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<図1>
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-22
(45)【発行日】2025-01-30
(54)【発明の名称】繊維物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/12 20060101AFI20250123BHJP
【FI】
D04H3/12
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020164480
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022056633
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永田 真悟
(72)【発明者】
【氏名】新谷 博昭
(72)【発明者】
【氏名】橋田 淳之介
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-188774(JP,A)
【文献】国際公開第2021/039979(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続する複数本の第1繊維を搬送しながら、繊維化可能な高分子を含有する複数の樹脂粒状物を、前記複数本の第1繊維に添着する添着ステップと、
前記複数の樹脂粒状物を添着された前記複数本の第1繊維に対し、前記複数本の第1繊維と前記複数の樹脂粒状物とを加熱しながら繊維間隙が縮小するように外力を付与する第1処理ステップと、
前記外力を緩和することにより、前記複数の樹脂粒状物から外径が前記第1繊維よりも小さく且つ30nm以上1.0μm以下の範囲の値に設定された第2繊維を形成し、前記第1繊維と前記第2繊維とを含有する繊維複合体を形成する第2処理ステップと、を有する、繊維物品の製造方法。
【請求項2】
前記複数本の第1繊維をシート状に加工する加工ステップを更に有する、請求項1に記載の繊維物品の製造方法。
【請求項3】
前記加工ステップでは、前記複数本の第1繊維により不織布を形成する、請求項2に記載の繊維物品の製造方法。
【請求項4】
前記第1処理ステップでは、前記複数本の第1繊維を一対のニップロールにより押圧することで、前記複数の樹脂粒状物を添着された前記第1繊維に対して前記外力を付与する、請求項1~3のいずれか1項に記載の繊維物品の製造方法。
【請求項5】
前記第1処理ステップでは、加熱した前記一対のニップロールにより前記複数本の第1繊維と前記複数の樹脂粒状物とを加熱する、請求項4に記載の繊維物品の製造方法。
【請求項6】
前記第1処理ステップでは、前記複数本の第1繊維をプレス装置により押圧することで、前記複数の樹脂粒状物を添着された前記第1繊維に対して前記外力を付与する、請求項1~3のいずれか1項に記載の繊維物品の製造方法。
【請求項7】
前記第1処理ステップでは、加熱した前記プレス装置により前記複数本の第1繊維と前記複数の樹脂粒状物とを加熱する、請求項6に記載の繊維物品の製造方法。
【請求項8】
前記第1処理ステップでの前記複数本の第1繊維と前記複数の樹脂粒状物との加熱温度を、前記第1繊維のガラス転移温度以上の温度とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の繊維物品の製造方法。
【請求項9】
前記第1処理ステップでの前記複数本の第1繊維と前記複数の樹脂粒状物との加熱温度を50℃以上200℃以下の範囲の温度とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の繊維物品の製造方法。
【請求項10】
前記添着ステップでは、前記複数の樹脂粒状物が分散された分散液を用いる、請求項1~9のいずれか1項に記載の繊維物品の製造方法。
【請求項11】
前記分散液として、前記複数の樹脂粒状物を水に分散させた水分散液を用いる、請求項10に記載の繊維物品の製造方法。
【請求項12】
前記添着ステップでは、前記第1処理ステップにおいて前記第1繊維から脱離した前記分散液を再利用する、請求項10又は11に記載の繊維物品の製造方法。
【請求項13】
前記第1処理ステップでは、前記複数の樹脂粒状物を添着された前記複数本の第1繊維に対し、0.05MPa以上の値に設定された前記外力を付与する、請求項1~12のいずれか1項に記載の繊維物品の製造方法。
【請求項14】
前記添着ステップでは、ラメラ構造を有する前記複数の樹脂粒状物を用いる、請求項1~13のいずれか1項に記載の繊維物品の製造方法。
【請求項15】
前記第2処理ステップでは、前記第1繊維の総重量W1と、前記第2繊維及び残留する前記樹脂粒状物を合わせた総重量W2との重量比W1/W2が、3.00以上200.00以下の範囲の値に設定された前記繊維複合体を形成する、請求項1~14のいずれか1項に記載の繊維物品の製造方法。
【請求項16】
前記添着ステップでは、外径が5μm以上50μm以下の範囲の値に設定された前記第1繊維を用いる、請求項1~15のいずれか1項に記載の繊維物品の製造方法。
【請求項17】
前記添着ステップでは、レーヨン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、及びセルロースアセテートのうちの少なくとも1つを含有する前記第1繊維を用いる、請求項1~16のいずれか1項に記載の繊維物品の製造方法。
【請求項18】
前記添着ステップでは、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びポリアミドのうちの少なくとも1つを含有する前記樹脂粒状物を用いる、請求項1~17のいずれか1項に記載の繊維物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、繊維物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維物品は、例えば、流体中から不純物を濾過する濾過部材や、衛生用品等の吸収性部材として用いられる。特許文献1には、異なる種類の繊維を含有する繊維物品である不織布が開示されている。また本文献には、各種類の繊維を個別に紡糸且つ搬送しながら、一方の繊維の繊維流に他方の繊維を挿入して不織布を製造する製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-116854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
