(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-22
(45)【発行日】2025-01-30
(54)【発明の名称】流下物堆積量推測方法並びに流下物捕捉体及び情報管理システム
(51)【国際特許分類】
E02B 7/02 20060101AFI20250123BHJP
G01B 21/00 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
E02B7/02 B
G01B21/00 A
(21)【出願番号】P 2021059148
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2024-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000106955
【氏名又は名称】シバタ工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108442
【氏名又は名称】小林 義孝
(74)【代理人】
【識別番号】100206195
【氏名又は名称】山本 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100224650
【氏名又は名称】野口 晴加
(74)【代理人】
【識別番号】100175662
【氏名又は名称】山本 英明
(74)【代理人】
【氏名又は名称】葛西 さやか
(72)【発明者】
【氏名】西村 佳樹
(72)【発明者】
【氏名】宮松 宣隆
(72)【発明者】
【氏名】山口 聖地
(72)【発明者】
【氏名】西本 安志
(72)【発明者】
【氏名】永山 智之
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 大毅
(72)【発明者】
【氏名】原田 耕司
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-090307(JP,A)
【文献】特開平10-206198(JP,A)
【文献】特開2000-257049(JP,A)
【文献】特開2015-175674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/02
G01B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砂防堰堤にて流下物を捕捉する流下物捕捉体における流下物堆積量推測方法であって、
前記流下物捕捉体に組み込まれている、流水を透過可能であり前記流下物を捕捉可能である、可撓性の捕捉部材の位置の変化を計測して変位情報を得る変位計測工程と、
前記変位情報
及び予め設定した前記捕捉部材の情報に基づき、前記捕捉部材にかかっている引張荷重及び前記捕捉部材のたわみ量を算出し、算出された前記引張荷重及び前記たわみ量に基づき、前記捕捉部材にかかっている上載荷重を算出し、算出された前記上載荷重及び予め設定した前記流下物の比重情報に基づき、前記流下物捕捉体における前記流下物の堆積量を推測する堆積量推測工程とを備える、流下物堆積量推測方法。
【請求項2】
砂防堰堤にて流下物を捕捉する流下物捕捉体
及び情報管理システムであって、
前記流下物捕捉体は、流水の流路において流水方向を横断するように配置され、前記流水を透過可能であり前記流下物を捕捉可能である、可撓性の捕捉部材と、
前記捕捉部材を、前記流路において脱着自在に固定可能な支持部材と、
前記捕捉部材の位置の変化を計測して変位情報を得る変位計測装置と、
前記変位情報を得て外部
の前記情報管理システムに報知する、報知装置とを備え
、
前記情報管理システムは、前記変位情報及び予め設定した前記捕捉部材の情報に基づき、前記捕捉部材にかかっている引張荷重及び前記捕捉部材のたわみ量を算出し、算出された前記引張荷重及び前記たわみ量に基づき、前記捕捉部材にかかっている上載荷重を算出し、算出された前記上載荷重及び予め設定した前記流下物の比重情報に基づき、前記流下物捕捉体における前記流下物の堆積量を推測する、流下物捕捉体
及び情報管理システム。
【請求項3】
前記捕捉部材は、鋼製チェーンと、前記鋼製チェーンを緩ませた状態でこれを埋設する弾性体とを含む、請求項2記載の流下物捕捉体
及び情報管理システム。
【請求項4】
前記変位情報は、前記捕捉部材の伸び量である、請求項2又は3記載の流下物捕捉体
及び情報管理システム。
【請求項5】
前記変位計測装置は、
前記支持部材に固定される装置本体と、
一本の糸状形状を有し、一方端部が前記装置本体に接続され前記装置本体を基準に伸縮可能であり、他方端部が前記捕捉部材に接続される糸状部材とを備え、
前記装置本体は、前記糸状部材の前記伸び量を計測して前記変位情報を得る変位情報取得手段を備え、
前記報知装置は、前記装置本体に組み込まれる、請求項4記載の流下物捕捉体
