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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-23
(45)【発行日】2025-01-31
(54)【発明の名称】皮膚癌の予後予測方法およびその利用
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20250124BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20250124BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20250124BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20250124BHJP
   C12Q 1/26 20060101ALI20250124BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20250124BHJP
   C12Q 1/6827 20180101ALN20250124BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/50 P
G01N33/53 Y
G01N33/48 M
G01N33/53 D
C12Q1/26
C12Q1/68
C12Q1/6827 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022515305
(86)(22)【出願日】2021-04-01
(86)【国際出願番号】 JP2021014174
(87)【国際公開番号】W WO2021210416
(87)【国際公開日】2021-10-21
【審査請求日】2024-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2020072636
(32)【優先日】2020-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、[次世代がん医療創生研究事業]「がん細胞および免疫応答解析に基づくがん免疫療法効果予測診断法の確立」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100179578
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和弘
(72)【発明者】
【氏名】中村 元樹
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/207942(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/159825(WO,A1)
【文献】Boyer, MAGARI et al.,Clinical Relevance of Liquid Biopsy in Melanoma and Merkel Cell Carcinoma,Cancers,2020年04月13日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚癌の予後予測のための方法であって、
前記皮膚癌の患者から採取された試料におけるグルコース-6-リン酸脱水素酵素の発現量と相関する相関量を求める工程を含み
前記相関量が多い場合に、前記相関量が少ない場合に比べて、前記皮膚癌の予後が悪いことを示す
皮膚癌の予後予測のための方法。
【請求項2】
請求項1に記載の皮膚癌の予後予測のための方法において、
前記皮膚癌は、メルケル細胞癌と、悪性黒色腫と、有棘細胞癌と、乳房外パジェット病と、皮膚血管肉腫とからなる群より選択される少なくとも1つである、
皮膚癌の予後予測のための方法。
【請求項3】
請求項2に記載の皮膚癌の予後予測のための方法において、
前記皮膚癌は、前記メルケル細胞癌を含む、
皮膚癌の予後予測のための方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の皮膚癌の予後予測のための方法において、
前記相関量を求める工程は、前記試料の免疫組織染色により、前記グルコース-6-リン酸脱水素酵素の発現量を求める工程を含む、
皮膚癌の予後予測のための方法。
【請求項5】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の皮膚癌の予後予測のための方法において、
前記相関量を求める工程は、前記試料における前記グルコース-6-リン酸脱水素酵素をコードするmRNAの発現量を求める工程を含む、
皮膚癌の予後予測のための方法。
【請求項6】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の皮膚癌の予後予測のための方法において、
前記相関量を求める工程は、前記試料としての血液または血清における前記グルコース-6-リン酸脱水素酵素の活性を測定する工程を含む、
皮膚癌の予後予測のための方法。
【請求項7】
皮膚癌に対する免疫チェックポイント阻害薬の有効性を評価するための方法であって、
前記皮膚癌の患者から採取された試料におけるグルコース-6-リン酸脱水素酵素の発現量と相関する相関量を求める工程を含み
前記相関量が少ない場合に、前記相関量が多い場合に比べて、前記免疫チェックポイント阻害薬の有効性が高いことを示す
法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法を含む、前記患者への前記免疫チェックポイント阻害薬の投与の可否を判定するための方法であって、
前記免疫チェックポイント阻害薬の有効性が高いと評価された場合に、前記患者に前記免疫チェックポイント阻害薬を投与するまたは投与を継続することを示す
法。
【請求項9】
皮膚癌の悪性度を評価するための方法であって、
前記皮膚癌の患者から採取された試料におけるグルコース-6-リン酸脱水素酵素の発現量と相関する相関量を求める工程を含み
前記相関量が多い場合に、前記相関量が少ない場合に比べて、前記皮膚癌の悪性度が高いことを示す
法。
【請求項10】
皮膚癌の予後を予測するためのバイオマーカーであって、
前記皮膚癌の患者から採取された試料におけるグルコース-6-リン酸脱水素酵素を含み、
前記試料における前記バイオマーカーの発現量が多い場合に、前記発現量が少ない場合に比べて、前記皮膚癌の予後が悪いことを示す、
バイオマーカー。
【請求項11】
皮膚癌に対する免疫チェックポイント阻害薬の有効性を評価するためのバイオマーカーであって、
前記皮膚癌の患者から採取された試料におけるグルコース-6-リン酸脱水素酵素を含み、
前記試料における前記バイオマーカーの発現量が少ない場合に、前記発現量が多い場合に比べて、前記免疫チェックポイント阻害薬の有効性が高いことを示す、
バイオマーカー。
【請求項12】
皮膚癌の悪性度を評価するためのバイオマーカーであって、
前記皮膚癌の患者から採取された試料におけるグルコース-6-リン酸脱水素酵素を含み、
前記試料における前記バイオマーカーの発現量が多い場合に、前記発現量が少ない場合に比べて、前記皮膚癌の悪性度が高いことを示す、
バイオマーカー。
【請求項13】
皮膚癌の再発を予測するためのバイオマーカーであって、
前記皮膚癌に罹患した患者から採取された試料におけるグルコース-6-リン酸脱水素酵素を含み、
前記試料における前記バイオマーカーの発現量が多い場合に、前記発現量が少ない場合に比べて、前記皮膚癌の再発の可能性が高いことを示す、
バイオマーカー。
【請求項14】
測定キットであって、