異なる種類の繊維を含有する繊維物品を製造する場合、例えば、外径が異なる繊維を組み合わせることで、各繊維が有する機能を発現させて繊維物品の性能を向上できる。しかしながら、このような高機能を有する繊維物品を効率よく製造することは困難な場合がある。この問題は、例えば、外径が極細の繊維を含有する繊維物品を製造する場合に顕著となる。
【0005】
そこで本開示は、外径が異なる種類の繊維を組み合わせた繊維物品を製造する場合において、高機能を有する嵩高な繊維物品を効率よく製造可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る繊維物品の製造方法は、繊維化可能な高分子を含有する複数の樹脂粒状物を、複数本の第1繊維に添着する添着ステップと、前記複数の樹脂粒状物を添着された前記複数本の第1繊維に対し、前記複数本の第1繊維と前記複数の樹脂粒状物とを加熱しながら繊維間隙が縮小するように外力を付与する第1処理ステップと、前記外力を緩和することにより、前記複数の樹脂粒状物から外径が前記第1繊維よりも小さく且つ30nm以上1.0μm以下の範囲の値に設定された第2繊維を形成し、前記第1繊維と前記第2繊維とを含有する繊維複合体を形成する第2処理ステップと、を有する。
【0007】
上記方法によれば、上記各ステップを行うことで、外径が30nm以上1.0μm以下の範囲の値に設定された極細の第2繊維と、外径が第2繊維よりも太い第1繊維とを含有する嵩高な繊維物品を製造できる。また極細の第2繊維を第1繊維と組み合わせ、第2繊維を第1繊維で支持するので、第2繊維のみで繊維物品を製造した場合に比べて嵩高な繊維物品を製造できる。そして、長期にわたり第2繊維の機能を発揮可能な高機能を有する繊維物品を製造できる。また例えば、第1繊維に分散して添着した複数の樹脂粒状物により第2繊維を形成することで、繊維物品内に第2繊維を均一に分散して配置できる。よって、均一な品質を有する繊維物品を製造できる。
【0008】
また、上記各ステップを行うことで、例えば上記繊維物品を単一の搬送設備で効率よく連続的に製造できる。よって、製造工程を簡素化して、繊維物品の製造コストを低減できる。結果として、高機能を有する嵩高な繊維物品を効率よく製造できる。
【0009】
前記複数本の第1繊維をシート状に加工する加工ステップを更に有してもよい。これにより、第1繊維及び第2繊維を含有するシート状の繊維物品を効率よく製造できる。
【0010】
前記加工ステップでは、前記複数本の第1繊維により不織布を形成してもよい。これにより、第1繊維及び第2繊維を含有する、不織布を用いた繊維物品を効率よく製造できる。
【0011】
前記第1処理ステップでは、前記複数本の第1繊維を一対のニップロールにより押圧することで、前記複数の樹脂粒状物を添着された前記第1繊維に対して前記外力を付与してもよい。これにより、第1処理ステップにおいて、第1繊維に外力を効率よく付与できる。
【0012】
前記第1処理ステップでは、加熱した前記一対のニップロールにより前記複数本の第1繊維と前記複数の樹脂粒状物とを加熱してもよい。これにより、複数本の第1繊維と前記複数の樹脂粒状物とを加熱する加熱装置をニップロールに兼ねさせることができる。よって、製造装置の簡素化を図れる。
【0013】
或いは、前記第1処理ステップでは、前記複数本の第1繊維をプレス装置により押圧することで、前記複数の樹脂粒状物を添着された前記第1繊維に対して前記外力を付与してもよい。また前記第1処理ステップでは、加熱した前記プレス装置により前記複数本の第1繊維と前記複数の樹脂粒状物とを加熱してもよい。
【0014】
前記第1処理ステップでの前記複数本の第1繊維と前記複数の樹脂粒状物との加熱温度を、前記第1繊維のガラス転移温度以上の温度としてもよい。また、前記第1処理ステップでの前記複数本の第1繊維と前記複数の樹脂粒状物との加熱温度を50℃以上200℃以下の範囲の温度としてもよい。
【0015】
前記添着ステップでは、前記複数の樹脂粒状物が分散された分散液を用いてもよい。分散液を用いると分散液の流動性により、第1繊維の表面の広い範囲に複数の樹脂粒状物を添着し易くできる。
【0016】
前記分散液として、前記複数の樹脂粒状物を水に分散させた水分散液を用いてもよい。これにより、分散液を比較的安価に製造できる。また、分散液を扱い易くすることができる。
【0017】
前記添着ステップでは、前記第1処理ステップにおいて前記第1繊維から脱離した前記分散液を再利用してもよい。これにより、繊維物品の製造コストを更に低減し易くすることができる。
【0018】
前記第1処理ステップでは、前記複数の樹脂粒状物を添着された前記複数本の第1繊維に対し、0.05MPa以上の値に設定された前記外力を付与してもよい。これにより、複数の樹脂粒状物に十分な前記外力を付与し、第2繊維を形成し易くできる。
【0019】
前記添着ステップでは、ラメラ構造を有する前記複数の樹脂粒状物を用いてもよい。これにより、第2処理ステップにおいて、複数の樹脂粒状物から第2繊維を形成し易くできる。
【0020】
前記第2処理ステップでは、前記第1繊維の総重量W1と、前記第2繊維及び残留する前記樹脂粒状物を合わせた総重量W2との重量比W1/W2が3.00以上200.00以下の範囲の値に設定された前記繊維複合体を形成してもよい。これにより、第1繊維に第2繊維を安定して担持させ、第2繊維の機能を発揮させ易くすることができる。
【0021】
前記添着ステップでは、外径が5μm以上50μm以下の範囲の値に設定された前記第1繊維を用いてもよい。これにより、繊維物品の設計自由度を向上できる。
【0022】
前記添着ステップでは、レーヨン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、及びセルロースアセテートのうちの少なくとも1つを含有する前記第1繊維を用いてもよい。また前記添着ステップでは、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びポリアミドのうちの少なくとも1つを含有する前記樹脂粒状物を用いてもよい。
【0023】
上記方法によれば、第1繊維と第2繊維とを含有する繊維物品を効率よく製造できる。また、それぞれ特定の材料を含有する第1繊維と第2繊維とを組み合わせることで、第1繊維と第2繊維との各機能を発揮し易くさせることができる。
