(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-22
(45)【発行日】2025-01-30
(54)【発明の名称】ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 21/00 20060101AFI20250123BHJP
C08K 13/02 20060101ALI20250123BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20250123BHJP
C08K 3/04 20060101ALN20250123BHJP
C08K 3/013 20180101ALN20250123BHJP
C08K 3/18 20060101ALN20250123BHJP
C08K 5/09 20060101ALN20250123BHJP
【FI】
C08L21/00
C08K13/02
B60C1/00 C
B60C1/00 Z
C08K3/04
C08K3/013
C08K3/18
C08K5/09
(21)【出願番号】P 2023516160
(86)(22)【出願日】2020-09-10
(86)【国際出願番号】 JP2020034251
(87)【国際公開番号】W WO2022054190
(87)【国際公開日】2022-03-17
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】514326694
【氏名又は名称】コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】坂本 志乃
(72)【発明者】
【氏名】グーテイロン シルヴァン
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-189797(JP,A)
【文献】特開2005-325302(JP,A)
【文献】特開2013-159169(JP,A)
【文献】特開2020-097290(JP,A)
【文献】国際公開第2020/129972(WO,A1)
【文献】特開2020-114896(JP,A)
【文献】特開平05-065370(JP,A)
【文献】特開2016-113589(JP,A)
【文献】特開2018-053244(JP,A)
【文献】米国特許第09574066(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム組成物であって、
-エラストマーマトリックスと、
-補強用充填剤と、
-コバルトアセチルアセトナートと、
-脂肪酸100質量%当たり10質量%超の不飽和脂肪酸をベースとする脂肪酸と
をベースと
し、
塩基性硫酸マグネシウム無機繊維を含まない、前記ゴム組成物。
【請求項2】
エラストマーマトリックスが、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマー、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる少なくとも1種のジエンエラストマーを含む、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
脂肪酸の含有量が、0.1phrと2.0phrの間である、請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
脂肪酸100質量%当たりの不飽和脂肪酸の含有量が、50質量%超である、請求項1~3のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
不飽和脂肪酸が、4~30個の炭素原子を有する直鎖不飽和脂肪酸である、請求項1~4のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項6】
不飽和脂肪酸が、1~6つの炭素-炭素二重結合を持つ、請求項1~5のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項7】
不飽和脂肪酸が、不飽和脂肪酸100質量%当たり10質量%超の多価不飽和脂肪酸をベースとする、請求項1~6のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項8】
