(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-22
(45)【発行日】2025-01-30
(54)【発明の名称】一本鎖ポリヌクレオチド
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20250123BHJP
C07F 9/6561 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C07F9/6561 Z CSP
(21)【出願番号】P 2021574710
(86)(22)【出願日】2021-01-29
(86)【国際出願番号】 JP2021003332
(87)【国際公開番号】W WO2021153762
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2020015404
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年(令和元年)度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、先端的バイオ創薬等基盤技術開発事業、研究開発課題名「核酸医薬への応用を目指した非環状型人工核酸の開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 浩之
(72)【発明者】
【氏名】神谷 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 史経
(72)【発明者】
【氏名】村山 恵司
(72)【発明者】
【氏名】横山 純也
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-142229(JP,A)
【文献】特表2008-510679(JP,A)
【文献】特表平10-504802(JP,A)
【文献】ChemBioChem,2017年,Vol. 18,pp. 1917-1922
【文献】内多潔,アンチセンス核酸の分子設計,東亞合成研究年報 TREND,1998年,創刊号,pp. 52-56
【文献】小比賀聡ほか,アンチセンス核酸医薬のデザイン戦略,日本薬理学雑誌,2016年,Vol. 148,pp. 100-104
【文献】Peptide Science 2016,2017年02月,pp. 217-218
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/113
C07F 9/6561
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非環状型ポリヌクレオチド構成単位を含む回文構造を含む一本鎖ポリヌクレオチドにおいて、回文構造中のアデニン及び/又はそのアナログがジアミノプリンに置き換えられ且つ前記アデニンの相補位置のチミン及び/又はそのアナログがチオウラシル誘導体に置き換えられてなる、一本鎖ポリヌクレオチド。
【請求項2】
前記非環状型ポリヌクレオチド構成単位が一般式(1):
【化1】
[式中:R
1及びR
2は同一又は異なって水素原子又は有機基を示す(但し、R
1及びR
2が両方有機基である場合を除く)。Baseは核酸塩基を示す。]
で表される構成単位である、請求項1に記載の一本鎖ポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記R
1が水素原子又は鎖状炭化水素基であり、且つ前記R
2が水素原子である、請求項2に記載の一本鎖ポリヌクレオチド。
【請求項4】
前記回文構造が、一般式(2):A
1-B-A
2(式中:A
1及びA
2の塩基長は3以上であり、A
1及びA
2は互いに相補的な塩基配列を示す。Bの塩基長は0~(A
1の塩基長+A
2の塩基長)/4の整数である。)で示される塩基配列からなる一本鎖ポリヌクレオチドである、請求項1~3のいずれかに記載の一本鎖ポリヌクレオチド。
【請求項5】
前記回文構造が前記非環状型ポリヌクレオチド構成単位からなる、請求項1~4のいずれかに記載の一本鎖ポリヌクレオチド。
【請求項6】
前記ジアミノプリン及び前記チオウラシル誘導体のそれぞれの数が2以上である、請求項1~5のいずれかに記載の一本鎖ポリヌクレオチド。
【請求項7】
塩基長が6~500である、請求項1~6のいずれかに記載の一本鎖ポリヌクレオチド。
【請求項8】
細胞内在性ポリヌクレオチドに対して相補的である、請求項1~7のいずれかに記載の一本鎖ポリヌクレオチド。
【請求項9】
抗miRNA又は抗mRNAポリヌクレオチドである、請求項1~8のいずれかに記載の一本鎖ポリヌクレオチド。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の一本鎖ポリヌクレオチドを含む、二本鎖ポリヌクレオチド。
【請求項11】
一般式(3):
【化2】
[式中:R
1及びR
2は同一又は異なって水素原子又は有機基を示す(但し、R
1及びR
2が両方有機基である場合を除く)。R
3及びR
4は同一又は異なって水酸基の保護基を示す。R
5及びR
6は同一又は異なってアルキル基を示す。Base’は、ジアミノプリンのアミノ基が酸で除去可能な保護基で保護されてなる核酸塩基、又はチオウラシル誘導体のチオカルボニル基が酸で除去可能な保護基で保護されてなる核酸塩基を示す。]
で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【請求項12】
前記化合物が、一般式(3A)又は(3B):
【化3】
[式中:R
1、R
2 / R
3、R
4、R
5及びR
6は前記に同じである。R
7、R
8、R
9、R
10及びR
11は同一又は異なって酸で除去可能な保護基を示す。R
12は水素原子又はアルキル基を示す。]で表される化合物である、請求項11に記載の化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【請求項13】
前記R
7、前記R
8、前記R
9及び前記R
10がBoc基であり、且つ前記R
9がMMPM基である、請求項12に記載の化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【請求項14】
前記R
3が一般式(4):
【化4】
[式中:R
31、R
32及びR
33は同一又は異なって水素原子又はアルコキシ基を示す。]で表される基であり、前記R
4が-(CH
2)
2-CNであり、前記R
5及びR
6がイソプロピル基である、請求項11~13のいずれかに記載の化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【請求項15】
請求項11~14のいずれかに記載の化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物をアミダイトモノマーとして使用する、一本鎖ポリヌクレオチドのホスホロアミダイト法による製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一本鎖ポリヌクレオチド等に関する。
【背景技術】
【0002】
SNA(serinol nucleic acid)、aTNA(acyclic threoninol nucleic acid)等の人工ポリヌクレオチドは、配列特異的にDNA及びRNAを認識することが報告されている(非特許文献1及び2)。これらは、糖骨格を有さない非環状型ポリヌクレオチドであるので、生体内の酵素による分解に対して耐性が高い。また、合成が容易であるといわれている。このため、非環状型ポリヌクレオチドは、抗miRNA、抗mRNA、siRNA等、さらにはモレキュラービーコン等としての利用が期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】H. Kashida, K. Murayama, T. Toda, H. Asanuma, Angew. Chem. Int. Ed. 2011, 50, 1285-1288.
【文献】K. Murayama, H. Kashida, H. Asanuma, Chem.Commun.,2015,51,6500-6503.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、研究を進める中で、非環状型ポリヌクレオチドが一般式(2):A1-B-A2(式中:A1及びA2は互いに相補的な塩基配列を示す。Bは任意の塩基配列を示す。)で示される回文構造を含む場合は、多少のミスマッチがあっても自己二重鎖を形成してしまい、対象ポリヌクレオチド(生体内のmiRNA、mRNA等)に結合できない、という問題が存在することを見出した。
【0005】
そこで、本発明は、非環状型ポリヌクレオチド構成単位を含む回文構造を含む一本鎖ポリヌクレオチドの自己二重鎖の形成を抑制する一方で、miRNA等の対象ポリヌクレオチドに対する結合性を高めることができる技術を、提供することを課題とする。また、別の側面において、本発明は、非環状型ポリヌクレオチド構成単位を含む回文構造を含む一本鎖ポリヌクレオチドのアンチセンス活性を向上させる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意研究を進めた結果、非環状型ポリヌクレオチド構成単位を含む回文構造を含む一本鎖ポリヌクレオチドにおいて、回文構造中のアデニンがジアミノプリンに置き換えられ且つ前記アデニンの相補位置のチミンがチオウラシル誘導体に置き換えられてなる、一本鎖ポリヌクレオチド、であれば、上記課題を解決できることを見出した。
【0007】
また、ジアミノプリン及び/又はチオウラシル誘導体を含む非環状型一本鎖ポリヌクレオチドをホスホロアミダイト法により合成する場合において、ジアミノプリン及びチオウラシル誘導体の従来のアミダイトモノマーを使用すると、多種の不純物が残ってしまう。本発明者は、さらに研究を進めた結果、ジアミノプリン及びチオウラシル誘導体の非環状型アミダイトモノマーにおける塩基の保護基として、酸で除去可能な保護基を採用することで、この問題を解決できることを見出した。
【0008】
本発明者は、これらの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0009】
項1.
非環状型ポリヌクレオチド構成単位を含む回文構造を含む一本鎖ポリヌクレオチドにおいて、回文構造中のアデニン及び/又はそのアナログがジアミノプリンに置き換えられ且つ前記アデニンの相補位置のチミン及び/又はそのアナログがチオウラシル誘導体に置き換えられてなる、一本鎖ポリヌクレオチド。
【0010】
項2.
前記非環状型ポリヌクレオチド構成単位が一般式(1):
【0011】
【化1】
[式中:R
1及びR
2は同一又は異なって水素原子又は有機基を示す(但し、R
1及びR
2が両方有機基である場合を除く)。Baseは核酸塩基を示す。]
で表される構成単位である、項1に記載の一本鎖ポリヌクレオチド。
【0012】
項3.
