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特許7625135交流回転機の制御装置および電動パワーステアリング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-23
(45)【発行日】2025-01-31
(54)【発明の名称】交流回転機の制御装置および電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/22 20160101AFI20250124BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20250124BHJP
【FI】
H02P21/22
H02P27/08
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2024507286
(86)(22)【出願日】2022-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2022011851
(87)【国際公開番号】W WO2023175760
(87)【国際公開日】2023-09-21
【審査請求日】2024-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】324003048
【氏名又は名称】三菱電機モビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【弁理士】
【氏名又は名称】成田 友紀
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【弁理士】
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】森 辰也
(72)【発明者】
【氏名】石川 光亮
(72)【発明者】
【氏名】藤本 千明
(72)【発明者】
【氏名】中家 寛貴
(72)【発明者】
【氏名】澤田 健太
(72)【発明者】
【氏名】原田 信吾
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-093889(JP,A)
【文献】特開2007-274863(JP,A)
【文献】特開平11-098900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/22
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流回転機の制御装置であって、
前記交流回転機に電圧を印加するインバータと、
前記交流回転機を流れる回転機電流を検出する電流検出器と、
前記交流回転機の回転二軸における第1軸の電圧指令値を演算する第1軸電圧指令値演算器と、
前記回転二軸における第2軸の電圧指令値を演算する第2軸電圧指令値演算器と、を備え、
前記第1軸電圧指令値演算器は、前記第1軸における電流指令値と、前記回転機電流の前記第1軸における検出電流値と、の偏差である第1偏差、および、前記第2軸における電流指令値と、前記回転機電流の前記第2軸における検出電流値と、の偏差である第2偏差を用いて、積分演算を行い、前記積分演算の結果に基づいて前記第1軸の電圧指令値を演算し、
前記第1軸電圧指令値演算器は、前記第2偏差に対し、前記交流回転機の回転角速度と、前記第2軸におけるインダクタンスと、前記電流指令値に対する前記回転機電流の周波数応答を調整するための応答角周波数と、を乗算した値を用いて、前記積分演算を実行する、交流回転機の制御装置。
【請求項2】
前記第1軸電圧指令値演算器は、前記第2偏差の低周波成分を低減させた結果を用いて前記積分演算を実行する、請求項1に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項3】
前記第1軸電圧指令値演算器は、前記第1偏差に対して比例ゲインを乗算した値を用いて前記第1軸の前記電圧指令値を演算し、
前記比例ゲインは、第1比例値と、前記第1比例値よりも小さい第2比例値と、の間で切り替えられ、
前記電圧指令値に基づいて算出される電圧振幅が電圧第一閾値以上である場合、あるいは、前記交流回転機の回転数が回転数第一閾値以上である場合、あるいは、前記交流回転機の回転角速度が回転角速度第一閾値以上である場合に、前記比例ゲインが前記第2比例値に設定される、請求項1または2に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項4】
前記第1軸電圧指令値演算器は、前記第2偏差に対して制限ゲインを乗算した値を用いて前記積分演算を実行し、
前記制限ゲインは、第1制限値と、前記第1制限値よりも小さい第2制限値と、の間で切り替えられ、
前記電圧振幅が前記電圧第一閾値よりも小さい電圧第二閾値以下である場合、あるいは、前記交流回転機の回転数が前記回転数第一閾値よりも小さい回転数第二閾値以下である場合、あるいは、前記交流回転機の回転角速度が回転角速度第一閾値よりも小さい回転角速度第二閾値以下である場合に、前記制限ゲインが前記第2制限値に設定される、請求項に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項5】
前記インバータは、3つの相にそれぞれ対応する、3組の上アームスイッチング素子、下アームスイッチング素子、およびシャント抵抗を備え、
前記電流検出器は、前記電圧振幅が前記電圧第一閾値よりも小さいとき、前記3つの相における前記回転機電流をそれぞれの対応する前記シャント抵抗の両端電圧に基づいて検出する、請求項3または4に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項6】
前記第1軸電圧指令値演算器は、前記回転機電流が閾値を超えた場合に、前記比例ゲインを前記第1比例値に設定する、請求項3から5のいずれか1項に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項7】
前記第1軸電圧指令値演算器は、前記交流回転機の制御装置において、少なくとも1か所に故障が生じた場合に、前記比例ゲインを前記第1比例値に設定する、請求項3から6のいずれか1項に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項8】
請求項1からのいずれか1項に記載の交流回転機の制御装置と、
前記交流回転機と、
前記交流回転機の駆動力を車両の操舵系に伝達する駆動力伝達機構と、を備える、電動パワーステアリング装置。
【請求項9】
前記第1軸電圧指令値演算器は、前記第1偏差に対して比例ゲインを乗算した値を用いて前記第1軸の前記電圧指令値を演算し、
前記比例ゲインは、第1速度参照値と、前記第1速度参照値よりも小さい第2速度参照値と、の間で切り替えられ、
前記第1軸電圧指令値演算器は、車両の走行速度が閾値よりも小さい場合に、前記比例ゲインを前記第1速度参照値よりも小さい値に設定する、請求項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項10】
前記第1軸電圧指令値演算器は、前記電流指令値が閾値以下の場合、あるいは、操舵トルクが閾値以下の場合、あるいは、操舵トルクとトルク電流指令値との関係を表すグラフにおける勾配が閾値より小さい場合、あるいは、操舵トルクの単位時間あたりの変化量が閾値より小さい場合に、前記比例ゲインを前記第1速度参照値よりも小さい値に設定する、請求項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項11】
前記第1軸電圧指令値演算器は、カットオフ周波数が前記電動パワーステアリング装置の操舵周波数の上限値より高い低域通過フィルタに、前記交流回転機の回転角速度を通した結果を用いて前記積分演算を実行する、請求項8から10のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、交流回転機の制御装置および電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、交流回転機のベクトル制御において、回転二軸(例えばd軸、q軸)における干渉項を補償する制御装置が開示されている。この制御装置は、電流PI制御器および非干渉誤差補正器を含んでいる。電流PI制御器は、比例・積分制御を行うため、d軸およびq軸にそれぞれ対応した、2つの積分器を備えている。同様に、非干渉誤差補正器も、d軸およびq軸にそれぞれ対応した2つの積分器を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-119245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような制御装置においては、積分器におけるワインドアップが原因となり、制御の精度が低下する現象(いわゆるオーバーシュート等)が生じ得る。積分器のワインドアップを抑制する方法としては、積分項を適切な値に制限する等の、アンチワインドアップを行うことが有効である。
ここで、特許文献1の構成では、例えばd軸の電圧指令値を演算するにあたり、電流PI制御器における積分器での演算結果と、非干渉誤差補正器における積分器での演算結果と、を用いる。このように、1つの制御対象値(例えばd軸の電圧指令値)に対して2つの積分器での演算結果を用いる場合、アンチワインドアップを適切に行うことが難しい。その結果として、制御が不安定になるという課題がある。
