(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-23
(45)【発行日】2025-01-31
(54)【発明の名称】ハードカーボン及びその製造方法、それを含有する二次電池及び電力消費装置
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20250124BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20250124BHJP
【FI】
C01B32/05
H01M4/587
(21)【出願番号】P 2023531033
(86)(22)【出願日】2021-12-31
(86)【国際出願番号】 CN2021143482
(87)【国際公開番号】W WO2023123300
(87)【国際公開日】2023-07-06
【審査請求日】2023-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】524304976
【氏名又は名称】香港時代新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】CONTEMPORARY AMPEREX TECHNOLOGY (HONG KONG) LIMITED
【住所又は居所原語表記】LEVEL 19, CHINA BUILDING, 29 QUEEN’S ROAD CENTRAL, CENTRAL, CENTRAL AND WESTERN DISTRICT, HONG KONG, CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼▲曉▼霞
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼欣欣
(72)【発明者】
【氏名】欧▲陽▼楚英
(72)【発明者】
【氏名】郭永▲勝▼
(72)【発明者】
【氏名】田佳瑞
(72)【発明者】
【氏名】▲鄭▼孝吉
(72)【発明者】
【氏名】▲馬▼宇
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼▲ベン▼
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-093977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B
H01M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
50℃から1050℃まで昇温する時の昇温脱離質量分析TPD-MSにおいて検出されるCO
2発生量が
0.328mmoL/g~1.0mmoL/
gであり、検出されるCO発生量が
0.637mmoL/g~2.0mmoL/
gであり、50℃から1050℃まで昇温する時の昇温脱離質量分析TPD-MSにおいて検出されるH
2
発生量が1.215mmoL/g以下である、ハードカーボン。
【請求項2】
50℃から1050℃まで昇温する時の昇温脱離質量分析TPD-MSにおいて検出されるCO
2発生量
が0.4mmoL/g~0.8mmoL/gであり、及び/又は、
50℃から1050℃まで昇温する時の昇温脱離質量分析TPD-MSで検出されるCO発生量
が0.8mmoL/g~1.4mmoL/gである、請求項1に記載のハードカーボン。
【請求項3】
50℃から1050℃まで昇温する時の昇温脱離質量分析TPD-MSにおいて検出されるH
2発生量が1.0mmoL/g以下で
ある、請求項1又は2に記載のハードカーボン。
【請求項4】
50℃から1050℃まで昇温する時の昇温脱離質量分析TPD-MSにおいて検出されるH
2
発生量が0.5mmoL/g~1.0mmoL/gである、請求項3に記載のハードカーボン。
【請求項5】
前記ハードカーボンの総質量に対して、
C元素の質量パーセントは95%~98%であり、及び/又は、
O元素の質量パーセントは5%以下であり、及び/又は、
H元素の質量パーセントは0.4%以下であり、及び/又は、
N元素の質量パーセントは0.4%以下であり、及び/又は、
C、O、H、N元素の質量パーセントの総和は99.0%~99.8%である、請求項1~
4のいずれか一項に記載のハードカーボン。
【請求項6】
ラマンスペクトルにおいて、I
d/I
gは1.2~1.3であり、I
dは1350±50cm
-1のラマンシフト範囲におけるdバンドピーク強度を表し、I
gは1580±50cm
-1のラマンシフト範囲におけるgバンドピーク強度を表す、請求項1~
5のいずれか一項に記載のハードカーボン。
【請求項7】
X線回折スペクトルにおいて、002ピークに対応する2θの値は22°~24°の間である、請求項1~
6のいずれか一項に記載のハードカーボン。
【請求項8】
体積粒径Dv50は2μm~15μmで
ある条件(1)と、
体積粒径Dv90は5μm~25μmで
ある条件(2)と、
比表面積は5m
2/g以下で
ある条件(3)と、
50000Nの作用力での圧粉密度が0.96g/cm
3~1.05g/cm
3である条件(4)と、
タップ密度は0.80g/cm
3~0.95g/cm
3である条件(5)と、のうちの少なくとも1つの条件を満たす請求項1~
7のいずれか一項に記載のハードカーボン。
【請求項9】
体積粒径Dv50は4μm~8μmである条件(1)と、
体積粒径Dv90は8μm~15μmである条件(2)と、
比表面積は0.5m
2
/g~5m
2
/gである条件(3)と、のうちの少なくとも1つの条件を満たす請求項1~8のいずれか一項に記載のハードカーボン。
【請求項10】
炭素源を提供するステップS10と、
前記炭素源を不活性雰囲気において、第1温度T1でt1時間熱処理して、第1中間生成物を得るステップS20と、
得られた第1中間生成物を酸素の体積分率が25%以上の酸素含有雰囲気において、第2温度T2でt2時間熱処理して、第2中間生成物を得るステップS30と、
ステップS30で得られた第2中間生成物を破砕するステップS31と、
得られた第2中間生成物を不活性雰囲気において、第3温度T3でt3時間炭化処理して、ハードカーボンを得るステップS40と、を含み、
T1≦300℃であり、T2<400℃であり、T3は1000℃~1600℃であり、
前記ハードカーボンの50℃から1050℃まで昇温する時の昇温脱離質量分析TPD-MSにおいて検出されるCO
2発生量は
0.328mmoL/g~1.0mmoL/
gであり、検出されるCO発生量は
0.637mmoL/g~2.0mmoL/
gであり、50℃から1050℃まで昇温する時の昇温脱離質量分析TPD-MSにおいて検出されるH
2
発生量が1.215mmoL/g以下である、ハードカーボンの製造方法。
【請求項11】
T1≦T2である、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
T1は180℃~300℃であり、及び/又は、
T2は270℃~380℃であり、及び/又は、
T3は1000℃~1400℃である、請求項
10又は
11に記載の方法。
【請求項13】
t1は4h~60hであり、及び/又は、
t2は1h~12hであり、及び/又は、
t3は1h~12hである、請求項
10~
12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記酸素含有雰囲気における酸素の体積分率は25%~100%で
ある、請求項
10~
13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記酸素含有雰囲気における酸素の体積分率は30%~80%である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記不活性雰囲気は窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気のうちの1つ以上から選択される、請求項
10~
15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
ステップS20の後、ステップS30の前に、ステップS20で得られた第1中間生成物を破砕するステップS21をさらに含むステップ(a)
をさらに含み、
前記第2中間生成物の破砕後の体積粒径は、Dv50が2μm~15μmであり、及び/又は、Dv90が5μm~25μmであ
る、請求項
10~
16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記炭素源はポリマー、樹脂、バイオマス材料のうちの1つ以上を含
む、請求項
10~
17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記ポリマーはポリアニリン、ポリピロールのうちの1つ以上を含み、及び/又は、
前記樹脂はフェノール樹脂、エポキシ樹脂のうちの1つ以上を含み、及び/又は、
前記バイオマス材料はデンプン、グルコース、フルクトース、マルトース、スクロース、セルロース、ヘミセルロース、リグニンのうちの1つ以上を含み、前記デンプンは穀類デンプン、イモ類デンプン、豆類デンプンのうちの1つ以上を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項1~
9のいずれか一項に記載のハードカーボ
ンを含む負極シートを含む二次電池。
【請求項21】
請求項
20に記載の二次電池を含む電力消費装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は電池技術分野に属し、具体的にはハードカーボン及びその製造方法、それを含有する二次電池及び電力消費装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池は水力、火力、風力及び太陽光発電所等のエネルギー貯蔵電源システム、さらには電動工具、電動自転車、電動オートバイ、電気自動車、軍事装備、航空宇宙等の複数の分野に広く応用されている。二次電池の応用及び普及に伴い、そのエネルギー密度、耐用年数及びレート特性にますます注目が集まっている。黒鉛は二次電池における最も一般的な負極活物質であるが、その理論容量は372mAh/gに過ぎず、エネルギー密度を向上させる余地が非常に限られており、また黒鉛は層間距離が小さく、レート特性の向上も制限される。ハードカーボンは新規の負極活物質として、二次電池の充放電過程において活性イオンの迅速な挿入及び脱離を実現することができ、発展の可能性が非常に高い。しかし、ハードカーボンは容量及び初期クーロン効率が低く、二次電池のエネルギー密度、耐用年数及びレート特性の向上には限界がある。
【発明の概要】
【0003】
本願の目的は、ハードカーボンの容量及び初期クーロン効率を同時に向上させることを意図したハードカーボン及びその製造方法、それを含有する二次電池及び電力消費装置を提供することである。
【0004】
本願の第1態様は、50℃から1050℃まで昇温する時の昇温脱離質量分析TPD-MSにおいて検出されるCO2発生量が1.0mmoL/g以下であり、検出されるCO発生量が2.0mmoL/g以下であるハードカーボンを提供する。
【0005】
現在商品化されているハードカーボンに比べて、本願のハードカーボンは高い容量と初期クーロン効率を両立させる。メカニズムはまだ明確ではないが、本願の発明者らは可能性がある一つの理由として、ハードカーボン材料のTPD-MSで検出されるCO2及びCOの主な供給源は、ハードカーボン構造における酸素含有官能基(例えば、フェノール基、エーテル基、キノン基、カルボニル基、酸無水物、エステル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基等)であると推測しており、本願はTPD-MS試験の過程で生成されたCO2及びCOの含有量を制御することにより(ハードカーボン構造における酸素含有官能基の含有量を制御することに相当する)、酸素含有官能基と活性イオンが結合する確率を低下させ、活性イオンの不可逆的消費を減少させることができ、それにより本願のハードカーボンは高い容量と初期クーロン効率を両立させることができる。同時に、ハードカーボン構造における酸素含有官能基の含有量を特定の範囲内に制御することにより、ハードカーボン材料の構造内に適量の欠陥を有することが保証され、該部分の欠陥をハードカーボン内部における活性イオンの伝導チャネルとすることができ、ハードカーボン内部の活性イオンの挿入不可能領域の割合を減少させ、ハードカーボン構造内の活性イオン反応部位の利用率を向上させ、活性イオンがハードカーボン材料の本体構造にスムーズに挿入されることに有利であり、それによりハードカーボンの容量及び初期クーロン効率をさらに向上させる。
【0006】
本願のいずれかの実施形態において、前記ハードカーボンの50℃から1050℃まで昇温する時の昇温脱離質量分析TPD-MSにおいて検出されるCO2発生量は0.2mmoL/g~1.0mmoL/gであり、好ましくは0.4mmoL/g~0.8mmoL/gである。この時、ハードカーボンは、より高い容量及びより高い初期クーロン効率、さらにはより長い耐用年数及びより優れたレート特性を有することができる。
【0007】