【発明の効果】
【0024】
本開示の各態様によれば、外径が異なる種類の繊維を組み合わせた繊維物品を製造する場合において、高機能を有する嵩高な繊維物品を効率よく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第1実施形態に係るトウバンド製造装置の概略図である。
図2図1のトウバンド製造装置により製造されたトウバンドの模式的な断面図である。
図3】第1実施形態に係る繊維物品製造装置の概略図である。
図4図3の加熱ニップロール対で熱圧着されたトウバンドの模式的な断面図である。
図5図3の繊維物品製造装置により製造された繊維複合体(繊維物品)の断面図である。
図6】第2実施形態に係る繊維物品製造装置の概略図である。
図7】第3実施形態に係る繊維物品製造装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、各実施形態について図を参照して説明する。
(第1実施形態)
第1実施形態の繊維物品の製造方法は、以下の添着ステップ、第1処理ステップ、及び第2処理ステップを有する。添着ステップでは、繊維化可能な高分子を含有する複数の樹脂粒状物を、複数本の第1繊維に添着する。第1処理ステップでは、前記複数の樹脂粒状物を添着された前記複数本の第1繊維に対し、前記複数本の第1繊維と前記複数の樹脂粒状物とを加熱しながら繊維間隙が縮小するように外力を付与する。第2処理ステップでは、前記外力を緩和することにより、前記複数の樹脂粒状物から、外径が前記第1繊維よりも小さく且つ30nm以上1.0μm以下の範囲の値に設定された第2繊維を形成する。また第2処理ステップでは、前記第1繊維と前記第2繊維とを含有する繊維複合体を形成する。第1及び第2処理ステップを実行するために、この実施形態では、一例として、加熱されたニップロール対が使用される。この製造方法に用いるトウバンド製造装置及び繊維物品製造装置について説明する。
【0027】
[トウバンド製造装置]
図1は、第1実施形態に係るトウバンド製造装置1の全体図である。図1に示すトウバンド製造装置1は、乾式紡糸法により、第1繊維であるフィラメント61を紡糸する。またトウバンド製造装置1は、複数本のフィラメント61により、ヤーン62、エンド63、及びトウバンド64を製造する。フィラメント61の原料は、適宜選択可能である。フィラメント61は、一例として、レーヨン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、及びセルロースアセテートのうちの少なくとも1つを含有する。本実施形態のフィラメント61は、セルロースアセテートを含有する。
【0028】
トウバンド製造装置1は、混合装置2、濾過装置3、紡糸ユニット4、分散液添着ユニット5、油剤添着ユニット6、ガイドロールR1、搬送ロール対7、捲縮装置10、及び乾燥装置11を備える。トウバンド製造装置1に用いられる紡糸原液60は、一例として、セルロースジアセテート等のフレークを有機溶媒に溶解して調製される。トウバンド製造装置1の駆動時には、紡糸原液60は、混合装置2により混合された後、濾過装置3により濾過される。濾過装置3を通過した紡糸原液60は、紡糸ユニット4の紡糸筒14上に備えられた紡糸口金15が有する複数の紡糸孔15aから吐出される。
【0029】
紡糸孔15aは、周縁形状が所定形状(一例として円形)に形成されている。紡糸孔15aの直径は、例えば、製造後のフィラメント61の単繊度(FD)に合わせて適宜設定される。各紡糸孔15aから吐出された紡糸原液60は、不図示の乾燥ユニットから紡糸筒14内に供給される熱風により加熱されて有機溶媒が蒸発することで乾燥する。これにより、複数本の第1繊維(フィラメント61)が形成される。なお、フィラメント61の紡糸法は限定されず、乾式紡糸法以外の方法(例えば溶融紡糸法、湿式紡糸法)であってもよい。フィラメント61の紡糸法は、トウバンド64が適切に得られる方法であればよい。
【0030】
図1に示すように、1つの紡糸筒14を通過した複数本のフィラメント61は、分散液添着ユニット5により分散液を添着される。分散液添着ユニット5は、樹脂粒状物66を含有する分散液をフィラメント61に添着する。一例として、分散液添着ユニット5は、分散液を貯留する貯留部と、貯留部内の分散液を周面に付着させてフィラメント61に添着するように軸支された添着ロールとを有する。本実施形態の分散液は、複数の樹脂粒状物66を水に分散させた水分散液である。分散液は、水以外の液体を含有していてもよい。これにより、分散液を比較的安価に製造できる。また、分散液を扱い易くすることができる。
【0031】
樹脂粒状物66は、ラメラ構造を内包する。ここで言うラメラ構造とは、樹脂粒状物66の樹脂を構成する高分子鎖が、連なり且つ折り畳まれた構造を指す。樹脂粒状物66が内包するラメラ構造は、具体的にはこの高分子鎖が数百万単位でリボン状に連なって形成された微細繊維である。樹脂粒状物66の内部には、この微細繊維が折り畳まれて収納されている。
【0032】
樹脂粒状物66は一次粒子である。複数の樹脂粒状物66が、互いに結合することで二次粒子が構成される。樹脂粒状物66同士が引き離されるように、この二次粒子(言い換えると2つの結合した樹脂粒状物66)に外力が付与されると、樹脂粒状物66内から微細繊維が引き出され、樹脂粒状物66から樹脂繊維66aが形成される。本実施形態の分散液には、複数の樹脂粒状物66からなる一次粒子が、溶媒中に分散した状態で含まれている。分散液添着ユニット5が分散液をフィラメント61に添着することで、複数の樹脂粒状物66が、フィラメント61の表面に分散して添着される。フィラメント61の表面には、一例として、複数の樹脂粒状物66の二次粒子が添着される。
【0033】
後述するように、このように複数の樹脂粒状物66を添着された複数本のフィラメント61に対し、複数本のフィラメント61と複数の樹脂粒状物66とを加熱しながら繊維間隙が縮小するように外力が付与されることで、異なるフィラメント61の表面に添着した複数の樹脂粒状物66同士が接着される。また、複数本のフィラメント61に付与した前記外力が緩和されることで、接着した樹脂粒状物66同士が離隔される。これにより、樹脂繊維66aが形成される(図2、4、及び5参照)。
【0034】
