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  • -医薬組成物及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-22
(45)【発行日】2025-01-30
(54)【発明の名称】医薬組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/51 20150101AFI20250123BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250123BHJP
   A61K 35/16 20150101ALI20250123BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20250123BHJP
【FI】
A61K35/51
A61P43/00 105
A61K35/16
C12N5/0775
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024010090
(22)【出願日】2024-01-26
【審査請求日】2024-01-26
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】522408773
【氏名又は名称】坂井 万里
(74)【代理人】
【識別番号】110003890
【氏名又は名称】弁理士法人SIPPs
(72)【発明者】
【氏名】坂井 万里
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】特表2024-500062(JP,A)
【文献】特表2019-529357(JP,A)
【文献】特表2019-528281(JP,A)
【文献】特表2009-525297(JP,A)
【文献】J Am Vet Med Assoc,2023年,Vol. 261, No. 3,pp. 301-308
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エクソソームを1.0×1010個/ml以上で含む培養上清を含む医薬組成物の製造方法であって、
前記培養上清が、
重金属除去処理がされた、動物由来抽出物及び血清を含まないAOF培地を用いて臍帯血幹細胞を培養して培養液を得る工程と、
前記培養液から培養上清を得る工程と
を含む方法によって得られる、方法(ただし、前記培養液を得る工程では、前記臍帯血幹細胞を培養する際にリポ多糖又はリポイコ酸を前記培地に添加しない)。
【請求項2】
自己調整血清をさらに含む、請求項1に記載の医薬組成物の製造方法であって、
前記自己調整血清
前記医薬組成物を使用する患者から採血された血液を保温して、血中のサイトカイン及び/又は成長因子を富化させる工程と
前記サイトカイン及び/又は成長因子が富化した血液から血清を分離する工程と
を含む方法によって得られる、方法。
【請求項3】
前記サイトカイン及び/又は成長因子を富化する工程が、前記血液とガラスとを接触させて行われる、請求項2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エクソソームを含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エクソソームは様々な細胞が分泌する直径30~100nm程度の脂質二重膜からなる膜小胞である。エクソソームは、多胞性エンドソームの中で産生され、多胞性エンドソームが細胞膜と融合することによって細胞外へと放出される。
【0003】
エクソソームの脂質二重層は、起源細胞のようなリン脂質二重膜構造となっており、細胞が細胞外に分泌する物質の構成体であって、細胞-細胞間のコミュニケーション及び細胞性免疫調節などの機能的な役割を担うものと知られている。
【0004】
エクソソームは、リン脂質、mRNA、miRNAの他にも様々な水溶性タンパク質、外在性タンパク質、及び膜貫通タンパク質成分などを含む。
【0005】
このようなエクソソームは、肥満細胞、リンパ球、星状細胞、血小板、神経細胞、内皮細胞、上皮細胞などのあらゆる動物細胞から排出され、血液、尿、粘液、唾液、胆汁、腹水、脳脊髓液などの様々な体液から発見され、細胞培養液中にも存在している。
【0006】
