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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】電気自動車用2段変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 3/54 20060101AFI20250121BHJP
   F16D 13/52 20060101ALI20250121BHJP
   F16D 27/112 20060101ALI20250121BHJP
   F16H 25/20 20060101ALI20250121BHJP
   F16H 25/22 20060101ALI20250121BHJP
   F16H 1/16 20060101ALI20250121BHJP
   F16D 28/00 20060101ALI20250121BHJP
   F16D 55/28 20060101ALI20250121BHJP
【FI】
F16H3/54
F16D13/52 D
F16D27/112 Z
F16H25/20 Z
F16H25/22 Z
F16H1/16 Z
F16D28/00 Z
F16D55/28 B
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2023500689
(86)(22)【出願日】2022-01-29
(86)【国際出願番号】 JP2022003465
(87)【国際公開番号】W WO2022176579
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2024-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2021024313
(32)【優先日】2021-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000178804
【氏名又は名称】ユニプレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088731
【弁理士】
【氏名又は名称】三井 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】森 晃賢
(72)【発明者】
【氏名】小野 浩彰
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-108619(JP,A)
【文献】国際公開第2016/055359(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/54
F16D 13/52
F16D 27/112
F16H 25/20
F16H 25/22
F16H 1/16
F16D 28/00
F16D 55/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪駆動のため電動回転駆動モータを使用する電動車用2段変速機であって、
ハウジングと、
ハウジングに支持され、電動回転駆動モータ側に接続された入力軸と、
ハウジングに支持され、車輪側に接続された出力軸と、
入力軸に連結されたとき出力軸との間で第1速の変速比を得るための噛合する歯車よりなる第1の歯車機構と、
入力軸に連結されたとき出力軸との間で同一回転方向であるが第1速より高ギヤ比の第2速の変速比を得るための噛合する歯車よりなる第2の歯車機構と、
締結時に入力軸の回転を第1の歯車機構に伝達することにより第1速の変速比を得る第1の多板摩擦クラッチと、
第1の多板摩擦クラッチと同軸にかつ軸方向に離間して配置され、締結時に入力軸の回転を第2の歯車機構に伝達することにより第2速の変速比を得る第2の多板摩擦クラッチと、
第1の多板摩擦クラッチと第2の多板摩擦クラッチとの選択的締結を行うアクチュエータと、を具備してなり、
前記アクチュエータは、トルク源である制御モータと、トルク伝達用の噛合する歯車と、トルクを推力に変換するための螺合する内径部材及び外径部材と、推力の伝達のための推力伝達部材と、推力による締結のため第1の多板摩擦クラッチ及び/若しくは第2の多板摩擦クラッチを押圧するクラッチ押圧部材とを具備してなり、かつ内径部材はトルク伝達用歯車からのトルクを受けるようにされ、内径部材に加わるトルクを推力に変換するべく外径部材はハウジングに摺動可能に支持される電動車用2段変速機。
【請求項2】
請求項1に記載の発明において、一組のアクチュエータを第1の多板摩擦クラッチ及び第2の多板摩擦クラッチの締結のため共用しており、かつクラッチ押圧部材は、推力伝達部材を介して外径部材と一体に軸方向に前後移動することにより、第1の多板摩擦クラッチと第2の多板摩擦クラッチの選択的締結を行う電動車用2段変速機。
【請求項3】
請求項2に記載の発明において、外径部材と推力伝達部材とは変速機中心軸線と同芯な内側筒状部と外側筒状部とこれらを一体連結する径方向壁部とよりなる二重筒体として構成され、内側筒状部は中心軸線上における第1の多板摩擦クラッチ及び第2の多板摩擦クラッチの外側において内径部材と螺合され、かつ外側筒状部は近接側に位置する第1の多板摩擦クラッチ若しくは第2の多板摩擦クラッチを臨みつつハウジングの内周面に摺動自在に嵌合されると共に、クラッチ押圧部材は第1の多板摩擦クラッチ及び第2の多板摩擦クラッチ間に位置するべく外側筒状部に固着される2段変速機。
【請求項4】
請求項3に記載の発明においてクラッチ押圧部材は第1の多板摩擦クラッチと第2の多板摩擦クラッチ間を径方向に延出するプレス成形された環状板材より構成され、外周端において外側筒状部に一体連結されると共に、内周端において第1の多板摩擦クラッチ及び第2の多板摩擦クラッチの一方の押圧のためのプレス成形部を備え、中間部において第1の多板摩擦クラッチ及び第2の多板摩擦クラッチの多方の押圧のためのプレス成形部を備える2段変速機。
【請求項5】
請求項4に記載の発明において、クラッチ押圧部材の内周部は外周部に対して軸方向に幾分の弾性変形をもって係合することにより第1の多板摩擦クラッチ及び第2の多板摩擦クラッチの締結動作を行うようにされる2段変速機。
【請求項6】
請求項1に記載の発明において、一組のアクチュエータを第1の多板摩擦クラッチ及び第2の多板摩擦クラッチの締結のため共用しており、かつ推力伝達部材は外径部材の軸方向前後移動により前後回動(揺動)し、推力伝達部材の前後回動によりクラッチ押圧部材は第1の多板摩擦クラッチと第2の多板摩擦クラッチの選択的締結を行う選択的締結を行う電動車用2段変速機。
【請求項7】
請求項6に記載の発明において、推力伝達部材は一端においてハウジングに枢着され、第1の多板摩擦クラッチと第2の多板摩擦クラッチとを挟んだ他端において内ねじ部材にその直径対立位置において遊嵌された揺動アームとして構成され、かつクラッチ押圧部材は、揺動アームに直径対立位置において枢着されかつ多板摩擦クラッチ及び第2の多板摩擦クラッチの対向面間に位置しており、内ねじ部材の軸方向前後移動による揺動アームの前後回動は、クラッチ押圧部材をして第1の多板摩擦クラッチ若しくは第2の多板摩擦クラッチに正対させつつその締結を行う電動車用2段変速機。
【請求項8】
請求項2若しくは4に記載の発明において、ハウジング内に入力軸が出力軸と同軸をなして配置され、ピニオンを軸支したキャリアと、ピニオンと噛合する異なった歯数の二つのギヤとの3回転要素を備え、そのうちの二つに入力軸及び出力軸が、夫々、連結される遊星歯車式変速機構を備え、3回転要素及びハウジングに対する第1の多板摩擦クラッチ及び第2の多板摩擦クラッチに対する配置は、前記推力伝達部材による第1の多板摩擦クラッチの締結、第2の多板摩擦クラッチの非締結により入-出力軸間に第1速の変速比を得るべくし、これにより遊星歯車式変速機構を前記第1の歯車機構に構成し、前記推力伝達部材による第1の多板摩擦クラッチの非締結、第2の多板摩擦クラッチの締結により、入-出力軸間に第2速の変速比を得るべくし、これにより遊星歯車式変速機構を前記第2の歯車機構に構成した2段変速機。
【請求項9】
請求項8に記載の発明において、第1の多板摩擦クラッチは遊星歯車式変速機構におけるキャリアではない2回転要素の一方をハウジングに連結(ハウジングを制動)することにより入-出力軸間を減速とすることにより第1速の変速比の形成に与り、第2の多板摩擦クラッチは入-出力軸間で回転要素を一体回転させることで第2速の変速比の形成に与るようにされ、かつ出力軸とハウジングとの間に第1の多板摩擦クラッチと並列に駆動トルク伝達のため配置されたワンウエイクラッチを具備した2段変速機。
【請求項10】
請求項2若しくは4に記載の発明において、第1の歯車機構は第1速の変速比を得るための噛合する平歯車から構成され、第2の歯車機構は第2速の変速比を得るための噛合する平歯車から構成される電動車用2段変速機。
【請求項11】
請求項10に記載の発明において、第1の歯車機構と入力側と出力側間に並列に駆動トルク伝達のため配置された配置されるワンウエイクラッチを具備した電動車用2段変速機。
【請求項12】
請求項1に記載の発明において、前記アクチュエータは2組具備され、その第1のアクチュエータは第1速の変速比の設定のための第1の多板摩擦クラッチの締結及び非締結に与り、その第2のアクチュエータは第2の多板摩擦クラッチの締結及び非締結に与るようにされる電動車用2段変速機。
【請求項13】
請求項12に記載の発明において、夫々のアクチュエータにおいて推力伝達部材は一端においてハウジングに枢着され、第1組においては第1の多板摩擦クラッチ、第2組においては第2の多板摩擦クラッチを挟んだ他端において外径部材にその直径対立位置において遊嵌された揺動アームとして構成され、かつクラッチ押圧部材は揺動アームに直径対立位置において枢着されており、外径部材の軸方向前後移動による揺動アームの前後回動は、クラッチ押圧部材をして第1組においては第1の多板摩擦クラッチの締結、第2組においては第2の多板摩擦クラッチの締結に与るようにされる電動車用2段変速機。
【請求項14】
請求項1に記載の発明において、トルク伝達用の噛合する歯車は、一対の平歯車により構成される2段変速機。
【請求項15】
請求項1に記載の発明において、トルク伝達用の噛合する歯車は、制御モータ側のウォームとウォームに噛合するホイールにより構成される2段変速機。
【請求項16】
請求項1に記載の発明において、内ねじ部材と外ねじ部材とは、その間に無限循環するように密接した多数のボールを配置した2段変速機。
【請求項17】
