(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-22
(45)【発行日】2025-01-30
(54)【発明の名称】変性シロキサンジイソシアネート化合物、ポリイミド樹脂およびポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C07F 7/10 20060101AFI20250123BHJP
C08G 77/54 20060101ALI20250123BHJP
G03F 7/039 20060101ALN20250123BHJP
【FI】
C07F7/10 X CSP
C08G77/54
G03F7/039 601
(21)【出願番号】P 2020138251
(22)【出願日】2020-08-18
【審査請求日】2023-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】井手 正仁
(72)【発明者】
【氏名】稲成 浩史
(72)【発明者】
【氏名】眞鍋 貴雄
【審査官】薄井 慎矢
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-290155(JP,A)
【文献】特開2022-034457(JP,A)
【文献】特開2022-012361(JP,A)
【文献】特開2020-091323(JP,A)
【文献】特開2013-173920(JP,A)
【文献】ACS Catal.,2013年,Vol.3,pp.1431-1438
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C08G
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に炭素-炭素二重結合を2個および酸分解性基を有する有機化合物、
(B)1分子中にSiH基を2個有するケイ素化合物、
(C)1分子中に炭素-炭素二重結合およびイソシアネート基を1個ずつ有する化合物、をヒドロシリル化反応させることで得られ、末端にイソシアネート基を有す
る変性シロキサンジイソシアネ ート化合物であり、
前記(A)1分子中に炭素-炭素二重結合を2個および酸分解性基を有する有機化合物が、下記一般式(a)及び/または、下記一般式(b)で表される化合物であり、(一般式のZは、tert-ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、トリメチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、アセチル基、ベンジル基、p-メトキシベンジル基から選ばれる酸分解性基を表す)
【化1】
【化2】
前記(B)1分子中にSiH基を2個有するケイ素化合物が、
1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,1,3,3,5,5,-ヘキサメチルトリシロキサン及び、1,1,5,5-テトラメチル-3,3-ジフェニルトリシロキサンから選択されるSiH基末端直鎖状ポリシロキサンであり、
前記(C)1分子中に炭素-炭素二重結合およびイソシアネート基を1個ずつ有する化合物が、アリルイソシアネート、ビニルイソシアネート、4-ビニルフェニルイソシアネート、イソシアン酸3-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルから選ばれる化合物であることを特徴とする変性シロキサンジイソシアネート化合物。
【請求項2】
成分(C)がアリルイソシアネートである事を特徴とする請求項1に記載の変性シロキサンジイソシアネート化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性シロキサンジイソシアネート化合物およびポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
フォトリソグラフィにより簡便にパターン形成が出来る感光性樹脂は、半導体やディスプレイ等のエレクトロニクス分野において広く利用されている材料である。それら感光性樹脂の中でも高い耐熱性を有する材料としてポリイミド系感光性樹脂が挙げられ、酸性基をポリマー中に有するポリイミド樹脂を用いた組成物が提案されている。
【0003】
ポリイミド樹脂は剛性が高く、柔軟性付与させる目的で、特許文献1に記載されているように、分子中にシロキサン構造を有するポリイミド樹脂を得る手法も多く提案されている。しかし、合成時に用いるシロキサンジアミン化合物は純度が低く、高温時に低分子シロキサンが揮発することで電気配線での接合不良を起こす問題や、各種基材との密着性に欠けるなどの問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