【0005】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、より安定した制御を行うことが可能な交流回転機の制御装置および電動パワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る交流回転機の制御装置は、前記交流回転機に電圧を印加するインバータと、前記交流回転機を流れる回転機電流を検出する電流検出器と、前記交流回転機の回転二軸における第1軸の電圧指令値を演算する第1軸電圧指令値演算器と、前記回転二軸における第2軸の電圧指令値を演算する第2軸電圧指令値演算器と、を備え、前記第1軸電圧指令値演算器は、前記第1軸における電流指令値と、前記回転機電流の前記第1軸における検出電流値と、の偏差である第1偏差、および、前記第2軸における電流指令値と、前記回転機電流の前記第2軸における検出電流値と、の偏差である第2偏差を用いて、積分演算を行い、前記積分演算の結果に基づいて前記第1軸の電圧指令値を演算する。
【0007】
また、本開示の一態様に係る電動パワーステアリング装置は、上記交流回転機の制御装置と、前記交流回転機と、前記交流回転機の駆動力を操舵系に伝達する駆動力伝達機構と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、より安定した制御を行うことが可能な交流回転機の制御装置および電動パワーステアリング装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る回転機の制御装置の概略構成を示すブロック図である。
図2】実施の形態1におけるスイッチング信号の生成原理を説明するための図である。
図3図1のd軸電圧指令値演算器の構成を示すブロック図である。
図4図1のq軸電圧指令値演算器の構成を示すブロック図である。
図5図1の修正電圧生成器で行われる処理の一例を示すフローチャートである。
図6】実施の形態1において、電圧指令値及び修正電圧指令値の波形の一例を示す図である。
図7】実施の形態1に係る制御装置において、回転角速度が高い場合の、q軸電流指令値からq軸検出電流値までの伝達特性を示すボード線図である。
図8】実施の形態2に係る回転機の制御装置の概略構成を示すブロック図である。
図9】実施の形態2に係るd軸電圧指令値演算器の構成を示すブロック図である。
図10】実施の形態2に係るq軸電圧指令値演算器の構成を示すブロック図である。
図11】実施の形態2において、比例ゲイン、制限ゲイン、および電圧振幅の関係を示す図である。
図12】実施の形態2において、シャント抵抗の両端電圧の波形の一例を示すグラフである。
図13】実施の形態2において、一部の修正電圧指令の値が上限値よりも大きい場合を示す図である。
図14】実施の形態3に係る電動パワーステアリング装置の概略構成を示すブロック図である。
図15】実施の形態3において、操舵トルクとq軸電流指令値と車速との関係を示すグラフである。
図16】実施の形態3において、車速と比例ゲインとの関係を示す図である。
図17】実施の形態4に係る電動パワーステアリング装置の概略構成を示すブロック図である。
図18】実施の形態4において、操舵トルクの変化量と制限ゲインとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本開示に係る回転機の制御装置及び電動パワーステアリング装置について詳細に説明する。
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る回転機の制御装置の概略構成を示すブロック図である。図1に示す通り、制御装置1は、回転子位置検出器11、インバータ12、及び制御器13を備えている。制御装置1は、制御装置1の外部から入力される制御指令としてのトルク指令T_refに基づいて、回転機10を制御する。
【0012】
回転機10は、三相の巻線U,V,Wを有する三相交流回転機である。また、回転機10は、回転二軸に基づいて制御可能な交流回転機である。本明細書において、「回転二軸」とは、回転機10の回転子と同期して回転し、横断面において互いに直交する2つの軸を意味する。「横断面」とは、回転子の中心軸線に対して垂直な断面である。例えば、回転二軸は、d-q軸であってもよい。d軸とは、回転子の中心軸線と磁極とを結ぶ軸である。q軸とは、d軸および前記中心軸線の双方に直交する軸である。また、回転二軸は、γ-δ軸であってもよい。γ軸とは、d軸に対して回転方向にずれた軸である。δ軸とは、γ軸および前記中心軸線の双方に直交する軸である。回転二軸のうち、一方を第1軸といい、他方を第2軸という。例えば、d軸を第1軸という場合、q軸を第2軸という。なお、q軸が第1軸であり、d軸が第2軸であってもよい。同様に、γ軸を第1軸という場合、δ軸を第2軸という。
【0013】
以下では、回転機10が永久磁石同期回転機であり、回転二軸がd-q軸である場合について説明する。ただし、回転機10は、例えば巻線界磁同期回転機、誘導回転機、シンクロナスリラクタンスモータ等であってもよい。また、以下の開示内容におけるd軸およびq軸を、δ軸およびγ軸に置換してもよい。
【0014】
回転子位置検出器11は、レゾルバ、エンコーダ、MR(磁気抵抗)センサ等を備えており、これらを用いて回転子位置θを検出する。回転子位置θとは、回転機10が有する回転子の、回転方向における位置である。本実施の形態では、回転子位置検出器11を用いて回転機10の回転子位置θを検出する。ただし、回転子位置検出器11を用いることなく、回転機10の回転子位置θを推定する構成も採用可能である。つまり、本開示において、制御装置1が回転子位置検出器11を備えていなくてもよい。
【0015】
インバータ12は、回転機10に電圧を印加する電力変換器である。具体的には、制御器13の制御の下で、インバータ12は、直流電源BTから供給される直流電力を交流電力に変換し、変換した交流電力を回転機10に供給する。直流電源BTは、バッテリーに加えて、DC-DCコンバータ、ダイオード整流器、PWM整流器等の、直流電力を供給するための機器を含む。本明細書において、直流電源BTの出力電圧(直流母線電圧)をVdcと表す。
【0016】
インバータ12は、上アームスイッチング素子Sup,Svp,Swp、下アームスイッチング素子Sun,Svn,Swn、及びシャント抵抗Ru,Rv,Rwを備える。上アームスイッチング素子Sup,Svp,Swpは、直流電源BTの正極に接続されている。下アームスイッチング素子Sun,Svn,Swnは、上アームスイッチング素子Sup,Svp,Swpにそれぞれ接続されているとともに、シャント抵抗Ru,Rv,Rwをそれぞれ介して直流電源BTの負極に接続されている。
【0017】
ここで、上アームスイッチング素子Sup、下アームスイッチング素子Sun、及びシャント抵抗RuによってU相の直列回路が形成されている。このU相の直列回路では、上アームスイッチング素子Supと下アームスイッチング素子Sunとの接続点が、回転機10の巻線Uに接続されている。
【0018】
また、上アームスイッチング素子Svp、下アームスイッチング素子Svn、及びシャント抵抗RvによってV相の直列回路が形成されている。このV相の直列回路では、上アームスイッチング素子Svpと下アームスイッチング素子Svnとの接続点が、回転機10の巻線Vに接続されている。
【0019】
また、上アームスイッチング素子Swp、下アームスイッチング素子Swn、及びシャント抵抗RwによってW相の直列回路が形成されている。このW相の直列回路では、上アームスイッチング素子Swpと下アームスイッチング素子Swnとの接続点が、回転機10の巻線Wに接続されている。
【0020】
上アームスイッチング素子Sup,Svp,Swp及び下アームスイッチング素子Sun,Svn,Swnとしては、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、バイポーラトランジスタ、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)等の半導体スイッチを用いることができる。
【0021】
上アームスイッチング素子Sup,Svp,Swpには、制御器13から出力されるスイッチング信号Gup,Gvp,Gwpがそれぞれ入力される。下アームスイッチング素子Sun,Svn,Swnには、制御器13から出力されるスイッチング信号Gun,Gvn,Gwnがそれぞれ入力される。上アームスイッチング素子Sup,Svp,Swp及び下アームスイッチング素子Sun,Svn,Swnは、制御器13から出力されるスイッチング信号Gup,Gvp,Gwp,Gun,Gvn,Gwnによって、オン状態又はオフ状態になる。本明細書および図面では、スイッチング信号Gup,Gvp,Gwp,Gun,Gvn,Gwnを総称して、「スイッチング信号Gup~Gwn」と表記する場合がある。
【0022】
例えば、スイッチング信号Gupが「オン指令(=1)」である場合に上アームスイッチング素子Supがオン状態になり、スイッチング信号Gupが「オフ指令(=0)」である場合に上アームスイッチング素子Supがオフ状態になる。他のスイッチング素子(上アームスイッチング素子Svp,Swp及び下アームスイッチング素子Sun,Svn,Swn)についても同様である。このようにして、インバータ12は、直流電源BTが供給する直流電力から、回転機10に供給する交流電力を生成する。
【0023】
シャント抵抗Ru,Rv,Rwは、電流検出用の抵抗素子である。
