(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-22
(45)【発行日】2025-01-30
(54)【発明の名称】可変ステップ数を介した駆動が意図される時計機構
(51)【国際特許分類】
G04B 19/253 20060101AFI20250123BHJP
【FI】
G04B19/253 E
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020196270
(22)【出願日】2020-11-26
【審査請求日】2023-09-04
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】520032996
【氏名又は名称】マニュファクチュール ドルロジュリー オーデマ ピゲ エスアー
【氏名又は名称原語表記】Manufacture d’Horlogerie Audemars Piguet SA
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100170597
【氏名又は名称】松村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】ジュリオ パピ
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-102793(JP,A)
【文献】特開2006-267110(JP,A)
【文献】特開2004-004094(JP,A)
【文献】実開昭53-054066(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 19/253
G04B 19/247
G04B 19/243
G04B 19/24
G04B 19/00
G04C 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計用ムーブメントの時計機構であって、
少なくとも1つの第1型の歯及び少なくとも1つの第2型の歯を有する歯の組を含む可動部と、
前記可動部の離散的な位置を画定するように前記歯の組と協働するように設計されるジャンパと、
当該時計用ムーブメントの駆動可動部によって作動するように意図されて、前記歯の組に作用して、各作動では少なくとも
一のステップ分前記可動部を動かすことを目的とする爪、を有し、
前記爪は、各作動において2ステップ分前記可動部を動かすために前記歯の組に作用できるような
反復運動長を示し、
当該時計機構は、少なくとも1つの第1状態と該第1状態とは異なる少なくとも1つの第2状態を有する補正可動部を有し、前記補正可動部は、前記第1状態と前記第2状態にそれぞれ関連する前記爪の少なくとも2つの異なる経路を画定するように、前記爪の作動中に前記爪と協働可能に設計され、
前記爪と前記補正可動部は、前記爪の作動中に、
前記爪は一のステップ分前記可動部を動かすように前記歯の組に作用し、
前記爪は、前記補正可動部が第2状態にあり、かつ、前記少なくとも1つの第2型の歯が前記爪の
反復運動長に沿って設けられているときのみ追加のステップ分前記可動部を動かすように前記歯の組に作用する、
ように設計されることを特徴とする時計機構。
【請求項2】
請求項1に記載の時計用ムーブメントの時計機構であって、
前記可動部、前記爪、及び前記補正可動部は、前記爪の
反復運動長が2つの連続する状態を有するように設計され、前記2つの連続する状態は、
前記補正可動部が第2状態にあり、かつ、前記第2型の歯が前記爪の
反復運動長に沿って設けられているときにのみ前記歯の組が
前記追加のステップ分駆動可能となる任意の駆動状態、及び、
前記少なくとも1つの第1型の歯又は前記少なくとも1つの第2型の歯のいずれかが、前記爪の反復運動長に沿って設けられる型の歯である場合には、前記補正可動部の状態に関わらず、前記歯の組は
前記一のステップ分駆動可能な系統的駆動状態、
であることを特徴とする時計機構。
【請求項3】
請求項2に記載の時計用ムーブメントの時計機構であって、
前記可動部
は、ディスクの形状であると共に枢動するように設計され、
前記歯の組は内側歯の組で、かつ、
前記可動部、前記爪、及び前記補正可動部は、前記任意の駆動状態が前記系統的駆動状態前に起こるように設計される、
時計機構。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の時計用ムーブメントの時計機構であって、
