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特許7624520量子計算方法及び量子演算制御レイアウト
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-22
(45)【発行日】2025-01-30
(54)【発明の名称】量子計算方法及び量子演算制御レイアウト
(51)【国際特許分類】
   G06N 10/60 20220101AFI20250123BHJP
【FI】
G06N10/60
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023542536
(86)(22)【出願日】2021-01-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-25
(86)【国際出願番号】 EP2021050710
(87)【国際公開番号】W WO2022152384
(87)【国際公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】521339153
【氏名又は名称】パリティ クオンタム コンピューティング ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レヒナー,ヴォルフギャング
【審査官】大倉 崚吾
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-529142(JP,A)
【文献】特開2020-004384(JP,A)
【文献】HEN, Itay et al.,"Driver Hamiltonians for constrained optimization in quantum annealing",arXiv [online],2016年,p. 1-9,[2024年08月19日検索],インターネット<URL:https://arxiv.org/abs/1602.07942v2>,1602.07942v2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 10/00-10/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子システム(100)上で量子計算を実行する方法であって、
計算問題を量子システムの構成要素(110、120、130、140、150、160)の問題ハミルトニアンにコード化するステップと、
前記計算問題に関連する1つ又は複数の副条件を前記量子システムの前記構成要素の第1部分(110、140、160)の交換ハミルトニアンにマッピングするステップと、
前記量子システムの前記構成要素を初期状態に初期化するステップと、
前記量子システムの前記構成要素の相互作用によって前記量子システムを発展させるステップであって、前記相互作用には、最終ハミルトニアン(192、194、196、292、294、296)によって決定される相互作用と、前記交換ハミルトニアン(182、184、282、284)によって決定される相互作用と、駆動ハミルトニアンによって決定される相互作用と、が含まれ、前記最終ハミルトニアンは、前記問題ハミルトニアンと短距離ハミルトニアンとの総和であり、前記駆動ハミルトニアンは、前記量子システムの前記構成要素の第2部分(120、130、150)のハミルトニアンである、前記量子システムを発展させるステップと、
前記量子システムの前記構成要素の少なくとも一部を測定して読み出しを取得するステップと、
を有する、量子計算実行方法。
【請求項2】
前記量子システムの前記構成要素を前記初期状態に初期化するステップは、前記量子システムの前記構成要素を、初期ハミルトニアンの固有状態又は前記固有状態の近似である量子状態に準備することを含む、
請求項1に記載の量子計算実行方法。
【請求項3】
前記初期ハミルトニアンの前記固有状態は前記初期ハミルトニアンの基底状態である、
請求項2に記載の量子計算実行方法。
【請求項4】
前記初期ハミルトニアンは、第1被加数ハミルトニアンの第1総和と第2被加数ハミルトニアンの第2総和とを含む単体ハミルトニアンであり、前記第1被加数ハミルトニアンは、前記量子システムの前記構成要素の前記第1部分に作用し、前記第2被加数ハミルトニアンは、前記量子システムの前記構成要素の前記第2部分に作用する、
請求項2又は3に記載の量子計算実行方法。
【請求項5】
前記第1被加数ハミルトニアン及び前記第2被加数ハミルトニアンの各被加数ハミルトニアンは、以下の[数37]に示すパウリ演算子に係数を乗じて表され、前記第1被加数ハミルトニアンの前記係数は、前記計算問題に関連する前記1つ又は複数の副条件と互換性がある、
請求項4に記載の量子計算実行方法。
【数37】
【請求項6】
前記交換ハミルトニアンは、最近傍一次ホッピング項の総和によって表される、
請求項1からの何れかに記載の量子計算実行方法。
【請求項7】
前記量子システムの前記構成要素の相互作用によって前記量子システムを発展させるステップは前記量子システムの初期ハミルトニアンから、前記初期ハミルトニアン、前記最終ハミルトニアン、前記交換ハミルトニアン及び前記駆動ハミルトニアンの線形結合を含む中間ハミルトニアンを介して、前記最終ハミルトニアンに移行することを含
請求項1からの何れかに記載の量子計算実行方法。
【請求項8】
量子アニーリングによって、前記量子システムの前記初期ハミルトニアンから、前記中間ハミルトニアンを介して、前記最終ハミルトニアンに移行する、
請求項7に記載の量子計算実行方法。
【請求項9】
前記量子システムの前記構成要素の相互作用によって前記量子システムを発展させるステップは、前記駆動ハミルトニアン及び前記交換ハミルトニアンを一時的にフェードイン及びフェードアウトしながら、前記初期ハミルトニアンを前記最終ハミルトニアンに断熱的に発展させることを含む、
請求項8に記載の量子計算実行方法。
【請求項10】
前記量子システムの前記構成要素の相互作用によって前記量子システムを発展させるステップは、前記量子システムの前記構成要素の量子状態を前記初期状態から前記最終ハミルトニアンの固有状態に向かって発展させることを含み、前記最終ハミルトニアンの前記固有状態は励起状態である、
請求項1からの何れかに記載の量子計算実行方法。
【請求項11】
前記量子システムの前記構成要素の相互作用によって前記量子システムを発展させるステップは、ユニタリ演算子のシーケンスを決定することを含み、前記シーケンス内の前記ユニタリ演算子は、1つのユニタリ演算子が前記問題ハミルトニアンの関数であり、1つのユニタリ演算子が前記短距離ハミルトニアンの関数であり、1つのユニタリ演算子が前記駆動ハミルトニアンの関数であり、1つのユニタリ演算子が前記交換ハミルトニアンの関数である、ユニタリ演算子のセットから取得され、前記量子システムの前記構成要素の相互作用によって前記量子システムを発展させるステップは、前記ユニタリ演算子のシーケンスを前記量子システムに適用することを含む、
請求項1からの何れかに記載の量子計算実行方法。
【請求項12】
前記量子システムの前記構成要素の相互作用によって前記量子システムを発展させるステップ及び、前記量子システムの前記構成要素の少なくとも一部を測定して読み出しを取得するステップは、1回の演算を構成し、N(N≧2)回の演算が存在する、
請求項11に記載の量子計算実行方法。
【請求項13】
前記量子システムの発展の初期状態及びダイナミクスは、前記量子計算中の前記計算問題に関連する1つ又は複数の副条件の実現を強制する、
請求項1から12の何れかに記載の量子計算実行方法。
【請求項14】
量子システム(100、530)上で量子計算を実行するための装置(400、500)であって、
第1部分(110、140、160)及び第2部分(120、130、150)を形成する前記量子システムの構成要素(110、120、130、140、150、160、532、534)を含む前記量子システムと、
計算問題を前記量子システムの前記構成要素の問題ハミルトニアンにコード化するステップを実行するように構成され、前記計算問題に関連する1つ又は複数の副条件を前記量子システムの前記構成要素の前記第1部分の交換ハミルトニアンにマッピングするステップを実行するように構成されたエンコーダと、
前記量子システムの前記構成要素を初期状態に初期化するステップと、前記量子システムの前記構成要素の相互作用によって前記量子システムを発展させるステップであって、前記相互作用には、最終ハミルトニアン、交換ハミルトニアン及び駆動ハミルトニアンによって決定される相互作用が含まれ、前記最終ハミルトニアンは、前記問題ハミルトニアンと短距離ハミルトニアンの総和であり、前記駆動ハミルトニアンは、前記量子システムの前記構成要素の前記第2部分のハミルトニアンである、前記量子システムを発展させるステップと、を実行するように構成された量子処理ユニット(520)と、
前記量子システムの前記構成要素の少なくとも一部を測定して読み出しを取得するステップを実行するように構成された測定ユニット(540)と、
を備える、量子計算実行装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記載の実施形態は、量子システム上で量子計算を実行する方法に関する。更なる実施形態は、量子システム上で量子計算を実行するための、特に前記方法に従って量子計算を実行するための装置及びシステムを対象とする。本明細書に記載の更なる実施形態は、量子システム上の量子計算のための量子演算制御レイアウトを決定する方法、量子演算制御レイアウト自体、量子演算制御レイアウトを含むコンピュータプログラム製品、及び、量子演算制御レイアウトを使用して量子システム上で量子計算を実行する方法に関する。更なる実施形態は、量子システム上の量子計算のための量子演算制御レイアウトを決定するための、及び/又は、量子演算制御レイアウトを使用して量子システム上で量子計算を実行するための装置又はシステム、特に、本明細書に記載の方法を実行するように構成された装置又はシステムと、前記装置又はシステムの使用を対象とする。
【背景技術】
【0002】
古典的な情報処理に基づく計算装置、すなわち、量子力学的効果を利用しない計算装置は、特定の演算のみを実行できるハードワイヤードの計算機として始まった。完全にプログラム可能なコンピュータへの移行は、この分野に革命をもたらし、情報化時代を開始した。現在、量子計算装置、すなわち、おそらく古典的な情報処理の使用に加えて、計算問題を解くために量子力学的効果を利用する計算装置は、ほとんどの場合、特別に設計された計算問題にしか取り組むことができないという点で、まだハードワイヤード計算機に匹敵する段階にある。
【0003】
欧州特許第3113084号明細書は、量子システムを使用して計算問題を解くための方法及び装置を記載している。この量子計算方法/装置は、計算問題、特に、NP困難計算問題又はNP完全計算問題(N個のスピン及び全対全の対相互作用(all-to-all pairwise interactions)を伴う(古典的な)イジングスピンモデルなど)を受け入れる。量子方法/装置は、計算問題を、調整可能なパラメータを使用して、量子システムの単体問題ハミルトニアンにコード化する。例えば、N個のスピンと、N個のスピン間の全対全の対相互作用を有する(古典的な)イジングスピンモデルの場合、単体問題ハミルトニアンの各項は、対相互作用の1つに対応すると見なすことができる。したがって、量子システムの対応する数の量子ビット(キュービット)に作用する問題ハミルトニアンのN(N-1)/2個の単体項が存在し、同様の数の調整可能なパラメータが存在する。量子システムのキュービットは、イジングスピンモデルのスピンのパリティを表し、状態|0>は、イジングスピンモデルの対応するスピンの逆平行配列を示し、状態|1>は、平行配列を示す。
【0004】
さらに、欧州特許第3113084号明細書では、短距離ハミルトニアンが提供され、イジングスピンモデルと比較して増加した量子システムの自由度数を補償する。短距離ハミルトニアンは、少なくともN(N-1)/2-N個の制約ハミルトニアンの総和である。ここで、各制約ハミルトニアンは、量子システムのキュービットを含む正方格子のプラケットを形成する最大4つのキュービットに対して、制約強度Cで作用する。制約ハミルトニアンは、イジングスピンモデルでのスピンを超えて、閉ループで逆平行配列を有するスピンに対応するキュービットのサブセット内に偶数(0、2など)の状態|0>の存在を強制するという点で、イジングスピンモデルとの一貫性を保証する。
【0005】
最終ハミルトニアンは、問題ハミルトニアンと短距離ハミルトニアンとの総和である。最終ハミルトニアンの基底状態、又は、少なくともその基底状態に近い熱状態には、問題ハミルトニアンのパラメータでコード化された計算問題の解に関する情報が含まれている。このような状態で量子システムを測定すると、計算問題の解に関する情報が明らかになる。最終ハミルトニアンの基底状態、又は、基底状態に近い熱状態は、量子アニーリング、すなわち、欧州特許第3113084号明細書に記載されているように、初期ハミルトニアンの基底状態から最終ハミルトニアンの基底状態への断熱スイープ(adiabatic sweep)によって到達できる。或いは、基底状態は、国際公開第2020/259813号に記載されているように、追加の反断熱部分を有するハミルトニアンを使用した反断熱駆動(counter-diabatic driving)によって到達できる。断熱量子計算及び反断熱量子計算は、どちらもアナログ量子計算と見なすことができる。量子ゲートを使用したデジタル版の量子計算は、国際公開第2020/156680号に記載されている。最終ハミルトニアンの基底状態を近似する状態は、初期状態に作用するユニタリ演算子のシーケンスによって到達できる。ユニタリ演算子は、駆動ハミルトニアン、問題ハミルトニアン及び短距離ハミルトニアンの伝播関数であり、ユニタリ演算子のシーケンスは、また、それらのパラメータは、古典的なフィードフォワードアルゴリズムを使用して最適化できる。ユニタリ演算子は、ローカル又は正方格子内のキュービットの最近傍に作用する量子ゲートの非常に並列化可能なアプリケーションによって実施可能である。
【0006】
(古典的な)計算問題は、問題ハミルトニアンのパラメータでコード化されるため、これらの方法及び装置は、ハードワイヤードの量子計算装置とは対照的に、完全にプログラム可能な量子計算アーキテクチャを提供する。量子計算アーキテクチャも拡張性を有する。ただし、拡張は、リソースを大量に消費する可能性がある。例えば、(古典的な)イジングスピンモデルのスピンの数Nが大きくなると、量子システムのサイズ(キュービットの数)はNの2次関数的に大きくなる。さらに、欧州特許第3113084号明細書には、その方法/装置が、3体相互作用を有するイジングスピンモデルに適用でき、量子システムのキュービットの3次元格子で実施できることが記載されており、その方法/装置が、d体相互作用(d-body interactions)に一般化できることが述べられている。3次元格子上に配置されたキュービットの量子システムにおける量子演算は、可能であるかもしれないが、実行するのは難しいかもしれない。さらに、d体相互作用は、欧州特許第3113084号明細書の教示に従って、より高次元の格子での実施に通じるが、これは、我々の世界の空間次元の数が限られているため、非現実的である。
【0007】
PCT/EP2020/069416には、これらの完全にプログラム可能な量子計算アーキテクチャのリソース需要を削減する方法が記載されている。量子システムのサイズ(キュービットの数)は、(古典的な)イジングスピンモデルにおける相互作用項の数Kだけ増加し、(古典的な)イジングスピンモデルのスピンの数Nの二次成長よりも実質的に低くなる可能性がある。更に、PCT/EP2020/069416には、(古典的な)イジングスピンモデルにおける任意のd体相互作用を扱う方法が記載されており、2次元表面に配置された構成要素(特にキュービット)に対して量子計算を実行している。これらの目的のために、量子演算制御レイアウト、並びに、それを決定及び使用する方法及びシステムが提供される。量子演算制御レイアウトは、量子計算の量子演算を制御するために量子処理ユニットにロードすることができ、量子計算の制御プログラムとして見ることができる。PCT/EP2020/069416には、(古典的な)イジングスピンモデルにおける個々の相互作用の副条件を扱う方法も記載されている。(古典的な)イジングスピンモデルにおける副条件の影響を受ける個々の相互作用は、量子システムの構成要素によって表現される必要はなく、その影響は量子システムの構成要素間の相互作用に吸収され得る。
【0008】
しかしながら、現実世界の応用においてしばしば遭遇する副条件に関する最適化問題又は他の計算問題は、(古典的な)イジングスピンモデルのスピン間の個々の相互作用だけでなく、いくつかの相互作用に一緒に関連するより複雑な副条件を引き起こす可能性がある。したがって、改善の必要性がある。
【発明の概要】
【0009】
一実施形態によれば、量子システム上で量子計算を実行する方法が提供される。本方法は、計算問題を量子システムの構成要素の問題ハミルトニアンにコード化するステップを含む。本方法は、計算問題に関連する1つ又は複数の副条件を、量子システムの構成要素の第1部分の交換ハミルトニアンにマッピングするステップを含む。本方法は、量子システムの構成要素を初期状態に初期化するステップを含む。本方法には、量子システムの構成要素の相互作用によって量子システムを発展させるステップが含まれる。相互作用には、最終ハミルトニアンによって決定される相互作用、交換ハミルトニアンによって決定される相互作用、及び、駆動ハミルトニアンによって決定される相互作用が含まれる。最終ハミルトニアンは、問題ハミルトニアンと短距離ハミルトニアンとの総和である。駆動ハミルトニアンは、量子システムの構成要素の第2部分のハミルトニアンである。本方法は、量子システムの構成要素の少なくとも一部を測定して読み出しを取得するステップを含む。
【0010】
一実施形態によれば、量子システム上で量子計算を実行するための装置が提供される。本装置は、第1部分及び第2部分を形成する量子システムの構成要素を含む量子システムを含む。本装置は、計算問題を量子システムの構成要素の問題ハミルトニアンにコード化するように構成され、計算問題に関連する1つ又は複数の副条件を量子システムの構成要素の第1部分の交換ハミルトニアンにマッピングするように構成されたエンコーダを含む。本装置は、量子システムの構成要素を初期状態に初期化するように構成され、量子システムの構成要素の相互作用によって量子システムを発展させるように構成された量子処理ユニットを含む。相互作用には、最終ハミルトニアンによって決定される相互作用、交換ハミルトニアンによって決定される相互作用、及び、駆動ハミルトニアンによって決定される相互作用が含まれる。最終ハミルトニアンは、問題ハミルトニアンと短距離ハミルトニアンとの総和であり、駆動ハミルトニアンは、量子システムの構成要素の第2部分のハミルトニアンである。本装置は、量子システムの構成要素の少なくとも一部を測定して読み出しを取得するように構成された測定ユニットを含む。
【0011】
他の実施形態によれば、量子システム上の量子計算のための量子演算制御レイアウトを決定する方法が提供される。量子計算は、頂点、第1セル及び第2セルを有するメッシュに沿って配置された量子システムの構成要素に対して実行される。メッシュの頂点は、量子システムの構成要素の可能性のある箇所を表す。第1セルの各セルは、そのセル内に配置された量子システムの構成要素間の第1量子相互作用が量子計算中に可能であることを示す。第2セルの各セルは、そのセル内に配置された量子システムの構成要素間の第2量子相互作用が量子計算中に可能であることを示す。本方法は、ハイパーグラフのハイパーエッジを表すデータと、1つ以上の固定ハイパーエッジ関係のセットを表すデータとを含むデータセットを提供するステップを含む。固定ハイパーエッジ関係には、ハイパーグラフのハイパーエッジのセットが含まれる。本方法は、一般化されたサイクルのセットを決定するステップを含み、一般化されたサイクルは、ハイパーグラフのハイパーエッジを含むか、又は、拡大されたハイパーグラフのハイパーエッジを含み、拡大されたハイパーグラフは、少なくともハイパーグラフのハイパーエッジ及び追加のハイパーエッジを含む。ここで、一般化されたサイクルのセットの一般化されたサイクルの最大長は、メッシュの第1セルの最大頂点数を超えない。本方法は、ハイパーグラフ又は拡大されたハイパーグラフのハイパーエッジを表すデータをメッシュの頂点にマッピングするメッシュマッピングを決定するステップを含み、一般化されたサイクルのセットの制約サブセットの各一般化されたサイクルは、メッシュの第1セルにマッピングされたハイパーエッジからなる。1つ以上の固定ハイパーエッジ関係のセットの各固定ハイパーエッジ関係は、メッシュの第2セルのセルにマッピングされたハイパーエッジからなる。本方法は、量子演算制御レイアウトを生成するステップを含む。量子演算制御レイアウトには、メッシュのレイアウト頂点を示すデータが含まれる。各レイアウト頂点は、第1レイアウト頂点セットを示すデータを含むメッシュマッピングに従ってマッピングされたハイパーエッジに対応する。各第1レイアウト頂点セットは、一般化されたサイクルの制約サブセットの一般化されたサイクルに対応するメッシュの第1セルのセル内のレイアウト頂点からなり、1つ以上の第2レイアウト頂点セットを示すデータを含む。各第2レイアウト頂点セットは、1つ以上の固定ハイパーエッジ関係のセットの固定ハイパーエッジ関係に対応する、メッシュの第2セルのセル内のレイアウト頂点からなる。
【0012】
更なる実施形態によれば、量子システム上の量子計算を制御するための量子演算制御レイアウトが提供される。量子計算は、メッシュに沿って配置された量子システムの構成要素に対して実行される。メッシュは、頂点、第1セル及び第2セルを有する。メッシュの頂点は、量子システムの構成要素の可能性のある箇所を表す。メッシュの第1セルの各セルは、そのセル内に配置された量子システムの構成要素間の第1量子相互作用が量子計算中に可能であることを示す。メッシュの第2セルの各セルは、そのセルに配置された量子システムの構成要素間の第2量子相互作用が量子計算中に可能であることを示す。第1量子相互作用は、第2量子相互作用とは異なる場合がある。量子演算制御レイアウトは、メッシュのレイアウト頂点を示すデータ、各第1レイアウト頂点セットがメッシュの第1セル内のレイアウト頂点からなる第1レイアウト頂点セットを示すデータ、及び、各第2レイアウト頂点セットがメッシュの第2セル内のレイアウト頂点からなる1つ以上の第2レイアウト頂点セットを示すデータを含む。
【0013】
更なる実施形態によれば、量子システム上で量子計算を実行する方法が提供される。量子計算は、量子システムの構成要素に対して実行される。本方法は、本明細書に記載の量子演算制御レイアウトを提供するステップを含む。本方法は、メッシュのレイアウト頂点毎に構成要素が存在するように、量子システムの構成要素を空間配置で提供するステップを含む。そこでは、各第1レイアウト頂点セットについて、その第1レイアウト頂点セットのレイアウト頂点に対応する構成要素間で第1量子相互作用が可能であり、各第2レイアウト頂点セットについて、その第2レイアウト頂点セットのレイアウト頂点に対応する構成要素間で第2量子相互作用が可能である。第1量子相互作用は、第2量子相互作用とは異なる場合がある。本方法は、非ゼロの重みに関連付けられたレイアウト頂点毎に、そのレイアウト頂点に対応する構成要素に局所フィールドを適用するステップを含む。局所フィールドは、問題ハミルトニアンによって決定され得る。本方法は、第1レイアウト頂点セット毎に、その第1レイアウト頂点セットのレイアウト頂点に対応する構成要素間で第1量子相互作用を実行するステップを含む。第1量子相互作用は、短距離ハミルトニアンによって決定され得る。本方法は、第2レイアウト頂点セット毎に、その第2レイアウト頂点セットのレイアウト頂点に対応する構成要素間で第2量子相互作用を実行するステップを含む。第2量子相互作用は、交換ハミルトニアンによって決定され得る。本方法には、量子システムの構成要素の一部又は全てを測定するステップが含まれる。
【0014】
実施形態は、本明細書に記載のシステムを動作させるための方法、及び、本明細書に記載の実施形態に係る方法を実行するためのシステムの使用も対象とする。
【0015】
本明細書に記載の実施形態と組み合わせることができる、更なる利点、特徴、態様及び詳細は、従属請求項、明細書及び図面から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
当業者に対する完全かつ実施可能な開示は、添付の図面への参照を含めて、明細書の残りの部分でより具体的に説明される。
図1】本明細書に記載の実施形態で使用され得る、量子システム、その構成要素、及び、構成要素間の相互作用を概略的に示す。
図2】本明細書に記載の実施形態で使用され得る、3つのハミルトニアンの強度を決定する3つの関数を示す。
図3】本明細書に記載の実施形態で使用され得る、経時的な中間ハミルトニアンのエネルギースペクトルを示す。
図4】本明細書に記載の実施形態で使用され得る、経時的な中間ハミルトニアンのエネルギースペクトルを示す。
図5】本明細書に記載の実施形態で使用され得る、量子システム、その構成要素、及び、構成要素間の相互作用を概略的に示す。
図6】本明細書に記載の実施形態に係る例示的な量子演算制御レイアウトのグラフィック表現を示す。
図7】本明細書に記載の実施形態に係る、量子計算のための装置、量子演算制御レイアウトを決定するためのシステム、及び、副条件を伴う計算問題の解を決定するためのシステムを概略的に示す。
図8】本明細書に記載の実施形態に係る量子演算制御レイアウトを決定する方法を概略的に示す。
図9】本明細書に記載の実施形態に係る量子計算を実行する方法を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
ここで、様々な例示的な実施形態を詳細に参照し、その1つ又は複数の例を各図に示す、各例は説明のために提供されており、限定を意味するものではない。例えば、一実施形態の一部として図示又は説明された特徴は、他の実施形態で、又は他の実施形態と併せて使用して、さらに別の実施形態を生み出すことができる。本開示は、そのような修正及び変形を含むことが意図されている。
【0018】
以下の図面の説明において、同じ参照番号は、同じ構成要素を指す。一般に、個々の実施形態に関する差異のみが説明される。図面に示される構造は、必ずしも縮尺どおりに描かれているわけではなく、実施形態のより良い理解を可能にするために誇張された方法で描かれた詳細を含む場合がある。
【0019】
本明細書に記載のいくつかの実施形態は、量子システム上で量子計算を実行する方法と、量子システム上で量子計算を実行する装置に関する。
【0020】
方法の入力
【0021】
関心のある多くの計算問題、特に、NP困難な最適化問題だけでなく、NP完全な決定問題も、それ自体がNP完全な決定形式であるイジングスピンモデルにマッピングできる。具体的には、そのような問題は、以下の[数1]の上側の式に示す古典的なハミルトニアン関数の、又は、以下の[数1]の下側の式に示す対応する量子ハミルトニアン演算子の基底状態エネルギーを見つける問題にマッピングできる。
【数1】

