(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-23
(45)【発行日】2025-01-31
(54)【発明の名称】エピジェネティックプロファイリング法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6869 20180101AFI20250124BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20250124BHJP
C12Q 1/6811 20180101ALI20250124BHJP
C12N 9/10 20060101ALI20250124BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALI20250124BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20250124BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z
C12N15/11 Z
C12Q1/6811 Z
C12N9/10
C12Q1/6844 Z
C12Q1/686 Z
(21)【出願番号】P 2022517891
(86)(22)【出願日】2020-09-18
(86)【国際出願番号】 GB2020052263
(87)【国際公開番号】W WO2021053346
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2023-07-03
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】524191804
【氏名又は名称】タゴミクス・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・ニーリー
(72)【発明者】
【氏名】フランシスコ・フェルナンデス-トリッロ
(72)【発明者】
【氏名】ジャック・ケネフィック
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー・ウィルキンソン
【審査官】大西 隆史
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-535246(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0130922(US,A1)
【文献】KRIUKIENE, Edita et al.,Nature Communications,2013年07月23日,Vol. 4, Article No. 2190,DOI: 10.1038/ncomms3190
【文献】BOTHWELL, Ian R. et al.,JOURNAL OF THE AMERICAN CHEMICAL SOCIETY,2012年09月04日,Vol. 134, No. 36,pp. 14905-14912,DOI: 10.1021/ja304782r
【文献】WOJCIECHOWSKI, Marek et al.,Proceedings of the National Academy of Sciences of the Uunited States of America,2013年01月02日,Vol. 110, No. 1,pp. 105-110,DOI: 10.1073/pnas.1207986110
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00- 3/00
C12N 15/00-15/90
C12N 9/00- 9/99
C40B 10/00-50/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNAを分析するための方法であって、前記方法が、
- 標識DNAフラグメントを形成する工程であって、
(a)ゲノムDNAをDNAフラグメントへと切断する
工程;
(b)加水分解可能な部分を含むリンカーで、前記DNAに存在する任意の非メチル化CpG部位を選択的に官能化する
工程であって、前記加水分解可能な部分が、イミン部分、オキシム部分、又はヒドラゾン部分を含む、官能化する工程;及び
(c)前記リンカーに標識を付着させる
工程
によって、標識DNAフラグメントを形成する工程;
-
前記標識DNAフラグメントの前記標識に選択的に結合する捕捉剤を使用して、任意の非標識DNAフラグメントから前記標識DNAフラグメントを分離する工程;
- 前記標識から前記DNAフラグメントを放出するように、分離された標識DNAフラグメントの前記リンカーの前記加水分解可能な部分を加水分解する工程;並びに
- 放出されたDNAフラグメントをシーケンシングする工程
を含
み、
前記リンカーで前記DNAにおける任意の非メチル化CpG部位を選択的に官能化する工程が、S-アデノシル-L-メチオニン類似体から前記DNAの前記非メチル化CpG部位に転移可能な基を選択的に転移させることができるDNAメチルトランスフェラーゼ酵素を使用して行われ、前記転移可能な基が、前記リンカーを構成し、
前記S-アデノシル-L-メチオニン類似体が、以下の一般式:
【化1】
[式中、Rは、前記リンカーを構成する転移可能な基を表し;
FGは、官能基を表し;
Zは、脂肪族連結又は芳香族連結の一方から選択される非反応性基を表し;
A-B-Cは、前記加水分解可能な部分を表し;
Yは、脂肪族連結又は芳香族連結の一方から選択される非反応性基を表し;
Uは、アルケン、アルキン、アリール基、カルボニル基を構成する炭素原子、1つ又は2つのS=O結合を構成する硫黄原子のうちの1つから選択される、不飽和結合を表し;及び
kは、1又は2の整数を表す]
を有する、方法。
【請求項2】
工程(c)が、工程(b)の前に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(a)が、工程(b)の後に又は工程(c)の後に行われる、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記DNAメチルトランスフェラーゼが、シトシン-5メチルトランスフェラーゼであ
る、請求項
1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記シトシン-5メチルトランスフェラーゼが、M.MpeIであり、任意選択で、前記DNAメチルトランスフェラーゼが、M.MpeIの二重変異体(Q136A/N374A)である、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
前記加水分解可能な部分が、シッフ塩基を含む、請求項
1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
Zが、ポリエーテル
鎖を含む、請求項
1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリエーテル鎖が、エチレングリコールの最高5個のモノマーを含むポリエチレングリコール鎖である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
FGが、アジド、アルキン、イソチオシアネート、又はイソシアネート部分のうちの1つから選択される、請求項
1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記S-アデノシル-L-メチオニン類似体が、以下の一般式:
【化2】
を有する、請求項
1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記S-アデノシル-L-メチオニン類似体が、以下の一般式:
【化3】
を有する、請求項
1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記リンカー分子が、以下の一般式を有する:
【化4】
[式中、前記加水分解可能な部分は、C=N-X-C-Q部分を含むシッフ塩基部分であり;
pは、1~15の整数を表し;
Qは、炭素中心に独立して結合し
た酸素原子又は2つの水素原子の一方を表し;
Xは、酸素原子又は窒素原子の一方を表し;
Zは、脂肪族連結又は芳香族連結の一方から選択される非反応性基を表し;
Uは、アルケン、アルキン、アリール基、カルボニル基を構成する炭素原子、1つ又は2つのS=O結合を構成する硫黄原子のうちの1つから選択される不飽和結合を表し;
kは、1又は2の整数を表し;及び
FGは、官能基を表す]、
請求項
1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記リンカー分子が、以下の一般式を有する:
【化5】
[式中、前記加水分解可能な部分は、-C=N-N-C=Oであり;
pは、1~15の整数を表し;
qは、1~15の整数を表し;
kは、1又は2の整数を表し;及び
FGは、第2の官能基を表す]、
請求項
1から10又は
12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記リンカー分子が、以下の一般式を有する:
【化6】
[式中、前記加水分解可能な部分は、-C=N-O-結合であり;
pは、1~15の整数を表し;
qは、1~15の整数を表し;
kは、1又は2の整数を表し;及び
FGは、第2の官能基を表す]、
請求項
1から10又は
12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
FGが、アジド部分であり、pが、4であり、及び、qが、2又は3で
ある、請求項
13又は請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
kが、2である、請求項14又は請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記リンカーに標識を付着させる工程が、前記リンカーの官能基の反応中心と前記標識との間に共有結合を形成する工程を含む、請求項1から
16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記標識が、前記リンカー分子の官能基と反応して共有結合を形成することができる第2の官能基を含む部分にコンジュゲートしたリガンドを含む、請求項1から
17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記標識が、アルキンを含む部分にコンジュゲートしたビオチンを含む、請求項
18に記載の方法。
【請求項20】
任意の非標識DNAフラグメントから前記標識DNAフラグメントを分離する工程が、前記標識に選択的に結合する固定化された捕捉剤を使用する工程を
含む、請求項1から