前記少なくとも1つの第1型の歯の各々は、前記爪と協働するように意図されて、前記少なくとも1つの第2型の歯の作用歯面とは異なる作用歯面を有し、それにより、前記任意の駆動状態における前記爪と前記歯の組との協働が、前記補正可動部が第2状態にある場合に、前記第2型の歯が前記爪の
反復運動長に沿って設けられているときにのみ前記ジャンパの作用を克服するのに十分な前記可動部を駆動する力を生じさせる、
時計機構。
【請求項5】
請求項4に記載の時計用ムーブメントの時計機構であって、
前記可動部は、ディスクの形状であると共に枢動するように設計され、
前記少なくとも1つの第1型の歯の前記作用歯面は、前記歯の組の底部から
半径方向に沿って、前記半径方向に
関して第1平均傾斜を有する第1部分、及び、前記半径方向に
関して前記第1平均傾斜よりも大きな第2平均傾斜を有する第2部分を備え、かつ、
前記第2型の歯の前記作用歯面は前記第2平均傾斜よりも小さな前記半径方向に第3平均傾斜を有する、
ことを特徴とする時計機構。
【請求項6】
請求項5に記載の時計用ムーブメントの時計機構であって、前記第2平均傾斜は前記半径方向に実質的に30°~85
°である、時計機構。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の時計用ムーブメントの時計機構であって、前記第1平均傾斜は前記半径方向に実質的に0°~25°
である、時計機構。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか一項に記載の時計用ムーブメントの時計機構であって、前記第3平均傾斜は前記半径方向に実質的に0°~25°
である、時計機構。
【請求項9】
請求項2~8のいずれか一項に記載の時計用ムーブメントの時計機構であって、
前記補正可動部は、前記爪の経路を調節可能にするため、前記任意の駆動状態中に前記
爪が周辺部に抗するように接した状態が維持されるカムを有し、
前記カムの周辺部は少なくともそれぞれ異なる第1半径と第2半径を有し、
前記第1半径と前記第2半径は、前記補正可動部の前記第1状態と前記第
2状態にそれぞれ関連する、
ことを特徴とする時計機構。
【請求項10】
請求項9に記載の時計用ムーブメントの時計機構であって、前記補正可動部は、前記カムの角度方位を調節するため、前記可動部の歯のうち他の歯よりも長い少なくとも1つの突出歯と協働することを意図した歯の組を有する、時計機構。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の時計用ムーブメントの時計機構であって、
前記可動部が、日付表示可動部に固定されるか、あるいは、前記日付表示可動部を駆動し、
前記可動部の前記歯の組は30の前記第1型の歯及び1つの前記第2型の歯を有し、
前記爪は、1つ又は2つのステップ分前記可動部を動かすため、1日に一度作動することが意図され、
前記補正可動部は、各モーメントで所与の月に関連する角度方位が各モーメントで一の月から次の月へ通過するように設計される月可動部である、
ことを特徴とする時計機構。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の時計機構を有する時計用ムーブメント。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか一項に記載の時計機構を有する時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計用ムーブメントの時計機構に関する。当該時計機構は、少なくとも1つの第1型の歯及び少なくとも1つの第2型の歯を有する歯の組(toothset)を含む可動部と、前記可動部の離散的な位置を画定するように前記歯の組と協働するように設計されるジャンパと、当該時計用ムーブメントの駆動可動部によって作動するように意図されて、前記歯の組に作用して、各作動では少なくとも1つのステップ分前記可動部を動かすことを目的とする爪を有する。
【0002】
好適実施形態によると、当該時計機構は、年での日付表示機構又はパーペチュアル日付表示機構の形式をとってよい。
【背景技術】
【0003】
そのような時計機構は、様々な種類の応用―特に表示機構―に関して従来技術において長い間知られてきた。
【0004】