不飽和脂肪酸が、オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる少なくとも1種をベースとする、請求項1~7のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のゴム組成物でコーティングされている少なくとも1つの金属モノフィラメントを含む、ゴム複合体。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載のゴム組成物を含むタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、特に、ゴム物品向けのゴム組成物、より具体的にはゴム複合体向け又はタイヤ向けのゴム組成物の分野である。
【背景技術】
【0002】
硬化前に粘着性であるゴム組成物の能力は、ゴム物品の製造にとって重要な特性である。実際、ゴム物品、特に、タイヤを作るために、ゴム物品の異なる層を互いに適用できることが必要であり、これらの層が、ゴム物品の硬化(前記層を互いに架橋させるために行われる)前に互いにくっつくことも必要である。硬化(加硫)前の組成物のこの粘着特性も、「粘着性(tackiness)」、「未硬化タック」、「未加硫タック」又は「グリーンタック」と称される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【0004】
特許文献1には、優れた破断特性を奏するための、コバルトアセチルアセトナートを含むゴム組成物が開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されているゴム組成物には問題があり、ゴム組成物の粘着性、特に、エージング後の粘着性がコバルトアセチルアセトナートによって低下し得ることが懸念されている。
研究中に、本発明者らは、特にゴム物品向けの特定のゴム組成物が、初期粘着性及び耐亀裂性を維持又は改善しながら、エージング後の粘着性を予想外に改善することができることを発見した。
【0006】
本明細書において、特に明確に示されていない限り、すべてのパーセント(%)は、質量パーセント(wt%)を示す。
「エラストマーマトリックス」という表現は、所定の組成物において、前記ゴム組成物に存在するすべてのエラストマーを意味すると理解される。
「phr」という略語は、考慮されるゴム組成物中のエラストマーマトリックス100質量部当たりの質量部を表す。
本明細書において、特に明確に示されていない限り、各TgDSC(ガラス転移温度)は、既知の方法で、規格ASTM D3418-08に準拠して、DSC(示差走査熱量計)により測定される。
「aとbの間」という表現で示される値の区間はすべて、「a」を超える値から「b」未満の値の範囲(すなわち、端点a及びbを除く)を表すのに対し、「a~b」という表現で示される値の区間はすべて、「a」値から「b」値までの範囲(すなわち、厳密な端点a及びbを含む)を意味する。
「をベースとする」という表現は、本願において、使用した様々な成分の混合物、使用した様々な成分の反応の生成物、又はその両方を含む組成物であって、これらの成分のいくつかは、前記組成物の様々な製造段階中に、特に加硫(硬化)中に、少なくとも部分的に、互いに反応できるか、又は互いに反応することが意図されている、前記組成物を意味すると理解されるべきである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点は、ゴム組成物、好ましくは接着性ゴム組成物であって、エラストマーマトリックスと、補強用充填剤と、コバルトアセチルアセトナートと、脂肪酸100質量%当たり10質量%超、好ましくは20質量%超、より好ましくは30質量%超、さらにより好ましくは40質量%超の不飽和脂肪酸をベースとする脂肪酸と、をベースとする、前記ゴム組成物である。
【発明の効果】
【0008】
前記特定のゴム組成物により、初期粘着性及び耐亀裂性を維持又は改善しながら、エージング後の粘着性を予想外に改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
各好ましい範囲、各好ましい事項、又はその両方を含む、以下の観点、実施形態、例示、及び変形のそれぞれは、特に明確に示されていない限り、本発明の他の観点、他の実施形態、他の例示及び他の変形のいずれかに適用することができる。
本発明のゴム組成物は、エラストマーマトリックスをベースとする。
「ジエン」タイプのエラストマー(又は大まかに「ゴム」、両用語は同義語とされる)は、知られているとおり、ジエンモノマー(2つの共役又は非共役炭素-炭素二重結合を有するモノマー)から少なくとも部分的に誘導された、1つ以上のエラストマー(すなわち、ホモポリマー又はコポリマー)であると理解されるべきである。
