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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-23
(45)【発行日】2025-01-31
(54)【発明の名称】吸着装置
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/06 20060101AFI20250124BHJP
【FI】
B25J15/06 A
B25J15/06 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021000651
(22)【出願日】2021-01-06
(65)【公開番号】P2022106009
(43)【公開日】2022-07-19
【審査請求日】2023-10-10
(73)【特許権者】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芦澤 怜史
(72)【発明者】
【氏名】大原 賢一
【審査官】神山 貴行
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-016084(JP,U)
【文献】特開平05-315434(JP,A)
【文献】実開平05-056376(JP,U)
【文献】国際公開第2016/157422(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/067234(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力差によって被吸着面に吸着する吸着装置であって、
外部空間よりも減圧される空間を内部に形成するとともに、前記空間に連通し且つ外面に開口する複数のセルを形成したケース部材と、
前記ケース部材の外面を覆うとともに、前記複数のセルのそれぞれに対応した複数の位置において厚さ方向に貫通する貫通孔を形成した弾性を有するシート部材と、
前記ケース部材における外面よりも内部側の位置において複数の前記貫通孔のそれぞれに臨んで配置されており、前記シート部材が弾性変形して前記セル内に進入した際に前記シート部材が当接可能な当接面を有するストッパ部材と、
を備えており、
前記ストッパ部材は、前記セルとの間に隙間を形成しつつ、前記ケース部材に取り付けられており、
前記セルの開口は、外方に向けて拡開して形成されていることを特徴とする吸着装置。
【請求項2】
圧力差によって被吸着面に吸着する吸着装置であって、
外部空間よりも減圧される空間を内部に形成するとともに、前記空間に連通し且つ外面に開口する複数のセルを形成したケース部材と、
前記ケース部材の外面を覆うとともに、前記複数のセルのそれぞれに対応した複数の位置において厚さ方向に貫通する貫通孔を形成した弾性を有するシート部材と、
前記ケース部材における外面よりも内部側の位置において複数の前記貫通孔のそれぞれに臨んで配置されており、前記シート部材が弾性変形して前記セル内に進入した際に前記シート部材が当接可能な当接面を有するストッパ部材と、
を備えており、
前記セルと前記ストッパ部材との間の隙間の断面積は、前記貫通孔の断面積よりも大きいことを特徴とする吸着装置。
【請求項3】
前記セルの開口は、外方に向けて拡開して形成されていることを特徴とする請求項2に記載の吸着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は従来の吸着装置を開示している。この吸着装置は吸着体を備えている。吸着体は変形部を備えている。変形部は、吸着対象物に当接した状態において、負圧吸引されることによって対象物から離間する方向、すなわち吸着体の内部側に凹状に変形される。これによって、変形した変形部と対象物との間には、外部よりも減圧された密閉空間が形成される。吸着装置は、このようにして生じさせた密閉空間の内部の圧力と外部空間の圧力との差によって、対象物を吸着することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-208801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の場合、例えばリーク等によって密閉空間内に外部から空気が侵入してしまうと、外部空間との圧力差が解消され、吸着状態を維持することができなくなってしまう。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、被吸着面に吸着した状態を良好に維持できる吸着装置を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の吸着装置は、圧力差によって被吸着面に吸着する吸着装置であって、