よってたとえば、特許文献1は、上記特徴を備える年での日付表示又はパーペチュアル日付表示機構をについて例示及び説明している。より詳細にはその機構は、日付を示す腕部と、第1型である30の歯と第2型である1つの歯を有する日付ホイールを備える。日付ホイールは、日付の表示を増大させるため、1日に1回作動爪の第1ビークによって駆動される。作動爪は、日付ホイールの歯の組に関して、31日未満の月の終わりに第2型である歯と協働できるような形状の第2ビークを備える。作動爪は、閏年を考慮するため4年に1巻を実行するように駆動される月ホイールに関連付けられる。この月ホイール48の切り欠きを有し、切り欠きの各々は所与の月に対応し、切り欠きの深さは、対応する月の長さに依存する。作動爪は、現在の月の長さに依存して作動爪の開始位置の定めるために月ホイールの切り欠きと協働するように意図された感触器を備える。切り欠きの構成は、月が短くなればなるほど対応する切り欠きは深くなり、かつ、作動爪の第2ビークは月内で第2型である歯とすぐに協働できる一方で、より多くのステップ数によって日付ホイールを回転させるようになされる。第2ビークはまた、31日の月の終わりでは日付ホイールを駆動しないような形状である。よって上記の説明から、作動爪は、2月が28日の間―つまり最も長い作動爪の進行を画定するために感触器が月のホイールの最も深い切り欠きと係合するとき―のみ全部が通過するような単一の経路を有することで、4つのステップによって日付ホイールを進めることを可能にすることは明らかである。反復運動長は29日ある2月の間では、日付ホイールが3つのステップ分だけ駆動するように減少する。他方反復運動長は30日及び31日ある月の間にははるかに減少する。全経路の一部のみに対応する28日よりも多い月の間の作動爪の経路は28日ある2月の間に通過した。
【0005】
そのような設計は、作動爪の最大可能反復運動長を考慮するために月ホイールの直径を相対的に大きくすることを必要とする。これは、対応する時計用ムーブメントにおいて利用可能な空間に依存して常に望ましいとは限らない。しかも日付ホイールを駆動するこの機構が適切に動作することを保証するため、この機構の部品の製造とその組み立てのいずれにとっても高い精度が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】欧州特許第3026504B1号公報
【文献】中国特許第713288A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決すべき課題】
【0007】
本発明の主目的は、既に知られているこの型の機構と比較してより小型の代替設計を有する時計機構を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するため、本発明はより詳細には、上述の型の時計機構に関する。当該時計機構は以下の特徴を有する。前記爪は、各作動において2ステップ分前記可動部を動かすために前記歯の組に作用できるような反復運動長を示し、当該時計機構は、少なくとも1つの第1状態と該第1状態とは異なる少なくとも1つの第2状態を有する補正可動部を有する。前記補正可動部は、前記第1状態と前記第2状態にそれぞれ関連する前記爪の少なくとも2つの異なる経路を画定するように、前記爪の作動中に前記爪と協働可能に設計され、前記爪と前記補正可動部は、前記爪の作動中に、
― 前記爪は一のステップ分前記可動部を動かすように前記歯の組に作用し、
― 前記爪は、前記補正可動部が第2状態にあり、かつ、前記第2型の歯が前記爪の反復運動長に沿って設けられているときのみ追加のステップ分前記可動部を動かすように前記歯の組に作用する、ように設計される。
【0009】
これらの特徴によって、前記補正可動部は、前記爪の作動中に前記爪の経路を修正するように介入するので、前記月ホイールが作動前の前記爪の位置設定を可能にする必要があるのと同様に、前記爪が駆動させる前記可動部の付近に、前記日付表示機構において前記月ホイールの場合よりもいくらでも近づけて配置され得る。よって本発明による時計機構は、従来技術に係る同様の機構よりも小型で実現可能である。しかも前記補正可動部の位置設定によって、従来技術の機構と比較して当該機構の組み立て中に必要な調節を実質的に単純化することが可能となる。
【0010】
好適には、前記可動部、前記爪、及び前記補正可動部は、前記爪の反復運動長が2つの連続する状態を有するように設計される。前記2つの連続する状態は、前記補正可動部が第2状態にあり、かつ、前記第2型の歯が前記爪の反復運動長に沿って設けられているときに前記歯の組が一のステップ分だけ駆動可能となる任意の駆動状態、及び、前記型の歯がその反復運動長に沿って設けられているかいなかに関わらず、かつ、前記補正可動部の状態に関わらず、前記歯の組は一のステップ分駆動可能な系統的駆動状態である。
【0011】
この場合、前記可動部が枢動して内側歯の組を有するように設計され、かつ、前記可動部、前記爪、及び前記補正可動部は、前記任意の駆動状態が前記系統的駆動状態前に起こるように設計されてもよい。
