IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ リパブリック オブ コリア(アニマル アンド プラント クオレンティン エージェンシー)の特許一覧

特許7623534新規な免疫増強剤及びこれを含むワクチン組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】新規な免疫増強剤及びこれを含むワクチン組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/39 20060101AFI20250121BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20250121BHJP
   A61K 39/135 20060101ALI20250121BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20250121BHJP
   A61K 38/16 20060101ALN20250121BHJP
【FI】
A61K39/39
A61P37/04
A61K39/135
A61P31/14
A61K38/16
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024040258
(22)【出願日】2024-03-14
(62)【分割の表示】P 2022572763の分割
【原出願日】2020-06-26
(65)【公開番号】P2024069480
(43)【公開日】2024-05-21
【審査請求日】2024-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】520130373
【氏名又は名称】リパブリック オブ コリア(アニマル アンド プラント クオレンティン エージェンシー)
【氏名又は名称原語表記】REPUBLIC OF KOREA(ANIMAL AND PLANT QUARANTINE AGENCY)
(74)【代理人】
【識別番号】110003074
【氏名又は名称】弁理士法人須磨特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー ミン ザ
(72)【発明者】
【氏名】チョ ヒョン ドン
(72)【発明者】
【氏名】キム ス ミ
(72)【発明者】
【氏名】キム ビョウン ハン
(72)【発明者】
【氏名】パク ジョン ヒョン
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-507950(JP,A)
【文献】特表2016-530298(JP,A)
【文献】特表2013-541327(JP,A)
【文献】特表2008-505080(JP,A)
【文献】Tae-Yoon Park et al.,RORγt-specific transcriptional interactomic inhibition suppresses autoimmunity associated with TH17 cells,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,2014年,Vol.111, No.52,Pages 18673-18678
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00
A61P 37/04
A61P 31/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞アゴニストであるRORγt(RAR-related orphan receptor gamma t)を有効成分として含む免疫増強剤組成物。
【請求項2】
前記有効成分は、免疫増強剤組成物の0.01~1重量%含まれることを特徴とする、請求項1に記載の免疫増強剤組成物。
【請求項3】
前記有効成分の他に、添加剤、賦形剤又は担体がさらに含まれることを特徴とする、請求項1に記載の免疫増強剤組成物。
【請求項4】
前記免疫増強剤組成物は、オイル剤形またはノンオイル剤形であることを特徴とする、請求項1に記載の免疫増強剤組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の免疫増強剤組成物を含むワクチン組成物。
【請求項6】
前記免疫増強剤組成物は、ワクチン組成物の30~70重量%で含まれることを特徴とする、請求項5に記載のワクチン組成物。
【請求項7】
前記ワクチン組成物は、口蹄疫ワクチン組成物であることを特徴とする、請求項5に記載のワクチン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な免疫増強剤に関し、より具体的には、非典型的T細胞アゴニスト及び典型的T細胞アゴニストを含む新規な免疫増強剤及びこれを含むワクチン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
口蹄疫(FMD)は、偶蹄類(二つに割れた蹄を持つ動物)、とりわけ牛と豚において非常に速やかに伝播される急性伝染病であって、深刻な動物の生産性の低下と経済的損失の原因となる。FMDに対する大部分の臨床研究は、豚よりは牛でのワクチン効能を向上させるのに重点を置いたものであった。FMDワクチン生産のためのOIE(Office International Epizooties)指針は、豚ではなく、牛についての効能試験手順のみを定義している。しかし、FMDの重症度は、ウイルス菌株及び影響を受ける宿主種の双方に大きく依存する。急性臨床FMDは、他の反芻動物よりも豚において一層深刻であり、感染した豚は、多量のエアロゾルウイルスを排出することができ、深刻な疾病の伝播危険が高い。
【0003】
近年、韓国のワクチン接種動向によれば、FMDワクチンは、牛の免疫反応を効果的に誘導するが、その一方で、豚においては、血清内における高いウイルス中和抗体力価(Virus Neutralization(VN) Titer)にもかかわらず、口蹄疫ウイルス感染への完全な防御のための十分な免疫反応をもたらさない。このような違いは、畜種別のFMDウイルスに対する感受性または予防接種に対する宿主の免疫反応で説明することができる。
【0004】
不活性化口蹄疫ウイルス(FMDV)、すなわち、不活化抗原を含有するワクチン接種は、主に宿主防御及びFMD制御に用いられる。ワクチンの免疫原性及び効能を向上させるために、オイルエマルジョンなどのアジュバント(補助剤)及びサポニン、ゲルなどのような免疫増強剤などがワクチン成分として添加される。最近、サイトカイン(例えば、IL-15、IL-18及びIFNα)並びにToll様受容体(TLR)-3アゴニストとしてのポリ(I:C)、TLR-9アゴニストとしてのCpG及びTLR-7/8アゴニストとしてのR848(Resquimod)を含むパターン認識受容体(PRR)リガンドが、新しいFMDワクチンアジュバントとして提案された。しかし、このような研究は、基本的な水準で進められ、FMDV抗原またはFMDワクチンが媒介する細胞性免疫反応及び体液性免疫反応に対する理解を一層深めるためのメカニズム研究はほとんど行われてこなかった。