シャント抵抗Ruは、回転機10の巻線Uに流れる電流(回転機電流)iuに比例した両端電圧VRu(=-Ru×iu)を制御器13に出力する。シャント抵抗Rvは、回転機10の巻線Vに流れる電流(回転機電流)ivに比例した両端電圧VRv(=-Rv×iv)を制御器13に出力する。シャント抵抗Rwは、回転機10の巻線Wに流れる電流(回転機電流)iwに比例した両端電圧VRw(=-Rw×iw)を制御器13に出力する。本明細書および図面では、両端電圧VRu、VRv、VRwを総称して、「両端電圧VRu~VRw」と表記する場合がある。
【0024】
ここで、両端電圧VRu,VRv,VRwは、回転機電流iu,iv,iwとシャント抵抗Ru,Rv,Rwの抵抗値とを乗算して得られる値であり、電流iu,iv,iwに比例した量である。このため、両端電圧VRu,VRv,VRwは、電流を検出した値(回転機電流の検出値)であるといえる。
尚、インバータ12は、回転機10と一体化されていてもよい。一体化されたインバータ12および回転機10を、パワーパックと呼ぶ。
【0025】
制御器13は、トルク指令T_ref、両端電圧VRu,VRv,VRw、及び回転子位置θを入力値として用い、これらに基づいて、インバータ12を駆動するスイッチング信号Gup~Gwnを生成する。制御器13は、例えば、マイコン又はDSP(Digital Signal Processor)等の離散時間演算器により実現されるPWM制御器である。制御器13は、電流指令値演算器21、電流検出器22、座標変換器23(検出用座標変換器)、電圧指令値演算部24、座標変換器25(制御用座標変換器)、修正電圧生成器26、PWM信号生成器27、及び速度演算器28を備える。
【0026】
速度演算器28は、回転子位置θに微分演算または差分演算を行うことで、回転機10の回転角速度ωを求める。速度演算器28は、求めた回転角速度ωを、電流指令値演算器21に加えて、電圧指令値演算部24のd軸電圧指令値演算器24dおよびq軸電圧指令値演算器24qに入力する。
電流指令値演算器21は、トルク指令T_ref、直流母線電圧Vdc、および回転角速度ωに基づいて、電流指令値id_ref,iq_refを演算する。電流指令値id_ref,iq_refは、回転機10に通電する電流の指令値(目標値)である。id_refは「弱め界磁電流指令値」とも呼ばれ、iq_refは「トルク電流指令値」とも呼ばれる。電流指令値演算器21が実行する演算手法としては、公知のMTPA(Maximum Torque Per Ampere)制御、MTPV(Maximum Torque Per Voltage)制御、および弱め磁束制御を、運転範囲(速度-トルク特性の範囲)毎に適切に組み合わせて用いてもよい。なお、回転角速度ωを回転子の回転数に変換し、回転数を用いて各制御を行ってもよい。
【0027】
次に、PWM信号生成器27について説明する。PWM信号生成器27は、修正電圧生成器26から出力された修正電圧指令値vu′,vv′,vw′に基づいて、PWM(Pulse Width Modulation)変調されたスイッチング信号Gup~Gwnを出力する。修正電圧指令値vu′,vv′,vw′については、後述する。
【0028】
図2は、実施の形態1におけるスイッチング信号の生成原理を説明するための図である。PWM信号生成器27は、修正電圧指令値vu′,vv′,vw′と、周期Tc(周波数fc)のキャリア三角波(搬送波)Cと、を比較することで、スイッチング信号Gup~Gwnを生成する。修正電圧指令値vu′,vv′,vw′は、U相、V相、W相にそれぞれ対応する。
【0029】
具体的に、PWM信号生成器27は、修正電圧指令値vu′がキャリア三角波Cより大きければ、スイッチング信号Gupをオン(「1」)とし、スイッチング信号Gunをオフ(「0」)とする。逆に、PWM信号生成器27は、修正電圧指令値vu′がキャリア三角波Cより小さければ、スイッチング信号Gupをオフ(「0」)とし、スイッチング信号Gunをオン(「1」)とする。
【0030】
また、PWM信号生成器27は、修正電圧指令値vv′がキャリア三角波Cより大きければ、スイッチング信号Gvpをオン(「1」)とし、スイッチング信号Gvnをオフ(「0」)とする。逆に、PWM信号生成器27は、修正電圧指令値vv′がキャリア三角波Cより小さければ、スイッチング信号Gvpをオフ(「0」)とし、スイッチング信号Gvnをオン(「1」)とする。
【0031】
また、PWM信号生成器27は、修正電圧指令値vw′がキャリア三角波Cより大きければ、スイッチング信号Gwpをオン(「1」)とし、スイッチング信号Gwnをオフ(「0」)とする。逆に、PWM信号生成器27は、修正電圧指令値vw′がキャリア三角波Cより小さければ、スイッチング信号Gwpをオフ(「0」)とし、スイッチング信号Gwnをオン(「1」)とする。
【0032】
尚、インバータ12の上アームスイッチング素子Sup,Svp,Swpと下アームスイッチング素子Sun,Svn,Swnとが同時にオン状態にならないように、スイッチング信号Gup~Gwnに短絡防止時間(デッドタイム)を設けても良い。
【0033】
スイッチング信号Gup~Gwnには、回転機10の電気角1周期中において、下アームスイッチング素子Sun,Svn,Swnの全てをオン状態にするパターンが含まれる。具体的には、図2中における区間Dのように、スイッチング信号Gun,Gvn,Gwnの全てがオン(1)となるパターンが含まれる。
【0034】
ここで、インバータ12から回転機10に印加されるPWM変調後の電圧には、修正電圧指令値vu′,vv′,vw′の成分のほかに、キャリア三角波Cの周期Tcの整数倍の成分が含まれる。これに起因して周期Tcの整数倍の成分の電流が回転機10に通電され、周期Tcの値によっては回転機10が異音を生じさせる。
【0035】
このような異音の発生を防止するため、例えば、電動パワーステアリングの操舵アシストを行うモータとして回転機10を使用する場合には、キャリア三角波Cの周期Tcを60[μs]以下に設定すればよい。Tc=60[μs]とすることで、異音の周波数fc(=1/Tc)は16.6kHzになり、人間が不快に感じる騒音になりにくい。より好ましくは、キャリア三角波Cの周期Tcを50[μs]程度に設定すればよい。Tc=50[μs]とすることで、異音の周波数fc(=1/Tc)は20kHz程度になり、人間にはほぼ聞こえなくなる。人間が聞こえる周波数帯域は、20Hz~20kHz程度である。尚、以下では、Tc=50[μs]として説明する。
【0036】
続いて、図1に示す電流検出器22について説明する。電流検出器22は、シャント抵抗Ru,Rv,Rwの両端電圧VRu,VRv,VRw及びPWM信号生成器27から出力されるスイッチング信号Gup~Gwnを用いて、変換前検出電流ius,ivs,iwsを出力する。具体的に、電流検出器22は、シャント抵抗Ru,Rv,Rwの両端電圧VRu,VRv,VRwを図2中に示すタイミング「X」で取得する。このタイミング「X」は、キャリア三角波Cが最大値(直流母線電圧Vdc)となるタイミングである。
【0037】
タイミング「X」では、図2に示す通り、下アームスイッチング素子Sun,Svn,Swnに入力されるスイッチング信号Gun,Gvn,Gwnが全てオン(「1」)である。このため、電流検出器22は、シャント抵抗Ru,Rv,Rwの両端電圧VRu,VRv,VRwをそれぞれ-Ru,-Rv,-Rwで除算することで、変換前検出電流ius,ivs,iwsの値を取得する。
【0038】
座標変換器23は、電流検出器22によって検出された変換前検出電流ius,ivs,iws、及び回転子位置検出器11によって検出された回転子位置θに基づいて座標変換を行う。これにより、座標変換器23は、回転二軸(d,q軸)上の検出電流値id,iqを演算する。また、座標変換器23は、演算結果(座標変換後の検出電流値id,iq)を電圧指令値演算部24に入力する。
【0039】
電圧指令値演算部24は、電流指令値演算器21で演算された電流指令値id_ref,iq_ref、検出電流値id、iq、回転角速度ω、および直流母線電圧Vdcに基づいて、回転二軸(d,q軸)上の電圧指令値vd,vqを演算する。
以下、電圧指令値演算部24について詳細を説明する。
【0040】
電圧指令値演算部24は、第1偏差演算器24a、第2偏差演算器24b、d軸電圧指令値演算器24d、及びq軸電圧指令値演算器24qを備える。
第1偏差演算器24aは、d軸電流指令値id_refとd軸検出電流値idとの偏差であるd軸電流偏差edを演算する。第2偏差演算器24bは、q軸電流指令値iq_refとq軸検出電流値iqとの偏差であるq軸電流偏差eqを演算する。第1偏差演算器24aが演算したd軸電流偏差edの値は、d軸電圧指令値演算器24dおよびq軸電圧指令値演算器24qに入力される。第2偏差演算器24bが演算したq軸電流偏差eqの値は、d軸電圧指令値演算器24dおよびq軸電圧指令値演算器24qに入力される。
【0041】
d軸電圧指令値演算器24dは、d軸電流偏差edと、q軸電流偏差eqと、直流母線電圧Vdcと、回転角速度ωと、を用いて,d軸電圧指令値vdを演算する。q軸電圧指令値演算器24qは、q軸電流偏差eqと、d軸電流偏差edと、直流母線電圧Vdcと、回転角速度ωと、を用いて,q軸電圧指令値vqを演算する。
【0042】
