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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-23
(45)【発行日】2025-01-31
(54)【発明の名称】抗張体検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/83 20060101AFI20250124BHJP
【FI】
G01N27/83
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2024536523
(86)(22)【出願日】2023-02-01
(86)【国際出願番号】 JP2023003221
(87)【国際公開番号】W WO2024161547
(87)【国際公開日】2024-08-08
【審査請求日】2024-06-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116964
【弁理士】
【氏名又は名称】山形 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100120477
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 賢改
(74)【代理人】
【識別番号】100135921
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100203677
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 力
(72)【発明者】
【氏名】井上 甚
(72)【発明者】
【氏名】水田 崇聖
(72)【発明者】
【氏名】木村 康樹
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/077570(WO,A1)
【文献】特開2022-070599(JP,A)
【文献】特開2012-159439(JP,A)
【文献】特開平10-111276(JP,A)
【文献】特開平09-089844(JP,A)
【文献】特開平06-316394(JP,A)
【文献】特開昭62-085856(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0382010(US,A1)
【文献】特表2012-514207(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72-27/9093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗張体を含む物体であって、前記抗張体の延在方向に移動可能で、且つ所定の振動周期が存在する物体の前記抗張体の検査装置であって、
前記物体に対向し、前記移動の方向に前記振動周期に前記移動の速度を乗算した長さよりも長い間隔を開けて配置された複数の磁気センサと、
前記複数の磁気センサの出力波形を、前記間隔を前記移動の速度で割った時間だけオフセットして合成し、合成波形から規定値よりも振幅の小さい成分をカットした波形に基づいて前記抗張体の欠陥を検出する処理装置と
を備えたことを特徴とする抗張体検査装置。
【請求項2】
前記処理装置は、加算処理または乗算処理により、前記複数の磁気センサの出力波形を合成する
ことを特徴とする請求項1に記載の抗張体検査装置。
【請求項3】
前記処理装置は、相互相関処理により、前記複数の磁気センサの出力波形を合成する
ことを特徴とする請求項1に記載の抗張体検査装置。
【請求項4】
前記磁気センサに対し、前記抗張体の延在方向の両側に、前記抗張体を着磁する着磁器を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の抗張体検査装置。
【請求項5】
前記磁気センサに対し、前記移動の方向の前方に、前記抗張体を着磁する着磁器を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の抗張体検査装置。
【請求項6】
前記着磁器は、永久磁石を有する
ことを特徴とする請求項4または5に記載の抗張体検査装置。
【請求項7】
前記着磁器は、電磁石を有する
ことを特徴とする請求項4または5に記載の抗張体検査装置。
【請求項8】
前記磁気センサが収容された筐体をさらに備え、
前記着磁器は、前記筐体とは離間して設けられている
ことを特徴とする請求項4または5に記載の抗張体検査装置。
【請求項9】
前記物体は、乗客コンベアの移動手摺であり、
前記抗張体は、前記移動手摺のワイヤロープである
ことを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項に記載の抗張体検査装置。
【請求項10】
前記物体は、動力伝達ベルトであり、
前記抗張体は、前記動力伝達ベルトのワイヤロープである
ことを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項に記載の抗張体検査装置。
【請求項11】
前記物体は、タイヤであり、
前記抗張体は、前記タイヤのカーカスまたはベルトである
ことを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項に記載の抗張体検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抗張体検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレータ等の乗客コンベアの移動手摺等には、抗張体としてワイヤロープが内蔵されている。ワイヤロープは、例えば、素線を撚り合わせたものである。ワイヤロープの素線は、疲労により破断する場合がある。
【0003】
例えば、ワイヤロープの破断を検出する技術として、ワイヤロープを磁石で強く磁化し、ワイヤロープの断線箇所から漏れる漏洩磁束をコイルで検出する技術が開発されている(例えば、特許文献1,2参照)。また、ワイヤロープの破断によるほつれを磁気センサで検出する検査装置も開発されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2022-70599号公報(図3(A),(B)参照)
【文献】国際公開WO2007/116884(図3参照)
【文献】特許7020564号公報(図4参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、乗客コンベアの移動手摺は、ワイヤロープの検査中に振動する可能性がある。移動手摺の振動が生じると、ワイヤロープと磁気センサ等との距離が変化し、検出結果に影響する。
【0006】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、振動の影響を抑制し、検出精度の高い抗張体検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の抗張体検査装置は、抗張体を含む物体であって、抗張体の延在方向に移動可能で、且つ所定の振動周期が存在する物体の抗張体の検査装置であって、物体に対向し、当該移動の方向に物体の振動周期に当該移動の速度を乗算した長さよりも長い間隔を開けて配置された複数の磁気センサと、複数の磁気センサの出力波形を、当該間隔を相対移動の速度で割った時間だけオフセットして合成し、合成波形から規定値よりも振幅の小さい成分をカットした波形に基づいて抗張体の欠陥を検出する処理装置とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示の抗張体検査装置は、複数の磁気センサの出力波形を、その間隔を相対移動速度で割った時間だけオフセットして合成するため、振動の影響を排除し、正確な欠陥検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1の抗張体検査装置を示す斜視図である。
図2】実施の形態1の抗張体検査装置を示す断面図である。
図3】実施の形態1の磁気センサによる検出原理を示す模式図である。
図4】実施の形態1の第1の磁気センサの出力波形と第2の磁気センサの出力波形を示す図(A),(B)である。
図5】実施の形態1の第1の磁気センサの出力波形と第2の磁気センサのオフセット処理後の出力波形とを示す図(A),(B)である。
図6】実施の形態1の第1の磁気センサの出力波形と第2の磁気センサの処理後の出力波形とを合成した合成波形を示す図である。
図7】実施の形態2の抗張体検査装置を示す斜視図である。
図8】実施の形態2の抗張体検査装置を示す断面図である。
図9】実施の形態3の抗張体検査装置を示す断面図である。
図10】実施の形態4の抗張体検査装置を示す断面図である。
図11】実施の形態5の抗張体検査装置を示す断面図である。
図12】実施の形態5の抗張体検査装置の制御系を示す断面図である。
図13】実施の形態1の抗張体検査装置をベルトロープのワイヤロープの検査に用いた例を示す模式図である。
図14】実施の形態1の抗張体検査装置をタイヤのカーカスの検査に用いた例を示す斜視図である。
図15】実施の形態1の抗張体検査装置をタイヤのカーカスの検査に用いた例を示す断面図である。
図16】実施の形態1の抗張体検査装置をタイヤのベルトの検査に用いた例を示す斜視図である。
図17】実施の形態1の抗張体検査装置をタイヤのベルトの検査に用いた例を示す断面図である。
図18】実施の形態1の抗張体検査装置をタイヤのベルトの検査に用いた別の例を示す断面図である。
図19】実施の形態1の抗張体検査装置をタイヤのベルトの検査に用いた他の例を示す断面図である。
図20】実施の形態1の抗張体検査装置をコンクリート構造物の鉄筋の検査に用いた例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、実施の形態に係る抗張体検査装置について、図面を参照して説明する。以下の実施の形態は例にすぎず、実施の形態を適宜変更してもよく、また各実施の形態を適宜組み合わせてもよい。
【0011】
実施の形態1.