及び情報管理システム。
【請求項6】
前記報知装置は、無線にて前記変位情報を報知する、請求項5記載の流下物捕捉体
及び情報管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は流下物堆積量推測方法並びに流下物捕捉体及び情報管理システムに関し、特に砂防堰堤にて流下物を捕捉する流下物捕捉体及びそのような流下物捕捉体における流下物堆積量推測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
山岳等の渓流において土砂災害防止のために用いられる施設として、砂防堰堤が知られている。砂防堰堤は、水を通過させる一方、土石流や洪水に含まれて運ばれる土砂礫や流木といった流下物を捕捉し、下流域の保全対象を守る働きをしている。
【0003】
しかし近年、大型化する台風や洪水の影響により発生した大量の流下物を砂防堰堤のみでは捕捉できず、砂防堰堤を流下・越流した流下物が下流域の保全対象まで到達してしまう事例が発生している。
【0004】
このような事例に対応するものとして、従来、砂防堰堤で捕捉されず越流した流木等の流体物を捕捉することができる流体物捕捉構造体が存在する(特許文献1)。
【0005】
図15は、従来の流体物捕捉構造体を示す概略平面図であり、
図16は、
図15で示したXVI-XVIラインの矢視図であり、
図17は、
図15で示したXVII-XVIIラインの矢視図であって、流体物捕捉構造体の流体物捕捉体を流水方向に直交する方向から見たものである。
【0006】
これらの図を参照して、流体物捕捉構造体71は、流水方向に直交する方向に3列設置された、平面視略コの字状の流体物捕捉体72a~72cから構成されている。
【0007】
又、特に
図17に示されるように、例えば流体物捕捉体72cは、捕捉部材75cと、支持部材76とから構成されている。そして、捕捉部材75cは、流水方向に平行であって下流側から上流側に向かって下るように傾斜する一対の捕捉材77a、77bと、捕捉材77a、77b同士を横切るように取り付けられた第1の横桟78a~78cとを含むものである。第1の横桟78aは、軸としての鋼製チェーン68と、鋼製チェーン68の一部を緩ませた状態でこれを埋設する弾性体69とを備えたものであり、流体物による衝撃を弾性体69にて吸収して、緩衝しつつ流体物を捕捉する。第1の横桟78b及び78cの各々も、第1の横桟78aと同様の構成である。
【0008】
このように構成することで、流水は流体物捕捉体72cを通過し、一方で、流体物は捕捉材77a、77b及び第1の横桟78a~78cにより捕捉されるため、水の流れがせき止められることを防止しながら、流体物の捕捉効率を向上させることができる。
【0009】
尚、上記のような流体物捕捉構造体71は、捕捉された流木等の流体物が捕捉限界容量を超えると捕捉能力が損なわれてしまうが、流体物捕捉構造体71では、流体物の発生や流体物の堆積状態を検知できない。そこで、流体物の有無の確認や除木の要否を検討するために、流体物捕捉構造体71の設置箇所である現地での目視点検の必要があった。
【0010】
しかし、主に山岳地に設置される流体物捕捉構造体71の目視点検には危険が伴う。災害直後は特に危険が伴う。又、流体物捕捉構造体71は山岳地に点在するが、目視点検のため現地に派遣できる人員が限られていることから1日に点検できる流体物捕捉構造体71の数が限られてしまい、非効率且つ高コストという課題もあった。
【0011】
尚、土石流を検知するものとしては、従来、土石流検知システム(特許文献2)や検知装置(特許文献3)が存在している。
【0012】
図18は、従来の土石流検知システムを用いた鋼製の透過型砂防堰堤の平面図であり、
図19は、
図18で示したXIX-XIXラインの側面図であり、
図20は、
図19で示した“Z”部分の拡大図であり、
図21は、
図20で示したXXI-XXIラインの(下流側から見た)矢視図であり、
図22は、従来の検知装置を示す図であり、
図23は、
図22で示した検知装置が採用するチューブ状スイッチの一例を示す図であり、
図24は、
図22で示した検知装置の敷設例を示す図である。
【0013】
まず、
図18から
図21までを参照して、80はダム、81はダム80の所定箇所に設けられた特定の幅をもった水路、82は鋼製の縦部材を構成するためのフランジ付きパイプ、83は鋼製の横部材を構成するためのフランジ付きパイプ、84a、84bはフランジ付きパイプ82が接続されて構成された複数の鋼製の縦部材とフランジ付きパイプ83が接続されて構成された複数の鋼製の横部材が交差するように組み合わされて形成された格子状壁、85は格子状壁84a、84bを水路81の流れ方向に連結し、櫓状に組み上げるための鋼製の連結部材を構成するためのフランジ付きパイプ、86は鋼製の透過型砂防堰堤本体に加えられた衝撃(例えば、土石流等)を検知するための加速度計、87は土石流や外部環境から加速度計86を保護するための保護部材としての硬質パテ、88は加速度計86により検知された加速度信号を外部の信号処理部に伝送するためのケーブルである。
