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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-22
(45)【発行日】2025-01-30
(54)【発明の名称】クリップ型牽引用器具
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/122 20060101AFI20250123BHJP
   A61B 17/128 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
A61B17/122
A61B17/128
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020077865
(22)【出願日】2020-04-25
(65)【公開番号】P2021171329
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】509329062
【氏名又は名称】藤田 欣也
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】藤田 欣也
【審査官】鈴木 敏史
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-062004(JP,A)
【文献】特開2007-143869(JP,A)
【文献】再公表特許第2016/104075(JP,A1)
【文献】特開2018-117694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/122
A61B 17/128
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡下において体内の少なくとも病変部位を挟持・牽引するための器具であって、
(1)前記器具は、(a)はさみ状に開閉すること又は閉じることが可能な挟持部及び(b)挟持部を開閉するための締め付け手段を含むクリップ部を有し、
(2)前記クリップ部の挟持部の反対側の尾部に、ループ部を有する糸状部材の1個又は2個以上が連結されており、
(3)a)前記尾部と糸状部材との連結及び/又はb)糸状部材どうしの連結は、
上記a)の連結では、前記尾部に形成された空間部に糸状部材をくぐらせて閉環することでループ部が形成されており、
上記b)の連結では、互いに他方の糸状部材のループ部の中をくぐり抜ける状態となっており、
(4)糸状部材のループ部の1ヶ所切って開環することによって前記連結を解くことが可能となっている、
ことを特徴とするクリップ型牽引用器具。
【請求項2】
前記尾部及び/又は前記尾部に連結した糸状部材に、少なくとも体内の病変部位を体外から牽引するのに十分な長さをもつループ部を有する糸状部材が取り付けられている、請求項1に記載のクリップ型牽引用器具。
【請求項3】
さらにシースを含み、かつ、糸状部材の一部又は全部が前記シースの管内に収容されている、請求項1又は2に記載のクリップ型牽引用器具。
【請求項4】
前記シースが樹脂製である、請求項3に記載のクリップ型牽引用器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なクリップ型牽引用器具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年においては、例えば患者への負担が比較的少ないこと、手術による傷口が小さいこと等の理由から、外科的開腹術に代わって内視鏡を用いる内視鏡手術(内視鏡下手術)が広く行なわれている。例えば、食道、胃、大腸等においては、転移を伴わずに局所にとどまる早期癌に対しては、内視鏡の処置具挿通路内を通して病変部位まで誘導された処置具を用いて粘膜から限局した病変部位を切離する手法が採用されている。
【0003】
このような内視鏡による切除術としては、3つの方法に大別される。すなわち、a)ポリペクトミー、b)内視鏡的粘膜切除術(EMR)、c)内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)がある。
【0004】
このうち、上記a)の方法は、キノコ形状の腫瘍、ポリープ等に対してスネアと呼ばれる金属の輪をかけて締め上げた後、高周波電流を用いて焼き切る方法又は高周波電流を用いずにそのまま物理的に絞り切る方法である。
【0005】
上記b)の方法は、平べったい形状の腫瘍のように病変部位にスネアをかけることが難しい場合において、病変部位の粘膜下層に生理食塩水等を注入することにより病変部位を盛り上げ、その部分にスネアをかけた上で、高周波電流を用いて焼き切る方法又は高周波電流を用いずにそのまま物理的に絞り切る方法である。
【0006】
上記c)の方法は、病変部位が大きく(通常2cm以上)、スネアもかけにくい場合において、高周波ナイフを用いて粘膜下層を剥がしながら切除する方法である。
【0007】
この中でも、特に上記c)の内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)では、病変組織をその周囲の非病変組織ごと完全に切除すべく、病変組織の周囲を消化管の表層部である粘膜層のみ切開(粘膜層切開)し、粘膜下層を十分露出させた後、粘膜下層をさらに下の層に位置する固有筋層から剥離(粘膜下層剥離)することによって病変を切除する。つまり、粘膜層切開に引き続いて粘膜下層剥離が行われる。より具体的には、以下のような工程を経て施術される。
【0008】
