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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-22
(45)【発行日】2025-01-30
(54)【発明の名称】共析めっき液
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/52 20060101AFI20250123BHJP
   C25D 15/02 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
C23C18/52 A
C25D15/02 F
C25D15/02 L
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020204196
(22)【出願日】2020-12-09
(65)【公開番号】P2022091384
(43)【公開日】2022-06-21
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100193404
【弁理士】
【氏名又は名称】倉田 佳貴
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直裕
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-180326(JP,A)
【文献】特開2019-127574(JP,A)
【文献】特開2020-117797(JP,A)
【文献】特開2018-044221(JP,A)
【文献】特開2016-188397(JP,A)
【文献】特開2013-241649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00-20/08
C25D 9/00-9/12,13/00-21/22
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、ラクテート基又はその塩を有する第4族元素系カップリング剤、炭化ケイ素粒子及び/又は酸化ケイ素粒子並びに金属源を少なくとも含有しており、かつ
pHが5.5~.0である、
共析めっき液。
【請求項2】
前記第4族元素系カップリング剤が、チタンカップリング剤又はジルコニウムカップリング剤である、請求項1に記載の共析めっき液。
【請求項3】
前記第4族元素系カップリング剤が、水酸基及びラクテート基又はその塩を有する、請求項1又は2に記載の共析めっき液。
【請求項4】
水、ラクテート基又はその塩を有する第4族元素系カップリング剤、並びに炭化ケイ素粒子及び/又は酸化ケイ素粒子を少なくとも含有している、水分散液
金属源を少なくとも含有している共析めっき液と
を混合させることを含む、請求項1に記載の共析めっき液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共析めっき液に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の分野の製品の製造において、部材の表面に皮膜を形成するための技術として、電解めっき及び無電解めっき等のめっき技術が広く用いられている。従来のめっき技術の態様は、特許文献1及び2に開示されている。
【0003】
また、近年では、炭化ケイ素粒子等の耐摩耗性粒子を含むめっき液でめっき反応を行う共析めっきが知られている。このような共析めっきでは、含有される粒子の性質によってめっき被膜に耐摩耗性、潤滑性、耐食性等の新たな機能を付与することが可能であるため、特に自動車や航空機等のエンジン部品や摺動頻度の高いコネクター等、耐摩耗性や硬度が求められる基材に用いられることが多く、かかる共析めっきのための種々の手段が提案されている。
【0004】
特許文献3及び4では、水、アミノ基を有する第4族元素系カップリング剤、炭化ケイ素粒子又は酸化ケイ素粒子、及び金属源を少なくとも含有している、共析めっき液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-027202号公報
【文献】特表2008-516039号公報
【文献】特開2020-180326号公報
【文献】特開2020-117797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
炭化ケイ素粒子又は酸化ケイ素粒子の十分な分散性が得られないと、得られためっき層中で炭化ケイ素粒子が偏在しているか、又はめっき層が良好に形成できないことがあった。特許文献3及び4による手段によれば、炭化ケイ素粒子又は酸化ケイ素粒子の十分な分散性が得られている。
【0007】
一方、所望のめっきの性質によっては、pHが高いめっき液を用いることが望ましい場合がある。かかるめっき液を用いた場合、特許文献3及び4による手段によってもなお、共析性に改善の余地が生じることがあった。
【0008】