皮膚癌の予後予測と、前記皮膚癌に対する免疫チェックポイント阻害薬の有効性評価と、前記皮膚癌の悪性度評価と、前記皮膚癌の再発予測と、前記皮膚癌の免疫活性の評価と、のうちの少なくとも一つに用いられ、
前記皮膚癌の患者から採取された試料におけるグルコース-6-リン酸脱水素酵素の発現量と相関する相関量を検出可能な物質を含む、
測定キット。
【請求項15】
請求項14に記載の測定キットであって、
前記相関量を検出可能な物質は、前記グルコース-6-リン酸脱水素酵素またはその断片に結合可能な物質と、前記グルコース-6-リン酸脱水素酵素をコードする遺伝子に結合可能な物質と、グルコース-6-リン酸と、からなる群より選択される少なくとも一つを含む、
測定キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、皮膚癌の予後予測方法に関する。本出願は、2020年4月15日に出願された日本出願番号2020-072636号に基づくもので、ここにその記載内容を援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、悪性黒色腫をはじめとした様々な癌で、PD-L1(programmed cell death ligand 1)と、そのレセプターであるPD-1(programmed cell death 1)との阻害薬を含む、免疫チェックポイント阻害による抗悪性腫瘍治療が素晴らしい成果をあげている。皮膚癌の一種であるメルケル細胞癌に対しても、抗PD-L1抗体薬の臨床使用が始まっている。腫瘍細胞に発現するPD-L1は、T細胞に発現するPD-1と結合することによって、T細胞の活性化や免疫反応を阻害して腫瘍の増殖を助ける。このため、PD-L1の高発現は、多くの癌において予後不良を示すものとして知られている。しかしながら、メルケル細胞癌においては、PD-L1の高発現が良好な予後を示唆することが知られている(例えば、非特許文献1)。
【0003】
また、PD-L1には、同一症例内においても不均一性(Heterogeneity)があることが知られており、メルケル細胞癌においてもかかる不均一性があることを、本願発明者が初めて見出し、報告している(非特許文献2)。また、メルケル細胞癌の原発巣におけるPD-L1の発現量と予後とに相関が認められないことと、メルケル細胞癌の皮膚転移巣におけるPD-L1の発現量と予後とに強い相関が示されたこととを、本願発明者が初めて見出し、報告している(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Lipson EJ, et al., Cancer Immunol. Res., 54-63, 2013
【文献】Nakamura M. et al., Br J Dermatol., 1228-1229, 2019
【文献】Nakamura M. et al., J Dermatol. Sci., 165-167, 2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献2によれば、PD-L1の発現量は、同じ症例においても、切除する時期や部位の違いによって大きく変動する。このため、PD-L1を用いてメルケル細胞癌の予後を予測することは困難である。また、非特許文献3によれば、メルケル細胞癌の皮膚転移巣におけるPD-L1の発現量と予後とには強い相関が示されるものの、皮膚転移が認められて初めて予後を推測できるようでは、予後予測因子として臨床で使用することは難しい。このため、メルケル細胞癌の予後を予測できる他の方法が望まれていた。なお、このような課題は、メルケル細胞癌に限らず他の皮膚癌においても共通の課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、皮膚癌の予後予測方法が提供される。この形態の皮膚癌の予後予測方法は、前記皮膚癌の患者から採取された試料におけるグルコース-6-リン酸脱水素酵素の発現量と相関する相関量を求める工程と、前記相関量が多い場合に、前記相関量が少ない場合に比べて、前記皮膚癌の予後が悪いと判定する工程と、を含む。この形態の皮膚癌の予後予測方法によれば、皮膚癌の患者から採取された試料におけるグルコース-6-リン酸脱水素酵素の発現量を指標として皮膚癌の予後を予測できる。
【0008】
(2)上記形態の皮膚癌の予後予測方法において、前記皮膚癌は、メルケル細胞癌と、悪性黒色腫と、有棘細胞癌と、乳房外パジェット病と、皮膚血管肉腫とからなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。
【0009】
(3)上記形態の皮膚癌の予後予測方法において、前記皮膚癌は、前記メルケル細胞癌を含んでいてもよい。
【0010】
(4)上記形態の皮膚癌の予後予測方法において、前記相関量を求める工程は、前記試料の免疫組織染色により、前記グルコース-6-リン酸脱水素酵素の発現量を求める工程を含んでいてもよい。この形態の皮膚癌の予後予測方法によれば、皮膚癌の患者から採取された試料に対して免疫組織染色を実施してグルコース-6-リン酸脱水素酵素の発現量を求めることにより、皮膚癌の予後を容易に予測できる。
【0011】
(5)上記形態の皮膚癌の予後予測方法において、前記相関量を求める工程は、前記試料における前記グルコース-6-リン酸脱水素酵素をコードするmRNAの発現量を求める工程を含んでいてもよい。この形態の皮膚癌の予後予測方法によれば、皮膚癌の患者から採取された試料におけるグルコース-6-リン酸脱水素酵素をコードするmRNAの発現量を求めることにより、皮膚癌の予後を容易に予測できる。
【0012】
(6)上記形態の皮膚癌の予後予測方法において、前記相関量を求める工程は、前記試料としての血液または血清における前記グルコース-6-リン酸脱水素酵素の活性を測定する工程を含んでいてもよい。この形態の皮膚癌の予後予測方法によれば、皮膚癌の患者から採取された試料としての血液または血清におけるグルコース-6-リン酸脱水素酵素の活性を測定することにより、皮膚癌の予後を容易に予測できる。
【0013】
(7)本発明の他の形態によれば、皮膚癌に対する免疫チェックポイント阻害薬の有効性を評価する評価方法が提供される。この形態の評価方法は、前記皮膚癌の患者から採取された試料におけるグルコース-6-リン酸脱水素酵素の発現量と相関する相関量を求める工程と、前記相関量が少ない場合に、前記相関量が多い場合に比べて、前記免疫チェックポイント阻害薬の有効性が高いと評価する工程と、を含む。この形態の評価方法によれば、皮膚癌の患者から採取された試料におけるグルコース-6-リン酸脱水素酵素の発現量を指標として、免疫チェックポイント阻害薬の有効性を評価できる。
【0014】
(8)本発明の他の形態によれば、皮膚癌の患者への免疫チェックポイント阻害薬の投与の可否を判定する方法が提供される。この形態の方法は、上記皮膚癌に対する免疫チェックポイント阻害薬の有効性を評価する評価方法を含み、前記免疫チェックポイント阻害薬の有効性が高いと評価された場合に、前記患者に前記免疫チェックポイント阻害薬を投与するまたは投与を継続すると判定する工程を含む。この形態の方法によれば、皮膚癌の患者から採取された試料におけるグルコース-6-リン酸脱水素酵素の発現量を指標として、免疫チェックポイント阻害薬の投与の可否を判定できる。
【0015】
(9)本発明の他の形態によれば、皮膚癌の悪性度評価方法が提供される。この形態の悪性度評価方法は、前記皮膚癌の患者から採取された試料におけるグルコース-6-リン酸脱水素酵素の発現量と相関する相関量を求める工程と、前記相関量が多い場合に、前記相関量が少ない場合に比べて、前記皮膚癌の悪性度が高いと判定する工程と、を含む。この形態の悪性度評価方法によれば、皮膚癌の患者から採取された試料におけるグルコース-6-リン酸脱水素酵素の発現量を指標として、皮膚癌の悪性度を評価できる。
