(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】In-situ薬物担持ヒドロゲル及びその調製方法と使用
(51)【国際特許分類】
A61L 24/04 20060101AFI20250121BHJP
A61L 24/06 20060101ALI20250121BHJP
A61L 24/08 20060101ALI20250121BHJP
A61K 31/722 20060101ALI20250121BHJP
A61K 31/77 20060101ALI20250121BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20250121BHJP
【FI】
A61L24/04 100
A61L24/06
A61L24/08
A61K31/722
A61K31/77
A61P27/02
(21)【出願番号】P 2023552256
(86)(22)【出願日】2022-03-31
(86)【国際出願番号】 CN2022084316
(87)【国際公開番号】W WO2022206882
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-08-29
(31)【優先権主張番号】202110351993.7
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522408289
【氏名又は名称】エヌケイディー ファーマ シーオー., エルティーディー
【氏名又は名称原語表記】NKD PHARMA CO., LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レン,ホンフェイ
(72)【発明者】
【氏名】シゥ,シャオユ
(72)【発明者】
【氏名】タオ,シィウメイ
【審査官】今村 明子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111773178(CN,A)
【文献】特表2016-514032(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110433344(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111905155(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチアームポリエチレングリコール誘導体複合体の調製方法であって、
マルチアームポリエチレングリコール誘導体をtert-ブチルアルコールに溶解し、マルチアームポリエチレングリコール誘導体溶液とすること、
前記マルチアームポリエチレングリコール誘導体溶液に、末端にアミノ基を有する化合物を添加し、均一に混合して、混合原料とし、-45℃~-35℃で予備凍結すること、
次いで、順に、tert-ブチルアルコールの含有量が10wt%~15wt%になり、含水量が0.5wt%~1wt%になるまで-15℃~-5℃で乾燥する第1の乾燥;tert-ブチルアルコールの含有量が2wt%~5wt%になり、含水量≦0.2wt%~0.5wt%になるまで10℃~15℃で乾燥する第2の乾燥;tert-ブチルアルコールの含有量≦0.1wt%、含水量≦0.1wt%になるまで25℃~30℃で乾燥する第3の乾燥を行うこと
、
次いで、水分含有量≦25ppm、酸素含有量≦25ppmの環境下で包装すること、
を含み、
前記マルチアームポリエチレングリコール誘導体が、4アームポリエチレングリコールスクシンイミジルスクシネート(10k)、4アームポリエチレングリコールスクシンイミジルスクシネート(20k)、4アームポリエチレングリコールスクシンイミジルグルタレート(20k)、8アームポリエチレングリコールスクシンイミジルグルタレート(20k)、8アームポリエチレングリコールスクシンイミジルグルタレート(40k)から選択されるものであり、
前記末端にアミノ基を有する化合物が、ポリリジン又はポリリジン塩、カルボキシメチルキトサン、キトサンから選択される少なくとも1種又は複数種の組み合わせである、
前記調製方法。
【請求項2】
g/mlとして、前記マルチアームポリエチレングリコール誘導体溶液において、マルチアームポリエチレングリコール誘導体とtert-ブチルアルコールとの重量体積比が1:(2~4)であり、及び/又は、
