(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-23
(45)【発行日】2025-01-31
(54)【発明の名称】排ガス浄化触媒装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 37/02 20060101AFI20250124BHJP
B01J 35/57 20240101ALI20250124BHJP
B32B 3/12 20060101ALI20250124BHJP
【FI】
B01J37/02 301D
B01J35/57 Z
B32B3/12 Z ZAB
(21)【出願番号】P 2021190369
(22)【出願日】2021-11-24
【審査請求日】2024-06-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】大賀 剛治
(72)【発明者】
【氏名】岡田 裕己
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正樹
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/114132(WO,A1)
【文献】特開昭51-079692(JP,A)
【文献】米国特許第03959520(US,A)
【文献】特開2018-015704(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B05C 1/00-21/00
B32B 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)セル壁によって区画された複数のセル流路を有するハニカム基材を、前記セル流路の流路方向が鉛直となるように保持し、前記基材の上端面上に触媒コート層形成用塗工液を載置すること、
(B)減圧ポンプによって前記工程(A)後の基材を下端面から吸引して、前記塗工液を前記基材のセル壁上及びセル壁中の1つ以上にコートすること、及び
(C)前記工程(A)後の基材を、次工程まで移送すること、
を含む、排ガス浄化触媒装置の製造方法において、
前記工程(B)及び前記工程(C)を、移送吸引装置によって同時に行う、
排ガス浄化触媒装置の製造方法であって、
前記移送吸引装置が、前記工程(A)後の基材の下端面と、前記減圧ポンプとを連結する、1又は複数の減圧チャネルを有し、
前記減圧チャネルのそれぞれが、第1の減圧チャネル及び第2の減圧チャネルを含み、
前記第1の減圧チャネルは、減圧ポンプと連結されて減圧されており、
前記第2の減圧チャネルは、
前記移送吸引装置が前記工程(A)後の基材を受け取った後、当該基材が所定の位置に移送されるまでは、前記基材の下端面と前記第1の減圧チャネルとを連結し、かつ、
当該基材が所定の位置に移送されたときには、前記基材の下端面と前記第1の減圧チャネルとの連結を解除し、
前記移送吸引装置が、前記第1の減圧チャネルを含む第1層、及び前記第2の減圧チャネルを含む第2層を有し、これらが積層された2層から構成されており、
前記第2層は、前記第1層に対して相対的に移動可能であり、
前記第2層は、前記工程(A)後の基材を受け取った後、前記第1層に対して相対的に移動することによって、前記基材を前記次工程まで移送する、
排ガス浄化触媒装置の製造方法。
【請求項2】
前記移送吸引装置が、円盤状である、請求項1に記載の排ガス浄化触媒装置の製造方法。
【請求項3】
前記移送吸引装置が、それぞれ円盤状の前記第1層及び前記第2層が同軸に積層された2層の円盤状であり、
前記第2層の前記第1層に対する相対的な移動が回転である、
請求項1に記載の排ガス浄化触媒装置の製造方法。
【請求項4】
前記第1の減圧チャネルは、
前記第1層の面のうちの、前記第2層とは反対側の面に開口する、前記減圧ポンプと連結されるための、ポンプ連結開口部、及び
前記第2層側の面に、前記第1層の円周に沿って弧状に開口する、弧状開口部
を有し、
前記第2の減圧チャネルは、
前記第2層の面のうちの、前記第1層側の面に開口する、前記第1の減圧チャネルと連結されるための、減圧チャネル連結開口部、及び
前記第1層とは反対側の面に開口する、前記工程(A)後の基材の下端面と連結されるための、基材連結開口部
を有し、
前記第2層が前記第1層に対して相対的に回転するときに、
前記第2層が前記工程(A)後の基材を受け取った後、当該基材が所定の位置に移送されるまでは、前記第2層の前記減圧チャネル連結開口部は、前記第1層の前記弧状開口部の弧形に沿って移動し、かつ、
当該基材が所定の位置に移送されたときには、前記第2層の前記減圧チャネル連結開口部が、前記第1層の前記弧状開口部の弧形から外れることにより、前記基材の下端面と前記第1の減圧チャネルとの連結が解除される、
請求項3に記載の排ガス浄化触媒装置の製造方法。
【請求項5】
前記第1の減圧チャネルの前記弧状開口部の弧形の中心角が、90°以上270°以下である、請求項4に記載の排ガス浄化触媒装置の製造方法。
【請求項6】