柔軟性を有し、密着性に優れるポジ型感光性樹脂組成物を提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記を達成の為に検討を重ねた結果、有機変性したシロキサンジイソシアネート化合物およびそれを用いて得られるポリイミド樹脂をベースとしたポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物が、柔軟性を有し、かつ、優れた密着性を有する事を見出すに至った。本発明は、以下からなるものである。
【0007】
〔1〕.(A)1分子中に炭素-炭素二重結合を2個および酸分解性基を有する有機化合物、(B)1分子中にSiH基を2個有するケイ素化合物、(C)1分子中に炭素-炭素二重結合およびイソシアネート基を1個ずつ有する化合物、を反応させることで得られ、末端にイソシアネート基を有する以下構造で表される変性シロキサンジイソシアネート化合物。
【0008】
【0009】
(上記化学式において、Gは保護された酸性基を有し主鎖の炭素数が1から50であって、H原子、O原子、N原子、ハロゲン原子、S原子のいずれかの原子を一種、又は、2種以上含む有機基で表され、Xはイソシアネート基を構造中に有する有機基、Rは炭素数1から20で表される有機基を示し、n、mは1~50の整数である)
【0010】
〔2〕.成分(C)がアリルイソシアネートである事を特徴とする〔1〕に記載の変性シロキサンジイソシアネート化合物。
【0011】
〔3〕.成分(A)が下記一般式(a)で表される事を特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載の変性シロキサンジイソシアネート化合物。(下記一般式のZは、tert-ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、トリメチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、アセチル基、ベンジル基、p-メトキシベンジル基から選ばれる保護基を表す)
【0012】
【0013】
〔4〕.成分(A)が下記一般式(b)で表される事を特徴とする〔1〕または〔2〕に記載の変性シロキサンジイソシアネート化合物。(下記一般式のZは、tert-ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、トリメチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、アセチル基、ベンジル基、p-メトキシベンジル基から選ばれる保護基を表す)
【0014】
【0015】
〔5〕.〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の変性シロキサンジイソシアネートと二酸無水物とを反応させる事により得られるポリイミド樹脂。
【0016】
〔6〕.〔5〕に記載のポリイミド樹脂、および、光酸発生剤を必須成分とするポジ型感光性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、有機変性したシロキサンジイソシアネート化合物を用いることにより、密着性に優れるポリイミド樹脂が得られ、更に、当該ポリイミド樹脂をベースとしてポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(変性シロキサンジイソシアネート化合物)
上記、変性シロキサンジイソシアネート化合物は、(A)1分子中に炭素-炭素二重結合を2個および酸分解性基を有する有機化合物、(B)1分子中にSiH基を2個有するケイ素化合物、(C)1分子中に炭素-炭素二重結合およびイソシアネート基を1個ずつ有する化合物、を反応させることで末端にイソシアネート基を有する以下構造で表される変性シロキサンジイソシアネート化合物が得られる事を見出した。
【0019】
【0020】
(上記化学式において、Gは保護された酸性基を有し主鎖の炭素数が1から50であって、H原子、O原子、N原子、ハロゲン原子、S原子のいずれかの原子を一種、又は、2種以上含む有機基で表され、Xはイソシアネート基を構造中に有する有機基、Rは炭素数1から20で表される有機基を示し、n、mは1~50の整数である)
【0021】
ここで言う構造Gとは、炭素数1から50、および、H原子、O原子、N原子、F原子、S原子のいずれかの原子より構成される有機基であり、かつ、分子中に酸分解性基を有するものであれば、特に限定されるものではない。
【0022】
