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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-24
(45)【発行日】2025-02-03
(54)【発明の名称】水中測位システム及び水中測位装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 5/28 20060101AFI20250127BHJP
   G01S 3/808 20060101ALI20250127BHJP
【FI】
G01S5/28
G01S3/808
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021007705
(22)【出願日】2021-01-21
(65)【公開番号】P2022112072
(43)【公開日】2022-08-02
【審査請求日】2024-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】517136494
【氏名又は名称】株式会社SIX VOICE
(73)【特許権者】
【識別番号】504300088
【氏名又は名称】国立大学法人北海道国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土生 修平
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 真吾
【審査官】藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-527763(JP,A)
【文献】特開2001-151195(JP,A)
【文献】特公昭55-044349(JP,B1)
【文献】中国特許出願公開第112146654(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0284903(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 1/72 - 1/82
3/80 - 3/86
5/18 - 5/30
7/52 - 7/64
15/00 - 15/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号を発生する送信信号発生手段と、
前記送信信号と所定時間関係にある同期信号を発生する同期信号発生手段と、
前記送信信号を水中の測位対象物に搭載された送波器に送信する有線ケーブルと、
前記測位対象物に搭載された深度検出装置と、
前記深度検出装置で検出された前記測位対象物の深度を示す深度情報を送信する有線ケーブルと、
所定距離を隔てて設けられ、前記送波器から送信される信号を受信する第1と第2の受波器と、
前記第1と第2の受波器で受信した信号をそれぞれ増幅する第1と第2の受信アンプと、
前記同期信号発生手段で発生した前記同期信号と前記第1の受信アンプの出力信号を混合する混合手段と、
前記混合手段の出力信号と前記第2の受信アンプの出力信号をそれぞれオーディオのLチャンネル又はRチャンネル入力を介して入力し、相関関数演算と前記相関関数演算の結果得られた相関関数出力のタイミングの時間差演算を含む所定の演算により、前記測位対象物との距離と前記送波器から送信される信号の到来角を算出する信号処理部と、
前記深度情報と、前記信号処理部の出力信号により示される前記距離と前記到来角を用いて、前記測位対象物の3次元座標を得る3次元座標計算手段とを、
有する水中測位システム。
【請求項2】
前記送信信号発生手段と、前記同期信号発生手段と、前記第1と第2の受波器と、前記第1と第2の受信アンプと、前記混合手段と、前記信号処理部と、前記3次元座標計算手段が前記測位対象物から離れた位置にある水中測位装置に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の水中測位システム。
【請求項3】
水中の測位対象物に搭載された送信信号を発生する送信信号発生手段と、
水中の測位対象物に搭載された前記送信信号と所定時間関係にある同期信号を発生する同期信号発生手段と、