請求項1に記載の発明において、前記制御モータの回転軸を制動することにより第1の多板摩擦クラッチ及び/若しくは第2の多板摩擦クラッチの締結保持を行うための電磁ブレーキを更に具備している2段変速機。
【請求項18】
請求項17に記載の発明において、制御モータの回転軸の制動を所定時間毎に実行することにより第1の多板摩擦クラッチ及び/若しくは第2の多板摩擦クラッチの掴み直し行うようにされる2段変速機。
【請求項19】
請求項17若しくは18に記載の発明において、前記電磁ブレーキは、制御モータの回転軸の制動を非通電時において行う2段変速機。
【請求項20】
請求項 9若しくは11に記載の発明において、第1速の変速比におけるドライブ時に前記ワンウエイクラッチは拘束、電磁ブレーキ非締結とされ、第1速の変速比におけるコースト時に前記ワンウエイクラッチはフリー、電磁ブレーキ締結とされる2段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は電気自動車用2段変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動機を動力とする自動車(Electric Vehicle:EV)においては、エンジンと電動モータを切替え若しくは共用するハイブリッド車においても、また純粋に電動モータの駆動力だけで走行するものでも電動モータの動力の車軸側への伝達は回転軸上に別段変速機を設けず、駆動モータの回転を走行に適した適当な回転数に落とす減速機だけを設けるものが普通であった。これは、電動機においては無回転域から駆動トルクを発生させることができ、使用可能な回転域が広いし、また、構造が簡単ということがEVの重要なセールスポイントであることから、構造を複雑化させる変速機を設けるまでもない、といった事情によるものである。
【0003】
しかしながら、EVにおいても、変速機を利用するメリットはあり、それは、電動式といえども全回転域で高効率を維持することは困難であり、特に、高回転域においては効率悪化があり、高車速を得ることができないため、そのための改善として、2段の変速機を駆動モータと減速機との間に配置する方式ものが各種提案されている。この方式においては、効率の悪化する高回転域において、2段の変速機における高ギヤ比側を使用することにより、駆動モータの回転数を下げて駆動モータを高効率で運転することにより、高車速を得ることができる。この種の2段の変速機としては、変速機構として遊星歯車機構を使用し、第1速においては、相対的に低ギヤ比となるように遊星歯車機構を設定し、第2速においては、相対的に高ギヤ比となるように遊星歯車機構を設定するものが各種提案されている。その中において、第1速のドグクラッチ(又は摩擦クラッチ)と第2速用摩擦クラッチとの切替のための電動式のアクチュエータとして、軟磁性体より成るアーマチュアとスプリングと電磁コイルとから成るものが提案されている(特許文献1)。即ち、第1速においては、スプリング力下アーマチュアによりドグクラッチの締結を行い、第2速は電磁コイルによりアーマチュアを駆動することによりドグクラッチ(又は摩擦クラッチ)を非締結とし、第2速用の摩擦クラッチを締結に至らしめる。
【0004】
別方式の電動式のアクチュエータとして、電動回転式の制御モータと、制御モータをウオームよりウォームホイールを経て、ウォームホイールの内周ネジ条と螺合する外周ネジ条を備えた内径側ピストンより成るトルク-推力変換機構とを備え、トルク-推力変換機構により制御モータの回転(トルク)をピストンの軸方向の推力に変換し、第1速用摩擦クラッチと第2速用摩擦クラッチとの切り替えを行う方式のものも提案されている(特許文献2)。特許文献2の技術においては、制御モータによるウォームの回転はウォームホイールに伝えられ、ウォームホイールの回転はピストンの軸方向前後移動に変換され、第1及び第2の摩擦クラッチの選択的な駆動が行われ、遊星歯車機構による第1速若しくは第2速の切替が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6545921号
【文献】特許第6028507号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術は第1速としてドグクラッチを使用することから、スプリング力により第1速の保持を行うことができ、この点ではアクチュエータの消費電力の節約となる。しかしながら、第2速から第1速への切替時変時に、ドグクラッチの同期がそのままではとれないため、変速ショックの回避のためのトルクアップ等の制御が必要となり、またトルクアップのため回生制御もできないことから燃費上不利となる。また、円滑な切替動作のためにはクラッチ切替初期に締結容量の精細な制御の必要性があるが、電磁コイルよるアーマチュアの制御においては距離短縮により一意的に急増する電磁吸引力の特性上それに対応することができない。
【0007】
特許文献2におけるトルク-推力変換方式はドグクラッチのような変速ショックを生ずることがなく、また、制御モータのトルク制御により運転状態に応じた適格な摩擦クラッチの締結容量制御は可能であり、ドグクラッチ方式の上述欠点は解消している。然るに、引用文献2のトルク-推力変換方式においては、外径側のウォームの回転を内径側のピストンの直線運動に変換する方式であり、この方式上、回転するウォームのハウジングに対する転がり及びスラストの支持機構が必須であり、この構成については特許文献2には記載を欠如するが、転がり及びスラストを受けることができるアンギュラ玉軸受の採用が技術常識であろうが、外径側に位置するウォームホイールの構造上、アンギュラ玉軸受は大型化は必須となる。アンギュラ玉軸受の採用は、変速機の外径だけでなく軸長を大きくし、小型化が強く希求されるEV用のパーツとしては適していない。
【0008】
本発明は、以上説明した問題点を解決することを目的とする。また、本発明は、電動回転式の制御モータにより駆動されるトルク-推力変換機構を備えた遊星歯車式の2段変速機の小型化に適した構造とすることを目的とし、特に、小型化及び省電力を意図したものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明になる車輪駆動のため電動式駆動モータを使用する車両における2段変速機は、
車輪駆動のため電動回転駆動モータを使用する電動車用2段変速機であって、
ハウジングと、
ハウジングに支持され、電動回転駆動モータ側に接続された入力軸と、
ハウジングに支持され、車輪側に接続された出力軸と、
入力軸に連結されたとき出力軸との間で第1速の変速比を得るための噛合する歯車よりなる第1の歯車機構と、
入力軸に連結されたとき出力軸との間で同一回転方向であるが第1速より高ギヤ比の第2速の変速比を得るための噛合する歯車よりなる第2の歯車機構と、
締結時に入力軸の回転を第1の歯車機構に伝達することにより第1速の変速比を得る第1の多板摩擦クラッチと、
第1の多板摩擦クラッチと同軸にかつ軸方向に離間して配置され、締結時に入力軸の回転を第2の歯車機構に伝達することにより第2速の変速比を得る第2の多板摩擦クラッチと、
第1の多板摩擦クラッチと第2の多板摩擦クラッチとの選択的締結を行うアクチュエータと、を具備してなり、
前記アクチュエータは、トルク源である制御モータと、トルク伝達用の噛合する歯車と、トルクを推力に変換するための螺合する内径部材及び外径部材と、推力の伝達のための推力伝達部材と、推力による締結のため第1の多板摩擦クラッチ及び/若しくは第2の多板摩擦クラッチを押圧するクラッチ押圧部材(プッシャ)とを具備してなり、かつ内径部材はトルク伝達用歯車からのトルクを受けるようにされ、内径部材に加わるトルクを推力に変換するべく外径部材はハウジングに自転は阻止しつつ摺動可能に支持される。
【0010】
一組のアクチュエータを第1の多板摩擦クラッチ及び第2の多板摩擦クラッチの切替的締結のため共用させることができ、この場合、クラッチ押圧部材を、推力伝達部材を介して外径部材と一体に軸方向に前後移動させることにより、第1の多板摩擦クラッチと第2の多板摩擦クラッチの選択的締結を行う。外径部材と推力伝達部材とは変速機中心軸と同芯な内側筒状部と外側筒状部とこれらを一体連結する径方向壁部とよりなる二重筒体として構成することができ、内側筒状部は中心軸上における第1の多板摩擦クラッチ及び第2の多板摩擦クラッチの外側において内径部材と螺合され、かつ外側筒状部は近接側に位置する第1の多板摩擦クラッチ若しくは第2の多板摩擦クラッチを臨みつつハウジングの内周面に摺動自在に嵌合されると共に、クラッチ押圧部材は第1の多板摩擦クラッチ及び第2の多板摩擦クラッチ間に位置するべく外側筒状部に一体連結される。
【0011】
一組のアクチュエータを第1の多板摩擦クラッチ及び第2の多板摩擦クラッチの締結のため共用させる別の態様として、推力伝達部材は外径部材の軸方向前後移動により前後回動(揺動)され、推力伝達部材の前後回動によりクラッチ押圧部材は第1の多板摩擦クラッチと第2の多板摩擦クラッチの選択的締結を行うようにすることができる。推力伝達部材は一端においてハウジングに枢着され、他端において外径部材(ナット)にその直径対立位置において遊嵌された揺動アームとして構成され、かつクラッチ押圧部材は、揺動アームに直径対立位置において枢着されかつ多板摩擦クラッチ及び第2の多板摩擦クラッチの対向面間に位置しており、内ねじ部材の軸方向前後移動による揺動アームの前後回動は、クラッチ押圧部材をして第1の多板摩擦クラッチ若しくは第2の多板摩擦クラッチに正対させつつその締結を行う。
【0012】
第1の歯車機構及び第1の歯車機構は遊星歯車式変速機構により構成することができる。遊星歯車式変速機構において、ハウジング内に入力軸が出力軸と同軸をなして配置され、ピニオンを軸支したキャリアと、ピニオンと噛合する異なった歯数の二つのギヤとの3回転要素を備え、そのうちの二つに入力軸及び出力軸が、夫々、連結される。3回転要素及びハウジングに対する第1の多板摩擦クラッチ及び第2の多板摩擦クラッチに対する配置は、推力伝達部材による第1の多板摩擦クラッチの締結、第2の多板摩擦クラッチの非締結により入-出力軸間に第1速の変速比を得るべくし、これにより遊星歯車式変速機構を第1の歯車機構に構成し、推力伝達部材による第1の多板摩擦クラッチの非締結、第2の多板摩擦クラッチの締結により、同一回転方向であるが入-出力軸間に第2速の変速比を得るべくし、これにより遊星歯車式変速機構を第2の歯車機構に構成することができる。また、遊星歯車式変速機構を使用することなく、第1の歯車機構及び第1の歯車機構遊星歯車を、夫々、第1速の変速比を得るための噛合する平歯車、第2の歯車機構は第2速の変速比を得るための噛合する平歯車から構成することができる。
