(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-23
(45)【発行日】2025-01-31
(54)【発明の名称】熱膨張が抑制された強化エラストマーシート積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 25/10 20060101AFI20250124BHJP
B32B 5/12 20060101ALI20250124BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20250124BHJP
【FI】
B32B25/10
B32B5/12
B32B7/027
(21)【出願番号】P 2021011899
(22)【出願日】2021-01-28
【審査請求日】2023-05-15
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】荻野 勉
(72)【発明者】
【氏名】萩原 幸久
(72)【発明者】
【氏名】清水 敦也
(72)【発明者】
【氏名】清水 康弘
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-045025(JP,A)
【文献】特開平02-266932(JP,A)
【文献】特開平07-276525(JP,A)
【文献】特開2002-124542(JP,A)
【文献】特開2002-008749(JP,A)
【文献】特開平06-270340(JP,A)
【文献】特開2019-064192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
H01L 21/00-33/64
H01B 1/00-19/04
H01R 3/00-43/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーシートを本体として備え、前記本体が複数の層状補強材を含む強化エラストマーシートであって、
前記複数の層状補強材は、前記エラストマーシートの一方の主面に沿って互いに略平行に任意の方向に延在しており、前記複数の層状補強材の各々は、前記一方の主面から他方の主面に向けて延在しており、
前記層状補強材を構成する材料の線膨張率が、前記エラストマーシートを構成するエラストマーの線膨張率よりも小さい、熱膨張が抑制された強化エラストマーシート
から任意に選択された複数枚が互いの主面を向かい合わせて積層された、熱膨張が抑制された強化エラストマーシート積層体であり、
前記強化エラストマーシート積層体の積層方向に見て、第一の強化エラストマーシートにおいて任意に選ばれた1つの層状補強材の延在方向と、第二の強化エラストマーシートにおいて任意に選ばれた1つの層状補強材の延在方向と、の交差角が10~80°である、熱膨張が抑制された強化エラストマーシート積層体。
【請求項2】
エラストマーと、複数の層状補強材とを含む強化エラストマーシートであって、
平面方向に配置された複数の帯状のエラストマー部と、各エラストマー部同士の間に介在してこれらを接着する複数の接着部と、を備え、
前記接着部は、前記エラストマー部に接着する接着材と、前記接着材に接し、前記強化エラストマーシートの厚さ方向に延在し、かつ前記帯状のエラストマー部の長さ方向に延在する層状補強材と、を有し、
前記層状補強材を構成する材料の線膨張率が、前記エラストマーの線膨張率よりも小さい、熱膨張が抑制された強化エラストマーシートか
ら任意に選択された複数枚が互いの主面を向かい合わせて積層された、熱膨張が抑制された強化エラストマーシート積層体であり、
前記強化エラストマーシート積層体の積層方向に見て、第一の強化エラストマーシートにおいて任意に選ばれた1つの層状補強材の延在方向と、第二の強化エラストマーシートにおいて任意に選ばれた1つの層状補強材の延在方向と、の交差角が10~80°である、熱膨張が抑制された強化エラストマーシート積層体。
【請求項3】
エラストマーシートを本体として備え、前記本体が複数の層状補強材を含む強化エラストマーシートであって、
前記複数の層状補強材は、前記エラストマーシートの一方の主面に沿って互いに略平行に任意の方向に延在しており、前記複数の層状補強材の各々は、前記一方の主面から他方の主面に向けて延在しており、
前記層状補強材を構成する材料の線膨張率が、前記エラストマーシートを構成するエラストマーの線膨張率よりも小さい、熱膨張が抑制された強化エラストマーシート、
及び、
エラストマーと、複数の層状補強材とを含む強化エラストマーシートであって、
平面方向に配置された複数の帯状のエラストマー部と、各エラストマー部同士の間に介在してこれらを接着する複数の接着部と、を備え、
前記接着部は、前記エラストマー部に接着する接着材と、前記接着材に接し、前記強化エラストマーシートの厚さ方向に延在し、かつ前記帯状のエラストマー部の長さ方向に延在する層状補強材と、を有し、
前記層状補強材を構成する材料の線膨張率が、前記エラストマーの線膨張率よりも小さい、熱膨張が抑制された強化エラストマーシート、
から任意に選択された複数枚が互いの主面を向かい合わせて積層された、熱膨張が抑制された強化エラストマーシート積層体であり、