本願のいずれかの実施形態において、前記ハードカーボンの50℃から1050℃まで昇温する時の昇温脱離質量分析TPD-MSで検出されるCO発生量は0.5mmoL/g~2.0mmoL/gであり、好ましくは0.8mmoL/g~1.4mmoL/gである。この時、ハードカーボンは、より高い容量及びより高い初期クーロン効率、さらにはより長い耐用年数及びより優れたレート特性を有することができる。
【0008】
本願のいずれかの実施形態において、前記ハードカーボンの50℃から1050℃まで昇温する時の昇温脱離質量分析TPD-MSにおいて検出されるH2発生量は1.0mmoL/g以下であり、好ましくは0.5mmoL/g~1.0mmoL/gである。H2は主にハードカーボン構造におけるC-H結合の切断に由来し、本願のハードカーボン構造におけるC-H結合の数が少なく、ハードカーボン構造に貯蔵された活性イオンが脱離しやすく、電圧ヒステリシス現象を大幅に抑制することができ、従ってより高い容量及びより高い初期クーロン効率、さらにはより長い耐用年数及びより優れたレート特性を有することができる。
【0009】
本願のいずれかの実施形態において、前記ハードカーボンの総質量に対して、前記ハードカーボンのC元素の質量パーセントは95%~98%である。
【0010】
本願のいずれかの実施形態において、前記ハードカーボンの総質量に対して、前記ハードカーボンのO元素の質量パーセントは5%以下である。
【0011】
本願のいずれかの実施形態において、前記ハードカーボンの総質量に対して、前記ハードカーボンのH元素の質量パーセントは0.4%以下である。本願のハードカーボンにおけるH元素の含有量は少なく、従って、ハードカーボン構造におけるC-H結合の数が少なく、活性イオンが脱離しやすく、それにより本願のハードカーボンは高い容量と初期クーロン効率を両立させることができる。
【0012】
本願のいずれかの実施形態において、前記ハードカーボンの総質量に対して、前記ハードカーボンのN元素の質量パーセントは0.4%以下である。
【0013】
本願のいずれかの実施形態において、前記ハードカーボンの総質量に対して、前記ハードカーボンのC、O、H、N元素の質量パーセントの総和は99.0%~99.8%である。
【0014】
本願のハードカーボンはヘテロ原子の含有量が少なく、従ってヘテロ原子の活性イオンに対する不可逆的消費が少なく、それにより本願のハードカーボンは高い容量と初期クーロン効率を両立させることができる。
【0015】
本願のいずれかの実施形態において、前記ハードカーボンのラマンスペクトルにおいて、Id/Igは1.2~1.3であり、Idは1350±50cm-1のラマンシフト範囲におけるdバンドピーク強度を表し、Igは1580±50cm-1のラマンシフト範囲におけるgバンドピーク強度を表す。本願のハードカーボンはId/Igが1.2~1.3である要件を満たし、この時に、ハードカーボン構造の秩序度は適切であり、それによりハードカーボンはより高い容量及びより高い初期クーロン効率を兼ね備え、さらにはより長い耐用年数及びより優れたレート特性を有する。
【0016】
本願のいずれかの実施形態において、前記ハードカーボンのX線回折スペクトルにおいて、002ピークに対応する2θの値は22°~24°の間である。
【0017】
本願のいずれかの実施形態において、前記ハードカーボンの体積粒径Dv50は2μm~15μmであり、好ましくは4μm~8μmである。
【0018】
本願のいずれかの実施形態において、前記ハードカーボンの体積粒径Dv90は5μm~25μmであり、好ましくは8μm~15μmである。
【0019】
本願のいずれかの実施形態において、前記ハードカーボンの体積粒径Dv50は4μm~8μmであり、且つ体積粒径Dv90は8μm~15μmである。
【0020】
ハードカーボンの体積粒径Dv50及び/又はDv90が適切な範囲内にある場合、活性イオン及び電子の輸送特性を向上させることに有利であり、それによりハードカーボンのレート特性をさらに向上させる。
【0021】
本願のいずれかの実施形態において、前記ハードカーボンの比表面積は5m2/g以下であり、好ましくは0.5m2/g~5m2/gである。ハードカーボンの比表面積が適切な範囲内にある場合、ハードカーボンはより高い容量及びより高い初期クーロン効率を兼ね備えることができ、さらにはより長い耐用年数及びより優れたレート特性を有する。また、ハードカーボンの比表面積が適切な範囲内にある場合、ハードカーボンと接着剤との間にさらに強い結合力を有することができ、それにより負極シートの凝集力及び接着力を向上させることができ、サイクル過程における負極シートの体積膨張を低下させ、二次電池はさらに良好なサイクル特性を有するようになる。
【0022】
本願のいずれかの実施形態において、前記ハードカーボンは、50000Nの作用力での圧粉密度が0.96g/cm3~1.05g/cm3である。ハードカーボンの圧粉密度が適切な範囲内にある場合、負極シートの圧粉密度を高めて、二次電池のエネルギー密度を向上させることができる。
【0023】
本願のいずれかの実施形態において、前記ハードカーボンのタップ密度は0.80g/cm3~0.95g/cm3である。ハードカーボンのタップ密度が適切な範囲内にある場合、負極シートの圧粉密度を高めて、二次電池のエネルギー密度を向上させることができる。
【0024】
本願の第2態様は、炭素源を提供するステップS10と、前記炭素源を不活性雰囲気において、第1温度T1でt1時間熱処理して、第1中間生成物を得るステップS20と、得られた第1中間生成物を酸素の体積分率が25%以上の酸素含有雰囲気において、第2温度T2でt2時間熱処理して、第2中間生成物を得るステップS30と、得られた第2中間生成物を不活性雰囲気において、第3温度T3でt3時間炭化処理して、ハードカーボンを得るステップS40と、を含み、前記ハードカーボンが50℃から1050℃まで昇温する時の昇温脱離質量分析TPD-MSにおいて検出されるCO2発生量が1.0mmoL/g以下であり、検出されるCO発生量が2.0mmoL/g以下である、ハードカーボンの製造方法を提供する。
【0025】
発明人らは、前記炭素源に対して不活性雰囲気における低温熱処理プロセス、酸素含有雰囲気における二次低温熱処理プロセス及び不活性雰囲気における高温炭化処理プロセスを同時に実施することで、得られたハードカーボンが高い容量及び高い初期クーロン効率を兼ね備えることができることを発見した。且つ従来の商品化されたハードカーボンに比べて、本願の製造方法によって得られたハードカーボンの容量及び初期クーロン効率はいずれも顕著に向上する。
【0026】
本願が提供するハードカーボンの製造方法はシンプルであり、商品化生産に適する。本願が提供するハードカーボンの製造方法は導電剤を追加する必要がなく、他の助剤を追加する必要もなく、本願が提供する製造方法によって得られたハードカーボンはより低いヘテロ原子含有量を有し、ヘテロ原子の活性イオンに対する不可逆的な消耗を減少させることができる。
【0027】
本願のいずれかの実施形態において、T1<T3、T2<T3である。
【0028】
本願のいずれかの実施形態において、T1≦T2であり、好ましくは、T1<T2である。
【0029】
本願のいずれかの実施形態において、T1≦300℃である。好ましくは、T1は180℃~300℃である。T1が適切な範囲内にある場合、炭素源のフレーム構造をより良好に安定させることができ、且つ後続の高温炭化処理による孔形成プロセスのためにより安定した骨格構造を提供し、高活性の構造欠陥の形成を減少させ、それにより形成された黒鉛微結晶構造におけるH及び酸素含有官能基の数を減少させることができ、黒鉛微結晶シート層を活性イオン反応部位とした利用率を向上させる。
【0030】
本願のいずれかの実施形態において、T2<400℃である。好ましくは、T2は270℃~380℃である。T2が適切な範囲内にある場合、安定した骨格構造に適量の酸素含有官能基を導入することができ、これらの酸素含有官能基は主に共有結合の方式で、隣接する黒鉛微結晶シート層前駆体に接続され、後続の高温炭化処理時に形成された黒鉛微結晶シート層の間に適切な層間距離を保持させることができ、活性イオンの可逆的な脱離、挿入を容易にして、同時に黒鉛微結晶シート層の合併及び改質を過度に抑制することがなく、それによりハードカーボンにおける高活性の構造欠陥部位を最大限除去することができ、且つCO2、CO及びH2の発生量を低いレベルに保持して、ハードカーボンが高い容量及び高い初期クーロン効率を兼ね備えることを保証する。
【0031】
本願のいずれかの実施形態において、T3は1000℃~1600℃である。好ましくは、T3は1000℃~1400℃である。T3が適切な範囲内にある場合、黒鉛微結晶の層間距離を向上させることができ、得られたハードカーボンの秩序度を向上させ、ハードカーボンは高い容量及び高い初期クーロン効率を兼ね備えるようになる。
【0032】
本願のいずれかの実施形態において、t1は4h~60hである。
【0033】
本願のいずれかの実施形態において、t2は1h~12hである。
【0034】
本願のいずれかの実施形態において、t3は1h~12hである。
【0035】
本願のいずれかの実施形態において、前記酸素含有雰囲気における酸素の体積分率は、25%~100%である。好ましくは、前記酸素含有雰囲気における酸素の体積分率は30%~80%である。
【0036】
本願のいずれかの実施形態において、前記不活性雰囲気は窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気のうちの1つ以上から選択される。
【0037】
本願のいずれかの実施形態において、ステップS20の後、ステップS30の前に、前記製造方法はさらに、得られた第1中間生成物を破砕し、後続処理時に第1中間生成物が酸素と十分に接触できることを保証するステップS21を含む。
【0038】
本願のいずれかの実施形態において、ステップS30の後、ステップS40の前に、前記製造方法はさらに、ステップS30で得られた第2中間生成物を破砕するステップS31を含む。好ましくは、前記第2中間生成物の破砕後の体積粒径は、Dv50が2~15μmであり、及び/又は、Dv90が5μm~25μmである要件を満たす。
【0039】
本願のいずれかの実施形態において、前記炭素源はポリマー、樹脂、バイオマス材料のうちの1つ以上を含む。
【0040】
本願のいずれかの実施形態において、前記ポリマーはポリアニリン、ポリピロールのうちの1つ以上を含む。
【0041】
本願のいずれかの実施形態において、前記樹脂はフェノール樹脂、エポキシ樹脂のうちの1つ以上を含む。
【0042】
本願のいずれかの実施形態において、前記バイオマス材料はデンプン、グルコース、フルクトース、マルトース、スクロース、セルロース、ヘミセルロース、リグニンのうちの1つ以上を含む。好ましくは、前記デンプンは穀類デンプン、イモ類デンプン、豆類デンプンのうちの1つ以上を含む。
【0043】
本願の第3態様は、本願の第1態様に係るハードカーボン、又は本願の第2態様の方法によって製造されたハードカーボンを含む負極シートを含む二次電池を提供する。
【0044】
本願の第4態様は、本願の第3態様に係る二次電池を含む電力消費装置を提供する。
【0045】
本願の電力消費装置は本願の提供する二次電池を含み、従って前記二次電池と少なくとも同じ利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
本願の実施例における技術的解決手段をより明確に説明するめに、以下に本願の実施例に必要な図面を簡単に説明する。理解すべきことは、以下に示された図面は本願のいくつかの実施形態に過ぎず、当業者であれば、創造的な労力を要することなく、図面に基づいて他の図面をさらに取得することができる。
【0047】
【
図1】本願の二次電池の一実施形態に係る概略図である。
【
図2】
図1に示す二次電池の実施形態に係る分解概略図である。
【
図3】本願の電池モジュールの一実施形態に係る概略図である。
【
図4】本願の電池パックの一実施形態に係る概略図である。
【
図5】
図4に示す電池パックの実施形態に係る分解概略図である。
【
図6】本願の二次電池を電源として含む電力消費装置の一実施形態に係る概略図である。
【
図7】実施例1で製造されたハードカーボンの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図8】実施例2で製造されたハードカーボンのTPD-MS分析により測定された分子量(m/z)2、分子量(m/z)28、分子量(m/z)44の検出図であり、曲線Iは分子量(m/z)44を示し、曲線IIは分子量(m/z)28を示し、曲線IIIは分子量(m/z)2を示す。
【
図9】比較例1で製造されたハードカーボンのTPD-MS分析により測定された分子量(m/z)2、分子量(m/z)28、分子量(m/z)44の検出図であり、曲線Iは分子量(m/z)44を示し、曲線IIは分子量(m/z)28を示し、曲線IIIは分子量(m/z)2を示す。
【0048】
図面において、図面は実際の比率に従って描かれたものではない。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下に、本願のハードカーボン及びその製造方法、それを含有する二次電池及び電力消費装置を具体的に開示した実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、不必要な詳細な説明は省略する場合がある。例えば、周知の事項の詳細な説明や、実質的に同一の構造についての重複する説明は省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長にならないようにして、当業者の理解を容易にするためである。また、図面及び以下の説明は、当業者が本願を十分に理解するために提供されたものであり、特許請求の範囲に記載された主題を限定することを意図するものではない。