前記送信信号発生手段が発生させた前記送信信号を水中の測位対象物に搭載された送波器に送信する有線ケーブルと、
前記測位対象物に搭載された深度検出装置と、
前記深度検出装置で検出された前記測位対象物の深度を示す深度情報を送信する有線ケーブルと、
所定距離を隔てて設けられ、前記送波器から送信される信号を受信する第1と第2の受波器と、
前記第1と第2の受波器で受信した信号をそれぞれ増幅する第1と第2の受信アンプと、
前記同期信号発生手段で発生した前記同期信号と前記第1の受信アンプの出力信号を混合する混合手段と、
前記混合手段の出力信号と前記第2の受信アンプの出力信号をそれぞれオーディオのLチャンネル又はRチャンネル入力を介して入力し、相関関数演算と前記相関関数演算の結果得られた相関関数出力のタイミングの時間差演算を含む所定の演算により、前記測位対象物との距離と前記送波器から送信される信号の到来角を算出する信号処理部と、
前記深度情報と、前記信号処理部の出力信号により示される前記距離と前記到来角を用いて、前記測位対象物の3次元座標を得る3次元座標計算手段とを、
有し、
前記第1と第2の受波器と、前記第1と第2の受信アンプと、前記混合手段と、前記信号処理部と、前記3次元座標計算手段が前記測位対象物から離れた位置にある水中測位装置に設けられていることを特徴とする水中測位システム。
【請求項4】
前記信号処理部が、前記同期信号と同一の周期の同期信号レプリカを発生する同期信号レプリカ発生手段と、前記送信信号と同一の周期の送信信号レプリカを発生する送信信号レプリカ発生手段と、前記混合手段の出力信号に含まれる、前記第1の受信アンプの出力信号である受信信号と、前記同期信号レプリカとの相関関数を演算して相関関数出力1を得る第1の相関関数演算手段と、前記第1の受信アンプの出力信号である受信信号と、前記送信信号レプリカとの相関関数を演算して相関関数出力2を得る第2の相関関数演算手段と、前記相関関数出力1と前記相関関数出力2のそれぞれの最大ピークの時間位置から両者の時間差Δ1を求める第1の時間差演算手段と、前記時間差Δ1から前記送信信号の周期の2分の1の時間を減算して前記送信信号と前記第1の受信アンプの出力信号である受信信号の時間差Δ2を求める第2の時間差演算手段と、前記時間差Δ2と水中音速を用いて、前記送波器と前記第1の受波器との間の距離を演算する第1の距離演算手段と、前記第2の受信アンプの出力信号である受信信号と、前記送信信号レプリカとの相関関数を演算して相関関数出力3を得る第3の相関関数演算手段と、前記相関関数出力2と前記相関関数出力3のそれぞれの最大ピークの時間位置から両者の時間差Δ3を求める第3の時間差演算手段と、前記時間差Δ3と、水中音速、前記第1と第2の受波器の設置間隔を用いて到来角θを演算する到来角演算手段とを有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の水中測位システム。
【請求項5】
水中の測位対象物の3次元位置を検出する水中測位装置であって、送信信号を発生する送信信号発生手段と、
前記送信信号と所定時間関係にある同期信号を発生する同期信号発生手段と、
前記送信信号を水中の前記測位対象物に搭載された送波器に送信する有線ケーブルと、
前記測位対象物に搭載された深度検出装置で検出された前記測位対象物の深度を示す深度情報を送信する有線ケーブルと、
所定距離を隔てて設けられ、前記送波器から送信される信号を受信する第1と第2の受波器と、
前記第1と第2の受波器で受信した信号をそれぞれ増幅する第1と第2の受信アンプと、
前記同期信号発生手段で発生した前記同期信号と前記第1の受信アンプの出力信号を混合する混合手段と、
前記混合手段の出力信号と前記第2の受信アンプの出力信号をそれぞれオーディオのLチャンネル又はRチャンネル入力を介して入力し、相関関数演算と前記相関関数演算の結果得られた相関関数出力のタイミングの時間差演算を含む所定の演算により、前記測位対象物との距離と前記送波器から送信される信号の到来角を算出する信号処理部と、
前記深度情報と、前記信号処理部の出力信号により示される前記距離と前記到来角を用いて、前記測位対象物の3次元座標を得る3次元座標計算手段とを、
