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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-23
(45)【発行日】2025-01-31
(54)【発明の名称】チューブステント
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/82 20130101AFI20250124BHJP
【FI】
A61F2/82
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024114241
(22)【出願日】2024-07-17
【審査請求日】2024-09-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591004146
【氏名又は名称】平河ヒューテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 勇太郎
(72)【発明者】
【氏名】後藤 敬成
(72)【発明者】
【氏名】高江 潤
【審査官】佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-517869(JP,A)
【文献】特開平05-192389(JP,A)
【文献】特表2016-508432(JP,A)
【文献】特表2017-521204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/82
A61M 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
身体の管腔に留置される管状のチューブステントであって、
内周面によって画定された内腔をメインの排出ルートとして長手方向に沿って有する樹脂製のステント本体を備え、
前記ステント本体は、前記チューブステントが前記管腔に留置されたとき、前記身体からの体液が前記ステント本体の外周面の外側を前記長手方向に沿って流通可能となるように複数の外部流路が複数のサブの排出ルートとして全長に渡って形成されており
前記複数の外部流路は、前記ステント本体の壁厚を部分的に薄くすることで形成された複数の溝であり、
前記複数のサブの排出ルートの体積は、前記メインの排出ルートの体積と実質的に等しく、
前記ステント本体は、全長に渡って補強層を備え、
前記溝における前記ステント本体の最小厚さは、0.05mm以上、0.50mm以下であり、
前記チューブステントが前記管腔に留置されることにより、前記チューブステントが径方向に変形又は前記メインの排出ルートが閉塞して前記メインの排出ルートの断面積が減ったとき、前記複数のサブの排出ルートのうち少なくとも1つの前記サブの排出ルートが確保され得るように構成されている、
チューブステント。
【請求項2】
前記ステント本体は、内側に前記内腔を有する内層と、前記内層の外側に設けられ、前記複数の溝が外周面側に形成された外層とを備え、
前記補強層は、前記内層と前記外層との間に形成されている、
請求項に記載のチューブステント。
【請求項3】
前記補強層は、線状部材を螺旋状に巻回することにより形成されたコイル体、又は前記線状部材を編み込むことにより形成された編組体を含んで構成されている、
請求項に記載のチューブステント。
【請求項4】
前記複数の溝は、周方向に等間隔で形成された2つ以上、5つ以下の溝である、
請求項に記載のチューブステント。
【請求項5】
前記複数の溝は、前記内腔の軸方向に平行に形成されている、
請求項4に記載のチューブステント。
【請求項6】
前記複数の溝は、螺旋状に形成されている、
請求項4に記載のチューブステント。
【請求項7】
前記ステント本体の前記壁厚を部分的に薄くすることで形成された前記壁厚が厚い部分の突部に外接する円と1つの溝との間の全長に渡る体積をVs、前記内腔の全長に渡る体積をVmとしたとき、以下の関係を有する、請求項5又は6に記載のチューブステント。
NVs=kVm(ただし、Nは溝の数、kは0.8~1.2)
【請求項8】
前記溝の深さと前記内腔の内径との比は、0.025以上、0.55以下である、
請求項5又は6に記載のチューブステント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チューブステントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、身体の胆管、膵管等の管腔に形成された狭窄部を拡張し、開存状態を維持するためにステントの留置が行われている。
【0003】
