(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-22
(45)【発行日】2025-01-30
(54)【発明の名称】レット症候群の治療におけるコレステロール 24-ヒドロラーゼのための発現ベクター
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7088 20060101AFI20250123BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20250123BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20250123BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20250123BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20250123BHJP
C12N 15/53 20060101ALN20250123BHJP
C12N 15/861 20060101ALN20250123BHJP
C12N 15/867 20060101ALN20250123BHJP
C12N 15/869 20060101ALN20250123BHJP
C12N 15/864 20060101ALN20250123BHJP
【FI】
A61K31/7088
A61K48/00
A61K35/76
A61K35/761
A61P25/00
C12N15/53 ZNA
C12N15/861 Z
C12N15/867 Z
C12N15/869 Z
C12N15/864 100Z
(21)【出願番号】P 2021568858
(86)(22)【出願日】2020-05-20
(86)【国際出願番号】 EP2020064092
(87)【国際公開番号】W WO2020234363
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2023-05-22
(32)【優先日】2019-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(73)【特許権者】
【識別番号】595040744
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(73)【特許権者】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(73)【特許権者】
【識別番号】516369608
【氏名又は名称】イセエム(アンスティテュ・デュ・セルヴォー・エ・ドゥ・ラ・ムワル・エピニエール)
【氏名又は名称原語表記】ICM(INSTITUT DU CERVEAU ET DE LA MOELLE EPINIERE)
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ピゲ,フランソワーズ
(72)【発明者】
【氏名】カルティエ-ラカーヴ,ナタリー
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/034127(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/138371(WO,A1)
【文献】特表2013-544236(JP,A)
【文献】国際公開第2018/226785(WO,A1)
【文献】特表2019-506141(JP,A)
【文献】Nature Genetics,2013年,Vol.45, No.9,pp.1013-1020
【文献】Future Neurology,2015年,Vol.10. No.5,pp.467-483
【文献】Mammalian Genome,2019年02月,Vol.30. No.5,pp.90-110
【文献】The Journal of Neuroscience,2013年,Vol.33. No.34,pp.13612-13620
【文献】Brain Research,2017年,Vol.1654,pp.77-84
【文献】eLIFE,2016年,Vol.5,e22409
【文献】Lipids,2018年,Vol.53,pp.363-373
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レット症候群(RTT)
を処置
するための組成物であって、
コレステロール 24-ヒドロキシラーゼをコードする核酸を含む、
組成物。
【請求項2】
RTTが、少なくとも1つの自閉症スペクトラム障害に関連している、請求項1記載の
組成物。
【請求項3】
RTTが、知的障害に関連している、請求項2記載の
組成物。
【請求項4】
前記核酸が、配列番号2のアミノ酸配列をコードする、請求項1~3のいずれか一項記載の
組成物。
【請求項5】
前記核酸配列が、哺乳類CNS細胞における発現のために好ましいコドンを含む、請求項1~4のいずれか一項記載の
組成物。
【請求項6】
前記核酸が、配列番号1の配列を有する、請求項1~5のいずれか一項記載の
組成物。
【請求項7】
アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルス及びアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの群より選択される、請求項1~6のいずれか一項記載の
組成物。
【請求項8】
AAVベクターである、請求項1~7のいずれか一項記載の
組成物。
【請求項9】
AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、又はAAV10ベクターである、請求項8記載の
組成物。
【請求項10】
AAV10ベクターが、AAVrh.10又はAAVPHP.eBである、請求項9記載の
組成物。
【請求項11】
静脈内投与される、請求項1~10のいずれか一項記載の
組成物。
【請求項12】
患者の脳又は脳脊髄液に直接投与される、請求項1~11のいずれか一項記載の
組成物。
【請求項13】
ニューロンに投与される、請求項12記載の
組成物。
【請求項14】
ニューロンが、皮質ニューロン、海馬ニューロン、線条体ニューロン、
又は小脳ニューロンである、請求項13記載の
組成物。
【請求項15】
血管内、静脈内、鼻腔内、脳室内、眼窩後方、髄腔内注射、大脳定位マイクロインジェクション、又は表層皮質適用により投与される、請求項1~13のいずれか一項記載の
組成物。
【請求項16】
治療上有効量の請求項1~13のいずれか一項記載の
組成物を含む、レット症候群の処置に使用するための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レット症候群の処置に関する。
【0002】
レット症候群(RTT)は、女児にほぼ限定して(女性の約10000人に1人)発症する神経発達障害である。レット症候群は、発達の遅れ、意図的な手の使用の喪失、独特の手の動き、脳及び頭の成長の遅れ、歩行の問題、てんかん発作並びに知的障害を伴う正常な初期成長及び発達を特徴とする(Hagberg et al. 1985)。
【0003】
発症年齢及び症状の重症度を含むレット症候群の経過は、小児ごとに異なる。ただし、症状が現れる前には、小児は、一般的には、正常に成長し、発達するように見えるが、多くの場合、乳児期においても僅かな異常、例えば、筋緊張の低下(筋緊張低下)、哺乳困難及び四肢の動きのぎこちなさが見られる。ついで、徐々に心身の症状が現れる。症候群が進行することにつれて、小児は、意図的な自身の手の使用及び話す能力を失う。他の初期症状は、ハイハイ又は歩行の問題及び目を合わすことの減少を含む場合がある。手の機能的使用の喪失に続いて、強迫的な手の動き、例えば、絞り及び手洗いが生じる。この後退期の開始は、突然に起こり得る(Armstrong 1997)。
【0004】
レット症候群を有する小児は、多くの場合、初期段階で自閉症様行動を示す。他の症状は、つま先歩き、睡眠障害、酩酊歩行、歯ぎしり及び噛みづらさ、成長の遅れ、てんかん発作、認知障害並びに覚醒時の呼吸困難、例えば、過換気、無呼吸(息こらえ)及び空気嚥下を含む場合がある。レット症候群は、普遍的に発現する転写レギュレーターであるX連鎖遺伝子メチル-CpG結合タンパク質2(MECP2)における突然変異により引き起こされる(Amir et al. 1999;Duncan Armstrong 2005)。
【0005】
マウスモデルにより、RTTの症状の多くが再現され、それらの研究により、疾患の生理学的基礎への洞察が提供されている。メスのMecp2/+マウスは、ランダムX染色体不活性化により、部分的に表現型分散を示すが、オスのMecp2/Yマウスは、完全浸透性表現型(penetrant phenotype)を有する。ヌルのオスは、出生時及び離乳時には正常であるが、四肢抱擁(limb clasping)、振戦、嗜眠及び呼吸異常をきたす。これらの症状は、6~16週齢で死亡するまで進行的に悪化する(Guy et al. 2001)。
【0006】