本実施形態の樹脂粒状物66は、例えば、重合反応により生成され、ラメラ構造を内包するものであればよい。樹脂粒状物66は、一例として、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びポリアミドのうちの少なくとも1つを含有する。本実施形態の樹脂粒状物66は、PTFEを含有する。
【0035】
樹脂粒状物66は、ここでは平均粒径が100nm以上100μm以下の範囲の値(一例として約300nm)に設定されている。この平均粒径は、一例として、200nm以上700nm以下の範囲の値がより好ましく、250nm以上400nm以下の範囲の値が一層好ましい。なお平均粒径とは、動的光散乱法による測定結果から算出されるメディアン径(累積50%径(D50))を指す。樹脂粒状物66は、一例として、ペースト押出成形により成形されている。
【0036】
分散液添着ユニット5を通過した複数本のフィラメント61は、油剤添着ユニット6により繊維油剤を添着される。油剤添着ユニット6を通過した複数本のフィラメント61は、ガイド部材である複数のガイドロールR1により案内され、且つ、集束されてヤーン62となる。ヤーン62は、所定の搬送方向Pに搬送される。複数のヤーン62は、搬送方向Pに搬送されながら、適宜集積又は積層される。これにより、複数のヤーン62が収束されて、ヤーン62の偏平な集合体であるエンド(トウ)63が形成される。エンド63は、複数のヤーン62を収束して所定の総繊度(TD)に設定したものである。エンド63は、一対の搬送ロール8、9を有する搬送ロール対7により搬送されて捲縮装置10へ搬送される。
【0037】
捲縮装置10は、フィラメント61を捲縮する。一例として、捲縮装置10は、一対のニップロールN1,N2と、スタッフィングボックス18とを有する。一対のニップロールN1,N2は、互いの回転軸が平行に配置されている。一対のニップロールN1,N2は、互いの周面でエンド63を押圧する。
【0038】
スタッフィングボックス18は、一対のニップロールN1,N2よりも搬送方向Pの後方に配置されている。スタッフィングボックス18は、搬送方向Pに延びる板面を有する一対の板材C1,C2と、付勢部材12とを有する。一対の板材C1,C2は、互いの板面を間隙Gをおいて対向させ、且つ、間隙Gが、搬送方向Pにおけるスタッフィングボックス18の前方から後方に向けて減少するように配置されている。間隙G内には、一対のニップロールN1,N2を通過したエンド63(複数本のフィラメント61)が搬送される。
【0039】
付勢部材12は、一例として板材であり、板材C1の板面に沿って、搬送方向Pに垂直な方向に延びている。付勢部材12は、その搬送方向Pの前端が、板材C1の板面に沿った搬送方向Pに垂直な方向に延びる軸線Q周りに回転自在に板材C1に軸支されている。付勢部材12は、板材C2の板面に向けて付勢され、一対の板材C1,C2の間を搬送されるエンド63を押圧する。
【0040】
エンド63は、一対のニップロールN1,N2の間において一対のニップロールN1,N2により押圧される。その後エンド63は、スタッフィングボックス18の内部に押し込まれる。エンド63は、板材C1,C2の板面の間で蛇行して搬送されながら、付勢部材12により、板材C2の板面に押圧される。エンド63が板材C1,C2と付勢部材12とから受ける力よりも大きな力で、エンド63が一対のニップロールN1,N2によりスタッフィングボックス18内に押し込まれることで、エンド63に捲縮が付与される。エンド63が捲縮装置10を通過することで、シート状に加工されたトウバンド64が形成される。
【0041】
一例として捲縮装置10では、フィラメント61を適切に捲縮し、且つ、フィラメント61からの分散液の脱落量を低減するために、一対のニップロールN1,N2のニップ圧が適切な圧力範囲の値に設定される。捲縮装置10を通過したトウバンド64は、乾燥装置11により乾燥される。
【0042】
図2は、図1のトウバンド製造装置1により製造されたトウバンド64の模式的な断面図である。図2に示すように、トウバンド64は、捲縮された複数本のフィラメント61と、トウバンド64の内部に分散し且つフィラメント61に担持された複数の樹脂粒状物66とを有する。複数のフィラメント61の間には、繊維間隙が存在する。フィラメント61の表面は、複数の樹脂粒状物66により部分的に覆われている。複数の樹脂粒状物66は、一例として、互いに結合した二次粒子の状態でフィラメント61に担持されている。トウバンド64は、捲縮されたフィラメント61により嵩高に形成されている。
【0043】
トウバンド64のTDとFDとは、適宜設定可能である。一例として、トウバンド64のFDは、1.0以上10.0以下の範囲の値に設定されている。例えば、フィラメント61の適度な強度を保持しつつ、適切に繊維間隙を確保する観点から、トウバンド64のFDは、更に2.0以上6.0以下の範囲の値に設定されていることが望ましい。図1に示すように、本実施形態では、乾燥装置11を通過したシート状のトウバンド64は、集積された後に梱包容器19に圧縮梱包されてベール状となる。図1の梱包容器19は、断面構造を示している。
【0044】
[樹脂粒状物66の材料として用いられるPTFE]
次に、樹脂粒状物66の材料として用いられるPTFEについて説明する。このPTFEは、繊維化可能な高分子として構成されている。このようなPTFEは、例えばTFE(テトラフルオロエチレン)の乳化重合、又は懸濁重合から得られた高分子量PTFEである。高分子量PTFEは、変性PTFE及びホモPTFEのうち少なくともいずれかであってもよい。
【0045】
変性PTFEとは、TFEと、TFE以外のモノマー(変性モノマー)とを含む。変性PTFEは、変性モノマーにより均一に変性されたもの、重合反応の初期又は終期に変性されたものが一般的であるが、特に限定されない。変性PTFEは、TFEに基づくTFE単位と、変性モノマーに基づく変性モノマー単位とを含有する。
【0046】
また変性モノマー単位とは、変性PTFEの分子構造の一部であり、変性モノマーに由来する部分である。全単量体単位とは、変性PTFEの分子構造における全ての単量体に由来する。変性モノマーは、TFEとの共重合が可能なものであれば、特に限定されない。
【0047】
ここで言う高分子量PTFEの「高分子量」とは、トウバンド64の製造時に繊維化し易く、繊維長の長いフィブリルが得られる分子量であって、標準比重(SSG)が、2.130以上2.230以下の範囲の値であり、溶融粘度が高いために実質的に溶融流動しない分子量を指す。なお繊維化可能なPTFEについては、例えば国際公開第2013/157647号を参照できる。