ステントは、例えば、内視鏡的逆行性胆管ドレナージ(ERBD:Endoscopic retrograde biliary drainage)等の手技に用いられる。ERBDは、内視鏡を用いて十二指腸乳頭から胆管にかけてドレナージチューブを挿入し、胆汁の流出を保つ治療法であり、胆石や癌などによって胆管が塞がれた部位に樹脂製のステントや金属製のステントを挿入して、消化液である胆汁の流れを改善させる。樹脂製のステントは、金属製のステントと比べて、内腔の径が小さいため閉塞しやすいが、抜去が容易であることから、近年広く使用されている。
【0004】
樹脂製のステントとしては、例えば、特許文献1に記載されたものが知られている。特許文献1に記載されたステントは、樹脂材料で形成された胆管用チューブステントであって、当該チューブステントは、外表面の少なくとも一部に周方向に沿った螺旋状又は環状の溝を有しており、溝の深さをチューブステントの肉厚に対して1.3~5.5%(例えば、0.015mm)とし、溝のピッチを0.04mm以上、1.0mm以下とし、これにより、屈曲状態で使用してもキンクの発生を抑えることできるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2023-121577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の従来例によると、チューブステントの内腔が閉塞した場合、外表面の溝の深さが小さいために身体からの体液を溝を介して排出することは難しい。
【0007】
本発明の課題は、ステント本体の内腔が閉鎖しても身体の管腔との隙間を介して体液を排出することが可能なチューブステントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]身体の管腔に留置される管状のチューブステントであって、
内周面によって画定された内腔をメインの排出ルートとして長手方向に沿って有する樹脂製のステント本体を備え、
前記ステント本体は、前記チューブステントが前記管腔に留置されたとき、前記身体からの体液が前記ステント本体の外周面の外側を前記長手方向に沿って流通可能となるように複数の外部流路が複数のサブの排出ルートとして全長に渡って形成されており
前記複数の外部流路は、前記ステント本体の壁厚を部分的に薄くすることで形成された複数の溝であり、
前記複数のサブの排出ルートの体積は、前記メインの排出ルートの体積と実質的に等しく、
前記ステント本体は、全長に渡って補強層を備え、
前記溝における前記ステント本体の最小厚さは、0.05mm以上、0.50mm以下であり、
前記チューブステントが前記管腔に留置されることにより、前記チューブステントが径方向に変形又は前記メインの排出ルートが閉塞して前記メインの排出ルートの断面積が減ったとき、前記複数のサブの排出ルートのうち少なくとも1つの前記サブの排出ルートが確保され得るように構成されている、チューブステント。
]前記ステント本体は、内側に前記内腔を有する内層と、前記内層の外側に設けられ、前記複数の溝が外周面側に形成された外層とを備え、
前記補強層は、前記内層と前記外層との間に形成されている、前記[]に記載のチューブステント。
]前記補強層は、線状部材を螺旋状に巻回することにより形成されたコイル体、又は前記線状部材を編み込むことにより形成された編組体を含んで構成されている、前記[]に記載のチューブステント。
[4]前記複数の溝は、周方向に等間隔で形成された2つ以上、5つ以下の溝である、前記[]に記載のチューブステント。
[5]前記複数の溝は、前記内腔の軸方向に平行に形成されている、前記[4]に記載のチューブステント。
[6]前記複数の溝は、螺旋状に形成されている、前記[4]に記載のチューブステント。
]前記ステント本体の前記壁厚を部分的に薄くすることで形成された前記壁厚が厚い部分の突部に外接する円と1つの溝との間の全長に渡る体積をVs、前記内腔の全長に渡る体積をVmとしたとき、以下の関係を有する、前記[5]又は[6]に記載のチューブステント。
NVs=kVm(ただし、Nは溝の数、kは0.8~1.2)
]前記溝の深さと前記内腔の内径との比は、0.025以上、0.55以下である、前記[5]又は[6]に記載のチューブステント。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ステント本体の内腔が閉鎖しても身体の管腔との隙間を介して体液を排出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1(a)~(d)は、本発明の第1の実施の形態に係るチューブステントの正面図である。
図2図2は、図1(a)のA-A線断面図である。
図3図3(a)は、図1(a)のチューブステントを先端側から見た左側面図、図3(b)は、図3(a)の縦断面図、図3(c)は、端部の形状の変形例を示す要部縦断面図である。