【0013】
またアクチュエータは二組設け、その第1組は第1速の変速比の設定のための第1の多板摩擦クラッチの締結及び非締結に与り、その第2組第2の多板摩擦クラッチの締結及び非締結に与るようにすることができる。
【0014】
本発明の2段変速機は、更に、制御モータの回転軸を選択的に制動するための電磁ブレーキを付加することができる。電磁ブレーキは、第1の多板摩擦クラッチ及び第2の多板摩擦クラッチの夫々の締結動作時に、制御モータの回転軸を制動・拘束することにより、制御モータの低回転トルク下において第1の多板摩擦クラッチ及び第2の多板摩擦クラッチの夫々の締結状態の保持を行うようにすることができる。そして、制御モータの回転軸の制動を一定時間毎に実行することにより第1の多板摩擦クラッチ及び第2の多板摩擦クラッチの夫々の掴み直し行うようにすることができる。
【0015】
更に、本発明において、第1の多板摩擦クラッチと第2の多板摩擦クラッチとの選択的締結を行うことにより第1速の変速比と第2の歯車機構との変速を行う場合、第1速の変速比に与る多板摩擦クラッチと並列にワンウエイクラッチを設置することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の2段変速機においては、遊星歯車機構の変速比の切替のための電動モータ制御のアクチュエータにおける噛合ネジ方式のトルク-推力変換機構は内径部材(スクリュ)を回転させ、外径部材(ナット)を軸移動させることにより第1の多板摩擦クラッチ及び第2の多板摩擦クラッチの切替を行っている。回転する内径部材は小径となるため、トルク-推力変換機構の小型化を実現することができ、かつ内径部材に生ずるスラストの軽減が可能であり、軸受機構として簡易なものを採用可能となる。そして、運転状態に応じた適格な摩擦クラッチや摩擦ブレーキの切替制御が可能であり、省電力であるという電動モータ制御の利益を損なうことがない。
【0017】
トルク-推力変換機構における内径部材と外径部材を内外2重の筒形状とし、外径部材の内側形状部分と内径部材との螺合部を第1の多板摩擦クラッチ及び第2の多板摩擦クラッチの外側に配置することによりトルク-推力変換機構の軸上設置部分の軸長を抑制することができ、小型化が実現する。
【0018】
更に、制御モータとして電磁ブレーキを備えたものとすることにより、第1の多板摩擦クラッチ及び第2の多板クラッチの締結保持が可能であり、制御モータの常用トルクを最小限とすることができ、省電力を図ることができ、モータの発熱を抑制し、冷却装置を簡易化することができる。
【0019】
また、ワンウエイクラッチ併用による切替動作によりコースト運転時に多板クラッチの締結だけで対応することができ、トルクアップの必要なしに無ショックで変速動作を行うことができ、その分電力回生に回すことができ、省電力及び効率アップを図ることができる。
【0020】
アクチュエータを二組設け、第1の多板摩擦クラッチ、第2の多板摩擦クラッチの夫々の締結を行うことにより、切替式の場合の第1の多板摩擦クラッチと第2の多板摩擦クラッチとの間をプッシャが移動するための空走期間を解消することができ、制御モータの省力化しかつワンウエイクラッチの省略が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1はこの発明の電気自動車の車輪駆動トレーンを模式的に示す図である。
図2図2はこの発明の実施形態における2段変速機の全体を概略的に示すスケルトン図である。
図3図3図2の2段変速機に使用するワンウエイクラッチの一例の概略構成図であり、図2の大略III-III線に沿った矢視図である。
図4図4図2のAにて示す部分の模式的拡大図であり、トルク-軸方向推力変換機構における筒状ネジと筒状ナット間の螺合状態を模式的に示す。
図5図5図2のBにて示す部分の模式的拡大図であり、プッシャとハウジングとの間のスプライン連結を模式的に示す。
図6図6図2のアクチュエータの動作説明図であり、(A)はアクチュエータの原点位置、(B)は摩擦ブレーキ締結位置、(C)は摩擦クラッチ締結位置を示す。
図7図7は制御モータの回転角度とプッシャのストローク量の関係を示すグラフである。
図8図8は摩擦クラッチと摩擦ブレーキとの切替時のプッシャの切替駆動部を弾性変形させる実施形態の説明図である。
図9図9は本発明の実施形態における各段におけるワンウエイクラッチ、摩擦ブレーキ及び摩擦クラッチの締結及び非締結の説明図である。
図10図10は制御モータが電磁ブレーキを有さない場合の制御回路の動作説明のためのフローチャートである。
図11図11は電磁ブレーキを有した制御モータの概略構成図である。
図12図12図11のXII-XII線沿って示す矢視断面図である。
図13図13は電磁ブレーキによる摩擦クラッチ、摩擦ブレーキの掴み直し動作を説明する模式的なタイミング図であり、(A)は電磁ブレーキの動作、(B)はソレノイドの動作を示す。
図14A図14Aは制御モータが電磁ブレーキ付の場合の制御回路の動作説明のためのフローチャートの一部分である。
図14B図14B図13に続くフローチャートの残余の部分である。
図15図15図2の2段変速機を実機に構成した場合の断面図である。
図16図16図15におけるボールネジ機構の模式的詳細図である。
図17図17は揺動アームにより第1速と第2速との切替を行う2段変速機の全体を概略的に示すスケルトン図である。
図18図18は揺動アームの概略的正面図(図17の概略XVIII-XVIII線に沿う矢視断面図)である。
図19図19図17におけるネジ部材とナット部材とのスプライン係合の概略図(図17の概略IXX-IXX線に沿う矢視断面図)である。
図20図20は二組の揺動アームにより第1速と第2速夫々のための摩擦クラッチの切替を行う2段変速機の全体を概略的に示すスケルトン図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[全体構成]
図1はこの発明の電気自動車の駆動トレーンを模式化して示しており、2は走行用の電動機である駆動モータ、4はこの発明の2段変速機、6は減速機、8はディファレンシャルギア、9は車輪を示す。2段変速機4は駆動モータ2への入力軸10及び減速機6への出力軸12を備える。減速機6は噛合するギヤを筐体に収容して構成され、駆動モータ2の高回転を車輪9による走行に適した回転数に減速するため設置され、2段変速機4を設置しない通常の電気自動車の場合、減速機6における減速比の設定は3.5付近の値であり、これは、常用される低車速運転において駆動モータ2を高効率の回転数域で動作させるため適しているが、この設定の場合、高車速運転で電動機の回転が上がり過ぎて電動機の効率悪化により、高速運転が行えないため、2段変速機4を設置している。この発明では変速機4は遊星歯車機構を備えており、本実施形態では、第1速はサンギヤ入力、キャリア出力で減速(減速比は例えば1.6)、第2速は入出力直結(変速比1.0)の設定であり、減速機6の減速比を仮に2.2とした場合のトータルの減速比は1.6×2.2=3.52となり、従来の2段変速機の無い場合のトータルの減速比程度の値となる。また、第2速での運転の場合は、トータルとして2.2×1.0=2.2の減速比での運転となり、減速比が小さくなる分、高車速運転域において、駆動モータ2を低車速運転域との対比において、低回転の効率の良い回転域で運転させることが可能となり、高速運転が可能となる。
【0023】
図2図1の駆動トレーンにおける2段変速機4及び減速機6をその基本的な構成をスケルトン図として表したものである。この2段変速機においては、出力軸12は筒状をなし、中心の入力軸10(駆動モータ2の出力軸2-1に連結されている)と同軸、即ち、回転中心を共通して、配置される。
【0024】
2段変速機4は、ハウジング14内に配置された遊星歯車機構16を備えており、遊星歯車機構16は、円周方向に間隔をおいて配置された複数のピニオン18を回転自在に軸支して構成されるキャリア20と、キャリア20と回転中心を共通しピニオン18に噛合するサンギヤ22と、キャリア20と回転中心を共通しピニオン18に噛合するリングギヤ24とからなる3回転要素を備えている。サンギヤ22は入力軸10に連結され、キャリア20が出力軸12側に連結されている。更に、締結要素としての多板式摩擦クラッチ(以下単に摩擦クラッチ)26、ワンウエイクラッチ27、多板式摩擦ブレーキ(以下単に摩擦ブレーキ)28を備えている。そして、第1速(コースト)ではリングギヤ24をハウジング14にワンウエイクラッチ27により締結し、入力軸10側のサンギヤ28に対し、出力軸12側のキャリア20を上述の1.6の減速比とし、第2速では、サンギヤ28とキャリア20とを摩擦クラッチ26により連結することにより、入力軸10と出力軸12とを一体回転させ、変速比=1.0とし、第1速に対し増速とする。第1速においてドライブでは上述のようにワンウエイクラッチ27はリングギヤ24をハウジング14に対し拘束させ、動力伝達を行うが、運転者がアクセルペダルを離しコースト(減速)運転になると、ワンウエイクラッチ27によるハウジング14への拘束が外れるが、この場合において摩擦ブレーキ28が締結されることにより、リングギヤ24のハウジング14に対する拘束が確保され、第1速コースト運転をそのままショックなく継続することができるようになっている。ワンウエイクラッチ27のこの動作については後述する。
【0025】
また、ワンウエイクラッチ27は摩擦クラッチ26及び摩擦ブレーキ28の切替動作における空走期間においてトルク伝達を確保する機能を達成する。即ち、本実施形態においては、摩擦クラッチ26と摩擦ブレーキ28とは軸方向に離間設置され、後述プッシャ34が軸方向に前後に移動することで摩擦クラッチ26と摩擦ブレーキ28との切替締結が行われるため、切替の途中においては摩擦クラッチ26も摩擦ブレーキ28も非締結の状態が瞬間的とはいえ必ず生ずるが、空走期間において、特に第1から第2速への切替に際し、ワンウエイクラッチ27は出力軸のトルクを確保し、変速ショックを防止するのに役立てることができる。
【0026】
遊星歯車機構16については、ピニオンとして径の異なったダブルピニオン型のものであっても良い。この場合、ピニオンを軸支したキャリアと、ピニオンの夫々の異径部分に噛合する異なった歯数のギヤ(サンギヤ若しくはリングギヤ)が遊星歯車機構の3回転要素となる。
【0027】
