(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-23
(45)【発行日】2025-01-31
(54)【発明の名称】釘
(51)【国際特許分類】
F16B 15/00 20060101AFI20250124BHJP
【FI】
F16B15/00 D
(21)【出願番号】P 2024066673
(22)【出願日】2024-04-17
【審査請求日】2024-04-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390016322
【氏名又は名称】アマテイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154014
【氏名又は名称】正木 裕士
(74)【代理人】
【識別番号】100154520
【氏名又は名称】三上 祐子
(72)【発明者】
【氏名】野田 徹
(72)【発明者】
【氏名】山本 信之
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2023/033809(WO,A1)
【文献】特表2001-511873(JP,A)
【文献】特開2016-180478(JP,A)
【文献】特表2019-513957(JP,A)
【文献】特開平03-103606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 15/00
F16B 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体軸部と、
前記本体軸部の釘頭部側に設けられている第1リング部群と、
前記本体軸部の釘先端部側に設けられている第2リング部群と、を有し、
前記第1リング部群は、断面三角山形に形成されている第1リング部を備え、
前記第1リング部は、前記釘頭部側に向かって緩い下り勾配状の第1斜面と、前記釘先端部側に向かって急な下り勾配状の第2斜面と、で構成され、
前記第2リング部群は、断面三角山形に形成されている第2リング部を備え、
前記第2リング部は、前記釘先端部側に向かって緩い下り勾配状の第3斜面と、前記釘頭部側に向かって急な下り勾配状の第4斜面と、で構成され、
前記第1斜面及び前記第3斜面の前記本体軸部側の根元部分は、R形状に形成されないが、前記第2斜面及び前記第4斜面の前記本体軸部側の根元部分は、R形状に形成され、さらに、
前記第2リング部群は、前記本体軸部の釘頭部下から
52mm未満離れた位置に設けられておらず、52mm以上離れた位置に設けられ、さらに、
前記第1リング部及び第2リング部の山高さが0.2mm以上である釘。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釘に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の釘として、特許文献1に記載のものが知られている。この特許文献1に記載の釘は、本体軸部の少なくとも釘先端部側に、リング部が軸方向一定ピッチで断面三角山形に形成されると共に隣り合う三角山形のリング部間に釘ブランクの径より小径で軸方向と平行な谷底部が形成されてなるリング部群を設けたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の釘は、木造住宅の構造上重要な躯体部位等に釘打ちしても板割れを起こさず、しかも緊結力の大きいものであり、ツーバイフォー工法などの建築の材料として使われる木材であるSPF(Spruce Pine Fir)材に特に有用である。
【0005】
しかしながら、昨今、SPF材よりも硬さが柔らかい木材である杉の需要が高まってきており、この杉に対しては、上記の釘は、緊結力が不十分であるという問題があった。
【0006】
この点、より詳しく説明すると、枠組壁工法の平成13年国土交通省告示1540号および1541号にて、CN90のくぎ種を用いる事が定められている緊結部分の箇所がある。この箇所には、許容せん断耐力が800N以上であることが確かめられた場合においては、この限りではないとしている。
【0007】
しかしながら、上記の釘は、杉に対しては、許容せん断耐力が800N以上なく、告示の基準を満たしていない。そのため、杉に対して、上記の釘は、緊結力が不十分であるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑み、杉であっても、緊結力が十分である釘を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記本発明の目的は、以下の手段によって達成される。なお、括弧内は、後述する実施形態の参照符号を付したものであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0010】