これらのジエンエラストマーは、2つのカテゴリー:「本質的に不飽和」又は「本質的に飽和」に分類することができる。一般的には、「本質的に不飽和」という表現は、少なくとも一部が、15%(モル%)超のジエン(共役ジエン)由来の単位の含有量を有する共役ジエンモノマーに由来する、ジエンエラストマーを意味すると理解される。したがって、ブチルゴム、又はEPDMタイプのジエン/α-オレフィンのコポリマーなどのジエンエラストマーは、上記の定義に含まれず、特に「本質的に飽和の」ジエンエラストマー(ジエン由来の単位の含有量が低いか、又は非常に低い(常に15%未満))と表現することができる。「本質的に不飽和の」ジエンエラストマーのカテゴリーにおいて、「高度不飽和の」ジエンエラストマーという表現は、特に、50%超のジエン(共役ジエン)由来の単位の含有量を有するジエンエラストマーを意味すると理解される。
あらゆるタイプのジエンエラストマーに適用されるが、タイヤの当業者は、本質的に不飽和のジエンエラストマーを本発明に使用することが好ましいことを理解するであろう。
【0010】
これらの定義を前提として、本発明の組成物に使用することができるジエンエラストマーという表現は、特に、
(a)共役ジエンモノマーの重合により得られた任意のホモポリマー、好ましくは4~12個の炭素原子を有する前記ホモポリマー、
(b)1つ以上の共役ジエン同士の共重合、又は1つ以上の共役ジエンと1つ以上の(好ましくは8~20個の炭素原子を有する)ビニル芳香族化合物の共重合により得られた任意のコポリマー、を意味すると理解される。
以下は、共役ジエンとして特に適切なものである:1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジ(C1-C5アルキル)-1,3-ブタジエン、例えば、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジエチル-1,3-ブタジエン、2-メチル-3-エチル-1,3-ブタジエン又は2-メチル-3-イソプロピル-1,3-ブタジエン、アリール-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン又は2,4-ヘキサジエン等が挙げられる。以下、例えば、ビニル芳香族化合物として適切なものが挙げられる:スチレン、オルト-、メタ-若しくはパラ-メチルスチレン、「ビニルトルエン」の市販混合物、パラ-(tert-ブチル)スチレン、メトキシスチレン、クロロスチレン、ビニルメシチレン、ジビニルベンゼン又はビニルナフタレン。
【0011】
本発明の第2の観点は、エラストマーマトリックスが、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマー及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる少なくとも1種のジエンエラストマーを含む、第1の観点に記載のゴム組成物である。
第2の観点の好ましい実施形態によれば、ポリブタジエンは、4%と80%の間の1,2-単位の含有量(モル%)を有するか、又は80%(モル%)超、より好ましくは90%(モル%)超、さらにより好ましくは少なくとも96%(モル%)のシス-1,4-単位の含有量を有する。
第2の観点の好ましい実施形態によれば、ポリイソプレンは、天然ゴム(NR)、合成ポリイソプレン(IR)又はこれらの組み合わせである。合成ポリイソプレンは、合成シス-1,4-ポリイソプレン、好ましくは90%超、より好ましくは95%超、さらにより好ましくは98%超のシス-1,4結合の含有量(モル%)を有する合成シス-1,4-ポリイソプレンであり得る。
第2の観点の好ましい実施形態によれば、ブタジエンコポリマーは、スチレンブタジエンコポリマー(SBR)、ブタジエンイソプレンコポリマー(BIR)、スチレンブタジエンイソプレンコポリマー(SBIR)及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる。
第2の観点の好ましい実施形態によれば、イソプレンコポリマーは、ブタジエンイソプレンコポリマー(BIR)、スチレンイソプレンコポリマー(SIR)、スチレンブタジエンイソプレンコポリマー(SBIR)及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる。
【0012】
本発明の第3の観点は、エラストマーマトリックスが、50phr超、好ましくは60phr超、より好ましくは70phr超、さらにより好ましくは80phr超、具体的には90phr超、より具体的には95phr超、さらにより具体的には100phrのポリイソプレンを含む、第1の観点又は第2の観点に記載のゴム組成物である。