特に、幹細胞から分泌されるエクソソームは、血管や皮膚を再生する効果が高く、様々な炎症を抑える効果がある。これは、エクソソームは、損傷を受けた細胞に集まり、内包する遺伝子(mRNA等)の働きで、標的となる細胞が自力で回復できるように働きかけるためと考えられている。mRNAは非常に壊れやすく、そのまま細胞外に放出されるとすぐに分解されてしまうが、エクソソームが中に包み込んだ状態で細胞の外へと袋のまま放出するため、大切な情報は壊れずに他の細胞へと伝達することができる。
【0007】
人間や他の生物体から由来した細胞、組織、ホルモンなどを用いて開発されたバイオ医薬品は、副作用無く、疾患の原因を根本的に解決するというメリットを有しており、全世界的に活発に研究されている。エクソソームも、次世代バイオ医薬品領域で活用されつつある。
【0008】
エクソソームを商業的に用いるためには、多量の、そして良質のエクソソームが必要である。しかし、現在、幹細胞から得られるエクソソームの量は極めて少量であり、幹細胞由来エクソソームの生産量を増加させ得る物質の開発も不十分である。
【0009】
特許文献1は、1~3×10個/mlという多量のエクソソームを含む培養液を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特表2023-520535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、高い組織再生能力を有する医薬組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、以下の態様を有する本発明により、上記課題を解決できることを見出した。
《態様1》
臍帯血幹細胞の培養上清を含み、前記培養上清が、エクソソームを1.0×1010個/ml以上で含む、医薬組成物。
《態様2》
前記培養上清が、AOF培地を含む、態様1に記載の医薬組成物。
《態様3》
前記AOF培地が、重金属を実質的に含まない、態様2に記載の医薬組成物。
《態様4》
自己調整血清をさらに含む、態様1に記載の医薬組成物。
《態様5》
前記自己調整血清が、
前記医薬組成物を使用する患者から採血された血液を保温して、血中のサイトカイン及び/又は成長因子を富化させる工程と
前記サイトカイン及び/又は成長因子が富化した血液から血清を分離する工程と
を含む方法によって得られる、態様4に記載の医薬組成物。
《態様6》
前記サイトカイン及び/又は成長因子を富化する工程が、前記血液とガラスとを接触させて行われる、態様5に記載の医薬組成物。
《態様7》
培養上清を含む医薬組成物の製造方法であって、
前記培養上清が、
重金属除去処理がされたAOF培地を用いて臍帯血幹細胞を培養して培養液を得る工程と、
前記培養液から培養上清を得る工程と
を含む方法によって得られる、方法。
《態様8》
自己調整血清をさらに含む、態様7に記載の医薬組成物の製造方法であって、
前記自己調整血清は、
前記医薬組成物を使用する患者から採血された血液を保温して、血中のサイトカイン及び/又は成長因子を富化させる工程と
前記サイトカイン及び/又は成長因子が富化した血液から血清を分離する工程と
を含む方法によって得られる、方法。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の医薬組成物を投与された前後の患者の肌の状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の医薬組成物は、臍帯血幹細胞の培養上清を含み、前記培養上清が、エクソソームを1.0×1010個/ml以上で含む。この医薬組成物は、エクソソームを高濃度で含むために、高い組織再生能力を有する。
【0015】
〈培養上清〉
本明細書において、培養上清とは、細胞を培養して得られる培養液であり、通常は細胞を実質的に含まない。本発明の医薬組成物において、培養上清を得るために臍帯血幹細胞が使用される。臍帯血幹細胞は、脂肪組織由来間葉系間質細胞、表皮由来上皮系細胞、歯髄由来間葉系幹細胞等と比較して、高濃度のエクソソームを産生できる。
【0016】
本発明の医薬組成物において、培養上清は、エクソソームを約1.0×1010個(約100億個)/ml以上、約3.0×1010個/ml以上、約5.0×1010個/ml以上、又は約8.0×1010個/ml以上、又は約10×1010個/ml以上で含むことができ、約30×1010個/ml以下、約10×1010個/ml以下、又は約7.0×1010個/ml以下で含むことができる。
【0017】
本発明の医薬組成物において、非常に高濃度で成長因子を含むことができ、例えばVEGF、HGF、及びEGFを、それぞれ0.5ng/ml以上、1.0ng/ml以上、又は3.0ng/ml以上で含むことができ、30ng/ml以下、10ng/ml以下、又は8.0ng/ml以下で含むことができる。これらの成長因子は、医薬組成物に追加で添加されることなく、得られた培養上清に本質的に含まれるものであることができる。