外部空間よりも減圧される空間を内部に形成するとともに、前記空間に連通し且つ外面に開口する複数のセルを形成したケース部材と、
前記ケース部材の外面を覆うとともに、前記複数のセルのそれぞれに対応した複数の位置において厚さ方向に貫通する貫通孔を形成した弾性を有するシート部材と、
前記ケース部材における外面よりも内部側の位置において複数の前記貫通孔のそれぞれに臨んで配置されており、前記シート部材が弾性変形して前記セル内に進入した際に前記シート部材が当接可能な当接面を有するストッパ部材と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
この吸着装置は、ケース部材の内部の空間を減圧すると、この空間の減圧された圧力が複数のセルを介してシート部材の内面側(セル側)に作用する。シート部材には各セルに対応した位置において貫通孔が形成されているため、これらの貫通孔を介してシート部材の外面側も減圧される。これによって、吸着装置は、シート部材の下面と被吸着面との間を減圧し、外部空間との圧力差を生じさせることができる。
【0008】
また、シート部材の外面と被吸着面との間に空気が侵入したとしても、貫通孔を介してケース部材内の空間に吸引することができる。その結果、外部空間との圧力差が生じた状態を良好に維持することができる。
【0009】
また、複数のセルのうちのいずれかにおいて、被吸着面上のスルーホールやクラック等を介して過大な空気の流れが生じた場合には、空気の流入による圧力差によってシート部材が弾性変形する。弾性変形したシート部材は、セル内に進入してストッパ部材の当接面に当接する。これにより、貫通孔が閉塞されて空間内の減圧状態が維持され、他のセルにおける外部空間との圧力差が維持される。その結果、空気が流入しない他のセルにおいて、外部空間との圧力差を良好に維持することができる。
【0010】
したがって、本発明に係る吸着装置は、被吸着面に吸着した状態を良好に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1に係る吸着装置を模式的に示す断面図である。
図2】実施例1に係る吸着装置を模式的に示す分解断面図である。
図3】実施例1に係る吸着装置を被吸着面に吸着させた状態を模式的に示す図(その1)である。
図4】実施例1に係る吸着装置を被吸着面に吸着させた状態を模式的に示す図(その2)である。
図5】実施例2に係る吸着装置を模式的に示す断面図である。
図6】他の実施形態に係る吸着装置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
本発明の吸着装置において、前記セルの開口は、外方に向けて拡開して形成されているとよい。この場合、シート部材が弾性変形してセル内に進入した際、セルの開口周縁によって屈曲したシート部材に作用する応力集中を緩和することができる。その結果、シート部材の損傷を抑制することができる。
【0013】
本発明の吸着装置において、前記セルと前記ストッパ部材との間の隙間面積は、前記貫通孔の断面積よりも大きいことが好ましい。この場合、ケース部材の内部の空間から貫通孔までの間における圧力損失を抑制できるので、ケース部材の内部空間の圧力を貫通孔に有効に作用させることができる。すなわち、セルとストッパ部材との間の隙間面積が貫通孔の断面積よりも小さい場合、セルとストッパ部材との間の隙間がボトルネックとなり、ケース部材の内部空間の圧力を貫通孔に有効に作用させることができない。これに対し、セルとストッパ部材との間の隙間面積が貫通孔の断面積よりも大きくすることで、内部空間の圧力を貫通孔に有効に作用させることができる。
【0014】
次に、本発明の吸着装置を具体化した実施例1及び実施例2について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明においては、便宜上、図1から図6の各図に表れた吸着装置の上下方向をそのまま上方、下方と定義する。すなわち、以下の説明における吸着装置の上下方向とは、水平面に平行な被吸着面に吸着している際の姿勢における上下方向である。但し、本発明に係る吸着装置における使用時の向きについてはこの限りではない。
【0015】
また、以下の各実施例では、被吸着対象としてプリント配線基板S(以下、単に基板Sとも表記する)を例示する。図1に示すように、基板Sは薄板状をなしており、上面Aを被吸着面として吸着される。基板Sには、例えば種類に応じた任意の位置に、上面Aから板厚方向に貫通するスルーホールT(図4参照)が形成され得る。
【0016】
<実施例1>