【0005】
本発明の目的は、先天性免疫反応と体液性免疫反応のリンカーとして作用し、宿主(host)防御において「新しい保護者」として提案されたγδ(gamma delta)T細胞、iNK(invariant natural killer)T細胞、MAIT(mucosal-associated invariant T)細胞を含む非典型的(unconventional)T細胞及びT細胞のような典型的(conventional)T細胞のアゴニスト(agonist)をワクチンアジュバントとして使用し、樹状細胞(dendritic cells、DCs)、マクロファージ(macrophages、MΦs)、及びモノサイト(monocytes)などのような抗原提示細胞(Antigen presenting cells、APCs)の刺激なしにT細胞を直接的に刺激して、より速やかで且つより強い細胞性免疫反応を導くことで、ワクチン接種時の宿主の初期防御に重要な役割をし、細胞性・体液性免疫反応を同時に刺激して、動物、特に豚における強力なメモリー反応(memory response)及びその抗体力価を誘導する免疫増強用補助物質及びこれを含む口蹄疫ワクチン組成物を開発することである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Lee, M. J. et al. Mincle and STING-stimulating adjuvants elicit robust cellular immunity and drive long-lasting memory responses in a foot-and-mouth disease vaccine. Front. Immunol. 10, 2509 (2019).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した問題点を解決するために、本発明は、牛と豚の免疫細胞における非典型的T細胞及び典型的T細胞の直接的な活性化によって強力な細胞性免疫反応を誘導する新規な免疫増強剤組成物を提供することを課題とする。
【0008】
また、本発明は、前記免疫増強剤組成物を含むワクチン組成物を提供することを他の一つの課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を達成するために、本発明は、牛と豚の免疫細胞において強力な細胞性免疫反応を誘導する新規な免疫増強剤組成物を提供する。
【0010】
前記新規な免疫増強剤は、非典型的T細胞アゴニスト(unconventional T cell agonist)及び典型的T細胞アゴニスト(conventional T cell agonist)を有効成分として含む。
【0011】
本発明における免疫増強剤(immunostimulant)またはアジュバント(adjuvant)は、抗原が起こす免疫反応を増強させる物質を意味する。該免疫増強剤は、ワクチンにおいて少量の抗原でも同一の効力を奏することができるので、従前の半分ないし3分の1程度の抗原でワクチンを作ることができる。
【0012】
本発明における典型的T細胞アゴニストは、RORγt(RAR-related orphan receptor gamma t)を含む。
【0013】
本発明における非典型的T細胞アゴニストは、上述したように既に公知されている典型的T細胞アゴニストを除いたT細胞アゴニストを意味する。前記非典型的T細胞アゴニストは、望ましくは、γδT細胞アゴニスト、iNKT細胞アゴニスト、MAIT細胞アゴニストであり得るが、これらに限定されるものではない。
【0014】
前記非典型的T細胞アゴニストまたは典型的T細胞アゴニストは、免疫増強剤組成物の0.01~1重量%、望ましくは、0.1~0.5重量%、より望ましくは、0.2~0.3重量%含まれ得る。前記範囲未満であれば、免疫増強の効果が現われないことがあり、前記範囲を超えると毒性が誘発される可能性がある。
【0015】
本発明の免疫増強剤または免疫増強剤組成物は、前記成分以外に当業界で広く知られているオイル(またはオイルエマルジョン)、乳化剤、及びゲルなどをさらに含むことができる。
【0016】
前記オイル(またはオイルエマルジョン)は、ISA201、ISA61、ISA50、ISA206、またはISA207であり得るが、これらに限定されない。
【0017】
前記乳化剤は、一般に乳化剤と認められる物質、例えばTWEEN(登録商標)またはSPAN(登録商標)製品ラインの他の製品(それぞれポリエトキシル化ソルビトール脂肪酸エステル、及び脂肪酸置換のソルビタン界面活性剤)及びPEG-40ヒマシ油または他のPEG化(PEGylated)水素化オイルのような他の溶解性改善剤を含み得るが、これらに限定されるものではない。
【0018】
また、免疫増強剤(またはアジュバント)組成物は、通常、オイル剤形で免疫増強の効果に優れるが、本発明による免疫増強剤組成物は、ノンオイル剤形でも免疫増強の効果に優れる。
【0019】
前記免疫増強剤を製造するために、当業界で通常用いられる添加剤、賦形剤、担体などをさらに含むことができ、当業界で免疫増強剤を製造するために用いる通常的な製造方法によって製造されることができる。
【0020】
本発明の免疫増強剤組成物の投与後に現われる免疫増強の効果は、免疫媒介物質または細胞によるものであることができ、具体的には、細胞性免疫、粘膜免疫、体液性免疫増強効果を含み得るが、これらに限定されない。
【0021】
前記免疫は、ウイルス、かび、バクテリア及び寄生虫のうちのいずれか一つの病原体に対する感染または癌に対する免疫を含むことができるが、これらに限定されない。
【0022】
前記ウイルスは、口蹄疫ウイルス(FMDV)、リーシュマニア(Leishmania)、ヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency virus、HIV)、C型肝炎ウイルス(Hepatitis C virus、HCV)、E型肝炎ウイルス(Hepatitis E virus、HEV)、A型肝炎ウイルス(Hepatitis A virus、HAV)、B型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus、HBV)、結核(tuberculosis)、単純ヘルペスウイルス(Herpes Simplex virus、HSV)、マラリア原虫(malaria causing parasites)、ヒトパピローマウイルス(Human Papilloma virus、HPV)、インフルエンザウイルス(influenza virus)、はしかウイルス(measles virus)、ムンプスウイルス(mumps virus)、エボラウイルス(Ebola virus)、呼吸器多核体ウイルス(Respiratory Syncytial virus、RSV)、ウエストナイルウイルス(West Nile virus、WNV)などを含むが、これらに限定されない。
