(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-22
(45)【発行日】2025-01-30
(54)【発明の名称】ミクロ細孔結晶性金属硫化物光触媒を用いるCO2の光触媒還元のための方法
(51)【国際特許分類】
B01J 27/04 20060101AFI20250123BHJP
C07C 1/22 20060101ALI20250123BHJP
C07C 9/04 20060101ALI20250123BHJP
B01J 35/39 20240101ALI20250123BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20250123BHJP
【FI】
B01J27/04 M
C07C1/22
C07C9/04
B01J35/39
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2021577374
(86)(22)【出願日】2020-06-16
(86)【国際出願番号】 EP2020066568
(87)【国際公開番号】W WO2020260064
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-06-12
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】591007826
【氏名又は名称】イエフペ エネルジ ヌヴェル
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100199369
【氏名又は名称】玉井 尚之
(74)【復代理人】
【識別番号】100228175
【氏名又は名称】近藤 充紀
(72)【発明者】
【氏名】フェカン アントワーヌ
(72)【発明者】
【氏名】マルティネス フランコ ラケル
(72)【発明者】
【氏名】ピルングルーバー ゲアハルト
(72)【発明者】
【氏名】ルフレーヴ フィリベール
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/096657(WO,A1)
【文献】特表2021-502891(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103962156(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0251786(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 35/39、27/04、23/06
C07C 1/22、 9/04
C01B 32/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相で行われる二酸化炭素の光触媒還元のための方法であって、以下の段階:
a) 二酸化炭素および少なくとも1種の犠牲化合物を含有している装填物を、ミクロ細孔結晶性金属硫化物をベースとする少なくとも1種の半導体を含んでいる光触媒と接触させる段階;
少なくとも1種の半導体を含んでいる前記光触媒を、無水換算で、モルに関して表され、かつ、以下の一般式:
Sn
a
Zn
b
S
8
:cR
式中:
Rは、1,3-ビス(4-ピペリジニル)プロパンであり;
Sは、硫黄であり;
「a」は、Snのモル量0.1~5であり;
「b」は、Znのモル量0.2~8であり;
「c」は、窒素性有機体Rのモル量0~4である
によって定義される化学組成の固体の形態で提供する、
b) 前記光触媒のバンドギャップ幅より低い少なくとも1種の波長を生じさせる少なくとも1種の光照射源によって光触媒に光照射する段階であって、-10℃~200℃の温度および0.01MPa~70MPaの圧力で行う、段階
を含む、方法。
【請求項2】
「c」は、0.2~4である、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記固体が呈するX線回折図は、下記の表に列挙されるラインを少なくとも含む、請求項
2に記載の方法。
【表1】
表中、VS=非常に強い;S=強い;m=中間;w=弱い
【請求項4】
前記半導体が呈するミクロ細孔容積は、0.01~0.50cm
3/gである、請求項1~
3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記光触媒のバンドギャップの幅は、1.24~3eVである、請求項1~
4いずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
犠牲化合物は、水、アンモニア、水素、メタンおよびアルコールから選ばれる気体状化合物である、請求項1~
5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
光照射源は、280nmより大きい少なくとも1つの波長範囲で発光する、請求項1~
6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
光照射源は、315nm~800nmの少なくとも1つの波長範囲で発光する、請求項
7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、光触媒の使用による光照射下の二酸化炭素(CO2)の光触媒還元の分野である。
【背景技術】
【0002】
