(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】セルロースナノファイバー製造装置
(51)【国際特許分類】
D21H 11/18 20060101AFI20250121BHJP
【FI】
D21H11/18
(21)【出願番号】P 2024119244
(22)【出願日】2024-07-25
【審査請求日】2024-11-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(72)【発明者】
【氏名】寺坂 博史
(72)【発明者】
【氏名】渡部 啓吾
【審査官】吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-102007(JP,A)
【文献】特開2021-42672(JP,A)
【文献】特表2013-536059(JP,A)
【文献】特開昭60-2368(JP,A)
【文献】米国特許第4080874(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B02C 19/00
D01F 2/00
D21H 11/18
F04B 53/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプ繊維の微細化処理を行う高圧ホモジナイザーを備えるセルロースナノファイバー製造装置であって、
前記高圧ホモジナイザーは、前記セルロースナノファイバーの原料であるセルロース原料を加圧する高圧ポンプを備え、
前記高圧ポンプは、
前記セルロース原料を受け容れるシリンダーと、
前記シリンダー内部の減圧及び加圧により、前記セルロース原料を前記シリンダー内へ吸い込ませ、及び前記シリンダー外へ吐出させるプランジャーと、
前記プランジャーに固定されるリニアブッシュと、
前記リニアブッシュ内に挿通され、前記プランジャーの移動方向に延伸するリニアシャフトと、を備え、
前記リニアブッシュ及び前記リニアシャフトは、前記リニアブッシュが前記リニアシャフトに沿って摺動することにより前記プランジャーの移動方向をガイドすることを特徴とするセルロースナノファイバー製造装置。
【請求項2】
前記リニアブッシュは、第1リニアブッシュ及び第2リニアブッシュを有し、
前記リニアシャフトは、前記第1リニアブッシュ内に挿通される第1リニアシャフト及び前記第2リニアブッシュ内に挿通される第2リニアシャフトを有し、
前記プランジャー、前記第1リニアシャフト及び前記第2リニアシャフトは前記プランジャーの移動方向と交差する方向に並列し、前記プランジャーは前記第1リニアシャフト及び前記第2リニアシャフトの間に位置することを特徴とする請求項1記載のセルロースナノファイバー製造装置。
【請求項3】
前記高圧ポンプは、
前記プランジャーを往復移動させるピストンと、
前記プランジャー及び前記ピストンを接続する自在継手と、
を更に備えることを特徴とする請求項1または請求項2記載のセルロースナノファイバー製造装置。
【請求項4】
前記自在継手は、
二股の一方及び他方に孔を有し、前記プランジャーの一端に固定されるクレビスと、
前記クレビスの前記孔のそれぞれに摺動可能に挿通されるクレビスシャフトと、
前記クレビスの前記二股の間に位置し、前記クレビスシャフトの中央部及び前記ピストンの一端を接続する球面ベアリングと、を備え、
前記クレビスシャフトが前記クレビスの前記孔に挿通される方向は、前記プランジャーの移動方向と直交する方向、並びに前記プランジャー及び前記リニアシャフトが並列する方向と直交する方向であることを特徴とする請求項3記載のセルロースナノファイバー製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧ホモジナイザーを備えるセルロースナノファイバー製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
物質をナノメートルの領域すなわち原子や分子のスケールにおいて、自在に制御する技術であるナノテクノロジーから、様々な便利な新素材やデバイスが生まれることが期待される。特に、繊維を極限まで細くすると、従来の繊維にはなかった、まったく新しい物理学的な性質が生まれることから、ナノオーダーの繊維(ナノファイバー)が非常に注目されている。このナノファイバーを応用することで、例えば、どんな細かい異物も通過させない高性能フィルターによる浄化装置の実現、化学繊維の強度アップや高機能衣服の実現、燃料電池の効率アップなどへの展開が期待されている。
【0003】
セルロースナノファイバーは、1000nm以下のナノレベルの繊維径を持つ繊維であり、化学変性したセルロース原料を、まず高圧ホモジナイザーの高圧ポンプにより増圧し、次に高圧ホモジナイザーのノズルによる機械的せん断力で解繊することにより得ることができる(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】株式会社パウレック 製品情報 https://www.powrex.co.jp/microfluidizer
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の高圧ホモジナイザーにおいては、高圧ポンプに非常に高い圧力が繰り返しかかるため、長時間の解繊処理による高圧ポンプの部品の損耗が激しく、高価な高圧ポンプの部品を高頻度で交換しなければならないという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、高圧ホモジナイザーの高圧ポンプの長寿命化を実現したセルロースナノファイバー製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく本発明を完成させた。本発明は、以下を提供する。
