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特許7624265生命維持方法、生命維持装置および生命維持プログラム、ならびに気球用キャビン
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  • 特許-生命維持方法、生命維持装置および生命維持プログラム、ならびに気球用キャビン 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-22
(45)【発行日】2025-01-30
(54)【発明の名称】生命維持方法、生命維持装置および生命維持プログラム、ならびに気球用キャビン
(51)【国際特許分類】
   B64D 13/06 20060101AFI20250123BHJP
   B64B 1/22 20060101ALI20250123BHJP
   B64B 1/40 20060101ALI20250123BHJP
   B64D 13/04 20060101ALI20250123BHJP
   G05D 16/00 20060101ALI20250123BHJP
   G05D 16/20 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
B64D13/06
B64B1/22
B64B1/40
B64D13/04
G05D16/00 J
G05D16/20 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2024199082
(22)【出願日】2024-11-14
【審査請求日】2024-11-14
(31)【優先権主張番号】P 2024009823
(32)【優先日】2024-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520365229
【氏名又は名称】株式会社岩谷技研
(74)【代理人】
【識別番号】110004392
【氏名又は名称】弁理士法人佐川国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義生
(72)【発明者】
【氏名】棧敷 和弥
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 圭介
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-104804(JP,A)
【文献】特開2000-103399(JP,A)
【文献】特開2022-54408(JP,A)
【文献】特開平2-262498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64D 13/06
B64B 1/22
B64B 1/40
B64D 13/04
G05D 16/00
G05D 16/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気球によって高高度を有人飛行する気球用キャビンの内部において生命を維持するための生命維持方法であって、
前記気球用キャビンは、飛行する際に密閉され、排気のみ可能な気密構造を有しているとともに、
前記気球用キャビン内を昇圧するための昇圧用ガスが充填された昇圧用ガスのボンベと、
前記気球用キャビン内に供給するための酸素が充填された酸素ボンベと、
前記昇圧用ガスのボンベから供給される昇圧用ガスの供給流量を弁開度によって目標流量に調整可能なガス供給流量制御弁と、
前記酸素ボンベから供給される酸素の供給流量を弁開度によって目標流量に調整可能な酸素供給流量制御弁と、
前記気球用キャビンから排気される気体の排出流量を弁開度によって目標流量に調整可能な排出流量制御弁と、
圧力センサによって検出される前記気球用キャビンの内圧値およびガスセンサによって検出される前記気球用キャビン内の酸素および二酸化炭素の濃度値のうち、少なくとも前記内圧値に基づいて、前記ガス供給流量制御弁、前記酸素供給流量制御弁および前記排出流量制御弁からなる各制御弁の弁開度を調整する生命維持装置と、
を含み、
前記生命維持装置は、
前記気球用キャビン内の内圧範囲に対応付けて前記各制御弁の目標流量が設定された内圧調整モードを読み込む内圧調整モード読込ステップと、
前記気球用キャビン内の酸素および二酸化炭素の濃度範囲に対応付けて前記各制御弁の目標流量が設定されたガス濃度調整モードを読み込むガス濃度調整モード読込ステップと、
検出された前記内圧値が、いずれかの前記内圧調整モードの内圧範囲に含まれる場合、当該内圧調整モードの目標流量に対応する弁開度に前記各制御弁を設定し、前記内圧値が生命を維持するのに好ましい好適圧力範囲内となるように調整する内圧調整ステップと、
前記内圧範囲が相対的に大きい前記内圧調整モードにおいて、検出された酸素または二酸化炭素の前記濃度値が、前記ガス濃度調整モードの濃度範囲に含まれる場合、当該ガス濃度調整モードの目標流量に対応する弁開度に前記各制御弁を設定し、前記濃度値が生命を維持するのに好ましい好適濃度範囲内となるように調整するガス濃度調整ステップと、
を実行する、生命維持方法。
【請求項2】
前記内圧調整モードは、少なくとも以下に示すモード1~3を含む、請求項1に記載の生命維持方法;
(1)モード1:前記好適圧力範囲の上限値(PU)を超える内圧範囲では、酸素の目標流量に対する昇圧用ガスの目標流量の比である供給流量比を第1比率値(A1)に維持し、前記排出流量は前記供給流量の総和より大きくする;
(2)モード2:前記好適圧力範囲の下限値(PL)より大きく前記上限値(PU)以下の内圧範囲では、前記供給流量比を前記第1比率値(A1)より小さい第2比率値(A2)に維持し、前記排出流量は前記供給流量の総和と同一または略同一にする;
(3)モード3:前記下限値(PL)以下の内圧範囲では、前記供給流量比を前記第2比率値(A2)より小さい第3比率値(A3)に維持し、前記排出流量はゼロまたは略ゼロにする。
【請求項3】
前記ガス濃度調整モードは、前記モード1または前記モード2において、検出された酸素または二酸化炭素の前記濃度値が前記好適濃度範囲外の場合に実行され、前記供給流量比を前記第2比率値(A2)より小さく前記第3比率値(A3)より大きい第4比率値(A4)に維持し、前記排出流量は前記供給流量の総和より大きくする、請求項2に記載の生命維持方法。
【請求項4】
前記モード2は、前記内圧範囲が前記好適圧力範囲内で予め設定された中間値(PM)より大きく前記上限値(PU)以下である場合に実行され、前記内圧範囲が前記下限値(PL)より大きく前記中間値(PM)以下である場合、以下に示すモード2Aが実行される、請求項2に記載の生命維持方法;
モード2A:前記供給流量比を前記第1比率値(A1)より小さく前記第2比率値(A2)より大きい第5比率値(A5)に維持し、前記排出流量は前記供給流量の総和より少なくする。
【請求項5】
気球によって高高度を有人飛行する気球用キャビンの内部において生命を維持するための生命維持装置であって、
前記気球用キャビンは、飛行する際に密閉され、排気のみ可能な気密構造を有しているとともに、
前記気球用キャビン内を昇圧するための昇圧用ガスが充填された昇圧用ガスのボンベと、
前記気球用キャビン内に供給するための酸素が充填された酸素ボンベと、
前記昇圧用ガスのボンベから供給される昇圧用ガスの供給流量を弁開度によって目標流量に調整可能なガス供給流量制御弁と、
前記酸素ボンベから供給される酸素の供給流量を弁開度によって目標流量に調整可能な酸素供給流量制御弁と、
前記気球用キャビンから排気される気体の排出流量を弁開度によって目標流量に調整可能な排出流量制御弁と、
を含み、
前記生命維持装置は、圧力センサによって検出される前記気球用キャビンの内圧値およびガスセンサによって検出される前記気球用キャビン内の酸素および二酸化炭素の濃度値のうち、少なくとも前記内圧値に基づいて、前記ガス供給流量制御弁、前記酸素供給流量制御弁および前記排出流量制御弁からなる各制御弁の弁開度を調整するものであり、
前記気球用キャビン内の内圧範囲に対応付けて前記各制御弁の目標流量が設定された内圧調整モードを読み込む内圧調整モード読込ステップと、
前記気球用キャビン内の酸素および二酸化炭素の濃度範囲に対応付けて前記各制御弁の目標流量が設定されたガス濃度調整モードを読み込むガス濃度調整モード読込ステップと、
検出された前記内圧値が、いずれかの前記内圧調整モードの内圧範囲に含まれる場合、当該内圧調整モードの目標流量に対応する弁開度に前記各制御弁を設定し、前記内圧値が生命を維持するのに好ましい好適圧力範囲内となるように調整する内圧調整ステップと、
前記内圧範囲が相対的に大きい前記内圧調整モードにおいて、検出された酸素または二酸化炭素の前記濃度値が、前記ガス濃度調整モードの濃度範囲に含まれる場合、当該ガス濃度調整モードの目標流量に対応する弁開度に前記各制御弁を設定し、前記濃度値が生命を維持するのに好ましい好適濃度範囲内となるように調整するガス濃度調整ステップと、
を実行する、生命維持装置。
【請求項6】
気球によって高高度を有人飛行する気球用キャビンの内部において生命を維持するための生命維持方法であって、
前記気球用キャビンは、飛行する際に密閉され、排気のみ可能な気密構造を有しているとともに、
前記気球用キャビン内を昇圧するための昇圧用ガスが充填された昇圧用ガスのボンベと、
前記気球用キャビン内に供給するための酸素が充填された酸素ボンベと、
前記昇圧用ガスのボンベから供給される昇圧用ガスの供給流量を弁開度によって目標流量に調整可能なガス供給流量制御弁と、
前記酸素ボンベから供給される酸素の供給流量を弁開度によって目標流量に調整可能な酸素供給流量制御弁と、
前記気球用キャビンから排気される気体の排出流量を弁開度によって目標流量に調整可能な排出流量制御弁と、
圧力センサによって検出される前記気球用キャビンの内圧値およびガスセンサによって検出される前記気球用キャビン内の酸素および二酸化炭素の濃度値のうち、少なくとも前記内圧値に基づいて、前記ガス供給流量制御弁および前記酸素供給流量制御弁からなる各供給流量制御弁および前記排出流量制御弁の弁開度を調整する生命維持装置と、
を含み、
前記生命維持装置は、
前記気球用キャビン内の内圧範囲に対応付けて、前記各供給流量制御弁の目標流量、または前記各供給流量制御弁の弁開度をフィードバック制御するための供給側内圧目標値と、前記排出流量制御弁の弁開度をフィードバック制御するための排出側内圧目標値とが設定された内圧調整モードを読み込む内圧調整モード読込ステップと、
前記気球用キャビン内の酸素の濃度範囲に対応付けて前記酸素供給流量制御弁の弁開度をフィードバック制御するための酸素目標値が設定されるとともに、前記気球用キャビン内の二酸化炭素の濃度範囲に対応付けて前記ガス供給流量制御弁の弁開度をフィードバック制御するための二酸化酸素目標値が設定されたガス濃度調整モードを読み込むガス濃度調整モード読込ステップと、
