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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-23
(45)【発行日】2025-01-31
(54)【発明の名称】キャンドモータポンプの軸受構造
(51)【国際特許分類】
   H02K 5/167 20060101AFI20250124BHJP
   H02K 7/08 20060101ALI20250124BHJP
   H02K 5/128 20060101ALI20250124BHJP
   F16C 17/04 20060101ALI20250124BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20250124BHJP
   F16C 35/02 20060101ALI20250124BHJP
   F04D 13/06 20060101ALI20250124BHJP
【FI】
H02K5/167 B
H02K5/167 A
H02K7/08 Z
H02K5/128
F16C17/04 Z
F16C17/02 Z
F16C35/02 C
F04D13/06 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023548154
(86)(22)【出願日】2022-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2022029410
(87)【国際公開番号】W WO2023042556
(87)【国際公開日】2023-03-23
【審査請求日】2024-02-29
(31)【優先権主張番号】P 2021150961
(32)【優先日】2021-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000176383
【氏名又は名称】三相電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003801
【氏名又は名称】KEY弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】曹 銀春
(72)【発明者】
【氏名】内海 伸昭
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-302588(JP,A)
【文献】特開昭55-93998(JP,A)
【文献】特開平7-222401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 5/167
H02K 7/08
H02K 5/128
F16C 17/04
F16C 17/02
F16C 35/02
F04D 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ部のロータと一体に回転する回転軸と、
前記回転軸と一体に回転するように前記回転軸の周囲に設けられたスリーブと、
前記スリーブを介して前記回転軸を回転自在に軸方向と垂直な方向に支持する軸受と、
前記回転軸と一体に回転するように前記回転軸の周囲に設けられ、回転自在に前記軸受によって軸方向に支持される円環状の被軸受支持部材と、
前記回転軸と一体に回転するように前記回転軸に設けられ、軸方向の片側に開口した開口部から前記被軸受支持部材が嵌め込まれた被軸受支持部材用ハウジングと、
前記回転軸と一体に回転するインペラと、
を備えるキャンドモータポンプにおいて、
前記被軸受支持部材の内径が前記スリーブの外径よりも小さく、
前記回転軸が、前記被軸受支持部材用ハウジングの開口方向と反対方向に、遊びの範囲内で最も移動したときに、前記軸受の側面よりも前記スリーブの側面が前記被軸受支持部材側に突出するように構成されている、
ことを特徴とするキャンドモータポンプの軸受構造。
【請求項2】
請求項1に記載のキャンドモータポンプの軸受構造において、
前記被軸受支持部材用ハウジングは、前記被軸受支持部材と前記回転軸との間で軸方向に延出した延出部を有し、
前記延出部の軸方向の長さが、前記被軸受支持部材の軸方向の長さよりも長い、
ことを特徴とするキャンドモータポンプの軸受構造。
【請求項3】
請求項1に記載のキャンドモータポンプの軸受構造において、