g/mlとして、前記混合原料において、前記マルチアームポリエチレングリコール誘導体と前記末端にアミノ基を有する化合物との重量比が1:(0.01~0.06)である、請求項
1に記載のマルチアームポリエチレングリコール誘導体複合体の調製方法。
【請求項3】
前記予備凍結の時間が100~150minであり、及び/又は、
前記第1の乾燥の時間が1200~1800minであり、及び/又は、
前記第2の乾燥の時間が240~720minであり、及び/又は、
前記第3の乾燥の時間が60~600minである、請求項1
又は2に記載のマルチアームポリエチレングリコール誘導体複合体の調製方法。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の方法により調製されたマルチアームポリエチレングリコール誘導体複合体。
【請求項5】
請求項
4に記載のマルチアームポリエチレングリコール誘導体複合体の、ヒドロゲルの調製における使用。
【請求項6】
請求項
4に記載のマルチアームポリエチレングリコール誘導体複合体である第1の成分と、
リン酸塩緩衝液であって、pH
が6.5~7.5である第2の成分と、
緩衝塩溶液であって、ホウ砂-リン酸塩緩衝液又は炭酸ナトリウム-リン酸塩緩衝液から選択され、前記緩衝塩溶液のpH
が9.5~10.0である第3の成分とを含む、In-situヒドロゲル。
【請求項7】
請求項
4に記載のマルチアームポリエチレングリコール誘導体複合体である第1の成分と、
リン酸塩緩衝液であって、pH
が6.5~7.5である第2の成分と、
緩衝塩溶液であって、ホウ砂-リン酸塩緩衝液又は炭酸ナトリウム-リン酸塩緩衝液から選択され、前記緩衝塩溶液のpH
が9.5~10.0である第3の成分と、
薬物である第4の成分と
を含む、In-situ薬物担持ヒドロゲル。
【請求項8】
前記第1の成分を前記第2の成分で溶解し、第1の原料液とすること、
前記第4の成分を前記第3の成分で溶解し、第2の原料液とすること、
次いで、前記第1の原料液と第2の原料液を混合し、In-situ薬物担持ヒドロゲルとすること
を含む、請求項
7に記載のIn-situ薬物担持ヒドロゲルの調製方法。
【発明の詳細な説明】
【相互参照】
【0001】
本願は、2021年3月31日に出願された発明の名称が「In-situ薬物担持ヒドロゲル及びその調製方法と使用」である中国特許出願第202110351993.7号に基づき優先権を主張し、その全開示内容を援用により本願に取り込む。
【技術分野】
【0002】
本発明は、In-situ薬物担持ヒドロゲル及びその調製方法と使用に関するものである。
【背景技術】
【0003】
In-situ分解性ヒドロゲルは、多岐にわたって発展する材料として、大量の水分を豊富に含み、生体適合性が良好で、安全性及び性能が制御可能であり、そして、注射可能なIn-situヒドロゲルは、手術中に容易に操作できるため、疾患の治療において、幅広い研究の見通しがある。
PEGによるヒドロゲル修飾技術は、組織工学、特に組織シーラントに適用でき、組織液浸出の予防に役立ち、眼科、神経外科、脊椎外科などの異なる臨床分解サイクルが求めるシーラントを調製することができる。PEG誘導体に基づいて開発されたヒドロゲル製品は、生体適合性が良好で、無毒・無刺激であり、臨床応用では、術後の除去を必要とせず、製品が患者の回復につれ徐々に分解され、腎臓により代謝される等の利点がある。現在、この種類の製品には、ReSureSealantやOcuSeal Liquid Ocular Bandageなどのような、角膜の切り口の封止、結膜と強膜の手術創の封止剤に用いられるさまざまな市販品がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、マルチアームポリエチレングリコール誘導体をヒドロゲルの基材とした場合、その安定性が経時的に低下し、ヒドロゲルのゲル化時間が長くなり、急速硬化のニーズを満たすことができないことを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題に対し、本発明者は、多くの実験研究を経て、マルチアームポリエチレングリコール誘導体を前処理することにより、その安定性を向上させることができ、ヒドロゲルのゲル化時間が長くなることを回避でき、急速硬化のニーズを満たすことができることを見出した。
【0006】
具体的には、本発明は、マルチアームポリエチレングリコール誘導体複合体の調製方法であって、