19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記捕捉剤が、アビジン又はストレプトアビジンを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
シーケンシングの前に、放出されたDNAフラグメントを一緒にライゲートする工程を更に含む、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記DNAが、ナノポアシーケンシングを使用してシーケンシングされる、請求項1から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
シーケンシングの前に
、前記DNAを増幅する工程を更に含む、請求項1から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記ゲノムDNAの切断が、制限酵素を使用して行われる、請求項1から24のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピジェネティックプロファイリングのための方法に関する。特に、本発明は、加水分解可能な部分を含むリンカーで、DNAの非メチル化CpG部位を選択的に官能化する工程を含む、エピジェネティックプロファイリングのための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エピジェネティクスとは、DNA配列の変更を伴わない、ゲノムへの遺伝的修飾についての調査である。そのような修飾には、DNAメチル化、ヒストン修飾、及びノンコーディングRNA関連遺伝子サイレンシングが含まれる。エピジェネティック修飾は、細胞内で、最も顕著には真核生物における遺伝子発現の調節において重大な役割を果たす。
【0003】
DNAメチル化は、DNAへのメチル(CH3)基の付加により生じる。最も広く特徴付けされたDNAメチル化過程は、シトシン環の5-炭素へのメチル基の付加であり、5-メチルシトシン(5mC)をもたらす。体細胞において、5-メチルシトシンは、主にCpG(シトシン-リン酸-グアニン)部位(「CG」部位とも称される)に制限される。遺伝子のプロモーター領域におけるCpG部位がメチル化された場合、遺伝子の発現は抑制される。DNAへのメチル基の付加は、DNAメチルトランスフェラーゼと呼ばれる酵素によって行われる。
【0004】
エピジェネティック修飾の組織化の変化は、ますます多くの疾患と関連付けされている。近年、癌及び心臓疾患を含む多様な疾患における、並びに老化及びヒト発生のメカニズムにおけるエピジェネティック修飾の役割を調べる研究にかなりの関心が集まっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Wojciechowskiら、Proc Natl Acad Sci U S A、2013年1月2日; 110(1): 105~110頁
【文献】Dariiら、Molecular Biology 41、110~117頁(2007)
【文献】Kumarら、Biochemistry (1992)、31 (36)、8648~8653頁
【文献】Hlzら、Nucleic Acids Res. 26、1076~1083頁(1998)
【文献】Lukinaviciusら、Nucleic Acids Research、40、22 (2012) 11594~11602頁
【文献】Sambrook J、Russell DW、編(2012) Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第4編、Cold Spring Harbor、NY: Cold Spring Harbor Laboratory
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エピゲノムを調査するために利用可能ないくつかの方法がある。しかしながら、現在の手法の一部は、不均等な被覆率、特異性の欠如、DNAへの過酷な化学的処理、及び/又は高いコストに悩まされている。
【0007】
本発明は、これらの問題を念頭に置いて考案された。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によれば、例えばエピジェネティックプロファイリングのための、DNAを分析するための方法が提供され、方法は、
- (a)ゲノムDNAをDNAフラグメントに切断し;
(b)加水分解可能な部分を含むリンカーで、DNAに存在する任意の非メチル化CpG部位を選択的に官能化し;且つ
(c)リンカーに標識を付着させること
によって、標識DNAフラグメントを形成する工程;
- 任意の非標識DNAフラグメントから標識DNAフラグメントを分離する工程;
- 分離された標識DNAフラグメントのリンカーの加水分解可能な部分を加水分解して、標識からDNAフラグメントを放出するようにする工程;及び
- 放出されたDNAフラグメントをシーケンシングする工程
を含む。
【0009】
上の工程(a)、(b)、及び(c)は、任意の順序で行われ得ることが理解されるであろう。例えば、DNAがリンカーで官能化される前に、標識はリンカーに付着され得る。DNAを切断する前に又はDNAを切断した後に、DNAはリンカー(標識が既に付着されていてもいなくてもよい)で官能化され得る。故に、工程(b)は、ゲノムDNAに対して又はDNAフラグメントに対して行われ得ることが解されるであろう。
【0010】
一部の実施形態において、工程(c)は、工程(b)の前に行われる。一部の実施形態において、工程(a)は、工程(b)の後又は工程(c)の後に行われる。一部の実施形態において、方法は、記述された順序で行われ、すなわち工程(a)、その後に工程(b)、その後に工程(c)が続く。
【0011】
一部の実施形態において、標識DNAフラグメントを形成する工程は、工程(a)、(b)、及び(c)を記述された順序で実施することによって行われる。故に、一部の実施形態において、本発明の方法は、
- ゲノムDNAをDNAフラグメントに切断する工程;
- 加水分解可能な部分を含むリンカーで、DNAフラグメントに存在する任意の非メチル化CpG部位を選択的に官能化し、それによって官能化DNAフラグメントを形成する工程;
- 官能化DNAフラグメントのリンカーに標識を付着させ、それによって標識DNAフラグメントを形成する工程;
- 任意の非標識DNAフラグメントから標識DNAフラグメントを分離する工程;
- 分離された標識DNAフラグメントのリンカーの加水分解可能な部分を加水分解して、標識からDNAフラグメントを放出するようにする工程;及び
- 放出されたDNAフラグメントをシーケンシングする工程
を含む。
【0012】
ゲノムDNAは、サンプルに存在し得る。サンプルは、動物、例えばヒトから獲得されていてよい。サンプルは、適切な希釈剤又は緩衝剤を更に含み得る。
【0013】
ゲノムDNAの切断は、酵素的に、例えば制限酵素を使用して行われ得る。代替的に、ゲノムDNAは、機械的技法、例えば超音波処理又はせん断を使用してフラグメントに切断され得る。一部の実施形態において、切断は、粘着性末端(すなわち、結果として生じるDNAフラグメントの末端における不対ヌクレオチドの突出又は伸長)を生成する制限酵素を使用して行われる。代替的に、平滑末端(結果として生じるDNAフラグメントの両鎖が塩基対の状態で終結する)を有するDNAフラグメントをもたらす制限酵素が使用され得る。CpGメチル化に感受性がない任意の制限酵素が使用され得る。粘着性末端をもたらし且つCpGメチル化に非感受性である適切な制限酵素の例はSaqAIであり、それはDNAをT^TAA認識部位で切る。
【0014】
任意選択で、方法は、切断の前にゲノムDNAを単離する工程を更に含む。ゲノムDNAは、培養されている細胞から単離され得る。細胞からゲノムDNAを単離するためのプロトコールは、当業者によって知られていよう。ゲノムDNAの単離は、メーカーの取扱説明書に従って市販のキット(例えば、Qiagen社によって販売される)を使用して行われ得る。
【0015】
一部の実施形態において、加水分解可能な部分はシッフ塩基を含む。一部の実施形態において、シッフ塩基は、N-置換ヒドロゾン(hydrozone)又はO-置換オキシムである。
【0016】
一部の実施形態において、加水分解可能な部分はジスルフィド(S-S)結合を含む。
【0017】
リンカーは、以下の一般式を有し得る:
【化1】
[式中、FGは、反応中心を含む官能基を表し;
Zは、脂肪族連結又は芳香族連結の一方から選択される非反応性基を表し;
A-B-Cは加水分解可能な部分(例えば、シッフ塩基部分)を表し;
Yは、脂肪族連結又は芳香族連結から選択される非反応性基を表し;且つ
Uは、アルケン、アルキン、アリール基、カルボニル基、又は1つ若しくは2つのS=O結合を含む基のうちの1つから選択される不飽和結合を表す]。
【0018】
一部の実施形態において、加水分解可能な部分は、以下の構造のうちの1つを含む:
【化2】
[式中、R
xは、水素原子、重水素原子、芳香族基、又は脂肪族基のうちの1つを表す]。
【0019】
DNAに存在する任意の非メチル化CpG部位を選択的に官能化する工程は、非メチル化CpG部位とリンカーの官能基の反応中心との間に共有結合を形成する工程を含み得る。
【0020】
一部の実施形態において、DNAと反応中心との間に形成される共有結合は、例えば炭素-炭素結合、炭素-窒素結合、炭素-硫黄結合、又は炭素-酸素結合であり得る。一部の実施形態において、共有結合は炭素-炭素結合である。
【0021】
共有結合は、反応中心と非メチル化CpG部位のシトシン環の5位との間に形成され得る。
【0022】
メチルトランスフェラーゼ(MTase)は、DNA、RNA、及びタンパク質の部位選択的な修飾のための重要なツールとして浮上している。本来、メチルトランスフェラーゼ酵素は、S-アデノシル-L-メチオニン補因子からDNA又はRNAへのメチル基の高度に特異的な転移を触媒する。これらのクラスの生体分子へのメチル基の導入は、細胞内の遺伝子発現レベルを調節するのに役立つ。
【0023】
mTAG標識化では、S-アデノシル-L-メチオニン補因子類似体が採用され、天然S-アデノシル-L-メチオニン補因子のメチル基は、異なる部分、例えばリンカー部分と交換される。次いでメチルトランスフェラーゼ酵素を使用して、標的生体分子を、改変された補因子を使用して異なる部分で官能化し得る。天然に存在するS-アデノシル-L-メチオニン補因子の化学構造を操縦することによって、この標識化過程を、生体分子への官能基の共有結合的導入のための方法として使用することが可能である。リンカー部分は更なる官能性を含み得、それは、生体分子を、例えば標識、タグ、又は更なる生体分子で更に修飾するために使用可能であり得る。この方法論を使用して探求される最も一般的な適用の1つには、マッピングのためのフルオロフォアの導入のための、DNAへのクリック可能な(clickable)基の導入が見られる。
【0024】