前記被軸受支持部材は、径方向に弾性変形が可能な被軸受支持部材用弾性リングを介して前記被軸受支持部材用ハウジングに嵌め込まれている、
ことを特徴とするキャンドモータポンプの軸受構造。
【請求項4】
請求項1に記載のキャンドモータポンプの軸受構造において、
前記被軸受支持部材用ハウジング内には、前記軸受によって前記被軸受支持部材が押圧された場合に前記被軸受支持部材に対して軸方向に弾性反力を付与する、被軸受支持部材用弾性構造が設けられている、
ことを特徴とするキャンドモータポンプの軸受構造。
【請求項5】
請求項4に記載のキャンドモータポンプの軸受構造において、
前記被軸受支持部材用弾性構造は、前記被軸受支持部材に対して軸方向に前記弾性反力を付与するものであって、前記被軸受支持部材用ハウジングと、前記被軸受支持部材の前記モータ部のロータ側との間に設けられた弾性体である、
ことを特徴とするキャンドモータポンプの軸受構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャンドモータポンプの軸受構造に関する。
本願は、2021年9月16日に日本国で出願された特願2021-150961号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転軸を軸方向と垂直な方向に支持する滑り軸受(以下「ラジアル方向軸受」という。)と、回転軸に固定されて上記ラジアル方向軸受に軸方向に支持される滑り軸受(以下「スラスト方向軸受」という。)とを備えたキャンドモータポンプが知られている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1に開示されているキャンドモータポンプでは、ラジアル方向軸受はモータケーシングに形成されたハウジングに嵌め込まれ、スラスト方向軸受は、回転軸に固定された部材に形成されたハウジングに嵌め込まれている。当該スラスト方向軸受の当接面がラジアル方向軸受の側面に対して軸方向に当接することにより、回転軸の軸方向への移動が制限される構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3768913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、キャンドモータポンプは、大きく温度変化する液体を圧送するために用いられる場合がある。例えば、チラーなどの温調器にキャンドモータポンプを使用する場合、キャンドモータポンプは、-50℃から150℃の範囲での温度変化を繰り返す液体を圧送することがある。
【0006】
キャンドモータポンプでは、構造上、圧送する液体の一部が軸受の周囲を通過するため、その液体が大きな温度変化を繰り返すと、スラスト方向軸受のハウジングなどが温度変化に伴う膨張収縮を繰り返す。スラスト方向軸受のハウジングが膨張収縮すると、スラスト方向軸受がハウジングの開口側へ移動することがある。
【0007】
図9に基づいてハウジングに圧入されたスラスト方向軸受が移動する原理を説明する。ここでは、常温において、スラスト方向軸受の外周部とハウジングとが締まり嵌め状態にあり、スラスト方向軸受の内周部とハウジングとが隙間嵌め状態にあることを前提として説明する。
【0008】
まずハウジング90が膨張すると、図9(a)に示すように、ハウジング90の開口部91がラッパ状に拡径する。拡径の度合いは、温度上昇が大きいほど大きく、ハウジング90の外周側の部材の肉厚が薄いほど大きくなる傾向にある。開口部91がラッパ状に拡径すると圧入されていたスラスト方向軸受92はハウジング90による圧力が弱まるため動きやすくなる。スラスト方向軸受92の内径側の面はハウジングの内径側の面との間に隙間が生じているため、この状態で回転軸95およびハウジング90とともに、スラスト方向軸受92が回転すると、図9(b)に示すようにスラスト方向軸受92は偏心してその外周部を傾斜したハウジング90に衝突させる。このとき、スラスト方向軸受92は傾斜したハウジング90から矢印で示すような軸方向に対して斜め方向の力を受けて開口部91の方に徐々に移動する。
【0009】
圧送する液体の温度が低くなると、図9(c)に示すように、ハウジング90が収縮して元の形状に戻り、スラスト方向軸受の外周部とハウジングとも締まり嵌め状態に戻る。
【0010】