マルチアームポリエチレングリコール誘導体をtert-ブチルアルコールに溶解し、マルチアームポリエチレングリコール誘導体溶液とすること、
前記マルチアームポリエチレングリコール誘導体溶液に、末端にアミノ基(-NH2)を有する化合物を添加し、均一に混合して、混合原料とし、-45℃~-35℃で予備凍結すること、
次いで、順に、tert-ブチルアルコールの含有量が10wt%~15wt%になり、含水量が0.5wt%~1wt%になるまで-15℃~-5℃で乾燥する第1の乾燥;tert-ブチルアルコールの含有量が2wt%~5wt%になり、含水量≦0.2wt%~0.5wt%になるまで10℃~15℃で乾燥する第2の乾燥;tert-ブチルアルコールの含有量≦0.1wt%、含水量≦0.1wt%になるまで25℃~30℃で乾燥する第3の乾燥を行うこと
を含む、前記調製方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
研究により、マルチアームポリエチレングリコール誘導体に対して上記のような前処理を行うことにより、その安定性を著しく向上させることができ、ヒドロゲルのゲル化時間が長くなることを回避でき、急速硬化のニーズを満たすことができることが発見された。
【発明を実施するための形態】
【0008】
一部の実施例では、前記マルチアームポリエチレングリコール誘導体は、スクシンイミジルカーボネート基を含むマルチアームポリエチレングリコール誘導体、スクシンイミジルアセテート基を含むマルチアームポリエチレングリコール誘導体、スクシンイミジルプロピオネート基を含むマルチアームポリエチレングリコール誘導体、スクシンイミジルスクシネート基を含むマルチアームポリエチレングリコール誘導体、スクシンイミジルグルタレート基を含むマルチアームポリエチレングリコール誘導体、スクシンイミジルセバケート基を含むマルチアームポリエチレングリコール誘導体から選択されるものである。
一部の実施例では、前記マルチアームには、4アーム、6アーム、8アームが含まれる。
一部の実施例では、前記マルチアームポリエチレングリコール誘導体の数平均分子量は10K~40K(即ち10000~40000)である。
本明細書では、数平均分子量10Kは、10000を意味する。
一部の実施例では、前記マルチアームポリエチレングリコール誘導体は、4アームポリエチレングリコールスクシンイミジルスクシネート(10k)、4アームポリエチレングリコールスクシンイミジルスクシネート(20k)、4アームポリエチレングリコールスクシンイミジルグルタレート(20k)、8アームポリエチレングリコールスクシンイミジルグルタレート(20k)、8アームポリエチレングリコールスクシンイミジルグルタレート(40k)から選択されるものである。
【0009】
一部の実施例では、マルチアームポリエチレングリコール誘導体を30~40℃(例えば35℃)のtert-ブチルアルコールに溶解し、マルチアームポリエチレングリコール誘導体溶液とする。
一部の実施例では、g/mlとして、前記マルチアームポリエチレングリコール誘導体溶液において、マルチアームポリエチレングリコール誘導体とtert-ブチルアルコールとの重量体積比は1:(2~4)である。研究により、この濃度範囲内にあれば、効果的な安定性を保証できるだけでなく、速い溶解速度も保証できることが発見された。
【0010】
一部の実施例では、g/mlとして、前記混合原料において、前記マルチアームポリエチレングリコール誘導体と前記末端にアミノ基を有する化合物との重量比は1:(0.01~0.06)である。
一部の実施例では、前記末端にアミノ基(-NH2)を有する化合物は、ポリリジン又はポリリジン塩、カルボキシメチルキトサン、キトサンから選択される少なくとも1種又は複数種の組み合わせであり、好ましくはトリリジン酢酸塩である。
一部の実施例では、前記マルチアームポリエチレングリコール誘導体溶液が30℃~40℃(例えば35℃)である条件下で、前記末端にアミノ基(-NH2)を有する化合物を、前記マルチアームポリエチレングリコール誘導体溶液に溶解又は超音波分散する。
一部の実施例では、前記予備凍結の温度は-45℃、-40℃又は-35℃である。
一部の実施例では、前記予備凍結の前に、凍結乾燥機を予め-45℃~-35℃の範囲に予冷する。
一部の実施例では、前記予備凍結の時間は、100~150min、例えば120minである。
一部の実施例では、前記混合原料を凍結乾燥瓶に入れて乾燥してもよい。