第2の観点又は第3の観点の好ましい実施形態によれば、ポリイソプレンは、ポリイソプレンの100質量%当たり50質量%超、好ましくは60質量%超、より好ましくは70質量%超、さらにより好ましくは80質量%超、特に90質量%超、より特に95質量%超、さらにより特に100%の天然ゴムを含む。
本発明のゴム組成物は、補強用充填剤をベースとする。
物品の製造のために使用できるゴム組成物を補強する能力で知られている任意のタイプの補強用充填剤、例えば、補強用有機充填剤(カーボンブラックなど)、補強用無機充填剤(既知の方法で、カップリング剤と組み合わせるシリカなど)、又は補強用有機充填剤と補強用無機充填剤の組み合わせを使用してもよい。
カーボンブラックとして、タイヤに従来から用いられるあらゆるカーボンブラック(「タイヤ-グレード」ブラック)が適しており、例えば、ASTMグレードの100、200又は300シリーズの補強用カーボンブラック(例えば、N115、N134、N234、N326、N330、N339、N347又はN375ブラックなど)、或いはより上位のカーボンブラックのシリーズである、ASTMグレードの500、600、700又は800シリーズ(例えば、N550、N660、N683、N772、N774ブラックなど)などが挙げられる。カーボンブラックは、例えば、エラストマーマトリックス中に、例えば、ジエンエラストマー中に、既にマスターバッチの形態で含まれている場合がある(例えば、出願WO97/36724又はWO99/16600を参照されたい)。
【0013】
本発明の第4の観点は、補強用充填剤が、補強用充填剤の100質量%当たり50質量%超、好ましくは60質量%超、より好ましくは70質量%超、さらにより好ましくは80質量%超、特に90質量%超、より特に95質量%超、さらにより特に100質量%のカーボンブラックを含む、第1の観点~第3の観点のいずれか1つに記載のゴム組成物である。
本発明の第5の観点は、補強用充填剤の含有量が、10phrと100phrの間、好ましくは20phrと90phrの間、より好ましくは30phrと80phrの間、さらにより好ましくは40phrと70phrの間、特に50phrと60phrの間である、第1の観点~第4の観点のいずれか1つに記載のゴム組成物である。
【0014】
本発明のゴム組成物は、コバルトアセチルアセトナートをベースとするものである。
本発明の第6の観点は、コバルトアセチルアセトナートが、コバルト(II)アセチルアセトナート、コバルト(III)アセチルアセトナート、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれ、好ましくはコバルト(II)4-オキソペンタ-2-エン-2-オレートであるコバルト(II)アセチルアセトナートである、第1の観点~第5の観点のいずれか1つに記載のゴム組成物である。
本発明の第7の観点は、コバルトアセチルアセトナートの含有量が、0.1phrと2.0phrの間、好ましくは0.5phrと1.5phrの間である、第1の観点~第6の観点のいずれか1つに記載のゴム組成物である。
好ましい実施形態によれば、ゴム組成物は、コバルトアセチルアセトナート以外のコバルト塩を含まないか、又はコバルトアセチルアセトナート以外の少なくとも1種のコバルト塩をベースとし、コバルトアセチルアセトナート以外のコバルト塩の質量が、コバルトアセチルアセトナートの質量よりも少ない。
【0015】
本発明のゴム組成物は、脂肪酸100質量%当たり10質量%超の不飽和脂肪酸をベースとする脂肪酸をベースとする。
脂肪酸は、炭化水素鎖に不飽和結合を有しない脂肪族モノカルボン酸である飽和脂肪酸、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、をさらにベースとしてもよい。
不飽和脂肪酸は、炭化水素鎖に少なくとも1つの不飽和結合を有する脂肪族モノカルボン酸である。
本発明の第8の観点は、脂肪酸の含有量が、0.1phrと2.0phrの間、好ましくは0.2phrと1.0phrの間である、第1の観点~第7の観点のいずれか1つに記載のゴム組成物である。
本発明の第9の観点は、脂肪酸100質量%当たり不飽和脂肪酸の含有量が、50質量%超、好ましくは60質量%超である、第1の観点~第8の観点のいずれか1つに記載のゴム組成物である。
本発明の好ましい実施形態によれば、脂肪酸100質量%当たり不飽和脂肪酸の含有量は、最大で100質量%である。
【0016】
本発明の第10の観点は、不飽和脂肪酸が、4~30個の炭素原子、好ましくは8~26個の炭素原子、より好ましくは12~22個の炭素原子、さらにより好ましくは16~18個の炭素原子を有する直鎖不飽和脂肪酸である、第1の観点~第9の観点のいずれか1つに記載のゴム組成物である。