ここで、イジングスピンモデルは、長距離相互作用を伴う可能性がある。本明細書では、スピンモデルの古典バージョンと量子バージョンとを区別する必要はなく、量子ハミルトニアン演算子のみを記述し、簡潔にするために「ハミルトニアン」と称する。
【0022】
前述の計算問題の多くは、より自然に、すなわち、スピンの数が減少すると、対相互作用だけでなく、kが2よりも大きなk体相互作用も含むスピンモデルにマッピングされる。すなわち、当面の計算問題は、以下の[数2]に示すスピンモデルハミルトニアンの基底状態エネルギーを見つける問題に言い換える(マッピングする)ことができる。
【数2】

ここで、スピンモデルハミルトニアンは、kが1より大きく、N以下である、k体相互作用を含む。また、kが2より大きいk体相互作用を含む場合がある。ベクトルh、行列J、テンソルR、Tなどにはk体相互作用の重みが含まれており、相互作用の強度を示している。数Kは、スピンモデルハミルトニアンの被加数項(summand terms)の数を特定する非ゼロの重みの数を表す。非ゼロの重みは、整数、例えば、全てが1又は-1であってもよく、任意の実数であってもよい。
【0023】
前述の計算問題は、副条件の影響を受ける場合がある。このような計算問題がスピンモデルにマッピングされると、計算問題に関連する副条件が、スピンモデルの/スピンモデルに関連する、副条件にマッピングされる。前述の[数2]に示すスピンモデルハミルトニアンは、以下の[数3]に示す形式の1つ以上の副条件の影響を受ける場合がある。
【数3】

ここで、合計n個の被加数があり(総和の一部は空になる可能性があり)、定数cの範囲は[-n,n]である。n=1、或いは、c=n又はc=-nの場合、副条件はn個の被加数の個々の副条件と等価である。スピンモデルの少なくとも1つの副条件に2つ以上の被加数が存在する可能性がある。つまり、n≧2、及び/又は、定数cが[-n+2,n-2]の範囲内にある可能性がある。
【0024】
スピンモデルハミルトニアンが影響を受ける副条件のリスト(リストは上記形式の1つ以上の副条件を含む)が与えられた場合に、nmaxをそのリストの副条件のいずれかにおける被加数の最大数とする。本方法は、nmaxをできる限り低減することを含んでもよい。nmaxをできる限り低減するには、副条件を表す線形方程式の代数変換が必要になる場合がある。例えば、スピンモデルハミルトニアンの4つのスピンに関する以下の[数4]に示す2つの副条件を含むリストを考える。ここで、簡単にするために、問題の4つのスピンには1から4のラベルが付けられる。
【数4】

この場合、このリストではnmax=3になる。しかし、代数計算は2番目の線形方程式を以下の[数5]のように変換する。
【数5】

したがって、副条件のリストは、最小のnmaxを有する標準形式、すなわち、例えば、以下の[数6]に変換でき、nmaxは2である。
【数6】

副条件のリストがnmaxが最小になるようなものである場合、nmaxは2以上になり得る。
【0025】
本方法において、計算問題は、任意のk体相互作用を有するスピンモデルハミルトニアンにマッピングされ得る。スピンモデルハミルトニアンは、補助的な計算問題とみなすことができる。計算問題に関連する副条件、すなわち、計算問題が影響を受ける副条件は、スピンモデルハミルトニアンの副条件のリストにマッピングされ得る。副条件のリストは、標準フォーマットであってもよいし、標準フォーマットに組み込まれてもよい。標準フォーマットは、例えば、リストの副条件のいずれかにおける被加数の最大数であるnmaxが最小となるフォーマットであってもよい。
【0026】
量子システム
【0027】
量子システムは、量子効果を示す物理システムである。つまり、量子システムは、現実世界のオブジェクトである。量子システムには構成要素が含まれる。量子システムの構成要素は、物理的な量子実体そのものであり、共同して量子システムを形成する、より小さなdレベルの量子システムとみなすことができる。具体的には、量子システムの構成要素は、キュービットであり得る。キュービットは、2レベルの量子システムを実現する物理的実体として理解する必要がある。構成要素は、d>2のdレベル量子システム(「キューディット(qudits)」)であってもよく、dレベルのうちの2つのレベルのみが使用されてもよい。
【0028】
量子システムは、初期量子状態(量子計算の開始時に準備される)及び最終量子状態(量子計算によって最終的に終了する量子状態)などの、異なる量子状態にあり得る。最終量子状態は、量子システムの最終ハミルトニアンの基底状態になり得る。ハミルトニアン演算子は、その値が量子システムのエネルギーを表す量子システムの観測可能量(つまり、測定可能な量)である。なお、本明細書では、「ハミルトニアン」という用語を「ハミルトニアン演算子」の略称として使用する。量子システムは、初期量子状態から、量子システムの最終ハミルトニアンの基底状態まで発展可能である。このような発展は、現実世界のプロセスであり、特に、量子システムを初期量子状態から、計算問題の解に関する情報を含む先験的に未知の最終量子状態に導く、制御された技術プロセス(量子計算)である。前記情報は、量子システム又はその一部、つまりその構成要素の少なくとも一部を測定することによって明らかにすることができる。測定という行為は物理的/技術的なプロセスである。測定により、量子システムの読み出しを取得できる。量子システムの読み出しは、量子システムの構成要素との物理的相互作用を伴う、量子システムの構成要素の測定によって得られる測定値のセットである。
【0029】
量子システムは、K個のキュービットを含むことができ、Kは、少なくとも100、少なくとも1000、又は少なくとも10000であり得る。Kは、100~10000、又は、100~100000の範囲であり得るが、Kは、100000より大きくなってもよい。図に示され、例示される量子システムは、例示及び説明の目的で、はるかに小さい場合があるが、いかなる制限を与えるものではないことを理解する必要がある。
【0030】
問題ハミルトニアン
【0031】
本方法は、計算問題を量子システムの問題ハミルトニアンHprobにコード化するステップを含む。問題ハミルトニアンは、単体ハミルトニアンであり得る。問題ハミルトニアンは、以下の[数7]に示す形式を有し得る。
【数7】

なお、[数7]の右辺に示す以下の[数8]を、本明細書では、便宜上、「σ (i)」で表す場合がある。
【数8】

ここで、各Pはパラメータであり、各σ (i)は量子システムのi番目の構成要素に作用するパウリ演算子であり、[A]は量子システムの全ての構成要素又は少なくとも量子計算に参加する構成要素にインデックスを付けるインデックスセットである。計算問題を問題ハミルトニアンにコード化するステップは、計算問題から、問題ハミルトニアンのパラメータPの問題コード化構成(problem-encoding configuration)を決定することを含み得る。
【0032】
計算問題を量子システムの構成要素の問題ハミルトニアンにコード化するステップは、計算問題を任意のk体相互作用を有するスピンモデルハミルトニアンにマッピングすることを含み得る。次に、問題ハミルトニアンの各被加数Pσ (i)をスピンモデルハミルトニアンの1つの被加数に関連付けることができる。ここで、各Pは、ベクトルh、行列J又はテンソルR、Tなどのうちの1つの係数に等しくなり、各σ (i)は、その係数に属するσ演算子の積に対応する。例えば、スピンモデルハミルトニアンがH=hσ (1)+J23σ (2)σ (3)+R123σ (1)σ (2)σ (3)の場合、問題ハミルトニアンは以下の[数9]となる。
【数9】

しかし、計算問題を問題ハミルトニアンにコード化するステップは、計算問題をスピンモデルハミルトニアンにマッピングすることなく、直接行うこともできる。
【0033】
交換ハミルトニアン
【0034】
本方法は、計算問題に関連する1つ又は複数の副条件を、量子システムの構成要素の第1部分の交換ハミルトニアンHexchangeにマッピングするステップを含む。副条件をマッピングするステップは、計算問題に関連する副条件のリストの各副条件を交換ハミルトニアンにマッピングすることを含み得る。計算問題の副条件を交換ハミルトニアンにマッピングするステップは、計算問題に関連する副条件のリストの各副条件などの副条件を、スピンモデルハミルトニアンの副条件のリストにマッピングすることを含み得る。ここで、副条件のリストは、本明細書に記載のように、何らかの標準フォーマットに組み込まれてもよい。
【0035】
以下の[数10]の形式のスピンモデルハミルトニアンのr番目の副条件は、以下の[数11]にマッピングされ得る。
【数10】

