(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-22
(45)【発行日】2025-01-30
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
F15B 11/02 20060101AFI20250123BHJP
F15B 11/042 20060101ALI20250123BHJP
F15B 11/044 20060101ALI20250123BHJP
F15B 11/04 20060101ALI20250123BHJP
F15B 11/028 20060101ALI20250123BHJP
F15B 11/00 20060101ALI20250123BHJP
E02F 9/22 20060101ALI20250123BHJP
E02F 9/20 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
F15B11/02 C
F15B11/042
F15B11/044
F15B11/04 B
F15B11/028 G
F15B11/028 Z
F15B11/00 U
E02F9/22 Q
E02F9/20 M
(21)【出願番号】P 2023509991
(86)(22)【出願日】2021-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2021013702
(87)【国際公開番号】W WO2022208694
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】天野 裕昭
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 賢人
(72)【発明者】
【氏名】西川 真司
(72)【発明者】
【氏名】楢▲崎▼ 昭広
【審査官】北村 一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/171801(WO,A1)
【文献】特開2019-120024(JP,A)
【文献】特開2003-172302(JP,A)
【文献】国際公開第2018/092582(WO,A1)
【文献】特開2007-064446(JP,A)
【文献】特開2000-009102(JP,A)
【文献】特開2003-184811(JP,A)
【文献】国際公開第2020/203851(WO,A1)
【文献】特開平08-128406(JP,A)
【文献】国際公開第2018/164263(WO,A1)
【文献】特開2012-007694(JP,A)
【文献】特開2019-027009(JP,A)
【文献】国際公開第2020/067326(WO,A1)
【文献】特開平06-173904(JP,A)
【文献】特開平08-014207(JP,A)
【文献】国際公開第2020/039834(WO,A1)
【文献】特開平11-303762(JP,A)
【文献】特開平11-303761(JP,A)
【文献】特開平05-099121(JP,A)
【文献】特開平03-047489(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 11/00-11/22
E02F 9/20- 9/24; 3/42- 3/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体を吐出するポンプと、前記ポンプから吐出される作動流体によって駆動される複数の流体圧シリンダ及び前記流体圧シリンダによって駆動される複数の被駆動部材を有する作業装置と、前記流体圧シリンダの操作指令を出力する操作装置と、前記操作装置の操作指令に基づき前記作業装置の動作を制御する制御装置と、を備える作業機械において、
前記作業装置の姿勢を検出する姿勢検出装置を備え、
前記制御装置は、
前記操作装置からの操作指令に基づいて、前記流体圧シリンダの目標圧及び目標速度を演算し、
前記流体圧シリンダの目標速度に基づいて、前記流体圧シリンダの目標流量を演算し、
前記姿勢検出装置の検出結果に基づいて、前記流体圧シリンダの実速度を演算し、
前記流体圧シリンダの目標速度と前記流体圧シリンダの実速度の乖離度合いを演算し、
前記乖離度合いが予め定められた所定値よりも大きいときには、前記流体圧シリンダの圧力を前記目標圧とするための圧力制御を実行し、
前記乖離度合いが予め定められた所定値よりも小さいときには、前記流体圧シリンダの流量を前記目標流量とするための流量制御を実行する、
ことを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械において、
前記流体圧シリンダへ供給される作動流体の流れを制御するメータイン制御弁を備え、
前記ポンプは、吐出容量の変更が可能な可変容量型のポンプであり、
前記制御装置は、
前記圧力制御において、前記ポンプの吐出容量及び前記メータイン制御弁の開度を制御することにより、前記流体圧シリンダのメータイン圧を制御する、
ことを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項1に記載の作業機械において、
前記流体圧シリンダから排出される作動流体の流れを制御するメータアウト制御弁を備え、
前記制御装置は、
前記圧力制御において、前記メータアウト制御弁の開度を制御することにより、前記流体圧シリンダのメータアウト圧を制御する、
ことを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項3に記載の作業機械において、
前記メータアウト制御弁は、前記ポンプから前記流体圧シリンダに供給される作動流体の流れを制御する方向制御弁である、
ことを特徴とする作業機械。
【請求項5】
請求項1に記載の作業機械において、
前記流体圧シリンダの圧力を検出する圧力センサを備え、
前記制御装置は、
前記圧力センサの検出結果に基づいて、前記流体圧シリンダの推力を演算し、
前記姿勢検出装置の検出結果に基づいて、前記被駆動部材の加減速度を演算し、
前記流体圧シリンダの推力及び前記被駆動部材の加減速度を加味して、前記流体圧シリンダの前記目標圧を決定する、
ことを特徴とする作業機械。
【請求項6】
請求項1に記載の作業機械において、
前記制御装置は、
前記姿勢検出装置の検出結果に基づいて、前記作業装置に作用する重力による回転モーメントを演算し、
前記重力による回転モーメントを打ち消すように、前記流体圧シリンダの前記目標圧を決定する、
ことを特徴とする作業機械。
【請求項7】
請求項1に記載の作業機械において、
前記流体圧シリンダの圧力を検出する圧力センサを備え、
前記制御装置は、
前記圧力センサの検出結果に基づいて、前記流体圧シリンダの推力を演算し、
前記姿勢検出装置の検出結果に基づいて、前記作業装置に作用する重力による回転モーメントを演算し、
前記姿勢検出装置の検出結果及び前記流体圧シリンダの推力に基づいて、前記作業装置に作用する前記流体圧シリンダの推力による回転モーメントを演算し、
前記姿勢検出装置の検出結果に基づいて、前記被駆動部材の加減速度を演算し、
前記推力による回転モーメント、前記重力による回転モーメント及び前記加減速度に基づいて、慣性モーメントを演算し、
前記慣性モーメントを加味して、前記流体圧シリンダの前記目標圧を決定する、
ことを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルなどの作業機械においては、ブーム、アームなどの被駆動部材を油圧シリンダなどの流体圧シリンダにより回動駆動する。一般的に、作業装置の軌跡を制御するためには、操作信号が一定の場合は、流体圧シリンダの速度は一定となることが望ましい。
【0003】
しかしながら、作業装置は、鋼板を溶接してなる溶接構造物によって構成されているため、慣性質量が大きい。このため、操作指令が急激に変化すると、被駆動部材が急加速あるいは急停止することにより、車体全体にショックが生じることがある。このため、フロント作業装置用油圧シリンダへの圧油の給排を制御する方向制御弁を緩やかに切り替えることで、ショックを低減する方法が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載の作業機械では、ブーム下げ操作時間が設定時間よりも長い場合、ブーム下げ用パイロットポートに接続されるパイロット管路に設けられた電磁切換弁を開通油路位置から絞り部付油路位置に切り替えることにより、ブーム用パイロット切換弁(方向制御弁)のスプールの戻り動作を遅延させる。スプールの戻り動作が遅延すると、方向制御弁のメータアウト開口の開度が徐々に小さくなり、ブレーキ圧が徐々に大きくなるため、ブームを緩停止させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の作業機械では、方向制御弁のスプールの戻り動作を遅延させることにより、方向制御弁のメータアウト開口の開度が徐々に小さくなるとともに、方向制御弁のメータイン開口の開度も徐々に小さくなる。その結果、ブームシリンダが停止するときに発生するブレーキ圧と、ポンプによる押し込み圧とのバランスが崩れ、安定してアクチュエータを緩停止させることができないおそれがある。
【0007】
本発明は、作業装置の急動作を防止しつつ、安定した加減速度で作業装置を動作させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様による作業機械は、作動流体を吐出するポンプと、前記ポンプから吐出される作動流体によって駆動される複数の流体圧シリンダ及び前記流体圧シリンダによって駆動される複数の被駆動部材を有する作業装置と、前記流体圧シリンダの操作指令を出力する操作装置と、前記操作装置の操作指令に基づき前記作業装置の動作を制御する制御装置と、前記作業装置の姿勢を検出する姿勢検出装置と、を備える。前記制御装置は、前記操作装置からの操作指令に基づいて、前記流体圧シリンダの目標圧及び目標速度を演算し、前記流体圧シリンダの目標速度に基づいて、前記流体圧シリンダの目標流量を演算する。前記制御装置は、前記姿勢検出装置の検出結果に基づいて、前記流体圧シリンダの実速度を演算し、前記流体圧シリンダの目標速度と前記流体圧シリンダの実速度の乖離度合いを演算する。前記制御装置は、前記乖離度合いが予め定められた所定値よりも大きいときには、前記流体圧シリンダの圧力を前記目標圧とするための圧力制御を実行する。前記制御装置は、前記乖離度合いが予め定められた所定値よりも小さいときには、前記流体圧シリンダの流量を前記目標流量とするための流量制御を実行する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、作業装置の急動作を防止しつつ、安定した加減速度で作業装置を動作させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る油圧ショベルの側面図。
【
図2】油圧ショベルに搭載される油圧システムを示す図。
【
図3】油圧ショベルにおける座標系(ショベル基準座標系)を示す図。
【
図4】メインコントローラの機能ブロック図であり、メータイン目標圧、メータアウト目標圧、ポンプ目標圧及びアクチュエータ目標速度を演算するための機能、並びに圧力制御フラグを設定するための機能について示す。
【
図5】メインコントローラの機能ブロック図であり、圧力制御用のメータイン制御弁指令値、方向制御弁指令値及びポンプ容積指令値を演算するための機能について示す。
【
図6】メインコントローラの機能ブロック図であり、流量制御用の方向制御弁指令値、メータイン制御弁指令値及びポンプ容積指令値を演算するための機能について示す。
【
図7】メインコントローラの機能ブロック図であり、方向制御弁指令、メータイン制御弁指令及びポンプ容積指令を生成するための機能について示す。
【
図8】慣性モーメント補正比率演算部C1が行う演算処理の内容について示す図。
【
図9】運動方程式から慣性モーメント実測値Iaを算出する方法について説明する図。
【
図10】慣性モーメント基準値Ibを算出する方法について説明する図。
【
図11】目標推力演算部C2が行う演算処理の内容について示す図。
【
図12】目標圧演算部C3が行う演算処理の内容について示す図であり、メータイン目標圧及びメータアウト目標圧を演算するための処理について示す。
【
図13】目標圧演算部C3が行う演算処理の内容について示す図であり、ポンプ目標圧を演算するための処理について示す。
【