【0023】
また、本発明は、前記免疫増強剤組成物を含むワクチン組成物を提供する。
【0024】
前記免疫増強剤組成物は、ワクチン組成物の全重量に対して30~70重量%、望ましくは、40~50重量%含まれることができるが、これに限定されるものではない。前記範囲未満であればワクチンの効果が現われないことがあり、前記範囲を超える場合、投与時に毒性が現われることができる。
【0025】
前記ワクチン組成物は、当業界でワクチン組成物を製造する際に通常使われる添加剤、賦形剤、担体などをさらに含むことができる。
【0026】
また、前記ワクチン組成物は、当業界でワクチン組成物を製造するために使う通常の製造方法によって製造されることができる。
【0027】
本発明において、前記ワクチンの種類は制限されるものではないが、望ましくは、ウイルスワクチン、より望ましくは、口蹄疫ワクチンであることができる。
【0028】
口蹄疫ワクチン組成物に本発明による免疫増強剤が含まれる場合、前記口蹄疫ワクチン組成物は、血清型O、血清型A、血清型Asia1、血清型C、血清型SAT1、血清型SAT2、血清型SAT3の口蹄疫ウイルスなどに対して免疫効果を発揮し得る。望ましくは、血清型O、血清型Aの口蹄疫ウイルスに対してより強い免疫効果を発揮し得る。
【0029】
前記ワクチン組成物は、舌下投与、経皮投与、直腸投与、経粘膜投与、局所的投与、口腔投与、胸膜内投与、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、筋肉内投与、鼻腔内投与、脊椎腔内投与、関節内投与などの方法で投与されることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、牛、豚の先天性細胞性免疫反応を強化して体液性免疫反応をより効率的に向上させることができる新しい免疫増強剤及びこれを含むワクチン組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、不活性化されたFMDV O/TWN/97抗原により誘導された牛及び豚でのPBMCs、リンパ球、単核球及びT細胞増殖結果を示す図である。
図2図2a~2dは、FMDV(O/TWN/97-R)抗原により媒介された豚免疫細胞と牛免疫細胞における炎症性サイトカインの発現結果を示す図である。
図3図3は、FMDV(O/TWN/97-R)抗原により媒介された豚免疫細胞と牛免疫細胞における炎症性サイトカインの発現結果を示す図である。
図4図4は、FMDV抗原が豚のMo-DCs及びMo-MΦsでサイトカイン発現を直接刺激することを示す図である。
図5図5a及び5bは、FMDV抗原が食作用によって豚DCs及びMΦsに細胞内取り込み(endocytosis)されて細胞性免疫を開始することを示す図である。
図6図6aは、牛と豚での免疫反応の違いを究明するための実験過程を示す図であり、図6b及び図6cは、豚で非正常的に過発現された先天性免疫反応及びFMDワクチン予防接種によるT細胞の疲弊の経路(exhaustion pathway)の誘導結果を示す図である。
図7図7aは、実験例1の実験過程を示した図であり、図7b~図7dは、非典型的T細胞アゴニスト及び典型的T細胞アゴニストがマウスの初期、中期及び長期免疫を誘導することを確認した結果を示した図である。
図8図8aは、実験例2の実験過程を示した図であり、図8bは、T細胞アゴニスト誘導豚PBMCsでの細胞増殖の結果を示した図である。
図9図9a~図9eは、実験例3の結果である非典型的T細胞アゴニスト及び典型的T細胞アゴニストによる豚での非正常的な先天性免疫反応の改善及びT細胞を含む兔疫細胞の活性化の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施例及び実験例によって詳しく説明する。
ただし、下記実施例及び実験例は、本発明を例示するものに過ぎず、本発明の内容が下記実施例及び実験例に限定されるものではない。
【0033】
<実験材料及び方法>
1.抗原の精製及び不活性化
精製された不活性化ウイルス抗原を、逆遺伝学的手法によるP1の表現型切り替え(リファレンス配列)用に構築されたFMDV O/TWN/97-R(GenBank AY593823;P1)に感染されたBHK-21細胞で製造した。
【0034】
ウイルス感染の場合、培養培地を無血清ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;HyClone、Logan、UT、USA)に切り替え、細胞を37℃、5%二酸化炭素で1時間の間インキュベーションすることでウイルスに接種した。次いで、細胞外ウイルスを除去した。感染後24時間に、振とう培養器で24時間の間0.003Nバイナリーエチレンイミンを2回処理してウイルスを不活性化させた後、ポリエチレングリコール(PEG)6000(Sigma-Aldrich、St.Louis、MO、USA)に濃縮させた。得られたウイルス濃縮物と15-45%ショ糖密度勾配を重層して遠心分離した。
【0035】
超遠心分離後、遠心分離チューブの底を穿孔して1mL分画を収集した。それぞれの分画のサンプルにおけるFMDV粒子の存在は、側方流動装置であるUA-6(BioSign FMDV Ag;Princeton BioMeditech、Princeton、NJ、USA)を用いて、光学密度に基づいて確認された。現場実験に使用するに先立って、PEGで前処理された上清液をZZ-R127及びBHK-21細胞を少なくとも2回通過させて細胞変性効果(CPE)が発生しなかったことを確認することで、上清液に生ウイルスの不在を確認した。
【0036】
2.PBMCsの分離
抗原媒介免疫反応を調べるために、豚と牛の全血を、韓国の京畿道動物衛生試験所から寄贈してもらった。全血(15mL)をBD Vacutainerヘパリンチューブ(BD Biosciences、Becton、Dickinson and Company、Franklin Lakes、NJ、USA)に収集して、Ficoll-PaqueTMPLUS(GE Healthcare Bio-Sciences Corp.、Piscataway、NJ、USA)で勾配、遠心分離し、次いで、残留赤血球を塩化アンモニウム・カリウム(ACK)溶解緩衝液(Gibco、Carlsbad、CA、USA)で処理して溶解させた。PBMCsを2%ウシ胎児血清(FBS)(Gibco)が補充された、Ca2+及びMg2+(Gibco)が含まれないダルベッコ(Dulbecco)のPBSに懸濁させ、フローサイトメーター(MACSQuant(登録商標) Analyzer、Miltenyi Biotec、Bergisch Gladbach、Germany)を用いて計数した。すべての細胞は使用直前に新たに分離し、凍結保存された細胞は、如何なる実験にも使用しなかった。精製されたPBMCsを10%FBS(HyClone、Logan、Utah、USA)、3mM L-グルタミン(Sigma-Aldrich)及び100U/mL ペニシリン-ストレプトマイシン(Sigma-Aldrich)が補充されたRPMI 1640(Gibco)培地に再懸濁させた。次いで、精製されたPBMCsを25cm組職培養フラスコ(Eppendorf、Hamburg、Germany)に分注して、5%CO、37℃の環境で培養して新たに分離された単球を付着させた。3時間の培養後、リンパ球分離のために非接着細胞を収集した。残りの接着細胞は、それぞれのフラスコに4mLのRPMI 1640成長培地を添加する前にダルベッコ(Dulbecco)リン酸緩衝生理食塩水(DPBS)(Gibco)で幅広く洗浄し、次いで5%COインキュベーターにて37℃で培養した。