その後、圧送する液体の温度変化に伴ってハウジングが膨張する度にスラスト方向軸受92がラジアル方向軸受94に接近し、遂には、スラスト方向軸受92は、図9(d)に示すように、ラジアル方向軸受94と接する位置まで移動することとなる。その結果、ラジアル方向軸受94とスラスト方向軸受92との間で必要とされる隙間が消滅する。ラジアル方向軸受94とスラスト方向軸受92との間の隙間が消滅すると、回転軸95の軸方向の遊びが無くなり、回転軸95の回転が妨げられるおそれがある。
【0011】
なお、上記した、スラスト方向軸受がハウジングの開口側へ移動する事象は、スラスト方向軸受をハウジングに圧入した場合に限定されない。例えば、スラスト方向軸受とハウジングとの間に径方向に弾性変形可能なリング、例えばトレランスリングを介装させた場合も同様に上記事象は発生し得る。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みて創案されたものであり、スラスト方向軸受が、過度にハウジングの開口側へ移動することを抑制できるキャンドモータポンプの軸受構造を提供することを目的とする。以下、ラジアル方向軸受を単に「軸受」といい、スラスト方向軸受を「被軸受支持部材」という。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1態様に係るキャンドモータポンプの軸受構造は、モータ部のロータと一体に回転する回転軸と、前記回転軸と一体に回転するように前記回転軸の周囲に設けられたスリーブと、前記スリーブを介して前記回転軸を回転自在に軸方向と垂直な方向に支持する軸受と、前記回転軸と一体に回転するように前記回転軸の周囲に設けられ、回転自在に前記軸受によって軸方向に支持される円環状の被軸受支持部材と、前記回転軸と一体に回転するように前記回転軸に設けられ、軸方向の片側に開口した開口部から前記被軸受支持部材が嵌め込まれた被軸受支持部材用ハウジングと、前記回転軸と一体に回転するインペラと、を備えるキャンドモータポンプに適用されるものである。前記被軸受支持部材の内径が前記スリーブの外径よりも小さい。このキャンドモータポンプの軸受構造は、前記回転軸が、前記被軸受支持部材用ハウジングの開口方向と反対方向に、遊びの範囲内で最も移動したときに、前記軸受の側面よりも前記スリーブの側面が前記被軸受支持部材側に突出するように構成されている。
【0014】
かかる構成を備えるキャンドモータポンプの軸受構造によれば、被軸受支持部材が、過度にハウジングの開口側へ移動することを抑制することができる。
【0015】
本発明の第2態様に係るキャンドモータポンプの軸受構造は、第1態様に係るキャンドモータポンプの軸受構造において、前記被軸受支持部材用ハウジングは、前記被軸受支持部材と前記回転軸との間で軸方向に延出した延出部を有し、前記延出部の軸方向の長さが、前記被軸受支持部材の軸方向の長さよりも長い。
【0016】
本発明の第3態様に係るキャンドモータポンプの軸受構造は、第1態様に係るキャンドモータポンプの軸受構造において、前記被軸受支持部材は、径方向に弾性変形が可能な被軸受支持部材用弾性リングを介して前記被軸受支持部材用ハウジングに嵌め込まれている。
【0017】
本発明の第4態様に係るキャンドモータポンプの軸受構造は、第1態様に係るキャンドモータポンプの軸受構造において、前記被軸受支持部材用ハウジング内には、前記被軸受支持部材が押圧された場合に前記被軸受支持部材に対して軸方向に弾性反力を付与する、被軸受支持部材用弾性構造が設けられている。
【0018】
本発明の第5態様に係るキャンドモータポンプの軸受構造は、第4態様に係るキャンドモータポンプの軸受構造において、前記被軸受支持部材用弾性構造は、前記被軸受支持部材に対して軸方向に前記弾性反力を付与するものであって、前記被軸受支持部材用ハウジングと、前記被軸受支持部材の前記モータ部のロータ側との間に設けられた弾性体である。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るキャンドモータポンプの軸受構造によれば、被軸受支持部材が、過度にハウジングの開口側へ移動することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態に係るキャンドモータポンプの全体断面図である。
図2図1のA部拡大図である。
図3図1のB部拡大図である。