第10の観点の好ましい実施形態によれば、直鎖不飽和脂肪酸は、少なくとも12個の炭素原子を有し、直鎖不飽和脂肪酸は、最初の炭素-炭素二重結合が直鎖不飽和脂肪酸の末端であるメチル側から数えて3番目以降の炭素、好ましくは5番目以降の炭素、より特に6番目以降の炭素に位置する。
本発明の好ましい実施形態によれば、不飽和脂肪酸(IUPAC名)は、ブテン酸(C4)、ペンテン酸(C5)、ヘキセン酸(C6)、ヘプテン酸(C7)、オクテン酸(C8)、ノネン酸(C9)、デセン酸(C10)、ウンデセン酸(C11)、ドデセン酸(C12)、トリデセン酸(C13)、テトラデセン酸(C14)、ペンタデセン酸(C15)、ヘキサデセン酸(C16)、ヘプタデセン酸(C17)、オクタデセン酸(C18)、ノナデセン酸(C19)、イコセン酸(C20)、ヘニコセン酸(C21)、ドコセン酸(C22)、トリコセン酸(C23)、テトラコセン酸(C24)、ペンタコセン酸(C25)、ヘキサコセン酸(C26)、ヘプタコセン酸(C27)、オクタコセン酸(C28)、ノナコセン酸(C29)、トリアコンテン酸(C30)又はこれらの組み合わせの少なくとも1種をベースとする。
【0017】
本発明の第11の観点は、不飽和脂肪酸が、1~6つの炭素-炭素二重結合、好ましくは1~5つの炭素-炭素二重結合、より好ましくは1~4つの炭素-炭素二重結合、さらにより好ましくは1~3つの炭素-炭素二重結合を有する、第1の観点~第10の観点のいずれか1つに記載のゴム組成物である。
本発明の第12の観点は、不飽和脂肪酸が、不飽和脂肪酸100質量%当たり10質量%超、好ましくは20質量%超、より好ましくは30質量%超、さらにより好ましくは40質量%超、特に50質量%超の多価不飽和脂肪酸をベースとする、第1の観点~第11の観点のいずれか1つに記載のゴム組成物である。
第12の観点の好ましい実施形態によれば、多価不飽和脂肪酸は、少なくとも2つの炭素-炭素二重結合、好ましくは2~6つの炭素-炭素二重結合、より好ましくは2~5つの炭素-炭素二重結合、さらにより好ましくは2~4つの炭素-炭素二重結合、特に2~3つの炭素-炭素二重結合を有する。
【0018】
本発明の好ましい実施形態によれば、不飽和脂肪酸(一般名)は、ミリストレイン酸(C14、一価不飽和脂肪酸、n-5)、パルミトレイン酸(C16、一価不飽和脂肪酸、n-7)、ステアリドン酸(C18、四価不飽和脂肪酸、n-3)、バクセン酸(C18、一価不飽和脂肪酸、n-7)、オレイン酸(C18、一価不飽和脂肪酸、n-9)、エライジン酸(C18、一価不飽和脂肪酸、n-9)、リノール酸(C18、二価不飽和脂肪酸、n-6)、α-リノレン酸(C18、三価不飽和脂肪酸、n-3)、γ-リノレン酸(C18、三価不飽和脂肪酸、n-6)、ガドレイン酸(C20、一価不飽和脂肪酸、n-11)、エイコセン酸(C20、一価不飽和脂肪酸、n-11)、エイコサジエン酸(C20、二価不飽和脂肪酸、n-6)、アラキドン酸(C20、四価不飽和脂肪酸、n-6)、エイコサペンタエン酸(C20、五価不飽和脂肪酸、n-3)、エルカ酸(C22、一価不飽和脂肪酸、n-9)、ドコサヘキサエン酸(C22、六価不飽和脂肪酸、n-3)、ネルボン酸(C24、一価不飽和脂肪酸、n-9)、又はこれらの組み合わせの少なくとも1種をベースとする。注目されたいのは、化合物名の後の括弧に記載のn-x(x=3、5、6、7、9及び11)は、不飽和脂肪酸の末端であるメチル基側から数えて最初の炭素-炭素二重結合が位置する炭素の位置を表す。
【0019】
本発明の第13の観点は、不飽和脂肪酸が、オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる少なくとも1種をベースとし、好ましくはリノール酸の量がオレイン酸の量よりも多く、より好ましくはリノール酸の量がα-リノレン酸の量よりも多く、さらにより好ましくはオレイン酸の量がα-リノレン酸の量よりも多い、第1の観点~第12の観点のいずれか1つに記載のゴム組成物である。
本発明のゴム組成物は、ゴム物品向けのゴム組成物に一般的に使用される、通常の添加剤の全部又は少なくとも一部をベースとすることができ、例えば、保護剤(抗オゾンワックス、化学的抗オゾン剤、酸化防止剤など)、可塑剤(例えば、液状可塑剤と炭化水素樹脂)、粘着付与樹脂、メチレン受容体(例えば、フェノールノボラック樹脂)、メチレン供与体(例えば、ヘキサメチレンテトラミン(HMT)、ヘキサメトキシメチルメラミン(H3M)又はこれらの組み合わせ)、架橋系(例えば、硫黄、硫黄供与体、過酸化物、ビスマレイミド、加硫促進剤、加硫活性剤、加硫遅延剤(例えば、N-シクロヘキシルチオフタルイミド)、抗加硫戻り剤(anti-reversion agents)(例えば、ヘキサメチレンチオ硫酸塩)、又はこれらの組み合わせ)、或いはこれらの組み合わせ等が挙げられる。