【0018】
培養上清を得るための培養方法においては、公知の培養方法を用いることができるが、培地として、動物由来抽出物及び/又は血清を含まないAOF(Animal Origin Free)培地(ACF(Animal Conponent Free)培地)を用いることが好ましい。このような培地は、市販されており、例えばそのような培地として、StemSpan(商標)-ACF(STEMCELL Technologies、カナダ)を挙げることができる。このような培地を用いることで、極めて高い濃度のエクソソームを得られるだけではなく、病原体感染等のリスクも低減できることが分かった。
【0019】
さらに好ましくは、重金属を実質的に含まないAOF培地、又は重金属の除去処理がされたAOF培地を用いることが好ましい。ここで、「重金属」とは、密度が約4.0g/cm以上のものを意味し、おおむね、長周期型周期表の11~15族の金属元素を対象とする。具体的には、Se、Pb、Cr、Cd、Cu、Hg、Zn、Mn、Co、Ni、Mo、Ta、Sn、Bi、In、Asなどが挙げられる。重金属の除去処理としては、特に限定されないが、公知の重金属除去剤又は吸着剤を用いたり、重金属除去用フィルタ処理、電解析出法による処理等を挙げることができる。このような培地を用いることで、極めて高い濃度のエクソソームを得られるだけではなく、毒性も排除できることが分かった。
【0020】
本発明の組成物は、上記のようにして得られた培養上清を、凍結乾燥により水分を除去して得られる処理物、エバポレーター等を用いて培養上清を減圧濃縮して得られる処理物、限外ろ過膜等を用いて培養上清を濃縮して得られる処理物、又はフィルターを用いて培養上澄みを固液分離して得られる処理物、もしくは、上述のような処理をする前の培養上清の原液であってもよい。また、例えば、細胞を培養した上澄みを、遠心分離(例えば、1、000×g、10分)した後、硫安(例えば、65%飽和硫安)で分画し、沈殿物を適切な緩衝液で懸濁した後に透析処理を行い、シリンジフィルター(例えば、0.2μm)で濾過し、無菌的な培養上清を得てもよい。採取した培養上清を、そのまま用いても、また凍結保存しておき使用時に解凍して用いることもできる。また薬剤学的に許容される担体を加えて、取り扱いやすい液量、例えば0.2ml又は0.5ml等となるように滅菌容器に分注してもよい。さらに、感染性病原体リスクの対策として、培養上清をウイルスクリアランスフィルターやγ線照射により処理してもよい。
【0021】
上記のとおり、培養上清を得る工程の後に、回収した培養上清を凍結する凍結工程を含んでもよい。培養上清を凍結するためには、例えば、培養上清を-200℃以上0℃以下にすればよく、-100℃以上-5℃以下にしてもよい。なお、培養上清を含む医薬組成物は、細胞を破砕し、遠心分離後、フィルターを用いてろ過したものであっても、さらにろ過物を凍結・乾燥したものであってもよい。
【0022】
本発明の組成物を1投与単位として0.1mL以上3.0mL以下で投与することが好ましく、より好ましくは0.2mL以上2.0mL以下、0.3mL以上1.5mL以下、又は0.5mL以上1.2mL以下で投与される。
【0023】
本発明の組成物は、損傷を受けた細胞に対して高い再生効果を有し、各種の疾病の治癒効果を有する。また、本発明の組成物は、歯周組織に対する再生効果も有することができる。ここで、歯周組織とは、歯及びその周囲組織を含み、例えばエナメル質、象牙質、歯髄、歯肉等の歯冠部分、及びセメント質、歯槽骨、血管、神経等の歯根部分を含む。本発明の組成物は、歯周病又は歯槽膿漏の治療用組成物であってもよい。
【0024】
〈自己調整血清〉
本発明者らは、この組成物が、自己調整結成をさらに含む場合に、さらに高い再生効果を得られることを見出した。ここで、自己調整血清は、組成物を使用する患者本人から採血した血液を調整し、それを分離して得られる血清であり、サイトカイン及び/又は成長因子が、通常血中濃度よりも非常に高い。例えば、自己調整血清が含むサイトカイン及び/又は成長因子濃度は、通常血中濃度の2倍以上又は3倍以上であり、5倍程度となることもある。自己調整血清は、患者本人から採取した血液を原料としているため安全性が高く、かつサイトカイン及び/又は成長因子濃度が高いため、歯周組織の再生、特に歯槽骨の再生に非常に有用となることが分かった。
【0025】