請求項1に係る釘は、本体軸部(2)と、
前記本体軸部(2)の釘頭部(2a)側に設けられている第1リング部群(3)と、
前記本体軸部(2)の釘先端部(2b)側に設けられている第2リング部群(4)と、を有し、
前記第1リング部群(3)は、断面三角山形に形成されている第1リング部(R1)を備え、
前記第1リング部(R1)は、前記釘頭部(2a)側に向かって緩い下り勾配状の第1斜面(斜面R1a)と、前記釘先端部(2b)側に向かって急な下り勾配状の第2斜面(斜面R1b)と、で構成され、
前記第2リング部群(4)は、断面三角山形に形成されている第2リング部(R2)を備え、
前記第2リング部(R2)は、前記釘先端部(2b)側に向かって緩い下り勾配状の第3斜面(斜面R2a)と、前記釘頭部(2a)側に向かって急な下り勾配状の第4斜面(斜面R2b)と、で構成され、
前記第1斜面(斜面R1a)及び前記第3斜面(斜面R2a)の前記本体軸部(2)側の根元部分は、R形状に形成されないが、前記第2斜面(斜面R1b)及び前記第4斜面(斜面R2b)の前記本体軸部(2)側の根元部分(R1ba,R2ba)は、R形状に形成され、さらに、
前記第2リング部群(4)は、前記本体軸部(2)の釘頭部(2a)下から52mm未満離れた位置に設けられておらず、52mm以上離れた位置に設けられ、さらに、
前記第1リング部(R1)及び第2リング部(R2)の山高さ(H1,H2)が0.2mm以上であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、杉であっても、緊結力が十分である釘を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】(a)は、本発明に係る釘の一実施形態を示す側面図、(b)は、(a)のX1部分の拡大図、(c)は、(a)のX2部分の拡大図である。
【
図2】(a)は、
図1(b)に示す部分の拡大断面図であり、(b)は、
図1(c)に示す部分の拡大断面図である。
【
図3】試験体を示し、(a)は、側面図、(b)は、正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る釘の一実施形態を、図面を参照して具体的に説明する。なお、以下の説明において、上下左右の方向を示す場合は、図示正面から見た場合の上下左右をいうものとする。
【0014】
<釘の概略説明>
本実施形態に係る釘は、杉であっても、緊結力が十分であるものである。具体的には、
図1に示すように、釘1は、本体軸部2と、第1リング部群3と、第2リング部群4と、で主に構成されている。以下、各構成について詳しく説明する。
【0015】
<本体軸部の説明>
本体軸部2は、
図1(a)に示すように、図示左右方向に延びるほぼ円柱状に形成され、図示左側面には、側面視矩形状の釘頭部2aが一体的に設けられている。さらに、
図1(a)に示すように、本体軸部2の図示右側面には、鋭角な山形状の釘先端部2bが一体的に設けられている。
【0016】
かくして、このように形成される本体軸部2には、
図1(a)に示すように、釘頭部2a側に第1リング部群3が設けられ、釘先端部2b側に第2リング部群4が設けられている。
【0017】
<第1リング部群の説明>
第1リング部群3は、
図1(b)及び
図2(a)に示すように、複数の第1リング部R1が軸方向(図示左右方向)に一定ピッチで設けられており、
図2(a)に示すように、断面三角山形に形成されている。そして、
図1(b)及び
図2(a)に示すように、この第1リング部R1間には、本体軸部2の径よりも小径で軸方向(図示左右方向)と平行な第1谷底部V1が形成されている。
【0018】
ところで、第1リング部R1は、
図2(a)に示すように、釘頭部2a(
図1(a)参照)側(図示左方向)に向かって緩い下り勾配状の斜面R1aと、釘先端部2b(
図1(a)参照)側(図示右方向)に向かって急な下り勾配状の斜面R1bとで構成されている。そして、
図2(a)に示すように、この斜面R1bの本体軸部2(
図1参照)側、すなわち、第1谷底部V1側の根元部分R1baは、R形状に形成されている。
【0019】
さらに、
図2(a)に示すように、第1リング部R1の山高さH1(第1谷底部V1から断面三角山形の頂点R1cまでの距離)は、0.2mm以上に形成されている。
【0020】
<第2リング部群の説明>
第2リング部群4は、
図1(c)及び
図2(b)に示すように、複数の第2リング部R2が軸方向(図示左右方向)に一定ピッチで設けられており、
図2(b)に示すように、断面三角山形に形成されている。そして、
図1(c)及び
図2(b)に示すように、この第2リング部R2間には、本体軸部2の径よりも小径で軸方向(図示左右方向)と平行な第2谷底部V2が形成されている。
