(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】走行経路特定方法
(51)【国際特許分類】
A01B 69/00 20060101AFI20250121BHJP
【FI】
A01B69/00 303Z
A01B69/00 301
(21)【出願番号】P 2023015030
(22)【出願日】2023-02-03
(62)【分割の表示】P 2021148524の分割
【原出願日】2017-03-03
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167302
【氏名又は名称】種村 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100135817
【氏名又は名称】華山 浩伸
(74)【代理人】
【識別番号】100167830
【氏名又は名称】仲石 晴樹
(72)【発明者】
【氏名】西井 康人
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-120313(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0168116(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業車両を自律走行させる複数の作業経路を含む予定走行経路を生成することと、
前記作業車両を各予定走行経路に沿って自律走行させることと、
前記作業車両によって自律走行が開始される前に、前記複数の作業経路の中で、前記作業車両が自律走行を開始する開始経路を変更可能であることと、を有し、
前記開始経路は、前記複数の作業経路のうちの
少なくとも走行方向が異なる
2以上の作業経路の中で変更可能である、
走行経路特定方法。
【請求項2】
前記複数の作業経路の内のどの経路が前記開始経路であるかを識別可能な態様で、前記複数の作業経路を表示部に表示すること、を更に有する、
請求項1に記載の走行経路特定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両を自律走行させる場合に、自律走行を開始する予定走行経路を特定するための走行経路特定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような走行経路特定システムは、作業車両を自律走行させる自律走行システムにおいて用いられている(例えば、特許文献1参照。)。この特許文献1に記載のシステムでは、作業領域において複数の作業経路を含む予定走行経路を生成し、予定走行経路に沿って作業車両を自律走行させるようにしている。そして、自律走行を開始する場合には、複数の作業経路の内、自律走行を開始する開始経路が予め設定されているので、その開始経路の始端位置に作業車両を移動させて、開始経路に沿って作業車両を自律走行させることで、自律走行を開始させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載のシステムでは、複数の作業経路の内、自律走行を開始する開始経路が予め設定されているので、例えば、作業車両の現在位置が開始経路から離れた位置であっても、作業車両を開始経路の始端位置まで移動させなければならず、自律走行を開始するまでに長い時間を要することがある。
【0005】
また、上記特許文献1に記載のシステムでは、予め設定された開始経路以外の作業経路から自律走行を開始することができないので、自律走行を開始する開始経路に対する柔軟性が無く、他の作業経路から自律走行を開始させたいとの要望に応えることができなかった。
【0006】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、自律走行を開始する開始経路を柔軟に決定することができる走行経路特定方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る走行経路特定方法は、作業車両を自律走行させる複数の作業経路を含む予定走行経路を生成することと、前記作業車両を各予定走行経路に沿って自律走行させることと、前記作業車両によって自律走行が開始される前に、前記複数の作業経路の中で、前記作業車両が自律走行を開始する開始経路を変更可能であることと、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】自律走行システムの概略構成を示すブロック図
【
図3】自律走行経路(予定走行経路)の一例を示す図
【