そこで、pHが高いめっき液を用いた場合でも、良好な共析性を有するめっき層をもたらすことができる、新規な共析めっき液を提供する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討したところ、以下の手段により上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、下記のとおりである:
〈態様1〉水、ラクテート基又はその塩を有する第4族元素系カップリング剤、ケイ素系粒子、及び金属源を少なくとも含有しており、かつ
pHが5.5~8.0である、
共析めっき液。
〈態様2〉前記第4族元素系カップリング剤が、チタンカップリング剤又はジルコニウムカップリング剤である、態様1に記載の共析めっき液。
〈態様3〉前記第4族元素系カップリング剤が、水酸基及びラクテート基又はその塩を有する、態様1又は2に記載の共析めっき液。
〈態様4〉水、ラクテート基又はその塩を有する第4族元素系カップリング剤、及びケイ素系粒子を少なくとも含有している、水分散液。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、pHが高いめっき液を用いた場合でも、良好な共析性を有するめっき層をもたらすことができる、新規な共析めっき液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
《共析めっき液》
本発明の共析めっき液は、
水、ラクテート基又はその塩を有する第4族元素系カップリング剤、ケイ素系粒子のうちの少なくとも一種、及び金属源を少なくとも含有しており、かつ
pHが5.5~8.0である、
共析めっき液である。
【0012】
本発明の共析めっき液は、電解めっき液であってもよく、又は無電解めっき液であってもよい。
【0013】
共析めっき液中のケイ素系粒子の含有率は、共析めっき液の質量全体を基準として、0.001質量%以上、0.003質量%以上、0.005質量%以上、0.01質量%以上、0.03質量%以上、0.05質量%以上、又は0.07質量%以上であってよく、また5質量%以下、3質量%以下、1質量%以下、0.5質量%以下、0.3質量%以下、又は0.2質量%以下であってよい。
【0014】
共析めっき液中の第4族元素系カップリング剤の含有率は、共析めっき液の質量全体を基準として、0.001質量%以上、0.003質量%以上、0.005質量%以上、0.01質量%以上、0.03質量%以上、0.05質量%以上、又は0.07質量%以上であってよく、また5質量%以下、3質量%以下、1質量%以下、0.5質量%以下、0.3質量%以下、又は0.2質量%以下であってよい。
【0015】
共析めっき液中の第4族元素系カップリング剤の質量の、ケイ素系粒子の質量の合計に対する比は、1%以上、3%以上、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、50%以上、70%以上、100%以上、130%以上、150%以上、200%以上、250%以上、又は280%以上であってよく、また1000%以下、900%以下、800%以下、700%以下、600%以下、500%以下、400%以下、350%以下、又は330%以下であってよい。
【0016】
また、共析めっき液は、他の粒子を含有していてもよい。
【0017】
共析めっき液のpHは、5.5以上、5.7以上、5.9以上、又は6.0以上であってよく、また8.0以下、7.5以下、7.0以下、6.8以下、6.6以下、6.4以下、又は6.2以下であってよい。
【0018】
以下では、本発明の各構成要素について説明する。
【0019】
〈水〉
水は、イオン交換水、蒸留水等であってよい。
【0020】
〈第4族元素系カップリング剤〉
第4族元素系カップリング剤は、ラクテート基又はその塩を有する第4族元素系カップリング剤である。ここで、本発明において、「第4族元素系カップリング剤」とは、第4族原子に結合している水酸基又は加水分解性基及び親水性有機官能基を有し、それによって、もともと存在しているか又は加水分解性基が加水分解して得られる水酸基が無機材料と化学結合し、かつ親水性有機官能基が親水性を与える化合物に言及するものである。
【0021】
第4族元素は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、及びラザホージウムである。第4族元素としては、チタン又はジルコニウム、特にチタンを用いることが、分散性の観点から好ましい。
【0022】
加水分解性基は、例えばアルコキシ基、例えば炭素数1~10の直鎖又は分枝のアルコキシ基であってよく、例えばn-メトキシ基、n-エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペントキシ基、イソペントキシ基、ネオペントキシ基、tert-ペントキシ基、ヘキソキシ基、イソヘキソキシ基等であってよい。
【0023】