セル壁によって区画された複数のセル流路を有する基材を、前記セル流路の流路方向が鉛直となるように保持し、前記基材の上端面上に触媒コート層形成用塗工液を載置する、塗工液載置装置、及び
触媒コート層形成用塗工液が載置された前記基材を下端面から吸引して、前記塗工液を前記基材のセル壁上及びセル壁中の1つ以上にコートすることと、
触媒コート層形成用塗工液が載置された前記基材を、次工程まで移送することとを同時に行う、移送吸引装置
を含む、排ガス浄化触媒装置の製造システムであって、
前記移送吸引装置が、
触媒コート層形成用塗工液が載置された前記基材の下端面と
、減圧ポンプとを連結する、1又は複数の減圧チャネルを有し、
前記減圧チャネルのそれぞれが、第1の減圧チャネル及び第2の減圧チャネルを含み、
前記第1の減圧チャネルは、減圧ポンプと連結されて減圧されており、
前記第2の減圧チャネルは、
前記移送吸引装置が
触媒コート層形成用塗工液が載置された前記基材を受け取った後、当該基材が所定の位置に移送されるまでは、前記基材の下端面と前記第1の減圧チャネルとを連結し、かつ、
当該基材が所定の位置に移送されたときには、前記基材の下端面と前記第1の減圧チャネルとの連結を解除し、
前記移送吸引装置が、前記第1の減圧チャネルを含む第1層、及び前記第2の減圧チャネルを含む第2層を有し、これらが積層された2層から構成されており、
前記第2層は、前記第1層に対して相対的に移動可能であり、
前記第2層は、
触媒コート層形成用塗工液が載置された前記基材を受け取った後、前記第1層に対して相対的に移動することによって、前記基材を前記次工程まで移送する、
排ガス浄化触媒装置の製造システム。
【請求項7】
前記移送吸引装置が、それぞれ円盤状の前記第1層及び前記第2層が同軸に積層された2層の円盤状であり、
前記第2層の前記第1層に対する相対的な移動が回転である、
請求項6に記載の排ガス浄化触媒装置の製造システム。
【請求項8】
セル壁によって区画された複数のセル流路を有する基材の上端面上に、触媒コート層形成用塗工液が載置された基材を、その下端面から吸引して、前記塗工液を前記基材のセル壁上及びセル壁中の1つ以上にコートすることと、前記基材を、次工程まで移送することとを同時に行う、移送吸引装置であって、
前記移送吸引装置が、
触媒コート層形成用塗工液が載置された前記基材の下端面と
、減圧ポンプとを連結する、1又は複数の減圧チャネルを有し、
前記減圧チャネルのそれぞれが、第1の減圧チャネル及び第2の減圧チャネルを含み、
前記第1の減圧チャネルは、減圧ポンプと連結されて減圧されており、
前記第2の減圧チャネルは、
前記移送吸引装置が
触媒コート層形成用塗工液が載置された前記基材を受け取った後、当該基材が所定の位置に移送されるまでは、前記基材の下端面と前記第1の減圧チャネルとを連結し、かつ、
当該基材が所定の位置に移送されたときには、前記基材の下端面と前記第1の減圧チャネルとの連結を解除し、
前記移送吸引装置が、前記第1の減圧チャネルを含む第1層、及び前記第2の減圧チャネルを含む第2層を有し、これらが積層された2層から構成されており、
前記第2層は、前記第1層に対して相対的に移動可能であり、
前記第2層は、
触媒コート層形成用塗工液が載置された前記基材を受け取った後、前記第1層に対して相対的に移動することによって、前記基材を前記次工程まで移送する、
移送吸引装置。
【請求項9】
前記移送吸引装置が、それぞれ円盤状の前記第1層及び前記第2層が同軸に積層された2層の円盤状であり、
前記第2層の前記第1層に対する相対的な移動が回転である、
請求項8に記載の移送吸引装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化触媒装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジン等の内燃機関から排出される排ガスは、排気系に設置される排ガス浄化触媒装置によって浄化された後、大気に放出されている。この排ガス浄化触媒装置は、例えば、隔壁によって区画された複数のセル流路を有するハニカム基材と、該ハニカム基材の隔壁上及び/又は隔壁中に形成された触媒コート層とを含む構造を有する。
【0003】
このような排ガス浄化触媒装置は、例えば、ハニカム基材上に、触媒コート層の原料成分を含有する塗工液をコートした後、焼成することにより、製造されている。
【0004】
ここで、ハニカム基材上への塗工液のコートを、ハニカム基材の片方の端面に塗工液を載置し、反対側の端面から吸引する方法によって行うことが知られている。例えば、特許文献1には、ハニカム基材の第1端面に塗工液を貯留可能とする枠型形状の貯留治具を装着して、第1端面上に塗工液を貯留したうえで、第1端面と反対側の第2端面側の圧力を、第1端面側の圧力に対して相対的に低くして、第1端面から第2端面への塗工液の流れを生じさせることにより、ハニカム基材上へ塗工液をコートすることが記載されている。
【0005】
ところで、排ガス浄化触媒装置の工業的な製造は、自動加工システムによって行われることが通常である。自動加工システムでは、上流側から下流側に向けて複数の加工ステーションを設け、上流側の加工ステーションから下流側の加工ステーションに被加工体を移送しながら、順次に加工が行われる。
