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特許7625074ヒマラヤ山脈の細菌ヨードバクター種PCH 194からのポリヒドロキシブチレート及びビオラセイン色素の同時産生のためのバイオ方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-23
(45)【発行日】2025-01-31
(54)【発明の名称】ヒマラヤ山脈の細菌ヨードバクター種PCH 194からのポリヒドロキシブチレート及びビオラセイン色素の同時産生のためのバイオ方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 1/04 20060101AFI20250124BHJP
   C12P 7/625 20220101ALI20250124BHJP
【FI】
C12P1/04 Z
C12P7/625
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023516222
(86)(22)【出願日】2021-09-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-02
(86)【国際出願番号】 IN2021050868
(87)【国際公開番号】W WO2022054081
(87)【国際公開日】2022-03-17
【審査請求日】2023-06-05
(31)【優先権主張番号】202011039834
(32)【優先日】2020-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
【微生物の受託番号】MTCC  MTCC 25171
(73)【特許権者】
【識別番号】511219191
【氏名又は名称】カウンシル・オブ・サイエンティフィック・アンド・インダストリアル・リサーチ・アン・インディアン・レジスタード・ボディ・インコーポレイテッド・アンダー・ザ・レジストレーション・オブ・ソサエティーズ・アクト・(アクト・21・オブ・1860)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヴィジャイ・クマール
(72)【発明者】
【氏名】サンジャイ・クマール
(72)【発明者】
【氏名】ダラム・シン
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0338360(US,A1)
【文献】Extremophiles,2019年07月19日,Vol. 24,pp. 43-52
【文献】INT. J. SYST. BACTERIOL.,1989年,Vol. 39, No. 4,pp. 450-456
【文献】FEMS Microbiol. Lett.,2018年,Vol. 365, No. 14,pp. 1-9
【文献】Microbial Biotechnology,2014年,Vol. 7, No. 4,pp. 278-293
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
C12N 1/00-1/38
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨードバクター種(Iodobacter sp.)MTCC 25171の分離細菌株を使用するポリヒドロキシブチレート(PHB)及び青紫色のビオラセイン色素の同時産生のためのバイオ方法であって、
i)50mLの無菌栄養ブロス培地中で白金耳量のヨードバクター種MTCC 25171を接種し、20±2℃の温度で32~36時間、100~200rpmでインキュベートして、産生培地に接種するための種培養物を得る工程;
ii)3~5%(v/v)の工程[i]において得られた種培養物を無菌産生培地に接種し、20±2℃の温度で36~100時間、100~200rpmでインキュベートして、バイオマスを得る工程;
iii)工程[ii]において得られたバイオマスを採取して、遠心分離又は精密濾過によって色素沈着した細胞ペレットを得る工程;
iv)工程[iii]において得られた色素沈着した細胞ペレットを1:3~1:5の体積比でメタノール又はエタノールに懸濁させ、室温で10~15分間、混合し、それに続いて遠心分離を行って、上清中の色素を得る工程;及び細胞ペレット中に残った紫色が見えなくなるまで工程を繰り返して、無色の細胞ペレットを得る工程;
v)工程[iv]において得られた上清を真空蒸発を使用して濃縮して、所望のビオラセイン色素を得る工程;
vi)工程[iv]において得られた無色の細胞ペレットを3~5倍の体積の1:1のトリクロロメタン及び漂白溶液に懸濁させ、それに続いて連続振とう下、30~40℃の範囲の温度で終夜インキュベートして、混合物を得る工程;
vii)工程[vi]において得られた混合物を10~15分間静置し、試験管に下側の有機層をピペッティングで取り出し、次いで3~5倍の体積の冷却されたメタノールを添加し、それに続いてそれを混合し、沈殿のために-4~-20℃の範囲の温度で30~60分間保って、反応混合物を得る工程;
viii)工程[vii]において得られた反応混合物を遠心分離して、沈殿物としてペレットを収集し、残留溶媒を除去する工程;
ix)工程[viii]において得られたペレットを乾燥し、それをトリクロロメタンに再溶解する工程;並びに
x)工程(vi~viii)を繰り返し、残留溶媒を蒸発させることによってポリヒドロキシブチレートのペレットを最終的に収集する工程
を含む、方法。
【請求項2】
工程[i]及び/又は[ii]におけるインキュベートが、20℃及び150rpmで行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程[i]及び/又は[ii]における産生培地が、20%の溶存酸素を持する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
PHB及びビオラセイン色素の収量が、それぞれ、3~10g/L及び0.5~1.5g/Lの範囲内である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、新規細菌分離株ヨードバクター種(Iodobacter sp.)PCH 194(MTCC 25171)を使用する単一の発酵におけるポリヒドロキシブチレート(PHB)及びビオラセイン色素の同時産生のためのバイオ方法に関する。本発明はまた、定義された成長条件のセット下、特定の培地中で産生される二重産物のPHB及びビオラセイン色素に関し、更に、PHB及びビオラセイン色素の抽出及び回収のために開発された下流工程に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ほとんどの生体分子及び生体ポリマーは、人間のいくつかの必要性に合わせるために、天然に由来している。PHBは、3-ヒドロキシブチレートの直鎖状ポリエステルであり、その生分解性及びゴム状弾性のために、かなりの注目を集めている。大部分のポリマーは、石油化学製品に由来している。石油化学系ポリマーの使用による主要な懸念は、それらの非生分解性の特質であり、それに加えて、環境汚染及び化石資源に対する脅威を引き起こす。およそ3億1100万トン/年のプラスチックが、世界的に生産され、それらの90%は、石油から合成され(Bornscheuer UT. 2016 Feeding on plastic. Science 351: 1154~1155頁)、それによって、数百万トンのCO2及び他の有害な排出物をもたらす。加えて、プラスチックの非生分解性の特質は、陸及び海に数百万トンの蓄積をもたらし、食物網及び生態系に対する深刻な脅威を引き起こす。したがって、環境に配慮した様式で社会の必要性を満たすことができるポリマーの代替の及び信頼性のある起源を探索する緊急の必要性が存在する。