有する水中測位装置。
【請求項6】
水中の測位対象物の3次元位置を検出する水中測位装置であって、
前記測位対象物で生成された送信信号と所定時間関係にある同期信号を受信する有線ケーブルと、
前記測位対象物に搭載された深度検出装置で検出された前記測位対象物の深度を示す深度情報を受信する有線ケーブルと、
前記送信信号が増幅されて前記測位対象物に搭載された送波器から送信されるとき定距離を隔てて設けられ、前記送波器から送信される信号を受信する第1と第2の受波器と、
前記第1と第2の受波器で受信した信号をそれぞれ増幅する第1と第2の受信アンプと、
期信号発生手段で発生した前記同期信号と前記第1の受信アンプの出力信号を混合する混合手段と、
前記混合手段の出力信号と前記第2の受信アンプの出力信号をそれぞれオーディオのLチャンネル又はRチャンネル入力を介して入力し、相関関数演算と前記相関関数演算の結果得られた相関関数出力のタイミングの時間差演算を含む所定の演算により、前記測位対象物との距離と前記送波器から送信される信号の到来角を算出する信号処理部と、
前記深度情報と、前記信号処理部の出力信号により示される前記距離と前記到来角を用いて、前記測位対象物の3次元座標を得る3次元座標計算手段とを、
有する水中測位装置。
【請求項7】
前記信号処理部が、前記同期信号と同一の周期のタイミングの同期信号レプリカを発生する同期信号レプリカ発生手段と、前記送信信号と同一の周期の送信信号レプリカを発生する送信信号レプリカ発生手段と、前記混合手段の出力信号に含まれる、前記第1の受信アンプの出力信号である受信信号と、前記同期信号レプリカとの相関関数を演算して相関関数出力1を得る第1の相関関数演算手段と、前記第1の受信アンプの出力信号である受信信号と、前記送信信号レプリカとの相関関数を演算して相関関数出力2を得る第2の相関関数演算手段と、前記相関関数出力1と前記相関関数出力2のそれぞれの最大ピークの時間位置から両者の時間差Δ1を求める第1の時間差演算手段と、前記時間差Δ1から前記送信信号の周期の2分の1の時間を減算して前記送信信号と前記第1の受信アンプの出力信号である受信信号の時間差Δ2を求める第2の時間差演算手段と、前記時間差Δ2と水中音速を用いて、前記送波器と前記第1の受波器との間の距離を演算する第1の距離演算手段と、前記第2の受信アンプの出力信号である受信信号と、前記送信信号レプリカとの相関関数を演算して相関関数出力3を得る第3の相関関数演算手段と、前記相関関数出力2と前記相関関数出力3のそれぞれの最大ピークの時間位置から両者の時間差Δ3を求める第3の時間差演算手段と、前記時間差Δ3と、水中音速、前記第1と第2の受波器の設置間隔を用いて到来角θを演算する到来角演算手段とを有することを特徴とする請求項5または6に記載の水中測位装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水中測位システム及び水中測位装置に関し、水中の測位対象物の3次元位置を検出するものに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、水中の被測定物の3次元位置を検出するものに関し、ここで水中とは、海、河川、湖沼などを含むものであり、また、被測定物である測位対象物としては、ROV(Remotedly Operated Vehicle)などとして知られる水中ロボットなどの人工物を含むものとする。超音波などの音響を用いて水中測位を行う方式としては、LBL(Long Base Line)方式、SBL(Short Base Line)方式、SSBL(Super Short Base Line)方式などが知られている。SSBL方式の水中音響測位システムで3次元位置を特定するには様々な方式が存在し、距離、到来角、深度のいずれかで少なくとも3つの情報を必要とする。SSBL方式は受波器間隔(ベースライン)が音波の波長程度である方式を指す。なお、測位対象物には目標音を発するために1個の送波器が必要となる。
【0003】