【0020】
本発明のゴム組成物は、当業者によく知られている2つの連続的な調製段階を用いて、適切なミキサーで製造され得る。熱機械的に加工又は混練する第1段階(「非生産」段階)と称する)は、高温において、110℃と190℃の間、好ましくは130℃と180℃の間の最高温度まで行い、その後、機械的に加工する第2段階(「生産」段階と称する)は、より低い温度、典型的には110℃未満、例えば、40℃と100℃の間に行い、架橋又は加硫系を混ぜ込んで、段階を終了する。
このような組成物の製造に使用できるプロセスは、例えば、好ましくは以下の工程を含む:
-第1段階(「非生産」段階))中に、ミキサー内で、補強用充填剤、脂肪酸、コバルトアセチルアセトナートをエラストマーマトリックスに混ぜ込み、110℃と190℃の間の最高温度に到達するまで、全体を熱機械的に(例えば、1以上の工程で)混練することと、
-一緒にした混合物を100℃未満の温度に冷却することと、
-その後、第2段階(「生産」段階を指す)中に、架橋系の硫黄、加硫促進剤、加硫遅延剤、及びメチレン供与体を混ぜ込むことと、
-全体を110℃未満の最高温度まで混練すること。
【0021】
例として、第1(「非生産」)段階は、単一の熱機械的な段階で行われ、その間、必須成分のすべてを、標準的なインターナルミキサーなどの適切なミキサーに導入し、次に、第2工程で、例えば、1~2分間の混練後、他の添加剤、任意の追加の充填剤用被覆剤又は加工助剤を、架橋系の硫黄、加硫促進剤及び加硫遅延剤、並びにメチレン供与体を除いて導入する。この非生産段階における総混練時間は、好ましくは1分間と15分間の間である。
このようにして得られた混合物を冷却した後、次に、架橋系の硫黄、加硫促進剤及び加硫遅延剤、並びにメチレン供与体を、低温(例えば、40℃と100℃の間)において、一般的にはオープンミルなどのエクスターナルミキサーで混ぜ込むことができ、次に、一緒にした混合物を数分間(例えば、2分間と15分間の間)混合する(第2(生産)段階)。
架橋系は、好ましくは硫黄及び一次加硫促進剤、特にスルフェンアミド型の促進剤をベースとすることができる。この加硫系には、様々な既知の二次促進剤又は加硫活性剤、例えば、酸化亜鉛、飽和脂肪酸としてのステアリン酸、グアニジン誘導体(特に、ジフェニルグアニジン)等が第1の非生産段階中に、生産段階中に、又は両段階中に混ぜ込まれる。
【0022】
本発明の好ましい実施形態によれば、ゴム組成物は、硫黄をベースとする架橋系をベースとし、硫黄の含有量は、好ましくは1phr超、より好ましくは2.0phrと10phrの間、さらにより好ましくは3.0phrと8.0phrの間、特に4.0phrと6.0phrの間である。
加硫促進剤(一次又は二次)として、硫黄の存在下でエラストマーマトリックス、例えば、ジエンエラストマーの加硫促進剤として機能することができる任意の化合物、特に、チアゾール型促進剤及びその誘導体、チウラム型促進剤、又はジチオカルバミン酸亜鉛を使用し得る。これらの促進剤は、より好ましくは2-メルカプトベンゾチアジルジスルフィド(「MBTS」と略される)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド(「CBS」と略される)、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド(「DCBS」)、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド(「TBBS」)、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾールスルフェンイミド(「TBSI」)、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛(「ZBEC」)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(「TBZTD」)、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる。
【0023】
本発明の好ましい実施形態によれば、ゴム組成物は、少なくとも1種の加硫促進剤をベースとする架橋系をベースとし、加硫促進剤の含有量は、好ましくは0.2phr超、より好ましくは0.3phrと3.0phrの間、さらにより好ましくは0.4phrと2.0phrの間、特に0.5phrと1.0phrの間である。