【0050】
本願に開示される「範囲」は、下限及び上限の形で定義され、所与の範囲は、1つの下限と1つの上限を選定することによって定義され、選定された下限及び上限は、特定の範囲の境界を定義するものである。このような方法で定義された範囲は、両端の値が含まれてもよく又は含まれていなくてもよく、且つ任意に組み合わせることができ、すなわち、任意の下限を任意の上限と組み合わせて範囲を形成することができる。例えば、60~120及び80~110の範囲が特定のパラメータについて列挙されている場合、60~110及び80~120の範囲も企図していると理解される。また、最小範囲値1及び2が列挙されており、及び最大範囲値3、4及び5が列挙されている場合、1~3、1~4、1~5、2~3、2~4及び2~5の範囲がすべて企図されている。本願において、説明がない限り、数値範囲「a~b」は、aからbの間の任意の実数の組み合わせの省略表現を意味し、a及びbは両方とも実数である。例えば、数値範囲「0~5」は、「0~5」の間の全ての実数が本明細書に全て列挙されていることを意味し、「0~5」は、これらの数値の組み合わせの省略表現にすぎない。また、あるパラメータが≧2の整数であると表現する場合、そのパラメータが例えば整数2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12等であることを開示することに相当する。
【0051】
本願のすべての実施形態及び選択可能な実施形態は、特に明記しない限り、互いに組み合わせて新しい技術的解決手段を形成することができ、且つそのような技術的解決手段は、本願の開示に含まれると見なされるべきである。
【0052】
本願のすべての技術的特徴及び選択可能な技術的特徴は、特に明記しない限り、互いに組み合わせて新しい技術的解決手段を形成することができ、且つそのような技術的解決手段は、本願の開示に含まれると見なされるべきである。
【0053】
本願の全てのステップは、特に説明しない限り、順に又はランダムに実施することができ、好ましくは順に実施する。例えば、前記方法がステップ(a)及び(b)を含む場合、前記方法は、順に実施されるステップ(a)及び(b)を含んでもよく、又は順に実施されるステップ(b)及び(a)を含んでもよいことを示す。例えば、前記言及された前記方法がステップ(c)をさらに含んでもよいという場合、ステップ(c)を任意の順序で前記方法に加えてもよいことを示し、例えば、前記方法はステップ(a)、(b)及び(c)を含んでもよく、又はステップ(a)、(c)及び(b)を含んでもよく、又はステップ(c)、(a)及び(b)を含んでもよいなどを示す。
【0054】
本願で言及される「含む」及び「包含する」は、特に説明しない限り、開放形式及び閉鎖形式の両方を示す。例えば、前記「含む」及び「包含する」は、列挙されていない他の成分も含む又は包含してもよいことを示すことができ、又は列挙された成分のみを含む又は包含してもよいことを示すことができる。
【0055】
本願において、特に説明しない限り、「又は」という用語は包括的である。例えば、「A又はB」という語句は、「A、B、又はA及びBの両方」を意味する。より具体的には、「A又はB」という条件は、Aが真(又は存在)であり、Bが偽(又は存在しない)であるか、Aが偽(又は存在しない)であり、Bが真(又は存在する)であるか、又はA及びBの両方が真(又は存在する)のいずれかによって満たされる。
【0056】
本願において、「活性イオン」という用語は、特に説明しない限り、二次電池の正極と負極との間で往復して挿入及び脱離することができるイオンを意味し、リチウムイオン、ナトリウムイオンなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0057】
二次電池は充電式電池又は蓄電池とも呼ばれ、電池が放電した後に充電する方式で活性材料を活性化して使用を継続できる電池である。一般的に、二次電池は正極シート、負極シート、セパレータ及び電解質を含む。電池の充放電過程において、活性イオンは正極シートと負極シートとの間で往復して挿入及び脱離する。セパレータは正極シートと負極シートとの間に設置され、主に正負極の短絡を防止する役割を果たすと同時に、活性イオンを通過させることができる。電解質は、正極シートと負極シートとの間で活性イオンを伝導する役割を果たす。現在、二次電池は水力、火力、風力及び太陽光発電所等のエネルギー貯蔵電源システム、さらには電動工具、電動自転車、電動オートバイ、電気自動車、軍事装備、航空宇宙等の複数の分野に広く応用されている。
【0058】
二次電池の応用及び普及に伴い、そのエネルギー密度、耐用年数及びレート特性にますます注目が集まっている。負極活物質の特性は、二次電池のエネルギー密度、耐用年数及び安全性をある程度決定することができる。黒鉛(天然黒鉛、合成黒鉛に分けられる)は二次電池における最も一般的な負極活性材料であるが、その理論容量は372mAh/gに過ぎず、エネルギー密度を向上させる余地が非常に限られており、また黒鉛は層間距離が小さく、レート特性の向上も制限され、ハイレート特性に対する二次電池の実際のニーズを満たすことができない。
【0059】
ハードカーボンとは、黒鉛化されにくい炭素であり、2500℃以上の高温でも黒鉛化されにくい。ハードカーボンは構造が複雑であり、黒鉛微結晶構造を呈する炭素材料であり、黒鉛微結晶は不規則に配列され、且つ黒鉛微結晶層シートの数が少なく且つ層の端面が架橋する可能性がある。ハードカーボンの構造はまた無定形領域を含み、無定形領域は主に細孔、欠陥、sp3混成の炭素原子、炭素鎖、いくつかの官能基などを含む。従って、ハードカーボンの構造には複数の活性イオン反応部位が存在する可能性があり、例えば、黒鉛微結晶の表面、黒鉛微結晶の層間、黒鉛微結晶層シートの端面及び細孔等である。
【0060】
黒鉛に比べて、ハードカーボン層の間隔はより大きく、細孔構造がより豊富であり、従って、活性イオンの迅速な挿入及び脱離に有利であり、それにより二次電池は優れた低温特性、出力特性及び安全性を有することができ、特に動力電池の分野において、ハードカーボンは独特の利点を有する。しかしながら、現在商品化されているハードカーボンの多くは低容量型の一般的なハードカーボンに属し、容量及び初期クーロン効率が低く、例えば容量は一般的に200mAh/gから280mAh/gの間であり、初期クーロン効率は一般的に80%未満であり、実際の応用においてかなり制限を受ける。
【0061】
従って、どのようにしてハードカーボンの容量及び初期クーロン効率を同時に向上させるかは、依然として早急に解決されるべき技術的課題である。
ハードカーボン
【0062】
これに鑑みて、本願の実施形態の第1態様は、高い容量及び初期クーロン効率を両立させ、かつ二次電池が高いエネルギー密度、長い耐用年数及び優れたレート特性を兼ね備えることができるハードカーボンを提供する。
【0063】
本願の実施形態の第1態様に係るハードカーボンは、50℃から1050℃まで昇温する時の昇温脱離質量分析TPD-MS(Thermal Programmed Desorption-Mass Spectrum)において検出されるCO2発生量が1.0mmoL/g以下であり、検出されるCO発生量が2.0mmoL/g以下である。
【0064】
TPD-MS分析は、サンプル管に一定質量のサンプルを入れ、アルゴンガス又はヘリウムガスの流通状態において50℃から1050℃まで1℃/min~20℃/minの昇温速度で昇温し、発生したガスを質量分析計で連続的に定量分析し、検出された放出ガス中の分子量(m/z)2の物質をH2、分子量(m/z)28の物質をCO、分子量(m/z)44の物質をCO2とする条件で行うことができる。試験終了後、質量分析計で得られたMS曲線の時間積分によってそれぞれのガス発生量を得て、得られたガス発生量をサンプル質量で割ったもの、すなわち本願の単位質量当たりのハードカーボンから発生したガス量である。
【0065】
例示的な試験方法は、H2(分子量(m/z)2)、CO(分子量(m/z)28)、CO2(分子量(m/z)44)を使用して質量分析計を較正するステップと、100mgのサンプルをサンプル管に入れ、10ml/min~50ml/minの流速でアルゴンガスを導入して30minパージ及びガス置換を行った後、アルゴンガスの流通状態を保持したまま加熱装置を起動し且つ10℃/minの昇温速度で50℃から1050℃まで昇温させ、加熱過程で発生したガスを質量分析計によって連続的に定量分析するステップと、を含む。
【0066】
現在商品化されているハードカーボンに比べて、本願のハードカーボンは高い容量と初期クーロン効率を両立させる。メカニズムはまだ明確ではないが、本願の発明者らは可能性がある一つの理由として、ハードカーボン材料のTPD-MSで検出されたCO2及びCOの主な供給源は、ハードカーボン構造における酸素含有官能基(例えば、フェノール基、エーテル基、キノン基、カルボニル基、酸無水物、エステル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基等)であると推測しており、本願はTPD-MS試験の過程で生成されたCO2及びCOの含有量を制御することにより(ハードカーボン構造における酸素含有官能基の含有量を制御することに相当する)、酸素含有官能基と活性イオンが結合する確率を低下させ、活性イオンの不可逆的消費を減少させることができ、それにより本願のハードカーボンは高い容量と初期クーロン効率を両立させることができる。同時に、ハードカーボン構造における酸素含有官能基の含有量を特定の範囲内に制御することにより、ハードカーボン材料の構造内に適量の欠陥を有することが保証され、該部分の欠陥をハードカーボン内部における活性イオンの伝導チャネルとすることができ、ハードカーボン内部の活性イオンの挿入不可能領域の割合を減少させ、ハードカーボン構造内の活性イオン反応部位の利用率を向上させ、活性イオンがハードカーボン材料の本体構造にスムーズに挿入されることに有利であり、それによりハードカーボンの容量及び初期クーロン効率をさらに向上させる。
【0067】
いくつかの実施例において、前記ハードカーボンは、50℃から1050℃まで昇温する時の昇温脱離質量分析TPD-MSで検出されるCO2発生量が、≦0.9mmoL/g、≦0.8mmoL/g、≦0.7mmoL/g、≦0.6mmoL/g、≦0.5mmoL/g、≦0.4mmoL/gであってもよい。
【0068】
いくつかの実施例において、前記ハードカーボンは、50℃から1050℃まで昇温する時の昇温脱離質量分析TPD-MSで検出されるCO発生量が、≦1.9mmoL/g、≦1.8mmoL/g、≦1.7mmoL/g、≦1.6mmoL/g、≦1.5mmoL/g、≦1.4mmoL/g、≦1.3mmoL/g、≦1.2mmoL/g、≦1.1mmoL/g、≦1.0mmoL/g、≦0.9mmoL/g、≦0.8mmoL/g、≦0.7mmoL/g、0.6mmoL/gであってもよい。
【0069】
いくつかの実施例において、前記ハードカーボンはさらに、50℃から1050℃まで昇温する時の昇温脱離質量分析(TPD-MS)で検出されるCO2発生量が0.2mmoL/g以上であるという要件を満たすことができる。例えば、CO2発生量は、0.2mmol/g~1.0mmoL/g、0.2mmol/g~0.9mmoL/g、0.2mmol/g~0.8mmoL/g、0.2mmol/g~0.7mmoL/g、0.2mmol/g~0.6mmoL/g、0.2mmol/g~0.5mmoL/g、0.3mmol/g~1.0mmoL/g、0.3mmol/g~0.9mmoL/g、0.3mmol/g~0.8mmoL/g、0.3mmol/g~0.7mmoL/g、0.3mmol/g~0.6mmoL/g、0.3mmol/g~0.5mmoL/g、0.4mmol/g~1.0mmoL/g、0.4mmol/g~0.9mmoL/g、0.4mmol/g~0.8mmoL/g、0.4mmol/g~0.7mmoL/g、0.4mmol/g~0.6mmoL/g、0.4mmol/g~0.5mmoL/g、0.5mmoL/g~1.0mmoL/g、0.5mmoL/g~0.9mmoL/g、0.5mmoL/g~0.8mmoL/g、0.5mmoL/g~0.7mmoL/g、0.5mmoL/g~0.6mmoL/g、0.6mmoL/g~1.0mmoL/g、0.6mmoL/g~0.9mmoL/g、0.6mmoL/g~0.8mmoL/g、0.6mmoL/g~0.7mmoL/g、0.7mmoL/g~1.0mmoL/g、0.7mmoL/g~0.9mmoL/g、0.7mmoL/g~0.8mmoL/gである。この時、ハードカーボンは、より高い容量及びより高い初期クーロン効率、さらにはより長い耐用年数及びより優れたレート特性を有することができる。
【0070】
