(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-23
(45)【発行日】2025-01-31
(54)【発明の名称】ヒートシンクの製造方法、及び、ヒートシンク
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20250124BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20250124BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20250124BHJP
B33Y 50/00 20150101ALI20250124BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20250124BHJP
G06F 30/20 20200101ALI20250124BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20250124BHJP
G06F 30/23 20200101ALI20250124BHJP
G06F 113/10 20200101ALN20250124BHJP
【FI】
H01L23/36 Z
H05K7/20 D
B33Y10/00
B33Y50/00
B33Y80/00
G06F30/20
G06F30/10 100
G06F30/23
G06F113:10
(21)【出願番号】P 2021066528
(22)【出願日】2021-04-09
【審査請求日】2024-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】512275916
【氏名又は名称】株式会社エヌ・ティ・ティ・データ・エンジニアリングシステムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100081318
【氏名又は名称】羽切 正治
(74)【代理人】
【識別番号】100132458
【氏名又は名称】仲村 圭代
(74)【代理人】
【識別番号】100165146
【氏名又は名称】小野 博喜
(74)【代理人】
【識別番号】100211281
【氏名又は名称】大木下 香織
(72)【発明者】
【氏名】下山 幸治
(72)【発明者】
【氏名】小宮 敦樹
(72)【発明者】
【氏名】杉原 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】廣川 啓
(72)【発明者】
【氏名】石川 一郎
(72)【発明者】
【氏名】田内 常夫
【審査官】ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0069622(US,A1)
【文献】特開2018-147997(JP,A)
【文献】特表2011-527101(JP,A)
【文献】特開2016-004876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
H05K 7/20
B33Y 10/00
B33Y 50/00
B33Y 80/00
G06F 30/20
G06F 30/10
G06F 30/23
G06F 113/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元配置されたノードの集合をエッジの集合で結んだ3次元構造を有する放熱要素を備えたヒートシンクの製造方法であって、
前記ノードと前記エッジの設計値に基づいて、付加製造で造形できる製造用データを生成する製造用データ生成工程と、
前記製造用データに基づいて、メッシュ構造データを生成し、前記メッシュ構造データと前記製造用データの形状偏差、及び、前記メッシュ構造データ上の所定位置における最大主応力値を算出する造形プロセス解析工程と、
前記造形プロセス解析工程において算出した、前記形状偏差、及び、前記最大主応力値について、前記設計値に対応する前記3次元構造を実現するために設定された、前記形状偏差のための第1所定範囲、及び、前記最大主応力値のための第2所定範囲を超えることで造形不良を引き起こす部位を予想する造形不良診断工程と、
前記造形不良診断工程において予想した、前記造形不良を解消するために、前記製造用データ生成工程で考慮されるべき造形限界を、前記造形プロセス解析工程の結果と、前記造形限界に関して予め設定した所定範囲と、に基づいて設定する造形限界設定工程と、
前記造形限界設定工程で新たな造形限界を得た場合には、前記製造用データ生成工程、前記造形プロセス解析工程、前記造形不良診断工程、及び、前記造形限界設定工程を繰り返し、前記造形不良診断工程において、前記形状偏差及び前記最大主応力値の両方が前記第1所定範囲及び前記第2所定範囲にそれぞれ入った場合に、そのときの前記製造用データに基づいて、付加製造を実行して前記ヒートシンクを製造する付加製造工程と
を備えることを特徴とするヒートシンクの製造方法。
【請求項2】
放熱要素を備えたヒートシンクであって、
前記放熱要素は、3次元配置されたノードの集合を結ぶエッジの集合を備え、前記ノードの集合の一部は基材上に配置され、前記基材の表面の面外方向において、複数の層が積層された3次元ラティス構造を有し、
前記エッジは、前記基材から離れた層ほど、前記表面の面方向の外側部分よりも中央部分の方が配置密度が高くなっており、
前記基材から最も離れた最遠層において第1通気口が形成されており、
前記最遠層よりも前記基材に近い側の層において、前記外側部分に第2通気口が形成されていることを特徴とするヒートシンク。
【請求項3】
放熱要素を備えたヒートシンクであって、
前記放熱要素は、3次元配置されたノードの集合を結ぶエッジの集合を備え、前記ノードの集合の一部は基材上に配置され、前記基材の表面の面外方向において、複数の層が積層された3次元ラティス構造を有し、
前記エッジは、前記基材から離れた層ほど、前記表面の面方向の外側部分よりも中央部分の方が配置密度が高くなっており、
前記基材から最も離れた最遠層において第1通気口が形成されており、
前記最遠層よりも前記基材に近い側の層において、前記外側部分に第2通気口が形成されており、
前記ヒートシンクの姿勢に応じて、
前記ヒートシンクに近接した熱源によって加熱された空気が、前記第1通気口及び前記第2通気口のうち鉛直方向において高い位置にある通気口から放出されるとともに、
前記第1通気口及び前記第2通気口のうち鉛直方向において低い位置の通気口から空気が流入することを特徴とするヒートシンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータなどの電子機器の放熱に用いられるヒートシンクの製造方法、及び、この製造方法で製造可能なヒートシンクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のヒートシンクは、基材の一面に、互いに平行に複数の板状のフィンを設けた構造を有し、熱伝導率の高いアルミニウム等の材料を用いて、鋳造、押し出し成形、機械加工などの方法によって形成していた(例えば特許文献1、2)。このヒートシンクにおいては、互いに同一の形状を有する多数のフィンが一定の間隔で配置され、これにより、フィンに沿った空気の流れが形成され、放熱効率の向上に寄与していた。
【0003】
このような従来のヒートシンクにおいては、所定の放熱効率を得るために、基材の一面の全体に渡って多数のフィンが配置された構成を有するため、隣り合うフィンの間にスペースはあるものの、実質的には両端のフィンを側壁とし、基材を底壁とする立体と同等の体積を占めることとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭57-193049号公報
【文献】特開昭63-235031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これに対し、本発明者らは、放熱要素が配置される空間の体積を小さく抑えつつ、放熱量の増大を可能とすべく、グラフ理論に基づいて、放熱要素を、3次元配置されたノード(点)の集合を結ぶエッジ(点と点を結ぶ線)の集合を備えた3次元構造として構成する研究を鋭意進行している。