本発明の好ましい実施形態によれば、ゴム組成物は、少なくとも1種の抗加硫戻り剤をベースとする架橋系をベースとし、好ましくは、抗加硫戻り剤が、ヘキサメチレン-1,6-ビスチオ硫酸塩であり、より好ましくは、ヘキサメチレン-1,6-ビスチオ硫酸塩が、ヘキサメチレン-1,6-ビスチオ硫酸ナトリウム、ヘキサメチレン-1,6-ビスチオ硫酸カリウム、ヘキサメチレン-1,6-ビスチオ硫酸カルシウム、及びこれらの組み合わせの少なくとも1種である。
前記好ましい実施形態のより好ましい実施形態によれば、抗加硫戻り剤の含有量は、0.1phrと5.0phrの間、好ましくは0.5phrと4.0phrの間、より特に1.0phrと3.0phrの間である。
【0024】
このように得られた最終組成物は、その後、特に、実験室での特性評価のために、例えば、シート状若しくはプラーク状にカレンダー加工するか、又はゴム物品として直接使用できるゴム製の輪郭を有する要素の形状に押し出す。
加硫(又は硬化)は、既知の方法で、一般的には110℃と190℃の間の温度において、特に、硬化温度、選択した加硫系、及び検討中の組成物の加硫系動力学に応じて変わり得る十分な時間、例えば、5分間と90分間の間で実施することができる。
本発明の第14の観点は、第1の観点~第13の観点のいずれか1つに記載のゴム組成物でコーティングされている少なくとも1つの金属モノフィラメントを含むゴム複合体であり、好ましくは金属モノフィラメントが、鋼製モノフィラメントであるゴム複合体である。
本発明の好ましい実施形態によれば、物品は、第1の観点~第13の観点のいずれか1つに記載のゴム組成物を含み、好ましくは、物品は、第14の観点に記載のゴム複合体を含む。
前記好ましい実施形態のより好ましい実施形態によれば、物品は、タイヤ、革化、コンベア又はキャタピラートラックである。
【0025】
本発明の第15の観点は、第1の観点~第13の観点のいずれか1つに記載のゴム組成物を含むタイヤであり、好ましくは第14の観点に記載のゴム複合体を含むタイヤである。
本発明のタイヤは、特に、4×4(四輪駆動)車両及びSUV(スポーツ用多目的車)車両を含む乗用車、並びに産業車両、特に、バン及び大型車両(すなわち、バス又は大型道路運送車両(トラック、トラクター、トレーラー))から選ばれるものに装備することを目的とするものである。
第15の観点の好ましい実施形態によれば、ゴム組成物は、内部のゴム組成物であり、本明細書において、タイヤの外側に開かれていないタイヤのゴム部分のすべて、言い換えれば、周囲空気又は膨張ガスと接触しておらず、したがってタイヤ構造の実際の内側に位置するタイヤのゴム部分のすべてを意味することが意図されている。例として、特にタイヤのビードゾーン、カーカス補強材、又はクラウン補強材若しくはベルトに存在するゴム組成物が挙げられる。
本発明は、生の状態(すなわち、硬化前)及び硬化状態(すなわち、架橋後又は加硫後)のゴム組成物に関する。
以下の非限定的な実施例により、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0026】
本発明の効果を確認するために、3種のゴム組成物(C-1~C-3)を使用した。ゴム組成物は、カーボンブラック(補強用充填剤として)で補強されているジエンエラストマー(NR、エラストマーマトリックスとして)と、コバルト塩(コバルトタレート(cobalt tallate)又はコバルトアセチルアセトナート)と、脂肪酸(ステアリン酸、又はステアリン酸及びトール油型脂肪酸)とをベースとする。ゴム組成物の配合は、表1に表され、様々な成分の含有量がphrで示される。
各ゴム組成物は、以下のように製造した。補強用充填剤と、コバルト塩と、脂肪酸と、様々な他の成分(架橋系の硫黄、硫化加硫促進剤及び加硫遅延剤(N-シクロヘキシルチオフタルイミド、「CTP」と略される)並びにメチレン供与体を除く)とを、約60℃の初期容器温度を有するインターナルミキサー内に連続的に導入して、ミキサーを、約70%(体積%)に満杯にした。次に、熱機械的な操作(非生産段階)を、165℃の最高「滴下」温度に達するまで1工程で、合計約3~4分間続けた。このように得られた混合物を回収して冷却し、続いて架橋系の硫黄、硫化加硫促進剤及び加硫遅延剤(N-シクロヘキシルチオフタルイミド、「CTP」と略される)、並びにメチレン供与体を、20~30℃において、エクスターナルミキサー(ホモフィニッシャー)で混ぜ込んで、全体を適切な時間(例えば、5分間と12分間の間)で混合した(生産段階)。
【0027】
その後、このように得られたゴム組成物の物理的又は機械的特性を測定するために、このゴム組成物を、ゴムのシート状(厚さ2~3mm)若しくは薄いシート状のどちらかに、又は所望の寸法に切断、組み立て又は両方を行った後、直接使用できる輪郭を有する要素の形状(例えば、タイヤの半完成品として)にカレンダー加工した。