いくつかの実施例において、前記ハードカーボンはさらに、50℃から1050℃まで昇温する時の昇温脱離質量分析TPD-MSで検出されるCO発生量が0.5mmoL/g以上であるという要件を満たすことができる。例えば、CO発生量は、0.5mmol/g~2.0mmoL/g、0.5mmol/g~1.8mmoL/g、0.5mmol/g~1.6mmoL/g、0.5mmol/g~1.4mmoL/g、0.5mmol/g~1.2mmoL/g、0.5mmol/g~1.0mmoL/g、0.5mmol/g~0.8mmoL/g、0.5mmol/g~0.6mmoL/g、0.6mmoL/g~2.0mmoL/g、0.6mmoL/g~1.8mmoL/g、0.6mmoL/g~1.6mmoL/g、0.6mmoL/g~1.4mmoL/g、0.6mmoL/g~1.2mmoL/g、0.6mmoL/g~1.0mmoL/g、0.6mmoL/g~0.8mmoL/g、0.8mmoL/g~2.0mmoL/g、0.8mmoL/g~1.8mmoL/g、0.8mmoL/g~1.6mmoL/g、0.8mmoL/g~1.4mmoL/g、0.8mmoL/g~1.2mmoL/g、0.8mmoL/g~1.0mmoL/g、1.0mmoL/g~2.0mmoL/g、1.0mmoL/g~1.8mmoL/g、1.0mmoL/g~1.6mmoL/g、1.0mmoL/g~1.4mmoL/g、1.0mmoL/g~1.2mmoL/g、1.2mmoL/g~2.0mmoL/g、1.2mmoL/g~1.8mmoL/g、1.2mmoL/g~1.6mmoL/g、1.2mmoL/g~1.4mmoL/g、1.4mmoL/g~2.0mmoL/g、1.4mmoL/g~1.8mmoL/g、1.4mmoL/g~1.6mmoL/g、1.6mmoL/g~2.0mmoL/g、1.6mmoL/g~1.8mmoL/gである。この時、ハードカーボンは、より高い容量及びより高い初期クーロン効率、さらにはより長い耐用年数及びより優れたレート特性を有することができる。
【0071】
いくつかの実施例において、前記ハードカーボンの50℃から1050℃まで昇温する時の昇温脱離質量分析TPD-MSで検出されるH2発生量が1.0mmoL/g以下であり、好ましくは0.5mmoL/g~1.0mmoL/g、0.5mmoL/g~0.9mmoL/g、0.5mmoL/g~0.8mmoL/g、0.5mmoL/g~0.7mmoL/g、0.5mmoL/g~0.6mmoL/g、0.6mmoL/g~1.0mmoL/g、0.6mmoL/g~0.9mmoL/g、0.6mmoL/g~0.8mmoL/g、0.6mmoL/g~0.7mmoL/g、0.7mmoL/g~1.0mmoL/g、0.7mmoL/g~0.9mmoL/g、0.7mmoL/g~0.8mmoL/gである。H2は主にハードカーボン構造におけるC-H結合の切断に由来し、本願のハードカーボン構造におけるC-H結合の数が少なく、ハードカーボン構造に貯蔵された活性イオンが脱離しやすく、電圧ヒステリシス現象を大幅に抑制することができ、従ってより高い容量及びより高い初期クーロン効率、さらにはより長い耐用年数及びより優れたレート特性を有することができる。
【0072】
いくつかの実施例において、前記ハードカーボンの総質量に対して、前記ハードカーボンのC元素の質量パーセントは95%~98%である。
【0073】
いくつかの実施例において、前記ハードカーボンの総質量に対して、前記ハードカーボンのO元素の質量パーセントは5%以下である。
【0074】
いくつかの実施例において、前記ハードカーボンの総質量に対して、前記ハードカーボンのH元素の質量パーセントは0.4%以下である。本願のハードカーボンにおけるH元素の含有量は少なく、従って、ハードカーボン構造におけるC-H結合の数が少なく、活性イオンが脱離しやすく、それにより本願のハードカーボンは高い容量と初期クーロン効率を両立させることができる。
【0075】
いくつかの実施例において、前記ハードカーボンの総質量に対して、前記ハードカーボンのN元素の質量パーセントは0.4%以下である。
【0076】
いくつかの実施例において、前記ハードカーボンの総質量に対して、前記ハードカーボンのC、O、H、N元素の質量パーセントの総和は99.0%~99.8%である。
【0077】
いくつかの実施例において、前記ハードカーボンの総質量に対して、前記ハードカーボンのC元素の質量パーセントは95%~98%であり、前記ハードカーボンのO元素の質量パーセントは5%以下であり、前記ハードカーボンのH元素の質量パーセントは0.4%以下であり、前記ハードカーボンのN元素の質量パーセントは0.4%以下であり、且つ前記ハードカーボンのC、O、H、N元素の質量パーセントの総和は99.0%~99.8%である。
【0078】
本願のハードカーボンはヘテロ原子の含有量が少なく、従ってヘテロ原子の活性イオンに対する不可逆的消費が少なく、それにより本願のハードカーボンは高い容量と初期クーロン効率を両立させることができる。
【0079】
いくつかの実施例において、前記ハードカーボンのラマンスペクトルにおいて、Id/Igは1.2~1.3であり、Idは1350±50cm-1のラマンシフト範囲におけるdバンドピーク強度を表し、Igは1580±50cm-1のラマンシフト範囲におけるgバンドピーク強度を表し、レーザー波長λは532nmである。
【0080】
dバンドピークは炭素原子の格子欠陥に由来し、gバンドピークはsp2炭素原子の面内振動に由来する。ハードカーボン構造において、dバンドピーク強度はハードカーボン構造の欠陥の数に関連し、gバンドピーク強度はハードカーボン構造における黒鉛微結晶の数に関連し、従って、Id/Igはハードカーボン構造の秩序度を特徴付けることができる。Id/Igが小さいほど、ハードカーボン構造の秩序度が高くなり、炭素面の完全性が高くなって、ハードカーボンの初期クーロン効率が向上するが、容量が低下し、レート特性が低下する。本願のハードカーボンはId/Igが1.2~1.3である要件を満たし、この時に、ハードカーボン構造の秩序度は適切であり、それによりハードカーボンはより高い容量及びより高い初期クーロン効率を兼ね備え、さらにはより長い耐用年数及びより優れたレート特性を有する。
【0081】
いくつかの実施例において、前記ハードカーボンのX線回折スペクトルにおいて、002ピークに対応する2θの値は22°~24°の間である。
【0082】
いくつかの実施例において、前記ハードカーボンの比表面積は5m2/g以下である。好ましくは、前記ハードカーボンの比表面積は0.1m2/g~5m2/g、0.5m2/g~5m2/g、1m2/g~5m2/g、1.5m2/g~5m2/g、2m2/g~5m2/g、2.5m2/g~5m2/g、3m2/g~5m2/g、3.5m2/g~5m2/g、4m2/g~5m2/g、0.5m2/g~4m2/g、1m2/g~4m2/g、1.5m2/g~4m2/g、2m2/g~4m2/g、2.5m2/g~4m2/g、3m2/g~4m2/g、0.5m2/g~3m2/g、1m2/g~3m2/g、1.5m2/g~3m2/g、2m2/g~3m2/gであってもよい。より低い比表面積はハードカーボンの表面活性を低下させ、SEI膜の形成を減少させることに役立ち、それによりハードカーボン及び二次電池の初期クーロン効率を向上させ、より高い比表面積は活性イオンの輸送を加速することに役立ち、それにより二次電池のレート特性を向上させる。ハードカーボンの比表面積が適切な範囲内にある場合、ハードカーボンはより高い容量及びより高い初期クーロン効率を兼ね備えることができ、さらにはより長い耐用年数及びより優れたレート特性を有する。また、ハードカーボンの比表面積が適切な範囲内にある場合、ハードカーボンと接着剤との間にさらに強い結合力を有することができ、それにより負極シートの凝集力及び接着力を向上させることができ、サイクル過程における負極シートの体積膨張を低下させ、二次電池はさらに良好なサイクル特性を有するようになる。
【0083】
いくつかの実施例において、前記ハードカーボンの体積粒径Dv50は2μm~15μmであり、好ましくは4μm~8μmである。
【0084】
いくつかの実施例において、前記ハードカーボンの体積粒径Dv90は5μm~25μmであり、好ましくは8μm~15μmである。
【0085】
いくつかの実施例において、前記ハードカーボンの体積粒径Dv50は4μm~8μmであり、且つ体積粒径Dv90は8μm~15μmである。
【0086】
ハードカーボンの体積粒径Dv50及び/又はDv90が適切な範囲内にある場合、活性イオン及び電子の輸送特性を向上させることに有利であり、それによりハードカーボンのレート特性をさらに向上させる。
【0087】
いくつかの実施例において、前記ハードカーボンは、50000Nの作用力での圧粉密度が0.96g/cm3~1.05g/cm3である。ハードカーボンの圧粉密度が適切な範囲内にある場合、負極シートの圧粉密度を高めて、二次電池のエネルギー密度を向上させることができる。
【0088】
いくつかの実施例において、前記ハードカーボンのタップ密度は0.80g/cm3~0.95g/cm3である。ハードカーボンのタップ密度が適切な範囲内にある場合、負極シートの圧粉密度を高めて、二次電池のエネルギー密度を向上させることができる。
【0089】
いくつかの実施例において、前記ハードカーボンの50℃から1050℃まで昇温する時の昇温脱離質量分析TPD-MSにおいて検出されるCO2発生量は0.2mmoL/g~1.0mmoL/gであり、検出されるCO発生量は0.5mmoL/g~2.0mmoL/gであり、検出されるH2発生量は0.5mmoL/g~1.0mmoL/gである。
【0090】
いくつかの実施例において、前記ハードカーボンの50℃から1050℃まで昇温する時の昇温脱離質量分析TPD-MSにおいて検出されるCO2の発生量は0.4mmoL/g~0.8mmoL/gであり、検出されるCOの発生量は0.8mmoL/g~1.4mmoL/g以下であり、検出されるH2の発生量は0.5mmoL/g~1.0mmoL/gである。
【0091】
本願において、TPD-MS分析には、米国マイクロメリティクス社(Micromeritics Instruments Corporation)のAutochem Model II 2920ガス分析装置及び英国ハイデン社(Hiden Analytical Ltd.)のHiden HPR-20 R&D型質量分析計を用いることができる。
【0092】
本願において、ハードカーボンの比表面積は米国マイクロメリティクス社(Micromeritics Instruments Corporation)のASAP 3020型表面積及び孔径分析装置を用いて測定することができ、試験時にGB/T 19587-2017を参照することができ、窒素吸着による比表面積分析試験法を用いて測定し、且つBET(Brunauer Emmett Teller)法を用いてハードカーボンの比表面積を計算した。
【0093】
本願において、ハードカーボンの体積粒径Dv50、Dv90は本分野で公知の意味であり、これは材料の累積体積分布パーセントがそれぞれ50%、90%に達する時の対応する粒径を示し、本分野で公知の装置及び方法を使用して測定することができる。例えばGB/T 19077-2016粒度分布レーザー回折法を参照し、英国マルバーン社のMastersizer 2000E型レーザー粒度分析装置などのレーザー粒度分析装置を用いて容易に測定することができる。
【0094】
本願において、ハードカーボンの圧粉密度は本分野で公知の意味であり、本分野で公知の装置及び方法を使用して測定することができる。例えば、推奨標準GB/T24533-2009を参照し、電子圧力試験機(UTM7305型など)により測定することができる。例示的な試験方法は、1gのハードカーボン粉末を秤量し、底面積が1.327cm2の金型内に加え、5000kg(50000Nに相当)まで加圧し、30s保圧してから、圧力を解放して、10s保持し、50000Nの作用力下でのハードカーボンの圧粉密度を記録し且つ計算するものである。
【0095】
本願において、ハードカーボンのタップ密度は本分野で公知の意味であり、本分野で公知の装置及び方法を使用して測定することができる。例えば、GB/T 5162-2006を参照し、粉体タップ密度計(丹東百特BT-301など)を用いて測定することができる。
【0096】
本願において、ハードカーボンの元素含有量は本分野で公知の意味であり、本分野で公知の装置及び方法を使用して測定することができる。例えば、X線光電子分光分析(XPS)を用いて測定する。
ハードカーボンの製造方法
【0097】
本願の実施形態の第2態様は、炭素源を提供するステップS10と、前記炭素源を不活性雰囲気において、第1温度T1でt1時間熱処理して、第1中間生成物を得るステップS20と、得られた第1中間生成物を酸素の体積分率が25%以上の酸素含有雰囲気において、第2温度T2でt2時間熱処理して、第2中間生成物を得るステップS30と、得られた第2中間生成物を不活性雰囲気において、第3温度T3でt3時間炭化処理して、ハードカーボンを得るステップS40と、を含むハードカーボンの製造方法を提供する。前記ハードカーボンの50℃から1050℃まで昇温する時の昇温脱離質量分析TPD-MSにおいて検出されるCO2発生量は1.0mmoL/g以下であり、検出されるCO発生量は2.0mmoL/g以下である。
【0098】
本願の実施形態の第2態様の製造方法は、本願の実施形態の第1態様におけるいずれかの実施例のハードカーボンを製造することができる。
【0099】
いくつかの実施例において、T1<T3であり、T2<T3である。
【0100】