前記R1が水素原子又は鎖状炭化水素基であり、且つ前記R2が水素原子である、項2に記載の一本鎖ポリヌクレオチド。
【0013】
項4.
前記回文構造が、一般式(2):A1-B-A2(式中:A1及びA2の塩基長は3以上であり、A1及びA2は互いに相補的な塩基配列を示す。Bの塩基長は0~(A1の塩基長+A2の塩基長)/4の整数である。)で示される塩基配列からなる一本鎖ポリヌクレオチドである、項1~3のいずれかに記載の一本鎖ポリヌクレオチド。
【0014】
項5.
前記回文構造が前記非環状型ポリヌクレオチド構成単位からなる、項1~4のいずれかに記載の一本鎖ポリヌクレオチド。
【0015】
項6.
前記ジアミノプリン及び前記チオウラシル誘導体のそれぞれの数が2以上である、項1~5のいずれかに記載の一本鎖ポリヌクレオチド。
【0016】
項7.
塩基長が6~500である、項1~6のいずれかに記載の一本鎖ポリヌクレオチド。
【0017】
項8.
細胞内在性ポリヌクレオチドに対して相補的である、項1~7のいずれかに記載の一本鎖ポリヌクレオチド。
【0018】
項9.
抗miRNA又は抗mRNAポリヌクレオチドである、項1~8のいずれかに記載の一本鎖ポリヌクレオチド。
【0019】
項10.
項1~9のいずれかに記載の一本鎖ポリヌクレオチドを含む、二本鎖ポリヌクレオチド。
【0020】
項11.
一般式(3):
【0021】
【化2】
[式中:R
1及びR
2は同一又は異なって水素原子又は有機基を示す(但し、R
1及びR
2が両方有機基である場合を除く)。R
3及びR
4は同一又は異なって水酸基の保護基を示す。R
5及びR
6は同一又は異なってアルキル基を示す。Base’は、ジアミノプリンのアミノ基が酸で除去可能な保護基で保護されてなる核酸塩基、又はチオウラシル誘導体のチオカルボニル基が酸で除去可能な保護基で保護されてなる核酸塩基を示す。]
で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【0022】
項12.
前記化合物が、一般式(3A)又は(3B):
【0023】
【化3】
[式中:R
1、R
2 / R
3、R
4、R
5及びR
6は前記に同じである。R
7、R
8、R
9、R
10及びR
11は同一又は異なって酸で除去可能な保護基を示す。R
12は水素原子又はアルキル基を示す。]で表される化合物である、項11に記載の化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【0024】
項13.
前記R7、前記R8、前記R9及び前記R10がBoc基であり、且つ前記R9がMMPM基である、項12に記載の化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【0025】
項14.
前記R3が一般式(4):
【0026】
【化4】
[式中:R
31、R
32及びR
33は同一又は異なって水素原子又はアルコキシ基を示す。]で表される基であり、前記R
4が-(CH
2)
2-CNであり、前記R
5及びR
6がイソプロピル基である、項11~13のいずれかに記載の化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【0027】
項15.
項11~14のいずれかに記載の化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物をアミダイトモノマーとして使用する、一本鎖ポリヌクレオチドのホスホロアミダイト法による製造方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、自己二重鎖の形成が抑制されつつ、miRNA等の対象ポリヌクレオチドに対する結合性がより高い、非環状型ポリヌクレオチド構成単位を含む回文構造を含む一本鎖ポリヌクレオチドを提供することができる。また、本発明によれば、非環状型ポリヌクレオチド構成単位を含む回文構造を含む一本鎖ポリヌクレオチドのアンチセンス活性を向上させることができる。さらに、本発明によれば、ジアミノプリン及び/又はチオウラシル誘導体を含む非環状型一本鎖ポリヌクレオチドを効率的に合成することができるアミダイトモノマー、及び当該ポリヌクレオチドの合成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】合成例3で合成したSNAポリヌクレオチドのHPLCプロファイルを示す。
【
図2】試験例1で得られた融解曲線を示す。縦軸が260 nmでの吸光度の相対値を示し、横軸が温度を示す。
【
図3】試験例2で得られた融解曲線を示す。縦軸が260 nmでの吸光度の相対値を示し、横軸が温度を示す。
【
図4】試験例2で得られたNative MSプロファイルを示す。
【
図5】試験例2で得られたポリアクリルアミドゲル電気泳動図を示す。
【
図6】合成例4の一本鎖ポリヌクレオチドの配列及び試験例3の結果を示す。グレー部分は自己相補領域を示す。
【
図7】試験例4の結果を示す。縦軸はルシフェラーゼ活性の相対値を示す。横軸、最左は、コントロールのレポータープラスミド(miR21 binding site無し)を導入した場合を示し、それ以外はmiR21 binding siteを含むレポータープラスミドを導入した場合を示す。また、横軸中、AMOを導入した場合については、その名称を示す。
【
図8】合成例5の一本鎖ポリヌクレオチドの配列及び試験例5の結果を示す。グレー部分は自己相補領域を示す。
【
図9】合成例6の一本鎖ポリヌクレオチドの配列及び試験例6の結果を示す。を示す。グレー部分は自己相補領域を示す。
【
図10】試験例7の結果を示す。縦軸及び横軸については
図7と同様である。
【
図11】合成例7の一本鎖ポリヌクレオチドの配列及び試験例8の結果を示す。
【
図12】試験例9の結果を示す。縦軸及び横軸については
図7と同様である。
【
図13】合成例8の一本鎖ポリヌクレオチドの配列及び試験例10の結果を示す。グレー部分は自己相補領域を示す。
【
図14】試験例11の結果を示す。縦軸及び横軸については
図7と同様である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0031】
1.一本鎖ポリヌクレオチド
本発明は、その一態様において、非環状型ポリヌクレオチド構成単位を含む回文構造を含む一本鎖ポリヌクレオチドにおいて、回文構造中のアデニンがジアミノプリンに置き換えられ且つ前記アデニンの相補位置のチミンがチオウラシル誘導体に置き換えられてなる、一本鎖ポリヌクレオチド(本明細書において、「本発明の一本鎖ポリヌクレオチド」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0032】
非環状型ポリヌクレオチド構成単位は、ポリヌクレオチドを構成するヌクレオチドに相当する構成単位であり、糖骨格を含まないものである限り、特に制限されない。非環状型ポリヌクレオチド構成単位として、代表的には、一般式(1):
【0033】
【化5】
[式中:R
1及びR
2は同一又は異なって水素原子又は有機基を示す(但し、R
1及びR
2が両方有機基である場合を除く)。Baseは核酸塩基を示す。]
で表される構成単位が挙げられる。
【0034】
有機基は、特に制限されず、例えば炭化水素基が挙げられる。
【0035】
炭化水素基としては、好ましくは鎖状炭化水素基が挙げられる。鎖状炭化水素基としては、例えばアルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられ、中でも好ましくはアルキル基が挙げられる。該アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、3-メチルペンチル基等が挙げられる。炭化水素基の炭素原子数は、特に制限されない。該炭素原子数は、好ましくは1~8、より好ましくは1~6、さらに好ましくは1~4、よりさらに好ましくは1~2、特に好ましくは1である。またクリック反応などで様々な官能基の導入が可能となるアルキニル基(-C≡C-、-C≡CH)を末端あるいは内部に含むようなアルキル基は、さらに好ましい。
【0036】
有機基としては、上記以外にも、各種分子、例えばポリヌクレオチドの修飾に使用される分子から1つの水素原子又は官能基を除いてなる一価の基を採用することができる。このような分子としては、例えばポリエチレングリコール鎖、色素分子、ポリカチオン(スペルミン)、グルーブバインダー、アミノ基、ヒドロキシル基、チオール基、金属配位子、光開裂性官能基、糖鎖等が挙げられる。これらは、直接又は間接的に、上記構成単位の骨格に連結することができる。例えば、クリック反応(例えば上述のアルキンとアジドとの反応)を利用して、連結することができる。
【0037】
SNAやLaTNA等の非環状型ポリヌクレオチドの分子モデリングにより、R1及びR2に比較的大きな有機基を採用しても、二重鎖形成能やその構造に影響が無いと考えられる。
【0038】
本発明の好ましい態様においては、miRNA等の対象ポリヌクレオチドに対する結合性の観点から、R1が水素原子又は鎖状炭化水素基であり、且つR2が水素原子であることが好ましい。
【0039】
核酸塩基としては、核酸を構成する塩基を特に制限無く採用することができる。核酸を構成する塩基には、RNA、DNA等の天然核酸中の典型的な塩基(アデニン(A)、チミン(T)、ウラシル(U)、グアニン(G)、シトシン(C)等)のみならず、これ以外の塩基、例えばヒポキサンチン(I)、修飾塩基等も包含される。修飾塩基としては、例えば、シュードウラシル、3-メチルウラシル、ジヒドロウラシル、5-アルキルシトシン(例えば、5-メチルシトシン)、5-アルキルウラシル(例えば、5-エチルウラシル)、5-ハロウラシル(5-ブロモウラシル)、6-アザピリミジン、6-アルキルピリミジン(6-メチルウラシル)、4-アセチルシトシン、5-(カルボキシヒドロキシメチル)ウラシル、5’-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル、1-メチルアデニン、1-メチルヒポキサンチン、2,2-ジメチルグアニン、3-メチルシトシン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、N6-メチルアデニン、7-メチルグアニン、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メチルカルボニルメチルウラシル、5-メチルオキシウラシル、5-メチル-2-チオウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸、2-チオシトシン、プリン、2-アミノプリン、イソグアニン、インドール、イミダゾール、キサンチン等が挙げられる。