<抗張体検査装置1の構成>
図1は、実施の形態1の抗張体検査装置1を示す斜視図である。図2は、実施の形態1の抗張体検査装置1を示す断面図である。図1に示すように、抗張体検査装置1は、移動手摺6の上部に設置されている。移動手摺6は、乗客コンベアに設けられている。乗客コンベアは、例えばエスカレータ、動く歩道などである。
【0012】
移動手摺6は、樹脂製の基体62と、基体62の内部に設けられた抗張体としてのワイヤロープ61とを備える。ワイヤロープ61は、磁性体で構成されている。
【0013】
基体62は、例えば、ゴム、ポリウレタン等の樹脂で構成される。基体62は無端状である。すなわち、基体62は、長尺状の樹脂部材の長手方向両端を接合したものである。また、基体62は、その延在方向に直交する断面において、平坦部62aと、その幅方向の両側のU字状の湾曲部62bとを有する。
【0014】
ワイヤロープ61は、例えば、炭素鋼等の金属ワイヤで形成された素線を撚り合わせたものである。ワイヤロープ61は、基体62の平坦部62aの内部に、幅方向に複数並んで配列されている。ワイヤロープ61は、基体62と同様に、無端状である。
【0015】
以下では、移動手摺6の幅方向をX方向とし、移動手摺6の延在方向をY方向とする。X方向とY方向の両方に直交する方向をZ方向とする。ここでは、Z方向は上下方向である。図1等ではY方向は直線方向であるが、例えば周方向であっても良い。
【0016】
抗張体検査装置1は、移動手摺6の平坦部62aに対向するように配置される。抗張体検査装置1は、第1の磁気センサ20と、第2の磁気センサ30と、信号処理回路12と、これらが収容された筐体11とを備える。
【0017】
複数の磁気センサである第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30は、抗張体としてのワイヤロープ61を含む物体である移動手摺6に対向し、移動手摺6に対してワイヤロープ61の延在方向(すなわちY方向)に相対移動可能に設けられる。
【0018】
第1の磁気センサ20と第2の磁気センサ30とは、Y方向に間隔Dを開けて配置されている。間隔Dは、センサ間距離とも称する。また、第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30は、移動手摺6を横切る方向、すなわちX方向に長く形成されている。
【0019】
図2に示すように、筐体11は、移動手摺6に対し、ワイヤロープ61の延在方向(すなわちY方向)に相対移動可能である。ここでは、筐体11の移動手摺6に対する移動方向を、+Y方向とする。また、筐体11の移動手摺6に対する相対移動の速度を、相対移動速度Vとする。
【0020】
筐体11は専用のモータの駆動力で+Y方向に移動させてもよく、筐体11の位置を固定し、移動手摺6を-Y方向に移動させてもよい。移動手摺6を-Y方向に移動させる方法であれば、エスカレータあるいは動く歩道の既存の駆動源を利用することができるため、専用のモータを設ける必要がない。
【0021】
ここでは、筐体11の移動手摺6に対する相対移動方向の前方(すなわち+Y方向)に第1の磁気センサ20が配置され、後方(すなわち-Y方向)に第2の磁気センサ30が配置されている。
【0022】
第1の磁気センサ20は、移動手摺6に対向するように配置された検出素子21と、検出素子21を挟んで移動手摺6と反対側(ここでは+Z方向)に配置された検出用磁石22とを有する。
【0023】
第1の磁気センサ20の検出素子21および検出用磁石22は、移動手摺6を横切る方向、すなわちX方向に延在している。検出素子21および検出用磁石22のX方向の長さは、移動手摺6の平坦部62a(図1)の幅以上であることが望ましい。
【0024】
検出素子21は、磁気検出素子、磁気インピーダンス素子、またはピックアップコイルで構成される。磁気検出素子とは、例えば、AMR(Anisotropic MagnetoResistance)素子、GMR(Giant MagnetoResistance)素子、またはTMR(Tunnel MagnetoResistance)素子等である。検出素子21は、磁界の変化を検出する。
【0025】
検出用磁石22は、例えば、永久磁石で構成される。検出用磁石22は、移動手摺6側にN極を有し、その反対側にS極を有する。検出用磁石22と移動手摺6との間に、検出素子21が位置する。検出用磁石22は、移動手摺6に作用する磁界(後述する検出用磁界F)を発生する。なお、検出用磁石22は、電磁石であってもよい。
【0026】
第2の磁気センサ30は、移動手摺6に対向するように配置された検出素子31と、検出素子31を挟んで移動手摺6と反対側(ここでは+Z方向)に配置された検出用磁石32とを有する。検出素子31は第1の磁気センサ20の検出素子21と同様に構成され、検出用磁石32は第1の磁気センサ20の検出用磁石22と同様に構成されている。
【0027】
筐体11の例えばY方向両端部には、移動手摺6に当接する一対のローラ13が設けられる。このローラ13により、第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30の検出素子21,31と移動手摺6との間隔が一定に保たれる。すなわち、ローラ13は、間隔保持部材として機能する。
【0028】
信号処理回路12は、ケーブル102(図1)を介して検出素子21に接続され、ケーブル103(図1)を介して検出素子31に接続されている。また、信号処理回路12は、リード線14を介して制御装置15に接続されている。
【0029】
信号処理回路12は、第1の磁気センサ20の検出素子21および第2の磁気センサ30の検出素子31の出力信号を受信し、制御装置15に送信する。なお、信号処理回路12は必ずしも筐体11に収容されていなくてもよく、検出素子21,31の出力信号を検知可能な位置に配置されていればよい。
【0030】
制御装置15は、抗張体検査装置1の外部に備えられたコンピュータ等である。制御装置15は、CPU(Central Processing Unit)と、メモリ等の記憶装置と、情報を表示する表示部と、使用者が情報を入力する入力部とを備える。制御装置15は、筐体11から離れた位置に配置することができる。
【0031】
<第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30による欠陥検出原理>