図14】アクチュエータ目標速度演算部C4が行う演算処理の内容について示す図。
【
図15】圧力制御フラグ設定部C5が行う演算処理の内容について示す図。
【
図16】メータイン圧演算部C6が行う演算処理の内容について示す図。
【
図17】圧力制御用メータイン制御弁指令演算部C7が行う演算処理の内容について示す図。
【
図18】圧力制御用方向制御弁指令演算部C8が行う演算処理の内容について示す図。
【
図19】圧力制御用ポンプ容積指令演算部C9が行う演算処理の内容について示す図。
【
図20】ブリードオフ弁指令生成部C10が行う演算処理の内容について示す図。
【
図21】流量制御用方向制御弁指令演算部C11が行う演算処理の内容について示す図。
【
図22】アクチュエータ目標流量演算部C12が行う演算処理の内容について示す図。
【
図23】流量制御用メータイン制御弁指令演算部C13が行う演算処理の内容について示す図。
【
図24】流量制御用ポンプ容積指令演算部C14が行う演算処理の内容について示す図。
【
図25】本実施形態に係る油圧ショベルにおいて、ブーム上げ単独操作を行った場合の動作の一例を示すタイムチャート。
【
図26】本実施形態の比較例に係る油圧ショベルにおいて、ブーム上げ単独操作を行った場合の動作の一例について示すタイムチャート。
【
図27】本実施形態に係る油圧ショベルにおいて、アーム引き単独操作を行った場合の動作の一例を示すタイムチャート。
【
図28】本実施形態の比較例に係る油圧ショベルにおいて、アーム引き単独操作を行った場合の動作の一例について示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を参照して、本発明の実施形態に係る作業機械について説明する。本実施形態では、作業機械が、クローラ式の油圧ショベルである例について説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る油圧ショベル1の側面図である。説明の便宜上、
図1に示すように油圧ショベル1の前後および上下方向を規定する。つまり、本実施形態では、特に断り書きのない場合は、運転席の前方(同図中では左方向)を油圧ショベル1の前方とする。
【0013】
油圧ショベル1は、機体(車体)20と、機体20に取り付けられる作業装置10と、を備える。機体20は、走行体2と、走行体2上に旋回可能に搭載された旋回体3とを備える。走行体2は、左右一対のクローラと、アクチュエータである走行用油圧モータ2aと、を有する。走行体2は、クローラを走行用油圧モータ2aによって駆動することにより走行する。旋回体3は、アクチュエータである旋回用油圧モータ3aを有する。旋回体3は、旋回用油圧モータ3aによって、走行体2に対して回転する。
【0014】
旋回体3は、旋回フレーム30と、旋回フレーム30の前部左側に設けられる運転室31と、旋回フレーム30の後部に設けられるカウンタウエイト32と、旋回フレーム30における運転室31の後側に設けられるエンジン室33と、を有する。エンジン室33には、動力源であるエンジン及び油圧ポンプ、バルブ、アキュムレータ等の油圧機器が収容されている。旋回フレーム30の前部中央には作業装置10が回動可能に連結されている。
【0015】
作業装置10は、回動可能に連結される複数の被駆動部材(11,12,13)及び被駆動部材を駆動する複数の流体圧シリンダ(11a,12a,13a)を有する多関節型の作業装置である。本実施形態では、3つの被駆動部材としてのブーム11、アーム12及びバケット13が、直列的に連結される。ブーム11は、その基端部が旋回フレーム30の前部においてブームピン11b(
図3参照)によって回動可能に連結される。アーム12は、その基端部がブーム11の先端部においてアームピン12b(
図3参照)によって回動可能に連結される。バケット13は、アーム12の先端部においてバケットピン13b(
図3参照)によって回動可能に連結される。ブームピン11b、アームピン12b、バケットピン13bは、互いに平行に配置され、各被駆動部材(11,12,13)は同一面内で相対回転可能とされている。
【0016】
ブーム11は、アクチュエータである油圧シリンダ(以下、ブームシリンダ11aとも記す)によって駆動され、旋回フレーム30に対して回動する。アーム12は、アクチュエータである油圧シリンダ(以下、アームシリンダ12aとも記す)によって駆動され、ブーム11に対して回動する。バケット13は、アクチュエータである油圧シリンダ(以下、バケットシリンダ13aとも記す)によって駆動され、アーム12に対して回動する。これらの油圧シリンダ(11a,12,13a)は、後述するポンプ81(
図2参照)から吐出される作動流体としての作動油によって駆動される。
【0017】
図2は、油圧ショベル1に搭載される油圧システム90を示す図である。なお、油圧システム90には、複数の油圧アクチュエータ(2a,3a,11a,12a,13a)を駆動するための油圧機器が設けられているが、
図2では、ブームシリンダ11aとアームシリンダ12aを駆動するための油圧機器についてのみ図示し、その他の油圧アクチュエータ(2a,3a,13a)を駆動するための油圧機器についての図示は省略している。
【0018】
図2では、操作装置23,24の操作指令に基づき作業装置10の動作を制御する制御装置であるメインコントローラ100と、メインコントローラ100に信号を出力する装置(23~29)についても図示している。
図2に示すように、油圧ショベル1は、ブームシリンダ11a(ブーム11)を操作するための操作装置(ブーム操作装置とも記す)23と、アームシリンダ12a(アーム12)を操作するための操作装置(アーム操作装置とも記す)24と、を備える。操作装置(23,24)は、運転室31内に設けられる。
【0019】
ブーム操作装置23は、中立位置からブーム上げ側及びブーム下げ側に傾動操作可能な操作レバー23aと、操作レバー23aの操作方向及び操作量を検出して、操作レバー23aの操作方向及び操作量を表す操作信号をブームシリンダ11aの操作指令としてメインコントローラ100に出力する操作センサと、を有する。アーム操作装置24は、中立位置からアームクラウド側(アーム引き側)及びアームダンプ側(アーム押し側)に傾動操作可能な操作レバー24aと、操作レバー24aの操作方向及び操作量を検出して、操作レバー24aの操作方向及び操作量を表す操作信号をアームシリンダ12aの操作指令としてメインコントローラ100に出力する操作センサと、を有する。
【0020】
操作装置23,24は、操作レバー23a,24aが中立位置から一方(油圧シリンダ伸長側)へ傾けられると正の値の操作量を表す操作信号を出力し、操作レバー23a,24aが中立位置から他方(油圧シリンダ収縮側)へ傾けられると負の値の操作量を表す操作信号を出力する。操作装置23,24の操作センサで検出される操作レバー23a,24aの操作量(操作角)は、中立位置のときに0[%](0°)であり、中立位置から傾けるほど、その絶対値が大きくなる。
【0021】
なお、図示しないが、運転室31内には、エンジン80の目標回転速度を設定するためのエンジンコントロールダイヤルが設けられている。メインコントローラ100は、エンジンコントロールダイヤルからの操作信号に基づいて目標回転速度を決定し、決定した目標回転速度の信号をエンジンコントローラ108に出力する。エンジン80には、エンジン80の実回転速度を検出するエンジン回転速度センサ80a及びエンジン80のシリンダ内に噴射する燃料の噴射量を調整する燃料噴射装置80bが設けられている。エンジンコントローラ108は、エンジン回転速度センサ80aで検出されたエンジン80の実回転速度が、メインコントローラ100から出力される目標回転速度となるように、燃料噴射装置80bを制御する。
【0022】
油圧システム90は、吐出容量(押しのけ容積)の変更が可能な可変容量型のポンプ81と、ポンプ81から吐出される作動油をブームシリンダ11a及びアームシリンダ12aに供給するメイン回路HCと、ポンプ81と作動油が貯留されるタンク19とを接続するブリードオフ通路Lbと、を備える。
【0023】
ポンプ81は、エンジン80に接続され、エンジン80によって駆動されて、タンク19から作動油を吸い込み、吐出する。ポンプ81は、ピストン式の油圧ポンプ(流体圧ポンプ)であり、レギュレータ81aにより斜板の傾きが変更されることで吐出容量が変化する。エンジン80は、油圧ショベル1の動力源であり、例えば、ディーゼルエンジン等の内燃機関により構成される。
【0024】
メイン回路HCには、ポンプ81からブームシリンダ11aに供給される作動油の流れ、及びブームシリンダ11aからタンク19に排出される作動油の流れを制御する方向制御弁(以下、ブーム制御弁とも記す)45と、ポンプ81からアームシリンダ12aに供給される作動油の流れ、及びアームシリンダ12aからタンク19に排出される作動油の流れを制御する方向制御弁(以下、アーム制御弁とも記す)46と、が設けられる。
【0025】
方向制御弁45,46は、パイロット受圧部45c,45d,46c,46dと、パイロット受圧部45c,45d,46c,46dにパイロット圧を出力する電磁弁45a,45b,46a,46bと、を有する。電磁弁45a,45b,46a,46bは、図示しないパイロットポンプ等のパイロット油圧源を有するパイロット回路からのパイロット1次圧を減圧して、パイロット2次圧を生成し、生成したパイロット2次圧を方向制御弁45,46のパイロット受圧部45c,45d,46c,46dに出力する。
【0026】
電磁弁45a,45b,46a,46bは、メインコントローラ100からソレノイドに供給される制御電流に応じて発生するソレノイド推力によって駆動され、制御電流に応じたパイロット2次圧を生成する電磁比例弁である。
【0027】
メインコントローラ100は、ブーム操作装置23から出力される操作信号に基づいて、電磁弁45a,45bを制御し、アーム操作装置24から出力される操作信号に基づいて、電磁弁46a,46bを制御する。
【0028】
電磁弁45aによって生成されたパイロット2次圧が、ブーム制御弁45のパイロット受圧部45cに作用すると、ブーム制御弁45が伸長位置に切り換えられる。これにより、ポンプ81から吐出された作動油がブームシリンダ11aのボトム室に導かれるとともにロッド室からタンク19に作動油が排出され、ブームシリンダ11aが伸長する。その結果、ブーム11が上方向に回動する(すなわち、すなわちブーム11が起立する)。
【0029】
電磁弁45bによって生成されたパイロット2次圧が、ブーム制御弁45のパイロット受圧部45dに作用すると、ブーム制御弁45が収縮位置に切り換えられる。これにより、ポンプ81から吐出された作動油がブームシリンダ11aのロッド室に導かれるとともにボトム室からタンク19に作動油が排出され、ブームシリンダ11aが収縮する。その結果、ブーム11が下方向に回動する(すなわち、ブーム11が倒伏する)。
【0030】
電磁弁46aによって生成されたパイロット2次圧が、アーム制御弁46のパイロット受圧部46cに作用すると、アーム制御弁46が伸長位置に切り換えられる。これにより、ポンプ81から吐出された作動油がアームシリンダ12aのボトム室に導かれるとともにロッド室からタンク19に作動油が排出され、アームシリンダ12aが伸長する。その結果、アーム12が下方向に回動する(すなわち、アーム12がクラウド動作(アーム引き動作)を行う)。
【0031】
電磁弁46bによって生成されたパイロット2次圧が、アーム制御弁46のパイロット受圧部46dに作用すると、アーム制御弁46が収縮位置に切り換えられる。これにより、ポンプ81から吐出された作動油がアームシリンダ12aのロッド室に導かれるとともにボトム室からタンク19に作動油が排出され、アームシリンダ12aが収縮する。その結果、アーム12が上方向に回動する(すなわち、アーム12がダンプ動作(アーム押し動作)を行う)。
【0032】
メイン回路HCには、ポンプ吐出圧(回路圧)が予め設定されている設定圧を上回ると、ポンプ81から吐出される作動油をタンク19に排出することにより、ポンプ吐出圧の最高圧力を規定するリリーフ弁47が設けられている。
【0033】