【0006】
このような自動加工システムでは、各加工ステーションにおける加工時間はかならずしも一致しない。この場合、上流側から下流側に向けて設けられた一連の加工ステーションのうちの、最も長い加工時間を要する加工ステーションにおける加工が、工程全体の律速段階となる。
【0007】
このような場合、律速となる加工装置を複数設け、これらを自動加工システムの上流側から下流側に向けて並べて配置して、律速工程を分担して行わせることが考えられる。
【0008】
例えば、特許文献2には、搬送ラインに沿ってワーク(被加工体)を搬送する搬送手段と、この搬送ラインの近傍に設けられた加工手段とで構成した搬送装置において、搬送ライン上の先行のワークを把持して上昇させる追い越し補助手段を設け、後行のワークが先行のワークを追い越して先に搬送されるようにすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2018-015704号公報
【文献】特開2003-237940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ハニカム基材上への塗工液のコートが、ハニカム基材の片端面への塗工液の載置、及び反対側端面からの吸引によって行われる場合、吸引工程が律速となる場合が多い。
【0011】
具体的には、ハニカム基材の端面への塗工液の載置、及び吸引を伴うコート方法では、ハニカム基材の片端面への塗工液の載置工程よりも、反対側端面からの吸引工程の方が長時間を要する場合が多く、したがって、吸引工程が塗工液コートの律速になる場合が多い。
【0012】
吸引工程が律速になるハニカム基材上への塗工液のコートに対して、特許文献2に記載の方法を適用すると、塗工液の載置から吸引開始までの時間がハニカム基材ごとに区々になり、得られるコート層の品質がハニカム基材ごとにばらつくことが懸念される。
【0013】
特許文献2に記載の方法に代えて、所定の加工時間を要するある加工について、1つのワークを複数の加工装置に順次に受け渡して、それぞれの加工装置において少ない時間の加工を分割して行い、複数の加工装置の全体で所定の加工時間を確保することが考えられる。
【0014】
しかし、ハニカム基材上への塗工液のコートにおいて、端面への塗工液の載置後の吸引を分割して行うと、コート層にムラができ、排ガス浄化能が損なわれることが懸念される。
【0015】
ところで、従来技術の自動加工システムでは、被加工体をある加工ステーションから次の加工ステーションまで移送している間には、被加工体に加工を施すことはできない。そのため、各加工ステーションにおける加工時間の他、移送時間もプロセスタイムの一部として考慮する必要があり、全体の加工時間を短縮する際の妨げとなっている。
【0016】
本発明は、上記に事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ハニカム基材上への塗工液のコートが、ハニカム基材の片端面への塗工液の載置、及び反対側端面からの吸引によって行われる場合に、所定の吸引時間を確保しつつ、工程全体の加工時間を短くすることのできる、効率の高い排ガス浄化触媒装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、以下のとおりである。
【0018】
《態様1》(A)セル壁によって区画された複数のセル流路を有するハニカム基材を、前記セル流路の流路方向が鉛直となるように保持し、前記基材の上端面上に触媒コート層形成用塗工液を載置すること、
(B)減圧ポンプによって前記工程(A)後の基材を下端面から吸引して、前記塗工液を前記基材のセル壁上及びセル壁中の1つ以上にコートすること、及び
(C)前記工程(A)後の基材を、次工程まで移送すること、
を含む、排ガス浄化触媒装置の製造方法において、
前記工程(B)及び前記工程(C)を、移送吸引装置によって同時に行う、
排ガス浄化触媒装置の製造方法。
《態様2》前記移送吸引装置が、前記工程(A)後の基材の下端面と、前記減圧ポンプとを連結する、1又は複数の減圧チャネルを有する、態様1に記載の排ガス浄化触媒装置の製造方法。
《態様3》前記減圧チャネルのそれぞれが、第1の減圧チャネル及び第2の減圧チャネルを含み、
前記第1の減圧チャネルは、減圧ポンプと連結されて減圧されており、
前記第2の減圧チャネルは、
前記移送吸引装置が前記工程(A)後の基材を受け取った後、当該基材が所定の位置に移送されるまでは、前記基材の下端面と前記第1の減圧チャネルとを連結し、かつ、
当該基材が所定の位置に移送されたときには、前記基材の下端面と前記第1の減圧チャネルとの連結を解除する、
態様2に記載の排ガス浄化触媒装置の製造方法。
《態様4》前記移送吸引装置が、前記第1の減圧チャネルを含む第1層、及び前記第2の減圧チャネルを含む第2層を有し、これらが積層された2層から構成されており、
前記第2層は、前記第1層に対して相対的に移動可能であり、
前記第2層は、前記工程(A)後の基材を受け取った後、前記第1層に対して相対的に移動することによって、前記基材を前記次工程まで移送する、