【0048】
PTFEを含有する樹脂粒状物66により樹脂繊維66aを形成する場合、樹脂粒状物66を加熱することにより、樹脂繊維66aの伸び性が向上する。樹脂繊維66aの伸び性がよいと、樹脂粒状物66から樹脂繊維66aを形成する際に、樹脂繊維66aの切断が起きにくくなる。このため、樹脂繊維66aの発現性が向上する。
【0049】
[繊維物品製造装置]
図3は、第1実施形態に係る繊維物品製造装置20の全体図である。図3の梱包容器19は、断面構造を示している。図3に示すように、繊維物品製造装置20は、一例として、収束リング21、第1開繊ユニット22、ターンバッフル23、第2開繊ユニット24、プレテンションロール対25、第1開繊ロール対26、第2開繊ロール対27、第3開繊ユニット28、加熱ニップロール対29、搬送ロール対30、及び巻取ロール31を備える。
【0050】
収束リング21とターンバッフル23とは、梱包容器19内から繰り上げられたベール状のトウバンド64を第1開繊ユニット22側に案内する。第1開繊ユニット22、第2開繊ユニット24、及び第3開繊ユニット28は、気体(一例として加圧空気)により、トウバンド64をその幅方向に開繊する。プレテンションロール対25、第1開繊ロール対26、及び第2開繊ロール対27は、トウバンド64に対して搬送方向Pに張力を付与した状態で、トウバンド64を幅方向と搬送方向Pとに開繊する。
【0051】
プレテンションロール対25は、周面を対向して配置された一対のロール32、33を有する。第1開繊ロール対26は、周面を対向して配置された一対のロール34、35を有する。第2開繊ロール対27は、周面を対向して配置された一対のロール36、37を有する。ロール34~37の周面は、一例として、周方向に延びる溝が形成され、トウバンド64を開繊し易いように構成されている。
【0052】
加熱ニップロール対29は、周面を対向して配置された一対のロールN3,N4を有する。加熱ニップロール対29は、トウバンド64中の複数の樹脂粒状物66を添着された複数本のフィラメント61に対し、複数本のフィラメント61と複数の樹脂粒状物66とを加熱しながら繊維間隙が縮小するように外力を付与する。
【0053】
搬送ロール対30は、周面を対向して配置された一対のロール38、39を有する。搬送ロール対30は、加熱ニップロール対29を通過したトウバンド64を巻取ロール31側へ搬送する。巻取ロール31は、搬送ロール対30を通過したトウバンド64を巻き取る。
【0054】
繊維物品製造装置20の駆動時には、梱包容器19内から繰り上げられたトウバンド64が、収束リング21に挿通された後、第1開繊ユニット22により幅方向に開繊される。その後トウバンド64は、ターンバッフル23により第2開繊ユニット24側に案内される。
【0055】
次にトウバンド64は、第2開繊ユニット24により更に幅方向に開繊される。その後トウバンド64は、ロール32、33間、ロール34、35間、及びロール36、37間に順に挿通される。トウバンド64は、ロール32~37と接触する。一対のロール36、37の回転速度は、一対のロール34、35の回転速度よりも速い。これによりトウバンド64は、第1開繊ロール対26と第2開繊ロール対27とにより、搬送方向Pに張力を付与されながら、搬送方向Pと幅方向とに嵩高く開繊される。
【0056】
ここで図4は、図3の加熱ニップロール対29で熱圧着されたトウバンド64の模式的な断面図である。図5は、図3の繊維物品製造装置20により製造された繊維複合体67(繊維物品65)の断面図である。第2開繊ロール対27を通過した開繊されたトウバンド64は、加熱ニップロール対29のニップ点N5に導入される。
【0057】
図4及び5に示すように、トウバンド64が加熱ニップロール対29を通過する際、複数の樹脂粒状物66を添着された複数本のフィラメント61に対し、複数本のフィラメント61と複数の樹脂粒状物66とを加熱しながら繊維間隙が縮小するように、外力としてニップ圧が付与される。これにより複数本のフィラメント61は、繊維間隙が縮小し、フィラメント61に添着された複数の樹脂粒状物66が互いに接着されて樹脂粒状物66の高次粒子が形成される。その後、フィラメント61がニップ点N5を通過することで、外力が緩和される。
【0058】
この外力の緩和の際、異なるフィラメント61の間で互いに接着している樹脂粒状物66同士を引き離すように、樹脂粒状物66に対して張力が付与される。これにより、樹脂粒状物66中に折り畳まれていた微細繊維が引き伸ばされ、異なる複数本のフィラメント61の間を橋掛けするように樹脂繊維66aが形成される。結果として、フィラメント61と樹脂繊維66aとを含有する繊維複合体67が形成される。このように本実施形態では、加熱ニップロール対29を用いることで、樹脂繊維66a及び繊維複合体67を比較的容易に形成できる。
【0059】
なお、本実施形態では加熱ニップロール対29を用いて樹脂繊維66aを形成したが、加熱ニップロール対29とは別個の加熱装置を用いて、複数本のフィラメント61と樹脂粒状物66とを加熱して樹脂繊維66aを形成してもよい。また、ニップロール以外のものを用いて、複数本のフィラメント61に対して前記外力を付与してもよい。従って例えば、複数本のフィラメント61と複数の樹脂粒状物66とを加熱しながら、複数の樹脂粒状物66を添着された複数本のフィラメント61に対し、第1開繊ロール対26及び第2開繊ロール対27の少なくともいずれかよりニップ圧を前記外力として付与することでも樹脂繊維66aを形成できる。
【0060】
樹脂繊維66aの外径は、例えば、樹脂粒状物66に作用させる前記張力の大きさにより調整できる。例えば、前記張力を増大させると、樹脂繊維66aの外径を小さく設定でき、且つ、樹脂繊維66aの長さ寸法を長く設定できる。前記張力を低減すると、樹脂繊維66aの外径を大きく設定でき、且つ、樹脂繊維66aの長さ寸法を短く設定できる。このような調整により、本実施形態では、樹脂繊維66aの外径を30nm以上1.0μm以下の範囲の値に設定できる。
【0061】
加熱ニップロール対29を通過した繊維複合体67は、搬送ロール対30により搬送されて巻取ロール31に巻き取られる。繊維複合体67を例えば所定寸法に切断することで、繊維物品65が製造される。樹脂繊維66aは、繊維物品65の内部でフィラメント61と絡み合いながらフィラメント61に担持されている。このため、樹脂繊維66aがフィラメント61に比べて大幅に細い場合でも、樹脂繊維66aの切断を防止しながら樹脂繊維66aをフィラメント61で担持できる。よって、樹脂繊維66aが有する機能を長期間にわたり維持できる。樹脂繊維66aは、トウバンド64の内部全体に拡散するように配置されている。なお繊維物品65中の樹脂粒状物66は、樹脂繊維66aの形成に伴い、場合によっては縮小し又は消失する。