【0012】
前記第1型の前記第1型の歯の各々は、前記爪と協働するように意図されて、前記第2型の歯の作用歯面とは異なる作用歯面を有してもよい。それにより、前記補正可動部が第2状態にある場合に、前記任意の駆動状態における前記爪と前記歯の組との協働が、前記第2型の歯が前記爪の反復運動長に沿って設けられているときにのみ前記ジャンパの作用を克服するのに十分な前記可動部を駆動する力を生じさせる。
【0013】
この場合、前記第1型の歯の作用歯面が、前記歯の組の底部から、前記半径方向に第1平均傾斜を有する第1部分、及び、前記半径方向に前記第1平均傾斜よりも大きな第2平均傾斜を有する第2部分を備えてよく、かつ、前記第2型の歯の作用歯面は前記第2平均傾斜よりも小さな前記半径方向に第3平均傾斜を有してもよい。
【0014】
よって有利となるように、前記第2平均傾斜は前記半径方向に実質的に30°~85°で、好適には35°~55°であってよい。
【0015】
代わりに又は加えて、前記第1平均傾斜は前記半径方向に実質的に0°~25°で、好適には5°~15°であってよい。
【0016】
代わりに又は加えて、前記第3平均傾斜は前記半径方向に実質的に0°~25°で、好適には5°~15°であってよい。
【0017】
一般的に、前記爪の経路を調節可能にするため、前記補正可動部は、前記任意の駆動状態中に前記爪部が周辺部に抗するように接した状態が維持されるカムを有してよい。前記カムの周辺部は少なくともそれぞれ異なる第1半径と第2半径を有する。前記第1半径と前記第2半径は、前記補正可動部の前記第1状態と前記第1状態にそれぞれ関連する。
【0018】
この場合、前記補正可動部は有利となるように、前記カムの角度方位を調節するため、前記可動部の歯のうち他の歯よりも長い少なくとも1つの歯と協働することを意図した歯の組を有してよい。
【0019】
好適変形例によると、本発明は上述した特徴の一部又は全部を備える時計機構に関してよい。当該時計機構では、前記可動部が、日付表示可動部に固定されるか、あるいは、前記日付表示可動部を駆動し、以下の特徴を有する。
― 前記歯の組は30の前記第1型の歯及び1つの前記第2型の歯を有する。
― 前記爪は、1つ又は2つのステップ分前記可動部を動かすため、1日に一度作動することが意図される。
― 前記補正可動部は、各モーメントで所与の月に関連する角度方位が各モーメントで一の月から次の月へ通過するように設計される月可動部である。
【0020】
本発明はまた、時計用ムーブメント及び上記特徴を備える時計機構を有する時計にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本発明のさらなる特徴及び利点は、非限定的な例示によって添付図面を参照しながら与えられる好適実施形態についての詳細な説明からより明確になる。
【
図1】本発明の好適実施形態による時計機構の一部の底面図を示している。図中、補正可動部は第1状態である。
【
図2】
図1と同様の図を示している。図中、補正可動部は第2状態である。
【
図4】
図1及び
図2とは反対の面から表された
図1及び
図2の時計機構の平面図を示している。図中、補正可動部は第2状態である。
【
図5】a~eは
図4と同様の図を示し、短い月の30日から次の月の最初の日へ日付を変化する間での時計機構の動作における連続状態を表している。
【
図6】a~cは
図4と同様の図を示し、長い月の30日から31日へ日付を変化する間での時計機構の動作における連続状態を表している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以降の詳細な説明は、非限定的な例によって本発明の好適実施形態による時計機構を説明することを目的とする。より具体的には例示及び記載された実施形態によると、時計機構は、年の表示1の形態を有する。しかし当業者は、本発明の技術的範囲から逸脱することなく上述した請求項中の特徴を用いた他の型の時計機構を実施できる。
【0023】
図1と
図2は、それぞれ2つの異なる配置をとる本発明の好適実施形態による年の日付表示機構1の同一部分の底面―下から見える面、つまり対応する時計の底面に位置することが意図される面―を示している。より詳細には、
図1が日付変更前の10月30日の機構1の配置を表している一方で、
図2は同様に日付変更前での11月30日の配置を表している。
【0024】
機構1は、30個の第1型歯4と1つの第2型歯6を備える内側歯の組を有する可動部2―本実施形態では日付ディスク―を有する。