図1及び図2に示すように、実施例1に係る吸着装置1は、ケース部材10、シート部材20、及びストッパ部材30を備えている。ケース部材10は、下面壁10A、上面壁10B、及び側面壁10Cを有して内部に空間Rを形成する。ケース部材10は複数(図1では、3つ)のセル11を形成している。各セル11は、上部において空間Rに連通し、下部においてケース部材10の外面に開口している。なお、吸着装置1において、複数のセル11は、図1に表れる左右方向の配列のみならず、この方向及び上下方向のそれぞれに対して直交する方向においても配列されている。
【0017】
ケース部材10は吸気孔12を形成している。吸気孔12は、真空ポンプ、エゼクタ等の図示しない減圧手段に接続されている。ケース部材10は、吸気孔12から空間R内の空気を吸引することによって、空間Rを外部の空間よりも減圧する。
【0018】
本実施例において、ケース部材10は、ケース本体13及びプレート14を有して構成されている。図1及び図2に示すように、ケース本体13はケース部材10における上面壁10B及び側面壁10Cを構成し、プレート14はケース部材10における下面壁10Aを構成する。ケース本体13及びプレート14は、それぞれアルミニウム合金等の金属製である。ケース本体13及びプレート14は、空間Rを減圧した状態やそれによって被吸着面に吸着した状態であっても、形状を維持し得る所定の剛性を有している。
【0019】
ケース本体13は、平面視矩形状をなすとともに、下方に開口する凹状に形成されている。プレート14は、ケース本体13と同等の大きさの平面視矩形状の板状をなしている。プレート14は、ケース本体13の下面に取り付けられてケース本体13の開口を塞ぐ。ケース部材10は、これらケース本体13及びプレート14を組み合わせることによって空間Rを形成している。ケース本体13とプレート14との間には、気密を確保するための図示しないシール部材が介在している。
【0020】
ケース部材10において、複数のセル11は、下面壁10Aを構成するプレート14に形成されている。複数のセル11は、プレート14を上下に貫通する断面円形状の貫通孔として形成されている。各セル11の大きさは、直径約5mmである。また、ケース部材10において、吸気孔12は、ケース本体13における上面壁10Bを構成する部分を上下に貫通して形成されている。
【0021】
図3に示すように、本実施例において、各セル11の下面開口11Aは、下方(外方)に向けて拡開して形成されている。具体的には、各セル11の下面開口11Aはテーパ状に拡開している。下面開口11AはいわゆるC面取り状に拡開して形成されており、そのテーパ面の傾斜角度はセル11の軸に対して約45°に設定されている。
【0022】
図1及び図3に示すように、シート部材20はケース部材10の下面壁10Aの外面を覆う。シート部材20は、ケース部材10における各セル11が形成されている部分においては、各セル11の下面開口11Aを覆っている。シート部材20は、弾性変形によってセル11内に進入し得る所定の弾性を有している。シート部材20は複数の貫通孔21を形成している。複数の貫通孔21は、各セル11に対応した位置においてシート部材20の厚さ方向に貫通して形成されている。本実施例において、シート部材20の下面20Aは、被吸着面に吸着する際に被吸着面に対向して接触する吸着面である。すなわち、実施例1に係る吸着装置1は、シート部材20の下面20Aを基板Sの上面Aに接触させることによって吸着する。
【0023】
本実施例の場合、シート部材20は、ケース部材10の平面形状と同等の大きさの略矩形状のシート状に形成してなる。シート部材20は、弾性を有するゲル状高分子材料からなる。ゲル状高分子材料としては、例えば、炭化水素で構成される高分子材料が挙げられる。具体的には、スチレン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、オレフィン系等の熱可塑性エラストマーであることができる。シート部材20の厚さは、0.5mm程度である。貫通孔21の大きさは、直径1mm程度であり、セル11の内径の約0.2倍の大きさの直径で形成されている。
【0024】
図1及び図3に示すように、ストッパ部材30は、ケース部材10の下面壁10Aの下面(ケース部材の外面)よりも上側(ケース部材の内部側)の奥まった位置において、貫通孔21に臨んで配置されている。ストッパ部材30は当接面30Aを有している。当接面30Aは、シート部材20が弾性変形してセル11内に進入した際にシート部材20が当接可能である。
【0025】