【0014】
従来の土石流検知システムは上記の構成を用いて、砂防堰堤本体に加えられた衝撃を加速度計86で加速度信号として検知し、この検知した加速度信号に、信号処理部にて所定の処理を施すことにより衝撃が土石流によるものであると判断した場合には、土石流信号を発信するものである。
【0015】
次に、
図22から
図24までを参照して、検知装置90は、1本のチューブ状スイッチ91と、このチューブ状スイッチ91の両側に平行に配置される2本のワイヤーロープ92a、92bと、これらチューブ状スイッチ91及び各ワイヤーロープ92a、92bに螺旋状に巻回された2本のラッシングロッド93a、93bとからなる。チューブ状スイッチ91は、柔軟性のあるチューブ部材94の内面に、一部が内部空間に露出するように固定された一対の導電性部材95と、導電性部材95に接続された図示しない検出回路とを備えたものである。チューブ部材94が外力を受けて潰れたり変形すると、一対の導電性部材95は、互いに接触し、検出回路及び一対の導電性部材95をつなぐ閉回路が形成され、これによってチューブ部材94が外力を受けたこと、例えば落石等によって潰されたことを検出することができる。
【0016】
検知装置90は、例えば、山の斜面に立設されたポール97、98にワイヤーロープ92a、92bを固定することにより敷設される。このような状態で、土石等がラッシングロッド93aに当たると、チューブ状スイッチ91は潰され、内部の導電性部材95が導通し、検出回路が落石があったこと及び落石箇所を検出する。検出回路で落石を検出すると、その信号は、警報装置に伝送され、サイレン、音声などによる警報が出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】特開2019-090307号公報
【文献】特開2011-021446号公報
【文献】特開2003-149013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、上述の従来の土石流検知システムや検知装置90は、土石流等の発生及び一過を検知するのみであって、流体物の堆積の有無及び堆積量までを検知するものではない。したがって、仮にこれらと流体物捕捉構造体71とを合わせたとしても、流体物の堆積の有無の確認や除木の要否の検討には、やはり目視点検を要する。
【0019】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、経済的且つ安全な流下物堆積量推測方法並びに流下物捕捉体及び情報管理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の目的を達成するために、請求項1記載の発明は、砂防堰堤にて流下物を捕捉する流下物捕捉体における流下物堆積量推測方法であって、流下物捕捉体に組み込まれている、流水を透過可能であり流下物を捕捉可能である、可撓性の捕捉部材の位置の変化を計測して変位情報を得る変位計測工程と、変位情報及び予め設定した捕捉部材の情報に基づき、捕捉部材にかかっている引張荷重及び捕捉部材のたわみ量を算出し、算出された引張荷重及びたわみ量に基づき、捕捉部材にかかっている上載荷重を算出し、算出された上載荷重及び予め設定した流下物の比重情報に基づき、流下物捕捉体における流下物の堆積量を推測する堆積量推測工程とを備えるものである。
【0021】
このようにすると、堆積量の推測に捕捉部材を流用できる。
【0022】
請求項2記載の発明は、砂防堰堤にて流下物を捕捉する流下物捕捉体及び情報管理システムであって、流下物捕捉体は、流水の流路において流水方向を横断するように配置され、流水を透過可能であり流下物を捕捉可能である、可撓性の捕捉部材と、捕捉部材を、流路において脱着自在に固定可能な支持部材と、捕捉部材の位置の変化を計測して変位情報を得る変位計測装置と、変位情報を得て外部の情報管理システムに報知する、報知装置とを備え、情報管理システムは、変位情報及び予め設定した捕捉部材の情報に基づき、捕捉部材にかかっている引張荷重及び捕捉部材のたわみ量を算出し、算出された引張荷重及びたわみ量に基づき、捕捉部材にかかっている上載荷重を算出し、算出された上載荷重及び予め設定した流下物の比重情報に基づき、流下物捕捉体における流下物の堆積量を推測するものである。
【0023】
このように構成すると、現地に行かずとも堆積量推測に必要な情報を入手できる。
【0024】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明の構成において、捕捉部材は、鋼製チェーンと、鋼製チェーンを緩ませた状態でこれを埋設する弾性体とを含むものである。