【0016】
(10)本発明の他の形態によれば、皮膚癌の予後を予測するためのバイオマーカーが提供される。この形態のバイオマーカーは、前記皮膚癌の患者から採取された試料におけるグルコース-6-リン酸脱水素酵素を含み、前記試料における前記バイオマーカーの発現量が多い場合に、前記発現量が少ない場合に比べて、前記皮膚癌の予後が悪いことを示す。
【0017】
(11)本発明の他の形態によれば、皮膚癌に対する免疫チェックポイント阻害薬の有効性を評価するためのバイオマーカーが提供される。この形態のバイオマーカーは、前記皮膚癌の患者から採取された試料におけるグルコース-6-リン酸脱水素酵素を含み、前記試料における前記バイオマーカーの発現量が少ない場合に、前記発現量が多い場合に比べて、前記免疫チェックポイント阻害薬の有効性が高いことを示す。
【0018】
(12)本発明の他の形態によれば、皮膚癌の悪性度を評価するためのバイオマーカーが提供される。この形態のバイオマーカーは、前記皮膚癌の患者から採取された試料におけるグルコース-6-リン酸脱水素酵素を含み、前記試料における前記バイオマーカーの発現量が多い場合に、前記発現量が少ない場合に比べて、前記皮膚癌の悪性度が高いことを示す。
【0019】
(13)本発明の他の形態によれば、皮膚癌の再発を予測するためのバイオマーカーが提供される。この形態のバイオマーカーは、前記皮膚癌に罹患した患者から採取された試料におけるグルコース-6-リン酸脱水素酵素を含み、前記試料における前記バイオマーカーの発現量が多い場合に、前記発現量が少ない場合に比べて、前記皮膚癌の再発の可能性が高いことを示す。
【0020】
(14)本発明の他の形態によれば、皮膚癌の患者への免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因するGrade3以上の免疫関連有害事象の発症可能性を予測するための方法が提供される。この形態の方法は、前記免疫チェックポイント阻害薬の有効性が高いと評価された場合に、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因するGrade3以上の免疫関連有害事象の発症可能性が高いと評価する工程と、を含む。この形態の方法によれば、皮膚癌の患者から採取された試料におけるグルコース-6-リン酸脱水素酵素の発現量を指標として、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因するGrade3以上の免疫関連有害事象の発症可能性を予測できる。
【0021】
(15)本発明の他の形態によれば、皮膚癌に対する免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因するGrade3以上の免疫関連有害事象の発症可能性を予測するためのバイオマーカーが提供される。この形態のバイオマーカーは、前記皮膚癌の患者から採取された試料におけるグルコース-6-リン酸脱水素酵素を含み、前記試料における前記バイオマーカーの発現量が少ない場合に、前記発現量が多い場合に比べて、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因するGrade3以上の免疫関連有害事象の発症可能性が高いことを示す。
【0022】
(16)本発明の他の形態によれば、測定キットが提供される。この形態の測定キットは、皮膚癌の予後予測と、前記皮膚癌に対する免疫チェックポイント阻害薬の有効性評価と、前記皮膚癌の悪性度評価と、前記皮膚癌の再発予測と、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因するGrade3以上の免疫関連有害事象の発症可能性予測と、前記皮膚癌の免疫活性の評価と、のうちの少なくとも一つに用いられ、前記皮膚癌の患者から採取された試料におけるグルコース-6-リン酸脱水素酵素の発現量と相関する相関量を検出可能な物質を含む。この形態の測定キットによれば、皮膚癌の患者から採取された試料におけるグルコース-6-リン酸脱水素酵素の発現量と相関する相関量を容易に検出できる。
【0023】
(17)上記形態の測定キットにおいて、前記相関量を検出可能な物質は、前記グルコース-6-リン酸脱水素酵素またはその断片に結合可能な物質と、前記グルコース-6-リン酸脱水素酵素をコードする遺伝子に結合可能な物質と、グルコース-6-リン酸と、からなる群より選択される少なくとも一つを含んでいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】G6PDのmRNA発現量のカプランマイヤー曲線を示す図。
図2】免疫組織染色によるG6PDの発現解析の結果を示す説明図。
図3】G6PDの発現量のカプランマイヤー曲線を示す図。
図4】PD-L1の発現量のカプランマイヤー曲線を示す図。
図5】PD-L1の発現量の相関分析の結果を示す図。
図6】症例1におけるG6PD活性の推移を示す説明図。
図7】症例2におけるG6PD活性の推移を示す説明図。
図8】症例4におけるG6PD活性の推移を示す説明図。
図9】悪性黒色腫における免疫組織染色によるG6PDの発現解析の結果を示す説明図。
図10】悪性黒色腫におけるG6PDの発現量のカプランマイヤー曲線を示す図。
図11】悪性黒色腫におけるGrade3以上の免疫関連有害事象の有無とG6PDの発現レベルとの関係を示す説明図。
図12】皮膚血管肉腫における免疫組織染色によるG6PDの発現解析の結果を示す説明図。
図13】皮膚血管肉腫における次世代シーケンス解析によるG6PD発現解析の結果を示す説明図。
図14】皮膚血管肉腫におけるG6PDの発現量が多い群におけるGSEA解析の結果を示す説明図。
図15】皮膚血管肉腫におけるG6PDの発現量が多い群におけるGSEA解析の結果を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本開示の一実施形態によれば、皮膚癌の予後予測方法が提供される。皮膚癌の種類としては、特に限定されないが、例えば、メルケル細胞癌、悪性黒色腫、有棘細胞癌、乳房外パジェット病、皮膚血管肉腫等が挙げられる。皮膚癌の患者は、複数の皮膚癌が併発された患者であってもよく、治療前および治療後のいずれの患者であってもよい。より具体的には、皮膚癌の患者は、外科手術前および外科手術後のいずれの患者であってもよく、免疫療法前および免疫療法後のいずれの患者であってもよく、化学療法前および化学療法後のいずれの患者であってもよく、放射線療法前および放射線療法後のいずれの患者であってもよい。また、皮膚癌の患者の性別や年齢も特に限定されない。本実施形態における患者の動物種は、主に哺乳動物である。かかる哺乳動物としては、特に限定されないが、例えば、ヒトやチンパンジーなどの霊長類、イヌ、ネコ、ウサギ等が挙げられる。
【0026】
本願発明者は、後述する実施例において示されるように、皮膚癌においてグルコース-6-リン酸脱水素酵素の発現量が高い場合には、かかる酵素の発現量が低い場合と比較して、予後が悪い傾向にあることを見出した。
【0027】
本実施形態における皮膚癌の予後予測方法は、(I)皮膚癌の患者から採取された試料におけるグルコース-6-リン酸脱水素酵素の発現量と相関する相関量を求める工程(以下、工程(I)とも呼ぶ)と、(II)相関量が多い場合に、相関量が少ない場合に比べて、皮膚癌の予後が悪いと判定する工程(以下、工程(II)とも呼ぶ)と、を含む。
【0028】