本実施例の場合、ストッパ部材30は、図1に示すように、複数のセル11のそれぞれに対応して複数設けられている。各ストッパ部材30は、それぞれに対応するセル11を上方から覆ってケース部材10の下面壁10Aの内面(上面)に固定されている。各ストッパ部材30は、下方に向かって段階的に縮径する円柱状をなしている。具体的には、図2及び図3に示すように、各ストッパ部材30は、上側に位置する頭部31と、下側に位置する脚部32と、を有している。ストッパ部材30は、脚部32をセル11に挿入し、頭部31の嵌合部31Aをセル11の上端部に嵌め込んで、ケース部材10の下面壁10Aに取り付けられている。
【0026】
図2及び図3に示すように、頭部31は、セル11の内径よりも大きな外径を有する円柱状に形成されている。頭部31の下端部には嵌合部31Aが形成されている。嵌合部31Aは、頭部31における上端側の部分よりも縮径して形成されている。頭部31は、嵌合部31Aにおいて、セル11の内径と略同等の内径を有している。頭部31は切欠き部31Bを形成している。吸着装置1は、この切欠き部31Bによって、ストッパ部材30とセル11との間の隙間を形成してセル11と空間Rとの連通を確保している。
【0027】
図2及び図3に示すように、切欠き部31Bは、頭部31の下端側の部分を周方向において部分的に切り欠いて形成している。具体的には、切欠き部31Bは、頭部31の周方向において4箇所が均等配置されており、それぞれ約45°の角度幅で扇状に切欠かれている。この切欠き部31Bによって、本実施例の吸着装置1は、セル11内の空間を空間Rに連通させている。切欠き部31Bによって形成されるセル11内の空間と空間Rを連通する空間は、本発明に係るセルとストッパ部材との間の隙間に相当する。この隙間の断面積(隙間面積)は、貫通孔21の断面積よりも十分に大きく設定されている。切欠き部31Bは、ストッパ部材30の軸方向において、嵌合部31Aの軸方向の長さの約2倍の長さで形成されている。
【0028】
図2及び図3に示すように、脚部32は、頭部31の外径及びセル11の内径のいずれよりも小さな外径の円柱状に形成されている。具体的には、脚部32の外径は約3mmであり、セル11の内径の約0.6倍である。したがって、脚部32の外周面とセル11の内周面との間の隙間の断面積は、シート部材20における貫通孔21の断面積よりも十分な大きさで形成されている。脚部32は、頭部31と略同軸に、頭部31の下端から下方に延びて設けられている。脚部32の下端面は上述の当接面30Aとされている。
【0029】
次に、上記構成の吸着装置1の作用について説明する。
吸着装置1を用いて基板Sを吸着する際には、図3に示すように、まず、吸着装置1における吸着面であるシート部材20の下面20Aを基板Sの上面Aに接触させる。シート部材20は、弾性を有するゲル状高分子材料からなるため基板Sの上面Aの表面形状に沿った形状に容易に変形し、セル11内の空間、ひいてはこれに連通する空間Rの気密性を確保することができる。
【0030】
この状態で吸気孔12から真空引きし、空間R内を圧力P1に減圧する。この時、空間R内の圧力P1は、各セル11を介してシート部材20に作用する。また、シート部材20には各セル11に対応する位置において貫通孔21が形成されていることから、空間R内の圧力P1は、各セル11と貫通孔21とを介して基板Sの上面Aに直接的に作用する。これに対し、上面Aとは反対側の面である基板Sの下面には、空間Rの外部の圧力である圧力P0が作用している(図3参照)。このように、吸着装置1は、基板Sの上面Aに作用する空間R内の圧力P1と、基板Sにおける上面Aとは反対側の面に作用する外部空間の圧力P0と、の圧力差によって、基板Sを吸着することができる。
【0031】
また、吸着装置1は、貫通孔21を形成したことによって、吸着面であるシート部材20の下面20Aと基板Sの上面Aとの間を圧力P1に減圧した状態を維持することが可能である。例えば、従来のようにシート部材に貫通孔が形成されていない場合、シート部材と被吸着面との間に形成される密閉空間にリーク等によって空気が侵入すると、外部空間との圧力差が減少して吸着状態を維持することができない。これに対し、吸着装置1は、基板Sの上面Aとシート部材20の下面20Aとの間の空気を貫通孔21から空間R内に吸引することによって、基板Sの上面Aとシート部材20の下面20Aとの間にリークする空気を吸引し続けるなどして、基板Sの表裏における圧力差を維持可能である。
【0032】
また、吸着装置1において、シート部材20及びストッパ部材30は、空間Rに過大な空気が流入しようとした際にこれを阻止する弁機構として機能する。例えば、図4に示すように、複数のセル11のいずれかの近傍にスルーホールTが位置した場合、このスルーホールTから貫通孔21、セル11内の空間を介して、空間R内に流入する空気の流れが生じる。この時、シート部材20の下面20A側と、セル11の下面開口11Aに面するシート部材20の上面側との間には圧力差が発生する。シート部材20は、この圧力差によって弾性変形し、セル11内に進入する。