[工程1]内視鏡を体外から消化管内に挿入し、切除目的部位まで到達させ、切除範囲を決定する。
[工程2]切除範囲が遺残なく摘除できるように消化管壁の表層部である粘膜層を切開し、粘膜下層を露出させる。
[工程3]粘膜下層の下層にある固有筋層を傷つけることのないように、細心の注意を払いながら粘膜下層を剥離していく。その後、これらの工程1~3の操作を繰り返すことにより、完全に病変部位を摘除する。
【0009】
ところが、一般に、粘膜下層を剥離する際に偶発症として出血又は穿孔、さらに食道の場合は縦隔気腫等が起こる可能性があり、場合によっては生命にかかわる危険をもたらすことがある。特に、上記の工程3において、粘膜下層を剥離する際に、切除過程にある粘膜層の一部が剥離操作部位に覆いかぶさってくるため、切除部位を直視することが困難ないしは不可能になる結果、固有筋層を損傷することによる穿孔のほか、血管損傷による出血を引き起こすおそれがある。それゆえに、安全かつ確実にESDを遂行するためには、相応の経験と高度な技術が施術者に要求される。
【0010】
外科的開腹術によって病変組織を切除する場合は、一般的には左手で病変組織の一端を把持・固定できるので、利き腕である右手で確実かつ正確に病変組織を切除することができる。これに対し、通常のESDにより病変組織を切除しようとする場合、内視鏡の処置具挿通路内から誘導された切離処置具が右手であれば、外科医の左手に相当する、いわば把持・固定する処置具が存在しない。そのため、そのままの状態であれば、病変組織が固定されていない状態で切除しなければならない。加えて、切除過程にある病変組織の一部が切除面に被さって覆い隠すため、剥離・切除を盲目的に行なければならない局面も生じる。それゆえに、ESDでは、盲目的な切離操作により血管を損傷させると出血を招いたり、また切除・剥離面が必要以上に深くなってしまうと穿孔を引き起こすおそれがある。このような問題が生じた場合、十分な視野が確保しづらいためにそのリカバーも容易ではなく、施術が難航又は遅延することにより生命に関わる局面に至ることも少なくない。
【0011】
そこで、ESD等においては、外科医の左手の役割として、切除過程にある病変組織を牽引・固定するためにいわゆるクリップ牽引法と呼ばれる方法が提案されている(非特許文献1~3)。これは、病変組織を切除している工程を一旦中止して内視鏡を体内から抜去したうえで、内視鏡の処置具挿通路を通した鉗子に予めにクリップを装着し、そのクリップに糸を結んだ状態にして体内に再挿入し、病変組織をそのままクリップで把持・固定する方法である。この方法によれば、内視鏡の処置具挿通路の外側に内視鏡と独立した状態で体外にある前記糸の他端を施術者が操作しながら病変組織(切除予定部位)を牽引する方法である。
【0012】
また、内視鏡処置具挿通路を通した状態で糸付きクリップで病変組織を把持した後、内視鏡を体内から抜き去り、その後に病変組織を把持した糸付きクリップとは独立した状態であらためて内視鏡を病変部位まで挿入する方法がある(特許文献1、非特許文献4)。
【0013】
しかしながら、このようなクリップ牽引法では、処置具挿通路を一つしか有さない通常の内視鏡機種を用い、粘膜下層剥離操作の前に行う粘膜層切開のために使用するデバイスにより処置具挿通路が占有されることになる。
【0014】
全長にわたって内視鏡の外部にはみ出ている牽引用部材をさらに別のクリップ鉗子で把持するためには、そのクリップ鉗子を内視鏡の処置具挿通路を通した状態で内視鏡挿通路と独立した牽引部材に装着する必要がある。そのため、クリップ鉗子を装着するためには、上記のように一度内視鏡を体外に抜去しなければならない。特に、大腸等のように、挿入自体が必ずしも容易ではない状況では、一度内視鏡を抜去してから処置具挿通路にクリップ鉗子を挿通し、糸を装着して再挿入しなければならず、治療者・被治療者の両者にとって大きな負担を強いることになる。また、この抜去・再挿入という工程は一定の時間を要するため、出血時に病変部位を牽引し、出血部を展開し、直視したいとき等の緊急を要するような場合、従来のクリップ牽引法で対応することは困難である。
【0015】
一方、内視鏡の抜去と再挿入を必要としない牽引法として、クリップの把持部(羽部)にナイロンループが取り付けられた部材を用いてESDを実施する方法が提案されている(非特許文献5)。この方法では、体内から牽引を行う方法として、クリップ本体として、図1Aに示すように、はさみ状に閉じること又は開閉することが可能な挟持部11及び挟持部を閉じるため又は開閉するための締め付けリング12を含むクリップ30が使用される。図1Bのように、締め付けリングを上方に移動させることによって挟持部が閉じるしくみになっている。このようなクリップ本体の挟持部にナイロンループ14が取り付けられている。そして、図12に示すように、消化管A内の剥離中の病変部位Xの端部をクリップ30で挟持し、次いでフリーになったナイロンループ14を第2のクリップ30’で掴みながら、消化管A内壁に打ち込む(図13)。これによって、病変部位Xの牽引が完了する。なお、図12では、便宜的に病変部位が持ち上げられた状態で描かれている(以下、図9図10も同様である。)。
【0016】
しかしながら、この方法で使用される部材は、内視鏡の鉗子口(処置具挿通路)を通過できることを前提とするものであるため、その大きさ、形状等が限定されるという問題を内包している。
【0017】
また、上記部材は、その構造上、ナイロンループ14が挟持部(クリップ羽部)11に取り付けられているため、たとえ内視鏡の鉗子口を通過できたととしても、次のような問題が残る。すなわち、図13に示すように、病変部位Xをクリップ30で挟持し、ナイロンループ14を介して牽引した場合、病変部位Xを内視鏡で覗くにあたり、内視鏡と病変部位との間にクリップ30がぶら下がる状態となるため、内視鏡の視野を妨げたり、あるいは施術の邪魔になるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】特開2017-60580号公報