【数11】

ここで、各σ (i)は、スピンモデルハミルトニアンの問題ハミルトニアンへのマッピングと同様に、スピンモデルハミルトニアンのr番目の副条件の被加数の1つのσ演算子の積に対応する。ここで、[SC]は、パウリ演算子が作用する量子システムの構成要素、つまり、問題のr番目の副条件によって影響を受ける量子システムの構成要素のインデックスセットである。交換ハミルトニアンは、以下の[数12]の被加数交換ハミルトニアンの総和であり、各副条件に対して1つの被加数交換ハミルトニアンが存在する。
【数12】

各被加数交換ハミルトニアンは、その副条件、つまり、その被加数交換ハミルトニアンが関連付けられている副条件を不変のままにすることができる。この不変性は、以下の[数13]が成立し、以下の[数14]の交換子及び以下の[数15]がゼロであることを意味し、r番目の副条件が最初に満たされている場合、r番目の被加数交換ハミルトニアンの作用により、r番目の副条件の充足が保存される。
【数13】

【数14】

【数15】

副条件のリストの各副条件が最初に満たされる場合、交換ハミルトニアンの動作により、それらの全てが不変のままになる。交換ハミルトニアンによって引き起こされるダイナミクスは、1つ又は複数の副条件、つまり、1つ以上の副条件のリストの各副条件の充足を保存する。量子システムの構成要素の第1部分は、インデックスセット[SC]=U[SC]によって、つまり、r番目の副条件に関連付けられたパウリ演算子が作用する構成要素の全てのインデックスセットの和集合によってインデックス付けされた構成要素のセットである。
【0036】
被加数交換ハミルトニアンは、以下の[数16]の形式の一次ホッピング項を含むか、又は、それらから構成される。
【数16】

ここで、<i,j>は最近傍の構成要素のペアを示し、以下の[数17]の左辺(以下、本明細書では、便宜上、「σ 」と表す場合がある)はスピン上昇演算子であり、以下の[数18]の左辺(以下、本明細書では、便宜上、「σ 」と表す場合がある)はスピン下降演算子であり、昇降演算子又は生成消滅演算子と呼ばれることもある。
【数17】

【数18】

ホッピング項は、同義的に交換項と呼ばれることがある。前述の[数15]で表される被加数交換ハミルトニアンには、最近傍ではない構成要素に作用する一次ホッピング項が含まれる可能性があり、構成要素はインデックスセット[SC]によってインデックス付けされる。被加数交換ハミルトニアンには、以下の[数19]の形式の高次ホッピング項が含まれる場合がある。ここで、上昇演算子と下降演算子との積にn個の上昇演算子とn個の下降演算子とが含まれる場合、ホッピング項は次数nになる。
【数19】
【0037】
交換ハミルトニアンは、最近傍ホッピング項、特に最近傍一次ホッピング項の総和によって表すことができる。最近傍一次ホッピング項は、以下の[数20]の形式を有し得る。ここで、i及びjは量子システムの配置における最近傍である構成要素を指定するインデックスであり、σ はスピン上昇演算子であり、σ はスピン下降演算子である。
【数20】

交換ハミルトニアンは被加数交換ハミルトニアンの総和であり、具体的には以下の[数21]の形式を有し得る。量子システムの構成要素の第1部分は、インデックスセット[SC]の和集合であるインデックスセット[SC]によってインデックス付けされた構成要素のセットであり得る。
【数21】
【0038】
駆動ハミルトニアン
【0039】
本方法は、駆動ハミルトニアンHdriveを特徴としている。駆動ハミルトニアンは、量子システムの構成要素の第2部分のハミルトニアンである。量子システムの構成要素の第1部分は、量子システムの構成要素の第2部分から独立している可能性がある。換言すれば、量子システムの構成要素の第1部分及び第2部分の双方に属する量子システムの構成要素が存在しない場合もあり得る。量子システムの構成要素の第1部分は、量子システムの構成要素の第2部分と相補的であり得る。換言すれば、第1部分及び第2部分は互いに素であってもよく、構成要素の第1部分と第2部分との和集合が量子システムの構成要素のセット全体になる。量子システムの構成要素の第2部分は、インデックスセット[UC]によってインデックス付けされた構成要素のセットであってもよい。[A]を量子システムの全ての構成要素に一意にインデックス付けするインデックスセットであるとすると、[SC]∪[UC]=[A]、及び/又は、[SC]∩[UC]=0(空集合)が成立する。
【0040】
駆動ハミルトニアンは、単体ハミルトニアンであり得る。駆動ハミルトニアンは、以下の[数22]の形式を有し得る。なお、[数22]の右辺においてDに乗算する項を、本明細書では、便宜上、σ (i)で表す場合がある。
【数22】

ここで、各Dはパラメータであり、各σ (i)は量子システムの構成要素の第2部分のi番目の構成要素に作用するパウリ演算子である。特に、全てのiに対してD=Dが成立し、Dが1の場合もあり、その場合、以下の[数23]になる。
【数23】
【0041】
本明細書では、問題ハミルトニアン、交換ハミルトニアン及び駆動ハミルトニアンの具体的な形式が与えられている。問題ハミルトニアンはパウリ演算子σ を使用し、駆動ハミルトニアンはパウリ演算子σ を使用し、交換ハミルトニアンのスピン上昇演算子及びスピン下降演算子はこの選択も考慮して指定されている。パウリ演算子の種類のこの選択は、対応する向き(x,y,z)を自由に選択できるか、又は、パウリ演算子の種類を並べ替えることができるという点で、一般性を失わないことを理解する必要がある。駆動ハミルトニアンに使用されるパウリ演算子の種類は、問題ハミルトニアンに使用されるパウリ演算子の種類とは異なる。
【0042】
短距離ハミルトニアン
【0043】
短距離ハミルトニアンHは、解くべき計算問題がマッピングされるイジングスピンモデルと比較して増加した量子システムの自由度数を補償できる。短距離ハミルトニアンは、制約ハミルトニアンの総和であり得る。欧州特許3113084号明細書及びPCT/EP2020/069416に記載されているように、制約ハミルトニアンは、イジングスピンモデルとの一貫性を保証することができる。短距離ハミルトニアンは、d体ハミルトニアンであり得る。dは自然数であり、dは2~12の範囲であり、例えば3、4又は6であってもよい。数dは4以下であり得る。数dは3以上であり得る。d体ハミルトニアンには、量子システムのd個以下の構成要素のグループ内の相互作用が含まれ得る。制約ハミルトニアンの総和であるハミルトニアンは、各制約ハミルトニアンがd個以下の構成要素のグループ内の結合相互作用を表し、d個の構成要素のグループ内の結合相互作用を表す少なくとも1つの制約ハミルトニアンが存在する場合、d体ハミルトニアンである。数値dは、計算問題とは無関係であり得る。各制約ハミルトニアンには、最大d個の構成要素に作用するσ 演算子が含まれ得る。各制約ハミルトニアンは、Cσ ・・・σ の形式を有することができ、各制約ハミルトニアンは、最大d個の構成要素に対して制約強度Cで作用し得る。
【0044】
数dは、量子システムの構成要素の空間配置に依存し得る。例えば、構成要素が2次元格子に配置されている場合、2次元格子が四角格子であればdは4となり、2次元格子が六角格子であればdは6となる。
【0045】
欧州特許第3113084号明細書に記載されているように、構成要素のグループ間の結合量子相互作用は、そのグループの構成要素が互いに近い場合(短距離相互作用)にのみ実現可能である。短距離ハミルトニアンは、構成要素のグループ内の結合相互作用を表すハミルトニアンを指し、相互作用遮断距離よりも長い距離だけ互いに離れている構成要素間では相互作用が起こらない。相互作用遮断距離は一定の距離であってもよい。相互作用遮断距離は、量子システムの構成要素の特定の配置における構成要素間の最大構成要素距離と比較して、はるかに小さい可能性がある。例えば、相互作用遮断距離は、最大構成要素距離の30%以下、具体的には20%以下、より具体的には10%以下であってもよい。構成要素が基本距離(格子定数)を有する格子内に配置されている場合、短距離ハミルトニアンは、格子の基本距離(格子定数)のr倍を超える距離だけ互いに離れた構成要素間では相互作用が起こらないようにすることができる。ここで、rは1~5であり得る。r=√2,2,3,4又は5であってもよい。
【0046】
より一般的には、PCT/EP2020/069416に記載されているように、量子システムの物理的特性、特に近さの概念(短距離特性)を表現するためにメッシュを特定することができる。メッシュは頂点及びセルで表すことができる。メッシュの頂点は、量子システムの構成要素の可能な箇所を表す。メッシュの各セルは、頂点のセットであり、量子計算中にそのセル内に配置された量子システムの構成要素間の(結合)量子相互作用が可能であることを示す。メッシュ及び特にそのセルは、量子システム内の近い又は短距離のものを反映できる。短距離ハミルトニアンは、それぞれがセル内の構成要素に作用する制約ハミルトニアンで構成され得る。メッシュのセル(c)の頂点数(v)は、そのセルに含まれる頂点の数である。メッシュのセルの最大頂点数(vmax)は、メッシュのセルの頂点数の最大値(vmax=max)である。最大頂点数は数dに等しいか、dは少なくともvmax以下である。
【0047】
短距離ハミルトニアンHは、制約ハミルトニアンの総和であり、各制約ハミルトニアンは、メッシュのセルc内の頂点セットに属する量子システムの構成要素に作用する。短距離ハミルトニアンは以下の[数24]の形式を、vsは全てのvs∈VSについて、以下の[数25]の形式を有し得る。
【数24】

【数25】

ここで、VSは全ての頂点セットのセットであり、|vs|はセットvsの基数である。更に、Svsは、時間に依存し得る係数(Svs=Svs(t))であり、時間依存部分はvsから独立し得る、すなわち、全てのv∈vsについてSvs=C(t)Cvsである。また、Cvsの絶対値はvsから独立し得るため、Cvs=C又はCvs=-Cのいずれかになる。
【0048】
本明細書では、短距離ハミルトニアンの特定の形式が例として提供されており、短距離ハミルトニアンはパウリ演算子σ を使用している。この選択は、対応する向き(x,y,z)を自由に選択できるか、又は、パウリ演算子の種類を並べ替えることができるという点で、一般性を失わないことを再度理解する必要がある。短距離ハミルトニアンに使用されるパウリ演算子の種類は、問題ハミルトニアンに使用されるパウリ演算子の種類と同じにすることができる。
【0049】
初期状態及び初期ハミルトニアン
【0050】
本方法は、量子システムの構成要素を初期状態に初期化するステップを含む。量子システムの状態は量子状態であるが、簡単のため、「初期量子状態」、「最終量子状態」、「中間量子状態」などの代わりに、「初期状態」、「最終状態」、「中間状態」などを使用する。本方法において、量子システムの構成要素を初期状態に初期化するステップは、量子システムの構成要素を初期状態に準備することを含み得る。量子システムの構成要素を初期状態に準備することは、強磁場又は電場など、量子システムの構成要素に対する局所フィールドによる作用を含み得る。
【0051】
ここで、初期状態は、初期ハミルトニアンの固有状態又はそのような固有状態の近似である量子状態であり得る。初期ハミルトニアンの固有状態は、初期ハミルトニアンの基底状態であり得る。量子システムの構成要素を初期状態に準備することは、例えば冷却によって、量子システムの構成要素を初期ハミルトニアンの固有状態に向けて駆動することを含み得る。
【0052】
初期ハミルトニアンHinitは、第1被加数ハミルトニアンの第1総和と第2被加数ハミルトニアンの第2総和とを含む、またはそれらから構成される、単体ハミルトニアンであり得る。第1被加数ハミルトニアンは、量子システムの構成要素の第部分に作用し得る。第1被加数ハミルトニアンの各被加数ハミルトニアンは、単体演算子、特にパウリσ 演算子などのパウリ演算子を乗算した係数によって表すことができ、i∈[SC]を使用してcσ (i)の形式を有し得る。第1被加数ハミルトニアンの第1総和は、以下の[数26]の形式を有し得る。
【数26】

第1被加数ハミルトニアンの係数cは、計算問題に関連する1つ又は複数の副条件と互換性を有することができる。この互換性は以下のように理解される。本明細書に記載のように、計算問題の任意の副条件を、前述の[数10]の形式のスピンモデルの副条件にマッピングすることができる。これは、本明細書に記載のマッピングによれば、前述の[数11]を意味する。r番目の副条件への適合性は、以下の[数27]の場合に与えられる。
【数27】

第2被加数ハミルトニアンは、量子システムの構成要素の第2部分に作用し得る。第2被加数ハミルトニアンの各被加数ハミルトニアンは、パウリσ 演算子を乗算した係数によって表すことができ、i∈[UC]を使用してεσ (i)の形式を有し得る。係数εはランダムに選択できる。係数εの値は+1又は-1になり得る。第2被加数ハミルトニアンの第2総和は、以下の[数28]の形式を有し得る。
【数28】