図4図1のA部拡大図であって、被軸受支持部材が移動した場合を示す図である。
図5図1のB部拡大図であって、被軸受支持部材が移動した場合を示す図である。
図6】別実施形態に係るキャンドモータポンプの全体断面図である。
図7図6のA部拡大図であって、被軸受支持部材が移動した場合を示す図である。
図8図6のB部拡大図であって、被軸受支持部材が移動した場合を示す図である。
図9】従来例における課題を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態に係るキャンドモータポンプの軸受構造について、図面を参照しつつ説明する。図1に示すように、キャンドモータポンプの軸受構造1は、キャンドモータポンプ100に含まれる回転軸2、軸受3a,3b、スリーブ4a,4b、被軸受支持部材6a,6b、被軸受支持部材用ハウジング7a,7bなどで構成される。
【0022】
なお、図1の符号Aが示す領域に示す軸受構造を第1軸受構造とし、関連する部材をそれぞれ第1軸受構造側の部材とし、図1の符号Bが示す領域に示す軸受構造を第2軸受構造とし、関連する部材をそれぞれ第2軸受構造側の部材とする。
【0023】
キャンドモータポンプ100は、モータ部8と、モータ部8により駆動されるポンプ部9とを備える。モータ部8は、ロータ12と、ロータ12の外周に設けられたステータ13とを備える。ロータ12はマグネット26を有し、回転軸2に固定されている。回転軸2は、軸受用ハウジング14a,14bに取り付けられた軸受3a,3bにスリーブ4a,4bを介して支持されている。
【0024】
ポンプ部9はインペラ16とポンプケーシング18とを有する。インペラ16は回転軸2に固定され回転軸2と一体に回転する。ポンプケーシング18内には、インペラ16を収容するインペラ収容空間17が形成されている。
【0025】
モータ部8は、回転軸2と一体に回転するロータ12と、ステータ13とを有する。ロータ12は、円筒状のステータキャン19の内側に収容されている。ステータ13は、ステータキャン19の外側および円筒状のフレーム21の内側であって、ステータキャン19内のロータ12に対応する位置に配置されている。ステータキャン19と、ステータキャン19の両端に設けられたステータ側板27a,27bとは溶接にて密封接続されている。ステータ側板27a,27bとフレーム21との間はステータ側板27a,27bの端部に配設されたOリング28でシールして部分溶接にて密封接続されている。ステータ側板27a,27bとモータブラケット20a,20bとは、ステータ側板27a,27bの外側に配設されたOリング29にてステータキャン19の内側に形成された内部空間31を封止している。具体的には、モータブラケット20a,20bを複数のボルトで締結することでモータ部8全体をモータブラケット20a,20bで挟み込むことにより、内部空間31が封止されている。以下、モータブラケット20aを「第1モータブラケット20a」ともいい、モータブラケット20bを「第2モータブラケット20b」ともいう。
【0026】
ロータ12は、ロータキャン22、ロータ側板23、ロータ本体24、ヨーク11、マグネット26等を含んで構成されており、回転軸2に固定されている。ロータキャン22は、ロータ本体24およびロータ側板23にそれぞれ溶接により接合されている。また、ロータ側板23は、ロータ本体24に溶接により接合されている。これにより、ヨーク11とマグネット26とが、ロータキャン22とロータ側板23とロータ本体24とに囲まれて、密封されている。ポンプケーシング18と第2モータブラケット20bとの間は、第2モータブラケット20bの端部に配設されたOリング32にて封止され、インペラ収容空間17が封止されている。
【0027】
ステータ13は、電磁コイルなどで構成されており、ステータ13に駆動電流が供給されると、ロータ12および回転軸2が回転駆動する。
【0028】
インペラ16が収容されているポンプケーシング18の側面には、キャンドモータポンプ100の外からキャンドモータポンプ100内に液体を流入する流入口37が設けられている。またポンプケーシング18の上面には、キャンドモータポンプ100内に流入した液体を吐出する吐出口39が設けられている。なおキャンドモータポンプ100内に流入した液体の一部は、内部空間31を流れ、軸受3a,3b、スリーブ4a,4b、被軸受支持部材6a,6b、および被軸受支持部材用ハウジング7a,7bの相互間を通過する。