本明細書では、回転二軸の第1軸における、電流指令値と検出電流値との偏差を第1偏差という場合がある。同様に、回転二軸の第2軸における、電流指令値と検出電流値との偏差を第2偏差という場合がある。例えば、d軸を第1軸とする場合、d軸上の電流指令値id_refとd軸検出電流値idとの偏差であるd軸電流偏差edが「第1偏差」であり、q軸電流偏差eqが「第2偏差」である。同様に、q軸を第1軸とする場合は、q軸電流偏差eqが「第1偏差」であり、d軸電流偏差edが「第2偏差」である。
【0043】
図3にd軸電圧指令値演算器24dの詳細を示し、図4にq軸電圧指令値演算器24qの詳細を示す。
以下、図3を用いて、d軸電圧指令値演算器24dについて説明する。d軸電圧指令値演算器24dは、d軸比例増幅器101dと、制限器102dと、d軸積分増幅器103dと、高域通過フィルタ(HPF:High Pass Filter)104dと、応答角周波数増幅器105dと、インダクタンス増幅器106dと、乗算器107dと、減算器108dと、積分器109dと、制限器110dと、加算器111dと、を備えている。
【0044】
d軸比例増幅器101dは,d軸電流偏差edをKpd倍することで、d軸比例出力Vdpを算出する。すなわち、Vdp=ed×Kpdである。「Kpd」は、電流指令値id_refに対して実際に流れる回転機電流が好ましい応答となるために乗算する、d軸比例ゲインである。例えば、Kpd=ωcc×Ldである。ここで,ωccは電流指令値に対する回転機電流の周波数応答が好ましい範囲となるように調整するための応答角周波数(より具体的には、フィードバック制御系の時定数の逆数)であり、Ldは回転機10のd軸インダクタンスである。ただし,Kpdの値はωcc×Ldに限らず、電流指令値id_refに対して実際に流れる回転機電流の応答性を実測すること等により、適宜調整してもよい。d軸比例増幅器101dが算出したd軸比例出力Vdpは、制限器102dに入力される。
【0045】
制限器102dは,d軸比例出力Vdpを上限値(Vlimit)および下限値(-Vlimit)と比較し、その比較結果に基づいて、制限後d軸比例出力Vdp’を出力する。ただし,Vlimit=Kmax・Vdc/20.5とする。Kmaxはインバータ12の最大電圧利用率であり,所望の出力に応じて適宜設定する。例えば、Kmaxは1であってもよい。
【0046】
制限器102dが行う具体的な演算は,以下の通りである。
(A) Vdp<-Vlimitの場合,Vdp’=-Vlimit
(B) -Vlimit≦Vdp≦Vlimitの場合,Vdp’=Vdp
(C) Vlimit<Vdpの場合,Vdp’=Vlimit
【0047】
つまり、制限器102dは、d軸比例出力Vdpが上限値(Vlimit)を上回る場合、あるいは下限値(-Vlimit)を下回る場合に、Vdpの値を制限して、制限後d軸比例出力Vdp’として出力する。また、制限器102dは、d軸比例出力Vdpが下限値以上かつ上限値以下であるとき、Vdpの値をそのまま制限後d軸比例出力Vdp’として出力する。制限器102dが出力した制限後d軸比例出力Vdp’の値は、制限器110dおよび加算器111dに入力される。
【0048】
d軸積分増幅器103dは、d軸電流偏差edをKid倍することで、自軸積分入力Aidを算出する。すなわち、Aid=ed×Kidである。「Kid」は、d軸電流偏差edの定常値を0とするために乗じる積分ゲインである。例えばKid=ωcc×Rである。ここで、Rは回転機10の巻線抵抗値である。ただし、Kidの値はωcc×Rに限らず、実測結果等に基づいて、適宜調整してもよい。d軸積分増幅器103dが算出した自軸積分入力Aidは、減算器108dに入力される。
【0049】
高域通過フィルタ104dは、q軸電流偏差eqの低周波成分を低減させ、応答角周波数増幅器105dに出力する。
応答角周波数増幅器105dは、高域通過フィルタ104dによって低周波成分が低減されたq軸電流偏差eqを、ωcc倍して、乗算器107dに出力する。
【0050】
インダクタンス増幅器106dは,回転角速度ωをLq倍して、乗算器107dへ出力する。なお、「Lq」は回転機10のq軸インダクタンスの値である。
乗算器107dは,応答角周波数増幅器105dの出力とインダクタンス増幅器106dの出力とを乗算することで、他軸積分入力Bidを求める。乗算器107dは、他軸積分入力Bidを減算器108dに出力する。
【0051】
減算器108dは,自軸積分入力Aidを他軸積分入力Bidで減算することで、d軸積分入力Cidを求める。減算器108dは,d軸積分入力Cidを積分器109dに出力する。
積分器109dは,d軸積分入力Cidに対して積分演算を行い,その結果をd軸積分出力Vdiとして制限器110dに出力する。
【0052】
制限器110dは,d軸積分出力Vdiを上限値(Vlimit-Vdp’)および下限値(-Vlimit-Vdp’)と比較し、その比較結果に基づいて、制限後d軸積分出力Vdi’を出力する。制限器110dが行う具体的な演算は、以下の通りである。
(D) Vdi<-Vlimit-Vdp’の場合,Vdi’=-Vlimit-Vdp’
(E) -Vlimit-Vdp’≦Vdi≦Vlimit-Vdp’の場合,Vdi’=Vdi
(F) Vlimit-Vdp’<Vdiの場合,Vdi’=Vlimit-Vdp’
【0053】
つまり、制限器110dは、d軸積分出力Vdiが上限値(Vlimit-Vdp’)を上回る場合、あるいは下限値(-Vlimit-Vdp’)を下回る場合に、Vdiの値を制限して、制限後d軸積分出力Vdi’として出力する。また、制限器110dは、d軸積分出力Vdiが下限値以上かつ上限値以下であるとき、Vdiの値をそのまま制限後d軸積分出力Vdi’として出力する。制限器110dが出力した制限後d軸積分出力Vdi’の値は、加算器111dに入力される。
【0054】
ここで,制限器110dが制限後d軸比例出力Vdp’を用いて制限判定を行う理由は,制限後d軸積分出力Vdi’が過剰に蓄積されることを防ぎ、アンチワインドアップの効果を得るためである。
加算器111dは,制限後d軸比例出力Vdp’と制限後d軸積分出力Vdi’とを加算して,d軸の電圧指令値vdを求める。求められた電圧指令値vdは、図1に示す通り、座標変換器25に入力される。
【0055】
次に、図4を用いて、q軸電圧指令値演算器24qについて説明する。q軸電圧指令値演算器24qは、q軸比例増幅器101qと、制限器102qと、q軸積分増幅器103qと、高域通過フィルタ(HPF:High Pass Filter)104qと、応答角周波数増幅器105qと、インダクタンス増幅器106qと、乗算器107qと、加算器108qと、積分器109qと、制限器110qと、加算器111qと、を備えている。
【0056】
q軸比例増幅器101qは,q軸電流偏差eqをKpq倍することで,q軸比例出力Vqpを算出する。すなわち、Vqp=eq×Kpqである。「Kpq」は、電流指令値iq_refに対して実際に流れる回転機電流が好ましい応答となるために乗算する、q軸比例ゲインである。例えば、Kpq=ωcc×Lqである。ここで、先述の通り、ωccは応答角周波数であり、Lqはq軸インダクタンスである。ただし,Kpqの値はωcc×Lqに限らず、電流指令値iq_refに対して実際に流れる回転機電流の応答性を実測すること等により、適宜調整してもよい。q軸比例増幅器101qが算出したq軸比例出力Vqpは、制限器102qに入力される。
【0057】
制限器102qは,q軸比例出力Vqpを上限値(Vlimit)および下限値(-Vlimit)と比較し、その比較結果に基づいて、制限後q軸比例出力Vqp’を出力する。
制限器102qが行う具体的な演算は、以下の通りである。
(G) Vqp<-Vlimit の場合,Vqp’=-Vlimit
(H) -Vlimit≦Vqp≦Vlimit の場合,Vqp’=Vqp
(I) Vlimit<Vqp の場合,Vqp’=Vlimit
【0058】
つまり、制限器102qは、q軸比例出力Vqpが上限値(Vlimit)を上回る場合、あるいは下限値(-Vlimit)を下回る場合に、Vqpの値を制限して、制限後q軸比例出力Vqp’として出力する。また、制限器102qは、q軸比例出力Vqpが下限値以上かつ上限値以下であるとき、Vqpの値をそのまま制限後q軸比例出力Vqp’として出力する。制限器102qが出力した制限後q軸比例出力Vqp’の値は、制限器110qおよび加算器111qに入力される。
【0059】
q軸積分増幅器103qは、q軸電流偏差eqをKiq倍することで、自軸積分入力Aiqを算出する。すなわち、Aiq=eq×Kiqである。ここで,Kiqはq軸電流偏差eqの定常値を0とするために乗じる積分ゲインである。例えばKiq=ωcc×Rである。ただし,Kiqの値はωcc×Rに限らず、実測結果等に基づいて、適宜調整してもよい。q軸積分増幅器103qが算出した自軸積分入力Aiqは、加算器108qに入力される。
【0060】
高域通過フィルタ104qは、d軸電流偏差edの低周波成分を低減させ、応答角周波数増幅器105qに出力する。
応答角周波数増幅器105qは、高域通過フィルタ104qによって低周波成分が低減されたd軸電流偏差edを、ωcc倍して、乗算器107qに出力する。
【0061】
インダクタンス増幅器106qは,回転角速度ωをLd倍して、乗算器107dへ出力する。
乗算器107qは,応答角周波数増幅器105dの出力とインダクタンス増幅器106dの出力とを乗算することで、他軸積分入力Biqを求める。乗算器107qは、他軸積分入力Biqを加算器108qに出力する。
【0062】
加算器108qは,自軸積分入力Aiqと他軸積分入力Biqとを加算することで、q軸積分入力Ciqを求める。加算器108qは,q軸積分入力Ciqを積分器109qに出力する。