(1) パルプ繊維の微細化処理を行う高圧ホモジナイザーを備えるセルロースナノファイバー製造装置であって、前記高圧ホモジナイザーは、前記セルロースナノファイバーの原料であるセルロース原料を加圧する高圧ポンプを備え、前記高圧ポンプは、前記セルロース原料を受け容れるシリンダーと、前記シリンダー内部の減圧及び加圧により、前記セルロース原料を前記シリンダー内へ吸い込ませ、及び前記シリンダー外へ吐出させるプランジャーと、前記プランジャーに固定されるリニアブッシュと、前記リニアブッシュ内に挿通され、前記プランジャーの移動方向に延伸するリニアシャフトと、を備え、前記リニアブッシュ及び前記リニアシャフトは、前記リニアブッシュが前記リニアシャフトに沿って摺動することにより前記プランジャーの移動方向をガイドすることを特徴とするセルロースナノファイバー製造装置。
(2) 前記リニアブッシュは、第1リニアブッシュ及び第2リニアブッシュを有し、前記リニアシャフトは、前記第1リニアブッシュ内に挿通される第1リニアシャフト及び前記第2リニアブッシュ内に挿通される第2リニアシャフトを有し、前記プランジャー、前記第1リニアシャフト及び前記第2リニアシャフトは前記プランジャーの移動方向と交差する方向に並列し、前記プランジャーは前記第1リニアシャフト及び前記第2リニアシャフトの間に位置することを特徴とする(1)記載のセルロースナノファイバー製造装置。
(3) 前記高圧ポンプは、前記プランジャーを往復移動させるピストンと、前記プランジャー及び前記ピストンを接続する自在継手と、を更に備えることを特徴とする(1)または(2)記載のセルロースナノファイバー製造装置。
(4) 前記自在継手は、二股の一方及び他方に孔を有し、前記プランジャーの一端に固定されるクレビスと、前記クレビスの前記孔のそれぞれに摺動可能に挿通されるクレビスシャフトと、前記クレビスの前記二股の間に位置し、前記クレビスシャフトの中央部及び前記ピストンの一端を接続する球面ベアリングと、を備え、前記クレビスシャフトが前記クレビスの前記孔に挿通される方向は、前記プランジャーの移動方向と直交する方向、並びに前記プランジャー及び前記リニアシャフトが並列する方向と直交する方向であることを特徴とする(3)記載のセルロースナノファイバー製造装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高圧ホモジナイザーの高圧ポンプの長寿命化を実現したセルロースナノファイバー製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態に係る高圧ホモジナイザーの概略構成を示す図である。
【
図2】実施の形態に係る高圧ポンプの概略構成を示す図である。
【
図3】実施の形態に係る高圧ポンプの概略構成を示す図である。
【
図4】実施の形態に係るリニアブッシュ、リニアシャフト及び自在継手の構成について説明するための斜視図である。
【
図5】実施の形態に係る球面ベアリングの構成について説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態に係るセルロースナノファイバー製造装置について説明する。この実施の形態に係るセルロースナノファイバー製造装置は、パルプ繊維の微細化処理を行う高圧ホモジナイザーを備えるセルロースナノファイバー製造装置である。
図1は、この実施の形態に係るセルロースナノファイバー製造装置が備える高圧ホモジナイザーの概略構成を示す図である。高圧ホモジナイザー1は、高圧ポンプ2、ノズル部3、バルブ4、及び配管5,6,7を備えている。セルロースナノファイバーの原料であるセルロース原料は、配管5及び配管6により高圧ポンプ2に搬送される。また、高圧ポンプ2において加圧されたセルロース原料は、配管6及び配管7によりノズル部3に圧送される。セルロース原料は、ノズル部3に増圧された状態で圧送されることによりノズル部3内において強力なせん断作用が生じ、高度に解繊される。
【0011】
図2及び
図3はこの実施の形態に係る高圧ポンプ2の構成を示す図であって、
図2はプランジャー10(後述する)が紙面下方向のストロークエンドに位置した状態を示す図、
図3はプランジャー10が紙面上方向のストロークエンドに位置した状態を示す図である。高圧ポンプ2は、上述したようにセルロース原料を加圧するためのポンプであって、
図2及び
図3に示すように、シリンダー8、プランジャー10、油圧シリンダー11、ポンプホルダー14、第1リニアブッシュ12a、第2リニアブッシュ12b、第1リニアシャフト13a、及び第2リニアシャフト13bを備えている。なお、構成の説明の便宜上、
図2及び
図3に示すシリンダー8及びポンプホルダー14は縦中央断面図、これら以外の構成は外観図である。
【0012】
シリンダー8は、
図1に示す配管6を介して供給されるセルロース原料を円筒内に受け容れる。プランジャー10は、軸を
図2の紙面上下方向に有する円柱形状であって、シリンダー8内を軸方向に往復移動する。油圧シリンダー11は、ピストン11aを備え、プランジャー10を往復移動させるアクチュエーターとして機能する。油圧シリンダー11のピストン11aが
図3に示す位置から
図2に示す位置まで移動することにより、プランジャー10は、
図3に示す位置から
図2に示す位置までシリンダー8内を移動し、シリンダー8内部の減圧作用及び図示しない供給ポンプにより圧送されるセルロース原料をシリンダー8内へ吸い込ませる。また、油圧シリンダー11のピストン11aが
図2に示す位置から
図3に示す位置まで移動することにより、プランジャー10は、