【0040】
一般式(1)中、*1及び*2は、ポリヌクレオチドを構成する際の方向を示す。R1が有機基でありR2が水素原子である場合は*1が3’側であり*2が1’側である。R1が水素原子でありR2が有機基である場合は*1が1’側であり*2が3’側である。R1が水素原子でありR2が水素原子である場合は*1が(S)側であり*2が(R)側である。
【0041】
回文構造は、自己二重鎖(同一分子内(ヘアピン)、又は分子間(二量体))を形成し得る塩基配列からなる一本鎖ポリヌクレオチドである限り、特に制限されない。
【0042】
回文構造は、上記非環状型ポリヌクレオチド構成単位を含む。回文構造を構成するポリヌクレオチド構成単位(ヌクレオチド数)100%に対する、非環状型ポリヌクレオチド構成単位の割合は、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは100%(すなわち、回文構造が非環状型ポリヌクレオチド構成単位からなる)である。なお、本発明の一本鎖ポリヌクレオチドを構成するポリヌクレオチド構成単位(ヌクレオチド数)100%に対する、非環状型ポリヌクレオチド構成単位の割合は、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは100%(すなわち、本発明の一本鎖ポリヌクレオチドが非環状型ポリヌクレオチド構成単位からなる)である。上記割合の少なくとも一部を満たす場合には自己二重鎖形成の問題がより一層顕著になるが故に本発明の技術の適用による効果がより一層顕著になる。また、上記割合の少なくとも一部を満たすことにより、生体内の酵素による分解に対する耐性をより一層高めることができる。
【0043】
回文構造は、典型的には、一般式(2):A1-B-A2で示される塩基配列からなる一本鎖ポリヌクレオチドである。
【0044】
A1及びA2は互いに相補的な塩基配列を示す。すなわち、A1が*1-ATGCCGなる塩基配列である場合、A2は、該塩基配列と相補的な塩基配列、典型的には*1-CGGCATなる塩基配列(完全に相補的な塩基配列)である。なお、本明細書において、「相補的」とは、塩基の完全な相補関係(完全相補的:例えばAとT又はU、及びGとC)のみならず、ストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができる程度の相補関係も包含される。ストリンジェントな条件は、Berger and Kimmel (1987, Guide to Molecular Cloning Techniques Methods in Enzymology, Vol. 152, Academic Press, San Diego CA) に教示されるように、核酸の融解温度(Tm)に基づいて決定することができる。例えばハイブリダイズ後の洗浄条件として、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の条件を挙げることができる。かかる条件で洗浄してもハイブリダイズ状態を維持するものであることが好ましい。特に制限されないが、より厳しいハイブリダイズ条件として「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度、さらに厳しいハイブリダイズ条件として「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の洗浄条件を挙げることができる。具体的には、A2は、A1に完全に相補的な塩基配列に対して、例えば85%以上の同一性、好ましくは90%以上の同一性、より好ましくは95%以上の同一性、さらに好ましくは98%以上の同一性、よりさらに好ましくは99%以上の同一性、特に好ましくは100%の同一性を有する塩基配列である。
【0045】
A1及びA2の塩基長は3以上であることが好ましい。該塩基長は、好ましくは4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上である。該塩基長の上限は、特に制限されず、例えば100、50、20、10である。Bの塩基長は、好ましくは0~(A1の塩基長+A2の塩基長)/4の整数である。また、回文構造の塩基長は、好ましくは6以上、より好ましくは8以上、10以上、12以上、14以上、16以上、18以上、20以上である。回文構造の塩基長の上限は特に制限されず、例えば200、100、50、20である。これらの範囲の少なくとも一部を満たす場合には自己二重鎖形成の問題がより一層顕著になるが故に本発明の技術の適用による効果がより一層顕著になる。
【0046】
本発明の一本鎖ポリヌクレオチドにおける回文構造の割合(本発明の一本鎖ポリヌクレオチドを構成するポリヌクレオチド構成単位(ヌクレオチド数)100%に対する、回文構造を構成するポリヌクレオチド構成単位の割合)は、自己二重鎖を形成し得る限り特に制限されない。該割合は、例えば10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上、よりさらに好ましくは50%以上である。これらの範囲を満たす場合には自己二重鎖形成の問題がより一層顕著になるが故に本発明の技術の適用による効果がより一層顕著になる。
【0047】
本発明の一本鎖ポリヌクレオチドにおいて、非環状型ポリヌクレオチド構成単位以外の構成単位は、特に制限されず、天然核酸、aTNA及びSNAを含む各種人工核酸の構成単位を採用することができる。採用し得る核酸として、具体的には、DNA、RNA等の他にも、次に例示するように、公知の化学修飾が施されたものであってもよい。ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えば、ホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネート等の化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各リボヌクレオチドの糖(リボース)の2’位の水酸基を、-OR(Rは、例えばCH3(2´-O-Me)、CH2CH2OCH3(2´-O-MOE)、CH2CH2NHC(NH)NH2、CH2CONHCH3、CH2CH2CN等を示す)に置換してもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換などが挙げられる。さらには、リン酸部分やヒドロキシル部分が、例えば、ビオチン、アミノ基、低級アルキルアミン基、アセチル基等で修飾されたものなどを挙げることができるが、これに限定されない。また、ヌクレオチドの糖部の2´酸素と4´炭素を架橋することにより、糖部のコンフォーメーションをN型に固定したものであるBNA(LNA)等もまた、好ましく用いられ得る。
【0048】
本発明の一本鎖ポリヌクレオチドは、回文構造(ジアミノプリン及びチオウラシル誘導体を含まない)中のアデニン及び/又はそのアナログがジアミノプリン(2,6-ジアミノプリン)に置き換えられ且つ前記アデニンの相補位置のチミン及び/又はそのアナログがチオウラシル誘導体(2-チオウラシル、2-チオチミン等)に置き換えられてなる。相補位置とは、回文構造同士が相補的になるように並べられた場合に、対向する位置である。例えば回文構造の塩基配列が*1-TAACGTTAなる塩基配列である場合、*1側から2番目のAの相補位置は、*1側から7番目のTの位置である。
【0049】
これらのジアミノプリン及びチオウラシル誘導体のそれぞれの数は、2つ以上であることが特に好ましい。これにより、非環状型ポリヌクレオチド構成単位を含む回文構造を含む一本鎖ポリヌクレオチドの自己二重鎖の形成を抑制する一方で、miRNA等の対象ポリヌクレオチドに対する結合性をより一層高めることができる。該数の上限は特に制限されず、例えば50、20、10、5である。また、ジアミノプリン及びチオウラシル誘導体は、それぞれ及び/又は互いに隣り合って存在することが好ましい。
【0050】
回文構造の塩基数100%に対するジアミノプリン及びチオウラシル誘導体の合計数の割合は、例えば10~90%、好ましくは20~80%、より好ましくは30~70%、さらに好ましくは40~60%である。
【0051】
本発明の一本鎖ポリヌクレオチドにおいて、回文構造以外のチミン及び/又はそのアナログは、チオウラシル誘導体に置き換えられていないことが好ましい。
【0052】
本発明の一本鎖ポリヌクレオチドの塩基長は、特に制限されず、例えば6~10000である。該塩基長は、合成容易性等の観点から、好ましくは6~1000、より好ましくは6~500、さらに好ましくは6~200、よりさらに好ましくは6~100、とりわけ好ましくは6~50である。
【0053】
本発明の一本鎖ポリヌクレオチドは、他の分子が連結されたものも包含する。他の分子としては、特に制限されず、例えば蛍光標識物、ビオチン、アジド、エチニル基等が挙げられる。蛍光標識物としては、フルオレセイン、ローダミン、テキサスレッド、テトラメチルローダミン、カルボキシローダミン、フィコエリスリン、6-FAM(商標)、Cy(登録商標)3、Cy(登録商標)5、Alexa Fluor(登録商標)のシリーズ等が挙げられる。
【0054】
本発明の一本鎖ポリヌクレオチドは対象ポリヌクレオチドに対して結合することにより、種々の機能を発揮することができる。このため、本発明の一本鎖ポリヌクレオチド(好ましくは回文構造)は、対象ポリヌクレオチドの全部又は一部に対して相補的である。対象ポリヌクレオチドとしては、例えばmiRNA、mRNA、DNA等が挙げられる。対象ポリヌクレオチドは、細胞内在性のポリヌクレオチドであることが好ましい。本発明の一本鎖ポリヌクレオチドは、抗miRNAポリヌクレオチドとして好適に使用することができる。
【0055】