RTT疾患の動物モデルでは、幾つかの研究により、Mecp2の欠損がコレステロールのホメオスタシスを破壊することが既に実証されている。実際、メバロン酸経路における遺伝子は、1か月齢のMecp2/Yマウスでは、脳においてわずかにアップレギュレーションされたが、肝臓ではアップレギュレーションされなかった(軽度の影響)。2か月齢では、総コレステロール濃度が、症候性変異マウスの脳において上昇していた((Nagy and Ackerman 2013)。また、MECP2欠損のオスにおいて、Cyp46a1の発現が、野生型レベルより38%増加することも報告されており、このことは、ニューロンにおけるコレステロール代謝回転の必要性が高まっていることを示す(Buchovecky et al. 2013;Lutjohann et al. 2018a)。
【0007】
また、治療アプローチも、スタチンを投与することにより試みられた。スタチンは、コレステロール合成における最初の律速酵素である3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル補酵素A(HMG-CoA)レダクターゼ(HMGCR)を阻害する。スタチン投与により、変異雄マウスの生存期間中央値が高くなり、運動協調性と活動性が改善されたが、呼吸不整及び聴覚驚愕反応異常は改善されなかった。RTTを有する女性患者の処置をより密接にモデル化するために、Mecp2/+メスマウスも、スタチンにより処置され、症状が改善された(Buchovecky et al. 2013)。
【0008】
これまでのところ、レット症候群のための治癒法は不明である。現在使用されている唯一の分子は、レット症候群に伴う二次影響の減少を目的とするのみである。呼吸不整及び運動障害には、投薬が必要な場合があり、抗痙攣剤が、てんかん発作を制御するのに使用される場合がある。脊柱側弯症及び心臓異常の可能性について定期的にモニタリングを行うべきである。しかしながら、幾つかのアプローチは、この疾患のマウスモデルにおいて実際に評価中である。それらは、主に、遺伝子治療送達を使用してMECP2発現を回復させることを目的としている(Garg et al. 2013)(K. K. Gadalla et al. 2013;K. K. E. Gadalla et al. 2017)。これにより、生存率が上昇するが、表現型、特に、協調性能を改善する必要はない。加えて、高用量で送達された場合、肝毒性が強調されている。MECP2は、転写因子であり、その発現は、シナプスレギュレーション及びニューロンのホメオスタシスを維持するように強力にレギュレーションされている。このように、MECP2レベルの上昇(内因性レベルの2倍まで)により、MECP2機能喪失の反対の表現型を伴うレット様障害がもたらされる(Na et al. 2013)。このように、レット患者の処置のための新規な戦略を開発することが急務である。
【0009】
発明の概要
ここで、本発明者らは、コレステロール代謝経路をモデュレーションことにより、より具体的には、ターゲット細胞においてコレステロール 24-ヒドロキシラーゼを発現させるコレステロール 24-ヒドロキシラーゼをコードする核酸を含むベクターにより、レット症候群に対抗することを提案する。したがって、本発明の目的は、レット症候群の処置に使用するためのベクターであって、コレステロール 24-ヒドロキシラーゼをコードする核酸を含む、ベクターを提供することである。
【0010】
実施態様において、ベクターは、配列番号:2のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。代替的には、ベクターは、配列番号:1の核酸配列を含む。
【0011】
実施態様において、ベクターは、アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルス及びアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、好ましくは、AAVベクター、より好ましくは、AAV9、AAV10(AAVrh.10)又はAAVPHP.eBベクター、さらにより好ましくは、AAVPHP.eBの群より選択される。
【0012】
実施態様において、ベクターは、患者の脳に、好ましくは、脳の目的の全ての領域(海馬、皮質、線条体、橋及び小脳)に直接投与される。実施態様において、ベクターは、血管内、静脈内、鼻腔内、脳室内、髄腔内又は眼窩後方注射により投与される。特定の実施態様では、ベクターは、静脈内に投与される。特定の実施態様では、ベクターは、脳脊髄液に投与される。
【0013】
本発明の別の目的は、コレステロール 24-ヒドロキシラーゼをコードする核酸を含む、ベクターを含む、レット症候群の処置に使用するための医薬組成物を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】-野生型(対照)同腹仔(WT)と比較した、45日での悪化したMECP2 KOオスマウスモデルの脳領域(小脳、橋、線条体、海馬及び皮質)におけるCYP46A1の基礎レベル。
【
図2】-野生型(対照)同腹仔(WT)と比較した、45日での悪化したMECP2 KOオスの脳における脂質異常。
【
図3A】-非処置オスMECP2 KOマウス(KO MECP2)及び対照(WT)と比較した、AAVPHP.eB-CYP46A1を静脈内投与した後3週での軽度のMECP2 KOオスマウス(KO MECP2 AAV)の行動評価。(A)把持試験;(B)ロータロッド;(C)体重追跡。結果を平均±SEMとして表わす。
【
図3B】-非処置オスMECP2 KOマウス(KO MECP2)及び対照(WT)と比較した、AAVPHP.eB-CYP46A1を静脈内投与した後3週での軽度のMECP2 KOオスマウス(KO MECP2 AAV)の行動評価。(A)把持試験;(B)ロータロッド;(C)体重追跡。結果を平均±SEMとして表わす。
【
図3C】-非処置オスMECP2 KOマウス(KO MECP2)及び対照(WT)と比較した、AAVPHP.eB-CYP46A1を静脈内投与した後3週での軽度のMECP2 KOオスマウス(KO MECP2 AAV)の行動評価。(A)把持試験;(B)ロータロッド;(C)体重追跡。結果を平均±SEMとして表わす。
【
図4A】-軽度のオスKO MECP2の中枢神経系(A)及び末梢臓器(B)におけるAAVPHP.eB-CYP46A1の生体内分布。
【
図4B】-軽度のオスKO MECP2の中枢神経系(A)及び末梢臓器(B)におけるAAVPHP.eB-CYP46A1の生体内分布。
【
図5】-軽度のKO MECP2オスにおける16週齢での24OHコレステロールレベル定量によるターゲット関与の評価。UPLC-HRMSにより評価された軽度のKO MECP2オスマウスにおける脳の24S-ヒドロキシコレステロール含量。結果を平均±SEMとして表わす。
【
図6】-軽度のKO MECP2オスへのAAVPHP.eB-CYP46A1の静脈内送達後のプルキンエ細胞の16週での評価及び組織学的分析(小脳におけるプルキンエ細胞数の定量。結果を平均±SEMとして表わす)。
【
図7】-軽度のKO MECP2オスにおける処置としてのAAVPHP.eB-CYP46A1の静脈内送達後のアストログリオーシスの16週での評価及び組織学的分析。脳の異なる領域におけるアストロサイト数の定量。結果を平均±SEMとして表わす。
【
図8】-KO MECP2軽度のオスマウスにおける処置としてのAAVPHP.eB-CYP46A1の静脈内送達後のミクログリオーシスの16週での評価及び組織学的分析。脳の異なる領域におけるミクログリア細胞数の定量。結果を平均±SEMとして表わす。
【
図9A】-非処置オスMECP2 KOマウス(KO MECP2)及び対照(WT)と比較した、AAVPHP.eB-CYP46A1を静脈内投与した後3週での悪化したMECP2 KOオスマウス(KO MECP2 AAV)の行動評価。(A)把持試験;(B)ロータロッド;(C)体重追跡。結果を平均±SEMとして表わす。
【
図9B】-非処置オスMECP2 KOマウス(KO MECP2)及び対照(WT)と比較した、AAVPHP.eB-CYP46A1を静脈内投与した後3週での悪化したMECP2 KOオスマウス(KO MECP2 AAV)の行動評価。(A)把持試験;(B)ロータロッド;(C)体重追跡。結果を平均±SEMとして表わす。
【
図9C】-非処置オスMECP2 KOマウス(KO MECP2)及び対照(WT)と比較した、AAVPHP.eB-CYP46A1を静脈内投与した後3週での悪化したMECP2 KOオスマウス(KO MECP2 AAV)の行動評価。(A)把持試験;(B)ロータロッド;(C)体重追跡。結果を平均±SEMとして表わす。
【
図10A】-40日での悪化したKO MECP2オスの中枢神経系(A)及び末梢臓器(B)におけるAAVPHP.eB-CYP46A1の生体内分布。
【
図10B】-40日での悪化したKO MECP2オスの中枢神経系(A)及び末梢臓器(B)におけるAAVPHP.eB-CYP46A1の生体内分布。
【
図11A】-悪化したKO MECP2オスの腰部脳(lumbar brain)における6週でのコレステロール代謝に関与する遺伝子のmRNAレベル。mRNAを6週齢マウスの全脳から抽出し、マウス及びヒトの(A)CYP46A1レベル及び(B)コレステロール経路に関与する他の遺伝子を定量した。mRNAレベルをアクチンハウスキーピング遺伝子に対して正規化した。データを平均±SEM(群当たりにn=6)として表わす。データを平均±SEM(群当たりにn=7~9)として表わす。統計分析:スチューデントt検定。