研究により、予備凍結処理により構造が緻密で表面が滑らかな小さな氷結晶を得ることができ、前記マルチアームポリエチレングリコール誘導体の安定性の向上に有利であることが発見された。
【0011】
一部の実施例では、前記第1の乾燥の温度は-15℃、-10℃又は-5℃である。
一部の実施例では、前記第1の乾燥の時間は、1200~1800min、例えば1500minであってもよく、具体的な時間は、上記乾燥に必要なtert-ブチルアルコールの含有量及び含水量に基づいて決めることができる。
一部の実施例では、前記第2の乾燥の温度は10℃又は15℃である。
一部の実施例では、前記第2の乾燥の時間は、240~720min、例えば360minであってもよく、具体的な時間は、上記乾燥に必要なtert-ブチルアルコールの含有量及び含水量に基づいて決めることができる。
一部の実施例では、前記第3の乾燥の温度は25℃又は30℃である。
一部の実施例では、前記第3の乾燥の時間は、60~600min、例えば120minであってもよく、具体的な時間は、上記乾燥に必要なtert-ブチルアルコールの含有量及び含水量に基づいて決めることができる。
研究により、上記の3段階の乾燥により、表面が滑らかかつ緻密で、含水量の低い凍結乾燥粉末を得ることができ、前記マルチアームポリエチレングリコール誘導体の安定性の向上に有利であることが発見された。
【0012】
一部の実施例では、前記予備凍結の温度は-45℃~-40℃であり、前記第1の乾燥の温度は-15℃~-10℃である。実験により、この条件が、ポリエチレングリコール誘導体の安定性の向上に一層有利であり、処理後のポリエチレングリコール誘導体が720d保存された後でも、その硬化時間に有意な低下がないことが発見された。
【0013】
一部の実施例では、上記調製方法は、さらに第3の乾燥により得られた原料を包装するステップを含み、水分含有量≦25ppm(例えば20ppm)、酸素(即ち酸素ガス)含有量≦25ppm(例えば20ppm)の環境下で包装することが好ましい。このようにすれば、マルチアームポリエチレングリコール誘導体の安定性をさらに向上させ、マルチアームポリエチレングリコール誘導体の酸化及び加水分解を低減することができる。
【0014】
一部の実施例では、上記調製方法は、
ポリエチレングリコール誘導体を35℃でtert-ブチルアルコールに溶解し、g/mlとして、マルチアームポリエチレングリコール誘導体とtert-ブチルアルコールとの重量体積比が1:(2~4)であるマルチアームポリエチレングリコール誘導体溶液とすること、
前記末端にアミノ基を有する化合物を35℃で前記マルチアームポリエチレングリコール誘導体溶液に溶解又は超音波分散し、前記マルチアームポリエチレングリコール誘導体と前記末端にアミノ基を有する化合物との重量比が1:(0.01~0.06)である混合原料とすること、
前記混合原料を-45℃~-35℃で予備凍結すること、
次いで、順に、tert-ブチルアルコールの含有量が10wt%~15wt%になり、含水量が0.5wt%~1wt%になるまで-15℃~-5℃で乾燥する第1の乾燥;tert-ブチルアルコールの含有量が2wt%~5wt%になり、含水量≦0.2wt%~0.5wt%になるまで10℃~15℃で乾燥する第2の乾燥;tert-ブチルアルコールの含有量≦0.1wt%、含水量≦0.1wt%になるまで25℃~30℃で乾燥する第3の乾燥を行うこと、
水分含有量≦25ppm、酸素含有量≦25ppmの環境下で包装すること
を含むものである。
本発明者は、上記の予備凍結及び凍結乾燥処理により、ポリエチレングリコール誘導体の安定性を比較的良好に向上させることができ、処理後のポリエチレングリコール誘導体が720d保存された後でも、その硬化時間に有意な低下がないことを発見した。
【0015】
本発明は、また、上記方法により調製されたマルチアームポリエチレングリコール誘導体複合体を含み、当該複合体は比較的良好な安定性を有する。
本発明は、また、上記方法により調製されたマルチアームポリエチレングリコール誘導体複合体の、ヒドロゲルの調製における使用を含む。
【0016】
本発明は、さらにIn-situヒドロゲルを提供し、当該In-situヒドロゲルは、
上記方法により調製されたマルチアームポリエチレングリコール誘導体複合体である第1の成分、
リン酸塩緩衝液である第2の成分、及び
緩衝塩溶液であって、ホウ砂-リン酸塩緩衝液又は炭酸ナトリウム-リン酸塩緩衝液から選択される第3の成分
を含むものである。