図4図4は、第1の実施の形態に係るチューブステントの使用方法の一例を示す図である。
図5図5は、第1の実施の形態に係るチューブステントの使用方法の一例を示す図である。
図6図6は、本発明の第2の実施の形態に係るチューブステントの図2に対応する断面図である。
図7A図7Aは、本発明の第3の実施の形態に係るアムステルダム型のチューブステントを示し、(a)は先端側から見た左側面図、(b)は要部縦断面図である。
図7B図7Bは、本発明の第3の実施の形態に係るタネンバウム型のチューブステントを示し、(a)は先端側から見た左側面図、(b)は要部正面図である。
図8図8は、排液能力を評価するための実験模型を模式的に示す図である。
図9図9は、図8に示す実験模型を用いて行った実験結果を示す写真である。
図10図10は、図8に示す実験模型を用いて行った実験結果を示す写真である。
図11図11は、狭窄した模擬管腔にチューブステントを配置した状態の断面を示す写真である。
図12図12は、補強層の有無による耐キンク性を評価するための実験例を示す写真である。
図13図13(a)、(b)は、それぞれ溝の変形例3、4を示す要部斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、各図中、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付してその重複した説明を省略する。なお、本明細書では、身体内に挿入する側を先端側、術者が操作する手元側を基端側という。
【0012】
[第1の実施の形態]
図1(a)~(d)は、本発明の第1の実施の形態に係るチューブステントの正面図である。図2は、図1(a)のA-A線断面図である。図3(a)は、図1(a)のチューブステントを先端側から見た左側面図、図3(b)は、図3(a)の縦断面図、図3(c)は、端部の形状の変形例を示す要部縦断面図である。
【0013】
チューブステント1は、身体の管腔(胆管、膵管、尿管等)に留置されるものであり、全体として管状の形状を有する。また、チューブステント1は、内周面21によって画定された内腔20を長手方向に有する樹脂製のステント本体2を備える。内周面21の断面形状は、例えば、円形であるが、楕円等の他の形状でもよい。
【0014】
チューブステント1は、身体の管腔の留置する部位に応じた長さ(例えば、30mm、80mm、150mm等)を有する。予め複数の異なる長さのチューブステント1を準備しておき、チューブステント1を管腔に留置する際に留置する部位に応じて適切な長さのチューブステント1を選択すればよい。
【0015】
ステントには、内腔が比較的小さい樹脂製のステントと内腔が比較的大きい金属製のステントとがあり、これらは留置する管腔が同じでも、病状等に応じて使い分けられている。市販されている樹脂製のステントには、例えば、外径のサイズが7Fr(2.33mm)~12Fr(4.00mm)のものがある。ステントを管腔(例えば、胆管)に留置した場合、ステントの内腔が一定の期間(樹脂製のステントの場合、長くても5ヵ月程度)で閉塞してしまう。これは、十二指腸を流れる食物繊維や腸内細菌がステントに逆流し、ステントの内腔に細菌性固形物が生成・堆積してステントの内腔が閉塞するためと考えられている。ステントの内腔(メインの排出ルート)が閉塞してもサブの排出ルートがあれば、ステントの留置期間が長くなることが期待できる。そこで、本実施の形態は、チューブステント1の外周面22と身体の管腔の内壁との間にサブの排出ルートを形成したものである。
【0016】
本実施の形態のステント本体2は、チューブステント1が身体の管腔に留置されたとき、身体からの体液がステント本体2の外周面22の外側を長手方向に沿って流通可能となるように溝23が外周面22の外側に全長に渡って形成されている。溝23は、例えば、ステント本体2の壁厚を部分的に薄くすることで形成されている。チューブステント1が身体の管腔に留置されたとき、溝23と身体の管腔の内壁との間の空間がサブの排出ルートとなる。溝23は、外部流路の一例である。
【0017】
具体的には、ステント本体2は、図2に示すように、外周面22に複数(例えば、4つ)の溝23を周方向に等間隔で形成することで、溝23間に複数(例えば、4つ)の突部24を形成している。複数の突部24は、例えば、直径D1の円(外接円)22aが外接する。4つの溝23は、例えば、直径D2の円(内接円)22bが内接する。溝23の深さhは、h=(D1-D2)/2で定義することができる。突部24は、ステント本体2の壁厚を部分的に薄くすることで形成された壁厚が厚い部分である。外周面22に複数の突部24を形成することで、チューブステント1を曲がった管腔に留置した場合にキンクが発生しにくい曲げ剛性(耐キンク性)を高めることができる。なお、溝23及び突部24の数は、4つに限定されず、1つ、2つ、3つ又は5つ以上でもよい。特に2~5つの溝23及び突部24を周方向に等間隔で形成することにより、四方のうち一方からの腫瘍等の浸潤による圧縮により、いくつかのサブの排出ルートが確保できなくなっても、少なくとも1つのサブの排出ルートを確保することが可能となる。