故に、一部の実施形態において、DNA(ゲノムDNA又はDNAフラグメントのいずれか)における任意の非メチル化CpG部位をリンカーで選択的に官能化する工程は、DNAメチルトランスフェラーゼ酵素を使用して行われ得る。言い換えれば、本発明の方法はmTAG標識化を含み得る。メチルトランスフェラーゼは、S-アデノシル-L-メチオニン(AdoMet)補因子類似体からDNAの非メチル化CpG部位に転移可能な基を選択的に転移させる能力があり得る。そのような実施形態において、S-アデノシル-L-メチオニン補因子類似体の転移可能な基は、DNAを官能化するリンカーを構成する。
【0025】
当技術分野において知られるように、シトシン-5メチルトランスフェラーゼは、AdoMet類似体からDNAにおけるCpG部位への、伸長した基の転移を指揮するように操作され得る。故に、一部の実施形態において、DNAは、CpGメチル化に対する感受性を呈示するメチルトランスフェラーゼを使用して官能化される。言い換えれば、メチルトランスフェラーゼは、CpG部位を特異的にメチル化する。メチルトランスフェラーゼは、シトシン-5メチルトランスフェラーゼであり得る。適切な酵素には、M.HhaI、M.SssI、M.MpeI、M.TaqI、及びこれらの変異体が含まれる。M.MpeIは、Wojciechowskiら、Proc Natl Acad Sci U S A、2013年1月2日; 110(1): 105~110頁によって記載される方法を使用して獲得され得る。M.SssIの調製は、Dariiら、Molecular Biology 41、110~117頁(2007)によって記載される。M.HhaIの精製は、Kumarら、Biochemistry (1992)、31 (36)、8648~8653頁によって記載される。M.TaqIの調製は、Hlzら、Nucleic Acids Res. 26、1076~1083頁(1998)によって記載される。
【0026】
一部の実施形態において、DNAは、CpG特異的シトシン-5メチルトランスフェラーゼM.MpeIを使用して官能化される。一部の実施形態において、メチルトランスフェラーゼは、M.MpeIの二重変異体(Q136A/N374A)である。これらの変異は、酵素による、AdoMet類似体、例えば本明細書に記載されるものの使用を促す。当業者であれば、標準的な分子生物学技法及びLukinaviciusら、Nucleic Acids Research、40、22 (2012) 11594~11602頁の教示を使用して、DNAの部位特異的標識化のための更なるシトシン-5メチルトランスフェラーゼを操作し得るであろう。
【0027】
一部の実施形態において、S-アデノシル-L-メチオニン(AdoMet)類似体は、以下の一般式を有する:
【化3】
[式中、Rは転移可能な基(すなわち、リンカー)を表し;
FGは官能基を表し;
Zは、脂肪族連結又は芳香族連結の一方から選択される非反応性基を表し;
A-B-Cは加水分解可能な部分を表し;
Yは、脂肪族連結又は芳香族連結の一方から選択される非反応性基を表し;
Uは、アルケン、アルキン、アリール基、カルボニル基、又は1つ若しくは2つのS=O結合を含む基のうちの1つから選択される不飽和結合を表し;且つ
kは1又は2の整数を表す]。
【0028】
FGは、アジド、アルキン、イソチオシアネート、又はイソシアネート部分のうちの1つから選択され得る。一部の実施形態において、FGはアジド部分である。
【0029】
AdoMet類似体は対イオンと関連付けされ得、それは、カーボネートアニオン(CO3
2-)、ハイドロゲンカーボネート(HCO3
-)、テトラフルオロボレートアニオン(BF4
-)、ヘキサフルオロホスフェートアニオン(PF6
-)、アセテート(OAc-)、トリフルオロアセテートアニオン、ホルメートアニオン、ハロゲン化物(例えば、F-、Cl-、Br-、I-)、又はスルホネートアニオンのうちの1つ又は複数であり得る。
【0030】
Yは、リンカーの骨格に1~15個の原子、例えば2~10個又は3~5個の原子を含む、非反応性の脂肪族又は芳香族連結を表し得る。一部の実施形態において、Yは、1~15個のCH2部分、例えば2~10個又は3~5個のCH2部分を含む、非反応性の脂肪族又は芳香族連結を表す。
【0031】
一部の実施形態において、Yはアルキル連結である。
【0032】
一部の実施形態において、Zは、ポリエーテル鎖、任意選択で、エチレングリコールの最高5個のモノマーを含むポリエチレングリコール鎖を含む。付加的に又は代替的に、Zは、芳香族基、例えばC6H4(C=0)NH基を含み得る。
【0033】
リンカー分子を使用した本発明の方法は、生体直交型と記載され得る。
【0034】
3価のスルホニウム中心に対するβ位における不飽和部分Uは、メチルトランスフェラーゼ酵素を使用するポリヌクレオチド生体分子のアルキル化に対するリンカーの反応性を増強すると思われる。
【0035】
一部の実施形態において、Uはアルキンを表し得る。故に、一部の実施形態において、AdoMet類似体は、以下の一般式:
【化4】
を有する。
【0036】
代替的な実施形態において、Uはアルケンを表し得る。実施形態において、AdoMet類似体は、以下の一般式:
【化5】
を有し得る。
【0037】
一部の実施形態において、AdoMet類似体は、以下の一般式を有する:
【化6】
[式中、加水分解可能な部分は、C=N-X-C-Q部分を含むシッフ塩基部分であり;
pは、1~15の整数、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、若しくは15;又は2~10の整数;又は3~5の整数を表し;例えばpは4であり得;
Qは、炭素中心に独立して結合した1つの酸素原子又は2つの水素原子の一方を表し;
Uは、アルケン、アルキン、アリール基、カルボニル基を構成する炭素原子、1つ又は2つのS=O結合を構成する硫黄原子のうちの1つから選択される不飽和結合を表し;
Xは、酸素原子又は窒素原子の一方を表し;
Zは、脂肪族連結又は芳香族連結の一方から選択される非反応性基を表し;
FGは官能基を表し、それは、例えばアジド、アルキン、イソチオシアネート、又はイソシアネート部分のうちの1つから選択され得;且つ
kは1又は2の整数を表す]。
【0038】
一部の実施形態において、AdoMet類似体は、以下の一般式を有する:
【化7】
[式中、加水分解可能な部分は、-C=N-N-C=O結合を含むシッフ塩基部分であり;
pは、1~15の整数、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、若しくは15;又は2~10の整数;又は3~5の整数を表し;例えばpは4であり得;
qは、1~15の整数、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、若しくは15;又は2~10の整数;又は3~5の整数を表し、例えばqは2又は3を表し得;
kは1又は2の整数を表し;且つ
FGは官能基を表し、それは、例えばアジド、アルキン、イソチオシアネート、又はイソシアネート部分のうちの1つから選択され得る]。
【0039】
一部の実施形態において、AdoMet類似体は、以下の一般式を有する:
【化8】
[式中、加水分解可能な部分は、-C=N-O-結合を含むシッフ塩基部分であり;
pは、1~15の整数、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、若しくは15;又は2~10の整数;又は3~5の整数を表し;例えばpは4であり得;
式中、qは、1~15の整数、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、若しくは15;又は2~10の整数;又は1~5の整数を表し、例えばqは2又は3であり得;
kは1又は2の整数を表し;且つ
FGは官能基を表し、それは、例えばアジド、アルキン、イソチオシアネート、又はイソシアネート部分のうちの1つから選択され得る]。
【0040】
一部の実施形態において、AdoMet類似体は、以下の一般式を有する:
【化9】
[式中、kは1又は2であり、pは4であり、且つqは2又は3である]。
【0041】
一部の実施形態において、AdoMet類似体は、以下の一般式を有する:
【化10】
[式中、kは1又は2であり、pは4であり、且つqは2又は3である]。
【0042】
上記の実施形態のいずれかにおいて、kは1又は2であり得る。一部の実施形態において、kは2である。
【0043】
リンカーに標識を付着させる工程は、標識とリンカーの官能基(FG)の反応中心との間に共有結合を形成する工程を含み得る。一部の実施形態において、リンカーと標識との間に形成される共有結合は、炭素-窒素結合であり得る。
【0044】
官能基(FG)は、化学反応(例えば、クリック化学)又は化学酵素的反応(例えば、酵素媒介性反応において)によって標識と反応し得ることが理解されるべきである。加水分解可能な部分A-B-Cに生体直交型である任意の適切な官能基が、反応に対する官能基として選択され得る。例えば、官能基及び標識を伴う適切な反応には、クリック化学、環化付加、シュタウディンガー反応、エポキシド開環反応、求核置換、及び/又は求核付加が含まれる。
【0045】
一部の実施形態において、官能基は、ハロゲン化物(例えば、F、Cl、Br、又はI原子)、不飽和結合(例えば、アルケン、アルキン)、アジド、活性化エステル、活性化カーボネート、カルバメート、エポキシド、イソチオシアネート、又はイソシアネート部分のうちの1つから選択され得る。
【0046】
一部の実施形態において、官能基は、例えば標識上のアルキン又はアジドとそれぞれ反応するための、アジド又はアルキン部分を含む。
【0047】
標識は、リンカー分子の官能基と反応して共有結合を形成し得る第2の官能基を含み得る。加水分解可能な部分A-B-Cに生体直交型である任意の適切な基が、反応に対する第2の官能基として選択され得る。一部の実施形態において、第2の官能基は、アルキン又はアジドである。
【0048】
標識は、標識DNAフラグメントが非標識DNAフラグメントから分離されるのを可能にする任意の適切な分子を含み得る。例えば、標識は、捕捉剤(例えばタンパク質受容体又は更なる抗体)によって選択的に捕捉され得るリガンド(例えばタンパク質又は抗体等)を含み得る。
【0049】
当業者であれば、本発明の背景において利用され得る多くの考え得るタイプの標識/リガンド-捕捉剤相互作用を知っているであろう。これらは、相互作用の性質によって大まかに分類され得る。一部の実施形態において、標識(又は、標識の一部を形成するリガンド)と捕捉剤との間の相互作用は、共有結合性生体直交型カップリング、例えばアジド-アルキン、アミン-カルボン酸、スルフヒドリル-マレイミド、アルコキシアミン-アルデヒド、又はアジド-アミンカップリングである。例えば、標識は、捕捉剤の官能基と相互作用して、上で言及される共有結合性カップリングの1つを形成し得るように官能基を含み得る。
【0050】