*p<0.05、
**p<0.01。
【
図11B】-悪化したKO MECP2オスの腰部脳(lumbar brain)における6週でのコレステロール代謝に関与する遺伝子のmRNAレベル。mRNAを6週齢マウスの全脳から抽出し、マウス及びヒトの(A)CYP46A1レベル及び(B)コレステロール経路に関与する他の遺伝子を定量した。mRNAレベルをアクチンハウスキーピング遺伝子に対して正規化した。データを平均±SEM(群当たりにn=6)として表わす。データを平均±SEM(群当たりにn=7~9)として表わす。統計分析:スチューデントt検定。
*p<0.05、
**p<0.01。
【
図12】-悪化したKO MECP2オスにおける処置としてのAAVPHP.eB-CYP46A1の静脈内送達後のプルキンエ細胞の6週での評価及び組織学的分析。小脳におけるプルキンエ細胞数の定量。結果を平均±SEMとして表わす。
【
図13】-悪化したKO MECP2オスにおける処置としてのAAVPHP.eB-CYP46A1の静脈内送達後のアストログリオーシスの6週での評価及び組織学的分析。脳の種々の領域におけるアストロサイト数の定量。結果を平均±SEMとして表わす。
【
図14】-悪化したKO MECP2オスマウスにおける処置としてのAAVPHP.eB-CYP46A1の静脈内送達後のミクログリオーシスの16週での評価及び組織学的分析。脳の種々の領域におけるミクログリア細胞数の定量。結果を平均±SEMとして表わす。
【
図15A】-非処置オスMECP2 KOマウス(KO MECP2)及び対照(WT)と比較した、AAVPHP.eB-CYP46A1を静脈内投与した後12週での悪化したMECP2 KOメスマウス(KO MECP2 AAV)の行動評価。(A)把持試験;(B)ロータロッド;(C)体重追跡。結果を平均±SEMとして表わす。
【
図15B】-非処置オスMECP2 KOマウス(KO MECP2)及び対照(WT)と比較した、AAVPHP.eB-CYP46A1を静脈内投与した後12週での悪化したMECP2 KOメスマウス(KO MECP2 AAV)の行動評価。(A)把持試験;(B)ロータロッド;(C)体重追跡。結果を平均±SEMとして表わす。
【
図15C】-非処置オスMECP2 KOマウス(KO MECP2)及び対照(WT)と比較した、AAVPHP.eB-CYP46A1を静脈内投与した後12週での悪化したMECP2 KOメスマウス(KO MECP2 AAV)の行動評価。(A)把持試験;(B)ロータロッド;(C)体重追跡。結果を平均±SEMとして表わす。
【0015】
発明の詳細な説明
本発明者らは、RTTのマウスモデルにおいて、CYP46A1遺伝子を発現するベクターを静脈内に送達することにより、オス及びメスの両マウスにおいて、この疾患の軽度及び悪化したモデルにおける運動障害の発症を予防し/修正することが可能であることを実証した。加えて、オスにおいて、本発明者らは、軽度のKO MECP2モデルにおいて、プルキンエ細胞の喪失の予防並びにアストログリオーシス及びミクログリオーシスの改善を実証した。
【0016】
これに基づいて、本発明者らは、レット症候群の処置のためのウイルスベクターであって、中枢神経系の細胞、特に、皮質、海馬、線条体及び小脳内のニューロンにおいて、CYP46A1を発現させる、ウイルスベクターを提供する。この戦略は、レット症候群に関連する知的障害又は自閉症スペクトラム障害を伴う他の病理を処置するのに有用であることができる。
【0017】
レット症候群
本発明は、特に、レット症候群の処置に関する。好ましくは、本発明は、普遍的に発現される転写レギュレーターであるX連結遺伝子メチル-CpG結合タンパク質2(MECP2)における突然変異により引き起こされるレット症候群の処置に関する。実施態様において、本発明は、知的障害に関連するレット症候群の処置に関する。
【0018】
本発明の文脈において、「処置」、「処置する」又は「処置すること」という用語は、本明細書において、(1)このような用語が適用される疾患状態もしくは状態の症状の進行、悪化もしくは憎悪を減速させもしくは停止させること;(2)このような用語が適用される疾患状態もしくは状態の症状を軽減しもしくはその改善をもたらすこと;及び/又は(3)このような用語が適用される疾患状態もしくは状態を逆転させもしくは治癒することを目的とする治療法又はプロセスを特徴付けるのに使用される。
【0019】
本明細書で使用する場合、「対象」又は「患者」という用語は、動物、好ましくは、ほ乳類、さらにより好ましくは、成人及び小児を含むヒトを指す。ただし、「対象」という用語は、非ヒト動物、ほ乳類、例えば、マウス及び非ヒト霊長類も指すことができる。
【0020】
CYP46A1配列
本発明の第1の目的は、コレステロール 24-ヒドロキシラーゼをコードする核酸の完全配列を含む、レット症候群の処置に使用するためのベクターに関する。
【0021】
本明細書で使用する場合、「遺伝子」という用語は、転写され又は翻訳された後に特定のポリペプチド又はタンパク質をコードすることができる少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含むポリヌクレオチドを指す。
【0022】
本明細書で使用する場合、「コード配列」又は「特定のタンパク質をコードする配列」という用語は、適切なレギュラトリー配列の制御下に置かれた場合、in vitro又はin vivoで転写され(DNAの場合)、ポリペプチドに翻訳される(mRNAの場合)核酸配列を指す。コード配列の境界は、5’(アミノ)末端における開始コドン及び3’(カルボキシ)末端における翻訳停止コドンにより決定される。コード配列は、原核生物又は真核生物のmRNA由来のcDNA、原核生物又は真核生物のDNA由来のゲノムDNA配列を含み、合成DNA配列も含むが、これらに限定されない。
【0023】
CYP46A1遺伝子は、コレステロール 24-ヒドロキシラーゼをコードする。この酵素は、シトクロムP450スーパーファミリーの酵素のメンバーである。この酵素は、コレステロールを24S-ヒドロキシコレステロール(24S-OH-Chol)に変換する。24S-ヒドロキシコレステロールは、BBBを動的に通過することができる。これにより、体外に排出される末梢循環が達成され(Bjorkhem, I. et al.1998)、このようにして、コレステロールのホメオスタシスが維持される。CYP46A1についてのcDNA配列は、Genbank Access Number AF094480(配列番号:1)に開示されている。そのアミノ酸配列を配列番号:2に示す。
【0024】
本発明は、レット症候群及び場合により、関連する自閉症スペクトラム関連障害の処置のために、配列番号:1の配列又はその変異体を含む、核酸構築物を使用する。
【0025】
変異体は、例えば、個体間のアレル改変(例えば、多型)、選択的スプライシング形態等による天然変異体を含む。また、変異体という用語は、他の供給源又は生物由来のCYP46A1遺伝子配列も含む。変異体は、好ましくは、配列番号:1と実質的に相同である、すなわち、配列番号:1と典型的には、少なくとも約75%、好ましくは、少なくとも約85%、より好ましくは、少なくとも約90%、より好ましくは、少なくとも約95%のヌクレオチド配列同一性を示す。また、CYP46A1遺伝子の変異体は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で上記定義された配列(又はその相補鎖)にハイブリダイゼーションする核酸配列も含む。典型的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、30℃超、好ましくは、35℃超、より好ましくは、42℃超の温度及び/又は約500mM未満、好ましくは、200mM未満の塩分を含む。ハイブリダイゼーション条件を、温度、塩分及び/又は他の試薬、例えば、SDS、SSC等の濃度を改変することにより、当業者により調整することができる。
【0026】
非ウイルスベクター
実施態様において、本発明で使用されるベクターは、非ウイルスベクターである。典型的には、非ウイルスベクターは、CYP46A1をコードするプラスミドであることができる。このプラスミドを、直接又はリポソーム、エキソソームもしくはナノ粒子を介して投与することができる。
【0027】
ウイルスベクター
本発明の実施に有用な遺伝子送達ウイルスベクターを、分子生物学の分野において周知の方法を利用して構築することができる。典型的には、導入遺伝子を運ぶウイルスベクターは、導入遺伝子、適切なレギュラトリーエレメント及び細胞トランスダクションを媒介するウイルスタンパク質の産生に必要なエレメントをコードするポリヌクレオチドから組み立てられる。
【0028】
「遺伝子移入」又は「遺伝子送達」という用語は、ホスト細胞内に外来DNAを確実に挿入するための方法又は系を指す。このような方法により、組み込まれていない移入DNAの一時的な発現、染色体外複製及び移入されたレプリコン(例えば、エピソーム)の発現又は移入された遺伝物質のホスト細胞のゲノムDNAへの組み込みをもたらすことができる。
【0029】
ウイルスベクターの例は、アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルス及びアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを含む。