多板式の摩擦クラッチ26及び多板式の摩擦ブレーキ28は2段変速機4の中心軸と同芯にかつ軸方向に間隔をおいて配置される。周知のように、摩擦クラッチ26は入力軸10、即ち、サンギヤ22と一体回転するドライブディスク26-1(サンギヤ22と一体回転するクラッチドラム26-4に対し軸方向摺動可能)とキャリア20と一体回転するドリブンディスク26-2(スプライン嵌合によりキャリア20に固定のクラッチドラム(図14に示す内側ドラム66)対し軸方向摺動可能)とを備え、かつドライブディスク26-1の摩擦ブレーキ28近接側にスラストベアリング26-3を備える。これも周知であるが、摩擦ブレーキ28はハウジング14内周にスプライン嵌合により軸方向に移動可能であるが非回転的に連結されたドライブディスク28-1(スプライン嵌合によりハウジング14に対し軸方向に摺動可能)とリングギヤ24とスプライン嵌合により軸方向に移動可能であるが一体回転するように連結されたドリブンディスク28-2とを備える。
【0028】
遊星歯車機構16、摩擦クラッチ26、摩擦ブレーキ28の実機における構成については、後で図15を参照して説明する。
【0029】
ワンウエイクラッチ27は、限定的なものではないが、この実施形態においては、図3に示す保持環27-1に保持されたカム27-2をガータスプリング27-3により保持するタイプのものとすることができる。ワンウエイクラッチはこの方式に限定することはなく、例えば、ローラ式のものでも良い。ワンウエイクラッチ27は2段変速機4の第1速において、ドライブ運転にあっては、リングギヤ24の回転(図3の反時計方向f) に対してリングギヤ24をハウジング14に対して拘束する。そして、コースト運転にあっては、リングギヤ24の回転(図3の時計方向g)をハウジング14に対してフリーとする。
【0030】
本実施形態の2段変速機4においては、第1速ドライブ(非コースト運転時)は、摩擦クラッチ26を非締結としワンウエイクラッチ27によりリングギヤ24をハウジング14に対し拘束し、ワンウエイクラッチ27が空転する第1速コースト運転移行時に即座に締結トルクを生成し得るように、摩擦ブレーキ28はドライブディスク28-1とドリブンディスク18-2で無クリアランス状態(但し締結トルク=0)とし、第2速(コースト運転及び非コースト運転の双方)は摩擦クラッチ26を締結させ(ワンウエイクラッチ27はリングギヤ24をしてハウジング14に空転させ)ることにより行う。即ち、第1速においては摩擦ブレーキ28においてドライブディスク28-1とドリブンディスク18-2を無クリアランスとし (摩擦ブレーキ28の締結トルクはコースト運転のみ発生)、第2速では、摩擦クラッチ26においてドライブディスク26-1とドリブンディスク26-2を無クリアランスとし、非コースト運転であるとコースト運転であると、を問わず締結トルクを生じさせる。このような摩擦クラッチ26及び摩擦ブレーキ28の切替動作のためアクチュエータ30が設けられる。
【0031】
アクチュエータ30は、電動回転モータである制御モータ32と、摩擦ブレーキ28(本発明においては第1速に与る第1の多板式摩擦クラッチ)、摩擦クラッチ26(本発明においては第2速に与る第2の多板式摩擦クラッチ)の選択的締結を行うプッシャ(本発明の押圧部材)34と、制御モータ32の回転トルクを推力(プッシャ34の軸方向前後運動)に変換するトルク-推力変換機構36と、制御モータ32の回転をトルク-推力変換機構36に伝達する動力伝達機構38とを備える。トルク-推力変換機構36は、螺合する筒状ネジ40(本発明の内径部材)と筒状ナット42(本発明の外径部材に相当)とから構成される。この実施形態においては、筒状ナット42は、中心螺合部42-1aと、径方向に延設された円板状部42-1と、円板状部(径方向壁部)42-1から軸方向に延設された円筒状部42-2を含めて二重筒体として形成され、かつ円筒状部42-2がハウジング14の内周に軸方向にのみ移動可能(回転方向は拘束)であるため、筒状ネジ40の回転により筒状ナット42の軸方向が可能になっている。筒状ナット42を軸方向のみ移動可能とするため、図5に示すように、筒状ナット42の円筒状部42-2は外周にスプライン42-2aを有し、スプライン42-2aはハウジング14の内周のスプライン14-1と噛合し、これにより、筒状ナット42はハウジング14に対しては軸方向に移動は可能であるが、回転方向にはハウジング14により拘束され、これにより筒状ネジ40の回転による筒状ナット42の軸方向前後移動を得ることができる。また、図4は筒状ネジ40と筒状ナット42との螺合状態を模式的に示し、筒状ネジ40の外ネジ条40-1は筒状ナット42の内ネジ条40-2と螺合しており、筒状ナット42が回転を拘束され軸方向にのみ移動可能であるため、制御モータ32による筒状ネジ40の回転は、リード角に応じて、筒状ナット42の軸方向移動に変換(トルク-推力変換)される。トルク-推力変換は筒状ネジ40にスラスト力を生成するが、スラスト力に対して図6に示すように筒状ネジ40の両側においてハウジング対向面間にスラスト軸受43a, 43bが設置される。プッシャ34は全体として環状に形成され、外周端部で円筒状部42-2と一体連結された環状円板部34-1と、環状円板部34-1の内周端部において摩擦クラッチ26及び摩擦ブレーキ28の夫々に軸方向に対向するように設けた摩擦ブレーキ駆動部34-3aと摩擦クラッチ駆動部34-3bとを備える。摩擦クラッチ駆動部34-3bは、摩擦クラッチ26のドライブディスク側における摩擦ブレーキ28に最近接側に位置するスラストベアリング26-3と対向配置される。スラストベアリング26-3は、回転方向には固定のプッシャ34の摩擦クラッチ駆動部34-3bから加わるスラスト力に対し、摩擦クラッチ26(キャリア20)の回転を損なうことが無いように設置される。また、摩擦ブレーキ駆動部34-3aは摩擦ブレーキ28のドライブディスク28-1の摩擦クラッチ26最近接側に対向位置している。本実施形態においてトルク-推力変換における軸方向摺動を円筒状部42-2に担わせるようにし、円筒状部42-2にプッシャ34を取り付けた構造はトルク-推力変換と推力伝達を共用させた仕組みである。
【0032】
以上のアクチュエータ30の構成において、筒状ネジ40の正逆の回転運動は、筒状ネジ40に螺合かつ回転阻止されている筒状ナット42の軸方向左右の直線運動に変換され、この直線運動が筒状ナット42の円筒状部42-2を介してプッシャ34に伝達され、その摩擦ブレーキ駆動部34-3a、摩擦クラッチ駆動部34-3bによる摩擦クラッチ26と摩擦ブレーキ28との切替動作が行われる。切替動作については後で詳述する。
【0033】
図2において、2段変速機4における回転動力伝達機構38は、制御モータ32の出力軸32-1に固定された駆動平歯車44と、駆動平歯車44に噛合し、変速機中心軸と同軸に筒状ネジ40に固定された従動平歯車46とから構成される。制御モータ32の前後回転は、回転動力伝達機構38を介して筒状ネジ40に伝達される。制御モータ32は、この実施形態においては電磁ブレーキを備えていないが、後述のように電磁ブレーキ付きのものとすることができる。この実施形態の回転動力伝達機構38は平歯車44, 44により構成されるため、従動平歯車46よりトルク-推力変換機構36の筒状ネジ40に重畳されるスラスト力は引用文献2におけるウォーム機構と比較して圧倒的に少ないため、スラスト軸受43a, 43bに加重な負担がかからない利点がある。
【0034】
減速機6は入力軸6-1と、出力軸6-2と、中継用のギヤセット(2段変速機4の出力軸12上のギヤ6-3と、これに噛合する入力軸6-1上のギヤ6-4とから成る)と、変速用のギヤセット(入力軸6-1上のギヤ6-5とこれに噛合する出力軸6-2上のギヤ6-6とから成る)とを備え、減速機6により2段変速機4の出力軸12と減速機6の出力軸6-2間においてトータル2.2の上述減速比を得ることができるようになっている。減速機6の出力軸6-2がディファレンシャル8に連結される。
【0035】
[アクチュエータによるクラッチ及びブレーキ切替]
次に、アクチュエータ30による摩擦クラッチ26と摩擦ブレーキ28との切替動作を図6及び図7によって説明する。アクチュエータ30は、図2とは少し異なった又は変形させた部分も存在するが、これは単なる説明の便宜上のものであり、本質的には同一である。図6(A)においてLは摩擦クラッチ26と摩擦ブレーキ28間におけるプッシャ34の中点 (図7の座標原点に対応)を示し、プッシャ34は摩擦クラッチ26と摩擦ブレーキ28の中間に位置している。図7において座標横軸は制御モータ32の回転軸32-1の回転角度、座標縦軸はプッシャ34のストローク量を表す。制御モータ32の正転によりプッシャ34は図6において右行し、図7においてストローク量値が正側に増大し、制御モータ32の負転によりプッシャは左行し、図7においてストローク量値が負側に増大する。図6(A)の中点L (図7の座標原点に相当)において、プッシャ34は、摩擦クラッチ26の対向端(最近接側のスラストベアリング26-3)との間にCcr+St/2、摩擦ブレーキ28の対向端との間にBcr+St/2のクリアランスを残している。ここに、Ccrは、摩擦クラッチ26の空転時に摩擦クラッチ26間にドラッグトルクを発生させない(ドライブディスク26-1とドリブンディスク26-2間で引きずりを起こさせないため)ため必要となる中点Lからのクリアランス値、Bcrは摩擦ブレーキ28の空転時に摩擦ブレーキ28にドラッグトルクを発生させない(ドライブディスク28-1とドリブンディスク28-2間で引きずりを起こさせない)ため必要となる中点Lからのクリアランス値、であり,Stは摩擦クラッチ26にも摩擦ブレーキ28にもドラッグトルクを発生させないようにするための余裕代である。
【0036】
図6(A)の中点Lから制御モータ32の出力軸32-1の正転によりSt/2だけプッシャ34が右行すると摩擦ブレーキ28とのクリアランスはBcrとなり、ここから更にBcr右に移動させると、図6(B)に示すように、プッシャ34の摩擦ブレーキ駆動部34-3aは、摩擦ブレーキ28の近接側ドライブプレート28-1に当接するに至り、摩擦ブレーキ28のドライブディスク28-1とドリブンディスク28-2とは無トルクではあるが完全接触(無クリアランス)に至る。ここで、制御モータ32の正転トルクを上げることにより摩擦ブレーキ28の締結(第1速への切替)が完了する。この状態は、プッシャ34が中点Lから右にBcr+St/2移動した状態であり、反対側においてプッシャ34の摩擦クラッチ駆動部34-3bと摩擦クラッチ26との間にCcr+Bcr+Stの隙間(摩擦ブレーキ28から摩擦クラッチ26への切替のためのプッシャ34の目標ストローク量bに相当)ができる。
【0037】