酸分解性基とは、酸物質によって分解し、酸性基に変化する官能基を示す。酸分解性基の例としては、保護された酸性基が挙げられ、感光性樹脂に導入されることでよく用いられる官能基である。感光性樹脂の場合、配合されている光酸発生剤から露光によって発生した酸物質によってこの酸分解性基が分解し、酸性基に変化することによって、アルカリ性の現像液への溶解性が変化し、パターニング可能な感光性樹脂として機能する。
【0023】
さらに当発明で得られるポリイミド樹脂では、構造Gを有さないシロキサン分子を有する樹脂と比較して基材との密着性・樹脂強度を向上させるために有効であり、かつ、ポリイミド樹脂の特長である耐熱性を損なう事無く導入する観点から、下記にあるヒドロシリル化反応を用いて導入する方法が好ましい。
【0024】
以下、ヒドロシリル化による変性シロキサンジイソシアネート化合物を得るための各必須成分について説明する。
【0025】
(成分(A):1分子中に炭素-炭素二重結合を2個および酸分解性基を有する有機化合物)
上記、変性シロキサンジイソシアネート化合物は、成分(A)の1分子中に炭素-炭素二重結合を2個および酸分解性基を有する有機化合物と、後述の成分(B)および(C)と反応させることによって得ることが出来る。本件発明中の(A)成分である1分子中に炭素-炭素二重結合を2個および酸分解性基を有する有機化合物であれば特に限定されない。入手性などの観点から、下記一般式(a)で表される化合物、
【0026】
【0027】
(一般式のZは、tert-ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、トリメチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、アセチル基、ベンジル基、p-メトキシベンジル基から選ばれる保護基を表す)
もしくは、下記一般式(b)で表される化合物を好適に使用する事ができる。
【0028】
【0029】
(一般式のZは、tert-ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、トリメチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、アセチル基、ベンジル基、p-メトキシベンジル基から選ばれる保護基を表す)
耐熱性の観点で好ましくは、下記一般式(a)で表される化合物を用いる。
【0030】
【0031】
(一般式のZは、tert-ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、トリメチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、アセチル基、ベンジル基、p-メトキシベンジル基から選ばれる保護基を表す)
また、成分(A)と併用して、酸分解性基を有さない炭素-炭素二重結合を有する有機化合物(A’)も反応に用いる事もできる。
【0032】
成分(A’)の具体例としては、ジアリルフタレート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ジアリリデンペンタエリスリット、ジアリルモノメチルイソシアヌレート。ジアリルモノプロピルイソシアヌレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジアリルモノベンジルイソシアヌレート、ジアリルジメチルグリコールウリル、1,4-ブタンジオールジビニルエーテル、ノナンジオールジビニルエーテル、1,4-シクロへキサンジメタノールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ビスフェノールSのジアリルエーテル、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、1,3-ジイソプロペニルベンゼン、1,4-ジイソプロペニルベンゼン、1,3-ビス(アリルオキシ)アダマンタン、1,3-ビス(ビニルオキシ)アダマンタン、ジシクロペンタジエン、ビニルシクロへキセン、1,5-ヘキサジエン、1,9-デカジエン、ジアリルエーテル、ビスフェノールAジアリルエーテル、2,5-ジアリルフェノールアリルエーテル、下記一般式(c)で表される化合物
【0033】
【0034】
等が挙げられる。
【0035】
成分(A’)としては、得られる硬化物の着色が少なく、耐熱性が高いという観点からは、ジアリルモノメチルイソシアヌレート、ジアリルモノプロピルイソシアヌレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジアリルモノベンジルイソシアヌレート、ビニルシクロヘキセン、ジシクロペンタジエン、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンのジアリルエーテル、が好ましい。
【0036】