ブーム制御弁45のポンプポートに接続される通路(ブーム制御弁45の上流側の通路)には、ブームシリンダ11aへ供給される作動油の流れを制御するメータイン制御弁(ブームメータイン制御弁とも記す)41が設けられる。なお、メータイン制御弁41は、ブームシリンダ11aの負荷圧を保持するための逆止弁としての機能も有し、ポンプ吐出圧がシリンダ圧を下回った場合には全閉となる。アーム制御弁46のポンプポートに接続される通路(アーム制御弁46の上流側の通路)には、アームシリンダ12aへ供給される作動油の流れを制御するメータイン制御弁(アームメータイン制御弁とも記す)42が設けられる。なお、メータイン制御弁42は、アームシリンダ12aの負荷圧を保持するための逆止弁としての機能も有し、ポンプ吐出圧がシリンダ圧を下回った場合には全閉となる。
【0034】
メータイン制御弁41,42は、メインコントローラ100から電磁駆動部(ソレノイド)に供給される制御電流に応じて発生するソレノイド推力によって駆動され、制御電流に応じて開度(メータイン開口面積)が調整される電磁比例弁である。
【0035】
ブリードオフ通路Lbは、メータイン制御弁41,42の上流側において、ポンプ吐出通路から分岐するよう設けられている。ブリードオフ通路Lbには、ポンプ81から吐出される作動油をタンク19へ排出するブリードオフ弁18が設けられる。ブリードオフ弁18は、ブリードオフ通路Lbの開度を変化させることにより、ブリードオフ流量及びポンプ吐出圧の調整が可能とされている。
【0036】
ブリードオフ弁18は、メインコントローラ100から電磁駆動部(ソレノイド)に供給される制御電流に応じて発生するソレノイド推力によって駆動され、制御電流に応じて開度(ブリードオフ開口面積)が調整される電磁比例弁である。
【0037】
メインコントローラ100は、動作回路としてのCPU(Central Processing Unit)101、記憶装置としてのROM(Read Only Memory)102、記憶装置としてのRAM(Random Access Memory)103、入出力インタフェース104、及び、その他の周辺回路を備えたマイクロコンピュータで構成される。メインコントローラ100は、1つのマイクロコンピュータで構成してもよいし、複数のマイクロコンピュータで構成してもよい。エンジンコントローラ108もメインコントローラ100と同様の構成を有し、メインコントローラ100に接続され、相互に情報(データ)の授受を行う。
【0038】
ROM102は、EEPROM等の不揮発性メモリであり、各種演算が実行可能なプログラムが格納されている。すなわち、ROM102は、本実施形態の機能を実現するプログラムを読み取り可能な記憶媒体である。RAM103は揮発性メモリであり、CPU101との間で直接的にデータの入出力を行うワークメモリである。RAM103は、CPU101がプログラムを演算実行している間、必要なデータを一時的に記憶する。なお、メインコントローラ100は、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブ等の記憶装置をさらに備えていてもよい。
【0039】
CPU101は、ROM102に記憶されたプログラムをRAM103に展開して演算実行する処理装置であって、プログラムに従って入出力インタフェース104及びROM102,RAM103から取り入れた信号に対して所定の演算処理を行う。入出力インタフェース104には、操作装置23,24、圧力センサ25~29、姿勢検出装置15、エンジンコントローラ108等からの信号が入力される。入出力インタフェース104の入力部は、入力された信号をCPU101で演算可能なデータに変換する。また、入出力インタフェース104の出力部は、CPU101での演算結果に応じた出力用の信号を生成し、その信号を方向制御弁45,46、メータイン制御弁41,42、ブリードオフ弁18及びレギュレータ81a等に出力する。
【0040】
姿勢検出装置15は、ブーム11、アーム12、バケット13及び旋回フレーム30のそれぞれに取り付けられているIMU(Inertial Measurement Unit:慣性計測装置)15a~15d、機体20に取り付けられている旋回角度センサ15e、及び、姿勢演算コントローラ15fを有している。なお、バケット13の姿勢を検出するためのIMU15cは、バケットリンク13
Lに取り付けられている(
図1参照)。
【0041】
IMU15a,15b,15c,15dは、油圧ショベル1の姿勢に関する情報として、部材の直交3軸の角速度及び加速度を検出し、検出結果を姿勢演算コントローラ15fに出力する。旋回角度センサ15eは、油圧ショベル1の姿勢に関する情報として、旋回中心軸に直交する平面内における走行体2に対する旋回体3の相対角度である旋回角を検出し、検出結果を姿勢演算コントローラ15fに出力する。姿勢演算コントローラ15fは、IMU15a~15dでの検出結果、及び、旋回角度センサ15eでの検出結果に基づいて、ブーム角α、アーム角β、バケット角γ、車体傾斜角φ、及び、旋回角θを演算し、演算結果をメインコントローラ100に出力する。このように、姿勢検出装置15は、作業装置10及び機体20の姿勢を検出する機能を有している。
【0042】
図3は、油圧ショベル1における座標系(ショベル基準座標系)を示す図である。
図3に示すように、ショベル基準座標系は、走行体2に対して設定される座標系である。ショベル基準座標系では、旋回体3の旋回中心軸がZ軸として設定される。ショベル基準座標系では、旋回体3の前後方向が走行体2の前後方向と一致している姿勢において、Z軸(旋回中心軸)及びブームピン11bに直交し、かつ、旋回中心軸及びブームピン11bの中心軸を通る軸がX軸として設定される。つまり、走行体2の前後方向に延在する軸がX軸として設定される。ショベル基準座標系では、X軸とZ軸のそれぞれに直交する軸がY軸として設定され、X軸、Y軸及びZ軸の交点が原点Oとして設定される。ブーム角αはX-Y平面に対するブーム11の傾斜角度であり、アーム角βはブーム11に対するアーム12の傾斜角度であり、バケット角γはアーム12に対するバケット13の傾斜角度であり、旋回角θは走行体2に対する旋回体3の回動角度である。また、車体傾斜角φは、水平面(基準面)に対する機体20(旋回体3)の傾斜角度、すなわち水平面(基準面)とX軸とのなす角である。
【0043】
図2に示すように、圧力センサ25は、ポンプ吐出圧(メイン回路HCの回路圧)を検出し、検出結果(ポンプ吐出圧)を表す信号をメインコントローラ100に出力する。圧力センサ26は、ブームシリンダ11aのボトム室の圧力(以下、ボトム圧、あるいはブームボトム圧とも記す)を検出し、検出結果を表す信号をメインコントローラ100に出力する。圧力センサ27は、ブームシリンダ11aのロッド室の圧力(以下、ロッド圧、あるいはブームロッド圧とも記す)を検出し、検出結果を表す信号をメインコントローラ100に出力する。圧力センサ28は、アームシリンダ12aのボトム室の圧力(以下、ボトム圧、あるいはアームボトム圧とも記す)を検出し、検出結果を表す信号をメインコントローラ100に出力する。圧力センサ29は、アームシリンダ12aのロッド室の圧力(以下、ロッド圧、あるいはアームロッド圧とも記す)を検出し、検出結果を表す信号をメインコントローラ100に出力する。
【0044】
メインコントローラ100は、操作装置23,24からの操作指令に基づいて、油圧シリンダ(11a,12a)の目標圧及び目標速度を演算し、油圧シリンダ(11a,12a)の目標速度に基づいて、油圧シリンダ(11a,12a)の目標流量を演算する。また、メインコントローラ100は、姿勢検出装置15の検出結果に基づいて、油圧シリンダ(11a,12a)の実速度を演算し、油圧シリンダ(11a,12a)の目標速度と実速度の乖離度合いとしての速度偏差比率を演算する。メインコントローラ100は、速度偏差比率が予め定められた所定値Rwよりも大きいときには、油圧シリンダ(11a,12a)の圧力を目標圧とするための圧力制御を実行することにより、油圧シリンダ(11a,12a)の急動作を防止しつつ、安定した加減速度で油圧シリンダ(11a,12a)を動作させる。また、メインコントローラ100は、速度偏差比率が予め定められた所定値Rwよりも小さいときには、油圧シリンダ(11a,12a)の流量を目標流量とするための流量制御を実行することにより、オペレータの意図する速度で油圧シリンダ(11a,12a)を動作させる。
【0045】
以下、
図4~
図24を参照して、メインコントローラ100の機能について、詳しく説明する。
図4~
図7は、メインコントローラ100の機能ブロック図である。
図4は、メータイン目標圧、メータアウト目標圧、ポンプ目標圧及びアクチュエータ目標速度を演算するための機能、並びに圧力制御フラグを設定するための機能について示す。
図5は、圧力制御用のメータイン制御弁指令値、方向制御弁指令値及びポンプ容積指令値を演算するための機能について示す。
図6は、流量制御用の方向制御弁指令値、メータイン制御弁指令値及びポンプ容積指令値を演算するための機能について示す。
図7は、方向制御弁指令、メータイン制御弁指令及びポンプ容積指令を生成するための機能について示す。メインコントローラ100は、ROM102に記憶されているプログラムを実行することにより、各種演算を行う演算部として機能する。
【0046】
具体的には、
図4に示すように、メインコントローラ100は、慣性モーメント補正比率演算部C1、目標推力演算部C2、目標圧演算部C3、アクチュエータ目標速度演算部C4、アクチュエータ実速度演算部C18及び圧力制御フラグ設定部C5として機能する。また、
図5に示すように、メインコントローラ100は、メータイン圧演算部C6、圧力制御用メータイン制御弁指令演算部C7、圧力制御用方向制御弁指令演算部C8及び圧力制御用ポンプ容積指令演算部C9として機能する。また、
図6に示すように、メインコントローラ100は、ブリードオフ弁指令生成部C10、流量制御用方向制御弁指令演算部C11、アクチュエータ目標流量演算部C12、流量制御用メータイン制御弁指令演算部C13及び流量制御用ポンプ容積指令演算部C14として機能する。さらに、
図7に示すように、メインコントローラ100は、方向制御弁指令生成部C15、メータイン制御弁指令生成部C16及びポンプ容積指令生成部C17として機能する。
【0047】
図8は、慣性モーメント補正比率演算部C1が行う演算処理の内容について示す図である。慣性モーメント補正比率演算部C1は、圧力センサ26~29で検出されたシリンダ圧(ブームボトム圧、ブームロッド圧、アームボトム圧及びアームロッド圧)、及び、姿勢検出装置15で検出された油圧ショベル1の姿勢情報(各部材の角度情報)に基づいて、慣性モーメント補正比率Crを演算する。
【0048】
図8に示すように、慣性モーメント補正比率演算部C1は、推力モーメント演算部O1a、重力モーメント演算部O1b、演算部O1c,O1d,O1e、慣性モーメント基準値演算部O1f、演算部O1g、判定部O1h、選択部O1i、ローパスフィルタ処理部O1j、及び演算部O1kとして機能する。推力モーメント演算部O1a、重力モーメント演算部O1b、演算部O1c,O1d,O1eは、シリンダ圧及び姿勢情報及びROM102に記憶されている情報に基づいて、慣性モーメント実測値Iaを演算する慣性モーメント実測値演算部O1zとして機能する。
【0049】
図9を参照して、運動方程式から慣性モーメント実測値Iaを算出する方法について説明する。
図9は、運動方程式からブームピン11b回りの慣性モーメント実測値Iaを算出する方法について説明する図である。
【0050】
ブームシリンダ11aは、ロッドの端部がブーム11に対してロッド側ピンにより連結され、シリンダチューブの端部が旋回フレーム30に対してボトム側ピンにより連結されている。
図9に示すように、ブームピン11bの中心点Obと、ブームシリンダ11aのロッド側ピンの中心点Aとを結ぶ直線である線分(OA)の長さをLa、ブームシリンダ11aの軸方向(中心軸方向)の推力をF、線分(OA)に直交する軸とブームシリンダ11aの中心軸とのなす角をΨaとする。また、ブームピン11bの中心点Obと、ブームピン11bを介して旋回フレーム30によって支持される作業装置10の重心位置Gとを結ぶ直線である線分(OG)の長さをLgとする。
【0051】
以上のように、各寸法を定義した場合、作業装置10に作用するブームシリンダ11aの推力Fによるブームピン11b回りの回転モーメント(以下、推力モーメントとも記す)Mfは、次式(1)により算出される。
【0052】
【0053】
なお、ブームシリンダ11aの推力Fは、ボトム室のピストン受圧面積(シリンダ2本分の受圧面積)をSbot、ロッド室側のピストン受圧面積(シリンダ2本分の受圧面積)をSrod、ボトム室に作用する作動油の圧力(ボトム圧)をPbot、ロッド室に作用する作動油の圧力(ロッド圧)をProdとすると、次式(2)により算出される。