【0037】
3.磁気活性化細胞分離(MACS)による細胞分離
単球、リンパ球及びT細胞をPBMCsから分離した。1次免疫細胞の分離のために、付着性PBMCsから単球を、及び非接着細胞からT細胞をMACSにより精製した。PBMCsから得られた接着細胞及び非接着細胞をMACS緩衝液(0.5%BSA及び2mM EDTAが補充された1×PBS)に簡単に再懸濁させた。単球及びT細胞は、それぞれ製造社の指示に従って単球単離キット及びPanT細胞単離キット(Miltenyi Biotec)と磁気マイクロビーズを用いて分離し、更に、蛍光活性化セルソーター(FACS、MoFlo(登録商標)AstriosTMCell Sorter、BeckmanCoulter、Brea、CA、USA)を用いて追加で分離した。分離された細胞の精製は、フローサイトメーター(MACSQuant Analyzer、Miltenyi Biotec)によって確認され、FlowJoソフトウェアバージョンvX.0.7(TreeStar Inc.、Ashland、OR、USA)で分析された。分離された細胞の純度は95%よりも高かった。
【0038】
4.Mo-DCs及びMo-MΦsの生成
Mo-DCsの分化のために、分離された単球を10%FBS(HyClone)、3mM L-グルタミン(Sigma-Aldrich)、100U/mL ペニシリン-ストレプトマイシン(Sigma-Aldrich)、50ng/mL GM-CSF及びIL-4(Miltenyi Biotec)が補充された完全なRPMI 1640培地(Gibco)で7日間培養して、未成熟DCsを生成させた。3日目に、同一体積の前記言及された培地を添加して、7日目には、細胞溶解前に激しい洗浄によって非接着汚染細胞を除去した。純粋なDCsの分離のために、製造社(Miltenyi Biotec)の指示に従って、抗CD11c磁性ビーズを用いた。CD11c/MHCII細胞の純度は95%以上であり、細胞は5%COインキュベーターで37℃の環境で維持された。
【0039】
Mo-MΦsの分化のために、単離された単球を10個/mLで12ウェルプレートに分注して10%FBS(HyClone)、1×MEM非必須アミノ酸、1mM ピルビン酸ナトリウム、0.05mM 2-メルカプトエタノール(Sigma-Aldrich)、100U/mL ペニシリン-ストレプトマイシン(Sigma-Aldrich)及び50ng/mL マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)(Abcam、Cambridge、MA、USA)が補充されたRPMI 1640培地(Gibco)で6日間培養した。更なるM-CSFを2日目に添加し、全ての培地を4日目に新たに交換した。CD11b/F4/80細胞の純度は95%超であった。細胞は5%COインキュベーターで37℃の環境で維持された。
【0040】
5.成熟したDCsの準備
成熟したDCsは、次のような6つの処理中のいずれか一つを追加して生成された:処理なし(刺激しない)、LPS(E.coli 055:B5、Sigma-Aldrich[100ng/mL])+rpIFN-γ(Novus Biologicals、LLC.、Littleton、CO、USA[20ng/mL])、rpTNFα(R&D Systems、Minneapolis、MN、USA [20ng/mL])、抗原単独(抗原[1μg/mL])、LPS+rpIFNγ+抗原(LPS[100ng/mL]、rpIFN-γ[20ng/mL]及び抗原[1μg/mL])またはrpTNFα+抗原(rpTNFα[20ng/mL]及び抗原[1μg/mL])。処理後の特定時点(0、6、12、24、48、72及び96h)で、ELISAのために細胞培養上清液を回収した。
【0041】
6.M1/M2MΦsの分極化
7日の成長後、Mo-MΦsを6つの処理中のいずれか一つで処理した:処理なし(刺激しない)、M1MΦs(LPS[100ng/mL]及びrpIFN-γ[20ng/mL])、M2MΦs(rpIL-4、R&D Systems[20ng/mL])、抗原単独(1μg/mL)、M1MΦs+抗原(IFN-γ[20ng/mL]及びLPS[100ng/mL]及び抗原[1μg/mL])またはM2MΦs+抗原(IL-4[20ng/mL]+抗原[1μg/mL])。処理後の特定時点(0、6、12、24、48、72及び96h)で、細胞培養上清液をELISAのために回収した。
【0042】
7.牛及び豚PBMCsにおける細胞培養、抗原処理及びBrdUの統合分析
分離されるか分化された細胞(1×10個/ウェル)を10%ウシ胎児血清(HyClone)、3mM L-グルタミン(Sigma-Aldrich)、10mM HEPES、100U/mL ペニシリン-ストレプトマイシン(Sigma-Aldrich)及び0.05mM 2-メルカプトエタノール(Sigma-Aldrich)が補充されたRPMI 1640培地(Gibco)からなる完全培地で5%CO、37℃インキュベーターで培養した(Sigma-Aldrich)。刺激のために、細胞は各抗原1μgで処理された。処理後の特定時点(0、6、12、24、48、72、96、120、144、168、192、216及び240h)で、DNA合成の間のBrdUの取り込みに基づくBrdU細胞増殖分析キット(細胞Signaling Technology、MA、USA)を製造社の指示に従って用いて、細胞増殖を試験した。簡略には、10μM BrdUを細胞培養液に添加して37℃で4時間の間培養した。次いで、細胞を固定させて、抗BrdUマウスモノクローナル抗体とともに培養した後、西洋ワサビ(horseradish)ペルオキシダーゼを結合させたヤギ抗マウス抗体を用いて処理した。発色基質であるテトラメチルベンジジンを発色に用いた。450/550nmの二つの波長で吸光度を測定した。Cell Titer-BlueTM分析キット(Promega、Madison、WI、USA)を用いて細胞生存力をモニタリングした。培地単独対照処理と比較して、実験処理は、細胞生存力に影響を及ぼさなかった。