【0025】
このように構成すると、流下物の捕捉時に弾性体の部分が特に伸びやすい。又、流下物の衝突により捕捉部材に加わった力は、鋼製チェーンの伸び及び鋼製チェーン間の弾性体の圧縮により吸収される。
【0026】
請求項4記載の発明は、請求項2又は請求項3のいずれかに記載の発明の構成において、変位情報は、捕捉部材の伸び量であるものである。
【0027】
このように構成すると、捕捉部材の状態をより具体的に把握できる。
【0028】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明の構成において、変位計測装置は、支持部材に固定される装置本体と、一本の糸状形状を有し、一方端部が装置本体に接続され装置本体を基準に伸縮可能であり、他方端部が捕捉部材に接続される糸状部材とを備え、装置本体は、糸状部材の伸び量を計測して変位情報を得る変位情報取得手段を備え、報知装置は、装置本体に組み込まれるものである。
【0029】
このように構成すると、簡易な構造物により、捕捉部材の伸び量を把握できる。
【0030】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明の構成において、報知装置は、無線にて変位情報を報知するものである。
【0031】
このように構成すると、設置にあたっての有線工事が不要となる。
【発明の効果】
【0032】
以上説明したように、請求項1記載の発明は、堆積量の推測に捕捉部材を流用できるので、経済的且つ安全な流下物堆積量推測方法となる。
【0033】
請求項2記載の発明は、現地に行かずとも堆積量推測に必要な情報を入手できるので、現地での目視確認の回数が削減でき、経済的且つ安全となる。
【0034】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明の効果に加えて、流下物の捕捉時に弾性体の部分が特に伸びやすい。又、流下物の衝突により捕捉部材に加わった力は、鋼製チェーンの伸び及び鋼製チェーン間の弾性体の圧縮により吸収されるので、高い捕捉性能、緩衝性能及び耐久性能を兼ね備えた捕捉部材となる。
【0035】
請求項4記載の発明は、請求項2又は請求項3のいずれかに記載の発明の効果に加えて、捕捉部材の状態をより具体的に把握できるので、状況確認及び保守点検の要否判断をより正確に下せる。
【0036】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明の効果に加えて、簡易な構造物により、捕捉部材の伸び量を把握できるので、変位計測装置及び報知装置にかけるコストが低減すると共に変位情報の正確性が増す。
【0037】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明の効果に加えて、設置にあたっての有線工事が不要となるので、工期の短縮及び設置コストの削減ができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】この発明の第1の実施の形態による流下物捕捉体を流路に設置した状態の側面図及び正面図である。
【
図2】
図1で示した“V”部分の拡大図及び変位計測装置の模式図である。
【
図3】
図2で示した変位計測装置のブロック図及び変位計測装置を含む推測システムの全体構成図である。
【
図4】
図1で示した流下物捕捉体が流下物を捕捉した状態の側面図及び部分拡大側面図である。
【
図5】この発明の第2の実施の形態による流下物捕捉体の部分拡大側面図であって第1の実施の形態の
図2の(1)に対応する図及び部分拡大正面図である。
【
図6】この発明の第3の実施の形態による流下物捕捉体を流路に設置した状態の正面図である。
【
図9】
図7で示したIX―IXラインの断面図である。
【
図10】
図6で示した流下物捕捉体が流下物を捕捉した状態の正面図である。
【
図12】この発明の第4の実施の形態による流下物捕捉体を流路に設置した状態の部分拡大正面図であって第3の実施の形態の
図7に対応する図である。
【
図14】
図12で示したXIV―XIVラインの断面図である。
【
図15】従来の流体物捕捉構造体を示す概略平面図である。
【
図16】
図15で示したXVI-XVIラインの矢視図である。
【
図17】
図15で示したXVII-XVIIラインの矢視図であって、流体物捕捉構造体の流体物捕捉体を流水方向に直交する方向から見たものである。
【
図18】従来の土石流検知システムを用いた鋼製の透過型砂防堰堤の平面図である。
【
図19】
図18で示したXIX-XIXラインの側面図である。
【
図21】
図20で示したXXI-XXIラインの(下流側から見た)矢視図である。
【
図23】