従来の水中測位システム/装置としては、下記の特許文献1~5に示されるものがある。特許文献1は複数の測位対象物に対して方位と識別情報、深度を求める方法を開示している。特許文献2は、測位対象物から送信される信号を少なくとも3つの受信装置で受信して信号処理する装置を開示している。特許文献3は、水中に設置された複数の発信器からの信号を測位対象物の受信器で受信し、受信器と発信器にそれぞれGPS(GNSS)アンテナを接続し、発信側GNSSアンテナが受信するGNSS信号に応じて複数の発信器から受信器に向けて発せられる音波の伝搬時間に基づき測位対象物の位置を演算する構成を開示している。特許文献4は、複数の送信器から送信された複数の信号を複数の受信器で受信してデータ処理して、測位結果のバラつきを少なくして精度化する構成を開示している。特許文献5は、所定距離を隔てて設けられた一対の受信器で受信された受信信号を演算して、信号の伝搬時間差を演算して到来角を求める構成を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-252747号公報、図1図10、請求項1
【文献】特許第4968827号公報、図2、請求項1
【文献】特開2018-204970号公報、図1、請求項1
【文献】特開2019-219274号公報、図1、請求項1
【文献】特開2020-176902号公報、図1、請求項6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示の構成では、複数の測位対象物からそれぞれ送信される信号を受信するが、1つの測位対象物に着目すると、1個の送波器からの信号を受信する2つの受波器が存在するが、それぞれの受信信号の相関を得て情報を判別するという複雑な構成を有している。また、図10の実施の形態では正確な3次元位置を特定するためにトランスポンダで距離を測定する必要がある。特許文献2に開示の構成では、3次元位置を特定するためにトランスポンダもしくは4個の受波器を必要とする。特許文献3に開示の構成では、送信側と受信側の双方にGNSSアンテナを必要とする。特許文献4に開示の構成では、複数対の受波器(3個以上)で求めた測位結果をデータ処理して高精度化するものであり、多くの受波器を必要とする。特許文献5に開示の構成では、到来角を求めるものであり、測位対象物の3次元位置を特定する方法については言及されていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、上記従来技術の課題を解決するために、測位対象物の深度情報は測位対象物自体に取り付けた深度検出装置から取得し、測位対象物から送信される信号を所定間隔をおいて配された2つの受波器で受信し、相関関数演算と相関関数演算の結果得られた相関関数出力のタイミングの時間差演算を含む所定の演算により、測位対象物との距離と送波器から送信される信号の到来角を算出し、深度情報と、算出された距離と到来角を用いて、測位対象物の3次元座標を得るようにしている。
【0007】
すなわち、本発明によれば、送信信号を発生する送信信号発生手段と、
前記送信信号と所定時間関係にある同期信号を発生する同期信号発生手段と、
前記送信信号を水中の測位対象物に搭載された送波器に送信する有線ケーブルと、
前記測位対象物に搭載された深度検出装置と、
前記深度検出装置で検出された前記測位対象物の深度を示す深度情報を送信する有線ケーブルと、
所定距離を隔てて設けられ、前記送波器から送信される信号を受信する第1と第2の受波器と、
前記第1と第2の受波器で受信した信号をそれぞれ増幅する第1と第2の受信アンプと、
前記同期信号発生器で発生した前記同期信号と前記第1の受信アンプの出力信号を混合する混合手段と、
前記混合手段の出力信号と前記第2の受信アンプの出力信号をそれぞれオーディオのLチャンネル又はRチャンネル入力を介して入力し、相関関数演算と前記相関関数演算の結果得られた相関関数出力のタイミングの時間差演算を含む所定の演算により、前記測位対象物との距離と前記送波器から送信される信号の到来角を算出する信号処理部と、
前記深度情報と、前記信号処理部の出力信号により示される前記距離と前記到来角を用いて、前記測位対象物の3次元座標を得る3次元座標計算手段とを、
有する水中測位システムが提供される。
【0008】