図2に示す位置から
図3に示す位置までシリンダー8内を移動し、シリンダー8内部の加圧によりセルロース原料をシリンダー8外へ吐出させる。なお、この実施の形態では、アクチュエーターとして油圧シリンダー11を例に挙げたが、エアシリンダーまたはボールネジであってもよい。
【0013】
ポンプホルダー14は本体部14b及び側部14cを有し、本体部14bは中央部にプランジャー10が挿通される貫通穴14dを有する円筒形状であり、側部14cは本体部14bの外縁部から
図2の紙面上方向に立設している。ポンプホルダー14は、油圧シリンダー11及びシリンダー8の相対位置を位置決めするための位置決め部材として機能しており、シリンダー8に図示しない緊諦部材により緊諦されている。また、ポンプホルダー14は、油圧シリンダーヘッド18を介して油圧シリンダー11に図示しない緊諦部材により緊諦されている。油圧シリンダーヘッド18は、油圧シリンダー11に固定されている。
【0014】
第1リニアブッシュ12a及び12bは、
図2及び
図3に示すように、プランジャー10の放射方向両側に位置している。第1リニアブッシュ12aが形成されている第1リニアブッシュハウジング27aは、第1リニアブッシュ12aの軸をプランジャー10の軸方向に向けてクレビス22及びプランジャーホルダー20を介してプランジャー10に固定されている。第1リニアシャフト13aは、第1リニアブッシュ12a内に挿通されており、プランジャー10の軸方向に延伸している。第1リニアシャフト13aの一端部(
図2の紙面上方向側の端部)は、ポンプホルダー14に固定されている。
【0015】
第2リニアブッシュ12bが形成されている第2リニアブッシュハウジング27bは、第2リニアブッシュ12bの軸をプランジャー10の軸方向に向けてクレビス22及びプランジャーホルダー20を介してプランジャー10に固定されている。第2リニアシャフト13bは、第2リニアブッシュ12b内に挿通されており、プランジャー10の軸方向に延伸している。第2リニアシャフト13bの一端部(
図2の紙面上方向側の端部)は、ポンプホルダー14に固定されている。
【0016】
図4は、第1及び第2リニアブッシュ12a,12b、第1及び第2リニアシャフト13a,13b及び自在継手24(後述する)の構成について説明するための斜視図である。
図2~
図4に示すように、プランジャー10、第1リニアシャフト13a、及び第2リニアシャフト13bは、各々の軸を同一方向(
図2の紙面上下方向)に向け、プランジャー10の放射方向に並列し、プランジャー10は、第1リニアシャフト13a及び第2リニアシャフト13bの間に位置している。したがって、第1及び第2リニアブッシュ12a,12b並びに第1及び第2リニアシャフト13a,13bは、第1リニアブッシュ12aが第1リニアシャフト13aに、第2リニアブッシュ12bが第2リニアシャフト13bに沿って軸方向に摺動することにより、プランジャー10の移動方向をガイドし、プランジャー10の軸方向における直進性を確保する。なお、この実施の形態では、第1リニアシャフト13a、プランジャー10及び第2リニアシャフト13bが
図2の紙面左右方向に一列に配置されているが、第1リニアシャフト13a及び第2リニアシャフト13bが各々の軸を同一方向に向け、プランジャー10の放射方向に並列する条件を満たしていればよく、必ずしもこれらが一列に配置される必要はない。
【0017】
高圧ポンプ2は、プランジャー10及び油圧シリンダー11のピストン11aを接続する自在継手24を備えている。自在継手24は、クレビス22、クレビスシャフト23及び球面ベアリング21を備えている。クレビス22は、二股の一方22aに、プランジャー10の軸方向と直交する方向、且つプランジャー10、第1リニアシャフト13a及び第2リニアシャフト13bが並列する方向と直交する方向に貫通した孔25aを有する。同様に、クレビス22は、二股の他方22bに、プランジャー10の軸方向と直交する方向、且つプランジャー10、第1リニアシャフト13a及び第2リニアシャフト13bが並列する方向と直交する方向に貫通した孔25bを有する。クレビス22の二股22a,22bを連結している連結部22cは、プランジャーホルダー20を介してプランジャー10の一端(
図2の紙面下方向側の端部)に固定されている。
【0018】
クレビスシャフト23は、二股22a,22bのそれぞれの孔25a,25bに、プランジャー10の軸方向と直交する方向、且つプランジャー10、第1リニアシャフト13a及び第2リニアシャフト13bが並列する方向と直交する方向に挿通されており、挿通方向と平行する方向に摺動可能である。球面ベアリング21は、クレビス22の二股22a,22bの間に位置し、クレビスシャフト23の中央部及びピストン11aの一端を接続する。
【0019】
球面ベアリング21は、クレビスシャフト23、クレビス22及びプランジャーホルダー20を介してプランジャー10に接続されている。
図5は、球面ベアリング21の構成を示す図である。球面ベアリング21は、
図5に示すように、ピストン11aに接続されているため、プランジャー10及びピストン11aの軸方向における相対的な角度のずれを吸収する。クレビスシャフト23は、上述したように、クレビス22及びプランジャーホルダー20を介してプランジャー10に接続されており、球面ベアリング21を介してピストン11aに接続されているため、プランジャー10の軸方向と直交する方向、且つプランジャー10、第1リニアシャフト13a及び第2リニアシャフト13bが並列する方向と直交する方向におけるプランジャー10及びピストン11aの相対的な変位のずれを吸収する。
【0020】