化石燃料、例えば、石炭、石油および天然ガスは、それらの利用可能性、安定性および高いエネルギー密度に起因して世界において主要な従来のエネルギー源である。しかしながら、燃焼は、二酸化炭素の放出を生じさせ、この二酸化炭素の放出は、地球の温暖化の主要な原因であると考えられている。それ故に、前記CO2を捕捉するかまたはそれを転化させるかのいずれかによってCO2の放出を低減させる必要性はますます大きくなっているところである。
【0003】
「受動的(passive)」炭素回収貯留(carbon capture and sequestration:CCS)は、一般に、CO2の放出を低減させるための有効な方法であると考えられているが、他の戦略が想定される必要があり、特に、CO2を経済的な価値を有している産物、例えば、燃料および工業的化学製品に転化させるための「能動的な(active)」戦略がある。
【0004】
このような「能動的」戦略は、アップグレード可能な産物を与えるような二酸化炭素の還元に基づいている。二酸化炭素の還元は、生物学的に、熱的に、電子化学的あるいは光触媒的に行われ得る。これらの選択肢の中で、CO2の光触媒還元がますますの注目を引いているところであるのは、それが代替のエネルギー形態を、例えば、豊富な、安い、かつ環境的にクリーンで安全な太陽エネルギーを動力化することによって潜在的に消費することができるからである。
【0005】
二酸化炭素の光触媒還元により、C1以上の炭素ベースの分子、例えば、一酸化炭素(CO)、メタン、メタノール、エタノール、ホルムアルデヒド、ギ酸あるいは他の分子、例えば、カルボン酸、アルデヒド、ケトンまたは種々のアルコールを得ることが可能となる。これらの分子は、エネルギーを直接的に有用なもの、例えば、メタノール、エタノール、ギ酸あるいはメタンおよび全てのC1
+炭化水素にすることができる。一酸化炭素(CO)はまた、フィッシャー・トロプシュ合成による燃料の形成のための分子水素との混合物としてエネルギーに関してアップグレードされ得る。カルボン酸、アルデヒド、ケトンまたは種々のアルコールの分子は、それらの一部について、化学法または石油化学法における適用を見出すことができる。全てのこれらの分子は、それ故に、工業的な観点から大いに興味のあるものである。
【0006】
光触媒作用は、光照射によって提供されるエネルギーを用いる1種のまたは一式の複数種の半導体、例えば、光触媒の活性化の原理に基づいている。光触媒作用は、光子の吸収であって、そのエネルギーが価電子帯と伝導帯との間のバンドギャップ幅より大きく、これが、半導体の場合に電子-孔の対の形成を誘導するものとして定義され得る。それ故に、伝導帯への電子の励起および価電子帯上の孔の形成がある。この電子-孔の対により、フリーラジカルの形成が可能になることになり、このフリーラジカルは、媒体中に存在する化合物と反応して、酸化/還元反応を開始することになるか、または、種々の機構に従って再結合することになる。半導体は、そのバンドギャップ、すなわち、それに固有のその伝導帯とその価電子帯との間のエネルギー差によって特徴付けられる。そのバンドギャップより大きいエネルギーを有するあらゆる光子は、半導体によって吸収され得る。それのバンドギャップより低いエネルギーを有する光子は、半導体によって吸収され得ない。
【0007】
犠牲化合物の存在中の二酸化炭素の光触媒還元のための方法は、従来技術において知られている。
【0008】
Halmannらは、3種の半導体(TiO2、SrTiO3およびCaTiO3)の性能品質を水性媒体中のCO2の光触媒還元について評価した(非特許文献1)。彼らは、ホルムアルデヒド、ギ酸およびメタノールの生成を観察した。
【0009】
Anpoらは、ゼオライトミクロ細孔中に固定されたTiO2-ベースの光触媒上の水蒸気によるCO2の光触媒還元を研究した(非特許文献2)。これらは、気体状メタノールに対して非常に高い選択性を呈していた。
【0010】
Moriらは、CO2の還元についてのバルク二酸化チタンと比較した酸化チタンをベースとするミクロ細孔性またはメソ細孔性の結晶性材料の光触媒活性における向上を実証した(非特許文献3)。
【0011】
それ故に、ミクロ細孔結晶性光触媒の使用は、現状技術から知られている一方で、前記光触媒は、しばしば、高いバンドギャップ幅(>3eV)を呈し、それ故に、太陽スペクトルの光子の最小限の部分のみをアップグレードすることが可能となる。
【0012】
非ミクロ細孔(バルク)金属硫化物タイプの材料を光触媒として採用することが従来技術から知られている(非特許文献4)。このタイプの材料は、たいていの金属酸化物、例えばTiO2より小さいバンドギャップ幅(<3eV)を呈するという利点を有している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【文献】Halmannら著、「Solar Energy」、1983年、第31巻、第4号、p.429-431
【文献】Anpoら著、「J. Phys. Chem. B」、1997年、第101号、pp.2632-2636
【文献】Moriら著、「RSC Adv.」、2012年、第2巻、第8号、p.3165-3172
【文献】O. Stroyukら著、「Chem. Soc. Rev.」、第2108巻、第47号、p. 5354
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
(発明の対象)