また、本発明は、その一態様において、本発明の一本鎖ポリヌクレオチドを含む、二本鎖ポリヌクレオチドを提供することも可能である。
【0056】
本発明の一本鎖ポリヌクレオチドは、公知の遺伝子工学的手法、人工核酸の製造手法等に従って容易に作製することができる。例えば、PCR、制限酵素切断、核酸連結技術等を利用して作製することができる。また、好適には、後述の本発明の製造方法に従って作製することができる。
【0057】
本発明の一本鎖ポリヌクレオチド、及び上記二本鎖ポリヌクレオチド(これらをまとめて、「本発明のポリヌクレオチド」と示すこともある。)は、医薬、試薬等(以下、これらを総称して「本発明の剤」と示すこともある。)に利用することができる。
【0058】
本発明の剤は、本発明のポリヌクレオチドを含有する限りにおいて特に制限されず、必要に応じてさらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、薬学的に許容される成分であれば特に限定されるものではないが、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、保湿剤、着色料、香料、キレート剤等が挙げられる。
【0059】
本発明の剤の使用態様は、特に制限されず、その種類に応じて適切な使用態様を採ることができる。本発明の剤は、例えばin vitroで使用する(例えば、培養細胞の培地に添加する)こともできるし、in vivoで使用する(例えば、動物に投与する)こともできる。
【0060】
本発明の剤の適用対象は特に限定されず、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ等の種々の哺乳類動物; 動物細胞等が挙げられる。細胞の種類も特に制限されず、例えば血液細胞、造血幹細胞・前駆細胞、配偶子(精子、卵子)、線維芽細胞、上皮細胞、血管内皮細胞、神経細胞、肝細胞、ケラチン生成細胞、筋細胞、表皮細胞、内分泌細胞、ES細胞、iPS細胞、組織幹細胞、がん細胞等が挙げられる。
【0061】
本発明の剤を抗がん剤として用いる場合、そのがん細胞の種類は特に限定されず、例えば腎臓がん細胞、白血病細胞、食道がん細胞、胃がん細胞、大腸がん細胞、肝臓がん細胞、すい臓がん細胞、肺がん細胞、前立腺がん細胞、皮膚がん細胞、乳がん細胞、子宮頚がん細胞等が挙げられる。
【0062】
本発明の剤は、任意の剤形、例えば錠剤(口腔内側崩壊錠、咀嚼可能錠、発泡錠、トローチ剤、ゼリー状ドロップ剤などを含む)、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤(ドリンク剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)、ゼリー剤などの経口製剤形態、注射用製剤(例えば、点滴注射剤(例えば点滴静注用製剤等)、静脈注射剤、筋肉注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤)、外用剤(例えば、軟膏剤、パップ剤、ローション剤)、坐剤吸入剤、眼剤、眼軟膏剤、点鼻剤、点耳剤、リポソーム剤等の非経口製剤形態を採ることができる。
【0063】
本発明の剤の投与経路としては、所望の効果が得られる限り特に制限されず、経口投与、経管栄養、注腸投与等の経腸投与; 経静脈投与、経動脈投与、筋肉内投与、心臓内投与、皮下投与、皮内投与、腹腔内投与等の非経口投与等が挙げられる。 本発明の剤中の本発明のポリヌクレオチドの含有量は、使用態様、適用対象、適用対象の状態等に左右されるものであり、限定はされないが、例えば0.0001~95重量%、好ましくは0.001~50重量%とすることができる。
【0064】
本発明の剤を動物に投与する場合の投与量は、薬効を発現する有効量であれば特に限定されず、通常は、有効成分である本発明のポリヌクレオチドの重量として、一般に経口投与の場合には一日あたり0.1~1000 mg/kg体重、好ましくは一日あたり0.5~50 mg/kg体重であり、非経口投与の場合には一日あたり0.01~100 mg/kg体重、好ましくは0.1~10 mg/kg体重である。上記投与量は1日1回又は2~3回に分けて投与するのが好ましく、年齢、病態、症状により適宜増減することもできる。
【0065】
2.アミダイトモノマー
本発明は、その一態様において、一般式(3):
【0066】
【化6】
[式中:R
1及びR
2は同一又は異なって水素原子又は有機基を示す(但し、R
1及びR
2が両方有機基である場合を除く)。R
3及びR
4は同一又は異なって水酸基の保護基を示す。R
5及びR
6は同一又は異なってアルキル基を示す。Base’は、ジアミノプリンのアミノ基が酸で除去可能な保護基で保護されてなる核酸塩基、又はチオウラシル誘導体のチオカルボニル基が酸で除去可能な保護基で保護されてなる核酸塩基を示す。]
で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物(本明細書において、「本発明のアミダイトモノマー」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0067】
R1、R2、ジアミノプリン、及びチオウラシル誘導体については、上記「1.一本鎖ポリヌクレオチド」の項の説明の通りである。
【0068】
R3としては、水酸基の保護基として機能し得るものであれば特に制限なく使用することができ、アミダイトモノマーで使用される公知の保護基を広く使用することができる。R3としては、好ましくは一般式(4):
【0069】
【化7】
[式中:R
31、R
32及びR
33は同一又は異なって水素原子又はアルコキシ基を示す。]で表される基が挙げられる。
【0070】
R31、R32及びR33は1つが水素であり、残りの2つがアルコキシ基であることが好ましく、アルコキシ基としてはメトキシ基が特に好ましい。
【0071】
R4としては、水酸基の保護基として機能し得るものであれば特に制限なく使用することができ、アミダイトモノマーで使用される公知の保護基を広く使用することができる。R4としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、ハロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールアルキル基、シクロアルケニル基、シクロアルキルアルキル基、シクリルアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アミノアルキル基、アルコキシアルキル基、ヘテロシクリルアルケニル基、ヘテロシクリルアルキル基、ヘテロアリールアルキル基、シリル基、シリルオキシアルキル基、モノ、ジ又はトリアルキルシリル基、モノ、ジ又はトリアルキルシリルオキシアルキル基などが挙げられ、これらは電子求引基で置換されていてもよい。
【0072】
R4として、好ましくは、電子求引基で置換されたアルキル基である。当該電子求引基としては、例えば、シアノ基、ニトロ基、アルキルスルホニル基、ハロゲン、アリールスルホニル基、トリハロメチル基、トリアルキルアミノ基などが挙げられ、好ましくはシアノ基である。R4は、特に好ましくは-(CH2)2-CNである。
【0073】
R5及びR6で示されるアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれでもよく、好ましくは炭素数1~12のアルキル基、より好ましくは炭素数1~6のアルキル基である。アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n-プロビル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、及びヘキシルが挙げられる。ここでのアルキル基には、アルコキシ基などのアルキル部分も含まれる。R5及びR6は互いに結合して環状構造を形成していてもよい。
【0074】
R5及びR6は、特に好ましくは共にイソプロピル基である。
【0075】
酸で除去可能な保護基としては、特に制限されず、例えばBoc基(tert-ブトキシカルボニル基)、MMPM基(4-メトキシ-2-メチルベンジル基)等が挙げられる。
【0076】
一般式(3)で表される化合物の好ましい態様としては、一般式(3A)又は(3B):
【0077】
【化8】
[式中:R
1、R
2 / R
3、R
4、R
5及びR
6は前記に同じである。R
7、R
8、R
9、R
10及びR
11は同一又は異なって酸で除去可能な保護基を示す。R
12は水素原子又はアルキル基(好ましくはメチル基)を示す。]
で表される化合物が挙げられる。
【0078】
本発明のアミダイトモノマーの塩としては、特に制限されず、例えば、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩等の無機塩基との塩;メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン等の有機塩基との塩;リジン、オルニチン、アルギニン等の塩基性アミノ酸との塩及びアンモニウム塩が挙げられる。当該塩は、酸付加塩であってもよく、かかる塩としては、具体的には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、コハク酸、乳酸、マレイン酸、クエン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、エタンスルホン酸等の有機酸;アスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸との酸付加塩が挙げられる。本発明のアミダイトモノマーには、水和物、溶媒和物、結晶多形なども含まれる。
【0079】
本発明のアミダイトモノマーは、後述する実施例に記載の方法に則して又は必要によりこれらの方法に適宜変更を加えた方法により製造することができる。
【0080】
3.一本鎖ポリヌクレオチドの製造方法
本発明は、その一態様において、本発明のアミダイトモノマーを使用する、一本鎖ポリヌクレオチドのホスホロアミダイト法による製造方法(本明細書において、「本発明の製造方法」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0081】