【0043】
8.ELISA
牛及び豚IL-1β、IL-6、IL-10、IL-12/23p40、IL-23及びTNFαに対するELISA(DuoSet、R&D Systems、Minneapolis、MN、USA;Cloud-Clone Corporation、Houston、USA)は、製造社の指示に従って、細胞培養上清液を用いて行った。
【0044】
9.食作用(phagocytosis)の阻害
食作用を阻害するため、Mo-DCs及びMo-MΦsを抗原処理前に45分間5μg/mLのサイトカラシンD(CytD)(Sigma-Aldrich)とインキュベーションした。次いで、CytD処理されたMo-DCs及びMo-MΦsを1μg/mLの抗原とともに培養した。6時間後、培養された上清液をELISAのために収集した。
【0045】
10.牛と豚
牛と豚の自然状態での免疫反応の根本的な違いと、FMDV O抗原により媒介される免疫反応及び関連メカニズムを理解するために、牛と豚を用いた現場実験は、Lee et al.に説明された方法によって行われた。FMD抗体陰性動物を用いた(牛は5ヶ月齢、豚は10~12週齢)。牛と豚を2グループに分けた(n=5/グループ)。試験の間、動物は隔離された状態で維持された。試験は、農林畜産検疫本部の動物実験倫理委員会(承認番号IACUC-2018-800及びIACUC-2019-185)の承認を得て機関指針に従い遂行された。
【0046】
11.ワクチン接種及びサンプリング
FMD抗原としてO/TWN/97-R Agを使用した。陽性対照群に対するワクチン組成物は次のとおりである:15μgのO/TNW/97-R抗原(牛及び豚に使用する場合の1回用量)、ISA206(50%、w/w)、10%Al(OH)及び150μg Quil-Aを含む単一用量で製造された1mLのワクチン。ナイーブ(naive)PBMCs分離のために、全血をナイーブ対照群(口蹄疫抗体陰性)の牛、豚から収集した。ワクチン接種は、28日間隔で2回行い、陽性対照群動物の首に筋肉内経路を介して1mLのワクチン(1回用量)を注射した。血清学的分析のために、牛及び豚から0、14、28、42、56、70及び84dpvで血液サンプルを収集し、牛及び豚からPBMCs分離のために28dpv(1回接種後28日目、2回ワクチン接種前)に血液サンプルを収集した。当該動物の体温、ワクチン接種部位の症状及び食欲について、毎日モニタリングした。テストが遂行されるまで血清サンプルを-80℃で保管した。
【0047】
12.RNA配列分析(RNA-Seq)
RNA-Seq分析のために、ナイーブ対照群(n=3/グループ)及び陽性対照群(n=3/グループ)(28dpv)の牛及び豚の全血からのPBMCsを、Lee, M.J. et al. Mincle and STING-Stimulating Adjuvants Elicit Robust cellular Immunity and Drive Long-Lasting Memory Responses in a Foot-and-Mouth Disease Vaccine. Front Immunol, 2509 (2019) ((以下、Lee et al.という)に記述された方法に従って、Ficoll-PaqueTMPLUS(GE Healthcare Bio-Sciences Corp.、Piscataway、NJ、USA)を用いて密度勾配遠心法により遠心分離した。
【0048】
13.ライブラリ(Library)構築及びシーケンシング
高い処理量の牛及び豚転写体データを得るために、イルミナ(Illumina)の次世代シーケンシング(next generation sequencing、NGS)を実施した。製造社のプロトコールに従って、TRIzol Reagent(Invitrogen)及びRNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いて牛及び豚のPBMCsから総RNAをそれぞれ抽出した。次いで、総RNAをNanodrop分光光度計(Thermo Scientific、Wilmington、USA)を用いて定量し、RNA6000Nano分析キット(Agilent Technologies、Santa Clara、USA)及びBioanalyzer2100(Agilent)によって、その品質を評価した。NGSシーケンシングライブラリは、製造社のプロトコールに従って、TruSeq RNAサンプル準備キット(Illumina、San Diego、CA、USA)を用いて1μgの総RNAから生成された。すなわち、ポリ(A)含有RNA分子は、ポリTオリゴ結合磁性ビーズを用いて精製された。精製後、総ポリ(A)+RNAを高温で2価陽イオンを用いて小片に断片化した。切断されたmRNA断片をランダムプライマーを用いて1本鎖cDNAに逆転写させた。短い断片をQiaQuick PCR抽出キットで精製し、最終回収及びポリ(A)の付加のために溶離緩衝液に分解した。それから、短い断片をシーケンシングアダプダと連結した。各ライブラリは、相異なるMIDタグを隣接させて分離された。次いで、生成されたcDNAライブラリをNovaSeqTM6000システム(Illumina)でサンプルに対してペアードエンドシーケンシング(2×101bp)した。
【0049】
14.遺伝子発現の分析
低品質塩基(PHERD score(Q)<20)及びアダプダーの汚染は、媒介変数として「ILLUMINACLIP:TruSeq3-SE:2:30:10 LEADING:3 SLIDINGWINDOW:4:15 MINLEN:36」を用いてTrimmomatic v.0.36によって除去された。品質点数の確認及び読み出し長さの確認後に、RNA-Seq読み出し値(リード)はSTARを基本媒介変数として使用して期待値最大化(RSEM、RNA-Seq)を用いてリファレンスのBostaurusゲノム(2018年4月発行;ARS-UCD1.2;GCA_002263795.2)にマッピング(Mapping)された。ゲノムから各遺伝子/転写体に対する発現値を得るために、期待値最大化方法による発現を推定した。RSEMによって推定された読み出しカウントはedgeR v3.22.5に適用されて統計的有意性とともに微分発現点数を得た。また、フィルター、すなわちTPM(transcripts per million)≧0.3、読み出し回数≧5及びlogフォルド(fold)変化≧1が差等的に表現された転写体の選択に適用された。最後に、発現された転写体(すなわち、TPM≧0.3及び読み出し回数≧5)を分析して各条件及び遺伝子ファミリ(免疫遺伝子、T細胞マーカー及びTLR、CDS、CLR信号伝達経路遺伝子)での発現パターンを示した。
【0050】
15.創意工夫経路の分析(Ingenuity Pathway Analysis:IPA)