一部の実施例では、前記リン酸塩緩衝液のpHは6.5~7.5であり、これにより、ヒドロゲル全体の酸性度を中性または中性に近い範囲に維持することができる。
一部の実施例では、前記リン酸塩緩衝液は、中国薬局方2015版4部8004項に記載されるpH=7.3のリン酸塩緩衝液を参照して調製することができる。
一部の実施例では、ホウ砂の毒性を考慮し、第3の成分が、ホウ砂を含まないリン酸塩緩衝液であることが好ましい。
一部の実施例では、前記第3の成分である緩衝塩溶液のpHは、9.5~10.0であり、これにより、ゲルの硬化時間を保証することができる。
一部の実施例では、前記ホウ砂-リン酸塩緩衝液または炭酸ナトリウム-リン酸塩緩衝液は、それぞれリン酸塩緩衝液(上文を参照)とホウ砂または炭酸ナトリウムとで調製し、所望のpHに調整することができる。
一部の実施例では、0.1M炭酸ナトリウム溶液とリン酸塩緩衝液(上文を参照、例えばpH=7.3)とで、炭酸ナトリウム-リン酸塩緩衝液を調製する。
【0017】
本発明のIn-situ薬物担持ヒドロゲルは、使用する直前に調製することができ、具体的には、第1の成分を第2の成分で溶解し、さらに第3の成分と混合することで、In-situヒドロゲルが得られる。
【0018】
本発明は、さらに、In-situ薬物担持ヒドロゲルを提供し、当該In-situ薬物担持ヒドロゲルは、
上記方法により調製されたマルチアームポリエチレングリコール誘導体複合体である第1の成分、
リン酸塩緩衝液である第2の成分、
緩衝塩溶液であって、ホウ砂-リン酸塩緩衝液又は炭酸ナトリウム-リン酸塩緩衝液から選択される第3の成分、及び
薬物である第4の成分
を含むものである。
一部の実施例では、前記第2の成分であるリン酸塩緩衝液、及び第3の成分である緩衝塩溶液は、上記と同様である。
一部の実施例では、前記薬物は、常用薬から選択されてもよく、抗炎症薬(シクロスポリン、エリスロマイシン、モキシフロキサシンなど)、むくみ改善薬(デキサメタゾン、シクロデキストリン)、保湿(ヒアルロン酸、HPMC)、緑内障(カルテオロール塩酸塩、ネタルスジル、トラボプロスト、ビマトプロスト、タフルプロスト)、非ステロイド系抗炎症薬などを含むが、これらに限定されない。
【0019】
本発明のIn-situ薬物担持ヒドロゲルは、使用する直前に調製することができ、具体的には、第1の成分を第2の成分で溶解し、第4の成分を第3の成分で溶解し、そして、得られた原料液を混合することで、In-situ薬物担持ヒドロゲルが得られる。
【0020】
驚くべきことに、本発明は、従来のヒドロゲルが薬物を担持できないという欠点も克服し、上記の方法で調製されたマルチアームポリエチレングリコール誘導体複合体は、薬物、特に眼科用薬物を担持することができ、封止、修復、充填を実現するだけでなく、治療効果を達成することもできる。
【0021】
また、本発明は、2種類の緩衝塩溶液(すなわち、第2の成分と第3の成分)の比率を調整することにより、異なる硬化時間の制御を実現することもできる。
一部の実施例では、第1の成分を第2の成分であるリン酸塩緩衝液で溶解し、濃度50~300mg/mlの原料液とすることができる。
一部の実施例では、第4の成分を第3の成分である緩衝塩溶液で溶解し、濃度6~200mg/mlの原料液とすることができる。
一部の実施例では、第1の成分の前記In-situ薬物担持ヒドロゲルにおける含有量は2.5wt%~20wt%である。
一部の実施例では、前記薬物の前記In-situ薬物担持ヒドロゲルにおける含有量は0.02wt%~10wt%である。
一部の実施例では、前記In-situ薬物担持ヒドロゲルは、さらに第5の成分である発色剤を含み、当該成分は、非アゾ系着色剤から選択されてもよい。発色剤を含有する場合、発色剤を第2の成分または第3の成分で溶解してから、他の原料液と混合することができる。一部の実施例では、発色剤の前記In-situ薬物担持ヒドロゲルにおける含有量は0.01wt%~0.1wt%である。
【0022】
本発明は、さらに、上記In-situ薬物担持ヒドロゲルの調製方法を提供し、当該調製方法は、
第1の成分を第2の成分(即ちリン酸塩緩衝液)で溶解し、第1の原料液とすること、
第4の成分を第3の成分(即ち緩衝塩溶液)で溶解し、第2の原料液とすること、
次いで、第1の原料液と第2の原料液を混合して、In-situ薬物担持ヒドロゲルとすること
を含むものである。
【0023】