工程(I)で用いる上記試料としては、皮膚癌の患者から分離された癌腫が存在する組織や、皮膚癌の患者から採取した血液または血清等を用いることができる。上記組織としては、特に限定されないが、例えば、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)標本、手術等により切除した腫瘍の少なくとも一部、バイオプシー等により採取された複数の組織構成細胞を含有する試料等が挙げられる。
【0029】
本実施形態において、グルコース-6-リン酸脱水素酵素(Glucose-6-phosphate dehydrogenase)とは、酵素番号EC1.1.1.49の酵素を意味する。グルコース-6-リン酸脱水素酵素(以下、「G6PD」とも呼ぶ)は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)やニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)等の補酵素の存在下で基質のグルコース-6-リン酸を酸化して、グルコノ-1,5-ラクトン-6-リン酸と還元型NAD(NADH)または還元型NADP(NADPH)とを生成する反応、またはその逆反応を触媒する。
【0030】
本実施形態において、G6PDの発現量と相関する相関量とは、G6PDの発現量と正の相関関係にある相関量を意味する。かかる相関量としては、特に限定されないが、例えば、G6PDの発現量そのもの、G6PDをコードするmRNAの発現量、G6PDの活性等が挙げられる。
【0031】
G6PDの発現量は、例えば、抗G6PD抗体(Anti-G6PD-antibody)またはその断片を用いた抗原抗体反応に基づくウエスタンブロッティング法、ドットブロット法、免疫沈降法、ELISA法、免疫組織染色法等によって求めることができる。G6PDをコードするmRNAの発現量は、例えば、次世代シーケンス解析法、ノーザンハイブリダイゼーション法、ドットハイブリダイゼーション法、RT-PCR、リアルタイムPCR等によって求めることができる。G6PDの活性は、例えば、グルコース-6-リン酸を基質とするG6PD活性測定用のキット等を用いて測定することができる。免疫染色法によってG6PDの発現量を求めることは、症例内での変動が少なく、バイオマーカーとして優れている。また、血清を用いた血清テストによりG6PDの発現量を求めることは、感度が高いことから、モニタリングに適している。
【0032】
工程(II)では、例えば、(i)G6PDの発現量やG6PDをコードするmRNAの発現量が多い場合に、発現量が少ない場合に比べて皮膚癌の予後が悪いと判定してもよく、(ii)G6PDの活性が高い場合に、G6PDの活性が低い場合に比べて皮膚癌の予後が悪いと判定してもよい。発現量や活性の大小は、所定の基準値との比較であってもよく、同じ患者において互いに異なる時期に採取した試料における値の比較であってもよい。本実施形態において「予後が悪い」とは、皮膚癌の悪性度が高く病状が悪化する傾向にあることを意味する。つまり、予後が悪い場合には、転移や再発の可能性がある。
【0033】
例えば、試料としての切除標本においてG6PDの発現量が多い場合には、皮膚癌の悪性度が高い高リスク群であると考えて、術後放射線療法等を追加してもよい。また、例えば、試料としての切除標本においてG6PDの発現量が低い場合には、皮膚癌の悪性度が低い低リスク群であると考えて、術後放射線療法等の追加を見合わせて経過を観察してもよい。このように、本実施形態における皮膚癌の予後予測方法は、皮膚癌の治療方針の決定を補助するための方法として利用できる。なお、皮膚癌の予後予測方法は、皮膚癌の予後を予測するための方法と換言できる。
【0034】
本開示の他の実施形態によれば、皮膚癌に対する免疫チェックポイント阻害薬の有効性を評価する評価方法が提供される。本実施形態において、免疫チェックポイント阻害薬とは、免疫チェックポイントとそのリガンドとの結合を阻害することにより、当該免疫チェックポイントによるシグナル伝達を阻害する薬剤を意味する。免疫チェックポイント阻害薬としては、例えば、抗PD-L1抗体薬、抗PD-1抗体薬等が挙げられる。抗PD-L1抗体薬は、ヒト型モノクローナル抗体により構成され、腫瘍細胞に発現するPD-L1(programmed cell death ligand 1)に結合することによって、T細胞に発現するPD-1(programmed cell death 1)にPD-L1が結合することを阻害し、T細胞の活性化を維持させる。抗PD-1抗体薬は、PD-1に結合することによって、PD-1にPD-L1が結合することを阻害し、T細胞の活性化を維持させる。
【0035】
本願発明者は、後述する実施例において示されるように、皮膚癌においてG6PDの発現量がPD-L1と逆相関を示し、G6PDの発現量が多いほどPD-L1の発現量が少ないことを見出した。G6PDの発現量が高いほど、すなわち推定されるPD-L1の発現量が低いほど、免疫学的な活性が低い腫瘍である可能性が高いといえる。
【0036】
本実施形態において、皮膚癌に対する免疫チェックポイント阻害薬の有効性を評価する評価方法は、上記工程(I)、すなわち、患者から採取された試料におけるグルコース-6-リン酸脱水素酵素の発現量と相関する相関量を求める工程と、(III)相関量が少ない場合に、相関量が多い場合に比べて、免疫チェックポイント阻害薬の有効性が高いと評価する工程(以下、工程(III)とも呼ぶ)と、を含む。
【0037】
工程(III)では、例えば、(i)G6PDの発現量やG6PDをコードするmRNAの発現量が少ない場合に、発現量多い場合に比べて免疫チェックポイント阻害薬の有効性が高いと判定してもよく、(ii)G6PDの活性が低い場合に、G6PDの活性が高い場合に比べて免疫チェックポイント阻害薬の有効性が高いと評価してもよい。発現量や活性の大小は、所定の基準値との比較であってもよく、同じ患者において互いに異なる時期に採取した試料における値の比較であってもよい。
【0038】
抗PD-L1抗体薬等の免疫チェックポイント阻害薬のメカニズムを考慮すると、PD-L1の発現量が少ない場合には抗PD-L1抗体薬等の免疫チェックポイント阻害薬の効果が低く、PD-L1の発現量が多い場合には抗PD-L1抗体薬等の免疫チェックポイント阻害薬の効果が高いことが推定される。このため、上記工程(III)では、G6PDの発現量が少ない、すなわちG6PDとPD-L1との相関関係によりPD-L1の発現量が多いことが推定される場合に、G6PDの発現量が多い、すなわちG6PDとPD-L1との相関関係によりPD-L1の発現量が少ないことが推定される場合に比べて、抗PD-L1抗体薬等の免疫チェックポイント阻害薬の有効性が高いと評価する。
【0039】
例えば、試料におけるG6PDの発現量が少なく、かつ、PD-L1の発現量が少ない場合には、PD-L1の不均一性によって一時的にPD-L1の発現量が少なくなっていることが予想される。このような場合においても、G6PDの発現量が少ないことから、抗PD-L1抗体薬等の免疫チェックポイント阻害薬の有効性が高いと評価してもよい。G6PDは、同一症例内において数値の変動が小さいため、同一症例内において数値の変動が大きいPD-L1よりも、免疫チェックポイント阻害薬の有効性等の評価指標として優れている。本実施形態における皮膚癌に対する免疫チェックポイント阻害薬の有効性を評価する評価方法は、免疫チェックポイント阻害薬の投与に関する決定等、皮膚癌の治療方針の決定を補助するための方法として利用できる。
【0040】
本開示の他の実施形態によれば、皮膚癌の患者への免疫チェックポイント阻害薬の投与の可否を判定する方法が提供される。この方法は、皮膚癌に対する免疫チェックポイント阻害薬の有効性を評価する上記評価方法の工程(III)において、免疫チェックポイント阻害薬の有効性が高いと評価された場合に、(IV)患者に免疫チェックポイント阻害薬を投与するまたは投与を継続すると判定する工程(以下、工程(IV)とも呼ぶ)と、を含む。