図4】自律走行候補経路を特定するときの状態を示す模式図
【
図5】自律走行候補経路を特定するときの状態を示す模式図
【
図6】自律走行候補経路を特定するときの状態を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る走行経路特定システムを用いた自律走行システムの実施形態を図面に基づいて説明する。
この自律走行システムは、
図1に示すように、自律走行経路(予定走行経路に相当する)に沿って自律走行する作業車両としてのトラクタ1と、そのトラクタ1に対して各種の情報を指示可能な無線通信端末2とが備えられている。そして、この実施形態では、トラクタ1の位置情報を取得するための基準局4が備えられている。
【0010】
図1では、作業車両としてトラクタ1を例示したが、トラクタの他、田植機、コンバイン、土木・建築作業装置、除雪車等、乗用型作業車両に加え、歩行型作業車両も適用可能である。
【0011】
図2に示すように、トラクタ1には車両側無線通信部14が備えられ、無線通信端末2には端末側無線通信部21が備えられ、基準局4には基準局側無線通信部41が備えられている。車両側無線通信部14と端末側無線通信部21との間での無線通信によりトラクタ1と無線通信端末2との間で各種の情報を送受信可能とするとともに、車両側無線通信部14と基準局側無線通信部41との間での無線通信によりトラクタ1と基準局4との間で各種の情報を送受信可能に構成されている。そして、無線通信端末2と基準局4とは、トラクタ1を介して各種の情報を送受信可能に構成されている。また、端末側無線通信部21と基準局側無線通信部41との間での無線通信により無線通信端末2と基準局4とが、トラクタ1を介さずに直接各種の情報を送受信可能に構成することもできる。各無線通信部同士での無線通信に用いられる周波数帯域は、共通の周波数帯域であってもよいし、互いに異なる周波数帯域であってもよい。
【0012】
トラクタ1には、
図2に示すように、測位用アンテナ11、車両側制御部12(制御部に相当する)、情報取得部13、車両側無線通信部14、慣性計測装置15(例えば、3軸のジャイロと3方向の加速度計等を有する装置)等が備えられている。情報取得部13は、測位用アンテナ11にて受信される測位情報等に基づいて、トラクタ1の現在位置情報を取得可能であるとともに、慣性計測装置15にて計測される計測情報等に基づいて、トラクタ1の姿勢情報及び進行方向の方位情報を取得可能に構成されている。車両側制御部12は、情報取得部13にて自己の現在位置情報(トラクタ1の現在位置)を取得しながら、ガバナ装置、変速装置及び操舵装置等(図示省略)のトラクタ1に備えられる各種の装置を制御して、トラクタ1を自律走行可能に構成されている。また、トラクタ1には、記憶部(図示省略)が備えられており、この記憶部には、各種の情報が記憶されている。
【0013】
測位用アンテナ11は、
図1に示すように、例えば、衛星測位システム(GNSS)を構成する測位衛星3からの信号を受信するように構成されている。測位用アンテナ11は、例えば、トラクタ1のキャビンのルーフの上面に配置されている。
【0014】
衛星測位システムを用いた測位方法として、
図1に示すように、予め定められた基準点に設置された基準局4を備え、その基準局4からの測位補正情報によりトラクタ1(移動局)の衛星測位情報を補正して、トラクタ1の現在位置を求める測位方法を適用可能としている。例えば、DGPS(ディファレンシャルGPS測位)、RTK測位(リアルタイムキネマティック測位)等の各種の測位方法を適用することができる。ちなみに、測位方法については、基準局4を備えずに単独測位を用いることもできる。
【0015】
この実施形態では、例えば、RTK測位を適用していることから、
図1及び
図2に示すように、移動局側となるトラクタ1に測位用アンテナ11を備えるのに加えて、基準局4が備えられている。基準局4の設置位置となる基準点の位置情報は予め設定されて把握されている。基準局4は、例えば、圃場の周囲等、トラクタ1の走行の邪魔にならない位置(基準点)に配置されている。基準局4には、基準局側無線通信部41と基準局測位アンテナ42とが備えられている。
【0016】
RTK測位では、基準点に設置された基準局4と、位置情報を求める対象の移動局側となるトラクタ1の測位用アンテナ11との両方で測位衛星3からの搬送波位相(衛星測位情報)を測定している。基準局4では、測位衛星3から衛星測位情報を測定する毎に又は設定周期が経過する毎に、測定した衛星測位情報と基準点の位置情報等を含む測位補正情報を生成して、基準局側無線通信部41からトラクタ1の車両側無線通信部14に測位補正情報を送信している。トラクタ1の情報取得部13は、測位用アンテナ11にて測定した衛星測位情報を、基準局4から送信される測位補正情報を用いて補正して、トラクタ1の現在位置情報を求めている。情報取得部13は、トラクタ1の現在位置情報として、例えば、緯度情報・経度情報を求めている。