前記強化エラストマーシート積層体の積層方向に見て、第一の強化エラストマーシートにおいて任意に選ばれた1つの層状補強材の延在方向と、第二の強化エラストマーシートにおいて任意に選ばれた1つの層状補強材の延在方向と、の交差角が10~80°である、熱膨張が抑制された強化エラストマーシート積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化エラストマーシート及びその製造方法、並びに強化エラストマーシート積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコーンゴムシートの片方の面に合成繊維織物、無機繊維織物又は樹脂フィルムを積層した複合シリコーンゴムシートの製造方法が開示されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シリコーンゴム等のエラストマーシートが高温環境下で使用された場合、シートの面方向及び厚さ方向に熱膨張が起こり、設置が不安定化することがある。シートが面方向に膨張すれば、シートの端部が所定位置からはみ出て面方向にずれたり、浮き上がったりしてしまうし、シートが厚さ方向に膨張すれば、シートに面する物を押し上げたり、不要な接触を招いたりしてしまう。このため、高温環境下でもサイズが安定に保たれるエラストマーシートが求められている。特許文献1に開示された複合シリコーンゴムシートにあっては、機械的強度は向上しているが、高温環境下での使用において熱膨張を抑制することは検討されていない。
【0005】
本発明は、高温環境下において、面方向のうち少なくとも一方向への熱膨張が抑制された強化エラストマーシートとその製造方法を提供する。また、強化エラストマーシート積層体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] 1層以上の層状補強材と、1層以上のエラストマー層と、が積層された強化エラストマーシートであって、第一の層状補強材の一方の主面に第一のエラストマー層が積層された積層構造を有し、前記層状補強材を構成する材料の線膨張率が、前記エラストマー層を構成するエラストマーの線膨張率よりも小さい、強化エラストマーシート。
[2] エラストマーシートを本体として備え、前記本体が複数の層状補強材を含む強化エラストマーシートであって、前記複数の層状補強材は、前記エラストマーシートの一方の主面に沿って互いに略平行に任意の方向に延在しており、前記複数の層状補強材の各々は、前記一方の主面から他方の主面に向けて延在しており、前記層状補強材を構成する材料の線膨張率が、前記エラストマーシートを構成するエラストマーの線膨張率よりも小さい、強化エラストマーシート。
[3] エラストマーと、複数の層状補強材とを含む強化エラストマーシートであって、平面方向に配置された複数の帯状のエラストマー部と、各エラストマー部同士の間に介在してこれらを接着する複数の接着部と、を備え、前記接着部は、前記エラストマー部に接着する接着材と、前記接着材に接し、前記強化エラストマーシートの厚さ方向に延在し、かつ前記帯状のエラストマー部の長さ方向に延在する層状補強材と、を有し、前記層状補強材を構成する材料の線膨張率が、前記エラストマーの線膨張率よりも小さい、強化エラストマーシート。
[4] 前記層状補強材が不織布である、[1]~[3]の何れか一項に記載の強化エラストマーシート。
[5] [2]~[4]の何れか一項に記載の強化エラストマーシートから任意に選択された複数枚が互いの主面を向かい合わせて積層された、強化エラストマーシート積層体。
[6] 前記強化エラストマーシート積層体の積層方向に見て、第一の強化エラストマーシートにおいて任意に選ばれた1つの層状補強材の延在方向と、第二の強化エラストマーシートにおいて任意に選ばれた1つの層状補強材の延在方向と、の交差角が10~80°である、[5]に記載の強化エラストマーシート積層体。
[7] 複数のエラストマー層の主面を互いに向かい合わせ、前記主面同士の間に接着材と、層状補強材とを介在させて積層したブロック積層体を得る工程と、前記ブロック積層体の積層方向に沿って、前記ブロック積層体内の各層状補強材を切断する向きで、前記ブロック積層体を切断することにより、強化エラストマーシートを得る工程と、を含み、前記層状補強材を構成する材料の線膨張率が、前記エラストマー層を構成するエラストマーの線膨張率よりも小さいことを特徴とする、強化エラストマーシートの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の強化エラストマーシートにあっては、面方向のうち少なくとも一方向への熱膨張が抑制されているので、例えば80~150℃程度の高温環境下での使用に適している。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第一態様の強化エラストマーシートの一例の断面図である。
【
図2】本発明の第二態様の一例であり、強化エラストマーシート20の一方の主面の上面図である。
【
図4】エラストマー層24を8枚重ねて、各エラストマー層24同士の間に接着材23及び層状補強材21を介在させて得た、ブロック積層体28の斜視図である。
【
図5】
図4のブロック積層体28をX-Y方向の切断面で薄く切り出して得た、強化エラストマーシート20の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、部材の「厚さ」や「幅」は、測定顕微鏡等の拡大観察手段を用いて、無作為に選択される5箇所以上の厚さや幅を測定した値の平均値である。
本発明の材料又は部材の線膨張率は、JIS K 7197-1991「プラスチックの熱機械分析による線膨張率試験方法」に準拠して、公知の熱機械分析装置を用い、温度25~150℃の範囲(代表温度:87.5℃)で測定された平均線膨張率とする。
