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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-23
(45)【発行日】2025-01-31
(54)【発明の名称】パラジウム抽出方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 11/00 20060101AFI20250124BHJP
   C01G 55/00 20060101ALI20250124BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20250124BHJP
   C22B 3/20 20060101ALI20250124BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20250124BHJP
   C22B 3/24 20060101ALI20250124BHJP
   C22B 3/42 20060101ALI20250124BHJP
   C25C 1/20 20060101ALI20250124BHJP
【FI】
C22B11/00 101
C01G55/00
C22B3/06
C22B3/20
C22B3/44 101Z
C22B3/24
C22B3/42
C25C1/20
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022203869
(22)【出願日】2022-12-21
(65)【公開番号】P2023097401
(43)【公開日】2023-07-07
【審査請求日】2023-07-05
(31)【優先権主張番号】202111615955.4
(32)【優先日】2021-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】509031567
【氏名又は名称】中国科学院過程工程研究所
【氏名又は名称原語表記】INSTITUTE OF PROCESS ENGINEERING,CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
【住所又は居所原語表記】NO.1 Zhongguancun North Second Street,Haidian District Beijing 100190,P.R.China
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】薛天艶
(72)【発明者】
【氏名】燕展鵬
(72)【発明者】
【氏名】張絵
(72)【発明者】
【氏名】于穎
(72)【発明者】
【氏名】斉涛
(72)【発明者】
【氏名】劉明輝
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-006307(JP,A)
【文献】特開2019-127627(JP,A)
【文献】国際公開第1998/058089(WO,A1)
【文献】特表2010-526209(JP,A)
【文献】特開2008-013789(JP,A)
【文献】特開2018-162473(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0085428(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウム含有原料、硝酸及び塩素化合物でないアルカリ金属イオンが含まれている触媒剤を混合させることにより混合液を獲得し、その混合液を加熱して残留物を除去することによりパラジウム含有抽出液を獲得するステップ(1)と、
ステップ(1)において獲得したパラジウム含有抽出液を分離抽出することにより金属パラジウムまたはパラジウム含有製品を獲得し、残りの溶液をステップ(1)に送入するステップ(2)とを含むことを特徴とするパラジウム抽出方法。
【請求項2】
ステップ(1)において、前記アルカリ金属イオンは、Li+、Na+またはK+のうちいずれか一種であり、好ましいことはLi+である特徴とする請求項1に記載のパラジウム抽出方法。
【請求項3】
ステップ(1)において、前記混合液中のアルカリ金属イオンの濃度は≧1mol/Lであり、好ましい濃度は≧5mol/Lであることを特徴とする請求項1または2に記載のパラジウム抽出方法。