ラクテート基は、[-OCH(CH)COOH]の構造を有する。ラクテート基の塩は、例えばラクテートアンモニウム基[-OCH(CH)COO(NH)]等であってよい。
【0024】
本発明者らは、上記の第4族元素系カップリング剤がケイ素系粒子の表面に吸着して分散剤として作用することにより、これらがめっき液中で分散しケイ素系粒子が良好に分散しているめっき層を形成することができることを見出した。
【0025】
上記の第4族元素系カップリング剤をめっき液中に分散させることによって、任意の平均粒子径のケイ素系粒子、特に平均粒子径150nm以下のケイ素系粒子を良好に分散させることができ、それによって、めっき層を形成したときに、十分な量のケイ素系粒子をめっき層中に均等に分布させることができる。
【0026】
第4族元素系カップリング剤は、第4族元素に、水酸基及び親水性有機官能基としてのラクテート基又はその塩を有していてよい。この場合、第4族元素系カップリング剤は、1個の水酸基及び3個のラクテート基若しくはその塩、2個の水酸基及び2個のラクテート基若しくはその塩、又は3個の及び1個のラクテート基若しくはその塩を有していてよいが、2個以上の水酸基を有していることが、ケイ素系粒子の分散性を良好にする観点から好ましい。
【0027】
水酸基及びラクテート基又はその塩を有する第4族元素系カップリング剤としては、商業的に入手可能なものを用いることができ、例えばマツモトファインケミカル社のオルガチックスTC-300、TC-310、ZC-300等を用いることができる。
【0028】
〈ケイ素系粒子〉
ケイ素系粒子は、概して、ケイ素化合物で構成されている粒子である。ケイ素系粒子としては、例えば炭化ケイ素粒子、又は酸化ケイ素粒子であってよい。
【0029】
ケイ素系粒子の平均粒子径は、10nm以上、20nm以上、30nm以上、40nm以上、50nm以上、60nm以上、70nm以上、80nm以上、90nm以上、又は100nm以上であってよく、また100μm以下、50μm以下、30μm以下、20μm以下、10μm以下、7μm以下、5μm以下、3μm以下、1μm以下、700nm以下、500nm以下、400nm以下、370nm以下、350nm以下、330nm以下、300nm以下、270nm以下、250nm以下、230nm以下、200nm以下、又は150nm以下であってよい。ここでいう平均粒子径とは、対象となる酸化ケイ素粒子の大きさによって適宜選択され、概ね1μm未満の粒子の場合は、動的光散乱法により測定した散乱強度分布によるヒストグラム平均粒子径(D50)の値であり、1μm以上の粒子の場合は、レーザー回折法において体積基準により算出されたD50の値である。特に、平均粒子径が150nm以下である場合には、共析性がより良好になり、その結果、本発明の共析めっき液を用いて得ためっき層の耐摩耗性がより良好になる。
【0030】
(炭化ケイ素粒子)
炭化ケイ素粒子は、商業的に入手できる炭化ケイ素粒子であってよい。
【0031】
(酸化ケイ素粒子)
酸化ケイ素粒子は、商業的に入手できる酸化ケイ素粒子であってよい。ここで、本発明において、「酸化ケイ素粒子」とは、表面の少なくとも一部に酸化ケイ素を含む粒子を意味する。かかる酸化ケイ素粒子としては、例えば純粋な酸化ケイ素粒子、表面の全体又は一部に酸化ケイ素が存在している粒子等が挙げられる。
【0032】
表面の全体又は一部に酸化ケイ素が存在している酸化ケイ素粒子は、例えば炭化ケイ素粒子を酸化することにより得られる。かかる酸化ケイ素粒子における酸化ケイ素の含有率は、0.01質量%以上、0.1質量%以上、1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、7質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、又は30質量%以上であってよく、また99質量%以下、95質量%以下、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、45質量%以下、40質量%以下、又は35質量%以下であってよい。この含有率は、例えば炭化ケイ素の酸化前後における質量変化を測定することにより測定することができる。
【0033】
〈金属源〉
金属源は、めっき層とすべき金属、めっきの態様等に応じ、種々の形態であってよい。金属源は、例えば、特に限定されないが、例えばめっき層とすべき金属の金属塩、例えば硫酸塩、塩酸塩、ピロリン酸塩、スルファミン酸等の無機酸塩、シアン化塩等の有機酸塩等を用いることができる。
【0034】
めっき層とすべき金属としては、例えば銅、ニッケル、クロム、亜鉛、錫、銀、金等であってよい。
【0035】
〈他の成分〉
他の成分としては、例えばpH調整剤、pH緩衝剤、光沢剤等を用いることができる。
【0036】
また、特に電解めっき液の場合、共析めっき液は、電解質を含有していてよい。
【0037】
