は、インスリンを作る機能性膵島細胞の数が不十分である。膵島のベータ細胞はインスリンを分泌し、糖尿病で重要な役割を果たす。修復された自家ベータ細胞又は同種移植ベータ細胞は、糖尿病治療用の組織工学装置に移植することができる。組織工学装置は、身体の筋膜系内のどこにでも配置できるが、最も好都合なのは、下側腹部領域、臀部の上の後部股関節領域、又は鎖骨のすぐ下の上側胸部などの位置である。これらの場所は、局所麻酔及び軽度の鎮静を使用して、外来患者の小さな外科的処置による移植を可能にする。
【0035】
足場が作られる多孔質吸収性材料の多孔性は、体内での使用領域に基づいて決定される。多孔性は、足場に対する組織の反応にとって重要である。大きな孔を持つマクロポーラスメッシュ吸収性材料は、新しい結合組織を構成するマイクロファージ、線維芽細胞、及びコラーゲン線維の侵入を容易にする。細孔が10マイクロメートル未満の微孔性メッシュ吸収性材料は、瘢痕組織が小さな孔を急速に橋渡しするため、より高い拒否率を示している。細孔サイズの正式な分類システムはないが、ほとんどの場合、足場は10マイクロメートルを超える細孔を持つマクロポーラスメッシュ吸収性材料からなる。
【0036】
本発明は、詳細に多くの変形、修正、及び変更を受ける限り、上記の、又は添付の図面に示した全ての主題は、例示としてのみ解釈され、限定的な意味で解釈されないことが意図されている。