したがって、初期ハミルトニアンは、以下の[数29]の形式を有し得る。
【数29】
【0053】
本明細書では、初期ハミルトニアンの特定の形式が例として提供されており、初期ハミルトニアンはパウリ演算子σ を使用している。この選択は、対応する向き(x,y,z)を自由に選択できるか、又は、パウリ演算子の種類を並べ替えることができるという点で、一般性を失わないことを再度理解する必要がある。初期ハミルトニアンに使用されるパウリ演算子の種類は、問題ハミルトニアンに使用されるパウリ演算子の種類と同じにすることができる。
【0054】
初期状態、特に量子システムの構成要素の第1部分の構成要素の量子状態の選択は、計算問題の副条件が最初に満たされる、すなわち量子計算の最初に満たされることを提供し得る。計算問題の副条件は、初期状態でコード化され得る。本方法は、計算問題に関連する1つの副条件又は複数の副条件を、初期状態及び交換ハミルトニアンの両方にマッピングすることを含み得る。
【0055】
量子システム
【0056】
量子システム上で量子計算を実行する方法は、量子システムの構成要素を初期状態に初期化するステップと、量子システムを発展させるステップと、量子システムの構成要素の少なくとも一部を測定して読み出し取得するステップとを含む。量子システムの発展は、初期状態から最終状態まで続き得る。量子システムが最終状態にあるときに、構成要素の少なくとも一部について測定を行うことができる。量子計算を実行するための装置は、量子システムを初期状態に初期化するための、及び/又は、量子システムの発展を制御するための量子処理ユニット(QPU)を含み得る。この装置は、量子システムの測定を実行するための測定ユニットを含んでもよい。
【0057】
量子システムの発展は、最終ハミルトニアン、交換ハミルトニアン及び駆動ハミルトニアンに従ってよい。最終ハミルトニアンは、問題ハミルトニアンと短距離ハミルトニアンとの総和である。量子システムは、量子システムの構成要素の相互作用によって発展し得る。構成要素の相互作用には、量子相互作用及び/又は古典的相互作用が含まれ得る。構成要素の相互作用には、構成要素間の量子相互作用が含まれ得る。構成要素の相互作用には、構成要素との古典的相互作用又は量子相互作用、例えば、構成要素との1つ以上の外部フィールドの相互作用が含まれ得る。構成要素の相互作用には、構成要素との古典的相互作用又は量子相互作用と、構成要素間の量子相互作用、例えば、構成要素間の外部から誘導又は緩和された量子相互作用との双方が含まれ得る。相互作用には、最終ハミルトニアンによって決定される相互作用、交換ハミルトニアンによって決定される相互作用、及び駆動ハミルトニアンによって決定される相互作用が含まれるか、又は、それらから構成される。これには、前記ハミルトニアンの任意のサブセットによって決定される相互作用、及び、前記ハミルトニアンの全てによって決定される相互作用が含まれる。
【0058】
量子計算中の量子システムの発展は、アナログ駆動、特に断熱スイープ(量子アニーリング)によって制御され得る。断熱駆動(量子アニーリング)の背景は、欧州特許第3113084号明細書に記載されている。或いは、アナログ駆動は、追加の反断熱部分を有するハミルトニアンを使用する反断熱駆動であってもよく、この技術の背景は国際公開第2020/259813号に記載されている。欧州特許第3113084号明細書及び国際公開第2020/259813号は、参照することにより組み込まれる。
【0059】
量子システムの構成要素の相互作用によって量子システムを発展させるステップは、量子システムの初期ハミルトニアンから中間ハミルトニアンを介して最終ハミルトニアンに移行することを含み得る。中間ハミルトニアンは、初期ハミルトニアン、最終ハミルトニアン、交換ハミルトニアン及び駆動ハミルトニアンの線形結合を含み得る。前記発展は、アナログ駆動によって、特に量子アニーリング又は反断熱駆動によって制御され得る。前記ハミルトニアンの線形結合の係数は、時間依存関数であり得る。各時間依存関数は、それぞれのハミルトニアンの強度を表し得る。時間依存関数は、時間の経過に伴う前記ハミルトニアンの相対的な強度を表し得る。量子システムを発展させるステップには、駆動ハミルトニアン及び交換ハミルトニアンを一時的にフェードイン及びフェードアウトしながら、初期ハミルトニアンを最終ハミルトニアンに断熱的に発展させることが含まれる場合がある。初期ハミルトニアンを最終ハミルトニアンに発展させることには、初期ハミルトニアンをフェードアウトすることと、最終ハミルトニアンをフェードインすることとが含まれ得る。フェードアウトすることには、時間の経過と共に減少する時間依存関数によって表される、対応するハミルトニアンダウンの強度の調整が含まれ得る。逆に、フェードインすることには、時間の経過と共に増加する時間依存関数によって表される、対応するハミルトニアンアップの強度を調整することが含まれ得る。量子システムを発展させるステップには、初期ハミルトニアンを2次関数的にフェードアウトすることと、最終ハミルトニアンを線形的にフェードアウトすることとが含まれ得る。ここで、2次関数的にフェードアウト(イン)することは、対応するハミルトニアンの強度の減少(増加)が2次の時間依存関数によることを意味し、線形的にフェードイン(アウト)することは、対応するハミルトニアンの強度の増加(減少)が線形の時間依存関数によることを意味する。
【0060】
中間ハミルトニアンは、Hinter(t)=I(t)Hinit+D(t)Hdrive+E(t)Hexchange+F(t)Hfinalの形式を有し得る。ここで、Hfinal(t)=p(t)Hprob+s(t)Hである。t=0を初期時間、つまり量子計算の開始点とし、tfinalを最終時間、つまり量子計算の終了点とする。次に、関数I、D、E、F、p及びsに関して、以下の事項が当てはまる。すなわち、I(0)=1、I(tfinal)=0、D(0)=E(0)=0、D(tfinal)=E(tfinal)=0、F(0)=0、F(tfinal)=1であり、t0=0<t<tfinalである全てのtに対して、関数I、D、E、F、p及びsは有限である(ゼロにはならない)。関数p及びsは、t=0及びt=tfinalに対しても有限である。したがって、Hinter(0)=Hinit及びHinter(tfinal)=Hfinalとなる。更に、p及びsは定数であり得る、具体的には、p=s=1が成立し得るため、Hfinalは、これら2つのハミルトニアンの重み付けされた潜在的に時間依存の総和ではなく、問題ハミルトニアンと短距離ハミルトニアンとの通常の総和であり得る。本明細書において、問題ハミルトニアンと短距離ハミルトニアンとの総和に言及する場合、これには、問題ハミルトニアンと短距離ハミルトニアンとの通常の総和、重み付き総和及び時間依存性重み付き総和が含まれる。問題ハミルトニアンと短距離ハミルトニアンとの総和は、特に、問題ハミルトニアンと短距離ハミルトニアンとの通常の総和であり得る。また、より簡単な駆動のために、D=Eを選択することもできる。このプロトコルは、線形の場合に存在する一次の相転移を回避するため、関数Iは、忠実度を高めるために2次関数的に減少し得る(例えば、I(t)=(1-t/tfinal)。関数Fは、直線的に増加し得る(例えば、F(t)=t/tfinal)。例示的な中間ハミルトニアンは、Hinter(t)=(1-t/tfinalinit+Γt/tfinal(1-t/tfinal)(Hdrive+Hexchange)+t/tfinalfinalによって与えられる。ここで、Γは、初期ハミルトニアン及び最終ハミルトニアンに対する駆動ハミルトニアン及び交換ハミルトニアンの強度を特定するパラメータであり、最終ハミルトニアンはHfinal=Hprob+Hである。反断熱駆動のための中間ハミルトニアンは、追加の反断熱駆動項を有し得る。
【0061】
中間ハミルトニアンは、量子システムの発展中に、少なくとも一度、例えば、ある時点t(t=0<t<tfinal)で縮退した基底状態を有し得る。中間ハミルトニアンは、時間t後の時間間隔(例えば、あるTの時間間隔[t,t+T])内で、非縮退の基底状態を有し得る。ここで、Tは、時間tfinalでの量子計算の終了まで、中間ハミルトニアンが縮退した基底状態を有する更なる時間が存在しないようなものであり得るが、その代わりに、中間ハミルトニアンが縮退した基底状態を有する1つの又は複数の更なる時間が存在する場合もある。中間ハミルトニアンの基底状態のそのような縮退は、量子計算の断熱駆動を使用する既知の方法ではエラーを構成する。なぜならば、断熱定理は、断熱スイープ中の中間ハミルトニアンの基底状態と励起状態との間に永久的なエネルギーギャップが存在するか否かに左右されるからである。しかし、本明細書に記載の方法では、そのような縮退はエラーを意味するものではなく、望ましい特徴であり得る。その理由は、初期ハミルトニアン、最終ハミルトニアン、駆動ハミルトニアン及び交換ハミルトニアンに従った量子システムの発展、特に交換ハミルトニアンによって引き起こされるダイナミクスにより、量子システムの状態が、縮退が発生した後に、強制的に非縮退固有状態のいずれかなることができ、そのような縮退状態を通過することから生じる曖昧さが無いからである。量子システムが中間ハミルトニアンの励起状態に駆動されると、エネルギー準位の交差も発生し得る。繰り返すが、ダイナミクスは、量子システムが交差点で想定する中間ハミルトニアンの固有状態と、その後に続くエネルギー準位及び瞬間固有状態を選択する。最終時間tfinalでは、中間ハミルトニアンは最終ハミルトニアンと同一であり、最終時間における量子システムの状態は、最終ハミルトニアンの基底状態ではなく、何らかの励起状態である最終ハミルトニアンの固有状態であり得る。このような特徴(縮退した基底状態、基底状態ではない最終状態)は、一般的な断熱量子計算(量子アニーリング)では知られていない。
【0062】
したがって、本明細書に記載の方法では、初期状態、特に量子システムの構成要素の第1部分の状態、及び、量子システムの発展のダイナミクスは、量子計算中の計算問題に関連する1つ又は複数の副条件の充足を強制し得る。量子システムの最小エネルギーは、ダイナミクスと互換性のある最終ハミルトニアンの固有状態又は近似固有状態から決定され得る。量子システムの構成要素の相互作用によって量子システムを発展させるステップは、量子システムの構成要素の量子状態を初期状態から最終状態に向かって発展させることを含んでもよい。最終状態は、最終ハミルトニアンの固有状態であってもよく、最終ハミルトニアンの固有状態は励起状態であり得る。
【0063】
量子システムの最終状態は、量子システムの上記の発展から生じる時間tfinalにおける状態であり得る。量子システムがこの最終状態にあるときに、構成要素の少なくとも一部について測定を行うことができる。測定は、量子計算を実行する装置の測定ユニットによって行い得る。測定結果は、量子システムの読み出しを構成し得る。計算問題の解は、古典的な計算などによって、読み出しから決定され得る。解は、1つ以上の古典的計算システムによって決定され得る。
【0064】
本明細書に記載の量子計算の方法は、欧州特許第3113084号明細書に記載の方法などの既知の方法とは異なる。本方法では、計算問題の副条件によって影響を受ける構成要素 (構成要素の第1部分) と影響を受けない構成要素(構成要素の第2部分)とが区別される。初期状態は、計算問題の副条件を尊重するように、すなわち、本明細書に記載のように、副条件と互換性があるように準備される。ここで、構成要素の第1部分の構成要素の状態は、副条件と互換性があるように準備される。更に、構成要素が受けるダイナミクスは、副条件との互換性を保存する。交換ハミルトニアンは、初期状態が副条件と互換性がある場合に、それが導入するダイナミクスによって、副条件と互換性のある構成要素の第1部分の状態がもたらされるようなものである。断熱スイープのプロセスなど、エネルギーが最小化される場合、結果は最終ハミルトニアンの基底状態である必要はない。結果は、力学(又はその近似)と互換性のある最小エネルギーの固有状態になる。この固有状態は、最終ハミルトニアンの励起状態、つまり基底状態とは異なる固有状態になり得る。ダイナミクスは副条件を尊重/強制するため、量子計算は、問題ハミルトニアンにコード化された基礎となる計算問題の副条件を尊重したエネルギーの最小化を表す。量子計算の終了時の読み出しから導出できる解は、その副条件の下での計算問題の解となる。
【0065】
図1図4に関する例示的な例を説明する。この例では、計算問題は、副条件σ (1)σ (2)+σ (2)σ (3)+σ (3)σ (4)=1に従って、以下の[数30]のスピンモデルハミルトニアンにマッピングされている。
【数30】

量子システム100の構成要素に一意にインデックスを付けるためのインデックスセット[A]={12,13,14,23,24,34}を使用すると、構成要素の空間配置は図1に示すようになり得る。インデックスセット[A]のインデックスでラベル付けされた円のそれぞれは、構成要素110、120、130、140、150及び160を表し、各構成要素は具体的にキュービットであり得る。問題ハミルトニアンは、以下の[数31]であり、P12=J12,・・・,P34=J34である。
【数31】

副条件は、σ (12)+σ (23)+σ (34)=1に変換される。副条件の影響を受ける構成要素は、量子システムの構成要素の第1部分を形成する12、23及び34のインデックスが付けられた構成要素であるため、[SC]={12,23,34}となる。図1では、ラベル12、23及び34を有する構成要素110、140及び160は、それらが構成要素の第1部分に属していることを示すために斜線を施した円として示されている。交換ハミルトニアンは、以下の[数32]である。
【数32】

2つの一次ホッピング項は、図1の矢印182及び184で示されている。副条件の影響を受けない構成要素は、13、14及び24としてインデックス付けされた構成要素であり、量子システムの構成要素の第2部分を形成し、[UC]=[A]\[SC]={13,14,24}となる。図1では、ラベル13、14及び24が付された構成要素120、130及び150は、構成要素の第2部分に属していることを示すために白丸として示されている。駆動ハミルトニアンは、以下の[数33]である。
【数33】

セットVSは、頂点セットvsのセットであり、各頂点セットにはメッシュのセル(図1に点線で示されている)内にある頂点が含まれる。頂点セットのセットVSは、VS={{12,13,23},{23,24,34},{13,14,23,24}}である。短距離ハミルトニアンは、一定の重みSvs=Cを有する制約ハミルトニアン(「プラケットハミルトニアン」)の総和として、以下の[数34]である。ここで、C=2である。
【数34】

3つの制約ハミルトニアンは、図1のプラケット192及び194(三角形)とプラケット196(四角形)とによって示されている。初期状態は、以下の[数35]の初期ハミルトニアンの基底状態である。
【数35】