【請求項4】
ステップ(1)において、前記パラジウム含有原料中のパラジウムの含量は≧100ppmであることを特徴とする請求項1~3のうちいずれか一項に記載のパラジウム抽出方法。
【請求項5】
ステップ(1)において、前記混合液中の水素イオンの濃度は≧1mol/Lであることを特徴とする請求項1~4のうちいずれか一項に記載のパラジウム抽出方法。
【請求項6】
ステップ(1)において、加熱温度は≧40℃であり、好ましい加熱温度は≧60℃であることを特徴とする請求項1~5のうちいずれか一項に記載のパラジウム抽出方法。
【請求項7】
ステップ(2)の分離抽出方法は、電解方法、エクストラクション方法、イオン交換方法、吸着分離方法または蒸発結晶方法を含むが、そのような方法にのみ限定されるものでないことを特徴とする請求項1~6のうちいずれか一項に記載のパラジウム抽出方法。
【請求項8】
ステップ(2)の分離抽出方法として、ステップ(1)において獲得したパラジウム含有抽出液を電解し、陰極において金属パラジウムを獲得した後、電解後の溶液をステップ(1)に送入する方法を採用することが好ましいことを特徴とする請求項1~7のうちいずれか一項に記載のパラジウム抽出方法。
【請求項9】
パラジウム含量が≧100ppmであるパラジウム含有原料と、Li+、Na+またはK+が含まれている触媒剤(触媒剤に含まれるイオン濃度は≧1mol/Lである)及び水素イオンの濃度が≧1mol/Lである硝酸を混合させ、≧40℃の温度でそれらを加熱して抽出した後、残留物を除去することによりパラジウム含有抽出液を獲得するステップ(1)と、
ステップ(1)において獲得したパラジウム含有抽出液を分離抽出することにより金属パラジウムまたはパラジウム含有製品を獲得し、分離後の余分の溶液をステップ(1)に送入する母液の再利用を実現するステップ(2)とを含むことを特徴とする請求項1~8のうちいずれか一項に記載のパラジウム抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式冶金方法(hydrometallurgy)に属し、具体的に湿式冶金方法でパラジウムを抽出する方法に属し、特に、パラジウム抽出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パラジウム(Palladium)は、プラチナ系金属(Platinum Group Metals)であり、可塑性、安定性及び触媒活性(Catalytic Activity)が非常によい利点を有しているので、航空航天、核エネルギー、電子及び触媒剤等の分野に幅広く使用されている。パラジウムは独特な特性を有しかつ稀有であることにより「戦略的金属」にみなされている。全世界の経済の発展に伴い、パラジウムの需要量がますます増加しているが、パラジウム鉱物の埋蔵量が非常に稀有であることにより、増加しているパラジウムの需要量を満たすことができない。自然のパラジウム鉱物に含まれているパラジウムの含量が少ないので、それを抽出するコストが多くかかる。自然のパラジウム鉱物と比較してみると、パラジウム含有セカンダリー原料は、パラジウムの含量が高く、異物の含量が少なく、抽出の難度が低いとの利点を有している。したがって、パラジウム含有セカンダリー原料においてパラジウムを抽出することは重要な戦略的意義と高い経済的価値を有している。
【0003】
パラジウムは、化学的性質が安定であり、低濃度の硝酸と塩酸に溶解し、硫酸に溶解しないとの特徴を有している。工業上の製造において、通常、熱い高濃度の硝酸または王水(硝酸と塩酸の比例が1:3である)でパラジウムを溶解させる。しかしながら、高濃度の硝酸は容易に揮発する欠点を有しており、かつ反応の過程に大量の窒素酸化物が生ずる。王水は強い腐食性を有しているので、装置の耐腐食性に対する要求が高まっている。また、王水を採用する場合、大量の有毒ガスが生ずることにより汚染の問題を生ずるおそれがある。近年、研究者たちは硝酸または王水の代わりに使用できる溶剤を研究している。
【0004】