次いで、発現プロファイルを類似した発現パターンのクラスターに分類した。しかるのち、IPA(QIAGEN Inc.,https://www.qiagenbioinformatics.com/products/ingenuity-pathway-analysis)を用いて、豊かな経路、ネットワーク及び機能を分析した。最後に、社内Rscriptを用いて重要な経路に係わるすべての遺伝子を示す2値ヒートマップを作った。
【0051】
<強力なワクチンアジュバントとしての非典型的T細胞アゴニストの効果の評価及び実験方法>
1.マウス
年齢及び性別が一致する野生型C57BL/6マウス(6~7週齢、雌)は、KOSA BIO Inc.(韓国の京畿道所在))から購入した。すべてのマウスは、農林畜産検疫本部内の動物生物安全第三等級(ABSL3)の特定病原体不在(specific pathogen free、SPF)動物施設の微小隔離ケージに入れた。研究は、機関指針に従い農林畜産検疫本部の動物実験倫理委員会(承認番号IACUC-2018-800及びIACUC-2019-185)の承認を受けて遂行された。
【0052】
2.非典型的T細胞アゴニスト及び典型的T細胞アゴニストにより媒介される補助性及び宿主防御
FMDワクチンアジュバントとして、強力な細胞性及び体液性免疫反応の同時誘導及び非典型的T細胞アゴニスト及び典型的T細胞アゴニストの潜在力を評価するとともに、FMDV感染に対する保護効果を調べるために、提示された戦略を用いて実験を遂行した(図7a)(グループ当たりn=10)。O/TWN/97-R抗原は、非活性化されたFMDV抗原として使われた。PC群に対するワクチン組成物は次のとおりである:O/TWN/97-R抗原(15μg/用量/mL、牛及び豚への使用のための1/10用量)、10%Al(OH)及び15μg/Quil-A/マウスを使用し、総体積は100μLとした。実験群のすべてのマウスは、アジュバント(免疫増強剤)として、非典型的T細胞アゴニストまたは典型的T細胞アゴニストを免疫増強剤組成物の全重量の約0.2重量%、ワクチン全重量対比約0.1重量%となるように添加して、PC群と同一の組成でワクチンを提供してもらった。
【0053】
これらの実験に用いられた非典型的T細胞アゴニスト及び典型的T細胞アゴニストは、Sigma-Aldrich(γδT細胞アゴニスト;Isopentenyl pyrophosphate trilithium salt、IPP(I)、(E)-1-Hydroxy-2-methyl-2-butenyl 4-pyrophosphate lithium salt、HMP(H)、Abcam(iNKT細胞アゴニスト;α-Galactosyl ceramide、α-Galcer(G)、T細胞アゴニスト(RORγT(R))及びCayman(MAIT細胞アゴニスト;6-Formylpterin(F)、Cayman Chemical、Ann Arbor、MI、USA)からそれぞれ購入した。
【0054】
陰性対照群グループのマウスには、同一の経路を通じて同一体積のリン酸緩衝食塩水(PBS、pH7.0)が投与された。簡略には、ワクチン接種を35日間隔で2回遂行し、マウスの太もも筋肉に筋肉内ワクチン接種した。ワクチン接種の後、84dpvまたは168dpvに、マウスに対し、腹腔内注射によってFMDV(O/VET/2013の100LD50、ME-SAトポタイプ)を攻撃接種した。マウスの生存率及び体重は、最大7dpc(7days post challenge、攻撃接種後7日)までモニタリングした。また、0、7、14、28、56、84及び168dpvにおいてマウスからサンプリングされた血清を、A型構造タンパク質酵素結合免疫吸着測定法(structural protein(SP)A ELISA)及びウイルス中和抗体(virus neutralization、VN)力価(titers)によって分析して、誘導された細胞性及び体液性免疫反応を調査した。
【0055】
3.血清学的分析
血清からSP抗体を検出するために、Lee et al.に記述されているようにPrioCHECK FMDV O型 ELISAキット(Prionics AG、Switzerland)を用いた。ELISAプレートでの吸光度をパーセント阻害(PI)値に換算した。PI値が50%以上であるとき、動物は抗体陽性と見なされた。
【0056】
VNテストは、Lee et al.に説明されたように、世界動物保健機関(OIE)のマニュアルに従って遂行された。血清を56℃の水槽における30分間の熱処理によって不活性化させた。細胞密度を、70%単一層を形成するように調整し、血清サンプルの2倍希釈系列(1:8~1:1024)を調製した。次いで、希釈血清サンプルを100組職培養感染量(TCID)50/0.5mLの同型ウイルスと37℃で1時間の間、インキュベーションした。1時間後、LF-BK(牛の腎臓)細胞懸濁液をすべてのウェルに添加した。2~3日後、CPEを確認して力価を決めた。ここで力価は100TCID50のウイルスの中和に必要な抗体反復希釈物のLog10として計算された。
【0057】
4.PBMCsの分離
FMD抗体陰性動物を豚PBMCs分離のためのドナー(n=3/グループ)として使用した。全血(15mL/各ドナー)をBD Vacutainerヘパリンチューブに独立に収集した。PBMCs分離に関する詳しいプロトコールは前述したとおりである。すべての細胞は、使用直前に新鮮に分離され、いかなる実験でも凍結保存された細胞は使われなかった。次いで、精製されたPBMCsを10%FBS(HyClone)、3mM L-グルタミン(Sigma-Aldrich)及び100U/mL ペニシリン-ストレプトマイシン(Sigma-Aldrich)が補充されたRPMI 1640(Gibco、Carlsbad、CA、USA)に再懸濁させた。96ウェルプレートにウェル当たり1×10個でプレーティングし、5%CO、37℃の環境でインキュベーションした。3時間の培養後、培養培地を無血清培地に交換し、FMDV O(O/TWN/97-R)抗原単独または多様な非典型的T細胞アゴニスト及びT細胞アゴニストまたはPRRリガンドとともに抗原で刺激した。
【0058】
5.豚PBMCsにおけるBrdUの統合分析
細胞増殖分析に対する詳細なプロトコールは、上述したとおりである。非典型的T細胞アゴニスト及び典型的T細胞アゴニストで処理した後、12時間及び36時間後に、細胞増殖を製造社の指示に従って試験した。
【0059】
6.RNA-Seq
RNA-Seq分析のために、血清内FMD抗体陰性豚の全血(n=3/グループ)から豚PBMCsを単離した。単離されたPBMCsを、FMDV O(O/TWN/97-R)抗原とともに、γδT細胞アゴニスト(イソペンチルピロリン酸三リチウム塩、IPP(I))、(E)-1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル4-ピロリン酸リチウム塩、HMP(H))、iNKT細胞アゴニスト(α-ガラクトシルセラミド、α-Galcer(G)、Abcam)及びMAIT細胞アゴニスト(6-ホルミルプテリン(6-Formylpterin)(F)、Cayman Chemical)を含む非典型的T細胞アゴニスト、T細胞アゴニスト(RORγT(R)、Abcam)及びPRRリガンド(レシキモド(Resiquimod)、R848、TLR-7/8アゴニスト)及びトレハロース-6,6-ジベヘナート(TDB、Mincleアゴニスト);TDB及び環状ビス(3´-5´)ジグアニル酸(c-di-GMP、STINGアゴニスト、InvivoGen、San Diego、CA、USA)で処理した。12時間のインキュベーション後、PBMCsを収集して(preparation)、qRT-PCRのためにRNAを抽出した。