この実施の形態に係るセルロースナノファイバー製造装置によれば、高圧ホモジナイザー1の高圧ポンプ2がプランジャー10の移動方向をガイドする第1リニアブッシュ12a、第2リニアブッシュ12b、第1リニアシャフト13a、第2リニアシャフト13bを備えているため、プランジャー10及びシリンダー8の軸ずれを防止することができる。また、高圧ホモジナイザー1の高圧ポンプ2が自在継手24を備えているため、プランジャー10及びピストン11aの軸ずれ及び変位ずれを防止することができる。したがって、プランジャー10の側面がシリンダー8の内側面及びシリンダー8の内側面に取り付けられている高圧シールに片当たりすることを防ぐことができるため、シリンダー8及び高圧シールの長寿命化を実現することができる。
【0021】
(セルロースナノファイバーの製造方法)
本発明のセルロースナノファイバーの製造装置を用いた製造方法は、この実施の形態に係る高圧ホモジナイザー1によりセルロース原料に対して機械的せん断力を加えて解繊する解繊工程を有する。本発明においては、セルロース原料として化学変性セルロースを用いることが可能であり、その場合には解繊工程に供する前に、化学変性セルロースの分散液を脱水・洗浄する工程、化学変性セルロースの分散液濃度を調整する工程を行うことが好ましい。
【0022】
(セルロースナノファイバー)
セルロースナノファイバーとは、植物繊維をナノレベルまで細かくほぐすことによって製造される素材のことであり、一般に平均繊維径が3~500nm程度、平均アスペクト比が50以上の微細繊維である。セルロースナノファイバーの平均繊維径および平均繊維長は、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、各繊維を観察した結果から得られる繊維径および繊維長を平均することによって得ることができる。また、アスペクト比は下記の式により算出することができる。
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
【0023】
(セルロース原料)
本発明において、セルロース原料とは、セルロースを主体とした様々な形態の材料をいい、パルプ(晒又は未晒木材パルプ、晒又は未晒非木材パルプ、精製リンター、ジュート、マニラ麻、ケナフ等の草本由来のパルプなど)、酢酸菌等の微生物によって生産されるセルロース等の天然セルロース、セルロースを銅アンモニア溶液、モルホリン誘導体等の何らかの溶媒に溶解した後に紡糸された再生セルロース、及び上記セルロース原料に加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル等の機械的処理等をすることによってセルロースを解重合した微細セルロースなどが例示される。
【0024】
本発明において、シート状のセルロース原料を用いる場合、0.5~5cm角程度の大きさに粗砕することが好ましい。前記大きさに粗砕することにより、効率的、且つ均一に次の反応工程おいて、セルロース原料を変性することができる。なお、粗砕する方法は特に限定されるものではないが、一軸回転せん断式粉砕機、二軸回転せん断式粉砕機、多軸スクリュー式粉砕機、シュレッダー、ギロチンカッターなどを使用することができる。これらの中でも一軸回転せん断式粉砕機を使用することが粗砕の観点から好ましい。
【0025】
セルロースは、グルコース単位当たり3つのヒドロキシル基を有しており、各種の化学変性を行うことが可能である。本発明においては、化学変性して得られたセルロース原料(化学変性セルロース)を用いてもよい。化学変性としては、例えば、酸化(カルボキシル化)、カルボキシメチル化、カチオン化、エステル化などが挙げられる。中でも酸化(カルボキシル化)、カルボキシメチル化がより好ましい。
【0026】
(セルロースの化学変性)
(酸化)
本発明において、セルロース原料の酸化は公知の方法を用いて行うことができ、特に限定されるものではないが、セルロースナノファイバーの絶乾質量に対して、カルボキシル基の量が0.5mmol/g~3.0mmol/gになるように調整することが好ましい。
【0027】
その一例として、セルロースをN-オキシル化合物、及び、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で酸化剤を用いて水中で酸化することにより得ることができる。この酸化反応により、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、表面にアルデヒド基と、カルボキシル基またはカルボキシレート基を有するセルロース系ファイバーを得ることができる。反応時のセルロースの濃度は特に限定されないが、5質量%以下が好ましい。N-オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。N-オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。
【0028】
N-オキシル化合物の使用量は、原料となるセルロースを酸化できる触媒量であれば特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.01~10mmolが好ましく、0.02~1mmolがより好ましく、0.05~0.5mmolがさらに好ましい。また、反応系に対し0.1~4mmol/L程度がよい。