【0003】
多くの細菌がPHBを産生することが報告されており、いくつかのバイオテクノロジー戦略がPHB産生を改善するために用いられているが、経済的価値において商業的な実現可能性は、依然として懸念のままである。PHBを産生し、生産コストを低減する低コストの炭素源を使用する多くの調査研究及び発明が、過去に見つかっているが(米国特許第7129068号、米国特許第7666636号)、依然として、それらは石油化学系プラスチックと競合しない(Wang Y等、2014 Polyhydroxyalkanoates, challenges and opportunities. Curr. Opin. Biotechnol. 30: 59~65頁)。更に、PHB系バイオプラスチックは、それらのより高い生産コストに起因して、従来の石油化学系プラスチックに対して比較的コストが高い。
【0004】
ビオラセイン色素は、インドールから誘導された、青紫色に着色した二次代謝産物であるビオラセイン及びデオキシビオラセインを含有し、いくつかの細菌、例えば、クロモバクテリウム属(Chromobacterium)、ヤンシノバクテリウム属(Janthinobacterium)等によって産生される。ビオラセインは、様々な重要な生物活性、例えば、抗酸化活性、抗腫瘍活性、抗細菌活性、抗ウイルス活性及び抗原生動物活性を有する(Duran N等、2016、Advances in Chromobacterium violaceum and properties of violacein- Its main secondary metabolite: A review. Biotechnol. Adv. 34:1030~1045頁)。ビオラセイン及びデオキシビオラセインはまた、それらの抗酸化、抗菌、及び光保護の性質に起因して、様々な化粧品及び日焼け止め剤において使用されている。
【0005】
更には、繊維工業において、ビオラセイン及びデオキシビオラセインは、着色剤として使用されている。ビオラセイン及びデオキシビオラセインは、様々な細菌株によって産生され(Fang M等、2015. High crude violacein production from glucose by Escherichia coli engineered with interactive control of tryptophan pathway and violacein biosynthetic pathway. Microb. Cell Fact. 14:8頁)、それらの産生及び抽出の方法に対する特許がある(欧州特許第2545181号)。
【0006】
そのため、先行技術が、ポリヒドロキシブチレート及びビオラセイン色素の個々の産生のための別々の方法を報告しているが、どの先行技術も、商業的に実現可能な、2つの価値ある産物、即ち、ポリヒドロキシブチレート及びビオラセイン色素の同時産生のための単一のバイオ方法は提供していないことは疑いもなく明らかである。
【0007】
したがって、これまでに報告された先行技術の欠点の観点を保って、単独炭素源としてグルコースを使用する単一の発酵反応において、両方の生体分子、即ち、PHB及びビオラセイン色素の同時産生のための経済的で商業的に実行可能な単一のバイオ方法を提供することによる、ポリヒドロキシブチレート及びビオラセイン色素の産生の全体的なコストを低減するための切迫した必要性が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第7129068号
【文献】米国特許第7666636号
【文献】欧州特許第2545181号
【非特許文献】
【0009】
【文献】Bornscheuer UT. 2016 Feeding on plastic. Science 351: 1154~1155頁
【文献】Wang Y等、2014 Polyhydroxyalkanoates, challenges and opportunities. Curr. Opin. Biotechnol. 30: 59~65頁
【文献】Duran N等、2016、Advances in Chromobacterium violaceum and properties of violacein- Its main secondary metabolite: A review. Biotechnol. Adv. 34:1030~1045頁
【文献】Fang M等、2015. High crude violacein production from glucose by Escherichia coli engineered with interactive control of tryptophan pathway and violacein biosynthetic pathway. Microb. Cell Fact. 14:8頁
【文献】Sathiyanarayanan G等、2017. Production and characterization of medium-chain-length polyhydroxyalkanoates copolymer from Arctic psychrotrophic bacterium Pseudomonas sp. PAMC 28620. Int. J. Biol. Macromol. 97: 710~720頁
【文献】Kumar V等、2018. Bioplastic reservoir of diverse bacterial communities revealed along altitude gradient of Pangi-Chamba trans-Himalayan region. FEMS Microbiol. Lett. 365: fny144
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明の目的
したがって、本発明の主な目的は、これまでに報告された先行技術の制限を取り除く、定義された生理学的成長条件のセット及び培地の下で新規細菌株を使用する、単一の発酵におけるPHB及びビオラセイン色素の同時産生のための方法を提供することである。