切断後すぐに(初期粘着性について)及び切断5日後(エージング後の粘着性について)、ASTM D3121-06に準拠して、ローリングボールタック試験装置(rolling ball tack test device)により、室温で、未硬化状態の各ゴム組成物の粘着性を測定した。
MTS製の381型繰返し疲労機(「エラストマー試験システム」)を用いて、ゴム組成物(C-1~C-3)の試験片について、耐亀裂性を示す亀裂伝播率を測定した。
試験片は、ゴム組成物を、ベル型プレス機(bell press)で150℃において25分間又は160℃において90分間硬化させ、周囲温度において1日冷却し、及び空気中、77℃の温度において、60%の相対湿度下で、オーブンに20日間放置することにより調製した。
【0028】
耐亀裂性は、最初に収容し(最初の引張りサイクルの後)、次いで切欠きを付けた試験片に対する繰返し引張り動作によって測定した。引張試験片は、平行六面体形状のゴム製プラークからなり、例えば、厚さが1mmと2mmの間であり、長さが130mmと170mmの間であり、及び幅が10mmと15mmの間であり、前記試験片を引張試験機のジョーに固定できるように、2つの側端部がそれぞれ長さ方向に円筒状ゴム製ビード(直径5mm)で覆われているゴム製プラークからなる。試験は、空気中、90℃の温度において行われた。収容後、試験開始前に、剃刀の刃を用いて、長さが15mmと20mmの間の3つの非常に細い切欠きを、試験片の幅の中間に、長さ方向に、各端に1つずつ及び中央に1つ整列して作成した。引張りサイクルごとに、エネルギーの反発レベル(亀裂進展中に解放されるエネルギー量)を1000J/m2に等しい値に一定に保つように試験片のひずみ度を自動的に調整した。亀裂伝播率、すなわち、亀裂伝播速度は、ひずみによって伝播した亀裂の長さをひずみのサイクル数で割ることにより得た。
【0029】
粘着性及び耐亀裂性の結果を、参考例(C-1)を基準100とした相対単位で表2に表す(100を超える値が改善された性能を表すことを忘れてはならない)。
表2の結果は、本発明の実施例(C-3)が、参考例(C-1)及び比較例(C-2)よりも優れたエージング後の粘着性の値を有すること、及び実施例(C-3)が、参考例(C-1)及び比較例(C-2)と同等以上の初期粘着性及び耐亀裂性の値を有することを示す。
結論として、該ゴム組成物により、初期粘着性及び耐亀裂性を維持又は改善しながら、エージング後の粘着性を予想外に改善することができる。
【0030】
【0031】
(1)NR:天然ゴム(解膠した);
(2)カーボンブラック(キャボット(Cabot)製のASTMグレードのN326(ASTM D-1765に準拠する名称));
(3)コバルトタレート(DIC合成樹脂社製の「ディックネートタレート(Dicnate tallate)」);
(4)コバルト(II)アセチルアセトナート(アルドリッチ製);
(5)ステアリン酸(ユニケマ(Uniqema)製の「プリステレン4931(Pristerene 4931)」);
(6)トール油型脂肪酸(Green Oleo製の「GREENFAC 8959 BULK」、ヨウ素価:130~145(g/100g))及びステアリン酸(ユニケマ製の「プリステレン4931」);質量比[(トール油型脂肪酸)/(ステアリン酸)]:4/1;トール油型脂肪酸の質量比:C16脂肪酸(パルミチン酸):1.0~6.0%、C18脂肪酸(ステアリン酸):0.0~3.0%、C18:1脂肪酸(オレイン酸):30.0~40.0%、C18:2脂肪酸(リノール酸):52.0~60.0%、C18:3脂肪酸(α-リノレン酸):0.0~4.0%;
(7)N-(1,3-ジメチルブチル)-N-フェニル-パラ-フェニレンジアミン(フレクシス(Flexsys)製の「サントフレックス6-PPD(Santoflex 6-PPD)」);
(8)酸化亜鉛(工業グレード、ユミコア社(Umicore company)製);
(9)ヘキサメチレンチオ硫酸ナトリウム(フレクシス製の「Duralink HTS」);
(10)レゾルシノール(住友社製);
(11)ヘキサメチレンテトラミン(デグサ(Degussa)製);
(12)N-(t-ブチル)-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド(フレクシス製の「Santocure TBBS」);
(13)N-シクロヘキシルチオフタルイミド(ランクセス(Lanxess)製の「ブルカレントG(Vulkalent G)」)
【0032】