【0006】
そこで本発明は、3次元構造を備えたヒートシンクを、高い精度で設計形状を再現した3次元構造として製造することを可能とするヒートシンクの製造方法、及び、この製造方法で製造可能なヒートシンクを提供することを目的としている。本発明のさらなる目的は、設置するときの姿勢によらずに、安定した放熱性能を発揮できるヒートシンク、及び、このヒートシンクの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のヒートシンクの製造方法は、3次元配置されたノードの集合をエッジの集合で結んだ3次元構造を有する放熱要素を備えたヒートシンクの製造方法であって、ノードとエッジの設計値に基づいて、付加製造で造形できる製造用データを生成する製造用データ生成工程と、製造用データに基づいて、メッシュ構造データを生成し、メッシュ構造データと製造用データの形状偏差、及び、メッシュ構造データ上の所定位置における最大主応力値を算出する造形プロセス解析工程と、造形プロセス解析工程において算出した、形状偏差、及び、最大主応力値について、設計値に対応する3次元構造を実現するために設定された、形状偏差のための第1所定範囲、及び、最大主応力値のための第2所定範囲を超えることで造形不良を引き起こす部位を予想する造形不良診断工程と、造形不良診断工程において予想した、造形不良を解消するために、製造用データ生成工程で考慮されるべき造形限界を、造形プロセス解析工程の結果と、造形限界に関して予め設定した所定範囲と、に基づいて設定する造形限界設定工程と、造形限界設定工程で新たな造形限界を得た場合には、製造用データ生成工程、造形プロセス解析工程、造形不良診断工程、及び、造形限界設定工程を繰り返し、造形不良診断工程において、形状偏差及び最大主応力値の両方が第1所定範囲及び第2所定範囲にそれぞれ入った場合に、そのときの製造用データに基づいて、付加製造を実行してヒートシンクを製造する付加製造工程とを備えることを特徴としている。
【0008】
本発明のヒートシンクは、放熱要素を備えたヒートシンクであって、放熱要素は、3次元配置されたノードの集合を結ぶエッジの集合を備え、ノードの集合の一部は基材上に配置され、基材の表面の面外方向において、複数の層が積層された3次元ラティス構造を有し、エッジは、基材から離れた層ほど、表面の面方向の外側部分よりも中央部分の方が配置密度が高くなっており、基材から最も離れた最遠層において第1通気口が形成されており、最遠層よりも基材に近い側の層において、外側部分に第2通気口が形成されていることを特徴としている。
【0009】
本発明のヒートシンクは、放熱要素を備えたヒートシンクであって、放熱要素は、3次元配置されたノードの集合を結ぶエッジの集合を備え、ノードの集合の一部は基材上に配置され、基材の表面の面外方向において、複数の層が積層された3次元ラティス構造を有し、エッジは、基材から離れた層ほど、表面の面方向の外側部分よりも中央部分の方が配置密度が高くなっており、基材から最も離れた最遠層において第1通気口が形成されており、最遠層よりも前記基材に近い側の層において、外側部分に第2通気口が形成されており、ヒートシンクの姿勢に応じて、ヒートシンクに近接した熱源によって加熱された空気が、第1通気口及び第2通気口のうち鉛直方向において高い位置にある通気口から放出されるとともに、第1通気口及び第2通気口のうち鉛直方向において低い位置の通気口から空気が流入することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明のヒートシンクの製造方法によると、設計された3次元構造を備えたヒートシンクを、高い精度で設計形状を再現した3次元構造として製造することが可能となる。この製造方法によれば、放熱要素が配置される空間の体積を小さくしつつ、放熱量の増大を可能とするとともに、設置するときの姿勢によらず安定した放熱性能を発揮するヒートシンクを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係るヒートシンクの製造方法の流れを示すフローチャートである。
【
図2】本発明の実施形態において用いることが可能な演算装置の構成例を示すブロック図である。
【
図3】流路に彫られた溝のパターンをグラフ理論で表現した例を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態における3次元ラティス構造の例を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態における最適化計算の手順を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の実施形態における熱流体解析の対象領域と境界条件のモデルを示す図である。
【
図7】本発明の実施形態における最適化計算で探索されたサンプルデータの散布図を、目的関数空間でプロットしたグラフである。
【
図8】既製品のヒートシンクの構造と発生する流れ場を可視化した図である。
【
図9】本発明の実施形態における3次元ラティス構造を備えた2目的最適解に係るヒートシンクのうち、サンプル名09-001の構造と発生する流れ場を可視化した図である。
【
図10】本発明の実施形態における3次元ラティス構造を備えた2目的最適解に係るヒートシンクのうち、サンプル名08-001の構造と発生する流れ場を可視化した図である。
【
図11】本発明の実施形態における3次元ラティス構造を備えた2目的最適解に係るヒートシンクのうち、サンプル名10-002の構造と発生する流れ場を可視化した図である。
【
図12】造形プロセス解析のシミュレーションに用いるモデルの外観を示す図である。
【
図16】伝熱性能実験の対象となるモデルの外観を示す図である。
【
図18】ヒートシンクを縦置き配置した状態で、伝熱性能実験としての自然対流冷却実験を行う場合の装置構成を示す図である。
【
図19】ヒートシンクを平置き配置した状態で、伝熱性能実験としての自然対流冷却実験を行う場合の装置構成を示す図である。
【
図20】
図19に示す装置を用いて、ヒートシンク44を平置きした状態での自然対流冷却実験において得られた、X方向の位置と、温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係るヒートシンクの製造方法、及び、ヒートシンクについて図面を参照しつつ詳しく説明する。
図1は、本実施形態に係るヒートシンクの製造方法の流れを示すフローチャートである。
図2は、本実施形態において用いることが可能な演算装置の構成例を示すブロック図である。本実施形態においては、
図1に示す各工程を経てヒートシンクが製造される。ここでは
図1を参照しつつ各工程の流れについて説明し、各工程の実験結果などについて後述する。
【0013】
ヒートシンクの放熱要素の設計は各種の方法で行うことができるが、ここでは、グラフ理論に基づいた設計を例に挙げて説明する。設計工程(ステップS11)では、ヒートシンクの放熱要素としての、ノードとエッジのそれぞれについて設計値が算出される。ヒートシンクの放熱要素は、3次元配置されたノードの集合を結ぶエッジの集合を備えた3次元構造を備える。ノードは、各放熱要素の始点と終点を構成する節点又は頂点である。エッジは、1つの放熱要素を構成する2つのノードを結ぶ枝状、辺状、線状、又は、柱状の要素である。エッジの太さや、エッジが延びる方向に直交する断面形状は、ヒートシンクの仕様、製造工程における公差などに応じて設定することができる。
【0014】
設計値の算出は、
図2に示す演算装置、例えばコンピュータ、において、入力部15から入力された情報、及び、記憶部14に予め記憶された設計情報に基づいて、制御回路11による制御にしたがって行われる。入力部15によって入力された情報、算出に用いる設計情報、算出の途中経過及び結果などは表示部16に表示される。算出においては、例えば、演算回路12においてエッジによって結ばれるノードが選択され、調整回路13によって、所定の最適化アルゴリズム、例えば、集団探索ベースとした最適化アルゴリズム、を用いて、ノードの3次元構造のトポロジーが調整され、最適化される。演算回路12による演算結果、及び、調整回路13による演算結果は、演算のたびに記憶部14に保存され、調整回路13による調整において制御回路11によって読み出される。