本発明の対象は、ミクロ細孔結晶性金属硫化物をベースとする光触媒を採用する二酸化炭素の光触媒転化によるアップグレード可能な炭素ベースの分子の製造のための新しく、永続性があり、かつ、より能率的なルートを提供することにある。本発明によるCO2の光触媒還元のための方法により、この反応について知られている実施との比較において改善された性能品質を達成することが可能となる。従来技術による光触媒還元方法が本発明とは異なっているのは、ミクロ細孔結晶性半導体が高いバンドギャップ幅(>3eV)を呈する点であり、この高いバンドギャップ幅は、この材料が太陽スペクトルの可視部分に由来する大量の光子を吸収することを可能にしない。これは、従来技術による光触媒還元方法がミクロ多孔性を呈しない金属硫化物をベースとする光触媒を使用するためである。あらゆる理論に委ねられることなく、光触媒におけるミクロ細孔性の存在により、活性な電荷、電子e-および孔h+の短い通過時間が可能となり、それ故に、再結合率を低下させる。
【0015】
より詳細には、本発明は、液相および/または気相で行われる二酸化炭素の光触媒還元のための方法であって、以下の段階:
a) 二酸化炭素および少なくとも1種の犠牲化合物を含有している装填物を、ミクロ細孔結晶性金属硫化物をベースとする少なくとも1種の半導体を含んでいる光触媒と接触させる段階;
b) 前記光触媒のバンドギャップ幅より低い少なくとも1つの波長を生じさせる少なくとも1種の光照射源によって光触媒に光照射する段階であって、-10℃~200℃の温度および0.01MPa~70MPaの圧力で行う、段階
を含む、方法を記載する。
【0016】
有利には、少なくとも1種の半導体を含んでいる前記光触媒は、無水換算で、モルに関して、以下の一般式:
XaYbS8:cR
式中:
Xは、Sn、Ge、TiまたはZrから選ばれる少なくとも1種の四価元素を示し、
Yは、Zn、CdまたはNiから選ばれる少なくとも1種の二価金属を示し、
Rは、少なくとも1種の窒素性有機体(entity)を示し、
Sは、硫黄であり、
「a」は、Xのモル量0.1~5であり;
「b」は、Yのモル量0.2~8であり;
「c」は、窒素性有機体Rのモル量0~4である
によって表される化学組成を呈する固体の形態で提供される。
【0017】
有利には、少なくとも1種の半導体を含んでいる前記光触媒は、無水換算で、モルに関して表され、かつ、以下の一般式:
SnaZnbS8:cR
式中:
Rは、少なくとも1種の窒素性有機体を示し;
Sは、硫黄であり;
「a」は、Snのモル量0.1~5であり;
「b」は、Znのモル量0.2~8であり;
「c」は、窒素性有機体Rのモル量0~4である
によって定義される化学組成を呈する固体の形態で提供される。
【0018】
有利には、「c」は、0.2~4である。
【0019】
有利には、前記固体は、下記の表1に列挙されるラインを少なくとも含んでいるX線回折図を呈する。
【0020】
【表1】
表中:VS=非常に強い;S=強い;m=中間;w=弱い。
【0021】
有利には、Rは、少なくとも2個の窒素原子を含んでいる有機化合物である。
【0022】
有利には、Rは、1,3-ビス(4-ピペリジニル)プロパンである。
【0023】
有利には、前記半導体が有しているミクロ細孔容積は、0.01~0.50cm3/gである。
【0024】
有利には、前記光触媒のバンドギャップの幅は、1.24~3eVである。
【0025】
本発明による1種の実施形態において、前記方法が気相で行われる場合に、犠牲化合物は、水、アンモニア、水素、メタンおよびアルコールから選ばれる気体状化合物である。
【0026】
本発明による1種の実施形態において、本方法が液相で行われる場合に、犠牲化合物は、水、アンモニア、アルコール、アルデヒドまたはアミンから選ばれる可溶な固体状または液体状の化合物である。
【0027】
有利には、光照射源は、天然の光照射源である。
【0028】
好ましくは、光照射源は、280nmより大きい少なくとも1つの波長範囲で発光する。
【0029】
より優先的には、光照射源は、315nm~800nmの少なくとも1つの波長範囲で発光する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(定義および略語)
用語「犠牲化合物(sacrificial compound)」は、気体状または液体状の形態にあり、酸化可能な化合物に対応する。
【0031】
用語「C1以上(C1+)の炭素ベースの分子」は、CO2を除く1個以上の炭素原子を含有しているCO2の還元に由来する分子を意味すると理解される。このような分子は、例えば、CO、メタン、メタノール、エタノール、ホルムアルデヒド、ギ酸、メタンあるいは他の分子、例えば、カルボン酸、アルデヒド、ケトン、種々のアルコールまたは炭化水素であって、2個超の炭素原子を含有しているものである。
【0032】
化学元素の族は、CAS分類の族に対応する(CRC Handbook of Chemistry and Physics、出版元CRC Press、編集者D. R. Lide, 第81版、2000-2001)。例えば、CAS分類による第VIII族は、新IUPAC分類によるカラム8、9および10の金属に対応する。
【0033】
下記の担体および触媒の組織上(textural)および構造上の特性は、当業者に知られている特徴付け方法によって決定される。
【0034】
ミクロ細孔容積および細孔分布は、F. Rouquerol、J. RouquerolおよびK. Singによって記述された研究書「Adsorption by Powders and Porous Solids. Principles, Methodology and Applications」(Academic Press, 1999)において記載されたような窒素ポロシメトリによって決定される。
【0035】
用語「比表面積(specific surface)」は、BET比表面積(SBET:m2/g)を意味するとして理解され、これは、定期刊行The Journal of the American Chemical Society, 1938, 60, 309に記載されたBrunauer-Emmett-Teller法から作成された規格ASTM D 3663-78に従う窒素吸着によって決定される。