ライブラリの構築及び配列分析、遺伝子発現分析及びIPAを上述したように遂行した。
【0060】
7.統計
他に言及されない限り、すべての定量的データは、平均±SEMで表示される。グループ間統計的有意性に対する値の比較は、Tukeyの多重比較テストまたは二つのデータポイントを比較するためのスチューデントのt検定とともに一元配置分散分析を用いて行われた。統計分析には、GraphPad Prism 8.3.1ソフトウェア(GraphPad Software、San Diego、USA)を用いた。
【0061】
<予備実験例> 牛と豚の免疫差の評価
1.FMDV抗原は、豚由来のものより、牛由来のPBMCs、リンパ球、単球及びT細胞において、より強力な増殖を誘発する。
BrdU細胞増殖分析を用いて牛及び豚PBMCs、リンパ球、単球及びT細胞のO/TWN/97-R抗原により媒介される増殖を観察した。すべての種類の細胞において、牛細胞の増殖は、豚細胞のそれよりも有意に高かった(p<0.001)(図1のa~d)。
【0062】
2.FMDV抗原は、豚免疫細胞と比べて牛免疫細胞で炎症性サイトカイン発現を有意に誘導する。
O/TWN/97-R抗原により媒介されたサイトカイン発現分析は、豚PBMCsにおいてサイトカインの発現が12時間乃至48時間でピークに到逹した後、急激に減少したが、牛PBMCにおいては24時間以内にサイトカインの発現が著しく増加し、240時間までこの水準が維持されたことを示した(図2のa~d、表1)。
【0063】
リンパ球におけるO/TWN/97-R抗原により媒介されたサイトカイン発現は、豚細胞よりも牛細胞の方で著しく高かった(図2bのe~h、表1)。豚単球におけるO/TWN/97-R抗原媒介サイトカインの発現について(図2cのi~l、表1)、IL-2、IL-6、TNFα及びIFNγの発現は、牛単球におけるそれよりも著しく高かった。牛及び豚T細胞において、O/TWN/97-R抗原により媒介されるサイトカイン発現の経時変化を評価した(図2dのm~p、表1)。サイトカインの発現は、牛及び豚のいずれのT細胞においても24時間まで急速に増加した。その後、豚T細胞では徐々に減少したが、牛細胞では240時間までほとんど一定に維持された。
【0064】
IL-1β、IL-12/23p40及びIL-10発現のキネティクスは、豚PBMCs、リンパ球、単球及びT細胞で確認された。炎症性サイトカインとしてIL-1β及びIL-12/23p40の発現は高かった。一方、抗炎症性サイトカインIL-10の発現は著しく低かった(図3)。
【0065】
【表1】
【0066】
3.FMDV抗原は、豚Mo-DCs及びMo-MΦsでサイトカイン発現を直接刺激する。
牛よりも免疫反応が低い豚におけるAPCの反応を調査するために、豚Mo-DCs及びMo-MΦsを単球から分極化し、O/TWN/97-R抗原によって刺激して抗原媒介サイトカインが直接分泌されるか否かを確認した。Mo-DCs(図4aのa~e、表2)及び/またはMo-MΦs(図4aのf及び図4bのg~j、表3)、IL-1β、IL-6、IL-12/23p40(48時間)及びTNFα(24時間)の発現は、ピーク水準に到逹した後に減少した。O/TWN/97-R抗原は、これらの全ての炎症性サイトカインの発現を著しく高い水準で誘導したが、IL-10(抗炎症性サイトカイン)は、Mo-DCs及びMo-MΦsで低い水準で発現された。特に、LPS及びIFNγ-刺激M1MΦsはIL-4-刺激M2MΦsよりも顕著に反応した。
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
4.FMDV抗原は、食作用によって豚DCs及びMΦsへ細胞内取り込み(endocytosis)されて細胞免疫を開始する。
豚Mo-DCs及びMo-MΦsへのO/TWN/97-R抗原のエンドサイトーシス(endocytosis)による先天性免疫反応を開始及び増幅させる経路を確認するために、細胞をファゴサイトーシス(phagocytosis)抑制剤であるサイトカラシンD(CytD)で処理する前と後に、抗原で処理して共同培養し、細胞培養液におけるサイトカインの発現を観察した(図5a及び図5b)。Mo-DCs及びMo-MΦsにおいて、CytD処理前に抗原と共同培養した後、24時間及び48時間後に、サイトカインの発現は上昇したが、その一方で、CytD処理後に抗原と共同培養した場合には有意に抑制された。Mo-MΦsでのIL-10発現は、CytD処理後やや抑制されたが、処理前の水準とほぼ変わらなかった。
【0070】
5.豚における非正常的に過発現された先天性免疫反応及びFMDワクチン予防接種によるT細胞の疲弊の経路(exhaustion pathway)の誘導
抗原が媒介する豚APCの刺激及び豚DCs及びMΦsの食作用による抗原のエンドサイトーシスにもかかわらず、牛に比べて、豚における免疫反応がより低い原因を明らかにするため、本発明者らはFMD抗体陰性動物からナイーブ牛及び豚PBMCsを分離してRNA-Seqを遂行した。
【0071】
以上の手順に従って、牛と豚の免疫反応を比較したところ、生体内でFMDワクチン接種によって誘導された牛と豚の免疫反応の根本的な違いが確認された(図6a~図6c)。自然状態で、牛の先天性免疫反応はよく制御されて維持されることに対し、豚では非正常的に過剰活性化された(図6aのb、c)。結果的に、FMDワクチン接種は、家畜で正常な免疫反応を誘導する反面、T細胞の疲弊の経路(TBX21、NEAT1、NEAT3、NEAT5、EOMES、PRDM1、BCL6及びPDCD1)に関与する遺伝子の発現は、豚で有意に増加した(図6b)。特に、TLR/CDS及びCLR信号伝達経路に関与する遺伝子の発現分析は、牛でIL23A及びIL23R発現がFMDワクチン接種によって効果的に誘導されたことを立証した。IL23Aは、豚で過発現パターンを示したが、IL23R発現は観察されなかった(図6c)。
【0072】
<実験例1> FMDワクチンアジュバントとしての非典型的T細胞アゴニストは、マウスの初期、中期及び長期免疫を誘導する。
APCを刺激しないでT細胞を直接活性化させることで強力な細胞性免疫反応を誘導するために、新規なFMDワクチンアジュバントとして、γδT細胞、iNKT細胞、MAIT細胞を含む非典型的T細胞のアゴニスト及び典型的T細胞のアゴニストの利用可能性を、対象(目的)動物である豚における実験の前にマウスで評価した。また、オイルエマルジョンのないワクチンでも初期、中期及び長期免疫反応を効率的に誘導し、FMDV感染時の宿主保護効果があるかどうかを評価した(図7a)。