積分器109qは,q軸積分入力Ciqに対して積分演算を行い,その結果をq軸積分出力Vqiとして制限器110qに出力する。
【0063】
制限器110qは,q軸積分出力Vqiを上限値(Vlimit-Vqp’)および下限値(-Vlimit-Vqp’)と比較し、その比較結果に基づいて、制限後q軸積分出力Vqi’を出力する。制限器110qが行う具体的な演算は、以下の通りである。
(J) Vqi<-Vlimit-Vqp’の場合,Vqi’=-Vlimit-Vqp’
(K) -Vlimit-Vqp’≦Vdi≦Vlimit-Vqp’の場合,Vqi’=Vqi
(L) Vlimit-Vqp’<Vqiの場合,Vqi’=Vlimit-Vqp’
【0064】
つまり、制限器110qは、q軸積分出力Vqiが上限値(Vlimit-Vqp’)を上回る場合、あるいは下限値(-Vlimit-Vqp’)を下回る場合に、Vqiの値を制限して、制限後q軸積分出力Vqi’として出力する。また、制限器110qは、q軸積分出力Vqiが下限値以上かつ上限値以下であるとき、Vqiの値をそのまま制限後q軸積分出力Vqi’として出力する。制限器110qが出力した制限後q軸積分出力Vqi’の値は、加算器111qに入力される。
【0065】
ここで,制限器110qが制限後q軸比例出力Vqp’を用いて制限判定を行う理由は、制限後q軸積分出力Vqi’が過剰に蓄積されることを防ぎ、アンチワインドアップの効果を得るためである。
加算器111qは,制限後q軸比例出力Vqp’と制限後q軸積分出力Vqi’とを加算して,q軸の電圧指令値vqを求める。求められた電圧指令値vqは、座標変換器25に入力される。
【0066】
図1に示す通り、座標変換器25には、回転二軸(d,q軸)上の電圧指令値vd,vqと、回転子位置θと、が入力される。座標変換器25は、電圧指令値vd,vqを回転子位置θに基づいて座標変換し、三相座標上の電圧指令値vu,vv,vwを演算する。
【0067】
修正電圧生成器26は、座標変換器25から出力される電圧指令値vu,vv,vwと、オフセット電圧voffsetと、に基づいて、修正電圧指令値vu′,vv′,vw′を生成する。図5は、実施の形態1において、修正電圧生成器26で行われる処理を示すフローチャートである。
【0068】
図5に示すフローチャートの処理が開始されると、まず、ステップS11が実行される。ステップS11において、修正電圧生成器26は、電圧指令値vu,vv,vwの中から最も値が小さいものを選択し、その値をVminとして設定する。
次に、ステップS12において、修正電圧生成器26は、オフセット電圧voffsetの値を、0.5Vdc-Vminに設定する。
次に、ステップS13において、修正電圧生成器26は、電圧指令値vu,vv,vwからオフセット電圧voffsetをそれぞれ減算することで、修正電圧指令値vu′,vv′,vw′を求める。
【0069】
図6は、実施の形態1において、電圧指令値vu,vv,vw及び修正電圧指令値vu′,vv′,vw′の波形の一例を示す図である。尚、図6において、電圧指令値vu,vv,vwの波形グラフを上側に示し、修正電圧指令値vu′,vv′,vw′の波形グラフを下側に示している。但し、図6に示す各グラフでは、直流母線電圧Vdc=10Vとしている。ここで、インバータ12が出力可能な電圧範囲は、0(キャリア三角波Cの最小値)~Vdc(キャリア三角波Cの最大値)となる。このため、直流母線電圧Vdc=10Vの場合には、インバータ12が出力可能な電圧範囲は、図6に示す通り、0V~10Vとなる。
【0070】
図5に示すステップS11~S13のように処理が行われることで、図6の下側のグラフに示す通り、修正電圧指令値vu′,vv′,vw′のうち最小の値が常にインバータ出力下限値に一致する。このことは、修正電圧指令値vu′,vv′,vw′を電圧飽和させない範囲で可能な限り三相等しく下側へオフセットさせ、下アームスイッチング素子Sun,Svn,Swnのオン時間を可能な限り大きくしていることを意味する。この点は、本実施の形態のように、下アームスイッチング素子Sun,Svn,Swnに対して直列にシャント抵抗Ru,Rv,Rwを備えるインバータにおいては、電流検出の観点で有利である。
【0071】
尚、オフセット電圧voffsetの演算方法は、上述した方法に限定されない。例えば、図5のステップS11において、電圧指令値vu,vv,vwの中から最も値が小さいものを選択してVminに設定する処理に加えて、電圧指令値vu,vv,vwの中から最も値が大きいものを選択してVmaxに設定する処理を行ってもよい。そして、ステップS12において、voffsetを「(Vmax+Vmin)/2」に設定する処理を行ってもよい。このように、voffset=(Vmax+Vmin)/2とする手法は、3次調波加算又はHIP変調と呼ばれる。また、3つの相のなかで電圧指令値が最大となっている相に対応する、上アームスイッチング素子を常にオン状態とし、いわゆる二相変調を採用してもよい。
【0072】
以上の演算によって修正電圧生成器26が生成した修正電圧指令値vu′,vv′,vw′は、PWM信号生成器27に入力される。そしてPWM信号生成器27は、修正電圧指令値vu′,vv′,vw′に対してPWM変調を行い、その結果をスイッチング信号Gup~Gwnとしてインバータ12に出力する。
【0073】
図7は、実施の形態1に係る制御装置1において、回転角速度ωが高い場合の、q軸電流指令値iq_refからq軸検出電流値iqまでの伝達特性を示すボード線図である。図7において、上側にゲイン線図を示し、下側に位相線図を示す。ゲイン線図および位相線図の双方において、「本開示」は実施の形態1に係る伝達特性を示し、「他軸積分入力(Bid,Biq)=0」は,BidおよびBiq(図3図4参照)の値として強制的に0(ゼロ)を入力した場合の特性である。
【0074】
図7のゲイン線図に示す通り、「他軸積分入力(Bid,Biq)=0」は100Hz近傍においてゲインの落ち込みがある。これに対し「本開示」では、100Hz近傍の落ち込みはなく,理想的な1次遅れ系の伝達特性が得られている。つまり、本開示に係る制御装置1によれば、回転角速度ωが高い場合においても、好適な制御結果を得ることが可能である。
【0075】
また、本開示におけるd軸電圧指令値演算器24dおよびq軸電圧指令値演算器24qに含まれる積分器の数は、それぞれ1つである。このため、特許文献1のように、1つの軸につき2つの積分器を用いる場合と比較して、アンチワインドアップ処理を容易に行うことが可能である。その結果として,電流指令値id_ref、iq_refに急峻な変化があった場合にも、積分値が過剰に蓄積されることに起因するオーバシュートが生じにくい,安定した制御装置1を提供することが可能となる。また、1つの軸につき2つの積分器を用いる場合と比較して、本開示によれば制御器13の演算量を抑制することも可能である。
【0076】
以上、説明したように、実施の形態1に係る制御装置1は、交流の回転機10に電圧を印加するインバータ12と、回転機10を流れる回転機電流を検出する電流検出器22と、回転機10の回転二軸におけるd軸(第1軸)の電圧指令値vdを演算するd軸電圧指令値演算器24d(第1軸電圧指令値演算器)と、回転二軸におけるq軸(第2軸)の電圧指令値vqを演算するq軸電圧指令値演算器24q(第2軸電圧指令値演算器)と、を備える。d軸電圧指令値演算器24dは、d軸における電流指令値id_refと、d軸における検出電流値idと、の偏差であるd軸電流偏差ed(第1偏差)、および、q軸における電流指令値iq_refと、q軸におけるq軸検出電流値iqと、の偏差であるq軸電流偏差eq(第2偏差)を用いて、積分演算を行い、前記積分演算の結果に基づいてd軸の電圧指令値vdを演算する。また、q軸電圧指令値演算器24qは、q軸電流偏差eqおよびd軸電流偏差edを用いて、積分演算を行い、前記積分演算の結果に基づいてq軸の電圧指令値vqを演算する。
【0077】
このような構成により、電圧指令値vd、vqを演算するために必要な積分器の数を減らすことが可能となり、その結果として、アンチワインドアップを行うことが容易になる。これにより、オーバーシュート等が生じにくく、より安定した制御を行うことが可能な制御装置1を提供できる。
【0078】
また、d軸電圧指令値演算器24dは、q軸電流偏差eqに対し、交流回転機の回転角速度ωと、q軸インダクタンスLqと、電流指令値に対する回転機電流の周波数応答を調整するための応答角周波数ωccと、を乗算した値を用いて、前記積分演算を実行する。これにより、回転機の回転角速度ωに依存せず、所望の周波数応答を得ることができる。同様に、q軸電圧指令値演算器24qは、d軸電流偏差edに対し、交流回転機の回転角速度ωと、d軸におけるインダクタンスLdと、電流指令値に対する回転機電流の周波数応答を調整するための応答角周波数ωccと、を乗算した値を用いて、前記積分演算を実行する。
【0079】
また、d軸電圧指令値演算器24dは、q軸電流偏差eqの低周波成分を高域通過フィルタ104dによって低減させた結果を用いて、前記積分演算を実行する。このように、d軸電圧指令値演算器24dにとって制御対象ではない方の軸(すなわちq軸)の電流偏差eqの低周波成分を低減することで、制御対象である軸(すなわちd軸)における電流偏差edを、定常的には0(ゼロ)とすることが可能となる。同様に、q軸電圧指令値演算器24qは、d軸電流偏差edの低周波成分を高域通過フィルタ104qによって低減させた結果を用いて、前記積分演算を実行する。
【0080】
実施の形態2.