一部の実施形態において、標識(又は、リガンド)と捕捉剤との間の相互作用は、非共有結合性、例えばビオチン-ストレプトアビジン、ジゴキセニン(digoxenin)-抗ジゴキセニン(antidigoxenin)、デスチオビオチン-ストレプトアビジンである。
【0051】
一部の実施形態において、標識は、タンパク質タグを含む又はそれからなる。適切なタンパク質タグには、CLIPタグ、SNAPタグ、又はマルトース結合タンパク質(アミロースアガロースを使用して捕捉され得る)が含まれる。
【0052】
一部の実施形態において、標識はビオチンを含む。ビオチンの使用は、それが、ストレプトアビジン又はアビジンを捕捉剤として使用する標識DNAの選択的捕捉を可能にすることから有利である。
【0053】
一部の実施形態において、標識は、第2の官能基を含む部分にコンジュゲートしたリガンドを含む。例えば、標識は、リンカーのアジド官能基と共有結合を形成するための、アルキンを含む化学的部分にコンジュゲートしたビオチンを含み得る。
【0054】
アジドとアルキンとの間のクリック反応は、CuAAC(銅触媒性アジド-アルキン環化付加)として知られる過程において、しばしば銅(I)触媒によって触媒される。生物系に有毒である銅(I)の使用を回避する代替反応は、アジドと歪み(strained)アルキン基との間の歪み促進型アジド-アルキン環化付加(SPAAC)である。適切な歪みアルキン基には、シクロオクチン、MOFO(モノフッ素化シクロオクチン)、DIFO(ジフッ素化シクロオクチン)、DBCO(ジベンゾシクロオクチン、DIBOとも略される)、及びBARAC(ビアリールアザシクロオクチノン)が含まれる。
【0055】
故に、一部の実施形態において、標識の第2の官能基は、歪みアルキン基、例えばDBCOを含む。標識は、歪みアルキン基にコンジュゲートしたリガンド、例えばビオチンを更に含み得る。
【0056】
適切なビオチン-DBCOコンジュゲートの例には、以下の構造:
【化11】
が含まれる。
【0057】
任意の非標識DNAフラグメントから標識DNAフラグメントを分離する工程は、標識DNAフラグメントの標識に選択的に結合する捕捉剤を使用する工程を含み得る。捕捉剤は、非標識DNAフラグメントに結合しない。非メチル化CpGを含むDNAフラグメントのみが標識されることから、本発明の方法は、ゲノムDNAに存在する非メチル化DNA配列の単離を可能にする。
【0058】
それ故、捕捉剤は、使用される標識のタイプに従って当業者によって選択されるであろうことが解されるであろう。例えば、標識がタンパク質を含む場合、そのタンパク質に特異的な抗体が捕捉剤として選択され得る。
【0059】
標識がビオチンを含む一部の実施形態において、捕捉剤は、アビジン又はストレプトアビジンを含み得る。
【0060】
捕捉剤は、例えば固体支持体、例えばビーズ、カラム、又はアレイに固定化され得る。
【0061】
一部の実施形態において、捕捉剤は、磁気ビーズ(すなわち、表面に共有結合的にカップリングしたストレプトアビジンを有する磁気ビーズ)に固定化されたストレプトアビジンを含む又はそれである。そのような実施形態において、標識DNAフラグメントとストレプトアビジンでコートされたビーズとを混合することによって、ビオチンを含む標識で標識されたDNAフラグメントは、非標識DNAから分離され得る。ストレプトアビジン捕捉剤はビオチン標識に結合し、それによって標識DNAフラグメントをビーズに結合させる。捕捉されたDNAフラグメントは、次いで、磁石を使用して非標識DNAフラグメントから分離される。当業者であれば、標識DNAの分離に適した他のリガンド-捕捉剤ペア及び方法を知っているであろう。
【0062】
標識DNAフラグメントの分離後、リンカーの加水分解可能な部分を加水分解して、標識を除去し、DNAフラグメントを放出する。加水分解は、分離され且つ標識されたDNAフラグメントを加水分解剤で処理することによって行われ得る。加水分解剤は、加水分解可能な部分の性質に従って当業者によって選択されるであろうことが解されるであろう。一部の実施形態において、加水分解は、加水分解剤、例えば酸若しくはヒドロキシルアミンを使用して、及び/又は加熱することによって行われる。例えば、加水分解は、酢酸アンモニウム緩衝溶液中でのヒドロキシルアミンを用いた処理によって行われ得る。
【0063】
一部の実施形態において、方法は、シーケンシングの前に、放出されたDNAフラグメントを一緒にライゲートする工程を更に含む。DNAフラグメントを一緒にライゲートしてより長い配列を生成することは、DNAが、ある特定のシーケンシングプラットフォーム、例えばナノポアシーケンシングを使用してシーケンシングされる対象となる場合に有利であり得る。しかしながら、ライゲーション工程を要しない種々のシーケンシングプラットフォームが使用され得ることが解されるであろう。
【0064】
放出されたDNAフラグメントのライゲーションは、DNAリガーゼ、例えばT4 DNAリガーゼを使用して酵素的に行われ得る。ライゲーションプロトコールは、当業者によって周知であると考えられ、Sambrook J、Russell DW、編(2012) Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第4編、Cold Spring Harbor、NY: Cold Spring Harbor Laboratoryによって記載される。代替的に、ライゲーションは、本明細書に記載されるプロトコールを使用して行われ得る。方法のライゲーション工程は、多くのフラグメントから構成されるDNAの配列をもたらす。DNAフラグメントは無作為にライゲートされ、それにより、作出された配列において、フラグメントは、それらが元のゲノムDNAにおいて現れる順序とは異なる順序にあることが解されるであろう。
【0065】
任意選択で、DNA配列は、シーケンシングの前に増幅される。増幅は、ライゲーションの後に運ばれ得る。PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)、ローリングサークル増幅、及び鎖置換を含めた、インビトロでDNAを増幅するためのいくつかの方法が周知である。
【0066】
一部の実施形態において、DNA配列はPCRによって増幅される。PCR増幅は、加水分解の後にDNAフラグメントに付着したままであるリンカー分子の部分を除去するだけでなく、シーケンシングに利用可能なDNAの分量を増加もさせる。
【0067】
当技術分野において知られるように、PCRは、反応混合物を、相対的に高い温度(例えば、95℃前後)での変性、相対的に低い温度(例えば、50~65℃)でのプライマーアニーリング、及び中程度の温度(例えば、70~80℃前後)での鎖伸長を含む、繰返しの加熱及び冷却サイクルに供する工程を含む。反応混合物は、適切な緩衝液中に、増幅される対象となるDNA配列(例えば、ライゲートされたDNA配列)、プライマーのペア(標的DNAの領域又はPCRアダプター配列に相補的である配列を有する一本鎖オリゴヌクレオチド)、デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTPs)、及びDNAポリメラーゼ酵素(例えば、Taqポリメラーゼ)を含む。PCRプロトコールは当業者に周知であり、商業的PCRキットが広く入手可能である。
【0068】
一部の実施形態において、増幅は、標識からDNAフラグメントを放出するための、リンカーの加水分解可能な部分の加水分解の前に行われる。一部の実施形態において、標識DNA配列は、固体支持体に固定化される捕捉剤に結合しながら増幅される。驚くべきことに、本発明者らは、ビオチン標識がDNAの末端に位置せずDNA鎖の中央に向かって位置する場合でさえ、DNAポリメラーゼはDNAをビオチン標識でプロセシングし得ることを見い出した。
【0069】
一部の実施形態において、増幅の前及び任意のライゲーションの後に、方法は、PCRアダプターを、放出されたDNAフラグメント又はライゲートされたDNA配列の末端に付加する工程を更に含む。当技術分野において知られるように、PCRアダプターは、PCRプライマーが結合し得る配列を含むDNAオリゴヌクレオチドである。
【0070】
PCRアダプターの付加の前に、DNAフラグメント又はライゲートされたDNA配列は改変され得る。例えば、フラグメント又は配列の末端は平滑末端化され得、任意選択でdAテール化され得る。単一アデニンの付加は、平滑末端のライゲーションと比べて、アダプター配列へのライゲーションの効率を有利に向上させる。シーケンシングアダプターは、ライゲーションによって、例えばT4 DNAリガーゼを使用して、DNA配列の改変された末端に付加され得る。そのような技法は当業者に周知であると考えられ、本明細書に記載される。
【0071】
一部の実施形態において、方法は、任意選択で増幅の後に、シーケンシングアダプターを、放出されたDNAフラグメント又はライゲートされたDNA配列の末端に付加する工程を更に含む。当技術分野において知られるように、シーケンシングアダプターは、シーケンシングの前にDNA配列の末端に付着される既知の配列のDNAオリゴヌクレオチドである。アダプター配列は、シーケンシングプライマー部位(すなわち、シーケンシングプライマーに対する結合部位);プラットフォーム特異的配列(例えば、フローセルへの結合を可能にする配列);サンプル指標(多重化を可能にする短い配列、典型的に6~10塩基);及び分子識別子(ライブラリー内の各分子に対する固有のコード)、のうちの1つ又は複数を含み得る。アダプター配列は市販されている。代替的に、アダプター配列は、特定の適用のために特注設計され得る。
【0072】
シーケンシングは、任意の適切な技法、例えばハイスループットシーケンシングとしても知られる次世代シーケンシング(NGS)を使用して行われ得る。NGS技術には、イルミナ(Solexa社)シーケンシング、Roche 454シーケンシング、超並列シグネチャーシーケンシング(MPSS)、ポロニーシーケンシング、コンビナトリアルプローブアンカー合成(cPAS)、SOLiDシーケンシング、イオントレント半導体シーケンシング、DNAナノボールシーケンシング、ヘリスコープ単分子シーケンシング、単分子リアルタイム(SMRT)シーケンシング、ナノポアDNAシーケンシング、及びマイクロ流体システムが含まれる。
【0073】
一部の実施形態において、シーケンシングは、ナノポアDNAシーケンシングを使用して実施される。この技法では、DNA鎖がナノポアを通過するときの電荷の変化を測定することによって配列は決定される。
【0074】
故に、本発明の方法は、ゲノムの非メチル化CpG部位のみを標的にするメチルトランスフェラーゼ指向性DNA改変を使用した、フラグメント化したDNAの親和性に基づく富化を提供する。後続の標識化及び捕捉は、ゲノムの非メチル化画分の単離につながる。次いで、この画分は、効率的なシーケンシングのために再ライゲートされ得る。この方法は、天然ゲノム全体の直接シーケンシングと比較して、より迅速で且つよりコスト効果の高いエピジェネティックプロファイリングを可能にする。更に、加水分解可能な部分を含有するリンカーでDNAフラグメントを官能化することによって、非メチル化画分を単離するために使用された標識は、下流のプロセシングのために効率的に除去され得る。