【0011】
本発明の第2の目的は、ヨードバクター種PCH 194(MTCC 25171)の分離された純粋な細菌株を提供することである。
【0012】
本発明の第3の目的は、PHB及びビオラセイン色素の同時産生のための単一の炭素源としてグルコース及び窒素源としてトリプトンを使用することである。
本発明の第4の目的は、培養ブロスからのビオラセイン色素及びPHBの分離、抽出、及び回収のための簡単な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の概要
本開示のある態様において、ヨードバクター種MTCC 25171の分離細菌株を使用するポリヒドロキシブチレート(PHB)及び青紫色のビオラセイン色素の同時産生のためのバイオ方法であって、(i)50mLの無菌栄養ブロス培地中で白金耳量のヨードバクター種MTCC 25171を接種し、20±2℃の温度で32~36時間、100~200rpmでインキュベートして、産生培地に接種するための種培養物を得る工程;(ii)3~5%(v/v)の工程[i]において得られた種培養物を無菌産生培地に接種し、20±2℃の温度で90~100時間、100~200rpmでインキュベートして、バイオマスを得る工程;(iii)工程[ii]において得られたバイオマスを採取して、遠心分離又は精密濾過によって色素沈着した細胞ペレットを得る工程;(iv)工程[iii]において得られた色素沈着した細胞ペレットを1:3~1:5の体積比でメタノール又はエタノールに懸濁させ、室温で10~15分間、十分に混合し、それに続いて遠心分離を行って、上清中の色素を得る工程;及び細胞ペレット中に残った紫色が見えなくなるまで工程を繰り返して、無色の細胞ペレットを得る工程;(v)工程[iv]において得られた上清を真空蒸発を使用して濃縮して、所望のビオラセイン色素を得る工程;(vi)工程[iv]において得られた無色の細胞ペレットを3~5倍の体積の1:1のトリクロロメタン及び漂白溶液に懸濁させ、それに続いて連続振とう下、30~40℃の範囲の温度で終夜インキュベートして、混合物を得る工程;(vii)工程[vi]において得られた混合物を10~15分の期間静置し、試験管に下側の有機層をピペッティングで取り出し、次いで3~5倍の体積の冷却されたメタノールを添加し、それに続いてそれを十分に混合し、沈殿のために-4~-20℃の範囲の温度で30~60分の期間保って、反応混合物を得る工程;(viii)工程[vii]において得られた反応混合物を遠心分離して、沈殿物としてペレットを収集し、残留溶媒を除去する工程;(ix)工程[viii]において得られたペレットを乾燥し、それをトリクロロメタンに再溶解する工程;並びに(x)工程(vi~viii)を繰り返し、残留溶媒を蒸発させることによってポリヒドロキシブチレートのペレットを最終的に収集する工程を含む、方法が提供される。
【0014】
本開示の第2の態様において、本明細書において開示されるヨードバクター種MTCC 25171の分離細菌株を使用するポリヒドロキシブチレート(PHB)及び青紫色のビオラセイン色素の同時産生のためのバイオ方法であって、得られたPHBが、生分解性バイオプラスチックの調製のために有用である、方法が提供される。
【0015】
本主題のこれらの及び他の特色、態様及び利点は、以下の記載及び添付の特許請求の範囲を参照してより良く理解されるであろう。この概要は、簡易な形態の概念の選択を導入するために提供される。この概要は、特許請求の範囲にかかる主題の重要な特色又は必須の特色を同定することも意図せず、特許請求の範囲にかかる主題の範囲を限定するために使用することも意図しない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ヨードバクター種PCH 194と関連細菌及び基準株(エントリーの最後に同様に言及する)の系統発生位置を示す16S rDNA配列に基づく近隣結合系統樹を表す図である。樹は、1000のブートストラッピングでMEGA6において構築され、スケールバーはヌクレオチドあたり0.01置換を表し、括弧内の数字は、配列のGenBank受け入れ番号である。
図2】20℃及び150rpmで、1リットルの産生培地、pH7.5におけるヨードバクター種PCH 194の、バイオマス、グルコース利用、PHB及びビオラセイン色素産生プロファイルを表す図である。
図3】ヨードバクター種PCH 194による7.5リットルの操作体積の発酵槽におけるPHB及びビオラセイン色素の同時産生を表す図である。
図4】ヨードバクター種PCH 194によって産生された抽出及び精製されたPHBのGC MS分析を表す図である:(a)メタノリシス分解されたPHBのガスクロマトグラム、(b)PHBの質量スペクトル。
図5】ヨードバクター種PCH 194によって産生されたPHBのNMR分析を表す図である:(a)プロトンNMR、(b)13C NMR。
図6】(a)分光光度計:赤色、緑色及び青色の粗ビオラセインの可視スペクトル、一方でピンク色の線はメタノール対照を表す、(b)570nmでのビオラセイン色素のUPLCクロマトグラム、並びに(c)ピークの質量スペクトル:(c1)ビオラセインと一致するRT5.1;分子量343.342、MS質量344.44、及び(c2)デオキシビオラセインと一致するRT 5.8;分子量327.343、MS質量328.41を使用するビオラセイン色素モニタリングを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
本発明を、ここに、ある特定の好ましい実施形態及び任意選択の実施形態に関連して詳細に記載し、その結果、その様々な態様は、より完全に理解及び認識され得る。
【0018】
定義:
便宜上、本開示の更なる説明の前に、本明細書及び実施例において用いられるある特定の用語を、本明細書に詳述する。これらの定義は、本開示の残部の観点から読むべきであり、当業者によるように理解されるべきである。本明細書において使用される用語は、当業者に認識され、当業者に公知の意味を有するが、しかしながら、便宜上及び完全性のために、特定の用語及びそれらの意味を下記に示す。
【0019】
冠詞「a」、「an」及び「the」は、1つ又は1超(即ち、少なくとも1つ)の冠詞の文法上の目的語を指すために使用される。
【0020】
「含む(comprise)」及び「含む(comprising)」という用語は、追加の要素が含まれていてもよい、包含的なオープンな意義の意味で使用される。これは、「のみからなる(consists of only)」と解釈されることを意図しない。
【0021】
本明細書全体を通して、文脈が「含む(comprise)」という語、並びに「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」等の変形形態を他に必要としない限り、述べられた要素若しくは工程、又は要素若しくは工程の群の包含を意味するが、任意の他の要素若しくは工程、又は要素若しくは工程の群の排除を意味しないことが理解されるであろう。