【非特許文献】
【0019】
【文献】小池良樹,平澤大ほか、「食道ESDにおける糸付きクリップ牽引法の有用性:無作為化比較試験」日本消化器内視鏡学会雑誌 Vol.57(1), Jan.2015
【文献】上里昌也,赤井崇ほか、「食道内視鏡的粘膜下層剥離術におけるクリップ牽引法の有効性」千葉医 87:237~243,2011
【文献】小山恒男,菊池勇一,鳥谷茂樹ほか、「胃EMRの適応拡大 大きさからみて一括切除を目指した手技の工夫と成績」胃と腸 2002;37:1155-61
【文献】カネカ株式会社製内視鏡用軟性把持鉗子「ICHIGAN(登録商標)」添付文書(医療機器届出番号:27B1XO0O34000010 医療器具25医療用鏡 一般医療機器35524000)
【文献】村瀬 貴之,前川智,安泰善「糸付きクリップを用いたESDの工夫 ゼオクリップを使用した作成が簡便な糸付きクリップ法」https://www.jstage.jst.go.jp>article>gee>_pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
以上のように、これまでの体内牽引及び体外牽引では、それぞれ特有の欠点が存在している。
【0021】
その一方で、体内牽引及び体外牽引は、それぞれ特有の長所を有することも事実である。例えば、体外から牽引を行う方法は、特に牽引力を調整できる等の利点がある。その一方で、体内から牽引を行う方法は、a)牽引方向を自在に設定できること、b)複数部位での牽引が可能であること、c)内視鏡の抜去又は再挿入が不要であること等の利点がある。
【0022】
このため、これらの利点をいずれも活用できるようにするため、体内牽引及び体外牽引の両方が一つの処置具で実現できる技術の開発が切望されているが、そのような技術は未だ開発されるに至っていないのが実情である。
【0023】
従って、本発明の主な目的は、内視鏡で処置を施すに際し、体内牽引及び体外牽引の両方を実現できる処置具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を有する牽引用器具が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0025】
すなわち、本発明は、下記のクリップ型牽引用器具に係る。
1. 内視鏡下において体内の少なくとも病変部位を挟持・牽引するための器具であって、
(1)前記器具は、(a)はさみ状に開閉すること又は閉じることが可能な挟持部及び(b)挟持部を開閉するための締め付け手段を含むクリップ部を有し、
(2)前記クリップ部の挟持部の反対側の尾部に、ループ部を有する糸状部材の1個又は2個以上が連結されており、
(3)a)前記尾部と糸状部材との連結及び/又はb)糸状部材どうしの連結は、糸状部材のループ部を開環することによって前記連結を解くことが可能となっている、
ことを特徴とするクリップ型牽引用器具。
2. 前記尾部及び/又は前記尾部に連結した糸状部材に、少なくとも体内の病変部位を体外から牽引するのに十分な長さをもつループ部を有する糸状部材が取り付けられている、前記項1に記載のクリップ型牽引用器具。
3. さらにシースを含み、かつ、糸状部材の一部又は全部が前記シースの管内に収容されている、前記項1又は2に記載のクリップ型牽引用器具。
4. 前記シースが樹脂製である、前記項3に記載のクリップ型牽引用器具。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、内視鏡で処置を施すに際し、体内牽引及び体外牽引の両方を実現できる器具を提供することができる。
【0027】
特に、本発明のクリップ型牽引用器具では、クリップ部の挟持部の反対側の尾部に、ループ部を有する糸状部材の1個又は2個以上が連結されており、a)前記尾部と糸状部材との連結及び/又はb)糸状部材どうしの連結は、糸状部材のループ部を開環することによって前記連結を解くことが可能となっている。とりわけ、糸状部材どうしの連結は、互いのループ部の中をくぐることで繋がっており、かつ、一方のループ部を開環することによって当該開環された糸状部材の連結を解くことが可能となっている。これにより、内視鏡を通じて体内からの牽引(体内牽引)・体外からの牽引(体外牽引)の選択及び相互間の切り替えが比較的容易に行うことが可能となる。その結果、本発明では、1つの器具(処置具)で体内牽引及び体外牽引のいずれも行うことができる。
【0028】
前述したように、ESDを安全・効率的に行うための牽引法として、体外から牽引する方法、体内から牽引する方法があり、それぞれに長所と短所があるが、現状では、体外からの牽引と体内からの牽引にはそれぞれ専用の処置具を使用しており、単一の処置具で体外からの牽引と体内からの牽引を選択したり、相互間での牽引方法を変更することはできない。実際の医療現場では、例えばESDによる病変組織切除中に、両者牽引の選択、牽引力の調整、牽引方向の変更等に起因して両者の牽引法の変更が所望される状況に遭遇するが、これまでは容易に変更することは困難とされている。この点において、本発明のクリップ型牽引用器具は、状況に応じて体内牽引及び体外牽引の切り替えが比較的容易に実施できるため、より安全かつ迅速にESD等の施術を行うことが可能となる。
【0029】