【0021】
ところで、第2リング部R2は、
図2(b)に示すように、釘先端部2b(
図1(a)参照)側(図示右方向)に向かって緩い下り勾配状の斜面R2aと、釘頭部2a(
図1(a)参照)側(図示左方向)に向かって、急な下り勾配状の斜面R2bとで構成されている。そして、
図2(b)に示すように、この斜面R2bの本体軸部2(
図1参照)側、すなわち、第2谷底部V2側の根元部分R2baは、R形状に形成されている。
【0022】
さらに、
図2(b)に示すように、第2リング部R2の山高さH2(第2谷底部V2から断面三角山形の頂点R2cまでの距離)は、0.2mm以上に形成されている。
【0023】
かくして、このように形成される第2リング部群4は、
図1(a)に示すように、本体軸部2の釘頭部2a下(図示右方向)から距離Lだけ離れた位置に設けられている。この距離Lは、52mm以上に設定されている。
【0024】
したがって、以上説明してきた釘1は、上記のような構成からなるものであるが、この釘1は、以下(1)~(3)の条件を揃えていることにより、杉であっても、緊結力が十分な釘1となる。
(1)斜面R1bの本体軸部2(
図1参照)側、すなわち、第1谷底部V1側の根元部分R1baは、R形状に形成されている。さらに、斜面R2bの本体軸部2(
図1参照)側、すなわち、第2谷底部V2側の根元部分R2baは、R形状に形成されている。
(2)第2リング部群4は、本体軸部2の釘頭部2a下(図示右方向)から52mm以上離れた位置に設けられている。
(3)第1リング部R1の山高さH1(第1谷底部V1から断面三角山形の頂点R1cまでの距離)は、0.2mm以上に形成されている。さらに、第2リング部R2の山高さH2(第2谷底部V2から断面三角山形の頂点R2cまでの距離)は、0.2mm以上に形成されている。
【実施例】
【0025】
ここで、本発明者らは、このことを証明するため、以下の実験を行った。
【0026】
<試験体の説明>
試験体の種類と、構成材料を以下の表1に示す。
【0027】
【0028】
試験Aの釘としては、
図2(a)に示す根元部分R1ba及び
図2(b)に示す根元部分R2baをR形状に形成し、
図1(a)に示す距離Lを52mmに設定し、
図2(a)に示す山高さH1及び
図2(b)に示す山高さH2を0.2mmに設定している。
【0029】
試験Bの釘としては、
図2(a)に示す根元部分R1ba及び
図2(b)に示す根元部分R2baをR形状に形成せず、
図1(a)に示す距離Lを52mmに設定し、
図2(a)に示す山高さH1及び
図2(b)に示す山高さH2を0.2mmに設定している。
【0030】
試験Cの釘としては、
図2(a)に示す根元部分R1ba及び
図2(b)に示す根元部分R2baをR形状に形成し、
図1(a)に示す距離Lを51mmに設定し、
図2(a)に示す山高さH1及び
図2(b)に示す山高さH2を0.2mmに設定している。
【0031】
試験Dの釘としては、
図2(a)に示す根元部分R1ba及び
図2(b)に示す根元部分R2baをR形状に形成し、
図1(a)に示す距離Lを52mmに設定し、
図2(a)に示す山高さH1及び
図2(b)に示す山高さH2を0.18mmに設定している。
【0032】
<試験方法の説明>
次に、試験方法について説明する。
【0033】
試験体を、以下のように作製した。すなわち、
図3(a)に示すように、主材S1と側材S2とを、主材S1の上面S1a及び側材S2の上面S2aとが面一とならず、さらに、主材S1の下面S1b及び側材S2の下面S2bとが面一とならないように、ずらした状態で重ね合わせた。そして、
図3(a)に示すように、主材S1の上面S1a及び側材S2の上面S2a側に釘1を打ち込み、主材S1の下面S1b及び側材S2の下面S2b側に釘1を打ち込んだ。この際、
図3(b)に示すように、釘頭部2aと釘先端部2bの位置が逆さになるように横並びに一対の釘1を、主材S1の上面S1a及び側材S2の上面S2a側、並びに、主材S1の下面S1b及び側材S2の下面S2b側に、それぞれ打ち込んだ。くぎの打ち込みは、釘頭部2aが側材S2表面と面一となるように配慮して釘1を打ち込み、1体の試験体とした。
【0034】
かくして、このような試験体を作製した後、油圧式材料試験機(島津製作所製 UH-50A型 容量:500KN)を用いて、
図3(a)に示すように、主材S1の上面S1aに荷重Pをかけて、釘1のせん断試験を行った。具体的には、以下の手順で試験を実施した。なお、試験体の主材S1と側材S2の相対変位は、変位計(容量100mm、200μ/mm)により測定した。
【0035】
まず、単調加力接合部試験による予備試験を、試験体No.00にて行い、試験許容応力に対応する降伏点変位δyを求めた。
【0036】