態様3に記載の排ガス浄化触媒装置の製造方法。
《態様5》前記移送吸引装置が、円盤状である、態様1~4のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置の製造方法。
《態様6》前記移送吸引装置が、それぞれ円盤状の前記第1層及び前記第2層が同軸に積層された2層の円盤状であり、
前記第2層の前記第1層に対する相対的な移動が回転である、
態様4に記載の排ガス浄化触媒装置の製造方法。
《態様7》前記第1の減圧チャネルは、
前記第1層の面のうちの、前記第2層とは反対側の面に開口する、前記減圧ポンプと連結されるための、ポンプ連結開口部、及び
前記第2層側の面に、前記第1層の円周に沿って弧状に開口する、弧状開口部
を有し、
前記第2の減圧チャネルは、
前記第2層の面のうちの、前記第1層側の面に開口する、前記第1の減圧チャネルと連結されるための、減圧チャネル連結開口部、及び
前記第1層とは反対側の面に開口する、前記工程(A)後の基材の下端面と連結されるための、基材連結開口部
を有し、
前記第2層が前記第1層に対して相対的に回転するときに、
前記第2層が前記工程(A)後の基材を受け取った後、当該基材が所定の位置に移送されるまでは、前記第2層の前記減圧チャネル連結開口部は、前記第1層の前記弧状開口部の弧形に沿って移動し、かつ、
当該基材が所定の位置に移送されたときには、前記第2層の前記減圧チャネル連結開口部が、前記第1層の前記弧状開口部の弧形から外れることにより、前記基材の下端面と前記第1の減圧チャネルとの連結が解除される、
態様6に記載の排ガス浄化触媒装置の製造方法。
《態様8》前記第1の減圧チャネルの前記弧状開口部の弧形の中心角が、90°以上270°以下である、態様7に記載の排ガス浄化触媒装置の製造方法。
《態様9》セル壁によって区画された複数のセル流路を有する基材を、前記セル流路の流路方向が鉛直となるように保持し、前記基材の上端面上に触媒コート層形成用塗工液を載置する、塗工液載置装置、及び
前記工程(A)後の基材を下端面から吸引して、前記塗工液を前記基材のセル壁上及びセル壁中の1つ以上にコートすることと、前記工程(A)後の基材を、次工程まで移送することとを同時に行う、移送吸引装置
を含む、排ガス浄化触媒装置の製造システム。
《態様10》セル壁によって区画された複数のセル流路を有する基材の上端面上に、触媒コート層形成用塗工液が載置された基材を、その下端面から吸引して、前記塗工液を前記基材のセル壁上及びセル壁中の1つ以上にコートすることと、前記基材を、次工程まで移送することとを同時に行う、移送吸引装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明よると、ハニカム基材上への塗工液のコートが、ハニカム基材の片端面への塗工液の載置、及び反対側端面からの吸引によって行われる場合に、所定の吸引時間を確保しつつ、工程全体の加工時間を短くすることのできる、効率の高い排ガス浄化触媒装置の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明における移送吸引装置の一例の概要を示す斜視図である。
【
図2】本発明における移送吸引装置の一例の、第1層及び第2層の内部構造を示す、内部透視斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
《排ガス浄化触媒装置の製造方法》
本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法は、
(A)セル壁によって区画された複数のセル流路を有するハニカム基材を、セル流路の流路方向が鉛直となるように保持し、基材の上端面上に触媒コート層形成用塗工液を載置すること(塗工液載置工程)、
(B)減圧ポンプによって、(A)塗工液載置工程後の基材を下端面から吸引して、塗工液を前記基材のセル壁上及びセル壁中の1つ以上にコートすること(吸引コート工程)、及び
(C)(A)塗工液載置工程後の基材を、次工程まで移送すること(移送工程)、
を含む、排ガス浄化触媒装置の製造方法において、
(B)吸引コート工程及び(C)移送工程を、移送吸引装置によって同時に行う、
排ガス浄化触媒装置の製造方法である。
【0022】
本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法では、移送吸引装置を用いて、触媒コート層形成用塗工液載置後の基材の移送と吸引とを同時に行う。この方法によると、吸引待ちの渋滞が発生しないので、ハニカム基材への塗工液の載置から吸引開始までの時間を、容易に所定の時間に制御することができる。また、本発明の方法では、移送吸引装置によって、1つのハニカム基材についての吸引工程が中断を経ずに行われる。したがって、得られるコート層にムラが発生し難く、高品質のコート層が得られる。更に、本発明の方法によると、従来技術においては、被加工体に加工を施すことはできなかった移送時間にも、吸引コート工程が実施されるので、工程全体の加工時間を、極めて短くすることが可能となる。
【0023】