【0036】
半導体によって吸収可能な最大波長は、以下の式を用いて計算される。
【0037】
【0038】
ここで、λmaxは、半導体によって吸収可能な最大波長(m)であり、hは、プランク定数(4.13433559×10-15eV・s)であり、cは、真空中の光の速度(299792458m・s-1)であり、Egは、半導体のバンドギャップ幅(eV)である。
【0039】
用語「反応媒体(reaction medium)」は、二酸化炭素、犠牲化合物および光触媒を含有している装填物によって形成された混合物を意味すると理解される。
【0040】
本願明細書において、IUPAC協定によると、用語「ミクロ細孔(micropores)」は、径が2nm未満、すなわち、0.002μm未満である細孔を意味すると理解される;「メソ細孔(mesopores)」は、径が2nm以上、すなわち、0.002μm以上でありかつ50nm未満、すなわち、0.05μm未満である細孔を意味すると理解され、「マクロ細孔(macropores)」は、径が50nm以上、すなわち、0.05μm以上である細孔を意味すると理解される。
【0041】
(発明の詳細な説明)
本発明は、液相および/または気相で行われる二酸化炭素の光触媒還元のための方法であって、以下の段階:
a) 二酸化炭素および少なくとも1種の犠牲化合物を含有している装填物を、ミクロ細孔結晶性金属硫化物をベースとする少なくとも1種の半導体を含んでいる光触媒と接触させる段階;
b) 前記光触媒のバンドギャップ幅より低い少なくとも1つの波長を生じさせる少なくとも1種の光照射源によって光触媒に光照射し、当該段階b)を、-10℃~200℃の温度および0.01MPa~70MPaの圧力で行う段階
を含んでいる、方法を記載する。
【0042】
(装填物、少なくとも1種の犠牲化合物およびミクロ細孔結晶性金属硫化物をベースとする光触媒を接触させる段階a))
本発明による方法の段階a)によると、二酸化炭素(CO2)および少なくとも1種の犠牲化合物を含有している装填物は、ミクロ細孔結晶性金属硫化物をベースとする光触媒と接触させられる。
【0043】
接触操作は、当業者に知られているあらゆる手段によって行われ得る。装填物および光触媒の接触は、閉鎖型固定床、一掃固定床(sweeping fixed bed)または懸濁液(「スラリー(slurry)」とも呼ばれる)において行われ得る。光触媒はまた、光ファイバ上に直接的に沈着させられ得る。
【0044】
接触処理が閉鎖型固定床における場合、光触媒は、優先的には、層として、例えばセラミックまたは金属性焼結タイプの多孔性担体上に沈着させられ、転化されるべき二酸化炭素を気体状および/または液体状の形態で含有している装填物は、光触媒床を通じて送られる。
【0045】
接触処理が一掃固定床における場合、光触媒は、優先的には、セラミックまたは金属性のタイプの非多孔性担体上に沈着させられ、転化されるべき二酸化炭素を気体状および/または液体状の形態で含有している装填物は、光触媒床上に送られる。
【0046】
接触処理が懸濁液における場合、光触媒は、優先的には、二酸化炭素を含有している液体または液体/気体の装填物中の懸濁液中粒子の形態にある。懸濁液において、本方法は、閉鎖型反応器においてまたは連続的に実施され得る。
【0047】
(装填物および犠牲化合物)
本方法は、気体または液体の相または気体および液体の二相において行われ、それぞれ、本方法により処理される装填物がそれぞれ気体状、液体状または気体状および液体状の2相の形態で提供されることを意味する。好ましくは、本方法は、気相で行われる。
【0048】
本方法が気相で行われ、装填物が気体状の形態で提供される場合、装填物中に存在するCO2も気体状の形態にあり、段階a)のために用いられる犠牲化合物(1種または複数種)も気体状の形態にある。
【0049】
気体状の犠牲化合物は、酸化可能な化合物、例えば、水(H2O)、アンモニア(NH3)、分子水素(H2)、メタン(CH4)さらにはアルコール、またはそれらの混合物である。好ましくは、気体状の犠牲化合物は、水または分子水素である。本方法が気相で行われる場合には、希釈流体、例えば、N2またはArが反応媒体中に存在し得る。希釈流体の存在は、本発明を行うために要求されない;しかしながら、前記希釈剤を装填物に加えて、反応媒体中の装填物および/または光触媒の分散、光触媒の表面のところの反応物質/生成物の吸着の制御、光触媒による光子の吸収の制御、生成物の再結合および同位の他の副反応を制限するための生成物の希釈を確実にすることは有用であり得る。希釈流体の存在により、反応媒体の温度を制御することも可能となり、これは、それ故に、光触媒反応の考えられる吸熱/発熱を補填する。希釈流体の性質は、その影響が反応媒体上に中立であるようにまたはその考えられる反応が二酸化炭素の所望の反応の性能を害さないように選ばれる。
【0050】
本方法が液相で行われ、装填物が液体状の形態で提供される場合、装填物は、イオン性、有機性または水性の形態であり得る。液体状の形態にある装填物は、優先的には、水性である。
【0051】
液体装填物が水溶液である場合、CO2は、水性CO2、炭酸水素塩または炭酸塩の形態で溶解させられる。この場合に用いられる犠牲化合物は、液体または固体の酸化可能な化合物であって、液体装填物に可溶であるもの、例えば、水(H2O)、アンモニア(NH3)、アルコール、アルデヒドまたはアミンである。好ましくは、犠牲化合物は水である。pHは、一般的に2~12、好ましくは3~10である。