公開番号が中国特許出願公開第109957659号明細書である中国の特許出願には使用済パラジウム含有触媒剤中のパラジウムを回収する方法が公開されている。その方法は下記ステップを含む。ステップ(1)において、使用済パラジウム含有触媒剤を水中に入れて水煮を実施し、90~100℃の温度で水煮を1~2hし、水煮を5~7回実施し、水煮が終わると個体を取り出す。ステップ(2)において、ステップ(1)において獲得した固体を濃度が1~3%であるアルカリ液に入れてアルカリクッキング(alkali cooking)を実施し、85~95℃の温度でアルカリクッキングを1~2hし、アルカリクッキングを2~4回実施する。ステップ(3)において、アルカリクッキングが終わると、硫酸で溶液を調節することにより溶液のPH値を1~3にした後、4~6mol/Lの塩酸と一定量の塩素酸ナトリウムまたは塩素等の酸化剤を添加し、60~80℃の温度で抽出を2~3h実施することにより、パラジウム含有有機沈殿物を獲得する。その方法は、パラジウムの回収率がよく、エネルギーの消耗が少ないとの利点を有しているが、パラジウムの抽出工程が複雑であり、大量の水を採用する必要があり、反応の過程に大量を塩酸を採用する必要があり、腐食性が強くかつ有毒の塩素ガスと塩素酸ナトリウムにより環境にやさしくないとの欠点を有している。
【0005】
公開番号が中国特許出願公開第108285978号明細書である中国の特許出願にはパラジウム含有触媒剤中のパラジウムを回収する方法が公開されている。その方法において、まず、低温の蒸留(150~350℃)によりパラジウム含有触媒剤中の有機物を除去する。つぎに、HCl+NaCl溶液中においてH酸化をすることによりパラジウムを抽出し、ギ酸(Formic acid)で獲得したパラジウム含有抽出液を還元することによりシンプルパラジウム(Simple palladium)を獲得する。その方法によりパラジウムの抽出率を向上させることができるが、その方法を採用するとき、大量の塩酸と過酸化水素を採用する必要があり、揮発性が高くかつ有毒の塩素が形成されるので、環境にやさしくないという欠点を有している。
【0006】
従来の技術の問題を解決するため、環境にやさしく、経済性がよく、効率が高いパラジウム抽出方法を提供する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】中国特許出願公開第109957659号明細書
【文献】中国特許出願公開第108285978号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の技術の問題を解決するため、本発明は下記パラジウム抽出方法を提供する。本発明のパラジウム抽出方法により、酸液体の使用量を低減し、成分を簡単にし、製造のコストを低減し、抽出液体の再利用を実現することができる。また、酸液体の使用量を低減することにより異物イオンの混入を低減し、原子の利用率を向上させ、廃液の生成をなくし、パラジウムの抽出率と抽出速度を向上させ、産業上の利用性を広げることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は下記パラジウム抽出方法を提供する。本発明のパラジウム抽出方法は、パラジウム含有原料、硝酸及びアルカリ金属イオンが含まれている触媒剤を混合させることにより混合液を獲得し、その混合液を加熱して残留物を除去することによりパラジウム含有抽出液を獲得するステップ(1)と、ステップ(1)において獲得したパラジウム含有抽出液を分離抽出することにより金属パラジウムまたはパラジウム含有製品を獲得し、余分の溶液をステップ(1)に送入するステップ(2)とを含む。
【0010】
本発明において、アルカリ金属イオンが含まれている触媒剤を採用することによりパラジウムの抽出速度を向上させることができる。また、その触媒剤は揮発しないことにより、母液の利用率を向上させることができる。硝酸の環状においてアルカリ金属イオンが含まれている触媒剤とパラジウム含有原料とを加熱し、抽出液を分離させることにより金属パラジウムまたはパラジウム含有製品を獲得し、分離後の余分の溶液をステップ(1)に送入する。本発明は、アルカリ金属イオンが含まれている触媒剤と硝酸の混合液によりパラジウムを抽出し、高濃度の硝酸と王水を採用しないことにより、酸液体の使用量を大幅に低減し、異物の混入を減少させることができる。また、従来の技術における、塩素イオン、塩素ガス、過酸化水素(hydrogen peroxide)等が揮発及び分解することにより再利用することができない問題を解決することができる。それにより、製造のコストと廃液の排出量を大幅に低減し、環境にやさしい効果を獲得することができる。そのような構成は従来の技術と異なっている本発明の創新である。