上述したとおり、本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法は、(A)塗工液載置工程、(B)吸引コート工程、及び(C)移送工程を含み、排ガス浄化触媒装置の製造方法において、(B)吸引コート工程及び(C)移送工程を、移送吸引装置によって同時に行う。
【0024】
以下、本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法の各要素について、順に説明する。
【0025】
〈基材〉
本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法に適用される基材は、セル壁によって区画された複数のセル流路を有するハニカム基材である。このハニカム基材は、例えば、コージェライト、SiC、ステンレス鋼、無機酸化物粒子等の材料から構成されている、例えば、ストレートフロー型又はウォールフロー型のモノリスハニカム基材であってよい。
【0026】
〈(A)塗工液載置工程〉
(A)塗工液載置工程では、セル壁によって区画された複数のセル流路を有するハニカム基材を、セル流路の流路方向が鉛直となるように保持し、基材の上端面上に触媒コート層形成用塗工液を載置する。
【0027】
塗工液載置工程は、塗工装置によって行われてよい。この塗工装置は、例えば、セル流路の流路方向が鉛直となるように保持されたハニカム基材の上端面上に、塗工液を載置することが可能な塗工装置であってよい。
【0028】
塗工装置は、例えば、枠形状の載置治具、及び塗工液供給機を備えていてよい。
【0029】
載置治具は、例えば、枠形状を有し、ハニカム基材の上端面に着脱可能に配置することができ、かつ、基材の上端面、及び載置治具によって、塗工液の載置部を形成しできるものであってよい。
【0030】
塗工液供給機は、例えば、上記の載置部に塗工液を供給して載置することができる機能を有していてよい。この塗工液供給機は、例えば、シャワー式、スプレー式等の供給機であってよい。
【0031】
〈(B)吸引コート工程〉
(B)吸引コート工程は、減圧ポンプによって、(A)塗工液載置工程後の基材を下端面から吸引して、塗工液を基材のセル壁上及びセル壁中の1つ以上にコートする工程である。
【0032】
塗工液載置工程後の基材を下端面から吸引すると、基材のセル流路の上端から下端への空気の流れが生じ、これにより、基材の上端面上に載置された塗工液がセル流路中に流れ込んで、塗工液のコートが行われて、コート層が形成される。
【0033】
塗工液を基材のセル壁上にコートするとは、塗工液のコート層が、セル流路に面するセル壁の表面上に形成される態様のコートを意味する。また、塗工液を基材のセル壁中にコートするとは、塗工液のコート層が、多孔質のセル壁の細孔壁の表面上に形成される態様のコートを意味する。
【0034】
〈(C)移送工程〉
(C)移送工程は、(A)塗工液載置工程後の基材を、次工程まで移送する工程である。
【0035】
次工程は、例えば、焼成工程、第2の触媒コート層の形成工程、触媒成分の担持工程、状態調節工程、ケーシング装填工程等の任意の工程であってよい。
【0036】
〈移送吸引装置〉
本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法では、上記の(B)吸引コート工程及び(C)移送工程を、移送吸引装置によって同時に行う。したがって、この移送吸引装置は、(A)塗工液載置工程後の基材を次工程まで移送する移送機能と、(A)塗工液載置工程後の基材を下端面から吸引して、塗工液を基材のセル壁上及びセル壁中の1つ以上にコートする吸引コート機能とを併有する装置である。
【0037】
移送吸引装置の移送機能は、ベルトコンベア等に代表される直線的な移送を行う機能であってもよいし、回転ディスク等に代表される円弧状に移動する態様の移送を行う機能であってもよい。
【0038】
移送吸引装置の吸引コート機能は、(A)塗工液載置工程後の基材の下端面と、減圧ポンプとを連結する減圧チャネルによって実現されてよい。移送吸引装置は、減圧チャネルを、1個だけ有して行ってもよいし、2個以上有していてもよい。
【0039】
移送吸引装置の減圧チャネルは、第1の減圧チャネル及び第2の減圧チャネルを含んでいてよい。ここで、第1の減圧チャネルは、減圧ポンプと連結されて減圧されていてよい。また、第2の減圧チャネルは、減圧状態の第1の減圧チャネルと、(A)塗工液載置工程後の基材の下端面とを連結することにより、(A)塗工液載置工程後の基材の下端面に減圧を印加するものであってよい。
【0040】
移送吸引装置によって吸引コート工程を行う際には、基材の下端面と減圧チャネル(特に第2の減圧チャネル)との連結部の気密を確保するために、基材と移送吸引装置との間に適当な装着治具を介在させることも、本発明の好ましい態様である。
【0041】
第2の減圧チャネルは、第1の減圧チャネルに対して相対的に移動することができるものであってよく、これにより、(A)塗工液載置工程後の基材の移送が行われてよい。
【0042】
また、第2の減圧チャネルが移動するとき、