【0017】
無線通信端末2は、例えば、タッチパネルを有するタブレット型のパーソナルコンピュータ等から構成され、各種情報をタッチパネルに表示可能であり、タッチパネルを操作することで、各種の情報も入力可能となっている。無線通信端末2については、ユーザがトラクタ1の外部にて携帯して使用することが可能であるとともに、トラクタ1の運転席の側脇等に装着して使用することもできる。
【0018】
無線通信端末2には、
図2に示すように、端末側無線通信部21、経路生成部22、特定部23、特定領域設定部24等が備えられている。経路生成部22は、トラクタ1が自律走行する自律走行経路を生成するように構成されている。また、無線通信端末2には、記憶部(図示省略)が備えられており、この記憶部には、ユーザにより登録された情報等、各種の情報が記憶されている。
【0019】
トラクタ1の自律走行を行う場合には、ユーザが無線通信端末2のタッチパネル等を操作して各種の情報が入力することで、無線通信端末2の経路生成部22が、それら各種の入力情報等に基づいて、トラクタ1が自律走行する自律走行経路を生成している。経路生成部22は、始端位置、終端位置、走行方向、及び、どのような形状の経路であるか等、走行経路に関する各種の情報を特定して、自律走行経路を生成している。例えば、
図3に示すように、経路生成部22は、自律走行経路として、トラクタ1を自律走行させながら耕耘等の作業を行う作業経路K1と、作業経路K1から次の作業経路K1にトラクタ1を旋回させる旋回経路K2とを生成している。そして、経路生成部22にて生成される自律走行経路K1、K2は、
図3に示すように、無線通信端末2のタッチパネルに表示可能に構成されている。
図3に示す自律走行経路は、あくまで一例であり、経路生成部22が、どのような自律走行経路を生成するかは適宜変更が可能である。
【0020】
図3に示すように、経路生成部22が自律走行経路K1、K2を生成するに当たり、まず、特定領域設定部24が、トラクタ1を自律走行させる特定領域H(例えば、圃場)を設定している。特定領域Hは、自律走行経路K1、K2が生成される第1領域R1と、自律走行経路K1,K2が生成されない第2領域R2とを有しており、第1領域R1は、作業を行う作業領域R1aと作業を行わない非作業領域R1bとを有している。経路生成部22は、第1領域R1の作業領域R1aに対して作業経路K1を生成し、第1領域R1の非作業領域R1bに対して旋回経路K2を生成している。作業経路K1は、第1領域R1内において一端側から他端側に向けて自律走行させる直線状の経路であり、この直線状の経路が第1領域R1の全体に亘って特定領域H(圃場)の幅方向に隣接して複数並ぶように生成されている。旋回経路K2は、第1領域R1内の両端側において、特定領域H(圃場)の幅方向に並ぶ2つの作業経路K1についてその端部同士を接続してトラクタ1を旋回させるための経路として生成されている。
【0021】
上述の如く、経路生成部22が自律走行経路K1、K2を生成しているので、複数の作業経路K1のいずれか1つの作業経路K1を開始経路として、自律走行を開始することができる。開始経路については、複数の作業経路K1の内、どの作業経路K1であるかが予め設定されておらず、複数の作業経路K1の内から1つの作業経路K1を開始経路として決定することで、自律走行を開始するようにしている。ちなみに、開始経路として決定可能な自律走行経路は、自律走行経路K1、K2の内、作業経路K1のみとしている。
【0022】
開始経路を決定する際には、トラクタ1によって自律走行が開始される前に、まず、特定部23が、複数の作業経路K1の内、トラクタ1が自律走行を開始することが可能な自律走行候補経路を特定している。
図3及び
図4に示すように、特定部23は、トラクタ1の位置情報及び方位情報に基づいて候補特定用領域Pを設定し、複数の作業経路K1の内、トラクタ1の進行方向と同じ走行方向の作業経路K1であって、且つ、候補特定用領域Pに含まれる作業経路K1を自律走行候補経路K3として特定している。
【0023】
候補特定用領域Pの設定について説明すると、