第1速から第2速への変速を行うためには、摩擦ブレーキ28を図6(B)を締結状態から非締結状態に切り替えると共に、摩擦クラッチ26を締結に至らしめる必要がある。この時は、制御モータ32の出力軸32-1の負転によりプッシャ34は左側にBcr+Ccr+St移動して、プッシャ34の摩擦クラッチ駆動部34-3bは、摩擦クラッチ26の近接側スラストベアリング26-3に当接するに至り、制御モータ32の負転トルクを上げることにより摩擦クラッチ26の締結を完了する。この状態を図6(C)に示し、このときもプッシャ34 の摩擦ブレーキ駆動部34-3aと摩擦ブレーキ28との間のクリアランスはBcr+Ccr+St(摩擦クラッチ26から摩擦ブレーキ28への切替のためのプッシャ34の目標ストローク量a)となる。
【0038】
[締結時の弾性変形による締結力深化]
図6に示すプッシャ34による摩擦クラッチ26と摩擦ブレーキ28の切替動作において、摩擦ブレーキ駆動部34-3a、摩擦クラッチ駆動部34-3bが摩擦クラッチ26の対向部及び摩擦ブレーキ28の対向部に係合時、係合が更に深くなるようにプッシャ34を移動させるようにすることができる。この場合は、図8において、誇張して描くと、環状円板部34-1は円筒状部42-2との付根の部位に対して、摩擦ブレーキ駆動部34-3aが摩擦ブレーキ28と当接時は想像線34-1’のように、摩擦クラッチ駆動部34-3bが摩擦クラッチ26と当接時時は想像線34-1” のように、夫々、変形する。これらの変形は弾性限界の範囲内であるが、その弾性力により摩擦クラッチ26及び摩擦ブレーキ28の確実な締結状態が得られる。この場合、図6(B),図6(C)における摩擦クラッチ26及び摩擦ブレーキ28の目標ストローク量a,bは、図6(B)の場合の駆動中心上の弾性変形量をDcr、図6(C) の場合の駆動中心上の弾性変形量をDbrとすれば、夫々、
a=Bcr+Ccr+St+Dcr
b=Bcr+Ccr+St+Dbr
の大きさとなる。
【0039】
[2段変速機の変速動作]
次に本実施形態の2段変速機4の変速動作を説明する。変速動作を図8に示し、図中〇が係合動作、×が離脱動作を表す。この本変速機は2段変速機4は上述の第1速と第2速との2段のギヤ比と、リバースを実現している。また、車両の状態は、大きく分けて駆動モータが正トルクを出して車両を加速している駆動状態(ドライブ)と駆動モータが回生し負のトルクを出して車両を減速している減速状態(コースト)に分けられる。以下、ギヤ段とドライブ、コースト状態の組み合わせ場合の動作を説明する。
【0040】
第1速駆動時
第1速駆動時にプッシャ34は図6(B)の右行位置をとり、プッシャ34は摩擦ブレーキ28に対し無クリアランスであり、摩擦クラッチ26に対しては非締結であり、クリアランスは最大である。プッシャ34は摩擦ブレーキ28に対し無クリアランスであるが、締結トルクを生じないように制御モータ32が後述図10のフローチャートに従って制御されており、摩擦ブレーキ28は非締結である。
制御モータ32として後述の電磁クラッチ付のものを採用した後述図13及び図14Bの動作の場合は第1速駆動時に、摩擦クラッチ26は電磁クラッチにより締結状態が保持されるため、電磁クラッチの締結状態において、摩擦ブレーキ28は締結状態となるが、電磁クラッチは掴み直し動作されるため、掴み直しの間に摩擦ブレーキ28は非締結動作×となり、締結状態のワンウエイクラッチ27が掴み直しの間の動力伝達を確保する締結動作〇となる。
【0041】
第1速駆動時(駆動モータトルクが正)の入力回転/トルクは、図2において、駆動モータ2から入力軸10に入り、サンギヤ22を回転させる。リングギヤ24はワンウエイクラッチ27によって回転制限が掛けられており止まっている(図9においてワンウエイクラッチ27の締結動作を〇にて示す)。即ち、ワンウエイクラッチ27は図3においてカム27-2がリングギヤ24の反時計方向の回転を阻止するように機能する。この結果、図2において、サンギヤ22はキャリア20を回転させ、出力軸12にトルクと回転を伝達することができる。出力軸12は減速機6はディファレンシャル8を介して車輪9に駆動力として伝達し、車両を加速させる。第1速のギヤ比は、周知のように、サンギヤ22の歯数Zs、リングギヤ24の歯数ZrとしたときZs/(Zs+Zr)となる(減速)。
【0042】
第1速減速(コースト)時
第1速減速(コースト)時は、プッシャ34は図6(B)の右行位置(プッシャ34は摩擦ブレーキ28に対し当接状態)をとっており、かつ第1速駆動時のような無トルク状態ではなく、適切な締結トルクを生ずるように制御モータ32のトルク制御が後述のように行われる。そのため、摩擦ブレーキ28は締結(図9の〇)となる。
【0043】
第1速減速時の入力回転/トルクは、駆動時と逆に出力軸12からキャリア20に入り、ピニオン18はサンギヤ22とリングギヤ24を回す方向にトルクが掛る。リングギヤ24はワンウエイクラッチ27の空転方向(図3において時計方向の回転のためカム27-2が効かない状態)へのトルク入力なので、摩擦ブレーキ28を締結することでリングギヤ24の空転を防ぐ。これにより、車輪9からの回転を駆動モータ2に直接伝達でき、駆動モータが電力回生により負のトルクを発生することで車輪9に負の方向のトルクが伝達され、車両が減速する。
【0044】
第2速駆動時
第2速駆動時はプッシャ34は図6(c)の左行位置をとり、かつ制御モータ32からは適切なトルクが印加されるため、摩擦クラッチ26は締結(図9の〇)であり、摩擦ブレーキ28は非締結である。第2速駆動時の入力回転/トルクは、駆動モータ2から入力軸10に入り、サンギヤシャフトと連結嵌合しているクラッチドラムを回転させる。クラッチドラムは締結している摩擦クラッチ26を介しキャリア20まで駆動モータ2と同回転で回る。キャリアシャフトはキャリア20とも一体化しているので、キャリア20から出力軸12を駆動モータ2と同回転で回す(ギヤ比は1.0となり、第1速に対して相対的増速となる)。このときのリングギヤ24にはワンウエイクラッチ27の空転方向のトルクが入り、摩擦ブレーキ28が非締結となっているため、駆動モータ2と同回転で回転する。
【0045】
第2速減速(コースト)時
摩擦クラッチ26は締結(図9参照)であり、摩擦ブレーキ28は非締結であり、第2速駆動時と同じである。
【0046】
第2速減速時の入力回転/トルクは、駆動時とは逆の流れになる。出力軸12からキャリア20、キャリアシャフトに入り、締結している摩擦クラッチ26を介しサンギヤシャフトから駆動モータ2まで同回転で回ることで第2速非駆動時に駆動モータの電力回生による負のトルクを車輪9に伝達し車両が適度な減速を行う。
【0047】
リバース時
リバース時の入力回転/トルクは、駆動モータ2が逆転することで逆転方向の回転/トルクはサンギヤ22に入り、キャリア20を通してリングギヤ24を逆転する方向にトルクが掛る。リングギヤ24はワンウエイクラッチ27の空転方向へのトルク入力なので、摩擦ブレーキ28を締結(図9)することでリングギヤ24の空転を防ぐ。これにより、駆動モータの逆転トルクと回転を車輪9に伝達する。
【0048】
[アクチュエータの制御(電磁ブレーキ無しの場合)]
次に、第1速と第2速との切替動作について、アクチュエータ30における制御モータ32の制御ロジックを図10のフローチャートにより説明する。フローチャートではリバース時の動作説明は省略する。制御モータ32の変速制御のためのマイクロコンピュータによる制御回路を図2において47により示す。制御回路47には、アクセル開度及び車速、制御モータ32の回転軸32-1の位置センサ、その他のセンサからの信号が入力され、内部に格納されたソフトウエアにより制御モータ32の制御が行われる。尚、以下の説明においてプッシャ34の摩擦ブレーキ28、摩擦クラッチ26に対する位置、即ち、プッシャ34の必要ストローク量の算出については具体的に記載しないが、制御モータ32に設けた回転軸32-1の位置センサの検出値より周知手法により把握することができる。
【0049】
図10において、ステップ100は車両の運転状態を知るためのアクセル開度及び車速信号の入力を示す。
ステップ102ではアクセル開度及び車速信号情報より非変速時か否か判断する。変速時の判断であれば、ステップ104に進み、第1速から第2速への変速時かを判断する。第1速から第2速への変速時との肯定判断であれば、プッシャ34は、最初は図6(B)のように摩擦ブレーキ28に対して当接状態(第1速)にあり、摩擦クラッチ26に対しクリアランスb=Ccr+Bcr+Stとなっており、これがプッシャ34の目標ストローク量となる。ここから第2速とするべく、制御モータ32の負転により摩擦クラッチ26の締結に至るまで、プッシャ34を摩擦クラッチ26と無クリアランス、即ち目標ストローク量が得られるまで図6(B)の位置から左行させる必要がある。次のステップ106で制御モータ32にプッシャ34の移動のための制御モータ電流値(制御モータ32の負転であるがトルク値としてはプッシャ34を移動させ得るできる限り小さくかつ摩擦クラッチ26に締結力を生じさせない値)の出力が、ステップ108で目標ストローク量bに対する偏差δb=0の判断となるまで、即ち、図6(C)のようにプッシャ34が摩擦クラッチ26との当接状態を取るに至るまで、継続される。ステップ108でδb=0と判定したら、ステップ110に進み、その運転状態において摩擦クラッチ26の締結に必要となる締結力(制御モータ32のトルク)が計算され、ステップ112で必要な電流値に換算、ステップ114で制御回路47より制御モータ32への電流指示を出力する。
【0050】
このようにして第1速から第2速への変速動作が完了すると、次回の図10のルーチン実行において、ステップ100, 102と進み、ステップ102では肯定判断となるのでステップ116に進み、現在第2速であるため、ステップ116が否定判断となるためステップ110に進み、ステップ100で入力したアクセル開度や車速で決まるその運転状態において摩擦クラッチ26の締結維持のため制御モータ32に必要となるトルクを計算し、ステップ112で必要電流値を計算、ステップ114で制御モータ32の稼働指示(ステップ112で算出した必要電流値の出力)が行われる。
【0051】