図22で示した検知装置が採用するチューブ状スイッチの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1は、この発明の第1の実施の形態による流下物捕捉体を流路に設置した状態の側面図及び正面図であり、
図2は、
図1で示した“V”部分の拡大図及び変位計測装置の模式図であり、
図3は、
図2で示した変位計測装置のブロック図及び変位計測装置を含む推測システムの全体構成図である。
【0040】
まず、
図1の(1)及び(2)を参照して、砂防堰堤1にて後述する流下物を捕捉すべく、砂防堰堤1の流路2(水叩き部)に、流下物捕捉体10が設置されている。尚、
図1の(1)において左側が下流側、右側が上流側であり、
図1の(2)において、紙面手前側が下流側、紙面奥側が上流側である。
【0041】
流下物捕捉体10は、捕捉部材11a及び11bと、支持部材15と、変位計測装置20とを備える。
【0042】
支持部材15は、主にH型鋼をボルト等で連結して組んだ鋼製荷台よりなり、柱状部151a及び151b、固定部152a及び152b、傾斜部153a及び153b、接続部154を備える。支持部材15は、流水の流路2において流水方向を横断するように傾斜部153a及び153bの間に配置される捕捉部材11a及び11bを固定している。捕捉部材11bは、流水方向中ほどに設けられており、補足部材11aは、捕捉部材11bよりも上方、すなわち、傾斜の上端付近に設けられる。又、支持部材15は、固定部152a及び152bにおいてアンカーボルト16を用いて流路2の底面に脱着自在に固定されている。すなわち、支持部材15は、捕捉部材11a及び11bを流路2において脱着自在に固定可能な構成となっている。
【0043】
捕捉部材11bは、芯材としての鋼製チェーン12と、鋼製チェーン12の端部の各々の近辺において、鋼製チェーン12の一部を緩ませた状態でこれを埋設する弾性体13とを備えたものであり、捕捉部材11b全体として可撓性を有し、流水を透過可能であって流下物を捕捉可能とするものである。
【0044】
このように構成すると、後述する流下物の捕捉時に弾性体13の部分が特に伸びやすくなる。又、流下物の衝突により捕捉部材11bに加わった力は、鋼製チェーン12及び鋼製チェーン12の外方の弾性体13の伸びと、鋼製チェーン12間の弾性体13の圧縮とにより吸収されるので、高い捕捉性能、緩衝性能及び耐久性能を兼ね備えた捕捉部材11bとなる。尚、捕捉部材11aも捕捉部材11bと同様の構成を有する。
【0045】
次に、
図2の(1)及び(2)を参照して、変位計測装置20には、主に亀裂(クラック)管理に用いられる特開2020-71194号公報に記載の計測装置を用いる。
【0046】
変位計測装置20は、取付部材17を介して支持部材15に固定される装置本体21と、一本の鋼製ワイヤーよりなる糸状部材22とを備える。装置本体21は、具体的には、支持部材15の接続部154のウェブ部155の下方に取り付けられている。糸状部材22の一方端部23は装置本体21に接続され、他方端部24は捕捉部材11aに接続され、糸状部材22は装置本体21と捕捉部材11aとの間で弛み無く張られている。
【0047】
装置本体21には、プーリー25が設けられている。又、プーリー25には、取付部材17に固定するブラケット27とプーリー25及び装置本体21を繋ぐシャフト26とが連結している。装置本体21はシャフト26を軸中心として、基準の位置(
図2の(1)に示す位置)から回動自在且つ、基準の位置に戻るように付勢された状態で、ブラケット27を介して取付部材17に固定されている。
【0048】
尚、プーリー25には糸状部材22が巻き取り且つ引き出し可能に取り付けられており、糸状部材22が装置本体21を基準に伸縮可能となると共に、糸状部材22の巻き取り又は引き出しに伴って装置本体21が回動するように構成されている。
【0049】
取付部材17には取り付け時に上流側になる位置にガイドローラー18が設けられており、プーリー25から引き出された糸状部材22は、ガイドローラー18を介して上流側に向かい、接続部154の上流側のフランジ部156に設けられた通し穴157を通って捕捉部材11aへと伸びる。他方端部24は鋼製チェーン12が露出する捕捉部材11aの中央部にある、鋼製チェーン12の素子の一つに取り付けられる。
【0050】
装置本体21は、基準の位置からの装置本体21の回転状態を計測して回転情報を得、回転情報に基づいて糸状部材22の伸び量を計測し、糸状部材22の伸び量に基づいて後述する捕捉部材11aの伸び量を計測し、捕捉部材11aの伸び量を変位情報として得る変位情報取得手段28を備える。変位情報取得手段28としては、例えば、傾きに対応する加速度を計測する加速度センサ等が採用できる。又、装置本体21には、変位情報を得て外部に報知する報知装置29が組み込まれている。
【0051】
ここで、