【0029】
軸受3a,3bは、図1図2および図3に示すように、スリーブ4a,4bを介して回転軸2を回転自在に軸方向と垂直な方向に支持する。軸受3a,3bはロータ12の軸方向両側に1つずつ設けられている。軸受3a,3bは円筒状で、軸方向端面に半径方向に延びる溝41a,41bが形成されている。また、軸受3a,3bの内周面にも螺旋状の溝42a,42bが形成されている。半径方向に延びる溝41a,41b、螺旋状の溝42a,42bのいずれにも流体が流通する。溝41a,41bは、被軸受支持部材6a,6bと軸受3a,3bとの摺動面の潤滑を促す。螺旋状の溝42a,42bは、軸受3a,3bとスリーブ4a,4bとの摺動面の潤滑を促す。
【0030】
軸受3a,3bは、モータブラケット20a,20bに設けられた軸受用ハウジング14a,14bに軸受用弾性リング46a,46bを介して嵌め込まれている。
【0031】
軸受用弾性リング46a,46bは、径方向に弾性変形が可能な円筒状のリングである。軸受3a,3bが軸受用弾性リング46a,46bを介して軸受用ハウジング14a,14bに嵌め込まれているため、軸受3a,3bの軸受用ハウジング14a,14bに対するがたつきが防止されて、軸受用ハウジング14a,14bと、軸受3a,3bとの間における熱膨張係数の差が吸収される。本実施形態では軸受用弾性リング46a,46bとしてトレランスリングが使用されている。
【0032】
回転軸2には、軸方向に、ロータ12と、被軸受支持部材用ハウジング7a,7bと、スリーブ4a,4bとが配置されている。被軸受支持部材用ハウジング7a,7bはロータ12の両端にそれぞれ1つずつ配置されている。ロータ12および被軸受支持部材用ハウジング7a,7bは、2つのスリーブ4a,4bの間に配置されている。
【0033】
図1に示すように、一方のスリーブ4aと、一方の被軸受支持部材用ハウジング7aが形成されたロータ本体24とは、回転軸2に形成された段差と、座金との間に挟持されている。すなわち、一方のスリーブ4aおよびロータ本体24は、回転軸2の一端部に螺着されたナットNが締め付けられることにより、回転軸2に対して軸回りおよび軸方向に移動しないように固定されている。他方のスリーブ4bと、他方の被軸受支持部材用ハウジング7bが形成された部材とは、更にその他の部材とともに、回転軸2に形成された段差と、座金との間に挟持されている。すなわち、他方のスリーブ4bおよび他方の被軸受支持部材用ハウジング7bが形成された部材は、回転軸2の他端部に螺着されたナットNが締め付けられることにより、回転軸2に対して軸回りおよび軸方向に移動しないように固定されている。
【0034】
スリーブ4a,4bは、回転軸2と一体に回転するように回転軸2の周囲に設けられ、外周面が軸受3a,3bの内周面に摺接するように配設された円筒状の部材である。以下、スリーブ4aを「第1スリーブ4a」ともいい、スリーブ4bを「第2スリーブ4b」ともいう。
【0035】
図2および図3に示すように、被軸受支持部材用ハウジング7a,7bは、回転軸2と一体に回転するように回転軸2に設けられており、軸方向の片側に開口した開口部43a,43bから被軸受支持部材6a,6bが嵌め込まれている。なお、被軸受支持部材6a,6bと被軸受支持部材用ハウジング7a,7bの回転軸2側の面49a,49bとの間には隙間が形成されている。
【0036】
被軸受支持部材用ハウジング7a,7bは、回転軸2から離れた方の円筒状の面48a,48bと、回転軸2に近い方の円筒状の面49a,49bと、軸方向に対して直交する面50a,50bとを含む円環状の溝を形成している。一方の開口部43aは一方の軸受3a側に形成され、他方の開口部43bは他方の軸受3b側に形成されている。
【0037】
被軸受支持部材6a,6bは、被軸受支持部材用ハウジング7a,7bを介して回転軸2の軸方向に保持されている。これにより、回転軸2は、被軸受支持部材6a,6bを介して軸受3a,3bの側面に軸方向に支持される。以下、被軸受支持部材用ハウジング7aを「第1被軸受支持部材用ハウジング7a」ともいい、被軸受支持部材用ハウジング7bを「第2被軸受支持部材用ハウジング7b」ともいう。
【0038】