ここで、c12、c23、c34は、c12+c23+c34=-1となるように選択され、例えば、c12=-1、c23=-1、c34=1である。ε13、ε14、ε24は、ランダムに+1又は-1として選択される。初期状態、特に構成要素の第1部分の構成要素12、13、14の状態は、副条件と互換性を有する。
【0066】
量子システム100の発展は、ハミルトニアンHinter(t)=(1-t/tfinalinit+Γt/tfinal(1-t/tfinal)(Hdrive+Hexchange)+t/tfinalfinalに従って、開始時間t=0から最終時間tfinalまでの断熱スイープによって制御される。ここで、Hfinal=Hprob+Hであり、Γ=4が選択される。そして、図2は、断熱スイープ中の3つのハミルトニアンの強度をt/tfinalの関数として決定する3つの関数、すなわち、初期ハミルトニアンの強度の関数202、駆動ハミルトニアンと交換ハミルトニアンとの総和の強度の関数204、及び、最終ハミルトニアンの強度の関数206を示す。図3及び図4は、Hinter(t)の瞬間固有状態のエネルギー(エネルギー固有値)をt/tfinalの関数として示す。図3及び図4の点線は、断熱スイープ中の量子システムの量子状態のエネルギーを示す。図3では、スピンモデルのJijの係数、又は、同等の問題ハミルトニアンの係数Pは、P12=-0.8、P13=0.56、P14=0.2、P23=-0.6、P24=-0.667、P34=-0.7である。図4では、スピンモデルのJijの係数、又は、同等の問題ハミルトニアンの係数Pは、P12=-0.8、P13=0.56、P14=0.2、P23=-0.6、P24=-0.667、P34=0.7である。
【0067】
図3では、断熱スイープ中の中間時間で中間ハミルトニアンの基底状態の縮退が存在する。量子計算、特に交換ハミルトニアンによって引き起こされるダイナミクスは、初期状態が示す計算問題の副条件との互換性を保存する。副条件との互換性を保存するというこの特性により、量子システムは副条件と互換性のある全ての量子状態のセット内で緩和することができるが、その基底状態が副条件との互換性が無い場合、量子システムが中間ハミルトニアンの基底状態に緩和することが妨げられる可能性がある。図3に示すように、縮退が発生する中間時間から開始して、量子状態は副条件と互換性のある励起状態に駆動される。更に、その励起状態は、後に固有エネルギーと第2励起状態とのレベルクロス(level crossing)を経験し、量子システムは、量子計算のダイナミクスによって駆動されるレベルクロスでこの第2励起状態に切り替わる。再び後で、第2励起状態及び第3励起状態の固有エネルギーの別のレベルクロスで、量子システムは第3励起状態に切り替わる。したがって、量子システムは、最終的に中間ハミルトニアンの第3励起状態になり、これは時間t=tfinalでは最終ハミルトニアンの第3励起状態である。副条件を伴う計算問題の解は最終状態に含まれており、ここでは最終ハミルトニアンの第3励起状態である。したがって、副条件を伴う計算問題の解は、最終時間におけるその最終状態の量子システムの読み出し(測定)から計算できるが、副条件の無い同じ計算問題の解とは異なる。これは、後者の解が最終ハミルトニアンの基底状態に含まれるからである。
【0068】
図4では、中間ハミルトニアンの基底状態の縮退は発生しない。したがって、常にエネルギーギャップが存在し、断熱定理により、量子システムは常に中間ハミルトニアンの基底状態に留まり、最終時間の最終状態が最終ハミルトニアンの基底状態であることを意味する。この場合、副条件を伴う計算問題の解は、副条件無しの計算問題の解と同じである。これは、副条件によって、副条件が存在しない場合の同じ計算問題の解から逸脱する解が強制されるか否かは、特定の計算問題に依存することを示している。本明細書に記載の量子計算の方法は、いかなる修正も必要とせずに、そのような全ての場合に機能する。
【0069】
量子計算中の量子システムの発展は、デジタル駆動、特にゲートベースの量子計算によって制御され得る。ゲートベースの量子計算では、量子システムの初期状態にユニタリ演算子のシーケンスを適用することによって量子計算が駆動される。ユニタリ演算子のシーケンスとそのパラメータは、少なくとも1つの前の回で量子システムを読み出し(測定し)、古典的なフィードフォワードを使用して後の回で最適化されたシーケンスを適用することにより、N回の演算で最適化できる。ゲートベースの量子計算技術の背景は、国際公開第2020/156680号に記載されている。国際公開第2020/156680号は、参照することにより組み込まれる。
【0070】
ゲートベースの量子計算の目的は、量子近似最適化アルゴリズム(QAOA)において、エネルギーEmin=min<Ψ|Hfinal|Ψ>を最初に最小化することである。最小の(又は許容可能に小さい)エネルギーが決定されると、構成要素が、最小の(許容可能に小さい)エネルギーを有する量子状態にあるときに、測定によって読み出される。読み出しには、副条件を伴う計算問題の解に関する情報が含まれている。ここで、最終ハミルトニアンは、Hfinal=Hprob+HSとなる可能性があり、|Ψ>=UHdrive(α)UHexchange(β)UHS(γ)UHprob(δ)・・・UHdrive(α)UHexchange(β)UHS(γ)UHprob(δ)|init>である。ここで、ユニタリ演算子はそれぞれのハミルトニアンの伝播関数であり、|init>は初期状態である。つまり、UHdrive(α)=exp(-iαHdrive)、UHexchange(β)=exp(-iβHexchange)、UHS(γ)=exp(-iγH)及びUHprob(δ)=exp(-iδHprob)であることを意味する。最小化は、全てのパラメータα・・・α、β・・・β、γ・・・γ、δ・・・δに亘って行われる。構成要素の第1部分と第2部分とが互いに素である場合、Hdrive及びHexchangeは、構成要素の素のセットに作用するため、交換される。これらのハミルトニアンのパラメータα・・・α及びβ・・・βを個別に最適化する代わりに、UHdrive,Hexchange(α’)=exp(-iα’(Hdrive+Hexchange))の形式の結合ユニタリ演算子のパラメータα’・・・α’を最適化することも可能である。同様に、これらのハミルトニアンのパラメータγ・・・γ及びδ・・・δを個別に最適化する代わりに、UHS,Hprob(γ’)=exp(-iγ’(H+Hprob))=UHfinal(γ’)の形式の結合ユニタリ演算子のパラメータγ’・・・γ’を最適化することも可能である。個々のハミルトニアンの伝播関数のパラメータα・・・α、β・・・β、γ・・・γ、δ・・・δを最適化すると、QAOAでの近似が向上し得るが、結合された伝播関数の結合パラメータの最適化では、最適化に必要な回数が少なくなり得る。初期状態|init>は、本明細書に記載の意味での計算問題に関連する1つ又は複数の副条件と互換性があるように準備される。例えば、初期状態|init>は、本明細書に記載の初期ハミルトニアンHinitの基底状態であり得る。
【0071】
ハミルトニアンの形式、特に交換ハミルトニアンの形式により、量子システムを初期状態から最終状態に発展させるシーケンスに適用されるユニタリ演算子は、計算問題の副条件との互換性を保存する。初期状態が副条件と互換性がある場合、最終状態も互換性がある。したがって、エネルギーの最小化は全ての状態に亘って行われるのではなく、副条件と互換性のある状態に亘って最小化されるように設計されている。したがって、最終状態の読み出しから解が決定される場合、その解は副条件を伴う計算問題の解である。基底状態が副条件と互換性があるが、最終状態が、例えば、図4の例と同様に、最終ハミルトニアンの励起状態に近似し得る場合、最終状態は、最終ハミルトニアンの基底状態に近似し得る。最小化は、α・・・α、β・・・β、γ・・・γ、δ・・・δなどのパラメータを、異なる演算回で個別に変更する変分法によって実行され得る。異なる演算回で得られたエネルギーを比較すると、より小さなエネルギーをもたらしたユニタリ演算子のシーケンスを選択し、選択したシーケンスを使用して小さな摂動によってパラメータを更に変更することができる。このようにして、最適化の次の回は、フィードフォワードされる前の回の古典的な情報に依存する可能性があり、エネルギーは常に低下するか、少なくとも増加しない。このような変分法の詳細は、国際公開第2020/156680号に記載されている。ゲートベースの量子計算には変数として時間を含まないが、変分パラメータが時間の役割を果たし、ユニタリ演算子のシーケンスの適用を本明細書では「ダイナミクス」と称し、用語「伝播関数」も使用する。ユニタリ演算子のシーケンスを適用すると、ハミルトニアンによって引き起こされるダイナミクスに従って量子システムが発展するといわれている。
【0072】
ユニタリ演算子は、個々の構成要素に局所的に作用する量子ゲート、又は、最近傍の構成要素に作用する量子ゲートのアプリケーションによって実行可能である。ユニタリ演算子UHdrive及びUHprobは局所的であり、単一キュービットの回転及び位相回転によって実現可能である。ユニタリ演算子UHS、より具体的には各制約ハミルトニアンの伝播関数は、国際公開第2020/156680号に記載されているように、CNOTゲートと単一キュービット回転(R)によって実現可能である。例えば、図5は、図1の例と同様に、同じハミルトニアンを有する量子システム100を示す。図5は、ユニタリ演算子UHSの実現を示す。破線292は、構成要素110、120及び140に作用する制約ハミルトニアンに対応するユニタリ演算子が、構成要素140と構成要素110との間のCNOTゲート(点線で示す)と、構成要素110と構成要素120との間のCNOTゲート(点線で示す)と、キュービット120上の単一キュービット回転R(点線の四角形で示す)と、パスを逆方向に辿る構成要素120と構成要素110との間の別のCNOTゲートと、構成要素110と構成要素140との間の別のCNOTゲートとによって実現できることを示す。同様に、一点鎖線294は、構成要素140、150及び160に作用する制約ハミルトニアンに対応するユニタリ演算子が、4つのCNOTゲートと、単一キュービット回転Rによって実現できることを示し、破線296は、構成要素140、150、120及び130に作用する制約ハミルトニアンに対応するユニタリ演算子が、6つのCNOTゲートと、単一キュービット回転Rによって実現できることを示す。ユニタリ演算子UHexchange、より具体的には、交換ハミルトニアンの最近傍一次ホッピング項の伝播関数の実現は、SWAPゲートによって実現できる。SWAPゲートは、3つのCNOTゲート(キュービット1が制御でキュービット2が標的である第1CNOTゲート、キュービット2が制御でキュービット1が標的である第2CNOTゲート、キュービット1が制御でキュービット2が標的である第3CNOTゲート)を連続して適用することで実施できる。図5は、ユニタリ演算子UHexchangeの実現を示す。実線282は、構成要素140及び160に作用する最近傍一次ホッピング項に対応するユニタリ演算子を示し、実線284は、構成要素110及び140に作用する最近傍一次ホッピング項に対応するユニタリ演算子を示す。これらのユニタリ演算子は上記のようにして実現される。
【0073】
量子計算の方法において、量子システムの構成要素の相互作用によって量子システムを発展させるステップは、ユニタリ演算子のシーケンスを決定することを含み得る。シーケンス内のユニタリ演算子は、以下のユニタリ演算子のセットから取得できる。すなわち、問題ハミルトニアンの関数であるユニタリ演算子、短距離ハミルトニアンの関数であるユニタリ演算子、駆動ハミルトニアンの関数であるユニタリ演算子、及び、交換ハミルトニアンの関数であるユニタリ演算子である。関数は指数関数であり得る。ユニタリ演算子は、問題ハミルトニアン、短距離ハミルトニアン、駆動ハミルトニアン及び交換ハミルトニアンの伝播関数、又は、前記ハミルトニアンを形成する被加数ハミルトニアンの伝播関数であり得る。関数には変分パラメータが含まれ得る。ユニタリ演算子のシーケンス内の各ユニタリ演算子には、独自の変分パラメータが付属する場合がある。
【0074】
量子システムの構成要素の相互作用によって量子システムを発展させるステップは、ユニタリ演算子のシーケンスを量子システムに、具体的には量子システムの初期状態に適用することを含み得る。初期状態は、計算問題に関連する1つ又は複数の副条件と互換性があり、本明細書に記載のように、初期ハミルトニアンの基底状態であり得る。ユニタリ演算子のシーケンスを適用する際、ユニタリ演算子のパラメータは第1の構成であってもよい。本方法は、第1の読み出しを取得するためにユニタリ演算子のシーケンスを適用した後、量子システムの構成要素の少なくとも一部を測定するステップを含み得る。本方法は、第1の読み出しから第1のエネルギーを導出するステップを含んでもよく、第1のエネルギーは、ユニタリ演算子のシーケンスを初期状態に適用した結果得られる量子状態の最終ハミルトニアンのエネルギーであり得る。
【0075】
本方法は、ユニタリ演算子の第2のシーケンスを量子システムに、具体的には量子システムの初期状態に適用することを含み得る。ユニタリ演算子の第2のシーケンスを適用する際、ユニタリ演算子のパラメータは、第1の構成とは異なる第2の構成であってもよい。本方法は、第2の読み出しを取得するためにユニタリ演算子の第2のシーケンスを適用した後、量子システムの構成要素の少なくとも一部を測定するステップを含み得る。本方法は、第2の読み出しから第2のエネルギーを導出するステップを含んでもよく、第2のエネルギーは、ユニタリ演算子の第2のシーケンスを初期状態に適用した結果得られる量子状態の最終ハミルトニアンのエネルギーであり得る。本方法は、第1及び第2の読み出しに応じて第1又は第2のシーケンスを選択すること、特に第1のエネルギーが第2のエネルギーよりも低い場合には第1のシーケンスを選択し、第2のエネルギーが第1のエネルギーよりも小さい場合には第2のシーケンスを選択することを含んでもよい。
【0076】
本方法は、ユニタリ演算子の第3のシーケンスを量子システムに、具体的には量子システムの初期状態に適用することを含み得る。ユニタリ演算子の第3のシーケンスを適用する際、ユニタリ演算子のパラメータは第3の構成であってもよく、第1のシーケンスが選択された場合、第3の構成は第1の構成の変形であり、第2のシーケンスが選択された場合、第3の構成は第2のシーケンスの変形である。本方法は、N回の演算を含むことができ、N≧2であり、N回の演算の各回は、パラメータがi番目の構成にあるユニタリ演算子のi番目のシーケンスの適用を含み、i番目の読み出しを取得するために量子システムの構成要素の少なくとも一部を測定することを含み得る。本方法は、i番目の読み出しからi番目のエネルギーを導出することを含んでもよく、i番目のエネルギーは、ユニタリ演算子のi番目のシーケンスを初期状態に適用した結果得られる量子状態の最終ハミルトニアンのエネルギーであり得る。パラメータのi番目の構成は、前の回の演算の1つ以上の読み出し(又は1つ以上のエネルギー)に基づいて決定され得る。i番目の構成は、選択された構成に対応する量子状態のエネルギーが減少する(又は少なくとも増加しない)ように決定され得る。
【0077】
本方法は、N回目の演算の後、ユニタリ演算子の最終シーケンスを量子システムに、具体的には初期状態に適用して、量子システムを最終状態に発展させるステップを含んでもよい。最終シーケンスは、そのパラメータの構成がN回の演算で決定されたN個のエネルギーの最小値を提供するように選択され得る。本方法は、量子システムが最終状態にあるときに、量子システム又はその少なくとも一部を測定するステップを含み得る。本方法は、この測定の読み出しから副条件を伴う計算問題の解を計算することを含んでもよい。
【0078】
例示的な実施
【0079】
本明細書に記載のように、量子システム及びその構成要素(キュービットなど)は物理的実体である。以下、量子システム/構成要素、及び量子計算の方法に含まれる相互作用の具体的な実施について説明する。しかしながら、本方法は、前記物理的実体及びそれらの相互作用の他の特定の実施に対して実行することができ、例示的な実施は限定的なものとはみなされない。
【0080】
構成要素は、超伝導キュービット、例えばトランスモン又は磁束キュービットであり得る。超伝導キュービットは、一次及び二次超伝導ループを含み得る。一次超電導ループ内をそれぞれ時計回り及び反時計回りに伝播する超伝導電流は、超電導キュービットの量子基底状態|1>及び|0>を形成することができる。更に、二次超伝導ループを通る磁束バイアスは、量子基底状態|0>及び|1>を結合可能である。
【0081】
問題ハミルトニアン又は初期ハミルトニアンなどの単体ハミルトニアンは、超伝導キュービットと相互作用する複数の磁束によって実現可能である。磁束又は磁束バイアスは、超伝導キュービットの一次超伝導ループ及び二次超伝導ループを通って延びることがある。問題ハミルトニアンのパラメータは、複数の磁束又は磁束バイアスを調整することで調整可能である。或いは、単体ハミルトニアンは、複数の超伝導キュービットと相互作用する複数の電荷によって実現可能である。問題ハミルトニアンのパラメータは、複数の電荷バイアスフィールドを調整することで調整可能である。
【0082】
交換ハミルトニアンを実現するためのトランスモン超伝導キュービット間の交換相互作用は、2つのクーパー対ボックスキュービット間の中間容量との結合を介して実施可能である。トランスモンでは、キュービットは電荷ベースでコード化され、容量結合により効果的な交換相互作用が引き起こされる。
【0083】
駆動ハミルトニアンを実現するために、超伝導キュービットの一次超伝導ループを通る磁束バイアスは、基底状態|0>と|1>とが同じエネルギーを有する、すなわち、これらの基底状態のエネルギー差がゼロであるように設定され得る。更に、二次超伝導ループを通る磁束バイアスは、基底状態|0>と|1>とを結合可能である。その結果、hσ (k)の形式の駆動ハミルトニアンの被加数ハミルトニアンと、したがってHdrive=hΣσ (k)の形式の駆動ハミルトニアンも、複数の超伝導キュービットに対して実現可能である。
【0084】
短距離ハミルトニアンの被加数ハミルトニアンとしての制約ハミルトニアンは、複数の補助キュービットを使用して実現することができ、補助キュービットは、メッシュ(「プラケット」)の各(第1)セル内に、例えば、各(第1)セルの中心に配置され得る。ckmσ (k)σ (m)の形式のキュービット間の相互作用は、結合ユニット、例えば誘導結合ユニットによって実現可能である。結合ユニットは、超伝導量子干渉デバイスを含む。超伝導量子干渉デバイスに調整可能な磁束バイアスを適用すると、係数ckmを調整できる。短距離ハミルトニアンの制約ハミルトニアンは、C(σ (1)+σ (2)+σ (3)+σ (4)-2σ (p)-1)によって実現可能である。これには、|0>及び|1>の量子基底状態間に課されたエネルギー差に対応する形式σ (k)σ (m)及び単体σ (l)項の対相互作用のみが含まれる。ここで、σ (p)は補助キュービットを表す。このようにして、制約ハミルトニアンの総和としての短距離ハミルトニアンを実現可能である。補助キュービットを含む実施形態の場合、複数の補助キュービットに対するhΣσ (p)の形式の単体ハミルトニアンが初期ハミルトニアンに加えられる。或いは、プラケットハミルトニアンは、例えばトランスモンキュービットとして3島超伝導デバイスを使用するなど、補助キュービット無しで実現することもできる。結合ユニットに2つの追加の超伝導量子干渉デバイスを統合し、メッシュ(「プラケット」)の(第1)セルの4つのキュービットをコプレーナ共振器に容量結合することによって、-Cσ (1)σ (2)σ (3)σ (4)の形式の制約ハミルトニアンを実現可能である。結合係数Cは、2つの追加の超電導量子干渉デバイスを介した時間依存性の磁束バイアスによって調整可能である。