【0025】
ジャンパー8は、可動部2の歯の組と協働し、かつ、可動部2の複数の離散的位置―本実施形態では31の離散的位置―を画定するように設計される。
【0026】
機構1はまた、可動部2の歯の組に作用して各作用で少なくとも1つのステップ分歯の組を動かすため、時計用ムーブメントの駆動可動部(不図示。典型的にはたとえば日付表示機構の場合であれば24時間ホイール)によって作動するように意図される爪10をも有する。
【0027】
爪10はこの場合、非限定的な例として、回転軸14で対応する時計用ムーブメントに対して枢動するように意図された剛体基部12を有する。基部12は、戻り部(不図示)の作用効果の下で
図1と
図2で表された静止位置に保たれている。前記戻り部は、基部12を押して固定ピン16に抗して接する状態にしようとする。作動歯18は弾性接続20によって基部12に固定される。基部12が
図1と
図2において反時計回りに回転することによって爪10が動くことを保証するため、作動歯18は一般的に、関連する時計用ムーブメントの駆動可動部と協働するように意図される。
【0028】
アーム22はさらに、回転軸24で枢動するように基部12上に載置される。アーム22は、爪10が駆動可動部の作用効果の下で動くときに
図1と
図2の反時計回りに日付可動部2を回転させるように日付可動部2の歯の組と協働するように意図されるビーク26を第1端部に有する。さらにアーム22は尾部28を有する。時計用ムーブメントの中心を向く尾部28の端部は凸形状を有する。その機能については以降で説明する。
【0029】
基部12と一体形成されるばね30は、アーム22に作用するように設計され、かつ、
図1及び
図2の反時計回りの方向にアーム22を回転させようとする。
【0030】
機構1はさらに補正可動部32を有する。補正可動部32は本実施形態では、2つの重なったホイール34と36によって実現される。ホイール34と36は一体となって回転する。2つのホイールのうちの一は24個の歯からなる歯の組を有し、前記24個の歯の各々はわずかに切頭形状で、2つのホイールのうちの他は31日を有する長い月に対応する7個の歯を有する。
【0031】
24個の歯を有する第1ホイール34は、他の歯よりも高い突出歯400との協働によって補正可動部32の回転駆動を可能にするように意図される。与えられた実施形態では、突出歯400は第1型の歯4だが、補正可動部を駆動する他の配置も可能である。
【0032】
第2ホイール36は、爪の尾部28と協働する爪10のカムとして機能する。ホイール36の周辺部はこの場合、少なくとも2つの異なる半径を有する部分を備える。具体的には第2ホイール36の形状と第2ホイール36が備える7個の歯によって、補正可動部32は爪10に関して2つの異なる状態である第1状態と第2状態を示し得る。
図1に表されている第1状態では、第2ホイール36の一の歯が第2ホイール36の停止部を画定する。
図2に表されている第2状態では、第2ホイール36は尾部28に対向する2つの歯の間に空の空間を有する。第2状態では、爪は第2ホイール36の一部のうち第1状態よりも半径の短い部分に抗するように重みをかける。
【0033】
基部12の少なくとも一部の位置では、ばね30の作用効果の下で、尾部28は補正可動部32に抗する状態に保たれ、かつ、補正可動部32が第1状態(
図1)にあるときの日付可動部2の歯の組に対するビーク26の位置は、補正可動部32が第2状態(
図2)にあるときよりも離れていることは、
図1と
図2との比較から明らかである。
【0034】
よって第1の場合である10月30日では、爪10は駆動可動部によって作動し、基部12は反時計回りに枢動し、ビーク26は、尾部28と補正可動部32との相互作用に関与する第2型の歯6と接触できないような経路を有する。反時計回りに1つのステップ分日付可動部2を進めるため、爪10の運動が続くとき、ビーク26は、第2型の歯6の直後に位置する第1型の歯4と接触するような経路に沿って進み続ける。
【0035】
その月の日の表示は(10月)30日から31へ進み、爪10は
図1に示されているように、駆動可動部が作用を停止した後に静止位置へ戻る。次の日、駆動可動部による爪10の作動中、ビーク26は再度日付可動部2の2つのステップを介して延びる同一の
反復運動長を示す。前記同一の進路は、第1状態中第1歯(この場合、第2型の歯6の直後に位置する第1型の歯4)からある距離だけ進み、続いて第2状態では、日付可動部を1ステップ進めるように第2型の歯6を妨げることによって、日付表示を31日(10月)から1日(11月)に進める。