本発明は、マルチアームポリエチレングリコール誘導体とアミノ基含有化合物とを共に凍結乾燥処理することにより、その安定性を向上させ、急速硬化のニーズを満たすことができるだけでなく、その溶解速度を向上させ、操作時間を短縮し、組織の異なる部位における時間が制御可能な硬化及び異なる薬物の担持を実現し、複数種の適応症の封止、修復、充填及び治療を実現することもできる。
本発明のIn-situヒドロゲル、In-situ薬物担持ヒドロゲルは、組織創傷面の封止、修復、充填又は治療に使用することができる。使用する直前に調製し、ゲルを形成する前に(例えば、付属品を介して)薬物担持ヒドロゲルを組織の対応部位に使用することで、組織の封止、修復、充填を実現しながら、抗炎症、抗感染、むくみ改善、保湿等の治療効果を果たす。このヒドロゲルは、In-situ成形することができ、第1の成分の溶解時間<20s、異なる組織適用部位に応じて0~10s以内にゲルを形成するように制御することができ、ゲルは加水分解することにより分解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実験例における兎眼封止効果の写真である。
【
図2】本発明の実験例における薬物の徐放性曲線である。
【実施例】
【0025】
以下の実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を制限するためのものではない。実施例において、具体的な技術や条件が特に明記されていないものは、当分野の文献に記載の技術や条件に準じて、又は、製品の取り扱い説明書に準じて行う。用いられる試薬や設備に、メーカーが特に明記されていないものは、いずれも正式な販売経路を通じて購入できる通常の製品である。
【0026】
実施例1
本実施例は、マルチアームポリエチレングリコール誘導体複合体の調製方法を提供し、当該調製方法は、
4アームポリエチレングリコールスクシンイミジルスクシネート(10k)を35℃でtert-ブチルアルコールに溶解し、4アームポリエチレングリコールスクシンイミジルスクシネートとtert-ブチルアルコールとの比が1g:2mlである4アームポリエチレングリコールスクシンイミジルスクシネート溶液とすること、
トリリジン酢酸塩を35℃で4アームポリエチレングリコールスクシンイミジルスクシネート溶液に超音波分散し、均一に混合して、4アームポリエチレングリコールスクシンイミジルスクシネートとトリリジン酢酸塩との重量比が1:0.03である混合原料とすること、
前記混合原料を凍結乾燥瓶に仕込み、凍結乾燥機を-45℃~-35℃に予冷した後、上記凍結乾燥瓶を凍結乾燥機の仕切り板に置いて、120min予備凍結した後、-15℃~-5℃で第1の乾燥を行い、乾燥時間を1500minとし、その後、15℃で第2の乾燥を行い、乾燥時間を360minとし、30℃で第3の乾燥を行い、乾燥時間を120minとすること、
凍結乾燥後の製品を、水分含有量20ppm、酸素含有量20ppmの環境下で包装すること
を含むものである。
予冷温度、予備凍結温度及び第1の乾燥の温度を制御することにより、サンプル1~3をそれぞれ調製した。具体的には、以下の表に示す。
【0027】
【0028】
実施例2
本実施例は、マルチアームポリエチレングリコール誘導体複合体の調製方法を提供し、当該調製方法は、
マルチアームポリエチレングリコール誘導体を35℃でtert-ブチルアルコールに溶解し、マルチアームポリエチレングリコール誘導体とtert-ブチルアルコールとの比が1g:4mlであるマルチアームポリエチレングリコール誘導体溶液とすること、
末端にアミノ基を有する化合物を35℃でマルチアームポリエチレングリコール誘導体溶液に超音波分散し、均一に混合して、混合原料とすること、
前記混合原料を凍結乾燥瓶に仕込み、凍結乾燥機を-45℃に予冷した後、上記凍結乾燥瓶を凍結乾燥機の仕切り板に置いて、120min予備凍結した後、-15℃で第1の乾燥を1500min行い、その後、それぞれ、15℃で第2の乾燥を360min行い、30℃で第3の乾燥を120min行うこと、
凍結乾燥後の製品を、水分含有量20ppm、酸素含有量20ppmの環境下で包装すること
を含むものである。
異なるマルチアームポリエチレングリコール誘導体、末端にアミノ基を有する化合物を選択し、そして、マルチアームポリエチレングリコール誘導体と末端にアミノ基を有する化合物との重量比を制御することにより、サンプル4~9をそれぞれ調製した。具体的には、以下の表に示す。
【0029】
【0030】
実施例3
本実施例は、マルチアームポリエチレングリコール誘導体複合体の調製方法を提供し、当該調製方法は、