【0085】
超伝導電荷キュービット又は超伝導磁束キュービットの場合、CNOT演算は、したがってSWAP演算も、2つのキュービットに結合された追加の容量素子を用いて実現可能である。相互作用の強度は、添加素子に加えられる磁束又は電束によって調整される。或いは、2つのキュービットは、ジョセフソンリング変調器の2つのモードに結合される。単体ユニタリ演算子exp(itσ)又はexp(itσ)は、制御された外部磁束又は電束を使用して実現可能である。これにより、問題ハミルトニアン、駆動ハミルトニアン、短距離ハミルトニアン及び交換ハミルトニアン(の被加数ハミルトニアン)のユニタリ演算子/伝播関数を実現可能である。
【0086】
超伝導キュービットのキュービット状態|0>及び|1>は、複数の超伝導量子干渉デバイス、特にN個のヒステリシスDC超伝導量子干渉デバイスと、バイアス線によって制御されるN個のRF超伝導量子干渉デバイスのラッチ(バイアス線の数は√Nに従って変化する)と、を含む測定デバイスを使用して、高い忠実度で測定可能である。
【0087】
或いは、量子システムは、キュービットとしてトラップされたイオンのシステムを使用して実現してもよい。この場合、キュービットの量子基底状態|0>及び|1>は、ゼーマン多様体若しくは超微細多様体の2つの準位によって、又はCa40+などの、アルカリ土類若しくはアルカリ土類のような正荷電イオンの禁制光学遷移を横切って形成される。
【0088】
個々のイオンは、空間的分離又はエネルギー的分離によって対処可能である。空間的分離の場合には、音響光学偏向器、音響光学変調器、マイクロミラーデバイスなどを通過した、及び/又は、反射したレーザービームの使用が含まれる。エネルギー的分離の場合には、内部遷移周波数を変化させる磁場勾配の使用が含まれ、これにより、エネルギー差による選択、つまり印加磁場の離調が可能になる。
【0089】
問題ハミルトニアン及び駆動ハミルトニアンなどの単体ハミルトニアンは、内部遷移と共鳴又は非共鳴するレーザフィールド又はマイクロ波によって、或いは、空間磁場の差によって実現可能である。
【0090】
交換ハミルトニアンを実現するためのイオンベースの量子コンピュータにおけるキュービット間の交換相互作用は、イオンの2つの異なる電子軌道(例えば、超微細状態)でコード化された各キュービットを共通の振動モードに結合することによって実施可能である。
【0091】
短距離ハミルトニアンを実現するための2つのイオン間の相互作用は、フォノンバスを介して伝達可能である。この目的のために、フォノンの青側及び/又は赤側のバンド遷移に関して離調されたレーザ又はマイクロ波を使用可能である。レーザの強度及び離調により、相互作用の強度を調整できる。リュードベリ励起による直接相互作用も使用可能である。
【0092】
イオンは、イオンを2つの量子基底状態のうちの1つに決定論的に移すレーザを使用する光ポンピングによって初期化(初期状態に準備)することができる。このプロセスはエントロピーを減少させるため、イオンの内部状態の冷却とみなすことができる。
【0093】
トラップされたイオン間のCNOT動作は、したがってSWAP動作も、フォノンバスを介して実現可能であり、相互作用の強度はフォノンモードの周波数変調によって調整可能である。単体ユニタリ演算子exp(itσ)又はexp(itσ)は、制御された磁気双極子遷移又は制御されたラマン遷移によって実現可能である。このようにして、問題ハミルトニアン、駆動ハミルトニアン、交換ハミルトニアン及び短距離ハミルトニアン(の被加数ハミルトニアン)のユニタリ演算子/伝播関数を実現可能である。
【0094】
イオンベースの量子システムの測定は、蛍光分光法によって行うことができる。そこでは、イオンが2つのスピン状態のいずれかにある場合、イオンは短い寿命で遷移する。その結果、駆動状態にあるイオンは多くの光子を放出するが、他のイオンは暗いままになる。放出された光子は、市販のCCDカメラで記録できる。ブロッホ球上の任意の方向の測定は、蛍光分光法に先立って適切な単一キュービットパルスによって行われる。
【0095】
更に別の代替として、量子システムは、レーザフィールドから光格子又は大きな間隔の格子にトラップされた超低温原子、例えば超低温の中性アルカリ原子を使用して実現されてもよい。前記原子は、レーザ冷却を使用して、基底状態に向かって発展可能である。キュービットの量子基底状態は、原子の基底状態と高位のリュードベリ状態とによって形成可能である。キュービットはレーザ光によって対処可能である。
【0096】
問題ハミルトニアンや駆動ハミルトニアンなどの単体ハミルトニアンは、レーザ周波数に対する電子遷移周波数の離調の変化によって実現される。
【0097】
中性原子で実現されるキュービット間の交換相互作用は、共通の集合状態に結合することによって実施される。原子間の交換相互作用は、原子がリュードベリ状態に励起されると誘発可能であり、そのような2つのリュードベリ原子間で双極子間相互作用が発生する。ホッピング項、したがって交換ハミルトニアンは、この方法で実施可能である。
【0098】
キュービット間の制約ハミルトニアンを実現するための相互作用は、d個の原子を励起するレーザの離調によって制御可能である。この場合、ハミルトニアンはd体ハミルトニアンである。制約ハミルトニアン、つまり短距離ハミルトニアンは、d体相互作用から、または2体相互作用を有する補助キュービットから実施され得る。
【0099】
初期状態は、基底状態にある原子を大きな離調を伴ってリュードベリ状態に励起することによって準備され得る。
【0100】
リュードベリ原子間のCNOT演算は、したがってSWAP演算も、高励起状態への離調を伴うレーザで原子遷移を駆動することによって実施可能である。単体ユニタリ演算子exp(itσ)又はexp(itσ)は、リュードベリ遷移の離調レーザ駆動で実施可能である。したがって、問題ハミルトニアン、駆動ハミルトニアン、交換ハミルトニアン及び短距離ハミルトニアン(の被加数ハミルトニアン)のユニタリ演算子/伝播関数を実施可能である。
【0101】
キュービットは、基底状態原子の選択的スイープ及びシングルサイト解像度での蛍光イメージングを実行することによって測定可能である。
【0102】
更に別の代替として、量子システムは、量子ドットを用いて実現されてもよい。量子ドットキュービットは、GaAs/AlGaAsヘテロ構造から製造し得る。キュービットはスピン状態でコード化されており、これはポテンシャルを単一井戸から二重井戸ポテンシャルに断熱的に調整することによって準備し得る。
【0103】
問題ハミルトニアンや駆動ハミルトニアンなどの単体ハミルトニアンは、電場を用いて実現可能である。初期状態では、各キュービットは、|0>又は|1>の状態で準備される。これは、強力な追加磁場を使用して単一井戸から二重井戸に断熱的に切り替えることによって実施される。
【0104】
交換相互作用は、追加の磁場によって調整されるスピン軌道結合を介して媒介される。
【0105】
2つのキュービット間の相互作用は、電場勾配及び磁場によって制御可能である。制約ハミルトニアンは、追加の補助キュービットと、補助キュービットを含むメッシュ(「プラケット」)の(第1)セルの全ての対に作用するパルスシーケンス及び磁場で実現される相互作用とを使用することによって実現され得る。このようにして、制約ハミルトニアンの総和としての短距離ハミルトニアンを実施可能である。
【0106】
量子ドット間のCNOT演算は、したがってSWAP演算も、電場又は磁場勾配によって実現可能である。単体ユニタリ演算子exp(itσ)又はexp(itσ)は、電気パルスシーケンス及び磁場を使用して実現可能である。したがって、問題ハミルトニアン、駆動ハミルトニアン、交換ハミルトニアン及び短距離ハミルトニアン(の被加数ハミルトニアン)のユニタリ演算子/伝播関数を実施可能である。
【0107】
量子ドットキュービットは、急速な断熱通過によってパルスシーケンスから読み出すことができる。
【0108】
更に別の代替として、量子システムは、ダイヤモンド結晶の点欠陥であるNVセンターなどの固体結晶中の不純物を用いて実現し得る。他の不純物、例えば、クロム不純物に関連する色中心、固体結晶内の希土類イオン、又は、炭化ケイ素の欠陥中心が使用される可能性がある。NVセンターは、2つの不対電子を有し、スピン1の基底状態を提供する。これにより、おそらく周囲の核スピンと組み合わせてキュービットを実現するために使用できる、長寿命を有する2つの鋭い欠陥準位の識別が可能になる。
【0109】
マイクロ波パルスの印加による磁気共鳴を使用すると、キュービット状態をナノ秒の時間スケールでコヒーレントに操作することができる。選択的な単一キュービット操作は、近くの核スピンの状態を条件として達成することもできる。
【0110】
結晶欠陥(すなわち、NVセンター及びシリコン量子コンピュータ)内で実現されるキュービット間の交換相互作用は、欠陥の双極子間相互作用を介して媒介され得る。キュービットは、結晶に欠陥をドーピングすることにより自由電子のスピンにコード化される。交換ハミルトニアンを実現するためのキュービット間の交換相互作用は、電子及び結晶によって形成される双極子間相互作用を制御することで誘起可能である。
【0111】
短距離ハミルトニアンを実現するためのNVセンター間の相互作用は、NVセンターを光場に結合することによって伝達可能である。
【0112】
NVセンターを用いて実現される量子システムの場合、NVセンターは、標準的な光学共焦点顕微鏡技術を使用することによって個別に対処され得る。初期化(初期状態の準備)及び測定は、非共鳴又は共鳴光励起によって実行可能である。
【0113】
単一キュービット演算は、核スピンを電子スピンに結合し、電子スピンをマイクロ波駆動することによって実施される。交換相互作用は、スピン電子の磁気双極子間相互作用によって媒介される。キュービットは、NVセンターの核スピンでコード化され得る。交換相互作用は、超微細結合を介した核スピン状態と電子スピン状態との結合によって実施される。電子スピンは、双極子間相互作用を介して相互作用する。電子状態間の相互作用の後、スピンは核スピンと結合する。これにより、長寿命の核スピン間の効果的な相互作用が実施される。SWAP演算は、特定の時間の交換ハミルトニアンを適用することによって実施される。CNOTゲートは、2つの核スピンを2つの電子スピンに結合し、電子スピンをマイクロ波駆動することによって実施される。
【0114】
量子演算制御レイアウト
【0115】
本明細書では、1つ以上の副条件の影響を受ける計算問題の解を提供可能な量子計算を実行する方法について説明する。このような計算問題は、前述の[数2]に示すスピンモデルハミルトニアンを用いてスピンモデルにマッピングできることが知られている。計算問題の副条件は、同じマッピングの下でスピンモデルの副条件にマッピングし得る(また、何らかの標準形式にすることもできる)。次に、前述の[数10]に示す形式を有するr個の側条件(r=1,2,3,4,・・・)が存在し得る。本方法は、スピンモデルを(又は、計算問題を直接)、量子システムの構成要素に作用する単体問題ハミルトニアンにコード化し得る。ここで、問題ハミルトニアンの各単体被加数ハミルトニアンは、スピンモデル内の被加数(相互作用項)の1つに対応し得る。スピンモデルのr個の副条件は、同じマッピングによって量子システムのr個の副条件にマッピングされ得る。制約ハミルトニアン、つまり短距離ハミルトニアンの被加数ハミルトニアンは、量子システムがスピンモデルの自由度を超えて有する量子システムの自由度を減らすことで、スピンモデルとの整合性を確保する。
【0116】
量子システムの構成要素は、本明細書に記載の方法において第1部分と第2部分に分割し得る。構成要素の第1部分は、量子システムのr個の副条件によって影響を受ける構成要素を含み、構成要素の第2部分は、量子システムのr個の副条件によって影響を受けない構成要素を含む。ハミルトニアンダイナミクスは、リアルタイムのアナログ量子計算(断熱量子計算など)の形式であっても、量子ゲートの適用によるデジタル量子計算の形式であっても、量子計算に参加する全ての構成要素に作用する問題ハミルトニアンと、第1部分及び第2部分の双方の構成要素に作用する短距離ハミルトニアンとを含むハミルトニアンによって支配される。少なくとも1つの制約ハミルトニアンは、短距離ハミルトニアンの被加数ハミルトニアンとして、第1部分及び第2部分の双方の構成要素に作用し得る。対照的に、駆動ハミルトニアンは第2部分の構成要素にのみ作用し、交換ハミルトニアンは第1部分の構成要素にのみ作用する。本明細書に記載のように、副条件を伴う計算問題の解は、第1部分の、第2部分の、又は、第1部分及び第2部分の双方の構成要素に作用するこのハミルトニアンの設計を使用する量子計算によって計算可能である。ここで、これらのハミルトニアンによって引き起こされるダイナミクスは、r個の副条件との互換性を維持する(つまり、量子システムは、r個の副条件と互換性のある初期状態で開始されるとき、r個の副条件と互換性のある量子状態に留まる)。ここで、短距離ハミルトニアンの制約ハミルトニアンは非局所的であり(つまり、それらは複数の構成要素に作用する)、交換ハミルトニアンのホッピング項は非局所的である。
【0117】
PCT/EP2020/069416には、量子演算制御レイアウト、並びにそれを決定及び使用する方法及びシステムについて記載されている。量子演算制御レイアウトを量子処理ユニットにロードして、量子計算の量子演算を制御できる。量子演算制御レイアウトは、量子計算を実行する方法における量子計算のための制御プログラムとみなすことができる。量子演算制御レイアウトは、量子計算中に量子システムの構成要素が占めるレイアウト頂点を示すことができる。量子演算制御レイアウトは、量子計算中にレイアウト頂点の各セットのレイアウト頂点間で実行される相互作用(非局所的相互作用)を示すレイアウト頂点のセットを更に示す。具体的には、レイアウト頂点の各セットは、量子処理ユニットに、そのレイアウト頂点のセットのレイアウト頂点に対応する構成要素に制約ハミルトニアンを作用させ得る。局所的相互作用は個々の構成要素で発生するため、特にPCT/EP2020/069416では1つの単体ハミルトニアン、つまり問題ハミルトニアンのみを考慮しているため、レイアウト頂点によって自動的に示される。
【0118】
量子演算制御レイアウトは、メッシュマッピングによって決定することができる。そこでは、計算問題がマッピングされるスピンモデルのスピンをハイパーグラフのノードに抽象化し、スピンモデル内の相互作用をそのハイパーグラフのハイパーエッジに抽象化し得る。メッシュマッピングは、スピンモデルの自由度と、量子演算制御レイアウトのレイアウト頂点に沿って構成要素が配置される量子システムの自由度との間の一貫性を確保するために構築される。この目的のために、ハイパーグラフ(又は拡大されたハイパーグラフ)の一般化されたサイクルのセットの制約サブセットが決定される。制約サブセットの一般化されたサイクルは、レイアウト頂点セットにマッピングされる。各レイアウト頂点セットのレイアウト頂点はメッシュの1つのセル内にある。このマッピングは、スピンモデルの自由度と量子システムの自由度との前記一貫性を提供する。さらに、本明細書に既に記載したように、メッシュのセルはメッシュの頂点間の近さ関係を記述する。このようにして、そのレイアウト頂点のセットのレイアウト頂点に対応する構成要素に作用する各制約ハミルトニアンは、量子計算中に可能な(短距離)相互作用によって実現可能である。メッシュ、頂点、セル、セルの頂点数、最大頂点数、ノード、ハイパーエッジ、ハイパーグラフ、拡大されたハイパーグラフ、一般化されたサイクル(規則的及び不規則の双方)、一般化されたサイクルの制約サブセット、レイアウト頂点、レイアウト頂点セットの概念は、本明細書で変更しない限り、PCT/EP2020/069416と同様に理解する必要がある。
【0119】
量子演算制御レイアウトの拡張及び量子演算制御レイアウトを決定する方法は、本明細書に記載の異なるハミルトニアン及びダイナミクスを扱うために提供される。交換ハミルトニアンのホッピング項は、形式が変化しない制約ハミルトニアンと同様に、非局所的相互作用を意味する。量子計算中に交換ハミルトニアンを実現できるように、交換ハミルトニアン又はその被加数ハミルトニアンが作用する構成要素間に何らかの近さ関係を特定することができ、この近さ関係は、制約ハミルトニアンに関連して特定された近さ関係から逸脱する可能性がある。
【0120】
量子計算中に構成要素を配置可能な箇所と、量子計算中に構成要素間でどのような量子相互作用が可能であるかを示すセルとを抽象的に記述するメッシュが、第1セルと第2セルとを含むようになっている。第1セルは、前述のセルに対応し、量子計算中に第1量子相互作用、特に短距離ハミルトニアンの制約ハミルトニアンに従った量子相互作用が可能であることを示す。第2セルは、量子計算中に第2量子相互作用、特に交換ハミルトニアンのホッピング項に従った量子相互作用が可能であることを示す。第1セルは第1種類であり得る。第2セルは第2種類であり得る。第1種類のセルは、第2種類のセルとは異なっていてもよい。このようにして、異なる非局所的相互作用を実現するための潜在的に異なる近さ関係を記述することができる。第1セル及び第2セルの種類、第1セルの形状及び/又はサイズ、並びに、第2セルの形状及び/又はサイズは、量子計算が実行される具体的な量子システムに依存し得る。したがって、メッシュには、量子システムの物理的特性に関する情報が含まれ得る。PCT/EP2020/069416のメッシュのセルに関する特性は、メッシュの第1セルの特性に移行する。
【0121】
PCT/EP2020/069416に記載されているように、計算問題をマッピングできるスピンモデルのスピン及び相互作用項は、それぞれハイパーグラフのノード及びハイパーエッジとして特定可能である。スピンモデルのr個の副条件は、r個の固定ハイパーグラフ関係として表現できる。ハイパーグラフ関係は、ハイパーグラフのセットとして理解する必要がある。各固定ハイパーグラフ関係は、副条件の影響を受けるスピンモデルの相互作用項を表すハイパーエッジを含み、「固定」という用語は副条件との接続を表す。例えば、副条件σ (1)σ (2)+σ (2)σ (3)+σ (3)σ (4)=1を有する、以下の[数36]のスピンモデルの基本的な例をもう一度考える。
【数36】