【0062】
繊維物品65は、内部に豊富な繊維間隙を有する状態で、開繊された複数本のフィラメント61により嵩高く形成されている。このため繊維物品65は、例えばふんわりとした良好な触感を有する。繊維物品65は、一例としてシート状である。なお繊維物品65は、シート状の複数の繊維複合体67を重ねて圧着することにより形成されてもよい。この場合、例えば、繊維複合体67の枚数を変更することにより繊維物品65の厚み寸法を設計し易くできる。また繊維物品65は、シート状の複数の繊維複合体67を幅方向に並べて形成されてもよい。この場合、例えば、繊維複合体67の枚数を調節することにより繊維物品65の幅寸法を設計し易くできる。
【0063】
樹脂繊維66aを形成するために複数のフィラメント61に対して付与される外力の値は、適宜設定可能であるが、例えば、0.05MPa以上の値を例示できる。繊維物品65を濾過部材用途で用いる場合、複数のフィラメント61に対して付与される外力の値は、例えば0.10Mpa以上の値であることが、良好な濾過性能を得る上で望ましい。なお外力の上限値は、例えば数十MPa以上の値であってもよい。
【0064】
また樹脂繊維66aを形成するために複数のフィラメント61と複数の樹脂粒状物66とを加熱する加熱温度は、適宜設定可能であるが、例えば50℃以上200℃以下の範囲の温度を例示できる。この加熱温度は、例えば樹脂粒状物66又は樹脂繊維66aの特性に基づいて設定できる。
【0065】
この加熱温度は、例えば、フィラメント61のガラス転移温度(Tg)以上の温度に設定することもできる。このような加熱温度で複数本のフィラメント61と樹脂粒状物66とを加熱してフィラメント61に前記外力を付与した場合、前記外力を緩和した後も、複数本のフィラメント61の前記外力により圧縮された状態をある程度保持できる。これにより、繊維物品65の嵩高さを任意の厚み高さに設定し易くできる。一例として、フィラメント61がセルロースアセテート繊維である場合、フィラメント61のガラス転移温度は、例えば、室温20℃且つ湿度65%において70℃である。よって、前記加熱温度を70℃以上とすることで、例えば、嵩高さの小さいシート状の繊維物品65を効率よく製造できる。また前記加熱温度は、例えば、フィラメント61及び樹脂粒状物66の各材料の融点未満、もしくは、前記各材料の分解温度未満であってもよい。
【0066】
以上のように、繊維物品65は、トウバンド製造装置1と繊維物品製造装置20とを用いた製造方法により製造される。この製造方法は、添着ステップ、第1処理ステップ、及び第2処理ステップを有する。
【0067】
添着ステップは、繊維化可能な高分子を含有する複数の樹脂粒状物66を複数本のフィラメント61に添着するステップである。本実施形態の添着ステップでは、ラメラ構造を内包し且つ互いに結合した複数の樹脂粒状物66を含有する分散液を複数本のフィラメント61に添着する。第1処理ステップは、複数の樹脂粒状物66を添着された複数本のフィラメント61に対し、複数本のフィラメント61と複数の樹脂粒状物66とを加熱しながら繊維間隙が縮小するように外力を付与するステップである。
【0068】
また本実施形態の製造方法は、複数本のフィラメント61をシート状に加工する加工ステップを更に有する。また一例として、第1処理ステップでは、複数本のフィラメント61を一対のニップロールにより押圧することで、複数の樹脂粒状物66を添着されたフィラメント61に対して前記外力を付与する。更に一例として、第1処理ステップでは、加熱ニップロール対29により複数本のフィラメント61と複数の樹脂粒状物66とを加熱する。
【0069】
また本実施形態の第1処理ステップでは、一例として、複数の樹脂粒状物66を添着された複数本のフィラメント61に対し、0.05MPa以上の値に設定された前記外力を付与する。このニップ圧は、一例として、加熱ニップロール対29により付与される。また本実施形態では、一例として、第1処理ステップにおいてフィラメント61から脱離した分散液を回収し、回収した分散液を添着ステップで用いる。
【0070】
また繊維複合体67において、フィラメント61の総重量W1と、樹脂繊維66a及び残留する樹脂粒状物66を合わせた総重量W2との重量比W1/W2は、適宜設定が可能である。本実施形態の第2処理ステップでは、一例として、重量比W1/W2が3.00以上200.00以下の範囲の値に設定された繊維複合体67を形成する。これにより繊維物品65では、フィラメント61に樹脂繊維66aを安定して担持させ、樹脂繊維66aの機能を発揮させ易くすることができる。
【0071】
また添着ステップでは、外径が5μm以上50μm以下の範囲の値に設定されたフィラメント61を用いる。これにより、第1繊維と第2繊維との外径差を大きくし、繊維物品65の設計自由度を向上できる。
【0072】
なお、重量比W1/W2を上記範囲の値に設定することで、フィラメント61(第1繊維)の総体積V1と、樹脂繊維66a(第2繊維)及び残留する樹脂粒状物66を合わせた総体積V2との体積比V1/V2は、最大値が124.0以下となる。これにより、繊維物品65の内部に繊維間隙を適切に確保しつつ、フィラメント61により樹脂繊維66aを安定して保持しながら、樹脂繊維66aの機能を発揮させ易くできる。
【0073】
また、フィラメント61の長さ寸法と、樹脂繊維66aの長さ寸法とは、適宜設定が可能である。本実施形態の第2処理ステップでは、フィラメント61の長さ寸法が、樹脂繊維66aの長さ寸法よりも長い繊維複合体67を形成する。これにより、例えば、フィラメント61を繊維物品65の骨格として用い、フィラメント61に樹脂繊維66aを担持させて、樹脂繊維66aの機能を安定して発揮させることができる。
【0074】
以上説明したように、本実施形態の製造方法によれば、上記各ステップを行うことで、外径が30nm以上1.0μm以下の範囲の値に設定された極細の樹脂繊維66aと、外径が樹脂繊維66aよりも太いフィラメント61とを含有する嵩高な繊維物品65を製造できる。また、極細の樹脂繊維66aをフィラメント61と組み合わせ、樹脂繊維66aをフィラメント61で支持するので、例えば樹脂繊維66aのみで繊維物品を製造した場合に比べて嵩高な繊維物品65を製造できる。そして、長期にわたり樹脂繊維66aの機能を発揮可能な高機能を有する繊維物品65を製造できる。また例えば、フィラメント61に分散して添着した複数の樹脂粒状物66により樹脂繊維66aを形成することで、繊維物品65内に樹脂繊維66aを均一に分散して配置できる。よって、均一な品質を有する繊維物品65を製造できる。