本発明の材料又は部材の引張弾性率は、JIS K 7161の規格群に準拠して測定された値とする。
本発明の材料として不織布が用いられる場合、JIS L 1913:2010「一般不織布試験方法」に準拠して、その通気性、厚さ(A法:0.5kPa圧下)、引張強度(標準時)、伸度(標準時)、目付(単位面積当たりの質量)が測定される。
【0010】
≪強化エラストマーシート≫
<第一態様>
本発明の第一態様は、1層以上の層状補強材と、1層以上のエラストマー層と、が積層された強化エラストマーシートである。
図1に例示するように、強化エラストマーシート10は、第一の層状補強材1の一方の主面1aに第一のエラストマー層2Aが積層されており、第一の層状補強材1の他方の主面1bに第二のエラストマー層2Bが積層された積層構造を有する。ここで層状補強材1の主面は、最も面積の広い2つの面の各々をいう。層状補強材1と各エラストマー層2A,2Bとの間には別の接着層(不図示)が介在していても構わない。別の接着層は各エラストマー層よりも薄いことが好ましい。また、別の接着層は層状補強材1の内部に含浸していてもよい。好適なエラストマー材料及び接着剤としては、後述の製造方法の説明で例示したものが挙げられる。
【0011】
強化エラストマーシート10の積層構造は上記の例に限られず、第二のエラストマー層2Bを除いた2層構造であってもよい。この2層構造において、層状補強材1は裏面側に露出している。また、強化エラストマーシート10と同様の3層構造において、層状補強材とエラストマー層の関係を逆にして、エラストマー層の一方の主面と他方の主面にそれぞれ層状補強材が備えられた3層構造であってもよい。また、ここで説明した2~3層構造に限られず、層状補強材とエラストマー層が任意の枚数で積層された構成とすることができる。好適な層状補強材としては、後述の製造方法の説明で例示したものが挙げられる。
【0012】
第一態様の強化エラストマーシートにおいて、各エラストマー層の厚さは任意に設定可能であり、それぞれ独立に、例えば5μm~100μmとすることができる。
【0013】
第一態様の強化エラストマーシートにおいて、各層状補強材の厚さは、例えば1μm~100μmが挙げられる。強化エラストマーシートの厚さを薄くする観点から薄い方が好ましく、層状補強材の引張強度を高める観点から厚い方が好ましい。これらの観点から、例えば、5μm~50μmが好ましく、10μm~40μmがより好ましく、15μm~30μmがさらに好ましい。
【0014】
第一態様の強化エラストマーシートの厚さ方向に見て(仮想的に透視して)、任意に選択される層状補強材の面積Aと、選択された層状補強材の直下又は直上のエラストマー層の面積Bとの比(A/B)は、例えば、0.5~2が好ましく、0.8~1.2がより好ましく、0.9~1.1がさらに好ましく、1.0が最も好ましい。
【0015】
第一態様の強化エラストマーシートの平面視の形状、サイズ、厚さ等は、用途に応じて適宜設定される。シートの平面視の形状としては、例えば、矩形、円形、楕円形、多角形、その他の任意の形状が採用できる。シートの縦×横のサイズは特に限定されず、例えば、0.5cm×0.5cm~10cm×10cmとすることができる。シートの厚さは、例えば10μm~1000μmとすることができる。
【0016】
第一態様の強化エラストマーシートにおいて、各層状補強材を構成する材料の線膨張率は各エラストマー層を構成するエラストマーの線膨張率よりも小さい。具体的には、任意に選択される層状補強材と、その直下又は直上のエラストマー層とで比較する。
【0017】
(作用効果)
第一態様の強化エラストマーシートを高温環境下(例えば80~150℃)においた場合、層状補強材よりも線膨張率が大きいエラストマー層がシートの面方向に膨張しようとする。しかし、エラストマー層と同様に、シートの面方向に沿って層状補強材が備えられている。各層状補強材を構成する材料の線膨張率は各エラストマー層を構成するエラストマーの線膨張率よりも小さい。このため、各層状補強材の熱膨張の程度は、各エラストマー層の熱膨張の程度よりも小さいので、各エラストマー層がシートの面方向に熱膨張しようとするのを、層状補強材がその直下又は直上で抑制するように働く。この結果、第一態様の強化エラストマーシートの面方向の熱膨張を抑制することができる。
【0018】
以上で説明した第一態様の強化エラストマーシートは、単独で使用されてもよいし、複数枚が積層された積層体として使用されてもよいし、別の種類のシート状部材が積層された異種積層体として使用されてもよい。別の種類のシートとして、例えば、後述する第二態様の強化エラストマーシート、公知の樹脂からなる樹脂シートなどが挙げられる。
【0019】
<第二態様>
本発明の第二態様の一例である強化エラストマーシート20は、
図2に例示するように、エラストマーシート22を本体として備え、前記本体が複数の層状補強材21を含む。前記本体は矩形のシート状であり、その横方向をX方向、その縦方向をY方向、その主面に対する垂線方向(すなわちシートの厚さ方向)をZ方向とする。
【0020】
複数の層状補強材21は、エラストマーシート22の一方の主面に沿って互いに略平行に任意の方向(図示例ではY方向)に延在している。また、複数の層状補強材21の各々は、前記一方の主面から他方の主面に向けて延在して、貫通している。ここでエラストマーシート22の主面は、最も面積の広い2つの面の各々をいう。