このスピンモデルを表すハイパーグラフは、({1,2,3,4,5,6},{{1,2},{1,3},{1,4},{2,3},{2,4},{3,4}})であり、この例ではハイパーグラフはグラフであり、副条件はハイパーグラフのノード1、2、3、4の間の固定ハイパーグラフ関係{{1,2},{2,3},{3,4}}で表すことができる。更に、係数Jijは、ハイパーエッジの重みの形式(重み付きハイパーグラフ)で記憶され得る。固定ハイパーグラフ関係と副条件の係数c(この例では1)とを含む対を形成して、係数cに関する情報を保存することができる。個々のスピン(ハイパーグラフのノード)の副条件は、PCT/EP2020/069416に記載されているように、不規則な一般化されたサイクルによって処理できるため、固定ハイパーグラフ関係は、それぞれハイパーグラフの少なくとも2つのハイパーエッジを含み得る。
【0122】
固定ハイパーグラフ関係のハイパーエッジは、メッシュの頂点にマッピングされ、各固定ハイパーグラフ関係のハイパーエッジは、メッシュの第2セルの1つにマッピングされる。ハイパーグラフ(又は、PCT/EP2020/069416に記載されている拡大されたハイパーグラフ)のハイパーエッジは、メッシュの頂点にマッピングされる。一般化されたサイクルのセットの制約サブセットの各一般化されたサイクルは、メッシュの第1セルの1つにマッピングされたハイパーエッジで構成される。したがって、メッシュマッピングは、副条件によって課せられる固定ハイパーエッジ関係と、量子システムとスピンモデルとを一貫させる制約サブセットの一般化されたサイクルとの双方を尊重する。ハイパーエッジがマッピングされる頂点は、量子演算制御レイアウトのレイアウト頂点になる。第1レイアウト頂点セット及び第2レイアウト頂点セットは、何らかのフォーマット化されたデータによって表される、量子演算制御レイアウトに含めることができる。各第1レイアウト頂点セットは、メッシュの第1セルのうちの1つ内のレイアウト頂点で構成され、これらのレイアウト頂点は、一般化されたサイクルの制約サブセットの一般化されたサイクルに対応する。各第2レイアウト頂点セットは、メッシュの第2セルのうちの1つ内のレイアウト頂点で構成され、これらのレイアウト頂点は、1つ以上の固定ハイパーエッジ関係のセットの固定ハイパーエッジ関係に対応する。
【0123】
図6は、本明細書に記載の基本的な例を継続する、例示的な量子演算制御レイアウトのグラフィック表現を示す。量子演算制御レイアウト300には、参照符号310、320、330、340、350及び360で示されるレイアウト頂点のセット{12,13,14,23,24,34}が含まれる。量子演算制御レイアウトには、制約サブセットの一般化されたサイクル(ここでは、ハイパーエッジ内の要素として含まれる各ノード1、2、3が、結合された3つの全てのハイパーエッジ内の要素として偶数回出現する、規則的な一般化されたサイクル{{1,2},{1,3},{2,3}}などの規則的な一般化されたサイクル)に対応する第1レイアウト頂点セット{12,13,23}、{13,14,23,24}、{23,24,34}が含まれる。第1レイアウト頂点セットは実線で示され、参照符号392、394及び396が与えられる。各第1レイアウト頂点セットのレイアウト頂点は、メッシュの第1セル(例えば、矩形の第1セル、図示せず)内に含まれる。量子演算制御レイアウトには、スピンモデル/計算問題の副条件に関連付けられた固定ハイパーエッジ関係に対応する第2レイアウト頂点セット{12,23,34}が含まれる。第2レイアウト頂点セットは破線で示され、参照符号380が与えられる。第2レイアウト頂点セットのレイアウト頂点は、メッシュの第2セル(図示せず)の1つに含まれる。この例では、第2セルは第1セルとは異なる種類である。
【0124】
図6に示す量子演算制御レイアウト300は、量子計算装置の量子処理ユニットにロードされると、量子処理ユニットに図1に示すようなアナログ量子計算を実行させることができる。例えば、アナログ量子計算の場合、量子操作制御レイアウト300は、量子処理ユニットに、第2レイアウト頂点セット380から、どのレイアウト頂点がその中に含まれるか、この場合はレイアウト頂点310、340及び360を決定させることができる。第2レイアウト頂点セットのレイアウト頂点310、340及び360の箇所上に配置された構成要素110、140及び160は、構成要素の第1部分を形成することができ、初期状態が副条件と互換性があるように量子状態で準備され得る。交換ハミルトニアンは、交換ハミルトニアンの一次ホッピング項182及び184などのこれらの構成要素に作用し得る。量子処理ユニットは、全てのレイアウト頂点を決定し、第2レイアウト頂点セット380に含まれるレイアウト頂点を減算することによって、レイアウト頂点320、330及び330のレイアウト頂点セットを導出し得る。レイアウト頂点320、330及び350の箇所に配置された構成要素120、130及び150は、構成要素の第2部分を形成することができ、駆動ハミルトニアンはこれらの構成要素に作用し得る。更に、第1レイアウト頂点セット392、394及び396に対応する制約ハミルトニアン192、194及び196は、短距離ハミルトニアンの作用として量子処理ユニットによって適用され得る。量子処理ユニットは、問題ハミルトニアンの被加数ハミルトニアンを、量子演算制御レイアウト300のレイアウト頂点310、320、330、340、350及び360が示す箇所に配置された全ての構成要素110、120、130、140、150及び160に適用することができる。同様に、量子演算制御レイアウトは、図5に示すように、量子処理ユニットにデジタル量子計算を実行させることができる。
【0125】
図7は、量子計算システム500によって実行される量子計算を使用して、副条件を伴う計算問題412を解くためのシステム400を示す。図7に示す実施形態では、計算問題412は、第1古典的計算システム410に記憶される。古典的計算システムは、ビット又は他の古典的な情報単位で演算する計算システムを指してもよい。古典的計算システムには、ビットで表される情報を処理するための中央処理装置(CPU)、及び/又は、ビットで表される情報を記憶するためのメモリが含まれ得る。古典的計算システムには、パーソナルコンピュータ(PC)などの1つ以上の従来のコンピュータ、及び/又は、従来のコンピュータのネットワークが含まれ得る。第1古典的計算システム410は、計算問題412を第2古典的計算システム420に送信する(401)。送信、受信、コード化、復号化、記憶、ロード及び他の従来のタスクは、計算問題、ハイパーグラフ、量子演算制御レイアウトなどを表すデータに対して、又は、データを使用して実行される、或いは、これらの実体が導出されるデータに対して、又は、データを使用して実行されることを理解する必要がある。簡単にするために、説明ではそのようなデータへの言及を省略し、「計算問題の送信」、「ハイパーグラフのコード化」、「量子演算制御レイアウトの記憶」などについて述べる。
【0126】
第2古典的計算システム420は、計算問題412をハイパーグラフ及び関連する固定ハイパーエッジ関係にコード化する(422)。ハイパーグラフは対応するスピンモデルに関連付けられ、固定ハイパーエッジ関係はスピンモデルの副条件に関連付けられるため、スピンモデルの副条件と互換性のある最小エネルギー状態を見つける解を計算問題の解に戻すことができる。図7では、ハイパーグラフ203が、第2古典的計算システム420によって生成されたハイパーグラフとして例示的に示されており、1つの固定ハイパーエッジ関係が、太線で概略的に示されている。第2計算システム420は、量子システム上の量子計算のための量子演算制御レイアウトを決定するためのシステム650にハイパーグラフを送信する(402)。システム650は、従来のコンピュータ又は従来のコンピュータのネットワーク、コンピュータクラスタ又はコンピュータクラスタのネットワーク、或いはクラウドコンピューティング環境などの第3古典的計算システムであり得る。システム650は、本明細書に記載の量子計算のための量子演算制御レイアウトを決定する方法を実行するように構成され得る。図7では、システム650は、コンピュータによって実施される方法600を実行し、図示の例では、システム650は、ハイパーグラフ203から量子演算制御レイアウト300を決定するために使用される。
【0127】
コンピュータで実施される方法600は、図8に概略的に示されており、ハイパーグラフのハイパーエッジと、1つの固定ハイパーグラフ関係を有するハイパーグラフ203などの少なくとも1つの固定ハイパーグラフ関係とを提供するステップ610を含む。これには、ネットワークコンポーネントを介してハイパーグラフ及び固定ハイパーグラフ関係を受信すること、及び/又は、メモリからハイパーグラフ及び固定ハイパーグラフ関係をロードすることが含まれ得る。方法600は、本明細書に記載のように、システム650のプロセッサによって、メッシュの特性、特にメッシュの第1セルの最大頂点数を考慮しながら、ハイパーグラフ又は拡大されたハイパーグラフから一般化されたサイクルのセットを決定するステップ620を含む。方法600は、システム650のプロセッサによって、ハイパーグラフ(又は拡大されたハイパーグラフ)のハイパーエッジをメッシュの頂点にマッピングするメッシュマッピングを決定するステップ630を含む。メッシュマッピングは、本明細書に記載のように、一般化されたサイクルのセットの制約サブセットの各一般化されたサイクルが、メッシュの第1セルの1つにマッピングされたハイパーエッジから構成されるように(632)、また、1つ以上の固定ハイパーエッジ関係のセットの各固定ハイパーエッジ関係が、メッシュの第2セルの1つにマッピングされたハイパーエッジから構成されるように(634)、なされる。一般化されたサイクルの決定620は、メッシュマッピングの決定630に先行し得るが、一般化されたサイクルの決定620及びメッシュマッピングの決定630は、特に一般化されたサイクルのマッピング632に関して絡み合う可能性があるため、図8では並べて図示している。方法600は、量子演算制御レイアウト300などの量子演算制御レイアウトを生成するステップ640を含み、生成はシステム650のプロセッサによって実行される。量子演算制御レイアウトは、メッシュのレイアウト頂点310、320、330、340、350、360及び第1レイアウト頂点セット392、394、396を含み、各第1レイアウト頂点セットは、決定620によって決定された一般化されたサイクルの制約サブセットの一般化されたサイクルに対応する、メッシュの第1セルのうちの1つの内のレイアウト頂点から構成される。量子演算制御レイアウトは、第2レイアウト頂点セット、ここではハイパーグラフ203の固定ハイパーエッジ関係に対応する1つの第2レイアウト頂点セット380を含む。本明細書において、「レイアウト頂点を含む量子演算制御レイアウト」などは、レイアウト頂点などを表すデータを含む量子演算制御レイアウトとして理解されるべきであるが、簡単にするために、データ及び適切なデータ構造への参照は省略される。
【0128】
システム650によって決定された量子演算制御レイアウトは、システム650のメモリに記憶され得る。図6及び図7に示す量子演算制御レイアウト300などの量子演算制御レイアウトが第2古典的計算システム420に送信される(403)。第2古典的計算システム420は、量子演算制御レイアウトを量子計算システム500に送信する(404)。したがって、図7では、量子計算システムが量子演算制御レイアウト300を受信したことが示されている。
【0129】
量子演算制御レイアウト300は、量子計算システム500上の量子計算を制御することができる。量子処理ユニット(QPU)520は、入力部510から量子演算制御レイアウト300をロードし(501)、量子システム530のキュービットに対する局所演算、及び、量子演算制御レイアウト300によって特定されるキュービット間の相互作用を制御する(502)。キュービットは、物理的な2レベルの量子システムであり、本明細書に記載の特定の形式で実現し得る。図7では、キュービットが格子、ここでは正方格子に配置されている。量子システム530の構成要素(キュービット)の第1部分に属するキュービット532などのキュービットは、黒円で囲まれた黒点で示されている。量子システム530の構成要素(キュービット)の第2部分に属するキュービット534などのキュービットは、黒点で示されている。箇所536など、格子の他の箇所は円で示されており、これらの他の箇所は、空であるか、量子計算に参加していないキュービットで占められている可能性がある。QPU520が量子演算制御レイアウト300の制御下で量子システム530を初期状態から最終状態に発展させたとき、量子システム530又はその一部のキュービットが測定ユニット540によって測定される(503)。このような測定は読み出しとも呼ばれる。
【0130】
量子計算システム500は、図9に概略的に示すように、量子システム530に対して量子計算を実行する方法700を実行し得る。量子計算は、量子システム530のキュービットに対して実行される。方法700は、QPU520によってその中に含まれる制御命令を実行するための量子演算制御レイアウトをロードすることを含み得る、量子演算制御レイアウトを提供するステップ710を含む。方法700は、メッシュの全てのレイアウト頂点に対してキュービットが存在し、第1レイアウト頂点セットからの各第1レイアウト頂点セットに対して、第1量子相互作用(短距離ハミルトニアンによって決定される相互作用)が、その第1レイアウト頂点セットのレイアウト頂点に対応する構成要素間で可能であり、第2レイアウト頂点セットからの各第2レイアウト頂点セットに対して、第2量子相互作用(交換ハミルトニアンによって決定される相互作用)が、その第2レイアウト頂点セットのレイアウト頂点に対応する構成要素間で可能であるように、量子システムのキュービットを空間配置、例えば2次元格子で提供するステップ720を含む。空間配置でキュービットを提供するステップ720は、例えば2次元格子の空間位置に固定的に配置されたキュービットのセットの適切なキュービットを対処することを含むか、又はそれから構成され得る。方法700は、非ゼロの重みに関連付けられたレイアウト頂点毎に、そのレイアウト頂点に対応するキュービットに局所フィールド(問題ハミルトニアンによって決定される局所演算)を適用するステップ730を含む。方法700は、第2レイアウト頂点セットに含まれないレイアウト頂点毎に、そのレイアウト頂点に対応するキュービットに局所フィールド(駆動ハミルトニアンによって決定される局所演算)を適用するステップ735を含み得る。この局所フィールドが適用されるキュービットは、量子システムの構成要素(キュービット)の第1部分を形成する。方法700は、第1レイアウト頂点セット毎に、その第1レイアウト頂点セットのレイアウト頂点に対応するキュービット間の第1量子相互作用(短距離ハミルトニアンによって決定される非局所演算)を実行するステップ740を含む。方法700は、第2レイアウト頂点セット毎に、その第2レイアウト頂点セットのレイアウト頂点に対応するキュービット間の第2量子相互作用(交換ハミルトニアンによって決定される非局所演算)を実行するステップ745を含む。局所フィールドの適用730、735及び量子相互作用の実行740、745は、量子システムを初期状態から最終状態まで駆動するステップの種類(例えば、断熱駆動、反断熱駆動、ゲートベースの量子相互作用など)に応じた特定の方法及び順序でQPU520によって実行され得る。方法700は、測定ユニット540を使用して、量子システムのキュービットの一部又は全てを測定するステップ750を含む。測定750の結果は、量子計算の結果である。
【0131】
量子計算の測定結果は、第2古典的計算システム420に送信される(405)。第2古典的計算システム420は、測定結果を受信し、測定結果が、ハイパーグラフ203に関連する副条件と互換性のあるスピンモデルの最小エネルギー状態を見つける問題(スピンモデル問題)の解を含むか否かをチェックする(406)、検証ユニット424を含む。イエスの場合、検証ユニット424は、スピンモデル問題の解から副条件を伴う計算問題412の解を計算し、副条件を伴う計算問題412の解を、第1古典的計算システム410に送信する(408)。第1古典的計算システムは、副条件を伴う計算問題の解を受信する。副条件を伴う計算問題の解は、図7において参照符号414で示されている。測定結果がスピンモデル問題の解を含まなかった場合、第2古典的計算システム420は、量子計算を繰り返すように量子処理システム500に指示する(407)。量子計算は、スピンモデル問題の解、したがって最終的に副条件を伴う計算問題412の解が見つかるまで繰り返されてもよいし、所定の有限回数だけ繰り返されてもよく、所定の有限回数の繰り返しで解が見つからない場合、第1古典的計算システムに最良の近似解が送信される。
【0132】
図7に示す実施形態では、計算問題の解を決定するためのシステム400の実施形態、量子システム上の量子計算のための量子演算制御レイアウトを決定するためのシステム650の実施形態、及び、量子システム上で量子計算を実行するための量子計算システム500の実施形態が含まれる。特に、量子演算制御レイアウトの制御下で、機能及びサービスが特定の方法で分散されるように示されている。これは単なる例示であり、古典的計算システム410、420及び/又は量子演算制御レイアウトを決定するためのシステム650の機能のいずれも、それぞれ他のシステムのうちの1つに統合されてもよく、又は量子計算システム500内に統合されてもよい。古典的計算システム410、420の機能、システム650の機能、そして場合によっては入力部510の機能も、エンコーダの機能とみなし得る。エンコーダは、計算問題を量子システムの構成要素の問題ハミルトニアンにコード化するように構成され得る。エンコーダは、計算問題に関連する1つ又は複数の副条件を、量子システムの構成要素の第1部分の交換ハミルトニアンにマッピングするように構成され得る。エンコーダは、古典的計算システム410、420、システム650及び入力部510の一部又は全ての他の機能のいずれかを実行するように構成され得る。ここで、システム650及び量子演算制御レイアウトはオプションである。エンコーダは、量子演算制御レイアウトを使用してもよいし、計算問題及び副条件を直接コード化して、構成要素の第1部分及び第2部分を形成することを含む構成要素の適切な配置を決定してもよい。