【0015】
次に、製造用データ生成工程(ステップS12)において、設計工程(ステップS11)で算出された、ノードとエッジの設計値に基づいて、付加製造(AM造形)、例えば3Dプリンタによる造形、で造形するための製造用データ、例えばCADデータ、が生成される。製造用データの生成は、記憶部14に予め記憶された生成情報に基づいて、制御回路11による制御にしたがって演算回路12で行われ、生成されたデータは記憶部14に保存される。
【0016】
設計工程(ステップS11)で設計された3次元構造においては、ノードの一方が、ヒートシンクの基材、又は、下層側のエッジに支持されていないエッジがオーバーハング部を構成している。このため、製造用データ生成工程(ステップS12)では、オーバーハング部を特定し、オーバーハング部に対して、基材又は下層側のエッジのよって支持させるための支持エッジを、製造用データに追加する。これにより、後の付加製造工程(ステップS17)でヒートシンクの製造を確実に行うことができる。
【0017】
次に、造形プロセス解析工程(ステップS13)では、製造用データ生成工程(ステップS12)で生成した製造用データに基づいて、メッシュ構造データを生成し、メッシュ構造データと製造用データの形状偏差、及び、メッシュ構造データ上の所定位置における最大主応力値を算出する。メッシュ構造データの生成は、記憶部14に予め記憶された生成情報に基づいて、制御回路11による制御にしたがって演算回路12で行われ、生成されたデータは記憶部14に保存される。
【0018】
造形プロセス解析工程(ステップS13)では、固有歪み法を用いて、メッシュ構造データと製造用データの形状偏差、及び、メッシュ構造データ上の所定位置における最大主応力値を算出する。
【0019】
次の造形不良診断工程(ステップS14)は、造形プロセス解析工程(ステップS13)において算出した、形状偏差、及び、最大主応力値について、設計値に対応する3次元構造を実現するために設定された、形状偏差のための第1所定範囲、及び、最大主応力値のための第2所定範囲を超えることで造形不良を引き起こす部位を予想する。造形不良の診断は、記憶部14に予め記憶された診断情報に基づいて、制御回路11による制御にしたがって演算回路12で行われ、診断結果は記憶部14に保存される。
【0020】
造形不良診断工程(ステップS14)において造形不良があると診断された場合(ステップS15でYES)は、造形限界設定工程(ステップS16)が実行された後に、造形不良がなくなるまで、設計工程(ステップS11)、製造用データ生成工程(ステップS12)、造形プロセス解析工程(ステップS13)、及び、造形不良診断工程(ステップS14)が実行される。
【0021】
造形限界設定工程(ステップS16)では、造形不良診断工程(ステップS14)において予想した、造形不良を解消するために、製造用データ生成工程で考慮されるべき造形限界を、造形プロセス解析工程の結果と、造形限界に関して予め設定した所定範囲と、に基づいて設定する。造形限界の設定は、記憶部14に予め記憶された設定情報に基づいて、制御回路11による制御にしたがって演算回路12で行われ、設定結果は記憶部14に保存される。
【0022】
上記造形不良診断工程(ステップS14)において、造形不良がないと診断された場合(ステップS15でNO)、付加製造工程(ステップS17)が実行される。付加製造工程(ステップS17)では、そのときの製造用データに基づいて、付加製造を実行してヒートシンクを製造する。製造は、例えば、
図2に示す演算装置に接続された3Dプリンタに対して、制御回路11による制御に基づいて、製造用データに対応する製造指示信号が与えられ、この信号に基づいて造形することによって行われる。オーバーハング部は造形後に除去される(ステップS18)。
【0023】
次に、伝熱性能実験工程(ステップS19)では、付加製造工程(ステップS17)で製造したヒートシンクについて、自然対流環境下の熱源を用いた伝熱性能実験を行う。これに続く伝熱性能解析工程(ステップS20)では、伝熱性能実験で得た伝熱性能を解析し、解析結果を設計工程(ステップS11)にフィードバックして、設計工程における伝熱性能の予測精度の改善を図る。伝熱性能実験は後述の実験装置(
図18と
図19)によって行われ、その結果を
図2に示す演算装置に入力して、演算回路12によって伝熱性能解析が実行され、解析結果は記憶部14に保存される。
【0024】
つづいて、固有歪み試験工程(ステップS21)では、放熱要素に用いる材料で構成する試験片の加熱及び放冷による固有歪み実験を行う。これに続く固有歪み解析工程(ステップS22)では、固有歪み実験で得た固有歪み値を解析し、解析結果を造形プロセス解析工程(ステップS13)にフィードバックして、造形プロセス解析工程(ステップS13)、及び、その後の造形不良診断工程(ステップS14)における不具合診断精度の改善を図る。固有歪み試験の結果は
図2に示す演算装置に入力され、演算回路12によって固有歪み解析が実行され、解析結果は記憶部14に保存される。
【0025】
次に、性能収束判定(ステップS23)が実行される。性能収束判定は、例えば、製造されたヒートシンクにおける総伝熱量(熱量)及び体積を測定し、設計工程(ステップS11)においてトポロジーが最適化されたときの目的関数としての総伝熱量(熱量)及び体積と対比し、それぞれが、予め設定された範囲内に収束しているか否かで判定する。判定は、設計工程(ステップS11)における目的関数に応じて、測定する対象、例えば総伝熱量、体積を変更して行う。性能収束判定は、記憶部14に予め記憶された、設定範囲を含む判定情報に基づいて、制御回路11による制御にしたがって演算回路12で行われ、診断結果は記憶部14に保存される。
【0026】
性能収束判定(ステップS23)において、総伝熱量及び体積が設定範囲内に収束していた場合(ステップS24でYES)は、トポロジーが最適化されたヒートシンクが製造できたものと判断し、製造工程を終了する。
【0027】
一方、性能収束判定(ステップS23)において、総伝熱量及び体積が設定範囲内に収束していなかった場合(ステップS24でNO)は、性能が収束していないと判断して、測定した、総伝熱量及び体積に基づいて、再び設計工程(ステップS11)を実行する。
【0028】
<ヒートシンクの構成>
上述の通り、本実施形態に係るヒートシンクは3次元構造を有し、基材の表面の面外方向、例えば表面の法線方向において、複数の層が積層された3次元ラティス構造を有する。法線方向に沿って積層された構成においては、法線方向に直交する面上に配置されたノードの集合が一つの層を形成する。3次元ラティス構造におけるエッジは、基材から離れた層ほど、表面の面方向の外側部分よりも中央部分の方がエッジの配置密度が高くなっている。ここで、最も基材に近い層から最も遠い最遠層へ、エッジの配置密度の変化を見たとき、上下に隣り合う層におけるエッジの配置密度が同一である場合も含まれる。配置密度が同一であるとは、密度が同一の数値を有する場合のほか、熱源に近接することによって暖められたヒートシンクの内部の空気が、鉛直方向上方へ流れる空気流の向き、流量などをほぼ変化させることがない程度に、密度の違いが小さいことを意味する。
【0029】
3次元ラティス構造においては、基材から最も離れた最遠層において第1通気口が形成されており、最遠層よりも基材に近い側の層において、外側部分に第2通気口が形成されている。例えば3層積層された構成の場合は、第2通気口は、最も基材側の層と、この層よりも最遠層側の層との一方又は両方に設けられる。より具体的には、
図9~