【0021】
強化エラストマーシート20は、その平面方向(X-Y方向)に配置された複数の帯状のエラストマー部αと、各エラストマー部α同士の間に介在してこれらを接着する複数の接着部βと、を備える。エラストマー部αと接着部βはX方向に見て交互に配置されており、これらのY方向の長さは同じで、延在する向きはY方向に揃っている。
【0022】
強化エラストマーシート20の平面視(X-Y面視)で帯状の各エラストマー部αのX方向の幅は、接着部βの幅よりも広いことが好ましく、例えば5μm~200μm程度とすることができる。好適なエラストマー材料については後述する。
【0023】
接着部βは、隣接するエラストマー部αに接着する接着材23と、層状補強材21とを有する。接着部βの幅(隣接するエラストマー部α同士の離間距離)は、例えば、5μm~200μm程度とすることができる。
【0024】
接着材23は、隣接するエラストマー部αに接着し、かつ、層状補強材21を保持できるものであればよく、公知の接着剤の硬化物が挙げられる。好適な接着剤については後述する。
層状補強材21を保持しつつ、隣接するエラストマー部αに接着するために、層状補強材21の両面に層状の接着材23が配置されていることが好ましい。層状補強材21の内部に接着材23の一部が、含浸(侵入)する等して含まれていてもよい。
【0025】
層状補強材21は、強化エラストマーシート20の厚さ方向(Z方向)に延在し、かつ帯状のエラストマー部αの長さ方向(図示例ではY方向)にも延在する。つまり、層状補強材21の2つ主面(最も広い面)は、それぞれ隣接するエラストマー部αに面している。
【0026】
1つの接着部βに含まれる層状補強材21は1層でもよいし、2層でもよいし、3層以上でもよい。
強化エラストマーシート20が有する全ての接着部βに層状補強材21が含まれていることが好ましいが、一部の接着部βに層状補強材21が含まれていなくても構わない。
【0027】
層状補強材21の厚さ(図示例ではX方向の厚さ)は、例えば1μm~100μmが挙げられる。X方向における各エラストマー部αの占有率を高める観点から薄い方が好ましく、層状補強材21の引張強度を高める観点から厚い方が好ましい。これらの観点から、例えば、5μm~50μmが好ましく、10μm~40μmがより好ましく、15μm~30μmがさらに好ましい。
【0028】
層状補強材21がエラストマー部αに沿ってZ方向及びY方向に延在しているので、エラストマー部αが熱によって膨張しようとしても、層状補強材21がその膨張に追随しないので、高温環境下における強化エラストマーシート20のZ方向及びY方向への熱膨張を抑制する。この効果を充分に得る観点から、層状補強材21を構成する材料の線膨張率は、エラストマーシート22及びエラストマー部αを構成するエラストマーの線膨張率よりも小さいことが好ましい。また、層状補強材21を構成する材料の引張弾性率は、エラストマーシート22及びエラストマー部αを構成するエラストマーの引張弾性率よりも大きい(引張応力に対して変形し難い)ことが好ましい。好適な層状補強材21については後述する。
【0029】
層状補強材21の強化エラストマーシート20の厚さ方向(Z方向)の長さは、強化エラストマーシート20の厚さに対して50~100%が好ましく、70~100%がより好ましく、90~100%がさらに好ましく、100%が最も好ましい。100%である場合、層状補強材21は、強化エラストマーシート20の厚さ方向(Z方向)に貫通して、エラストマーシート22の一方の主面22aと他方の主面22bに露出している。つまり、エラストマーシート22の一方の主面22a又は他方の主面22bの平面視において、複数の層状補強材21は、互いに略平行に任意の方向(図示例ではY方向)に延在しており、かつ、エラストマーシート22の一方の主面22aから他方の主面22bに向けて貫通していることが、最も好ましい。
層状補強材21のZ方向の長さが上記の好適な範囲の長さであると、層状補強材21を含む接着部βと隣接するエラストマー部αとのZ方向の接触面積が増えるので、Z方向における強化エラストマーシート20の熱膨張を抑制する効果がより一層得られる。
【0030】
図3に例示するように、Z方向に沿って延在する各層状補強材21は、エラストマーシート22の各主面に対して任意の角度で傾いていてもよいし、垂直であってもよく、垂直であることが好ましい。厚さ方向の断面視における各層状補強材21の主面に対する傾きの角度は、例えば、鋭角側で0~20°程度が挙げられる。
【0031】
層状補強材21のエラストマー部αの長さ方向(Y方向)に沿う長さは、隣接するエラストマー部αの長さに対して50~100%が好ましく、70~100%がより好ましく、90~100%がさらに好ましく、100%が最も好ましい。100%である場合、層状補強材21は、強化エラストマーシート20の縦方向(Y方向)に貫通して、エラストマーシート22の側面に露出している。層状補強材21のY方向の長さが上記の好適な範囲の長さであると、層状補強材21を含む接着部βとエラストマー部αとのY方向の接触面積が増えるので、Y方向における強化エラストマーシート20の熱膨張を抑制する効果がより一層得られる。
【0032】
第二態様の強化エラストマーシートは、図示以外の形態であってもよい。シートの平面視の形状、サイズ、厚さ等は、用途に応じて適宜設定される。シートの平面視の形状は矩形に限定されず、例えば、円形、楕円形、多角形、その他の任意の形状が採用できる。シートの平面視における層状補強材の延在方向は、シート本体の外形の辺に沿っていてもよいし、沿わずに任意の方向に向いていてもよい。