特に、耐熱性、耐光性が高いという観点から下記一般式(d)で表されるジアリルモノメチルイソシアヌレート、ジアリルモノプロピルイソシアヌレート、及びその誘導体が好ましい。
【0037】
【0038】
(式中Rは水素原子または炭素数1~50の一価の有機基を示す)
で表される化合物が好ましい。
【0039】
(成分(B):1分子中にSiH基を2個有するケイ素化合物)
成分(B)としては、SiH基を2個有するケイ素化合物、つまり、Si原子を分子中に有するSiH基を2個有する化合物であれば特に限定せず使用できる。最も一般的に入手し易いものとして、SiH基末端直鎖状ポリシロキサンが挙げられるが、ジメチルシロキサン単位、ジフェニルシロキサン単位、メチルフェニルシロキサン単位の単一重合体、および、それぞれのシロキサン単位の共重合体についてジメチルハイドロジェンシリル基で末端が封鎖されたポリオルガノシロキサン重合体であれば特に限定されない。具体的には、例えば、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,1,3,3,5,5,―ヘキサメチルトリシロキサン、1,1,5,5-テトラメチル-3,3-ジフェニルトリシロキサンなどが、好ましい例として例示される。また、SiH基末端のポリシロキサン化合物以外のケイ素系化合物も用いる事ができ、例えば、1,4-ビス(ジメチルシリル)ベンゼン、1,4-ビス(ジフェニルシリル)ベンゼン、1,4-ビス(メチルフェニルシリル)ベンゼン、などが具体的に挙げられる。
【0040】
(成分(C):1分子中に炭素-炭素二重結合およびイソシアネート基を1個ずつ有する化合物)
成分(C)としては、1分子中に炭素-炭素二重結合およびイソシアネート基を1個ずつ有する化合物であれば特に限定せず使用する事ができる。具体的な例としては、アリルイソシアネート、ビニルイソシアネート、4-ビニルフェニルイソシアネート、イソシアン酸3-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルなどが挙げられる。入手性の観点から、アリルイソシアネートが好ましい。
【0041】
(成分(A)、(B)、(C)の反応)
成分(A)、(B)、(C)を反応させ変性シロキサンジイソシアネート化合物を得る方法としては、ヒドロシリル化反応を用いる。この場合、スムーズに反応を進行させる目的で触媒を用いても良い。
【0042】
ヒドロシリル化反応の触媒としては、例えば次のようなものを用いることができる。白金の単体、アルミナ、シリカ、カーボンブラック等の担体に固体白金を担持させたもの、塩化白金酸、塩化白金酸とアルコール、アルデヒド、ケトン等との錯体、白金-オレフィン錯体(例えば、Pt(CH2=CH2)2(PPh3)2、Pt(CH2=CH2)2Cl2)、白金-ビニルシロキサン錯体(例えば、Pt(ViMe2SiOSiMe2Vi)n、Pt[(MeViSiO)4]m)、白金-ホスフィン錯体(例えば、Pt(PPh3)4、Pt(PBu3)4)、白金-ホスファイト錯体(例えば、Pt[P(OPh)3]4、Pt[P(OBu)3]4)(式中、Meはメチル基、Buはブチル基、Viはビニル基、Phはフェニル基を表し、n、mは、整数を示す。)、ジカルボニルジクロロ白金、カールシュテト(Karstedt)触媒、また、アシュビー(Ashby)の米国特許第3159601号及び3159662号明細書中に記載された白金-炭化水素複合体、ならびにラモロー(Lamoreaux)の米国特許第3220972号明細書中に記載された白金アルコラート触媒が挙げられる。更に、モディック(Modic)の米国特許第3516946号明細書中に記載された塩化白金-オレフィン複合体も本発明において有用である。
【0043】
また、白金化合物以外の触媒の例としては、RhCl(PPh)3、RhCl3、RhAl2O3、RuCl3、IrCl3、FeCl3、AlCl3、PdCl2・2H2O、NiCl2、TiCl4、等が挙げられる。
【0044】
これらの中では、触媒活性の点から塩化白金酸、白金-オレフィン錯体、白金-ビニルシロキサン錯体等が好ましい。また、これらの触媒は単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0045】
成分(A)、(B)、(C)を反応させる順序については、まず成分(A)と(B)とをSiH基量を多くした条件でヒドロシリル化により反応させ、次に成分(C)を逐次で反応させ、末端にイソシアネート基を導入する。これにより、変性シロキサンジイソシアネートを得る事ができる。
【0046】
(ポリイミド樹脂について)
本発明の変性シロキサンジイソシアネート化合物を用いて得られるポリイミド樹脂は、一般的に二酸無水物との反応により得られるが、特に限定されるものではない。
【0047】