図11に示す3次元ラティス構造では、基材20に対して、法線方向Dnで最も離れた最遠層L3において、第1通気口Gtとなる空隙が複数設けられている。また、最も基材20に近い層L1においては、外側部分、すなわち、法線方向Dnの上側から見たときに正方形をなす基材20の四辺のそれぞれに対する範囲に、第2通気口Gbとなる空隙がそれぞれ設けられている。第1通気口Gtは、法線方向Dnの上側から見たときに四方対称に形成されており、第2通気口Gbについても同様に四方対称に形成されている。
【0030】
以上の構成の3次元ラティス構造のヒートシンクでは、設置する対象、向き、方法などによって異なる姿勢に応じて、ヒートシンクに近接した熱源によって加熱された空気は、第1通気口Gt及び第2通気口Gbのうち鉛直方向において高い位置にある通気口から放出され、それに伴って、第1通気口Gt及び第2通気口Gbのうち鉛直方向において低い位置の通気口から周囲の空気が流入する。
【0031】
例えばヒートシンクが、その複数の層の積層方向が鉛直方向に沿うように平置きされたときには、ヒートシンクに近接した熱源によって加熱された空気は最遠層の第1通気口Gtから放出され、それに伴って第2通気口Gbから空気が流入する。
【0032】
一方、ヒートシンクがその複数の層の積層の方向が水平方向に沿うように縦置きされたときには、ヒートシンクに近接した熱源によって加熱された空気は、第1通気口Gt及び第2通気口Gbのうち、鉛直方向において高い位置にある通気口から放出され、これに伴って、第1通気口及び第2通気口のうち、鉛直方向において低い位置にある通気口から空気が流入する。
【0033】
オーバーハング部Hは、最も基材側の層を除き、この層の直上の層から最遠層までのいずれかの層に形成される。オーバーハング部Hの位置は、第2通気口Gbに対応する位置に対応しており、オーバーハング部Hで形成される空隙によって、第2通気口Gbの開口面積が増大し、第2通気口Gbを通る空気の流量が増大される。
【0034】
<設計工程(ステップS11)>
エッジの集合によって結ばれるノードの集合の配置は、各種の方法によって行うことができるが、例えば、以下に述べるグラフ理論に基づいてノードの集合とエッジの集合を選択し、集団探索ベースとした最適化アルゴリズムと応答曲面法を併用することによって、3次元構造のトポロジーを調整することができ、トポロジーを最適化することが可能となる。
【0035】
集団探索ベースとした最適化アルゴリズムとしては、任意のアルゴリズムを用いることができ、例えば、以下に述べる遺伝的アルゴリズムのほか、メメティックアルゴリズム、パス再結合法、アントコロニー法、粒子群最適化、差分進化法を用いることができる。
【0036】
ノードの集合は、3次元空間内にノードを分散配置したもののほか、一部又は全てを基材上の任意の位置に配置する構成も可能である。ここで、基材の形状は、特に限定されないが、例えば、表面が平面状の板状、表面が曲面をなす形状、球状、半球体などが挙げられる。また、ノードを基材上に配置するとは、基材の表面に配置する場合のほか、表面に対向する裏面上、側面上、内面に配置する場合も含みうる。
【0037】
一部のノードを基材上に配置させる場合、残りのノードを基材から離れた3次元空間内に配置させる。エッジは基材の表面に対する任意の面外方向に延びるように設定される。ここで、基材の表面の面外方向とは、表面から離れる方向であって、より詳細には、基材の表面に配置されたノードについて、その配置位置の表面から離れる方向である。また、面外方向は、基材の表面に配置されたノードのすべてについて同一の方向とすることも可能であるが、表面に配置されたノードの一部又は全てについて、互いに異なった方向としてもよい。
【0038】
上述のようにノードの一部を基材上に配置させる構成では、残りのノードを、基材の表面の面外方向において複数層を積層させるように配置し、全体として3次元ラティス構造(格子状の構造)を形成することもできる。この積層数は任意に設定できる。
【0039】
また、基材の表面の法線方向から見た平面視における形状は、3次元構造のトポロジーが調整されていれば、任意の形状とすることができる。このような平面視形状としては、例えば、正方形、三角形その他の正多角形、円形が挙げられる。
【0040】
さらに、ノードの一部を基材上に配置させる構成において、エッジの集合は、基材の表面に配置されたノードを始点とするエッジを第1エッジと、第1エッジに対して、直接、又は、ほかのエッジを介して連結された第2エッジと、から構成される。ノードの集合を、基材の表面の面外方向において複数層を積層させるように配置する3次元ラティス構成において、第1エッジと第2エッジはそれぞれ、積層の方向に対して所定角度以下、例えば45度以下で延びるように設定される。
【0041】
上記トポロジーは、ヒートシンクに関わる目的関数に基づいて、最大化又は最小化するように調整される。目的関数の数は、ヒートシンクの仕様などに応じて任意に設定できる。目的関数としては、例えば、ヒートシンクの放熱効率を表す指標、ヒートシンクの材料コストを表す指標、ヒートシンクに係る熱流体性能を表す指標が挙げられる。これらの指標は、目的関数として単独で用いることもできるが、2つ以上を組み合わせて用いることもできる。ヒートシンクの放熱効率を表す指標を用いる場合、この指標が最大化するようにトポロジーが調整され、ヒートシンクの材料コストを表す指標を用いる場合、この指標が最小化するようにトポロジーが調整される。熱流体性能を表す指標については、例えば単位時間当たりの流量としては最大化するように調整される。
【0042】
ヒートシンクの放熱効率を表す指標及びヒートシンクに係る流体に関する熱流体性能としては、例えば、ヒートシンクの総伝熱量Q、温度勾配、ヒートシンク下部の通気口と上部の通気口の形状比率(給排気比率)が挙げられ、ヒートシンクの材料コストを表す指標としては、ヒートシンクを構成する材料の体積V、材料の単価が挙げられる。それぞれの指標は、上記例示に限定されることはなく、例えば、ヒートシンクの放熱効率を表す指標として、材料の体積Vを用いることもある。また、各指標を任意の比率で組み合わせて用いることもできる。総伝熱量Qは、例えば、基材を熱源とし、作動流体を空気として評価される。
【0043】
ここで、トポロジーの調整は、ヒートシンクの製造まで考慮すると、ノードの集合とエッジの集合の設計値に対する造形限界の特定も含めることが好ましい。ヒートシンクを、3Dプリンタその他の付加製造によって製造する場合には、付加製造における造形限界の特定が含まれ、例えば、付加製造によって製造されたヒートシンクの伝熱性能や固有歪みの実験結果に基づくフィードバックが含まれる。
【0044】
トポロジーの調整に用いる応答曲面法としては、例えばKrigingモデルを用いることができる。
【0045】
本実施形態では、コンピュータなどの電子機器の熱除去に用いられるヒートシンクをトポロジー最適化により設計している。ヒートシンクの性能向上に着目した先行研究は数多くなされているが、ここではそれに加えて材料コストにも着目して多目的最適化に取り組んでいる。発明者らは過去に、ヒートシンクのフィンの2次元押し出し構造を対象として、自然物(木の枝、植物の葉脈、気管支など)に類似した構造とみなし、これをLindenmayer Systems(L-systems)と呼ばれる再帰型データ形式文法を用いて表現することで、既存設計に比べて性能は同等で材料コストは大幅に削減できる新しいヒートシンクを、多目的最適化により創出した。
【0046】
これに対して、本実施形態では、新たに、ヒートシンクの3次元ラティス構造を対象として、これをグラフ理論によって表現することで、より複雑かつ微細なヒートシンクの多目的最適化を図っている。
【0047】
<グラフ理論>
グラフ理論は、ノード(節点・頂点)の集合と、それらを結ぶエッジ(枝・辺)の集合によって、ノードの繋がり方を抽象化する理論である。鉄道やバスなどの路線図を例にとると、駅(ノード)がどのように路線(エッジ)で結ばれているかが問題となる一方、線路が具体的にどのような曲線を描いているかは本質的な問題とならないことが多い。つまり、駅と駅の繋がり方が主に重要な情報であり、これがグラフ理論の担う役割である。
【0048】
ここでは、流路に彫られた溝(マイクロ混合器)のパターンをグラフ理論で表現した例を
図3(a)、(b)に示す。
図3(b)に示す溝のパターンを、