自己調整血清は、例えば、患者から採血された血液を保温して、血中のサイトカイン及び/又は成長因子を富化させる工程と、サイトカイン及び/又は成長因子が富化した血液から血清を分離する工程とを含む方法によって製造することができる。そのような自己調整血清としては、上記の特許文献1及び2に記載のような自己調整血清を用いることができる。また、自己調整血清を作製するためのキットも販売されており、そのような商品としては、例えばSanakin(商標)を挙げることができる。サイトカインとしては、一例としてIL-1Ra、IL-4、IL-6、IL-10、TNF-αなどが挙げられる。成長因子としては、上皮成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)があげられる。自己調整血清では、これらのサイトカインのうちの少なくとも1つが、通常の血清と比較し、2倍以上、3倍以上、又は5倍以上に富化されうる。
【0026】
歯周組織用組成物を使用する患者から採血された血液を保温して、血中のサイトカイン及び/又は成長因子を富化させる工程は、患者から採血する工程と、採血された血液を保温して、血中のサイトカイン及び/又は成長因子を富化させる工程とに別れていてもよい。患者から採血する工程は、歯周組織用組成物を用いる患者本人の血液を採取する工程であり、通常の注射器で、例えば10ml程度の血液を採取することができる。
【0027】
採血した血液を保温して、血中のサイトカイン及び/又は成長因子を富化させる工程において、保温は、例えば30℃~45℃、35℃~40℃、又は36℃~38℃の範囲で、30分以上、1時間以上、又は2時間以上行うことができ、保温する時間は、1日以下、半日以下、5時間以下であってもよい。また、この工程の前に、採取した血液を、容器に移す工程があってもよい。
【0028】
血液を保温する際には、好ましくは血液をガラス、ポリマー等の固体表面(特に、ガラス)に接触させる。このようにすることで、サイトカイン及び/又は成長因子の産生を促進させることができる。このために、血液を保管する容器だけではなく、その容器に、ガラスビーズ等の粒子、グラスウール等の繊維等の固体物品を入れて、血液との接触表面を増やすことが好ましい。
【0029】
血液を保管する容器としては、採血をした注射器であってもよく、又は注射器とは別の容器であってもよい。容器に入れる固体粒子を構成する材料は、容器本体を構成する材料とは別の材料とすることができる。例えば容器を、ポリマーで構成することができ、またその固体物品を、例えばガラスビーズとすることができる。例えば、粒子の直径は、0.5~10mm、又は1~5mmの範囲とすることができ、好ましい実施形態によれば、注射器に含まれる固体物品は、注射器の内部容積の70%未満又は50体積%未満とすることができる。容器は、例えば10~100mlの容積とすることができる。
【0030】
本発明の特に有利な構成では、容器及び固体物品が、ガラス、石英ガラス、コランダム、石英、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン等のプラスチック等から製造されており、又はこれらの物質若しくはそれらの混合物を実質的に含有していてもよい。
【0031】
特に、血液と接触する固体表面がガラスである場合に、サイトカイン及び/又は成長因子を産生する作用が非常に強く、また歯周組織の再生に非常に強力に作用するIL-6受容体抗体を特に多く産生することがわかった。したがって、このように製造された自己調整血清は、歯周組織用の医薬組成物として用いた場合に非常に効果が高いことがわかった。
【0032】
サイトカイン及び/又は成長因子が富化した血液から血清を分離する工程は、遠心分離によって行うことができる。遠心分離は、血清を得るために使用する通常の速度で遠心すればよく、例えば500~2000gで数分間遠心分離が行われる。例えば、10mlの血液を採取した場合、遠心分離後に、サイトカイン及び/又は成長因子が富化した血清を3~5ml程度採取することができる。採取した血清は、血小板、血球成分が含まれないように、細胞ろ過フィルターでこれらを除去することが好ましい。
【0033】
〈ヒアルロン酸〉
本発明の組成物は、特に創傷治療目的又は歯周組織再生目的で用いられる場合に、さらにヒアルロン酸を含む組成物と、治療用キットを構成することができる。特に、本発明の組成物が、上記培養上清、自己調整血清、及びヒアルロン酸を含むことが好ましい。本明細書において、ヒアルロン酸とは、種々の鎖長及び荷電状態の、並びに架橋を含む種々の化学的修飾を含む、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩又はヒアルロナンの全ての改変体、及びそれらの改変体の組み合わせを包含する。