【0022】
比、濃度、量、及び他の数値データは、本明細書において、範囲のフォーマットで表されることがある。そのような範囲のフォーマットが、単に便宜上及び簡潔さのために使用され、範囲の限定として明確に列挙された数値を含むだけでなく、それぞれの数値及び下位範囲が明確に列挙されるかのようなその範囲内に包含される個々の数値又は下位範囲の全てを含むと柔軟に解釈されるべきであることが理解されるべきである。例えば、100rpm~200rpmの範囲の混合スピードは、約100rpm~約200rpmの明確に列挙された限定を含むだけでなく、120rpm~175rpm等の下位範囲、並びに150rpm、及び186rpm等の規定の範囲内の個々の量等を含むと解釈されるべきである。
【0023】
「20±2℃」という用語は、18~22℃の範囲の温度を指す。
【0024】
本開示は、本明細書において記載される具体的な実施形態によって範囲が限定されるべきでなく、これは、例示の目的だけのために意図される。機能的に等価な産物、組成物、及び方法は、明らかに、本明細書において記載される本開示の範囲内である。
【0025】
本開示は、ヨードバクター種PCH 194[MTCC 25171]の新規分離細菌株を使用する単一のバイオ方法における2つの価値ある産物、即ち、ポリヒドロキシブチレート(PHB)及びビオラセイン色素の同時産生のためのバイオ方法を提供する。科学的及び経済的な利益は別として、本開示は、社会的及び環境的態様に対して高い適合性のものである。
【0026】
PHBは、生分解性バイオプラスチックの製造のための有用性を有する。したがって、PHB系バイオプラスチックは、環境に配慮した様式で社会の要件を満たすことができる。加えて、PHBから作られたバイオプラスチックは、持続可能な及び長期的な様式で、プラスチックによって引き起こされる汚染の低減に著しく寄与し得る。ポリヒドロキシアルカノエートについての市場は、4.88%のCAGRで、2016年の7360万米国ドルから2021年の9350万米国ドルまで成長すると予測されている。
【0027】
本開示のバイオ方法の第2の産物は、ビオラセイン色素であり、これは、主要な構成物質としてビオラセイン及びデオキシビオラセインを含有する青紫色に着色した二次代謝産物である。ビオラセインは、様々な重要な生物活性、例えば、抗酸化、抗腫瘍、抗細菌、及び光保護の性質を有する。したがって、ビオラセイン色素は、繊維工業、医薬品工業、及び化粧品工業における適用を有する。
【0028】
本開示は、ヨードバクター種PCH 194[MTCC 25171]の純粋な細菌株を更に提供し、ここで、前記ヨードバクター種のコロニーは、紫色に着色し、グラム陰性で、グルコース発酵性であり、最適には、20℃の温度で成長する。
【0029】
本開示のある実施形態において、ヨードバクター種MTCC 25171の分離細菌株を使用するポリヒドロキシブチレート(PHB)及び青紫色のビオラセイン色素の同時産生のためのバイオ方法であって、
i)無菌栄養ブロス培地中で白金耳量のヨードバクター種MTCC 25171を接種し、20±2℃の温度で32~36時間、100~200rpmでインキュベートして、産生培地に接種するための種培養物を得る工程;
ii)3~5%(v/v)の工程[i]において得られた種培養物を無菌産生培地に接種し、20±2℃の温度で90~100時間、100~200rpmでインキュベートして、バイオマスを得る工程;
iii)工程[ii]において得られたバイオマスを採取して、遠心分離又は精密濾過によって色素沈着した細胞ペレットを得る工程;
iv)工程[iii]において得られた色素沈着した細胞ペレットを1:3~1:5の体積比でメタノール又はエタノールに懸濁させ、室温で10~15分間、十分に混合し、それに続いて遠心分離を行って、上清中の色素を得る工程;及び細胞ペレット中に残った紫色が見えなくなるまで工程を繰り返して、無色の細胞ペレットを得る工程;
v)工程[iv]において得られた上清を真空蒸発を使用して濃縮して、所望のビオラセイン色素を得る工程;
vi)工程[iv]において得られた無色の細胞ペレットを3~5倍の体積の1:1のトリクロロメタン及び漂白溶液に懸濁させ、それに続いて連続振とう下、30~40℃の範囲の温度で終夜インキュベートして、混合物を得る工程;
vii)工程[vi]において得られた混合物を10~15分間静置し、試験管に下側の有機層をピペッティングで取り出し、次いで3~5倍の体積の冷却されたメタノールを添加し、それに続いてそれを十分に混合し、沈殿のために-4~-20℃の範囲の温度で30~60分間保って、反応混合物を得る工程;
viii)工程[vii]において得られた反応混合物を遠心分離して、沈殿物としてペレットを収集し、残留溶媒を除去する工程;
ix)工程[viii]において得られたペレットを乾燥し、それをトリクロロメタンに再溶解する工程;並びに
x)工程(vi~viii)を繰り返し、残留溶媒を蒸発させることによってポリヒドロキシブチレートのペレットを最終的に収集する工程
を含む、方法が提供される。
【0030】
本開示のある実施形態において、本明細書において開示されるヨードバクター種MTCC 25171の分離細菌株を使用するポリヒドロキシブチレート(PHB)及び青紫色のビオラセイン色素の同時産生のためのバイオ方法であって、方法の産生培地が、4%(w/v)のグルコース、0.5%(w/v)のトリプトン、0.1%(w/v)のNaCl及び25mMのK2HPO4/KH2PO4、pH7.5を含み、4%(v/v)の種で接種される、方法が提供される。
【0031】
本開示のある実施形態において、本明細書において開示されるヨードバクター種MTCC 25171の分離細菌株を使用するポリヒドロキシブチレート(PHB)及び青紫色のビオラセイン色素の同時産生のためのバイオ方法であって、PHB及びビオラセイン色素の産生のための期間が、150rpmでの連続振とうを伴って、20℃の温度で36~100時間の範囲である、方法が提供される。本開示の別の実施形態において、産生の方法のための期間は、150rpmでの連続振とうを伴って、36~98時間の範囲である。本開示の更に別の実施形態において、産生の方法のための期間は、150rpmでの連続振とうを伴って、96時間である
【0032】
本開示のある実施形態において、本明細書において開示されるヨードバクター種MTCC 25171の分離細菌株を使用するポリヒドロキシブチレート(PHB)及び青紫色のビオラセイン色素の同時産生のためのバイオ方法であって、方法が、1リットルの培養ブロスから、遠心分離を使用する採取後に、7~9g/Lの乾燥細胞質量の範囲内の着色したバイオマスの産生をもたらす、方法が提供される。
【0033】