図3(a)に示すように3×3=9ノードを結ぶエッジとして表現する場合、すべてのノードを結んだときのエッジの総数は
9C
2=36である。このグラフは、次式の9×9の隣接行列Aを用いて表現される。
【0049】
【0050】
隣接行列Aにおいて、Aij=1はノードiとjを結ぶエッジが存在することを意味し、Aij=0はエッジが無いことを意味する。また、Aij=・で表記される対角項は意味を持たない。この例では、混合効率に影響しないエッジ、具体的には、流れ方向に平行な溝であって、Aij=*で表記される9本、を除外できるため、最終的には27本のエッジが残る。すなわち、27個のパラメータ(設計変数)によって溝のパターンを表現できる。
【0051】
<最適化問題の定義>
本実施形態においては、ヒートシンクの3次元ラティス構造を、
図4(a)に示すように7×7×3=147ノード(ノード間隔=8.3mm)を結ぶエッジとして表現する。別言すると、基材20の表面21に対して、7×7に配置されたノードが、表面21の法線方向Dnに沿った積層方向Dsに3層積層されている。平置きされたヒートシンクに生じる流れの対称性を考慮すると、
図4(b)に示すように各層(7×7=49ノード)で設計領域を1/8(10ノード、薄いグレーの領域で表記)に減らすことができる。さらに、1~2層目(10×2=20ノード、大きな丸印P1で表記)と2~3層目(10×2=20ノード、小さな丸点P2で表記)を独立に設計することとする。
【0052】
図4(c)に示すように各層を結んだ
20C
2=190エッジの中から、
図4(d)に示すように造形可能、すなわち積層方向Dsとなす角度が45度以下となるように、34エッジだけを残す。その結果、34×2=68エッジが残る。よって、68個の設計変数によって3次元ラティス構造を表現できる。
【0053】
設計変数は0~1の実数として与え、0~0.2の場合にはエッジ無し、0.2~1の場合にはエッジ有りと判定する。エッジ1本は直径2.6mmの中実円柱に置換する。設計領域(50mm×50mm×15mm)からはみ出す部分を切り取り、下側にベース部30(50mm×50mm×6mm)を取り付けることで、
図4(e)に示すようなソリッドデータを得ることができる。
【0054】
目的関数としては、ヒートシンクの性能としての放熱効率を表す指標や、材料コストを表す指標が含まれる。本実施形態では、総伝熱量Qに基づいてトポロジーを最大化させ、かつ、ラティス体積V(3次元ラティス構造の体積)に基づいてトポロジーを最小化させる。総伝熱量Qは、熱流体解析により評価し、ラティス体積Vは、エッジ全長に置き換えて自作コードで解析的に評価する。また、すべてのエッジが熱伝達に貢献するように、全エッジがベース部30と連結していることを制約条件として考慮する。
【0055】
本実施形態では、最適化のための計算手法として、生物の進化を模擬した集団探索ベースとした最適化アルゴリズムである、遺伝的アルゴリズム (Genetic Algorithm)(以下「GA」と言う)を用いる。GAは、目的関数の性質(微分可能性、非線形性、多峰性など)を問わず様々な最適化問題に適用できるだけでなく、局所最適解に陥ることなく大域的最適解の発見が期待される。本実施形態で対象とする、非線形の支配方程式で記述される熱流体力学問題、そして構造のトポロジー変化によって性能が敏感(すなわち多峰的)に変化する最適化問題においては、GAは有力な解法となる。これまでに多種多様なGAが提案されているが、ここでは、世界で最も有名で、多数の性能検証及び応用実績のあるNon-Dominated Sorting Genetic Algorithm II (以下「NSGA-II」と言う)を用いる。
【0056】
一方、GAは、集団を構成する多数の解について目的関数を評価する必要があるため、最適化計算に要する全コストが膨大となる。特に、熱流体解析などの大規模数値計算によって目的関数を評価する場合には、計算コストの面からGAの単独利用は現実的ではない。そこで、計算コストを削減するために応答曲面(別名サロゲートモデル)を併用する(応答曲面法)。応答曲面とは、入力(設計変数)xに対する出力(目的関数)f(x)のサンプルデータを学習することで、ブラックボックスであるf(x)の応答を、以下に示す代数式Bとして近似表現したものである。
【0057】
【0058】
代数式Bを通して、任意の入力値に対する出力値を瞬時に推定できるため、目的関数評価そして最適化全体に要する計算時間を大幅に削減できる。ただし、応答曲面は目的関数の近似に過ぎず、そこで生じる誤差は最終的に得られる最適解の品質に影響するため、解探索の過程で近似誤差を慎重に取り扱う必要がある。
【0059】
本実施形態では、応答曲面として、Kriging応答曲面を用いる。他の応答曲面は目的関数f(x)の近似値である代数式Bだけをモデル化するのに対して、Krigingは近似値(代数式B)と、その不確かさ、すなわち近似誤差(次式で示す)と、の2つをモデル化できる。
【0060】
【0061】
この不確かさCの情報を参考にすることで、応答曲面上で大域的最適解の存在が期待される位置を確率論的に特定できる。ここでは、最大化すべき目的関数f(x)について、現在までに探索された目的関数の最適値fmaxからの改善量の期待値EI[f(x)](Expected Improvement)を次式により算出する。
【0062】
【0063】
ここで、Fは平均B、分散Cとした正規分布に従う確率分布、PDF(F)はFの確率密度分布である。元の目的関数f(x)を最大化する代わりに、Kriging応答曲面上で期待値EI[f(x)]を最大化する解x*を最適化計算により探索する。このx*において目的関数f(x*)を評価したものを新たなサンプルデータとして追加した後、Kriging応答曲面を更新する。以上のようにサンプルデータの追加を繰り返すことで、大域的最適解の探索と応答曲面の精度向上を同時に達成できる。
【0064】
本実施形態における最適化計算の手順を
図5に示す。1つ目の目的関数である総伝熱量Qは、サンプルデータが与えられている条件では熱流体解析により評価、その他の条件ではKriging応答曲面により近似評価する。2つ目の目的関数であるラティス体積Vは、エッジ全長に置き換えて自作コードで解析的に評価する。
【0065】
図5に示す手順において、最初に、Latin Hypercube Sampling(LHS)によって68設計変数空間内に一様に初期サンプルデータ(計98点)を作成する(ステップS31)。そして、各点に対応するヒートシンクの構造データを作成して熱流体解析によりQを評価した後、Qを近似するKriging応答曲面を構築する(ステップS32)。
【0066】
次に、Kriging応答曲面上で推定されるEI[Q]が最大となり、かつ、体積V(エッジ全長の解析値)が最小となるPareto最適解を、NSGA-II(集団サイズ200、世代数200、突然変異率約1.5%)で探索する(ステップS33)。ここで、Pareto最適解とは、すべての目的関数について、ほかのどの解よりも劣っていない解を意味する。2目的関数空間で得られる無数のPareto最適解集合の中から、極限解として、期待値EI[Q]の最大解と体積Vの最小解との2つと、残りの解集合をK平均法により3分割したときの各重心に最も近い解の3つについて、熱流体解析を実施し、これらの結果(最大で計5点)をサンプルデータに追加した後、Kriging応答曲面を更新する(ステップS34)。以上の更新作業を繰り返すことで、必要最小限の熱流体解析回数(すなわちサンプル点数)で効率的にPareto最適解を探索する。
【0067】
つづいて収束判定を行う(ステップS35)。この収束判定としては、例えば、EI[Q]が既定の閾値未満になって収束したか否か、又は、エッジ放熱要素の形状のトポロジーが更新されなくなり収束したか否かを判定する。
【0068】
収束判定において、収束していないと判定した場合(ステップS35でNo)、サンプルを現在のサンプル点に追加してKrigingモデルを更新する(ステップS31)。
【0069】
一方、収束判定において、収束したと判定した場合(ステップS35でYes)は最適化の処理を終了する。以上の手順により、必要最小限の回数で効率的にPareto解を探索することができる。