【0052】
場合によっては、水性液体装填物のpHを調節するために、塩基性または酸性の剤が装填物に加えられ得る。塩基性の剤は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物または有機塩基、例えば、アミンまたはアンモニアから選ばれ得る。酸性の剤は、無機酸、例えば、硝酸、硫酸、リン酸、塩化水素酸または臭化水素酸、または有機酸、例えば、カルボン酸またはスルホン酸から選ばれ得る。
【0053】
場合によっては、液体装填物が水性である場合、液体装填物は、あらゆる量で、あらゆる溶媒和イオン、例えば、K+、Li+、Na+、Ca2+、Mg2+、SO4
2-、Cl-、F-またはNO3
2-を含有することができる。
【0054】
(光触媒)
光触媒は、ミクロ細孔結晶性金属硫化物をベースとする1種または複数種の半導体を含み、好ましくは、これらからなる。
【0055】
好ましくは、前記半導体は、無水換算で、モルに関して、以下の一般式:
XaYbS8:cR
式中:
Xは、Sn、Ge、TiまたはZrから選ばれる少なくとも1種の四価元素を示し、
Yは、Zn、CdまたはNiから選ばれる少なくとも1種の二価金属を示し、
Rは、少なくとも1種の窒素性有機体を示し、
Sは、硫黄であり、
「a」は、Xのモル量0.1~5であり;
「b」は、Yのモル量0.2~8であり;
「c」は、窒素性有機体Rのモル量0~4である
によって表される化学組成を含んでいる固体の形態で提供される。
【0056】
より優先的には、前記光触媒は、IZM-5と呼ばれる固体を含み、前記固体IZM-5は、無水換算で、モルに関して表され、かつ、以下の一般式:
SnaZnbS8:cR
式中:
Rは、少なくとも1種の窒素性有機体を示し;
Sは、硫黄であり;
「a」は、Snのモル量0.1~5、好ましくは1~4であり;
「b」は、Znのモル量0.2~8、好ましくは0.2~2であり;
「c」は、窒素性有機体Rのモル量0~4、好ましくは0.5~3である
によって定義される化学組成を呈する。
【0057】
好ましくは、Rは、2個の窒素原子を含み、大いに優先的には、Rは、1,3-ビス(4-ピペリジニル)プロパンであり、その拡張式は以下に与えられる。
【0058】
【0059】
前記光触媒の成分半導体は、結晶性であり、非常に特有のX線回折シグナルを呈する。より優先的には、光触媒は、固体IZM-5を含み、上記の表1に列挙されるラインを少なくとも含んでいるX線回折図を呈する。
【0060】
相対強度Irelは、100の値がX線回折図の最も強いラインに割り当てられる相対強度スケールに対して与えられる:5≦w<10;10≦m<15;15≦S<50;VS≧50。
【0061】
この回折図は、銅のKα1放射(λ=1.5406Å)による従来の粉末法を用いる回折計による放射線結晶学的分析によって得られる。角度2θによって示される回折ピークの位置に基づいて、サンプルに特徴的な格子面間隔(interlattice spacings)dhklは、ブラッグの法則を用いて計算される。dhkl上の測定誤差Δ(dhkl)は、ブラッグの法則によって2θの測定に割り当てられた絶対誤差Δ(2θ)の関数として計算される。±0.02°に等しい絶対誤差Δ(2θ)は一般に受け入れられる。dhklの各値に割り当てられる相対強度Irelは、対応する回折ピークの高さに従って測定される。dhklの値の列において、格子面間隔の平均値は、オングストローム(Å)で示されている。これらの値のそれぞれは、±0.6Å~±0.01Åの測定誤差Δ(dhkl)に割り当てられなければならない。
【0062】
前記光触媒の成分半導体が呈するミクロ細孔容積は、好ましくは0.01~0.50cm3/g、好ましくは0.05~0.30cm3/gである。
【0063】
前記光触媒のバンドギャップ幅は、好ましくは1.24~3eVである。
【0064】
光触媒は、場合によっては、金属イオン、例えば、V、Ni、Cr、Mo、Fe、Sn、Mn、Co、Re、Nb、Sb、La、Ce、TaまたはTiのイオン、非金属イオン、例えば、C、N、S、FまたはPのイオン、または金属および非金属のイオンの混合物から選ばれる1種または複数種のイオンをドーピングされ得る。
【0065】
光触媒は、場合によっては、元素周期律表の第IVb族、第Vb族、第VIB族、第VIIb族、第VIIIb族、第Ib族、第IIb族、第IIIa族、第IVa族および第Va族の族からの元素から選ばれる、金属状態の1種または複数種の元素を含んでいる粒子を含有することができる。金属状態にある1種または複数種の元素を含んでいる前記粒子は、前記半導体と直接的に接触している。前記粒子は、金属状態にある単一種の元素またはアロイを形成することができる金属状態にある複数種の元素からなり得る。用語「金属状態にある元素(element in the metal state)」は、(「金属元素」と混合されないように)金属の族に属している元素であって、前記元素は、ゼロの酸化状態にある(それ故に金属の形態にある)、ものを意味すると理解される。好ましくは、金属の状態にある元素(1種または複数種)は、元素周期律表の第VIIb族、第VIIIb族、第Ib族および第IIb族からの金属元素から、特に好適には、白金、パラジウム、金、ニッケル、コバルト、ルテニウム、銀、銅、レニウムまたはロジウムから選ばれる。金属状態にある1種または複数種の元素を含んでいる前記粒子は、優先的には、0.5nm~1000nm、好ましくは0.5nm~100nm、よりなおさら優先的には1~20nmのサイズを有する粒子の形態で提供される。
【0066】