図3を参照して、変位計測装置20は、サーバ、ストレージ、ネットワーク等から構成されるクラウド・コンピューティング等よりなる情報管理システム103を含む推測システム100を構成する。
【0052】
推測システム100においては、変位情報取得手段28が変位情報を得ると、報知装置29がLPWA(Low Power Wide Area)方式の無線にて、中継基地としての基地局104に変位情報を報知する。情報管理システム103は、基地局104を介して変位情報を受信し、必要に応じた演算及び計測結果の記憶を行う。又、インターネット等のネットワーク105を通じた、スマートフォン、タブレット端末、パーソナルコンピューター等からなる情報処理装置102からの要求に応じて、記憶した計測結果を情報処理装置102に提供する。このように構成したことによる効果は後述する。
【0053】
図4は、
図1で示した流下物捕捉体が流下物を捕捉した状態の側面図及び部分拡大側面図である。
【0054】
まず、
図4の(1)を参照して、流下物捕捉体10の捕捉部材11a及び11bに、流下物(流木)6が捕捉されている。説明の便宜上、図においては流下物6を一本の流木として図示しているが、実際には無数の流木が流下物6として捕捉されているものとする。尚、上述したように捕捉部材11aは支持部材15により固定され、又、
図1の(2)で示した弾性体13の部分を中心に伸びやすく構成されている(流下物6の荷重により鋼製チェーン12間の弾性体13が圧縮される)から、流下物6の重みにより捕捉部材11aが伸びる。
【0055】
ここで、
図4の(1)の“W”部分の拡大図である
図4の(2)を参照して、捕捉部材11aの伸びに追従して、糸状部材22が装置本体21を基準に引き出されるように伸び、糸状部材22の伸びに伴って、装置本体21が図の2点鎖線で示した基準の位置から、図の実線で示した位置まで回転する。
【0056】
すると、変位計測装置20の装置本体21の回転情報に基づいて変位情報取得手段28が順次、換算により糸状部材22の伸び量及び捕捉部材11aの伸び量を計測し、変位情報を得る(変位計測工程)。
【0057】
ここで、再度
図3も参照して、得られた変位情報が報知装置29を介して無線にて基地局104に報知され、続いて基地局104から情報管理システム103に送信される。
【0058】
情報管理システム103では、報知された変位情報が予め設定した規定値に達していると、変位情報及び予め設定した捕捉部材11aの情報(伸び量と荷重との関係に係る情報)に基づき、まず、捕捉部材11aにかかっている引張荷重及び捕捉部材11aのたわみ量が算出される。次いで、算出された引張荷重及びたわみ量に基づき、捕捉部材11aにかかっている上載荷重が算出される。最後に、算出された上載荷重及び予め設定した流下物の比重情報に基づき、流下物6に係る流下物捕捉体10における流下物6の堆積量(堆積荷重)が推測される(堆積量推測工程)。このようにして得られた推測流下物堆積量は、計測結果として情報管理システム103に記憶され、又、情報処理装置102の要求に応じてネットワーク105を通じて情報処理装置102に提供される。情報処理装置102では画面表示にて、推測流下物堆積量(計測結果)をユーザーに提示する。表示方法としては例えば時間経過と計測結果との変化を示すグラフ等の形式が挙げられる。このようにして提示された推測流下物堆積量は、目視点検や除去作業の要否判断のための情報として用いられる。
【0059】
このようにすると、流下物の堆積量の推測に捕捉部材11aを流用できるので、経済的且つ安全な流下物堆積量推測方法となる。
【0060】
又、このように構成すると、現地に行かずとも堆積量推測に必要な情報を入手できるので、現地での目視確認の回数が削減でき、経済的且つ安全となる。
【0061】
更に、捕捉部材11aの状態をより具体的に把握できるので、状況確認及び保守点検の要否判断をより正確に下せる。
【0062】
更に、簡易な構造物により、捕捉部材11aの伸び量を把握できるので、変位計測装置20及び報知装置29にかけるコストが低減すると共に変位情報の正確性が増す。
【0063】
更に、設置にあたっての有線工事が不要となるので、工期の短縮及び設置コストの削減ができる。
【0064】
図5は、この発明の第2の実施の形態による流下物捕捉体の部分拡大側面図であって第1の実施の形態の
図2の(1)に対応する図及び部分拡大正面図である。
【0065】
尚、第2の実施の形態による流下物捕捉体30の構成は、上述した第1の実施の形態による流下物捕捉体10と基本的に同様であるため、以下、相違点を中心に説明する。
【0066】
図を参照して、流下物捕捉体30は、流路2において既に設置されている支持部材15及び捕捉部材11aに、変位計測装置20を後付けするものである。
【0067】