図3は、第1の磁気センサ20によってワイヤロープ61の欠陥を検出する原理を示す模式図である。検出用磁石22はN極22aを移動手摺6側に向け、S極22bを反対側に向けて配置されている。検出素子21は、検出用磁石22のN極22aと移動手摺6との間に配置されている。
【0032】
検出用磁石22のN極22aから出た磁束は、検出用磁石22のS極22bに戻る。すなわち、検出用磁石22により検出用磁界Fが生じる。この検出用磁界F中に、検出素子21および移動手摺6が位置する。そのため、移動手摺6のワイヤロープ61に欠陥がなければ、検出素子21は常に一定の磁界を検出する。
【0033】
ワイヤロープ61の欠陥とは、例えば、ワイヤロープ61の素線61cのほつれである。移動手摺6のワイヤロープ61の素線61cが破断してほつれが生じ、素線61cが移動手摺6の表面に飛び出すと、検出素子21に作用する検出用磁界Fに変化が生じ、検出素子21はその変化を検出する。検出素子21の出力信号は、信号処理回路12に送られる。
【0034】
第2の磁気センサ30による検出原理も、第1の磁気センサ20による検出原理と同様である。
【0035】
<第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30の出力信号の処理>
図4(A)は、第1の磁気センサ20の出力波形を示す図であり、図4(B)は、第2の磁気センサ30の出力波形を示す図である。図4(A)の縦軸は第1の磁気センサ20の出力電圧を示し、横軸は時間Tを示す。同様に、図4(B)の縦軸は第2の磁気センサ30の出力電圧を示し、横軸は時間Tを示す。
【0036】
図4(A)に示すように、第1の磁気センサ20の出力波形は、第1の磁気センサ20がワイヤロープ61の素線61cのほつれ部分を通過する時間T0の前後で正と負に変動する。出力波形のうちワイヤロープ61の素線61cのほつれによる変動部分を、ほつれ成分B1とする。
【0037】
移動手摺6には、製造時あるいは使用時に凹凸が生じている場合があり、ワイヤロープ61の検査時に凹凸箇所で振動が生じる場合がある。振動が発生した時間をT1とすると、第1の磁気センサ20の出力波形は、時間T1の前後で変動する。出力波形のうち移動手摺6の振動による変動部分を、振動成分B2とする。
【0038】
図4(B)に示すように、第2の磁気センサ30の出力波形は、第2の磁気センサ30がワイヤロープ61の素線61cのほつれ部分を通過する時間T2の前後で正と負に変動する。すなわち、時間T2の前後でほつれ成分B1が現れる。
【0039】
第1の磁気センサ20がほつれ部分を通過する時間T1(図4(A))と、第2の磁気センサ30がほつれ部分を通過する時間T2との差ΔTは、磁気センサ20,30の間隔Dを、筐体11の移動手摺6に対する相対移動速度Vで割った値(ΔT=D/V)に相当する。
【0040】
一方、移動手摺6の振動は、第1の磁気センサ20と第2の磁気センサ30とで同時に検出される。そのため、第2の磁気センサ30の出力波形は、第1の磁気センサ20の出力波形と同様、時間T1の前後で変動する。すなわち、時間T1の前後で振動成分B2が現れる。
【0041】
実施の形態1の抗張体検査装置1の信号処理回路12は、第1の磁気センサ20の出力波形と第2の磁気センサ30の出力波形とを、第2の磁気センサ30の出力波形をオフセット処理したのちに合成する。この点について、以下に説明する。
【0042】
図5(A)は、図4(A)の第1の磁気センサ20の出力波形を示す図である。図5(B)は、図4(B)に示した第2の磁気センサ30の出力波形を-ΔTだけオフセット処理した波形を示す図である。
【0043】
図5(B)のオフセット処理後の波形では、図5(A)と同様、時間T0の前後でワイヤロープ61の素線61cのほつれによるほつれ成分B1が現れる。
【0044】
このオフセット処理後の波形では、移動手摺6の振動による変動部分も-ΔTだけオフセットされるため、時間T1-ΔTの前後で振動による振動成分B2が現れる。言い換えると、図5(B)の出力波形中の振動成分B2は、図5(A)の出力波形中の振動成分B2よりも、ΔTだけ早いタイミングで現れる。
【0045】
図6は、第1の磁気センサ20の出力波形(図5(A))と、第2の磁気センサ30のオフセット処理後の出力波形(図5(B))とを合成した合成波形を示す図である。合成方法は、加算、乗算、または相互相関が望ましい。
【0046】
ほつれ成分B1は、第1の磁気センサ20の出力波形(図5(A))と第2の磁気センサ30のオフセット処理後の出力波形(図5(B))とで、同じ時間T0に発生している。そのため、図6の合成波形では、ほつれ成分B1が増幅される。
【0047】
これに対し、振動成分B2は、第1の磁気センサ20の出力波形(図5(A))と第2の磁気センサ30のオフセット処理後の出力波形(図5(B))とで、異なる時間に発生している。そのため、図6の合成波形では、振動成分B2は増幅されず、分散したままとなる。
【0048】
すなわち、図6の合成波形では、ほつれ成分B1は増幅されるが、振動成分B2は増幅されないため、ほつれ成分B1と振動成分B2との振幅の違いが大きくなる。そのため、ほつれ成分B1に基づいてワイヤロープ61の素線61cのほつれの有無を判断することが可能になり、振動の影響を排除することができる。
【0049】
合成波形中の振動成分B2は、例えば、規定値よりも振幅の小さい成分をカットすることにより、除去してもよい。振動成分B2を除去すれば、ほつれ成分B1に基づくワイヤロープ61の素線61cのほつれの有無の判断を、より正確に行うことができる。
【0050】
信号処理回路12は、合成波形に基づいてワイヤロープ61の素線61cのほつれを検出した場合には、制御装置15に欠陥検出信号を送信する。制御装置15は、信号処理回路12からの欠陥検出知信号に基づき、表示部にワイヤロープ61の欠陥が検出された旨を示すメッセージ等を表示する。
【0051】
なお、ここでは信号処理回路12が出力波形のオフセットおよび合成と、それに基づく欠陥の検出とを行うと説明したが、制御装置15がこれらの処理を行ってもよい。すなわち、信号処理回路12および制御装置15は、処理装置を構成する。
【0052】