いくつかの実施例において、T1≦T2である。好ましくは、T1<T2である。
【0101】
発明人らは、前記炭素源に対して不活性雰囲気における低温熱処理プロセス、酸素含有雰囲気における二次低温熱処理プロセス及び不活性雰囲気における高温炭化処理プロセスを同時に実施することで、得られたハードカーボンが高い容量及び高い初期クーロン効率を兼ね備えることができることを発見した。且つ従来の商品化されたハードカーボンに比べて、本願の製造方法によって得られたハードカーボンの容量及び初期クーロン効率はいずれも顕著に向上する。
【0102】
本願が提供するハードカーボンの製造方法はシンプルであり、商品化生産に適する。
【0103】
本願が提供するハードカーボンの製造方法は導電剤を追加する必要がなく、他の助剤を追加する必要もなく、本願が提供する製造方法によって得られたハードカーボンはより低いヘテロ原子含有量を有し、ヘテロ原子の活性イオンに対する不可逆的な消耗を減少させることができる。
【0104】
本願のハードカーボンの製造方法において、炭素源を不活性雰囲気及び低い第1温度で熱処理することで、炭素源のフレーム構造をより良好に安定させることができ、且つ後続の高温炭素化処理による孔形成プロセスのために安定した骨格構造を提供する。第1中間生成物を酸素含有雰囲気及び低い第2温度で二次低温熱処理することで、適量の酸素含有官能基を導入することができ、これらの酸素含有官能基は主に共有結合の方式で、隣接する黒鉛微結晶シート層前駆体に接続され、後続の高温炭素化処理時に形成された黒鉛微結晶シート層の間に適切な層間距離を保持させることができ、活性イオンの可逆的な脱離、挿入を容易にして、同時に黒鉛微結晶シート層の合併及び改質を過度に抑制することがない。第2中間生成物を不活性雰囲気及び高い第3温度で高温炭素化処理することで、得られたハードカーボンの秩序度を向上させることができる。
【0105】
いくつかの実施例において、前記酸素含有雰囲気における酸素の体積分率は25%~100%である。また、前記酸素含有雰囲気における酸素の体積分率は高すぎても好ましくない。前記酸素含有雰囲気中の酸素の体積分率が高い場合、得られる第1中間生成物構造における大量の支持骨格は酸素と化学反応して小分子、例えばCO2、CO等の形式で散失し、骨格材料に導入された酸素含有官能基の数が少なく、後続の高温熱処理過程において、数が少ない酸素含有官能基は黒鉛微結晶の隣接シート層の相互接近を効果的に抑制することができず、それにより一部の黒鉛微結晶は層間距離が小さすぎるため活性イオンを挿入することができなくなり、ハードカーボンの容量を低下させる可能性がある。
【0106】
いくつかの実施例において、前記酸素含有雰囲気は、酸素と不活性ガスとの混合雰囲気である。好ましくは、前記酸素含有雰囲気における酸素の体積分率は25%~80%、30%~80%、40%~80%、50%~80%、25%~70%、30%~70%、40%~70%、50%~70%、25%~60%、30%~60%、40%~60%、25%~50%、30%~50%である。
【0107】
本願は不活性雰囲気の種類を特に限定せず、いくつかの実施例において、前記不活性雰囲気は窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気のうちの1つ以上から選択される。
【0108】
いくつかの実施例において、S20における昇温速度は、1℃/min~10℃/minであってもよい。しかし本願はこれに限定されず、昇温速度は実際の状況に応じて調整することができる。例えば、昇温速度は1℃/min~9℃/min、1℃/min~8℃/min、1℃/min~7℃/min、1℃/min~6℃/min、1℃/min~5℃/min、1℃/min~4℃/min、1℃/min~3℃/min、1℃/min~2℃/min、2℃/min~10℃/min、3℃/min~9℃/min、4℃/min~8℃/min、5℃/min~7℃/minである。
【0109】
いくつかの実施例において、第1温度T1は300℃以下である。第1温度T1が高いと、熱処理時に炭素源内部の分子鎖が多く切断されやすくなり、骨格構造に原子欠損による構造欠陥が多く導入される。黒鉛微結晶の底面及び一部の端面に位置する構造欠陥は水素と結合しないが、高活性を有するためハードカーボンの製造が終了し炉から取り出す瞬間に空気中のO2、H2O等と反応し、得られたハードカーボンに大量の酸素含有官能基が導入される。ハードカーボンにおける黒鉛微結晶の端面は主にカルボキシル基、カルボニル基及びキノン基等の官能基を導入し、ハードカーボンにおける黒鉛微結晶の底面は主にヒドロキシル基、エーテル基等の官能基を導入し、カルボキシル基官能基は主にCO2の発生量を増加させ、カルボニル基、キノン基、ヒドロキシル基及びエーテル基は主にCOの発生量を増加させる。製造終了後に導入されたこの部分の酸素含有官能基は、活性イオンと結合した後に活性イオンを可逆的に放出することができず、それにより得られたハードカーボンは初期クーロン効率が低い。また製造終了後に導入されたこの部分の酸素含有官能基は、ハードカーボン表面に形成されたSEI膜の化学組成が複雑で厚さが大きく、活性イオンの脱溶媒化に不利であり、得られたハードカーボンの容量も小さい。
【0110】
さらに、第1温度T1は低すぎても好ましくない。第1温度T1が低い場合、炭素源の熱処理後の架橋程度が低く、形成された骨格構造の化学的安定性が低く、酸素含有雰囲気で2回目の低温熱処理を行う時に、骨格構造における大量の化学結合が依然として切断され且つ大量の構造欠陥を形成し、高温炭化処理時に形成された黒鉛微結晶構造におけるH及び酸素含有官能基の数が依然として多くなる。従って、第1温度T1が低い場合、得られたハードカーボンのTPD-MS分析におけるCO2、CO及びH2の発生量がある程度増加し、得られたハードカーボンの容量及び初期クーロン効率がある程度低下する。
【0111】
いくつかの実施例において、第1温度T1は、180℃~300℃、200℃~300℃、220℃~300℃、240℃~300℃、260℃~300℃、280℃~300℃、180℃~280℃、200℃~280℃、220℃~280℃、240℃~280℃、260℃~280℃、180℃~260℃、200℃~260℃、220℃~260℃、240℃~260℃、180℃~240℃、200℃~240℃、220℃~240℃、180℃~220℃であってもよい。第1温度T1が適切な範囲内にある場合、炭素源のフレーム構造をより良好に安定させることができ、且つ後続の高温炭化処理による孔形成プロセスのためにより安定した骨格構造を提供し、高活性の構造欠陥の形成を減少させ、それにより形成された黒鉛微結晶構造におけるH及び酸素含有官能基の数を減少させることができ、黒鉛微結晶シート層を活性イオン反応部位とした利用率を向上させる。従って、第1温度T1が適切な範囲内にある場合、得られるハードカーボンは高い容量と初期クーロン効率を両立させることができる。
【0112】
いくつかの実施例において、熱処理時間t1は4h~60hである。当業者は、採用する第1温度に応じて、上記範囲内で適切な熱処理時間を選択することができ、例えば、第1温度が高い場合、熱処理時間を適切に短縮することができる。熱処理時間は炭素源の種類によってもいくらか異なり、当業者は実際の状況に応じて調整することができる。
【0113】
いくつかの実施例において、ステップS30における昇温速度は、1℃/min~5℃/minであってもよい。しかし本願はこれに限定されず、昇温速度は実際の状況に応じて調整することができる。例えば、昇温速度は1℃/min~4℃/min、1℃/min~3℃/min、1℃/min~2℃/min、2℃/min~5℃/min、2℃/min~4℃/min、2℃/min~3℃/min、3℃/min~5℃/min、3℃/min~4℃/min、4℃/min~5℃/minである。
【0114】
いくつかの実施例において、第2温度T2は400℃未満である。第2温度T2が高すぎる場合、ステップS20で得られた第1中間生成物構造における大量の支持骨格は酸素と化学反応して小分子、例えばCO2、CO等の形式で散失する。従って、得られたハードカーボン構造に多くの構造欠陥が導入され、形成された黒鉛微結晶構造におけるH及び酸素含有官能基の数が多くなり、さらにハードカーボンのTPD-MS分析においてCO2、CO及びH2の発生量がある程度上昇し、ハードカーボンの容量及び初期クーロン効率がある程度低下する。さらに、第2温度T2は低すぎても好ましくない。第2温度T2が低い場合、骨格材料に導入された酸素含有官能基の数が少なく、後続の高温熱処理過程において、数が少ない酸素含有官能基は黒鉛微結晶の隣接するシート層の相互接近を効果的に抑制することができず、それにより一部の黒鉛微結晶は層間距離が小さすぎるため活性イオンを挿入することができなくなる。従って、ハードカーボンの容量もある程度低下する。
【0115】
いくつかの実施例において、第2温度T2は200℃~400℃、220℃~400℃、240℃~400℃、260℃~400℃、280℃~400℃、300℃~400℃、320℃~400℃、340℃~400℃、360℃~400℃、200℃~380℃、220℃~380℃、240℃~380℃、260℃~380℃、270℃~350℃、270℃~380℃、280℃~380℃、290℃~380℃、290℃~350℃、300℃~380℃、320℃~380℃、340℃~380℃、360℃~380℃、200℃~360℃、220℃~360℃、240℃~360℃、260℃~360℃、280℃~360℃、300℃~360℃、320℃~360℃、200℃~340℃、220℃~340℃、240℃~340℃、260℃~340℃、280℃~340℃、300℃~340℃、200℃~320℃、220℃~320℃、240℃~320℃、260℃~320℃、280℃~320℃、200℃~300℃、220℃~300℃、240℃~300℃、260℃~300℃、200℃~280℃、220℃~280℃、240℃~280℃、200℃~260℃、220℃~260℃、200℃~240℃であってもよい。第2温度T2が適切な範囲内にある場合、安定した骨格構造に適量の酸素含有官能基を導入することができ、これらの酸素含有官能基は主に共有結合の方式で、隣接する黒鉛微結晶シート層前駆体に接続され、後続の高温炭化処理時に形成された黒鉛微結晶シート層の間に適切な層間距離を保持させることができ、活性イオンの可逆的な脱離、挿入を容易にして、同時に黒鉛微結晶シート層の合併及び改質を過度に抑制することがなく、それによりハードカーボンにおける高活性の構造欠陥部位を最大限除去することができ、且つCO2、CO及びH2の発生量を低いレベルに保持して、ハードカーボンが高い容量及び高い初期クーロン効率を兼ね備えることを保証する。
【0116】
いくつかの実施例において、熱処理時間t2は1h~12hである。当業者は、採用する第2温度及び酸素濃度に応じて、上記範囲内で適切な熱処理時間を選択することができ、例えば、第2温度が高いほど、又は酸素濃度が高いほど、熱処理時間を適切に短縮することができる。熱処理時間は炭素源の種類によってもいくらか異なり、当業者は実際の状況に応じて調整することができる。
【0117】
いくつかの実施例において、好ましくは、T2≦270℃である場合、T2≧10hであり、さらに、200℃≦T2≦270℃である場合、10h≦T2≦12hである。
【0118】
いくつかの実施例において、好ましくは、270℃<T2<400℃である場合、T2≦8hであり、さらに、270℃<T2<400℃である場合、1h≦T2≦8hである
【0119】
いくつかの実施例において、270℃≦T2≦380℃であり、且つ1h≦T2≦4hである。両者が上記範囲内の要件を満たす場合、ハードカーボンの容量及び初期クーロン効率をより向上させることができる。
【0120】
いくつかの実施例において、ステップS40における昇温速度は、1℃/min~10℃/minである。しかし本願はこれに限定されず、昇温速度は実際の状況に応じて調整することができる。例えば、昇温速度は1℃/min~9℃/min、1℃/min~8℃/min、1℃/min~7℃/min、1℃/min~6℃/min、1℃/min~5℃/min、1℃/min~4℃/min、1℃/min~3℃/min、1℃/min~2℃/min、2℃/min~10℃/min、3℃/min~9℃/min、4℃/min~8℃/min、5℃/min~7℃/minである。
【0121】
いくつかの実施例において、第3温度T3は1000℃~1600℃である。第3温度T3が低い場合、ステップS30で得られた第2中間生成物構造に導入された大量の高活性の構造欠陥は低い熱処理温度で効果的に減少させることができず、それにより黒鉛微結晶の中には、分解されてCO2、CO及びH2を生成することができる大量の酸素含有官能基を含むため、得られたハードカーボンの容量及び初期クーロン効率がある程度低下する。さらに、第3温度T3は高すぎても好ましくない。第3温度T3が高い場合、黒鉛微結晶の隣接するシート層が相互に接近するように大幅に動かし、且つ、第3温度T3が高い場合、黒鉛微結晶に細かな運動が発生しやすく、ステップS30で導入された黒鉛微結晶の隣接するシート層間に位置する酸素含有官能基の支持作用は、黒鉛微結晶の細かな運動に抵抗するには不十分であり、最終的に一部の黒鉛微結晶シート層の層間距離が小さくなり、活性イオンを挿入することができなくなり、得られたハードカーボンの容量はある程度低下する。