基材が所定の範囲内にある場合には、第2の減圧チャネルと第1の減圧チャネルとが連結された状態にあり、基材の下端面に減圧が印加されるが、
基材が所定の位置に至った場合には、第2の減圧チャネルと第1の減圧チャネルとの連結が解除され、基材の下端面の減圧が除去されて、吸引コート工程を終了する
態様としてもよい。
【0043】
移送吸引装置が2個以上の減圧チャネルを有するとき、減圧チャネルのそれぞれが第1の減圧チャネル及び第2の減圧チャネルを有していてよい。
【0044】
第1の減圧チャネル及び第2の減圧チャネルの上述の関係を実現する態様として、例えば、
移送吸引装置が、第1の減圧チャネルを含む第1層、及び第2の減圧チャネルを含む第2層を有し、これらが積層された2層から構成されており、
第2層は、前記第1層に対して相対的に移動可能である
態様が例示できる。
【0045】
このような移送吸引装置では、第2層が、工程(A)後の基材を受け取った後、第1層に対して相対的に移動することによって、基材を次工程まで移送することができる。
【0046】
本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法に用いられる移送吸引装置は、上記の機能を発揮できる限り、その形態は任意である。
【0047】
本発明における移送吸引装置は、例えば、円盤状であってよい。特に、それぞれが円盤状の第1層及び第2層を有し、これらが同軸に積層された2層の円盤状であってよい。この場合、第1層に対して、第2層を相対的に回転させることにより、第1層に対して第2層を相対的に移動させることができる。
【0048】
このような2層構成の円盤状の移送吸引装置では、
第1の減圧チャネルは、
第1層の面のうちの、第2層とは反対側の面に開口する、減圧ポンプと連結されるための、ポンプ連結開口部、及び
第2層側の面に、第1層の円周に沿って弧状に開口する、弧状開口部
を有していてよい。
【0049】
また、第2の減圧チャネルは、
第2層の面のうちの、第1層側の面に開口する、第1の減圧チャネルと連結されるための、減圧チャネル連結開口部、及び
第1層とは反対側の面に開口する、工程(A)後の基材の下端面と連結されるための、基材連結開口部
を有ししていてよい。
【0050】
このような構成によって、第2層が第1層に対して相対的に回転するときに、第2層が前記工程(A)後の基材を受け取った後、当該基材が所定の位置に移送されるまでは、第2層の減圧チャネル連結開口部は、第1層の弧状開口部の弧形に沿って移動することができる。これにより、第2層の第2の減圧チャネルは、第1層の第1の減圧チャネルを介して減圧されるので、第2層の基材連結開口部上の基材の下端面にも減圧が印加される。
【0051】
したがって、第2層の減圧チャネル連結開口部が、第1層の弧状開口部の弧形に沿って移動しているときには、(A)塗工液載置工程後の基材に対する、(B)吸引コート工程と、(C)移送工程とが同時に行われる。
【0052】
上記の状態から、第1層に対する第2層の相対的な回転が継続されると、第2層の減圧チャネル連結開口部が、第1層の弧状開口部の弧形の範囲から外れることになる。そうすると、基材の下端面と第1の減圧チャネルとの連結が解除されて、基材の下端面は常圧に戻り、(B)吸引コート工程は終了する。また、減圧チャネル連結開口部が、弧状開口部の弧形の範囲から外れる地点を、移送の目的地の近傍に設定すると、ここで(C)移送工程も終了してよい。
【0053】
上記のような円盤状の移送吸引装置では、第1の減圧チャネルの弧状開口部の弧形の中心角を調整することにより、塗工液載置装置と次工程実施位置との位置関係に応じた、適切な移送距離の設定が可能になるとともに、(B)吸引コート工程における吸引時間の調節が可能なる。
【0054】
また、(B)吸引コート工程における吸引時間は、第1層に対する第2層の相対的な回転速度を調整することによっても調節することができる。
【0055】
上記のような円盤状の移送吸引装置の第1層において、第1の減圧チャネルの弧状開口部の弧形の中心角は、塗工液載置装置と次工程実施位置との位置関係、及び所望の吸引時間に応じて、例えば、90°以上、120°以上、150°以上、180°以上、又は210°以上であってよく、例えば、270°以下、240°以下、210°以下、180°以下、150°以下であってよい。
【0056】
第1の減圧チャネルの弧状開口部の弧形の中心角は、典型的には、90°以上270°以下であってよい。
【0057】
《排ガス浄化触媒装置の製造システム》
本発明の別の観点によると、排ガス浄化触媒装置の製造システムが提供される。
【0058】
本発明の排ガス浄化触媒装置の製造システムは、
セル壁によって区画された複数のセル流路を有する基材を、セル流路の流路方向が鉛直となるように保持し、基材の上端面上に触媒コート層形成用塗工液を載置する、塗工液載 置装置、及び
工程(A)後の基材を下端面から吸引して、塗工液を前記基材のセル壁上及びセル壁中の1つ以上にコートすることと、工程(A)後の基材を、次工程まで移送することとを同時に行う、移送吸引装置
を含む、排ガス浄化触媒装置の製造システムである。
【0059】