【0036】
爪10の基部12は補正可動部のいずれの状態においても同一の静止状態であり、これは上述した従来技術の対応する機構とは異なることがわかる。よって補正可動部32の状態によらず、爪10は同一の反復運動長を追随する。換言すると爪10は、駆動可動部による各作動で2ステップ分可動部2を進めることが可能となるように動かされる。
【0037】
爪10は、31日未満の短い月の間に作動されるときには、31日ある長い月の間に作動されるときの経路とは異なる経路を有するのは、
図2から明らかである。具体的には、この状態の間に第1ステップ分日付可動部を駆動するため、ビーク26が可動部2の歯の組の付近に位置するとき、爪10の経路は爪10の経路に沿って設けられる第1歯―この場合第2型の歯6―と進路の第1状態と同じ速さで直接妨げる。
図5a~
図5eに関連する以降の説明からより明らかになるように、続いて爪10は第2状態で動き続け、追加のステップ分第2型の歯6を駆動する。よって日付表示は爪10に単一の作動で30日(11月)から1日(12月)へ進む。
【0038】
一般的には、爪10が系統的に可動部2を2ステップ分進めることを可能にする反復運動長を有し、この反復運動長は2つの連続する状態―任意の駆動状態と系統的な駆動状態で、これらはそれぞれ上述した第1状態と第2状態に相当する―に分裂することが可能であることは、上述の説明から明らかである。
【0039】
さらに可動部2の各歯が爪10と協働するように意図される作用歯面を有する一方で、第1型の歯4の作用歯面は第2型の歯6の作用歯面とは異なることに留意して欲しい。一般的には、第1型の歯4と第2型の歯6は差異化される。その結果、任意の駆動状態での爪10と可動部2の歯の組との間での協働は、補正可動部32が第2状態であるときには、第2型の歯6が爪10の
反復運動長に沿って設けられるときにジャンパ8の作用を克服するのに十分な可動部2を駆動する力を生じさせる。よって図示された設計の場合では、第1型の歯4は、月の最初の日から最後から2番目の日まで爪と協働するように意図される一方で、第2型の歯6は、現在の月が30日であろうが31日であろうが、月の最後の日に爪10と協働するように意図される。補正可動部32が第1状態であるときには爪10は月の31日目にのみ第2型の歯6と作用し得る(
図1、10月)一方で、補正可動部32が第2状態であるときには爪10はその月の30日と同じ速さで第2型の歯6と作用し得る(
図2、11月)。
【0040】
よって2つの異なる経路を画定するため、補正可動部32が爪10と協働することは明らかである。前記2つの異なる経路のうちの一は第1状態に関連し、前記2つの異なる経路のうちの他は第2状態に関連する。その部分についての爪10の反復運動長は、はいずれの場合でも変化せず、すべての場合において2つのステップ分可動部2を進めることに関与する爪10の運動に対応する。
【0041】
より具体的には、本発明の好適実施形態による歯の型同士の差異は、非限定的な例によって、それぞれの対応する幾何学形状に帰する。具体的には、第1型の歯4の作用歯面は、歯の組の底部から、半径方向に第1平均傾斜を有する第1部分、及び、半径方向に第1平均傾斜よりも大きな第2平均傾斜を有する第2部分を備えてよい。異なる方法で、第2型の歯6の作用歯面は、半径方向に第2平均傾斜よりも小さな第3平均傾斜を有する。よって歯の各異なる部分の傾斜とビーク26の形状を画定することは可能である。それにより、これらの歯が任意の駆動状態に対応する爪の
反復運動長に沿って存在するときに、爪は
図4に表されているように第1型の歯4の作用歯面にわたって摺動し得る一方で、爪は、
図5aと
図5bに示されているように、可動部2を駆動するために第2型の歯6の作用歯面に作用する。
【0042】
非限定的な例によって、第1平均傾斜と第2平均傾斜のいずれも、半径方向に関して実質的に0°~25°で、好適には5°~15°であってよい(必ずしも同一の値を有しない)。第2平均傾斜は半径方向に関して実質的に30°~85°で、好適には35°~55°であってよい。
【0043】
そのような角度のため、第1型の歯4が任意の駆動状態中に爪10の経路上に設けられているとき、ビーク26は対応する作用歯面の第2部分と接触する。この場合、前記第2部分は、爪10が可動部2を駆動できるように大きく傾斜する。
【0044】
図4で表されているように、そのような状況はたとえば短い月の第1日から第29日で起こる。補正可動部32は第2状態である。よって短い月の第1日から第29日まででは、爪10は任意の駆動状態中に可動部2を駆動できない。任意の駆動状態後に爪10の経路に沿って続けると、爪10は、系統的駆動状態では第1型の歯4の第1部分と接触し、その後可動部2を