第1の磁気センサ20と第2の磁気センサ30との間隔Dは、移動手摺6の振動周期に相対移動速度Vを乗算した長さよりも長いことが望ましい。このようにすれば、第1の磁気センサ20の出力波形と第2の磁気センサ30のオフセット後の出力波形とを合成する際に、互いの振動成分B2が重なり合わないようにすることができる。そのため、振動の影響を効果的に排除することができる。
【0053】
なお、移動手摺6の振動周期は、移動手摺6の形状および製造時または使用時における凹凸の発生状況等から算出することができる。
【0054】
上記の通り、第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30の出力波形(図5(A),(B))を合成して合成波形(図6)を得る方法としては、加算処理、乗算処理、または相互相関処理が望ましい。
【0055】
加算処理または乗算処理を用いた場合には、合成波形のうちの振動成分B2を、ほつれ成分B1と比較して十分小さくすることができ、振動の影響を効果的に排除することができる。相互相関処理を用いた場合には、振動成分B2を、ほつれ成分B1に対してさらに小さくすることができ、振動の影響をより効果的に排除することができる。
【0056】
ここでは、第1の磁気センサ20の出力波形および第2の磁気センサ30の出力波形のうち、第2の磁気センサ30の出力波形を-ΔTだけオフセットする例について説明したが、第1の磁気センサ20の出力波形を+ΔTだけオフセットしてもよい。
【0057】
また、ここでは2つの磁気センサ20,30の出力波形を合成する例について説明したが、3つ以上の磁気センサの出力波形を合成しても良い。例えば、3つの磁気センサを一定の間隔Dで配置した場合には、+Y方向の1番目の磁気センサの出力波形と、2番目の磁気センサの出力波形を-ΔT(=D/V)だけオフセットした波形と、3番目の磁気センサの出力波形を-2×ΔT(=2×D/V)だけオフセットした波形とを合成すればよい。
【0058】
<実施の形態1の効果>
以上説明したように、実施の形態1の抗張体検査装置1は、ワイヤロープ61(すなわち抗張体)を含む移動手摺6(すなわち物体)に対向し、移動手摺6に対してワイヤロープ61の延在方向に相対移動に設けられ、その相対移動の方向に間隔Dを開けて配置された第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30と、第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30の出力波形を、間隔Dを相対移動速度Vで割った時間ΔTだけオフセットして合成し、合成波形に基づいてワイヤロープ61の欠陥を検出する信号処理回路12または制御装置15(すなわち処理装置)とを備える。
【0059】
このように、第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30の出力波形をオフセットして合成することにより、振動の影響を抑制し、ワイヤロープ61の素線61cのほつれを高精度で検出することができる。
【0060】
また、第1の磁気センサ20と第2の磁気センサ30との間隔Dを、移動手摺6の振動周期に相対移動速度Vを乗算した長さよりも長くすることで、それぞれの振動波形の振動成分B2同士が重なり合わないようにすることができ、振動の影響を効果的に排除することができる。
【0061】
また、出力波形の合成に加算処理または乗算処理を用いることにより、合成波形中の振動成分B2を十分小さくすることができ、振動の影響を効果的に排除することができる。
【0062】
また、出力波形の合成に相互相関処理を用いることにより、合成波形中の振動成分B2をさらに小さくすることができ、振動の影響をより効果的に排除することができる。
【0063】
また、第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30が共通の筐体11に収容され、筐体11に当接するローラ13を有するため、検出素子21,31と移動手摺6との間隔を一定に保つことができ、第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30による磁界の検出精度を向上することができる。
【0064】
実施の形態2.
図7は、実施の形態2の抗張体検査装置1Aを示す斜視図である。図8は、実施の形態2の抗張体検査装置1Aを示す断面図である。実施の形態2の抗張体検査装置1Aは、着磁器41,42を備える点で、実施の形態1の抗張体検査装置1と相違する。
【0065】
図8に示すように、着磁器41は、第1の磁気センサ20の+Y方向に配置されている。着磁器41は、永久磁石41aを有する。永久磁石41aは、Y方向に対向する第1の磁極部411および第2の磁極部412と、これらの磁極部411,412をつなぐヨーク部410とを有する。第1の磁極部411は+Y方向に位置し、第2の磁極部412は-Y方向に位置する。
【0066】
ここでは永久磁石41aの第1の磁極部411がN極、第2の磁極部412がS極であるが、極性は逆であってもよい。永久磁石41aの第1の磁極部411と第2の磁極部412との間には、-Y方向に向かう磁界が形成される。この磁界によって、移動手摺6のワイヤロープ61が着磁される。ワイヤロープ61の着磁とは、ワイヤロープ61内の磁化を増加させることを言う。
【0067】
着磁器42は、第2の磁気センサ30の-Y方向に配置されている。着磁器42は、永久磁石42aを有する。永久磁石42aは、Y方向に対向する第1の磁極部421および第2の磁極部422と、これらの磁極部421,422をつなぐヨーク部420とを有する。第1の磁極部421は+Y方向に位置し、第2の磁極部422は-Y方向に位置する。
【0068】
ここでは永久磁石42aの第1の磁極部421がS極、第2の磁極部422がN極であるが、極性は逆であってもよい。永久磁石42aの第1の磁極部421と第2の磁極部422との間には、上述した永久磁石41aとは逆方向の磁界、すなわち+Y方向に向かう磁界が形成される。
【0069】
着磁器41,42の永久磁石41a,42aはいずれも、移動手摺6を横切る方向、すなわちX方向に延在している。また、永久磁石41a,42aのX方向の長さは、移動手摺6の平坦部62a(図7)の幅以上であることが望ましい。
【0070】
第1の磁気センサ20、第2の磁気センサ30、着磁器41,42および信号処理回路12は、筐体11に収容される。筐体11の例えばY方向両端部には、実施の形態1と同様に、移動手摺6に当接するローラ13が設けられている。