しかも、特に、体内からの牽引においては、本発明のクリップ型牽引用器具では、クリップ部の挟持部の反対側の尾部にループ状の糸状部材が取り付けられているので、前記の非特許文献5等とは異なり、剥離部分と本発明器具の長さ方向とが略一直線状に配置されることになるため、内視鏡の視野を妨げたり、操作に支障をもたらすリスクを効果的に低減することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】クリップ鉗子の基本構成を示す図である。
図2】体内牽引用糸状部材及び体外牽引用糸状部材が連結された本発明器具の概略図である。
図3】糸状部材どうしの連結を解く状態を示す図である。
図4】本発明器具におけるループ部の具体例を示す図である。
図5】複数の糸状部材の連結状態の具体例を示す図である。
図6】本発明器具の尾部と糸状部材との連結状態を示す例を示す。
図7】内視鏡の端部から伸びる糸状部材を介して病変部位を本発明器具で牽引されている状態を示す図である。
図8図7において、内視鏡が抜去された後の状態を示す図である。
図9】本発明器具で病変部位を把持し、糸状部材がフリーとなった状態を示す図である。
図10図9において、フリーになった糸状部材をクリップで把持する前の状態を示す図である。
図11図10において、フリーになった糸状部材を消化管内で固定・牽引した状態を示す図である。
図12】従来のナイロンループ付きクリップで病変部位を把持した後、健常粘膜にクリップで把持・牽引する前の状態を示す図である。
図13図12において、フリーになった糸状部材を消化管内で固定・牽引した状態を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
10 クリップ部
11 挟持部(羽部)
12 締め付け手段(又は締め付けリング)
13 尾部
13a 尾部空間部
14 ナイロンループ
15a,15b,15c,15d 糸状部材
15L,15L’,15aL,15bL ループ部
20 クリップ型牽引用器具(本発明器具)
30,30’クリップ
A 消化管
X 病変部位又は剥離部分
Y 内視鏡
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明のクリップ型牽引用器具(本発明器具)は、内視鏡下において体内の少なくとも病変部位を挟持・牽引するための器具であって、
(1)前記器具は、(a)はさみ状に開閉すること又は閉じることが可能な挟持部及び(b)挟持部を開閉するための締め付け手段を含むクリップ部を有し、
(2)前記クリップ部の挟持部の反対側の尾部に、ループ部を有する糸状部材の1個又は2個以上が連結されており、
(3)a)前記尾部と糸状部材との連結及び/又は(b)糸状部材どうしの連結は、糸状部材のループ部を開環することによって前記連結を解くことが可能となっている、
ことを特徴とする。
【0033】
本発明において、「少なくとも病変部位」とは、本発明器具によって牽引・切除される部分を示し、病変組織のみの場合に加え、病変組織及びその周囲の正常組織の両方を含む場合も包含される。以下においては、上記「少なくとも病変部位」を単に「牽引部分」ともいう。
【0034】
A.本発明器具の構成
本発明器具の構成例の概要を図2に示す。図2に示すように、本発明器具20は、はさみ状に開閉すること又は閉じることが可能な挟持部11及び(b)挟持部を開閉するための締め付け手段12を含むクリップ部10を有しており、前記クリップ部10の挟持部の反対側の尾部13にループ部を有する糸状部材15aが取り付けられており、この糸状部材15aに別のループ部を有する糸状部材15bが連結されている。なお、図2では、便宜上、糸状部材は、体内牽引用糸状部材15a,体外牽引用糸状部材15bを代表例として挙げているが、これに限定されず、これら以外の糸状部材が糸状部材15a,15bに連結されていても良いし、あるいは前記尾部13に連結されていても良い。
【0035】
締め付け手段12として、その形態は限定的ではないが、図2のようにリング状部材を好適に採用することができる。図示していないが、リング状部材のリング部にクリップの胴体部が貫通している。そして、糸状部材15a等を引っ張った状態で締め付け手段12として締め付けリングをクリップ部10の方向へスライドさせることにより、挟持部11を閉じることができる。これによって、体内器官の組織(消化管粘膜等)を把持することができる。
【0036】
糸状部材15a,15bどうしの連結は、糸状部材が互いのループ部の中をくぐることで繋がっており、一方のループ部を開環することによって当該開環された糸状部材の連結を解くことが可能となっている。
【0037】
図3には、糸状部材15a,15bどうしが連結されている形態(尾部等の図示は省略する。)の一例を示す。例えば、図3Aに示すように、糸状部材15bをx点で切断することによって糸状部材15bのループ部15bLが開環される結果、図3Bのように糸状部材15bが糸状部材15aからa方向又はb方向に引き抜かれ、糸状部材15aと糸状部材15bとを分離させることができる。すなわち、特殊な切り離し部品を使用することなく、一方の糸状部材の切断(すなわち、ループ部の開環)という工程で両者を容易に分離させることが可能となる。このように、本発明における「連結」は、一方のループ部を開環することによって当該開環された糸状部材の連結を解くことが可能となることを前提とした連結をいう。ループ部の開環は、糸状部材の1ヶ所を切って開環できることが好ましい。
【0038】