【0041】
工程(IV)では、免疫チェックポイント阻害薬を投与していない患者に対して、新たに免疫チェックポイント阻害薬を投与すると判定してもよく、既に免疫チェックポイント阻害薬を投与している患者に対して、免疫チェックポイント阻害薬の投与を継続すると判定してもよい。
【0042】
例えば、試料におけるG6PDの発現量が多くPD-L1の発現量が少ない場合には、抗PD-L1抗体薬等の免疫チェックポイント阻害薬の効果が低いと評価されるため、免疫チェックポイント阻害薬の投与に代えて、リンパ節郭清術等の手術療法を選択してもよい。また、例えば、抗PD-L1抗体薬等の免疫チェックポイント阻害薬の投与によって、血中G6PD値が低値を維持している場合には、かかる免疫チェックポイント阻害薬の有効性が高いと評価されるため、かかる免疫チェックポイント阻害薬の投与を継続してもよい。また、例えば、免疫チェックポイント阻害薬の投与後、血中G6PD値が上昇傾向にある場合には、かかる免疫チェックポイント阻害薬の有効性が低いと評価されるため、放射線療法等の追加治療を検討してもよい。また、例えば、試料におけるG6PDの発現量が低く、推定されるPD-L1の発現量が高い場合には、免疫活性の高い腫瘍であると考えられるため、副作用に十分注意しながら免疫チェックポイント阻害薬を導入してもよい。
【0043】
上述のように、本願発明者は、G6PDの発現量が高いほど、すなわち推定されるPD-L1の発現量が低いほど、免疫学的な活性が低い腫瘍である可能性が高いことを見出した。このことから、G6PDの発現量を指標として、皮膚癌の免疫活性を評価できる。すなわち、本開示の他の実施形態として、皮膚癌の免疫活性の評価方法が提供される。この評価方法は、皮膚癌の患者から採取された試料におけるG6PDの発現量と相関する相関量を求める工程と、相関量が多い場合に、相関量が少ない場合に比べて、皮膚癌の免疫活性が高いと判定する工程と、を含む。
【0044】
本開示の他の実施形態によれば、バイオマーカーが提供される。このバイオマーカーは、皮膚癌の患者から採取された試料におけるG6PDを含む。かかるバイオマーカーは、皮膚癌の予後を予測するため、皮膚癌に対する免疫チェックポイント阻害薬の有効性を評価するため、皮膚癌の悪性度を評価するため、皮膚癌の再発を予測するために用いることができる。また、かかるバイオマーカーは、皮膚癌に対する免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因するGrade3以上の免疫関連有害事象の発症可能性を予測するため、皮膚癌の免疫活性を評価するために用いることができる。また、本開示によれば、皮膚癌の患者から採取された試料におけるG6PDのバイオマーカーとしての利用が想定される。より具体的には、皮膚癌の予後予測と、皮膚癌に対する免疫チェックポイント阻害薬の有効性評価と、皮膚癌の悪性度評価と、皮膚癌の再発予測と、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因するGrade3以上の免疫関連有害事象の発症可能性予測と、皮膚癌の免疫活性評価と、のうちの少なくとも一つに用いられる、皮膚癌の患者から採取された試料におけるG6PDのバイオマーカーとしての利用が想定される。
【0045】
皮膚癌の予後を予測するためのバイオマーカーは、バイオマーカーの発現量が多い場合に、発現量が少ない場合に比べて、皮膚癌の予後が悪いことを示す。皮膚癌に対する免疫チェックポイント阻害薬の有効性を評価するためのバイオマーカーは、バイオマーカーの発現量が多い場合に、発現量が少ない場合に比べて、免疫チェックポイント阻害薬の有効性が高いことを示す。皮膚癌の悪性度を評価するためのバイオマーカーは、バイオマーカーの発現量が多い場合に、発現量が少ない場合に比べて、皮膚癌の悪性度が高いことを示す。
【0046】
皮膚癌の再発を予測するためのバイオマーカーは、皮膚癌に罹患した患者から採取された試料におけるバイオマーカーの発現量が多い場合に、発現量が少ない場合に比べて、皮膚癌の再発の可能性が高いことを示す。例えば、術後経過観察中に血中G6PD値が上昇した場合には、皮膚癌の再発の可能性が想定されるため、画像検査を行ってもよい。
【0047】
皮膚癌の免疫活性を評価するためのバイオマーカーは、皮膚癌に罹患した患者から採取された試料におけるバイオマーカーの発現量が多い場合に、発現量が少ない場合に比べて、皮膚癌の免疫活性が高いことを示す。
【0048】
皮膚癌に対する免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因するGrade3以上の免疫関連有害事象(irAE:immune-related adverse events)の発症可能性を予測するためのバイオマーカーは、皮膚癌の患者から採取された試料におけるバイオマーカーの発現量が少ない場合に、発現量が多い場合に比べて、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因して、Grade3以上のirAEを発症する可能性が高いことを示す。このことは、後述する実施例において示されるように、G6PDの発現量が低い場合には、G6PDの発現量が多い場合に比べて、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因して、重症なirAEを発症する頻度が高いことに裏付けられる。
【0049】
本開示の他の形態によれば、皮膚癌の患者への免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因するGrade3以上の免疫関連有害事象(irAE)の発症可能性を予測するための方法が提供される。この方法は、皮膚癌に対する免疫チェックポイント阻害薬の有効性を評価する上記評価方法の工程(III)において、免疫チェックポイント阻害薬の有効性が高いと評価された場合に、(V)免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因するGrade3以上のirAEの発症可能性が高い可能性が高いと評価する工程(以下、工程(V)とも呼ぶ)と、を含む。また、皮膚癌の患者への免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因するGrade3以上のirAEの発症可能性を予測するための方法は、上記工程(I)、すなわち、(I)患者から採取された試料におけるG6PDの発現量と相関する相関量を求める工程と、(VI)相関量が少ない場合に、相関量が多い場合に比べて、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因するGrade3以上のirAEの発症可能性が高いと評価する工程(以下、工程(VI)とも呼ぶ)と、を含む方法であってもよい。
【0050】
例えば、試料におけるG6PDの発現量が低く、推定されるPD-L1の発現量が高い場合には、免疫活性の高い腫瘍であると考えられるため、免疫チェックポイント阻害薬の有効性が高い可能性が高い。そのような免疫活性の高い腫瘍においては、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因して、Grade3以上のirAEを発症する可能性が高いため、免疫チェックポイント阻害薬の投与にあたっては、irAEに十分注意することが想定される。このように、本実施形態における皮膚癌の患者への免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因するGrade3以上のirAEの発症可能性を予測するための方法は、免疫チェックポイント阻害薬の投与に関する決定等、皮膚癌の治療方針の決定を補助するための方法として利用できる。