【0071】
検査時には、筐体11を移動手摺6に対して+Y方向に相対移動させる。着磁器41の永久磁石41aの磁界によってワイヤロープ61が着磁される。
【0072】
ワイヤロープ61の着磁された部分に第1の磁気センサ20が到達すると、第1の磁気センサ20の検出素子21には、検出用磁石22による検出用磁界と、ワイヤロープ61内の残留磁化による磁界との合成磁界が及ぶ。ワイヤロープ61の素線61cのほつれが生じた場合には、検出素子21は合成磁界の変化を検出する。
【0073】
続いて、ワイヤロープ61の着磁された部分に第2の磁気センサ30が到達すると、第2の磁気センサ30の検出素子31には、検出用磁石32による検出用磁界と、ワイヤロープ61内の残留磁化による磁界との合成磁界が及ぶ。ワイヤロープ61の素線61cのほつれが生じた場合には、検出素子31は合成磁界の変化を検出する。
【0074】
このように第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30の検出素子21,31で合成磁界を検出するため、ワイヤロープ61の素線61cのほつれの検出精度を向上することができる。
【0075】
抗張体検査装置1Aは、磁気センサ20,30の+Y方向に着磁器41を有し、-Y方向に着磁器42を有しているため、抗張体検査装置1Aの筐体11の向きを逆にしてワイヤロープ61の検査を行うこともできる。この場合には、着磁器42の永久磁石42aでワイヤロープ61を着磁したのち、第2の磁気センサ30と第1の磁気センサ20とで磁界を検出する。
【0076】
なお、抗張体検査装置1Aは、ここでは2つの着磁器41,42を有しているが、着磁器41,42のうちの一方のみを有していてもよい。すなわち、第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30に対して、筐体11の移動手摺6に対する相対移動方向の前方(すなわち+Y方向)に着磁器が配置されていればよい。
【0077】
上述した点を除き、実施の形態2の抗張体検査装置1Aは、実施の形態1の抗張体検査装置1と同様に構成されている。
【0078】
以上説明したように、実施の形態2の抗張体検査装置1Aでは、第1の磁気センサ20の+Y方向に着磁器41が設けられているため、磁界の検出前に着磁器41によってワイヤロープ61を着磁することができる。そのため、磁気センサ20,30の検出素子21,31は、検出用磁石22,32による検出用磁界とワイヤロープ61内の残留磁化による磁界との合成磁界を検出することができ、検出精度を向上することができる。
【0079】
また、第1の磁気センサ20の+Y方向に着磁器41が設けられ、第2の磁気センサ30の-Y方向に着磁器42が設けられているため、筐体11の向きを逆にしてワイヤロープ61の検査を行うこともでき、利便性を向上することができる。
【0080】
実施の形態3.
図9は、実施の形態3の抗張体検査装置1Bを示す斜視図である。実施の形態3の抗張体検査装置1Bは、電磁石を有する着磁器50を備える点で、実施の形態1の抗張体検査装置1と相違する。
【0081】
着磁器50は、第1の磁気センサ20の+Y方向に配置されている。着磁器50は、磁性体51と、磁性体51に巻かれたコイル52と、コイル52に接続された電源53とを有する。磁性体51およびコイル52は、電磁石を構成する。
【0082】
磁性体51は、Y方向に対向する第1の磁極部511および第2の磁極部512と、これら磁極部511,512をつなぐヨーク部510とを有する。第1の磁極部511は+Y方向に位置し、第2の磁極部512は-Y方向に位置する。
【0083】
磁性体51は、移動手摺6を横切る方向、すなわちX方向に延在している。磁性体51のX方向の長さは、移動手摺6の平坦部62a(図1)の幅以上であることが望ましい。
【0084】
コイル52は、磁性体51のヨーク部51cに巻かれており、巻軸方向はY方向である。電源53は、図示しないケーブルによって信号処理回路12に接続されている。電源53は、コイル52に直流電流を流す。コイル52に流れる直流電流によって、第1の磁極部511と第2の磁極部512との間で直流磁界が発生し、移動手摺6のワイヤロープ61が着磁される。
【0085】
第1の磁気センサ20、第2の磁気センサ30、着磁器50および信号処理回路12は、筐体11に収容される。筐体11の例えばY方向両端部には、実施の形態1と同様に、移動手摺6に当接するローラ13が設けられている。
【0086】
検査時には、筐体11を移動手摺6に対して+Y方向に相対移動させる。着磁器50の電源53からコイル52に直流電流が流れ、磁性体51に直流磁界が生じてワイヤロープ61が着磁される。
【0087】
ワイヤロープ61の着磁された部分に第1の磁気センサ20が到達すると、第1の磁気センサ20の検出素子21には、検出用磁石22による検出用磁界と、ワイヤロープ61内の残留磁化による磁界との合成磁界が及ぶ。ワイヤロープ61の素線61cのほつれが生じた場合には、検出素子21は合成磁界の変化を検出する。
【0088】
続いて、ワイヤロープ61の着磁された部分に第2の磁気センサ30が到達すると、第2の磁気センサ30の検出素子31には、検出用磁石32による検出用磁界と、ワイヤロープ61内の残留磁化による磁界との合成磁界が及ぶ。ワイヤロープ61の素線61cのほつれが生じた場合には、検出素子31は合成磁界の変化を検出する。
【0089】
このように第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30の検出素子21,31で合成磁界を検出するため、ワイヤロープ61の素線61cのほつれの検出精度を向上することができる。
【0090】
なお、ここでは第1の磁気センサ20の+Y方向に着磁器50を設けたが、これに加えて、第2の磁気センサ30の-Y方向に同様の着磁器50を設けてもよい。
【0091】
上述した点を除き、実施の形態3の抗張体検査装置1Bは、実施の形態1の抗張体検査装置1と同様に構成されている。
【0092】
以上説明したように、実施の形態3の抗張体検査装置1Bは、第1の磁気センサ20の+Y方向に着磁器50を有するため、実施の形態2と同様、磁界の検出前に着磁器50によってワイヤロープ61を着磁することができ、検出精度を向上することができる。
【0093】
実施の形態4.