検出された前記内圧値が、いずれかの前記内圧調整モードの内圧範囲に含まれる場合、前記各供給流量制御弁は、当該内圧調整モードの目標流量に対応する弁開度に設定し、または当該内圧調整モードに対応する前記供給側内圧目標値と前記内圧値との差に基づいて弁開度をフィードバック制御し、前記排出流量制御弁は、当該内圧調整モードに対応する前記排出側内圧目標値と前記内圧値との差に基づいて弁開度をフィードバック制御し、前記内圧値が生命を維持するのに好ましい好適圧力範囲内となるように調整する内圧調整ステップと、
前記内圧範囲が相対的に大きい前記内圧調整モードにおいて、検出された酸素または二酸化炭素の前記濃度値が、前記ガス濃度調整モードの濃度範囲に含まれる場合、前記ガス濃度調整モードに対応する前記酸素目標値または前記二酸化炭素目標値と前記濃度値との差に基づいて弁開度をフィードバック制御し、前記濃度値が生命を維持するのに好ましい好適濃度範囲内となるように調整するガス濃度調整ステップと、
を実行する、生命維持方法。
【請求項7】
前記内圧調整モードは、以下に示すモード1~3を含む、請求項6に記載の生命維持方法;
(1)モード1:前記好適圧力範囲の上限値(PU)を超える内圧範囲では、酸素の目標流量に対する昇圧用ガスの目標流量の比である供給流量比を第1比率値(A1)に維持し、前記排出流量は前記内圧値が、前記好適圧力範囲の下限値(PL)より大きく前記上限値(PU)よりも小さい前記排出側内圧目標値(Pr1)となるようにフィードバック制御する;
(2)モード2:前記好適圧力範囲の下限値(PL)より大きく前記上限値(PU)以下の内圧範囲では、前記供給流量比を前記第1比率値(A1)より小さい第2比率値(A2)に維持し、前記排出流量は前記内圧値が前記排出側内圧目標値(Pr1)となるようにフィードバック制御する;
(3)モード3:前記下限値(PL)以下の内圧範囲では、前記供給流量比を前記第2比率値(A2)より小さい第3比率値(A3)に維持し、前記供給流量は前記内圧値が、前記下限値(PL)より大きい前記供給側内圧目標値(Pr2)となるようにフィードバック制御するとともに、前記排出流量は前記内圧値が前記排出側内圧目標値(Pr1)となるようにフィードバック制御する。
【請求項8】
前記ガス濃度調整モードは、前記モード1または前記モード2において、
検出された酸素の濃度値が前記好適濃度範囲外の場合、当該濃度値が前記酸素目標値(Or1)となるように酸素の供給流量をフィードバック制御するとともに、検出された内圧値が前記排出側内圧目標値(Pr1)となるように排出流量をフィードバック制御し、
検出された二酸化炭素の濃度値が前記好適濃度範囲外の場合、当該濃度値が前記二酸化炭素目標値(Cr1)となるように昇圧用ガスの供給流量をフィードバック制御するとともに、検出された内圧値が前記排出側内圧目標値(Pr1)となるように排出流量をフィードバック制御する、
請求項7に記載の生命維持方法。
【請求項9】
前記モード1または前記モード2において、検出された前記内圧値が前記上限値(PU)より大きい異常値(P0)を超える場合、前記ガス濃度調整モードを実行しない、請求項3または請求項8に記載の生命維持方法。
【請求項10】
気球によって高高度を有人飛行する気球用キャビンの内部において生命を維持するための生命維持装置であって、
前記気球用キャビンは、飛行する際に密閉され、排気のみ可能な気密構造を有しているとともに、
前記気球用キャビン内を昇圧するための昇圧用ガスが充填された昇圧用ガスのボンベと、
前記気球用キャビン内に供給するための酸素が充填された酸素ボンベと、
前記昇圧用ガスのボンベから供給される昇圧用ガスの供給流量を弁開度によって目標流量に調整可能なガス供給流量制御弁と、
前記酸素ボンベから供給される酸素の供給流量を弁開度によって目標流量に調整可能な酸素供給流量制御弁と、
前記気球用キャビンから排気される気体の排出流量を弁開度によって目標流量に調整可能な排出流量制御弁と、
を含み、
前記生命維持装置は、圧力センサによって検出される前記気球用キャビンの内圧値およびガスセンサによって検出される前記気球用キャビン内の酸素および二酸化炭素の濃度値のうち、少なくとも前記内圧値に基づいて、前記ガス供給流量制御弁および前記酸素供給流量制御弁からなる各供給流量制御弁および前記排出流量制御弁の弁開度を調整するものであり、
前記気球用キャビン内の内圧範囲に対応付けて、前記各供給流量制御弁の目標流量、または前記各供給流量制御弁の弁開度をフィードバック制御するための供給側内圧目標値と、前記排出流量制御弁の弁開度をフィードバック制御するための排出側内圧目標値とが設定された内圧調整モードを読み込む内圧調整モード読込ステップと、
前記気球用キャビン内の酸素の濃度範囲に対応付けて前記酸素供給流量制御弁の弁開度をフィードバック制御するための酸素目標値が設定されるとともに、前記気球用キャビン内の二酸化炭素の濃度範囲に対応付けて前記ガス供給流量制御弁の弁開度をフィードバック制御するための二酸化酸素目標値が設定されたガス濃度調整モードを読み込むガス濃度調整モード読込ステップと、
検出された前記内圧値が、いずれかの前記内圧調整モードの内圧範囲に含まれる場合、前記各供給流量制御弁は、当該内圧調整モードの目標流量に対応する弁開度に設定し、または当該内圧調整モードに対応する前記供給側内圧目標値と前記内圧値との差に基づいて弁開度をフィードバック制御し、前記排出流量制御弁は、当該内圧調整モードに対応する前記排出側内圧目標値と前記内圧値との差に基づいて弁開度をフィードバック制御し、前記内圧値が生命を維持するのに好ましい好適圧力範囲内となるように調整する内圧調整ステップと、
前記内圧範囲が相対的に大きい前記内圧調整モードにおいて、検出された酸素または二酸化炭素の前記濃度値が、前記ガス濃度調整モードの濃度範囲に含まれる場合、前記ガス濃度調整モードに対応する前記酸素目標値または前記二酸化炭素目標値と前記濃度値との差に基づいて弁開度をフィードバック制御し、前記濃度値が生命を維持するのに好ましい好適濃度範囲内となるように調整するガス濃度調整ステップと、
を実行する、生命維持装置。
【請求項11】
請求項1または請求項6に記載の生命維持方法をコンピュータに実行させる、生命維持プログラム。
【請求項12】
請求項5または請求項10に記載の生命維持装置を備えた気球用キャビン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気球によって高高度を有人飛行する気球用キャビンの内部において、搭乗者の生命を維持するための生命維持方法、生命維持装置および生命維持プログラム、ならびに気球用キャビンに関するものである。なお、本発明における「高高度」とは、通常航空機が運航する高度よりも高い高度、具体的には2万メートル以上で最高約50万メートルまでの高度を指す。
【背景技術】
【0002】
従来、有人飛行する航空機の内部において、搭乗者の生命を維持するための技術が知られている。例えば、特開平2-262498号公報には、航空機の高度に応じて航空機キャビンの内圧を所定の圧力範囲に加圧するキャビン加圧装置を備えた生命維持装置が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平2-262498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された生命維持装置を含め、従来の生命維持装置が搭載されている航空機は、せいぜい1万m前後の高度を数百人規模の乗客を乗せて飛行するものである。このため、航空機では、高速で飛行することによって強制的に大量の外気を取り込む構造が不可欠であり、当該取り込んだ外気を加圧装置で加圧し、空調装置で適温に調節した上で航空機キャビンの内部へ供給している。これにより、航空機キャビンの内部では、内圧やガス濃度(酸素濃度や二酸化炭素濃度)が適切な状態に保たれている。
【0005】
一方、気球によって2万m以上の高高度を有人飛行する気球用キャビンは、航空機の飛行条件と比べてさらに低い気圧に晒される上、航空機に比べて極めて低速度で飛行する。このため、航空機のような方法によって気球用キャビン内に外気を取り込むことはできず、むしろ気球用キャビン内の空気が流出しないように密閉する必要がある。また、気球用キャビンは、気球の浮力によって飛行するため軽量化が必須であり、航空機キャビンに比べて極めて狭小なため、航空機に搭載されるような加圧装置や空調装置等の大型で重量のある装置を搭載することもできない。このように様々な制約がある気球用キャビンの内部において、搭乗者の生命を維持しうるように内圧およびガス濃度の双方を適切に調整する技術は、従来、実現されていない。
【0006】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、気球によって高高度を有人飛行する気球用キャビンの内部において、搭乗者の生命を維持することはもとより、安全かつ快適に内圧およびガス濃度を調整することができる生命維持方法、生命維持装置および生命維持プログラム、ならびに気球用キャビンを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る生命維持方法は、気球によって高高度を有人飛行する気球用キャビンの内部において、搭乗者の生命を維持することはもとより、安全かつ快適に内圧およびガス濃度を調整するという課題を解決するために、気球によって高高度を有人飛行する気球用キャビンの内部において生命を維持するための生命維持方法であって、前記気球用キャビンは、飛行する際に密閉され、排気のみ可能な気密構造を有しているとともに、前記気球用キャビン内を昇圧するための昇圧用ガスが充填された昇圧用ガスのボンベと、前記気球用キャビン内に供給するための酸素が充填された酸素ボンベと、前記昇圧用ガスのボンベから供給される昇圧用ガスの供給流量を弁開度によって目標流量に調整可能なガス供給流量制御弁と、前記酸素ボンベから供給される酸素の供給流量を弁開度によって目標流量に調整可能な酸素供給流量制御弁と、前記気球用キャビンから排気される気体の排出流量を弁開度によって目標流量に調整可能な排出流量制御弁と、圧力センサによって検出される前記気球用キャビンの内圧値およびガスセンサによって検出される前記気球用キャビン内の酸素および二酸化炭素の濃度値のうち、少なくとも前記内圧値に基づいて、前記ガス供給流量制御弁、前記酸素供給流量制御弁および前記排出流量制御弁からなる各制御弁の弁開度を調整する生命維持装置と、を含み、前記生命維持装置は、前記気球用キャビン内の内圧範囲に対応付けて前記各制御弁の目標流量が設定された内圧調整モードを読み込む内圧調整モード読込ステップと、前記気球用キャビン内の酸素および二酸化炭素の濃度範囲に対応付けて前記各制御弁の目標流量が設定されたガス濃度調整モードを読み込むガス濃度調整モード読込ステップと、検出された前記内圧値が、いずれかの前記内圧調整モードの内圧範囲に含まれる場合、当該内圧調整モードの目標流量に対応する弁開度に前記各制御弁を設定し、前記内圧値が生命を維持するのに好ましい好適圧力範囲内となるように調整する内圧調整ステップと、前記内圧範囲が相対的に大きい前記内圧調整モードにおいて、検出された酸素または二酸化炭素の前記濃度値が、前記ガス濃度調整モードの濃度範囲に含まれる場合、当該ガス濃度調整モードの目標流量に対応する弁開度に前記各制御弁を設定し、前記濃度値が生命を維持するのに好ましい好適濃度範囲内となるように調整するガス濃度調整ステップと、を実行する。