【0033】
そして、弾性変形したシート部材20は、ストッパ部材30の当接面30Aに当接し、貫通孔21が閉塞される。これによって、空間Rへの空気の流入が阻止され、空間R内の減圧状態が維持される。このように、吸着装置1は、スルーホールTが近傍に位置するセル11においてはシート部材20を弾性変形させて貫通孔21を閉塞して空間Rの真空破壊を回避する。そして、吸着装置1は、スルーホールTが近傍に位置しない他のセル11において、基板Sの吸着を実現する。
【0034】
なお、このようにシート部材20が弾性変形してセル11内に進入した場合、シート部材20には屈曲による応力が作用する。吸着装置1では、セル11の下面開口11Aが下方に向けて拡開して形成されていることから、セル11の下面開口11Aの周縁で屈曲されたシート部材20に対して作用する応力集中が緩和される。また、弾性変形してセル11内に進入したシート部材20は、ストッパ部材30の当接面30Aに当接する。このため、シート部材20がそれ以上に過大に変形するのが抑制される。このように、吸着装置1では、シート部材20が弾性変形によって損傷するのを抑制するようにしている。
【0035】
また、一般的に、基板におけるスルーホールは、基板の品種等に応じて、異なる位置に異なる数で形成され得る。基板上のクラック等の発生の有無や発生箇所については、個々の基板によって異なる。吸着装置1は、上述のようにして複数のセル11のいずれかによってスルーホールやクラック等に起因する空気のリークを阻止しつつ他のセル11によって吸着状態を維持することによって、種々の品種の基板に対応して吸着することが可能である。
【0036】
以上のように、実施例1に係る吸着装置1は、ケース部材10、シート部材20、及びストッパ部材30を備えている。ケース部材10は内部に空間Rを形成する。この空間Rは外部の空間よりも減圧される。ケース部材10は複数のセル11を形成している。複数のセル11は、空間Rに連通するとともにケース部材10の下面壁10Aの下面に開口している。シート部材20は、セル11内に弾性変形自在にケース部材10の下面壁10Aの下面を覆う。シート部材20は貫通孔21を形成している。貫通孔21は、複数のセル11のそれぞれに対応した複数の位置において厚さ方向に貫通している。ストッパ部材30は、ケース部材10における下面壁10Aの下面よりも内部側の位置において、各貫通孔21に臨んで配置されている。ストッパ部材30は当接面30Aを有している。当接面30Aは、シート部材20が弾性変形してセル11内に進入した際にシート部材20が当接可能である。
【0037】
このような構成により、吸着装置1は、ケース部材10の内部の空間Rを減圧すると、この空間Rの減圧された圧力が複数のセル11を介してシート部材20の内面側(セル11側)に作用する。シート部材20には各セル11に対応した位置において貫通孔21が形成されているため、これらの貫通孔21を介してシート部材20の外面側である下面20A側も減圧される。これによって、吸着装置1は、シート部材20の下面20Aと被吸着面である基板Sの上面Aとの間を減圧し、外部空間との圧力差を生じさせることができる。
【0038】
また、シート部材20の下面20Aと被吸着面である基板Sの上面Aとの間に空気が侵入したとしても、貫通孔21を介してケース部材10内の空間Rに吸引することができる。その結果、外部空間との圧力差が生じた状態を良好に維持することができる。
【0039】
また、スルーホールT等を介して過大な空気の流れが生じたセル11においては、空気の流入による圧力差によってシート部材20が弾性変形し、セル11内に進入してストッパ部材30の当接面30Aに当接する。これにより、貫通孔21が閉塞されて空間R内の減圧状態が維持され、他のセル11における外部空間との圧力差が維持される。その結果、空気が流入しない他のセル11において、外部空間との圧力差を良好に維持することができる。
【0040】
したがって、吸着装置1は、被吸着面に吸着した状態を良好に維持することができる。
【0041】
また、吸着装置1において、セル11の下面開口11Aは、下方に向けて拡開して形成されている。このため、シート部材20が弾性変形してセル11内に進入した際、セル11の下面開口11Aの周縁によって屈曲したシート部材20に作用する応力集中を緩和することができる。その結果、シート部材20の損傷を抑制することができる。
【0042】
また、吸着装置1において、ストッパ部材30には切欠き部31Bが形成されており、セル11とストッパ部材30との間の隙間を形成している。そして、この隙間面積は、シート部材20に形成した貫通孔21の断面積よりも大きい。このため、ケース部材10の内部の空間Rから貫通孔21までの間における圧力損失を抑制でき、空間Rの圧力を貫通孔21に有効に作用させることができる。