【0054】
【0055】
作業装置10に作用する重力によるブームピン11b回りの回転モーメント(以下、重力モーメントとも記す)Mgは、ブームピン11bを介して旋回フレーム30によって支持される作業装置10の質量をm、重力加速度をg、線分(OG)と直交する軸と鉛直軸(重力方向の軸)とのなす角をΨbとすると、次式(3)で表される。
【0056】
【0057】
このため、ブームピン11b回りの回転の運動方程式は、ブームピン11b回りの慣性モーメントをI、ブーム11の角加速度をα″とすると、次式(4)となる。なお、作業装置10に外部からの荷重は働いていないものとする。
【0058】
【0059】
したがって、慣性モーメントIは、次式(5)で算出される。
【0060】
【0061】
メインコントローラ100のROM102には、上式(1)~(5)を演算するための、各種寸法データが予め記憶されている。
【0062】
式(1)のなす角Ψaは、姿勢検出装置15で演算されるブーム角α、及び、予めROM102に記憶されている寸法データに基づいて演算可能である。ROM102に記憶されている寸法データには、ブームピン11bと線分(OA)の長さLa、ブームピン11bとブームシリンダ11aのボトム側ピンの中心点Bとを結ぶ直線である線分(OB)の長さLb、線分(OB)とX軸とのなす角αt、ブームピン11bとアームピン12bとを結ぶ直線と線分(OA)とのなす角αuが含まれる。
【0063】
図8に示す推力モーメント演算部O1aは、例えば、長さLa,Lb,なす角αt,αu、及び姿勢検出装置15で検出されるブーム角αに基づいて、ブームシリンダ11aの長さ(シリンダ長)を演算し、線分(OA)と線分(AB)のなす角∠OABを演算し、90°から∠OABを減じることにより、Ψaを算出する。なお、シリンダ長を時間微分することにより、シリンダ速度が演算される。
【0064】
式(2)の推力Fは、圧力センサ26で検出されるボトム圧Pbot、圧力センサ27で検出されるロッド圧Prod、及び、予めROM102に記憶されている受圧面積Sbot,Srodに基づいて、演算可能である。
【0065】
推力モーメント演算部O1aは、圧力センサ26,27での検出結果、姿勢検出装置15での検出結果及びROM102に記憶されている各種データに基づき、式(1),(2)を用いることによって、推力モーメントMfを算出する。
【0066】
式(3)の長さLb及びなす角Ψb(すなわち、被駆動部材の合成重心の重心位置G)は、姿勢検出装置15で検出される各被駆動部材の角度α,β,γ、並びに、予めROM102に記憶されているブーム11、アーム12及びバケット13のそれぞれの重心位置、質量及び長さに基づいて演算可能である。
【0067】
重力モーメント演算部O1bは、姿勢検出装置15での検出結果及びROM102に記憶されている各種データに基づき、式(3)を用いることによって、重力モーメントMgを算出する。
【0068】
演算部O1cは、推力モーメント演算部O1aでの演算結果である推力モーメントMfに、重力モーメント演算部O1bでの演算結果である重力モーメントMgを加算する。すなわち、演算部O1cは、式(4)に基づく演算を行う。
【0069】
演算部O1dは、姿勢検出装置15での検出結果に基づき、ブーム11の角加速度α″を演算する。角加速度α″は、ブーム角αを時間で2階微分することにより演算される。演算部O1dは、姿勢検出装置15によって検出されるブーム角αを所定の制御周期で繰り返し、取得している。このため、演算部O1dは、所定の制御周期で繰り返し検出されるブーム角αの前回値αaと今回値αbとの差(αb-αa)を前回値αaを検出した時刻taから今回値αbを検出した時刻tbまでの時間Δt(=tb-ta)で除することにより、ブーム角αの時間変化率であるブーム角速度α′(=(αb-αa)/(tb-ta))を算出する。さらに、演算部O1dは、同様に、ブーム角速度α′の前回値と今回値とからブーム角速度α′の時間変化率であるブーム角加速度α″を算出する。
【0070】
演算部O1eは、演算部O1cでの演算結果を演算部O1dでの演算結果で除算することにより、慣性モーメントIの実測値(慣性モーメント実測値Ia)を演算する。すなわち、演算部O1eは、式(5)に基づく演算を行う。なお、演算部O1eは、角加速度α″が0(ゼロ)の場合には、例えば、予め定められている最小値で置き換えることにより、ゼロ割防止対策を行う。
【0071】
このようにして得られた慣性モーメント実測値Iaは、バケット13内の積載状況、掘削作業中の地山からの反力などの外的負荷の影響がある場合には、後述するバケット13が空荷の状態のときの慣性モーメント(慣性モーメント基準値Ib)とは異なる値となる。
【0072】
慣性モーメント基準値演算部O1fは、姿勢情報及びROM102に記憶されている情報に基づいて、慣性モーメント基準値Ibを演算する。慣性モーメント基準値Ibは、バケット13が空荷の状態であって所定の姿勢で動いていないときの作業装置10の慣性モーメントであり、作業装置10の姿勢に基づいて算出される。
【0073】
図10を参照して、慣性モーメント基準値Ibを算出する方法について説明する。
図10は、慣性モーメント基準値Ibを算出する方法について説明する図である。慣性モーメント基準値Ibは、ブーム11のブームピン11bの中心点Ob回りのモーメントをI1、アーム12のブームピン11bの中心点Ob回りのモーメントをI2、バケット13のブームピン11bの中心点Ob回りのモーメントをI3とすると、次式(6)で表される。
【0074】
【0075】
モーメントI1,I2,I3は、ブーム11の重心回りの慣性モーメントをIg1、アーム12の重心回りの慣性モーメントIg2と、ブーム11の質量をm1、アーム12の質量をm2、バケット13の質量をm3、ブームピン11bの中心点Obからのブーム11の重心G1までの距離をLg1、ブームピン11bの中心点Obからアーム12の重心G2までの距離をLg2、ブームピン11bの中心点Obからバケット13の重心G3までの距離をLg3とすると、次式(7)で表される。
【0076】
【0077】
式(7)の距離Lg1,Lg2,Lg3は、姿勢検出装置15で検出される各被駆動部材の角度α,β,γ、並びに、予めROM102に記憶されているブームピン11bからブーム11の重心位置G1までの距離、アームピン12bからアーム12の重心位置G2までの距離及びバケットピン13bからバケット13の重心位置G3までの距離に基づいて演算可能である。
【0078】
慣性モーメント基準値演算部O1fは、姿勢検出装置15での検出結果及びROM102に記憶されている各種データに基づき、式(6),(7)を用いることによって、慣性モーメント基準値Ibを演算する。
【0079】
演算部O1gは、演算部O1dでの演算結果である角加速度α″の絶対値を演算する。判定部O1hは、演算部O1gでの演算結果|α″|が予め設定されている閾値Th1よりも大きいか否かを判定する。選択部O1iは、判定部O1hで肯定判定されると、すなわち角加速度の絶対値|α″|が閾値Th1よりも大きいと判定されると、慣性モーメント実測値Iaを選択し、ローパスフィルタ処理部O1jに出力する。選択部O1iは、判定部O1hで否定判定されると、すなわち角加速度の絶対値|α″|が閾値Th1以下であると判定されると、慣性モーメント基準値Ibを選択し、ローパスフィルタ処理部O1jに出力する。
【0080】
ローパスフィルタ処理部O1jは、選択部O1iからの出力にローパスフィルタ処理を行い、慣性モーメント推定値Ieとして出力する。演算部O1kは、慣性モーメント推定値Ieを慣性モーメント基準値Ibで除算することにより、慣性モーメント補正比率Crを演算する。
【0081】
このように、慣性モーメント補正比率演算部C1は、シリンダ圧及び姿勢情報に基づいて、慣性モーメント補正比率Crを演算する。なお、ブームピン11b回りの慣性モーメント補正比率Crの演算を例に説明したが、アームピン12b回りの慣性モーメント補正比率Cr、バケットピン13b回りの慣性モーメント補正比率Crについても同様の演算が行われる。
【0082】
図11は、目標推力演算部C2が行う演算処理の内容について示す図である。目標推力演算部C2は、操作信号、姿勢情報、並びに、慣性モーメント補正比率演算部C1で演算された慣性モーメント補正比率Cr及び作業装置10の重力モーメントMgに基づいて、油圧シリンダの目標推力を演算する。なお、以下では、ブームシリンダ11aに対する目標推力の演算方法を一例に説明する。
【0083】
目標推力演算部C2は、演算部O2a,O2b,O2c,O2d,O2e,O2f、最小値選択部O2g、演算部O2h、判定部O2i、選択部O2j、演算部O2k、及び推力成分演算部O2lとして機能する。ROM102は、操作信号と最大トルクとが対応付けられた最大トルクテーブルT2a及び操作信号と加速トルク目標値とが対応付けられた加速トルクテーブルT2bが記憶されている。
【0084】
最大トルクテーブルT2aは、操作レバー23aの操作量の絶対値が大きくなるほど、最大トルクの絶対値が大きくなる特性である。演算部O2aは、最大トルクテーブルT2aを参照し、ブーム操作装置23から入力される操作信号に基づいて、最大トルクを演算する。最大トルクは、押し当て時などで作業装置10が止まっている状態でのトルクの最大値である。
【0085】
加速トルクテーブルT2bは、操作レバー23aの操作量の絶対値が大きくなるほど、加速トルク目標値の絶対値が大きくなる特性である。演算部O2aは、加速トルクテーブルT2bを参照し、ブーム操作装置23から入力される操作信号に基づいて、加速トルク目標値を演算する。加速トルク目標値は、空中などで作業装置10を動作させた場合の加速トルクの目標値である。
【0086】
演算部O2cは、ブームピン11b回りの慣性モーメント補正比率Crから1を減算し、演算部O2dは、演算部O2cでの演算結果にゲインGmを乗算する。演算部O2eは、演算部O2dでの演算結果に1を加算し、トルク調整ゲインを演算する。ゲインGmは、0(ゼロ)から1までの値であり(0≦Gm≦1)、予めROM102に記憶されている。
【0087】
演算部O2fは、演算部O2bでの演算結果である加速トルク目標値に、演算部O2eでの演算結果であるトルク調整ゲインを乗算することにより、補正加速トルク目標値を演算する。これにより、慣性モーメント実測値Iaが慣性モーメント基準値Ibに比べて大きい場合には加速トルクの大きさが大きくなるように補正され、慣性モーメント実測値Iaが慣性モーメント基準値Ibに比べて小さい場合には加速トルクの大きさが小さくなるように補正される。慣性モーメント実測値Iaと慣性モーメント基準値Ibとが同じ値である場合には、加速トルク目標値には1が乗算されることにより、補正加速トルク目標値が演算される(加速トルク目標値=補正加速トルク目標値)。
【0088】
なお、ゲインGmは、タッチパネル等の入力装置(不図示)に対するオペレータの操作によって変更できるようにしてもよい。ゲインGmが0に設定された場合、慣性モーメント実測値Iaと慣性モーメント基準値Ibとが異なる場合であっても、加速トルク目標値には1が乗算される。つまり、慣性モーメント補正比率に応じた加速トルク目標値の補正が行われないこととなる。ゲインGmが大きくなるほど、慣性モーメント補正比率による加速トルク目標値の補正の影響が大きくなる。オペレータは、入力装置を用いてゲインGmの大きさを設定することにより、アクチュエータの加速度の大きさを調整することができる。
【0089】
最小値選択部O2gは、演算部O2aで演算された最大トルクと、演算部O2fでの演算結果である補正加速トルク目標値(加速トルク目標値×トルク調整ゲイン)のうちで小さい方を選択する。
【0090】
演算部O2hは、ブームシリンダ11aの操作信号(操作レバー23aの操作量)の絶対値を演算する。判定部O2iは、操作信号の絶対値が予め設定されている閾値Th2よりも大きいか否かを判定する。選択部O2jは、判定部O2iで肯定判定されると、すなわち操作信号の絶対値が閾値Th2よりも大きいと判定されると、最小値選択部O2gで選択された最小値を選択する。選択部O2jは、判定部O2iで否定判定されると、すなわち操作信号の絶対値が閾値Th2以下であると判定されると、0(ゼロ)を選択する。
【0091】