【0029】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、その例には、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が含まれる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、その例には、ヨウ化アルカリ金属が含まれる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物およびヨウ化物の合計量は、例えば、絶乾1gのセルロース対して、0.1~100mmolが好ましく、0.1~10mmolがより好ましく、0.5~5mmolがさらに好ましい。
【0030】
酸化剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などを使用できる。中でも、安価な次亜塩素酸ナトリウムは好ましい。酸化剤の適切な使用量は、例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.5~500mmolが好ましく、0.7~50mmolがより好ましく、1~25mmolがさらに好ましく、3~10mmolが最も好ましい。また、例えば、N-オキシル化合物1molに対して1~40molが好ましい。
【0031】
セルロースの酸化工程は、比較的温和な条件であっても反応を効率よく進行させることができる。よって、反応温度は4~40℃が好ましく、また15~30℃程度の室温であってもよい。反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHの低下が認められる。酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを8~12、好ましくは10~11程度に維持することが好ましい。反応媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じにくいこと等から水が好ましい。
【0032】
酸化反応における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5~6時間、例えば、1~4時間程度である。また、酸化反応は、2段階に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロースを、再度、同一または異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化させることができる。
【0033】
カルボキシル化(酸化)方法の別の例として、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、グルコピラノース環の少なくとも2位及び6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。オゾンを含む気体中のオゾン濃度は、50~250g/m3であることが好ましく、70~220g/m3であることがより好ましい。セルロース原料に対するオゾン添加量は、セルロース原料の固形分を100質量部とした際に、0.1~30質量部であることが好ましく、5~30質量部であることがより好ましい。オゾン処理温度は、0~50℃であることが好ましく、20~50℃であることがより好ましい。オゾン処理時間は、特に限定されないが、1~360分程度であり、30~300分程度が好ましい。オゾン処理の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度に酸化及び分解されることを防ぐことができ、酸化セルロースの収率が良好となる。オゾン処理を施した後に、酸化剤を用いて、追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物や、酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸などが挙げられる。例えば、これらの酸化剤を水またはアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を作成し、溶液中にセルロース原料を浸漬させることにより追酸化処理を行うことができる。
【0034】
セルロース系ファイバーのカルボキシル基、カルボキシレート基、アルデヒド基の量は、上記した酸化剤の添加量、反応時間をコントロールすることで調整することができる。カルボキシル基量の測定方法は例えば、酸化セルロースの0.5質量%スラリー(水分散液)60mLを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出することができる。
カルボキシル基量〔mmol/g酸化セルロース又はセルロースナノファイバー〕
=a〔mL〕×0.05/酸化セルロース質量〔g〕
【0035】
(カルボキシメチル化)
本発明において、セルロース原料のカルボキシメチル化は公知の方法を用いて行うことができ、特に限定されるものではないが、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル基置換度が0.01~0.50となるように調整することが好ましい。その一例として次のような製造方法を挙げることができるが、従来公知の方法で合成してもよく、市販品を使用してもよい。セルロースを発底原料にし、溶媒に3~20質量倍の水及び/又は低級アルコール、具体的にはメタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等の単独、又は2種以上の混合媒体を使用する。なお、低級アルコールの混合割合は、60~95質量%である。マーセル化剤としては、発底原料の無水グルコース残基当たり0.5~20倍モルの水酸化アルカリ金属、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用する。発底原料と溶媒、マーセル化剤を混合し、反応温度0~70℃、好ましくは10~60℃、かつ反応時間15分~8時間、好ましくは30分~7時間、マーセル化処理を行う。その後、カルボキシメチル化剤をグルコース残基当たり0.05~10.0倍モル添加し、反応温度30~90℃、好ましくは40~80℃、かつ反応時間30分~10時間、好ましくは1時間~4時間、エーテル化反応を行う。