本発明による方法において用いられる光触媒は、異なる形態または形状で提供され得る(ナノメートル粉体、空洞を含んでいるまたは含んでいないナノ物体(nanoobject)、薄膜、モノリス、ミクロメートルまたはミリメートルのサイズのビーズ、その他)。光触媒は、有利には、ナノメートル粉体の形態で提供される。
【0067】
(光触媒の調製のための方法)
前記光触媒の成分半導体は、下記に記載される調製方法によって得られ得る。
i) Xで表記される四価元素の少なくとも1種の源、Yで表記される二価金属の少なくとも1種の源、Sで表記される硫黄の少なくとも1種の源、Rで表記される少なくとも1種の有機体、場合によるSOLVで表記される少なくとも1種の溶媒であって、少なくとも1種の水性化合物(Aで表記される)および/または少なくとも1種の有機化合物(Oで表記される)を含んでいるものを混合して、前駆体ゲルを得る段階;前記混合物は、優先的には以下のモル組成を呈する:
X/Y:少なくとも0.1、好ましくは1~200、
S/(X+Y):0.05~50、好ましくは0.1~20、
R/(X+Y):0.05~50、好ましくは0.1~20、
SOLV/(X+Y):0~200、好ましくは1~100、
A/O:0.005~100、好ましくは0.1~20、
ii) 段階i)の終結の際に得られた前記前駆体ゲルの熱処理を、120℃~250℃の温度で、2日~21日の時間期間にわたって行う段階。
【0068】
本調製方法は、ゲルと呼ばれ、Xで表記される四価元素の少なくとも1種の源、Yで表記される二価金属の少なくとも1種の源、Sで表記される硫黄の少なくとも1種の源、少なくとも1種の有機体R、および場合による溶媒を含んでいる反応混合物を調製することからなる。前記反応剤の量は、このゲル上に、その結晶化を可能にする組成を与えるように調節され、一般式XaYbS8:cR(ここで、a、bおよびcは、上記に定義された基準に合っている)の結晶性固体がその粗製の合成形態で与えられる。
【0069】
(段階i))
混合段階i)は、均一な混合物が得られるまで、好ましくは15分以上の期間にわたって、好ましくは、当業者に知られているあらゆるシステムによって、低いまたは高いせん断速度で撹拌しながら行われる。段階i)の終結の際に、均一な前駆体ゲルが得られる。
【0070】
本発明による方法の前記段階i)の間に反応混合物に種を加えて結晶の形成のために必要な時間および/または結晶化の全継続期間を短くすることは有利であり得る。前記種は、不純物を抑えて結晶性固体の形成も促進する。このような種は、結晶性固体、特に固体結晶を含む。結晶性種は、一般的に、反応混合物において用いられたスズおよび亜鉛の前駆体の全重量に対して、0.01重量%~10重量%の割合で加えられる。
【0071】
熱処理の前に本発明による方法の前記段階i)の間に反応混合物の熟成を行って、結晶性固体の結晶のサイズを制御することは有利であり得る。前記熟成は、不純物を抑えて前記結晶性固体の形成も促進する。本発明による方法の前記段階i)の間の反応混合物の熟成は、周囲温度または20~100℃の温度で、撹拌しながらまたは撹拌なしで、有利には30分~48時間の期間にわたって行われ得る。
【0072】
光触媒が固体IZM-5を含む場合、前記固体IZM-5は、Snで表記されるスズの少なくとも1種の源、Znで表記される亜鉛の少なくとも1種の源、Sで表記される硫黄の少なくとも1種の源、Rで表記される少なくとも1種の窒素性有機体、場合によるSOLVで表記される少なくとも1種の溶媒であって、少なくとも1種の水性化合物(Aで表記される)および/または少なくとも1種の有機化合物(Oで表記される)を含んでいるもの、を含んでいる混合物を反応させることによって得られ、この混合物は、優先的には以下モル組成を呈する:
Sn/Zn:少なくとも0.1、好ましくは少なくとも1、より好ましくは2~200、
S/(Sn+Zn):0.1~20、好ましくは1~10、
R/(Sn+Zn):0.1~10、好ましくは1~5、
SOLV/(Sn+Zn):0~200、好ましくは10~100、より好ましくは20~100、
A/O:0.01~10、好ましくは0.1~8、好ましくは0.2~5。
【0073】
Rは、少なくとも1個の窒素原子を有している窒素性有機体である;好ましくは、Rは、2個の窒素原子を含み、有機構造化として作用する。好ましくは、Rは、窒素化合物1,3-ビス(4-ピペリジニル)プロパンである。結晶性固体IZM-5のための構造化剤として用いられる前記窒素性有機体は、当業者に知られているあらゆる方法によって合成される。
【0074】
結晶性固体IZM-5の調製のための方法を行うために採用されるスズの源は、スズ元素を含んでおりかつこの元素を混合物に活性な形態で放出することができるあらゆる化合物であり得る。スズの源は、好ましくは、酢酸スズSn(CH3CO2)4、スズ tert-ブトキシドSn(OC(CH3)3)4、四塩化スズSnCl4、スズ ビス(アセチルアセトナート)ジクロリド(CH3COCH=C-(O-)CH3)2SnCl2、酸化スズSnO2または金属形態にあるスズSnである。
【0075】
結晶性固体IZM-5の調製のための方法を行うために採用される亜鉛の源は、亜鉛元素を含んでおりかつこの元素を混合物中に活性な形態で放出することができるあらゆる化合物であり得る。亜鉛の源は、好ましくは、塩化亜鉛ZnCl2、酢酸亜鉛Zn(CH3CO2)2、硫酸亜鉛ZnSO4、硝酸亜鉛Zn(NO3)2、酸化亜鉛ZnOまたは金属形態にある亜鉛Znである。
【0076】