【0122】
いくつかの実施例において、第3温度T3は、1100℃~1600℃、1200℃~1600℃、1300℃~1600℃、1400℃~1600℃、1500℃~1600℃、1000℃~1500℃、1100℃~1500℃、1200℃~1500℃、1300℃~1500℃、1400℃~1500℃、1000℃~1350℃、1000℃~1400℃、1100℃~1400℃、1200℃~1400℃、1300℃~1400℃、1000℃~1300℃、1100℃~1300℃、1200℃~1300℃、1000℃~1200℃、1100℃~1200℃、1000℃~1100℃である。第3温度T3が適切な範囲内にある場合、黒鉛微結晶の層間距離を向上させることができ、得られたハードカーボンの秩序度を向上させ、ハードカーボンは高い容量及び高い初期クーロン効率を兼ね備えるようになる。
【0123】
いくつかの実施例において、熱処理時間t3は1h~12hである。当業者は、採用する第3温度に応じて、上記範囲内で適切な熱処理時間を選択することができ、例えば、第3温度が高い場合、熱処理時間を適切に短縮することができる。熱処理時間は炭素源の種類によってもいくらか異なり、当業者は実際の状況に応じて調整することができる。
【0124】
いくつかの実施例において、前記ハードカーボンの製造方法はさらに破砕処理ステップを含むことができ、製造過程でハードカーボンが大量に凝集することを防止し、且つ必要なサイズの要件を満たすハードカーボンを得ることに役立つ。
【0125】
本願のハードカーボンの製造方法において、破砕処理は高温炭化処理の前に行う必要がある。これは、高温炭化処理が終了した後に、得られたハードカーボンに対して破砕処理を行うと、ハードカーボンに多くの新しい表面が露出し、それら新しい表面は空気中のO2、H2O等と反応しやすく、得られたハードカーボンに大量の酸素含有官能基が導入されて、得られたハードカーボンの容量及び初期クーロン効率を低下させるためである。前記破砕処理は、前記第1中間生成物及び/又は前記第2中間生成物を破砕することであってもよい。
【0126】
いくつかの実施例において、ステップS20の後、ステップS30の前に、前記製造方法はさらに、得られた第1中間生成物を破砕、例えばmmオーダーに破砕するステップS21を含み、この時に凝集した第1中間生成物を破砕して、後続処理時に第1中間生成物が酸素と十分に接触できることを保証する。なお、いくつかの実施例において、該ステップは省略されてもよい。
【0127】
いくつかの実施例において、ステップS30の後、ステップS40の前に、前記製造方法はさらに、ステップS30で得られた第2中間生成物を破砕するステップS31を含む。例えば、いくつかの実施例において、前記第2中間生成物の粉砕後の体積粒径Dv50は2μm~15μmであり、好ましくは4μm~8μmである。いくつかの実施例において、前記第2中間生成物の粉砕後の体積粒径Dv90は5μm~25μmであり、好ましくは8μm~15μmである。いくつかの実施例において、前記第2中間生成物の粉砕後の体積粒径Dv50は4μm~8μmであり、且つ体積粒径Dv90は8μm~15μmである。
【0128】
本願は前記炭素源の種類を特に制限せず、いくつかの実施例において、前記炭素源はポリマー、樹脂、バイオマス材料のうちの1つ以上を含む。
【0129】
例として、前記ポリマーはポリアニリン、ポリピロールのうちの1つ以上を含む。
【0130】
例として、前記樹脂はフェノール樹脂、エポキシ樹脂のうちの1つ以上を含む。好ましくは、前記フェノール樹脂はフェノールホルムアルデヒド樹脂、レゾルシノール-ホルムアルデヒド樹脂、ヒドロキノン-ホルムアルデヒド樹脂、フェノールフルフラール樹脂のうちの1つ以上を含む。
【0131】
例として、前記バイオマス材料はデンプン、グルコース、フルクトース、マルトース、スクロース、セルロース、ヘミセルロース、リグニンのうちの1つ以上を含む。好ましくは、前記デンプンは穀類デンプン、イモ類デンプン、豆類デンプンのうちの1つ以上を含む。前記穀類デンプンの例はトウモロコシデンプン、米デンプン、粟デンプン、コーリャンデンプン、小麦デンプン、エンバクデンプン、ソバデンプン、ライ麦デンプンのうちの1つ以上を含むことができるがこれらに限定されず、前記イモ類デンプンの例はキャッサバデンプン、ジャガイモデンプン、サツマイモデンプン、ヤマイモデンプン、サトイモデンプンのうちの1つ以上を含むことができるがこれらに限定されず、前記豆類デンプンの例は緑豆デンプン、ソラマメデンプン、エンドウデンプン、ササゲデンプンのうちの1つ以上を含むことができるがこれらに限定されない。
【0132】
好ましくは、前記炭素源はバイオマス材料から選択される。さらに、前記炭素源はデンプン、グルコース、フルクトース、マルトース、スクロース、セルロース、ヘミセルロース、リグニンのうちの1つ以上から選択される。上記バイオマス材料はヘテロ原子(O及びH以外の原子)の種類が少なく、炭素元素の含有量が高く、且つ価格が低く、ヘテロ原子のハードカーボン製造プロセスに対する影響を回避することができる。また、上記バイオマス材料は低い温度で架橋することができ、より安定した骨格構造を形成することに有利であり、それにより適切なチャンネル構造を有するハードカーボンを得る。
【0133】
本願において、前記バイオマス材料は市販のままでもよく、植物から抽出して得られるものでもよい。
【0134】
いくつかの実施例において、前記ハードカーボンの製造方法は、デンプンを炭素源として提供するステップS10と、前記炭素源を不活性雰囲気において、300℃以下の温度で4h~60h熱処理し、第1中間生成物を得るステップS20と、得られた第1中間生成物を酸素の体積分率が25%以上の酸素含有雰囲気において、400℃以下の温度で1h~12h熱処理し、第2中間生成物を得るステップS30と、得られた第2中間生成物を不活性雰囲気において、1000℃~1600℃の温度で1h~12h炭化処理し、ハードカーボンを得るステップS40と、を含む。前記ハードカーボンの50℃から1050℃まで昇温する時の昇温脱離質量分析TPD-MSにおいて検出されるCO2発生量は1.0mmoL/g以下であり、検出されるCO発生量は2.0mmoL/g以下である。
【0135】
いくつかの実施例において、前記ハードカーボンの製造方法は、デンプンを炭素源として提供するステップS10と、前記炭素源を不活性雰囲気において、300℃以下の温度で4h~60h熱処理し、第1中間生成物を得るステップS20と、得られた第1中間生成物を酸素の体積分率が25%以上の酸素含有雰囲気において、400℃以下の温度で1h~12h熱処理し、第2中間生成物を得るステップS30と、得られた第2中間生成物を体積粒径Dv50が2μm~15μm及び/又は体積粒径Dv90が5μm~25μmになるまで破砕し、さらに不活性雰囲気において、1000℃~1600℃の温度で1h~12h炭化処理し、ハードカーボンを得るステップS40と、を含む。前記ハードカーボンの50℃から1050℃まで昇温する時の昇温脱離質量分析TPD-MSにおいて検出されるCO2発生量は1.0mmoL/g以下であり、検出されるCO発生量は2.0mmoL/g以下である。
二次電池
【0136】
本願の実施形態の第3態様は、二次電池を提供する。二次電池の種類は特に限定されず、例えば、二次電池はリチウムイオン電池、ナトリウムイオン電池等であってもよく、特に、二次電池はナトリウムイオン二次電池である。一般的に、二次電池は正極シート、負極シート及び電解質などを含む。二次電池の充放電過程において、活性イオンは前記正極シートと前記負極シートとの間で往復して挿入及び脱離し、前記電解質は前記正極シートと前記負極シートとの間で活性イオンを伝導する役割を果たす。
[負極シート]
【0137】
いくつかの実施例において、前記負極シートは、負極集電体と、前記負極集電体の少なくとも1つの表面に設けられ且つ負極活物質を含む負極フィルム層と、を含む。例えば、前記負極集電体は、それ自体の厚さ方向に対向する2つの面を有し、前記負極フィルム層は、前記負極集電体の対向する2つの面のいずれか一方又は両方に設けられる。
【0138】
いくつかの実施例において、前記負極フィルム層は本願の実施形態の第1態様におけるいずれかの実施例に記載のハードカーボン、本願の実施形態の第2態様におけるいずれかの実施例に記載の方法で製造されたハードカーボンのうちの少なくとも1つを含む。
【0139】
いくつかの実施例において、前記負極フィルム層は、上記ハードカーボン以外の他の負極活物質をさらに含むことができる。いくつかの実施例において、前記他の負極活物質は、天然黒鉛、人造黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、シリコン系材料、スズ系材料、チタン酸リチウムのうちの少なくとも1つを含むがこれらに限定されない。前記シリコン系材料は、シリコン単体、シリコン酸化物、シリコン炭素複合体、シリコン窒素複合体、シリコン合金材料のうちの少なくとも1つを含むことができる。前記スズ系材料は、スズ単体、スズ酸化物、スズ合金材料のうちの少なくとも1つを含むことができる。本願はこれらの材料に限定されず、二次電池の負極活物質として使用可能な公知の他の材料を使用することができる。
【0140】
いくつかの実施例において、前記負極フィルム層は、好ましくは負極導電剤をさらに含む。本願は前記負極導電剤の種類を特に制限せず、例として、前記負極導電剤は、超伝導カーボン、導電性黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンナノファイバーのうちの少なくとも1つを含むことができる。いくつかの実施例において、前記負極フィルム層の総質量に対して、前記負極導電剤の質量パーセントは≦5%である。
【0141】
いくつかの実施例において、前記負極フィルム層は、好ましくは負極バインダーをさらに含む。本願は前記負極バインダーの種類を特に限定せず、例として、前記負極バインダーは、スチレンブタジエンゴム(SBR)、水溶性不飽和樹脂SR-1B、水性アクリル樹脂(例えば、ポリアクリル酸PAA、ポリメタクリル酸PMAA、ポリアクリル酸ナトリウムPAAS)、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギン酸ナトリウム(SA)、カルボキシメチルキトサン(CMCS)のうちの少なくとも1つを含むことができる。いくつかの実施例において、前記負極フィルム層の総質量に対して、前記負極バインダーの質量パーセントは≦5%である。
【0142】
いくつかの実施例において、前記負極フィルム層は、好ましくは他の助剤をさらに含む。例として、他の助剤は、増粘剤、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)、PTCサーミスタ材料などを含むことができる。いくつかの実施例において、前記負極フィルム層の総質量に対して、前記他の助剤の質量パーセントは≦2%である。
【0143】
いくつかの実施例において、前記負極集電体は金属箔又は複合集電体を用いることができる。金属箔は、例として銅箔を用いることができる。複合集電体は、高分子基材層と、高分子基材層の少なくとも1つの表面に形成された金属材料層と、を含むことができる。例として、金属材料は、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀、銀合金のうちの少なくとも1つから選択することができる。例として、高分子基材層は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)などから選択することができる。
【0144】
前記負極フィルム層は、一般的に負極ペーストを負極集電体に塗布し、乾燥させ、冷間プレスして形成される。前記負極ペーストは、一般的に負極活物質と、好ましくは導電剤、バインダー、その他の選択可能な助剤を溶媒に分散させ、均一に撹拌することにより形成される。溶媒は、N-メチルピロリドン(NMP)又は脱イオン水であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0145】
前記負極シートは、前記負極フィルム層以外の付加機能層を排除するものではない。例えば、いくつかの実施形態において、本願に記載の負極シートは、前記負極集電体と前記負極フィルム層との間に挟まれ、前記負極集電体の表面に設けられる導電性プライマー層(例えば、導電剤及びバインダーからなる)をさらに含む。他のいくつかの実施形態において、本願に記載の負極シートは、前記負極フィルム層の表面を被覆する保護層をさらに含む。
[正極シート]
【0146】
いくつかの実施例において、前記正極シートは、正極集電体と、前記正極集電体の少なくとも1つの表面に設けられた正極フィルム層と、を含む。例えば、前記正極集電体は、それ自体の厚さ方向に対向する2つの面を有し、前記正極フィルム層は、前記正極集電体の対向する2つの面のいずれか一方又は両方に設けられる。
【0147】
前記正極集電体は金属箔又は複合集電体を用いることができる。金属箔は、例としてアルミニウム箔を用いることができる。複合集電体は、高分子基材層と、高分子基材層の少なくとも1つの表面に形成された金属材料層と、を含むことができる。例として、金属材料はアルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀、銀合金のうちの1つ以上から選択することができる。例として、高分子基材層は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)などから選択することができる。