被軸受支持部材6a,6bは、回転軸2と一体に回転するように回転軸2の周囲に設けられ、回転自在に軸受3a,3bによって軸方向に支持されている。被軸受支持部材6a,6bとして、円環状の部材が用いられている。被軸受支持部材6a,6bは、回転軸2に設けられた被軸受支持部材用ハウジング7a,7bに被軸受支持部材用弾性リング47a,47bを介して嵌め込まれている。以下、被軸受支持部材6aを「第1被軸受支持部材6a」ともいい、被軸受支持部材6bを「第2被軸受支持部材6b」ともいう。
【0039】
被軸受支持部材用弾性リング47a,47bは、径方向に弾性変形が可能な円筒状のリングである。被軸受支持部材6a,6bが被軸受支持部材用弾性リング47a,47bを介して被軸受支持部材用ハウジング7a,7bに嵌め込まれているため、被軸受支持部材6a,6bの被軸受支持部材用ハウジング7a,7bに対するがたつきが防止されて、被軸受支持部材用ハウジング7a,7bと、被軸受支持部材6a,6bとの間における熱膨張係数の差が吸収される。本実施形態では被軸受支持部材用弾性リング47a,47bとしてトレランスリングが使用されている。
【0040】
被軸受支持部材6a,6bは、従来例のように被軸受支持部材用ハウジング7a,7bに圧入されていても、本実施形態において説明する作用効果が得られる。また被軸受支持部材6a,6bが被軸受支持部材用弾性リング47a,47bに代えて、止めねじを介して被軸受支持部材用ハウジング7a,7bに嵌め込まれていても、本実施形態において説明する作用効果が得られる。なお、止めねじを介して被軸受支持部材用ハウジング7a,7bに嵌め込まれる場合として、被軸受支持部材用ハウジング7a,7bの遠心側の部材を貫通する雌ネジ穴を形成し、当該雌ネジ穴に止めねじを螺着し、止めねじを締め付けることで、被軸受支持部材6a,6bが被軸受支持部材用ハウジング7a,7b内に保持される場合を例示することができる。
【0041】
被軸受支持部材6a,6bの内径は、スリーブ4a,4bの外径よりも小さい。そのため被軸受支持部材用ハウジング7a,7bの内径側の面49aとスリーブ4a,4bの外周面との間にスリーブ4a,4bの端面からなる係止用段差51a,51bが形成されている。以下、係止用段差51aを「第1係止用段差51a」ともいい、係止用段差51bを「第2係止用段差51b」ともいう。
【0042】
係止用段差51a,51bによれば、図4および図5に示すように、被軸受支持部材6a,6bが被軸受支持部材用ハウジング7a,7bの開口方向に移動しても、被軸受支持部材6a,6bの内径側端部が、スリーブ4a,4bの係止用段差51a,51bに係止されるため、被軸受支持部材6a,6bが被軸受支持部材用ハウジング7a,7bから飛び出すことが防止される。
【0043】
キャンドモータポンプの軸受構造1では、回転軸2が一方の被軸受支持部材用ハウジング7aの開口方向と反対方向(つまり、図1において右方向)に遊びの範囲内で最も移動したときに、一方の軸受3aの側面よりも一方のスリーブ4aの側面が一方の被軸受支持部材6a側に突出するように構成されている。また、キャンドモータポンプの軸受構造1では、回転軸2が他方の被軸受支持部材用ハウジング7bの開口方向と反対方向(つまり、図1において左方向)に遊びの範囲内で最も移動したときに、他方の軸受3bの側面よりも他方のスリーブ4bの側面が他方の被軸受支持部材6b側に突出するように構成されている。
【0044】
本実施形態におけるキャンドモータポンプ100では、回転軸2は、運転中に流体から受ける軸方向の圧力差によって流入口37側に移動する。回転軸2が遊びの範囲内で流入口37側に最も移動した場合、第2被軸受支持部材6bは第2軸受3bに当接する。この状態において、反対側にある第1被軸受支持部材6aは、第1軸受3aから所定距離だけ離れるように設計されているが、図9に基づいて説明したように、この状態においても第1被軸受支持部材6aがハウジング7aから飛び出して第1軸受3aに接すると、回転軸2の軸方向の遊びが消滅し、回転軸2の回転が妨げられることとなる。
【0045】
そこで、運転中に第1被軸受支持部材6aが第1被軸受支持部材用ハウジング7aから飛び出すことを防止するために、図4に示すように、回転軸2が第1被軸受支持部材用ハウジング7aの開口方向と反対方向に遊びの範囲内で最も移動したときに、第1軸受3aの側面よりも第1スリーブ4aの側面が第1被軸受支持部材6a側に突出するように構成されている。すなわち、そうなるように各部材の寸法が設計されている。