【0034】
上記医薬組成物は、製造するのに非常にコストが掛かかり高額化するが、効果が現れるのに時間がかかる場合があるため、効果が現れる前に治療を止めてしまう患者が現れることが想定されるが、本発明の組成物にヒアルロン酸を併用することによって、効果を早期に実感させることができる。効果が早期に実感できるという点は、治療を継続する上で非常に重要であり、本発明の組成物を含むキットは、患者にとって非常に満足度の高い組成物となった。
【0035】
理論に拘束されないが、ヒアルロン酸を用いると、ヒアルロン酸注入部分が膨潤することで、歯茎の菲薄化により生じるブラックトライアングルを解消することができる。ヒアルロン酸は、時間をかけて吸収されてしまうが、吸収後に元の位置に戻ってしまうことはない。これは、ヒアルロン酸の投与により、歯肉を膨潤させることで歯肉の細胞に伸展刺激を付与し、線維芽細胞の活性、例えばコラーゲン合成能や増殖能を高めて歯肉の再生を促すことができるからと考えられているが、かかる効果が発揮されるためには継続的な投与を必要とする。一方で、上記培養上清及び随意の自己調整血清は、即効性はないものの、創傷付近の細胞に作用し、組織の再生を促すことができ、ヒアルロン酸によって伸展された組織周辺において、これらの組織再生能力が効果的に発揮され、相乗的な効果が得られると考えられる。
【0036】
用語「ヒアルロン酸」は、グルクロン酸とN‐アセチルグルコサミンから主に構成されるグリコサミノグリカンの一種である。上述のように、「ヒアルロン酸」は、種々の鎖長及び荷電状態の、並びに架橋を含む種々の化学的修飾を含む、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩又はヒアルロナンの全ての改変体、及びそれらの改変体の組み合わせを包含する。即ち、この用語はまた、種々の対イオンを有するヒアルロン酸の種々のヒアルロン酸塩、例えば、ヒアルロン酸ナトリウムを包含する。また、ヒアルロン酸の種々の修飾は、酸化(例えば、-CHOHの-CHO及び/又は-COOHへの酸化);近接のヒドロキシル基の過ヨウ素酸塩酸化、場合により続く還元(例えば、-CHOの-CHOHへの還元)、又はアミンによってカップリングさせ、イミンを形成し、第2級アミンへの還元;硫酸化;脱アミド酸、場合により続く新しい酸を用いた脱アミノ化又はアミド形成;エステル化;架橋;種々の化合物による置換、例えば架橋剤又はカルボジイミド支援カップリングを用いる;ヒアルロン酸への、タンパク質、ペプチド及び活性薬剤成分などの異なる分子のカップリングを伴うもの等の用語によって包含される。修飾の他の例は、イソウレア、ヒドラジド、ブロモヤン、モノエポキシド及びモノスルホンカップリングである。
【0037】
ヒアルロン酸は、動物及び非動物源の種々の供給源から得ることができる。非動物源の供給源は酵母を含み、好ましくは細菌を含む。単一のヒアルロン酸分子の分子量は、典型的には、0.1~10MDaの範囲であるが、他の分子量も可能である。
【0038】
ある種の実施形態において、該ヒアルロン酸の濃度は、1~100mg/mlの範囲にある。いくつかの実施形態において、該ヒアルロン酸の濃度は、2~50mg/mlの範囲にある。特定の実施形態において、該ヒアルロン酸の濃度は、5~30mg/mlの範囲、又は10~30mg/mlの範囲にある。ある種の実施形態において、ヒアルロン酸は架橋される。架橋されたヒアルロン酸は、共有架橋、ヒアルロン酸鎖の物理的巻き込み、及び静電相互作用、水素結合及びファン・デル・ワールス力などの種々の相互作用によって、一緒に保持されるヒアルロン酸分子の連続的なネットワークを作製するヒアルロン酸鎖間の架橋を含む。
【0039】
ヒアルロン酸の架橋は、化学的架橋剤を用いた修飾によって達成されてもよい。化学的架橋剤は、例えば、ジビニルスルホン、マルチエポキシド及びジエポキシドからなる群から選択されてもよい。実施形態によれば、化学的架橋剤は、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)、1,2-エタンジオールジグリシジルエーテル(EDDE)及びジエポキシオクタンからなる群から選択される。好ましい実施形態によれば、化学的架橋剤は1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)である。
【0040】
架橋されたヒアルロン酸製造物は、好ましくは生体適合性である。これは全くないか、またはごく軽度の免疫応答が処置された個体に生じることを暗に意味する。即ち、全くないか、ごく軽度の望ましくない局所又は全身の効果が処置された個体で発生する。