【0070】
<熱流体解析>
熱流体解析は、
図6において立方体状に示す領域A1と境界条件において実施する。作動流体は空気である。ヒートシンク底面(領域A1の底面Ab)を熱源とし、第1種境界条件として一定温度323.15Kを与える。領域A1の周囲では、熱を充分に逃がすように第3種境界条件(293.15K)を設定する。ここでは、自然対流をモデル化するためにブシネスク近似を用いる。市販の流体解析ソフトウェア「ANSYS Fluent 2019 R1.2」の圧力ベースソルバーを用いて、ヒートシンクの総伝熱量Qを評価する。支配方程式は、連続の式、定常非圧縮性Navier-Stokes方程式、定常エネルギー方程式である。また、Pseudo Transient法を用いて圧力ベース連成型ソルバーの疑似非定常アルゴリズムを有効にする。その結果、支配方程式に非定常項が効率的に追加され、安定性と収束性が向上する。表1に、本実施形態で用いた計算スキームを示す。
【0071】
【0072】
熱流体解析用の計算格子は、カットセル法(最小要素サイズ0.2mm)によって生成する。一般的な物体適合格子法に比べて、カットセル法はトポロジー最適化の過程で探索される複雑な構造に対しても、格子を自動生成できる。また、物体表面を単純な階段状のセルで表現する直交格子法と異なり、物体表面と交差するセルを切断して物体に沿った格子を抽出するカットセル法は、壁面の隣でも検査体積が定義されるため、保存則が満たされるという特徴を持つ。
【0073】
<結果と考察>
初期サンプルデータ(点P11)と、最適化計算で探索された追加サンプルデータの散布図を、目的関数空間(横軸:総伝熱量Q(単位W)、縦軸:体積V(単位m
3))でプロットしたものを
図7に示す。追加サンプルデータは、(a)総伝熱量Qの最大化と、体積Vの最小化と、の2目的最適化(応答曲面を10回更新)による結果(点P12)、及び、(b)総伝熱量Qの最大化のみの1目的最適化(応答曲面を18回更新)による結果(点P13)である。上記(a)の2目的最適化では、応答曲面を10回更新しており、上記(b)の1目的最適化では応答曲面を18回更新した。
【0074】
これらのサンプルデータの中で、Pareto最適解となる実施例のヒートシンクを小さな丸点P14で示している。加えて、比較例として、
図8に示す、櫛歯状の放熱要素を有し、押し出し成形によって2次元フィン構造とした、既製品のヒートシンク(21F50)を点P15で示す。点P15に示すヒートシンクは、点P14で示す、Pareto最適解となる実施例のヒートシンクと同じサイズとしており、フィン部50mm×50mm×15mm、ベース部50mm×50mm×6mmとしている。さらに、
図4(e)のようにすべてのエッジにラティスを配置した構造(フルラティス構造)のデータも、点P16として併せてプロットしている。
【0075】
図7より、初期サンプルデータ(P11)に比べて、2目的最適解(点P14)は総伝熱量Q及び体積Vの双方について改善している。例えば、2目的Pareto最適解のうちQが最大となるもの(09-001、「9回目の更新で得られた追加サンプルデータの1点目」の意)(以下「Lattice3」と言うサンプル名で呼ぶことがある)は、既製品(P15)に比べて総伝熱量Qが22%向上(増大)し、体積Vは53%削減(減少)できている。また、2目的最適化による追加サンプルデータ(点P14)の分布から、総伝熱量Qの最大化と体積Vの最小化の間にトレードオフ関係があることが示された。次に、1目的最適解(点P13)のうち最も総伝熱量Qの大きな点(14-001)に着目すると、2目的最適解(09-001)のサンプル(
図9に示すサンプル)の近くに位置している。このことから、2目的最適解(09-001)は総伝熱量Q最大化の設計限界におおよそ達している、すなわち、これ以上総伝熱量Qを最大化することは不可能である、と言える。
【0076】
次に、代表的な最適解と既製品について説明する。ヒートシンクの構造と、ヒートシンクで発生する流れ場を可視化したものを
図8~
図11に示す。
図8は、複数の板状のフィンFが互いに平行に設けられた既製品(
図7においてサンプル名「21F50」で示す。)について示し、
図9~
図11は、3次元ラティス構造を備えた2目的最適解について示している。
図9~
図11に示すサンプルは、エッジEの集合を備えた放熱要素が、基材20の表面21の法線方向Dnにおいて、基材20側から3つの層L1、L2、L3の3層が順に積層された3次元ラティス構造を有している。さらに、このサンプルを基材20の表面21の法線方向Dnに沿って見たときに、正方形状の基材20の四辺に対応する四方向D1、D2、D3、D4について互いに対称な四方対称な形状を有している。
【0077】
図9は、9回目の更新で得られた追加サンプルデータの1点目(
図7において「サンプル名09-001」で示す。)を示し、
図10は、8回目の更新で得られた追加サンプルデータの1点目(
図7においてサンプル名「08-001」で示す。)を示し、
図11は、10回目の更新で得られた追加サンプルデータの2点目(
図7においてサンプル名「10-002」で示す。)を示している。
【0078】
図8~
図11の各図において、(a)はサンプルの全体形状を示す斜視図であり、(b)~(d)は以下に述べる範囲における熱分布を示している。黒色の濃度が高いほど温度が高いことを示している。
【0079】
図8において、(b)は基材120の法線方向Dnにおいて基材120に近い高さ範囲における熱分布を示し、(c)は、(b)に示す範囲と(d)に示す範囲の間の中間の高さ範囲における熱分布を示し、(d)は最も高い範囲における熱分布を示している。
【0080】
図9~
図11の各図において、(b)は、ラティス構造の下側の層、すなわち、基材20側の第1層L1及び第2層L2、における熱分布を示し、(c)は、ラティス構造の上側の層、すなわち、第2層L2及び第3層L3、における熱分布を示し、(d)は第3層L3(最遠層)における熱分布を示している。
【0081】
図8に示す既製品(サンプル名:21F50)では、周囲の冷たい空気が、隣り合うフィンFの隙間に沿って、すなわち、フィンFが延びる方向に沿った二方向Da、Dbだけから、ヒートシンク内へ入っており、(b)、(c)、(d)から分かるように、ヒートシンクから熱を受けて温められた空気は基材120から離れるように上昇していく。
図8に示す既製品では、基材120の法線方向Dnに沿って見た平面視で正方形状の基材120の2辺に対応する方向Da、Dbのみから空気を取り込むため、ヒートシンクの取り付けの姿勢、方向によって、吸熱・放熱性能が大きく影響されやすい。
【0082】
一方、
図9~
図11に示す2目的最適解では、ヒートシンクの構造が四方対称であるため、周囲の冷たい空気は、基材20の四辺に対応する四方向D1、D2、D3、D4のすべてから取り込まれる。各図の(b)、(c)に示すように、取り込まれた空気は中央部分で暖められ、(d)に示すように第3層L3から放出される。このことから、
図9~
図11に示す、最適化されたヒートシンクでは、
図8に示す既製品と比較して、取り付け方向が性能に与える影響が小さいことが分かり、ロバストな設計がなされていると言える。
【0083】
さらに、
図9~
図11の2目的最適解同士を比較する。これらのラティス構造に共通する構成は、ラティス構造の下側の層である、第1層L1~第2層L2の側部に、空隙Gb(インテーク、通気口)が存在し、かつ、ラティス構造の上側の層である、第2層L2~第3層L3の中央部で、ラティスが密であることである。エッジEの配置密度は、基材20から離れた層ほど、すなわち第1層L1から第3層L3へ向かうほど、基材20の表面21の面方向の外側部分よりも中央部分の方が高くなっている。また、第3層L3は、基材20の法線方向Dnの上方へ開いた空隙Gt(通気口)を有している。
【0084】
上記インテーク(空隙Gb)は、ヒートシンクの四方(四つの方向D1~D4)から、周囲の冷たい空気を取り込むことを可能とし、これによってヒートシンク中央部まで十分に空気を行き届かせることができていると考えられる。これに対して、