第2速の運転から第1速への変速時はステップ100, 102からステップ104に進み、否定判断されるためステップ118に進む。このとき、プッシャ34は、図6(C)のように摩擦クラッチ26に対してクリアランスが無い状態にある。ここから第1速に移行するべく、摩擦ブレーキ28を締結するまで、プッシャ34をa=Ccr+Bcr+Stの目標ストローク分同図において右方向に移動する必要があり、制御モータ32にプッシャ34の移動のための制御モータ電流値(制御モータ32の正転であるがトルク値としてはプッシャ34を移動させ得るできる限り小さくかつ摩擦クラッチ26に締結力を生じさせない値)の出力が、ステップ120で目標ストローク量aに対する偏差δa=0の判断となるまで、即ち、図6(B)のようにプッシャ34が摩擦ブレーキ28に対し無クリアランスの状態を取るに至るまで、継続される。ステップ120でδa=0と判定したら、即ち、プッシャ34が摩擦ブレーキ28に対し無クリアランスの状態に至った場合は、ステップ122に進み、制御モータ32のトルクをゼロとする。電流値もゼロ(ステップ112)となり、ステップ114に進み、その旨の指示が行われる。即ち、第1速駆動状態においては、動力伝達はワンウエイクラッチ27がそれに関与し、摩擦ブレーキ28は動力伝達に関与しないためトルクを零とするのである。
【0052】
このようにして第2速から第1速への変速動作が完了する(プッシャ34が摩擦ブレーキ28に対しクリアランスが無い状態に来ている)と、次のルーチンではステップ100, 102よりステップ116を経て、ステップ118に進み、コースト状態(第1速でのコースト状態)か否かの判断がされる。第1速であってもコースト状態でなければ、ステップ118では否定判断なので、前述ステップ122に進み、摩擦ブレーキ28のトルクは零のままに維持される。
【0053】
第1速において運転者がアクセルペダルを緩めコースト状態となると、ステップ100, 102, 116を経てステップ118で肯定判断となるためステップ124に進み、アクセル開度及び車速より第1速コースト状態での運転状態に応じた要求駆動モータ32のトルクより摩擦ブレーキ28が滑らない摩擦トルクを計算し、ステップ112でその摩擦トルクに対応した制御モータ32の電流値を計算し、ステップ114にて制御モータ32にその電流値が制御回路47より出力される。コースト状態ではワンウエイクラッチ27が空転するが、摩擦ブレーキ28に対し無クリアランスの位置に既に到来している摩擦ブレーキ28に即座に適正な摩擦トルクが制御モータ32より印加されるため減速ショック無しに円滑にコースト運転に移行することができる。
【0054】
[アクチュエータの制御(電磁ブレーキ有の場合)]
この発明の実施においては、図2の制御モータ32として、電磁ブレーキ付きのものを採用することができる。制御モータ32を電磁ブレーキ付きとすることにより、制御モータ32によるトルク駆動無しで摩擦ブレーキ28及び摩擦クラッチ26の締結保持を行うことができ、制御モータ32の消費電力を軽減することができる。図11に模式的に示すように、電磁ブレーキ48は、出力軸32-1上に設けられ、弱磁性材にて形成された環状駆動板50と、環状ブレーキシュー52と、円周方向に複数配置したスプリング54と、ソレノイド(電磁コイル)56とを備える。出力軸32-1は、駆動板50の取付部に外周スプライン32-1a(図12)を備え、スプライン32-1aは駆動板50のスプライン孔50-1と嵌合しており、駆動板50は出力軸32-1に対し軸方向摺動可能であるが、回転方向には固定された関係にある。電磁ブレーキ48の締結状態はソレノイド56の非通電(OFF)により得られ(図13参照)、このとき、スプリング54による付勢下、駆動板50はブレーキシュー52をモータハウジング側の係止部58に係止し、制御モータ32の出力軸32-1は拘束停止される。
【0055】
電磁ブレーキ48の非締結状態はソレノイド56の通電(ON)により得られ(図13参照)、このとき、電磁力により駆動板50はスプリング54に抗してソレノイド56側に軸方向変位され、ブレーキシュー52による制御モータ32の出力軸32-1の拘束は解除され、制御モータ32の出力軸32-1の回転をアクチュエータ30側に伝達することができる。制御モータ32の出力軸32-1は常時回転であるが、大トルクは摩擦クラッチ26及び摩擦ブレーキ28の締結時のみでそれ以外は制御モータ32は、プッシャ34のストローク運動を行い得る最小トルクで運転可能することにより、全体としての電力の使用は削減することができる。
【0056】
制御モータ32を電磁ブレーキ48を備えたものとした場合の第1速と第2速との切替動作を図13及び図14Bのフローチャートにより説明する。この動作の要部は、電磁ブレーキ48により、制御モータ32の回転トルクに依拠することなく摩擦クラッチ26及び摩擦ブレーキ28の締結保持を行うことにあるものである。以下のフローチャートの説明において図10と同様な処理ステップについては同一の符号(100番代)とし、重複説明はなるべく省き可能な限り簡略化し、図10に説明の無い処理については200番代の符号とし詳細に説明する。ステップ100でのアクセル開度信号及び車速信号の入力後、第1速から第2速への変速の場合は、ステップ200で電磁ブレーキ48のソレノイド56(図11)に通電し電磁ブレーキ48を非締結とし(図13参照)、制御モータ32の回転軸32-1の回転のアクチュエータ30側への伝達を可能な状態とし104, 106, 108と進み、プッシャ34が図6(b)の摩擦ブレーキ28に対する当接位置から左行するべく制御モータ32に負転指示を行い、プッシャ34が摩擦クラッチ26(スラストベアリング26-3)と当接した図6(C)の状態が得られると、即ち、第1速への変速へのためのプッシャ34の目標ストロークbの移動が完了すると、ステップ108で肯定判断(δb=0)となり、前述ステップ110, 112, 114の処理が行われ、制御モータ32の必要トルクが演算され、摩擦クラッチ26の締結を必要なトルクにて行うことができる。
【0057】
このようにして、摩擦クラッチ26に締結維持に必要なトルクが得られ第2速への変速動作が完了すると、直後のルーチンではステップ100よりステップ102を経て、ステップ202に進み、電磁ブレーキ48が締結か否か判断され、最初は電磁ブレーキ48が非締結とされている(ステップ200でソレノイド56が通電(ON)されている)ためステップ204に進み、電磁ブレーキ48が締結(即ち図11のソレノイド56が消磁(OFF))される。電磁ブレーキ48の締結は、モータ回転軸32-1を拘束し、図6(C)のように締結された摩擦クラッチ26の締結状態を制御モータ32の回転トルクに依拠することなく保持することができるようになる。次のステップ206では現在第1速か否か判断され、現在第2速なので、否定判断となりステップ208に進み、ステップ208では第2速のギヤ比は異常がないか否かの判断がされる。即ち、電磁ブレーキ48の締結による摩擦クラッチ26の締結トルクが正常であれば、図6(C)においてプッシャ34の摩擦クラッチ26に対し当接状態を維持しており、締結トルクが下がっていれば当接状態から外れ、プッシャ34が摩擦ブレーキ28側にずれて来るので、制御モータ32の回転軸32-1の検出位置より異常と判断することができる。第2速のギヤ比は異常がなければステップ210に進み、最後の電磁ブレーキ48の締結から所定時間Tsecの時間経過か否かを判断し、所定時間Tsecの未経過の場合はステップ208にループし、電磁ブレーキ48による摩擦クラッチ26の締結保持状態は維持される。ステップ208で最後の電磁ブレーキ48の締結から所定時間Tsecが経過と判断すれば若しくはステップ208で第2速のギヤ比は異常との判断であれば、ステップ212に進み、電磁ブレーキ48を一旦非締結(ソレノイド56を励磁(ON))とし、ステップ214で、制御モータ32に、負転方向(図6(C)においてプッシャ34と摩擦クラッチ26とのクリアランスを小さくする左行方向)にトルク値を最大値(MAX)とするべく稼働指示が出される。次のステップ215では、摩擦クラッチ26が一端外れたとしても再び締結状態に戻すため必要となる時間τsecの待機を行う。図13は第2速における摩擦クラッチ26の掴み直し動作を模式的に示しており、Tsec毎に電磁ブレーキ48を非締結とし制御モータの最大トルクでの負転 (継続時間τ)を行う動作となる。また、Tsecに達していなくてもステップ208で2速ギヤ比異常の判断であれば、直ちに摩擦クラッチ26の掴み直しを行う。
【0058】
第2速から第1速への変速時の場合は、ステップ100からステップ102を経て、ステップ200で電磁ブレーキ48を非締結とすることにより制御モータ32の回転をアクチュエータ30に伝達可能としてから、ステップ104, 118, 120と進み、制御モータ32の作動指示をプッシャ34の現在位置である摩擦クラッチ26と接触した図6(C)の状態から摩擦ブレーキ28に向け右行(制御モータ32は正転)を開始させ、第1速への変速へのためのプッシャ34の目標値a分の移動が完了し偏差δa=0となり、摩擦ブレーキ28が締結状態となるとステップ122で、摩擦ブレーキ28のトルク値は零に設定され、ステップ112, 114と進み、指示電流=0と指示され、プッシャ34は摩擦ブレーキ28と無クリアランスであるが摩擦ブレーキ28にかかるトルクは零となる。
【0059】
このようにして、第1速への変速動作が完了すると、ステップ100よりステップ102を経て、前述のステップ202, 204の処理により電磁ブレーキ48は締結(ソレノイド56は非通電(OFF))とされ、摩擦ブレーキ28はプッシャ34に対し無クリアランスとなり、かつ摩擦ブレーキ28にかかるトルク=0の状態が維持される。次のステップ206では現在第1速なので肯定判断となり、ステップ216に進み、第1速のギヤ比は異常がないかの判断がされる。即ち、第1速のギヤ比が正常であれば、電磁ブレーキ48による摩擦ブレーキ28に対するプッシャ34の保持位置が正常であれば当接状態であり、摩擦ブレーキ28との当接状態を外れてプッシャ34の位置が摩擦クラッチ26側にずれてくると、制御モータ32の回転軸32-1の検出値から第1速のギヤ比は異常と判断することができる。第1速のギヤ比に異常がなければステップ218に進み、最後の電磁ブレーキ48の締結から所定時間Tsecの時間経過か否かを判断し、所定時間Tsecの未経過の場合はステップ216にループする。ステップ218で最後の電磁ブレーキ48の締結から所定時間Tsecが経過と判断すれば若しくはステップ216で第1速のギヤ比は異常との判断であれば、ステップ220に進み、電磁ブレーキ48を非締結(ソレノイド56を励磁)とし、制御モータ32の回転軸32-1の電磁ブレーキ48による拘束状態を解除し、ステップ222で制御モータ32を正転方向(図6(C)においてプッシャ34と摩擦ブレーキ28とのクリアランスを小さくする右行方向)にトルク値を最大値(MAX)とする電流値を計算し、ステップ215の所定時間所定時間τsecの経過に至るまで、その電流値を制御モータ32に指示する。摩擦ブレーキ28の掴み直し動作も図13と同様であり、Tsec毎に電磁ブレーキ48の非締結とし制御モータの最大トルクでの正転 (継続時間τ)を行う動作となる。また、Tsecに達していなくてもステップ216で異常の判断であれば直ちに第1速コースト運転における摩擦ブレーキ28の掴み直しを行う。