【0008】
また、本発明に係る生命維持装置は、気球によって高高度を有人飛行する気球用キャビンの内部において、搭乗者の生命を維持することはもとより、安全かつ快適に内圧およびガス濃度を調整するという課題を解決するために、気球によって高高度を有人飛行する気球用キャビンの内部において生命を維持するための生命維持装置であって、前記気球用キャビンは、飛行する際に密閉され、排気のみ可能な気密構造を有しているとともに、前記気球用キャビン内を昇圧するための昇圧用ガスが充填された昇圧用ガスのボンベと、前記気球用キャビン内に供給するための酸素が充填された酸素ボンベと、前記昇圧用ガスのボンベから供給される昇圧用ガスの供給流量を弁開度によって目標流量に調整可能なガス供給流量制御弁と、前記酸素ボンベから供給される酸素の供給流量を弁開度によって目標流量に調整可能な酸素供給流量制御弁と、前記気球用キャビンから排気される気体の排出流量を弁開度によって目標流量に調整可能な排出流量制御弁と、を含み、前記生命維持装置は、圧力センサによって検出される前記気球用キャビンの内圧値およびガスセンサによって検出される前記気球用キャビン内の酸素および二酸化炭素の濃度値のうち、少なくとも前記内圧値に基づいて、前記ガス供給流量制御弁、前記酸素供給流量制御弁および前記排出流量制御弁からなる各制御弁の弁開度を調整するものであり、前記気球用キャビン内の内圧範囲に対応付けて前記各制御弁の目標流量が設定された内圧調整モードを読み込む内圧調整モード読込ステップと、前記気球用キャビン内の酸素および二酸化炭素の濃度範囲に対応付けて前記各制御弁の目標流量が設定されたガス濃度調整モードを読み込むガス濃度調整モード読込ステップと、検出された前記内圧値が、いずれかの前記内圧調整モードの内圧範囲に含まれる場合、当該内圧調整モードの目標流量に対応する弁開度に前記各制御弁を設定し、前記内圧値が生命を維持するのに好ましい好適圧力範囲内となるように調整する内圧調整ステップと、前記内圧範囲が相対的に大きい前記内圧調整モードにおいて、検出された酸素または二酸化炭素の前記濃度値が、前記ガス濃度調整モードの濃度範囲に含まれる場合、当該ガス濃度調整モードの目標流量に対応する弁開度に前記各制御弁を設定し、前記濃度値が生命を維持するのに好ましい好適濃度範囲内となるように調整するガス濃度調整ステップと、を実行する。
【0009】
さらに、本発明に係る生命維持方法は、気球によって高高度を有人飛行する気球用キャビンの内部において、搭乗者の生命を維持することはもとより、安全かつ快適に内圧およびガス濃度を調整するという課題を解決するために、気球によって高高度を有人飛行する気球用キャビンの内部において生命を維持するための生命維持方法であって、前記気球用キャビンは、飛行する際に密閉され、排気のみ可能な気密構造を有しているとともに、前記気球用キャビン内を昇圧するための昇圧用ガスが充填された昇圧用ガスのボンベと、前記気球用キャビン内に供給するための酸素が充填された酸素ボンベと、前記昇圧用ガスのボンベから供給される昇圧用ガスの供給流量を弁開度によって目標流量に調整可能なガス供給流量制御弁と、前記酸素ボンベから供給される酸素の供給流量を弁開度によって目標流量に調整可能な酸素供給流量制御弁と、前記気球用キャビンから排気される気体の排出流量を弁開度によって目標流量に調整可能な排出流量制御弁と、圧力センサによって検出される前記気球用キャビンの内圧値およびガスセンサによって検出される前記気球用キャビン内の酸素および二酸化炭素の濃度値のうち、少なくとも前記内圧値に基づいて、前記ガス供給流量制御弁および前記酸素供給流量制御弁からなる各供給流量制御弁および前記排出流量制御弁の弁開度を調整する生命維持装置と、を含み、前記生命維持装置は、前記気球用キャビン内の内圧範囲に対応付けて、前記各供給流量制御弁の目標流量、または前記各供給流量制御弁の弁開度をフィードバック制御するための供給側内圧目標値と、前記排出流量制御弁の弁開度をフィードバック制御するための排出側内圧目標値とが設定された内圧調整モードを読み込む内圧調整モード読込ステップと、前記気球用キャビン内の酸素の濃度範囲に対応付けて前記酸素供給流量制御弁の弁開度をフィードバック制御するための酸素目標値が設定されるとともに、前記気球用キャビン内の二酸化炭素の濃度範囲に対応付けて前記ガス供給流量制御弁の弁開度をフィードバック制御するための二酸化酸素目標値が設定されたガス濃度調整モードを読み込むガス濃度調整モード読込ステップと、検出された前記内圧値が、いずれかの前記内圧調整モードの内圧範囲に含まれる場合、前記各供給流量制御弁は、当該内圧調整モードの目標流量に対応する弁開度に設定し、または当該内圧調整モードに対応する前記供給側内圧目標値と前記内圧値との差に基づいて弁開度をフィードバック制御し、前記排出流量制御弁は、当該内圧調整モードに対応する前記排出側内圧目標値と前記内圧値との差に基づいて弁開度をフィードバック制御し、前記内圧値が生命を維持するのに好ましい好適圧力範囲内となるように調整する内圧調整ステップと、前記内圧範囲が相対的に大きい前記内圧調整モードにおいて、検出された酸素または二酸化炭素の前記濃度値が、前記ガス濃度調整モードの濃度範囲に含まれる場合、前記ガス濃度調整モードに対応する前記酸素目標値または前記二酸化炭素目標値と前記濃度値との差に基づいて弁開度をフィードバック制御し、前記濃度値が生命を維持するのに好ましい好適濃度範囲内となるように調整するガス濃度調整ステップと、を実行する。
【0010】
また、本発明に係る生命維持装置は、気球によって高高度を有人飛行する気球用キャビンの内部において、搭乗者の生命を維持することはもとより、安全かつ快適に内圧およびガス濃度を調整するという課題を解決するために、気球によって高高度を有人飛行する気球用キャビンの内部において生命を維持するための生命維持装置であって、前記気球用キャビンは、飛行する際に密閉され、排気のみ可能な気密構造を有しているとともに、前記気球用キャビン内を昇圧するための昇圧用ガスが充填された昇圧用ガスのボンベと、前記気球用キャビン内に供給するための酸素が充填された酸素ボンベと、前記昇圧用ガスのボンベから供給される昇圧用ガスの供給流量を弁開度によって目標流量に調整可能なガス供給流量制御弁と、前記酸素ボンベから供給される酸素の供給流量を弁開度によって目標流量に調整可能な酸素供給流量制御弁と、前記気球用キャビンから排気される気体の排出流量を弁開度によって目標流量に調整可能な排出流量制御弁と、を含み、前記生命維持装置は、圧力センサによって検出される前記気球用キャビンの内圧値およびガスセンサによって検出される前記気球用キャビン内の酸素および二酸化炭素の濃度値のうち、少なくとも前記内圧値に基づいて、前記ガス供給流量制御弁および前記酸素供給流量制御弁からなる各供給流量制御弁および前記排出流量制御弁の弁開度を調整するものであり、前記気球用キャビン内の内圧範囲に対応付けて、前記各供給流量制御弁の目標流量、または前記各供給流量制御弁の弁開度をフィードバック制御するための供給側内圧目標値と、前記排出流量制御弁の弁開度をフィードバック制御するための排出側内圧目標値とが設定された内圧調整モードを読み込む内圧調整モード読込ステップと、前記気球用キャビン内の酸素の濃度範囲に対応付けて前記酸素供給流量制御弁の弁開度をフィードバック制御するための酸素目標値が設定されるとともに、前記気球用キャビン内の二酸化炭素の濃度範囲に対応付けて前記ガス供給流量制御弁の弁開度をフィードバック制御するための二酸化酸素目標値が設定されたガス濃度調整モードを読み込むガス濃度調整モード読込ステップと、検出された前記内圧値が、いずれかの前記内圧調整モードの内圧範囲に含まれる場合、前記各供給流量制御弁は、当該内圧調整モードの目標流量に対応する弁開度に設定し、または当該内圧調整モードに対応する前記供給側内圧目標値と前記内圧値との差に基づいて弁開度をフィードバック制御し、前記排出流量制御弁は、当該内圧調整モードに対応する前記排出側内圧目標値と前記内圧値との差に基づいて弁開度をフィードバック制御し、前記内圧値が生命を維持するのに好ましい好適圧力範囲内となるように調整する内圧調整ステップと、前記内圧範囲が相対的に大きい前記内圧調整モードにおいて、検出された酸素または二酸化炭素の前記濃度値が、前記ガス濃度調整モードの濃度範囲に含まれる場合、前記ガス濃度調整モードに対応する前記酸素目標値または前記二酸化炭素目標値と前記濃度値との差に基づいて弁開度をフィードバック制御し、前記濃度値が生命を維持するのに好ましい好適濃度範囲内となるように調整するガス濃度調整ステップと、を実行する。
【0011】
さらに、本発明に係る生命維持プログラムは、気球によって高高度を有人飛行する気球用キャビンの内部において、搭乗者の生命を維持することはもとより、安全かつ快適に内圧およびガス濃度を調整するという課題を解決するために、上述したいずれかの態様の生命維持方法をコンピュータに実行させる。
【0012】
また、本発明に係る気球用キャビンは、気球によって高高度を有人飛行する気球用キャビンの内部において、搭乗者の生命を維持することはもとより、安全かつ快適に内圧およびガス濃度を調整するという課題を解決するために、上述したいずれかの態様の生命維持装置を備えている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、気球によって高高度を有人飛行する気球用キャビンの内部において、搭乗者の生命を維持することはもとより、安全かつ快適に内圧およびガス濃度を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る生命維持装置および生命維持プログラムを備えた気球用キャビンの第1実施形態を示す図である。
図2】第1実施形態の生命維持装置を示すブロック図である。
図3】第1実施形態において設定可能な内圧調整モードと内圧との関係を示すグラフである。
図4】第1実施形態の生命維持装置および生命維持プログラムによって実行される生命維持方法を示すフローチャートである。
図5図4におけるガス濃度調整ステップの詳細を示すフローチャートである。
図6】第2実施形態において設定可能な内圧調整モードと内圧との関係を示すグラフである。
図7】第2実施形態の生命維持装置および生命維持プログラムによって実行される生命維持方法を示すフローチャートである。
図8図7におけるガス濃度調整ステップの詳細を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、上述した課題を解決するべく鋭意研究を行った結果、気球用キャビン内に昇圧用ガスのボンベと酸素ボンベとを別々に設け、これら各ボンベから供給される各ガスの供給流量と、気球用キャビンから排出される気体の排出流量とを適切に調整することにより、気球用キャビン内の内圧、酸素濃度および二酸化炭素濃度のそれぞれを生命を維持しうる範囲内に保つことを着想し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