【0018】
内腔20の直径dは、例えば、0.80mm以上、2.00mm以下でもよい。溝23の肉厚tは、例えば、0.05mm以上、0.50mm以下でもよい。溝23の深さhは、例えば、0.30mm以上、0.60mm以下でもよい。外周面22の最大外径(直径D1)は、例えば、1.50mm以上、3.20mm以下でもよい。
【0019】
ステント本体2の外形は、チューブステント1を身体の管腔に愛護的に留置できるように、例えば、図2に示すように、外接円22aが4つの突部24の外周面22全体に外接する外形、すなわち同心円状の管状部材の外側に溝23を形成した形状を有している。また、突部24の外周面22と溝23の外周面22とが交わる角24aは、図2に示すように、丸く形成されている。また、突部24と先端面2a及び基端面2bとの角24bは、図3(b)に示すように、丸く形成されている。なお、突部24の外周面22と先端面2aとの角24cは、図3(c)に示すように、テーパ状に形成されていてもよい。また、突部24の外周面22と基端面2bとの角は、先端面2a側と同様にテーパ状に形成されていてもよく、図2に示す角24bのように丸く形成されていてもよい。
【0020】
(溝及び突部の構成)
複数の溝23及び突部24は、図1(a)に示すように、内腔20の軸方向に平行に形成されていてもよく、図1(b)~(d)に示すように、螺旋状に形成されていてもよい。図1(b)は、溝23の螺旋ピッチpを45mm、図1(c)は、螺旋ピッチpを11.5mm、図1(d)は、螺旋ピッチpを4.5mmとしたものである。複数の溝23及び突部24は、内腔20の軸方向に平行に形成されたものよりも、螺旋状に形成し、かつ、螺旋ピッチが小さい方が溝23による外部流路25が狭窄部によって閉塞され難い傾向にある。また、溝23を螺旋状に形成することより、サブの排液ルートの体積を増やすことができ、排液し易くなるという効果がある。すなわち、溝23の螺旋ピッチpは、50mm以下が好ましく、10mm以下又は5mm以下がより好ましい。また、製造容易の観点から、溝23の螺旋ピッチpは、2mm以上が好ましく、4.5mm以上がより好ましい。
【0021】
溝23の断面形状は、図2に示すように、半径0.2~0.4mm程度の半円状としているが、楕円状、U字状等の他の形状でもよい。メインの排出ルートが閉塞した場合に、サブの排出ルートがメインの排出ルートの代わりとなるとの観点から、1つのサブの排出ルートの体積、すなわち突部24に外接する外接円22aと1つの溝23との間の全長に渡る体積をVs、メインの排出ルートの体積、すなわち内腔20の全長に渡る体積をVmとしたとき、以下の関係式(1)を満たすようにしてもよい。
NVs=kVm(ただし、Nは溝23の数、k=0.8~1.2)・・・(1)
なお、サブの排出ルートの体積Vsは、外接円22aと溝23との間の断面積Asと溝23の全長Loutとの積で求まる。
【0022】
チューブステント1を曲がった管腔に留置した場合や腫瘍等の浸潤により、いくつかのサブの排出ルートが確保できなくなった場合において、少なくとも1つのサブの排出ルートを確保する観点から、溝23の深さhは内腔20の直径dに対して相対的にある大きさを有するのが好ましい。内腔20の直径dに対する溝23の相対的な大きさは、溝23の深さh(=D1-D2)/2と内腔20の直径dとの比(h/d)で求めることができる。当該比(h/d)は、例えば、0.025以上、0.55以下が好ましい。
【0023】
(ステント本体の形成材料)
ステント本体2の形成材料としては、例えば、径方向に拡大及び収縮可能な拡縮性、侵入経路に沿って曲がりやすい柔軟性等の弾性を有する樹脂材料(例えば、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエチレン、シリコーンゴム、フッ素樹脂等)を用いることができる。なお、ステント本体2の形成材料は、熱可塑性樹脂でも熱硬化性樹脂でもよい。また、ステント本体2は、内周面21及び外周面22の少なくとも表面が体液が付着しても当該体液が固着し難い材料(例えば、MPC、PMMA等の生体親和性の高いコーティング材等)によりコーティングされているのが好ましい。なお、体液は主に内腔20を流れるため、内周面21の表面のみを当該体液が固着し難い材料によりコーティングしてもよい。また、ステント本体2の外周面22に親水性コーティングを施してもよい。これにより、チューブステント1の表面の摩擦係数が下がり、身体の管腔への挿入がしやすくなり、蛋白や結晶成分の付着を予防する効果が期待できる。