演算部O2kは、選択部O2jで選択された値から作業装置10の重力モーメントMgを減算することにより、ブーム目標トルクを演算する。つまり、演算部O2kは、作業装置10に作用する重力による回転モーメントMgを打ち消す方向のトルクを選択部O2jで選択された値に加算することにより、目標トルクを演算する。推力成分演算部O2lは、演算部O2kで演算されたブーム目標トルク、姿勢情報及びROM102に記憶されている寸法データに基づいて、ブームシリンダ11aの軸方向の推力成分を目標推力として演算する。つまり、推力成分演算部O2lは、ブーム目標トルクを発生させるために必要なブームシリンダ11aの推力をブームシリンダ11aの目標推力として演算する。
【0092】
このように、目標推力演算部C2は、操作信号、姿勢情報、慣性モーメント補正比率Cr及び重力モーメントMgに基づいて、目標推力を演算する。なお、ブームシリンダ11aの目標推力の演算を例に説明したが、アームシリンダ12aの目標推力、及びバケットシリンダ13aの目標推力についても同様の演算が行われる。
【0093】
図12及び
図13は、目標圧演算部C3が行う演算処理の内容について示す図である。
図12は、メータイン目標圧及びメータアウト目標圧を演算するための処理について示し、
図13は、ポンプ目標圧を演算するための処理について示す。
図12に示すように、目標圧演算部C3は、油圧シリンダの目標推力及び操作信号に基づいて、メータイン目標圧及びメータアウト目標圧を演算する。以下では、ブームシリンダ11aの目標推力及び操作信号に基づいて、ブームシリンダ11aのメータイン目標圧及びメータアウト目標圧を演算する例を代表して説明する。
【0094】
目標圧演算部C3は、演算部O3a,O3b、判定部O3c、選択部O3d,O3e、最大値選択部O3f,O3gとして機能する。
【0095】
演算部O3aは、目標推力演算部C2で演算されたブームシリンダ11aの目標推力に(1/Sbot)を乗算し、ボトム側目標圧を演算する。演算部O3bは、目標推力演算部C2で演算されたブームシリンダ11aの目標推力に(-1/Srod)を乗算し、ロッド側目標圧を演算する。
【0096】
判定部O3cは、ブームシリンダ11aの操作信号に基づき、ブーム操作量が正の値であるか否かを判定する。選択部O3dは、ブーム操作量が正の値である場合、ボトム側目標圧を選択し、ブーム操作量が正の値でない場合、ロッド側目標圧を選択する。選択部O3eは、ブーム操作量が正の値である場合、ロッド側目標圧を選択し、ブーム操作量が負の値である場合、ボトム側目標圧を選択する。
【0097】
最大値選択部O3fは、選択部O3dで選択された目標圧と予めROM102に記憶されている所定値P1(例えば、1MPa程度)とを比較し、大きい方を選択し、選択した値をメータイン目標圧として決定する。最大値選択部O3gは、選択部O3eで選択された目標圧と0(ゼロ)とを比較し、大きい方を選択し、選択した値をメータアウト目標圧として決定する。
【0098】
このように、目標圧演算部C3は、操作信号及び目標推力に基づいて、油圧シリンダのメータイン目標圧及びメータアウト目標圧を演算する。例えば、ブームシリンダ11aを伸長方向に加速動作させるように操作レバー23aが最大操作位置に操作されると、目標推力演算部C2によって正の値の目標推力が演算され、判定部O3cで肯定判定される。このため、選択部O3dは、正の値の目標推力に(1/Sbot)が乗算されたボトム側目標圧を選択する。したがって、最大値選択部O3fは、選択部O3dで選択されたボトム側目標圧をメータイン目標圧として選択する。なお、選択部O3eは、正の値の目標推力に(-1/Srod)が乗算されたロッド側目標圧を選択するが、選択された値は0(ゼロ)よりも小さい値であるので、最大値選択部O3gは、0(ゼロ)をメータアウト目標圧として選択する。
【0099】
なお、ブームリンダ11aのメータイン目標圧及びメータアウト目標圧の演算を例に説明したが、アームシリンダ12aのメータイン目標圧及びメータアウト目標圧、バケットシリンダ13aのメータイン目標圧及びメータアウト目標圧についても同様の演算が行われる。
【0100】
図13に示すように、目標圧演算部C3は、最大値選択部O3hとしても機能する。最大値選択部O3hは、最大値選択部O3fで演算された各油圧シリンダのメータイン目標圧のうちで最も大きいものを選択し、選択したメータイン目標圧をポンプ目標圧として決定する。
【0101】
図14は、アクチュエータ目標速度演算部C4が行う演算処理の内容について示す図である。アクチュエータ目標速度演算部C4は、各アクチュエータの操作信号に基づき、各アクチュエータの目標速度を演算する。以下では、ブームシリンダ(アクチュエータ)11aの操作信号に基づき、ブームシリンダ(アクチュエータ)11aの目標速度を演算する例を代表して説明する。
【0102】
図14に示すように、アクチュエータ目標速度演算部C4は、ブームシリンダ11aの操作信号に基づいて、ブームシリンダ11aの目標速度を演算する。ROM102には、操作信号とブームシリンダ11aの目標速度とが対応付けられたテーブルT4が記憶されている。テーブルT4は、操作レバー23aの操作量の絶対値が大きくなるほど、目標速度の絶対値が大きくなる特性である。
【0103】
アクチュエータ目標速度演算部C4は、テーブルT4を参照し、ブーム操作装置23から入力される操作信号に基づいて、ブームシリンダ11aの目標速度を演算する。なお、目標速度は、正の場合にはブームシリンダ11aの伸長方向の目標速度を表し、負の場合にはブームシリンダ11aの収縮方向の目標速度を表している。
【0104】
なお、図示しないが、アクチュエータ目標速度演算部C4は、アームシリンダ12a、バケットシリンダ13a、走行用油圧モータ2a及び旋回用油圧モータ3aの目標速度も演算する。
【0105】
図15は、圧力制御フラグ設定部C5が行う演算処理の内容について示す図である。圧力制御フラグ設定部C5は、アクチュエータ目標速度及び実速度に基づいて、圧力制御フラグをオンまたはオフに設定する。以下では、ブームシリンダ(アクチュエータ)11aの目標速度及び実速度に基づき、ブームシリンダ(アクチュエータ)11aの圧力制御フラグを設定する例を代表して説明する。
【0106】
なお、ブームシリンダ11aの実速度は、
図4に示すアクチュエータ実速度演算部C18によって演算される。アクチュエータ実速度演算部C18は、姿勢検出装置15で検出された姿勢情報に基づいて、ブームシリンダ11a、アームシリンダ12a及びバケットシリンダ13aの実速度を演算する。例えば、アクチュエータ実速度演算部C18は、
図9に示す線分(OA)の長さLa、線分(OB)の長さLb、姿勢検出装置15で検出されたブーム角α、及び、なす角αt,αuに基づいて、ブームシリンダ11aの実速度を演算する。
【0107】
図15に示すように、圧力制御フラグ設定部C5は、演算部O5a,O5b,O5e、最大値選択部O5f、演算部O5g、判定部O5h、及び選択部O5iとして機能する。
【0108】
演算部O5aは、ブームシリンダ11aの目標速度から実速度を減算して、シリンダ速度差を演算する。演算部O5bは、演算部O5aで演算されたシリンダ速度差の絶対値を演算する。演算部O5eは、ブームシリンダ11aの目標速度の絶対値を演算する。最大値選択部O5fは、演算部O5eで演算されたブームシリンダ11aの目標速度の絶対値と、予めROM102に記憶されているシリンダ最小速度Vminとを比較し、大きい方を選択する。なお、シリンダ最小速度Vminは、油圧シリンダがほぼ停止しているとみなせる速度であり、例えば5[mm/s]程度の値が設定される。
【0109】
演算部O5gは、演算部O5bで演算されたシリンダ速度差の絶対値を最大値選択部O5fで選択された値で除算することにより、速度偏差比率を演算する。速度偏差比率は、ブームシリンダ11aの目標速度と実速度の乖離度合いを表す指標であり、数値が大きいほど、目標速度と実速度とが乖離していることを表す。判定部O5hは、速度偏差比率が予めROM102に記憶されている所定値Rwよりも大きいか否かを判定する。所定値Rwは、予め定められた閾値であり、例えば、0.2程度の値が設定される。この場合、判定部O5hは、ブームシリンダ11aの目標速度に対する実速度の速度偏差が20%を超えているか否かを判定する判定処理を実行しているといえる。
【0110】
選択部O5iは、判定部O5hで肯定判定されると、すなわち速度偏差比率が所定値Rwよりも大きいと判定されると、圧力制御フラグをオンに設定する。選択部O5iは、判定部O5hで否定判定されると、すなわち速度偏差比率が所定値Rw以下であると判定されると、圧力制御フラグをオフに設定する。圧力制御フラグは、後述するように、油圧シリンダの制御方法を圧力制御または流量制御に切り替えるためのフラグである。後述するように、圧力制御フラグがオンに設定されると、メインコントローラ100は、油圧シリンダ(11a,12a)の圧力(メータイン圧力及びメータアウト圧力)を目標圧(メータイン目標圧及びメータアウト目標圧)とするための圧力制御を実行する。また、圧力制御フラグがオフに設定されると、メインコントローラ100は、油圧シリンダ(11a,12a)に供給される流量を目標流量とするための流量制御を実行する。
【0111】
図16は、メータイン圧演算部C6が行う演算処理の内容について示す図である。メータイン圧演算部C6は、シリンダ圧に基づいて、各油圧シリンダの実メータイン圧及び複数の実メータイン圧のうちの最大値である実メータイン最大圧を演算する。
【0112】
図16に示すように、メータイン圧演算部C6は、判定部O6a、選択部O6b及び最大値選択部O6cとして機能する。判定部O6aは、ブームシリンダ11aの操作信号に基づき、ブーム操作量が正の値であるか否かを判定する。選択部O6bは、ブーム操作量が正の値である場合、圧力センサ26で検出されたブームボトム圧を実ブームメータイン圧として選択し、ブーム操作量が正の値でない場合、圧力センサ27で検出されたブームロッド圧を実ブームメータイン圧として選択する。なお、図示は省略するが、同様の処理により、圧力センサ28で検出されたアームボトム圧及び圧力センサ29で検出されたアームロッド圧のいずれかが実アームメータイン圧として選択され、バケットシリンダ13aのボトム圧及びロッド圧のいずれかが実バケットメータイン圧として選択される。
【0113】
最大値選択部O6cは、実ブームメータイン圧、実アームメータイン圧及び実バケットメータイン圧のうち、最も大きいものを選択し、選択したものを実メータイン最大圧として決定する。
【0114】
図17は、圧力制御用メータイン制御弁指令演算部C7が行う演算処理の内容について示す図である。圧力制御用メータイン制御弁指令演算部C7は、実メータイン圧及びメータイン目標圧に基づいて、圧力制御用メータイン制御弁指令値を演算する。以下では、ブームシリンダ11aの実メータイン圧及びメータイン目標圧に基づき、ブームシリンダ11aの圧力制御用メータイン制御弁指令値を演算する例を代表して説明する。
【0115】
図17に示すように、圧力制御用メータイン制御弁指令演算部C7は、演算部O7a,O7b,O7cとして機能する。演算部O7aは、ブームシリンダ11aの実メータイン圧からブームシリンダ11aのメータイン目標圧を減算することにより、メータイン圧力偏差を演算する。
【0116】
演算部O7bは、メータイン圧力偏差に基づいて、メータイン制御弁41の目標開口面積を演算する。ROM102には、メータイン圧力偏差とメータイン制御弁41の目標開口面積とが対応づけられたテーブルT7bが記憶されている。テーブルT7bは、メータイン圧力偏差が0(ゼロ)以上の場合には、目標開口面積が最小値Aimin(>0)となり、メータイン圧力偏差が0(ゼロ)未満の場合には、目標開口面積が最大値Aimax(>Aimin)となる特性である。演算部O7bは、テーブルT7bを参照し、メータイン圧力偏差に基づいて、メータイン制御弁41の目標開口面積を演算する。
【0117】
演算部O7cは、ROM102に記憶されている電流変換テーブルT7cを参照し、メータイン制御弁41の目標開口面積に基づいて、メータイン制御弁41の電磁駆動部(ソレノイド)に供給する制御電流の目標値を圧力制御用メータイン制御弁指令値として演算する。
【0118】
なお、圧力制御用メータイン制御弁指令演算部C7は、アームシリンダ12aのメータイン制御弁42及びバケットシリンダ13aのメータイン制御弁(不図示)に対する圧力制御用メータイン制御弁指令値も演算する。
【0119】