以下、本発明に係る生命維持方法、生命維持装置および生命維持プログラム、ならびに気球用キャビンの第1実施形態について図面を用いて説明する。本第1実施形態の特徴は、以下に詳述するとおり、気球用キャビンの内圧域(ゾーン)ごとに適切と予想される各制御弁の目標流量を予め定めておき、実測された内圧値が含まれる内圧域に応じて、各制御弁を目標流量に対応する弁開度に多段階に調整する点にある。
【0017】
[1]気球用キャビン100について
気球用キャビン100は、気球によって高高度を有人飛行するためのものである。本第1実施形態において、気球用キャビン100は、繊維強化プラスチック等によって略球体状に形成されており、飛行する際に開口部がハッチ等によって密閉され、排気のみ可能な気密構造を有している。
【0018】
また、気球用キャビン100の内部には、図1に示すように、主として、昇圧用ガスの供給流量を制御するガス供給流量制御弁110と、酸素の供給流量を制御する酸素供給流量制御弁120と、気球用キャビン100から排出される気体の排出流量を制御する排出流量制御弁130と、これら各制御弁110,120,130を制御する生命維持装置1とを有している。以下、各構成について説明する。
【0019】
ガス供給流量制御弁110は、気球用キャビン100の内部を昇圧するための昇圧用ガスの供給流量を制御するものである。本第1実施形態において、ガス供給流量制御弁110は、生命維持装置1からの制御信号によって弁開度を調整可能な電磁弁等によって構成されており、当該弁開度によって昇圧用ガスの供給流量を目標流量に調整可能となっている。
【0020】
ガス供給流量制御弁110には、図1に示すように、気球用キャビン100内を昇圧するための昇圧用ガスが高圧で充填された昇圧用ガスのボンベ111が、第1減圧弁112および第2減圧弁113を介して接続されている。第1減圧弁112は、昇圧用ガスのボンベ111から排出された高圧の昇圧用ガスを第1圧力値まで減圧する。また、第2減圧弁113は、第1減圧弁112から排出された昇圧用ガスをさらに第2圧力値まで減圧する。なお、昇圧用ガスとしては、空気ガスや空気成分の約8割を占める窒素ガス等のように、二酸化炭素をほぼ含まないガスが用いられる。
【0021】
本第1実施形態において、第1減圧弁112と第2減圧弁113との間には、図1に示すように、残量警報用圧力センサ114と、圧力計器115と、緊急供給用バルブ116とが接続されている。残量警報用圧力センサ114は、第1減圧弁112から排出された昇圧用ガスの圧力値を検知し、所定値以下の場合に警報を出力する。圧力計器115は、昇圧用ガスのボンベ111の圧力が低下していないか否かを確認するためのものである。緊急供給用バルブ116は、気球用キャビン100内の内圧が大幅に低下した場合等の緊急時に、第1圧力値の昇圧用ガスを手動で気球用キャビン100内に供給するためのものである。
【0022】
また、図1に示すように、第2減圧弁113とガス供給流量制御弁110との間には、手動供給用バルブ117が設けられており、ガス供給流量制御弁110の後流には、手動開閉バルブ118と、供給流量センサ119とが設けられている。手動供給用バルブ117は、ガス供給流量制御弁110の故障等により、昇圧用ガスの供給流量が不足した場合に、第2圧力値の昇圧用ガスを手動で気球用キャビン100内に供給する。手動開閉バルブ118は、ガス供給流量制御弁110からの供給流量が過多となった場合等に、手動で昇圧用ガスの供給流量を調整する。供給流量センサ119は、気球用キャビン100内に供給される昇圧用ガスの供給流量を検知する。
【0023】
酸素供給流量制御弁120は、気球用キャビン100内に供給する酸素の供給流量を制御するものである。本第1実施形態において、酸素供給流量制御弁120は、生命維持装置1からの制御信号によって弁開度を調整可能な電磁弁等によって構成されており、当該弁開度によって酸素の供給流量を目標流量に調整可能となっている。
【0024】
酸素供給流量制御弁120には、図1に示すように、酸素が高圧で充填された酸素ボンベ121が、第1減圧弁112および第2減圧弁113を介して接続されている。また、第1減圧弁112と第2減圧弁113との間には、昇圧用ガス側の構成と同様、残量警報用圧力センサ114と、圧力計器115と、緊急供給用バルブ116とが接続されている。残量警報用圧力センサ114は、第1減圧弁112から排出された酸素の圧力値を検知し、所定値以下の場合に警報を出力する。圧力計器115は、酸素ボンベ121の圧力が低下していないか否かを確認する。緊急供給用バルブ116は、気球用キャビン100内の酸素濃度が大幅に低下した場合等の緊急時に、第1圧力値の酸素を手動で気球用キャビン100内に供給する。
【0025】
また、図1に示すように、第2減圧弁113と酸素供給流量制御弁120との間には、昇圧用ガス側の構成と同様、手動供給用バルブ117が設けられており、酸素供給流量制御弁120の後流には、手動開閉バルブ118と、供給流量センサ119とが設けられている。手動供給用バルブ117は、酸素供給流量制御弁120の故障等により、酸素の供給流量が不足した場合に、第2圧力値の酸素を手動で気球用キャビン100内に供給する。手動開閉バルブ118は、酸素供給流量制御弁120からの供給流量が過多となった場合等に、手動で酸素の供給流量を調整する。供給流量センサ119は、気球用キャビン100内に供給される酸素の供給流量を検知する。
【0026】
排出流量制御弁130は、気球用キャビン100の内部から排出される気体の排出流量を制御するものである。本第1実施形態において、排出流量制御弁130は、生命維持装置1からの制御信号によって、バルブの開度を調整可能な電磁弁等によって構成されており、当該弁開度によって排出流量を目標流量に調整可能となっている。また、排出流量制御弁130には、図1に示すように、気球用キャビン100の内部から排出される気体の排出流量を検知する排出流量センサ131が設けられている。
【0027】
また、本第1実施形態において、気球用キャビン100には、図1に示すように、非常時の排気手段として、手動排気用バルブ132と、圧力逃し弁133とが設けられている。手動排気用バルブ132は、気球用キャビン100内の気体を手動で排気するものである。圧力逃し弁133は、気球用キャビン100の内圧が、外気圧に対して所定の圧力値以上となったとき、気球用キャビン100内のガスを排気する。なお、手動排気用バルブ132および圧力逃し弁133が故障によって過度に排気する等、予期しない動作を防止するために、手動開閉バルブ118が設けられている。
【0028】
なお、本第1実施形態では、緊急供給用バルブ116および手動供給用バルブ117として、弁開度によって流量を手動調整可能なニードルバルブを使用しているが、この構成に限定されるものではない。例えば、緊急供給用バルブ116および手動供給用バルブ117としては、マスフローメータやフローセレクタを備えた流量制御バルブ等でもよい。また、ガス供給流量制御弁110、酸素供給流量制御弁120および排出流量制御弁130としては、フローセレクタを備えた流量制御バルブ等でもよい。
【0029】
[2]生命維持装置1について
生命維持装置1は、気球用キャビン100の内圧値および気球用キャビン100内の酸素および二酸化炭素の濃度値のうち、少なくとも内圧値に基づいて、ガス供給流量制御弁110、酸素供給流量制御弁120および排出流量制御弁130からなる各制御弁の弁開度を目標流量に対応する弁開度に多段階に調整するものである。本第1実施形態において、生命維持装置1は、組込コンピュータ等のコンピュータによって構成されており、図2に示すように、主として、記憶手段2と、演算処理手段3とを有している。
【0030】
記憶手段2は、各種のデータを記憶するとともに、演算処理手段3が演算処理を行う際のワーキングエリアとして機能するものである。本第1実施形態において、記憶手段2は、ハードディスク、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等で構成されており、図2に示すように、プログラム記憶部21と、内圧調整モード記憶部22と、ガス濃度調整モード記憶部23とを有している。
【0031】
プログラム記憶部21には、本第1実施形態の生命維持プログラム1aがインストールされている。そして、演算処理手段3が生命維持プログラム1aを実行することにより、生命維持装置1としてのコンピュータを後述する各構成部として機能させるようになっている。
【0032】
なお、生命維持プログラム1aの利用形態は、上記構成に限られるものではない。例えば、SDカード、CFカード、USBメモリ、外付けHDD(Hard Disk Drive)、外付けSSD(Solid State Drive)、CD-ROM、DVD-ROM等のように、コンピュータで読み取り可能な非一時的な記録媒体に生命維持プログラム1aを記憶させておき、当該記録媒体から直接読み出して実行してもよい。
【0033】
内圧調整モード記憶部22は、気球用キャビン100の内圧を調整するための内圧調整モードを記憶するものである。本第1実施形態において、内圧調整モード記憶部22には、気球用キャビン100内の内圧範囲に対応付けて、ガス供給流量制御弁110、酸素供給流量制御弁120および排出流量制御弁130からなる各制御弁の目標流量が設定された内圧調整モードが登録されている。
【0034】
本第1実施形態の内圧調整モードとしては、図3に示すように、気球用キャビン100内において、生命を維持するのに好ましい好適圧力範囲に基づいて、モード1、モード2、モード2Aおよびモード3が登録されている。以下、各モードについて説明する。なお、好適圧力範囲の上限値(PU)としては、標準大気圧である1気圧を上回らない値に設定することが好ましい。また、下限値(PL)としては、搭乗者の呼吸に悪影響を及ぼす0.6気圧を下回らない値に設定することが好ましい。
【0035】
(1)モード1:好適圧力範囲の上限値(PU)を超える内圧範囲は、主に気球用キャビン100内の減圧が必要な内圧域といえる。よって、この内圧範囲では、酸素の目標流量(Qo1)に対する昇圧用ガスの目標流量(Qg1)の比である供給流量比(Qg1/Qo1)を、酸素と昇圧用ガスの混合気体における酸素の成分割合が空気における酸素の成分割合と近い値となる第1比率値(A1)に維持し、かつ、排出流量(Qe1)は供給流量の総和(Qg1+Qo1)より大きくなるように、ガス供給流量制御弁110の目標流量(Qg1)、酸素供給流量制御弁120の目標流量(Qo1)および排出流量制御弁130の目標流量(Qe1)が設定される。
【0036】
このモード1により、酸素と昇圧用ガスの混合気体が空気に近い成分割合で供給される一方、その供給流量よりも大きな排出流量で気球用キャビン100内の空気が排出されるため、気球用キャビン100の内圧が大きく減圧される。なお、モード1は、内圧を減圧するためのモードであるため、ガス供給流量制御弁110の目標流量(Qg1)および酸素供給流量制御弁120の目標流量(Qo1)はいずれもゼロに設定してもよい。ただし、飛行中の気球用キャビン100は密閉されて外気が取り込めないため、気球用キャビン100内に酸素が供給されず、二酸化炭素濃度が急激に上昇してしまうおそれがあるので、モード1においては、わずかな流量でも供給流量を確保しておくことがより好ましい。