【0024】
また、チューブステント1の先端の位置をX線撮影下で確認が容易となるように、ステント本体2の形成材料に造影剤(硫酸バリウム、酸化ビスマス、タングステン等)を混練してステント本体2を形成してもよい。また、ステント本体2の先端側にX線造影性を有する金属(例えば、金、タンタル、プラチナ-イリジウム合金、タングステン等)からなるマーカを設けてもよい。なお、マーカは基端側に設けてもよく、フラップ又はピッグテイルを備えたチューブステントの場合、フラップ又はピッグテイルよりも中央寄りに設けてもよい。
【0025】
(使用方法)
本実施の形態のチューブステント1の使用方法の一例を図4及び図5を参照して説明する。図4は、内視鏡的逆行性胆管ドレナージ(ERBD)によりチューブステント1を胆管に挿入している途中を示す図、図5は、チューブステント1を胆管の狭窄部に留置した状態を示す図である。
【0026】
まず、術者等の使用者は、内視鏡挿入部100を患者の口等から体腔内に挿入し、図4に示すように、内視鏡挿入部100の先端部101を、十二指腸200を通して十二指腸乳頭201付近まで進入させる。
【0027】
次に、使用者は、内視鏡のチャンネルにガイドワイヤ110を挿入し、ガイドワイヤ110の先端を先端部101の開口101aから十二指腸乳頭201に向けて突出させる。そして、ガイドワイヤ110の先端を十二指腸乳頭201から胆管202内に挿入させる。ここで、胆管202は、身体の管腔の一例である。
【0028】
次に、使用者は、X線透視下において、十二指腸乳頭201と胆管202の狭窄部202aの形状を確認し、好適な長さのチューブステント1を選択する。すなわち、十二指腸乳頭201から胆管202の狭窄部202aを越える位置までの長さを有するチューブステント1を選択する。
【0029】
次に、使用者は、選択したチューブステント1を外側に装着したステントデリバリーカテーテル(図示省略)を、内視鏡のチャネルに挿入し、ガイドワイヤ110に沿って進行させる。そして、ステントデリバリーカテーテルの先端を十二指腸乳頭201から胆管202内に挿入し、図4に示すように、チューブステント1を胆管202内に進入させる。
【0030】
次に、図5に示すように、チューブステント1の先端が胆管202の狭窄部202aを超える位置まで達すると、そこにチューブステント1を留置する。チューブステント1は、自己が有する拡縮性により径方向に拡大し、狭窄部202aを径方向に広げる。これにより体液の流路を確保することができる。
【0031】
以上、手技として内視鏡的逆行性胆管ドレナージ(ERBD)について説明したが、本発明は、内視鏡的膵管用ステント留置術(EPS:Endoscopic pancreatic stenting)等の他のドレナージに適用してもよい。
【0032】
また、本発明は、胆管に限らず、膵管や尿管等の他の管腔にも適用可能である。ここで、膵管及び尿管は、身体の管腔の一例である。例えば、本発明は、腎臓から膀胱への尿の輸送を助ける管状の医療用チューブとしての尿管用ステントに適用してもよい。尿管用ステントの使用目的としては、例えば、次のものが考えられる。
・腎臓結石を砕いた後の破片による尿管の閉塞を防ぐため。
・腎臓結石除去後の術後の尿管の腫れを防ぐため。
・血栓、瘢痕組織、尿管結石、炎症性腸疾患による尿管閉塞の治療のため。
【0033】
(第1の実施の形態の効果)
本実施の形態によれば、以下の効果を奏する。
(a)既存の樹脂製のステントと同様の内腔20をメインの排出ルートとしたことに加え、溝23に沿った補助的なサブの排出ルートを設けていることから、内腔20が閉塞してもサブの排出ルートを介して体液を排出することが期待できる。
(b)チューブステント1に対して腫瘍等の排圧や臓器の萎縮等により管腔走行が変化し、チューブステント1が径方向に変形した場合、突部24間に溝23を有することで、身体の管腔の内壁と溝23との間に隙間が残りやすい。
(c)チューブステント1は、先端側近傍及び基端側近傍の一方又は両方にステント本体2の壁を貫通する複数のサイドホールを形成してもよい。これにより、サイドホールを介して体液が流出入でき、ドレナージ効果の向上が期待できる。
(d)ステント本体2の外周面22側を溝構造とすることで、胆汁等の体液を排出するサブの排出ルートを複数確保できることから、留置期間が長くなることが期待できる。
(e)溝23を螺旋状とすることにより、サブの排液ルートの体積を増やすことができることから、単位時間当たりの排液量を増やすことが可能となり、更に留置期間が長くなることが期待できる。
(f)チューブステント1自体が屈曲等の変形をした場合に、溝23よりも突部24の方が歪むため、腫瘍等の浸潤に対しても溝23と管腔との隙間が維持しやすくなり、単位時間当たりの排液量を維持しやすくなる。