強化エラストマーシートの縦×横のサイズは特に限定されず、例えば、0.5cm×0.5cm~10cm×10cmとすることができる。
強化エラストマーシートの厚さは、例えば20μm~1000μmとすることができる。
【0033】
(作用効果)
第二態様の強化エラストマーシート20を高温環境下(例えば80~150℃)においた場合、層状補強材21よりも線膨張率が大きい帯状のエラストマー部αが面方向(X-Y方向)及び厚さ方向(Z方向)に膨張しようとする。しかし、各エラストマー部αに隣接する接着部βには層状補強材21が備えられている。層状補強材21は、Z-Y面に平面構造を有する。層状補強材21を構成する材料の線膨張率は各エラストマー部αを構成するエラストマーの線膨張率よりも小さい。このため、層状補強材21の熱膨張の程度は、各エラストマー部αの熱膨張の程度よりも小さいので、各エラストマー部αがY方向及びZ方向に熱膨張しようとするのを、層状補強材21がその脇で抑制するように働く。この結果、強化エラストマーシート20の縦方向(Y方向)及び厚さ方向(Z方向)の熱膨張を、層状補強材21によって抑制することができる。
【0034】
≪強化エラストマーシート積層体≫
本発明の第三態様は、第二態様の強化エラストマーシートから任意に選択された複数枚が互いの主面を向かい合わせて積層された、強化エラストマーシート積層体である。
【0035】
前記強化エラストマーシート積層体の積層方向に見て、つまり全強化エラストマーシートの重なりを仮想的に透視したとき、第一の強化エラストマーシートにおいて任意に選ばれた1つ又は2つ以上の層状補強材の延在方向(第一の強化エラストマーシートの面方向における延在方向)と、第二の強化エラストマーシートにおいて任意に選ばれた1つ又は2つ以上の層状補強材の延在方向(第二の強化エラストマーシートの面方向における延在方向)と、の交差角は、鋭角側を見て、10~90°が好ましく、30~90°がより好ましく、50~90°がさらに好ましく、70~90°が特に好ましい。
【0036】
交差角が上記範囲であると、強化エラストマーシート積層体の面方向における熱膨張をより一層抑制することができる。このメカニズムを詳しく説明する。例えば、第一の強化エラストマーシートが有する層状補強材が、強化エラストマーシート積層体の面方向の0°の向きに延在しているとする。そして第二の強化エラストマーシートが有する層状補強材が、強化エラストマーシート積層体の面方向の90°の向きに延在しているとする。そうすると、強化エラストマーシート積層体の面方向に見て、0°の方向に対する熱膨張は第一の強化エラストマーシートによって抑制され、90°の方向に対する熱膨張は第二の強化エラストマーシートによって抑制される。したがって、強化エラストマーシート積層体にあっては、その面方向の0°と90°の互いに直交する2方向に対する熱膨張を抑制することができる。さらに、前記面方向の45°の方向に対する熱膨張も、第一及び第二の強化エラストマーシートの各々の層状補強材が分担して抑制する。
また、強化エラストマーシート積層体の積層方向(厚さ方向)への熱膨張は、各強化エラストマーシートが有する層状補強材が抑制する。
【0037】
なお、上記の強化エラストマーシート積層体が3枚以上の強化エラストマーシートを含む場合、第三以降の強化エラストマーシートが有する層状補強材の延在方向は、第一又は第二の強化エラストマーシートが有する層状補強材の延在方向と一致していていもよいし、交差していてもよい。強化エラストマーシート積層体の積層方向に見て、各強化エラストマーシートが有する層状補強材の延在方向が互いに等角度の交差角を有することが、熱膨張を均等方向に抑止する観点から好ましい。
【0038】
<機能層>
以上で説明した本発明に係る第一~第三態様の強化エラストマーシートの少なくとも一方の主面に、機能層が配置されていてもよい。機能層としては、例えば、粘着層、ブロッキング防止層、ソリッド層等が挙げられる。
粘着層としては、前記主面に直接積層された粘着剤からなる粘着層や、前記主面に密着させた任意の基材層とその基材層に積層された粘着剤からなる粘着層が挙げられる。
前記ブロッキング防止層としては、前記主面に積層されたシリコーンゴム層からなり、その表面がマット加工(エンボス加工)により凹凸が形成され、触れるとサラサラした感触が得られ、スベリ性を有するものが挙げられる。
前記ソリッド層としては、前記主面に接着剤層を介して接着されたPET等の任意の樹脂層からなるものが挙げられる。
【0039】
≪強化エラストマーシートの製造方法≫
本発明の第四態様は、積層工程と切断工程とを含む強化エラストマーシートの製造方法である。本態様の製造方法によれば、第二態様の強化エラストマーシートを製造できる。また、本態様の製造方法を参照して、第一態様及び第三態様の強化エラストマーシート(積層体)を製造することができる。
【0040】
[積層工程]
積層工程は、複数のエラストマー層の主面を互いに向かい合わせ、前記主面同士の間に接着材と、層状補強材とを介在させて積層したブロック積層体を得る工程である。