【0030】
このようなリコンビナントウイルスを当該分野において公知の技術により、例えば、パッケージング細胞をトランスフェクションすることにより又はヘルパープラスミドもしくはウイルスによる一過性トランスフェクションにより産生することができる。ウイルスパッケージング細胞の典型的な例は、PA317細胞、PsiCRIP細胞、GPenv+細胞、293細胞等を含む。このような複製欠損リコンビナントウイルスを産生するための詳細なプロトコールを例えば、WO第95/14785号、同第96/22378号、US第5,882,877号、同第6,013,516号、同第4,861,719号、同第5,278,056号及びWO第94/19478号に見出すことができる。
【0031】
好ましい実施態様では、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターが利用される。
【0032】
「AAVベクター」は、アデノ随伴ウイルス血清型(AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV8、AAV9、AAV10、例えば、AAVrh.10、AAVPHP.eB等を含むが、これらに限定されない)に由来するベクターを意味する。AAVベクターは、全体又は一部、好ましくは、rep及び/又はcap遺伝子で欠失しているが、機能的フランキングITR配列を保持している、AAV野生型遺伝子のうちの1つ以上を有することができる。機能的ITR配列は、AAVビリオンのレスキュー、複製及びパッケージングに必要である。このため、AAVベクターは、本明細書において、ウイルスの複製及びパッケージングにcisで必要とされるような配列(例えば、機能的ITR)を少なくとも含むと定義される。ITRは、野生型ヌクレオチド配列である必要はなく、その配列が機能的レスキュー、複製及びパッケージングを提供する限り、例えば、ヌクレオチドの挿入、欠失又は置換により改変することができる。AAV発現ベクターは、少なくとも転写の方向に操作可能に連結された成分、転写開始領域、目的のDNA(すなわち、CYP46A1遺伝子)及び転写終止領域を含む制御エレメントを提供するために、公知の技術を使用して構築される。自己相補的構築物14として、目的のDNAの2コピーを含ませることができる。
【0033】
より好ましい実施態様では、AAVベクターは、AAV9、AAV10(AAVrh.10)、AAVPHP.BもしくはAAVPHP.eBベクター又はこれらの血清型のうちの1つに由来するベクターである。最も好ましい実施態様では、AAVベクターは、AAVPHP.eBベクターである。AAVPHP.eBベクターは、CNSニューロンを効率的にトランスダクションする進化型AAV-PHP.B変異体である(Ken Y Chan et al. 2017;WO第2017100671号)。また、他のベクター、例えば、WO第2015038958号及び同第2015191508号に記載されているベクターも使用することができる。
【0034】
制御エレメントは、哺乳動物細胞において機能的であるように選択される。操作可能に連結された成分を含有する得られた構築物は、機能的AAV ITR配列と結合している(5’及び3’)。「アデノ随伴ウイルス逆方向末端リピート」又は「AAV ITR」は、AAVゲノムの各端部に見出される当技術分野において認識される領域を意味する。AAV ITR同士は、DNA複製の起点及びウイルスのためのパッケージングシグナルとしてcisに機能する。AAV ITRは、AAV repコーディング領域と共に、2つの隣接するITR間に介在されるヌクレオチド配列のほ乳類細胞ゲノムからの効率的な切り出し及びレスキュー並びに2つの隣接するITR間に介在されるヌクレオチド配列のほ乳類細胞ゲノムへの組み込みを提供する。AAV ITR領域のヌクレオチド配列は、AAV-2配列について公知である(例えば、Kotin, 1994; Berns, KI 「Parvoviridae and their Replication」 in Fundamental Virology, 2nd Edition, (B. N. Fields and D. M. Knipe, eds.を参照のこと)。本明細書で使用する場合、「AAV ITR」は、必ずしも野生型ヌクレオチド配列を含む必要はなく、例えば、ヌクレオチドの挿入、欠失又は置換により改変されている場合がある。さらに、AAV ITRを幾つかのAAV血清型(AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV6等を含むが、これらに限定されない)のいずれかから得ることができる。さらに、AAVベクター中の選択されたヌクレオチド配列に隣接する5’及び3’ ITRは、意図したように機能する限り、すなわち、ホスト細胞ゲノム又はベクターから目的の配列の切り出し及びレスキューを可能にしかつAAV Rep遺伝子産物が細胞に存在する場合、レシピエント細胞ゲノムへの異種配列の組み込みを可能にする限り、必ずしも同一である必要はなく又は同じAAV血清型もしくは単離物に由来するものである必要はない。
【0035】
ほ乳類中枢神経系(CNS)の細胞、特に、ニューロンに対する指向性及び同細胞における高いトランスダクション効率を有するAAV血清型から得られるベクターが特に好ましい。種々の血清型のトランスダクション効率のレビュー及び比較は、Davidson et al, 2000において提供されている。1つの好ましい例では、AAV2ベースのベクターは、CNS、好ましくは、トランスダクションされたニューロンにおける導入遺伝子の長期発現を指示することが示されている。他の非限定的な例では、好ましいベクターは、AAV4及びAAV5血清型から得られるベクターを含む。また、このベクターは、CNSの細胞をトランスダクションすることが示されている(前述のDavidson et al)。特に、このベクターは、AAV5から得られるゲノム(特に、ITRは、AAV5 ITRである)及びAAV5から得られるカプシドを含むAAVベクターであることができる。
【0036】
本発明の特定の実施態様では、ベクターは、シュードタイプ化AAVベクターである。具体的には、シュードタイプ化AAVベクターは、第1のAAV血清型から得られるAAVゲノム及び第2のAAV血清型から得られるカプシドを含む。好ましくは、AAVベクターのゲノムは、AAV2から得られる。さらに、カプシドは、好ましくは、AAV5から得られる。シュードタイプ化AAVベクターの具体的な非限定的な例は、AAV5から得られるカプシド中にAAV2から得られるゲノムを含むAAVベクター、AAVrh.10から得られるカプシド中にAAV2から得られるゲノムを含むAAVベクター等を含む。
【0037】
選択されたヌクレオチド配列は、in vivoで対象において、その転写又は発現を指示する制御エレメントに操作可能に連結される。このような制御エレメントは、選択された遺伝子に通常関連する制御配列を含むことができる。特に、このような制御エレメントは、CYP46A1遺伝子のプロモーター、特に、ヒトCYP46A1遺伝子のプロモーターを含むことができる(Ohyama Y et al., 2006)。
【0038】
代替的には、異種制御配列を利用することができる。有用な異種制御配列は、一般的には、ほ乳類又はウイルス遺伝子をコードする配列から得られるものを含む。例は、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター、SV40初期プロモーター、マウス乳癌ウイルスLTRプロモーター;アデノウイルス主要後期プロモーター(Ad MLP);単純ヘルペスウイルス(HSV)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、例えば、CMV前初期プロモーター領域(CMVIE)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、合成プロモーター、ハイブリッドプロモーター等を含むが、これらに限定されない。加えて、非ウイルス遺伝子、例えば、マウスメタロチオネイン遺伝子から得られる配列も、本明細書での使用が見出されるであろう。このようなプロモーター配列は、例えば、Stratagene(San Diego, CA)から市販されている。本発明の目的で、異種プロモーター及び他の制御エレメント、例えば、CNS特異的プロモーター及び誘引性プロモーター、エンハンサー等の両方が特に使用されるであろう。
【0039】
異種プロモーターの例は、CMVプロモーターを含む。CNS特異的プロモーターの例は、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)、シナプシン(例えば、ヒトシナプシン1遺伝子プロモーター)及びニューロン特異的エノラーゼ(NSE)由来の遺伝子から単離されたものを含む。
【0040】
誘引性プロモーターの例は、エクジソン、テトラサイクリン、低酸素症及びオーフィン(aufin)についてのDNA応答エレメントを含む。
【0041】