【0060】
以上の図13及び図14Bの制御では第1速においては第1速においてドライブ状態、コースト状態に関わらず、電磁ブレーキ48を締結することにより摩擦ブレーキ28を締結保持しており、図10の実施形態のようにコースト状態移行において摩擦ブレーキ締結の制御が入らないため、制御を簡素化でき、省電力であり、また運転者に減速感を出せるため運転性の向上を図ることができる。即ち、この制御においては、摩擦ブレーキ28は1速においてドライブ及びコーストに関わらず締結保持されるが、掴み直しの間(図13のτ)は摩擦ブレーキ28は非締結となり、ワンウエイクラッチ27は摩擦ブレーキ28非締結の間に動力伝達を確保するように締結となる。
【0061】
以上図14A-14Bのフローチャートにて説明の電磁ブレーキ48を備えた制御モータ32の動作においては、電磁ブレーキ48により第1速コーストにおいて摩擦ブレーキ28の締結保持、第2速において摩擦クラッチ26の締結保持を行うことにより、その間の制御モータ32の回転トルクは最小でかつ電磁ブレーキ48のソレノイド56は非通電であるため、省電力を実現することができる。また、摩擦クラッチ26及び摩擦ブレーキ28の掴み直し動作は、電磁ブレーキ48が非締結とされる一瞬(τ)の間に、電磁ブレーキ48のソレノイド56の通電(ON)がされかつ制御モータ32が最大トルクとされるだけであるため(図13参照)、トータルとしての省電力を実質的に損なうことなく、電磁ブレーキ48による摩擦クラッチ26及び摩擦ブレーキ28の締結保持動作の確実性を担保することができる。
【0062】
本発明の実施において、電磁ブレーキ48としては、図14A-14Bのフローチャートのように、電磁ブレーキ48の非締結時(制御モータ32のトルクをアクチュエータ30に伝達時)にソレノイド56を通電励磁し、電磁ブレーキ48の締結時(締結トルク保持運転時)にソレノイド56を非通電とする図11の構造のものが消費電力節約の観点で好適であることは上述の通りである。しかしながら、電磁ブレーキとして、ソレノイドの非通電時は非締結として、ソレノイドの通電によって締結が行われるタイプのものを採用することは場合によっては可能である。
【0063】
[2段変速機の実機構成]
図15図2の2段変速機を実機とした構成の一例を示し、同一機能の部品については図2と同一の参照符号とする。入力軸10の中心軸線は10aにて示し、両端にハウジング14の直立壁部分14-3にアンギュラ玉軸受62, 64により支持される。筒状の出力軸12は入力軸10と同軸にアンギュラ玉軸受65等により支持される。遊星歯車機構16はキャリア20と、サンギヤ22とを備え、キャリア20は、内側でサンギヤ22に噛合し、外側でリングギヤ24と噛合するピニオン18をピニオンピン67にて軸支する。サンギヤ22は内周側において入力軸10とスプライン10-1にて嵌合し、入力軸10と一体回転する。
【0064】
摩擦クラッチ26は、ピニオンピン67と共にキャリア20と一体回転する内側ドラム66と,内側ドラム66のスプライン66-1とスプライン嵌合するドリブンプレート26-2と、サンギヤ22と一体回転する外側ドラム26-4(サンギヤ22に固着構造)と、外側ドラム26-4の内周スプライン67とスプライン嵌合し、ドリブンプレート26-2と交互配置されるドライブプレート26-1(ドリブンプレート26-2とでクラッチパックを構成する)と、クラッチパックの外側ドラム68からの最離間側に設けたスラストベアリング26-3とから構成される。
【0065】
摩擦ブレーキ28は、内側ドラムを兼ねるリングギヤ24の外周スプライン24-1とスプライン嵌合するドリブンプレート28-2と、ハウジングの一部(図2のハウジング14)の一体連結部分である外側ドラム部14-2と、外側ドラム部14-2の内周スプライン14-2aにスプライン嵌合され、ドリブンプレート28-2に対して軸方向に交互配置されるドライブプレート28-1(ドリブンプレート28-2とでクラッチパックを構成する)とから構成される。
【0066】
ワンウエイクラッチ69はリングギヤ24の内周と摩擦ブレーキ28のハウジング14(図2)の一体部分である外側ドラム14-2に形成した内周側の環状凸部14-3の外周との間に配置される。図3に示したワンウエイクラッチ27とは内周と外周とで配置が反転するため、ワンウエイクラッチ69はワンウエイクラッチ27とでロックと空転とで向きが反対となるが動作自体に相違はない。
【0067】
摩擦クラッチ26及び摩擦ブレーキ28の切替動作のためアクチュエータ30は、制御モータ32と、プッシャ34と、トルク-推力変換機構36と、回転動力伝達機構38とを備える。回転動力伝達機構38は駆動側平歯車44と従動側平歯車46とからなる。トルク-推力変換機構36は、筒状ネジ40(内径部材)と、筒状ネジ40に螺合される筒状ナット42A(この実施形態では筒状ナット42Aは筒状ネジ40との単なる螺合部であり下記二重筒体としての一体化により本発明の外径部材として機能する)とを備え、かつ筒状ナット42Aは、回転について拘束し、かつハウジング14に対して摺動可能とするための円板部42A-1と筒状部42A -2とを含めて二重筒体を形成するべく一体連結される。筒状ナット42Aと一体化するため、円板部42A-1は下端フランジ部42A-1aの内周スプライン孔において筒状ナット42Aの外周スプラインと嵌合され、スナップリング80により筒状ナット42Aに固定され、これにより筒状ナット42Aは二重筒体として一体化される。この実機構造では、筒状ネジ40と筒状ナット42Aとの螺合はその間の無限循環路に設置されるボール72を経由して行われるそれ自体周知のボールナット機構(図15は略図であるが図16の詳細図参照)となっている。筒状ネジ40はブッシュ74によって入力軸10に回転可能に支持される。筒状ネジ40にスラスト受けのため両側にスラストベアリング43a, 43b が配置される。プッシャ34は、板材からの環状のプレス成形品であり、外周筒状部34-2は、筒状ナット42の筒状部42-2とスプライン嵌合により軸方向移動可能であるが回転方向に拘束され、スナップリング82にて係止され、筒状ナット42Aに対してプッシャ34は一体連結され、筒状ネジ40の回転による筒状ナット42A、曳いてはプッシャ34の軸方向移動(推力伝達)を可能とする。そして、プッシャ34は、径方向における中間部が摩擦クラッチ26にスラストベアリング26-3を介して対向する環状凸部に形成され、この環状凸部が摩擦クラッチ駆動部34-3b (図6参照)として機能する。更に、プッシャ34の径方向における内端部が摩擦ブレーキ28に向けて軸方向に延出すべく形成され、この軸方向延出部が摩擦ブレーキ駆動部34-3aとして機能する。これによりプッシャ34の軸方向移動の左右移動により摩擦クラッチ26と摩擦ブレーキ28との切替を行うことができる。
【0068】
図15の構成において、ハウジングに対する入力軸10の支持は両端のアンギュラ軸受62, 64により行われているため、入力軸10の芯出しは十分な精度を容易確実に得ることができ、入力軸10に対するトルク-推力変換機構36における内周側の筒状ネジ40の転がり支持はブッシュ74という簡易な機構により確実に行うことができると共に、外周側の筒状ナット42Aの軸方向左右の移動制限に関しては、これも、簡易なスラストベアリング43a, 43bという支持構造により十分な耐スラスト機能を得ることができる。そのため、トルク-推力変換機構36の軸寸を抑えつつ、摩擦クラッチ26と摩擦ブレーキ28の締結切替のためのトルク-推力変換機構36の長期にわたる安定動作を過大なコストを付随することなく確保することができる。
【0069】
ボールナット機構の詳細は一例として図16に示し、ボール72は無限循環軌道を形成する筒状ネジ40の外ネジ条40aと筒状ナット42Aの内ネジ条42A-aとの間に互いに密接状態にて配置され、筒状ナット42に循環路84が形成され、循環路84は筒状ナット42Aにおける略180度の角度域に設けられ、循環路84はボール72を収容したネジ条に接線方向に開口され、この開口部が回転方向に応じてボール排出部若しくは導入部となり、ボール72のための無限循環軌道を構成することができる。以上のボールナット機構の構造は一例であり、市場に提供されている適宜なものを採用することができる。
[2段変速のため揺動アーム式アクチュエータを備えた実施形態]
【0070】
図17図19は2段変速のため遊星歯車機構の代わりに平歯車式2段変速機構300を備え、揺動アーム式アクチュエータによりクラッチ切替を行うものである。同一構成・機能の部品ついては参照符号は同一符号のままとする。平歯車式2段変速機構300は、電動機である回転駆動モータ2の回転を、車速に応じた変速比にて、減速機6及びディファレンシャルギア8を介して車輪9に伝達機能を達成する。平歯車式2段変速機構300は、1速用ギヤセット301と2速用ギヤセット302とを備え、1速用ギヤセット301は噛合する一対の入力側平歯車301-1と出力側平歯車302-2とから、2速用ギヤセット302は噛合する一対の入力側平歯車302-1と出力側平歯車302-2とから、夫々、構成される。図2の実施形態につき説明したことと同様に、減速機6のギヤ比も含めて、1速用ギヤセット301における入力側平歯車301-1と出力側平歯車302-2とのギヤ比は1速運転(低車速)における所期のギヤ比にて、また、2速用ギヤセット302における入力側平歯車302-1と出力側平歯車302-2とのギヤ比は2速運転(高車速)における所期のギヤ比にて、駆動モータ2により車輪9が駆動されるべく設定される。
【0071】
平歯車式2段変速機構300は、更に、多板摩擦クラッチとしての1速ギヤ用摩擦クラッチ304と、これと回転駆動モータ2の回転軸2-1と同軸上の変速機入力軸10上に幾分離間して配置された多板摩擦クラッチとしての2速用ギヤ用摩擦クラッチ306を備えている。1速ギヤ用摩擦クラッチ304の出力軸2-1上に回転連結のため固定された駆動側クラッチ板304-1と、1速用ギヤセット301の入力側平歯車301-1に回転連結のため固定された従動側クラッチ板304-2とを備える。2速ギヤ用摩擦クラッチ306は変速機入力軸10上に回転連結のため固定された駆動側クラッチ板306-1と、2速用ギヤセット302の入力側平歯車302-1に回転連結のため固定された従動側クラッチ板306-2とを備える。