図3に示すように、トラクタ1の進行方向に延びる進行直線T1を、トラクタ1の現在位置を中心として左右に回転角度θだけ回転させた右側直線T2と左側直線T3とを設定する。そして、右側直線T2と左側直線T3との間の領域であって、且つ、トラクタ1の現在位置から設定距離Lまでの範囲の領域を、候補特定用領域Pとして設定している。このようにして、トラクタ1の現在位置を基準としてトラクタ1の進行方向に向かって広がる四角形状の候補特定用領域Pが設定されている。候補特定用領域Pは、上述のような四角形状の領域に限らず、例えば、三角形状や円弧状等、各種の形状を適用することができ、各種の条件に応じて、トラクタ1の進行方向とは逆方向の領域を含まないように候補特定用領域Pを設定することができる。また、候補特定用領域Pは、一定の領域を設定することもできるが、トラクタ1の現在位置等、トラクタ1の状況に応じて変更設定することもできる。
【0024】
特定部23は、トラクタ1の進行方向と同じ走行方向の作業経路K1であって、且つ、候補特定用領域Pに含まれる作業経路K1を自律走行候補経路K3として特定するので、
図3及び
図4に示すように、トラクタ1の進行方向と同じ走行方向の作業経路K1であって、且つ、候補特定用領域Pに複数(例えば、2つ)の作業経路K1が含まれていると、特定部23は、その複数の作業経路K1を自律走行候補経路K3として特定している。特定部23にて特定された自律走行候補経路K3については、
図4の太線にて示すように、複数の作業経路K1の内、どの作業経路K1が自律走行候補経路K3として特定されているのかが識別可能な状態で、無線通信端末2のタッチパネルに表示可能に構成されている。
【0025】
ここで、特定部23は、トラクタ1の進行方向と同じ走行方向の作業経路K1であって、且つ、候補特定用領域Pに含まれる作業経路K1を必ず自律走行候補経路K3として特定するのではなく、
図5に示すように、トラクタ1の進行方向と同じ走行方向の作業経路K1であって、且つ、候補特定用領域Pに含まれる作業経路K1であっても、除外条件に合致する作業経路K1は自律走行候補経路K3として特定していない。除外条件としては、下記の(1)~(4)としている。ちなみに、
図5は、下記の(1)にて規定される除外条件に合致する場合を示している。
【0026】
(1)
図5に示すように、トラクタ1の現在位置と作業経路K1の始端位置との間に圃場外領域W1が存在する作業経路K1が除外条件に合致する。また、
図5に示すように、候補特定用領域Pにおける右側直線T2及び左側直線T3に対して交点を有する作業経路K1が存在する場合に、トラクタ1の現在位置から右側直線T2又は左側直線T3と作業経路K1との交点までの間に障害物W2があると、その作業経路K1が除外条件に合致する。ちなみに、
図5中、左側から3つ目の作業経路K1が候補特定用領域Pに含まれているが、その作業経路K1の始端位置とトラクタ1の現在位置との間に圃場外領域W1が存在している。また、
図5中、左側から5つ目の作業経路K1と右側直線T2との交点が存在するが、トラクタ1の現在位置と交点との間に障害物W2が存在している。
(2)トラクタ1の現在位置から始点位置又は右側直線T2及び左側直線T3との交点までの距離に基づいて定められる優先順位が低い作業経路K1が除外条件に合致する。尚、優先順位は、トラクタ1の現在位置から始点位置又は右側直線T2及び左側直線T3との交点までの距離が近い作業経路K1から順に上限数に至るまで高い優先順位が設定される一方、上限数を超えた作業経路K1には低い優先順位が設定される。
(3)トラクタ1の現在位置から右側直線T2又は左側直線T3との交点までの距離が最大設定距離よりも大きい作業経路K1が除外条件に合致する。また、トラクタ1の現在位置から始点位置までの距離が最大設定距離よりも大きい作業経路K1が除外条件に合致するとすることもできる。
(4)既に自律走行が行われて、作業済みの作業経路K1が除外条件に合致する。ちなみに、
図6中、グレー部分にて示すように、無線通信端末2では、複数の作業経路K1の内、どの作業経路K1が作業済みであるかを把握しており、
図6に示すように、作業済みの作業経路K1を塗り潰す等により識別可能な状態でタッチパネルに表示可能に構成されている。
【0027】
除外条件については、適宜設定することができ、例えば、上記の(1)~(4)の内、1つの条件又は複数の条件を選択可能することもできる。また、上記の(1)~(4)以外の条件としては、例えば、
図3に示すように、右側直線T2又は左側直線T3と作業経路K1に沿う直線V2(第2直線に相当する)との成す角度αが所定角度を上回る作業経路K1が除外条件に合致するとすることもできる。ここで、所定角度は、例えば、右側直線T2及び左側直線T3を設定する際に基準となる回転角度θよりも小さい角度を設定することができる。