【0133】
いくつかの実施形態によれば、量子システム上の量子計算のための量子演算制御レイアウトを決定する方法が提供される。この方法は、コンピュータによって実施される方法であってもよく、古典的コンピュータ、コンピュータネットワーク、又はクラウドベースの計算システム上で実施されてもよい。量子計算は、頂点、第1セル及び第2セルを有するメッシュに沿って配置された量子システムの構成要素に対して実行される。メッシュの頂点は、量子システムの構成要素の可能性のある箇所を表す。第1セルの各セルは、そのセル内に配置された量子システムの構成要素間の第1量子相互作用が量子計算中に可能であることを示す。第2セルの各セルは、量子計算中にそのセル内に配置された量子システムの構成要素間の第2量子相互作用が可能であることを示す。第1量子相互作用は、本明細書に記載のように、制約ハミルトニアンの作用に対応し得る。第2量子相互作用は、本明細書に記載のように、交換ハミルトニアンの被加数ハミルトニアン(一次ホッピング項又はその総和など)の作用に対応し得る。
【0134】
本方法は、ハイパーグラフのハイパーエッジを表すデータと、1つ以上の固定ハイパーエッジ関係のセットを表すデータとを含むデータセットを提供するステップを含む。固定ハイパーエッジ関係には、ハイパーグラフのハイパーエッジのセットが含まれる。固定ハイパーエッジ関係には、ハイパーグラフの少なくとも2つのハイパーエッジのセットが含まれ得る。本方法は、一般化されたサイクルのセットを決定するステップを含み、一般化されたサイクルは、ハイパーグラフのハイパーエッジを含むか、又は、拡大されたハイパーグラフのハイパーエッジを含み、拡大されたハイパーグラフは、少なくともハイパーグラフのハイパーエッジ及び追加のハイパーエッジを含む。ここで、一般化されたサイクルのセットの一般化されたサイクルの最大長は、メッシュの第1セルの最大頂点数を超えない。本方法は、ハイパーグラフ又は拡大されたハイパーグラフのハイパーエッジを表すデータをメッシュの頂点にマッピングするメッシュマッピングを決定するステップを含み、一般化されたサイクルのセットの制約サブセットの各一般化されたサイクルは、メッシュの第1セルのセルにマッピングされたハイパーエッジからなり、1つ以上の固定ハイパーエッジ関係のセットの各固定ハイパーエッジ関係は、メッシュの第2セルのセルにマッピングされたハイパーエッジからなる。
【0135】
本方法は、量子演算制御レイアウトを生成するステップを含む。量子演算制御レイアウトには、メッシュのレイアウト頂点を示すデータが含まれる。各レイアウト頂点は、メッシュマッピングに従ってマッピングされたハイパーエッジに対応し、第1レイアウト頂点セットを示すデータを含み、各第1レイアウト頂点セットは、一般化されたサイクルの制約サブセットの一般化されたサイクルに対応するメッシュの第1セルのセル内のレイアウト頂点からなる。また、各レイアウト頂点は、1つ以上の第2レイアウト頂点セットを示すデータを含み、各第2レイアウト頂点セットは、1つ以上の固定ハイパーエッジ関係のセットの固定ハイパーエッジ関係に対応するメッシュの第2セルのセル内のレイアウト頂点からなる。ここで、メッシュマッピングを決定するステップは、ハイパーグラフ又は拡大されたハイパーグラフのハイパーエッジを表すデータをメッシュの頂点にマッピングするときに、各固定ハイパーエッジ関係を一般化されたサイクルよりも優先して考慮することを含み得る。
【0136】
メッシュは2次元であり得る。一般化されたサイクルのセットの一般化されたサイクルの長さは、2(又は3)からメッシュのセルの最大頂点数までの範囲内であるか、メッシュのセルの最大頂点数に等しい場合がある。ハイパーグラフのノードの数はNであり、ハイパーグラフのハイパーエッジの数はKであり、制約サブセットの基数は少なくともK-Nであり得る。ハイパーグラフのハイパーエッジの数Kは、N(N-1)/2より小さくてもよい。ハイパーグラフのハイパーエッジは重みに関連付けられてもよい。量子演算制御レイアウトは、レイアウト頂点を、メッシュマッピングによってレイアウト頂点にマッピングされるハイパーグラフ又は拡大されたハイパーグラフのハイパーエッジの重みと関連付けるデータを含み得る。ハイパーグラフに含まれない拡大されたハイパーグラフの追加のハイパーエッジには、ゼロの重みを割り当ててもよい。量子演算制御レイアウトは、透過的な量子演算制御レイアウトであってもよい。一般化されたサイクルの制約サブセットの一般化されたサイクルの和集合には、ハイパーグラフ又は拡大されたハイパーグラフの全てのハイパーエッジが含まれ得る。一般化されたサイクルの制約サブセットの一般化されたサイクルは、ハイパーグラフ又は拡大されたハイパーグラフの全てのハイパーエッジを接続し得る。ハイパーグラフの少なくとも1つのハイパーエッジの基数は奇数であり得る。ハイパーグラフの少なくとも1つのハイパーエッジの基数は少なくとも3であり得る。制約サブセットは、規則的な一般化されたサイクル及び不規則な一般化されたサイクルのうちの少なくとも1つを含み得る。メッシュマッピングは、第1固定ハイパーエッジ関係のハイパーエッジをメッシュの第2セルの1つの頂点にマッピングすることによって構築され得る。この構築には、第2固定ハイパーエッジ関係のハイパーエッジをメッシュの第2セルの別の頂点にマッピングすることが含まれ得る。この構築には、r番目の固定ハイパーエッジ関係までの、3番目、4番目などの固定ハイパーエッジ関係に対して同じことを行うことが含まれ得る。メッシュマッピングは、更に、一般化されたサイクルのセットの第1の一般化されたサイクルのハイパーエッジをメッシュのセルの頂点にマッピングすることによって構築され得る。この構築には、一般化されたサイクルのセットの第2の一般化されたサイクルのハイパーエッジをメッシュの隣接セルの頂点にマッピングすることが含まれ得る。第1の一般化されたサイクル及び第2の一般化されたサイクルは、共通する少なくとも1つのハイパーエッジを有し得る。少なくとも1つのハイパーエッジは、メッシュの対応する少なくとも1つの頂点上にマッピングされる。一般化されたサイクルのセットの一般化されたサイクルのハイパーエッジをマッピングするこのプロセスは、マッピングされた一般化されたサイクルが制約サブセットを形成するまで繰り返すことができる。この方法は、PCT/EP2020/069416に記載されている、特に参照される段落[0101]~[0128]などに記載されている特徴のいずれかを、場合によっては本明細書に記載のような修正を加えて含み得る。
【0137】
更なる実施形態によれば、量子システム上で量子計算を制御するための量子演算制御レイアウトが提供される。量子計算は、メッシュに沿って配置された量子システムの構成要素に対して実行される。メッシュは、頂点、第1セル及び第2セルを有する。メッシュの頂点は、量子システムの構成要素の可能性のある箇所を表す。メッシュの第1セルの各セルは、そのセル内に配置された量子システムの構成要素間の第1量子相互作用が量子計算中に可能であることを示す。メッシュの第2セルの各セルは、そのセルに配置された量子システムの構成要素間の第2量子相互作用が量子計算中に可能であることを示す。第1量子相互作用は、第2量子相互作用とは異なる場合がある。第1量子相互作用は、本明細書に記載のように、制約ハミルトニアンの作用に対応し得る。第2量子相互作用は、本明細書に記載のように、交換ハミルトニアンの被加数ハミルトニアン(一次ホッピング項又はその総和など)の作用に対応し得る。量子演算制御レイアウトは、メッシュのレイアウト頂点を示すデータ、各第1レイアウト頂点セットがメッシュの第1セル内のレイアウト頂点からなる第1レイアウト頂点セットを示すデータ、及び、各第2レイアウト頂点セットがメッシュの第2セル内のレイアウト頂点からなる1つ以上の第2レイアウト頂点セットを示すデータを含む。
【0138】
量子演算制御レイアウトは、レイアウト頂点に関連付けられた重みを表すデータを含み得る。量子演算制御レイアウトは、各第2レイアウト頂点セットについて、その第2レイアウト頂点セットに関連付けられた係数を表すデータを含み得る。レイアウト頂点は、メッシュマッピングに従ってレイアウト頂点にマッピングされたハイパーグラフ又は拡大されたハイパーグラフのハイパーエッジに対応し得る。その中で、各第1レイアウト頂点セットのレイアウト頂点は、ハイパーグラフ又は拡大されたハイパーグラフの一般化されたサイクルを形成するハイパーエッジに対応し、各第2レイアウト頂点セットのレイアウト頂点は、固定ハイパーエッジ関係に対応し得る。固定ハイパーエッジ関係には、ハイパーグラフのハイパーエッジのセットが含まれ得る。レイアウト頂点に関連付けられた重みは、メッシュマッピングによってレイアウト頂点にマッピングされたハイパーグラフ又は拡大されたハイパーグラフの重みに対応し得る。第2レイアウト頂点セット毎に、第2レイアウト頂点セットに関連付けられた係数は、1つ以上のハイパーエッジ関係のセットの固定ハイパーエッジ関係の係数に対応し得る。量子演算制御レイアウトは、本明細書に記載の量子演算制御レイアウトを決定する方法によって付与される任意の特徴を含み得る。また、量子演算制御レイアウトは、PCT/EP2020/069416に記載されている、特に参照される段落[0129]~[0131]などに記載されている特徴のいずれかを、場合によっては本明細書に記載のような修正を加えて含み得る。
【0139】
更なる実施形態によれば、量子システム上で量子計算を実行する方法が提供される。量子計算は、量子システムの構成要素に対して実行される。本方法は、本明細書に記載の量子演算制御レイアウトを提供することを含む。本方法は、メッシュのレイアウト頂点毎に構成要素が存在するように、量子システムの構成要素を空間配置で提供することを含む。そこでは、各第1レイアウト頂点セットについて、その第1レイアウト頂点セットのレイアウト頂点に対応する構成要素間で第1量子相互作用が可能であり、各第2レイアウト頂点セットについて、その第2レイアウト頂点セットのレイアウト頂点に対応する構成要素間で第2量子相互作用が可能である。第1量子相互作用は、第2量子相互作用とは異なる場合がある。本方法は、非ゼロの重みに関連付けられたレイアウト頂点毎に、そのレイアウト頂点に対応する構成要素に局所フィールドを適用するステップを含む。局所フィールドの種類は問題ハミルトニアンによって決定することができ、局所フィールドの強度は非ゼロの重みによって決定することができる。本方法は、第1レイアウト頂点セット毎に、その第1レイアウト頂点セットのレイアウト頂点に対応する構成要素間で第1量子相互作用を実行するステップを含む。本方法は、第2レイアウト頂点セット毎に、その第2レイアウト頂点セットのレイアウト頂点に対応する構成要素間で第2量子相互作用を実行するステップを含む。第1量子相互作用は、本明細書に記載のように、制約ハミルトニアンの作用に対応し得る。第2量子相互作用は、本明細書に記載のように、交換ハミルトニアンの被加数ハミルトニアン(一次ホッピング項又はその総和など)の作用に対応し得る。本方法には、量子システムの構成要素の一部又は全てを測定するステップが含まれる。本方法は、量子演算制御レイアウトに関して、本明細書に記載の量子演算制御レイアウトを決定する方法によって付与される特徴のいずれかを含み得る。また、本方法は、アナログ又はデジタルの量子計算(ハミルトニアン及び他の特徴)に関しては、量子計算の実行に関連して本明細書に記載されている特徴のいずれかを含み得る。本方法は、PCT/EP2020/069416に記載されている特徴のいずれかを、場合によっては本明細書に記載のような修正を加えて更に含み得る。
【0140】
更なる実施形態によれば、計算問題を解くための方法が提供される。計算問題は、古典的な計算問題、例えば、NP困難問題又はNP完全計算問題であり得る。本方法は、計算問題をハイパーグラフにコード化するステップを含み得る。本方法は、本明細書に記載のように、計算問題に関連する1つ以上の副条件を1つ以上の固定ハイパーグラフ関係にコード化するステップを含み得る。ハイパーグラフは、ハイパーグラフのノードがスピンモデルのスピンに対応し、ハイパーエッジがスピンモデルのスピン間の相互作用に対応するという点で、スピンモデルに関連付けることができる。固定ハイパーグラフ関係は、スピンモデルのスピン間の相互作用に関する1つ以上の副条件に対応し得る。1つ以上の副条件と互換性のあるスピンモデルの最小エネルギー状態を見つけることは、計算問題の解を見つけることと同じであり得る。本方法は、本明細書に記載のように、ハイパーグラフに基づいて量子演算制御レイアウトを取得又は決定/生成するステップを更に含み得る。計算問題を解く方法には、本明細書に記載の量子演算制御レイアウトを決定する方法が含まれ得る。本方法は、量子演算制御レイアウトによって制御される量子計算を実行するステップを含み得る。計算問題を解く方法には、本明細書に記載の量子計算を実行する方法が含まれ得る。計算問題を解く方法には、量子計算の測定結果(読み出し)を試行解として取得し、試行解が計算問題の解であるか否かを判定することが含まれ得る。試行解が計算問題の解でない場合、本方法は、解が見つかるまで量子計算の実行を繰り返すこと、又は、量子計算の実行を有限回繰り返し、最良の試行解を計算問題の近似解として選択することを含み得る。計算問題を解く方法は、本明細書に記載の古典的計算システム及び量子計算システム、又は、PCT/EP2020/069416に記載の、特に参照することにより組み込まれる段落[0087]~[0098]及び図20及び図21に記載の、古典的計算システム及び量子計算システムによって実行され得る。
【0141】
更なる実施形態によれば、量子演算制御レイアウトを決定するためのシステムが提供される。このシステムは、古典的な計算システムであってもよく、処理ユニット/プロセッサ及びメモリを含んでもよい。量子演算制御レイアウトを決定するためのシステムは、本明細書に記載の実施形態に係る量子演算制御レイアウトを決定する方法を実行するように構成され得る。システムの構成要素は、本明細書に記載のように、本方法の個々の特徴を実行するように構成され得る。更に、量子計算を実行するためのシステムが提供される。量子計算を実行するためのシステムは、量子処理システムであってもよく、量子処理ユニット、測定ユニット、及び、本明細書に記載の任意の他の構成要素を含んでもよい。このシステム及びその構成要素は、本明細書に記載の実施形態に係る量子計算を実行するための方法又はこの方法の個々の特徴を実行するように構成され得る。量子計算を実行するためのシステムは、量子演算制御レイアウトがシステムのメモリにロードされるとき、及び/又は、量子処理ユニットによって処理されるときに、本明細書に記載の量子演算制御レイアウトの制御下で量子計算を実行するように構成され得る。一つの実施形態は、本明細書に記載の実施形態に係る量子演算制御レイアウトを対象とし、量子計算を実行するためのシステムによって制御プログラムとして実行されると、このシステムに本明細書に記載の量子計算を実行する方法を実行させる。更に、計算問題を解くためのシステムが提供される。このシステムは、計算問題をハイパーグラフにコード化し、量子演算制御レイアウトを決定し、量子計算の測定結果が計算問題の解を含むか否かを決定するための少なくとも1つの古典的計算システムを含み得る。また、このシステムは、量子演算制御レイアウトによって制御される量子システム上で量子計算を実行するための量子計算システムを含み得る。計算問題を解くためのシステム及びその構成要素は、本明細書に記載のように、計算問題を解くための方法及びその方法の個々の特徴を実行するように構成され得る。更なる実施形態は、本明細書に記載の実施形態に係る量子演算制御レイアウトを決定する方法を実行するための量子演算制御レイアウトを決定するためのシステムの使用、本明細書に記載の量子計算を実行する方法を実行するために量子システム上で量子計算を実行するためのシステムの使用、及び、本明細書に記載の計算問題を解く方法を実行するための計算問題を解くためのシステムの使用を対象とする。
【0142】
更なる実施形態によれば、量子計算を実行する方法が提供される。本方法は、断熱量子計算(量子アニーリング)を実行する方法であり得る。本方法は、量子システムを初期時間の初期状態から最終時間の最終状態まで発展させるステップを含む。発展は中間ハミルトニアンに従っている。中間ハミルトニアンは、初期時間の初期ハミルトニアンと最終時間の最終ハミルトニアンとの間を補間することができ、初期ハミルトニアンと最終ハミルトニアンとは異なる。中間ハミルトニアンは、初期時間と最終時間との間の第1時間に縮退した基底状態を有する。中間ハミルトニアンは、最終時間に非縮退の基底状態を有し得る。中間ハミルトニアンは、初期時間に非縮退の基底状態を有し得る。中間ハミルトニアンは、第1時間以外のいくつかの時間又は全ての時間に、特に第1時間の前後の時間間隔(あるεについての時間間隔[tfirst-ε,tfirst+ε])内の時間に、非縮退の基底状態を有し得る。第1時間における量子システムの量子状態は、中間ハミルトニアンの縮退した基底状態又はその近似である。第1時間よりも後の時間での量子状態は、中間ハミルトニアンの基底状態又は励起状態の何れか、或いはその一方又は他方の何れかの近似である。中間ハミルトニアンによって引き起こされる量子システムの発展のダイナミクスは、後の時間において量子システムが、基底状態にあるのか又は励起状態にあるのか、或いはその一方又は他方の何れかの近似にあるのかを決定する。最終状態は、最終時間における中間ハミルトニアンの励起状態(最終ハミルトニアンの励起状態)であり得る。量子システムの発展は、中間ハミルトニアンによって引き起こされる量子システムの構成要素の相互作用によるものであり得る。ここで、中間ハミルトニアンは、本明細書に記載のように、初期ハミルトニアン、最終ハミルトニアン、交換ハミルトニアン、駆動ハミルトニアンの時間依存性重み付き総和であり得る。ここで、最終ハミルトニアンは、本明細書に記載の問題ハミルトニアンと短距離ハミルトニアンとの総和であり得る。本方法は、本明細書に記載の他の実施形態に係る量子計算を実行する方法の特徴を含み得る。
【0143】
上記は実施形態に関するものであるが、特許請求の範囲によって決定される範囲から逸脱することなく、他の更なる実施形態を考案することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9