本発明の排ガス浄化触媒装置の製造システムの各要素については、上述の本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法の各要素についての説明の該当部分を援用できる。
【0060】
《移送吸引装置》
本発明の更に別の観点によると、移送吸引装置が提供される。
【0061】
本発明の移送吸引装置は、セル壁によって区画された複数のセル流路を有する基材の上端面上に、触媒コート層形成用塗工液が載置された基材を、その下端面から吸引して、塗工液を基材のセル壁上及びセル壁中の1つ以上にコートすることと、基材を、次工程まで移送することとを同時に行う、移送吸引装置である。
【0062】
本発明の移送吸引装置の各要素については、上述の本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法の各要素についての説明の該当部分を援用できる。
【0063】
《実施形態》
図1及び
図2に、本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法に用いられる、移送吸引装置の一例の構成を示す。
図1は、移送吸引装置の概形を示す斜視図であり、
図2は、移送吸引装置を構成する第1層及び第2層の内部構造を説明するための内部透視斜視図である。
【0064】
図1及び
図2の移送吸引装置(100)は、それぞれが円盤状の第1層(10)及び第2層(20)を有し、これらが同軸に積層された2層から構成される円盤形状を有している。
【0065】
移送吸引装置(100)の第2層(20)は、
図1及び
図2に破線で示した矢印の方向に回転することができ、これにより、第2層(20)は第1層(10)に対して相対的に移動可能である。
【0066】
図2に示したように、移送吸引装置(100)の第1層(10)は、第1の減圧チャネル(11)を含み、第2層(20)は、第2の減圧チャネル(21)を含んでいる。
【0067】
第1層(10)の第1の減圧チャネル(11)は、第1の減圧チャネルA系統(11a)、第1の減圧チャネルB系統(11b)、及び第1の減圧チャネルC系統(11c)の3つのチャネル系統から構成されている。
【0068】
第1層(10)の第1の減圧チャネル(11)の各チャネル系統は、第1層(10)の上面(第2層(20)側の面)に、円盤状の第1層(10)の円周に沿って弧状に開口する弧状開口部を有しており、下面(第2層(20)とは反対側の面)には、減圧ポンプと連結されるためのポンプ連結開口部を有している。
【0069】
第1の減圧チャネル(11)の各チャネル系統が有する弧状開口部は、同心状に形成されており、これらの弧状開口部の弧形の中心角は、それぞれ、約180°である。
【0070】
各チャネルのポンプ連結開口部は、減圧ポンプ連結路(12)を介して、減圧ポンプと連結されている。移送吸引装置(100)では、3つの第1の減圧チャネル系統(11a、11b、11c)が、それぞれ固有の減圧ポンプ連結路(12a、12b、12c)を介して、固有の減圧ポンプ(P1、P2、P3)に連結されている。
【0071】
第1層(10)の下面には、第1の減圧チャネル(11)にポンプ連結開口部以外の開口部はない。
【0072】
第2層(20)の第2の減圧チャネル(21)は、第2の減圧チャネルA系統(21a)、第2の減圧チャネルB系統(21b)、及び第2の減圧チャネルC系統(21c)の3つのチャネル系統から構成されている。
【0073】
第2層(20)の第2の減圧チャネル(21)の各チャネル系統は、第2層(20)の上面(第1層(10)とは反対側の面)に、(A)塗工液載置工程後の基材の下端面と連結されるための基材連結開口部を有しており、下面(第1層(10)側の面)には、第1層(10)の第1の減圧チャネル(11)と連結されるための減圧チャネル連結開口部を有している。
【0074】
第2層(20)の3つの第2の減圧チャネル系統(21a、21b、21c)は、各系統2つの減圧チャネルを有し、同系統に属する減圧チャネルの基材連結開口部及び減圧チャネル連結開口部は、それぞれ、第2層(20)の上面及び下面で点対称(互いに180°離れた位置)に配置されている。
【0075】
3つの第2の減圧チャネル系統(21a、21b、21c)の基材連結開口部は、いずれも、第2層(20)の軸からの距離が等しい、第2層(20)の外周付近に開口している。
【0076】
一方、3つの第2の減圧チャネル系統(21a、21b、21c)の減圧チャネル連結開口部は、系統ごとに、第2層(20)の軸からの距離が異なっている。すなわち、第2の減圧チャネルA系統(21a)の減圧チャネル連結開口部は、第2層(20)の下面のうちの、基材連結開口部に対応する位置に開口している。また、第2の減圧チャネルB系統(21b)は、第2層(20)の上面の基材連結開口部から半径方向内側に延びて、その減圧チャネル連結開口部は、第2層(20)の下面のうちの、基材連結開口部に対応する位置から少し半径方向内側に寄った位置に開口している。更に、第2の減圧チャネルC系統(21c)は、第2層(20)の上面の基材連結開口部から半径方向の更に内側に延びて、その減圧チャネル連結開口部は、第2層(20)の下面のうちの、基材連結開口部に対応する位置から更に半径方向内側に寄った位置に開口している。