【0028】
特定部23は、複数の作業経路K1の内、トラクタ1の進行方向と同じ走行方向の作業経路K1であって、且つ、候補特定用領域Pに含まれる作業経路K1が存在しない場合に、
図6に示すように、トラクタ1の位置情報(
図6中左側に位置するトラクタ1の位置情報)と各作業経路K1の始端位置情報とから特定される第1直線V1と、その作業経路K1に沿う第2直線V2とが成す角度βに基づいて自律走行候補経路K3を特定している。特定部23は、第1直線V1と第2直線V2とが成す角度βが所定角度(例えば、90度)以上の作業経路K1が存在すれば、その作業経路K1を自律走行候補経路K3として特定している。
【0029】
上述の如く、トラクタ1が第1領域R1(
図3及び
図4参照)に位置する場合には、特定部23が、候補特定用領域Pに基づいて自律走行候補経路K3を特定する通常特定処理を所定時間継続して行う。特定部23は、通常特定処理において、トラクタ1の進行方向と同じ走行方向の作業経路K1であるとともに、候補特定用領域Pに含まれており、且つ、除外条件に合致しない作業経路K1が存在すると、その作業経路K1を自律走行候補経路K3として特定している。そして、通常特定処理を所定時間継続しても、トラクタ1の進行方向と同じ走行方向の作業経路K1の内、候補特定用領域Pに含まれる作業経路K1が存在しない場合に、特定部23は、
図6に示すように、第1直線V1と第2直線V2とが成す角度βに基づいて自律走行候補経路K3を特定する始端特定処理を行う。特定部23は、始端特定処理において、第1直線V1と第2直線V2とが成す角度βが所定角度(例えば、90度)以上の作業経路K1が存在すれば、その作業経路K1を自律走行候補経路K3として特定している。
【0030】
ここで、特定部23が始点特定処理を行う場合は、通常特定処理を行っても、トラクタ1の進行方向と同じ走行方向の作業経路K1の内、候補特定用領域Pに含まれる作業経路K1が存在しない場合に限らず、例えば、トラクタ1が複数の旋回経路K2が生成される非作業領域R1bに位置する場合に、特定部23が始端特定処理を行うこともできる。このように、トラクタ1の現在位置が圃場Hの内、どの領域に位置するかによって、特定部23が始端特定処理を行うようにすることもできる。
【0031】
また、
図6中、右側のトラクタ1にて示すように、トラクタ1が第2領域R2に位置する場合には、特定部23が、第1直線V1と第2直線V2とが成す角度βに基づく自律走行候補経路K3の特定は行わず、候補特定用領域Pに基づく自律走行候補経路K3を継続している。これにより、トラクタ1が第2領域R2に位置する場合には、特定部23が、通常特定処理のみを行い、トラクタ1の進行方向と同じ走行方向の作業経路K1であるとともに、候補特定用領域Pに含まれており、且つ、除外条件が合致しない作業経路K1が存在するまで、通常特定処理が継続されることになる。
【0032】
このようにして、特定部23にて自律走行候補経路K3を特定すると、無線通信端末2は、特定部23にて特定した自律走行候補経路K3に関する候補経路情報をトラクタ1に送信する。トラクタ1の車両側制御部12は、無線通信端末2からの送信によって候補経路情報を取得すると、自律走行開始条件を満たすか否かの確認を行う。車両側制御部12は、下記の(1)~(5)の内、(1)、(2)、(3)又は(4)、(5)の4つの条件を満たすと、自律走行開始条件が満たされていると判定するとともに、自律走行候補経路K3の中から自律走行を開始する開始経路を決定している。ちなみに、(1)、(2)、(5)の条件は、自律走行候補経路K3の中から開始経路を特定するための条件となっており、複数の自律走行候補経路K3があっても、開始経路として1つの自律走行候補経路K3が決定されることになる。
【0033】
(1)トラクタ1の現在位置と自律走行候補経路K3との横方向での偏差が所定距離(例えば、±100cm)以内である。
(2)トラクタ1の進行方向の方位と自律走行候補経路K3の方位との方位偏差が所定角度(例えば、±15deg)以内である。
(3)トラクタ1の現在位置が作業領域R1a(
図3参照)である場合、トラクタ1の現在位置から非作業領域R1b(
図3参照)までの距離が所定距離(例えば、10m)以上である。
(4)トラクタ1の現在位置が非作業領域R1b(
図3参照)である場合、トラクタ1の現在位置から作業領域R1a(
図3参照)までの距離が所定距離(例えば、5m)以内である。
(5)上記の(1)及び(2)を満たす自律走行候補経路K3が同一である状態が所定時間(例えば、1秒)継続している。