4アームポリエチレングリコールスクシンイミジルグルタレート(10k)を35℃でtert-ブチルアルコールに溶解し、4アームポリエチレングリコールスクシンイミジルグルタレートとtert-ブチルアルコールとの比が1g:2mlである4アームポリエチレングリコールスクシンイミジルグルタレート溶液とすること、
末端にアミノ基を有する化合物を35℃で4アームポリエチレングリコールスクシンイミジルグルタレート溶液に超音波分散し、均一に混合して、4アームポリエチレングリコールスクシンイミジルグルタレートとトリリジン酢酸塩との重量比が1:0.03である混合原料とすること、
前記混合原料を凍結乾燥瓶に仕込み、凍結乾燥機を-45℃に予冷した後、上記凍結乾燥瓶を凍結乾燥機の仕切り板に置いて、120min予備凍結した後、-15℃で第1の乾燥を1500min行い、その後、それぞれ、15℃で第2の乾燥を360min行い、30℃で第3の乾燥を120min行うこと、
凍結乾燥後の製品を水分含有量20ppm、酸素含有量20ppmの環境下で包装し、サンプル10とすること
を含むものである。
【0031】
実施例4
実施例1との相違は、凍結乾燥後の製品を相対湿度50%の普通の環境下で包装し、サンプル11としたことだけである。
【0032】
比較例1
実施例1との相違は、予冷温度、予備凍結温度、降温速度及び第1の乾燥の温度を制御することにより、サンプル12~15をそれぞれ調製したことだけである。具体的には、以下の表に示す。
【0033】
【0034】
比較例2
4アームポリエチレングリコールスクシンイミジルスクシネート(10k)を35℃でtert-ブチルアルコールに溶解し、4アームポリエチレングリコールスクシンイミジルスクシネート溶液とした。
トリリジン酢酸塩を35℃で4アームポリエチレングリコールスクシンイミジルスクシネート溶液に超音波分散し、均一に混合して、4アームポリエチレングリコールスクシンイミジルスクシネートとトリリジン酢酸塩との重量比が1:0.03である混合原料とした。
前記混合原料を凍結乾燥瓶に仕込み、凍結乾燥機を-45℃に予冷した後、上記凍結乾燥瓶を凍結乾燥機の仕切り板に置いて、120min予備凍結した後、-15℃~-5℃で第1の乾燥を行い、乾燥時間を1500minとし、その後、15℃で第2の乾燥を行い、乾燥時間を360minとし、30℃で第3の乾燥を行い、乾燥時間を120minとした。
凍結乾燥後の製品を、水分含有量20ppm、酸素含有量20ppmの環境下で包装した。
4アームポリエチレングリコールスクシンイミジルスクシネートとtert-ブチルアルコールとの比を制御することにより、サンプル16~17を調製した。具体的には、以下の表に示す。
【0035】
【0036】
比較例3
4アームポリエチレングリコールスクシンイミジルスクシネート(10k)を35℃でtert-ブチルアルコールに溶解し、4アームポリエチレングリコールスクシンイミジルスクシネートとtert-ブチルアルコールとの比が1g:2mlである溶液とし、調製された溶液を凍結乾燥瓶Aに仕込んだ。
トリリジン塩を35℃でtert-ブチルアルコールに分散して、トリリジン塩とtert-ブチルアルコールとの重量比が0.03g:2mlである混合原料とし、調製された混合原料を凍結乾燥瓶Bに仕込んだ。
凍結乾燥機を-45℃に予冷した後、上記凍結乾燥瓶AとBを、それぞれ凍結乾燥機の仕切り板に置いて-45℃で120min予備凍結した後、-15℃で1500min乾燥し、その後、それぞれ、15℃で360min乾燥し、30℃で120min乾燥した。
次いで、4アームポリエチレングリコールスクシンイミジルスクシネートとトリリジン酢酸塩とを1:0.03の重量比で、水分含有量20ppm、酸素含有量20ppmの環境下で混合・包装し、サンプル18とした。
【0037】
比較例4
4アームポリエチレングリコールスクシンイミジルスクシネート(10k)と抗酸化剤としての2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)を混合し、含水量<0.1%になるまで乾燥した。次いで、トリリジン酢酸塩と、水分含有量20ppm、酸素含有量20ppmの環境下で混合して、サンプル19とした。そのうち、4アームポリエチレングリコールスクシンイミジルスクシネートとトリリジン酢酸塩との重量比は1:0.03であり、サンプル19における抗酸化剤BHTの含有量は0.05wt%であった。
【0038】
実験例1 マルチアームポリエチレングリコール誘導体の安定性研究
