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特許7624681スロップタンクの自動洗浄設備および自動洗浄方法
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  • 特許-スロップタンクの自動洗浄設備および自動洗浄方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-23
(45)【発行日】2025-01-31
(54)【発明の名称】スロップタンクの自動洗浄設備および自動洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   B63B 57/02 20060101AFI20250124BHJP
   B08B 9/093 20060101ALI20250124BHJP
【FI】
B63B57/02
B08B9/093
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024092984
(22)【出願日】2024-06-07
【審査請求日】2024-06-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和5年10月16日,発明に係る自動洗浄設備を三好造船株式会社に納品
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391014631
【氏名又は名称】ムサシノ機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103872
【弁理士】
【氏名又は名称】粕川 敏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100149456
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 喜幹
(74)【代理人】
【識別番号】100194238
【弁理士】
【氏名又は名称】狩生 咲
(74)【代理人】
【識別番号】100205648
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 真一
(72)【発明者】
【氏名】阿部 剛幸
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-16795(JP,A)
【文献】特開2012-46817(JP,A)
【文献】特開昭62-149597(JP,A)
【文献】“明和海運、新船3月就航 洗浄水の排出 遠隔で”,化学工業日報,日本,化学工業日報社,2024年01月24日,9面
【文献】“明悠丸”,日本,明和海運株式会社,2023年,pp.1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 57/02,
B08B 9/093,
D06F 39/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スロップタンクと該スロップタンクから液体を吸引して排出するスロップポンプを具備し、該スロップポンプはスロップタンクの残液が少なくなった状態で生じる液体と共に空気を吸引するいわゆるエア噛みを複数回繰り返し、かつ、上記した最初のエア噛みを発生した後に少なくとも30秒間以上運転を継続してから該スロップポンプの動作を停止して排水作業を完了するスロップタンクの自動洗浄設備。
【請求項2】
請求項に記載したスロップタンクの自動洗浄設備において、上記エア噛みを発生した後はスロップポンプの運転電力を減らすことを特徴とするスロップタンクの自動洗浄設備。
【請求項3】
スロップタンクと該スロップタンクから液体を吸引して排出するスロップポンプを具備する前記スロップタンクの自動洗浄設備による自動洗浄方法であって、該スロップポンプは該スロップタンクの残液が少なくなった状態で生じる液体と共に空気を吸引するいわゆるエア噛みを複数回繰り返し、かつ、上記した最初のエア噛みを発生した後に少なくとも30秒間以上運転を継続してから該スロップポンプの動作を停止して排水作業を完了するスロップタンクの自動洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンカーのスロップタンクの洗浄からタンク洗浄水の排出までの一連の作業を自動で行う設備と方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンカーのスロップタンク洗浄作業及びタンク洗浄水排出作業は航海当直従事者以外の人員が必要であること、労働時間が長時間に及ぶこと等から、同作業を自動化することが望まれてきた。
カーゴタンクの洗浄は洗浄液や設備の発達で自動化されてきたが、洗浄廃液を貯蔵したスロップタンクの排水作業と排水後の洗浄作業は複雑である上に船体姿勢が不安定な沖合海域で行う必要があるので、熟練した作業者の人力に依るところが多いままである。
【0003】