本開示のある実施形態において、本明細書において開示されるヨードバクター種MTCC 25171の分離細菌株を使用するポリヒドロキシブチレート(PHB)及び青紫色のビオラセイン色素の同時産生のためのバイオ方法であって、方法が、Akta Flux精密濾過システム(GE Healthcare社)を使用して、7.5又は10リットルの発酵槽のブロスの遠心分離又は精密濾過後に、13~19g/Lの乾燥細胞質量の範囲内の着色したバイオマスの産生をもたらす、方法が提供される。7.5培養ブロスを、0.2μmの中空糸カートリッジを用いて濃縮し、次いで、残留した紫色色素性細胞スラリーを、収集及び遠心分離した。遠心分離後、上清及びペレットの両方を、ビオラセイン色素及びPHBの更なる抽出のために収集した。粘性のある上清を、3~5倍の体積のメタノール又はエタノールで処理し、マグネチックスターラーを使用して撹拌した。この混合物を、再びAkta fluxシステムに通したか、又は遠心分離して、濾液又は上清としてビオラセイン色素を得た。本開示の別の実施形態において、本明細書において開示されるヨードバクター種MTCC 25171の分離細菌株を使用するポリヒドロキシブチレート(PHB)及び青紫色のビオラセイン色素の同時産生のためのバイオ方法であって、方法の細胞ペレットが、メタノールで処理され、室温で十分に混合され、遠心分離され、ペレットが無色になるまで工程を繰り返す、方法が提供される。本開示の更に別の実施形態において、上清を、それぞれの工程において、ロータリー真空エバポレーターにおいて蒸発させることによって同時に収集した。
【0034】
本開示の別の実施形態において、本明細書において開示されるヨードバクター種MTCC 25171の分離細菌株を使用するポリヒドロキシブチレート(PHB)及び青紫色のビオラセイン色素の同時産生のためのバイオ方法であって、抽出のために使用される溶媒が、1:3~1:5の範囲の比で、メタノール、エタノール、又はブタノールからなる群から選択され得、更なる色が細胞ペレットに残らなくなるまで、抽出工程を2~3回繰り返す、方法が提供される。本開示の更に別の実施形態において、ビオラセイン色素の粗抽出物を、真空エバポレーターによって濃縮した。
【0035】
本開示の別の実施形態において、本明細書において開示されるヨードバクター種MTCC 25171の分離細菌株を使用するポリヒドロキシブチレート(PHB)及び青紫色のビオラセイン色素の同時産生のためのバイオ方法であって、無色の細胞ペレットが、連続振とう条件下、3~5倍の体積の1:1のトリクロロメタン及び漂白溶液で、37℃で終夜処理される、方法が提供される。
【0036】
本開示の別の実施形態において、本明細書において開示されるヨードバクター種MTCC 25171の分離細菌株を使用するポリヒドロキシブチレート(PHB)及び青紫色のビオラセイン色素の同時産生のためのバイオ方法であって、終夜インキュベートされた細胞ペレット、トリクロロメタン及び漂白溶液の混合物を、10~15分間静止させ、下側の有機層が、試験管又は容器にピペッティングで取り出され、1:5~1:10の体積の冷却されたメタノールが、そこに添加され、十分に混合され、-4℃~-20℃の範囲の温度で30~60分間保たれ、遠心分離される、方法が提供される。
【0037】
本開示の別の実施形態において、本明細書において開示されるヨードバクター種MTCC 25171の分離細菌株を使用するポリヒドロキシブチレート(PHB)及び青紫色のビオラセイン色素の同時産生のためのバイオ方法であって、ペレットが、収集され、乾燥され、トリクロロメタンに再溶解され、メタノール沈殿工程が、繰り返され、最終的に、PHBのペレットが、収集され、乾燥されて、残留溶媒が蒸発される、方法が提供される。
【0038】
本開示のある実施形態において、本明細書において開示されるヨードバクター種MTCC 25171の分離細菌株を使用するポリヒドロキシブチレート(PHB)及び青紫色のビオラセイン色素の同時産生のためのバイオ方法であって、発酵槽におけるPHB及びビオラセイン色素の産生のための期間が、20%の溶存酸素及び150rpmを維持しながら、36~100時間の範囲である、方法が提供される。本開示の別の実施形態において、発酵槽におけるPHB及びビオラセイン色素の産生のための期間は、96時間である。本開示のある実施形態において、本明細書において開示されるヨードバクター種MTCC 25171の分離細菌株を使用するポリヒドロキシブチレート(PHB)及び青紫色のビオラセイン色素の同時産生のためのバイオ方法であって、1リットルの培養ブロスから得られるPHB及びビオラセイン色素の収量が、それぞれ、3~5g/L(乾燥細胞バイオマスの>50%)及び0.5~0.8g/Lの範囲内である、方法が提供される。
【0039】
本開示のある実施形態において、本明細書において開示されるヨードバクター種MTCC 25171の分離細菌株を使用するポリヒドロキシブチレート(PHB)及び青紫色のビオラセイン色素の同時産生のためのバイオ方法であって、7.5又は10リットルの発酵槽ブロスからのPHB及びビオラセイン色素の収量が、それぞれ、7~10g/L(乾燥細胞バイオマスの>50%)及び0.8~1.5g/Lの範囲内である、方法が提供される。
【0040】
本開示の別の実施形態において、本明細書において開示されるヨードバクター種MTCC 25171の分離細菌株を使用するポリヒドロキシブチレート(PHB)及び青紫色のビオラセイン色素の同時産生のためのバイオ方法であって、PHB及びビオラセイン色素産生が、4%(w/v)のグルコース及び0.5%(w/v)のトリプトンにおいてのみに限定されないが、それらの様々な濃度を使用することによって産生され得る、方法が提供される。
【0041】
本開示の更に別の実施形態において、PHB及びビオラセイン色素産生は、グルコース及びトリプトンにおいてのみに限定されないが、様々な有機炭素源並びに様々な無機及び有機窒素源において達成され得る。
【0042】
本開示の別の実施形態において、本明細書において開示されるヨードバクター種MTCC 25171の分離細菌株を使用するポリヒドロキシブチレート(PHB)及び青紫色のビオラセイン色素の同時産生のためのバイオ方法であって、PHB及びビオラセイン色素産生が、20℃の温度、pH7.5、20%の溶存酸素及び150rpmに限定されないが、より広範囲のpH、温度、酸素及びrpm条件において達成され得る、方法が提供される。
【0043】
本開示のある実施形態において、本明細書において開示されるヨードバクター種MTCC 25171の分離細菌株を使用するポリヒドロキシブチレート(PHB)及び青紫色のビオラセイン色素の同時産生のためのバイオ方法であって、PHBの収量(PHB/炭素源)が、0.18~0.25g/gの範囲である、方法が提供される。
【0044】
本開示の別の実施形態において、PHBの容積生産性は、0.075~0.104g/L/時間の範囲内である。
【0045】
本開示の別の実施形態において、発酵は、発酵の間に、初期pH7.5までの文脈における可変のpH範囲で行われる。
【0046】
本開示の別の実施形態において、本明細書において開示されるヨードバクター種MTCC 25171の分離細菌株を使用するポリヒドロキシブチレート(PHB)及び青紫色のビオラセイン色素の同時産生のためのバイオ方法であって、得られたPHBが、178±5℃の融点(Tm)及び50±5℃の結晶化温度を有する、方法が提供される。