【0051】
本開示の他の形態によれば、測定キットが提供される。この測定キットは、皮膚癌の予後予測と、皮膚癌に対する免疫チェックポイント阻害薬の有効性評価と、皮膚癌の悪性度評価と、皮膚癌の再発予測と、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因するGrade3以上の免疫関連有害事象の発症可能性予測と、皮膚癌の免疫活性の評価と、のうちの少なくとも一つに用いられ、皮膚癌の患者から採取された試料におけるG6PDの発現量と相関する相関量を検出可能な物質を含む。換言すると、この測定キットは、皮膚癌のコンパニオン診断に用いることができるコンパニオン診断薬を含む。G6PDの発現量と相関する相関量を検出可能な物質は、G6PDまたはG6PDの断片に結合可能な物質と、G6PDをコードする遺伝子に結合可能な物質と、グルコース-6-リン酸と、からなる群より選択される少なくとも一つを含んでいてもよい。
【0052】
G6PDまたはG6PDの断片に結合可能な物質としては、例えば、抗G6PD抗体や、その断片等が挙げられる。また、G6PDをコードする遺伝子に結合可能な物質としては、例えば、G6PDの遺伝子を増幅可能なプライマーセットや、G6PDの遺伝子に特異的にハイブリダイズするプローブ等が挙げられる。また、グルコース-6-リン酸は、G6PDの活性を測定するための基質として測定キットに含まれていてもよい。
【0053】
測定キットの形態は、特に限定されず、例えば乾燥状態であってもよく、G6PDの発現量と相関する相関量を検出可能な上記物質が溶液に溶解された状態等であってもよい。また、上記物質は、例えば二次抗体、蛍光物質、放射性同位元素等の標識物質により標識されていてもよく、マイクロアレイの基材、マイクロタイタープレート、または樹脂や金属製のビーズ等の支持体に固定された状態であってもよい。また、測定キットには、上記物質に加えて、逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、dNTP、オリゴdTプライマー、ランダムプライマー、RNase阻害剤、RNaseH、標識化物質、緩衝液等の種々の構成要素が含まれていてもよい。さらに、測定キットには、G6PDの発現量を求めるために使用できる各種機器や、使用説明書等が含まれていてもよい。
【実施例
【0054】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
<メルケル細胞癌>
1.試料
病理組織検査を施行されて一定期間の術後経過が明らかにされているメルケル細胞癌の症例における、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)標本および血清を試料として用いた。FFPE標本は71症例90標本であり、血清は19症例50標本であった。FFPE標本の症例の患者は、年齢が40歳~98歳であり、平均年齢が77.27歳であり、男女比が男性:女性=26:45であった。かかる症例における腫瘍の部位は、頭頚部66.2%(顔42症例、頚部2症例、耳1症例、頭2症例)、四肢29.6%(上腕4症例、前腕3症例、手指3症例、大腿6症例、下腿3症例、足2症例)、体幹2.8%(臀部2症例)であった。そのうち、自然消退した例は6症例であった。
【0056】
2.PD-L1との相関が認められるバイオマーカーの探索
2-1.RNAの抽出
FFPE標本から作製された未染スライドから、腫瘍部分及び周囲の炎症細胞浸潤部分を、18G針を用いてマクロダイセクションし、AllPrep DNA/RNA FFPE Kit(Qiagen製)を用いてRNAを抽出した。バイオアナライザー(Agilent2100,Agilent製)を用いてRIN値およびDV200(RNA断片サイズの中央値)を測定したところ、DV200が30%以上であったものの中から44個の試料を選んだ。
【0057】
2-2.次世代シーケンス解析
44個の試料をMiniSeq(illumina製)システムにて、Immune Response Panel(Ampliseq)を用いて次世代シーケンス解析(NGS解析)を行なった。得られたデータは、BaseSpace(登録商標) Sequence Hub(illumina製)上で解析した。
【0058】
PD-L1発現の高い群と低い群とを比較すると、PD-L1と相関する因子として、q値(p-adjust)が0.05以下となったものは、グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)のみであった。PD-L1が低値だと、優位にG6PDが高値になるという結果が得られた(p=0.00011,q=0.040)。すなわち、G6PDは、PD-L1と逆相関を示すことがわかった。
【0059】
3.G6PDのmRNA発現量と予後との相関の有無の検討
G6PDのmRNA発現量と、皮膚癌に罹患した患者の経過中の転移の有無との相関の有無を検討した。その結果、G6PDのmRNA発現量は、皮膚癌に罹患した患者の経過中の転移の有無と相関が認められた。G6PDのmRNA発現量が高値である症例は、経過中にリンパ節転移および遠隔転移を認める割合が優位に高かった(p=0.00016,q=0.018)。転移の有無にてROC曲線を描き、基準点として算出された1071CPM(counts per million)以上をG6PDのmRNA発現量highとし、1071CPM以下をG6PDのmRNA発現量lowとした。
【0060】
図1は、G6PDのmRNA発現量のカプランマイヤー曲線を示す図である。図1では、G6PDのmRNA発現量highである群と、G6PDのmRNA発現量lowである群とについて、それぞれの群の生存率についてのカプランマイヤー曲線を示している。図1では、G6PDのmRNA発現量highである群を実線で示し、G6PDのmRNA発現量lowである群を破線で示している。図1において、縦軸は全生存率を示し、横軸は年数を示し、P値はログランク検定値を示している。図1に示されるように、G6PDのmRNA発現量highである場合には、G6PDのmRNA発現量lowである場合と比較して、生存率が低い、すなわち予後が悪いとの相関が有意に認められた(P=0.036)。
【0061】
4.免疫組織染色
4-1.G6PDの免疫組織染色
FFPE標本から作製されたスライドを用いて、G6PDの免疫組織染色を行った。抗体は、Anti-G6PD antibody(HPA000247,sigma-ardrich製)を用いた。撮影および解析は、オールインワン蛍光顕微鏡BZ-X800 (KEYENCE製)を用いて行った。染色結果をデジタル化し、陽性細胞および発現強度を数値化して評価を行った。
【0062】
図2は、免疫組織染色によるG6PDの発現解析の結果を示す説明図である。図2では、G6PDが高発現を示す群における免疫組織染色の画像の一例を紙面左側に示し、G6PDが低発現を示す群における免疫組織染色の画像の一例を紙面右側に示している。なお、免疫組織染色におけるG6PDの発現量の評価は、染色標本の顕微鏡下での目視観察により行ない、染色率50%以上をhigh、50%未満をlowとした。
【0063】
図3は、G6PDの発現量のカプランマイヤー曲線を示す図である。図3では、G6PDの発現量highである群と、G6PDの発現量lowである群とについて、それぞれの群の生存率についてのカプランマイヤー曲線を示している。図3では、G6PDの発現量highである群を破線で示し、G6PDの発現量lowである群を実線で示している。図3において、縦軸は全生存率を示し、横軸は全生存期間(OS:Overall Survival)を示している。図3に示されるように、G6PDの発現量highである場合には、G6PDの発現量lowである場合と比較して、生存率が低い、すなわち予後が悪いとの相関が有意に認められた(P=0.036)。