次に、本開示における実施の形態2について説明するが、基本的な構成は実施の形態1と同様である。このため、実施の形態1と重複する部分については説明を省略し、異なる点を中心に説明する。
図8は、実施の形態2に係る回転機の制御装置2の概略構成を示すブロック図である。図8に示すように、制御装置2は、振幅演算器29を備える点で、実施の形態1に係る制御装置1と異なる。また、図9図10は、実施の形態2に係るd軸電圧指令値演算器24dおよびq軸電圧指令値演算器24qの構成をそれぞれ示すブロック図である。d軸電圧指令値演算器24dおよびq軸電圧指令値演算器24qの構成も、実施の形態1と実施の形態2とで異なっている。
【0081】
図8に示すように、振幅演算器29には、d軸電圧指令値vd,q軸電圧指令値vq,および直流母線電圧Vdcが入力される。振幅演算器29は、下記数式(2-1)に基づき、電圧振幅mを算出する。電圧振幅mは、d軸電圧指令値vdおよびq軸電圧指令値vqの大きさを、インバータ12の直流母線電圧Vdcを用いて規格化した数値である。
m={(vd2+vq2)/(Vdc/2)}0.5 …(2-1)
【0082】
図9に示すように、d軸電圧指令値演算器24dは、増幅器112dを備えている。増幅器112dは、乗算器107dからの出力をK倍した結果を減算器108dに入力する。「K」は、d軸電圧指令値演算器24dから見て、制御対象ではない方のq軸における電流偏差eqを積分入力する際に乗算する制限ゲインである。増幅器112dには電圧振幅mが入力され、電圧振幅mの値に基づいて制限ゲインKの値が決定される。本実施の形態に係るd軸電圧指令値演算器24dでは、d軸比例増幅器101dにも、電圧振幅mが入力される。本実施の形態は、電圧振幅mに応じて、d軸比例ゲインKpdおよび制限ゲインKを変動させる点で、実施の形態1と異なる。
【0083】
図10に示すように、実施の形態2のq軸電圧指令値演算器24qは、増幅器112qを備えている。増幅器112qは、乗算器107qからの出力をK倍した結果を加算器108qに入力する。「K」は、q軸電圧指令値演算器24qから見て、制御対象ではない方のd軸における電流偏差edを積分入力する際に乗算する制限ゲインである。増幅器112qには電圧振幅mが入力され、電圧振幅mの値に基づいて制限ゲインKの値が決定される。本実施の形態に係るq軸電圧指令値演算器24qでは、q軸比例増幅器101qにも、電圧振幅mが入力される。本実施の形態は、電圧振幅mに応じて、q軸比例ゲインKpqおよび制限ゲインKを変動させる点で、実施の形態1と異なる。
【0084】
図11に、電圧振幅mと比例ゲインKpd,Kpq,および制限ゲインKの関係を示す。図11における上側のグラフの縦軸が比例ゲインKpd,Kpqであり、下側のグラフの縦軸が制限ゲインKである。上側および下側の両方において、横軸は電圧振幅mである。図11において、m1は電圧第一閾値であり、m2は電圧第二閾値である。
比例ゲインKpd,Kpqは、第1比例値Kp_Hと、第2比例値Kp_Lと、の間で切り替えられる。第2比例値Kp_Lは第1比例値Kp_Hよりも小さい。
制限ゲインKは、第1制限値K_Hと、第2制限値K_Lと、の間で切り替えられる。第2制限値K_Lは第1制限値K_Hよりも小さい。
【0085】
図11に示すように、電圧振幅mが電圧第一閾値m1より高いとき、比例ゲインKpd,Kpqの値は第2比例値Kp_Lに設定される。また、電圧振幅mが電圧第一閾値m1より低いとき、比例ゲインKpd,Kpqは第1比例値Kp_Hに設定される。
電圧振幅mが電圧第二閾値m2より高いとき、制限ゲインKは第1制限値K_Hに設定される。また、電圧振幅mが電圧第二閾値m2より低いとき、制限ゲインKは第2制限値K_Lに設定される。ここで、電圧第一閾値m1は電圧第二閾値m2より高い。よって,比例ゲインKpd,Kpqの値がKp_Lのとき,制限ゲインKの値はK_Hである。
【0086】
このように、制限ゲインKが高い値K_Hであるとき(すなわちd-q軸間の非干渉制御が十分に効く状態)に限り、比例ゲインKpd,Kpqを低下させるように処理することで、比例ゲインKpd,Kpqが低い状態でも制御の安定性を確保できる。また、制限ゲインKが低い値K_Lであるとき、d-q軸間の非干渉制御が十分でない状態でも制御の安定性を確保できるように、比例ゲインKpd,Kpqは安定性を確保できるだけの高い値Kp_Hに設定される。Kp_H,Kp_Lの値は、具体的には、電流指令値id_ref、iq_refから回転機電流iu,iv,iwまでの応答が、それぞれ300Hz~1000Hz,100Hz~300Hzの範囲内において良好となるように設定される。例えばK_Hの値は0.7以上に設定され、K_Lの値は0.3以下に設定される。
【0087】
次に,電圧第一閾値m1の好ましい設定について述べる。図12に示すGxnは、下アームスイッチング素子Sun、Svn、Swnにおけるスイッチング信号Gun,Gvn,Gwnのうちいずれか1つの波形の例を示している。また、VRxは、シャント抵抗Ru,Rv,Rwにおける両端電圧VRu、VRv、VRwのうちいずれか1つの波形の例を示している。図12に示す例では、信号Gxnが0から1に変化した後、数μsにわたり、シャント抵抗の両端電圧VRxにリンギングが生じている。リンギングとは、インバータ12においてスイッチングが行われた際、一定時間の間、シャント抵抗の両端電圧が変動する現象である。このリンギングを含んだシャント抵抗の両端電圧VRu、VRv、VRwに基づいて、電流検出器22が変換前検出電流ius、ivs、iwsを取得してしまうと、検出結果に誤差が含まれてしまう。変換前検出電流ius、ivs、iwsに誤差が含まれると、座標変換後の検出電流値id、iqにも誤差が含まれる。
【0088】
変換前検出電流ius、ivs、iwsを正確に得るためには、対応する下アームスイッチング素子Sun、Svn、Swnのオン時間が、リンギングの収束時間に応じて設定された時間閾値Tminより長いことが好ましい。下アームスイッチング素子Sun、Svn、Swnのオン時間を時間閾値Tminより長くするために,PWM信号生成器27に入力される電圧が、図2の一点鎖線に示すVdc×(Tc-Tmin)/Tc以下であるとよい。
【0089】
図2においては,修正電圧指令vu’,vv’,vw’(すなわち、PWM信号生成器27に入力される電圧)がすべてVdc×(Tc-Tmin)/Tc以下である。したがって、リンギングによる誤差を排除し、シャント抵抗における両端電圧VRu、VRv、VRwに基づいて、精度よく変換前検出電流ius、ivs、iwsを取得することが可能である。このように,3つの相にそれぞれ対応したシャント抵抗の両端電圧VRu,VRv,VRwに基づき、変換前検出電流ius,ivs,iwsを求める検出法を,「3相検出」という。
【0090】
ところで、回転機10の回転数の上昇等により、電圧振幅mが上昇すると、修正電圧指令vu’,vv’,vw’の一部が、キャリア三角波Cの最大値Vdcに近い、大きな値をとる場合がある。図13の例では、修正電圧指令vu’の値が、Vdc×(Tc-Tmin)/Tcの値(以下、「上限値」ともいう)よりも大きくなっている。この場合,Gunが0から1に切り替わる時刻と、タイミングXにおける時刻と、の差が小さくなる。したがって、タイミングXにおいて取得されるu相のシャント抵抗の両端電圧VRuに、リンギングの影響が含まれる。
【0091】
そこで、下アームスイッチング素子のスイッチング信号Gun,Gvn,Gwnのオン時間が時間閾値Tminより短い相に関する変換前検出電流は、その他の2相から生成してもよい。このように、3相のうちの1つの変換前検出電流を、残りの2つの相の変換前検出電流に基づいて求める検出法を、「2相検出」という。例えば,スイッチング信号Gunのオン時間が時間閾値Tminより短い場合,U相の変換前検出電流iusを、ius=-ivs-iwsによって演算してもよい。同様に、スイッチング信号Gvnのオン時間が時間閾値Tminより短い場合、ivs=-ius-iwsのように演算してもよく、スイッチング信号Gwnのオン時間が時間閾値Tminより短い場合、iws=-ius-ivsのように演算してもよい。
【0092】