【0036】
グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度の測定方法としては、例えば、次の方法によって得ることができる。すなわち、1)カルボキシメチル化セルロース繊維(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。2)硝酸メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(CM化セルロース)を水素型CM化セルロースにする。3)水素型CM化セルロース(絶乾)を1.5~2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。4)80%メタノール15mLで水素型CM化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。5)指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定する。6)カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する。
A=[(100×F’-(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(水素型CM化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型CM化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F’:0.1NのH2SO4のファクター
F:0.1NのNaOHのファクター
【0037】
(カチオン化)
本発明において、セルロース原料のカチオン化は公知の方法を用いて行うことができ、カチオン化により例えば、アンモニウム、ホスホニウム、スルホニウム、これらアンモニウム、ホスホニウムまたはスルホニウムを有する基をセルロース分子に有することができるが、アンモニウムを有する基が好ましく、特に、四級アンモニウムを含む基が好ましい。具体的なカチオン化の方法としては、特に限定されるものではないが、一例として、セルロース原料にグリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3-クロロ-2ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムハイドライト又はそのハロヒドリン型などのカチオン化剤と触媒である水酸化アルカリ金属(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)を水及び/又は炭素数1~4のアルコールの存在下で反応させることによって、四級アンモニウムを含む基を有する、カチオン変性されたセルロースを得ることができる。
【0038】
なお、この方法において、得られるカチオン変性されたセルロースのグルコース単位当たりのカチオン置換度は、反応させるカチオン化剤の添加量、水及び/又は炭素数1~4のアルコールの組成比率をコントロールすることによって、調整することができる。ここでいう置換度とは、セルロースを構成する単位構造(グルコピラノース環)あたりの導入された置換基の個数を示す。言い換えると、「導入された置換基のモル数を、グルコピラノース環の水酸基の総モル数で割った値」として定義する。純粋セルロースは単位構造(グルコピラノース環)あたり3個の置換可能な水酸基を有しているため、本発明のセルロース繊維の置換度の理論最大値は3(最小値は0)である。
【0039】
本発明において、カチオン化されたセルロースのグルコース単位当たりのカチオン置換度は0.01~0.40であることが好ましい。セルロースにカチオン置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、カチオン置換基を導入したセルロースは容易にナノ解繊することができる。なお、グルコース単位当たりのカチオン置換度が0.01より小さいと、十分にナノ解繊することができない。一方、グルコース単位当たりのカチオン置換度が0.40より大きいと、膨潤あるいは溶解するため、繊維形態を維持できなくなり、ナノファイバーとして得られなくなる場合がある。
【0040】
グルコース単位当たりのカチオン置換度は、試料(カチオン変性されたセルロース)を乾燥させた後に、全窒素分析計TN-10(三菱化学)で窒素含有量を測定し、次式により算出することができる。ここで言う置換度とは、無水グルコース単位1モル当たりの置換基のモル数の平均値を表している。
カチオン置換度=(162×N)/(1-151.6×N)
N:窒素含有量
【0041】
(エステル化)
セルロース原料または解繊セルロース繊維をエステル化して、エステル化セルロース繊維またはエステル化セルロースナノファイバーを得る方法は、特に限定されないが例えば、セルロース原料または解繊セルロース繊維に対し化合物Aを反応させる方法が挙げられる。化合物Aについては後述する。
【0042】