【0043】
<実施例2>
次に、実施例2に係る吸着装置201について説明する。吸着装置201は、図5に示すように、実施例1の吸着装置1の構成に加えて、吸着面部50を備えている点において、実施例1と相違する。以下の説明において、実施例1と同一の構成は同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0044】
吸着面部50はシート部材20を覆う。具体的には、吸着面部50は、シート部材20におけるケース部材10の外面を覆う面とは反対側の面である下面20Aを覆う。吸着面部50は複数の貫通孔51を形成している。複数の貫通孔51は、シート部材20に形成された複数の貫通孔21に対応した位置において、吸着面部50の厚さ方向に貫通して形成されている。貫通孔51は、シート部材20の貫通孔21に連通している。これにより、貫通孔51の内部の空間R51は、貫通孔21、セル11内の空間を介して、ケース部材10の内部の空間Rに連通している。吸着面部としては、例えば、エラストマー等からなる弾性体であることができる。この場合、被吸着面への密着性といった観点において有利である。また、吸着面部としては、エラストマーよりも硬質な樹脂製、金属製等であってもよい。吸着面部は、減圧によって圧壊しない程度の強度を有しているとよい。
【0045】
吸着装置201は、吸着面部50の下面50Aを基板Sの上面Aに接触させることによって吸着する。すなわち、吸着装置201における吸着面は、吸着面部50の下面50Aである。吸着装置201は、吸着面部50の下面50Aを基板Sの上面Aに接触させ、この状態でケース部材10の内部の空間Rを減圧することによって貫通孔51の内部の空間R51を減圧し、基板Sの上面Aに減圧された圧力を作用させる。
【0046】
上記構成の吸着装置201は、実施例1の吸着装置1と同様の効果を奏する。
また、吸着装置201は、吸着面部50の下面50Aを吸着面として基板Sの上面Aに吸着することから、基板Sの上面Aには、貫通孔51の断面積の大きさに応じた吸着力が作用する。一方、シート部材20は、空間Rに過大な空気が流入しようとした際には、実施例1と同様に空間R内の減圧状態を維持するための弁機構として機能する。このように、吸着装置201は、貫通孔51の断面積の大きさを任意に設定することによって所望の大きさの吸着力を得つつ、シート部材20とストッパ部材30とによる弁機構の機能を享受できる。
【0047】
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例1及び実施例2に限定されるものではなく、例えば次のような形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)吸着装置が吸着する被吸着面としては、上記各実施例において例示した基板の上面に限定されない。本発明に係る被吸着面は、圧力差によって吸着し得る限り、その方向や大きさ、形成されている物品の種類等については特に問わない。
(2)ケース部材の大きさ、形状、材質等は、上記各実施例において例示したものに限定されない。
(3)セルの数、大きさ、断面形状、配列形態等は上記各実施例において例示したものに限定されない。セルの開口を外方に向けて拡開することも必須ではない。例えば、図6に示すように、空間R側において拡開して形成されたセル211としてもよい。すなわち、セル211は、ケース部材の外面側において、空間R側の開口の大きさよりも小さく開口していてもよい。この場合、セル内の容積を確保しつつ、シート部材が弾性変形してセル内に進入する際の進入量を開口の大きさに合わせて自在に設定することができる。
(4)シート部材の形状、厚さ、材質等は上記各実施例において例示したものに限定されない。
(5)ストッパ部材の構成、形状、大きさ等は上記各実施例において例示したものに限定されない。ストッパ部材は、例えば、セルよりも空間の内部側に配置されていてもよい。ストッパ部材が複数のセル毎に個別に設けられることは必須ではなく、例えば複数のセルに対応して一体的に設けられていてもよい。
(6)セルの開口が拡開して形成されている場合、その拡開形態としては、例えば、いわゆるテーパ状、R面取り状等の連続的に拡開する形態や、ざぐり等の段階的に拡開する形態等であることができる。
【符号の説明】
【0048】
1,201…吸着装置
10…ケース部材
11,211…セル
11A…セルの下面開口(セルの開口)
20…シート部材
20A…シート部材の下面
21…貫通孔
30…ストッパ部材
30A…当接面
A…基板の上面(被吸着面)
R…ケース部材の内部の空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6