ホスホロアミダイト法は、公知の方法に従って、例えば市販されている核酸の自動合成装置等を用いて実施することができる。具体的には、(A)5’位(或いはそれに相当する位置)の水酸基を脱保護する工程、(B)本発明のアミダイトモノマーを縮合させる工程、(C)未反応の化合物の5’位(或いはそれに相当する位置)の水酸基をキャッピングする工程、(D)亜リン酸基をリン酸基又はチオリン酸基に変換する工程、(E)得られた化合物を固相担体から切り出し、2’位及び核酸塩基の水酸基を脱保護する工程、(F)5’位(或いはそれに相当する位置)の水酸基を脱保護する工程などの工程を含む。(A)~(D)の工程を繰り返すことにより、所望の鎖長のポリヌクレオチド骨格を含有する化合物を製造することができる。
【0082】
(D)工程においては、酸化剤として、tert-ブチルヒドロペルオキシドを使用することが好ましい。
【0083】
(E)工程における脱保護においては、通常、先に、TFA等の酸により本発明のアミダイトモノマー由来の核酸塩基の保護基を除去し、その後、アンモニア水等の塩基による脱保護が行われる。TFA等の酸による脱保護の時間は、好ましくは2~6時間である。塩基による脱保護は、処理時間が長いとチオウラシル誘導体が壊れてしまうので、これを防ぐために、好ましくは4~6時間程度の処理時間である。
【0084】
得られた一本鎖ポリヌクレオチドは、必要により単離及び精製を行い得る。通常、RNAを沈殿、抽出及び精製する方法を用いることで、単離することができる。具体的には、反応後の溶液にエタノール、イソプロピルアルコールなどのRNAに対して溶解性の低い溶媒を加えることでRNAを沈殿させる方法や、フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコールの溶液を反応溶液に加え、RNAを水層に抽出させる方法が採用される。その後、逆相カラムクロマトグラフィー、陰イオン交換カラムクロマトグラフィー、アフィニティカラムクロマトグラフィー等の公知の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の手法などにより単離、精製することができる。
【0085】
本発明の一本鎖ポリヌクレオチドは、好適には、本発明の製造方法により製造することができる。
【実施例】
【0086】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0087】
合成例1:Boc保護2,6-ジアミノプリンSNAの合成
【0088】
【化9】
試薬及び条件は次の通りである。a) Boc
2O, DMAP, THF, rt, 18 h ; b) NaHCO
3, MeOH-H
2O (2:1), 50℃, 1h, then rt, 18h; c) BrCH
2CO
2Et, K
2CO
3, DMF, rt, 20 h; d) NaOH, MeOH, 1,4-ジオキサン, H
2O, 0 ℃, 10 min; e) DMT-MM, DMF, トリエチルアミン, r.t., 1 h; f) 2-シアノエチルN,N-ジイソプロピルクロロホスホロアミダイト, dry CH
2Cl
2, Et
2N, 0 ℃, 30 min。
【0089】
合成例1-1:化合物2の合成(ステップa)
2,6-ジアミノプリン(化合物1)(5.0 g、33.3 mmol)およびDMAP(0.61g、5.0 mmol)を窒素雰囲気下でTHF(100~200 mL)に溶解した。Boc2O(61.2 g、64.4 mL)をこの溶液に0 ℃で加えた。0 ℃で5分間攪拌した後、混合物を室温で18時間攪拌した。反応終了後、溶媒をエバポレーションにより除去した。残渣をCHCl3で溶解し、次にH2Oと混合した。有機層を回収しMgSO4で乾燥させ、エバポレーションにより溶媒を除去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/ AcOEt、10:3)で精製し、化合物2を得た(収率82%)。
1H-NMR [CDCl3, 500 MHz] δ=8.53 (s, 1H, 8-purine), 1.69 (s, 9H), 1.45 (s, 18H), 1.43 (s, 18H)
13C-NMR [CDCl3, 125 MHz] δ=153.7, 152.9, 151.6, 150.6, 149.7, 145.5, 143.8, 127.8, 87.3, 83.9, 83.2, 41.9, 27.8, 27.7, 27.6
HRMS (FAB) Calcd for compound 2 (M+H+) 651.3348. Found 651.3371.。
【0090】
合成例1-2:化合物3の合成(ステップb)
化合物2(17.6g、27mmol)をAcOEt(400 mL)に溶解し、1 M HCl(30 mL)とNaClの飽和溶液で洗浄した。有機層をMgSO4で乾燥させ、溶媒をエバポレーションにより除去し、真空乾燥させた。混合物をMeOH(200 mL)に溶解し、NaHCO3溶液(90 mL)を加え、混合物を50℃の油浴に入れ、1時間撹拌した。反応終了後、MeOHをエバポレーションにより除去し、H2O(100 mL)を加えた。CHCl3(50 mL)で3回抽出し、有機層を合わせMgSO4で乾燥させ、溶媒をエバポレーションで除去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/ AcOEt、2:1からAcOEt 100%)で精製し、14.3gの化合物3を得た(収率96%)。
1H-NMR [CDCl3, 500 MHz] δ=8.38 (s, 1H), 1.49 (s, 18H), 1.44 (s, 18H)
13C-NMR [CDCl3, 125 MHz] δ=151.66, 150.95, 150.06, 144.99, 83.58, 27.99
HRMS (FAB) Calcd for compound 3 (M+H+) 551.2824. Found 551.2829.。
【0091】
合成例1-3:化合物4の合成(ステップc)
化合物3(14.3g、26.0mmol)およびK2CO3(1.15当量、4.0g、29.9mmol)を窒素雰囲気下で乾燥DMF(60 mL)に懸濁した。ブロモ酢酸エチル(1.1当量、28.6 mmol)を0℃で混合物に滴下し、その後10分間撹拌した。次に、混合物を室温で20時間撹拌した。反応溶液をトルエン共沸で除去した後、H2O(150 mL)を加えた。CHCl3(100 mL)で3回抽出し、有機層を合わせH2Oで洗浄した。有機層をMgSO4で乾燥させ、溶媒をエバポレーション除去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl3/ MeOH、40:1)で精製し、14.6 gの化合物4を得た(収率88%)。
1H-NMR [CDCl3, 500 MHz] δ=8.18 (s, 1H), 5.03 (s, 2H,), 4.27-4.26 (d, 2H), 1.42 (s, 18H), 1.41 (s, 18H), 1.30 (m, 3H)
13C-NMR [CDCl3, 125 MHz] δ=166.69, 154.38, 152.35, 151.18, 150.85, 145.92, 83.84, 83.36, 62.49, 44.47, 27.88, 27.75, 14.16
HRMS (FAB) Calcd for compound 4 (M+H+) 637.3192 Found 637.3197.。
【0092】
合成例1-4:化合物5の合成(ステップd)
化合物4(14.6 g、23 mmol)をMeOH(120 mL)、1,4-ジオキサン(40 mL)に溶解した。次に、2 M NaOH溶液(40 mL)を氷上で加え、10分間攪拌した。反応終了後、2 M HClを加え反応溶液のpHを3に調整し、MeOH, 1,4-ジオキサンをエバポレーションにより除去した。AcOEtで3回抽出し、有機層を合わせH2Oで洗浄した。有機層をMgSO4で乾燥させ、溶媒をエバポレーションで除去し、真空乾燥した。粗生成物(化合物5)をさらに精製することなく次の反応ステップで使用した(quantitative yield)。
1H-NMR [CDCl3, 500 MHz] δ=8.46 (s, 1H), 5.03 (s, 2H), 1.41 (s, 18H), 1.40 (s, 18H)
13C-NMR [CDCl3, 125 MHz] δ=168.9, 154.31, 152.28, 150.94, 150.59, 149.97, 147.2, 126.28, 84.06, 83.61, 27.85, 27.74
HRMS (FAB) Calcd for compound 5 (M+H+) 609.2879. Found 609.2900.。
【0093】
合成例1-5:化合物7の合成(ステップe)
化合物5(5.4 g, 8.8 mmol)をDMFに溶解し、Et3N(3.0当量)およびDMT-MM(1.2当量、5mmol)の存在下で1.96 g(1.0当量、8.0 mmol)の化合物6と縮合させた。反応終了後、CHCl3を加え、有機層を飽和NaHCO3で洗浄した。 混合物をMgSO4で乾燥させた。溶媒をエバポレーションで除去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl3/ MeOH、30:1から10:1, 3 % Et3Nを含む)で精製し、7.44 g(7.6 mmol)の化合物7を得た(収率94%)。
1H-NMR [CDCl3, 500 MHz] δ=8.19 (s, 1H), 7.45-7.20 (m, 9H), 6.88-6.80 (m, 4H), 6.59-6.55 (d, 1H), 4.91-4.75 (dd, 2H), 4.18-4.10 (m, 1H), 3.85-3.80 (m, 1H), 3.79 (s, 6H), 3.70-3.65 (m, 1H), 3.35- 3.20 (m, 2H), 1.40 (s, 18H), 1.39 (s, 18H)