この構成により、1つの送波器と2つの受波器のみで、またGPSアンテナ/受信機を用いずに水中の測位対象物の3次元位置を得ることができる。
【0009】
前記送信信号発生手段と、前記同期信号発生手段と、前記第1と第2の受波器と、前記第1と第2の受信アンプと、前記混合手段と、前記信号処理部と、前記3次元座標計算手段が前記測位対象物から離れた位置にある水中測位装置に設けられていることは、本発明の水中測位システムの好ましい態様である。
【0010】
前記送信信号発生手段と、前記同期信号発生手段が前記測位対象物に搭載され、前記第1と第2の受波器と、前記第1と第2の受信アンプと、前記混合手段と、前記信号処理部と、前記3次元座標計算手段が前記測位対象物から離れた位置にある水中測位装置に設けられていることは、本発明の水中測位システムの好ましい態様である。
【0011】
また、本発明によれば、水中の測位対象物の3次元位置を検出する水中測位装置であって、送信信号を発生する送信信号発生手段と、前記送信信号と所定時間関係にある同期信号を発生する同期信号発生手段と、前記送信信号を水中の前記測位対象物に搭載された送波器に送信する有線ケーブルと、前記測位対象物に搭載された深度検出装置で検出された前記測位対象物の深度を示す深度情報を送信する有線ケーブルと、所定距離を隔てて設けられ、前記送波器から送信される信号を受信する第1と第2の受波器と、前記第1と第2の受波器で受信した信号をそれぞれ増幅する第1と第2の受信アンプと、前記同期信号発生器で発生した前記同期信号と前記第1の受信アンプの出力信号を混合する混合手段と、前記混合手段の出力信号と前記第2の受信アンプの出力信号をそれぞれオーディオのLチャンネル又はRチャンネル入力を介して入力し、相関関数演算と前記相関関数演算の結果得られた相関関数出力のタイミングの時間差演算を含む所定の演算により、前記測位対象物との距離と前記送波器から送信される信号の到来角を算出する信号処理部と、前記深度情報と、前記信号処理部の出力信号により示される前記距離と前記到来角を用いて、前記測位対象物の3次元座標を得る3次元座標計算手段とを、有する水中測位装置が提供される。
【0012】
この構成によれば、測位対象物自体には、信号発生器や送信アンプなどの装置を設ける必要がなく、測位対象物の内部にこれらを収納するための耐圧容器の設計などは不要であるとともに、2チャンネルのオーディオ入力を有しているパソコン、スマートフォン、タブレットなどを信号処理部に用いることで、簡単な構成で水中の測位対象物の3次元位置を相当な精度で得ることが可能である。
【0013】
また、本発明によれば、水中の3次元位置を検出する水中測位装置であって、
前記測位対象物で生成された送信信号と所定時間関係にある同期信号を受信する有線ケーブルと、
前記測位対象物に搭載された深度検出装置で検出された前記測位対象物の深度を示す深度情報を受信する有線ケーブルと、
前記送信信号が増幅されて前記測位対象物に搭載された送波器から送信されるとき定距離を隔てて設けられ、前記送波器から送信される信号を受信する第1と第2の受波器と、
前記第1と第2の受波器で受信した信号をそれぞれ増幅する第1と第2の受信アンプと、
前記同期信号発生器で発生した前記同期信号と前記第1の受信アンプの出力信号を混合する混合手段と、
前記混合手段の出力信号と前記第2の受信アンプの出力信号をそれぞれオーディオのLチャンネル又はRチャンネル入力を介して入力し、相関関数演算と前記相関関数演算の結果得られた相関関数出力のタイミングの時間差演算を含む所定の演算により、前記測位対象物との距離と前記送波器から送信される信号の到来角を算出する信号処理部と、
前記深度情報と、前記信号処理部の出力信号により示される前記距離と前記到来角を用いて、前記測位対象物の3次元座標を得る3次元座標計算手段とを、
有する水中測位装置が提供される。
【0014】