また、特に無電解めっき液の場合、共析めっき液は、還元剤を含有していてよい。還元剤としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の硫酸塩、塩酸塩、ピロリン酸塩、ホスフィン酸塩、スルファミン酸塩、テトラヒドロホウ酸塩等の無機酸塩、シアン化塩等の有機酸塩等を用いることができる。また、還元剤としては、例えばジメチルアミンボラン、ヒドラジン、三塩化チタン等を用いることができる。
【0038】
また、特に無電解めっき液の場合、共析めっき液は、錯化剤を含有していてよい。錯化剤としては、例えば酢酸、乳酸、シュウ酸、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸等のカルボン酸、グリシン、アラニン、アスパラギン等のアミノ酸等を用いることができる。
【0039】
《水分散液》
水分散液は、水、ラクテート基又はその塩を有する第4族元素系カップリング剤、及びケイ素系粒子を少なくとも含有している。この水分散液は、共析めっき液作製用水分散液であってよい。
【0040】
水分散液は、例えば水、ラクテート基又はその塩を有する第4族元素系カップリング剤、及びケイ素系粒子を攪拌混合し、そしてこれをビーズミル等により分散させることにより、製造することができる。
【0041】
水分散液中のケイ素系粒子の含有率は、水分散液の質量全体を基準として、0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、又は7質量%以上であってよく、また50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、又は13質量%以下であってよい。
【0042】
水分散液中の第4族元素系カップリング剤の含有率は、水分散液の質量全体を基準として、0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、0.7質量%以上、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、又は7質量%以上であってよく、また50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、又は13質量%以下であってよい。
【0043】
〈他の粒子〉
他の粒子としては、例えば、Al、Cr、Fe、TiO、ZrO、ThO、CeO、BeO、MgO、CdO、ダイヤモンド、SiC、TiC、WC、VC、ZrC、TaC、Cr、BC、BN、ZrB、TiN、Si、WSi、MoS、WS、CaF、BaSO、SrSO、ZnS、CdS、TiH、NbC、Cr、UO、CeO、フッ化黒鉛、黒鉛、ガラス、カオリン、コランダム、色素等を用いることができる。また、PTFE、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリピロール、ポリアニリン、アセチルセルロース、ポリビニルアセテート、ポリビニールブチラール、あるいはコポリマー(メタクリル酸メチルとメタクリル酸とのポリマー)を用いることもできる。また、これらの他の粒子は、単独で又は混合させて用いることができる。
【0044】
《共析めっき液の製造方法》
共析めっき液は、上記の水分散液と金属めっき液とを混合させることを含む方法により、製造することができる。この場合、水分散液の含有率は、共析めっき液全体の質量を基準として、0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、又は0.7質量%以上であってよく、また10質量%以下、7質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、又は2質量%以下であってよい。
【0045】
〈金属めっき液〉
金属めっき液は、金属源を少なくとも含有している。また、金属めっき液は、共析めっき液に関して挙げた他の成分を含有していてよい。かかる金属めっき液としては、めっきの用途に応じ、市販されている金属めっき液を、必要に応じて入手先の指示に基づいて、例えば所定の量の蒸留水で、希釈して用いることができる。以下では、「金属めっき液」は、上記の水分散体と混合させる直前の金属めっき液、すなわち希釈を行った場合には、希釈後の金属めっき液を示している。
【0046】
金属めっき液のpHは、5.5以上、5.7以上、5.9以上、又は6.0以上であってよく、また8.0以下、7.5以下、7.0以下、6.8以下、6.6以下、6.4以下、又は6.2以下であってよい。
【0047】
金属めっき液中に、得られるめっき層のリンの含有率が7質量%以下、6質量%以下、5質量%以下、4質量%以下、又は3質量%以下となる量でリンが含有されている場合には、金属めっき液のpHが上記の範囲になりやすい傾向にあることから、本願発明の構成が有益となる。また、この含有率によれば、得られるめっき層の硬度及び耐摩耗性を高くすることができる。この含有率は、0質量%超、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、又は2質量%以上であってよい。
【実施例
【0048】