本発明のポリイミド合成のために用いる二酸無水物としては、例えば、2,2’-ヘキサフルオロプロピリデンジフタル酸二無水物、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンジベンゾエート-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、3,5,6-トリカルボキシノルボナン-2-酢酸二無水物、2,3,4,5-テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]-オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物等の脂肪族または脂環式テトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-フランテトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン二無水物、3,3’,4,4’-パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイド二無水物、p-フェニレン-ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、m-フェニレン-ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)-4,4’-ジフェニルエーテル二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)-4,4’-ジフェニルメタン二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物等、及びそれらの誘導体などが挙げられ、これらを単独で、または任意の割合で混合した混合物を好ましく用いることができる。
【0048】
(ポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物)
上記方法により得られたポリイミド樹脂は、光酸発生剤を添加する事でポジ型の感光性樹脂組成物とする事ができる。本発明で用いる光酸発生剤は、特に種類については限定されず、複数のものを併用することもできる。
【0049】
好ましい光酸発生剤としては、芳香族スルホニウム塩およびヨードニウム塩、オキシムスルホネート類、イミドスルホネート類、カルボン酸エステル類が挙げられる。これらの中でも、光感度が高くなる事から、オキシムスルホネート類、イミドスルホネート類が好ましい。また、光により発生する酸化合物も特に限定されないが、酸分解性基を効率的に分解できる酸強度のものが好ましく、例えば、CF3SO3
-H+、C4F9SO3
-H+、B(C6F5)4
-H+、PF6
-H+、SbF6
-H+等が挙げられる。
【0050】
上記ポジ型感光性樹脂組成物における光酸発生剤の含有量は、特に制限はないが、硬化性の観点から、成分(A)の100重量部に対して、0.01~10重量部であることが好ましい。光酸発生剤の量が少ないと、硬化に長時間を要したり、十分に硬化した硬化物が得られなかったりする場合がある。また、光酸発生剤が多いと、色が硬化物に残ったり、急硬化のために着色したり、耐熱性を損なったり、耐光性を損なったりするため、好ましくない場合がある。
【0051】
(光増感剤)
上記ポジ型感光性樹脂組成物は、光増感剤を含有していてもよい。光増感剤添加により、上記ポジ型感光性樹脂組成物において、可視光等への感度を向上させることができ、さらにg線(436nm)、h線(405nm)およびi線(365nm)等の高波長の光に感度を持たせることができる。これらの増感剤を、上述のカチオン重合開始剤、ラジカル重合開始剤および光酸発生剤等と併用して使用することにより、上記ポジ型感光性樹脂組成物の硬化性の調整を行うことができる。上記増感剤としては、アントラセン系化合物およびチオキサントン系化合物等が挙げられる。
【0052】
上記アントラセン系化合物の具体例としては、アントラセン、2-エチル-9,10-ジメトキシアントラセン、9,10-ジメチルアントラセン、9,10-ジブトキシアントラセン、9,10-ジプロポキシアントラセン、9,10-ジエトキシアントラセン、1,4-ジメトキシアントラセン、9-メチルアントラセン、2-エチルアントラセン、2-tert-ブチルアントラセン、2,6-ジ-tert-ブチルアントラセン、9,10-ジフェニル-2,6-ジ-tert-ブチルアントラセン等が挙げられる。特に入手しやすい観点からは、上記アントラセン系化合物として、アントラセン、9,10-ジメチルアントラセン、9,10-ジブトキシアントラセン、9,10-ジプロポキシアントラセンおよび9,10-ジエトキシアントラセン等が好ましい。
【0053】