具体的には、例えば、エラストマー製フィルムからなるエラストマー層24を二枚準備し、各エラストマー層24の一方の主面に接着剤からなる接着層を形成する。次に、第一のエラストマー層24の前記接着層に対して、層状補強材21の一方の主面を貼付する。これにより、第一のエラストマー層24の一方の主面の少なくとも一部又は全部を層状補強材21が覆った状態となる。続いて、第一のエラストマー層24に貼付した層状補強材21の他方の主面に対して、第二のエラストマー層24の一方の主面を、前記接着層を介して貼付する。これにより、2枚のエラストマー層24の主面同士を向かい合わせて、前記接着層が硬化してなる接着材23及び層状補強材21を介して貼付した積層体が得られる。このように順次エラストマー層24を積層することにより、所望の枚数のエラストマー層24を重ねたブロック積層体28が得られる(
図4参照)。
ブロック積層体28において、各層状補強材21は、各エラストマー層24同士の間隙において、各エラストマー層24の主面の少なくとも一部を覆っている。
【0041】
図4に例示したブロック積層体28では、8枚のエラストマー層24が積層されており、各エラストマー層24の間には、1層の層状補強材21が備えられている。
ブロック積層体28におけるエラストマー層24間の各間隙に層状補強材21が全て備えられていることが好ましいが、少なくとも1つの間隙に層状補強材21が備えられていればよい。各間隙に備えられた層状補強材21は1層(1枚)でもよいし、2層(2枚)でもよいし、3層(3枚)以上でもよい。接着部βの接着力を高める観点から、各間隙に備えられた層状補強材21は1層又は2層が好ましく、1層がより好ましい。
【0042】
各エラストマー層24を形成するエラストマー材料は、それぞれ独立に、例えば、シリコーンゴム、ウレタンゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、天然ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエンゴム等が挙げられる。これらの中でも、硬化後の寸法変化や反りが生じ難く、圧縮永久歪が小さく、耐熱性が高い、シリコーンゴムが好ましい。シリコーンゴムは、加熱硬化型(付加型、有機過酸化物型)、室温硬化型(付加型、縮合型)のいずれでもよい。
各エラストマー層は、それぞれ独立に、稠密なソリッドゴムでもよいし、発泡ゴムでもよい。
【0043】
前記エラストマー材料には、公知の添加剤、例えば樹脂の重合を促す触媒、樹脂同士の架橋を促す架橋剤、抗酸化剤、染料、顔料、充填剤、レベリング剤、発泡剤等を適量で添加してもよい。
【0044】
接着材23を形成する前記接着剤として、公知の接着剤を適用することができる。エラストマー層24に対する接着性を高める観点から、硬化後にエラストマー層24を構成するエラストマー材料と同じものになる接着剤を使用することが好ましい。この場合、接着材23とエラストマー層24は同一化してもよい。
【0045】
図4のX方向に見て、接着材23及び層状補強材21からなる接着部βの厚さは、ブロック積層体28の厚さを低減する観点から、各エラストマー層24の厚さよりも薄くすることが好ましい。
【0046】
ブロック積層体28において、任意に選択される層状補強材21を構成する材料の線膨張率(熱膨張率)は、当該層状補強材21の直下又は直上のエラストマー層24を構成するエラストマーの線膨張率よりも小さい。
【0047】
層状補強材21を構成する材料が複数種類である場合(層状補強材21が複合材料である場合)、各構成材料の線膨張率に各構成材料の体積分率を乗じた値の合計を複合材料の線膨張率とする。例えば、層状補強材21から取り出した材料Aの体積分率が40%、層状補強材21から取り出した材料Bの体積分率が60%である場合、その複合材料の線膨張率は、[材料Aの線膨張率×材料Aの体積分率(0.4)+材料Bの線膨張率×材料Bの体積分率(0.6)]で求められた値とする。なお、層状補強材21に含浸したエラストマーは層状補強材21を構成する材料とはみなさない。
【0048】
(各エラストマー層24を構成するエラストマーの線膨張率)÷(層状補強材21を構成する材料の線膨張率)で表される膨張比Rは、2以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましい。上限値は特に制限されず、100であってもよいし、1000であってもよい。膨張比Rが大きいほど、エラストマー層24の熱膨張を層状補強材21が抑制する作用が大きくなる。
【0049】
シリコーンゴムの線膨張率(単位:1/K)は約300×10-6である。エラストマー層24を構成するエラストマーがシリコーンゴムである場合、層状補強材21を構成する材料の線膨張率は、200×10-6以下が好ましく、100×10-6以下がより好ましく、50×10-6以下がさらに好ましい。層状補強材21の材料の線膨張率が小さいほど、高温環境下において接着部βに隣接するエラストマー層24の熱膨張を抑制することができる。層状補強材21の材料の線膨張率の下限値は特に制限されず、1×10-6程度が目安として挙げられる。
【0050】
汎用的な材料の線膨張率を次に例示する。カッコ内の数字が線膨張率(単位:×10-6/K)である;銅(17.7)、チタン(8.4)、ポリプロピレン(70程度)、ポリエチレン(130程度)、ポリカーボネート(66)、ポリエチレンテレフタレート(65)、ポリエーテルエーテルケトン(40程度)、ポリアミドイミド(30.6)。
【0051】
エラストマー層24を構成するエラストマーがシリコーンゴムである場合、層状補強材21の材料としては、上記の好適な線膨張率を有する樹脂が好ましく、耐熱性及び引張強度に優れる液晶ポリマーがより好ましく、ポリアリレート(線膨張率:25×10-6/K程度)がさらに好ましい。
【0052】