図18は、圧力制御用方向制御弁指令演算部C8が行う演算処理の内容について示す図である。圧力制御用方向制御弁指令演算部C8は、シリンダ圧、操作信号、目標圧演算部C3で演算されたメータアウト目標圧及び目標推力演算部C2で演算された目標推力に基づいて、圧力制御用方向制御弁指令値を演算する。以下では、ブームシリンダ11aのシリンダ圧(ロッド圧及びボトム圧)、操作信号及びメータアウト目標圧に基づき、ブームシリンダ11aの圧力制御用方向制御弁指令値を演算する例を代表して説明する。
【0120】
図18に示すように、圧力制御用方向制御弁指令演算部C8は、演算部O8a,O8b,O8c,O8d、判定部O8e,O8f、選択部O8g,O8h、及び演算部O8i,O8jとして機能する。
【0121】
演算部O8aは、メータアウト目標圧からブームロッド圧を減算することにより、メータアウト圧力偏差を演算する。演算部O8bは、メータアウト目標圧からブームボトム圧を減算することにより、メータアウト圧力偏差を演算する。
【0122】
演算部O8c,O8dは、メータアウト圧力偏差に基づいて、方向制御弁45の目標開口面積を演算する。ROM102には、メータアウト圧力偏差と方向制御弁45の目標開口面積とが対応づけられたテーブルT8c,T8dが記憶されている。テーブルT8c,T8dは、メータアウト圧力偏差が0(ゼロ)以上の場合には、目標開口面積が最小値Aomin(>0)となり、メータアウト圧力偏差が0(ゼロ)未満の場合には、目標開口面積が最大値Aomax(>Aomin)となる特性である。演算部O8c,O8dは、テーブルT8c,T8dを参照し、メータアウト圧力偏差に基づいて、方向制御弁45の目標開口面積を演算する。
【0123】
判定部O8eは、ブーム操作量が正の値であり、かつ、ブームシリンダ11aの目標推力が正の値であるか否かを判定する。判定部O8fは、ブーム操作量が負の値であり、かつ、ブームシリンダ11aの目標推力が負の値であるか否かを判定する。
【0124】
選択部O8gは、判定部O8eで肯定判定されると、すなわちブーム操作量が正の値であり、かつ、ブームシリンダ11aの目標推力が正の値であると判定されると、予めROM102に記憶されている最大値Aomaxを目標開口面積として選択する。選択部O8gは、判定部O8eで否定判定されると、すなわちブーム操作量が正の値でない、あるいは、ブームシリンダ11aの目標推力が正の値でないと判定されると、演算部O8cで演算された目標開口面積を選択する。
【0125】
選択部O8hは、判定部O8fで肯定判定されると、すなわちブーム操作量が負の値であり、かつ、ブームシリンダ11aの目標推力が負の値であると判定されると、予めROM102に記憶されている最大値Aomaxを目標開口面積として選択する。選択部O8hは、判定部O8fで否定判定されると、すなわちブーム操作量が負の値でない、あるいは、ブームシリンダ11aの目標推力が負の値でないと判定されると、演算部O8dで演算された目標開口面積を選択する。
【0126】
演算部O8iは、ROM102に記憶されている電流変換テーブルT8iを参照し、選択部O8gで選択された方向制御弁45の目標開口面積に基づいて、方向制御弁45をシリンダ伸長側に駆動させるための電磁弁45aのソレノイドに供給する制御電流の目標値を圧力制御用方向制御弁指令値として演算する。なお、演算部O8iは、ブームシリンダ11aが伸長側に操作された場合にのみ、テーブルT8iに基づいて制御電流を演算する。演算部O8iは、ブームシリンダ11aが収縮側に操作された場合には、テーブルT8iに基づいた演算を行わず、制御電流を最小値(待機電流)に設定する。
【0127】
演算部O8jは、ROM102に記憶されている電流変換テーブルT8jを参照し、選択部O8hで選択された方向制御弁45の目標開口面積に基づいて、方向制御弁45をシリンダ収縮側に駆動させるための電磁弁45bのソレノイドに供給する制御電流の目標値を圧力制御用方向制御弁指令値として演算する。なお、演算部O8jは、ブームシリンダ11aが収縮側に操作された場合にのみ、テーブルT8jに基づいて制御電流を演算する。演算部O8jは、ブームシリンダ11aが伸長側に操作された場合には、テーブルT8jに基づいた演算を行わず、制御電流を最小値(待機電流)に設定する。
【0128】
なお、圧力制御用方向制御弁指令演算部C8は、アームシリンダ12aの方向制御弁46及びバケットシリンダ13aの方向制御弁(不図示)に対する圧力制御用方向制御弁指令値も演算する。
【0129】
図19は、圧力制御用ポンプ容積指令演算部C9が行う演算処理の内容について示す図である。圧力制御用ポンプ容積指令演算部C9は、ポンプ目標圧及び実ポンプ吐出圧に基づいて、圧力制御用ポンプ容積指令値を演算する。
【0130】
図19に示すように、圧力制御用ポンプ容積指令演算部C9は、演算部O9a,O9bとして機能する。演算部O9aは、ポンプ目標圧から実ポンプ吐出圧を減算することにより、ポンプ圧力偏差を演算する。
【0131】
演算部O9bは、ポンプ圧力偏差に基づいて、ポンプ81の吐出容量を演算する。ROM102には、ポンプ圧力偏差とポンプ81の吐出容量とが対応づけられたテーブルT9bが記憶されている。テーブルT9bは、ポンプ圧力偏差が0(ゼロ)未満の場合には、吐出容量が最小値qmin(>0)となり、ポンプ圧力偏差が0(ゼロ)以上の場合には、吐出容量が最大値qmax(>qmin)となる特性である。演算部O9bは、テーブルT9bを参照し、ポンプ圧力偏差に基づいて、ポンプ81の吐出容量を圧力制御用ポンプ容積指令値として演算する。
【0132】
図20は、ブリードオフ弁指令生成部C10が行う演算処理の内容について示す図である。
図20に示すように、ブリードオフ弁指令生成部C10は、アクチュエータの操作信号に基づいて、ブリードオフ弁18の電磁駆動部(ソレノイド)に供給される制御電流を制御するためのブリードオフ弁指令を生成する。
【0133】
ブリードオフ弁指令生成部C10は、演算部O10a、最小値選択部O10b及び演算部O10cとして機能する。ROM102には、アクチュエータの操作信号(ブームシリンダ11aの操作信号、アームシリンダ12aの操作信号等)とブリードオフ弁18の操作要求開口面積とが対応付けられたテーブルT10a1,T10a2が記憶されている。演算部O10aは、各アクチュエータのそれぞれに対応する操作信号に基づき、操作要求開口面積を演算する。以下では、ブームシリンダ11aの操作信号に基づき、操作要求開口面積を演算する例を代表して説明する。
【0134】
演算部O10aは、ブームシリンダ11aの操作信号に基づいて、ブリードオフ弁18の操作要求開口面積を演算する。テーブルT10a1は、操作レバー23aの操作量の絶対値が大きくなるほど、操作要求開口面積が小さくなる特性である。本実施形態では、操作レバー23aが中立位置を含む不感帯に位置しているときには、操作要求開口面積が最大開口面積となるように設定されている。
【0135】
演算部O10aは、テーブルT10a1を参照し、ブーム操作装置23から入力される操作信号に基づいて、操作要求開口面積を演算する。また、演算部O10aは、テーブルT10a2を参照し、アーム操作装置24から入力される操作信号に基づいて、操作要求開口面積を演算する。さらに、図示しないが、演算部O10aは、バケットシリンダ13aの操作信号、走行用油圧モータ2aの操作信号及び旋回用油圧モータ3aの操作信号に基づいて、操作要求開口面積を演算する。
【0136】
最小値選択部O10bは、演算部O10aで演算された複数の操作要求開口面積のうち、最も小さいものを選択し、選択したものをブリードオフ弁18の目標開口面積Atとして設定する。最小値選択部O10bは、ブリードオフ弁18の目標開口面積Atを演算部O10cに出力する。なお、最小値選択部O10bは、ブリードオフ弁18の目標開口面積Atを流量制御用ポンプ容積指令演算部C14にも出力する(図6参照)。
【0137】
演算部O10cは、ROM102に記憶されている電流変換テーブルT10cを参照し、最小値選択部O10bから入力された目標開口面積Atに基づいて、ブリードオフ弁18の電磁駆動部(ソレノイド)に供給する制御電流の目標値を演算する。演算部O10cは、ブリードオフ弁18の電磁駆動部に供給される制御電流を目標値に制御するためのブリードオフ弁指令を生成し、生成したブリードオフ弁指令を電流制御部(不図示)に出力する。電流制御部は、ブリードオフ弁指令に基づいて、ブリードオフ弁18の電磁駆動部に供給される制御電流が、目標値となるように制御電流を制御する。
【0138】
図21は、流量制御用方向制御弁指令演算部C11が行う演算処理の内容について示す図である。
図21に示すように、流量制御用方向制御弁指令演算部C11は、方向制御弁45,46を駆動させる電磁弁45a,45b,46a,46bに供給される制御電流の目標値を演算する。流量制御用方向制御弁指令演算部C11は、ROM102に記憶されているテーブルT11aを参照し、アクチュエータ(ブームシリンダ11a、アームシリンダ12a)の操作信号に基づいて、電磁弁45a,46aに供給する制御電流の目標値を流量制御用方向制御弁指令値として演算する。流量制御用方向制御弁指令演算部C11は、ROM102に記憶されているテーブルT11bを参照し、アクチュエータ(ブームシリンダ11a、アームシリンダ12a)の操作信号に基づいて、電磁弁45b,46bに供給する制御電流の目標値を流量制御用方向制御弁指令値として演算する。
【0139】
図22は、アクチュエータ目標流量演算部C12が行う演算処理の内容について示す図である。アクチュエータ目標流量演算部C12は、各アクチュエータのそれぞれに対応する情報(目標速度及び操作信号)に基づき、アクチュエータの目標流量を演算する。以下では、ブームシリンダ11aの目標速度及び操作信号に基づき、ブームシリンダ11aの目標流量を演算する例を代表して説明する。
【0140】
図22に示すように、アクチュエータ目標流量演算部C12は、乗算部O12a,O12b、判定部O12c及び選択部O12dとして機能する。
【0141】
乗算部O12aは、アクチュエータ目標速度演算部C4で演算されたブームシリンダ11aの目標速度(正の値)に(Sbot)を乗算し、ボトム側流入目標流量を演算する。乗算部O12bは、アクチュエータ目標速度演算部C4で演算されたブームシリンダ11aの目標速度(負の値)に(-Srod)を乗算し、ロッド側流入目標流量を演算する。
【0142】
判定部O12cは、ブームシリンダ11aの操作信号に基づき、ブーム操作量が正の値であるか否かを判定する。判定部O12cは、ブーム操作量が正の値である場合、ボトム側流入目標流量をブームシリンダ11aの目標流量として決定する。判定部O12cは、ブーム操作量が正の値でない場合、ロッド側流入目標流量をブームシリンダ11aの目標流量として決定する。
【0143】
なお、アクチュエータ目標流量演算部C12は、アームシリンダ12aの操作信号及び目標速度、バケットシリンダ13aの操作信号及び目標速度、走行用油圧モータ2aの操作信号及び目標速度、並びに、旋回用油圧モータ3aの操作信号及び目標速度に基づいて、それぞれの目標流量を演算する。
【0144】
図23は、流量制御用メータイン制御弁指令演算部C13が行う演算処理の内容について示す図である。
図23に示すように、流量制御用メータイン制御弁指令演算部C13は、アクチュエータ目標流量演算部C12で演算された目標流量、圧力センサ25で検出されるポンプ吐出圧、メータイン圧演算部C6で演算された実メータイン圧及び実メータイン最大圧に基づいて、流量制御用メータイン制御弁指令値を演算する。以下では、ブームシリンダ11aの目標流量及び実メータイン圧及び実メータイン最大圧、並びにポンプ吐出圧に基づき、ブームシリンダ11aのメータイン制御弁41に対する流量制御用メータイン制御弁指令値を演算する例を代表して説明する。
【0145】
流量制御用メータイン制御弁指令演算部C13は、演算部O13a,O13b,O13c,O13d,O13e,判定部O13f、選択部O13g、演算部O13hとして機能する。
【0146】
演算部O13aは、実メータイン最大圧から実メータイン圧を減算する。演算部O13bは、ポンプ吐出圧から実メータイン圧を減算する。演算部O13cは、演算部O13bでの演算結果の平方根をとる。演算部O13dは、演算部O13cでの演算結果にROM102に記憶されている流量係数cを乗算する。演算部O13eは、ブームシリンダ11aの目標流量から演算部O13dでの演算結果を除算し、メータイン制御弁41の目標開口面積を演算する。
【0147】