スロップタンク洗浄後の洗浄水処理は「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」によって領海の基線から12海里以上の沖合海域にて放出することができるよう定められているため、その作業は沖合での船外作業となるので荒天時や夜間の場合には危険を伴う作業であり、特に沿海海域を航行区域とする内航タンカーがスロップタンクの排水と洗浄作業のために必要となる沖合作業を船外に出ることなく自動化する設備と方法が望まれてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭62-149597
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
船舶のスロップタンクの排水や排水後の洗浄に関わる作業は、甲板上の各所に設置されている各種のバルブの開閉作業・ポンプの発停操作等を手動で行っている。
夜間や荒天状態でこれらの沖合海域での船外作業を手順に沿って確実に行うのは熟練の作業者でも長時間に亘る作業であり、危険をも伴う。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記した全ての船外作業を、船室内に設置したモニタ画面上に表示される情報を確認しながら安全かつ確実に自動的に行う設備と方法を提供することにある。
具体的には、作業に必要なタンク、バルブ、ポンプ等の機器の制御を遠隔操作する手段と、遠隔操作する各機器の状態をリアルタイムで検知するセンサを設置し、それぞれの制御手段と状態を示すセンサ情報を船室に集約統合して、沖合海域の荒れて揺れる船上でも確実に必要とされる連動作業をする方法と、作業に必須な情報をモニタ上に表示して確認する方法を提供することにある。
また、作業中に潮の流れなどによって船の位置が法律で定められた海域を逸脱せぬように監視し、必要な場合は排出作業を中止する方法も提供する。
【発明の効果】
【0007】
従来は船外で長時間かけて作業していたスロップタンク排水、排水後のスロップタンクの洗浄作業を、法律で定められた海域の船室内で安全性を監視確認しつつ全自動で短時間に行えるという利点がある。
また、作業中に潮の流れなどによって船の位置が法律で定められた海域を逸脱せぬように監視し、必要な場合は排出作業を中止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1はスロップタンク自動洗浄設備の構成図である。
図2図2はスロップタンク自動洗浄設備の動作模式図である。
図3図3は波による船の揺れに対応する処理方法を示すフローチャートである。
図4図4は作業中に船が領海の基線から12海里以上の沖合に留まる方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0009】
図1はスロップタンク自動洗浄設備の構成図である。
スロップタンク自動洗浄設備は、制御装置1、洗浄水装置2、排水装置3、GPS(Global Positioning System)受信機4、設備の制御状態を示す画像モニタ5、手動入力のための操作卓6から成る。洗浄水装置2と排水装置3はそれぞれ貯水タンク、水流を制御する弁やポンプから成り、弁やポンプには遠隔操作を可能とする制御線、装置の状態を示すセンサが付属しており、それぞれが制御装置1に接続されている。
【0010】
図2はスロップタンク自動洗浄設備の動作模式図であり、図の上半分は浄水装置2、下半分は排水装置3、矢印の線は水の流れる方向と其々の装置の機能的な関連を示している。カーゴタンクからのスロップタンク31への洗浄水の流入経路は図示していない。
【0011】
以下、スロップタンク1に貯蔵された洗浄水の排水動作を図1図2で説明する。
図1で、制御装置1は操作卓8への作業者の指示操作により自動で洗浄水装置2や排水装置3の弁類の開閉制御やポンプ類の制御を行い、不図示の弁類の状態センサやタンク類の水位計、ポンプ類の状態センサにより各装置の状態をリアルタイムで遠隔監視し、画像モニタ5に表示する。
制御装置1には予めスロップタンクの洗浄から排水までの手順と条件などがプログラムされており、上記した制御線や装置の状態を示すセンサからの情報を使用して適切な手順と条件で動作するように設定されているので、操作卓6の操作は不図示の自動洗浄開始ボタンを押して制御装置1の自動洗浄作業の開始を指示するだけであり、その後は上記プログラムに従って作業が自動進行して完了する経過を画像モニタ5で確認するだけで良い。
また、制御装置1はGPS(Global Positioning System)受信機4により船の位置をリアルタイムで検知している。GPS受信機4と制御装置1の相互作用は後述する。
【0012】
以下、図2を用いて洗浄水の排水および洗浄動作を詳細に説明する。
吸引ライン弁34を開くことによりスロップタンク31に貯蔵された洗浄水をスロップポンプ33に供給して加圧し、洗浄水移送ライン弁34、洗浄水船外排出弁35を経由して船外に排出する。上記操作と共に、水タンク21に貯蔵された洗浄水をバタワースポンプ22で加圧してバタワースライン弁23経由で洗浄ノズル24によりスロップタンク1内部に噴射しタンク内を洗浄する。
この作業により、スロップタンク31に貯蔵された洗浄水を排出しながらスロップタンク31の洗浄を同時に行っている。
この洗浄・排水動作はスロップタンクに設置された不図示の水位計の計測値などによりスロップタンク31がほぼ空になったことを制御装置1が検知してバタワースライン弁10を閉じて洗浄水の供給を停止するまで継続されるが、この時点でスロップタンクには少量の水が残っており、スロップポンプ33は排水動作を継続している。