【0077】
ここで、第1層(10)及び第2層(20)を同軸に積層したとき、第2層(20)が有する第2の減圧チャネルA系統(21a)の減圧チャネル連結開口部の、第2層(20)の軸からの距離は、第1層(10)が有する第1の減圧チャネルA系統(11a)の弧状開口部の弧の半径と一致する。また、第2の減圧チャネルB系統(21b)の減圧チャネル連結開口部の軸からの距離は、第1の減圧チャネルB系統(11b)の弧状開口部の弧の半径と一致する。更に、第2の減圧チャネルC系統(21c)の減圧チャネル連結開口部の軸からの距離は、第1の減圧チャネルC系統(11c)の弧状開口部の弧の半径と一致する。
【0078】
このような構成により、第1層(10)及び第2層(20)を同軸に積層して、第2層(20)を第1層(10)に対して相対的に回転させたとき、
第2の減圧チャネルA系統(21a)の減圧チャネル連結開口部は、第1の減圧チャネルA系統(11a)の弧状開口部に沿って移動し、
第2の減圧チャネルB系統(21b)の減圧チャネル連結開口部は、第1の減圧チャネルB系統(11b)の弧状開口部に沿って移動し、
第2の減圧チャネルC系統(21c)の減圧チャネル連結開口部は、第1の減圧チャネルC系統(11c)の弧状開口部に沿って移動する。
【0079】
そして、第2層(20)が第1層(10)に対して相対的に回転したときに、第2の減圧チャネル(21)の減圧チャネル連結開口部が第1の減圧チャネル(11)の弧状開口部の開口領域にあるときには、減圧チャネル連結開口部は弧状開口部に沿って移動して、両者は連結されているが、第2の減圧チャネルの減圧チャネル連結開口部が第1の減圧チャネルの弧状開口部の開口領域を外れると、両者の連結は解除される。
【0080】
したがって、
図1及び
図2に示した移送吸引装置(100)を用い、(A)塗工液載置工程の実施位置及び次工程の実施位置を、それぞれ、移送吸引装置(100)の第1層(10)の第1の減圧チャネル(11)の弧状開口部の両端の近傍に配置することにより、(A)塗工液載置工程後の基材に対する、(B)吸引コート工程及び(C)移送工程を、同時に行うことができる。
【0081】
すなわち、例えば、移送吸引装置(100)の第1層(10)を固定し、第2層(20)の第1層(10)に対する相対的な回転を継続して行う。この状態で、(A)塗工液載置工程後の基材を、第2層(20)の基材連結開口部上に受け取って回転すると、基材は、(A)塗工液載置工程の実施位置から次工程の実施位置まで移送されるので、(C)移送工程が行われる。
【0082】
また、この間、第2層(20)の第2の減圧チャネル(21)の減圧チャネル連結開口部は、第1層(10)の第1の減圧チャネル(11)の弧状開口部の開口領域にあるので、減圧ポンプによって発生した減圧は、減圧ポンプ連結路、ポンプ連結開口部、第1の減圧チャネル(11)、弧状開口部、減圧チャネル連結開口部、第2の減圧チャネル(21)、及び基材連結開口部を介して基材の下端面に印加されるので、(B)吸引コート工程が行われる。
【0083】
そして、基材が次工程実施位置の近傍まで至ったときには、第2の減圧チャネル(21)の減圧チャネル連結開口部は、第1の減圧チャネル(11)の弧状開口部の弧形の領域から外れ、第2の減圧チャネル(21)と第1の減圧チャネル(11)との連結は解除される。これにより、基材の下端面への減圧印加も解消されて、(C)吸引コート工程は終了される。また、この時点で、(B)移送工程も終了されてよい。
【0084】
基材を次工程に受け渡した後も、第2層(20)の回転は継続される。このとき、第1の減圧チャネル(11)との連結が解除され、減圧状態を脱した第2の減圧チャネル(21)は、基材連結開口部が空いた状態で、(A)塗工液載置工程の実施位置の近傍に戻り、次の基板の(B)移送工程及び(C)吸引コート工程に備えることになる。
【0085】
移送吸引装置(100)は、3系統の減圧チャネルを有し、それぞれ別個の減圧ポンプに連結されて、それぞれ個別の減圧状態を保持できるから、1つの基材の(B)移送工程及び(C)吸引コート工程の完了を待たずに、次の基材の(B)移送工程及び(C)吸引コート工程を開始することができ、効率のよい工程が実現できる。
【0086】
また、第2層(20)の回転速度を調整することにより、(B)移送工程及び(C)吸引コート工程の所要時間を調節することができるので、移送吸引装置(100)は、塗工液載置後の所定の吸引時間が異なるプロセスにも適用可能である。
【符号の説明】
【0087】
10 第1層
11 第1の減圧チャネル
11a 第1の減圧チャネルA系統
11b 第1の減圧チャネルB系統
11c 第1の減圧チャネルC系統
12a 減圧ポンプ連結路A系統
12b 減圧ポンプ連結路B系統
12c 減圧ポンプ連結路C系統
20 第2層
21 第2の減圧チャネル
21a 第2の減圧チャネルA系統
21b 第2の減圧チャネルB系統
21c 第2の減圧チャネルC系統
100 移送吸引装置
P1、P2、P3 減圧ポンプ