【0011】
本発明の好適な実施例において、ステップ(1)中のアルカリ金属イオンは、Li、NaまたはKのうちいずれか一種であり、好ましいことはLiである。
【0012】
本発明において、Li、NaまたはKイオンを触媒剤にすることによりパラジウムを抽出する速度を大幅に向上させることができる。
【0013】
本発明のステップ(1)において、アルカリ金属イオンが含まれている触媒剤は、硝酸リチウム、硫酸リチウム(Lithium sulfate)、塩化リチウム(lithium chloride)、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸カリウム、塩化カリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムまたはそれらのアルカリ金属イオンが含まれている化合物及びそれらの溶液であることができる。
【0014】
本発明の好適な実施例において、前記混合液中のアルカリ金属イオンの濃度は≧1mol/Lである。例えば、1mol/L、1.5mol/L、2mol/L、2.5mol/L、3mol/L、4mol/L、5mol/L、6mol/Lまたは7mol/L等であることができるが、本発明はそれらにのみ限定されるものでなく、所定の範囲内の適合な数値であればいずれも本発明に採用することができる。本発明の好ましい濃度は≧5mol/Lである。
【0015】
本発明の好適な実施例において、ステップ(1)において、前記パラジウム含有原料中のパラジウムの含量は≧100ppmである。例えば、100ppm、120ppm、140ppm、160ppm、180ppm、200ppm、300ppm、1000ppmであるか或いは純金属パラジウムを採用するが、本発明はそれらにのみ限定されるものでなく、所定の範囲内の適合な数値であればいずれも本発明に採用することができる。
【0016】
本発明において、ステップ(1)中のパラジウム含有原料は、金属パラジウム、パラジウム合金、パラジウム化合物、パラジウム含有鉱物またはパラジウム含有セカンダリー原料のうちいずれか一種であるか或いは少なくとも二種の組合せであることができる。そのような組合せは、本発明の例示にしか過ぎないものであり、本発明を限定するものでない。例えば、パラジウム含有原料は、パラジウム粉末とパラジウム含有鉱物の組合せ、パラジウム含有鉱物とパラジウム含有セカンダリー原料の組合せまたはパラジウム含有セカンダリー原料とパラジウム粉末の組合せであることもできる。
【0017】
本発明の好適な実施例において、ステップ(1)の混合液中の水素イオンの濃度は≧1mol/Lである。例えば、1mol/L、2mol/L、3mol/L、4mol/L、5mol/L、6mol/Lまたは7mol/L等であることができるが、本発明はそれらにのみ限定されるものでなく、所定の範囲内の適合な数値であればいずれも本発明に採用することができる。
【0018】
本発明において、ステップ(1)の各原料の比例を限定せず、実際の需要と状況により各原料の比例を適当に調節することができる。
【0019】
本発明の好適な実施例において、ステップ(1)中の前記加熱温度は≧40℃である。例えば、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃または90℃等であることができるが、本発明はそれらにのみ限定されるものでなく、所定の範囲内の適合な数値であればいずれも本発明に採用することができる。好ましい加熱温度は≧60℃である。
【0020】
本発明の好適な実施例において、ステップ(2)の分離抽出方法は、電解方法、エクストラクション方法、イオン交換方法、吸着分離方法または蒸発結晶方法を含むが、本発明はそのような方法にのみ限定されるものでない。
【0021】
本発明の好適な実施例において、ステップ(2)の分離抽出方法として、ステップ(1)において獲得したパラジウム含有抽出液を電解し、陰極において金属パラジウムを獲得した後、電解後の溶液をステップ(1)に送入する方法を採用することが好ましい。
【0022】
本発明のエクストラクション方法において、パラジウム含有原料に一定量の抽出剤(extractant)を添加した後エクストラクションとストリッピングをすることにより、純度が高いパラジウム含有溶液とアルカリ金属イオン含有エクストラクション液体を獲得する。前記抽出剤はジイソアミルサルファイド(S201)、スルホキシド(sulfoxide)またはヒドロキサム酸のうちいずれか一種であるが、本発明はそれらにのみ限定されるものでない。