(g)突部24間にサブの排出ルートを設けることで、溝23が管腔やステントデリバリーカテーテルと非接触状態でチューブステント1を留置できることから、チューブステント1の留置時や交換時に破損し難くなり、丈夫なチューブステント1を提供できる。
(h)螺旋方向が異なる複数のチューブステント1を同時に留置してもよい。それを可能とするために、螺旋方向が異なる複数のチューブステント1をセットで提供してもよく、螺旋方向が異なる複数のチューブステント1と、ステントデリバリーカテーテル等の医療機器とをセットで提供してもよい。また、螺旋方向が同一の複数のチューブステント1をセットで提供してもよく、螺旋方向が同一の複数の又は1つのチューブステント1と、ステントデリバリーカテーテル等の医療機器とをセットで提供してもよい。
【0034】
[第2の実施の形態]
図6は、本発明の第2の実施の形態に係るチューブステントの図2に対応する断面図である。本実施の形態は、第1の実施の形態に対して補強層を付加したものである。以下、本実施の形態について、第1の実施の形態と異なる点を中心に説明する。
【0035】
本実施の形態のステント本体2は、内周面21を有する内層2Aと、内層2Aの外側に設けられて外周面22を有する外層2Bと、内層2Aの外側に全長に渡って形成された補強層3とを備え、全体として管状に形成されている。外層2Bは、第1の実施の形態と同様に、外周面22の外側に複数の溝23を形成することで、溝23間に複数(例えば、4つ)の突部24を形成している。複数の溝23及び突部24は、第1の実施の形態と同様に、内腔20の軸方向に平行に形成されていてもよく、螺旋状に形成されていてもよい。
【0036】
補強層3は、例えば、線状部材を螺旋状に巻回することにより形成されたコイル体、又は線状部材を編み込むことにより形成された編組体を含んで構成されている。なお、補強層3は、コイル体と編組体を層状に組み合わせて構成されていてもよい。線状部材としては、例えば、金属(例えば、ステンレス鋼、タングステン鋼、チタンニッケル合金(Ti-Ni)等)からなる素線、又は非金属(例えば、ナイロンモノフィラメント、ポリエチレンテレフタレート(PET)モノフィラメント、ポリエステルモノフィラメント、ポリアリレート系繊維等)からなる素線を用いることができる。
【0037】
内層2A及び外層2Bは、同一の樹脂材料から形成されてもよく、異なる樹脂材料から形成されてもよい。内層2A及び外層2Bの形成材料として、例えば、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエチレン、シリコーンゴム、フッ素樹脂等を用いることができる。
【0038】
内腔20の直径d、溝23の肉厚t、溝23の深さhは、第1の実施の形態と同様でもよい。この場合、外層2Bの内径は、例えば、0.90mm以上、2.00mm以下でもよい。溝23の肉厚(外層2Bの肉厚)は、例えば0.05mm以上、0.25mm以下でもよい。また、第1の実施の形態のステント本体2を外層2Bとして利用し、これに内層2A及び補強層3を付加してもよい。
【0039】
(第2の実施の形態の効果)
第2の実施の形態に係るチューブステント1によれば、第1の実施の形態と同様の効果を奏するとともに、耐キンク性が向上する。
【0040】
[第3の実施の形態]
図7Aは、本発明の第3の実施の形態に係るアムステルダム型のチューブステントを示し、(a)は先端側から見た左側面図、(b)は要部縦断面図である。図7Bは、本発明の第3の実施の形態に係るタネンバウム型のチューブステントを示し、(a)は先端側から見た左側面図、(b)は要部正面図である。本実施の形態は、図1(a)に示す第1の実施の形態において、先端側及び基端側にそれぞれ1つのフラップ26を設けたものである。図7Aに示す場合、フラップ26は、突部24を切り起こすことで形成される。図7A(b)の24dは、フラップ26を切り起こした後の凹部である。フラップ26は先端側及び基端側にそれぞれ2つ、3つ又は4つ設けてもよい。また、フラップ26は、先端側及び基端側のうち一方にのみを設けてもよい。
【0041】
第3の実施の形態によれば、チューブステント1を身体の管腔に留置したとき、フラップ26によりチューブステント1の管腔からの脱落を抑制できる。図7Aに示す場合、突部24は、他の箇所よりも肉厚が厚いため、突部24を切り起こすことで、フラップ26を容易に形成することができる。なお、フラップ26は、図7Bに示すように、フラップ26を有するフラップ装着部材27をステント本体2の端部の突部24に装着して接着等により固定してもよい。
【実施例
【0042】