13C-NMR [CDCl3, 125 MHz] δ=165.28, 162.69, 158.69, 154.38, 152.11, 151.13, 151.09, 146.44, 135.79, 130.08, 130.03, 128.12, 128.05, 127.07, 113.35, 86.58, 83.98, 83.67, 62.53, 62.41, 55.31, 51.55, 46.16, 36.58, 31.55; 28.31, 28.21, 27.91, 27.77
HRMS (FAB) Calcd for compound 7 (M+H+) 984.4713. Found 984.4686.。
【0094】
合成例1-6:化合物8の合成(ステップf)
化合物7(6.46 g、6.56 mmol)を脱水CH2Cl2(7 mL)およびEt3N(4.55 mL)に溶解し、窒素雰囲気下、0 ℃で、2-シアノエチルN, N-ジイソプロピルクロロホスホロアミダイト2.2 mL(7.84 mmol)を滴下した。室温で20分攪拌後、反応混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/ AcOEt、4:1から1:1, 3 % Et3Nを含む)で精製し、4.81 g(4.06 mmol)の化合物8を得た(収率62%)。
1H-NMR [CDCl3, 500 MHz] δ=8.23-8.19 (1H), 7.43-7.20 (m, 9H), 6.85-6.82 (m, 4H), 6.37, (m, 1H), 4.93-4.73 (m, 2H), 4.40-4.20 (m, 1H), 4.00-3.80 (m, 2H), 3.79(s, 6H), 3.70-3.60 (m, 1H), 3.61-3.52 (m, 2H), 3.42-3.35 (m, 1H), 3.21-3.15 (m, 1H), 2.70-2.40 (m, 2H), 1.41 (s, 18H), 1.39 (s, 18H), 1.20-1.10 (m, 12H)
13C-NMR [CDCl3, 125 MHz] δ=164.77, 158.58, 154.41, 152.05, 150.84, 150.03, 146.58, 146.48, 144.73, 144.63, 135.91, 135.83, 135.75, 130.13, 130.09, 130.07, 130.04, 128.16, 128.11, 127.93, 126.94, 126.80, 118.59, 118.48, 113.23, 113.20, 86.29, 86.27, 83.73, 83.72, 83.28, 83.24, 65.86, 61.45, 58.54, 58.44, 58.40, 58.29, 55.26, 50.43, 50.37, 45.55, 45.46, 43.18, 43.08, 30.95, 27.82, 27.71, 24.68, 24.62, 20.62, 20.60, 20.60, 20.56, 15.31
31P-NMR [CDCl3, 202 MHz] δ=148.15, 147.71
HRMS (FAB) Calcd for compound 8 (M+H+) 1185.5792. Found 1184.5794.。
【0095】
合成例2:MMPM保護チオウラシルSNAの合成
【0096】
【化10】
試薬及び条件は次の通りである。g) NaBH
4, EtOH, r.t., 5 min ; h) PBr
3, CH
2Cl
2, 0 ℃, 2.5 h ; i) 2-thiouracil, KOH, EtOH, H
2O, r.t., overnight; j) BrCH
2CO
2Et, NaOEt, EtOH, reflux, 2 h; k) LiOH, THF, MeOH, H
2O, r.t., overnight; l) DMT-MM, DMF, トリエチルアミン, r.t., 1 h; m) 2-シアノエチル N,N-ジイソプロピルクロロホスホロアミダイト, dry CH
2Cl
2, triethylamine, 0 ℃, 30 min。
【0097】
合成例2-1:化合物10の合成(ステップg)
化合物9(2.03g、12.8 mmol)をEtOH(32 mL)に溶解し、次いでNaBH4を加えた。混合物を室温で5分間撹拌した。反応終了後、H2O(240 mL)を混合し4 M HClを加え、反応溶液のpHを4に調整した。Et2Oで3回抽出し、有機層を合わせMgSO4で乾燥させた。溶媒をエバポレーションで除去し、得られた粗生成物(化合物10)をさらに精製することなく次のステップで使用した(quantitative yield)。
1H-NMR [CDCl3, 500 MHz] δ=7.22 (d, 1H), 6.74-6.71 (m, 2H), 4.61 (s, 2H), 3.79 (s, 3H), 2.36 (s, 3H), 1.63 (s, 1H)
13C-NMR [CDCl3, 125 MHz] δ=158.82, 137.70, 131.14, 129.17, 115.91, 129.17, 115.91, 110.47, 62.41, 54.94, 18.66
HRMS (FAB) Calcd for compound 10 (M+H+) 152.0837. Found 152.0837.。
【0098】
合成例2-2:化合物12の合成(ステップh及びi)
化合物10(1.93 g、12.7 mmol)を窒素雰囲気下で脱水CH2Cl2に溶解した。PBr3を、0 ℃で2.5時間かけて滴下し、15分攪拌した後、砕いた氷と混合したNaHCO3を反応溶液と混合した。Et2Oで3回抽出し、有機層を合わせMgSO4で乾燥させ、溶媒をエバポレーションで除去した。得られた粗生成物(化合物11)をさらに精製することなく次のステップで使用した(quantitative yield)。
2-チオウラシル(833 mg、6.50 mmol)をEtOH(8 mL)に懸濁し、1 M KOH溶液(8 mL)を加え、45℃に加熱した。室温まで冷却した後、EtOH(5 mL)に溶解した化合物11を滴下し、室温で終夜攪拌した。反応溶液を飽和NaHCO3溶液(15 mL)と混合した。沈殿物を濾過により収集し、H2O、EtOH、AcOEt、およびEt2Oで洗浄し、次いで真空乾燥させて、化合物12を得た(収率72%)。
1H-NMR [CDCl3, 500 MHz] δ=7.91 (s, 1H), 7.29-7.28 (d, 1H), 6.78-6.78 (d, 1H), 6.72-6.70 (dd, 1H), 6.12 (s, 1H), 4.35 (s, 2H), 3.71 (s, 3H), 2.31 (s, 3H)
13C-NMR [CDCl3, 125 MHz] δ=163.98, 143.39, 136.45, 131.13, 121.05, 116.53, 37.10, 24.57
HRMS (FAB) Calcd for compound 12 (M+H+)263.0849. Found 263.0844。
【0099】
合成例2-3:化合物13の合成(ステップj)
化合物12(1.74 g、4.71 mmol)を乾燥EtOHに、次にNaOEt(2.0 等量、 20 % in EtOH)に溶解した。90 ℃で溶液を還流させ、BrCH2CO2Et(2.0当量)を混合し、2時間攪拌した。次いで室温まで冷却した後、飽和NaHCO3溶液(30 mL)を混合し、エバポレーションでEtOHを除去した。CH2Cl2:MeOH(3:1)混合溶液で3回抽出した。有機層を合わせMgSO4で乾燥させ、エバポレーションで除去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/ AcOEt、5:1から1:1、AcOEt、AcoEt / MeOH、9:1)で精製し、0.63 g(1.81 mmol)の化合物13を得た(収率38%)。
1H-NMR [CDCl3, 500 MHz] δ=7.26-7.24 (d, 1H), 6.73-6.71 (d, 1H), 6.70-6.67 (dd, 1H), 6.08-6.05 (d, 1H), 4.56 (s, 2H), 4.46 (s, 2H), 4.26-4.21 (q, 2H), 3.77 (s, 3H), 2.34 (s, 3H), 1.27-1.24 (t, 3H)
13C-NMR [CDCl3, 125 MHz] δ=167.91, 166.04, 163.40, 159.54, 144.06, 138.89, 131.83, 124.28, 116.24, 111.44, 109.88, 62.63, 55.21, 52.83, 34.87, 19.51, 14.01
HRMS (FAB) Calcd for compound 13 (M+H+) 349.1217. Found 349.1233.。
【0100】
合成例2-4:化合物14の合成(ステップk)
化合物13(0.63 g、1.81 mmol)をMeOH(4.7 mL)、THF(11.1 mL)、2 M LiOH(1.6 mL)で溶解し、室温で10分間攪拌した。溶媒をエバポレーションで除去し、沈殿物を濾過しAcOEt, Et2Oで洗浄し真空乾燥した。得られた粗生成物(化合物14)をさらに精製することなく次のステップで使用した(quantitative yield)。
1H-NMR [CDCl3, 500 MHz] δ=7.52-7.51 (d, 1H), 7.45-7.43 (d, 1H), 7.31-7.28 (d, 1H), 6.78-6.76 (d ,1H), 6.72-6.68 (dd, 1H), 5.82- 5.80 (d,1H), 5.72-5.69 (d, 1H), 4.28 (s, 1H), 4.10 (s, 1H), 4.05 (s, 1H), 3.79 (s 1H), 3.71 (s, 1H), 2.31 (s, 3H), 1.66 (s, 3H)
13C-NMR [CDCl3, 125 MHz] δ=175.82, 170.59, 168.50, 167.28, 167.90, 162.26, 158.81, 156.59, 146.39, 145.05, 138.36, 131.43, 125.71, 115.82, 111.34, 107.70, 106.63, 55.78, 55.05, 54.78, 53.26, 32.85, 25.22, 19.13.