【0075】
また、上記各ステップを行うことで、例えば繊維物品65を単一の搬送設備で効率よく連続的に製造できる。よって、製造工程を簡素化して、繊維物品65の製造コストを低減できる。結果として、高機能を有する嵩高な繊維物品65を効率よく製造できる。また本実施形態によれば、従来は両立が困難であった、良好な嵩高さと空隙率とを併せ持つ繊維物品65を比較的簡易且つ効率よく製造できる。更に、従来は安定した量産が困難であった、外径が1.0μm以下の極細繊維を含み且つ嵩高い繊維物品65を良好に製造できる。また本実施形態の製造方法は、複数本のフィラメント61をシート状に加工する加工ステップを有する。これにより、フィラメント61及び樹脂繊維66aを含有するシート状の繊維物品65を効率よく製造できる。
【0076】
また本実施形態の第1処理ステップでは、一例として、複数本のフィラメント61を加熱ニップロール対29により押圧することで、複数の樹脂粒状物66を添着されたフィラメント61に対して前記外力を付与する。これにより、第1処理ステップにおいて、フィラメント61に外力を効率よく付与できる。
【0077】
また第1処理ステップでは、加熱ニップロール対29により複数本のフィラメント61と複数の樹脂粒状物66とを加熱する。これにより、複数本のフィラメント61と複数の樹脂粒状物66とを加熱する加熱装置を加熱ニップロール対29に兼ねさせることができる。よって、繊維物品製造装置の簡素化を図れる。また本実施形態では、第1処理ステップでの複数本のフィラメント61と複数の樹脂粒状物66との加熱温度を50℃以上200℃以下の範囲の温度とする。
【0078】
また添着ステップでは、一例として、複数の樹脂粒状物66が分散された分散液を用いる。分散液を用いると、分散液の流動性により、フィラメント61の表面の広い範囲に複数の樹脂粒状物66を添着し易くできる。また本実施形態の添着ステップでは、第1処理ステップにおいてフィラメント61から脱離した分散液を再利用する。これにより、繊維物品65の製造コストを更に低減し易くすることができる。
【0079】
また一例として、第1処理ステップでは、複数の樹脂粒状物66を添着され複数本のフィラメント61に対し、0.05MPa以上の値に設定された前記外力を付与する。これにより、複数の樹脂粒状物66に十分な前記外力を付与し、樹脂繊維66aを形成し易くできる。
【0080】
また本実施形態の添着ステップでは、ラメラ構造を有する複数の樹脂粒状物66を用いる。これにより、第2処理ステップにおいて、複数の樹脂粒状物66から樹脂繊維66aを形成し易くできる。
【0081】
また第2処理ステップでは、重量比W1/W2が3.00以上200.00以下の範囲の値に設定された繊維複合体67を形成する。これにより、フィラメント61に樹脂繊維66aを安定して担持させ、樹脂繊維66aの機能を発揮させ易くすることができる。また添着ステップでは、一例として、外径が5μm以上50μm以下の範囲の値に設定されたフィラメント61を用いる。これにより、フィラメント61と樹脂繊維66aとの外径差を大きくし、繊維物品65の設計自由度を向上できる。
【0082】
また本実施形態の添着ステップでは、レーヨン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、及びセルロースアセテートのうちの少なくとも1つを含有するフィラメント61を用いる。また本実施形態の添着ステップでは、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びポリアミドのうちの少なくとも1つを含有する樹脂粒状物66を用いる。
【0083】
上記方法によれば、フィラメント61と樹脂繊維66aとを含有する繊維物品65を効率よく製造できる。また、それぞれ特定の材料を含有するフィラメント61と樹脂繊維66aとを組み合わせることで、フィラメント61と樹脂繊維66aとの各機能を発揮し易くさせることができる。
【0084】
なお本実施形態では、トウバンド製造装置1により製造されたトウバンド64を梱包容器19に梱包する工程を示した。しかしながら、トウバンド64を梱包することなく繊維物品製造装置20に導入して繊維物品65を製造してもよい。また繊維物品製造装置20の構成は、上記したものに限定されない。また、添着ステップで用いる分散液として、例えば、樹脂粒状物66を比較的多く含有するスラリーを用いてもよい。
【0085】
また樹脂粒状物66は、ヤーン62又はエンド63を形成した後のフィラメント61に添着されてもよい。またトウバンド製造装置1は、分散液添着ユニット5の代わりに、粉体状の樹脂粒状物66をフィラメント61に添着する粉体添加ユニットを備えていてもよい。また複数本のフィラメント61をシート状に加工する場合、添着ステップは、複数本のフィラメント61をシート状に加工する前又は後のいずれに行ってもよい。
【0086】
次に、本実施形態の変形例を説明する。第1変形例の第1処理ステップでは、複数本のフィラメント61(例えば開繊された後の複数本のフィラメント61)をプレス装置により押圧することで、複数の樹脂粒状物66を添着されたフィラメント61に対して前記外力を付与する。また第2変形例の第1処理ステップでは、更に、加熱した前記プレス装置により複数本のフィラメント61と複数の樹脂粒状物66とを加熱する。これらの製造方法によっても、繊維物品65を同様に製造できる。以下、その他の実施形態について、第1実施形態との差異を中心に説明する。
【0087】
(第2実施形態)
図6は、第2実施形態に係る繊維物品製造装置120の概略図である。本実施形態では、一例として、製造されたベール状のトウバンド164(樹脂粒状物66が未添着のもの)が用いられる。図6に示すように、繊維物品製造装置120は、梱包容器19から繰り出されたトウバンド164を搬送方向Pに案内するように分散して配置された複数のガイド部材(一例としてガイドロールR2~R7)と、搬送されるトウバンド164に分散液を添着する添着ユニット105と、分散液が添着されたトウバンド164が導入される開繊ユニット124とを備える。また繊維物品製造装置120は、第1開繊ロール対26、第2開繊ロール対27、加熱装置16、及びニップロール対129を備える。ニップロール対129は、加熱装置16の中に配置されて加熱される。