電流検出に用いる相の数と電圧振幅mとの関係は以下の通りである。すなわち、電圧振幅mが低く、3相の修正電圧指令vu’,vv’,vw’の瞬時値がいずれも上限値(Vdc×(Tc-Tmin)/Tc)以下となるとき、「3検出」を用いる。あるいは、電圧振幅mが高く、3相の修正電圧指令vu’,vv’,vw’のうちいずれかの瞬時値が上限値(Vdc×(Tc-Tmin)/Tc)以上となるとき,「2相検出」を用いる。ここで,「3相検出」と「2相検出」とを比較すると,「3相検出」の方が精度が良好である。したがって、回転機10の制御精度を高めるためには、「3相検出」を可能な限り用いることが好ましい。しかしながら、回転機10の出力を上げるという観点では,電圧振幅mを大きくして「2相検出」を用いることが好ましい場合がある。
【0093】
そこで、本実施の形態では,電圧第一閾値m1の値を、「(Tc-Tmin)/Tc」に設定する。「(Tc-Tmin)/Tc」は、先述の上限値である「Vdc×(Tc-Tmin)/Tc」を、Vdcで割って規格化した数値であると言える。このように電圧第一閾値m1を設定することで、以下の効果が得られる。電圧振幅mが電圧第一閾値m1より大きいとき、「2相検出」を用いるが、その際に比例ゲインKpd,Kpqは低い値Kp_Lに設定される。これにより、電流検出精度の低下が及ぼす影響を低減し、回転機10から生じる振動・騒音が増大することを防げる。それと同時に、制限ゲインKは高い値K_Hに設定されるため、非干渉制御が効いて制御安定性が保たれる。また、電圧振幅mが電圧第一閾値m1より小さいとき、「3相検出」を用いるが、その際に比例ゲインKpd,Kpqは大きい値Kp_Hに設定される(図11参照)。3相検出では電流検出精度が良好であるため、非干渉制御への依存を小さくする。これにより、回転角速度ωに含まれるノイズに起因して回転機10に生じる振動・騒音を低減することができる。
【0094】
電圧第二閾値m2は,電圧第一閾値m1より低い値に設定しておけばよい。ただし、回転角速度ωの検出値に含まれるノイズが問題にならなければ,電圧第二閾値m2における制限ゲインKの値の切り替えは、必ずしも必要でない。具体的には,電圧振幅mが電圧第一閾値m1以上であれば,比例ゲインKpd,Kpqの値をKp_Lとし,そうでなければ比例ゲインKpd,Kpqの値をKp_Hとし、制限ゲインKの値は電圧振幅mに関わらず常に一定(K_H)に設定してもよい。
【0095】
また,本実施の形態に係る交流回転機10を含めて、一般的に、回転機への印加電圧と回転機の回転数(あるいは回転角速度ω)は概ね比例関係にある。そこで,比例ゲインKpd,Kpqおよび制限ゲインKの切り替えを,先に述べた電圧振幅mに係る閾値ではなく,回転数(あるいは回転角速度ω)に係る閾値を用いて行ってもよい。例えば,電圧振幅mが電圧第一閾値m1に一致する場合の回転数を回転数第一閾値n1とし,電圧振幅mが電圧第二閾値m2に一致する場合の回転数を回転数第二閾値n2としてもよい。この場合,上記した電圧振幅mと閾値m1、m2との比較に基づく比例ゲインKpd,Kpqまたは制限ゲインKの切り替えを,回転数と閾値n1,n2との比較に基づく切り替えに置き換えることができる。同様に、電圧振幅mが電圧第一閾値m1に一致する場合の回転角速度ωを回転角速度第一閾値ω1とし,電圧振幅mが電圧第二閾値m2に一致する場合の回転角速度ωを回転角速度第二閾値ω2としてもよい。この場合,上記した電圧振幅mと閾値m1、m2との比較に基づく比例ゲインKpd,Kpqまたは制限ゲインKの切り替えを,回転角速度ωとω1,ω2との比較に基づく切り替えに置き換えることができる。
【0096】
あるいは、電圧振幅mに応じた切り替えと、回転数(または回転角速度ω)に応じた切り替えと、を併用してもよい。具体例としては、電圧振幅mと電圧第一閾値m1との比較に基づいて比例ゲインKpd,Kpqの切替えを行い、回転数(または回転角速度ω)と回転数第二閾値n2(または回転角速度第二閾値ω2)との比較に基づいて制限ゲインKの切替えを行ってもよい。
【0097】
以上の説明においては,電圧振幅mと電圧第一閾値m1との比較,または回転数と回転数第一閾値n1との比較、または回転角速度ωと回転角速度第一閾値ω1との比較に基づいて,比例ゲインKpd,Kpqの値を切り替えると説明した。しかしながら、例えば回転機電流が過大となり閾値を超えた場合,電圧振幅mまたは回転数に関わらず、比例ゲインKpd,Kpqの値をKp_Hで一定としてもよい。回転機電流が過大となっている場合に,比例ゲインKpd,Kpqを大きな値に設定することで、回転機電流が過大となる状態を短くできる。これにより,回転機10の制御装置の故障を予防することができる。
【0098】
また,回転機10の制御装置の一部に故障が生じて,残りの故障していない部分で継続運転する場合に、比例ゲインKpd,Kpqを常に大きな値(Kp_H)に設定して,システムの安全性を高めてもよい。
また、比例ゲインKpd,Kpqの値をKp_LとKp_Hとの間で切り替える際は、制御が不連続にならないように、スロープ(傾き)をつけて徐々に切り替えてもよい。同様に、制限ゲインKの値をK_LとK_Hとの間で切り替える際も、スロープ(傾き)をつけて徐々に切り替えてもよい。
【0099】
以上の通り、本実施の形態2において、第1軸電圧指令値演算器(例えばd軸電圧指令値演算器24d)は、第1偏差(例えばd軸電流偏差ed)に対して比例ゲイン(例えばKpd)を乗算した値を用いて第1軸の電圧指令値(例えばVd)を演算する。比例ゲインは、第1比例値Kp_Hと、第1比例値Kp_Hよりも小さい第2比例値Kp_Lと、の間で切り替えられる。そして、電圧指令値に基づいて算出される電圧振幅mが電圧第一閾値m1以上である場合、あるいは、交流回転機10の回転数が回転数第一閾値n1以上である場合、あるいは、交流回転機10の回転角速度ωが回転角速度第一閾値ω1以上である場合、比例ゲインが第2比例値Kp_Lに設定される。この構成によれば、回転角速度ωが大きい場合に、比例ゲインを小さい値(Kp_L)に設定することで、第1偏差に含まれる高周波ノイズ成分を低減でき、低騒音な交流回転機10の制御装置2を提供できる。
【0100】
また、本実施の形態2において、第1軸電圧指令値演算器は、第2偏差に対して制限ゲインKを乗算した値を用いて積分演算を実行し、制限ゲインKは、第1制限値K_Hと、第1制限値K_Hよりも小さい第2制限値K_Lと、の間で切り替えられる。そして、電圧振幅mが電圧第一閾値m1よりも小さい電圧第二閾値m2以下である場合、あるいは、交流回転機10の回転数が回転数第一閾値n1よりも小さい回転数第二閾値n2以下である場合、あるいは、交流回転機10の回転角速度ωが回転角速度第一閾値ω1よりも小さい回転角速度第二閾値ω2以下である場合に、制限ゲインKが第2制限値K_Lに設定される。この構成によれば、回転角速度ωが小さい場合に、制限ゲインを小さい値(K_L)に設定することで、積分演算への第2偏差の入力を小さく制限できる。このため、第2偏差に含まれる高周波ノイズ成分を低減でき、低騒音な交流回転機10の制御装置2を提供できる。
【0101】
また、インバータ12は、3つの相(U、V、W)にそれぞれ対応する、3組の上アームスイッチング素子Sup,Svp,Swp、下アームスイッチング素子Sun,Svn,Swn、およびシャント抵抗Ru,Rv,Rwを備える。電流検出器22は、電圧振幅mが電圧第一閾値m1よりも小さいとき、3つの相における回転機電流iu,iv,iwを、それぞれの対応するシャント抵抗の両端電圧VRu,VRv,VRwに基づいて検出する(つまり「3相検出」を用いる)。この構成によれば、回転機電流iu,iv,iwの検出結果にリンギングの影響による誤差が含まれることを抑制できる。したがって、精度よく交流回転機10の制御を行うことができる。
【0102】
また、回転機電流が閾値を超えた場合(すなわち過大である場合)に、電圧振幅m等に関わらず、比例ゲインKpd,Kpqが第1比例値Kp_Hに設定されてもよい。この場合、回転機電流が過大となっている状態が継続する時間を短くできる。したがって,制御装置2の故障を予防することができる。
【0103】
また、制御装置2において、少なくとも1か所に故障が生じた場合に、電圧振幅m等に関わらず、比例ゲインKpd,Kpqが第1比例値Kp_Hに設定されてもよい。この場合、故障発生時におけるシステムの安定性を向上させて、二次故障が発生することを抑制できる。
【0104】
実施の形態3.