図4の時計回りに1ステップ分回す。
【0045】
11月30日では、機構は
図2で表された状況にある。第2型の歯6は、任意の駆動状態と同じ速さで爪10の経路上に位置する。よって歯6の作用歯面の形状によって、爪10は、任意の駆動状態と同じ速さで可動部2を1ステップ分駆動し、続いて系統的駆動状態において可動部2を追加のステップ分駆動することが可能となる。
【0046】
図5a~
図5eは、短い月の第30日から次の月の第1日に変化するときの爪10による可動部2の駆動の時系列変化を表している。任意の駆動状態と系統的駆動状態の各々は複数のステップに分裂する。時計機構1の一部は、対応する時計のダイアル面からの平面像におけるこれらの数字で示されている。
【0047】
図5aは、爪10が時計用ムーブメントの駆動可動部によって作動される前の時計機構1の構成を表している。よって駆動用フィンガ(不図示)が、基部12を時計回りに回転させることによって爪10を1日に一度動かすために供され得る。
【0048】
図5aから明らかなように、補正可動部32は31日未満の短い月に対応する第2状態にあり、爪10の尾部28は補正可動部32の第2ホイール36の歯の間に配置されるので、第2ホイール36の小さい半径の部分に抗するように重みをかける。
【0049】
よって任意の駆動状態の間、爪10の一部は可動部の歯の組を妨げる。月の第30日では、第2型の歯6は、爪10の任意の駆動状態に対応する反復運動長に沿って設けられる。その結果、爪10は可動部2を駆動させて可動部2を第1ステップ分進めるように、第2型の歯6と協働する。
【0050】
この第1ステップの開始は
図5bによって表されている。可動部2は、ジャンパ8によって受ける力に対抗するように、
図5bの時計回りでの回転を開始した。具体的には、通常の静止位置での場合では、ジャンパ8は歯4の非作用歯面に抗するだけなので、ジャンパ8はもはや、可動部2の2つの隣接する歯に同時に隣接して抗するように配置されない。
【0051】
日付表記40が可動部2に示されている。これらの表記40は、非限定的な例として、可動部2によって直接実行されてよいし、あるいはその代わりに、可動部に固定される追加のディスクによって実行されてもよい。非限定的な例として、日付が図示された実施形態に従って読み取られる位置を概略的に示すため、窓42も示されている。
【0052】
ジャンパ8が抗した状態で隣接する歯4の上部を通過するとき、ジャンパ8は、同一の歯4の作用歯面に応力を及ぼす。これは
図5cに示されているように、ジャンパ8は2つの隣接する歯4に同時に抗する状態で配置されており、可動部2を次の離散的位置へ回す効果を有する。続いて“31”の表記40は窓42に対向する位置をとる。
【0053】
駆動可動部が時計回りに爪10の基部12を回し続けることで、爪10は、ジャンパ8の作用効果の下で前進した第2型の歯6に追いつく。
【0054】
非限定的な例として、同時に爪10の尾部28は補正可動部32から離れるように動き、続いてアーム22の角度方位がばね30の作用及びビーク26と可動部2の歯の組との相互作用によって定められ、もはや補正可動部32の第2ホイール36に抗する尾部28によっては定められない。
【0055】
駆動可動部の作用効果下で動き続けると、爪10は、再度ジャンパー8の力に対抗して可動部2を駆動し始めることによって系統的駆動状態を開始することで、機構を
図5dに表されている構成にする。
【0056】
補正可動部32は、適切な窓46と協働するように設計される現在の月を表示する表記44を有してよい。よって2月の月に関する表記44は、
図4~
図5dに表される構成において窓46に現れる。
【0057】
上述したように、突出歯400は他の歯よりも高い。日付可動部2が所与の月の第13日に係る位置から次の月の第1日に係る位置へ移動するときに、突出歯400が、第1ホイール34を
図5d及び
図5eの時計回りに2ステップ分回すように補正可動部の第1ホイール34の歯の組とかみ合うことは
図5d及び
図5eから明らかである。この動作のため、補正可動部32は所与の月に係る角度方位から次の月に係る他の角度方位へ回る。
【0058】
図5eに表されているように、一旦歯4の上部が通過すると、ジャンパ8は、可動部2の運動を完了させるためにこの同一の歯4の作用歯面に作用する。続いて補正可動部32が時計回りに2ステップ分駆動された後に、“1”の表記40は窓42に対向するように正しく位置設定される。同じように次の月に関する表記44は窓46に対向するように適切に位置設定される。