【0037】
(2)モード2:好適圧力範囲内で予め設定された中間値(PM)より大きく上限値(PU)以下の内圧範囲は、内圧が中間値(PM)まで低下した場合のキャビン内酸素分圧の低下を予め補償しながら、主に空気環境を維持する内圧域といえる。よって、この内圧範囲では、供給流量比(Qg2/Qo2)を第1比率値(A1)より小さい第2比率値(A2)に維持し、かつ、排出流量(Qe2)は供給流量の総和(Qg2+Qo2)と同一または略同一となるように、ガス供給流量制御弁110の目標流量(Qg2)、酸素供給流量制御弁120の目標流量(Qo2)および排出流量制御弁130の目標流量(Qe2)が設定される。
【0038】
このモード2により、空気より酸素濃度がやや高い混合気体が供給される一方、その供給流量とほぼ同じ排出流量で気球用キャビン100内の空気が排出される。これにより、密閉されて外気が取り込めない気球用キャビン100内において、内圧を保持したまま、酸素が補給されるため空気環境が維持される。なお、本発明において、「同一または略同一」とは、同一である場合のみならず、本発明の作用効果を奏する範囲内において、近似する値を含む概念である。
【0039】
(2A)モード2A:好適圧力範囲の下限値(PL)より大きく中間値(PM)以下の内圧範囲は、内圧が好適圧力範囲の下限値(PL)まで低下した場合のキャビン内酸素分圧の低下を予め補償しながら、主に圧力環境を維持する内圧域といえる。よって、この内圧範囲では、供給流量比(Qg2A/Qo2A)を第1比率値(A1)より小さく第2比率値(A2)より大きい第5比率値(A5)に維持し、かつ、排出流量(Qe2A)は供給流量の総和(Qg2A+Qo2A)より少なくなるように、ガス供給流量制御弁110の目標流量(Qg2A)、酸素供給流量制御弁120の目標流量(Qo2A)および排出流量制御弁130の目標流量(Qe2A)が設定される。
【0040】
このモード2Aにより、空気より酸素濃度がやや高い混合気体が供給される一方、その供給流量よりも気球用キャビン100からの排出流量が小さく抑えられる。これにより、密閉されて外気が取り込めない気球用キャビン100内において、酸素が補給されつつ、内圧がやや昇圧されるため圧力環境が維持される。
【0041】
(3)モード3:好適圧力範囲の下限値(PL)以下の内圧範囲は、気球用キャビン100内の酸素分圧の低下を補償しながら、主に昇圧が必要な内圧域といえる。よって、この内圧範囲では、供給流量比(Qg3/Qo3)を第2比率値(A2)より小さい第3比率値(A3)に維持し、かつ、排出流量(Qe3)はゼロまたは略ゼロとなるように、ガス供給流量制御弁110の目標流量(Qg3)、酸素供給流量制御弁120の目標流量(Qo3)および排出流量制御弁130の目標流量(Qe3)が設定される。
【0042】
このモード3により、気球用キャビン100には、空気よりも酸素濃度がかなり高い混合気体が供給される一方、気球用キャビン100内の空気はほぼ排出されないため、密閉された気球用キャビン100の内圧が大きく昇圧される。
【0043】
なお、気球用キャビン100の内部の酸素分圧(=内圧×酸素濃度)を考慮する理由は、酸素分圧が低下すると肺における酸素の摂取量が低下して呼吸が苦しくなり、逆に、酸素分圧が高すぎる状態になると酸素中毒を起こすおそれがあるからである。よって、上述した各モードにおいては、酸素分圧が所定の範囲内を保持するように、内圧および酸素濃度のバランスを考慮して、供給流量比、および供給流量と排出流量との大小関係が設定されている。
【0044】
また、本第1実施形態では、内圧調整モードとして、上述した4つのモードを登録しているが、この構成に限定されるものではない。例えば、モード2Aは、気球用キャビン100内の内圧が好適圧力範囲内である場合のモードであり、主として、気球用キャビン100のスローリークによる内圧の低下を抑制する機能を有する。このため、モード2Aは必ずしも必須のモードではなく、好適圧力範囲の下限値(PL)より大きく上限値(PU)以下の内圧範囲では、常にモード2を実行してもよい。
【0045】
なお、気球用キャビン100の内圧およびわずかな隙間の開口面積が一定とすると、スローリークによる排気量は、上昇時は外気圧が減少するため増加し、降下時は逆に外気圧が上昇するため低下する。このため、スローリークによる内圧の低下を抑制する手段として、モード2Aの代わりに、外気圧の変動に応じて排出流量が変更されるモードを採用してもよい。例えば、排気されていない場合は供給側の目標流量を高度に応じて変化させ、排気されている場合は排気側の目標流量を高度に応じて変化させればよい。
【0046】
ガス濃度調整モード記憶部23は、気球用キャビン100内の酸素または二酸化炭素の濃度を調整するためのガス濃度調整モードを記憶するものである。本第1実施形態において、ガス濃度調整モード記憶部23には、気球用キャビン100内の酸素および二酸化炭素の濃度範囲に対応付けて、ガス供給流量制御弁110、酸素供給流量制御弁120および排出流量制御弁130からなる各制御弁の目標流量が設定されたガス濃度調整モードが登録されている。
【0047】
本第1実施形態において、ガス濃度調整モードは、図3に示すように、上述した内圧調整モードのうち、内圧範囲が相対的に大きいモード1およびモード2においてのみ実行可能に設定されている。内圧範囲が相対的に小さいモード2Aおよびモード3においてガス濃度を調整しようとすると、各制御弁の動作が、キャビン内圧を上昇させようとするモード2Aまたはモード3での各制御弁の動作と干渉し、内圧が過度に減圧されて人体に悪影響を及ぼすおそれがあるためである。
【0048】
したがって、モード2Aおよびモード3では、ガス濃度調整モードを実行せず、内圧を調整することが優先されている。なお、この場合でも、気球用キャビン100内に供給される昇圧用ガスおよび酸素は、上述したとおり、通常の空気よりも酸素濃度が高い供給流量比に設定されているため、呼吸に十分な酸素量は確保される。
【0049】
一方、図3に示すように、検出された内圧値が好適圧力範囲の上限値(PU)より大きい異常値(P0)を超える場合、排気系統に何らかの異常が発生し、正常に排気されていない状態と考えられる。よって、この場合も、気球用キャビン100を過度な昇圧による破損から保護するために減圧することを優先し、ガス濃度調整モードを実行しないようになっている。
【0050】
(4)ガス濃度調整モード:本第1実施形態のガス濃度調整モードは、モード1およびモード2において、酸素または二酸化炭素の濃度値が生命を維持するのに好ましい好適濃度範囲外の場合に実行される。ここで、酸素の好適濃度範囲は下限閾値(O1)を超える濃度範囲であり、二酸化炭素の好適濃度範囲は上限閾値(C1)未満の濃度範囲である。なお、酸素濃度の下限閾値(O1)および二酸化炭素濃度の上限閾値(C1)は、搭乗者が正常に呼吸するのに支障のない値に設定することが好ましい。
【0051】
以上より、酸素濃度の下限閾値(O1)以下の濃度範囲、または二酸化炭素濃度の上限閾値(C1)以上の濃度範囲は、モード1またはモード2よりも酸素分圧の補償の程度を大きくしてガス濃度を調整すべき濃度域といえる。よって、これらの濃度範囲では、供給流量比(Qg4/Qo4)を第2比率値(A2)より小さく第3比率値(A3)より大きい第4比率値(A4)に維持し、かつ、排出流量(Qe4)は供給流量の総和(Qg4+Qo4)より大きくなるように、ガス供給流量制御弁110の目標流量(Qg4)、酸素供給流量制御弁120の目標流量(Qo4)および排出流量制御弁130の目標流量(Qe4)が設定される。
【0052】
このガス濃度調整モードにより、密閉されて外気が取り込めない気球用キャビン100内においても、空気よりも酸素濃度が高い混合気体が供給される一方、気球用キャビン100内でガス濃度が異常となった空気が排出されるため、気球用キャビン100内の酸素および二酸化炭素の濃度が好適範囲内に調整される。
【0053】
以上のとおり、本第1実施形態では、各モードにおける供給流量比(Qg/Qo)が、以下のような根拠に基づいて設定されている。
モード1の第1比率値(A1):酸素と昇圧用ガスの混合気体における酸素の成分割合が空気における酸素の成分割合と近くなる値。
モード2の第2比率値(A2):内圧が好適圧力範囲の中間値(PM)まで低下した場合のキャビン内酸素分圧の低下を予め補償しうる値。
モード3の第3比率値(A3):内圧が好適圧力範囲の下限値(PL)以下に低下した場合のキャビン内の酸素分圧の低下を補償しうる値。
ガス濃度調整モードの第4比率値(A4):第1比率値(A1)または第2比率値(A2)よりも酸素分圧の補償の程度が大きい値。
モード2Aの第5比率値(A5):内圧が好適圧力範囲の下限値(PL)まで低下した場合のキャビン内酸素分圧の低下を予め補償しうる値。
【0054】
演算処理手段3は、CPU(Central Processing Unit)等で構成されており、プログラム記憶部21にインストールされた生命維持プログラム1aを実行することにより、図2に示すように、内圧調整モード読込部31と、ガス濃度調整モード読込部32と、内圧取得部33と、ガス濃度取得部34と、内圧調整部35と、ガス濃度調整部36として機能する。以下、各構成部についてより詳細に説明する。
【0055】
内圧調整モード読込部31は、記憶手段2から内圧調整モードを読み込むものである。本第1実施形態において、内圧調整モード読込部31は、記憶手段2の内圧調整モード記憶部22に予め登録されている内圧調整モードを読み込む。これにより、各モードの内圧範囲と、当該内圧範囲に対応付けて設定されている各制御弁の目標流量とが取得される。
【0056】
ガス濃度調整モード読込部32は、記憶手段2からガス濃度調整モードを読み込むものである。本第1実施形態において、ガス濃度調整モード読込部32は、記憶手段2のガス濃度調整モード記憶部23に予め登録されているガス濃度調整モードを読み込む。これにより、酸素および二酸化炭素の濃度範囲と、当該濃度範囲に対応付けて設定されている各制御弁の目標流量とが取得される。
【0057】
内圧取得部33は、圧力センサ140によって検出される気球用キャビン100の内圧値を取得するものである。また、ガス濃度取得部34は、ガスセンサ150によって検出される気球用キャビン100内の気球用キャビン100内の酸素および二酸化炭素の濃度値を取得するものである。なお、本第1実施形態において、圧力センサ140およびガスセンサ150は、図1に示すように、気球用キャビン100内に設けられている。また、ガスセンサ150は、酸素および二酸化炭素の濃度値を出力しうるようになっている。
【0058】
内圧調整部35は、気球用キャビン100の内圧を調整するものである。本第1実施形態において、内圧調整部35は、内圧取得部33によって取得された内圧値が、内圧調整モード読込部31によって読み込まれた内圧調整モードの内圧範囲に含まれるか否かを判定する。そして、いずれかの内圧調整モードの内圧範囲に含まれると判定した場合、当該内圧調整モードの目標流量を指示する制御信号を各制御弁に送信する。これにより、各制御弁は、指示された目標流量に対応する弁開度に設定し、内圧値が生命を維持するのに好ましい好適圧力範囲内となるように調整する。