【0023】
本発明のイオン交換方法と吸着分離方法において、パラジウム含有抽出液をイオン交換樹脂または吸着剤が充填されている装置に注入することにより、パラジウムと触媒剤含有母液を分離させ、パラジウム含有化合物を獲得する。前記イオン交換樹脂は、イソチオ尿素樹脂、キレートピペリジン樹脂(R410)またはlevextrel樹脂のうちいずれか一種であり、前記吸着剤は、活性炭、銅粉末等であるが、本発明はそれらにのみ限定されるものでない。
【0024】
本発明の蒸発結晶方法において、パラジウム含有抽出液を加熱蒸発結晶に注入することにより触媒剤とパラジウムを分離させ、パラジウム含有化合物を獲得する。前記蒸発結晶方法は回転蒸発方法またはMVR多重蒸発方法であることができる。
【0025】
本発明の好適な実施例において、前記パラジウム抽出方法は、パラジウム含量が≧100ppmであるパラジウム含有原料と、Li、NaまたはKが含まれている触媒剤(その濃度は≧1mol/Lである)及び水素イオンの濃度が≧1mol/Lである硝酸を混合させ、≧40℃の温度でそれらを加熱して抽出した後、残留物を除去することによりパラジウム含有抽出液を獲得するステップ(1)と、ステップ(1)において獲得したパラジウム含有抽出液を分離抽出することにより金属パラジウムまたはパラジウム含有製品を獲得し、分離後の余分の溶液をステップ(1)に送入する母液の再利用を実現するステップ(2)とを含む。
【0026】
本発明のステップ(2)において、分離後の溶液をステップ(1)に送入することにより母液の再利用率を向上させ、廃液の排出量を低減することができる。
【発明の効果】
【0027】
従来の技術と比較してみると、本発明の事項により下記発明の効果を獲得することができる。
(1)本発明において、アルカリ金属イオンが含まれている触媒剤を採用することによりパラジウムの抽出速度を向上させることができる。また、その触媒剤は揮発しないことにより、母液の利用率を向上させることができる。
(2)本発明は塩素化合物が含まれている触媒剤を採用する必要がないので、本発明の方法により塩素イオンが含まれていない金属パラジウムまたはパラジウム化合物を製造することができ、かつ製造を簡単にし、完成品の品質を向上させ、塩素ガスの形成を避けることができる。
(3)本発明において、分離抽出を実施した後、余分の母液に硝酸を添加することにより抽出液の再利用を実現することができる。抽出液の電解をするとき陽極により硝酸を形成することにより廃液の生成を避けることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の事項を詳細に理解してもらうため、以下、具体的な実施例により本発明の事項をより詳細に説明する。注意すべきことは、下記実施例は、本発明を説明するものであり、本発明を限定するものでない。
【実施例1】
【0029】
本実施例においてパラジウム(Palladium)抽出方法を提供する。前記パラジウム抽出方法は、79gのパラジウム粉末(パラジウムの含量が95%である)と、1.5mol/Lの硝酸リチウム(lithium nitrate)及び6mol/Lの硝酸(Nitric acid)が含まれている溶液とを混合させ、80℃の温度でそれらを加熱して抽出した後、残留物を除去することによりパラジウム含有抽出液を獲得するステップ(1)と、ステップ(1)において獲得したパラジウム含有抽出液を蒸発させて結晶を分離させることにより硝酸パラジウム(Palladium nitrate)製品を獲得し、余分の母液(mother liquor)をステップ(1)に送入するステップ(2)とを含む。
【実施例2】
【0030】
本実施例においてパラジウム抽出方法を提供する。前記パラジウム抽出方法は、3.5gのパラジウム粉末(パラジウムの含量が87%である)と0.16mol/Lの炭酸リチウム(lithium carbonate)固体を混合させ、硝酸を添加することにより溶液のHの濃度を1mol/L、Liの濃度を1mol/Lに調節し、80℃の温度でそれらを加熱して抽出した後、残留物を除去することによりパラジウム含有抽出液を獲得するステップ(1)と、