図10は、実施の形態4の抗張体検査装置1Cを示す斜視図である。実施の形態4の抗張体検査装置1Cは、筐体11とは別体の着磁器50Cを有する点で、実施の形態1の抗張体検査装置1と相違する。
【0094】
着磁器50Cは、筐体11の+Y方向に配置されている。着磁器50Cは、磁性体51と、磁性体51に巻かれたコイル52と、コイル52に接続された電源53と、これらが収容された筐体55とを有する。磁性体51およびコイル52は、電磁石を構成する。
【0095】
磁性体51は、Y方向に対向する第1の磁極部511および第2の磁極部512と、これら磁極部511,512をつなぐヨーク部510とを有する。第1の磁極部511は+Y方向に位置し、第2の磁極部512は-Y方向に位置する。
【0096】
磁性体51は、移動手摺6を横切る方向、すなわちX方向に延在している。磁性体51のX方向の長さは、移動手摺6の平坦部62a(図1)の幅以上であることが望ましい。
【0097】
コイル52は、磁性体51のヨーク部51cに巻かれており、巻軸方向はY方向である。電源53は、図示しないケーブルによって信号処理回路12または制御装置15に接続されている。電源53は、コイル52に直流電流を流す。コイル52に流れる直流電流によって、第1の磁極部511と第2の磁極部512との間で直流磁界が発生し、移動手摺6のワイヤロープ61が着磁される。
【0098】
筐体55は着磁器50Cの外郭であり、その内側に磁性体51とコイル52と電源53とが収容されている。筐体55において、例えばY方向両端部には、移動手摺6に当接するローラ56を設けてもよい。
【0099】
第1の磁気センサ20、第2の磁気センサ30および信号処理回路12は、筐体11に収容される。筐体11には、実施の形態1と同様に、移動手摺6に当接するローラ13が設けられている。
【0100】
検査時には、筐体11および着磁器50Cを、移動手摺6に対して+Y方向に相対移動させる。筐体11および着磁器50Cは、専用のモータの駆動力で+Y方向に移動させてもよい。また、筐体11および着磁器50Cの位置を固定し、移動手摺6を-Y方向に移動させてもよい。
【0101】
着磁器50Cの電源53からコイル52に直流電流が流れ、磁性体51に直流磁界が生じてワイヤロープ61が着磁される。第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30による磁界検出は、実施の形態3で説明した通りである。
【0102】
なお、ここでは着磁器50Cが電磁石を有していたが、永久磁石を有していても良い。また、ここでは筐体11の+Y方向に着磁器50Cを設けたが、これに加えて、筐体11の-Y方向に同様の着磁器50Cを設けてもよい。
【0103】
上述した点を除き、実施の形態4の抗張体検査装置1Cは、実施の形態1の抗張体検査装置1と同様に構成されている。
【0104】
以上説明したように、実施の形態4の抗張体検査装置1Cは、第1の磁気センサ20の+Y方向に着磁器50Cを有するため、磁界の検出前に、着磁器50Cによってワイヤロープ61を着磁することができ、検出精度を向上することができる。
【0105】
実施の形態5.
図11は、実施の形態5の抗張体検査装置1Dを示す断面図である。上述した実施の形態1~4の抗張体検査装置1,1A,1B,1Cは複数の磁気センサ20,30を有していたが、実施の形態5の抗張体検査装置1Dは単一の磁気センサ20Dを有し、さらに加速度センサ16を有する。
【0106】
抗張体検査装置1Dは、磁気センサ20Dと、加速度センサ16と、信号処理回路12と、これらが収容された筐体11とを有する。筐体11は、移動手摺6に対して+Y方向に相対移動する。筐体11の例えばY方向両端部には、移動手摺6に当接する一対のローラ13が設けられる。
【0107】
磁気センサ20Dの構成および検出原理は、実施の形態1の第1の磁気センサ20と同様である。
【0108】
加速度センサ16は、筐体11の移動方向(すなわち+Y方向)に直交する方向の振動を検出する。より具体的には、加速度センサ16は、Z方向の振動を検出する。加速度センサ16は、ケーブル101によって信号処理回路12に接続されている。
【0109】
図12は、信号処理回路12の補正処理部19を示す機能ブロック図である。補正処理部19は、ここでは信号処理回路12の一部として説明するが、制御装置15の一部であってもよい。この補正処理部19には、磁気センサ20Dの出力と、加速度センサ16の出力が入力される。
【0110】
実施の形態1で説明した通り、ワイヤロープ61の検査時に移動手摺6が振動すると、磁気センサ20Dの出力波形に振動成分が含まれる。すなわち、振動成分は、磁気センサ20Dの出力波形におけるノイズ(N)に相当する。
【0111】
そこで、補正処理部19は、加速度センサ16の出力に基づいて、磁気センサ20Dの出力を補正する。具体的には、補正処理部19は、アダプティブフィルタ(ADF)17と、減算器18とを有する。
【0112】
アダプティブフィルタ17は、加速度センサ16の出力信号(N’)に基づき、移動手摺6の振動に相当する出力信号(N)を生成する。減算器18は、磁気センサ20Dの出力信号(S+N)から、アダプティブフィルタ17の出力信号(N)を減算する。減算器18は、磁気センサ20Dの出力波形(S+N)から振動成分(N)を除去した波形(S)を出力する。信号処理回路12は、補正処理部19の出力に基づき、ワイヤロープ61の欠陥、具体的には素線のほつれを検出する。
【0113】
このように、実施の形態5の抗張体検査装置1Dでは、加速度センサ16の出力信号を利用して磁気センサ20Dの出力信号を補正するため、単一の磁気センサ20Dを用いて、振動の影響を排除したワイヤロープ61の欠陥検出を行うことができる。
【0114】
上述した点を除き、実施の形態5の抗張体検査装置1Dは、実施の形態1の抗張体検査装置1と同様に構成されている。
【0115】
以上説明したように、実施の形態5の抗張体検査装置1Dは、ワイヤロープ61(すなわち抗張体)を含む移動手摺6(すなわち物体)に対向し、移動手摺6に対してワイヤロープ61の延在方向に相対移動可能に設けられた磁気センサ20Dと、移動手摺6の相対移動方向と直交する方向の振動を検知する加速度センサ16と、加速度センサ16の出力に基づき磁気センサ20Dの出力を補正する信号処理回路12とを備える。加速度センサ16の出力を利用して磁気センサ20Dの出力を補正することにより、振動の影響を排除したワイヤロープ61の欠陥検出を行うことができる。
【0116】
なお、実施の形態5の抗張体検査装置1Dにおいて、実施の形態1で説明したように複数の磁気センサを設けてもよい。また、実施の形態2で説明したように永久磁石41a,42aを有する着磁器41,42を設けてもよく、実施の形態3,4で説明したように電磁石を有する着磁器50を設けてもよい。
【0117】
実施の形態1~5では、検査対象である抗張体が乗客コンベアの移動手摺6のワイヤロープ61である場合について説明したが、以下で説明するように、他の抗張体の検査も可能である。以下では、実施の形態1の抗張体検査装置1を用いた、各種の抗張体の検査について説明する。