【0059】
ガス濃度調整部36は、気球用キャビン100内の酸素または二酸化炭素の濃度を調整するものである。本第1実施形態において、ガス濃度調整部36は、内圧範囲が相対的に大きい内圧調整モードであるモード1またはモード2において、ガス濃度取得部34によって取得された酸素および二酸化炭素の濃度値が、ガス濃度調整モード読込部23によって読み込まれたガス濃度調整モードの濃度範囲に含まれるか否かを判定する。そして、ガス濃度調整モードの濃度範囲に含まれると判定した場合、当該ガス濃度調整モードの目標流量を指示する制御信号を各制御弁に送信する。これにより、各制御弁は、指示された目標流量に対応する弁開度に設定し、酸素および二酸化炭素の濃度値が生命を維持するのに好ましい好適濃度範囲内となるように調整する。
【0060】
[3]作用効果について
つぎに、本第1実施形態の生命維持方法、生命維持装置1および生命維持プログラム1a、ならびに気球用キャビン100の作用について説明する。
【0061】
まず、本第1実施形態の生命維持装置1を備えた気球用キャビン100を用いて、気球によって高高度を有人飛行する場合、図4に示すように、内圧調整モード読込部31が、記憶手段2から内圧調整モードを読み込むとともに(ステップS1:内圧調整モード読込ステップ)、ガス濃度調整モード読込部32が、記憶手段2からガス濃度調整モードを読み込む(ステップS2:ガス濃度調整モード読込ステップ)。これにより、生命維持装置1は、予め準備しておいた内圧調整モードおよびガス濃度調整モードを実行可能な状態となる。
【0062】
なお、気球用キャビン100は、原則として、飛行当初から密閉されているが、所定の高度に到達してから密閉してもよい。これにより、気球用キャビン100は外気を取り込むことはできない状態となり、かつ、上述した各種の排気手段(排出流量制御弁130、手動排気用バルブ132、圧力逃し弁133)によってのみ排気することが可能な状態となる。
【0063】
つぎに、内圧取得部33が、圧力センサ140から気球用キャビン100の内圧値を取得すると(ステップS3:内圧取得ステップ)、当該内圧値に基づいて、内圧調整部35が内圧調整モードを実行し、生命を維持するのに好ましい好適圧力範囲内となるように内圧を調整する(ステップS4~S10:内圧調整ステップ)。
【0064】
具体的には、内圧調整部35は、まず、内圧値が好適圧力範囲の上限値(PU)より大きいか否かを判定する(ステップS4)。その結果、内圧値が上限値(PU)より大きい場合(ステップS4:YES)、内圧調整部35は、モード1として、供給流量比(Qg1/Qo1)を第1比率値(A1)に維持しながら、排出流量(Qe1)が供給流量の総和(Qg1+Qo1)より大きくなるような目標流量(Qg1,Qo1,Qe1)を各制御弁に指示し、当該目標流量に対応する弁開度に設定する(ステップS5)。これにより、気球用キャビン100の内部が減圧されるため、内圧の過度な増大による気球用キャビン100の損傷や人体への悪影響が防止され、安全性が向上する。
【0065】
一方、内圧値が好適圧力範囲の上限値(PU)以下の場合(ステップS4:NO)、内圧調整部35は、内圧値が中間値(PM)より大きいか否かを判定する(ステップS6)。その結果、内圧値が中間値(PM)より大きい場合(ステップS6:YES)、内圧調整部35は、モード2として、供給流量比(Qg2/Qo2)を第2比率値(A2)に維持しながら、排出流量(Qe2)が供給流量の総和(Qg2+Qo2)と同一または略同一となるような目標流量(Qg2,Qo2,Qe2)を各制御弁に指示し、当該目標流量に対応する弁開度に設定する(ステップS7)。これにより、気球用キャビン100の内圧を大きく変動させることなく、気球用キャビン100内に酸素が補給されるため、搭乗者にとって快適な空気環境が保持される。
【0066】
一方、内圧値が中間値(PM)以下の場合(ステップS6:NO)、内圧調整部35は、内圧値が好適圧力範囲の下限値(PL)より大きいか否かを判定する(ステップS8)。その結果、内圧値が下限値(PL)より大きい場合(ステップS8:YES)、内圧調整部35は、モード2Aとして、供給流量比(Qg2A/Qo2A)を第5比率値(A5)に維持しながら、排出流量(Qe2A)が供給流量の総和(Qg2A+Qo2A)より少なくなるような目標流量(Qg2A,Qo2A,Qe2A)を各制御弁に指示し、当該目標流量に対応する弁開度に設定する(ステップS9)。これにより、気球用キャビン100のスローリークによる内圧の低下が抑制されるため、搭乗者にとって快適な圧力環境が保持される。
【0067】
一方、内圧が下限値(PL)以下の場合(ステップS8:NO)、内圧調整部35は、モード3として、供給流量比(Qg3/Qo3)を第3比率値(A3)に維持しながら、排出流量(Qe3)がゼロまたは略ゼロとなるような目標流量(Qg3,Qo3,Qe3)を各制御弁に設定し、当該目標流量に対応する弁開度に設定する(ステップS10)。これにより、気球用キャビン100の内部が昇圧されるため、内圧の過度な減少による呼吸への悪影響が防止され、搭乗者の生命が維持される。
【0068】
以上のように、内圧調整部35が、気球用キャビン100の内圧値に応じて、上述した内圧調整モードを実行するため、気球用キャビン100の内圧は自動的に生命を維持するのに適した好適圧力範囲内に制御される。また、内圧調整部35は、昇圧用ガスの供給流量、酸素の供給流量、および排出流量の全てを同時に制御することにより、気球用キャビン100の内圧を連続的に調整する。
【0069】
このため、内圧が急激または瞬間的に増減することがなく、緩やかに調整されるため、安全かつ快適に内圧が制御される。また、内圧が高い場合は排出流量を増やし、供給流量を絞ることで内圧が低減し、内圧が低い場合は供給流量を増やし、排出流量を絞ることで内圧が回復する。さらに、気球用キャビン100の高度に応じて外気圧が変動しても、排出流量を一定に保つことが可能となる。
【0070】
つぎに、本第1実施形態では、上述したモード1(ステップS5)またはモード2(ステップS7)に設定された場合、ガス濃度調整部36が、酸素および二酸化炭素の濃度値に基づいてガス濃度調整モードを実行し、生命を維持するのに好ましい好適濃度範囲内となるように酸素および二酸化炭素の濃度を調整する(ステップS11:ガス濃度調整ステップ)。
【0071】
具体的には、図5に示すように、ガス濃度調整部36は、まず、内圧値が異常値(P0)より大きいか否かを判定する(ステップS111)。その結果、内圧値が異常値(P0)より大きい場合(ステップS111:YES)、排気系統に何らかの異常が発生したと考えられる。このため、ガス濃度調整部36は、ガス濃度調整モードを実行することなく、ステップS3へと戻り、内圧調整部35の処理を実行させる。これにより、酸素または二酸化炭素の濃度調整よりも優先度の高い減圧動作が実行されるため、気球用キャビン100が過度に昇圧されて破損してしまうのが防止される。
【0072】
一方、内圧値が異常値(P0)以下の場合(ステップS111:NO)、ガス濃度調整部36は、ガスセンサ150から気球用キャビン100内の酸素および二酸化炭素の濃度値を取得するとともに(ステップS112:ガス濃度取得ステップ)、各濃度値に基づいて、ガス濃度調整モードを実行し、生命を維持するのに好ましい好適濃度範囲内となるように酸素および二酸化炭素の濃度を調整する(ステップS113~S114:ガス濃度調整ステップ)。
【0073】
具体的には、ガス濃度調整部36は、酸素の濃度値が酸素濃度の下限閾値(O1)以下であるか否か、または二酸化炭素の濃度値が二酸化炭素濃度の上限閾値(C1)以上であるか否かを判定する(ステップS113)。その結果、酸素または二酸化炭素の濃度がいずれかの濃度範囲に含まれる場合(ステップS113:YES)、ガス濃度調整部36は、ガス濃度調整モードとして、供給流量比(Qg4/Qo4)を第4比率値(A4)に維持しながら、排出流量(Qe4)が供給流量の総和(Qg4+Qo4)より大きくなるような目標流量(Qg4,Qo4,Qe4)を各制御弁に指示し、当該目標流量に対応する弁開度に設定する(ステップS114)。
【0074】
これにより、気球用キャビン100には、空気よりも酸素濃度が高いガスが供給される一方、ガス濃度が異常となった気球用キャビン100内の空気が排出される。このため、気球用キャビン100内の酸素および二酸化炭素の濃度は、自動的に生命を維持するのに適した好適濃度範囲内に調整される。
【0075】
また、ガス濃度調整部36は、昇圧用ガスの供給流量、酸素の供給流量および排出流量の全てを同時に制御することにより、気球用キャビン100内の酸素濃度および二酸化炭素濃度を連続的に調整する。このため、酸素または二酸化炭素の濃度が急激または瞬間的に変化することがなく、緩やかに調整されるため、安全かつ快適な空気環境が維持される。
【0076】
なお、各制御弁の弁開度が設定された後は、ステップS111へと戻り、内圧値が異常値(P0)を超えない限り(ステップS111:NO)、上述した処理を繰り返す。そして、酸素および二酸化炭素の濃度値が、いずれも好適濃度範囲となった場合(ステップS113:NO)、ガス濃度調整モードを終了し、図4の処理へと戻る。その後、気球が飛行している間(ステップS12:NO)、ステップS3からステップS11までの処理を繰り返す。
【0077】
なお、上述した内圧調整モードにおいて、モード2A(ステップS9)を省略する場合は、内圧値が好適圧力範囲の下限値(PL)より大きく中間値(PM)以下の場合も、モード2(ステップS7)するようにしてもよい。
【0078】
また、本第1実施形態では、生命維持装置1によって自動制御されるガス供給流量制御弁110および酸素供給流量制御弁120とは別に、手動によるガス供給手段として、第1減圧弁112によって第1圧力値に減圧された高圧ガスを供給するための緊急供給用バルブ116と、第2減圧弁113によって第2圧力値に減圧された高圧ガスを供給するための手動供給用バルブ117とを有している。
【0079】
このため、気球用キャビン100内の内圧が大幅に低下した場合等の緊急時には、緊急供給用バルブ116から第1圧力値の高圧ガスを供給することにより、内圧が速やかに昇圧する。また、ガス供給流量制御弁110の故障等により、供給流量が不足した場合には、手動供給用バルブ117から第2圧力値の高圧ガスを供給することにより、必要な供給流量を確保する。
【0080】
さらに、本第1実施形態では、生命維持装置1によって自動制御される排出流量制御弁130とは別に、手動によるガス排気手段として、手動排気用バルブ132を有している。このため、排出流量制御弁130の故障等により、排出流量が不足した場合には、手動排気用バルブ132から気球用キャビン100内のガスを手動で排気することにより、必要な排出流量を確保する。
【0081】