図2の本発明器具20では、糸状部材15bは、牽引部分を体外から牽引するのに十分な長さを有しており、体外用牽引部材として機能する。すなわち、糸状部材15bを介して体外(口腔側又は肛門側)から体内の組織を牽引することができる。他方、糸状部材15aは、その短さを利用することで体内用牽引部材として用いることもできる。従って、例えば消化管内の病変部位をその対向位置周辺の消化管粘膜に糸状部材15aが固定された状態で牽引部分を牽引することができる。
【0039】
なお、上記クリップ10、糸状部材15a,15bは、クリップの遠位端の操作でクリップを開閉すること又は閉じることが可能な状態でシース(チューブ)内(シースの管内)に収納されていても良い。
【0040】
図2では、糸状部材15aと糸状部材15bとは、互いのループ内をくぐって連結されているが、必ずしもその必要はなく、例えば各々別々に独立してクリップ10の尾部13に固定装着又は連結されていても良い。
【0041】
クリップ部10自体は、図1Aに示すように、挟持前は挟持部11が開いた状態になっていて、体内組織を挟持する際には締め付けリング12を上方に移動させることによって挟持部11を閉じる機構を有するものを好適に採用することができる。従って、このような機構を有するものであれば、特に限定されず、公知又は市販の内視鏡に使用されているクリップ等を用いることができる。従って、市販のクリップとしては、、例えば穿孔・瘻孔の閉鎖・閉塞させるためのクリップ、消化管出血の止血等のために使用されるクリップ等の各種のクリップを適用することができる。また、クリップ部(締め付けリングを含む。)の材質も、特に限定されず、例えばステンレス鋼等の金属(合金を含む。)挙げることができる。
【0042】
前記のクリップ部の挟持部の反対側の尾部13には、ループ部を有する糸状部材が1個又は2個以上取り付けられている。図2では、糸状部材15aが尾部13に1個取り付けられている。
【0043】
1個の糸状部材は、ループ部(リング)を有する。図3で示したように、1個の糸状部材15aは、ループ部15aLを有する。糸状部材がループ部を有することにより、クリップで容易かつ確実に把持し、糸状部材ごと当該クリップで体内の任意の箇所に固定することが可能となる。より具体的には、はさみのように開いたクリップの羽部をループ部に引っかけた状態で体内のいずれかの部位にクリッピングすることにより、病変部位及びその周辺部を含む剥離部分を牽引することができる。
【0044】
1個の糸状部材に含まれるループ部の個数、形態等は、特に限定されず、例えば、図4Aに示すように輪ゴムのような1つのループ部15Lからなる糸状部材のほか、図4Bに示すように複数のループ部15L,15L’が一体的に成形されている糸状部材等が挙げられる。
【0045】
なお、互いに他方の糸状部材のループ部の中をくぐり抜ける状態で連結されており、かつ、少なくとも一方のループ部を開環した際に当該連結が解かれるような状態にある牽引部材の個数は、そのようなループ部の数を糸状部材の個数とする。
【0046】
本発明器具では、図5に示すように、糸状部材の2個以上が直列又は並列で連結されていても良い。直列は、1つのループ部に他の1つのループ部が連結されている状態をいう。並列は、1つのループ部に他の2つ以上のループ部が連結されている状態をいう。連結形態は、直列、並列又はその両者のいずれであっても良い。図5には、4個の糸状部材15a,15b,15c,15dのさまざまな連結状態を示す。これらの糸状部材は、体内牽引用又は体外牽引用のいずれであっても良い。
【0047】
図5Aでは、4個の糸状部材15a,15b,15c,15dが直列で連結されている。図5Bでは、4個の糸状部材15a,15b,15cが直列、糸状部材15c,15dが並列で連結されている。図5Cでは、4個の糸状部材15a,15c,15dが直列、糸状部材15b,15cが並列で連結されている。特に、並列で連結する場合には、体内からの牽引を、同じく体内の他部位からの牽引に変更することも可能である。すなわち、体内からの牽引に使用している糸状部材15のループ部を切断して開環することにより、糸状部材15の他のループ部はクリップの尾部に付着した状態でフリーとなる。かかるループ部を別のクリップにて把持し、他部位の消化管壁に固定することで、最初の体内からの牽引部位から他の牽引部位に牽引の方向、強さ等を任意に変更することができる。また、これにより、例えば体内牽引から体外牽引への切り替えが可能となる。
【0048】
図2において、糸状部材15aは、主として、体内のいずれかの部位を固定して牽引するために用いられる部材(体内牽引用部材)となり得る。このため、材質は、牽引に耐えられる強度を有するものであれば限定されず、例えば縫合糸として使用されている合成繊維(ポリアミド、ポリエステル等)、天然繊維(シルク等)、ゴム(天然ゴム、シリコンゴム等)を適用できるほか、金属ワイヤ等も使用することができる。
【0049】
糸状部材15aは、クリップ部10の挟持部の反対側の尾部13に連結されている。前記尾部13としては、クリップ部10の挟持部の反対側の末端にすることが好ましい。これにより、牽引した際にクリップ本体10と糸状部材15aとがほぼ一直線上に配置されることになり、クリップ部自体が施術者の視界を妨げるリスク等を効果的に低減させることができる。
【0050】
糸状部材15aと、クリップ部10の前記尾部13と連結においても、糸状部材15aのループ部を開環することによって解くことが可能となっていることが好ましい。すなわち、糸状部材15aがクリップ部10から脱着可能な状態で連結されていることが望ましい。これにより、糸状部材15aが不要になったときに、糸状部材15aを切断・開環することで容易に取り外すことができる。例えば、図2のA部の拡大イメージ図を図6に示す。図6に示すように、前記尾部13に形成された空間部13aに糸状部材15aをくぐらせて閉環することでループ部が形成されている場合、ループ部の1ヶ所を切って開環することで糸状部材を引き抜くことができる。その他にも、糸状部材15aにフック部を設けてそのフック部を尾部13に引っ掛ける方法、糸状部材15aを尾部13に接着剤、粘着剤等で仮止めする方法等が挙げられる。