判定部O13fは、演算部O13aでの演算結果である実メータイン最大圧と実メータイン圧との差が0よりも大きいか否かを判定する。選択部O13gは、判定部O13fで肯定判定されると、すなわち実メータイン最大圧と実メータイン圧との差が0よりも大きいと判定されると、演算部O13eで演算された目標開口面積を選択する。選択部O13gは、判定部O13fで否定判定されると、すなわち実メータイン最大圧と実メータイン圧との差が0以下であると判定されると、ROM102に予め記憶されている最大値Aimaxを目標開口面積として選択する。
【0148】
演算部O13hは、ROM102に記憶されている電流変換テーブルT7cを参照し、選択部O13gで選択されたメータイン制御弁41の目標開口面積に基づいて、メータイン制御弁41の電磁駆動部(ソレノイド)に供給する制御電流の目標値を流量制御用メータイン制御弁指令値として演算する。
【0149】
なお、流量制御用メータイン制御弁指令演算部C13は、アームシリンダ12aのメータイン制御弁42及びバケットシリンダ13aのメータイン制御弁(不図示)に対する流量制御用メータイン制御弁指令値も演算する。
【0150】
図24は、流量制御用ポンプ容積指令演算部C14が行う演算処理の内容について示す図である。
図24に示すように、流量制御用ポンプ容積指令演算部C14は、ポンプ81の吐出容量を制御するレギュレータ81aに出力するポンプ容積指令を生成する。流量制御用ポンプ容積指令演算部C14は、積算部O14a、演算部O14b、乗算部O14c,O14d、加算部O14e、除算部O14fとして機能する。
【0151】
積算部O14aは、アクチュエータ目標流量演算部C12で演算された各アクチュエータ(ブームシリンダ11a、アームシリンダ12a等)の目標流量を積算し、目標流量合計値を算出する。演算部O14bは、圧力センサ25で検出されたポンプ吐出圧Pの平方根をとる。乗算部O14cは、演算部O14bでの演算結果(ポンプ吐出圧Pの平方根)にブリードオフ弁指令生成部C10で演算されたブリードオフ弁18の目標開口面積Atを乗算する。乗算部O14dは、乗算部O14cでの演算結果にROM102に記憶されている流量係数cを乗算して、ブリードオフ流量(ブリードオフ弁18を通過する作動油の流量)を算出する。加算部O14eは、積算部O14aでの演算結果である目標流量合計値に、乗算部O14dでの演算結果であるブリードオフ流量を加算して、ポンプ目標流量Qtを演算する。
【0152】
除算部O14fは、加算部O14eでの演算結果であるポンプ目標流量Qtをエンジン回転速度センサ80aで検出された実エンジン回転速度で除算し、吐出容量(押しのけ容積)の目標値をポンプ容積指令値として演算する。
【0153】
図7に示すように、方向制御弁指令生成部C15は、圧力制御フラグがオンに設定されているか否かを判定する。方向制御弁指令生成部C15は、圧力制御フラグがオンに設定されている場合、圧力制御用方向制御弁指令演算部C8で演算された圧力制御用方向制御弁指令値を選択し、電磁弁45a,45b,46a,46bに供給される制御電流を圧力制御用方向制御弁指令値(目標値)に制御するための方向制御弁指令を生成し、生成した方向制御弁指令を電流制御部(不図示)に出力する。方向制御弁指令生成部C15は、圧力制御フラグがオフに設定されている場合、流量制御用方向制御弁指令演算部C11で演算された流量制御用方向制御弁指令値を選択し、電磁弁45a,45b,46a,46bに供給される制御電流を流量制御用方向制御弁指令値(目標値)に制御するための方向制御弁指令を生成し、生成した方向制御弁指令を電流制御部(不図示)に出力する。電流制御部は、方向制御弁指令に基づいて、電磁弁45a,45b,46a,46bのソレノイドに供給される制御電流が、目標値となるように制御電流を制御する。
【0154】
メータイン制御弁指令生成部C16は、圧力制御フラグがオンに設定されているか否かを判定する。メータイン制御弁指令生成部C16は、圧力制御フラグがオンに設定されている場合、圧力制御用メータイン制御弁指令演算部C7で演算された圧力制御用メータイン制御弁指令値を選択し、メータイン制御弁41,42の電磁駆動部(ソレノイド)に供給される制御電流を圧力制御用メータイン制御弁指令値(目標値)に制御するためのメータイン制御弁指令を生成し、生成したメータイン制御弁指令を電流制御部(不図示)に出力する。メータイン制御弁指令生成部C16は、圧力制御フラグがオフに設定されている場合、流量制御用メータイン制御弁指令演算部C13で演算された流量制御用メータイン制御弁指令値を選択し、メータイン制御弁41,42の電磁駆動部(ソレノイド)に供給される制御電流を流量制御用メータイン制御弁指令値(目標値)に制御するためのメータイン制御弁指令を生成し、生成したメータイン制御弁指令を電流制御部(不図示)に出力する。電流制御部は、メータイン制御弁指令に基づいて、メータイン制御弁41,42の電磁駆動部(ソレノイド)に供給される制御電流が、目標値となるように制御電流を制御する。
【0155】
ポンプ容積指令生成部C17は、圧力制御用ポンプ容積指令演算部C9で演算された圧力制御用ポンプ容積指令値と、流量制御用ポンプ容積指令演算部C14で演算された流量制御用ポンプ容積指令値と、を比較し、大きい方を選択する。ポンプ容積指令生成部C17は、ポンプ81の吐出容量を選択したポンプ容積指令値に制御するためのポンプ容積指令を生成し、生成したポンプ容積指令をレギュレータ81aに出力する。
【0156】
次に、
図25を参照して、本実施形態に係る油圧ショベル1において、ブーム上げ単独操作を行った場合の動作の一例について説明する。
図25は、ブーム上げ単独操作を行ったときのポンプ目標流量、ブーム実流量、ポンプ吐出圧及びブームボトム圧の変化について示すタイムチャートである。
【0157】
図25の横軸は、時間(時刻)を示している。
図25(A)の縦軸は、ブームシリンダ11aの操作信号(ブーム上げ操作量)を示し、
図25(B)の縦軸は、ブームシリンダ11aの目標速度と実速度を示し、
図25(C)の縦軸は、圧力制御フラグのオンオフ状態を示し、
図25(D)の縦軸は、ブームシリンダ11aの目標推力を示し、
図25(E)の縦軸は、ブームメータイン目標圧及びポンプ目標圧を示している。なお、ブーム上げ単独操作の場合のタイムチャートであるため、ブームメータイン目標圧とポンプ目標圧とは一致している。
図25(F)の縦軸は、方向制御弁45のブーム上げ側の制御弁信号(制御電流値)を示し、
図25(G)の縦軸は、ブームメータイン制御弁41の制御弁信号(制御電流値)を示し、
図25(H)は、ブームシリンダ11aの目標流量(ブーム目標流量)及び実流量(ブーム実流量)並びにポンプ81の目標流量(ポンプ目標流量)を示し、
図25(I)は、圧力センサ25で検出されるポンプ吐出圧(ポンプ圧)及び圧力センサ26で検出されるブームボトム圧を示している。
【0158】
時点t0において、操作レバー23aは中立位置で保持されている。時点t1において、操作レバー23aが最大操作位置に向かって操作されると、その操作量の増加に伴って、シリンダ目標速度が増加する。シリンダ実速度は、シリンダ目標速度に追従して増加する。時点t2において、速度偏差率が所定値Rwよりも大きいと判定されると、圧力制御フラグがオフからオンに切り換えられる(
図15参照)。
【0159】
圧力制御フラグがオンに設定されると、ポンプ吐出圧が、ポンプ目標圧で保持されるように、ポンプ流量が制御される。
図19に示すように、メインコントローラ100は、ポンプ目標圧と実ポンプ吐出圧との差を監視しており、実ポンプ吐出圧がポンプ目標圧で保持されるように、ポンプ81の吐出容量を制御する。
【0160】
ブーム上げ単独操作の場合、ポンプ目標圧はブームメータイン目標圧に一致する(
図13参照)。このため、メータイン制御弁41は全開位置(開口面積=Aimax)で保持され(
図23参照)、実メータイン圧(実ポンプ吐出圧)がメータイン目標圧(ポンプ目標圧)で保持されるように、ポンプ81の流量が制御される。これにより、ブームシリンダ11aに供給される作動油の流量(ブーム実流量)が、時点t2から時点t3にかけて、徐々に増加することになる。
【0161】
時点t3において、ブームシリンダ11aの目標速度と実速度の速度偏差率が所定値Rw以下であると判定されると、圧力制御フラグがオンからオフに切り換えられる(
図15参照)。これにより、圧力制御から通常の流量制御へと制御状態が遷移する。その結果、ブームシリンダ11aの伸長速度が一定となるように、ブームシリンダ11aに供給される作動油の流量が制御される。
【0162】
図26は、本実施形態の比較例に係る油圧ショベルにおいて、ブーム上げ単独操作を行った場合の動作の一例について示すタイムチャートである。この比較例では、本実施形態で説明した圧力制御を実行しない。つまり、ブームシリンダ11aの目標速度と実速度とが乖離していたとしても流量制御が実行される。このため、例えば、操作レバー23aが中立位置からブーム上げ側の最大操作位置へ急に操作されると、ポンプ目標流量及びブーム目標流量が操作レバー23aの操作量に応じて、最大流量まで急激に増加する。その結果、ブーム実流量が急激に増加し、ブームシリンダ11aの動作が不安定になる場合がある。
【0163】
これに対して、本実施形態では、
図25に示すように、ブーム上げ操作後に、ブームシリンダ11aの目標速度と実速度とが乖離しているときには、ブームシリンダ11aのメータイン圧が一定となるようにブームシリンダ11aへ供給される作動油の流量が徐々に増加するように制御される。したがって、本実施形態によれば、ブーム実流量が急激に増加することがなく、ブーム11の動作が不安定になることが抑制され、略一定の加速度でブーム11を加速させることができる。
【0164】
図示しないが、ブーム上げ単独動作に代えて、例えば、ブーム上げ動作とアームダンプ動作の複合動作を行う場合についても同様に、安定してブーム上げ動作及びアームダンプ動作を行うことができる。ここで、ブームメータイン目標圧よりもアームメータイン目標圧の方が大きい場合、アームメータイン目標圧がポンプ目標圧として設定される(
図13参照)。
【0165】
この場合、圧力制御フラグがオンに設定されると、アームメータイン制御弁42は、全開位置に制御され、ポンプ流量によってアームシリンダ12aのメータイン圧が制御される。一方、メインコントローラ100は、メータイン目標圧と実メータイン圧との差を監視しており、その差が小さくなるようにブームメータイン制御弁41の開度を制御する。つまり、メインコントローラ100は、ブームメータイン制御弁41の開度を制御することによってポンプ圧を減圧し、実メータイン圧がメータイン目標圧で保持されるように、実メータイン圧を制御する(
図17参照)。
【0166】
これにより、ブーム上げ及びアームダンプの複合動作の開始直後に、ブームシリンダ11a及びアームシリンダ12aに供給される作動油が急激に増加することによりショックが発生することが防止され、ブームシリンダ11a及びアームシリンダ12aを滑らかに動作させることができる。
【0167】
次に、
図27を参照して、本実施形態に係る油圧ショベル1において、アーム引き単独操作を行った場合の動作の一例について説明する。
図27は、アーム引き単独動作の停止操作を行ったときのポンプ目標流量、アーム実流量及びアームロッド圧の変化について示すタイムチャートである。
【0168】
図27の横軸は、時間(時刻)を示している。
図27(A)の縦軸は、アームシリンダ12aの操作信号(アームクラウド操作量)を示し、
図27(B)の縦軸は、アームシリンダ12aの目標速度と実速度を示し、
図27(C)の縦軸は、圧力制御フラグのオンオフ状態を示し、
図27(D)の縦軸は、アームシリンダ12aの目標推力を示し、
図27(E)の縦軸は、アームメータアウト目標圧を示している。
図27(F)の縦軸は、方向制御弁46のアーム引き側の制御弁信号(制御電流値)を示し、
図27(G)の縦軸は、アームメータイン制御弁42の制御弁信号(制御電流値)を示し、
図27(H)は、アームシリンダ12aの目標流量(アーム目標流量)及び実流量(アーム実流量)並びにポンプ81の目標流量(ポンプ目標流量)を示し、
図27(I)は、圧力センサ25で検出されるポンプ吐出圧及び圧力センサ29で検出されるアームシリンダ12aのロッド圧を示している。なお、アーム引き単独操作の場合のタイムチャートであるため、アームボトム圧とポンプ圧とは一致している。
【0169】
時点t4において、操作レバー24aは最大操作位置で保持されている。時点t5において、操作レバー24aが中立位置に向かって操作されると、その操作量の減少に伴ってシリンダ目標速度が減少する。シリンダ実速度は、シリンダ目標速度に追従して減少する。時点t6において、速度偏差率が所定値Rwよりも大きいと判定されると、圧力制御フラグがオフからオンに切り換えられる(