この構成によれば、水中測位装置から測位対象物に取り付けられた送波器に送信信号を送る構成ではないので、ケーブル長に応じた電気信号のエネルギー減衰を考慮する必要がなく、2チャンネルのオーディオ入力を有しているパソコン、スマートフォン、タブレットなどを信号処理部に用いることで、簡単な構成で水中の測位対象物の3次元位置を相当な精度で得ることが可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、上記構成を有するので、1つの送波器と2つの受波器のみで、またGPS受信機を用いずに水中の測位対象物の3次元位置を得ることができる。また、本発明を構成する信号処理部として、2チャンネルのオーディオ入力を有しているパソコン、スマートフォン、タブレットなどを用いることができる。
【0016】
従来の各種方式と本発明とを比較したものを表1に示す。
【0017】
【表1】
【0018】
表1において、同期「要」の場合、GPS受信機から取得できる時刻情報を用いて同期をとるか、もしくは、装置間で有線ケーブルを介した同期信号の送受信を行う場合を指す。
【0019】
表1は、従来の4つの方式である方式A~方式Dと本発明とを必要情報の種類、時刻同期の要否、必要な受波器などの数の点で比較したものである。なお、上記特許文献の開示技術と各方式の関係は以下のとおりである。
特許文献1: 方式B又は方式C、SSBL方式
特許文献2: 方式B又は方式C、SSBL方式
特許文献3: 方式B、SSBL方式
特許文献4: 方式A又は方式D、LBL方式又はSSBL方式
表1において、トランスポンダはある装置の受波器で受信した信号に反応して何らかの信号を送波器から返すものであり、送受波器が1セットとなる。距離を計測する方法は時刻同期を必要な場合と不要な場合に分かれる。必要な場合はGPS(GNSS)受信機から得られる1PPS信号から正確な時刻情報を取得し、その基準時刻と音波受信時刻の差で距離を求める方法が一般的に用いられる。不要な場合は上記のトランスポンダでの音伝達往復時間から距離を求める。到来角は2つの受波器に入力された信号の到達時間差を計測する。到来角情報1個につき1対(2個)の受波器が必要である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の水中測位システム及び水中測位装置の第1の実施の形態を示すブロック図である。
図2】本発明の水中測位システム及び水中測位装置の第2の実施の形態を示すブロック図である。
図3図1及び図2に示す各実施の形態における信号処理部の動作を説明するための信号波形図であり、受信信号Ch1、Ch2に対する相関関数出力のタイミングチャートである。
図4図1及び図2に示す各実施の形態における信号処理部の動作を説明するための信号波形図であり、受信信号Ch1から所定区間を読み出す動作を示す波形図/タイミングチャートである。
図5図1及び図2に示す各実施の形態における信号処理部の動作を説明するための信号波形図であり、図4中の区間Aを読み出した場合の相関出力1と相関出力2の関係を示す波形図/タイミングチャートである。
図6図1及び図2に示す各実施の形態における信号処理部の動作を説明するための信号波形図であり、図4中の区間Bを読み出した場合の相関出力1と相関出力2の関係を示す波形図/タイミングチャートである。
図7図1及び図2に示す各実施の形態における信号処理部の動作を説明するための信号波形図であり、2つの受信信号と相関出力2、相関出力3の関係を示す波形図/タイミングチャートである。
図8図1及び図2に示す各実施の形態における信号処理部の動作を説明するためのフローチャートである。
図9図1及び図2に示す各実施の形態における送信信号と同期信号の周波数関係を示すスペクトル図である。
図10図1及び図2に示す各実施の形態における3次元位置計算部の動作を説明するための模式図である。
図11図1及び図2に示す各実施の形態における測定結果を示す図である。
図12図1及び図2に示す各実施の形態における相関関数出力1~3の時間位置関係を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について説明する。