【0075】
別様に記述されない限り、本明細書に記載される実施形態のいずれかは、任意の他の実施形態と組み合わせられ得ることが解されるであろう。
【0076】
本発明の実施形態は、例として、及び添付の図を参照してここで記載される。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【
図1】S-アデノシル-L-メチオニン補因子類似体の形成のための反応スキームである。
【
図2】本発明の実施形態に従った方法の概観を提供する図である。
【
図3】本発明の実施形態に従った方法によって生成される分子構造を示した図である。
【
図4】ストレプトアビジンでコートされたビーズ上でのビオチン化DNAフラグメントの捕捉の効率を示したプロットであり、DNAフラグメントは、0、1、2、3、又は4つの非メチル化CpG部位を含有する。
【
図5】ストレプトアビジンでコートされたビーズを使用したビオチン化DNAフラグメントの捕捉及び放出の効率を示したプロットであり、DNAフラグメントは、ヒトゲノムDNAを切断することによって作出されている。
【
図6】放出されたDNAフラグメントをライゲートし且つ増幅することによって作出されたDNA配列の長さを示したグラフである。
【
図7】シーケンシングされた読取り長に対するアラインされた読取り長のプロットである。
【
図8】本発明の方法(SUURF ID1、2、及び3)によって獲得された遺伝子プロモーター領域のシーケンシング読取りと、MeDIPによって獲得されたシーケンシング読取りとのアライメントである。
【
図9】イルミナシーケンシングの結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0078】
図1を参照して、S-アデノシル-L-メチオニン補因子(AdoMet)類似体の形成のための反応スキームが示されている。
【実施例1】
【0079】
S-アデノシル-l-メチオニン補因子類似体の合成
前駆体1の合成
8-ヒドロキシオクタ-6-イン酸 7の合成
6-ヘプチン酸の溶液(2g、15.87mmol)をアルゴン下で乾燥THF(42ml)中に作製し、これにHMPA(34.9mmol、6.13ml)を添加し、溶液を-78℃に冷却した。これにnBuLi(ヘキサン中1.6M、34.9mmol、21.8ml)を滴下し、一方で-60℃より下で温度を維持した。次いで、溶液を-40℃に温め、1時間撹拌した。1時間後、パラホルムアルデヒド(1.47g、47.6mmol)を、アルゴンフローの下で粉末ロートにより添加した。次いで、反応混合物を45℃に4時間温めた。反応後、混合物を1M HClでpH4~5にクエンチし、EtOAcで抽出した。溶媒を次いで乾燥させ、EtOAcを回転蒸発によって除去し、粗生成物を与えた。精製を、フラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、Hex:EtOAc、6:4)を使用して完了させた:収率=68%、Rf=0.27(Hex:EtOAc、6:4);1H NMR (300 MHz, DMSO-d6) δ 12.03 (s, 1 H), 5.03 (s, 1H), 4.02 (d, J = 2.6 Hz, 2H), 2.29 - 2.14 (m, 4H), 1.63 - 1.50 (m, 2H), 1.50 - 1.39 (m, 2H); MS: m/z [M-H] = 155.46.
【0080】
tert-ブチル2-(8-ヒドロキシオクタ-6-イノイル)ヒドラジン-1-カルボキシレート8の合成
8-ヒドロキシオクタ-6-イン酸 7(1.35g、8.65mmol)及びカルバジン酸tert-ブチル(1.4g、10.38mmol)を2:1のTHF:H2O(13.5:6.75ml)に溶解した。これにEDC.HCl(1.87g、9.52mmol)を15分間にわたってゆっくりと添加した。混合物を3時間撹拌させ、次いでEtOAcで抽出した。有機層を0.1M HCl、水、及びブラインで洗浄し、次いで有機層を収集し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧下で除去し、生成物を白色個体として産出した:収率=63%;1 H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 9.47 (s, 1H), 8.66 (s, 1H), 5.04 (t, J = 5.9 Hz, 1H), 4.02 (dt, J = 5.9, 2.2 Hz, 2H), 2.19 (tt, J = 7.1, 2.2 Hz, 2H), 2.06 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 1.58 (p, J = 7.3 Hz, 2H), 1.50 - 1.32 (m, 12H); 13C NMR (101 MHz, DMSO) δ 172.01, 84.36, 80.94, 79.42, 49.59, 33.06, 28.53, 28.08, 24.70, 18.24; MS: m/z [M+Na] = 294.15.
【0081】
tert-ブチル2-(8-ブロモオクタ-6-イノイル)ヒドラジン-1-カルボキシレート1の合成
tert-ブチル2-(8-ヒドロキシオクタ-6-イノイル)ヒドラジン-1-カルボキシレート8の溶液(300mg、1.11mmol)を乾燥DCM(3.33ml)中に作製し、氷上で冷却した。トリフェニルホスフィン(437mg、1.67mmol)を添加し且つ溶解させ、溶解され次第、テトラブロモメタン(552mg、1.67mmol)をゆっくりと添加した。反応液を次いで室温に至らせ、1時間撹拌させた。反応後、溶媒を減圧下で除去し、粗混合物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲルHex:EtOAc、7:3)によって精製した:収率=55%;Rf=0.15(Hex:EtOAc 7:3);1 H NMR (300 MHz, DMSO-d6) δ 9.48 (s, 1 H), 8.67 (s, 1 H), 4.21 (t, J = 2.3 Hz, 2H), 2.27 (tt, J = 6.9, 3.4 Hz, 2H), 2.06 (t, J = 7.4 Hz, 2H), 1.65 - 1.31 (m, 13H); 13C NMR (101 MHz, DMSO) δ 171.4, 155.2, 87.7, 78.9, 76.3, 54.9, 39.5, 32.5, 28.0, 27.3, 24.1, 17.9, 17.2; MS: m/z [M+Na] = 355/357.08.
【0082】
前駆体4の合成
7-ブロモ-ヘプタ-1-イン9の合成
6-ヘプチン-1-オールの溶液(5g、44.6mmol)を乾燥DCM(60ml)中に作製し、氷上で冷却した。これにトリフェニルホスフィン(17.6g、67mmol)を添加し、完全に溶解され次第、テトラブロモメタン(22.2g、67mmol)をゆっくりと添加した。反応混合物を室温に至らせ、1時間撹拌した。完了後、溶媒を減圧下で除去した。ヘキサンを粗物に添加し、白色懸濁液を形成した。ヘキサン画分を濾過し、収集し、次いで溶媒を除去した。油性残留物が残り、それをヘキサンを用いたフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製した:収率=91%、Rf=0.45(ヘキサン);%);□max(neat)/cm-1 540(C-Br);1H NMR (300 MHz, DMSO-d6) δ 3.53 (t, J = 6.7 Hz, 2H), 2.75 (t, J = 2.7 Hz, 1 H), 2.23 - 2.10 (m, 2H), 1.89 - 1.74 (m, 2H), 1.50 - 1.43 (m, 4H).
【0083】
8-ブロモオクタ-2-イン-1-オール10の合成
7-ブロモヘプタ-1-イン 9の溶液(20.56mmol、3600mg)を、アルゴン下で、乾燥THF(12.3ml)中に作製し、-78℃に冷却した。これにヘキサン中nBuLiの溶液(1.6M、13ml)を滴下し、一方で-60℃より下で温度を維持した。反応混合物を次いで氷浴中で0℃に温め、その時点でパラホルムアルデヒド(1718mg、55.5mmol)をアルゴンのフロー下で添加し、30分間撹拌した。次いで、混合物を室温に温め、撹拌させ、発熱反応が停止するまで温度を30℃より下で維持した。次いで、混合物を45℃に2時間加熱した。完了次第、反応液をエーテル及び飽和(sat.)NH4Clで抽出した。有機層を収集し、溶媒を減圧下で除去して、粗生成物を油として産出した。乾燥次第、精製をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン:酢酸エチル、9:1)によって完了させた。生成物を次いで無色油として収集した:収率=55%、Rf=0.15(Hex:EtOAc 9:1)、1 H NMR (300 MHz, DMSO-d6) δ 5.04 (t, J = 5.7 Hz, 1 H), 4.03 (dt, J = 5.5, 2.1 Hz, 2H), 3.54 (t, J = 6.7 Hz, 2H), 2.20 (m, 2H), 1.88 - 1.75 (m, 2H), 1.52 - 1.40 (m, 4H).
【0084】
tert-ブチル((8-ヒドロキシオクタ-6-イン-1-イル)オキシ)カルバメート11の合成
DMF(4.3ml)中N-Bocヒドロキシルアミン(890mg、6.55mmol)の溶液に、8-ブロモオクタ-2-イン-1-オール10(1200mg、5.85mmol)及び1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(1000mg、6.55mmol)を添加した。溶液を50℃で20時間撹拌した。完了次第、反応液をDCM及び15%クエン酸溶液で抽出した。有機相を乾燥させ、収集し、溶媒を減圧下で除去した。無色油を粗生成物として収集した。これをフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン:酢酸エチル、8:2)によって更に精製した。生成物を無色油として収集した:収率=73%、Rf=0.27;1H NMR (300 MHz, DMSO-d6) δ 9.91 (s, 1H), 5.03 (t, J = 5.9 Hz, 1H), 4.02 (dt, J = 5.9, 2.2 Hz, 2H), 3.66 (t, J = 6.2 Hz, 2H), 2.17 (tt, J = 6.7, 1.7 Hz, 2H), 1.40 (m, 15H); MS: m/z [M+H] = 258.2.