AAV ITRに結合された目的のDNA分子を有するAAV発現ベクターを、選択された配列をAAVゲノムに直接挿入することにより構築することができる。このゲノムは、それから切り出された主なAAVオープンリーディングフレーム(「ORF」)を有する。ITRの十分な部分が、複製及びパッケージング機能を可能にするために残っている限り、AAVゲノムの他の部分を欠失させることもできる。このような構築物を、当技術分野において周知の技術を使用して設計することができる。例えば、US第5,173,414号及び同第5,139,941号;WO第92/01070号(1992年1月23日に公開)及び同第93/03769号(1993年3月4日に公開);Lebkowski et al., 1988;Vincent et al., 1990;Carter, 1992;Muzyczka, 1992;Kotin,1994;Shelling and Smith, 1994及びZhou et al., 1994を参照のこと。代替的には、AAV ITRを、ウイルスゲノム又はそれを含有するAAVベクターから切り出すことができ、標準的なライゲーション技術を使用して、別のベクターに存在する選択された核酸構築物の5’及び3’に融合させることができる。ITRを含有するAAVベクターは、例えば、US第5,139,941号に記載されている。特に、幾つかのAAVベクターは、そこに記載されており、American Type Culture Collection(「ATCC」)から、受託番号53222、53223、53224、53225及び53226で入手可能である。さらに、キメラ遺伝子を、1つ以上の選択された核酸配列の5’及び3’に配置されたAAV ITR配列を含むように合成的に産生することができる。ほ乳類CNS細胞におけるキメラ遺伝子配列の発現に好ましいコドンを使用することができる。完全なキメラ配列は、標準的な方法により調製された重複オリゴヌクレオチドから組み立てられる(例えば、Edge, 1981;Nambair et al., 1984;Jay et al., 1984を参照のこと)。rAAVビリオンを産生するために、AAV発現ベクターは、公知の技術を使用して、例えば、トランスフェクションにより、適切なホスト細胞に導入される。多くのトランスフェクション技術が、当技術分野において一般に公知である(例えば、Graham et al., 1973;Sambrook et al. (1989) Molecular Cloning, a laboratory manual, Cold Spring Harbor Laboratories, New York、Davis et al. (1986) Basic Methods in Molecular Biology, Elsevier, and Chu et al., 1981を参照のこと)。特に適切なトランスフェクション法は、リン酸カルシウム共沈(Graham et al., 1973)、培養細胞への直接マイクロインジェクション(Capecchi, 1980)、エレクトロポレーション(Shigekawa et al., 1988)、リポソーム媒介遺伝子導入(Mannino et al., 1988)、脂質媒介トランスダクション(Felgner et al., 1987)及び高速マイクロプロジェクタイルを使用する核酸送達(Klein et al., 1987)を含む。
【0042】
例えば、好ましいウイルスベクター、例えば、AAVPHP.eBは、コレステロール 24-ヒドロキシラーゼをコードする核酸配列に加えて、AAV-2から得られるITRを有するAAVベクターの骨格、プロモーター、例えば、マウスPGK(ホスホグリセリン酸キナーゼ)遺伝子又はサイトメガロウイルス即時型遺伝子由来のエンハンサー、プロモーター、スプライスドナー及びニワトリβ-アクチン遺伝子由来のイントロンからなるサイトメガロウイルス/β-アクチンハイブリッドプロモーター(CAG)、ウサギβ-グロビン由来のスプライスアクセプター又は任意のニューロンプロモーター、例えば、野生型もしくは突然変異型のウッドチャック肝炎ウイルス転写後レギュラトリーエレメント(WPRE)を伴うかもしくは伴わないドパミン-1レセプターもしくはドパミン-2レセプターのプロモーターを含む。
【0043】
ベクターの送達
レット症候群の処置方法が開示される。この方法は、コレステロール 24-ヒドロキシラーゼをコードする核酸を含むベクターを、それを必要とする患者に投与することを含む。ベクターを対象の脳及び/もしくは脊髄に直接又は血管内、静脈内、眼窩後方、鼻腔内、脳室内もしくは髄腔内注射により送達することができる。
【0044】
特定の実施態様では、対象におけるレット症候群(RTT)を処置するための方法であって、
(a)コレステロール 24-ヒドロキシラーゼをコードする核酸を含む上記定義されたベクターを提供することと、
(b)このベクターを対象の脳及び/又は脊髄に送達することで、前記ベクターにより、脳及び/又は脊髄中の細胞がトランスダクションされ、それにより、コレステロール 24-ヒドロキシラーゼが、トランスダクションされた細胞により治療上有効レベルで発現されることとを含む、方法が提供される。
【0045】
有利には、ベクターは、ウイルスベクターであり、より有利には、AAVベクターであり、さらに有利には、AAV9、AAV10又はAAVPHP.eB、好ましくは、AAVPHP.eBからなる群より選択されるAAVベクターである。
【0046】
特定の実施態様では、ベクターは、脳、特に、運動皮質及び/又は脊髄に送達される。特定の実施態様では、ベクターは、脊髄のみに送達される。
【0047】
ニューロン及び/又はアストロサイト及び/又はオリゴデンドロサイト及び/又はミクログリアへのウイルスベクターの送達又は投与の方法は、一般的には、選択されたシナプス接続細胞集団の細胞の少なくとも一部がトランスダクションされるように、直接又は造血細胞トランスダクションを介して、前記細胞にベクターを送達するのに適した任意の方法を含む。ベクターを中枢神経系の任意の細胞、末梢神経系の細胞又はその両方に送達することができる。好ましくは、ベクターは、脳及び/又は脊髄の細胞に送達される。一般的には、ベクターは、例えば、運動皮質、脊髄もしくはそれらの組み合わせの細胞又はそれらの任意の適切な部分集団を含む、脳の細胞に送達される。
【0048】
ベクターを特定の領域及び脳又は脊髄の細胞の特定の集団に特異的に送達するために、ベクターを定位マイクロインジェクションにより投与することができる。例えば、患者は、定位フレームベースを適所に固定されている(頭蓋骨にねじ込まれている)。定位フレームベース(基準マーキングに適合するMRI)を有する脳は、高分解能MRIを使用して撮像される。ついで、MRI画像は、定位ソフトウェアを実行するコンピュータに転送される。ターゲット(ベクター注入部位)及び投射経路を決定するために、一連の冠状断、矢状断及び軸方向の画像が使用される。ソフトウェアは、投射経路を定位フレームに適した三次元座標に直接変換する。頭蓋穿孔は、入口部位及び定位装置の上方に、所定の深さで針を埋め込んだ状態で位置決めされてドリルで開けられる。ついで、ベクターは、ターゲット部位に注入され、最終的に造影剤と混合される。ベクターは、ウイルス粒子を産生するのではなく、ターゲット細胞に組み込まれるため、ベクターのその後の拡散は少なく、主に、組み込み前の注入部位からの受動拡散及び当然のことながら所望のトランスシナプス輸送の関数である。拡散の程度を、流体担体に対するベクターの比を調整することにより制御することができる。
【0049】
また、更なる投与経路は、直接可視化下でのベクターの局所適用、例えば、表層皮質適用、鼻腔内適用又は他の非定位適用を含むこともできる。
【0050】
本発明のベクターのターゲット細胞は、RTTに罹患した対象の海馬、皮質、線条体及び小脳における脳の細胞(ニューロン)、好ましくは、神経細胞である。好ましくは、対象は、ヒト、一般的には、小児又は乳児、特に、女性の乳児であるが、成人である場合がある。
【0051】
一方、本発明は、ベクターを疾患の生物学的モデルに送達することを包含する。その場合、生物学的モデルは、送達時での任意の発達段階、例えば、胚、胎児、乳児、若年又は成体、好ましくは成体にある任意のほ乳類であることができる。さらに、ターゲット細胞は、基本的には、任意の供給源、特に、非ヒト霊長類並びにげっ歯目(マウス、ラット、ウサギ、ハムスター)、食肉目(ネコ、イヌ)及び偶蹄目(ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ)のほ乳類並びに任意の他の非ヒト系(例えば、ゼブラフィッシュモデル系)に由来することができる。
【0052】
好ましくは、本発明の方法は、定位注入による脳内投与を含む。ただし、他の公知の送達方法も、本発明に従って適合させることができる。例えば、脳を通過するベクターのより広範な分布のために、例えば、腰椎穿刺、大槽又は脳室穿刺により、脳脊髄液内に注入することができる。ベクターを脳に向けるために、脊髄もしくは末梢神経節又は対象とする身体部分の肉(皮下又は筋肉内)に注入することができる。特定の状況において、ベクター、例えば、ここでは、AAVPHP.eBを含むベクターを、血管内アプローチを介して投与することができる。例えば、ベクターを、血液脳関門が妨害される状況において、動脈内(頸動脈)に投与することができる。さらに、より全体的な送達のために、ベクターを、マンニトールを含む高張溶液の注入又は超音波局所送達により達成される血液脳関門の「開口」の間に投与することができる。