上記アントラセン系化合物としては、硬化物の透明性に優れる観点からはアントラセンが好ましく、硬化性組成物との相溶性に優れる観点からは9,10-ジブトキシアントラセン、9,10-ジプロポキシアントラセンおよび9,10-ジエトキシアントラセン等が好ましい。
【0054】
(溶剤)
また感光性樹脂組成物として用いる際、通常は基板にコーティングして使用するため、溶剤に希釈して感光性樹脂組成物とする。使用できる溶剤としては、特に限定されるものではなく、具体的には、ベンゼン、トルエン、ヘキサンおよびヘプタン等の炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソランおよびジエチルエーテル等のエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンおよびシクロヘキサノン等のケトン系溶媒、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテル-2-アセテート(PGMEA)およびエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコール系溶剤、クロロホルム、塩化メチレンおよび1,2-ジクロロエタン等のハロゲン系溶剤等が挙げられる。
【0055】
(パターン形成方法について)
上記ポジ型感光性樹脂組成物を基材上に1~5μmの膜厚で層状塗布し、乾燥させることによって得た積層体(基材/感光性樹脂組成物)を、露光後、アルカリ性現像液によって現像することによって、パターンを形成することが出来る。
【0056】
上記ポジ型感光性樹脂組成物を露光するための光源としては、使用する光酸発生剤および増感剤の吸収波長を発光する光源を使用すればよく、通常200~450nmの範囲の波長を含む光源(例えば、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、ハイパワーメタルハライドランプ、キセノンランプ、カーボンアークランプまたは発光ダイオード等)を使用できる。
【0057】
上記ポジ型感光性樹脂組成物を反応させるための露光量は特に制限されないが、好ましくは1~10000mJ/cm2、より好ましくは1~3000mJ/cm2である。露光量が少ないと上記ポジ型感光性樹脂組成物が反応しない場合がある。露光量が多いと反応が過剰に進行し、求める形状のパターンが得られない場合がある。
【0058】
また溶剤除去および硬化物の物性向上の目的で、露光前後に熱を加えプリベークおよびアフターベークさせてもよい。硬化温度は適宜設定され得るが、好ましくは40~400℃、より好ましくは60~350℃である。
【0059】
アルカリ現像液によるパターニング形成について特に限定される方法はなく、一般的に行われる浸漬法またはスプレー法等の現像方法により露光部を溶解および除去して所望のパターンを形成することができる。
【0060】
また、アルカリ現像において使用される現像液については、一般に使用されるものであれば特に限定なく使用することができる。上記現像液の具体例としては、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)水溶液およびコリン水溶液等の有機アルカリ水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液および炭酸リチウム水溶液等の無機アルカリ水溶液等が挙げられる。上記水溶液は、溶解速度等の調整のためにアルコールおよび界面活性剤等を含有していてもよい。上記水溶液の濃度は、露光部と未露光部とのコントラストがつきやすいという観点から、25重量%以下であることが好ましく、10重量%以下がより好ましく、5重量%以下であることがさらに好ましい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
(パターニング性評価)
実施例および比較例で得られた樹脂組成物を用いてパターニング性評価サンプルを作製した。まずガラス基板へ、実施例および比較例で得られた樹脂組成物を膜厚が2μmとなるようにスピンコーティングし、100℃に加熱したホットプレート上で2分間加熱した。次に露光装置(高圧水銀ランプ、手動露光機、大日本科研社製)を用い、50μmのラインアンドスペースパターンが刻まれたマスクを通して、それぞれの樹脂組成物に最適な積算光量で露光し(ソフトコンタクト露光)、露光後1分間放置した。その後、アルカリ性現像液(TMAH2.38%水溶液)に180秒間浸漬後、30秒間水洗してパターンを形成した。その後、230℃のホットプレート上で30分間加熱してパターニング性評価用のサンプルを得た。
【0063】
得られたパターニング性評価サンプルについて、3D測定レーザー顕微鏡(LEXT OLS4000、オリンパス社製)および触針式表面形状測定器(Dektak150、Veeco社製)を用いてパターン形状を観測し、50μmラインアンドスペースの状態を下記基準に従い評価した。