また、本第1実施形態では、気球用キャビン100の内圧が、外気圧に対して所定の圧力値以上となったとき、気球用キャビン100内のガスを排気する圧力逃し弁133を有している。このため、万が一、Oリングシール等の不良により、昇圧用ガスのボンベ111や酸素ボンベ121から高圧ガスが大量に噴出してしまった場合でも、無操作でガスが排気されるため、気球用キャビン100が確実に保護される。
【0082】
以上のような本第1実施形態の生命維持方法、生命維持装置1および生命維持プログラム1a、ならびに気球用キャビン100によれば、以下のような効果を奏する。
1.高高度を有人飛行する気球用キャビン100の内部において、搭乗者の生命を維持することはもとより、安全かつ快適に内圧およびガス濃度を調整することができる。
2.気球用キャビン100の内圧を生命を維持するのに適した好適圧力範囲内に制御するのに好適な各制御弁の目標流量を設定することができる。
3.気球用キャビン100の酸素および二酸化炭素の濃度を生命を維持するのに適した好適濃度範囲内に制御するのに好適な各制御弁の目標流量を設定することができる。
4.気球用キャビン100のスローリークによる内圧の低下を抑制することができる。
5.排気系統に何らかの異常が発生した場合は、ガス濃度調整モードよりも内圧調整モードを優先して実行し、気球用キャビン100を過度な昇圧による破損から保護することができる。
6.昇圧用ガスの供給流量、酸素の供給流量および排出流量のそれぞれに目標流量を予め設定し各制御弁の弁開度を調節するため、生命維持プログラム1aの制御アルゴリズムが簡単になる。
【0083】
つぎに、本発明に係る生命維持方法、生命維持装置1および生命維持プログラム1a、ならびに気球用キャビン100の第2実施形態について説明する。なお、本第2実施形態の構成のうち、上述した第1実施形態と同一もしくは相当する構成については同一の符号を付し、再度の説明を省略する。
【0084】
上述した第1実施形態では、内圧域に応じて適切と予想される各制御弁の目標流量を予め定めておき、実測された内圧値や濃度値に応じて、各制御弁のそれぞれを目標流量に対応する弁開度に多段階に調整していた。これに対し、本第2実施形態の特徴は、内圧域に応じて内圧やガス濃度の目標値を予め定めておき、実測された内圧値や濃度値が目標値となるように各制御弁の弁開度をフィードバック制御により調節する点にある。
【0085】
本第2実施形態において、内圧調整モード記憶部22には、気球用キャビン100内の内圧範囲に対応付けて、ガス供給流量制御弁110および酸素供給流量制御弁120からなる各供給流量制御弁の目標流量、または各供給流量制御弁の弁開度をフィードバック制御するための供給側内圧目標値(Pr2)と、排出流量制御弁130の弁開度をフィードバック制御するための排出側内圧目標値(Pr1)とが設定された内圧調整モードが登録されている。
【0086】
本第2実施形態の内圧調整モードとしては、図6に示すように、気球用キャビン100内において、生命を維持するのに好ましい好適圧力範囲に基づいて、モード1、モード2およびモード3が登録されている。以下、各モードについて説明する。
【0087】
(1)モード1:好適圧力範囲の上限値(PU)を超える内圧範囲は、主に気球用キャビン100内の減圧が必要な内圧域といえる。よって、この内圧範囲では、酸素の目標流量(Qo1)に対する昇圧用ガスの目標流量(Qg1)の比である供給流量比(Qg1/Qo1)を、酸素と昇圧用ガスの混合気体における酸素の成分割合が空気における酸素の成分割合と近い値となる第1比率値(A1)に維持し、かつ、排出流量は内圧値が、下限値(PL)より大きく上限値(PU)よりも小さい排出側内圧目標値(Pr1)となるようにフィードバック制御する。
【0088】
このモード1により、酸素と昇圧用ガスの混合気体が空気に近い成分割合で供給される一方、気球用キャビン100内の空気が、上限値(PU)よりも小さい排出側内圧目標値(Pr1)に向けて排出されるため、気球用キャビン100の内圧が減圧される。
【0089】
(2)モード2:好適圧力範囲の下限値(PL)より大きく上限値(PU)以下の内圧範囲は、内圧が好適圧力範囲の下限値(PL)まで低下した場合のキャビン内酸素分圧の低下を予め補償しながら、主に空気環境を維持する内圧域といえる。よって、この内圧範囲では、供給流量比(Qg2/Qo2)を第1比率値(A1)より小さい第2比率値(A2)に維持し、かつ、排出流量は内圧値が排出側内圧目標値(Pr1)となるようにフィードバック制御する。
【0090】
このモード2により、空気より酸素濃度がやや高い混合気体が供給される一方、気球用キャビン100内の空気が、下限値(PL)より大きく上限値(PU)よりも小さい排出側内圧目標値(Pr1)に向けて排出される。これにより、密閉されて外気が取り込めない気球用キャビン100内においても、内圧を好適圧力範囲内に保持したまま、酸素が補給されるため空気環境が維持される。
【0091】
(3)モード3:好適圧力範囲の下限値(PL)以下の内圧範囲は、気球用キャビン100内の酸素分圧の低下を補償しながら、主に昇圧が必要な内圧域といえる。よって、この内圧範囲では、供給流量比(Qg3/Qo3)を第2比率値(A2)より小さい第3比率値(A3)に維持し、かつ、供給流量は内圧値が、下限値(PL)より大きい供給側内圧目標値(Pr2)となるようにフィードバック制御するとともに、排出流量は内圧値が排出側内圧目標値(Pr1)となるようにフィードバック制御する。
【0092】
このモード3により、気球用キャビン100には、供給側内圧目標値(Pr2)が下限値より大きく設定されることで、空気よりも酸素濃度がかなり高い混合気体が供給される一方、排出側内圧目標値(Pr1)が下限値(PL)より大きく設定されることで、気球用キャビン100内の空気はほぼ排出されないため、密閉された気球用キャビン100の内圧が大きく昇圧される。なお、供給側内圧目標値(Pr2)と排出側内圧目標値(Pr1)は、予め定められた気球用キャビン100の内圧目標値と同じであるが、スローリークを考慮して排出側内圧目標値(Pr1)を供給側内圧目標値(Pr2)より少し高めに設定してもよい。
【0093】
また、本第2実施形態において、ガス濃度調整モード記憶部23には、気球用キャビン100内の酸素の濃度範囲に対応付けて酸素供給流量制御弁120の弁開度をフィードバック制御するための酸素目標値(Or1)が設定されるとともに、気球用キャビン100内の二酸化炭素の濃度範囲に対応付けてガス供給流量制御弁110の弁開度をフィードバック制御するための二酸化酸素目標値(Cr1)が設定されたガス濃度調整モードが登録されている。
【0094】
本第2実施形態において、ガス濃度調整モードは、図6に示すように、上述した内圧調整モードのうち、内圧範囲が相対的に大きいモード1およびモード2においてのみ実行可能に設定されている。
【0095】
(4)ガス濃度調整モード:本第2実施形態のガス濃度調整モードは、モード1およびモード2において、酸素または二酸化炭素の濃度値が生命を維持するのに好ましい好適濃度範囲外の場合に実行される。
【0096】
具体的には、検出された酸素の濃度値が、酸素濃度の下限閾値(O1)以下の濃度範囲では、当該濃度値が酸素目標値(Or1)となるように酸素の供給流量をフィードバック制御するとともに、検出された内圧値が排出側内圧目標値(Pr1)となるように排出流量をフィードバック制御する。また、検出された二酸化炭素の濃度値が、二酸化炭素濃度の上限閾値(C1)以上の濃度範囲では、当該濃度値が二酸化炭素目標値(Cr1)となるように昇圧用ガスの供給流量をフィードバック制御するとともに、検出された内圧値が排出側内圧目標値(Pr1)となるように排出流量をフィードバック制御する。
【0097】
このガス濃度調整モードにより、密閉されて外気が取り込めない気球用キャビン100内においても、空気よりも酸素濃度が高いガスが供給される一方、気球用キャビン100内でガス濃度が異常となった空気が排出されるため、気球用キャビン100内の酸素および二酸化炭素の濃度が好適範囲内に調整される。
【0098】
本第2実施形態において、内圧調整部35は、内圧取得部33によって取得された内圧値が、内圧調整モード取得部によって取得されたいずれかの内圧調整モードの内圧範囲に含まれるか否かを判定する。そして、モード1またはモード2の内圧範囲に含まれると判定した場合、当該モード1またはモード2の目標流量を指示する制御信号を各供給流量制御弁に送信する。これにより、各制御弁は、指示された目標流量に対応する弁開度に設定する。
【0099】
一方、排出流量制御弁130に対して、内圧調整部35は、排出側内圧目標値(Pr1)と内圧値との差に基づいて、当該内圧値が排出側内圧目標値(Pr1)となるように弁開度をフィードバック制御により調節し、内圧値が生命を維持するのに好ましい好適圧力範囲内となるように調整する。
【0100】
また、内圧調整部35は、検出された内圧値が、モード3の内圧範囲に含まれると判定した場合、供給側内圧目標値(Pr2)と内圧値との差に基づいて、当該内圧値が供給側内圧目標値(Pr2)となるように弁開度をフィードバック制御により調節する。一方、排出流量制御弁130に対して、内圧調整部35は、排出側内圧目標値(Pr1)と内圧値との差に基づいて、当該内圧値が排出側内圧目標値(Pr1)となるように弁開度をフィードバック制御により調節し、内圧値が生命を維持するのに好ましい好適圧力範囲内となるように調整する。
【0101】
また、本第2実施形態において、ガス濃度調整部36は、内圧範囲が相対的に大きい内圧調整モードであるモード1またはモード2において、ガス濃度取得部34によって取得された酸素または二酸化炭素の濃度値が、ガス濃度調整モード取得部によって取得されたガス濃度調整モードの濃度範囲に含まれるか否かを判定する。
【0102】
そして、ガス濃度調整モードの濃度範囲に含まれると判定した場合、ガス濃度調整部36は、ガス濃度調整モードに対応する酸素目標値(Or1)または二酸化炭素目標値(Cr1)と、酸素または二酸化炭素の濃度値との差に基づいて、当該濃度値が酸素目標値(Or1)または二酸化炭素目標値(Cr1)となるように、酸素供給流量制御弁120またはガス供給流量制御弁110の弁開度をフィードバック制御により調節し、酸素または二酸化炭素の濃度が生命を維持するのに好ましい好適濃度範囲内となるように調整する。
【0103】
一方、ガス濃度調整部36は、排出流量制御弁130に対して、排出側内圧目標値(Pr1)と内圧値との差に基づいて、当該内圧値が排出側内圧目標値(Pr1)となるように弁開度をフィードバック制御により調節する。
【0104】
つぎに、本第2実施形態の生命維持方法、生命維持装置1および生命維持プログラム1a、ならびに気球用キャビン100の作用について説明する。
【0105】
まず、本第2実施形態の生命維持装置1を備えた気球用キャビン100を用いて、気球によって高高度を有人飛行する場合、図7に示すように、第1実施形態と同様、内圧調整モード読込ステップ(ステップS21)、ガス濃度調整モード読込ステップ(ステップS22)および内圧取得ステップ(ステップS23)を実行する。そして、内圧調整部35は、内圧取得ステップで取得された内圧に基づいて内圧調整モードを実行し、生命を維持するのに好ましい好適圧力範囲内となるように内圧を調整する(ステップS24~S28,S30~S31:内圧調整ステップ)。