【0046】
回転軸2が流入口37側に最も移動した場合に、第1軸受3aの側面よりも第1スリーブ4aの側面が第1被軸受支持部材6a側に突出するように構成されていれば、第1被軸受支持部材6aが第1軸受3aに当接する前に第1係止用段差51aに係止され、第1被軸受支持部材6aが第1被軸受支持部材用ハウジング7aから飛び出すことが防止される。
【0047】
上記説明では、第1軸受3a、第1スリーブ4a、第1被軸受支持部材6aおよび第1被軸受支持部材用ハウジング7aからなる第1側構成について説明したが、第2軸受3b、第2スリーブ4b、第2被軸受支持部材6bおよび第2被軸受支持部材用ハウジング7bからなる第2側構成についても同様である。すなわち、第1側構成と第2側構成とは、図1に示すように、軸方向に対して垂直な方向から視て、左右対称に配設されているため、図5に示すように、回転軸2が遊びの範囲で流入口37と反対側へ最も移動した場合も、第2軸受3bの側面よりも第2スリーブ4bの側面が第2被軸受支持部材6b側に突出するように構成されていれば、第2被軸受支持部材6bが第2軸受3bに当接する前に第2係止用段差51bに係止され、第2被軸受支持部材6bが第2被軸受支持部材用ハウジング7bから飛び出すことが防止される。
【0048】
キャンドモータポンプ100の運転中は、回転軸2は流入口37側へ移動するが、キャンドモータポンプ100の運転停止中は、回転軸2に対して差圧による推力が作用しないため、回転軸2は何れの軸方向にも移動しうる。この場合に第2被軸受支持部材6bが第2被軸受支持部材用ハウジング7bから飛び出て第2軸受3bと当接すると、回転軸2の軸方向における遊びがなくなるため、回転軸2の回転が妨げられるおそれがあるが、上述したように、この場合も、第2軸受3bの側面よりも第2スリーブ4bの側面が第2被軸受支持部材6b側に突出するように構成されていれば、第2被軸受支持部材6bが第2軸受3bに当接する前に第2係止用段差51bに係止される。つまり、第2被軸受支持部材6bが第2被軸受支持部材用ハウジング7bから飛び出て第2軸受3bと当接することを防止できる。
【0049】
以下、本実施形態の変形例について説明する。
【0050】
変形例に係る軸受構造は、既述した実施形態において、被軸受支持部材用弾性構造52a,52bと、軸受用弾性構造53a,53bとを加えたものである。
【0051】
被軸受支持部材用弾性構造52a,52bは、図6に示すように、被軸受支持部材6a,6bが軸受3a,3bにより軸方向に押圧された場合に、被軸受支持部材6a,6bに対して軸方向に弾性反力を付与するものであって、被軸受支持部材用ハウジング7a,7bと、被軸受支持部材6a,6bのモータ部8のロータ12側との間に設けられた弾性体である。
【0052】
軸受用弾性構造53a,53bは、軸受3a,3bが被軸受支持部材6a,6bにより軸方向に押圧された場合に、軸受3a,3bに対して軸方向に弾性反力を付与する。
【0053】
軸受用弾性構造53a,53bは、軸受3a,3bに対して軸方向に弾性反力を付与するものであって、軸受用ハウジング14a,14bと、軸受3a,3bのモータブラケット20a,20b側との間に設けられた弾性体である。
【0054】
被軸受支持部材用弾性構造52a,52bと軸受用弾性構造53a,53bとは、図中では何れも模式的に描かれているが、これらは、軸受3a,3bが被軸受支持部材6a,6bに対して軸方向に弾性反力を発生する部材であれば特定の形態に限定されない。例えば、周方向に波形を形成する環状部材(例えばウェーブワッシャの如き形状の部材)、コイルばねなどを被軸受支持部材用弾性構造52a,52bと軸受用弾性構造53a,53bとして用いることができる。
【0055】
キャンドモータポンプ100の軸受構造1においては、各部の寸法公差の影響により、軸受3a,3bの側面と被軸受支持部材6a,6bの当接面とが相対的に傾斜して互いに接触するときに面接触しない場合がある。この場合、軸受3a,3bの側面の一部や、被軸受支持部材6a,6bの当接面の一部の摩耗が進み、回転軸2の当初の軸方向の遊びや回転軸2の当初の軸方向に対する傾きが次第に増幅し、キャンドモータポンプ100の性能が低下するおそれがある。
【0056】