図15参照)。
【0170】
圧力制御フラグがオンに設定されると、アームロッド圧が、アームメータアウト目標圧で保持されるように、メータアウト制御弁としての方向制御弁46が制御される。
図18に示すように、メインコントローラ100は、メータアウト目標圧とアームロッド圧との差を監視しており、アームロッド圧がメータアウト目標圧で保持されるように方向制御弁46の開度を制御する。なお、メインコントローラ100は、メータイン圧が所定値P1(例えば、1MPa程度)で保持されるように、メータイン制御弁42の開度を制御し、キャビテーションの発生を防止する。
【0171】
図28は、本実施形態の比較例に係る油圧ショベルにおいて、アーム引き単独操作を行った場合の動作の一例を示すタイムチャートである。この比較例では、本実施形態で説明した圧力制御を実行しない。つまり、アームシリンダ12aの目標速度と実速度とが乖離していたとしても流量制御が実行される。このため、例えば、操作レバー24aがアーム引き側の最大操作位置から中立位置へ急に操作されると、ポンプ目標流量及びアーム目標流量が操作レバー24aの操作量に応じて、最小流量まで急激に減少する。その結果、アーム実流量が急激に減少し、アームシリンダ12aの動作が不安定になる場合がある。
【0172】
これに対して、本実施形態では、
図27に示すように、アーム引き単独動作の停止操作後に、アームシリンダ12aの目標速度と実速度とが乖離しているときには、アームシリンダ12aのメータアウト圧が一定となるようにアームシリンダ12aへ供給される作動油の流量が徐々に減少するように制御される。したがって、本実施形態によれば、アーム実流量が急激に減少することがなく、アーム12の動作が不安定になることが抑制され、略一定の減速度でアーム12を減速させることができる。
【0173】
上述した実施形態によれば、次の作用効果を奏する。
【0174】
(1)油圧ショベル(作業機械)1は、作動流体を吐出するポンプ81と、ポンプ81から吐出される作動流体によって駆動される複数の流体圧シリンダ(ブームシリンダ11a、アームシリンダ12a及びバケットシリンダ13a)及び流体圧シリンダ(ブームシリンダ11a、アームシリンダ12a及びバケットシリンダ13a)によって駆動される複数の被駆動部材(ブーム11、アーム12及びバケット13)を有する作業装置10と、流体圧シリンダ(ブームシリンダ11a、アームシリンダ12a及びバケットシリンダ13a)の操作信号(操作指令)を出力する操作装置23,24と、操作装置23,24の操作信号に基づき作業装置10の動作を制御するメインコントローラ(制御装置)100と、作業装置10の姿勢を検出する姿勢検出装置15と、を備える。
【0175】
メインコントローラ100は、操作装置23,24からの操作信号に基づいて、ブームシリンダ(流体圧シリンダ)11a及びアームシリンダ(流体圧シリンダ)12aのメータイン目標圧及びメータアウト目標圧(
図12参照)並びに目標速度(
図14参照)を演算する。メインコントローラ100は、油圧シリンダ(11a,12a)の目標速度に基づいて、油圧シリンダ(11a,12a)の目標流量を演算する(
図22参照)。メインコントローラ100は、姿勢検出装置15の検出結果に基づいて、油圧シリンダ11a,12aの実速度を演算し(
図4参照)、油圧シリンダ(11a,12a)の目標速度と実速度の乖離度合いを表す速度偏差率を演算する(
図15参照)。
【0176】
メインコントローラ100は、速度偏差率が予め定められた所定値Rwよりも大きいときには、油圧シリンダ11a,12aの圧力(メータイン圧力及びメータアウト圧力)を目標圧(メータイン目標圧及びメータアウト目標圧)とするための圧力制御を実行する(
図7、
図15等参照)。メインコントローラ100は、速度偏差率が予め定められた所定値Rwよりも小さいときには、油圧シリンダ11a,12aの流量(供給流量)を目標流量とするための流量制御を実行する(
図7、
図15等参照)。
【0177】
この構成では、速度偏差率(乖離度合い)が所定値Rwよりも大きいときに、圧力制御を実行することにより、作業装置10の急動作を防止しつつ、安定した加減速度で作業装置10を動作させることができる。なお、速度偏差率(乖離度合い)が所定値Rwよりも小さいときには、流量制御を実行することにより、オペレータの意図する速度で作業装置10を動作させることができる。その結果、掘削、整地等の作業精度の向上を図ることができる。
【0178】
(2)油圧ショベル1は、油圧シリンダ(11a,12a)へ供給される作動流体の流れを制御するメータイン制御弁41,42を備える。ポンプ81は、吐出容量の変更が可能な可変容量型のポンプである。メインコントローラ100は、油圧シリンダ(11a,12a)が加速している場合、圧力制御において、ポンプ81の吐出容量及びメータイン制御弁41の開度を制御することにより、油圧シリンダ(11a,12a)のメータイン圧を制御する(
図12、
図13、
図17、
図19及び
図25等参照)。これにより、圧力制御において、安定した加速度で作業装置10を動作させることができる。
【0179】
(3)油圧ショベル1は、油圧シリンダ(11a,12a)から排出される作動流体の流れを制御する方向制御弁(メータアウト制御弁)45,46を備える。メインコントローラ100は、油圧シリンダ(11a,12a)が減速している場合、圧力制御において、方向制御弁(メータアウト制御弁)45,46の開度を制御することにより、油圧シリンダ(11a,12a)のメータアウト圧を制御する(
図12、
図18及び
図27等参照)。これにより、圧力制御において、安定した減速度で作業装置10を動作させることができる。
【0180】
(4)本実施形態では、メータアウト制御弁が、ポンプ81から油圧シリンダ(11a,12a)に供給される作動流体の流れを制御する方向制御弁45,46である。つまり、方向制御弁45,46がメータアウト制御弁としての機能を備えている。このため、方向制御弁45,46とは別に専用のメータアウト制御弁を設ける必要がないので、専用のメータアウト制御弁を設ける場合に比べて、油圧ショベル1のコストを低減することができる。
【0181】
(5)油圧ショベル1は、油圧シリンダ(11a,12a)の圧力を検出する圧力センサ26,27,28,29を備える。メインコントローラ100は、圧力センサ26,27,28,29の検出結果に基づいて、油圧シリンダ(11a,12a)の推力Fを演算し(
図8参照)、姿勢検出装置15の検出結果に基づいて、油圧シリンダ(11a,12a)の加減速度(速度変化率)α″を演算する(
図8参照)。メインコントローラ100は、油圧シリンダ(11a,12a)の推力F及び加速度α″を加味して、油圧シリンダ(11a,12a)の目標圧を決定する(
図11及び
図12参照)。
【0182】
多関節型の作業装置10では、油圧シリンダ(11a,12a)が一定の加減速度で駆動されている場合であっても、作業装置10の姿勢によっては、被駆動部材(11,12)の加減速度が大きく変化する場合がある。本実施形態では、実際に発生している油圧シリンダ(11a,12a)の推力Fと、被駆動部材の加減速度α″を実測して、加速トルク目標値をトルク調整ゲインで補正し、目標トルク及び目標推力を算出し、この算出結果に基づいて目標圧を演算するようにした。これにより、作業装置10の姿勢によって、加減速度が変化することを抑制することができる。
【0183】
(6)メインコントローラ100は、姿勢検出装置15の検出結果に基づいて、作業装置10に作用する重力による回転モーメントMgを演算し、重力による回転モーメントMgを打ち消すように、油圧シリンダ(11a,12a)の目標圧を決定する(
図11及び
図12参照)。これにより、作業装置10の姿勢が変化したときの重力の影響によって、作業装置10の加減速度が変化することを抑制することができる。換言すれば、作業装置10の姿勢にかかわらず、適切な加減速度で作業装置10を動作させることができる。
【0184】
(7)本実施形態では、メインコントローラ100は、姿勢検出装置15の検出結果及び油圧シリンダ(11a,12a)の推力Fに基づいて、作業装置10に作用する油圧シリンダ(11a,12a)の推力による回転モーメントMfを演算する。メインコントローラ100は、推力による回転モーメントMg、重力による回転モーメントMg及び加減速度α″に基づいて、慣性モーメント実測値Iaを演算し、慣性モーメント実測値Iaを加味して、油圧シリンダ(11a,12a)の目標圧を決定する(
図8、
図11及び
図12等参照)。これにより、掘削作業、整地作業等の作業中に、地山からバケット13に作用する反力、バケット13に積み込まれた掘削物に作用する重力等の影響によって作業装置10の加減速度が変化してしまうことを抑制できる。
【0185】
以上のとおり、本実施形態によれば、操作指令が急激に変化した場合に、作業装置10が急加速したり急減速したりすることを防止するとともに、オペレータの意図した加減速度で作業装置10を動作させることのできる油圧ショベル1を提供することができる。このような油圧ショベル1によれば、目標面に沿った精度の高い掘削、整地等の作業を容易に行うことができる。
【0186】
次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせたりすることも可能である。
【0187】
<変形例1>
上記実施形態では、方向制御弁45,46をメータアウト制御弁として用いて、油圧シリンダ(11a,12a)から排出される作動油の通路の開度を調整する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。方向制御弁45,46とは別にメータアウト制御弁を設けるようにしてもよい。この場合、方向制御弁45,46によるメータアウト側の通路の開度の調整が不要になる。したがって、方向制御弁45,46によるメータアウト側の通路の調整に伴って方向制御弁45,46のメータイン側の通路を通過する作動流体の圧損の影響を低減することができる。さらに、メータアウト側の通路の開度の調整に特化した専用のメータアウト制御弁を設ける場合、メータアウト制御弁のサイズを小さくするなどして、制御精度を向上させることができる。
【0188】
<変形例2>
上記実施形態では、操作装置23,24がオペレータによって操作される装置を例に説明したが、本発明はこれに限定されない。操作装置23,24に代えて、自動操縦装置からの操作指令に基づいて、作業装置10を動作させる場合についても本発明を適用することができる。また、オペレータによる作業装置10の操作を補助するように操作指令を出力する半自動操縦装置を設けている場合には、半自動操縦装置からの操作指令に基づいて、作業装置10を動作させる場合についても本発明を適用することができる。
【0189】
<変形例3>
上記実施形態では、作業装置10に作用する重力の回転モーメントを都度演算して、目標圧に反映させる例について説明したが、本発明はこれに限定されない。所定の姿勢において作業装置10に作用する重力の回転モーメントに相当する値をROM102に記憶させておき、この値を加味して目標圧を決定するようにしてもよい。
【0190】
<変形例4>
上記実施形態では、作業機械がクローラ式の油圧ショベル1である場合を例に説明したが、本発明はこれに限定されない。ホイール式の油圧ショベル、ホイールローダ等、複数の被駆動部材を流体圧シリンダで駆動する種々の作業機械に本発明を適用することができる。
【0191】
<変形例5>
上記実施形態で説明した制御装置(メインコントローラ100)の機能は、それらの一部または全部をハードウェア(例えば各機能を実行するロジックを集積回路で設計する等)で実現してもよい。
【0192】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0193】
1…油圧ショベル(作業機械)、10…作業装置、11…ブーム(被駆動部材)、11a…ブームシリンダ(流体圧シリンダ)、12…アーム(被駆動部材)、12a…アームシリンダ(流体圧シリンダ)、13…バケット(被駆動部材)、13a…バケットシリンダ(流体圧シリンダ)、15…姿勢検出装置、18…ブリードオフ弁、19…タンク、20…機体、23,24…操作装置、26~29…圧力センサ、41,42…メータイン制御弁、45,46…方向制御弁(メータアウト制御弁)、81…ポンプ、81a…レギュレータ、100…メインコントローラ(制御装置)