【0118】
<ベルトロープの検査>
図13は、動力伝達ベルト7のベルトロープ71の検査方法を示す斜視図である。動力伝達ベルト7は、例えば、エレベータ用ベルト、タイミングベルト、Vベルト、またはコンベアベルト等である。
【0119】
動力伝達ベルト7は無端状であり、その延在方向に直交する面において矩形状の断面を有する。動力伝達ベルト7の幅方向をX方向とし、動力伝達ベルト7の延在方向をY方向とし、X方向およびY方向に直交する方向をZ方向とする。
【0120】
動力伝達ベルト7は、樹脂製の基体72と、基体72の内部に設けられた抗張体としてのベルトロープ71とを有する。ベルトロープ71は、金属製のワイヤで構成された素線を撚り合わせたものである。ベルトロープ71は、Y方向に延在し、X方向に複数配列されている。
【0121】
ベルトロープ71の検査時には、筐体11を、ベルトロープ71の延在方向に沿った+Y方向に相対移動させる。第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30の長手方向は、ベルトロープ71を横切る方向、すなわちX方向とする。
【0122】
複数の磁気センサである第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30は、抗張体としてのベルトロープ71を含む物体である動力伝達ベルト7に対向し、動力伝達ベルト7に対してベルトロープ71の延在方向(すなわちY方向)に相対移動可能に設けられる。第1の磁気センサ20と第2の磁気センサ30とは、Y方向に間隔Dを開けて配置される。
【0123】
第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30は、磁界の変化を検出する。信号処理回路12は、実施の形態1で説明したように第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30の出力波形から合成波形を生成するため、振動の影響を排除し、ベルトロープ71の欠陥を正確に検出することができる。
【0124】
<タイヤのカーカスの検査>
図14および図15は、タイヤ8のカーカス81の検査方法を示す斜視図および断面図である。タイヤ8は、例えばラジアルタイヤである。
【0125】
タイヤ8は、ゴム製の基体80と、タイヤ8の骨格をなす複数のカーカス81と、補強帯であるベルト82と、ホイールと結合される一対のビード83(図15)とを有する。
【0126】
カーカス81は、タイヤ8の周方向(図14に矢印Rで示す)に直交する断面内でU字状に延在している。また、カーカス81は、タイヤ8の内周側に両端部81aを有する。ベルト82は、タイヤ8の外周に沿って周方向に延在している。ビード83は、カーカス81の端部81aに連結され、タイヤ8の内周に沿って周方向に延在している。
【0127】
カーカス81は、例えば、金属ワイヤである素線を撚り合わせたものである。ベルト82は、例えば、円筒状に形成された金属製のベルトである。ビード83は、例えば、金属ワイヤである素線を束ねたものである。
【0128】
図14および図15では、検査対象の抗張体であるカーカス81の延在方向をY方向とし、カーカス81の幅方向(すなわちタイヤ8の周方向)をX方向とし、X方向およびY方向の両方向に直交する方向をZ方向とする。
【0129】
カーカス81の検査時には、筐体11を、カーカス81の延在方向に沿った+Y方向に相対移動させる。第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30の長手方向は、カーカス81を横切る方向、すなわちX方向とする。
【0130】
複数の磁気センサである第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30は、抗張体としてのカーカス81を含む物体であるタイヤ8に対向し、タイヤ8に対してカーカス81の延在方向(すなわちY方向)に相対移動可能に設けられる。第1の磁気センサ20と第2の磁気センサ30とは、Y方向に間隔Dを開けて配置される。
【0131】
なお、図14および図15には、筐体11と共に制御装置15も示しているが、制御装置15は筐体11から離れた場所に配置してもよい。
【0132】
第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30は、磁界の変化を検出する。信号処理回路12は、実施の形態1で説明したように第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30の出力波形から合成波形を生成するため、振動の影響を排除し、カーカス81の欠陥を正確に検出することができる。
【0133】
<タイヤのベルトの検査>
図16および図17は、タイヤ8のベルト82の検査方法を示す斜視図および断面図である。タイヤ8の構成は、図14および図15を参照して説明した通りである。図16および図17に示した例では、タイヤ8の側面に、筐体11を対向させている。
【0134】
図16および図17では、検査対象の抗張体であるベルト82の延在方向(すなわちタイヤ8の周方向)をY方向とし、ベルト82を横切る方向(ここではタイヤ8の径方向)をX方向とし、X方向およびY方向の両方向に直交する方向をZ方向とする。
【0135】
ベルト82の検査時には、筐体11を、ベルト82の延在方向に沿った+Y方向に相対移動させる。第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30の長手方向は、ベルト82を横切る方向、すなわちX方向とする。
【0136】
複数の磁気センサである第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30は、抗張体としてのベルト82を含む物体であるタイヤ8に対向し、タイヤ8に対してベルト82の延在方向(すなわちY方向)に相対移動可能に設けられる。第1の磁気センサ20と第2の磁気センサ30とは、Y方向に間隔Dを開けて配置される。
【0137】
なお、図16には、筐体11と共に制御装置15も示しているが、制御装置15は筐体11から離れた場所に配置してもよい。
【0138】
第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30は、磁界の変化を検出する。信号処理回路12は、実施の形態1で説明したように第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30の出力波形から合成波形を生成するため、振動の影響を排除し、ベルト82の欠陥を正確に検出することができる。
【0139】
図18は、タイヤ8に対する抗張体検査装置1の相対位置の他の例を示す断面図である。図18に示した例では、タイヤ8の内周面に、筐体11を対向させている。
【0140】
図18では、検査対象の抗張体であるベルト82の延在方向(すなわちタイヤ8の幅方向)をY方向とし、ベルト82の幅方向(すなわちタイヤ8の周方向)をX方向とし、X方向およびY方向の両方向に直交する方向をZ方向とする。