【0085】
tert-ブチル((8-ブロモオクタ-6-イン-1-イル)オキシ)カルバメート4の合成
tert-ブチル((8-ヒドロキシオクタ-6-イン-1-イル)オキシ)カルバメート11の溶液(1g、3.89mmol)を乾燥DCM(5.2ml)中に作製し、氷上で冷却した。これにトリフェニルホスフィン(1.53g、67mmol)を添加した。完全に溶解され次第、テトラブロモメタン(1.94g、67mmol)をゆっくりと添加した。反応混合液を室温に至らせ、1時間撹拌させるようにした。完了後、溶媒を減圧下で除去した。精製を、フラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン:酢酸エチル、8:2)を使用して完了させた:収率=67%、Rf 0.52(Hex:EtOAc、8:2);λmax(neat)/cm-1 1712(C=O)、607(C-Br);1H NMR (300 MHz, DMSO-d6) δ 9.90 (s, 1 H), 4.21 (t, J = 2.4 Hz, 2H), 3.66 (t, J = 6.2 Hz, 2H), 2.25 (tt, J = 6.9, 2.4 Hz, 2H), 1.40 (m, 15H); 13C NMR (101 MHz, DMSO) δ 156.04, 87.85, 79.37, 76.22, 75.05, 39.52, 28.05, 27.64, 27.04, 24.76, 18.06, 17.25; MS: m/z [M+Na] = 342.35/344.35, [M-tBuOH] = 246.38/248.38.
【0086】
全般的なカップリング手順
前駆体1、4を、酸性条件下でS-アデノシル-L-ホモシステインと反応させて、可逆性で且つ書換可能なBoc保護AdoMet誘導体を与えた。
【0087】
S-アデノシル-l-ホモシステインの溶液(15mg、0.04mmol)をギ酸及び酢酸の1:1混合物(300μl)中に作製した。次いで、前駆体1又は4(tert-ブチル2-(8-ブロモオクタ-6-イノイル)ヒドラゾン-1-カルボキシレート又はtert-ブチル((8-ブロモオクタ-6-イン-1-イル)オキシ)カルバメート)(1.2mmol、30当量)を氷上で滴下した。反応混合液を35℃に温め、一晩撹拌させた。一晩の撹拌後、反応混合液をジエチルエーテルで抽出し、水層を収集し、凍結乾燥によって乾燥させた:MS:m/z[M+H]=638(2)、[M+H]=624(5)。
【0088】
補因子脱保護
AdoMet類似体を酸性条件下で脱保護して、ヒドラゾン又はアルコキシアミン部分を曝露した。粗生成物をTFA(400μl)に溶解し、室温で2時間撹拌させた。反応後、酸をアルゴンのフロー下で除去した。
【0089】
補因子精製
いかなる過剰の前駆体も精製によって除去した。
【0090】
脱保護された補因子の両ジアステレオマーを、より後の段階では不可能である分離のHPLCによって分離し得た。
【0091】
次いで、粗反応混合液を水(2ml)に溶解した。AdoMet類似体の精製を、10ml/分の流速における20mM酢酸アンモニウムpH5.5水(A)/MeOH(B)勾配を用いて溶出する分取逆相HPLC(ACE 5 C-18 25×2.12cm)によって実施した。勾配系:30分間の3~30% B、30分間にわたる30~97% B、97% Bで5分間の持続、プログラム停止。保持時間:ヒドラジドiso.1=17.51分間、iso.2=18.73分間、ヒドロキシルアミンiso.1=25.47分間、iso.2=28.24分間:MS:m/z[M+H]=538(2)、[M+H]=524(5)。
【0092】
脱保護されたAdoMet誘導体は、複数の経路を介して、特にフリーズドライ後にゆっくりと分解し、より高い保持時間で付加的なピークを与える。
【0093】
アルデヒドカップリング
分解を軽減するために、AdoMet誘導体を、HPLCによる精製の直後に市販のベンズアルデヒドと反応させて、ヒドラゾン及びアルコキシアミン部分の求核性質に起因した副反応を最小限に抑えた。
【0094】
収集されたHPLC画分に、Ald-PEG3-N3(1.2当量)を添加し、室温で30分間回転させた。次いで、画分を凍結乾燥によって乾燥させた。乾燥次第、固体を100μlの0.1%酢酸に溶解し、-20℃で保管した。濃度を、ε260=15.400dm-3mol-1cm-1を用いたUV吸収分析によって判定した:MS:m/z[M+H]=867(3)、[M+H]=856(6)。
【0095】
結果として生じるAdoMet類似体は反応性末端アジドを含有し、それは幅広い官能基と容易にコンジュゲートし得、一方でアルデヒドとヒドラゾン又はアルコキシアミンとの縮合は、可逆的に官能化され得る動的官能性を取り入れる。
【0096】
わずかに過剰のアルデヒド(1.2当量)を採用して、脱保護された中間体の完全な官能化を確実にした。
【0097】
フリーズドライされたAdoMet類似体の分解は観察されなかった。
【0098】
図2を参照して、本発明に従った方法は、ゲノムDNA(10)、例えばヒトゲノムDNAのエピジェネティックプロファイリングに使用される。第1の工程(A)において、ゲノムDNAを、制限酵素、例えばSaqAIを使用してDNAフラグメントに消化する。酵素的消化によって生成されたDNAフラグメントは、CpG部位でメチル化されていないフラグメント(12)、及びCpG部位でメチル化されているフラグメント(14)を含む。
【0099】
工程(B)は、メチルトランスフェラーゼ指向性の非メチル化CpG官能化を含む。この工程において、DNAフラグメント(12)に存在する非メチル化CpG部位は、メチルトランスフェラーゼ酵素(M.MpeI等)及びS-アデノシル-L-メチオニン(AdoMet)類似体AdoHCY-8-HY(
図3Aに示される)を使用して官能化される。メチルトランスフェラーゼは、補因子から非メチル化CpG部位のシトシンの5位に、転移可能な基、すなわちリンカー(16)を転移させ、それによって官能化DNAフラグメント(18)を生成する。
【0100】
図3Aに示されるように、補因子からDNAフラグメントに転移されるリンカーは、加水分解可能なC=N部分(シッフ塩基)及び末端アジド(N
3)基を含む。
【0101】
工程(C)において、官能化DNAフラグメント(18)はジアゾビオチン-DBCOと反応し、標識DNAフラグメント(20)を形成する。リンカーの末端アジドとDBCO部分のアルキンとの間のクリック反応により、リンカーとビオチン標識との間に共有結合が形成され、
図3Bに示される構造をもたらす。
【0102】
工程(D)において、標識DNAフラグメント(20)を、ストレプトアビジンでコートされたビーズ(22)を使用して捕捉する。ビーズ(22)を次いで洗浄して、任意の非特異的に結合した(すなわち、非標識)DNAを除去する。次いで、捕捉されたDNAフラグメント(24)を、加水分解可能な部分を加水分解することによって放出し(工程(E))、
図3Cに示される構造を与える。
【0103】
次いで、放出されたフラグメントを、DNAリガーゼを使用して無作為な形式で一緒に再ライゲートする(工程(F))。これは、元のゲノムDNA配列においてメチル化されなかったCpG部位を含有する多くのライゲートされたDNAフラグメントから構成されるDNAの長い配列(26)を創出する。任意選択で、ライゲートされたDNAをPCRによって増幅して、リンカーを除去する(工程(G))。最後に、増幅されたDNA(28)をシーケンシングする。
【実施例2】
【0104】
様々な数の捕捉部位を含有する対照DNAフラグメントの捕捉及び放出
方法論
CpG部位含有フラグメントのPCR増幅
0、1、2、3、又は4つのCpG部位を含有するDNAフラグメント(約150bp)を、メーカーの取扱説明書に従い、Q5(登録商標)High-Fidelity DNA Polymerase(NEB社)を使用して、ラムダゲノムの断片(NEB社)のPCR増幅によって生成した。以下の増幅プログラムを使用した:98℃30秒間、30サイクルの98℃10秒間、61℃30秒間、72℃20秒間、及び72℃で2分間の最終伸長。増幅後、DNAを、2×AMPure XPビーズを使用して精製し、100μl EB(10mM Tris-HCl(pH8.5))に溶出した。DNA濃度を、dsDNA BR Assay Kitを使用したQubit(商標)4 Fluorometer(Thermo Fisher社)を使用して定量化し、TapeStation 2200でのHigh Sensitivity D5000 ScreenTape(Agilent社)を使用してサイズ測定した。
【0105】
CpG捕捉分析
750ngのCpG部位(0、1、2、3、又は4つ)含有PCRフラグメントを、10×cutsmart buffer(3.5μl)(NEB社)、500μM AdoHcy-8-Hy補因子(1.17μl)、M.MpeI酵素(二重変異体(Q136A/N374A)、2.5μl)(1.7mg/ml)、及び水を含有する35μl反応においてmTAG標識した。サンプルを37℃で1時間インキュベートした。この後、1μLのプロテイナーゼK(800単位/ml)(NEB社)を添加し、サンプルを50℃で1時間インキュベートした。次に、1μlのジアゾビオチン-DBCO(Jena bioscience社)を添加し、サンプルを37℃で1時間1000rpmにてインキュベートした。サンプルを、次いで2×AMPure XPビーズ(500μlの80%エタノールで2回洗浄された)を使用して精製し、Tris緩衝液A(10mM Tris、1mM Nacl、pH7.5)に溶出した。DNA濃度を、Qubit(商標)4 Fluorometer及びdsDNA HS Assay Kit(Thermo Fisher社)を使用して定量化した。
【0106】