次に、本試験として試験体No.01~06にて、予備試験で得られた降伏点変位δyを基準として正負交番繰り返し試験の荷重スケジュールを定め、繰り返し試験を行った。荷重スケジュールは、上記降伏点変位δyの25%と50%の変位に対して正負両方向に1回ずつ加力し、その後75%、100%、400%、600%、800%の変位まで正負両方向に3回ずつ加力した。
【0037】
次に、加力は最大荷重到達後、最大荷重の80%まで荷重が低下するか、変位が30mm以上となるまで行い、最大荷重が変位30mmを超える場合には、変位30mm以内の最大値を最大荷重とした。
【0038】
<試験結果>
上記の試験方法にて行った試験結果を表2~表9に示す。なお、試験体の主材S1と側材S2の密度と含水率は、試験開始前に測定し、含水率は、木材水分計(ケット科学研究所製)により測定した。また、接合部の基準許容応力の計算は、文献「2018年 枠組壁工法建築物構造計算指針」(発行:一般社団法人日本ツーバイフォー建築協会)の第V編第2章(5)「接合部の基準許容応力及び基準終局耐力の評価」にしたがい、荷重変形曲線から試験許容応力Pyを求め、下記に示す数式1により釘の1本あたりの短期許容せん断耐力を計算した。
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
上記の試験結果をまとめると、以下の通りとなる。
【0049】
各試験体の1本あたりの釘の短期許容せん断力の計算結果を示すと、以下の通りとなる。
【0050】
【0051】
この点、上記説明したように、枠組壁工法の平成13年国土交通省告示1540号および1541号にて、CN90のくぎ種を用いる事が定められている緊結部分の箇所がある。この箇所には、許容せん断耐力が800N以上であることが確かめられた場合においては、この限りではないとしている。
【0052】
そのため、この基準に照らせば、試験Aの釘のみ、許容せん断耐力が800N以上であることが分かった。すなわち、
図2(a)に示す根元部分R1ba及び
図2(b)に示す根元部分R2baをR形状に形成し、
図1(a)に示す距離Lを52mmに設定し、
図2(a)に示す山高さH1及び
図2(b)に示す山高さH2を0.2mmに設定した釘のみ、許容せん断耐力が800N以上であることが分かった。
【0053】
したがって、上記の結果から、以下の条件(1)~(3)を満たす釘1であれば、杉であっても、許容せん断耐力が800N以上であることから、緊結力が十分であることが証明された。
(1)斜面R1bの本体軸部2(
図1参照)側、すなわち、第1谷底部V1側の根元部分R1baは、R形状に形成されている。さらに、斜面R2bの本体軸部2(
図1参照)側、すなわち、第2谷底部V2側の根元部分R2baは、R形状に形成されている。
(2)第2リング部群4は、本体軸部2の釘頭部2a下(図示右方向)から52mm以上離れた位置に設けられている。
(3)第1リング部R1の山高さH1(第1谷底部V1から断面三角山形の頂点R1cまでの距離)は、0.2mm以上に形成されている。さらに、第2リング部R2の山高さH2(第2谷底部V2から断面三角山形の頂点R2cまでの距離)は、0.2mm以上に形成されている。
【0054】
一方、各試験体の試験後の破壊モードを下記に示すと、以下の通りとなる。
【0055】
【0056】
以上のことから、試験Aの釘は、試験B~試験Dの釘に比べ、釘折れし難いことが分かった。そのため、上記の条件(1)~(3)を満たす釘1は、曲げに強いことも分かった。
【0057】
したがって、以上の試験結果から、上記の条件(1)~(3)を満たす釘1は、緊結力が十分であり、さらには、曲げに強いことも分かった。
【0058】
<変形例の説明>
なお、本実施形態において示した形状等はあくまで一例であり、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である
【符号の説明】
【0059】
1 釘
2 本体軸部
2a 釘頭部
2b 釘先端部
3 第1リング部群
4 第2リング部群
R1 第1リング部
R1a 斜面(第1斜面)
R1b 斜面(第2斜面)
R1ba 根元部分
R2 第2リング部
R2a 斜面(第3斜面)
R2b 斜面(第4斜面)
R1ba 根元部分
H1 第1リング部の山高さ
H2 第2リング部の山高さ
【要約】
【課題】杉であっても、緊結力が十分である釘を提供する。
【解決手段】斜面R1b及び斜面R2bの本体軸部側の根元部分R1ba,R2baは、R形状に形成されている。さらに、第2リング部群は、本体軸部の釘頭部下から52mm以上離れた位置に設けられている。そしてさらに、第1リング部R1及び第2リング部R2の山高さ(H1,H2)が0.2mm以上である。これにより、杉であっても、緊結力が十分である釘を提供することができる。
【選択図】
図2