【0053】
本明細書で使用されるベクターを送達のための任意の適切な媒体中に配合することができる。例えば、ベクターを薬学的に許容し得る懸濁液、溶液又はエマルジョン中に入れることができる。適切な媒体は、生理食塩水及びリポソーム調製物を含む。より具体的には、薬学的に許容し得る担体は、無菌の水溶液又は非水溶液、懸濁液及びエマルジョンを含むことができる。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、例えば、オリーブ油及び注射用有機エステル、例えば、エチルオレアートである。水性担体は、水、アルコール性/水性溶液、エマルジョン又は懸濁液を含み、生理食塩水、緩衝化媒体を含む。静脈内用媒体は、流体及び栄養補充物、電解質補充物(例えば、リンゲルデキストロースをベースとしたもの)等を含む。
【0054】
保存剤及び他の添加剤、例えば、抗微生物剤、抗酸化剤、キレート化剤及び不活性ガス等も存在することができる。
【0055】
また、コロイド分散系も、ターゲット化遺伝子送達に使用することができる。コロイド分散系は、高分子複合体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ及び水中油型エマルジョン、ミセル、混合ミセル及びリポソーム又はエキソソームを含む脂質ベースの系を含む。
【0056】
好ましい用量及び計画を医師により決定することができ、対象の年齢、性別、体重及び疾患の段階により決まる。例として、ウイルス発現ベクターを使用するコレステロール 24-ヒドロキシラーゼの送達のために、コレステロール 24-ヒドロキシラーゼ発現ベクターの各単位用量は、薬学的に許容し得る流体中にウイルス発現ベクターを含み、組成物 1ml当たりに1010~1015個 コレステロール 24-ヒドロキシラーゼ発現ウイルス粒子を提供する組成物 2.5~1mlを含むことができる。
【0057】
医薬組成物
本発明の更なる目的は、治療上有効量の本発明のベクターを含む、レット症候群の処置に使用するための医薬組成物に関する。
【0058】
「治療上有効量」は、任意の医学的処置に適用可能な合理的利益/リスク比でレット症候群を処置するのに十分な本発明のベクターの量を意味する。
【0059】
本発明の化合物及び組成物の総日量は、正常な医学的判断の範囲内で主治医により決定されるであろうことが理解されるであろう。任意の特定の患者についての特定の治療上有効用量レベルは、処置される障害及び障害の重症度;利用される特定の化合物の活性;利用される特定の組成;患者の年齢、体重、一般的な健康、性別及び食事;利用される特定の化合物の投与のタイミング、投与経路及び排泄速度;処置期間;利用される特定のポリペプチドと組み合わせて又は同時に使用される薬剤並びに医療分野において周知の要因を含む各種の要因に基づいて決まるであろう。例えば、所望の治療効果を達成するために必要とされるレベルより低いレベルで化合物の投与を開始し、所望の効果が達成されるまで用量を徐々に増加させることは、十分に当業者の範囲内である。ただし、製品の日量は、1日当たり成人当たりに広い範囲にわたって変化させることができる。投与されるべき本発明のベクターの治療上有効量並びに本発明の一定数のウイルス粒子もしくは非ウイルス粒子及び/又は医薬組成物による病的状態の処置のための用量は、患者の年齢及び状態、障害(disturbance)又は障害(disorder)の重症度、投与の方法及び頻度並びに使用される特定のペプチドを含む多数の要因により決まるであろう。
【0060】
本発明のベクターを含有する医薬組成物の提供は、筋肉内、脳内、鼻腔内、髄腔内、脳室内又は静脈内投与に適した任意の形態にあることができる。筋肉内、鼻腔内、眼窩後方、静脈内、脳内、髄腔内又は脳室内投与のための本発明の医薬組成物において、有効成分を単独で又は別の有効成分と組み合わせて、単位投与形態で、従来の医薬支持体との混合物として、動物及びヒトに投与することができる。
【0061】
好ましくは、該医薬組成物は、注入可能な製剤に薬学的に許容し得る媒体を含有する。これらは、特に、等張性で無菌の生理食塩水(リン酸一ナトリウムもしくは二ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムもしくは塩化マグネシウム等又はこのような塩の混合物)又は乾燥、特に、凍結乾燥組成物であることができる。凍結乾燥組成物は、場合により、滅菌水又は生理食塩水の添加に基づいて、無菌注射用溶液を構成可能である。
【0062】
製剤に基づいて、溶液は、投与製剤に適合した様式でかつ治療上有効な量で投与されるであろう。製剤は、各種の投与形態、例えば、ある種の注射用溶液で容易に投与されるが、薬剤放出カプセル等も利用することができる。
【0063】
複数用量も投与することができる。
【0064】
また、治療アプローチを、CYP46A1を活性化することができる低分子化合物、例えば、エファビレンツ(Mast, N. et al. 2017;Mast, N. et al. 2014)又は抗真菌剤(Mast, N. et al. 2013;Fourgeux, C. et al. 2014)、逆に、CYP46A1を阻害することができるため、必要に応じて遺伝子治療アプローチを中止する方法であることができる低分子化合物と関連付けることも可能である。
【0065】
本発明を下記実施例によりさらに説明するものとする。ただし、この実施例及び添付の図面は、本発明の範囲を限定するものとして決して解釈されるべきではない。
【0066】
実施例
この実験では、レット症候群の重症マウスモデルを使用し、表現型の顕著なレスキューを実証した。
【0067】
材料及び方法
動物
この研究では、2系統のマウスを使用した。
【0068】
3匹のメスB6.129P2(C)-Mecp2tm1Bird/Jホモ接合体をJackson Laboratories(ストック007177)から入手し、C57BL/6マウスと交配させて、コロニーを生成し、その後、軽度のMECP2 KOと命名した。
【0069】
10匹のメスB6.129P2(C)-Mecp2tm.11Bird/Jヘテロ接合体をJackson Laboratories(ストック003890)から入手し、C57BL/6マウスと交配させて、コロニーを生成し、その後、悪化したMECP2 KOと命名した。
【0070】
マウスを温度制御された部屋で飼育し、12時間の明/暗サイクルで維持した。食物及び水は、自由に入手可能とした。実験を、実験動物のケア及び使用に関する欧州共同体評議会指令(2010/63/EU)に従って行った。
【0071】
AAVプラスミド設計及びベクター産生
AAVベクターをAtlantic Gene therapies(INSERM U1089, Nantes, France)により産生し、精製した。ベクター産生は、他にも記載されている(Hudry et al, 2010)。AAVPHP.eB-CYP46A1-HAについてのウイルス構築物は、AAV2の逆方向末端リピート(ITR)配列に囲まれたCMV初期エンハンサー/ニワトリβ-アクチン(CAG)合成プロモーター(CAG)により駆動されるヒトCyp46a1遺伝子からなる発現カセットを含有した。
【0072】
MECP2遺伝子型判定
マウスをコロニーに応じて、Jackson lab手法(https://www2.jax.org/protocolsdb/f?p=116:5:0::NO:5:P5_MASTER_PROTOCOL_ID,P5_JRS_CODE:28595,007177)及び(https://www.jax.org/Protocol?stockNumber=003890&protocolID=24870)に従って遺伝子型判定した。
【0073】
静脈内注入
3週齢のMECP2-/yオス(軽度及び悪化)マウス及び12週齢のMECP2+/-悪化メスを4% イソフルランで麻酔誘引し、ついで、80% 空気及び20% 酸素で2%に維持した。軽度のMECP2-/y動物(n=14)に、眼窩後方注入により総量5.10e11 vg(容量100ul)の静脈内注入を行った。WT及び非注入悪化MECP2-/y動物(各群当たりにn=10~13)に、生理食塩水 100μlを注入した。MECP2-/y動物(n=11)に、眼窩後方注入により総量5.10e11 vg(容量100μl)の静脈内注入を行った。WT及び非注入MECP2-/y動物(各群当たりにn=17~19)に、生理食塩水 100μlを注入した。
【0074】
悪化したMECP2+/-メス動物(n=8)に、眼窩後方注入により総量5.10e11 vg(用量100μL)の静脈内注入を行った。野生型及び非注入MECP2+/-動物(各群当たりにn=9~10)に、生理食塩水 100μlを注入した。
【0075】
行動試験
把持試験
把持試験は、整合を評価し、レット評価に古典的である。動物を注入前及びその後3週から32週(軽度のKOオスについて)まで、悪化したKOオスについて6週間まで毎週スコア化した。悪化したメスについては、注入の1週間後及びその後3週間ごとに(現在は進行中であるが、25週まで)スコア化した。動物の尾を持って維持し、マウスが単収縮している場合、スコアを「1」とし、ついで、各後肢把持について、スコアにポイントを加える。結果を各試験について、各群についての平均±SEMとして表わし、二元配置分散分析を行った。
【0076】
ロータロッド