【0047】
本開示のある実施形態において、本明細書において開示されるヨードバクター種MTCC 25171の分離細菌株を使用するポリヒドロキシブチレート(PHB)及び青紫色のビオラセイン色素の同時産生のためのバイオ方法であって、得られたPHBが、生分解性バイオプラスチックの調製のために有用である、方法が提供される。本開示のある実施形態において、本明細書において開示されるヨードバクター種MTCC 25171の分離細菌株を使用するポリヒドロキシブチレート(PHB)及び青紫色のビオラセイン色素の同時産生のためのバイオ方法であって、得られたビオラセイン色素が、抗菌、抗がん及び光保護の性質を示す、方法が提供される。
【実施例
【0048】
以下の実施例は、説明のために与えられたものであり、したがって、本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【0049】
本発明において使用される生物資源の詳細
細菌株ヨードバクター種PCH 194は、ヒマラヤ山脈西部のHimachal Pradesh、176316, IndiaのPangi及びChamba領域の高地の氷河湖の泥堆積物試料から分離された。細菌分離株PCH194は、部分的な16S rDNAシークエンシング及び参照株との系統発生解析に基づいて同定された。細菌株ヨードバクター種PCH 194は、2018年2月27日に、受け入れ番号MTCC 25171でMTCC、CSIR-IMTECH、Chandigarh、Indiaに寄託された。
【0050】
方法論
細菌株の分離及び同定
堆積物試料を、ヒマラヤ山脈西部のPangi-Chamba領域の高地の氷河湖から収集し、4℃で実験室に輸送した。堆積物試料を、南極圏細菌寒天培地(ABM)に、二反復で、直接蒔いた。プレートを、コロニーが現れるまで20℃でインキュベートし、純粋な細菌コロニーを、栄養寒天培地(NA)に更に画線した。紫色のコロニーを、NAプレート上に画線することによって精製し、DNA ABI 3130XL Genetic Analyzer(Applied Biosystems社)を使用して、16S rDNAシークエンシングによって同定した。細菌分離株PCH194は、紫色で(広がったコロニーの中央が最も激しい)、グラム陰性で、小桿状であり、細胞は、まっすぐな丸い末端の桿状で、通性嫌気性菌で、オキシダーゼ及びカタラーゼ陽性で、グルコース発酵性であり、20℃の最適成長で、4~28℃で成長することができる。部分的16S rDNA配列の分子特性評価は、ヨードバクター・フルビアティリス(Iodobacter fluviatilis)ATCC 33051(T)と>99%の配列類似性を示し、系統発生解析も、この基準株との最も近い一致を示した(図1)。細菌培養を、栄養寒天プレートにおいて、20~30日後の継代培養を伴って4℃で、又はグリセロールストックにおいて、6か月ごとの継代培養を伴って-80℃で維持することができる。
【0051】
1リットルのフラスコ、7.5及び10リットルの操作体積の発酵槽におけるPHB及びビオラセイン色素の産生
PHB及びビオラセイン色素の産生を、最適化産生培地成分(4%のグルコース、0.5%のトリプトン、0.1%のNaCl及び25mMのリン酸緩衝液成分)、pH7.5、及び産生条件(20℃及び150rpmで90~100時間のインキュベーション)を使用して、フラスコ中、1リットルの操作体積で行った。更なるスケールアップのために、7.5及び10リットルの操作体積の23.5リットルの発酵槽を、わずかに高い培地成分(%(w/v)で、4.25%のグルコース、0.55%のトリプトン、0.1%のNaCl及び25mM濃度のリン酸カリウム緩衝成分)を使用して実行し、培地pHを、7.5に設定した。発酵槽に、4%(w/v)の種(32~36時間齢)を接種し、pHを未制御で保ちながら、20℃で90~100時間、150rpmでインキュベートし、pO2を、20%に自動で設定した。発酵槽に対する1.0又は2.0mlの消泡剤(Antifoam SE-15、Sigma社)を、発酵槽における泡形成を制限する必要性により、添加した。
【0052】
バイオマスからのビオラセイン色素の下流の処理
培養ブロスのバイオマスを、1リットルの培養ブロスから遠心分離(10,000gで10分間、4~10℃)によって、及び7.5又は10リットルの発酵槽ブロスからAkta Fluxシステム(GE Healthcare社、USA)を使用する精密濾過によって、96時間後に採取した。採取された色素沈着した細胞ペレットを、1:3~1:5の比でメタノール又はエタノールに懸濁させ、室温で数分間、十分に混合し、次いで遠心分離して、懸濁液中の色素を得た。この工程を、細胞ペレット中に残った紫色が見えなくなるまで工程を繰り返した。
【0053】
7.5又は10リットルの発酵槽からの培養ブロスを、Akta fluxシステムにおける精密濾過を使用して濃縮した。反応物を、3~5倍の体積のメタノールと混合し、マグネチックスターラーを使用して撹拌した。この混合物を、再びAkta fluxシステムに通し、ビオラセイン色素を、濾液として収集した。残余分を、再びメタノールで処理し、方法を、細胞ペレットが無色になるまで繰り返した。抽出されたビオラセイン色素溶液を、ロータリー真空エバポレーターを使用して濃縮及び乾燥して、所望の細菌粗ビオラセイン色素を得た。
【0054】
バイオマスからのPHBの下流の処理
残っている無色の細胞ペレットを、3~5倍の体積の1:1のトリクロロメタン及び漂白溶液に懸濁させ、連続振とう条件下、37℃で終夜インキュベートした。混合物を、静置し、数分間冷却し、下側の有機層を、別々の管又は試薬ボトルにピペッティングした。これに、冷却されたメタノールを添加し(1:5~1:10体積)、十分に混合し、-4℃~-20℃の範囲の温度で、30~60分間保ち、遠心分離した。PHBペレットを、再びトリクロロメタンに溶解し、沈殿工程を、再び繰り返した。最後に、PHBペレットを、収集し、乾燥して、残留溶媒を蒸発させ、定量化した。
【0055】
ポリヒドロキシアルカノエート及びビオラセイン色素の定量化及び化学プロファイリング
ビオラセイン色素の吸光度を、570nmで測定し、スペクトル分析(300~700nm)を、マルチプレートリーダー(BioTek Instruments社、USA)において行った。粗メタノール抽出物を、真空ロタベーパーにおいて乾燥し、秤量し、更なる分析のためにHPLCグレードのメタノールに再溶解した。ビオラセイン色素の標準曲線を、メタノールに公知の量を溶解すること、及び570nmで吸光度を記録することによって調製した。この曲線を、更なるアッセイにおけるビオラセイン色素の推定のために使用した。ビオラセイン色素の化学プロファイリング、定量化及び特性評価を、UPLC-MSにおいて行った。
【0056】
GC-MSを使用するポリヒドロキシアルカノエートのモノマー組成の決定