【0148】
前記正極フィルム層は、一般的に正極活物質と、好ましくはバインダーと、好ましくは導電剤と、を含む。前記正極フィルム層は、一般的に正極ペーストを前記正極集電体に塗布し、乾燥させ、冷間プレスして形成される。前記正極ペーストは、一般的に正極活物質と、好ましくは導電剤、バインダー、その他の任意の成分を溶媒に分散させ、均一に撹拌することにより形成される。溶媒はN-メチルピロリドン(NMP)であってもよいが、これに限定されるものではない。例として、正極フィルム層に用いられるバインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-プロピレン三元共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン三元共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ素含有アクリレート樹脂のうちの1つ以上を含むことができる。例として、正極フィルム層に用いられる導電剤は超伝導カーボン、導電性黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンナノファイバーのうちの1つ以上を含む。
【0149】
前記正極活物質は、本分野で公知の二次電池用正極活物質を使用することができる。
【0150】
本願の二次電池がリチウムイオン電池である場合、前記正極活物質は、リチウム遷移金属酸化物、オリビン構造のリチウム含有リン酸塩及びこれらの改質化合物のうちの1つ以上を含むことができる。リチウム遷移金属酸化物の例として、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルト酸化物、リチウムマンガンコバルト酸化物、リチウムニッケルマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物、及びそれらの改質化合物のうちの1つ以上を含むことができるが、これらに限定されない。オリビン構造のリチウム含有リン酸塩の例としてリン酸鉄リチウム、リン酸鉄リチウムと炭素との複合体、リン酸マンガンリチウム、リン酸マンガンリチウムと炭素との複合体、リン酸フェロマンガンリチウム、リン酸フェロマンガンリチウムと炭素との複合体、及びこれらの改質化合物のうちの1つ以上を含むことができるが、これらに限定されない。本願はこれらの材料に限定されず、リチウムイオン電池の正極活物質として使用可能な公知の他の材料を使用することができる。これらの正極活物質は、1種類のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0151】
いくつかの実施例において、二次電池のエネルギー密度をさらに増加させるために、リチウムイオン電池に用いられる正極活物質は、式(1)によって表されるリチウム遷移金属酸化物及びその改質化合物のうち1つ以上を含むことができ、
LiaNibCocMdOeAf (1)
式1において、0.8≦a≦1.2、0.5≦b<1、0<c<1、0<d<1、1≦e≦2、0≦f≦1であり、MはMn、Al、Zr、Zn、Cu、Cr、Mg、Fe、V、Ti、Bのうちの1つ以上から選択され、AはN、F、S、Clのうちの1つ以上から選択される。
【0152】
例として、リチウムイオン電池に用いられる正極活物質は、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn2O4、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(NCM333)、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2(NCM523)、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2(NCM622)、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2(NCM811)、LiNi0.85Co0.15Al0.05O2、LiFePO4、LiMnPO4のうちの1つ以上を含むことができる。
【0153】
本願の二次電池がナトリウムイオン電池であり、特に、ナトリウムイオン二次電池である場合、前記正極活物質はナトリウム含有遷移金属酸化物、ポリアニオン材料(例えばリン酸塩、フルオロリン酸塩、ピロリン酸塩、硫酸塩等)、プルシアンブルー系材料のうちの1つ以上を含むことができる。本願はこれらの材料に限定されず、ナトリウムイオン電池の正極活物質として使用可能な公知の他の材料を使用することができる。これらの正極活物質は、1種類のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0154】
例として、ナトリウムイオン電池に用いられる正極活物質は、NaFeO2、NaCoO2、NaCrO2、NaMnO2、NaNiO2、NaNi1/2Ti1/2O2、NaNi1/2Mn1/2O2、Na2/3Fe1/3Mn2/3O2、NaNi1/3Co1/3Mn1/3O2、NaFePO4、NaMnPO4、NaCoPO4、プルシアンブルー系材料、一般式がAaMb(PO4)cOxY3-xの材料(AはH+、Li+、Na+、K+、NH4
+のうちの1つ以上から選択され、Mは遷移金属カチオンであり、好ましくはV、Ti、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Znのうちの1つ以上であってもよく、Yはハロゲンアニオンであり、好ましくはF、Cl、Brのうちの1つ以上であってもよく、0<a≦4、0<b≦2、1≦c≦3、0≦x≦2である)のうちの1つ以上を含むことができる。
【0155】
本願において、上記各正極活物質の改質化合物は、正極活物質に対してドーピング改質、又は表面被覆改質を行うことができる。
【0156】
本願の正極シートは、正極フィルム層以外の他の付加機能層を排除するものではない。例えば、いくつかの実施例において、本願の正極シートは、正極集電体と正極フィルム層との間に挟まれ、正極集電体の表面に設けられる導電性プライマー層(例えば、導電剤及びバインダーからなる)をさらに含む。他のいくつかの実施例において、本願の正極シートは、正極フィルム層の表面を被覆する保護層をさらに含む。
[電解質]
【0157】
本願は前記電解質の種類を特に限定せず、実際の必要に応じて選択することができる。例えば、前記電解質は、固体電解質及び液体電解質(すなわち電解液)のうちの少なくとも1つから選択することができる。
【0158】
いくつかの実施例において、前記電解質は電解液を使用する。前記電解液は電解質塩と溶媒を含む。
【0159】
前記電解質塩の種類は具体的に限定されず、実際の必要に応じて選択することができる。
【0160】
本願の二次電池がリチウムイオン電池である場合、例として、前記電解質塩は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6)、リチウムビスフルオロスルホニルイミド(LiFSI)、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiTFS)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiDFOB)、リチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロホスフェート(LiPO2F2)、リチウムビス(オキサラト)ジフルオロホスファナイト(LiDFOP)、リチウムテトラフルオロオキサレートホスフェート(LiTFOP)のうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0161】
本願の二次電池がナトリウムイオン二次電池であり、特に、ナトリウムイオン二次電池である場合、前記電解質塩はヘキサフルオロリン酸ナトリウム(NaPF6)、テトラフルオロホウ酸ナトリウム(NaBF4)、過塩素酸ナトリウム(NaClO4)、ヘキサフルオロヒ酸ナトリウム(NaAsF6)、ビスフルオロスルホニルイミドナトリウム(NaFSI)、ビストリフルオロメタンスルホニルイミドナトリウム(NaTFSI)、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム(NaTFS)、ナトリウムジフルオロオキサレートボレート(NaDFOB)、ナトリウムビスオキサレートボレート(NaBOB)、ナトリウムジフルオロホスフェート(NaPO2F2)、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸ナトリウム(NaDFOP)、ナトリウムテトラフルオロオキサレートホスフェート(NaTFOP)のうちの1つ以上を含むことができる。
【0162】
前記溶媒の種類は特に限定されず、実際の必要に応じて選択することができる。いくつかの実施例において、例として、前記溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、ブチレンカーボネート(BC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ギ酸メチル(MF)、酢酸メチル(MA)、酢酸エチル(EA)、酢酸プロピル(PA)、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル(EP)、プロピオン酸プロピル(PP)、酪酸メチル(MB)、酪酸エチル(EB)、1、4-ブチロラクトン(GBL)、スルホラン(SF)、メチルスルフォニルメタン(MSM)、エチルメチルスルホン(EMS)、ジエチルスルホン(ESE)のうちの1つ以上を含むことができる。
【0163】
いくつかの実施例において、前記電解液は、好ましくは添加剤をさらに含む。例えば、前記添加剤は、負極フィルム形成添加剤を含んでもよく、正極フィルム形成添加剤を含んでもよく、さらに、電池の特定の性能を改善することができる添加剤、例えば、電池の過充電特性を改善する添加剤、電池の高温特性を改善する添加剤、電池の低温出力特性を改善する添加剤などを含むことができる。
[セパレータ]
【0164】
電解液を用いた二次電池や、固体電解質を用いた二次電池において、さらにセパレータを含む。前記セパレータは前記正極シートと前記負極シートとの間に設置され、隔離の役割を果たす。本願は前記セパレータの種類を特に制限せず、良好な化学的安定性及び機械的安定性を有する任意の公知の多孔質構造セパレータを選択することができる。
【0165】
いくつかの実施例において、前記セパレータの材質は、ガラス繊維、不織布、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデンのうちの1つ以上から選択することができる。前記セパレータは単層フィルムであってもよく、多層複合フィルムであってもよい。前記セパレータが多層複合フィルムである場合、各層の材料は同一であっても異なっていてもよい。
【0166】
いくつかの実施例において、前記正極シート、前記セパレータ及び前記負極シートから捲回プロセス又はラミネートプロセスを経て電極アセンブリを製造することができる。
【0167】
いくつかの実施例において、前記二次電池は外装材を含むことができる。該外装材は、上記電極アセンブリ及び電解質を封入するために用いられる。
【0168】
いくつかの実施例において、前記二次電池の二次電池の外装材は、硬質プラスチックケース、アルミニウムケース、スチールケースなどの硬質ケースであってもよい。前記二次電池の外装材は、パウチ型ソフトパックなどのソフトパックであってもよい。前記ソフトパックの材質はプラスチック、例えばポリプロピレン(PP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンサクシネート(PBS)等のうちの1つ以上であってもよい。
【0169】
本願は二次電池の形状を特に限定せず、円筒形、角形、又は他の任意の形状であってもよい。
図1は一例としての角形構造の二次電池5である。
【0170】
いくつかの実施例において、
図2に示すように、外装材は、ハウジング51及びカバープレート53を含むことができる。ハウジング51は底板及び底板に接続された側板を含む。底板及び側板で囲まれて収容キャビティが形成される。ハウジング51は収容キャビティと連通する開口部を有し、カバープレート53は前記開口部をカバーして、前記収容キャビティを密閉するために用いられる。正極シート、負極シート及びセパレータから捲回プロセス又はラミネートプロセスを経て電極アセンブリ52を形成することができる。電極アセンブリ52は前記収容キャビティに封入される。電解液は電極アセンブリ52内に含浸している。二次電池5に含まれる電極アセンブリ52の数は1つ又は複数であってもよく、必要に応じて調整することができる。
【0171】
本願の二次電池の製造方法は公知のものである。いくつかの実施例において、正極シート、セパレータ、負極シート及び電解液を組み立てて、二次電池を形成することができる。例として、正極シート、セパレータ、負極シートから捲回プロセス又はラミネートプロセスを経て電極アセンブリが形成され、電極アセンブリを外装材の内に入れて、乾燥させてから電解液を注入し、真空封入、静置、予備充電、整形などのプロセスを経て二次電池を得ることができる。