【0051】
糸状部材15aの大きさは、例えば体内牽引用・体外牽引用の別、牽引する部位、大きさ等に応じて適宜調整することができる。例えば、主として体内牽引用として使用する場合は、開環せずに直線状にした場合の長さで0.5~5cm程度の範囲内で設定できるが、これに限定されない。
【0052】
また、本発明器具では、糸状部材とは別に、少なくとも消化管内の病変部位及び消化管粘膜を体外から牽引するのに十分な長さをもつループ部を有する糸状部材を有する。これが前記尾部及び/又は前記糸状部材に連結されている。図2では、そのような糸状部材15bは、糸状部材15aに連結されている。
【0053】
図2における糸状部材15bは、体外(例えば口外)から牽引するために用いられる部材(体外牽引用部材)である。体外牽引用の糸状部材における材質は、生体に対する毒性が低く、牽引に耐えられる強度を有するものであれば限定されず、例えば縫合糸として使用されている合成繊維(ポリアミド、ポリエステル等)、天然繊維(シルク等)、ゴム(天然ゴム、シリコンゴム等)を適用できるほか、金属ワイヤ等も使用することができる。
【0054】
本発明では、図2に示すように、糸状部材15bは、糸状部材15aに連結されていることが望ましい。糸状部材15aと糸状部材15bとは、互いに連結されることなく、各々別々に独立してクリップ部10に装着されていても良い。連結方法は、糸状部材15bの形状等に応じて適宜選択することができる。
【0055】
糸状部材15bの形状は、全体形状がループ状(リング状)であるが、その一部にループ部を有する構造であっても良い。これにより、ループ状の糸状部材15bを糸状部材15aのループ部に通して互いにループ部の中をくぐるチェーン状に連結できる。これにより、糸状部材が不要の場合に糸状部材を切ってループ部を開環することによって当該糸状部材を容易に引き抜くことができる。糸状部材15bをループ状とする場合は、2つ以上のループが互いにループ内を通るチェーンのように連結されたものであっても良いが、上記のような引き抜き作業の容易性の見地からは1つのループで構成されていることが望ましい。また、連結される場合は、図5で示した糸状部材の場合と同様の形態で直列及び/又は並列で連結することができる。
【0056】
糸状部材15bの長さは、例えば患者の身長、牽引する部位等に応じて適宜調節することができるが、体外から牽引するのに十分な長さであれば限定されない。例えば、牽引する部位が成人の胃又はその周辺であれば、糸状部材を開環せずに直線状にした場合の長さで80~230cm程度の範囲内で適宜設定できる。
【0057】
本発明器具は、一般的には、糸状部材の一部又は全部が前記シース管内に収容された状態で使用することができる。すなわち、糸状部材15a及び糸状部材15bは、通常は柔軟な糸状材料から構成されているので、これらを一定の剛性を有するシース(チューブ状部材)に収容することにより、そのシースを内視鏡本体に容易に装填することが可能となる。この場合、本発明器具のクリップ部は、その一部又は全部がシースからはみ出ていても良いし、クリップ部を閉じた状態でシースに完全に収容されていても良い。
【0058】
シースとしては、一般に内視鏡用に使用されているものを採用することができる。このようなシースは、一定の剛性と柔軟性とを兼ね備えており、その剛性によりシースを内視鏡本体に装填することができるとともに、柔軟性によって内視鏡の動きに追従することができる。材質も、特に限定されず、例えばポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン等の合成樹脂製シースを挙げることができる。シースの内径も、例えば用いる糸状部材の種類等によって適宜選定することができ、例えば0.5~5mm程度に設定することもできる。これらのシースとしては、市販品も使用することができる。
【0059】
B.本発明器具の使用形態
本発明器具は、内視鏡下において体内の病変部位を牽引する場合に用いられるものであり、その限りにおいては、内視鏡の種類は特に限定されない。例えば、上部消化管内視鏡、小腸内視鏡、大腸内視鏡、気管支鏡、膀胱鏡、胸腔鏡、腹腔鏡等による処置のいずれにも適用可能である。従って、適用される体内の器官も、特に限定されず、例えば胃、食道、大腸、小腸、十二指腸、胆管等の消化管のほか、口腔、鼻腔、咽頭、気管支、尿管、腹腔内臓器等が挙げられる。これらの中でも、本発明器具は、体内器官(特に消化管)における粘膜組織の病変部位の剥離・牽引に好適に用いることができる。従って、例えば内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)にも好適に用いることができる。
【0060】
以下においては、本発明器具を用いて胃中の病変部位を切除する場合を代表例として図を参照しながら説明する。
【0061】
まず、本発明器具として、図2に示すようなクリップ型牽引用器具を用意し、糸状部材15a及び糸状部材15bを合成樹脂製シースに収容し、前記シースの先端部からクリップ部10を露出させた状態にセットする。
【0062】
その状態で内視鏡本体Yを患者に口腔部から挿入し、内視鏡下にて病変部位及びその周辺部の剥離を行う。次に、図7に示すように、内視鏡Yから剥離途中又は剥離完了後の剥離部分Xに向けて本発明器具20が放たれ、本発明器具20は剥離部分Xを挟持部11で挟持し、内視鏡Yの処置具挿通路を通った状態で体外の内視鏡処置具挿通路入口の手元操作部と連結された状態となる。