図1は、本発明の水中測位システム及び水中測位装置の第1の実施の形態を示すブロック図である。本発明の水中測位システムは、水中に配される測位対象物10に搭載された装置と、測位対象物10の3次元位置を測定する水上に配される水中測位装置20とを有している。本明細書では、水中と水上の全体の構成を水中測位システムと称し、水上に配される部分を水中測位装置と称する。水中測位装置20は、通常は水上の船上あるいは水上の構築物などに搭載される。測位対象物10としては、遠隔操作型の無人潜水機(水中ロボット)であるROVが用いられている。測位対象物10には、深度情報を取得する深度検出装置(図示省略)と送波器12が搭載されている。ROVとしては、例えば、BlueRobtics社製の水中ロボットBlueROV2を用いることができる。また、深度検出装置としては、同社の水深/水圧センサBar30などを用いることができる。
【0022】
水中測位装置20は、送信信号とこの送信信号と所定時間関係を有する同期信号を生成する信号発生器22と、送信信号を増幅する送信アンプ24と、送信アンプの出力信号を測位対象物10に搭載された送波器22に送信する有線ケーブル14と、測位対象物10から深度情報を受信する有線ケーブル16と、送波器12から送信された送信信号をそれぞれ受信する第1と第2の受波器26A、26Bと、第1と第2の受波器26A、26Bでそれぞれ受信された受信信号をそれぞれ増幅する第1と第2の受信アンプ28A、28Bと、第1の受信アンプ28Aの出力信号と信号発生器22で生成された同期信号とを混合するアナログミキサー30と、アナログミキサー30の出力信号と第2の受信アンプ28Bの出力信号とをそれぞれ入力して距離や到来角を演算する信号処理部32と、信号処理部32で得られた距離と到来角と、測位対象物10から供給される深度情報をそれぞれ入力して、測位対象物10の3次元位置座標を演算する3次元位置計算部34とを有する。
【0023】
信号発生器22と送信アンプ24は、送信信号発生手段を構成する。また信号発生器22は、同期信号発生手段をも構成する。また、アナログミキサー30は、混合手段を構成する。さらに3次元位置計算部34は、3次元座標計算手段を構成する。有線ケーブル16は、測位対象物10自体の動作を制御する図示省略の水上の制御装置からの制御信号を測位対象物10に送信するために用いられる専用の有線ケーブルを用いることができる。これらの有線ケーブルとしては、BlueRobtics社製の水中ケーブルを用いることができる。
【0024】
なお、信号処理部32は、2チャンネルのステレオオーディオ入力端子を有するパソコン、スマートフォン、タブレットなどを用いることができ、図1の第1の実施の形態では、アナログミキサー30の出力がL(左)チャンネル入力へ、第2の受信アンプ28Bの出力がR(右)チャンネル入力へ供給されているが、左右はこれに限定されるものではない。これら左右のチャンネルに入力された信号は後述の所定の信号処理により各種演算が行われる。第1と第2の受波器26A、26Bは、所定間隔を有して配されている。
【0025】
次に図1の第1の実施の形態の動作について説明する。測位対象物10に搭載された送波器12から送波された水中の音波信号は所定間隔だけ離れた第1と第2の受波器26A、26Bで受信されてそれぞれ電気信号に変換される。それらの電気信号は第1と第2の受信アンプ28A、28Bでそれぞれ増幅された後に第1の受信アンプ28Aの出力信号はアナログミキサー30で同期信号と混合されてから信号処理部32に入力される。信号処理部32は2チャネルのオーディオ入力を持つコンピュータ、その他の類似装置で構成することができる。信号処理部32での距離、到来角の演算は後述するようにソフトウェアによる計算処理で算出される。測位対象物10から取得した深度情報と、信号処理部32で得られる距離、到来角情報から後述するように3次元位置計算部34で3次元座標が求められる。
【0026】
送信信号と同期信号及び受信信号のタイミングチャートを図3に示す。信号発生器22で送信信号と同期信号が生成されて出力される。送信信号及び同期信号はPN符号から生成した疑似雑音信号もしくはチャープ信号である。送信信号は周期Tで繰り返し送信する。同期信号は送信信号のタイミングから半周期(T/2)ずれた時間位置で繰り返し送信する。送信信号は送波器12、水中音波伝送、第1と第2の受波器26A、26Bを介してそれぞれ受信信号となるため、受信信号は音波伝播時間に応じて時間位置が移動する。同期信号は有線ケーブル14を介して電気信号のまま伝送するため、その伝送遅延は無視することができる。アナログミキサー30で第1の受信アンプ28Aの出力信号、すなわち片方の受信信号Ch1と同期信号を混合して信号処理部32に入力する。