【0041】
本発明に係る架橋されたヒアルロン酸製造物は、ゲル又はヒドロゲルであってもよい。すなわち、それは、水不溶性とみなされ得るが、液体、典型的には水性液体に供された場合、ヒアルロン酸分子の架橋系を実質的に希釈することができる。
【0042】
ゲルは、重量でほとんど液体が含まれており、例えば90~99.9%の水を含むことができ、液体中の3次元の架橋ヒアルロン酸ネットワークに起因して、固体のように挙動する。その重要な液体含量により、ゲルは、構造的にフレキシブルであり、組織工学における足場として、組織増強のために非常に有用にする自然な組織と類似している。
【0043】
前述のように、架橋ヒアルロン酸ゲルを形成するヒアルロン酸の架橋は、化学架橋剤、例えばBDDE(1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルなど)による修飾によって達成することができる。ヒアルロン酸濃度及び架橋の程度は、機械的特性、例えば、ゲルの弾性係数G’及び安定性に影響を与える。
【0044】
架橋ヒアルロン酸ゲルは、しばしば、「修飾度」という点で特徴付けられる。ヒアルロン酸ゲルの修飾度は、一般的に0.1~15モル%の間の範囲である。ヒアルロン酸ゲルの修飾度は、有利には、より架橋されたヒアルロン酸ゲルと比較して2モル%以下の修飾度、例えば1.5モル%以下、例えば1.25モル%以下、例えば0.1~2モル%以下の範囲、例えば0.2~1.5モル%の範囲、例えば0.3モル~1.25モル%の範囲である。修飾度(モル%)は、HAの二糖単位を繰り返す総モル量に対して、HAに結合する架橋剤(単数又は複数)の量、即ち、結合した架橋剤(単数又は複数)のモル量を示す。修飾度は、HAがどの程度、化学架橋剤によって化学的に修飾されたかを反映している。修飾度を決定するための架橋技術及び適切な分析技術に関する反応条件はすべて、これら及び他の関連する因子を容易に調整することができる当業者に周知であり、それにより、適切な条件を与え、0.1~2%の範囲の修飾度を得て、修飾度に関する得られた製造物特徴を変更することができる。BDDE(1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル)架橋されたヒアルロン酸ゲルは、例えば、国際公開WO97/04012Aの実施例1及び2に記載された方法に従って調製されてもよい。
【0045】
好ましい実施形態では、ヒアルロン酸は、化学的架橋剤によって架橋された架橋ヒアルロン酸ゲルの形態で存在し、ここで、該ヒアルロン酸の濃度は10~30mg/mlの範囲にあり、該化学的架橋剤による修飾度は0.1~2モル%の範囲にある。
【0046】
ヒアルロン酸ゲルはまた、架橋していない、すなわち、三次元の架橋ヒアルロン酸ネットワークに結合していないヒアルロン酸の部分を含むことができる。しかしながら、好ましくは、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも60重量%、より好ましくは70重量%、最も好ましくは少なくとも80重量%のヒアルロン酸は、架橋されたヒアルロン酸ネットワークの一部を形成する。
【0047】
なお、用いるヒアルロン酸の種類は、本発明の組成物を用いる歯周組織の部位によって変えることができるが、例えば、歯肉に注射をする場合には、ヒアルロン酸ゲルの粒子が比較的小さくて柔らかいもの、例えばレスチレン・ヴィタール スキンブースターズ(登録商標)を用いることが好ましい。
【0048】
〈その他〉
本発明の組成物及びそれを含むキットを、薬学的に許容される担体又は媒体とともに調製してもよい。薬学的に許容される担体又は媒体は、例えば、安定化剤、溶解補助剤、懸濁化剤、緩衝剤、等張化剤、抗酸化剤、又は保存剤など薬学的に許容される物質があげられる。等張化剤の例は、塩化ナトリウム、及びグルコースである。緩衝剤の例は、クエン酸塩、酢酸塩、ホウ酸、及びリン酸塩である。細胞を懸濁させるための水性媒質としては、例えば、浸透圧やpHを血液の値付近に調整し、塩類濃度等を調整した注射用又は点滴用の水溶液等を適宜用いればよく、例えば、酢酸リンゲル液、糖加酢酸リンゲル液等のリンゲル液その他の輸液、生理食塩水、またはブドウ糖液等を用いることができるが、これらに限定されない。例えば輸液用リンゲル液を用いる場合、これに許容量のジメチルスルホキシド(DMSO)またはヒト血清アルブミン(HSA)を添加してもよい。抗酸化剤の例は、アスコルビン酸、亜硫酸水素ナトリウム、及びピロ亜硫酸ナトリウムである。
【0049】