表1は、実施例1乃至7及び比較例の構造を示す。実施例1a、2a、3a、4a、5aは、図1(a)に示す第1の実施の形態に対応する。実施例1b、2b、3b、4b、7bは、図1(d)に示す第1の実施の形態に対応する。実施例5a、5b、6bは、第2の実施の形態に対応する。
【0043】
実施例1乃至7の外径D1は、4つの突部24に外接する円(外接円)22aの直径を示す。実施例1乃至7の外径D2は、4つの溝23に内接する円(内接円)22bの直径を示す。実施例1乃至4、及び実施例7bの内腔20の直径dは、内周面21の内径に等しい。実施例5及び6の直径dは、内層2Aの内径を示す。比較例は、溝及び突部のない内周面及び外周面を有する管状を有し、比較例の外径D1は、外周面の直径である。
【0044】
補強層3は、PETモノフィラメントによる編組体とした。表1において、補強層3を有する構造を「○」、補強層3を有していない構造を「×」で示す。また、表1において、溝23の螺旋構造を有する場合を螺旋ピッチで表し、溝23の螺旋構造を有していない場合を「×」で示す。
【0045】
内腔20の直径dに対する溝23の深さh(=h/d)は、それが大きい程直径dに対して溝23の深さhが大きいことを意味し、チューブステント1を曲がった管腔に留置した場合に、少なくとも1つのサブの排出ルートが潰れずに確保される性質を示している。
【0046】
【表1】
【0047】
(排液能力の評価)
図8は、排液能力を評価するための実験模型を模式的に示す図である。胆管を模した模擬管腔300を縦に配置し、実験対象のステントを模擬管腔300の下端から15mm程度露出するように模擬管腔300の内部に配置した。そして、胆汁を模した模擬胆汁310を模擬管腔300の上方から注ぎ入れた。胆汁は、非ニュートン流体であるが、模擬胆汁310として、ニュートン流体の黄色に着色したグリセリン水溶液(50%)を用いた。
【0048】
内腔20を開存したときの排液能力の実験結果を表2に示し、内腔20を閉塞したときの排液能力の実験結果を表3に示す。
【0049】
図9は、図8に示す実験模型を用いて行った実験結果を示す写真である。具体的には、図9は、図8に示す実験模型に上方から模擬胆汁310を注ぎ入れた後のチューブステントの外周面に付着していた模擬胆汁310を示す写真である。図9(a)は、実施例6b、図9(b)は、実施例7b、図9(c)は、比較例をそれぞれ実験対象のチューブステントとした。
【0050】
図9に示すように、比較例のチューブステントの外周面には、模擬胆汁310は付着しておらず、実施例6b及び実施例7bのチューブステント1の外周面22には、模擬胆汁310が付着していた。すなわち、比較例のステントの外周面の外側に模擬胆汁310が流れておらず、サブの排出ルートは存在していないことが分かる。一方、実施例6b及び実施例7bのチューブステント1は、外周面22に模擬胆汁310が付着しており、サブの排出ルートが機能していることが分かった。
【0051】
図10は、図8に示す実験模型を用いて行った実験結果を示す写真である。具体的には、図10は、図8に示す実験模型に対してチューブステントの内腔の上端近位部を閉塞させた状態で模擬胆汁310を上方から注ぎ入れた後のチューブステントの外周面に付着していた模擬胆汁310を示す写真である。
【0052】
図10に示すように、比較例のチューブステントの外周面には、模擬胆汁310は付着しておらず、実施例6b及び実施例7bのチューブステント1の外周面22には、模擬胆汁310が付着していた。すなわち、比較例のチューブステントの外周面の外側に模擬胆汁310が流れておらず、サブの排出ルートは存在していないことが分かる。一方、実施例6b及び実施例7bのチューブステント1は、外周面22に模擬胆汁310が付着しており、サブの排出ルートが機能していることが分かった。
【0053】
図9に示す実験結果を表2に示し、図10に示す実験結果を表3に示す。表2、表3において、排液ルートの「内腔」はメインの排液ルートを示し、「外部流路」はサブの排液ルートを示す。排液ルートとして存在していない場合を「×」、排液ルートとしてあまり機能していなかった場合を「△」、排液ルートとして十分機能していた場合を「○」で示す。
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
表2、表3から分かるように、チューブステントの内腔が開存している場合、内腔の排出ルートについては、全ての実施例及び比較例は機能している。外部流路の排出ルートについては、比較例はまったく機能しておらず、溝23が螺旋状に形成されていない実施例1aは、十分機能していなかったが、他の実施例1b、2a、2b、3a、3b、4a、4b、5a、5bは、十分機能していた。
【0057】