変位計測装置20は取付部材17に取り付けられた状態で、取付部材17が設置されている側面視U字型の板状の設置部材31、4本のL型鋼32a~32d及び4本の連結ボルト33a~33dにて構成される枠体34を、支持部材15の接続部154を挟み込むように取り付けることにより、支持部材15に後付けされる。このように構成すると、既設の設備に手軽に流下物堆積量推測機能を付加することができる。
【0068】
図6は、この発明の第3の実施の形態による流下物捕捉体を流路に設置した状態の正面図であり、
図7は、
図6で示した“X”部分の拡大図であり、
図8は、
図7で示した流下物捕捉体の平面図であり、
図9は、
図7で示したIX―IXラインの断面図である。
【0069】
まず、
図6を参照して、砂防堰堤1にて流下物を捕捉すべく、砂防堰堤1の本堤3の流路4(水通し部)に、流下物捕捉体40が設置されている。尚、
図6において、紙面手前側が下流側、紙面奥側が上流側である。
【0070】
流下物捕捉体40は、捕捉部材41a及び41bと、支持部材45a~45dと、変位計測装置20とを備える。尚、変位測定装置20、変位計測工程及び堆積量推測工程は上述の第1の実施の形態によるものと同一であるため、ここでは詳述しない。
【0071】
次に、
図6から
図9を参照して、捕捉部材41aは、芯材としての鋼製チェーン42と、鋼製チェーン42の端部の各々の近辺において、鋼製チェーン42の一部を緩ませた状態でこれを埋設する弾性体43a及び43bとを備えたものであり、捕捉部材41a全体として可撓性を有し、流水を透過可能であって流下物を捕捉可能とするものである。このように構成すると、流下物の捕捉時に弾性体43a及び43bの部分が特に伸びやすい。又、流下物の衝突により捕捉部材41aに加わった力は、鋼製チェーン42及び鋼製チェーン42の外方の弾性体43の伸びと、鋼製チェーン42間の弾性体43の圧縮とにより吸収されるので、高い捕捉性能、緩衝性能及び耐久性能を兼ね備えた捕捉部材41aとなる。尚、捕捉部材41bも同様の構成を有する。捕捉部材41aと41bとは、各々の中央付近に掛け渡される連結チェーン44を介して連結されている。
【0072】
支持部材45aは、本堤3に埋め込まれるアンカーボルト46a~46dと、金属製の固定プレート47を備え、本堤3の内壁に取り付けられている。固定プレート47は、捕捉部材41aの端部を脱着自在に固定する。尚、支持部材45b~45dの各々も同様の構成を有し、捕捉部材41a及び41bの端部の各々を固定する。このように構成したことにより捕捉部材41a及び41bは、支持部材45a~45dを介して流路4において脱着自在に固定可能となっている。
【0073】
支持部材45aの固定プレート47には、変位計測装置20を取り付ける取付部材48も固定されている。取付部材48は、側面視略コの字型の板状形状を有し、弾性体43aの端部側に被さるように配置されている。変位計測装置20は、取付部材48の上面49に取り付けられることで支持部材45aに固定され、糸状部材22の他方端部24は、弾性体43aを跨いだ先の鋼製チェーン42のシャックル部142に接続し、糸状部材22は弾性体43aを跨いで装置本体21と捕捉部材41aとの間で弛み無く張られている。このように構成したことによる効果は後述する。
【0074】
図10は、
図6で示した流下物捕捉体が流下物を捕捉した状態の正面図であり、
図11は、
図10で示した“Y”部分の拡大図である。
【0075】
まず、
図10を参照して、流下物捕捉体40の捕捉部材41a及び41bに、流下物(流木)6が捕捉されている。説明の便宜上、図においては流下物6を一本の流木として図示しているが、実際には無数の流木が流下物6として捕捉されているものとする。尚、上述したように捕捉部材41aは支持部材45a及び45bにて固定され、又、弾性体43a及び43bの部分を中心に伸びやすく構成されている(流下物6の荷重により鋼製チェーン42間の弾性体43a及び43bが圧縮される)から、流下物6の重みにより捕捉部材41aが伸びる。
【0076】
ここで、
図11を参照して、捕捉部材41a(弾性体43a)の伸びに追従して、糸状部材22が装置本体21から引き出されるように伸び、糸状部材22の伸びに伴って、装置本体21が図の2点鎖線で示した基準の位置から、図の実線で示した位置まで回転する。この回転情報から捕捉部材41aの伸び量である変位情報が得られ(変位計測工程)、変位情報に基づき流下物6に係る流下物捕捉体40における流下物の堆積量が推測される(堆積量推測工程)。
【0077】
このようにすると、流下物の堆積量の推測に捕捉部材41aを流用できるので、経済的且つ安全な流下物堆積量推測方法となる。
【0078】
図12は、この発明の第4の実施の形態による流下物捕捉体を流路に設置した状態の部分拡大正面図であって第3の実施の形態の
図7に対応する図であり、
図13は、
図12で示した流下物捕捉体の平面図であり、
図14は、
図12で示したXIV―XIVラインの断面図である。