【0064】
4-2.原発巣におけるPD-L1の免疫組織染色
比較例として、原発巣におけるFFPE標本から作製されたスライドを用いて、PD-L1の免疫組織染色を行った。抗体は、Anti-PD-L1 antibody(28-8,ab205921,Abcam製)撮影および解析は、オールインワン蛍光顕微鏡BZ-X800(KEYENCE製)を用いて行った。染色結果をデジタル化し、陽性細胞および発現強度を数値化して評価を行った。
【0065】
図4は、PD-L1の発現量のカプランマイヤー曲線を示す図である。図5は、PD-L1の発現量の相関分析の結果を示す図である。図4では、PD-L1の発現量highである群と、PD-L1の発現量lowである群とについて、それぞれの群の生存率についてのカプランマイヤー曲線を示している。図4では、PD-L1の発現量highである群を実線で示し、G6PDの発現量lowである群を破線で示している。図4において、縦軸は全生存率を示し、横軸は年数を示している。図5において、縦軸はPD-L1の発現量(pixel value)を示し、横軸は月数を示している。図4および図5に示されるように、PD-L1が高発現を示す群と低発現を示す群との比較において、生存率との相関は全く認められなかった(r=0.068,CI〔-0.19 to 0.31〕,P=0.59)。
【0066】
4-3.免疫組織染色の考察
G6PDおよびPD-L1の免疫組織染色の結果から、PD-L1の発現量と予後との相関が全く認められなかったのに対し、G6PDの発現量と予後との相関が認められたことから、G6PDは、PD-L1よりも優れた予後予測マーカーとして利用できることが示された。
【0067】
5.G6PD活性
5-1.血清を用いたG6PD活性の測定
19症例50標本の患者血清に対して、G6PD assay kit(Abcam,ab102529)を用いてG6PD活性を測定した。50標本における活性の値の平均は、11.45mU/mlであった。
【0068】
5-2.G6PD活性と経過との関係
50標本のうち、G6PD活性が特に高い値(19mU/ml以上)であった3標本の症例(症例1~3)について、メルケル細胞癌の経過を確認した。また、G6PD活性が減少した症例(症例4)について、メルケル細胞癌の経過を確認した。以下に示す図6~8において、縦軸はG6PD活性(mU/ml)を示し横軸は期間を示している。
【0069】
(1)症例1
図6は、症例1におけるG6PD活性の推移を示す説明図である。症例1は、ステージIVの症例であり、原発巣の場所は右下顎であった。症例1では、外科的切除と放射線療法を行なったが、外科的切除から約9か月後に全身のリンパ節に転移が認められた。その後、CBDGBとVP-16との併用療法を行なったが治療効果が認められなかったので、免疫チェックポイント阻害薬であるアベルマブの治験を行なったが、数か月後に現病死に至った。高いG6PD活性が認められたのは現病死に至る際であり、そのG6PD活性は21.84mU/mlであった。
【0070】
(2)症例2
図7は、症例2におけるG6PD活性の推移を示す説明図である。症例2は、ステージIVの症例であり、原発巣の場所は左下腿であった。症例2では、外科的切除およびSLNB、放射線療法を行なったが、切除植皮から約1年後に局所再発が認められた。高いG6PD活性が認められたのは局所再発時であり、そのG6PD活性は19.63mU/mlであった。
【0071】
(3)症例3
症例3は、ステージIIの症例であり、原発巣の場所は前胸部であった。症例3では、外科的切除および放射線療法を行なったが、放射線療法終了から約2か月後に他病死に至った。高いG6PD活性が認められたのは他病死前であり、そのG6PD活性は19.37mU/mlであった。
【0072】
(4)症例4
図8は、症例4におけるG6PD活性の推移を示す説明図である。症例4は、ステージIIIの症例であり、原発巣の場所は鼻根部であった。症例4では、外科的切除後、右顎下リンパ節における集積出現がPET/CTにて認められたため、免疫チェックポイント阻害薬であるアベルマブの投与を開始した。その3か月後のPET/CTにて集積の増強が認められたため、IMRT(強度変調放射線治療)を併用したところ、CR(complete remission:完全寛解)となった。G6PD活性は、アベルマブとIMRTとの併用によって、顕著に減少した。
【0073】
6.まとめ
以上の結果より、皮膚癌としてのメルケル細胞癌において、G6PDの発現量はPD-L1と逆相関を示し、G6PDの発現量が多いほどPD-L1の発現量が少ないことがわかった。また、G6PDの発現量が多い場合には、G6PDの発現量が少ない場合に比べて、予後が悪いとの相関が認められた。また、血清におけるG6PDの活性が高くG6PDの発現量が多い場合には、G6PDの活性が低くG6PDの発現量が少ない場合に比べて、皮膚癌の再発の可能性が高いことが示唆された。換言すると、G6PDの発現量が多い場合には、G6PDの発現量が少ない場合に比べて、皮膚癌の悪性度が高く、病状が悪化する傾向があることが示唆された。したがって、G6PDは、皮膚癌の予後を予測するためのバイオマーカー、皮膚癌の悪性度を評価するためのバイオマーカー、および皮膚癌の再発を予測するためのバイオマーカーとして有効であることがわかった。このため、G6PDの発現量を指標とすることにより、皮膚癌の予後を予測でき、免疫チェックポイント阻害薬の有効性を評価でき、免疫チェックポイント阻害薬の投与の可否を判定でき、皮膚癌の悪性度を評価できることがわかった。また、G6PDの発現量が多いほどPD-L1の発現量が少なかったことから、G6PDの発現量を指標として、皮膚癌の免疫活性を評価できることが示唆された。
【0074】
<悪性黒色腫>
1.試料
免疫チェックポイント治療を受けた悪性黒色腫の30症例における原発巣の試料を用いた。免疫チェックポイント治療は、免疫チェックポイント阻害薬の投与が行われたことを意味する。RNAの抽出方法、次世代シーケンス解析の方法、G6PDの免疫組織染色の方法、G6PD発現量の評価基準等は、メルケル細胞癌の実施例において説明した内容と同様である。
【0075】
2.免疫組織染色
図9は、悪性黒色腫における免疫組織染色によるG6PDの発現解析の結果を示す説明図である。図9では、G6PDが高発現を示す群における免疫組織染色の画像の一例を紙面左側に示し、G6PDが低発現を示す群における免疫組織染色の画像の一例を紙面右側に示している。30症例の試料に対するG6PDの免疫組織染色の結果、12症例においてG6PDが高発現を示し、18症例においてG6PDが低発現を示した。なお、免疫組織染色におけるG6PDの発現量の評価は、染色標本の顕微鏡下での目視観察により行ない、染色率50%以上をhigh(高発現)、50%未満をlow(低発現)とした。
【0076】
3.G6PDのmRNA発現量と予後との相関
免疫チェックポイント阻害薬の投与によってGrade3以上の免疫関連有害事象(irAE)が認められなかった17症例の試料を対象として、カプランマイヤー法により生存曲線を作成した。
【0077】