【0064】
<評価基準>
○:実用可能なレベル(50μmラインアンドスペースに残膜無し)
×:実用に適さないレベル(50μmラインアンドスペースに残膜有り)
【0065】
(密着性評価)
実施例および比較例で得られたポリイミド樹脂溶液をCu製膜ウェハ基板上に膜厚5μmでスピンコーティングした後250℃1時間ホットプレートで加熱する事で、ポリイミド樹脂膜を形成した。次にJIS K5600-V-VI(ISO2409)に準じてクロ
スカット試験を行い、Cu薄膜への密着性評価を行った。
【0066】
●評価指標
0:剥離無し 1:1~10%剥離 2:20~30%剥離
3:50%剥離 4:70~80%剥離 5:90%以上剥離
【0067】
(耐熱性評価)
熱重量測定装置(TGA、島津製作所製)を用いて、室温から500℃まで10℃/分で昇温させ、1%重量減少温度を指標として評価を行った。
【0068】
(合成例1)
500mL四つ口フラスコにトルエン100g、1,1,5,5-テトラメチル-3,3-ジフェニルトリシロキサン15gを入れ、気相部を窒素置換した後、内温105℃で加熱、攪拌した。tert-ブトキシカルボニル基で保護されたジアリルイソシアヌル酸11g、1’4’-ジオキサン10g、白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金として3wt%含有)0.0163gの混合液を30分かけて滴下した。滴下終了から3時間後に1H-NMRでアリル基の反応率が100%であることを確認し、60℃冷却した。その後、アリルイソシアネート0.85gとトルエン3gの混合溶液を滴下した。滴下終了から5時間後に1H-NMRでアリルイソシアネートの二重結合の反応率が100%であることを確認し、冷却した反応を終了した。トルエンを減圧留去し、イソシアネート基を末端に有する変性シロキサン化合物Aを得た。
【0069】
次に、200mLのフラスコ中に、溶剤としてN,N-ジメチルホルムアミド20g、上記で得た変性シロキサン化合物Aを2.5g、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン1.5gを投入し、室温、窒素雰囲気下で30分間撹拌した。さらにN,N-ジメチルホルムアミド5g、ピリジン0.8g、無水酢酸1.5gを順次フラスコに投入し、90℃に加熱しながら3時間撹拌した。常温に戻ってから、フラスコに500mLのイソプロピルアルコールを投入し、析出物を回収した。更に500mLリットルのイソプロピルアルコールで洗浄を3回行い、得られた析出物を80℃で6時間減圧乾燥し、ポリイミド樹脂Aを得た。
【0070】
(合成例2)
500mL四つ口フラスコにトルエン100g、1,1,5,5-テトラメチル-3,3-ジフェニルトリシロキサン15gを入れ、気相部を窒素置換した後、内温105℃で加熱、攪拌した。tert-ブトキシカルボニル基で保護されたジアリルビスフェノールS15g、1’4’-ジオキサン10g、白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金として3wt%含有)0.0163gの混合液を30分かけて滴下した。滴下終了から3時間後に1H-NMRでアリル基の反応率が100%であることを確認し、60℃冷却した。その後、アリルイソシアネート0.85gとトルエン3gの混合溶液を滴下した。滴下終了から5時間後に1H-NMRでアリルイソシアネートの二重結合の反応率が100%であることを確認し、冷却した反応を終了した。トルエンを減圧留去し、イソシアネート基を末端に有する変性シロキサン化合物Bを得た。
【0071】
次に、200mLのフラスコ中に、溶剤としてN,N-ジメチルホルムアミド20g、上記で得た変性シロキサン化合物Aを2.5g、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン1.5gを投入し、室温、窒素雰囲気下で30分間撹拌した。さらにN,N-ジメチルホルムアミド5g、ピリジン0.8g、無水酢酸1.5gを順次フラスコに投入し、90℃に加熱しながら3時間撹拌した。常温に戻ってから、フラスコに500mLのイソプロピルアルコールを投入し、析出物を回収した。更に500mLリットルのイソプロピルアルコールで洗浄を3回行い、得られた析出物を80℃で6時間減圧乾燥し、ポリイミド樹脂Bを得た。
【0072】
(合成例3)