【0141】
ベルト82の検査時には、筐体11を、ベルト82の延在方向に沿った+Y方向に相対移動させる。第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30の長手方向は、ベルト82を横切る方向、すなわちX方向とする。
【0142】
第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30は、磁界の変化を検出する。信号処理回路12は、実施の形態1で説明したように第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30の出力波形から合成波形を生成するため、振動の影響を排除し、ベルト82の欠陥を正確に検出することができる。
【0143】
図18に示した例では、第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30とベルト82との対向面積を、図16および図17に示した例よりも大きくすることができるため、より検出精度を高めることができる。
【0144】
図19は、タイヤ8に対する抗張体検査装置1の相対位置の他の例を示す断面図である。図19に示した例では、タイヤ8の外周面に、筐体11を対向させている。
【0145】
ベルト82の検査時には、筐体11を、ベルト82の延在方向に沿った+Y方向に相対移動させる。第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30の長手方向は、ベルト82を横切る方向、すなわちX方向とする。
【0146】
第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30は、磁界の変化を検出する。信号処理回路12は、実施の形態1で説明したように第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30の出力波形から合成波形を生成するため、振動の影響を排除し、ベルト82の欠陥を正確に検出することができる。
【0147】
図19に示した例では、第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30がタイヤ8の外周面に対向するため、図18に示した例よりも、第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30の長さを長くすることができる。そのため、第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30とベルト82との対向面積をさらに大きくすることができ、検出精度をさらに高めることができる。
【0148】
<コンクリート構造物の鉄筋の検査>
図20は、コンクリート構造物9の鉄筋91の検査方法を示す斜視図である。コンクリート構造物9は例えば鉄筋コンクリートである。コンクリート構造物9は、コンクリート90と、コンクリート90の内部に配設された複数の鉄筋91および複数の鉄筋92とを有する。鉄筋91と鉄筋92とは、互いに直交する方向に配設されている。鉄筋91および鉄筋92はいずれも、例えば丸鋼である。
【0149】
鉄筋91の延在方向をY方向とし、鉄筋92の延在方向をX方向とし、X方向およびY方向に直交する方向をZ方向とする。鉄筋91はX方向に複数並んで配置され、鉄筋92はY方向に複数並んで配置されている。
【0150】
抗張体検査装置1による鉄筋91の検査時には、筐体11を、鉄筋91の延在方向に沿った+Y方向に相対移動させる。第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30の長手方向は、鉄筋91を横切る方向、すなわちX方向とする。
【0151】
複数の磁気センサである第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30は、抗張体としての鉄筋91を含む物体であるコンクリート構造物9に対向し、コンクリート構造物9に対して鉄筋91の延在方向(すなわちY方向)に相対移動可能に設けられる。第1の磁気センサ20と第2の磁気センサ30とは、Y方向に間隔Dを開けて配置される。
【0152】
第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30は、磁界の変化を検出する。信号処理回路12は、実施の形態1で説明したように第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30の出力波形から合成波形を生成するため、振動の影響を排除し、鉄筋91の欠陥を正確に検出することができる。
【0153】
また、筐体11の向きを変え、筐体11を鉄筋92の延在方向に相対移動させることで、鉄筋92の検査を行うこともできる。この場合には、複数の磁気センサである第1の磁気センサ20および第2の磁気センサ30は、抗張体としての鉄筋92を含む物体であるコンクリート構造物9に対向し、コンクリート構造物9に対して鉄筋92の延在方向(すなわちX方向)に相対移動可能に設けられる。また、第1の磁気センサ20と第2の磁気センサ30とは、X方向に間隔Dを開けて配置される。
【0154】
ここでは、コンクリート構造物9が鉄筋コンクリートであり、抗張体が鉄筋91,92である場合について説明した。しかしながら、コンクリート構造物9は、PC(プレストレストコンクリート)鋼材であってもよく、抗張体はPC鋼材等の鋼材であってもよい。
【0155】
図13~19に示した例では、実施の形態1の抗張体検査装置1を用いて種々の抗張体を検査する例について説明したが、実施の形態1の抗張体検査装置1に限らず、実施の形態2~実施の形態5の抗張体検査装置1A~1Dを用いてもよい。
【0156】
また、実施の形態1~5の抗張体検査装置1~1Dは、上述したワイヤロープ、カーカス、ベルト、鉄筋に限らず、抗張体の検査に用いることができる。
【0157】
以上、望ましい実施の形態について具体的に説明したが、本開示は上記の実施の形態に限定されるものではなく、各種の改良または変形を行なうことができる。
【符号の説明】
【0158】
1,1A,1B,1C,1D 抗張体検査装置、 5 着磁器、 6 移動手摺(物体)、 7 動力伝達ベルト(物体)、 8 タイヤ(物体)、 9 コンクリート構造物(物体)、 11 筐体、 12 信号処理回路、 13 ローラ、 15 制御装置、 16 加速度センサ、 17 アダプティブフィルタ、 18 減算器、 20 第1の磁気センサ、 21 検出素子、 22 検出用磁石、 30 第2の磁気センサ、 31 検出素子、 32 検出用磁石、 41,42 着磁器、 41a,42a 永久磁石、 50 着磁器、 51 磁性体、 52 コイル、 53 電源、 61 ワイヤロープ(抗張体)、 71 ベルトロープ(抗張体)、 81 カーカス(抗張体)、 82 ベルト(抗張体)、 91,92 鉄筋(抗張体)。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20