かかる問題を解消するために、被軸受支持部材用弾性構造52a,52bと軸受用弾性構造53a,53bとは、それぞれ第1被軸受支持部材6aと第1軸受3aとの両端、また第2被軸受支持部材6bと第2軸受3bとの両端に1つずつ配置される。被軸受支持部材用弾性構造52a,52bと軸受用弾性構造53a,53bとが設けられることにより、軸受3a,3bと被軸受支持部材6a,6bとは互いに対向する面が面接触するように、軸方向に対して微小角傾動しながら互いに当接し、適切に面接触することが可能となる。このように、被軸受支持部材用弾性構造52a,52bと軸受用弾性構造53a,53bとには、軸受3a,3bが被軸受支持部材6a,6bに片当たりすることにより生じる摩耗を防止できる機能がある。
【0057】
なお、被軸受支持部材6a,6bの端部に配置されている弾性構造を被軸受支持部材用弾性構造52a,52bとし、軸受3a,3bの端部に配置されている弾性構造を軸受用弾性構造53a,53bとする。
【0058】
本実施形態の変形例において、図7に示す係止用段差51aが無ければ、第1軸受3aと第1被軸受支持部材6aとの間に隙間が生じた場合、第1被軸受支持部材用弾性構造52aの弾性力により、第1被軸受支持部材6aは第1被軸受支持部材用ハウジング7aから押し出されるおそれがある。また、図8に示す係止用段差51bが無ければ、第2軸受3bと第2被軸受支持部材6bとの間に隙間が生じた場合、第2被軸受支持部材用弾性構造52bの弾性力により、第2被軸受支持部材6bは第2被軸受支持部材用ハウジング7bから押し出されるおそれがある。
【0059】
しかし、係止用段差51a,51bが存在することにより、たとえ被軸受支持部材6a,6bが被軸受支持部材用弾性構造52a,52bに押圧されても、被軸受支持部材6a,6bは係止用段差51a,51bに係止され被軸受支持部材用ハウジング7a,7bから飛び出すことが防止される。
【0060】
なお、被軸受支持部材用ハウジング7a,7bは、被軸受支持部材6a,6bと回転軸2との間で軸方向に延出した延出部54a,54bを有している。以下、延出部54aを「第1延出部54a」ともいい、延出部54bを「第2延出部54b」ともいう。
【0061】
第1延出部54aの軸方向の長さは、第1被軸受支持部材6aの軸方向の長さよりも長く、第2延出部54bの軸方向の長さは、第2被軸受支持部材6bの軸方向の長さよりも長い。
【0062】
係止用段差51a,51bが形成されていると、スリーブ4a,4bの外径側の端面と被軸受支持部材6a,6bの内径側の端面とが互いに接触することにより被軸受支持部材6a,6bが被軸受支持部材用ハウジング7a,7b内で固定されるおそれがある。被軸受支持部材6a,6bが被軸受支持部材用ハウジング7a,7b内で固定されると、被軸受支持部材6a,6bを押圧して微小角傾動させることにより軸受3a,3bと面接触させる被軸受支持部材用弾性構造52a,52bが機能を発揮できない。
【0063】
しかし、第1延出部54aを有することで、第1スリーブ4aと第1被軸受支持部材6aとの間に隙間が形成される。同様に第2延出部54bを有することで、第2スリーブ4bと第2被軸受支持部材6bとの間に隙間が形成される。そのため被軸受支持部材6a,6bが被軸受支持部材用ハウジング7a,7b内で固定されることが回避される。これにより被軸受支持部材用弾性構造52a,52bが機能を発揮できるようになる。
【0064】
以上に説明した本発明は、その精神や主旨または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。すなわち上記の実施形態は例にすぎない。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、例えば、キャンドモータポンプの軸受構造に適用することができる。
【符号の説明】
【0066】
100 キャンドモータポンプ
1 キャンドモータポンプの軸受構造
2 回転軸
3a,3b 軸受
4a,4b スリーブ
6a,6b 被軸受支持部材
7a,7b 被軸受支持部材用ハウジング
8 モータ部
9 ポンプ部
12 ロータ
14a,14b 軸受用ハウジング
16 インペラ
43a,43b 開口部
46a,46b 軸受用弾性リング
47a,47b 被軸受支持部材用弾性リング
52a,52b 被軸受支持部材用弾性構造
54a,54b 延出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9