一般的な運動能力を、加速ロータロッドLE8200(Bioseb, France)を使用して試験し、以前に記載されたように(https://www.mousephenotype.org/)測定した。動物を3週齢から最長生存期間(悪化したKOオスでは6週、軽度のKOオスでは28週、悪化したKOメスではこれまでの19週)まで毎週スコア化した。
【0077】
組織収集
マウスをペントバルビタール(180mg/kg Euthasol)溶液で麻酔し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で経心的に潅流した。脳、脊髄及び坐骨神経並びに末梢臓器(肝臓、心臓、肺、腎臓、脾臓、横隔膜、腓腹筋)を収集し、4% PFA中で後固定し、その後、組織学のためにパラフィン封入(ミクロトームで6~10μmに切断)するか又は生体分子分析のために液体窒素中で直ちに凍結させた。
【0078】
種々の組織を液体窒素中で粉砕し/破砕し、分離して、RNA、DNA発現を分析し又は脂質分析を行った。
【0079】
一次抗体
免疫組織化学(IHC)分析に使用された抗体を以下の表1に列記する。
【0080】
【0081】
免疫染色
パラフィン切片
免疫組織化学的ラベルを、ABC法を使用して行った。簡潔に、組織切片を過酸化物で30分間処理して、内因性ペルオキシダーゼを阻害した。PBS中で洗浄した後、切片を10mM Tris/1mM EDTA/0.1% Tween(pH8.75)で、95℃において45分間(抗HAについてのみ)又は10mM シトラート(pH6)で、95℃において45分間(抗CBについてのみ)処理した。PBS中で洗浄した後、切片をブロッキング溶液(PBS/0.3% TritonX-100中の10% ヤギ血清)と共に1時間インキュベーションした。一次抗体をブロッキング溶液で希釈し、組織切片上において4℃で一晩インキュベーションした。PBS中で洗浄した後、切片を、ビオチンにコンジュゲートさせたヤギ抗ウサギ又はヤギ抗マウス抗体(Vector Laboratories)と共に室温で30分間、続けて、ABC複合体(Vector Laboratories)と共に連続的にインキュベーションした。PBS中で洗浄した後、ペルオキシダーゼ活性を、色原体としてジアミノベンジジン(Dako, Carpinteria, CA)を使用して検出した。場合により、スライドをヘマトキシリンで対比染色した。スライドをDepex(VWR International)でマウントした。
【0082】
ニッスル染色を標準的なプロトコールに従って、脳切片に対して行った。
【0083】
画像取得
全てのIHC及び着色について、切片を、Hamamatsuスライドスキャナを使用して取得した。
【0084】
DNA抽出
DNAを脳、脊髄及び末梢臓器から、クロロホルム/フェノールプロトコールを使用して抽出した。
【0085】
RNA抽出
全RNAを、Trizol又はTriReagent(Sigma)を使用して脳の一部から抽出した。1マイクログラム 全RNAを製造メーカーの説明書に従って、Transcriptor First Strand cDNA合成キット(Roche)を使用してcDNAに転写した。
【0086】
q-PCR
cDNAをSyberGreen(Roche)で増幅した。RT-qPCRのためのプライマーは、上記表とした。全てのプライマーについての増幅プロトコールは、ホットスタート(95℃で5分間)、45増幅サイクル(95℃で15秒間、60℃で1分間)及び融解曲線分析とした。データを、各遺伝子についての効率因子を有するLightcycler 480ソフトウェアを使用して分析し、アクチンに対して正規化した。
【0087】
【0088】
ベクターゲノムコピー数を、Light Cycler 480 SYBR Green I Master(Roche, France)を使用して脊髄、脳、坐骨神経及び末梢臓器から抽出したゲノムDNAについてqPCRにより測定した。結果(細胞当たりのベクターゲノムコピー数)を内部標準としてAdck3遺伝子コピーに対する導入遺伝子配列コピー数のn倍の差として表わした(2Nゲノムについてのウイルスゲノムコピー数)。
【0089】
コレステロール及びオキシステロール測定
コレステロール及びオキシステロール分析は、自動酸化アーチファクトの形成を最小限に抑えるために、「ゴールドスタンダード」法(Dzeletovic et al., 1995)に従った。簡潔に、マウス脳組織サンプルを秤量し、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT、50μg/ml)及びEDTA(0.5M)を含有する溶液 500μl中で、TissueLyser II装置(Qiagen)でホモジナイズした。この時点で、内部標準の混合物[エピコプロスタノール、2H7-7-ラトステロール、2H6-デスモステロール、2H6-ラノステロール及び2H7-24(R/S)-ヒドロキシコレステロール](Avanti Polar Lipids)を加えた。アルカリ加水分解を、0.35M エタノール性KOHを使用して、Ar下、室温で2時間行った。溶液をリン酸で中和した後、ステロールをクロロホルムで抽出した。下相を収集し、窒素気流下で乾燥させ、残留物をトルエンに溶解させた。ついで、オキシステロールをコレステロール及びその前駆体から100mg Isoluteシリカカートリッジ(Biotage)において分離した。コレステロールをヘキサン中の0.5% プロパン-2-オールで溶出し、続けて、オキシステロールをヘキサン中の30% プロパン-2-オールで溶出した。ステロール及びオキシステロール画分を、以前に記載されているように(Chevy et al, 2005)、Regisil(登録商標)+10% TMCS[ビス(トリメチルシリル)トリフルオロ-アセトアミド+10% トリメチルクロロシラン](Regis technologies)で独立してシリル化した。ステロール及びオキシステロールのトリメチルシリルエーテル誘導体を中極性キャピラリーカラムRTX-65(65% ジフェニル 35% ジメチルポリシロキサン、長さ30m、直径0.32mm、膜厚0.25μm;Restesk)において、ガスクロマトグラフィー(Hewlett-Packard 6890シリーズ)により分離した。ガスクロマトグラフィーと直列の質量分析計(Agilent 5975 inert XL)を陽イオンの検出用に設定した。イオンを70eVでの電子衝撃モードで生成した。このイオンをスキャニングモードにおけるフラグメントグラムにより特定し、適切な内部及び外部標準[エピコプロスタノール m/z 370、2H7-7-ラトステロール m/z 465、2H6-デスモステロール m/z 358、2H6-ラノステロール m/z 504、2H7-24(R/S)-ヒドロキシコレステロール m/z 553、コレステロー ルm/z 329、7-ラトステロール m/z、7-デヒドロコレステロール m/z 325、8-デヒドロコレステロール m/z 325、デスモステロール m/z 343、ラノステロール m/z 393及び24(R/S)-ヒドロキシコレステロール m/z 413]を使用して、正規化及び較正後の特定のイオンの選択的モニタリングにより定量した。
【0090】
ウェスタンブロット分析
総タンパク質を45日齢のMECP2-/yオスの幾つかの領域から抽出した。総タンパク質濃度を、BCAキット(Pierce)を使用して決定した。等量の総タンパク質抽出物(30μg)を、4~12% Bis-trisゲル(NuPAGE(登録商標)Novex Bis-tris midi gel 15又は26ウェル、Life Technologies, Carlsbad, USA)でのSDS-PAGEを使用して電気泳動的に分離し、ニトロセルロースメンブランに転写した。ブロッキングされたメンブラン(TBS-0.1% Tween-20中の5% 脱脂乾燥乳)を一次抗体と共に4℃で一晩インキュベーションし、TBS-0.1% Tween-20(T-BST)で10分間3回洗浄した。ついで、メンブランを各対応する一次抗体に対して産生された二次IgG-HRP抗体でラベルした。T-BSTで3回洗浄した後、メンブランを供給元の説明に従って、ECL化学発光試薬(Clarity Western ECL基質;GE Healthcare, Little Chalfont, UK)と共にインキュベーションした。ペルオキシダーゼ活性をカメラシステムFusion TX7(Fisher Scientific)で検出した。正規化を、Quantity One 1D画像分析ソフトウェア(バージョン4.4;Biorad, Hercules, CA, USA)を使用する濃度測定分析により行った。光学密度を「標準タンパク質」(GAPDH)に対して正規化した。分配比を計算し、1と定義された最高値を有するサンプルに対して正規化した。
【0091】
統計分析
統計分析を独立スチューデントt検定及び二元配置分散分析を使用して行った。結果を平均±SEMとして表現する。有意な閾値を本文で定義されたように、P<0.05、P<0.01及びP<0.001に設定した。全ての分析を、GraphPad Prism(GraphPad Software, La Jolla, USA)を使用して行った。
【0092】
結果
レット症候群のC57BL6/Mecp2