HRMS (FAB) Calcd for compound 14 (M+H+) 327.0985. Found 327.0988.。
【0101】
合成例2-5:化合物15の合成(ステップI)
化合物14(0.57 g、1.67 mmol)をDMFに溶解し、Et3N(3.0当量)およびDMT-MM(1.8当量)、の存在下で0.64 g(1.6当量、2.59 mmol)の化合物6とカップリングした。反応後、混合物をCHCl3で希釈し、有機層を飽和NaHCO3で洗浄した。混合物をMgSO4で乾燥させた。溶媒をエバポレーションで除去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl3/ MeOH、20:1 から 10:1、 2 % Et3Nを含む)で精製し、1.32 g(0.93 mmol)の化合物7を得た(収率56%)。
1H-NMR [CDCl3, 500 MHz] δ=7.37-7.35 (m, 2H), 7.27-7.00 (m, 10H), 6.79-6.76 (m 4H), 6.66-6.64 (d, 1H), 6.58-6.55 (m, 1H), 5.98-5.96 (d, H), 4.47-4.40 (dd, 2H), 4.35-4.20 (dd, 2H), 4.14 (m, 1H), 3.78-3.73 (m, 10H), 3.69-3.65 (m, 1H), 3.29-3.19 (m, 2H), 2.20 (s, 3H).
13C-NMR [CDCl3, 125 MHz] δ=168.53, 164.87, 163.95, 159.59, 158.69, 158.67, 144.76, 144.68, 138.97, 135.83, 135.72, 131.92, 130.14, 130.05, 128.12, 128.03, 127.04, 124.32, 116.35, 113.34, 111.51, 109.71, 86.51, 62.71, 55.34, 54.44, 52.05, 46.13, 34.99, 19.55.
HRMS (FAB) Calcd for compound 15 (M+H+) 696.2738. Found 696.2768.。
【0102】
合成例2-6:化合物16の合成(ステップm)
化合物15(0.92 g、1.32 mmol)を乾燥CH2Cl2(5 mL)およびEt3N(0.9 mL)に溶解し、窒素雰囲気下、0 ℃で2-シアノエチルN, N-ジイソプロピルクロロホスホルアミダイト0.44 mL(1.57 mmol)を滴下した。室温で20分攪拌後、反応溶液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl3/アセトン、3 % Et3Nを含む4:1から2:1)で精製し、0.78 g(0.87 mmol)の化合物8を得た(収率66%)。
1H-NMR [CDCl3, 500 MHz] δ=7.40-7.38 (m, 2H), 7.30-7.18 (m, 9H), 7.11-7.07 (d, 1H), 6.81-6.78 (m, 4H), 6.69-6.66 (m, 1H), 6.65-6.59 (m, 1H),6.43-6.38 (m, 1H), 6.03-6.036(m, 1H), 4.51-4.29 (m, 5H), 3.93-3.85 (m, 1H), 3.77 (m, 10H), 3.56-3.45 (m, 3H), 3.35-3.25 (m, 1H), 3.18-3.12 (m, 1H), 2.52-2.35 (m, 2H), 2.26-2.25 (m, 3H), 1.15-1.05 (m, 12H)
13C-NMR [CDCl3, 125 MHz] δ=164.77, 158.58, 154.41, 152.05, 150.84, 150.03, 146.58, 146.48, 144.73, 144.63, 135.91, 135.83, 135.75, 130.13, 130.09, 130.07, 130.04, 128.16, 128.11, 127.93,126.94, 126.80, 118.59, 118.48, 113.23, 113.20, 86.29, 86.27, 83.73, 83.72, 83.28, 83.24, 65.86, 61.45, 58.54, 58.44, 58.40, 58.29, 50.43, 50.37, 45.55, 45.46, 43.18, 43.08, 30.95, 27.82, 27.71, 24.68, 24.62, 20.62, 20.60, 20.56, 15.31
31P-NMR [CDCl3, 202 MHz] δ=148.03, 147.76
HRMS (FAB) Calcd for compound 16 (M+H+) 896.3817. Found 896.3824.。
【0103】
合成例3:一本鎖ポリヌクレオチドの合成1
以下に示す回文構造(Dは2,6-ジアミノプリンを示し、sUは2-チオウラシルを示す。)からなる4つの一本鎖ポリヌクレオチドを準備した。SNAa、D2及びsU2はSNAポリヌクレオチドである。RNAbはRNAポリヌクレオチドである。
・SNAa: (S)-ATTGCAAT-(R)
・RNAb: 5’ -AUUGCAAT- 3’
・SNAa-D2: (S)-ATTGCDDT-(R)
・SNAa-sU2: (S)-AsUsUGCDDT-(R)。
【0104】
SNAa及びRNAbはFasmac及び北海道システムサイエンス社から入手した。
【0105】
SNAa-D2(以降、D2と記載)及びSNAa-sU2(以降、sU2と記載)は、天然核酸塩基のアミダイトSNAモノマー、2,6-ジアミノプリンのアミダイトSNAモノマー(合成例1の化合物8)、及び2-チオウラシルのアミダイトSNAモノマーを使用して、自動DNAシンセサイザー(ABI-3400 DNAシンセサイザー、Applied Biosystems)で合成した。なお、2-チオウラシルのアミダイトSNAモノマーを使用する場合、ホスホロアミダイト法のリンの酸化工程において通常の酸化剤(ヨウ素)を使用すると分解反応が起こるので、酸化剤としてtert-ブチルヒドロペルオキシドを使用した。CPG結合SNAポリヌクレオチドを、アミダイトSNAモノマー上の酸で除去可能な保護基の脱保護のために、室温で3時間、TFA(13.9%m-クレゾールおよび2.8%H2O)とインキュベートした。その後、CPG結合SNAポリヌクレオチドを洗浄した。乾燥後、開裂および脱保護を、55℃で4~6時間、28%NH4OH溶液下で行った。次に、SNAを逆相HPLC(Kanto Chemical、Mightysil RP 18 GPIIカラム)で精製した。
【0106】
合成したSNAポリヌクレオチドをMALDI-TOF MS解析した結果を表1に示す。また、脱保護不足のピークは観察されなかった。
【0107】
【表1】
合成したSNAポリヌクレオチドのHPLCプロファイルを
図1に示す。
【0108】
試験例1:融解温度測定1
SNAポリヌクレオチド(SNAa、D2、及びsU2)それぞれについて融解温度測定を行った。具体的には次のようにして行った。各SNAポリヌクレオチドを、100 mM NaClを含む10 mMリン酸ナトリウムバッファー(pH 7.0)に溶解した(終濃度2 μM)。溶液を島津UV-1800で解析し、260 nmでの吸光度の温度に対する変化を測定することにより融解曲線を得た。融解曲線は、1.0℃ min-1の温度ランプで測定した。Tm値は、融解曲線の一次導関数の最大値から決定した。
【0109】
得られた融解曲線を
図2に示す。また、Tm値を表2に示す。
【0110】
【表2】
D2とsU2との比較より、sUをDの相補的な部位に導入することでHomo Dimerの融解温度を大きく低下させることができることが分かった。
【0111】
試験例2:融解温度測定2