【0079】
尚、第4の実施の形態による流下物捕捉体50の構成は、上述した第3の実施の形態による流下物捕捉体40と基本的に同様であるため、以下、相違点を中心に説明する。
【0080】
これらの図を参照して、流下物捕捉体50は、流路4において既に設置されている捕捉部材41a及び支持部材45aに、変位計測装置20を後付けするものである。
【0081】
変位計測装置20を取り付ける取付部材58は、正面視略L字型の板状形状を有し、捕捉部材41aの端部側上方を覆うように配置され、支持部材45aのアンカーボルト46a及び46bに固定されている。変位計測装置20は、取付部材58の上面59に取り付けられることで支持部材45aに固定されている。このように構成すると、固定プレート47による捕捉部材41aの固定状態を保ちながら、既設の設備に手軽に流下物堆積量推測機能を付加することができる。
【0082】
尚、上記の各実施の形態では、捕捉部材の伸び量を変位情報とする変位計測工程が行われていたが、捕捉部材の位置の変化を計測した結果を変位情報とし、これを計測する変位計測工程が行われてもよい。
【0083】
又、上記の各実施の形態では、捕捉部材は鋼製チェーンと弾性体よりなる特定構造を有するものであったが、全体として可撓性のものであれば他の構成及び構造よりなるものであってもよい。例えば、鋼製チェーンのみよりなるもの、弾性体のみよりなるもの、ワイヤーロープを編んだもの等であってもよい。捕捉部材は、剛性を有する部材を一部に含んでいてもよく、少なくとも一部に伸縮自在な部分を含んでいればよい。
【0084】
更に、上記の各実施の形態では、捕捉部材は特定形状を有するものであったが、流水方向を横断するように配置され流水を透過可能であり流下物を捕捉可能であれば、他の形状であってもよい。例えば、網状、格子状、スクリーン状等であってもよい。
【0085】
更に、上記の各実施の形態では、支持部材は特定形状及び特定構造を有するものであったが、捕捉部材を流路において脱着自在に固定可能なものであれば、他の形状及び他の構造を有するものであってもよい。
【0086】
更に、上記の各実施の形態では、糸状部材は伸縮するものであったが、伸縮せずに装置本体を回転させるのみであってもよい。
【0087】
更に、上記の各実施の形態では、糸状部材はワイヤーよりなるものであったが、一本の糸状形状を有するものであればよい。
【0088】
更に、上記の各実施の形態では、変位計測装置に特定の計測装置を用いたが、糸状部材及び捕捉部材の伸び量を計測して変位情報を得られるものであれば他の計測装置を用いてもよい。又、その他の捕捉部材の位置の変化を計測して変位情報を得る他の計測装置を用いてもよい。
【0089】
更に、上記の各実施の形態では、糸状部材の他方端部は露出している鋼製チェーンの一部に取り付けられるものであったが、弾性体の途中に取り付けられてもよい。
【0090】
更に、上記の第3の実施の形態及び第4の実施の形態では、糸状部材の他方端部は鋼製チェーンのシャックル部に接続するものであったが、連結チェーンに接続してもよい。
【0091】
更に、上記の各実施の形態では、装置本体は特定構造により支持部材の特定箇所に固定されていたが、支持部材に固定されれば他の構造及び支持部材の他の箇所に固定されてもよい。
【0092】
更に、上記の各実施の形態では、装置本体は支持部材に固定されていたが、捕捉部材に固定されていてもよい。
【0093】
更に、上記の各実施の形態では、報知装置は無線にて報知するものであったが、有線にて報知してもよい。
【0094】
更に、上記の各実施の形態では、報知装置は外部の情報管理システムに報知するものであったが、外部に変位情報を報知するものであればよい。例えば、単なる警報等であってもよい。
【0095】
更に、上記の各実施の形態では、報知装置は装置本体に組み込まれていたが、変位計測装置とは別に設置されるものであってもよい。
【0096】
更に、上記の各実施の形態では、流下物捕捉体は特定構造を有するものであったが、これら以外の構造を有するものであってもよい。
【0097】
更に、上記の各実施の形態では、堆積量推測工程は情報管理システムにより行われていたが、変位情報に基づいて人により堆積量推測工程が行われてもよい。
【符号の説明】
【0098】
1…砂防堰堤
2…流路
4…流路
10…流下物捕捉体
11a、11b…捕捉部材
12…鋼製チェーン
13…弾性体
15…支持部材
20…変位計測装置
21…装置本体
22…糸状部材
23…一方端部
24…他方端部
28…変位情報取得手段
29…報知装置
30…流下物捕捉体
40…流下物捕捉体
41a、41b…捕捉部材
42…鋼製チェーン
43a、43b…弾性体
45a、45b、45c、45d…支持部材
50…流下物捕捉体
100…推測システム
103…情報管理システム
尚、各図中同一符号は同一又は相当部分を示す。