ブロック積層体28を構成する層状補強材21の形状は、層状であればよく、平板、フィルム、布などが層状に該当する。層状補強材21の大きさは、エラストマー層24の一方の主面と同程度であることが好ましく、例えば、縦×横のサイズの目安として、10cm×10cm~100cm×100cmが挙げられる。
【0053】
層状補強材21の厚さは、薄いほどブロック積層体28の厚さ(
図4のX方向)を薄くすることができるが、高温環境下における熱膨張を抑制する補強材としての機能を発揮するためにある程度の厚さは必要である。このバランスを考慮して、層状補強材21の厚さ(
図4のX方向)は、1μm~100μmが好ましく、5μm~50μmがより好ましく、10μm~30μmがさらに好ましい。
【0054】
層状補強材21の面方向(層状補強材4の主面に沿う方向)の剛性が過度に強いと、強化エラストマーシートの厚さ方向(
図4のZ方向)のゴム弾性が損なわれる恐れがある。このため、層状補強材21は、その面方向に圧縮力が加わった際に柔軟に変形する可撓性を有することが好ましい。この観点から、層状補強材21は、表面又は内部に多数の空隙を有する有孔材であることが好ましい。好適な有孔材としては、例えばスポンジ様の多孔質材、フェルト、不織布等が挙げられる。
【0055】
層状補強材21が不織布である場合、その通気度(単位:cc/cm2/秒)は、10~500が好ましく、50~300がより好ましく、100~250がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、層状補強材21の層方向の柔軟性(圧縮性)が高まる。また、層状補強材21に接触した接着剤が層状補強材21の内部に含浸し易く、接着性が向上する。上記範囲の上限値以下であると、層状補強材21の引張強度が高まる。
【0056】
層状補強材21が不織布である場合、その厚さは、5μm~50μmが好ましく、10μm~40μmがより好ましく、15μm~30μmがさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、層状補強材21の引張強度が高まる。
上記範囲の上限値以下であると、層状補強材21の層方向の柔軟性(圧縮性)が高まる。
【0057】
層状補強材21が不織布である場合、その引張強度(単位:N/1.5cm)は、少なくとも任意の一方向に対して、例えば
図2のY方向に対して、3以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましい。層状補強材21の引張強度が強いほど、エラストマー層24の熱膨張を抑制しやすくなる。
前記引張強度の上限値は特に制限されず、目安として例えば、100程度が挙げられる。
【0058】
層状補強材21が不織布である場合、その伸度(単位:%)は、少なくとも任意の一方向に対して、例えば
図2のY方向に対して、20以下が好ましく、10以下がより好ましく、5以下がさらに好ましい。層状補強材21の伸度が小さいほど、エラストマー層24の熱膨張を抑制しやすくなる。
前記伸度の下限値は特に制限されず、目安として例えば、0.5程度が挙げられる。
【0059】
層状補強材21が不織布である場合、その目付(単位:g/m2)は、1~50が好ましく、2~30がより好ましく、3~20がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、層状補強材21の引張強度を高めることができる。
上記範囲の上限値以下であると、強化エラストマーシートが軽量化し、その取り扱い性が向上する。
【0060】
層状補強材21が不織布である場合、その不織布をなす繊維の平均繊維径(単位:μm)は、0.5~20が好ましく、1~10がより好ましく、3~7がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、層状補強材21の引張強度を高めることができる。
上記範囲の上限値以下であると、層状補強材21の厚さ、目付を低減することができる。
前記平均繊維径は、前記不織布のSEM像を撮影し、無作為に選択される30本以上の繊維について、任意に選択される箇所の直径を画像処理等で測定した値の平均値である。
【0061】
一般に、不織布は、繊維同士が重なり合ったフリース(ウェブ)を作成するフリース工程と、フリースを構成する繊維同士を結合させる繊維間結合工程とによって製造される。
フリースを作成する方法として、乾式法(繊維同士を乾燥状態で集積する方法)、湿式法(短繊維を水中に分散させる方法)、スパンボンド法(樹脂を溶融・紡糸して得た長繊維を直接集積する方法)、メルトブローン法(溶融した樹脂を紡糸ノズルから吐出する際、その紡糸ノズルの周囲から高温エアを噴射することにより、繊維を細くしてシート状に集積する方法)等が知られている。これらの中でも、繊維径を細くでき、細い繊維だけで構成された不織布を作成できるメルトブローン法によって形成された不織布が、層状補強材21として特に適している。
フリースを構成する繊維同士を結合させる方法として、サーマルボンド法、ケミカルボンド法(含侵法、スプレー法)、ニードルパンチ法等が知られている。
【0062】
層状補強材21が不織布である場合、不織布を構成する繊維の種類は、その繊維の構成材料の線膨張率が前記エラストマーの線膨張率よりも小さいものであれば、特に制限されない。例えば、天然繊維、化学繊維、その他の繊維が挙げられる。
天然繊維としては、例えば、綿、麻、パルプ等のセルロース材料、絹(フィブロイン)、鉱物繊維等が挙げられる。