図8に示す既製品では、インテークは、平面視四角形状の基材120の2辺に対応する位置のみであり、周辺の空気の流れによっては空気が流入するのは一方のインテークのみからとなる場合も想定されるため、周囲から取り込んだ空気がヒートシンク中央部まで行き届かせることは容易ではない。
【0085】
図9~
図11に示す2目的最適解のヒートシンクでは、取り込んだ空気がヒートシンクから十分に熱を奪えるように、大半の空気が通過する中央部に密なラティスを集中的に配置させているため、入り込んだ空気を空隙Gb(インテーク)から逃がすことを抑え、かつ、第3層L3へ向かう流れが形成しやすくなることから、ヒートシンク内で熱を奪って暖まった空気を第3層L3から外へ放出しやすくなり、これにより放熱性能の改善に大きな効果を発揮できると考えられる。さらに、
図9~
図11に示す2目的最適解のヒートシンクでは、ラティス構造の下側の層にインテークとしての空隙Gb(通気口)を有し、かつ、第3層L3の中央部でラティスが密に配置するという構成を満足しながら、ラティスを適宜間引くことで、性能(Q)と材料コスト(V)のバランスを調整することができる。また、
図9~
図11に示す2目的最適解では、オーバーハング部Hが形成されており、空隙Gbの開口面積の増大に寄与している。
【0086】
これに対して、
図8に示す既製品は、上述のように、流入した空気が中央部まで到達しづらく、また、中央部において空気の流れを抑えて上方へ空気を逃がしやすくする構成も備えていないため、インテーク近傍で、周辺から流入した空気と、ヒートシンク内で暖められた空気とが混在し、空気の流れが停滞することで十分な放熱性能を発揮することが困難となることも考えられる。
【0087】
以上説明したように、本実施形態では、ヒートシンクの3次元ラティス構造について、性能改善及び材料コスト削減を目指した多目的最適化を実施した。その結果、グラフ理論によって表現されたラティス構造を、GAとKriging応答曲面を併用して最適化することで、最適化計算を効率的に実現することができた。そして、既製品(2次元押し出しのフィン構造)に比べて、性能改善及び材料コスト削減を実現可能とする3次元ラティス構造を見出すことができた。この3次元ラティス構造は、従来のヒートシンクに見られない、放熱性能と低い材料コストを両立させた斬新なものである。さらに、性能改善のためのラティス構造の特徴と、それを裏付ける熱流体現象を特定することができた。
【0088】
<造形プロセス解析(ステップS13)、造形不良診断(ステップS14)>
図12~
図15を参照しつつ、造形プロセス解析(ステップS13)及び造形不良診断(ステップS14)のシミュレーションに関して説明する。
本実施形態では、製造用データ生成工程(ステップS12)で生成された製造用データに基づいて、3Dプリンタによってアルミニウム合金製の放熱要素を有するヒートシンクを造形する場合について、造形シミュレーション計算及び解析を実施した。シミュレーション計算と解析には、金属積層造形プロセスのシミュレーションに対応した応力解析ソフトウェアを使用した。
【0089】
図12(a)、(b)は、上記シミュレーションに用いるモデルの外観を示す図であって、(a)は側方から見た斜視図、(b)は上方から見た斜視図である。このモデルは、
図9に示すサンプル(09-001、Lattice3)のオーバーハング部Hに、これを基材20側から支持するエッジである支持エッジとしてのサポートSを設けたものである。サポートSは、
図12(b)において丸数字で示す12カ所に設けている。
【0090】
上記応力解析ソフトウェアでは、造形物の外形に対して、ボクセルメッシュ(正六面体要素の集合体)にて形状を近似する。本実施形態のボクセルメッシュは、サイズの一辺を0.2mmとして作成した。なお、ボクセルメッシュの総数は、およそ283万となった。
【0091】
シミュレーション計算は、(1)造形、(2)ベースプレートからの切り離し、(3)サポートSの除去の順番で実施した。
【0092】
(1)造形においては、基材20(ベースプレート)の表面からボクセルメッシュを積層させていく。固有ひずみは、固有ひずみ同定試験及び上記応力解析ソフトウェアによるキャリブレーションで得られた値を使用した。
【0093】
(2)基材20からの切り離しは、上記造形の完了後に基材20から造形物を切り離す手順とした。切り離す位置は、造形物とベースプレートの境界とした。切り離しにおけるワイヤ径の大きさの影響は考慮しなかった。
【0094】
(3)サポート除去は、造形物を基材20から切り離した後に、サポートSを除去する手順とした。
【0095】
図13(a)、(b)、(c)は、造形の様子を示す斜視図である。
図13(a)は、造形の様子を示す図、(b)はサポートSの除去が完了した後の形状を示す図であって、変形倍率を10として表示している。
図13(c)は
図13(b)の状態の形状と、製造用データ生成工程(ステップS12)で生成したデータ(CADデータ)の形状と、を重ね合わせて比較した図であって、形状偏差の分布を色の濃淡で示している。
図13(c)において、偏差は最大でも約0.04mm程度であり、製造用データと比較して変形量が小さく抑えられている。なお、サポートの除去過程における形状の変化は、ほぼなかった。
【0096】
図14(a)、(b)、(c)、(d)及び
図15は、造形中の最大主応力分布を示す図であり、基材20の法線方向(積層方向)をZ方向、Z方向に直交する面において、平面視四角形状の基材20の互いに直交する2辺に対応する方向をそれぞれ、X方向及びY方向としている。
図14(a)はY方向に直交する断面領域Aの断面図、(b)は(a)の拡大図、(c)はX方向に直交する断面領域Bの断面図、(d)は(c)の拡大図である。
図15は、
図14(a)の矢印ALに沿って見た、上記断面領域Aの拡大図であり、図中に最大主応力(引張成分)の値を示している。
図14(a)、(b)、(c)、(d)及び
図15においては、最大主応力のうち引張成分のみの強さの違いを色の濃度で表現している。
【0097】
最大主応力の最大値と、材料の引張強さを比較することで、造形中における破損の可能性を調べることができる。本実施形態の造形においては、基材20(土台)とエッジE(枝)の付け根部の一部分において、一般的なAlSi10Mg合金(JIS規格H5202)の引張強さ(460MPa程度)を超える引張応力が発生していた。その値は最大で574MPaであり、引張強さの1.25倍であり、固有ひずみの減少にともない、変形も減少することから、引張応力の発生も抑制されていることが分かる。また、エッジE(枝)の付け根部の一部でのみ引張応力が高くなっている。一般的なAlSi10Mg合金の引張強さ(460MPa程度)と比較すると、1.25倍に抑えることができている。
【0098】
図15に示すように、造形中、造形物のエッジE(枝)の付け根において、一般的なAlSi10Mg合金の引張強さ460MPaを超える引張応力が、最大で570MPa程度作用することを確認した。
【0099】
引張応力が高くなる場所は以下の特徴(1)~(3)があることが分かった。
(1)XZ断面と平行側のエッジE(枝)の根元である。
使用している固有ひずみから、X方向よりもY方向に大きく縮む。そのためXZ断面に平行側の根元の方がYZ断面のそれよりも応力は高くなる。
【0100】
(2)オーバーハング部Hが隣接し、エッジEとエッジEとの交わり(節部)までの距離が長い。
オーバーハング部Hは、サポートSと言う柱で支持されており、剛性を弱くしていると考えられる。また、該当部位のエッジEは、節部までの距離が長いため、他部よりも剛性が弱いと考えられる。
【0101】
(3)フリーな状態の枝がある。
中心部には垂直に伸びるエッジEがあるが、上部にある節部とつながっておらずフリーな状態となっている。さらに、中心部から個々に延びているエッジEは、節部までの距離が長い。よって、他の部位よりも剛性が弱いと考えられる。
【0102】