各サンプルに対して5μlのDynabeads(商標)MyOne(商標)Streptavidin C1ビーズ(Thermo Fisher社)を、等容量のTris緩衝液Aで2回洗浄した。洗浄液を除去し、5μL Tris緩衝液A中250ngのビオチン標識PCR DNAフラグメントを、5μlの洗浄されたストレプトアビジンビーズに添加し、RT、1000rpmで20分間インキュベートした。サンプルを磁石上に置き、上清を除去し且つ保管した。次いで、ビーズを5μl Tris緩衝液Aで2回洗浄し、洗浄物を保管した。捕捉されたDNAのパーセンテージを、dsDNA HS Assay KitとともにQubit(商標)4 Fluorometer(Thermo Fisher社)を使用して算出した。
【0107】
結果
本実験の結果は
図4に示されている。これは、様々な数のCpG部位を含有するDNAの対照フラグメントを捕捉する能力を実証している。捕捉部位を所有しないDNA(0CG)は捕捉されず、一方で1つ(1CG)、2つ(2CG)、3つ(3CG)、又は4つ(4CG)の捕捉部位を含有するDNAはそれぞれ、効率的に捕捉された。これは、本方法の特異性及び効率を実証している。
【実施例3】
【0108】
ヒトDNAを使用したエピジェネティック調査
方法論
ゲノムDNA抽出
ヒトゲノムDNAを、培養GM12878ヒト細胞(Coriell社:GM12878)から抽出した。細胞培養を、GM12878細胞株からのエプスタイン・バールウイルス(EBV)形質転換Bリンパ球培養物を使用して行い、2mM L-グルタミン、15%FBSを補充したRPMI-1640培地中で成長させ、37℃でインキュベートした。ゲノムDNAを、メーカーの取扱説明書に従い、QIAGEN Genomic-tip 500/G kit(Qiagen社)を使用して抽出した。
【0109】
ゲノムDNAの消化
ヒトゲノムDNA(NA12878)を、4μg DNA、8μL緩衝液、4μl SaqAI酵素、及び水を含有する80μL反応において、Anza(商標)64 SaqAI(Thermo Fisher社)を使用して消化した。反応液を次いで37℃で1時間インキュベートした。フラグメント化されたDNAを、QIAquick PCR Purification Kit(Qiagen社)を使用して浄化し、30μl EB(10mM Tris-HCl(pH8.5))に溶出した。付加的なDNAが要される場合、反応を繰り返した。DNA濃度を、Qubit(商標)4 Fluorometer及びdsDNA HS Assay Kit(Thermo Fisher社)を使用して定量化し、TapeStation 2200でのHigh Sensitivity D5000 ScreenTape(Agilent社)を使用してサイズ測定した。
【0110】
ヒトDNAのmTAG指向性官能化及び非メチル化CpG含有フラグメントの富化
ヒトDNAフラグメントのmTAG標識化及びビオチンタグ付けを3回行った。各反応は、70μlの最終容量まで、1.5μgのSaqAI消化ヒトDNA、7μl 10×cutsmart buffer、2.33μl AdoHcy-8-Hy補因子(500μM)、5μL M.MpeI酵素(二重変異体(Q136A/N374A))(1.7mg/ml)、及び水を含有した。サンプルを37℃で1時間インキュベートした。これらの反応液に、2μlのプロテイナーゼK(800単位/ml)(NEB社)を添加し、50℃で1時間インキュベートした。次に、2μlのジアゾビオチン-DBCO(Jena bioscience社)を添加し、反応液を37℃、1000rpmで更に1時間インキュベートした。各サンプルを、2×AMPure XPビーズ(1000μlの80%エタノールで2回洗浄された)を使用して精製し、30μl Tris緩衝液A(10mM Tris、1mM Nacl、pH7.5)に溶出した。DNA濃度を、Qubit(商標)4 Fluorometer及びdsDNA HS Assay Kit(Thermo Fisher社)を使用して定量化した。
【0111】
各サンプルに対して20μlのDynabeads(商標)MyOne(商標)Streptavidin C1ビーズ(Thermo Fisher社)を、等容量のTris緩衝液Aで2回洗浄した。各サンプルからの、30μl Tris緩衝液A中1μgの標識され且つビオチンタグ付けされたDNAを、20μlの洗浄されたストレプトアビジンビーズに添加し、RT、1000rpmで20分間インキュベートした。次いで、サンプルを磁石上に置き、上清を除去し、ビーズを20μl Tris緩衝液A中で2回洗浄した。捕捉されたDNAをビーズから放出するために、20μlの0.85Mヒドロキシルアミン溶液(170mM最終)とともに80μlの放出緩衝液(11.2mM酢酸アンモニウム(pH6.5)、1M NaCl)を添加し、50℃、1000rpmで1時間インキュベートした。次いで、放出されたDNAを2×AMPure XPビーズを使用して精製し、14μl EB(10mM Tris-HCl(pH8.5))に溶出した。DNA濃度を、dsDNA HS Assay KitとともにQubit(商標)4 Fluorometer(Thermo Fisher社)を使用して定量化し、TapeStation 2200でのHigh Sensitivity D5000 ScreenTape(Agilent社)を使用してサイズ測定した。
【0112】
放出されたフラグメントのライゲーション及びPCR増幅
放出されたヒトDNAフラグメントの定量化及びサイズ測定の後、約170~190ngのDNAが各10.5μlサンプルに残った。これに、等容量(10.5μl)のAnza(商標)T4 DNA Ligase Master Mix(Thermo Fisher社)を添加し、サンプルをRTで1時間インキュベートした。次いで、各サンプルを2×AMPure XPビーズを使用して精製し、13μl EB(10mM Tris-HCl(pH8.5))に溶出した。DNA濃度を、dsDNA HS Assay KitとともにQubit(商標)4 Fluorometer(Thermo Fisher社)を使用して定量化し、TapeStation 2200でのGenomic DNA ScreenTape(Agilent社)を使用してサイズ測定した。
【0113】
この後、残存する10μlの各サンプルを、NEBNext(登録商標)Ultra(商標)II End Repair/dA-Tailing Module(NEB社)を使用して末端修復し且つdAテール化した。次いで、DNAを2×AMPure XPビーズを使用して浄化し、15μl EB(10mM Tris-HCl(pH8.5))に溶出した。15μlの末端修復され且つdAテール化されたDNAに、10μl PCA(Oxford Nanopore Technologies社(ONT社))及び25μl Blunt/TA Ligase Master Mixを添加し、サンプルを25℃で1時間インキュベートした。次いで、DNAを2×AMPure XPビーズを使用して精製し、12μl EBに溶出した。DNA濃度を、dsDNA HS Assay KitとともにQubit(商標)4 Fluorometer(Thermo Fisher社)を使用して定量化した。
【0114】
次に、前の工程からの4.5μl(10ng)PCAライゲートされたDNA、1.5μl dNTPs(10mM)、2μl PRM(Oxford Nanopore Technologies社(ONT社))、10μl LongAmp(登録商標)Taq reaction buffer(NEB社)、2μl LongAmp(登録商標)Taq DNA Polymerase(NEB社)、及び30μlの水を含有する、3×50μl PCR反応液を調製した。以下の増幅プログラムを使用した:94℃2分間、21サイクルの94℃30秒間、62℃15秒間、65℃15分間、及び65℃で15分間の最終伸長。DNAを、2×AMPure XPビーズを使用して精製し、DNA濃度を、dsDNA BR Assay KitとともにQubit(商標)4 Fluorometer(Thermo Fisher社)を使用して定量化し、TapeStation 2200でのGenomic DNA ScreenTape(Agilent社)を使用してサイズ測定した。
【0115】
ライブラリー調製及びMinIONシーケンシング
50μlのヌクレアーゼ不含水中1μgの再ライゲートされ且つPCR増幅されたDNAを、NEBNext(登録商標)Ultra(商標)II End Repair/dA-Tailing Module(NEB社)を使用して末端修復し且つdAテール化した。次いで、サンプルを2×AMPure XPビーズを使用して精製し、ヌクレアーゼ不含水に溶出した。次いで、シーケンシングアダプター(AMX)をメーカーの取扱説明書(1D genomic DNA by ligation(SQK-LSK109)(Oxford Nanopore Technologies社(ONT社))に従い、NEBNext Quick T4 DNA Ligase(NEB社)を使用してライゲートした。
【0116】
各ライブラリーを、メーカーの取扱説明書(ONT社)に従い、R9.4.1フローセル(FLO-MIN106D)にロードし、ライブラリー調製プロトコールに対して規定された標準的パラメーターを使用して48時間シーケンシングした。塩基コールを、ライブラリー調製法に基づくパラメーターとともにGuppy(2.0.10)を使用して行った。
【0117】
読取りアライメント
シーケンシングされた読取りを、「-ax map-ont -K 500M」選択肢を有するminimap21を使用して、ヒトゲノム参照(hg19)に対してマッピングした。
【0118】
結果