PHAのモノマーの組成を、メタノリシス分解された試料のGCMS-QP2010(Shimadzu社)におけるGCMS分析によって決定した。精製PHAの消化及び誘導体化を、記載された方法を使用することによって行った(Sathiyanarayanan G等、2017. Production and characterization of medium-chain-length polyhydroxyalkanoates copolymer from Arctic psychrotrophic bacterium Pseudomonas sp. PAMC 28620. Int. J. Biol. Macromol. 97: 710~720頁; Kumar V等、2018. Bioplastic reservoir of diverse bacterial communities revealed along altitude gradient of Pangi-Chamba trans-Himalayan region. FEMS Microbiol. Lett. 365: fny144)。NIST/EPA/NIHライブラリーを検索して、それぞれのピークの対応する質量イオンを比較することによって、PHAのモノマーを同定した。
【0057】
特性評価
NMR分析
NMR分析のために、精製PHAを、プロトン(1H)及び炭素(13C)NMRを使用することによる化学構造の決定のために、重水素化クロロホルム(CDCl3)に溶解した。NMRスペクトルを、Bruker Avance III 600(Bruker Co.社、Fallanden、Switzerland)を使用して記録した。1H及び13Cスペクトルを、室温で、それぞれ、500及び150MHzで得た。共鳴シグナル(δ)等の化学シフトを、内部標準としてのCDCl3の目立つシグナルと比較して、ppmで得た(1H NMR:7.26ppm;13C NMR:77.42)。
【0058】
PHBのバイオプラスチックフィルムの調製及びその物理的性質の分析
PHBのフィルムを、精製PHBをトリクロロメタンに溶解すること、及び溶媒を蒸発させることによって調製した。融点(Tm)及び結晶化温度(Tc)等の熱的性質を、Nation Physical Laboratory、New Delhiによって提供されたアウトソーシング施設を使用して算出した。
【0059】
PCH194の分離、同定及び系統発生論
細菌は、紫色で、グラム陰性で、通性嫌気性菌で、糖発酵性であり、20℃の最適成長で、4~30℃で成長することができる。
【0060】
細菌培養を、栄養寒天プレートにおいて、15~20日ごとの継代培養を伴って4℃で、又はグリセロールストックにおいて、6か月ごとの継代培養を伴って-80℃で維持することができる。
【0061】
部分的16S rDNA配列の分子特性評価は、ヨードバクター・フルビアティリスATCC 33051(T)と>99%の配列類似性を示し、系統発生解析も、この基準株との最も近い一致を示した(図1)。ヨードバクター種PCH194は、好冷性細菌であり、PHB及びビオラセイン色素産生の潜在力を示した。
【0062】
成長プロファイル
ヨードバクター種PCH194は、20℃で良好なバイオマス産生を示した。この細菌は、PHB及びビオラセイン色素を合成する能力を有する。
【0063】
成長及びPHB産生に対する様々な炭素源の効果は、グルコースが、好ましいエネルギー源であり、最も多くのバイオマス及びPHBの蓄積(>50%)をもたらしたことを明らかにした。フルクトース及びマルトースも、成長及びPHB産生のために良好であるという結果であるが、グルコースと比較して、比較的利用が少ない。グリセロール、ラクトース、スクロース、クエン酸三ナトリウム及び酒石酸カリウムナトリウムは、細菌によって有効に利用されず、より低いバイオマス及びPHB産生をもたらす。
【0064】
様々な窒素源の中で、トリプトンは、PHB及びビオラセイン色素の両方の合成のための非常に良好な窒素源であるという結果であった。ペプトン、酵母エキス等の他の窒素源も使用され得るが、より低いPHB収量をもたらし得る。無機窒素源の中で、NH4Cl及びNH4SO4は、良好なバイオマス、並びに比較的少ないがPHB及びビオラセイン色素の両方の産生を示した(声明に明確性はない)。
【0065】
図2に示される典型的な成長曲線及び発酵プロファイルは、PHB及び紫色の色素の産生が、24時間後に開始し、細胞質量と共に着実に増加し、静止期において最も高い産生に達したことを明らかにした。
【0066】
1リットルのフラスコの条件におけるPHB及びビオラセイン色素の産生及び抽出
PHB及びビオラセインの産生を、振とうフラスコにおいて、1リットルスケールで行い、90~100時間のインキュベーションにおいて、7~9g/Lの乾燥細胞バイオマスの産生をもたらし、細胞密度は、144時間までほぼ一定のままであった。インキュベーションの96時間後に採取された細胞を、議論されるPHB及びビオラセイン色素の抽出のために使用した。96時間後の前記方法の1リットルの培養液からのPHB及び粗ビオラセイン色素の収量は、それぞれ、3~5g/L(乾燥細胞バイオマスの>50)及び0.5~0.8g/Lの範囲内である(図2)。
【0067】
7.5又は10リットルの発酵槽におけるPHB及びビオラセイン色素の産生及び抽出
一定のDO(20%)を使用する7.5又は10リットルの操作体積の発酵槽において、細胞のOD600は、90~100時間の発酵において≧15に達し、乾燥細胞質量は、16~19g/Lであった。議論されるバイオマスの採取及び抽出方法の後、前記方法のPHB及びビオラセイン色素の収量は、それぞれ、7~10g/L(乾燥細胞バイオマスの>50%)及び0.8~1.5g/Lの範囲内であることが見出された(図3)。O2の存在は、ビオラセインの産生のために必要であるが、しかしながら、細菌は、通性嫌気性状態においてPHBを産生することができる。したがって、pO2レベルを、前記方法において、ヨードバクター種PCH 194細菌を使用するPHB及びビオラセイン色素の同時産生のために20%で維持した。
【0068】
PHB、PHB系バイオプラスチックフィルム及びビオラセイン色素の分析
抽出されたPHBを、GC-MSによって分析し、これは、モノマーとしての3-ヒドロキシブチレートを明らかにし(図4)、NMR(C及びH)は、ポリマーがPHBであることを確認した(図5)。更には、熱的性質の分析は、178±5℃の融点(Tm)及び50±5℃の結晶化温度(Tc)を示した(Table 1(表1))。これらの性質は、他の細菌から産生され前に報告されたPHBと同等である。
【0069】
UPLC-MSを使用して分析されたメタノール抽出粗ビオラセイン色素は、試料の>70%の純度、及び総混合物における>40%のビオラセイン及びデオキシビオラセインの存在を示し、質量フラグメンテーションパターンは、それぞれ、ビオラセインの343.342g/mol及びデオキシビオラセインの327.343g/molの分子量と一致した(図6)。
【0070】
【表1】