実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0049】
《共析めっき液の作製》
〈実施例1〉
炭化ケイ素粒子を酸化して得られた平均粒子径100nmの酸化ケイ素粒子10質量部、ラクテート基含有チタンカップリング剤(TiCP)-Aとして表1で言及しているチタンラクテートアンモニウム塩(オルガチックスTC-300、マツモトファインケミカル社、有効成分44%)1.0質量部、及びイオン交換水89.0質量部を攪拌混合して均一な状態にし、次いでこれを、ペイントシェーカー(0.3mm径のジルコニアビーズ)を用いて分散時間2時間で分散処理して、実施例1の水分散体を作製した。なお、炭化ケイ素粒子を酸化して得られた酸化ケイ素粒子における酸化ケイ素の含有率は、40質量%であった。
【0050】
〈実施例2~11、比較例1~7及び参考例〉
表1に示す構成で、実施例1と同様にして、実施例2~11、比較例1~7及び参考例の水分散体を作製した。
【0051】
なお、表1で言及した他の分散剤の詳細は以下のとおりである:
ラクテート基含有TiCP-B:チタンラクテート(オルガチックスTC-310、マツモトファインケミカル株式会社、有効成分41%)
ラクテート基含有ジルコニウムカップリング剤(ZrCP):ジルコニウムラクテートアンモニウム(オルガチックスZC-300、マツモトファインケミカル株式会社、有効成分12%)
シリコン系界面活性剤:水系シリコン系界面活性剤(BYK-349、BYK社、有効成分100%)
アニオン系界面活性剤:水系用湿潤分散剤(DISPERBYK-2015、BYK社、不揮発分40%)
アミノ基含有TiCP:チタンジエタノールアミネート(オルガチックスTC-500、マツモトファインケミカル株式会社、有効成分70%)
【0052】
また、表1に記載しているケイ素系粒子の形態に関し、炭化ケイ素粒子を酸化して得られた酸化ケイ素粒子を、「表面酸化」と言及しており、純粋な酸化ケイ素粒子を、「酸化」と言及しており、炭化ケイ素粒子を「炭化」と言及している。
【0053】
《水分散体中のケイ素系粒子の平均粒子径の測定》
得られた各水分散体中のケイ素系粒子の平均粒子径を、動的光散乱法により測定した。
【0054】
《めっき液及びめっき層の作製》
作製した各分散液1質量部を、各々めっき液99質量部と混合して、共析めっき液を作製した。次いで、作製しためっき液のpHを測定した。
【0055】
ここで、表1において、「高pHめっき液」と言及しているものは、エンプレート NI-426(メルテックス社、得られるめっき層のリン含有率1~3質量%)を所定の量の蒸留水を用いて希釈したものを示しており、「低pHめっき液」と言及しているものは、SC-93-0(日本カニゼン社、得られるめっき層のリン含有率9~10質量%)を所定の量の蒸留水を用いて希釈したものを示している。高pHめっき液及び低pHめっき液のpHは、それぞれ6.2及び4.5であった。
【0056】
作製した各共析めっき液を用い、無電解めっきにより厚さ500μmの鉄基材をめっき層で被覆した。
【0057】
〈共析状態の評価〉
被覆しためっき層の断面を電子顕微鏡により観察し、共析状態を評価した。評価基準は以下のとおりである:
A:十分な量のケイ素系粒子が均等に存在している。
B:十分な量のケイ素系粒子が存在しているが、やや偏在している。
C:ケイ素系粒子が観察されないか、又は存在しているが偏在しているか若しくはその量が十分ではない。
【0058】
実施例及び比較例の構成及び評価結果を表1に示す。なお、表1では、共析めっき液中の第4族元素系カップリング剤の質量の、ケイ素系粒子の質量に対する比を、「D/P」と言及している。
【0059】
【表1】
【0060】
表1から、pHが高いめっき液を用いた場合には、ラクテート基又はその塩を含有している第4族元素系カップリング剤を用いた実施例1~11の水分散体においては、平均粒子径100μm及び1000μmのケイ素系粒子のいずれを用いた場合にも、ケイ素系粒子が水分散液中に良好に分散しており、かつこの水分散液を市販のめっき液と混合して共析めっき液としたときに、良好な共析性を示していることが理解できよう。
【0061】
これに対し、シリコン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、及びラクテート基又はその塩を含有していない第4族元素系カップリング剤を用いた比較例1~6の水分散体においては、平均粒子径100nm及び1000nmのケイ素系粒子のいずれを用いた場合にも、ケイ素系粒子が水分散液中に良好に分散しておらず、かつこの水分散液を低リンめっき液と混合して共析めっき液としたときに、共析性が良好ではなかった。
【0062】
なお、比較例7及び参考例の結果を参照すると、pHが低いめっき液を用いた場合には、ラクテート基又はその塩を含有しているチタンカップリング剤を用いると、共析性が良好ではなかったのに対し、アミノ基を含有しているチタンカップリング剤を用いると、共析性が良好であった。