上記実施例と比較例のサンプルを包装した後、2~8℃の安定性試験箱に貯蔵し、720d後、その溶解と硬化時間を測定した。
測定方法:
上記のサンプルにpH7.5のリン酸塩緩衝液をそれぞれ添加し、全て溶解するまで振って、濃度200mg/mlの溶液Mを調製した。また、使用したリン酸塩緩衝液と同体積のpH10.0の炭酸ナトリウム-リン酸塩緩衝液を別途採取し、溶液Mと炭酸ナトリウム-リン酸塩緩衝液とを混合してゲルを形成し、その硬化時間を記録した。
実験結果は以下の表が示すとおりである。
【0039】
【0040】
実験例2
実施例1の方法でサンプル1を調製した。サンプル1にpH7.5のリン酸塩緩衝液を添加し、全て溶解するまで振って、濃度50~300mg/mlの溶液Nを調製した。また、適量の体積のpH10.0の炭酸ナトリウム-リン酸塩緩衝液を別途採取し、溶液Nと炭酸ナトリウム-リン酸塩緩衝液とを混合してゲルを形成し、A~Eの番号を振り、その硬化時間を記録した。
【0041】
【0042】
実験例3 生体適合性の結果
実施例2の方法でサンプル6を調製した。
4アームポリエチレングリコールスクシンイミジルグルタレート(20k、サンプル6の原料と同様)を採取し、凍結乾燥等の処理を行わず、対照サンプルとした。
GB 16886シリーズ規格を参照して、上記のサンプルの生物学的評価を行い、結果は以下の表が示すとおりである。
【0043】
【0044】
実験例4 In-situ薬物担持ヒドロゲル及びその使用の実験
実施例1の方法でサンプル1を調製した。
600mgのサンプル1にpH7.5のリン酸塩緩衝液4mlを添加し、全て溶解するまで振って、溶液Xを調製した。また、デキサメタゾン10mgを別途採取し、pH10.0の炭酸ナトリウム-リン酸塩緩衝液2mlに溶解して、溶液Yを得、溶液Xと溶液Yを混合した後、ゲルを形成した。
動物実験:兎眼モデルを選択し、兎眼の角膜の長さ約10mm(3~9箇所)の横方向の切り口で、アプリケータを使用してゲルを創傷面部に塗布し、切り口を封止した。術後7日間、術後の切り口封止効果と局所炎症の発生状況を観察し、その結果は、切り口の損傷が癒着する傾向にあり、炎症反応が徐々に回復し、最終的に完全に回復することを示した。兎眼封止効果は、
図1に示す通りである。
【0045】
実験例5 In-situ薬物担持ヒドロゲル及びその徐放性の測定
実施例2の方法でサンプル6を調製した。
サンプル6にpH7.5のリン酸塩緩衝液を添加し、全て溶解するまで振って、濃度300mg/mlの溶液Xを調製した。
また、デキサメタゾンを別途採取し、pH10.0の炭酸ナトリウム-リン酸塩緩衝液に溶解して、溶液Yを得、溶液Xと溶液Yを混合した後、ゲルを形成した。このゲルにおけるデキサメタゾンの含有量は5wt%であった。
薬物徐放の検出方法:薬物が担持されて硬化されたヒドロゲルを採取し、ヒドロゲルと溶出媒質とを1g:50mlの体積比で、サンプルを37℃±1℃の水浴発振器に仕込み、規定に従って操作した。それぞれ1h、2h、6h、1d、3d、6d、9d、12d、15d、18d、21d、24d、27d、30dで、1.0mlをサンプリングし、同体積の新鮮な溶液を補充して、サンプリング溶液を濾過し、被験液として次の濾液を採取して、中国薬局方2015版2部のデキサメタゾンの含有量検出に規定された方法に従って放出量を検出した。
薬物の徐放性曲線を
図2に示し、その結果、ヒドロゲルがデキサメタゾンに対して比較的長い徐放効果を有することが明らかになった。
【0046】
上記において、一般的な説明及び具体的な実施形態で本発明を詳しく説明したが、本発明に基づき、いくつかの補正や改善を行い得ることは、当業者にとって明らかである。従って、本発明の趣旨から逸脱しない範疇で行われるこれらの補正や改善は、いずれも本発明の保護しようとする範囲に属する。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、In-situ薬物担持ヒドロゲル及びその調製方法と使用を提供する。マルチアームポリエチレングリコール誘導体複合体の調製方法は、マルチアームポリエチレングリコール誘導体溶液を予備凍結した後、3段階の乾燥を順次に行うことを含む。In-situ薬物担持ヒドロゲルは、マルチアームポリエチレングリコール誘導体複合体、リン酸塩緩衝液、緩衝塩溶液、及び薬物を含む。本発明のIn-situ薬物担持ヒドロゲルは、組織創傷面の封止、修復、充填又は治療に使用することができ、比較的良い経済的価値と使用の見通しがある。