化学繊維としては、例えば、レーヨン、ナイロンやアラミド等のポリアミド系樹脂、ビニロン、PETやPEN等のポリエステル系樹脂、ポリプロピレン、(メタ)アクリル樹脂、ポリアリレートやパラヒドロキシ安息香酸をモノマー単位として有する液晶ポリマーが挙げられる。
その他の繊維としては、例えば、ガラス繊維が挙げられる。
これらの中でも、線膨張率の測定や管理が容易であることから、層状補強材21の材料としては、化学繊維が好ましく、液晶ポリマーからなる繊維がより好ましい。
【0063】
[切断工程]
前段の工程で得たブロック積層体28内の各層状補強材21の面方向を横切る向きで、任意の厚さ及びサイズでブロック積層体28を切断することにより、強化エラストマーシート20を得る(
図5参照)。
【0064】
切断面の取り方としては、例えば、各層状補強材21の面方向に対して直交する向きで切断すると、強化エラストマーシート20の主面(切断面)に対して、各層状補強材21の面方向が垂直に交わる状態となる。また、各層状補強材21の面方向に対して、任意のなす角で切断すると、強化エラストマーシート20の主面(切断面)に対して、各層状補強材21の面方向が任意のなす角で交わる(主面に対して各層状補強材21の面が斜めに配置されている)状態となる。
【0065】
図2に示す強化エラストマーシート20の平面視(X-Y面視)において、層状補強材21の長さ方向はY方向に沿っているが、層状補強材21の長さ方向はY方向に限らず、任意の方向に設定することができる。例えば、強化エラストマーシート20に対して四角形の抜型を任意の向きで押し当てて抜くことにより、強化エラストマーシート20よりも小さい四角形の強化エラストマーシート(不図示)を得ることができる。この四角形の強化エラストマーシートの平面視における層状補強材21の長さ方向の向きは、抜型を押し当てる向きに応じて任意に設定することができる。
【実施例】
【0066】
[実施例1]
PET基材上に、未硬化のシリコーンゴムからなる厚さ30μmのエラストマー層(エラストマー製フィルム)を形成し、硬化させた後、PET基材を剥離した。このように準備したエラストマー層の2000枚を積層し、ブロック積層体を得た。この際、各エラストマー層の主面に、未硬化のシリコーンゴムを塗布し、不織布を貼付したので、各エラストマー層の間隙にはシリコーンゴムからなる接着材及び不織布が介在した。
ここで使用した不織布は、クラレクラフレックス社製のメルトブローン法によって製造されたベクルス(登録商標)であり、液晶ポリマーであるポリアリレートの繊維(平均繊維径3μm)によって構成されており、目付4g/cm2、厚さ16μm、引張強度11N/1.5cm(MD方向)、伸度3%(MD方向)、通気度204cc/cm2/秒である。
なお、硬化したシリコーンゴムの線膨張率は300×10-6/Kであり、不織布を構成する繊維(ポリアリレート)の線膨張率は25×10-6/Kである。
【0067】
次に、切削加工により、各エラストマー層の間に介在する不織布の面方向に対して約60°でスライスカットし、厚さ150μmの強化エラストマーシートを得た。これをX方向×Y方向=5cm×8cmのサイズに成形して、既に図示した強化エラストマーシート20と同様の構成とした。
【0068】
[比較例1]
エラストマー層とエラストマー層の間に不織布を介在させないこと以外は、実施例と同様にして、エラストマーシート積層体を得た。
【0069】
<加熱試験による評価1>
上記で製造した強化エラストマーシートのX方向の2辺の近傍を金属製のクリップで留めて、強化エラストマーシートが弛まないようにY方向に軽く引っぱった状態で固定し、ホットプレート上で加熱した。その結果、90℃、120℃の何れにおいても、実施例1の強化エラストマーシートの熱膨張による変形は、比較例の熱膨張による変形よりも小さいことが目視で分かった。つまり、実施例1の強化エラストマーシートのY方向及びZ方向(層状補強材21の面方向)に対する熱膨張が比較例に比べて抑制されていた。
【0070】
[実施例2]
実施例1で作製した強化エラストマーシートを2枚準備し、互いの主面を向かい合わせ、シリコーンゴム接着剤を介して積層し、強化エラストマーシート積層体を得た。この際、一方の強化エラストマーシートのY方向と、他方の強化エラストマーシートのY方向が直交するように積層したことにより、強化エラストマーシート積層体の積層方向に見て、一方の強化エラストマーシートの層状補強材の延在方向と、他方の強化エラストマーシートの層状補強材の延在方向との交差角は約90°であった。
【0071】
[比較例2]
比較例1で作製したエラストマーシートを2枚準備し、互いの主面を向かい合わせ、シリコーンゴム接着剤を介して積層し、エラストマーシート積層体を得た。
【0072】
<加熱試験による評価2>
実施例2の強化エラストマーシート積層体、及び比較例2のエラストマーシート積層体について、上述の方法で加熱試験を行った結果、実施例2の熱膨張は、比較例2の熱膨張に比べて、各強化エラストマーシートの互いに直交する2つのY方向(平面視の2方向)及びZ方向に対して抑制されていた。
【符号の説明】
【0073】
1…層状補強材、1a…一方の主面、1b…他方の主面、2A,2B…エラストマー層、
21…層状補強材、22…エラストマーシート、22a…一方の主面、22b…他方の主面、23…接着材、24…エラストマー層、28…ブロック積層体、α…エラストマー部、β…接着部、10…強化エラストマーシート、20…強化エラストマーシート