【0063】
短い糸状部材15aで体内牽引を行う場合、長い糸状部材15bは不要であるため、シース及び糸状部材のループを切断して糸状部材15aから糸状部材15bを切り離し、糸状部材15bだけを体外に取り出せば良い。
【0064】
その後、図10のように、内視鏡Yの処置具挿通路(鉗子挿通路)(図示せず)から別のクリップ30が開いた状態で糸状部材15aを把持した状態で消化管A内の内壁に向けて放たれる。このクリップ30が消化管A内の内壁を把持した状態になると、クリッピング発射装置から離脱する。その結果、図11に示すように、クリップ30は、剥離部分(牽引部分)を挟持してつながっている本発明器具20の糸状部材15aを引っかけるとともに、その状態で消化管A内の内壁を挟持する。これにより、剥離部分Xに対向する壁面にアンカーリングされたクリップ30と糸状部材15aとを介して剥離部分Xが牽引された状態となる。
【0065】
他方、糸状部材15bで体外から牽引する場合は、図7の状態まで上記と同様の操作を行う。これにより、剥離部分X、糸状部材15a及び糸状部材15bが、互いに連結された状態となる。糸状部材15bは、一方の末端が糸状部材15aと連結しており、他方の末端は体外まで伸びている。
【0066】
その後、内視鏡及びシースを体外に引き抜くことにより、図8に示すような状態で牽引することができる。内視鏡及びシースを引き抜く場合は、例えば体外で糸状部材15bを切断し、そこから内視鏡及びシースを取り外すことができる。この工程については、内視鏡及びシースを取り外す順についてはどちらが先でも良いし、内視鏡とシースを取り除いてから糸状部材15bを切断しても良い。糸状部材15bの切断部分は末端になるが、その末端を体外で用手的に把持することで牽引の操作を行うことができる。あるいは、糸状部材15bの体外側の末端に連結されたループ補助部材を予め設けておき、そのループ助補助部材を切断し、そこから内視鏡及びシースを取り外すこともできる。この場合は、糸状部材15bを切断せずに済むことになる。糸状部材15bの体外で出ている端部を施術者が手指で牽引操作することができる。これにより、例えば牽引力、牽引量等も微妙に調整することができる。
【0067】
上記のように、本発明器具は、体内からの牽引と体外からの牽引の両者から状況に適した選択が可能であり、さらに体外からの牽引を施術途中に体内からの牽引に切り替えること、体内からの牽引を施術途中に体外からの牽引に切り替えることが可能である。体外からの牽引を体内からの牽引に切り替えるには、糸状部材15bを体外又は体内で切断することで糸状部材15aの端部が病変部位Xにクリップ挟持部11で連結固定された状態でフリーになり、さらにクリップで糸状部材15aを消化管A内の内壁に別のクリップで固定すれば良い。この際、図5で示すように複数のループ糸状部材を連結させておくと、体外からの牽引に使用されている糸状部材15bを開環することにより、体外からの牽引に使用していた糸状部材15bを取り外し、フリーになった他の体内牽引用のループ状糸状部材を使用して体内からの牽引に供することが行いやすくなる。
【0068】
他方、体内からの牽引を体外からの牽引に切り替えるには、もう1本の本発明器具を使用することで可能となる。すなわち、糸状部材15aを消化管壁Aに固定していたクリップから外し、フリーな状態にした後、本発明器具による体外牽引を行う同様の方法で糸状部材15aのループを体外から牽引することができる。この場合、糸状部材15aを消化管壁Aに固定していたクリップから外す前に、先に糸状部材15aと体外牽引用の糸状部材との連結状態を構築し、その後に糸状部材15aを消化管壁Aに固定していたクリップから取り外しても良い。
【0069】
剥離部分Xが本発明器具により牽引された後は、通常の方法に従って処置することによって最終的に剥離部分が体内から完全に切り離され、病変部位の切除が完了できる。その後、牽引している本発明器具を固定位置から外し、剥離部分Xを本発明器具ごと体外に取り出すことができる。また、本発明器具も剥離部分から取り外し、本発明器具を剥離部分とは別途に回収し、剥離部分を単独で取り出すこともできる。
【0070】
このように、剥離部分を本発明器具によって牽引することにより、切除すべき部位を容易に直視することが可能になり、血管の位置、走行等をより確実に把握しやすくなる。これによって、出血又は穿孔をより確実に回避できるので、切除操作を容易化させることができる。その結果、切除に要する時間の短縮化を図ることができ、早期消化管腫瘍等の切除が安全・確実にできるとともに、患者の負担の軽減にもつながる。
【実施例
【0071】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。本実施例では、体内からの牽引方式、体外からの牽引方式、体外からの牽引方式から体内からの牽引方式への切り替え、体外からの牽引方式から体内からの牽引方式への切り替えの順に記載する。
【0072】
実施例1(体内からの牽引)
図2に示すような本発明器具20を用いて早期胃癌をESDにて切除する場合の施術例を以下に示す。
内視鏡を経口にて消化管内に挿入し、胃の病変部位又その付近(切除目的部位)まで到達させ、切除範囲を決定する。そして、切除範囲が遺残なく摘除できるように消化管壁(胃壁)の表層部である粘膜層を切開し、剥離部分Xの下にその粘膜下層を露出させる。その後、図2に示すような本発明器具20を合成樹脂製のシースの管内に装填する。