tm1.1Birdマウスモデルの幾つかの脳領域におけるCYP46A1タンパク質レベルの低下
CYP46A1のレベルを、45日齢の4匹のMECP2
-/y動物からの凍結生検において評価した。特に、CYP46A1タンパク質レベルを罹患動物の小脳、橋、線条体、海馬及び皮質において分析し、WT同腹仔と比較した(
図1)。ウェスタンブロット分析から、小脳、線条体におけるCYP46A1タンパク質レベルの有意な低下が実証され、対照同腹仔と比較して、橋及び海馬で傾向が観察されたが、皮質では差が観察されなかった(
図1)。
【0093】
全体として、これらのデータから、ヒトレット症候群における治療ターゲットとして、コレステロール代謝経路の重要な酵素であるCYP46A1の関連性が支持される。
【0094】
レット症候群のC57BL6/Mecp2
tm1.1Birdモデルの脳内コレステロール代謝経路のデレギュレーション
以前に、レット症候群におけるコレステロールの変化及び全体的な脂質変化が報告されている(Lutjohann et al, 2018b)。レット症候群におけるCYP46A1欠損の影響を決定するために、コレステロール代謝を、45日齢の4匹のMECP2
-/y動物及び齢一致の同腹仔からの全脳抽出物中のステロール及びオキシステロールの両方の定量的測定をガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS)により行うことにより分析した。それにより、コレステロール代謝経路の最初のステロールであるラノステロールをKandutsch-Russell(ラソステロール)及びBloch(デスモステロール)経路からのコレステロール中間体と共に測定した。まず、コレステロール及び24-ヒドロキシコレステロール(24S-OHC)含量を比較し、統計学的に有意な減少が、野生型同腹仔と比較して、MECP2 KOマウスにおける24S-OHCレベルにおいて観察された(
図2)。有意な増加が、コレステロールについて観察された。ラノステロール及び7-ラソステロールの有意な減少も、WT同腹仔と比較して、KO MECP2の脳で測定された。最後に、有意ではないが減少が、デスモステロール及び8DHCについて測定された(
図2)。統計的有意差は、オキシステロール25S-OHC及び27S-OHC並びに残りのステロール(7-DHC)について見出されなかった(
図2)。
【0095】
まとめると、これらの結果から、レット症候群罹患領域におけるコレステロール代謝経路の変化が示唆される。
【0096】
レット症候群の軽度マウスモデルにおけるCYP46A1の過剰発現によりレット症候群に関連する運動障害を軽減することができ、レット症候群に関連する組織学的及び分子的表現型を改善することができた
本発明者らは、コレステロール代謝経路のアップレギュレーションにより、CYP46A1のレベルの上昇を介して、レット症候群のin vivoモデル:軽度のKO MECP2モデル、特により重度に罹患したオスKOにおいて運動変化を改善することができるかどうかを調査した。3週齢のMECP2
-/yマウスにおけるAAVPHP.eB-CYP46A1-HAの静脈内投与によるCYP46A1の過剰発現により、マウスモデルにおける運動変化が明らかに軽減される。これは、注入後29週間(調査の最長時間)にわたる把持試験(
図3A)及びロータロッド(
図3B)による運動障害尺度が有意に補正される。
【0097】
また、CYP46A1の過剰発現により、マウスの良好な成長が有意にもたらされ、非処置動物と比較して、マウスの正常体重が回復する。処置動物は、WT同腹仔の成長が同程度である(
図3C)。
【0098】
マウス群を16週齢で安楽死させて、組織学的及び分子的レスキューを評価し、残りのコホートは、32週齢まで維持した。
【0099】
生体内分布試験から、脳内にベクターゲノムコピー(VGC)が約8個(
図4A)、脊髄にVGCが約4個、坐骨神経にVGCが1個、末梢組織のトランスダクションは本当に低く、肝臓にVGCが最大0.4個、他の末梢臓器にVGCが0.2個未満であったことが証明された(
図4B)。
【0100】
この生体内分布は、脳の全構造、特に、皮質、線条体、海馬及び小脳におけるCYP46A1-HAの多くの発現と完全に相関しており(データを示さず)、これもWT動物で以前に得られた結果も確認された(非提示データ)。
【0101】
ターゲットとの結合から、動物の腰髄における24ヒドロキシコレステロールの定量が検証されている。これにより、非投与動物と比較して、処置動物において1.9倍の増加が明らかになっている(
図5)。加えて、本発明者らは、未処置の軽度のKO MECP2オスと比較して、7-ラトステロール、ラノステロール、25-OH及び27-OHコレステロールレベルの上昇を伴ってコレステロール経路の全体的な上昇を報告した(
図5)。
【0102】
プルキンエ細胞(PC)の部分的な保存が、種々の小葉でも観察することができる全般的な改善(p値<0.0001)を伴って小脳において実証された(ANOVA検定による小葉と処置とにおける効果)(
図6)。
【0103】
ついで、本発明者らは、神経炎症に対する処置の効果を研究した。本発明者らは、非処置動物と比較して、特に、処置動物における海馬において、アストログリア症の改善を実証した(
図7)。加えて、特に、処置動物の線条体、海馬及び小脳におけるミクログリオーシスの改善を非処置動物と比較する(
図8)。全体として、重要な知見は、AAVPHP.eB送達により、脳における長期炎症を何ら引き起こさなかったという事実でもある(
図7及び
図8)。
【0104】
CYP46A1の過剰発現によりレット症候群の悪化したオスモデルにおける行動変化が軽減され、レット症候群に関連する表現型が改善される
軽度に罹患した動物における処置に基づいて、コレステロール代謝経路のアップレギュレーションにより、CYP46A1レベルの上昇を介して、レット症候群のより重度のin vivoモデル:悪化したKO MECP2における運動変化を改善することができるかどうかを決定するための調査を行った。
【0105】
3週齢のマウスにおけるAAVPHP.eB-CYP46A1-HAの静脈内投与によるCYP46A1の過剰発現により、悪化したマウスモデルにおける運動変化が明らかに軽減される。
【0106】
AAVPHP.eB-CYP46A1投与により、把持試験(
図9A)による運動障害測定値が明らかに低下し、COVID19の拘束(実験進行中)に起因せずに、4週までロータロッド(
図9B)評価により測定された変化が軽減される。KOマウスでは、成長障害が認められたが、3週間の処置では改善には至らなかった(
図9C)。
【0107】
マウスを6週齢(40日)で安楽死させ、組織学的及び分子的分析を行った。体内分布研究から、注入後わずか20日で、脳内にベクターゲノムコピー(VGC)が約12個(
図10A)及び脊髄内にVGCが約7個(
図10A)、末梢組織のトランスダクションが低く、肝臓にVGCが最大2個、心臓にVGCが1個、他の末梢臓器にVGCが0.5個未満(
図10B)であった。この生体内分布は、hCYP46A1 mRNAの多くの発現と相関しており(
図11A)、内因性マウスレベルに影響を及ぼさなかった(
図11A)。コレステロール経路に関与する他の遺伝子に関して、本発明者らは、非処置動物と比較して、処置動物におけるApoEレベルの正常化の傾向を報告した(
図11B)。他の遺伝子はいずれも、40日齢では影響を受けなかったが、生存についてはマウスのコホートで後に評価する必要がある。
【0108】
プルキンエ細胞(PC)の保存が、種々の小葉でも観察することができる全般的な改善(p値<0.0001)を伴って小脳において実証された(ANOVA検定による小葉と処置とにおける効果)(
図12)。
【0109】
ついで、本発明者らは、神経炎症に対する処置の効果を研究した。本発明者らは、大脳皮質(
図14)及び海馬での増加を除いて、アストログリオーシスに対する大きな効果を実証しなかった。アストログリオーシス及びミクログリオーシスの両方について、大きな差は、悪化したKO MECP2オスでのこの齢において観察されなかった。更なる調査を後の段階で行う必要がある。長期の改善及び生存に対する効果を評価するため、処置動物の別のコホートが進行中である。
【0110】
CYP46A1の過剰発現によりレット症候群の悪化したメスモデルにおける行動変化が軽減される
レット症候群は、ヒトの女性に影響を及ぼすため、本発明者は、悪化したKO MECP2メスにおけるCYP46A1の過剰発現の影響を調査したいと考えた。
【0111】
AAVPHP.eB-CYP46A1の投与により、明らかにかつ有意に、把持試験(
図15A)による運動障害測定値が低下し、COVID19の拘束(実験進行中)に起因せずに、19週までロータロッド(
図15B)評価により測定された変化が改善される。
【0112】
KOマウスは、肥満傾向を伴う成長障害を有し、この表現型の明らかな改善が投与動物で観察された(
図15C)。
【0113】
まとめると、これらのデータから、CYP46A1の過剰発現により、レット症候群の軽度及び悪化したモデルにおいて、オス及びメスの両方とも行動変化が軽減され、治療ターゲットであることが示唆される。
【0114】
参考文献
本願全体を通して、種々の参考文献には、本発明が属する最新技術が記載されている。これらの参考文献の開示は、参照により本開示に組み入れられる。
【表3】
【配列表】