【0072】
アクチュエータ308は1速ギヤ用摩擦クラッチ304と2速ギヤ用摩擦クラッチ306との切替動作のため設けられる。アクチュエータ308は、電動回転モータである制御モータ32(図18)を備える点は図1-16の実施形態と同様である。この実施形態においてはアクチュエータ308は、制御モータ32の回転トルクを推力に変換するトルク-推力変換機構310を備え、図1-16のトルク-推力変換機構36と機能的には共通するが、内径側のネジ部材312(本発明の内径部材)と外径側のナット部材314(本発明の外径部材)とから構成される。アクチュエータ308、更に、推力の伝達のため揺動アーム316(本発明の推力伝達部材)と、1速ギヤ用摩擦クラッチ304と2速ギヤ用摩擦クラッチ306の切替的な締結のための円環形状のプッシャ318(本発明の押圧部材)と、制御モータ32の回転をトルク-推力変換機構310に伝達する制御モータ320を備える。
【0073】
揺動アーム316は、図18に示すように、中立状態において、変速機入力軸10と同軸をなす環状胴部316-1と、環状胴部316-1の上端における舌部316-2と、上端舌部316-2の直径対立位置において環状胴部316-1より上端舌部316-2と平行に下向きに延出する一対の耳部316-3とを形成する。揺動アーム316の上端舌部316-2はハウジング14(アーム枢着部14-4)にアーム支持ピン322により枢着され、揺動アーム316は、変速機中心軸線(図17の紙面と平行)アーム支持ピン322の中心軸線、即ち、変速機中心軸と直交した回動中心(図17の紙面と直交)の周りにおいて揺動可能に構成される。一対のプッシャ支持ピン324は図17に示すように直径対立位置に配置され、各プッシャ支持ピン324は内端部がプッシャ318に外周面より嵌挿されると共に、外端部が揺動アーム316の環状胴部316-1に嵌挿され、これによりプッシャ318は、揺動アーム316に対して、変速機中心軸線と直交した中心線の周りにおいて幾分の角度で揺動可能に支持される。このような揺動アーム316の支持構造によりプッシャ318による1速ギヤ用摩擦クラッチ304と2速用ギヤ用摩擦クラッチ306の切替動作が可能となる。即ち、図17に示す揺動アーム316の直立位置から揺動アーム316をアーム支持ピン322を中心に時計方向に回動させることにより、プッシャ318は1速ギヤ用摩擦クラッチ304に向け駆動され、1速ギヤ用摩擦クラッチ304はスラストベアリング326を介し締結に至り、逆に、揺動アーム316をアーム支持ピン322を中心に反時計方向に回動させることにより、プッシャ318は2速ギヤ用摩擦クラッチ306に向け駆動され、2速ギヤ用摩擦クラッチ304はスラストベアリング328を介し締結に至る。このような1速ギヤ用摩擦クラッチ304、2速ギヤ用摩擦クラッチ306の切替動作において、プッシャ310は最初はプッシャ支持ピン320の周りの回動構造故に幾分の傾斜を伴うが、プッシャ支持ピン324によるアーム316に対するプッシャ310の回動支持構造により、揺動アーム316に対するプッシャ310の姿勢は最終的には修正されるに至り、直立姿勢にて対向クラッチ面に対し係合させることができる。
【0074】
トルク-推力変換機構310を構成する内径側のネジ部材312及び外径側のナット部材314は1速ギヤ用摩擦クラッチ304及び2速ギヤ用摩擦クラッチ306をはさんで揺動アーム316のハウジングに対する支点の反対側に位置する。ネジ部材314はこの実施形体では中実棒状であり、クラッチ304, 306の中心軸線と平行に延び、両端はハウジングにベアリング330によりハウジングに回転可能に支持される。ネジ部材312及びナット部材314についても図16と同様なボールネジとして構成することができる。図19に示すようにナット部材314は外周のスプライン314-1がハウジングのナット取付部14-5におけるスプライン孔14-5aと回転を阻止しつつ嵌合することにより、ネジ部材312の回転はナット部材314の軸方向における直線移動に変換される。ナット部材314の直線運動より揺動アーム316の揺動運動を得るため、筒状ナット部材314は、図17及び図18に示すように、長手方向における中間部における直径対立位置において、駆動ピン332を植設固定しており、多方、揺動アーム316の耳部316-3にアーム316の長手方向に細長に延びるピン孔334が形成され、ピン孔334にナット部材314からの駆動ピン332の自由端が遊嵌される。図17及び図18に示す揺動アーム316の中立位置においては、ピン孔328は駆動ピン332に対し上下に余裕を残しており、この余裕部分が中心ネジ314の回転によるネジ部材312の軸方向前後直線移動に伴う揺動アーム316の回動、曳いてはプッシャ318の前後移動による1速ギヤ用摩擦クラッチ304、2速ギヤ用摩擦クラッチ306の切替動作を実現する。
【0075】
この実施形態においては、制御モータ32の回転を中心ネジ314に伝達するための動力伝達機構320は、図18に示すように、制御モータ32の回転軸に連結されるウォームギヤ340と、中心ネジ314上に固定され、ウォームギヤ340と噛合するウォームホイール342とから構成される。制御モータ32の回転は噛合するウォームギヤ340及びウォームホイール342を介して中心ネジ314に伝達され、中心ネジ312の回転によりナット部材314は軸方向に移動され、ナット部材314の軸方向移動がアーム316の揺動運動を惹起し、前述の1速ギヤ用摩擦クラッチ304、2速ギヤ用摩擦クラッチ306の切替動作を実現することができる。
【0076】
1速ギヤ用摩擦クラッチ304の入力側(駆動モータ2側)と出力側(1速用ギヤセット301の入力側)との間にワンウエイクラッチ348が設けられる。ワンウエイクラッチ348の動作は図9のフローチャートと同様であり、第1速ドライブではワンウエイクラッチ348はロックされかつ1速ギヤ用摩擦クラッチ304は締結トルク=0とされ、駆動モータ2のトルクはワンウエイクラッチ348を経由して1速用ギヤセット301に伝達される。また、第1速コースト時には第1速ギヤ用摩擦クラッチ304に締結トルクがかけられ、ワンウエイクラッチ348の空転を阻止する。
【0077】
この実施形態においては、内径側のネジ部材312は中実であるためトルク-推力変換機構のより小型化が可能となりコスト減に寄与させることができる。また、ウォームギヤ320のセルフロック機能によりネジ部材312の軸力を保持することができるため、図11及び図14A, 14Bで説明した電磁ブレーキ48が不要となり、この観点でコスト上の有利性が得られる。
[2段変速のためアクチュエータを独立化させた実施形態]
【0078】
図20図17図19の実施形態の変形実施形態であり、1速ギヤ用摩擦クラッチ304、2速ギヤ用摩擦クラッチ306のため、アクチュエータを独立化し、夫々、専用の1速ギヤ用摩擦クラッチ駆動アーム350、2速ギヤ用摩擦クラッチ駆動アーム352を使用することを特徴するものである。摩擦クラッチ駆動アーム350, 352の基本的な構造は図17図19の実施形態における揺動アーム316と同様であるが、相違点は、(イ)1速ギヤ用摩擦クラッチ駆動アーム350に1速ギヤ用プッシャ354(及びスラストベアリング355)が支持され、2速ギヤ用摩擦クラッチ駆動アーム352に2速ギヤ用プッシャ356 (及びスラストベアリング358)が支持され、(ロ) 1速ギヤ用摩擦クラッチ駆動アーム350の揺動用に専用のトルク-推力変換機構360 (中心ネジ362とナット364とから成る)を設け、2速ギヤ用摩擦クラッチ駆動アーム352の揺動用に専用のトルク-推力変換機構366 (中心ネジ368とナット370とから成る)を設け、(ハ) 1速ギヤ用摩擦クラッチ専用のトルク-推力変換機構360のため回転制御モータ372及びウォーム機構374を設け、2速ギヤ用摩擦クラッチ専用のトルク-推力変換機構366のための回転制御モータ376及びウォーム機構378を設けたことである。
【0079】
この実施形態では1速ギヤ用摩擦クラッチ304、2速ギヤ用摩擦クラッチ306のため、夫々、専用のアクチュエータ(1速ギヤ用摩擦クラッチ駆動アーム350、2速ギヤ用摩擦クラッチ駆動アーム352)を設けているため、1速ギヤ用摩擦クラッチ304と2速ギヤ用摩擦クラッチ306との切替の際の空走時間を皆無とする設計が可能であり、ワンウエイクラッチ27(図1等)、69(図16)が不必要となり、変速ショックの軽減にも有利となる。また、切替時の空走期間が無いため、プッシャの移動距離が短縮するため制御モータをその分小型化することができる。
【符号の説明】
【0080】
2…駆動モータ
4…2段変速機
10…入力軸
12…出力軸
14…ハウジング
16…遊星歯車機構
20…キャリア
22…サンギヤ
24…リングギヤ
26…摩擦クラッチ
27…ワンウエイクラッチ
28…摩擦ブレーキ
30…アクチュエータ
32…制御モータ
32-1…制御モータの出力軸
34…プッシャ
34-3a…プッシャの摩擦ブレーキ駆動部
34-3b…プッシャの摩擦クラッチ駆動部
36…トルク-推力変換機構
38…動力伝達機構
40…筒状ネジ(本発明の内径部材)
42…筒状ナット (本発明の外径部材)
43a, 43b…スラスト軸受
44…駆動平歯車
46…従動平歯車
48…電磁ブレーキ
52…ブレーキシュー
a…2-1変速のためのプッシャの目標ストローク量
b…1-2変速のためのプッシャの目標ストローク量
【0081】
300…平歯車式2段変速機構
301…1速用ギヤセット
301-1…入力側平歯車
301-2…出力側平歯車
302…2速用ギヤセット
302-1…入力側平歯車
302-2…出力側平歯車
304…1速ギヤ用摩擦クラッチ
306…2速用ギヤ用摩擦クラッチ
308…アクチュエータ
310…トルク-推力変換機構
312…ネジ部材(本発明の内径部材)
314…ナット部材(本発明の外径部材)
316…揺動アーム(本発明の推力伝達部材)
318…プッシャ
320…制御モータ
322…アーム支持ピン
324…プッシャ支持ピン
332…アーム駆動ピン
334…駆動ピン孔
350…1速ギヤ用摩擦クラッチ駆動アーム
352…2速ギヤ用摩擦クラッチ駆動アーム
354…1速ギヤ用プッシャ
356…2速ギヤ用プッシャ
360…1速ギヤ用トルク-推力変換機構
362…2速ギヤ用トルク-推力変換機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15
図16
図17
図18
図19
図20