SaqAI酵素を用いたヒトゲノムDNAの初回消化は、長さが約150bpのDNAフラグメントを産出することが見い出された。AdoHcy-8-Hy補因子を使用したDNAフラグメントのmTAG官能化、及びジアゾビオチン-DBCOを使用した標識化の後、標識DNAフラグメントを、ストレプトアビジンでコートされたビーズ上に捕捉した。3つすべてのサンプルにわたって、DNAの約24%の一貫した捕捉が観察された。加えて、すべてのサンプルに関して、ストレプトアビジンビーズからの捕捉されたDNAの非常に効率的な回収(約95%)が単一工程において達成された(
図5)。
【0119】
次いで、各サンプルからの放出されたDNAのフラグメントを、無作為に一緒に接着させて、DNAの長いフラグメントを形成した。
図6は、実験の3つすべての繰返しにおける、捕捉され且つ放出されたDNAフラグメントの再ライゲーション及びPCR増幅の成功を示している。
【0120】
次いで、各サンプルからの放出され且つ再ライゲートされたヒトDNAを、MiniIONナノポアシーケンシング装置を使用してシーケンシングした。各シーケンシング読取りは、無作為に一緒にライゲートされた/接着されたDNAの多くの短いフラグメントからなるため、公的に利用可能なアルゴリズムを使用して、読取りにおける各個々のフラグメントを、それが由来するゲノム位置にアラインした。
【0121】
各読み取り内の個々のDNAフラグメントの正しいアライメントを支持する証拠が
図7に見られ得る。この図は、「アラインされた読取り長」と比べた「シーケンシングされた読取り長」を示している。シーケンシングされた読取り長とは、各シーケンシング読取りの長さである(各読取りは、一緒に接着された複数の小さなフラグメントからなる)。各シーケンシング読み取り内の短いフラグメントが、ゲノム上の正しい位置にアラインされた場合、「アラインされた読取り長」は、「シーケンシングされた読取り長」よりも短いと予想されると考えられ、それはまさに
図7に示されるものである。これは、アライメントアルゴリズムが各シーケンシング読み取り内の短いフラグメントをアラインし得ることを実証している。
【0122】
正しい部位が捕捉されたことを確実にするために、獲得されたシーケンシングデータをMeDIPシーケンシングデータと比較した。MedIPは、非メチル化部位を捕捉する本発明の方法とは対照的に、ゲノムのメチル化部位を捕捉する方法である。それ故、本発明の方法は、MeDIPと、ゲノムの同じ位置を捕捉しないはずである。
【0123】
図8は、MeDIPを使用して獲得されたシーケンシング読取りとの、本方法(SUURF ID1、ID2、及びID3)を使用して獲得されたシーケンシング読取りの比較を示している。囲み内に示される領域は、非メチル化であることが知られる遺伝子プロモーター配列である。この領域において、SUURFサンプルからのシーケンシング読取り(非メチル化DNAの捕捉)の増大、及びMedIPサンプルからのシーケンシング読取り(メチル化DNAの捕捉)の減少があることが見られ得る。これは、本発明の方法を使用して、ゲノムの非メチル化領域の捕捉及びシーケンシングに成功し得ることを実証している。
【実施例4】
【0124】
イルミナシーケンシングのための、ヒト頭頸部癌の捕捉及び放出
頭頸部扁平上皮細胞癌腫(HNSCC)(VU40T)DNAを、以下の反応において150bpにフラグメント化した;65μlの最終容量までの、50μl DNA(5.6μg)、6.5μl 10×Fragmentase Reaction Buffer v2、3μl NEBNext dsDNA Fragmentase酵素(M0348)、3.5μl 200mM MgCl2、2μlヌクレアーゼ不含水。反応液を37℃で35分間インキュベートした。反応を停止させるために、35μlの400mM EDTAを添加した。次いで、DNAを2.5×AMPure XPビーズ(Beckman社)を使用して精製し、サイズを、1%アガロースゲルを使用してチェックし、GelRed(登録商標)(Biotium社)を用いてプレステインした(55分間の120V)。
【0125】
次に、70μlの最終容量までの、19.4μlのフラグメント化された頭頸部癌DNA(800ng)(150bp)、10μl M.MpeI酵素(二重変異体(Q136A/N374A))(ストック1.7mg/ml)、7μl 10×CutSmart(登録商標)Buffer(NEB社)、2.33 AdoHcy-8-Hy補因子(500μM最終)、及び31.27μlヌクレアーゼ不含水を含有する標識化反応液を調製し、次いで反応液を37℃で1時間インキュベートした。次に、4μlμLのプロテイナーゼK(800単位/ml)(NEB社)を添加し、サンプルを50℃で更に1時間インキュベートした。最後に、4μlのスルホ-DBCO-ビオチンコンジュゲート(15mMストック)(Jena Bioscience社)を添加し、それを37℃で1時間インキュベートした。次いで、サンプルを2.5×AMPure XPビーズ(Beckman社)を使用して精製し、DNA濃度を、Qubit(商標)4 Fluorometer及びdsDNA HS Assay Kit(Thermo Fisher社)を使用して定量化した。
【0126】
この後、50μl Tris緩衝液A(10mM Tris、1mM Nacl、pH7.5)中600ngのフラグメント化され且つビオチン化されたDNAを、60μlの洗浄されたDynabeads(商標)MyOne(商標)Streptavidin C1ビーズ(Thermo Fisher社)とともにRTで20分間インキュベートした。次いで、ビーズを、100μl Tris緩衝液Aで2回洗浄して、任意の非特異的に結合したDNAを除去した。捕捉されたDNAを、90μlの放出緩衝液(11.2mM酢酸アンモニウム(pH6.5)、1M NaCl)及び10ulの0.85Mヒドロキシルアミン溶液(170mM最終)を使用して、50℃、1200rpmで1時間ビーズから放出した。次いで、放出されたDNAを、次いで2.5×AMPure XPビーズ(Beckman社)を使用して精製し、DNA濃度を、Qubit(商標)4 Fluorometer及びdsDNA HS Assay Kit(Thermo Fisher社)を使用して定量化した。サンプルを、次いでメーカーの取扱説明書に従いKAPA HyperPrep Kitを使用して、イルミナシーケンシングのために調製した。
【0127】
図9は、非メチル化CpG部位の位置を示した本アンメチローム(unmethylome)化学(上)、及びゲノムのメチル化領域の相補的捕捉を示したMeDIPデータ(抗体に基づく捕捉)(中及び下)に関する、MLM1遺伝子の始まりにCpGアイランドを含有する領域にマッピングされた読取りの数を示したゲノムブラウザからのデータ比較を示している。
【実施例5】
【0128】
捕捉されたDNAの増幅
メチルトランスフェラーゼ酵素及びAdoMet類似体を用いた、固定された細胞における非メチル化ゲノムDNAの標識化
1×106個細胞(MCF7又はMCF10A)を10cmディッシュに播種し、24時間インキュベートした。次いで、細胞を5mlの冷却MeOH/AcOH(95:5)を用いて-20℃で10分間固定し、PBSで2回洗浄した。固定された細胞を、1×CutSmart buffer中5mlの溶液:
Taq-37.4μl のM.TaqI(WT)(1.1mg/ml)、4μM AdoHcy-6-N3
M.MpeI-90.9μl M.MpeI(二重変異体(Q136A/N374A))(6.9mg/ml)、65μM AdoHcy-6-N3
とともに37℃で1時間インキュベートし、PBSで2回洗浄し、PBS中100μMのスルホ-DBCO-ビオチンとともにRTで一晩インキュベートした。次いで、細胞をPBSTで3回洗浄した。1mlのPBSTを添加し、細胞をこすり取った。DNAを、QIAGEN Genomic-tip 20/Gを使用して精製した。次いで、ビオチン標識DNAを100mM Tris-HCl pH8.5に再懸濁し、150bpに超音波処理した。
【0129】
メチルトランスフェラーゼ酵素及びAdoMet類似体を用いた、インビトロにおける非メチル化ゲノムDNAの標識化
MCF7又はMCF10A細胞からの2μgの抽出されたゲノムDNAを、20μLの総容量の1×CutSmart buffer中0.5μlのM.Taq(1.1mg/ml)又はM.MpeI(6.9mg/ml)及びAdoHcy-6-N3(それぞれ4μM及び65μM)とともに37℃で1時間インキュベートした。3μLのプロテイナーゼKを添加し、サンプルを50℃で1時間インキュベートし、その後に、2mMのDBCO-スルホ-ビオチンとの37℃で1時間のインキュベーションが続いた。次いで、ビオチン標識DNAをGenElute Bacterial Genomic DNA Kitを用いて精製した。DNAを10mM Tris-HCl pH8.5に2回溶出した。
【0130】
ライブラリー構築(Ponnaluri, V.K.C.ら、Genome Biol 18、122 (2017)からの手順に従う)
1μgのDNAを末端修復し、dAテール化し、NEBNext Ultra8482 II DNA Library Prep Kitを用いてライゲートした。更なる精製なしで、ライゲーション産物を、1mLのB&W緩衝液(10mM Tris-HCl pH8.0、1mM EDTA、2M NaCl)中で50μLのストレプトアビジン磁気ビーズ(Invitrogen社65001、1×PBS中0.1%冷却魚類ゼラチンを使用して4℃で一晩ブロッキングされた)と混合した。ビオチン標識DNAを、エンドオーバーエンド式回転を用いて、ストレプトアビジン磁気ビーズによって4℃で2時間捕捉した。ビーズを、B&W緩衝液+0.05%のTriton X-100で4回洗浄し、その後にTE+Triton X-100での1回の洗浄が続いた。ビーズを40μLのヌクレアーゼ不含水に再懸濁し、4μLを、標準的PCRを使用してライブラリー増幅に使用した。ビオチン標識の存在は、増幅過程に影響を及ぼさないことが見い出された。