本明細書は、上述のような培養上清を含む組成物及びそれを含むキットを用いた、対象(ヒト又はヒト以外の哺乳動物)のための治療方法をも開示する。これを用いて治療を行う場合、注射等によって患部に投与することができ、又は点滴によって投与することもできる。
【0050】
本発明を以下の実施例でさらに具体的に説明をするが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【実施例
【0051】
《培養上清の調製》
重金属除去フィルターで重金属を除去したStemSpan(商標)-ACF(STEMCELL Technologies、カナダ)で、臍帯血幹細胞を、37℃、5%CO培養器で1~4日間培養した。その後、培養液を5分間遠心分離後、上層液を分離し、上層液をフィルターで濾過して細胞を除去して培養上清を得た。
【0052】
この培養上清について、エクソソーム濃度を測定装置(NanoSight NS300)で測定したところ、約5×1010個/mlであることが分かった。また、成長因子であるVEGF、HGF、及びEGFは、それぞれ約3.5ng/ml、約6.1ng/ml、及び約5.9ng/ml含まれていることがわかった。
【0053】
《自己調整血清の調製》
本発明の組成物に用いる自己調整血清を製造するために、各患者から10mlの血液を注射器で採取した。
【0054】
採取した血液を注射器からSanakin(商標)チューブに移し、チューブを3~4回転倒混和させた後、37℃に維持した保管庫に3時間保管した。
【0055】
その後、Sanakin(商標)チューブを遠心分離機に移し、3000回転(1200G)で5分間遠心分離を行い、これによって血清中に浮遊している血小板及び血球成分を沈降させた。
【0056】
遠心分離をして分離した上澄み部分の血清を、カテラン針を取り付けたルアーロックシリンジで3~5ml程度で採取をして、その後、細胞ろ過フィルターで僅かに含まれうる血小板及び血球成分を除去し、自己調整血清を得た。
【0057】
《組成物の調製》
上記の培養上清を実施例1の組成物とした。また、上記の自己調整血清を参考例1の組成物とした。さらに、上記の培養上清及び自己調整血清の体積比1:1の混合液を実施例2の組成物とした。
【0058】
《実施例の組成物の薬理効果》
〈糖尿病〉
実施例1の組成物1ccを点滴用の輸液に希釈して、HbA1cの値がそれぞれ8.2及び8.7である糖尿病患者2名に週1回の点滴を6週に渡って行った。その結果、HbA1cの値は、それぞれ6.7及び7.3まで低下した。
【0059】
〈肝疾患〉
実施例1の組成物1ccを点滴用の輸液に希釈して、γ-GTPの値が242である患者に週1回の点滴を6週に渡って行った。その結果、γ-GTPは、最終的に55まで低下した。
【0060】
〈肺疾患〉
実施例1の組成物1ccを点滴用の輸液に希釈して、新型コロナウイルスの後遺症で咳が完全に止まらず運動をしてもすぐに息切れしてしまう患者に週1回の点滴を6週に渡って行った。その結果、新型コロナウイルスへの感染前の状態と同程度まで症状が回復した。
【0061】
〈脳梗塞後遺症〉
実施例1の組成物1ccを点滴用の輸液に希釈して、脳梗塞によって右半身不随となり手の震えが収まらずと歩行困難となっていた患者に週1回の点滴を8週に渡って行った。その結果、スマートフォンが使用できる程度に手の震えが改善し、また歩行速度が健常者と変わらない程度となるまで回復した。
【0062】
〈皮膚荒れ〉
実施例1の組成物1ccを点滴用の輸液に希釈して、ニキビ等によって皮膚荒れの症状がある患者に週1回の点滴を6週に渡って行った。その結果、前後の結果を図1に示す。実施例1の組成物の投与後は、皮膚が非常に綺麗になり、美肌効果が出ていることが分かる。
【0063】
さらに、実施例2の組成物1ccを点滴用の輸液に希釈して、皮膚荒れの症状がある患者に投与を開始したところ、実施例1の組成物よりも高い美肌効果で出ることがわかった。実施例2の組成物は、参考例1の組成物との比較でも、高い美肌効果で出ていた。
【要約】
【課題】 本発明は、高い組織再生能力を有する医薬組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、臍帯血幹細胞の培養上清を含み、前記培養上清が、エクソソームを1.0×1010個/ml以上で含む、医薬組成物に関する。また、本発明は、培養上清を含む医薬組成物の製造方法であって、前記培養上清が、重金属除去処理がされたAOF培地を用いて臍帯血幹細胞を培養して培養液を得る工程と、前記培養液から培養上清を得る工程とを含む方法によって得られる、方法に関する。
【選択図】 なし
図1