結晶性固体IZM-5の調製のための方法を行うために採用される硫黄の源は、硫黄元素を含みかつこの元素を混合物中に活性な形態で放出することができるあらゆる化合物であり得る。硫黄の源は、好ましくは標準の温度および圧力の条件下に固体または液体である。硫黄の源は、好ましくは元素硫黄SまたはS8、硫化ナトリウムNa2S、硫化カリウムK2S、硫化リチウムLi2S、硫化アンモニウム(NH4)2SまたはジメチルジスルフィドCH3SSCH3である。
【0077】
結晶性固体IZM-5の調製のための方法の実施のために採用される溶媒は、水性および/または有機性の化合物であり得る。1種の代替の形態によると、溶媒は、水性化合物および有機化合物からなる。水性化合物は、好ましくは、水H2Oから選ばれ、有機化合物は、好ましくは、標準の温度および圧力の条件下に液体である、アルコール(好ましくはエタノール、イソプロパノール)、ジオール(好ましくはエチレングリコール、プロピレングリコール)、トリオール(好ましくはグリセロールまたはプロパン-1,2,3-トリオール)、有機硫黄化合物(好ましくはジメチルスルホキシドすなわちDMSO)または有機窒素化合物(好ましくはジメチルホルムアミドすなわちDMF)のタイプの化合物から選ばれる。
【0078】
別の代替の形態によると、追加の溶媒は、結晶性固体IZM-5の調製のための方法において用いられず、金属前駆体および硫黄ベースの前駆体の溶解を可能にする標準の温度および圧力の条件下にそれが液体状の形態にある場合に、それはRで表示される窒素性有機体である。
【0079】
(段階ii))
本調製方法の段階ii)によると、段階i)の終結の際に得られたゲルは、熱処理に付される。この熱処理は、優先的には、120℃~250℃の温度で2日~21日の期間にわたって結晶性固体が形成されるまで行われる。
【0080】
ゲルは、有利には、自発反応圧力下に、場合によっては、ガス、例えば窒素を加えながら、120℃~250℃、好ましくは140℃~210℃の温度に、固体の結晶がその粗製合成形態で形成されるまで置かれる。
【0081】
結晶化を得るために必要な時間は、一般的に、ゲル中の反応剤の組成、撹拌および反応温度に応じて1日~数月の間で変動する。好ましくは、結晶化時間は、2日~21日の間、好ましくは5日~15日の間で変動する。
【0082】
本反応は、一般的に、撹拌しながらまたは撹拌なしで、好ましくは撹拌しながら行われる。撹拌システムとして、当業者に知られているあらゆるシステムの使用がなされてよく、例えば、バッフル付きの傾斜ブレード、撹拌ターボミキサまたはアルキメデススクリューである。
【0083】
固体の結晶化の結果をもたらす熱処理段階の終結の際に、固相は、好ましくは、ろ別され、洗浄され、その後に乾燥させられる。好ましくは、洗浄段階は、エタノールまたは合成のために用いられる溶媒により行われることになる。
【0084】
有利には、熱処理段階ii)の終結の際、場合によっては上記のろ過、洗浄および乾燥の段階の終結の際に、有機体Rの抽出の段階が、ミクロ多孔性部を解放するために当業者に知られているあらゆる方法によって行われる。好ましくは、この段階は、単独でまたは混合物としての空気下、酸素下、水素下、H2S下あるいは不活性ガス下、例えば、N2下に100℃から1000℃までの熱処理を用いて行われ得る。この抽出は、実体物、例えば、NH4
+、アルカリ金属、アルカリ土類金属またはあらゆる金属カチオンとのイオン交換によっても行われ得る。
【0085】
(光触媒の光照射の段階b))
本発明による方法の段階b)によると、光触媒は、触媒によって吸収可能な(すなわち、光触媒が少なくとも1種の半導体からなる代替の形態による前記光触媒の成分半導体のバンドギャップ幅より低い)少なくとも1つの波長を生じさせる少なくとも1種の光照射源によって光照射され、前記光照射源によって活性にされた前記光触媒の存在中で二酸化炭素が還元させられ、犠牲化合物が酸化させられ、少なくとも一部において、CO2以外のC1以上の炭素ベースの分子を含有している流出物が生じさせられる。
【0086】
ミクロ細孔結晶性金属硫化物をベースとする1種または複数種の半導体を含んでいる光触媒は、少なくとも1個の光子の吸収によって活性にされ得る。
【0087】
吸収可能な光子は、エネルギーがバンドギャップ幅より大きいものである。換言すると、光触媒は、光触媒を構成する半導体のバンドギャップ幅に関連するエネルギーに対応する波長を有するかまたはより低い波長を有する少なくとも1個の光子によって活性にされ得る。
【0088】
前記光触媒の活性化に適した、すなわち、光触媒によって吸収可能な少なくとも1つの波長を発するあらゆる光照射源が本発明により用いられ得る。光照射源は、太陽光照射によって天然であり得るのと全く同様に、レーザ、Hg、白熱ランプ、蛍光管、プラズマまたは発光ダイオード(LED)のタイプの人工のものであってもよい。好適には、光照射源は天然であり、好ましくは太陽光照射によるものである。
【0089】
光照射源は、放射線を生じさせ、その波長の少なくとも一部は、本発明による光触媒の成分半導体によって吸収可能な最大波長(λmax)より低い。光照射源が太陽光照射である場合、それは、一般的に、紫外、可視および赤外のスペクトルにおいて発光する。すなわち、それは、(規格ASTM G173-03により)ほぼ280nmから2500nmまでの波長範囲で発光する。好ましくは、この源は、280nmより大きい、大いに好ましくは315nm~800nmの少なくとも1個の波長範囲で発し、これは、UVスペクトルおよび/または可視スペクトルを含む。
【0090】
光照射源は、光子の流れを提供し、これは、光触媒を含有している反応媒体に光照射する。反応媒体と光源との間の界面は、適用および光源の性質により変動する。
【0091】