【0073】
対照群と比べて、SP-O ELISAによる抗体力価は、γδT細胞アゴニスト(イソペンチルピロリン酸三リチウム塩、IPP(I))、(E)-1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル4-ピロリン酸リチウム塩、HMP(H))、iNKT細胞アゴニスト(α-ガラクトシルセラミド、α-Galcer(G))の投与後、ワクチン接種後7日(dpv)で有意に高かった。力価は、また、14dpvでMAIT細胞アゴニスト(6-ホルミルプテリン(6-Formylpterin)(F))投与群で増加された。典型的T細胞アゴニスト(RORγT(R))について、抗体力価は、28dpvで非典型的T細胞アゴニストのそれと同程度であった。すべての実験群において、抗体力価は168dpvまで対照群のそれより有意に高かった(図7b)。
【0074】
ウイルス中和抗体(VN)力価は、SP-O ELISAによる抗体力価と類似した傾向を示した。γδT細胞アゴニスト(I)、γδT細胞アゴニスト(H)及びiNKT細胞アゴニスト(G)投与群は、7dpvで中和抗体力価がおおよそ100倍増加し、また、MAIT細胞アゴニスト(F)投与群でも14dpvで高い水準のVN力価が見られた。28dpvにおいて、VN力価は、γδT細胞アゴニスト(I)及びiNKT細胞アゴニスト(G)投与群で最も高かった。VN力価は、ブースティング後56dpvで最大値を示し、すべての非典型的T細胞アゴニスト投与群は、168dpvで対照群よりも有意により高い中和抗体力価を維持した(図7b)。84及び168dpvで実施したFMDV(100LD50のO/VET/2013)チャレンジテストでは、すべてのアジュバント処理群が100%の生存率(図7c)を示し、体重変化はほとんどなかった(図7d)。
したがって、非典型的T細胞アゴニストを含有するFMDワクチンは、マウスで初期、中期及び長期免疫の誘導に強力な影響を及ぼすことが確認された。
【0075】
<実験例2> 非典型的T細胞アゴニストは、豚PBMCsの強力な細胞増殖を誘導する。
インキュベーション後、12時間及び36時間の時点で、FMD抗体陰性生成動物から分離された豚ナイーブPBMCsにおいて、非典型的T細胞アゴニストにより媒介される細胞増殖が観察された(図8a)。実際の試験ワクチンと類似した条件を提供するために、FMD血清型O(O/TWN/97-R)抗原を非典型的T細胞アゴニストと共に投与した。細胞増殖は次の順に高く現われた:抗原+γδT細胞アゴニスト(H)>抗原+iNKT細胞アゴニスト(G)>抗原+MAIT細胞アゴニスト(F)>抗原+T細胞アゴニスト(R)>抗原+γδT細胞アゴニスト(I)>抗原単独(図8b)。
【0076】
<実験例3> 非典型的T細胞アゴニストは、豚で非正常的な先天性免疫反応を改善してAPC刺激なしに強力な免疫反応を誘導するT細胞を直接的に活性化する。
豚で強力な細胞性免疫反応を誘導することで、牛に比べて低い免疫原性を克服して豚で提起されている様々な問題に対する解決策を提供すべく、PRRsリガンドでDCs及びMΦsのようなAPCを刺激することで、T細胞を間接的に活性化させて免疫反応を誘導するシステムと、非典型的T細胞アゴニスト及びT細胞アゴニストによってT細胞を直接的に刺激して免疫反応を誘導するシステムとを比較した。ナイーブPBMCsをFMD抗体陰性(seronegative)豚から分離し、抗原+PRRリガンド(レシキモド(R848、TLR-7/8アゴニスト)及びトレハロース-6,6-ジベヘナート(TDB、Mincleアゴニスト);TDB及び環状ビス(3´-5´)ジグアニル酸(c-di-GMP、STINGアゴニスト)若しくは抗原+非典型的T細胞アゴニスト(γδT細胞アゴニスト、I;γδT細胞アゴニスト、H;iNKT細胞アゴニスト、G;MAIT細胞アゴニスト、F)または抗原+T細胞アゴニスト、R、または抗原単独で処理して、12時間後にPBMCsを収集して、総RNAをTRIzol Reagent(Invitrogen)及びRNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いて製造社が推奨する方法によって抽出、RNA-Seqを実施して、免疫増強剤媒介性の細胞性免疫反応及び関連遺伝子の発現プロファイルを確認した(図9a~図9e)。
【0077】
TLR/CDSシグナル伝達関連遺伝子の発現プロファイルは、PRRリガンドがTLR-7/8、cGAS及びRUNX3の発現を誘導し、従来の非典型的T細胞アゴニストは、TBK1、RUNX1、IL23A及びIL23Rの発現に有意に影響を及ぼしたことを示した(図9aのa)。CLRシグナル伝達経路は、PRRリガンド処理と比べて典型的細胞アゴニストで処理することにより、著しく誘導された。IL23A及びIL23Rは、特に非典型的T細胞アゴニストの中でiNKT細胞アゴニスト(G)及び典型的T細胞アゴニスト(R)処理されたグループで高く発現された(図9aのb)。T細胞の疲弊の経路の関連遺伝子の発現は、PRRリガンド及び非典型的T細胞アゴニスト処理によって改善された(図9aのc)。Th1、Th2、Th9、Th17、Th22、Tfh、pTreg及びtTreg細胞での遺伝子発現は、PRRリガンド処理されたグループと比べて、非典型的T細胞アゴニスト及び典型的T細胞アゴニストで処理されたグループで有意に増加された。また、IL23A及びIL23R発現が増強されたし、LTA、STAT4、CCL17、CCL22、IL10、RORA、CCL20、IL17A、IL17F、IL1α及びIL1β発現も、T細胞アゴニスト処理によって増加された(図9aのd、図9bのe~h、図9cのi~k)。特に、M1、M2a、M2b、M2c、M2d及びDCsでの遺伝子発現は、APC刺激PRRリガンド処理と比べて、非典型的T細胞アゴニスト及び典型的T細胞アゴニスト処理によって著しく向上した。さらに、CD80、CD86、CCL1、CCL2、CCL3、CCL17、CCL22、IL1β、IL23A、TNFα、IL1R2、TGM2、CXCL10、CXCL16及びCD14の発現が顕著に増加した(図9cのl及び図9dのm、n、図9eのo~q)。NK細胞において、非典型的T細胞アゴニスト及びT細胞アゴニスト処理によるITGB2及びIFNAR2遺伝子の発現の増加が観察された(図9eのr)。
【0078】
[謝辞情報]
課題固有番号:1545019609
課題番号:B-1543386-2019-21-03
課題管理機関名:農林畜産検疫本部
研究事業名:農林畜産検疫検査技術開発
研究課題名:ノンオイルタイプの長期免疫誘導が可能な次世代豚口蹄疫ワクチンプラットホーム構築

図1
図2a
図2b
図2c
図2d
図3
図4a
図4b
図5a
図5b
図6a
図6b
図6c
図7a
図7b
図7c
図7d
図8a
図8b
図9a
図9b
図9c
図9d
図9e