SNAポリヌクレオチド(SNAa、D2、及びsU2)それぞれと、それに相補的なRNAポリヌクレオチド(RNAb)との融解温度測定を行った。各SNAポリヌクレオチドとRNAポリヌクレオチドとを、100 mM NaClを含む10 mMリン酸ナトリウムバッファー(pH 7.0)に溶解(SNAポリヌクレオチド終濃度2 μM、RNAポリヌクレオチド終濃度2 μM)する以外は、試験例1と同様にして行った。
【0112】
得られた融解曲線を
図3に示す。また、Tm値を表3に示す。
【0113】
【表3】
D2 / RNAbでは2つのシグモイド曲線がみられ、D2鎖同士、RNAb同士でそれぞれ二重鎖を形成しているが、sU2 / RNAbではシグモイド曲線が一つになり、そのTmは、sU2/sU2二重鎖(30.6℃)より上昇した。このことよりsU2 / RNAbが二重鎖形成していることが示唆された。
【0114】
このことを確認するためにsU2 / RNAbサンプルを、Native MS解析した。具体的には次のようにして行った。Bio-Rad Micro Bio-Spin 6カラムにsU2 / RNAbサンプルを通すことにより、pH 7.0の100 mM酢酸トリエチルアンモニウムにバッファー交換した。緩衝液交換サンプルを、金コーティングされたガラス毛細管を使用したナノフローエレクトロスプレーイオン化質量分析によってすぐに分析した(分析ごとに約2~5μLのサンプルをロードした)。スペクトルは、150 Vのサンプリングコーン電圧とソースオフセット電圧、4 Vトラップと2 Vの移動衝突エネルギー、5 mL / minのトラップガス流量で、1.33 kVの負イオン化モードでWaters SYNAPT G2-Si HDMS質量分析計で記録した。1 mg / mLヨウ化セシウムを使用してスペクトルを較正し、MassLynxソフトウェア(Waters)を使用して分析した。
【0115】
得られたNative MSプロファイルを
図4に示す。sU2 / RNAbが二重鎖形成していることが確認できた。
【0116】
sU2 / RNAbが二重鎖を形成していることを定量的にも明らかにするため、ポリアクリルアミド電気泳動(PAGE)で解析した。具体的には以下のように行った。100 mM NaClを含む10 mMリン酸緩衝液(pH 7.0)中の25 μMのRNAb、SNAa-sU2、およびRNAbとSNAa-sU2の混合物を80 ℃に加熱した後4 ℃に冷却した。ブロモフェノールブルーを含まないローディングバッファーをサンプルと混合し、750 CV、2時間、4 ℃条件下の10%グリセロールを含む20% Native-PAGEで混合物を分析した。
【0117】
得られたPAGEをFast Blast DNA stain(Biorad)で染色後にイメージングアナライザー{FLA9500(GE healthcare)}で画像化した結果を
図5に示す。sU2とRNAbを混合して得られるバンドは、sU2およびRNAbのみのバンドとは明らかに異なる位置に存在したことから、sU2とRNAbが二重鎖形成していることが確認できた。さらにsU2とsU2/RNAbのバンド強度の比較から、sU2の90%以上がRNAbと二重鎖形成していることが判明した。
【0118】
合成例4:一本鎖ポリヌクレオチドの合成2
図6に示す、回文構造(Dは2,6-ジアミノプリンを示し、sUは2-チオウラシルを示す。)を含む4つの一本鎖ポリヌクレオチド(AMO(Anti miRNA oligonucleotide):配列番号1)を、合成例3と同様にして準備した。これらは全て、miRNA-21(miR-21)を標的とするSNAポリヌクレオチドである。
【0119】
試験例3:融解温度測定3
合成例4のポリヌクレオチドそれぞれについて、試験例1と同様にしてTm値を決定した。Tm値を
図6に示す。D-sUペアの導入によりSNA-AMOのHomo二重鎖の形成を抑制しRNA認識能を向上させた。
【0120】
試験例4:アンチセンス活性の測定1
合成例4のポリヌクレオチド(AMO)それぞれについて、アンチセンス活性を測定した。具体的には、40nMの導入核酸(ルシフェラーゼ遺伝子を含むレポータープラスミド(コントロール)又はルシフェラーゼ遺伝子の下流にmiR21 binding siteを含むレポータープラスミド(miR21 binding siteによりルシフェラーゼの発現が抑制)と、AMO)を、Lipofectamine 2000によりHela細胞に導入し、24時間インキュベーション後に、ルシフェラーゼ活性を測定した。AMOの導入によりルシフェラーゼ活性が向上することが、AMOのアンチセンス活性の発現を示す。
【0121】
結果を
図7に示す。D-sUペアの導入によりアンチセンス活性を大きく向上させた。
【0122】
合成例5:一本鎖ポリヌクレオチドの合成3
図8に示す、回文構造(Dは2,6-ジアミノプリンを示し、sUは2-チオウラシルを示す。)を含む5つの一本鎖ポリヌクレオチド(AMO:配列番号1)を、合成例3と同様にして準備した。これらは全て、miRNA-21(miR-21)を標的とするSNAポリヌクレオチドである。
【0123】
試験例5:融解温度測定4
合成例5のポリヌクレオチドそれぞれについて、試験例1と同様にしてTm値を決定した。Tm値を
図8に示す。D-sUペアの導入によりSNA-AMOのHomo二重鎖の形成を抑制しRNA認識能を向上させた。
【0124】
合成例6:一本鎖ポリヌクレオチドの合成4
図9に示す、回文構造(Dは2,6-ジアミノプリンを示し、sUは2-チオウラシルを示す。)を含む6つのSNA一本鎖ポリヌクレオチド(AMO:配列番号1)及び2つのLNA一本鎖ポリヌクレオチド(AMO:配列番号1又はその短鎖配列)を、合成例3と同様にして準備した。
【0125】
試験例6:融解温度測定5
合成例6のポリヌクレオチドそれぞれについて、試験例1と同様にしてTm値を決定した。Tm値を
図9に示す。D-sUペアの導入によりSNA-AMOのHomo二重鎖の形成を抑制しRNA認識能を向上させた。
【0126】
試験例7:アンチセンス活性の測定2
合成例6のポリヌクレオチド(AMO)それぞれについて、試験例5と同様にしてアンチセンス活性を測定した。結果を
図10に示す。非常に高い活性を持つD-sU 導入型SNA-AMOの開発に成功した。
【0127】
合成例7:一本鎖ポリヌクレオチドの合成5
図11に示す、回文構造(Dは2,6-ジアミノプリンを示し、sUは2-チオウラシルを示す。)を含む9つのSNA一本鎖ポリヌクレオチド(AMO:配列番号1)、2つのLNA一本鎖ポリヌクレオチド(AMO:配列番号1又はその短鎖配列)、及び1つのDNA一本鎖ポリヌクレオチド(AMO:配列番号1)を、合成例3と同様にして準備した。
【0128】
試験例8:融解温度測定6
合成例7のポリヌクレオチドそれぞれについて、試験例1と同様にしてTm値を決定した。Tm値を
図11に示す。D-sUペアの導入によりSNA-AMOのHomo二重鎖の形成を抑制しRNA認識能を向上させた。
【0129】
試験例9:アンチセンス活性の測定3
合成例7のポリヌクレオチド(AMO)それぞれについて、試験例5と同様にしてアンチセンス活性を測定した。結果を
図12に示す。非常に高い活性を持つD-sU 導入型SNA-AMOの開発に成功した。
【0130】
合成例8:一本鎖ポリヌクレオチドの合成6
図13に示す、回文構造(Dは2,6-ジアミノプリンを示し、sUは2-チオウラシルを示す。)を含む3つのSNA一本鎖ポリヌクレオチド(AMO:配列番号1)を、合成例3と同様にして準備した。
【0131】
試験例10:融解温度測定7
合成例8のポリヌクレオチドそれぞれについて、試験例1と同様にしてTm値を決定した。Tm値を
図13に示す。sUを導入したのみでは融解温度に影響を与えない。
【0132】
試験例11:アンチセンス活性の測定4
合成例8のポリヌクレオチド(AMO)それぞれについて、試験例5と同様にしてアンチセンス活性を測定した。結果を
図14に示す。sUを導入したのみではアンチセンス活性に影響を与えない。
【配列表】