光照射源が天然、例えば太陽光照射である場合、光照射源は、反応器の外側に位置され、その2つの間の界面は、パイレックス(登録商標)、石英または有機ガラスから作製された光学窓または本発明による光触媒によって吸収可能な光子が外部環境から反応器内に拡散することを可能にする任意の他の界面であり得る。
【0092】
二酸化炭素の光触媒還元の実施は、光触媒系への適切な光子の供給によって、想定される反応のためにおよび生成物(1種または複数種)の安定性を確実にすることを可能にするものとは別に具体的な圧力または温度の範囲に制限されないという理由のために条件調整され得る。二酸化炭素を含有している装填物の光触媒還元のために採用される温度範囲は、一般的には-10℃から+200℃まで、好ましくは0から150℃まで、大いに好ましくは0から50℃までである。二酸化炭素を含有している装填物の光触媒還元のために採用される圧力範囲は、一般的には0.01MPaから70MPaまで(0.1~700bar)、好ましくは0.1MPaから5MPaまで(1~50bar)である。
【0093】
希釈流体、例えば、段階a)に記載されたものは、本方法が気相中で光照射の間に行われる場合に、反応媒体中に存在し得る。
【0094】
二酸化炭素の光触媒還元のための反応の後に得られた流出物は、一方では、反応に由来する二酸化炭素以外の少なくとも1種のC1以上の分子と、他方では、未反応装填物とを含有し、さらには、場合による希釈流体を含有するが、H2Oが犠牲化合物として用いられる場合にはこの化合物の光触媒還元に由来する並行反応生成物、例えば、分子水素も含有している。
【0095】
以下の実施例は、本発明を例証するが、本発明の範囲を制限するものではない。
【0096】
(実施例)
(実施例1:光触媒A-TiO2)
光触媒Aは、市販のTiO2(Aeroxide(登録商標)P25、Aldrich(登録商標)、純度>99.5%)をベースとする半導体である。光触媒の粒子サイズは、透過型電子顕微鏡法(transmission electron microscopy:TEM)によって測定されて、21nmであり、比表面積は、BET法によって測定されて、52m2/gに等しい。
【0097】
光触媒Aが有しているバンドギャップ幅は、UV-可視拡散反射分光法(UV-visible diffuse reflectance spectrometry)によって測定されて3.1eVであり、ミクロ多孔性を呈さない。
【0098】
(実施例2:固体IZM-5の調製)
二酸化スズ(SnO2、純度99重量%、Sigma-Aldrich)0.228gを、硝酸亜鉛(Zn(NO3)2・6H2O、純度99重量%、Alfa Aesar)0.146gと混合した。続いて、硫黄(S、純度99.98重量%、Aldrich)0.277gおよび1,3-ビス(4-ピペリジル)プロパン(化合物R、純度97重量%、Aldrich)2.001gを、先の混合物に加える。最後に、エチレングリコール(純度99.8重量%、VWR)11.2mLおよび脱イオン水3.7mLを組み入れ、合成ゲルの撹拌(250rpm)を30分にわたって維持する。続いて、前駆体ゲルを、均一化の後に、オートクレーブに移す。オートクレーブを閉にし、次いで、12日にわたって静的条件下に190℃で加熱する。得られた結晶性の生成物をろ過し、エタノールにより洗浄し、次いで、100℃で終夜乾燥させる。粗製固体合成生成物を、X線回折によって分析し、固体IZM-5からなると確認した。生成物が呈するSn/Znモル比は、ICP-MSによって決定されて、5.7である。元素分析は、以下のモル組成を与える:Sn3.4Zn0.6S8:1.1R。
【0099】
(実施例3:光触媒B)
実施例2において得られた固体を熱処理に付して、化合物Rの全部または一部を抽出し、ミクロ多孔性部を解放する。50容積%のN2および50容積%の空気を含んでいる混合物を、2SL/h/gの流量で、実施例2において得られた固体IZM-5を含有している閉鎖床タイプの反応器に導入する。温度を120℃に1℃/分の率で上げ、次いで、1時間にわたって放置する。第2の工程において、温度を300℃に1℃/分の率で上げ、次いで、2時間にわたって放置する。最後に、温度を、反応器の慣性によって周囲温度に再度落とす。
【0100】
回収された固体を触媒Bと呼ぶ。光触媒Bが有しているバンドギャップ幅は、UV-可視拡散反射分光法によって測定されて2.6eVであり、呈しているミクロ細孔容積は、0.1mL/gである。
【0101】
(実施例4:気相中のCO2の光触媒還元における光触媒AおよびBの採用)
固体AおよびBを、連続的閉鎖型床反応器において気相中のCO2の光触媒還元の試験に付す。この反応器は、鋼鉄から作製され、光学窓を備えており、この光学窓は、比表面積5.3×10-4m2を有する石英から作製され、焼結ガラスを有し、この焼結ガラスは、光学窓に面しており、この光学窓上に光触媒固体が沈着させられている。
【0102】
光触媒約100mgを焼結ガラス上に沈着させる。周囲温度で大気圧下に試験を行う。18mL/hの流量のCO2を水飽和器中に通過させた後に、反応器中に流通させる。二酸化炭素の還元に由来するCH4およびCOの生成をマイクロガスクロマトグラフィーによる6分毎の流出物の分析によってモニタリングする。UV-可視光照射源を、Xe-Hgランプ(Asahi(登録商標)、MAX302(登録商標))によって提供する。光照射電力は、波長範囲315nm~400nmについて測定されて、常時、130W/m2に維持される。この試験の継続期間は、20時間である。
【0103】
平均光触媒活性の比較は、時間当たりかつ光照射表面積辺りの生じたメタンまたは一酸化炭素のμmolで表される。結果を下記の表2に与える。活性値は、本発明による固体の使用が最良の光触媒性能品質を呈することを示す。
【0104】