500mL四つ口フラスコにトルエン100g、1,1,5,5-テトラメチル-3,3-ジフェニルトリシロキサン15gを入れ、気相部を窒素置換した後、内温105℃で加熱、攪拌した。tert-ブトキシカルボニル基で保護されたジアリルイソシアヌル酸8g、ジアリルモノメチルイソシアヌレート2g、1’4’-ジオキサン10g、白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金として3wt%含有)0.0163gの混合液を30分かけて滴下した。滴下終了から3時間後に1H-NMRでアリル基の反応率が100%であることを確認し、60℃冷却した。その後、アリルイソシアネート0.85gとトルエン3gの混合溶液を滴下した。滴下終了から5時間後に1H-NMRでアリルイソシアネートの二重結合の反応率が100%であることを確認し、冷却した反応を終了した。トルエンを減圧留去し、イソシアネート基を末端に有する変性シロキサン化合物Cを得た。
【0073】
次に、200mLのフラスコ中に、溶剤としてN,N-ジメチルホルムアミド20g、上記で得た変性シロキサン化合物Aを2.5g、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン1.5gを投入し、室温、窒素雰囲気下で30分間撹拌した。さらにN,N-ジメチルホルムアミド5g、ピリジン0.8g、無水酢酸1.5gを順次フラスコに投入し、90℃に加熱しながら3時間撹拌した。常温に戻ってから、フラスコに500mLのイソプロピルアルコールを投入し、析出物を回収した。更に500mLリットルのイソプロピルアルコールで洗浄を3回行い、得られた析出物を80℃で6時間減圧乾燥し、ポリイミド樹脂Cを得た。
【0074】
(合成比較例1)
200mLのフラスコ中に、溶剤としてN,N-ジメチルホルムアミド20g、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン1.0g、シロキサンジアミン(商品名:KF-8010、信越化学工業株式会社製)を1.0g、2,2’-ヘキサフルオロプロピリデンジフタル酸二無水物2.5gを投入し、室温、窒素雰囲気下で30分間撹拌した。さらにN,N-ジメチルホルムアミド5g、ピリジン0.8g、無水酢酸1.5gを順次フラスコに投入し、90℃に加熱しながら3時間撹拌した。常温に戻ってから、フラスコに500mLのイソプロピルアルコールを投入し、析出物を回収した。更に500mLリットルのイソプロピルアルコールで洗浄を3回行い、得られた析出物を80℃で6時間減圧乾燥し、ポリイミド樹脂E’を得た。
【0075】
次に、ポリイミド樹脂E’3gをTHF50mLにピリジン0.1g、二炭酸ジtertブチル3gを入れ、70℃で1時間攪拌した。H1-NMRによってイソシアヌル酸のNHピークの消失によって保護反応の完了を確認し、フェノール酸基が保護されたポリイミド樹脂Eを得た。
【0076】
(実施例1)
ポリイミド樹脂として、合成例1に記載のポリイミド樹脂A0.50g、光酸発生剤として1,8-ナフタレンジカルボン酸イミドトリフルオロメチルスルホネート0.10gを溶剤のPGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)3.5gに溶解させ、感光性組成物1を調製した。
【0077】
(実施例2)
ポリイミド樹脂として、合成例2に記載のポリイミド樹脂B0.50g、光酸発生剤として1,8-ナフタレンジカルボン酸イミドトリフルオロメチルスルホネート0.10gを溶剤のPGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)3.5gに溶解させ、感光性組成物2を調製した。
【0078】
(実施例3)
ポリイミド樹脂として、合成例3に記載のポリイミド樹脂C0.50g、光酸発生剤として1,8-ナフタレンジカルボン酸イミドトリフルオロメチルスルホネート0.10gを溶剤のPGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)3.5gに溶解させ、感光性組成物3を調製した。
【0079】
(比較例1)
ポリイミド樹脂として、合成比較例1に記載のポリイミド樹脂E0.50g、光酸発生剤として1,8-ナフタレンジカルボン酸イミドトリフルオロメチルスルホネート0.10gを溶剤のPGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)3.5gに溶解させ、感光性組成物4を調製した。
【0080】
(結果)
実施例1~3および比較例1で得られたポリイミド樹脂溶液に対し、前述の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0081】
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、半導体やディスプレイ等のエレクトロニクスデバイス用の絶縁層間膜、接着剤、コーティング剤および封止剤等の様々な分野で利用することができる。