【0034】
車両側制御部12は、自律走行開始条件が満たされると、自律走行を開始する開始経路がどの特定経路であるかを示す自律走行許可情報を無線通信端末2に送信する。これにより、無線通信端末2では、自律走行候補経路K3の内、開始経路がどの特定経路であるかを識別可能にタッチパネルに表示し、自律走行の開始を指示できる状態となる。
【0035】
無線通信端末2では、ユーザがタッチパネルを操作して自律走行の開始が指示されると、無線通信端末2は、自律走行の開始指示をトラクタ1に送信する。これにより、トラクタ1では、車両側制御部12が、自律走行の開始指示を受けることで、情報取得部13にて自己の現在位置情報(トラクタ1の現在位置)を取得しながら、開始経路に沿ってトラクタ1を自律走行させて、自律走行を開始している。
【0036】
ここで、自律走行を開始するためには、車両側制御部12が開始経路に関する開始経路情報を取得しておくことが必要となるので、この開始経路情報の取得について説明する。
【0037】
車両側制御部12は、自律走行開始条件を満たすか否かの確認を行う前に、無線通信端末2からの送信により候補経路情報を取得している。自律走行を開始する開始経路は、自律走行候補経路K3の中から決定されているので、候補経路情報には、自律走行を開始する開始経路に関する開始経路情報が含まれている。よって、車両側制御部12は、候補経路情報を取得することで、開始経路情報を取得していることになる。これにより、開始経路情報について、無線通信端末2からトラクタ1への送信を行わずに、トラクタ1の車両側制御部12が開始経路情報を取得することができる。
【0038】
また、車両側制御部12による開始経路情報の取得については、無線通信端末2から開始経路情報をトラクタ1に送信することで、無線通信端末2が開始経路情報を取得することもできる。この場合、無線通信端末2では、自律走行許可情報に基づいて、自律走行を開始する開始経路がどの自律走行候補経路K3であるかを特定することができるので、無線通信端末2は、開始経路情報をトラクタ1に送信することができ、この開始経路情報の送信によって、車両側制御部12が開始経路情報を取得することができる。
【0039】
このようにして、自律走行が開始された後には、無線通信端末2は、トラクタ1側からの要求に応じて、自律走行経路に関する経路情報をトラクタ1に送信している。これにより、車両側制御部12は、トラクタ1が自律走行をする自律走行経路に関する経路情報を取得することができるので、その経路情報に基づいて、情報取得部13にて自己の現在位置情報(トラクタ1の現在位置)を取得しながら、自律走行経路に沿ってトラクタ1を自律走行させるようにしている。
【0040】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、トラクタ1が第1領域R1に位置する場合に、特定部23は、複数の作業経路K1の内、候補特定用領域Pに含まれる作業経路K1が存在しなければ、第1直線V1と第2直線V2とが成す角度βに基づいて自律走行候補経路K3を特定しているが、トラクタ1が第2領域R2に位置する場合と同様に、第1直線V1と第2直線V2とが成す角度βに基づく自律走行候補経路K3の特定は行わず、候補特定用領域Pに基づく自律走行候補経路K3の特定を継続することもできる。
【0041】
(2)上記実施形態では、経路生成部22、特定部23、及び、特定領域設定部24を無線通信端末2に備えた例を示したが、例えば、経路生成部22、特定部23、及び、特定領域設定部24をトラクタ1の車両側制御部12に備えることもでき、また、外部の管理装置等に備えることもできる。よって、経路生成部22、特定部23、及び、特定領域設定部24をどのような装置に備えるかは適宜変更が可能である。
【0042】
<発明の付記>
本発明の第1特徴構成は、作業車両を自律走行させる複数の作業経路を含む予定走行経路を生成する経路生成部と、
前記作業車両を各予定走行経路に沿って自律走行させることが可能な制御部と、
前記作業車両の位置情報及び方位情報を取得する情報取得部と、
前記作業車両が自律走行可能な自律走行候補経路を特定する特定部とを備え、
前記特定部は、前記作業車両の位置情報及び方位情報に基づいて候補特定用領域を設定し、前記複数の作業経路の内、前記候補特定用領域に含まれる作業経路を前記自律走行候補経路として特定可能であることを特徴とする点にある。
【0043】