【0059】
サイクルの終わりでは爪10は静止位置に戻る。静止位置は、爪10が固定ピン16に抗するように隣接する位置であることを意味する。
【0060】
2ステップ分回すことによって、補正可動部32はこの場合、短い月に対応する第2状態から長い月に対応する第1状態へ進む。よって静止位置に戻ることによって、
図6aに示された位置では、爪10はもはや第2ホイール36の短くなった半径部分とは協働しないが、その歯のうちの一とは協働する。
【0061】
当然のこととして、戻り部の作用効果の下で駆動フィンガーが爪10を解放し、かつ、基部12が
図5eの反時計回りに駆動されるとき、アーム22は時計回りの方向に枢動することで、第2ホイール36の歯に重みをかけることが可能となるように、一の部分について戻り部によって基部12へ印加される力及び他の部分についてばね30によってアーム22へ印加される力は互いに調節される。よって戻り部の作用はばね30の作用に優先する。
【0062】
図6a~
図6cは、長い月の第30日から第31日へ進む様子を表している。月の第30日では、第2型の歯6は、任意の駆動状態中に爪10の
反復運動長に沿った位置になる。補正可動部32は第2状態にあり、爪10をそらす。爪10のビーク26は、基部12の作動中に補正可動部32を駆動させることなく第2型の歯を通過する。続いてビーク26は、系統的駆動状態中、第2型の歯6に直接追随する第1型の歯4を駆動するために第2型の歯6の後方に入り込む(
図6b及び
図6c)。
【0063】
上で与えられた特徴によって、可動部を有して、前記可動部が該可動部の作動爪と適切な補正可動部との間での意図した相互作用によって可変数のステップ分駆動可能な時計機構が得られる。補正可動部は、作動爪の2つの異なる経路を画定するため、少なくとも1つの第1状態と該第1状態とは異なる一の第2状態をとることができる。
【0064】
本発明の実施は日付の表示に限定されない。具体的には当業者は特に困難なく、他の型の時計機構―特に日付以外の変数を表示する機構―の実施に本願の教示を適合するする。
【0065】
説明してきたように、上記の説明は、非限定的な例示によって特別な実施形態を説明することを目的としている。本発明は、これまで説明してきたある特別な特徴―たとえば補正可動部32の形状又は爪10との相互作用の性質―の実装に限定されない。具体的には、本発明を実施するためには、補正可動部32が、作動爪の2つの異なる経路を画定するために2つのそれぞれ異なる方法で作動爪と相互作用する2つの異なる状態を有すれば十分である。よって単純に、前後に動いて半径の異なる2つの部分を有するカムを有するシャトルを備える補正可動部を供することは思いつき得る。説明してきたように、任意の駆動状態と系統的駆動状態の存在は、本発明の実施にとって必須ではないし、任意の駆動状態と系統的駆動状態の順序も必須ではない。よってたとえば、外部歯の組を有する可動部の場合では、任意の駆動状態の前に系統的に駆動状態が起こるようにする方が簡単であることに留意して欲しい。
【0066】
さらに、爪と一の部分についての第1型の歯との間での相互作用、及び、爪と他の部分についての第2型の歯との間での相互作用の差異を保証する幾何学的形状以外の方法が供されてよい。よってこれらの歯の作用歯面はたとえば、異なる粗さの利用又は異なる磁気相互作用の実装によって差異化されてよい。
【0067】
一般的には本願で説明及び例示された爪10は2つの部品(基部12とアーム22)で作られる一方で、たとえば特許文献2(CH 713288 A1)の教示に基づいてより多くの部品を用いて作るか、あるいは、1つの部品で作ることも可能である。
【0068】
また一般的には、爪の経路が任意の駆動状態と系統的駆動状態に分裂され得るとき、補正可動部は、本発明の技術的範囲から逸脱することなく、任意の駆動状態の間中又はこの状態の一部の間のみ爪と相互作用してよい。さらに任意の駆動状態以外での補正可動部と爪との相互作用も、本発明の技術的範囲から逸脱することなく考えられ得る。
【0069】
上記開示によって、当業者は、本発明の技術的範囲から逸脱することなく、常に同一の反復運動長を有する爪によって可変ステップ数だけ駆動可能な可動部を有することで、可能な最大数のステップ数だけ可動部を進めることを可能とする時計機構の様々な変形例を生成することが可能となる。当該時計機構では、前記爪は補正可動部の状態に依存してこの反復運動長内でのその爪の複数の経路を画定することで、具体的な必要性に依存して所与の状態で可動部が進むステップ数を画定するために補正可動部と協働する。