ステップ(1)において獲得したパラジウム含有抽出液を電解することにより純金属パラジウム(Pure metal palladium)を獲得し、電解の電流密度(ampere density)を100A/mに設定し、電解後の余分の溶液をステップ(1)に送入するステップ(2)とを含む。
【実施例3】
【0031】
本実施例においてパラジウム抽出方法を提供する。前記パラジウム抽出方法は、パラジウム含量が100ppmである100gの陽極泥(anode mud)と、7mol/Lの硝酸ナトリウム(Sodium nitrate)及び1.3mol/Lの硝酸が含まれている溶液とを混合させ、60℃の温度でそれらを加熱して抽出した後、残留物を除去することによりパラジウム含有抽出液を獲得するステップ(1)と、ステップ(1)において獲得したパラジウム含有抽出液に対して銅粉末の吸着置換(substitution adsorption)を実施することにより金属パラジウムの沈殿物を獲得し、余分の溶液をステップ(1)に送入するステップ(2)とを含む。
【実施例4】
【0032】
本実施例においてパラジウム抽出方法を提供する。前記パラジウム抽出方法は、3.8gのパラジウム粉末(パラジウムの含量が99.95%である)と、5mol/Lの硝酸カリウム(Potassium Nitrate)、1mol/Lの硝酸リチウム及び1mol/Lの硝酸(Nitric acid)が含まれている溶液とを混合させ、40℃の温度でそれらを加熱して抽出した後、残留物を除去することによりパラジウム含有抽出液を獲得するステップ(1)と、ステップ(1)において獲得したパラジウム含有抽出液を電解することによりパラジウム海綿(palladium sponge)を獲得し、電解の電流密度を500A/mに設定し、電解後の余分の溶液に硝酸を補充した後ステップ(1)に送入するステップ(2)とを含む。
【実施例5】
【0033】
本実施例においてパラジウム抽出方法を提供する。前記パラジウム抽出方法は、0.3%のパラジウムが含まれている150gの酸化アルミニウム―パラジウム触媒(palladium catalyst)と、6mol/Lの硝酸リチウム及び1.5mol/Lの硝酸が含まれている溶液とを混合させ、50℃の温度でそれらを加熱して抽出した後、残留物を除去することによりパラジウム含有抽出液を獲得するステップ(1)と、ステップ(1)において獲得したパラジウム含有抽出液にジイソアミルサルファイド(Diisoamyl sulfide、S201)を添加してエクストラクション(Extraction)をすることによりエクストラクション液体を獲得し、エクストラクション液体をステップ(1)に送入してオーガニックフェーズ(organic phase)のストリッピング(stripping)を実施することにより硝酸パラジウム製品を獲得するステップ(2)とを含む。
【実施例6】
【0034】
本実施例においてパラジウム抽出方法を提供する。前記パラジウム抽出方法は、0.5%のパラジウムが含まれている100gの酸化アルミニウム―パラジウム触媒と、6mol/Lの硝酸ナトリウム及び1.8mol/Lの硝酸が含まれている溶液とを混合させ、60℃の温度でそれらを加熱して抽出した後、残留物を除去することによりパラジウム含有抽出液を獲得するステップ(1)と、ステップ(1)において獲得したパラジウム含有抽出液をキレートピペリジン樹脂(Chelated piperidine resin、R410)吸着棒で吸着し、希釈塩酸(diluted hydrochloric acid)で洗浄し、チオ尿素(thiourea)の分離をすることにより高純度のパラジウム塩(Palladium salt)を獲得し、余分の溶液をステップ(1)に送入するステップ(2)とを含む。
【実施例7】
【0035】
実施例7と実施例6の相違点は、実施例7のステップ(2)において、活性炭で抽出液中のパラジウムを吸着し、吸着物を洗浄した後乾燥させることによりパラジウム炭素複合体(Palladium carbon composite)を獲得することにある。実施例7中の他の条件は実施例6中の条件と同様である。
【実施例8】
【0036】
本実施例においてパラジウム抽出方法を提供する。前記パラジウム抽出方法は、1.04gのパラジウム粉末(パラジウムの含量が99.95%である)と、6mol/Lの硝酸リチウム及び1mol/Lの硝酸が含まれている溶液とを混合させ、80℃の温度でそれらを加熱して抽出した後、残留物を除去することによりパラジウム含有抽出液を獲得するステップ(1)と、ステップ(1)において獲得したパラジウム含有抽出液を電解することにより純金属パラジウムを獲得し、電解の電流密度を400A/mに設定し、電解後の余分の溶液をステップ(1)に送入するステップ(2)とを含む。