セルロース原料または解繊セルロース繊維に対し化合物Aを反応させる方法としては例えば、セルロース原料または解繊セルロース繊維に化合物Aの粉末又は水溶液を混合する方法、セルロース原料または解繊セルロース繊維のスラリーに化合物Aの水溶液を添加する方法等が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高まり、且つエステル化効率が高くなることから、セルロース原料または解繊セルロース繊維又はそのスラリーに化合物Aの水溶液を混合する方法が好ましい。
【0043】
化合物Aとしては例えば、リン酸系化合物(例、リン酸、ポリリン酸)、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸、これらのエステル等が挙げられる。化合物Aは、塩の形態でもよい。上記の中でも、低コストであり、扱いやすく、またセルロース原料(例、パルプ繊維)のセルロースにリン酸基を導入して、解繊効率の向上が図れるなどの理由から、リン酸系化合物が好ましい。リン酸系化合物は、リン酸基を有する化合物であればよく、例えば、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等が挙げられる。用いられるリン酸系化合物は、1種、あるいは2種以上の組み合わせでもよい。これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、下記解繊工程で解繊しやすく、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸のナトリウム塩がより好ましく、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムがさらに好ましい。また、反応の均一性が高まり、且つリン酸基導入の効率が高くなることから、エステル化においてはリン酸系化合物の水溶液を用いることが好ましい。リン酸系化合物の水溶液のpHは、リン酸基導入の効率が高くなることから、7以下が好ましい。パルプ繊維の加水分解を抑える観点から、pH3~7がより好ましい。
【0044】
エステル化の方法としては例えば、以下の方法が挙げられる。セルロース原料または解繊セルロース繊維の懸濁液(例えば、固形分濃度0.1~10質量%)に化合物Aを撹拌しながら添加し、セルロースにリン酸基を導入する。セルロース原料または解繊セルロース繊維を100質量部とした際に、化合物Aがリン酸系化合物の場合、化合物Aの添加量はリン元素量として、0.2質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。これにより、エステル化セルロース繊維またはエステル化セルロースナノファイバーの収率をより向上させることができる。上限は500質量部以下が好ましく、400質量部以下がより好ましい。これにより化合物Aの使用量に見合った収率を効率よく得ることができる。従って、0.2~500質量部が好ましく、1~400質量部がより好ましい。
【0045】
セルロース原料または解繊セルロース繊維に対し化合物Aを反応させる際、さらに化合物Bを反応系に加えてもよい。化合物Bを反応系に加える方法としては例えば、セルロース原料または解繊セルロース繊維のスラリー、化合物Aの水溶液、又はセルロース原料もしくは解繊セルロース繊維と化合物Aのスラリーに、化合物Bを添加する方法が挙げられる。
【0046】
化合物Bは特に限定されないが、塩基性を示すことが好ましく、塩基性を示す窒素含有化合物がより好ましい。「塩基性を示す」とは通常、フェノールフタレイン指示薬の存在下で化合物Bの水溶液が桃~赤色を呈すること、または/および化合物Bの水溶液のpHが7より大きいことを意味する。塩基性を示す窒素含有化合物は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、アミノ基を有する化合物が好ましい。アミノ基を有する化合物として例えば、尿素、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。この中でも低コストで扱いやすい点で、尿素が好ましい。化合物Bの添加量は、2~1000質量部が好ましく、100~700質量部がより好ましい。反応温度は0~95℃が好ましく、30~90℃がより好ましい。反応時間は特に限定されないが、通常1~600分程度であり、30~480分が好ましい。エステル化反応の条件がこれらのいずれかの範囲内であると、セルロースが過度にエステル化されて溶解しやすくなることを抑制することができ、リン酸エステル化セルロースの収率を向上させることができる。
【0047】
セルロース原料または解繊セルロース繊維に化合物Aを反応させた後、通常はエステル化セルロース繊維またはエステル化セルロースナノファイバーの懸濁液が得られる。エステル化セルロース繊維またはエステル化セルロースナノファイバーの懸濁液は必要に応じて脱水される。脱水後には加熱処理を行うことが好ましい。これにより、セルロース原料または解繊セルロース繊維の加水分解を抑えることができる。加熱温度は、100~170℃が好ましく、加熱処理の際に水が含まれている間は130℃以下(更に好ましくは110℃以下)で加熱し、水を除いた後100~170℃で加熱処理することがより好ましい。
【0048】