【0013】
排水動作の完了はスロップタンク31が空になり、スロップポンプ3に供給される洗浄水が枯渇した時点で行う。
一般的には、ポンプに供給される液体が枯渇する時点でポンプに液体と空気の両方が流入するので、ポンプが空吸いによるいわゆるエア噛み音を発し、その直後にポンプの負荷が軽くなる。従って、タンクが陸上に設置されている場合は、ポンプの負荷が軽くなったことをポンプの駆動電流やセンサで検知することにより排水操作を完了させればよい。
しかしながら、タンカーのスロップタンクの排水作業は、領海の基線から12海里以上の沖合海域で波による船の揺れがある状況で行われるので波による船の揺れに伴ったスロップタンクの傾斜角の変動があり、上記の空吸いをタンクの貯水が枯渇したと判断するわけにはいかない。
【0014】
図3のフローチャートを用いて本発明による船の揺れに対応する排水完了の方法を説明する。
制御装置1は図3の手順101でスロップタンク31の水位を取り込み、タンクがほぼ空と判断して良い低水位に達したかを判断手順102で判断する。水位が低水位に達していれば手順103でバタワースポンプ22を停止し、バタワースライン弁23を閉じることによりスロップタンク31への洗浄水注水を停止する。
洗浄水注水が停止した後もスロップポンプ33は排水を続けスロップタンク31の貯水量がゼロに近づくと空吸い状態となりスロップポンプの負荷は急変して軽くなる。
前記したように、スロップタンクが地上に設置されている場合は空吸いによる負荷変動はほぼ1回だけなのでその時点で排水作業を完了することができるが、船が波で揺れている場合はタンクの傾斜が波の周期で変動するので、空吸いは複数回発生する場合がある。そこで本発明では手順104でスロップポンプの負荷変動周期Δtを計測し、判断手順105でその周期が規定時間Tを超えた場合にスロップタンク31が空になったと判断して手順106で排水完了処理を行う。
規定時間Tは、日本近海の洋上の波の周期は下記文献などによれば最長20秒以下なので、余裕をみてその数倍の1分~数分程度以上に定めるのが確実である。
<文献>外洋波の波高と周期との結合確率分布について
(海岸工学講演会論文集 1978 年 25 巻 p. 75-79 著者:本多 忠夫, 光易 恒)
【0015】
なお、経験的に実際のスロップタンクの排水処理中に数回以上の空吸いは非常に稀にしか生じないので、上記した図3のフローチャートで排水完了処理を行うのではなく、簡易的に最初の空吸いが生じた時点から数分間経過した後に排水完了処理を行っても良い。
【0016】
次に、図4のフローチャートを使って、本発明によるGPS受信機とスロップタンクの排水との連携を説明する。前記したように、スロップタンク洗浄後の洗浄水処理は「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」によって領海の基線から12海里以上の沖合海域にて放出することができるよう定められているので、従来は船を12海里より十分余裕のある遠方まで航行し、仮に数時間の作業中に潮の流れなどによって船の位置が変わっても法律で定める条件を満たすようにする必要があった。
本発明では、手順201で常時GPS受信機4による位置情報を制御装置1が把握し、手順202で船の位置の軌跡を把握する。
【0017】
一方、制御装置1は手順203で図2に示した一連の作業の完了時刻を予測し、手順204で作業完了までに船の位置が法律で定める条件を満たさなくなる時刻までの余裕時間を計算する。余裕時間が長い場合は判断手順205図2の手順を続行するが、余裕時間が短くなると画像モニタ5に表示したり、不図示の音響装置で警報音を鳴らしたりするようにする。
更に余裕時間が短くなって船の位置が12海里以内に入ってしまったおそれがある場合、制御装置1は洗浄水船外排出弁35を閉じて洗浄水が船外に流出するのを防止する。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明によれば、従来甲板上の各所に設置されている各種のバルブの開閉作業・ポンプの発停操作等の手動で行ってきたタンカーのスロップタンク洗浄と排水などの全ての船外作業を、船室内に設置したモニタ画面上に表示される情報を確認しながら安全かつ確実に自動的に行うことが可能であり、産業上の有用性は高い。
【符号の説明】
【0019】
1 制御装置
2 洗浄水装置
3 排出装置
4 GPS受信機
5 画像モニタ
6 操作卓
21 水タンク
22 バタワースポンプ
23 バタワースライン弁
24 洗浄ノズル
31 スロップタンク
32 吸引ライン弁
33 スロップポンプ
34 洗浄水移送ライン弁
35 洗浄水船外排出弁

【要約】
【課題】
タンカーのスロップタンク洗浄作業は甲板上の各所に設置されている各種バルブの開閉やポンプの発停操作等の船外作業を手動で確実に行うので長時間を要し、特に夜間や荒天状態での作業を行うのは危険も伴った。
【解決手段】
タンク、バルブ、ポンプ等の機器を遠隔操作する手段と各機器の状態を検知するセンサを設置して船室に集約統合し、沖合海域の揺れる船上でもタンクの洗浄と排水に必要な連動作業を確実に行う設備と方法を提供する。
【選択図】図2

図1
図2
図3
図4