【0071】
(実施例1)
O2制御なしの7.5リットルの操作体積の発酵槽におけるPHBの産生
50mLの無菌栄養ブロス培地中で白金耳量のヨードバクター種MTCC 25171を接種し、20±2℃の温度で32~36時間、100~200rpmでインキュベートして、産生培地に接種するための種培養物を得た。4%(v/v)の種(32時間齢)を、4%(w/v)のグルコース、0.5%(w/v)のトリプトン、0.1%(w/v)のNaCl及び25mMのK2HPO4/KH2PO4を含有し、pH7.5の無菌の7.5リットルの産生培地に接種した。発酵を、酸素制御なしで、20℃で96時間、100rpmで行った。バイオマスを、96時間後に採取して、遠心分離によって細胞ペレットを得た。細胞ペレットを、3倍の体積の1:1のトリクロロメタン及び漂白溶液に懸濁させ、連続振とう条件で、37℃で終夜インキュベートした。混合物を、数分間そのままに保ち、下側の有機層を、管にピペッティングで取り出し、更に3~5倍の体積の冷却されたメタノールを、そこに添加し、十分に混合し、沈殿のために-20℃で数分間保った。反応混合物を遠心分離して、沈殿物を収集し、最小量のトリクロロメタンに溶解し、使用したメタノールの3倍の体積で沈殿させた。次いで、この反応混合物を遠心分離して、沈殿したPHBを収集し、残留溶媒を、乾燥することによって除去した。乾燥したPHBを、秤量し、分析した。方法は、9g/Lの乾燥細胞質量のバイオマス、及び5g/LのPHBをもたらした。
【0072】
(実施例2)
20%の溶存O2を使用する7.5リットルの操作体積の発酵槽におけるPHB及びビオラセイン色素の産生
実施例1において説明された方法で得られた4%(v/v)の種(36時間齢)を、4.25%(w/v)のグルコース、0.55%(w/v)のトリプトン、0.1%(w/v)のNaCl及び25mMのK2HPO4/KH2PO4を含有し、pH7.5の無菌の7.5リットルの産生培地に接種した。発酵を、20%のpO2の自動制御で、20℃で96時間、150rpmで行った。バイオマスを、96時間後に採取して、遠心分離によって細胞ペレットを得た。方法は、採取後に着色したバイオマス(おおよそ19g/Lの乾燥細胞質量)の産生をもたらした。採取は、0.2μmの中空糸カートリッジを有するAkta Fluxシステム(GE Healthcare社)を使用するブロスの精密濾過を使用して行った。紫色の色素沈着した細胞スラリーを、収集及び遠心分離した。遠心分離後、上清及びペレットの両方を、ビオラセイン色素及びポリヒドロキシブチレートの更なる抽出のために収集した。上清は、非常に粘性であり、したがって、3倍の体積のメタノールで処理し、マグネチックスターラーを使用して撹拌した。混合物を、再び遠心分離し、ビオラセイン色素を、上清として収集した。細胞ペレットを、5倍の体積のメタノールで処理し、室温で十分に混合し、10分間インキュベートし、それに続いて遠心分離を行った。この工程を2回繰り返し、ペレットは無色になった。収集されたビオラセイン色素溶液を、ロータリー真空エバポレーターにおいて濃縮した。残っている細胞ペレットを、5倍の体積の1:1のトリクロロメタン及び漂白溶液と混合し、連続振とう条件で、37℃で終夜インキュベートした。混合物を、数分間そのままに保ち、下側の有機層を、ピペッティングした。5倍の体積の冷却されたメタノールをピペッティングした有機溶液に添加し、十分に混合し、沈殿のために数分間、-20℃に保った。この反応混合物を遠心分離して、沈殿物を収集し、2倍の体積のメタノールで洗浄し、残留溶媒を、乾燥することによって除去した。乾燥したPHBを、秤量し、分析した。方法は、おおよそ19g/Lの乾燥細胞質量のバイオマス、10g/LのPHB、及び1.5~1.8g/Lのビオラセイン色素をもたらした。
【0073】
(実施例3)
20%の溶存O2を使用する10リットルの操作体積の発酵槽におけるPHB及びビオラセイン色素の産生
実施例1において説明された方法で得られた4%(v/v)の種(36時間齢)を、4.0%(w/v)のグルコース、0.5%(w/v)のトリプトン、0.1%(w/v)のNaCl及び25mMのK2HPO4/KH2PO4を含有し、pH7.5の無菌の10リットルの産生培地に接種した。発酵を、20%のpO2の自動制御で、20℃で96時間、150rpmで行った。バイオマスを、96時間後に採取して、遠心分離によって細胞ペレットを得た。方法は、採取後、着色したバイオマスの産生をもたらした。採取は、0.2μmの中空糸カートリッジを有するAkta Fluxシステム(GE Healthcare社)を使用するブロスの精密濾過を使用して行った。紫色の色素沈着した細胞ペレットを、収集し、5倍の体積のメタノールで処理し、マグネチックスターラーを使用して撹拌した。この混合物を、再び、Akta Flux精密濾過システムに通過させた。紫色の濾液を、収集し、ロータリー真空エバポレーターにおいて濃縮した。残っている無色の細胞ペレットを、3倍の体積の1:1のトリクロロメタン及び漂白溶液と混合し、連続振とう条件で、37℃で終夜インキュベートした。混合物を、数分間そのままに保ち、下側の有機層を、ピペッティングした。5倍の体積の冷却されたメタノールをピペッティングした有機溶液に添加し、十分に混合し、沈殿のために数分間、-20℃に保った。この反応混合物を遠心分離して、沈殿物を収集し、2倍の体積のメタノールで洗浄し、残留溶媒を、乾燥することによって除去した。乾燥したPHBを、秤量し、分析した。方法は、13g/Lの乾燥細胞質量のバイオマス、7g/LのPHB、及び0.8~1.2g/Lのビオラセイン色素をもたらす。
【0074】
発明の利点
開発された方法は、単一の発酵とそれに続く個々の産物を得るための下流の方法において、2つの価値ある産物、即ち、ポリヒドロキシブチレート及びビオラセイン色素を生じる。
【0075】
単一の方法における両方の産物、即ち、PHB及びビオラセイン色素のより高い産生。
【0076】
培養ブロスからのビオラセイン色素及びPHBの分離、抽出、及び回収のための簡単な方法。
【0077】
方法は、pH制御なしで行われる。
【0078】
産生培地は、非常に単純である。
【0079】
方法は、7.5又は10リットルの操作体積の発酵槽から、7~10g/LのPHB(乾燥細胞バイオマスの>50%)及び0.8~1.5g/Lのビオラセイン色素を生じる。
【0080】
バイオ方法は、方法が単一の発酵において2つの産物を生じるので、経済的に魅力的である。
【0081】
本開示の方法から得られたビオラセインは、その公知の重要な生物活性、例えば、抗酸化、抗腫瘍、抗細菌、抗ウイルス及び抗原生動物について確立されている。本開示の方法から得られたPHB系生体ポリマーは、生分解性バイオプラスチックを合成するために有用である。
【0082】
本開示の産物は、化学、化粧品、バイオテクノロジー、バイオプラスチック、及び生体材料のセクターにおける莫大な適用を見出す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6