リン酸エステル化セルロースにおいては、セルロースにリン酸基置換基が導入されており、セルロース同士が電気的に反発する。そのため、リン酸エステル化セルロース繊維は容易にセルロースナノファイバーまで解繊することができる(このようにセルロースナノファイバーとなるまで行う解繊を、ナノ解繊ともいう。)。リン酸エステル化セルロース繊維のグルコース単位当たりのリン酸基置換度は0.001以上が好ましい。これにより、十分な解繊(例えばナノ解繊)が実施できる。リン酸エステル化セルロース繊維のグルース単位当たりのリン酸基置換度の上限は0.40以下が好ましい。これにより、リン酸エステル化セルロース繊維の膨潤又は溶解を抑制し、セルロースナノファイバーが得られない事態の発生を抑制することができる。従って、リン酸エステル化セルロース繊維のグルコース単位当たりのリン酸基置換度は、0.001~0.40であることが好ましい。また、リン酸エステル化により変性されているセルロースナノファイバー(リン酸エステル化セルロースナノファイバー)のグルコース単位当たりのリン酸基置換度は0.001以上が好ましい。上限は、0.40以下が好ましい。したがって、リン酸エステル化セルロースナノファイバーのグルコース単位当たりのリン酸基置換度は0.001~0.40であることが好ましい。リン酸エステル化セルロース繊維に対して、煮沸後冷水で洗浄する等の洗浄処理がなされることが好ましい。これにより解繊を効率よく行うことができる。
【0049】
なお、このセルロース原料を化学変性させ、変性セルロースを得る工程で使用される反応タンクは特に限定されるものではないが、撹拌羽根を設けたタンク、パルパー、ニーダー、リボン型混合装置、スクリュー型混合装置などを例示することができる。これらの中でも概ね原料濃度3%以下で反応を進める場合は、液体や液状のスラリーの撹拌を行うことができる撹拌羽根を設けたタンクやパルパーを使用することが好ましい。また、概ね原料濃度3%を超える条件で反応を進める場合は、反応物が液状の形態を取らず固形状であるため、それらを混合撹拌できるニーダー、リボン型混合装置、スクリュー型混合装置を使用することが好ましい。
【0050】
(洗浄工程)
本発明において、得られた化学変性セルロースの分散液を、脱水処理後に水で洗浄する工程であり、この工程により、不純物が少ないセルロースナノファイバーを得ることができる。
【0051】
この工程では、遠心分離式、真空脱水式、加圧脱水式のタイプの脱水装置を使用することができる。具体的には、遠心分離式:(タナベウィルテック製遠心分離機、コクサン製遠心分離機など)、真空脱水式:ドラム型真空脱水機、月島機械製水平ベルトフィルター、加圧脱水式:フィルタープレス、チューブプレス、スクリュープレス、ベルトプレス水平ベルトフィルター、ポリディスクフィルター、振動スクリーンなどを挙げることができる。これらの中でも脱水原料に強いせん断力を加えることなく脱水を行うことができるため、加圧脱水式(フィルタープレス、チューブプレス)、遠心分離式(タナベウィルテック製遠心分離機、コクサン製遠心分離機など)、真空脱水式(ドラム型真空脱水機)が好ましい。また、これらの複数を組み合わせて使用することもできる。
【0052】
(化学変性セルロースの濃度調整工程)
本発明において、次の解繊工程を効率よく行うために、化学変性セルロースの分散液の濃度を0.1質量%~10質量%に調整することが好ましい。0.1質量%未満であると変性パルプの存在が少なすぎるため十分に解繊できない。一方、10質量%を超えると解繊が進行するに従い、変性パルプ分散液の粘度が高くなり、変性パルプに十分な力を加えることができなくなるため十分に解繊することができなくなる。
【0053】
(解繊工程)
本発明において、化学変性セルロースの解繊には、この実施の形態に係る高圧ホモジナイザー1が用いられる。高圧ホモジナイザー1による解繊は、水分散体に50MPa以上の圧力を印加し、かつ強力なせん断力を印加することにより行われる。印加する圧力は、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。また、高圧ホモジナイザー1での解繊・分散処理に先立って、必要に応じて、高速せん断ミキサーなどの公知の混合、攪拌、乳化、分散装置を用いて、上記のセルロースナノファイバーに予備処理を施すことも可能である。
【0054】
上記の処理で解繊する場合、セルロース繊維原料としての固形分濃度は0.1質量%以上、好ましくは0.2質量%以上、特に0.3質量%以上、また10質量%以下、特に6質量%以下であることが好ましい。固形分濃度が低過ぎると、処理するセルロース繊維原料の量に対して液量が多くなり過ぎ効率が悪く、固形分濃度が高過ぎると流動性が悪くなる。
【符号の説明】
【0055】
1…高圧ホモジナイザー、2…高圧ポンプ、3…ノズル部、4…バルブ、5,6,7…配管、8…シリンダー、10…プランジャー、11…油圧シリンダー、11a…ピストン、12a…第1リニアブッシュ、12b…第2リニアブッシュ、13a…第1リニアシャフト、13b…第2リニアシャフト、14…ポンプホルダー、18…油圧シリンダーヘッド、20…プランジャーホルダー、21…球面ベアリング、22…クレビス、23…クラビスシャフト、24…自在継手、25a,25b…クレビスシャフトメタル、27a…第1リニアブッシュハウジング、27b…第2リニアブッシュハウジング。
【要約】
【課題】 高圧ホモジナイザーの高圧ポンプの長寿命化を実現したセルロースナノファイバー製造装置を提供する。
【解決手段】 セルロースナノファイバー製造装置は、パルプ繊維の微細化処理を行う高圧ホモジナイザーを備え、前記高圧ホモジナイザーは、前記セルロースナノファイバーの原料であるセルロース原料を加圧する高圧ポンプを備え、前記高圧ポンプは、前記セルロース原料を受け容れるシリンダーと、前記シリンダー内部の減圧及び加圧により、前記セルロース原料を前記シリンダー内へ吸い込ませ、及び前記シリンダー外へ吐出させるプランジャーと、前記プランジャーに固定されるリニアブッシュと、前記リニアブッシュ内に挿通され前記プランジャーの移動方向に延伸するリニアシャフトとを備え、前記リニアブッシュ及び前記リニアシャフトは、前記リニアブッシュが前記リニアシャフトに沿って摺動することにより前記プランジャーの移動方向をガイドする。
【選択図】
図2