図11(a)、(b)、(c)は、狭窄した模擬管腔300に実施例1bのチューブステントを配置した状態の断面を示す写真である。図11(a)は、模擬管腔300を12時方向から圧縮することで、12時方向からの腫瘍等の浸潤により、12時方向の突部24’とその両側の溝23とが区別がつかなくなっている場合を示す。この場合、6時方向の突部24の両側の溝23と模擬管腔300との間の空間が潰れていないため、その空間が外部流路25として確保されている。図11(b)は、模擬管腔300を6時方向と9時方向から圧縮することで、6時方向と9時方向からの腫瘍等の浸潤により、6時方向の突部24’と9時方向の突部24’とそれらの間の溝23とが区別がつかなくなり、内腔20がほとんど閉塞している場合を示す。この場合、12時方向の突部24の右側の溝23と模擬管腔300との間の空間が潰れていないため、その空間が外部流路25として確保されている。図11(c)は、模擬管腔300を6時方向から圧縮することで、6時方向からの腫瘍等の浸潤及びチューブステント1の屈曲により、6時方向の突部24’とその両側の溝23とが区別がつかなくなっている場合を示す。この場合、10時方向の突部24の右側の溝23と模擬管腔300との間の空間が潰れていないため、その空間が外部流路25として確保されている。
【0058】
(耐キンク性)
図12は、補強層の有無による耐キンク性を評価するための実験例を示す写真である。チューブステントを肝内胆管(後区域)に留置する場合、図12に示すような半径20mm、180°の湾曲が想定される。この場合、補強層を有していない実施例1bは、比較例(市販の樹脂製のステント)よりも肉厚が薄いため、キンク性が劣り、キンク(○印の箇所)が発生している。一方、補強層3を有する実施例5bは、キンク(○印の箇所)が発生しなかった。すなわち、ステント本体2の内周面21側に補強層3を追加し、キンクに対し剛性を向上させ、既存の樹脂製のステントと同様の屈曲に対する剛性を有することで、強い屈曲に対してもメインの排液ルート及び複数のサブの排液ルートの確保が可能となる。
【0059】
(変形例1)
第1の実施の形態及び第2の実施の形態では、溝23を外周面22側に形成したが、内周面21にも形成してもよい。これによりメインの排出ルートの内腔を保持するという効果が得られる。
【0060】
(変形例2)
チューブステント1の形状としては、片側の端部をピッグテイル型としてもよく、両側の端部をピグテイル型としてもよい。また、チューブステント1の形状は、S字状に湾曲したS型でもよく、先端側がJ字状に湾曲してもよい。第1乃至第3の実施の形態において、チューブステント1がサイドホールを備えていてもよい。
【0061】
(変形例3、4)
図13(a)、(b)は、それぞれ溝の変形例3、4を示す要部斜視図である。第1乃至第3の実施の形態では、溝23をステント本体2の壁厚を部分的に薄くすることで形成したが、変形例3は、図13(a)に示すように、金属製又は樹脂製の線状部材4a、4bを編み込むことでサブの排出ルートを形成したものである。変形例4は、図13(b)に示すように、金属製又は樹脂製の線状部材4cをコイル状にステント本体2の外周面22に巻回したものである。変形例3、4によっても外周面22の外側に外部流路を形成することが可能となる。
【0062】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の実施の形態は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形、実施が可能である。
【符号の説明】
【0063】
1…チューブステント、2…ステント本体、2A…内層、2B…外層、2a…先端面、2b…基端面、3…補強層、4a、4b、4c…線状部材、20…内腔、21…内周面、22…外周面、22a…外接円、22b…内接円、23…溝、24、24’…突部、24a~24c…角、24d…凹部、25…外部流路、26…フラップ、27…フラップ装着部材、100…内視鏡挿入部、101…先端部、101a…開口、110…ガイドワイヤ、200…十二指腸、201…十二指腸乳頭、202…胆管、202a…狭窄部、300…模擬管腔、310…模擬胆汁、D1、D2…外径、d…内径、h…溝の深さ、p…螺旋ピッチ、t…溝の厚さ、X…長手方向
【要約】
【課題】ステント本体の内腔が閉鎖しても身体の管腔との隙間を介して体液を排出することが可能なチューブステントを提供する。
【解決手段】チューブステント1は、身体の管腔に留置される管状のステントであって、内周面21によって画定された内腔20を長手方向に沿って有する樹脂製のステント本体2を備え、ステント本体2は、チューブステント1が管腔に留置されたとき、身体からの体液がステント本体2の外周面22の外側を長手方向に沿って流通可能となるように溝23(外部流路)が全長に渡って形成されている。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13