【0172】
本願のいくつかの実施例において、本願に係る二次電池を電池モジュールに組み立てることができ、電池モジュールに含まれる二次電池の数は複数であってもよく、具体的な数は、電池モジュールの用途及び容量に応じて調整することができる。
【0173】
図3は一例としての電池モジュール4の概略図である。
図3に示すように、電池モジュール4において、複数の二次電池5を電池モジュール4の長さ方向に沿って順に並べて設置することができる。当然ながら、他の任意の方式で配置してもよい。また、該複数の二次電池5は締結具によって固定することができる。
【0174】
好ましくは、電池モジュール4は、複数の二次電池5が収容される収容空間を有する外ケースをさらに備えてもよい。
【0175】
いくつかの実施例において、上記電池モジュールはさらに電池パックに組み立てることができ、電池パックに含まれる電池モジュールの数は、電池パックの用途及び容量に応じて調整することができる。
【0176】
図4及び
図5は一例としての電池パック1の概略図である。
図4及び
図5に示すように、電池パック1は、電池ケースと、電池ケース内に設置された複数の電池モジュール4と、を含むことができる。電池ケースは上筐体2及び下筐体3を含み、上筐体2は下筐体3に被せて、且つ電池モジュール4を収容する密閉空間を形成するために用いられる。複数の電池モジュール4は、任意の方法で電池ケース内に配置することができる。
電力消費装置
【0177】
本願の実施形態はさらに、本願の二次電池、電池モジュール、又は電池パックのうちの少なくとも1つを含む電力消費装置を提供する。前記二次電池、電池モジュール又は電池パックは、前記電力消費装置の電源として使用されてもよく、前記電力消費装置のエネルギー貯蔵要素として使用されてもよい。前記電力消費装置はモバイル機器(例えば携帯電話、ノートパソコン等)、電動車両(例えば純電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、電動自転車、電動スクーター、電動ゴルフカート、電動トラック等)、電車、船舶及び衛星、エネルギー貯蔵システム等であってもよいがそれらに限定されない。
【0178】
前記電力消費装置は、二次電池、電池モジュール又は電池パックをその使用要件に応じて選択することができる。
【0179】
図6は、一例としての電力消費装置の概略図である。該電力消費装置は純電気自動車、ハイブリッド電気自動車、又はプラグインハイブリッド電気自動車等である。該電力消費装置の高出力及び高エネルギー密度の要件を満たすために、電池パック又は電池モジュールを用いることができる。
【0180】
別の例としての電力消費装置は、携帯電話、タブレットパソコン、ノートパソコンなどであってもよい。該電力消費装置は、一般的に軽量薄型化が求められており、電源として二次電池を用いることができる。
実施例
【0181】
以下の実施例は、本願に開示された内容をより具体的に記載しているが、本願に開示された内容の範囲内でなされる種々の修正及び変更は当業者にとって明らかであることから、これらの実施例は例示に過ぎない。特に明記しない限り、以下の実施例で報告される全ての部、パーセント、比はいずれも質量を基準とし、且つ実施例で使用される全ての試薬は市販されているか、又は従来の方法に従って合成されたものであり、処理することなく直接使用することができ、実施例で使用される機器はいずれも市販のものである。
実施例1
【0182】
炭素源とするトウモロコシデンプンを管状炉に入れ、窒素ガス雰囲気下で5℃/minで300℃(第1温度t1)まで昇温した後に18h(熱処理時間t1)保温熱処理し、第1中間生成物を得る。窒素ガス雰囲気を、酸素とアルゴンガスの混合雰囲気(酸素の体積分率は30%、アルゴンガスの体積分率は70%)に変更し、その後3℃/minで300℃(第2温度T2)まで昇温した後に2h(熱処理時間T2)保温熱処理し、第2中間生成物を得る。得られた第2中間生成物を体積粒径Dv50が4μm~8μmで、且つDv90が8μm~15μmになるまで破砕し、さらに窒素ガス雰囲気下で5℃/minで1100℃(第3温度T3)まで昇温した後に12h(熱処理時間T3)保温熱処理し、ハードカーボンを得る。
実施例2-23
【0183】
ハードカーボンの製造方法は実施例1と同様であり、異なる点はハードカーボンの製造プロセスパラメータを調整したことであり、具体的には表1に示すとおりである。
比較例1
【0184】
炭素源とするトウモロコシデンプンを管状炉に入れ、窒素ガス雰囲気下で3℃/minで240℃まで昇温した後に36h保温熱処理し、第1中間生成物を得る。得られた第1中間生成物を体積粒径Dv50が4μm~8μmで、且つDv90が8μm~15μmになるまで粉砕し、さらに窒素ガス雰囲気下で5℃/minで1200℃まで昇温した後に12h保温熱処理し、ハードカーボンを得る。
比較例2
【0185】
炭素源とするトウモロコシデンプンを管状炉に入れ、大気雰囲気下で3℃/minで240℃まで昇温した後に36h保温熱処理し、第1中間生成物を得る。得られた第1中間生成物を体積粒径Dv50が4μm~8μmで、且つDv90が8μm~15μmになるまで粉砕し、さらに窒素ガス雰囲気下で5℃/minで1200℃まで昇温した後に12h保温熱処理し、ハードカーボンを得る。
比較例3
【0186】
ハードカーボンの製造方法は実施例1と同様であり、異なる点はハードカーボンの製造プロセスパラメータを調整したことであり、具体的には表1に示すとおりである。
試験の部
【0187】
(1)ハードカーボンのTPD-MS分析
【0188】
米国マイクロメリティクス社(Micromeritics Instruments Corporation)のAutochem Model II 2920ガス分析装置及び英国ハイデン社(Hiden Analytical Ltd.)のHiden HPR-20 R&D型質量分析計を使用して、各実施例及び比較例で製造したハードカーボンについてTPD-MS分析を実施した。質量分析計は、試験前にH2(分子量(m/z)2)、CO(分子量(m/z)28)、CO2(分子量(m/z)44)を用いて較正した。
【0189】
各実施例及び比較例で製造された100mgのハードカーボンサンプルをサンプル管に入れ、10ml/min~50ml/minの流速でアルゴンガスを導入して30minパージ及びガス置換を行った後、アルゴンガスの流通状態を保持したまま加熱装置を起動し且つ10℃/minの昇温速度で50℃から1050℃まで昇温し、加熱過程で発生したガスを質量分析計で連続的に定量分析した。検出された放出ガス中の分子量(m/z)2の物質はH2、分子量(m/z)28の物質はCO、分子量(m/z)44の物質はCO2である。試験終了後、質量分析計で得られたMS曲線の時間積分によってそれぞれのガス発生量を得て、得られたガス発生量をサンプル質量で割ったもの、すなわち本願の単位質量当たりのハードカーボンから発生したガス量である。
【0190】
(2)ハードカーボンの比容量及び初期クーロン効率試験
【0191】
各実施例及び比較例で製造されたハードカーボン及びバインダーのスチレンブタジエンゴム(SBR)、増粘剤のカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)、導電剤のカーボンブラックを質量比96.2:1.8:1.2:0.8で適量の溶媒脱イオン水中で十分に撹拌して混合し、均一な負極ペーストを形成する。負極ペーストを負極集電体の銅箔の表面に均一に塗布し、オーブンで乾燥させた後に使用に備える。エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)を体積比1:1:1で混合して有機溶媒を得た後、NaPF6を上記有機溶媒に溶解させて、濃度1mol/Lの電解液を調製した。その後、金属ナトリウムシートを対電極とし、ポリエチレン(PE)フィルムをセパレータとして、アルゴン保護のグローブボックス内でCR2430型ボタン電池を組み立てる。
【0192】
25℃で、まず10mA/gの電流密度で各実施例及び比較例で製造されたボタン電池を0Vまで定電流放電し、ボタン電池の第1サイクル放電容量を記録し、その後10mA/gの電流密度で2.0Vまで定電流充電し、ボタン電池の第1サイクル充電容量を記録する。
【0193】
ハードカーボンの比容量(mAh/g)=ボタン電池の第1サイクル充電容量/ハードカーボンの質量である。
【0194】
ハードカーボンの初期クーロン効率(%)=ボタン電池の第1サイクル充電容量/ボタン電池の第1サイクル放電容量×100%である。
【0195】
実施例1~23及び比較例1~3の試験結果を表2に示す。
【0196】
実施例1~23の試験結果から、ハードカーボンは、50℃から1050℃まで昇温した時のTPD-MSで検出されるCO2発生量が1.0mmoL/g以下で、CO発生量が2.0mmoL/g以下であるという要件を満たす場合に、高い容量と初期クーロン効率を兼ね備えることがわかる。実施例1~23の試験結果からさらに、50℃から1050℃まで昇温した時のTPD-MSで検出されるH2発生量が1.0mmoL/g以下であるという要件をさらに満たす場合に、ハードカーボンの容量及び初期クーロン効率がさらに向上することがわかる。
【0197】
図7は実施例2で製造されたハードカーボンの走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、
図7からわかるように、本願の製造方法によって得られたハードカーボンは形態が規則的であり且つサイズが均一である。
【0198】
図8及び
図9はそれぞれ実施例2及び比較例1で製造されたハードカーボンのTPD-MS分析結果であり、曲線Iは分子量(m/z)44のガス(即ちCO
2)に対応し、曲線IIは分子量(m/z)28のガス(即ちCO)に対応し、曲線IIIは分子量(m/z)2のガス(即ちH
2)に対応する。
【0199】
図8に示すように、実施例2で製造されたハードカーボンは、適切なCO
2、CO及びH
2発生量を有する。表2の試験結果からわかるように、実施例2で製造されたハードカーボンの比容量は411mAh/gであり、初期クーロン効率は86.4%である。メカニズムはまだ明確ではないが、発明者らは可能性がある一つの理由として、実施例2で製造されたハードカーボン構造における酸素含有官能基の含有量が適切であり、酸素含有官能基と活性イオンとの結合確率が小さく、活性イオンの不可逆的な消費が低いことであると推測しており、また、含有量が適切な酸素含有官能基はさらに、ハードカーボン構造に適量の欠陥が存在することを保証し、該部分の欠陥をハードカーボン内部における活性イオンの伝導チャネルとすることができ、ハードカーボン内部の活性イオンの挿入不可能領域の割合を減少させ、ハードカーボン構造内の活性イオン反応部位の利用率を向上させ、活性イオンがハードカーボン材料の本体構造にスムーズに挿入されることに有利であり、それにより実施例2で製造されたハードカーボンは高い容量及び高い初期クーロン効率を兼ね備える。
【0200】
比較例1~3で製造されたハードカーボンは、TPD-MS試験で検出されるCO2及び/又はCO発生量が上記範囲(CO2発生量が1.0mmoL/g以下で、CO発生量が2.0mmoL/g以下)を満たさず、したがって、ハードカーボンの容量及び初期クーロン効率がいずれも劣る。
【0201】
比較例1はトウモロコシデンプンに対して不活性雰囲気において低温熱処理プロセスを経た後、不活性雰囲気において高温炭化処理を直接行った。
図9に示すように、比較例1で製造されたハードカーボンは、CO
2及びCO発生量がいずれも上記範囲を満たしていない。表2の試験結果からわかるように、比較例1で製造されたハードカーボンの比容量は251mAh/gに過ぎず、初期クーロン効率は77.7%に過ぎない。
【0202】
同様に、比較例2はトウモロコシデンプンに対して大気雰囲気において低温熱処理プロセスを行った後、不活性雰囲気において高温炭化処理を直接行ったが、製造されたハードカーボンは高い比容量及び高い初期クーロン効率を兼ね備えることができない。
【0203】
比較例3はトウモロコシデンプンに対して不活性雰囲気における低温熱処理プロセス、酸素含有雰囲気における二次低温熱処理プロセス及び不活性雰囲気における高温炭化処理プロセスを同時に行ったが、第3温度T3が低すぎるため、ハードカーボンを製造する過程で導入された大量の高活性の構造欠陥を効果的に減少させることができず、形成された黒鉛微結晶は大量の酸素含有官能基を含有し、ハードカーボンが高い比容量及び高い初期クーロン効率を兼ね備えることは困難である。
【0204】
なお、本願は上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示に過ぎず、本願の技術的解決手段の範囲内で、技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を発揮する実施形態はいずれも本願の技術的範囲に包含される。また、本願の主旨を逸脱しない範囲で、当業者が想到できる各種の修正を実施形態に追加したものや、実施形態における一部の構成要素を組み合わせて構築される他の形態も本願の範囲内に包含される。
【0205】
【0206】