【実施例9】
【0037】
実施例9と実施例8の相違点は、実施例9のステップ(1)における、前記溶液中の硝酸リチウムの濃度が0.5mol/Lであることにある。実施例9中の他の条件は実施例8中の条件と同様である。
【実施例10】
【0038】
実施例10と実施例8の相違点は、実施例10のステップ(1)における、前記加熱抽出温度を30℃に設定することにある。実施例10中の他の条件は実施例8中の条件と同様である。
【実施例11】
【0039】
実施例11と実施例8の相違点は、実施例11のステップ(1)における、前記溶液中の硝酸の濃度が0.5mol/Lであることにある。実施例11中の他の条件は実施例8中の条件と同様である。
【対比例1】
【0040】
対比例1においてパラジウム抽出方法を提供する。前記パラジウム抽出方法は、1.04gのパラジウム粉末(パラジウムの含量が99.95%である)と7mol/Lの硝酸を混合させ、80℃の温度でそれらを加熱して抽出した後、残留物を除去することによりパラジウム含有抽出液を獲得するステップ(1)を含む。対比例1中の他の条件は実施例8中の条件と同様である。
【対比例2】
【0041】
対比例2においてパラジウム抽出方法を提供する。前記パラジウム抽出方法は、1.04gのパラジウム粉末(パラジウムの含量が99.95%である)と7mol/Lの硝酸リチウムが含まれている溶液とを混合させ、80℃の温度でそれらを加熱して抽出した後、残留物を除去することによりパラジウム含有抽出液を獲得するステップ(1)を含む。対比例2中の他の条件は実施例8中の条件と同様である。
【0042】
誘導結合プラズマ発光分光計(Inductively coupled plasma emission spectrometer)でパラジウム含有抽出液中のパラジウムの濃度を測定する。実施例1~11と対比例1~2の加熱抽出時間はいずれも5hであり、実施例1~11と対比例1~2中のパラジウムの抽出率は表1に示すとおりである。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示すとおり、本発明のパラジウム抽出方法により、パラジウムの抽出率を向上させ、実施例1~8の硝酸パラジウムの抽出率を91%以上にすることができる。実施例9のパラジウム抽出方法において、ステップ(1)の液体中のアルカリ金属イオン(alkali metal ion)の濃度が低いことにより触媒の効果は悪くなる。それにより、硝酸パラジウムの抽出率は低下し、パラジウムのリサイクル率も低下する。実施例10のパラジウム抽出方法において、ステップ(1)の加熱抽出の温度が低いことにより、抽出反応は不十分にされ、硝酸パラジウムの抽出率とパラジウムのリサイクル率も低下する。実施例11のパラジウム抽出方法において、ステップ(1)の溶液の酸度が不十分であることにより、酸化の能力は低下し、硝酸パラジウムの抽出率とパラジウムのリサイクル率も低下する。
【0045】
対比例1において、7mol/LのHNOが含まれている環境においてパラジウムを抽出し、加熱抽出を5h実施するとき、パラジウムの抽出率は0.6%であり、パラジウム抽出の速度は非常に遅く、かつ大量の廃酸溶液(Waste acid solution)が生ずる。実施例8において、6mol/Lの硝酸リチウム及び1mol/Lの硝酸が含まれている同様容量の溶液と同様の温度を採用し、加熱抽出を5h実施するとき、パラジウムの抽出率は99.6%に達することができる。それは添加されたリチウムイオンによりよい触媒の効果を獲得できることを表す。対比例2において、7mol/Lの硝酸リチウムが含まれている環境においてパラジウムを抽出し、加熱抽出を5h実施するとき、パラジウムを抽出することができない。それは、酸性はパラジウムを抽出する必須の条件であることを表す。
【0046】
以上、本発明の具体的な実施例を説明してきたが、前記実施例は本発明の例示にしか過ぎないものであるため、本発明は前記実施例の構成にのみ限定されるものでない。この技術分野の技術者は本発明の要旨を逸脱しない範囲内において設計の変更、改良等をすることができ、そのような設計の変更、改良等があっても特許請求の範囲が定めた範囲に含まれることは当然である。