図10は、悪性黒色腫におけるG6PD発現量のカプランマイヤー曲線を示す図である。図10では、G6PDの発現量highである群と、G6PDの発現量lowである群とについて、それぞれの群の生存率についてのカプランマイヤー曲線を示している。図10では、G6PDの発現量highである群を細線で示し、G6PDの発現量lowである群を太線で示している。図10において、縦軸は無増悪生存率(progression free survival)を示し、横軸は免疫チェックポイント阻害薬の投与開始からの経過年数(Years after ICI start)を示している。図10の結果から、G6PDの発現量lowである群は、G6PDの発現量highである群と比較して、生存率が高い、すなわち良好な予後を示すことがわかった。このことから、皮膚癌の種類が悪性黒色腫である場合においても、皮膚癌の種類がメルケル細胞癌である場合と同様な傾向が認められたといえる。したがって、悪性黒色腫においても、メルケル細胞癌の場合と同様に、G6PDの発現量を指標として、皮膚癌の予後を予測でき、免疫チェックポイント阻害薬の有効性を評価でき、免疫チェックポイント阻害薬の投与の可否を判定でき、皮膚癌の悪性度を評価でき、皮膚癌の再発の可能性を予測でき、皮膚癌の免疫活性を評価できることが示唆された。
【0078】
4.G6PD発現量と免疫関連有害事象との関係
G6PDの発現量と免疫関連有害事象との関係性を解析した。免疫チェックポイント阻害薬の投与によってGrade3以上の免疫関連有害事象(irAE)が認められたか否かに関し、G6PDの発現量highである群とG6PDの発現量lowである群とにおおいて解析した。
【0079】
図11は、悪性黒色腫におけるGrade3以上の免疫関連有害事象の有無とG6PDの発現レベルとの関係を示す説明図である。図11の紙面右側の図は、G6PDの発現レベルとGrade3以上のirAEの有無とに関するフィッシャー検定の2×2分割表であり、図11の紙面左側の図は、2×2分割表をもとに作成したグラフである。図11において、「irAE+」は、Grade3以上のirAEが認められたことを示し、「irAE-」は、Grade3以上のirAEが認められなかったことを示している。図11に示す結果から、G6PDの発現量lowである群において、Grade3以上のirAEが認められる症例が有意に多いことがわかった(p=0.019)。すなわち、G6PDの発現量lowである場合には、G6PDの発現量highである場合と比較して、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因してGrade3以上のirAEを発症する可能性が高いとの相関が有意に認められた。したがって、G6PDの発現量を指標として、皮膚癌の患者への免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因するGrade3以上のirAEを発症する可能性を予測できることがわかった。
【0080】
<皮膚血管肉腫>
1.試料
皮膚血管肉腫の7症例14標本を試料として用いた。RNAの抽出方法、次世代シーケンス解析の方法、G6PDの免疫組織染色の方法、G6PD発現量の評価基準等は、メルケル細胞癌の実施例において説明した内容と同様である。
【0081】
(1)症例A
症例Aは、原発巣の場所が頭部であり、治療としてwPTX療法と放射線療法とを行った症例である。症例Aでは、wPTX投与していたがPS(performance status)が悪化し、BSC(Best supportive care)方針となった。その後、肺転移が認められて原病死に至った。症例AにおけるOS(全生存期間)は、389日であった。
【0082】
(2)症例B
症例Bは、原発巣の場所が頭部であり、治療としてwPTX療法と放射線療法とエリブリン療法とを行った症例である。症例Bでは、wPTX投与中に耳下腺リンパ節転移が認められたため、エリブリン投与に変更したが、気胸(PD)を発症した。症例BにおけるOSは、488日であった。
【0083】
(3)症例C
症例Cは、原発巣の場所が頭部であり、治療として、手術、IL-2を用いた免疫療法、wDTX療法、wPTX療法および放射線療法を行った症例である。症例Cでは、wDTX投与により気胸を発症したため、wPTX投与に変更された。患者希望により投与が中断され、化学療法開始を検討中の症例である。症例CにおけるOSは、4826日以上である。
【0084】
2.免疫組織染色
図12は、皮膚血管肉腫における免疫組織染色によるG6PDの発現解析の結果を示す説明図である。図12では、皮膚血管肉腫の症例A,B,Cにおける免疫組織染色の画像を紙面上側に示し、その拡大画像を紙面下側に示している。症例Aおよび症例Bでは、試料として生検標本を用いた結果が示されており、症例Cでは、試料として手術標本を用いた結果が示されている。図12に示す結果から、症例Aおよび症例Bでは、G6PDが高発現し、症例Cでは、G6PDが低発現していることが確認された。また、G6PDの発現レベルと予後との関係から、G6PDの発現量が低い場合は、良好な予後を示し、G6PDの発現量が高い場合は、予後が悪い傾向にあることが示唆された。このことから、皮膚癌の種類が皮膚血管肉腫である場合においても、皮膚癌の種類がメルケル細胞癌である場合と同様な傾向が認められたといえる。したがって、皮膚血管肉腫においても、メルケル細胞癌の場合と同様に、G6PDの発現量を指標として、皮膚癌の予後を予測でき、免疫チェックポイント阻害薬の有効性を評価でき、免疫チェックポイント阻害薬の投与の可否を判定でき、皮膚癌の悪性度を評価でき、皮膚癌の再発の可能性を予測でき、皮膚癌の免疫活性を評価できることが示唆された。
【0085】
3.次世代シーケンス解析
図13は、皮膚血管肉腫における次世代シーケンス解析によるG6PD発現解析の結果を示す説明図である。試料として用いた14標本のうち、G6PD陽性は10試料であり、G6PD陰性は4試料であった。ここで、G6PD陽性とは、免疫組織染色の結果において腫瘍細胞の染色率が50%以上であり、G6PDが高発現していることを示している。G6PD陰性とは、免疫組織染色の結果において腫瘍細胞の染色率が50%未満であり、G6PDが低発現していることを示している。
【0086】
4.GSEA解析
G6PD高発現群において発現量が多かった遺伝子群について、遺伝子リストのエンリッチメント解析(GSEA解析:Gene set enrichment analysis)を、GSEAソフトウェア(https://www.gsea-msigdb.org/gsea/)を用いて行った。遺伝子セットとして、MSigDB(Molecular Signatures Database)が提供するc5 Gene Ontology(GO)遺伝子セットコレクションを用いた。
【0087】
図14および図15は、皮膚血管肉腫におけるG6PDの発現量が多い群におけるGSEA解析の結果を示す説明図である。図14および図15に示す結果から、G6PDのRNA発現量が高い群では、抗体産生の異常があることが示された。したがって、G6PDの発現量が高い群では、免疫が低下している可能性が示唆された。
【0088】
以上説明した実施例の結果から、皮膚癌の種類に関わらず同様な傾向が認められたといえる。したがって、皮膚癌の種類に関わらず、G6PDの発現量を指標とすることによって、皮膚癌の予後を予測でき、免疫チェックポイント阻害薬の有効性を評価でき、免疫チェックポイント阻害薬の投与の可否を判定でき、皮膚癌の悪性度を評価でき、皮膚癌の再発の可能性を予測でき、皮膚癌の免疫活性を評価でき、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因するGrade3以上のirAEの発症可能性を予測できることが示唆された。
【0089】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
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