次いで、内視鏡Yの先端を病変部位に配置した状態のまま、各牽引部材が装填されたシースを内視鏡に挿入し、内視鏡の処置具挿通路を通じて本発明器具20を剥離部分X近くまで誘導する。ここで本発明器具20のクリップ部10を出し、剥離部分Xの端部を挟持する。この時、本発明器具20は内視鏡挿通路を介して病変部位Xと連結している。その後、シースを切断する又は取り外し、糸状部材15bを切断することでクリップ部及びその尾部の糸状部材15aは内視鏡Yから離脱する。この状態を図9に示す。図9では、糸状部材15bが取り外された状態を示している。
その後、図10に示すように、さらに内視鏡処置具挿通路から誘導された別のクリップ30を使用し、本発明器具の糸状部材15aのループ部をつかむように操作する。そして、前記ループ部を把持しながら、周辺の消化管壁(例えば胃壁の正常組織部分)にクリップを打ち込む。
その結果、図11に示すように、剥離部分Xが本発明器具20により持ち上げる方向(剥離部分が消化管内腔にめくられる方向)に張力がかかった状態において、下層にある固有筋層を傷つけることのないように粘膜下層を剥離していく。剥離された粘膜下層は牽引力がかかっているので、順にめくられていく。このような一連の操作を繰り返すことにより、病変部位を完全に摘除することができる。
以上のような工程により、牽引を所望する病変部位を適切な方向に適度の牽引力で引っ張り上げることができ、切除部位を露出させることができる結果、切除部位及び切除部に存在する血管を直視することが可能になり、安全な切除術が可能になる。仮に出血又は穿孔が生じた場合でも、牽引することで病変部位が出血部又は穿孔部に覆い被さることを回避できるため、止血のための操作、穿孔部位を閉じる操作等が容易に実施することができる。
なお、本発明器具20が内視鏡視野又は切除操作を妨げるようになった場合でも、次のような操作によりその障害を容易に回避することができる。例えば、市販されている既存の鋏鉗子を内視鏡内処置具挿通路を通して病変部位まで誘導すれば、牽引用部材を除去できる。また、状況によっては、電気メスを使用し、これに通電することで牽引用部材を切断し、除去することも可能である。
【0073】
実施例2(体外からの牽引)
実施例1と同様に、内視鏡及び内視鏡処置具挿通路を挿通させた本発明器具20を消化管内に導入し、図7に示すように、本発明器具20のクリップ部10で病変部位Xの端部を挟持する。この段階でシースと内視鏡を抜き去ることでクリップ部10と糸状部材15a、糸状部材15bで病変部位Xの端部を体外から牽引できる状態となる。この状態を図8に示す。
次に、内視鏡を経口的に再挿入する。牽引で露出し、可視化できた粘膜下層の剥離を前記内視鏡にて継続し、病変部位Xを安全かつ効率的に切除することが可能になる。
【0074】
実施例3(体外牽引から体内牽引へのコンバージョン)
実施例2と同様に体外からの牽引を実施した後(図8)、糸状部材15bの1ヶ所を切断してループ部を開環し、糸状部材15bを抜き去る。これにより、病変部位Xの端部に本発明器具20のクリップ部10に糸状部材15aが挟持された状態で糸状部材15aの端部はフリーな状態となる(図9)。
この状態で実施例1と同様にして、もうひとつのクリップを使用して糸状部材15aの端部を消化管壁Aに固定することで体内からの牽引が可能になる(図10~11)。この状態で粘膜下層剥離を継続することによって病変組織を安全かつ効率的に切除することが可能になる。
別の実施形態としては、実施例2と同様に体外からの牽引を実施した後(図8)、糸状部材15bの1ヶ所のループ部を開環せずに、もうひとつのクリップを使用して糸状部材15aの端部を消化管壁Aに固定し、次いで糸状部材15bの1ヶ所を切断してループ部を開環し、糸状部材15bを抜き去る方法がある。このようにすれば、糸状部材15bを切断する時に、糸状部材15bが引っ張られた状態になっているので、糸状部材15bの把持・切断が容易となる。
【0075】
実施例4(体内牽引から体外牽引へのコンバージョン)
実施例1と同様の方法で体内からの牽引を実施している状態(図11)から消化管壁Aを挟持しているクリップ30を消化管壁Aから外すか、あるいはクリップ30で把持されている糸状部材15aを切って開環して取り外すことにより、糸状部材15aは装着されているクリップ部10を介して病変部位Xの端部に付着した状態でフリーになる。その後、内視鏡の処置具挿通路を通して第2の本発明器具20’でフリーになった糸状部材15aの端部を挟持する。
なお、上記のように、糸状部材15aの切断により開環された場合は、糸状部材15aの切断した端部を挟持すれば良い。別の方法として、例えば予備の糸状部材15c(図示せず)をクリップ部10の尾部に予め連結しておれば、糸状部材15cのループ部15cLを掴むことで把持・牽引することがより容易となる。
次いで、実施例2と同様の方法により、内視鏡とシースを引き抜くことにより体外からの牽引に切り替えることができる。その後、内視鏡を再挿入し、体外からの牽引を実施しながら、粘膜下層剥離を継続しつつ、安全かつ効率的に切除することが可能になる。
別の実施形態としては、実施例1と同様に体内からの牽引を実施した後(図11)、糸状部材15aをフリーとせずに、糸状部材15a又はそれが連結されている尾部13を第2の本発明器具20’で把持する。このようにして、「第1の本発明器具20の糸状部材15a又はそれが連結されている尾部13」-「第2の本発明器具20’のクリップ30’」-「第2の本発明器具20’の糸状部材15a’」-「第2の本発明器具20’の糸状部材15b’」の連結を構成させた後に第1の本発明器具の15aを適当に箇所で切って開環させることによって体外牽引をが可能となる。
図1
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図13