以上の結果から、サポートSの除去完了後の形状、すなわち、造形品形状について、CAD形状(製造用データ)との形状偏差は最大で0.04mm程度であった。造形中の破損の問題が生じなければ、CAD形状と同等の形状が得られることがわかった。また、造形中、造形物のエッジEの付け根の一部において、一般的なAlSi10Mg合金の引張強さ460MPaを超える引張応力が最大で570MPa程度作用することを確認した。さらに、基材20とエッジEの付け根部以外では、引張応力は総じて引張強さよりも低くなっていた。以上より、基材20(土台)についているエッジEの付け根部にR(丸み)をつけることで、破損のリスクを減らすことができると推察できる。
【0103】
<伝熱性能実験(ステップS19)、伝熱性能解析(ステップS20)>
図16~
図20を参照しつつ、伝熱性能実験(ステップS19)及び伝熱性能解析(ステップS20)に関して説明する。
図16(a)、(b)は、伝熱性能実験の対象となるモデルの外観を示す図である。
図16(a)、(b)に示すモデルは、
図9に示すサンプル(09-001、Lattice3)に対応する。
【0104】
図17(a)、(b)、(c)、(d)は、温度境界層(ヒートシンクの内部空間及び周辺の温度場)を可視化した図である。
図17(a)、(b)は、
図9に示すサンプル(09-001、Lattice3)の場合を示し、(c)、(d)は、
図8に示す既製品のヒートシンク(21F50)の場合を示している。
図17(a)、(c)は干渉計を用いてヒートシンクの実物における温度境界層を可視化したものであり、
図17(b)、(d)は数値計算によって得られた結果である。
図17(a)、(b)、(c)、(d)から分かるように、サンプルLattice3では、最遠層(
図17(a)、(b)の最上層)の中央部から高温の空気が放出されていることが分かる。また、基材側の層(
図17(a)、(b)の最下層)の外縁部が低温となっており、この部分から外気が流入し、最遠層から放出するという循環が効率的に行われていることが分かる。
【0105】
図18(a)、(b)、(c)は、ヒートシンクを縦置き配置した状態で、伝熱性能実験としての自然対流冷却実験を行う場合の装置構成を示す図であり、
図19は、ヒートシンクを平置き配置した状態で、伝熱性能実験としての自然対流冷却実験を行う場合の装置構成を示す図である。
図18(a)と
図19は、内部構成を側方から見た図であり、
図18(b)は正面図(
図18(a)の右側から見た図)であり、
図18(c)は上方から見た斜視図である。
図18(a)、(b)、(c)と
図19において鉛直方向をZ方向で示している。
【0106】
図18(a)、(b)、(c)の構成においては、横置き、すなわちX方向(
図18(a)の左右方向)に延びるように配置された断熱材41中に、アルミニウム製のアルミブロック42を横置き配置している。アルミブロック42は、X方向の一方の端面である第1端面42aが断熱材41の長手方向の一方の端面41bと同一面をなすように配置され、他方の端面である第2端面42bは断熱材41内に配置されている。アルミブロック42の第1端面42aには、ヒートシンク44が縦置き状態で固定されており、第2端面42bには、熱源としてのヒータ43が固定されている。ヒータ43は、断熱材41の外部に配置された電源45を駆動することによって発熱する。
【0107】
アルミブロック42には、X方向において、TC1、TC2、TC3の3カ所に熱電対が配置されている。さらに、熱電対は、X方向において、ヒートシンク44の基材部分と最遠層部分の2つの位置TCb、TCfにも配置され、ヒートシンク44よりも外側の位置TC∞にも配置されている。各熱電対による検知結果は不図示の回路へ出力される。
【0108】
図18(a)、(b)、(c)に示す構成においては、矢印で示す方向に沿って、ヒートシンク44に対して、自然対流としての空気流を供給している。空気流の流速は6.78±0.02m/sとした。
【0109】
なお、
図19に示す構成は、
図18(a)に示す構成を、ヒートシンク44が鉛直方向上側に位置するように断熱材41を縦置きしたものであり、ヒートシンク44は平置き状態となる。
【0110】
図20は、
図19に示す装置を用いて、ヒートシンク44を平置きした状態での自然対流冷却実験において得られた、
図19の上下方向の位置と、温度との関係を示すグラフである。横軸に示す位置は、ヒータ43を設けた位置を原点として、
図19において上側へ行くほど数値が大きくなるように設定しており、位置0~90mmがアルミブロック42に対応する範囲であり、位置90mm~約123mmがヒートシンク44に対応する範囲となっている。
図20においては、サンプルLattice3の結果を丸印で示し、リファレンスとしての既製品のヒートシンク(21F50)の結果を菱形印で示している。
【0111】
図20に示すように、サンプルLattice3では、リファレンスのヒートシンクと同様に、アルミブロック42内での温度勾配と、ヒートシンク44内での温度勾配とで急激な変化が見られない。したがって、サンプルLattice3では、自然対流下において、リファレンスと同程度に、アルミブロック42からヒートシンク44への高い伝熱性能が実現されていることが分かる。
【0112】
図19に示すようにサンプルLattice3を平置きした場合の熱量は5.92Wであり、
図18に示すようにヒートシンク44を縦置きした場合の熱量は5.18Wであった。ここでは
図20のようなグラフは図示しないが、
図18のようにヒートシンク44を縦置きした場合についても、平置きした場合と同様に、アルミブロック42内での温度勾配と、ヒートシンク44内での温度勾配とで急激な変化が見られず、平置きと同程度の伝熱性能が実現されていることが確認された。このことは、サンプルLattice3が、設置するときの姿勢によらず、安定した放熱性能を実現可能であることを示している。
【0113】
<固有歪み試験(ステップS21)、固有歪み解析(ステップS22)>
実際の積層造形では、レーザ照射による加熱及び放冷にともなう材料の収縮が発生する。この収縮率は一定ではなく、レーザ照射方向との関係で変化する。金属積層造形のシミュレーションに対応した応力解析ソフトウェアでは、この収縮率を「固有歪み」としてパラメータ化し、熱現象にかかわるシミュレーションを、機械的なシミュレーションに置き換えて計算・解析する。
【0114】
固有歪みは、積層造形パラメータ及び材料によって変化する。正確な計算・解析を実施するには、固有歪みの同定作業が必要となる。ここでは、実造形の計算・解析に使用するための固有歪みを同定する実験(以下、「固有歪み試験」と呼ぶ。)を行い、造形シミュレーションで使用する固有歪みを求めた。
【0115】
固有歪み試験と固有歪み解析は、例えば以下の手順(1)~(3)で行うことができる。
(1)付加造形(AM造形)で、試験片を造形し、残留歪みによって生じる変形の変形量を計測する。
(2)上記応力解析ソフトウェア上で、(1)と同じ試験片を(1)と同じ条件で造形し、その変形量が(1)の結果と一致するまで、固有歪み値をキャリブレーションする。
(3)(2)で得た固有歪み値をAlSi10Mg合金の材料特性に組み入れて、その後のヒートシンク形状に対する造形プロセス解析に適用する。
【0116】
固有歪み解析では、上記応力解析ソフトウェアに対して、試験片形状、材料特性、変形量をインプットとして与え、上記応力解析ソフトウェアによるキャリブレーションを行うことで、アウトプットとして固有歪み値が得られる。得られた固有歪み値は造形プロセス解析工程(ステップS13)へフィードバックされる。
【符号の説明】
【0117】
11 制御回路
12 演算回路
13 調整回路
14 記憶部
15 入力部
16 表示部
20、120 基材
21 基材の表面
30 ベース部
41 断熱材
41b 断熱材の端面
42 アルミブロック
42a 第1端面
42b 第2端面
43 ヒータ(熱源)
44 ヒートシンク
45 電源
A1 領域
Ab 底面
D1、D2、D3、D4、Da、Db 方向
Dn 法線方向
Ds 積層方向
E エッジ
F フィン
Gb 空隙(第2通気口)
Gt 空隙(第1通気口)
H オーバーハング部
L1、L2、L3 3次元ラティス構造の層
S サポート(支持エッジ)