【0088】
添着ユニット105の内部では、ディップコート法に基づき、トウバンド164が、ガイドロールR4、R5に案内されて分散液中に浸漬されることで分散液を添着される。添着ユニット105で分散液が添着されたトウバンド164は、開繊ユニット124、第1開繊ロール対26、及び第2開繊ロール対27により開繊される。その後トウバンド164は、加熱装置16に導入されて予熱されながら、加熱装置16により加熱されたニップロール対129を通過する。これにより第1及び第2処理ステップが行われ、樹脂繊維66aと繊維複合体167とが形成される。この繊維複合体167を例えば所定寸法に切断することで、繊維物品165が製造される。本実施形態によれば、例えば、従来方法で製造されたトウバンド164を用いて、樹脂繊維66aを含有する繊維物品165を効率よく製造できる。
【0089】
(第3実施形態)
図7は、第3実施形態に係る繊維物品製造装置220の概略図である。本実施形態では、第2実施形態と同様に、製造されたベール状のトウバンド164(樹脂粒状物66が未添着のもの)が用いられる。図7に示すように、製造装置220は、短繊維加工装置40、不織布加工装置41、及び熱プレス装置17を備える。
【0090】
短繊維加工装置40は、添着ユニット105により分散液が添着されてガイドロールR2~R8により案内されるトウバンド164のフィラメント61を切断して短繊維化する。不織布加工装置41は、短繊維加工装置40から搬出される短繊維化された複数本のフィラメント61をシート状に加工して不織布を形成する。不織布加工装置41は、例えば、公知の不織布製造方法(例えばフリース形成法又はフリース結合法等)に基づいて不織布を形成する。
【0091】
熱プレス装置17は、不織布加工装置41から搬出される不織布を加熱し且つプレスする。不織布が熱プレス装置17を通過することで、第1及び第2処理ステップが行われる。これにより、不織布を用いた繊維物品265が製造される。
【0092】
このように、本実施形態の繊維物品265の製造方法の加工ステップでは、複数本のフィラメント61により不織布を形成する。また第1処理ステップでは、複数本のフィラメント61と複数の樹脂粒状物66とを加熱し且つプレスする。即ち第1処理ステップでは、複数本のフィラメント61を熱プレス装置17により押圧することで、複数の樹脂粒状物66を添着されたフィラメント61に対して前記外力を付与する。また第1処理ステップでは、加熱した熱プレス装置17により複数本のフィラメント61と複数の樹脂粒状物66とを加熱する。これにより、フィラメント61及び樹脂繊維66aを含有する、不織布を用いた繊維物品265を効率よく製造できる。
【0093】
なお、複数本のフィラメント61と複数の樹脂粒状物66とを加熱する加熱装置と、複数本のフィラメント61を押圧することで、複数の樹脂粒状物66を添着されたフィラメント61に対して前記外力を付与するプレス装置とは、別々に構成されていてもよい。
【0094】
(確認試験)
以下の手順により確認試験を行った。第1実施形態に基づき、第1繊維であるフィラメント61をセルロースアセテートにより構成し、第2繊維である樹脂繊維66aをPTFEにより構成して製造した繊維物品65を、実施例1~3として用意した。実施例1~3では、第1処理ステップでの複数本のフィラメント61と複数の樹脂粒状物66との加熱温度を50℃以上100℃以下の範囲内で変化させた。
【0095】
また、第1繊維であるフィラメント61をセルロースアセテートにより構成し、第2繊維である樹脂繊維66aをPTFEにより構成して製造した繊維物品を、比較例1及び2として用意した。比較例1は、第1処理ステップにおいて加熱を行わないこと以外は実施例1~3と同様に設定した。比較例2は、第1処理ステップを行わないこと以外は実施例1~3と同様に設定した。
【0096】
また、第1繊維であるフィラメント61をセルロースアセテートにより構成し、フィラメント61に樹脂粒状物66を添着せず、フィラメント61を100℃に加熱して製造した繊維物品を比較例3として用意した。また、第1繊維であるフィラメント61をセルロースアセテートにより構成し、フィラメント61に樹脂粒状物66を添着せず、且つ、フィラメント61を加熱せずに製造した繊維物品を比較例4として用意した。実施例1~3及び比較例1~4では、単繊度(FD)が2であるセルロースアセテートを用い、セルロースアセテートの坪量を150g/m、PTFE粒子の添着量を約10wt%に設定した。また、加熱ニップロール対29のニップ圧を0.4MPaに設定した。
【0097】
得られた実施例1~3及び比較例1~4の繊維物品を濾過部材としたときの性能を確認するため、捕集効率(%)を測定した。この捕集効率は、粒子径が0.4μmのNaCl粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの粒子の捕集効率として測定した。試験結果を表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
表1に示すように、実施例1~3は、いずれも良好な性能を有することが確認された。比較例1及び2は、第2繊維は形成されるものの、繊維物品としての性能が実施例1~3より劣ることが確認された。比較例3及び4は、第2繊維が形成されず、捕集効率がないことが確認された。以上より、実施例1~3の優位性が確認された。
【0100】
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の趣旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。また、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。本開示の繊維物品は、当然ながら濾過部材に限定されず、その他の用途物品であってもよい。
【符号の説明】
【0101】
P 搬送方向
17 熱プレス装置(プレス装置)
29 加熱ニップロール対(一対のニップロール)
61 フィラメント(第1繊維)
64、164 トウバンド
65、165、265 繊維物品
66 樹脂粒状物
66a 樹脂繊維(第2繊維)
67、167 繊維複合体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7