本構成によれば、特定部は、作業車両の位置情報及び方位情報に基づいて候補特定用領域を設定するので、例えば、作業車両の進行方向で作業車両に近い領域等、自律走行を開始するのに好適な作業経路が含まれる領域を候補特定用領域に設定することができる。特定部は、複数の作業経路の内、候補特定用領域に含まれる作業経路を自律走行候補経路として特定することができるので、自律走行を開始するのに好適な作業経路を含めた状態で自律走行候補経路を特定することができる。これにより、自律走行を開始する開始経路は、自律走行候補経路から決定することができるので、例えば、作業車両の進行方向で作業車両に近い作業経路を開始経路として、自律走行を開始することができる。このようにして、自律走行を開始する開始経路を、作業車両の位置情報及び方位情報に基づいて好適に決定することができるので、開始経路を柔軟に決定して、その決定する開始経路にて自律走行を開始することができる。
【0044】
本発明の第2特徴構成は、前記特定部は、前記候補特定用領域に含まれる作業経路であっても、除外条件に合致する作業経路は前記自律走行候補経路として特定しないことを特徴とする点にある。
【0045】
本構成によれば、特定部は、候補特定用領域に含まれる作業経路の全てを自律走行候補経路として特定するのではなく、候補特定用領域に含まれる作業経路であっても、除外条件に合致する作業経路は自律走行候補経路として特定していない。これにより、例えば、作業車両と作業経路の始端位置との間に障害物が存在する等により、自律走行を開始するための作業経路としては好ましくない作業経路が候補特定用領域に含まれていても、特定部は、その作業経路を除外して自律走行候補経路を特定することができ、自律走行を開始するのに好適な作業経路を自律走行候補経路として適切に特定することができる。
【0046】
本発明の第3特徴構成は、前記特定部は、前記複数の作業経路の内、前記候補特定用領域に含まれる作業経路が存在しない場合に、前記作業車両の位置情報と各作業経路の始端位置情報とから特定される第1直線と、その作業経路に沿う第2直線とが成す角度に基づいて前記自律走行候補経路を特定することを特徴とする点にある。
【0047】
本構成によれば、特定部は、作業車両の位置情報を用いながら、第1直線と第2直線とが成す角度に基づいて自律走行候補経路を特定することができるので、候補特定用領域に含まれる作業経路が存在しない場合でも、自律走行候補経路を適切に特定することができる。
【0048】
本発明は、前記作業車両を自律走行させる特定領域を設定する特定領域設定部を備え、
前記特定領域は、前記予定走行経路が生成される第1領域と、前記予定走行経路が生成されない第2領域とを有し、
前記特定部は、前記作業車両が前記第2領域に位置する場合に、前記第1直線と前記第2直線とが成す角度に基づく前記自律走行候補経路の特定は行わず、前記候補特定用領域に基づく前記自律走行候補経路の特定を継続すると好適である。
【0049】
本構成によれば、第2領域には予定走行経路が生成されないので、作業車両が第2領域に位置する場合に、特定部が、第1直線と第2直線とが成す角度に基づいて自律走行候補経路の特定を行うと、自律走行を開始するのに適していない作業経路を自律走行候補経路として特定してしまう可能性がある。そこで、作業車両が第2領域に位置する場合には、特定部が、第1直線と第2直線とが成す角度に基づく自律走行候補経路の特定を行わず、候補特定用領域に作業経路が含まれるまで、候補特定用領域に基づく作業経路の特定を継続している。これにより、特定部は、候補特定用領域に作業経路が含まれると、その作業経路を自律走行候補経路として特定することができ、作業車両が第2領域に位置する場合でも、自律走行を開始するのに好適な作業経路を自律走行候補経路として適切に特定することができる。
【0050】
本発明の一態様に係る走行経路特定方法は、作業車両を自律走行させる複数の作業経路を含む予定走行経路を生成することと、前記作業車両を各予定走行経路に沿って自律走行させることと、前記作業車両の位置情報を取得することと、前記作業車両の位置情報に基づいて候補特定用領域を設定し、前記複数の作業経路の内、前記候補特定用領域に含まれる作業経路を前記作業車両が自律走行可能な自律走行候補経路として特定可能であることと、を有する。
【符号の説明】
【0051】
1 トラクタ(作業車両)
12 車両側制御部(制御部)
13 情報取得部
14 車両側無線通信部
22 経路生成部
23 特定部
24 特定領域設定部
H 特定領域(圃場)
K1 作業経路(予定走行経路)
K2 旋回経路(予定走行経路)
K3 自律走行候補経路
R1 第1領域
R2 第2領域
P 候補特定用領域
V1 第1直線
V2 第2直線
β 第1直線と第2直線とが成す角度