【0106】
具体的には、内圧調整部35は、内圧値が好適圧力範囲の上限値(PU)より大きいか否かを判定する(ステップS24)。その結果、内圧値が上限値(PU)より大きい場合(ステップS24:YES)、内圧調整部35は、モード1として、供給流量比(Qg1/Qo1)が第1比率値(A1)を維持するような目標流量(Qg1,Qo1)を各供給流量制御弁に指示し、当該目標流量に対応する弁開度に設定する(ステップS25)。
【0107】
また、内圧調整部35は、排出側内圧目標値(Pr1)と内圧値との差に基づき、内圧値が排出側内圧目標値(Pr1)となるように、排出流量制御弁130の弁開度をフィードバック制御により調節する(ステップS28)。これにより、気球用キャビン100の内部が減圧されるため、内圧の過度な増大による気球用キャビン100の損傷や人体への悪影響が防止され、安全性が向上する。
【0108】
一方、内圧値が好適圧力範囲の上限値(PU)以下の場合(ステップS24:NO)、内圧調整部35は、内圧値が下限値(PL)より大きいか否かを判定する(ステップS26)。その結果、内圧値が下限値(PL)より大きい場合(ステップS26:YES)、内圧調整部35は、モード2として、供給流量比(Qg2/Qo2)が第2比率値(A2)を維持するような目標流量(Qg2,Qo2)を各供給流量制御弁に指示し、当該目標流量に対応する弁開度に設定する(ステップS27)。
【0109】
また、内圧調整部35は、排出側内圧目標値(Pr1)と内圧値との差に基づき、内圧値が排出側内圧目標値(Pr1)となるように、排出流量制御弁130の弁開度をフィードバック制御により調節する(ステップS28)。これにより、気球用キャビン100の内圧を大きく変動させることなく、気球用キャビン100内に酸素が補給されるため、搭乗者にとって快適な空気環境が保持される。
【0110】
一方、内圧が下限値(PL)以下の場合(ステップS26:NO)、内圧調整部35は、モード3として、供給流量比(Qg3/Qo3)を第3比率値(A3)に維持しながら、供給側内圧目標値(Pr2)と内圧値との差に基づいて、当該内圧値が供給側内圧目標値(Pr2)となるように弁開度をフィードバック制御により調節する(ステップS30)。
【0111】
また、内圧調整部35は、排出流量制御弁130に対して、排出側内圧目標値(Pr1)と内圧値との差に基づいて、当該内圧値が排出側内圧目標値(Pr1)となるように弁開度をフィードバック制御により調節する(ステップS31)。これにより、供給側内圧目標値(Pr2)より大きな排出側内圧目標値(Pr1)に設定された排出流量制御弁130が、排出流量を抑制して気球用キャビン100の内部を昇圧させるため、内圧の過度な減少による呼吸への悪影響が防止され、搭乗者の生命が維持される。
【0112】
以上のように、内圧調整部35が、気球用キャビン100の内圧値に応じて、上述した内圧調整モードを実行するため、気球用キャビン100の内圧は自動的に生命を維持するのに適した好適圧力範囲内にフィードバック制御される。また、内圧調整部35は、昇圧用ガスの供給流量、酸素の供給流量、および排出流量の全てを同時に制御またはフィードバック制御することにより、気球用キャビン100の内圧を連続的に調整する。このため、内圧が急激または瞬間的に増減することがなく、緩やかに調整されるため、安全かつ快適に内圧が制御される。
【0113】
さらに、内圧調整部35は、上述した排出側内圧目標値(Pr1)および供給側内圧目標値(Pr2)を採用することにより、生命を維持しうる好適圧力範囲内に内圧をフィードバック制御するのに好適な弁開度に自動調節される。
【0114】
つぎに、本第2実施形態では、上述したモード1(ステップS25)またはモード2(ステップS27)に設定された場合、ガス濃度調整部36が、酸素および二酸化炭素の濃度値に基づいてガス濃度調整モードを実行し、生命を維持するのに好ましい好適濃度範囲内となるように酸素および二酸化炭素の濃度を調整する(ステップS29:ガス濃度調整ステップ)。
【0115】
具体的には、図8に示すように、ガス濃度調整部36は、第1実施形態と同様、内圧値が異常値(P0)より大きい場合(ステップS291:YES)、ガス濃度調整モードを実行することなく、ステップS23へと戻り、内圧調整部35の処理を実行させる。一方、内圧値が異常値(P0)以下の場合(ステップS291:NO)、ガス濃度調整部36は、ガスセンサ150から気球用キャビン100内の酸素および二酸化炭素の濃度値を取得し(ステップS292:ガス濃度取得ステップ)、各濃度値に基づいて、ガス濃度調整モードを実行し、生命を維持するのに好ましい好適濃度範囲内となるように酸素および二酸化炭素の濃度を調整する(ステップS293~S298:ガス濃度調整ステップ)。
【0116】
具体的には、ガス濃度調整部36は、まず、酸素の濃度値が酸素濃度の下限閾値(O1)以下であるか否かを判定する(ステップS293)。その結果、酸素の濃度値が下限閾値(O1)以下である場合(ステップS293:YES)、ガス濃度調整部36は、ガス濃度調整モードとして、酸素目標値(Or1)と酸素の濃度値との差に基づいて、当該濃度値が酸素目標値(Or1)となるように、酸素供給流量制御弁120の弁開度をフィードバック制御により調節する(ステップS294)。
【0117】
また、ガス濃度調整部36は、排出側内圧目標値(Pr1)と内圧値との差に基づき、内圧値が排出側内圧目標値(Pr1)となるように、排出流量制御弁130の弁開度をフィードバック制御により調節する(ステップS295)。これにより、濃度異常となった空気が排出されるとともに適量の酸素が供給されるため、酸素濃度が生命を維持するのに好ましい好適濃度範囲内となるように自動調整される。
【0118】
一方、酸素の濃度値が下限閾値(O1)より大きい場合(ステップS293:NO)、酸素濃度に問題はないため、ガス濃度調整部36は、二酸化炭素の濃度値が二酸化炭素濃度の上限閾値(C1)以上であるか否かを判定する(ステップS296)。その結果、二酸化炭素の濃度値が上限閾値(C1)以上である場合(ステップS296:YES)、ガス濃度調整部36は、ガス濃度調整モードとして、二酸化炭素目標値(Cr1)と二酸化炭素の濃度値との差に基づいて、当該濃度値が二酸化炭素目標値(Cr1)となるように、ガス供給流量制御弁110の弁開度をフィードバック制御により調節する(ステップS297)。
【0119】
また、ガス濃度調整部36は、排出側内圧目標値(Pr1)と内圧値との差に基づき、内圧値が排出側内圧目標値(Pr1)となるように、排出流量制御弁130の弁開度をフィードバック制御により調節する(ステップS298)。これにより、濃度異常となった空気が排出されるとともに、二酸化炭素をほぼ含まない昇圧用ガスが供給されるため、二酸化炭素濃度が生命を維持するのに好ましい好適濃度範囲内となるように自動調整される。
【0120】
以上の通り、ガス濃度調整部36は、昇圧用ガスの供給流量、酸素の供給流量および排出流量のそれぞれをフィードバック制御によって調節することにより、気球用キャビン100内の酸素濃度および二酸化炭素濃度を連続的に調整する。このため、酸素または二酸化炭素の濃度が急激または瞬間的に変化することがなく、緩やかに調整されるため、安全かつ快適な空気環境が維持される。
【0121】
なお、各供給流量制御弁の弁開度をフィードバック制御した後は、ステップS291へと戻り、内圧が異常値(P0)を超えない限り(ステップS291:NO)、上述した処理を繰り返す。そして、酸素および二酸化炭素の濃度値が、いずれも好適濃度範囲となった場合(ステップS293:NO、かつ、ステップS296:NO)、ガス濃度調整モードを終了し、図7の処理へと戻る。その後、気球が飛行している間(ステップS32:NO)、ステップS23からステップS31までの処理を繰り返す。
【0122】
以上のような本第2実施形態の生命維持方法、生命維持装置1および生命維持プログラム1a、ならびに気球用キャビン100によれば、第1実施形態の作用効果に加えて、フィードバック制御の導入により、外乱や誤差による悪影響を抑制し、確実に内圧、酸素濃度および二酸化炭素濃度のそれぞれを目標値に調整することができる。
【0123】
なお、本発明に係る生命維持方法、生命維持装置1および生命維持プログラム1a、ならびに気球用キャビン100は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0124】
例えば、気球用キャビン100の排気手段として設けられた、排出流量制御弁130、手動排気用バルブ132および圧力逃し弁133のそれぞれにフィルタを設けてもよい。これにより、排気系統の配管内に塵や埃等が侵入するのが防止されるため、適正な排出流量を担保することができる。
【0125】
また、上述した各実施形態では、搭乗者の安全性を高めるための手段として、あるいは緊急時のバックアップ手段として、気球用キャビン100に、第1減圧弁112、第2減圧弁113、残量警報用圧力センサ114、圧力計器115、緊急供給用バルブ116、手動供給用バルブ117、手動開閉バルブ118、手動排気用バルブ132、圧力逃し弁133等を設けているが、これらは必須の構成ではなく、適宜省略してもよい。
【符号の説明】
【0126】
1 生命維持装置
1a 生命維持プログラム
2 記憶手段
3 演算処理手段
21 プログラム記憶部
22 内圧調整モード記憶部
23 ガス濃度調整モード記憶部
31 内圧調整モード読込部
32 ガス濃度調整モード読込部
33 内圧取得部
34 ガス濃度取得部
35 内圧調整部
36 ガス濃度調整部
100 気球用キャビン
110 ガス供給流量制御弁
111 昇圧用ガスのボンベ
112 第1減圧弁
113 第2減圧弁
114 残量警報用圧力センサ
115 圧力計器
116 緊急供給用バルブ
117 手動供給用バルブ
118 手動開閉バルブ
119 供給流量センサ
120 酸素供給流量制御弁
130 排出流量制御弁
131 排出流量センサ
132 手動排気用バルブ
133 圧力逃し弁
140 圧力センサ
150 ガスセンサ
【要約】
【課題】気球によって高高度を有人飛行する気球用キャビンの内部において、搭乗者の生命を維持することはもとより、安全かつ快適に内圧及びガス濃度を調整することができる生命維持方法、生命維持装置及び生命維持プログラムならびに気球用キャビンを提供する。
【解決手段】飛行する際に密閉され、排気のみ可能な気球用キャビン100内における生命維持方法であって、内圧調整モードを読み込む内圧調整モード読込ステップと、ガス濃度調整モードを読み込むガス濃度調整モード読込ステップと、内圧調整モードに従って内圧を調整する内圧調整ステップと、ガス濃度調整モードに従ってガス濃度を調整するガス濃度調整ステップと、を実行する。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8