次に、実施の形態3について述べる。本実施の形態では、実施の形態1または2で説明した技術を、電動パワーステアリング装置に含まれる回転機の制御に適用する場合を説明する。
図14に示すように、本実施の形態に係る電動パワーステアリング装置100は、制御装置3と、ハンドル101と、回転機10と、トルク検出器103と、を備えている。電動パワーステアリング装置100は、車両に搭載される。ハンドル101は運転手によって操作される。ハンドル101の操作により、車両の前輪102が駆動させられる。制御装置3の基本的な構成は、実施の形態1における制御装置1と同様であるため、詳細な説明を省略し、異なる点を中心に述べる。
【0105】
トルク検出器103は,運転者によるハンドル101の操舵トルクTsを検出し、検出結果を制御装置3に出力する。回転機10の駆動力は,駆動力伝達機構104を介して、車両の操舵系100sに伝達される。操舵系100sには、ハンドル101、前輪102等が含まれている。電動パワーステアリング装置100は、回転機10が生じさせる駆動力をアシストトルクとして用い、運転者による車両の操舵を補助する。
【0106】
制御装置3における電流指令値演算器21は、実施の形態1とはトルク電流指令値(q軸電流指令値iq_ref)に関する演算が異なるため,その点について述べる。電流指令値演算器21には,操舵トルクTsおよび車の走行速度Sが入力され、これらの入力に基づいて,q軸電流指令値iq_refを演算する。
【0107】
図15は、操舵トルクTsおよび車の走行速度Sに応じたq軸電流指令値iq_refの設定値を示すグラフである。このグラフに示すように、操舵トルクTsが大きいほど電流指令値iq_refの値が大きくなり、且つその変化の勾配が大きくなる。又、車の走行速度Sが大きいほど電流指令値iq_refの値が小さくなる。尚、回転角速度ωに基づいて求められたダンピングトルク等を更に加味して、電流指令値iq_refの値を定めてもよい。
【0108】
図15に示す通り、車の走行速度Sが低いほど,操舵トルクTsに対するq軸電流指令値iq_refの勾配が大きくなる。その結果、操舵トルクTsに検出ノイズが含まれた場合に、q軸電流指令値iq_refへの影響が大きくなり、回転機10からの振動・騒音の発生、あるいはハンドル101への手触りの不快感などにつながる。
【0109】
そこで、本実施の形態3における電圧指令値演算部24においては,車の走行速度Sに応じて,d軸電圧指令値演算器24dにおける比例ゲインKpdおよびq軸電圧指令値演算器24qにおける比例ゲインKpqを、図16のように変動させる。「Kp_H1」を第1速度参照値といい、「Kp_L1」を第2速度参照値という。第2速度参照値Kp_L1は、第1速度参照値Kp_H1より小さい。
【0110】
車の走行速度Sがs1以下の場合,比例ゲインKpd,Kpqの値が、Kp_L1に設定される。このように、比例ゲインKpd,Kpqの値を低く設定することで,操舵トルクTsの脈動に対してq軸電流指令値iq_refが敏感に反応することを抑制できる。また、車の走行速度Sがs2以上の場合、操舵トルクTsの脈動によりq軸電流指令値iq_refが受ける影響が小さいため、比例ゲインKpd,Kpqを高い値Kp_H1に設定する。このように、車の走行速度Sに応じて比例ゲインKpd,Kpqを切り替えることで,操舵トルク検出値に含まれるノイズに起因する回転機10の振動・異音の発生や、運転者がハンドル101から不快感を感じることを抑制した電動パワーステリング装置を提供できる。
【0111】
図16のように、車の走行速度Sがs1~s2の範囲内の場合は、比例ゲインKpd,Kpqの値をKp_H1~Kp_L1の範囲内で連続的に変化させる。これにより、比例ゲインKpd,Kpqの設定値が急激に切り替わることで運転者が感じる違和感等を抑制することができる。なお、比例ゲインKpd,KpqをKp_H1とKp_L1との間でステップ状に切り替えてもよい。
【0112】
以上の通り、本実施の形態に係る電動パワーステアリング装置100は、制御装置3と、交流回転機10と、交流回転機10の駆動力を車両の操舵系100sに伝達する駆動力伝達機構104と、を備える。このような構成により、静粛性と操舵安定性を両立した電動パワーステアリング装置100を提供できる。
【0113】
また、本実施の形態において、比例ゲインKpd,Kpqは、第1速度参照値Kp_H1と、第1速度参照値Kp_H1よりも小さい第2速度参照値Kp_L1と、の間で切り替えられる。電圧指令値演算部24は、車両の走行速度Sが閾値s2よりも小さい場合に、比例ゲインKpd,Kpqを第1速度参照値Kp_H1よりも低い値に設定する。この構成によれば、操舵音が響きやすい、車速が低い状況において、静粛性を高めることができる。
【0114】
実施の形態4
次に、実施の形態4について述べる。図17に示すように、本実施の形態に係る電動パワーステアリング装置100は、実施の形態3と同様の制御装置3を備えている。本実施の形態4は,実施の形態3で述べた技術に対し,電圧指令値演算部24に入力する検出値を車の走行速度Sから操舵トルクTsへと変更する点と,電圧指令値演算部24における演算内容の一部が異なる点と、において相違する。その他の点は、実施の形態3と同様であるため、説明を省略する。
【0115】
実施の形態3で説明した図16において,車の走行速度Sが低速の場合も高速の場合も、操舵トルクTsが小さいほど、操舵トルクTsに対するq軸電流指令値iq_refの傾きが小さい。つまり、操舵トルクTsが小さいほど、操舵の安定性に余裕が生じるため,実施の形態2で述べた制限ゲインKを低下させる余地がある。そこで,本実施の形態4における電圧指令値演算部24においては、図18に示すように、制限ゲインKを変動させる。
【0116】
図18において、「ΔTs」は操舵トルクTsの単位時間あたりの変化量であり、「K_H1」は第1トルク参照値であり、「K_L1」は第2トルク参照値である。第2トルク参照値K_L1は、第1トルク参照値K_H1より小さい。制限ゲインKは、変化量ΔTsの大きさに応じて、K_L1~K_H1の範囲で変動する。具体的には、ΔTsが第1トルク閾値ΔTs1以下の場合、制限ゲインKの値がK_L1に設定される。ΔTsが第2トルク閾値ΔTs2以上の場合、制限ゲインKの値がK_H1に設定される。ΔTsがΔTs1~ΔTs2の範囲内の場合は、制限ゲインKの値がK_L1~K_H1の範囲内で連続的に変動する。これによって,操舵トルクTsの変動が小さい領域における、回転機10の振動・騒音を低減することが可能である。
【0117】
図18では,横軸をΔTsとした。ただし、図15のグラフの勾配(Δiq_ref/ΔTs)を横軸としても同様の効果が得られる。上記勾配(Δiq_ref/ΔTs)を、本明細書では「電流トルク勾配」という。つまり、電流トルク勾配とは、操舵トルクTsの変化量(ΔTs)に対するq軸電流指令値iq_refの変化量(Δiq_ref)の比である。電流トルク勾配が閾値より小さい場合に、比例ゲインKpd,Kpqを小さい値Kp_L1に設定してもよい。また、電流指令値iq_ref、id_refの少なくとも一方が閾値より小さい場合、あるいは操舵トルクTsが閾値より小さい場合に、比例ゲインKpd,Kpqを小さい値(例えばKp_L1)に設定してもよい。
【0118】
操舵トルクTsまたは電流指令値iq_ref、id_refが小さい場合は、操舵音が目立ちやすくなる。そこで、本実施の形態4では、電流指令値iq_ref、id_refが閾値以下の場合、あるいは、操舵トルクTsとトルク電流指令値iq_refとの関係を表すグラフにおける勾配(電流トルク勾配Δiq_ref/ΔTs)が閾値より小さい場合、あるいは、操舵トルクTsの単位時間あたりの変化量ΔTsが第1トルク閾値ΔTs1より小さい場合に、比例ゲインKpd,Kpqを第1速度参照値Kp_H1よりも低い値に設定する構成を提案する。これにより、操舵音が目立ちやすい状況において、非干渉制御を弱めて、静粛性を確保することができる。
【0119】
実施の形態3、4において、非干渉制御に伴ってインダクタンス増幅器106d,106qに回転角速度ωを入力することに代えて、回転角速度ωが低域通過フィルタを通過した結果を入力してもよい。低域通過フィルタのカットオフ周波数は、電動パワーステアリング装置100の操舵周波数の上限値(例えば5Hz)より高いとよい。この場合,非干渉制御を導入することで発生する、回転角速度ωに含まれるノイズ成分に起因する回転機10の異音・振動を、低減する効果を奏する。したがって、静粛な電動パワーステアリング装置100を提供することができる。
【0120】
以上、実施の形態1~4について説明したが、本開示は、上記の実施の形態に限定されず、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で自由に変更が可能である。また、上述した実施の形態1~4は、適宜組み合わせることも可能である。
【0121】
尚、上述した回転機の制御装置1~4及び電動パワーステアリング装置100が備える各構成は、内部に、コンピュータシステムを有している。そして、上述した回転機の制御装置1~4及び電動パワーステアリング装置100が備える各構成の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより上述した回転機の制御装置1~4及び電動パワーステアリング装置100が備える各構成における処理を行ってもよい。ここで、「記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行する」とは、コンピュータシステムにプログラムをインストールすることを含む。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS及び周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0122】
また、「コンピュータシステム」は、インターネット又はWAN、LAN、専用回線等の通信回線を含むネットワークを介して接続された複数のコンピュータ装置を含んでもよい。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。このように、プログラムを記憶した記録媒体は、CD-ROM等の非一過性の記録媒体であってもよい。
【0123】
また、記録媒体には、当該プログラムを配信するために配信サーバからアクセス可能な内部又は外部に設けられた記録媒体も含まれる。尚、プログラムを複数に分割し、それぞれ異なるタイミングでダウンロードした後に回転機の制御装置1~4及び電動パワーステアリング装置100が備える各構成で合体される構成であってもよく、また、分割されたプログラムのそれぞれを配信する配信サーバが異なっていてもよい。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、ネットワークを介してプログラムが送信された場合のサーバ又はクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また、上記プログラムは、上述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、上述した機能をコンピュータシステムに既に記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【符号の説明】
【0124】
1~4…制御装置 10…交流回転機 12…インバータ 22…電流検出器 24d、24q…(第1軸電圧指令値演算器、第2軸電圧指令値演算器) 100…電動パワーステアリング装置 104…駆動力伝達機構 id,iq…検出電流値 id_ref,iq_ref…電流指令値 iq_ref…トルク電流指令値 iu,iv,iw…回転機電流 K…制限ゲイン K_H…第1制限値 K_L…第2制限値 Kp_H…第1比例値 Kp_H1…第1速度参照値 Kp_L…第2比例値 Kp_L1…第2速度参照値 Kpd,Kpq…比例ゲイン
Ld…d軸インダクタンス m…電圧振幅 m1…電圧第一閾値 m2…電圧第二閾値 n1…回転数第一閾値 n2…回転数第二閾値 Ru,Rv,Rw…シャント抵抗 S…走行速度 100s…車両の操舵系 Sun,Svn,Swn…下アームスイッチング素子 Sup,Svp,Swp…上アームスイッチング素子 Ts…操舵トルク vd,vq…(第1軸の電圧指令値、第2軸の電圧指令値) VRu,VRv,VRw…両端電圧 vu,vv,vw…電圧指令値 ΔTs…操舵トルクの変化量 ω…回転角速度 ω1…回転角速度第一閾値 ω2…回転角速度第二閾値 ωcc…応答角周波数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18