【0027】
信号処理部32内で同期信号及び受信信号の時間位置を見つけるために同期信号レプリカと受信信号を用いた相関関数計算を行う。ここで同期信号レプリカについて説明する。図1の信号発生器22では送信信号や同期信号を出力しているが、これらの信号生成のために事前にソフトウェア上で送信信号データ及び同期信号データを計算し、そのデータをメモリに記憶した後、メモリでのデータの繰り返し読み出しを行い、D/Aコンバータでデジタル・アナログ変換して後にアナログ信号として出力している。図1の信号処理部32で信号発生器22内のソフトウェアと同じ計算処理を行えば、全く同一の送信信号データや同期信号データを生成することができる。これらのデータを「同期信号レプリカ」と「送信信号レプリカ」と呼ぶ。
【0028】
相関関数出力1は受信信号Ch1と同期信号レプリカとの相関関数であり、相関関数計算出力2は受信信号Ch1と送信信号レプリカとの相関関数である。相関関数出力1の最大ピークの時間位置と相関関数出力2の最大ピークの時間位置から時間差Δ[s]を求める。同期信号の時間位置は送信信号に対して半周期分ずれているのでΔ=Δ-t/2[s]で送信信号と受信信号Ch1の時間差を求めることができる。この時間差が送波器から受波器までの音波伝播時間となるので式(1)から距離R[m]を求める。
【0029】
【数1】
【0030】
ここでC[m/s]は水中音速である。
【0031】
上記2つのレプリカ(複製)はソフトウェアやメモリ上のデジタルデータであり、実体化していないものであるが、信号発生器22のメモリ上にある同期信号レプリカ及び送信信号レプリカのデータを読み出して、D/A変換器で出力することで初めて実体化されて、本来の同期信号や送信信号となる。すなわち、同期信号レプリカ及び送信信号レプリカのデータ先頭を読み出すタイミングが同期信号並びに送信信号の送信タイミングとなる。
【0032】
信号処理部32で「同期信号レプリカ」と「送信信号レプリカ」を生成するためには、メモリからのデータの読み出しタイミングは特に制約がなく、読み出すタイミング(A/D変換して、メモリ上にデータを取り込む)に同期をとる必要はない。例えば、図4に示すように信号処理部32の受信信号Ch1の波形に対して、点線Aで囲まれた区間と点線Bで囲まれた区間Bについて検討すると、これら2つの区間A、Bは、それぞれ異なるタイミング及び区間で読み出しを行った状態を示している。
【0033】
いま、図4中の区間Aについて、これらの取り込んだデータに対して同期信号レプリカ及び送信信号レプリカを用いた相関関数計算を行うと図5に示すような相関関数出力1と相関関数出力2の波形が得られる。相関関数出力1と相関関数出力2のピークタイミング差から時間差Δが求められる点は前述のとおりである。一方、図4中の区間Bについてみると、すなわち、区間Aとは異なるタイミングで取り込んだ場合でも図6に示すように相関関数出力1と相関関数出力2のピークタイミング差は同じなので、どのタイミングで波形を取り込んでも距離や到来角が検出可能である。よって、信号処理部32での波形取り込みタイミングは任意であり、信号発生器22から出力される送信信号や同期信号の送信タイミングに合わせる制御を信号処理部32で行う必要はない。
【0034】
到来角計算は信号処理部内のソフトウェア処理で2つの受信信号の時間差測定を行い、時間差を到来角θ[deg]に換算する。時間差測定方法は特許文献5にも記載があるが一般的な方法を下記に記す。
【0035】
図7は受信信号Ch1、Ch2に対する相関関数出力のタイミングチャートである。相関関数出力2は図3で説明したように受信信号Ch1と送信信号レプリカの相関関数計算によって得られる。受信信号Ch2と送信信号レプリカの相関関数計算処理を同様に行うと相関関数出力3が得られる。相関関数出力2と相関関数出力3のそれぞれの波形ピーク時間位置を見つけて、その時間差Δ[s]を測定する。上記時間差を以下の式を用いて到来角に換算する。
【0036】
【数2】
【0037】
C[m/s]は水中音速、d[m]は図1に示す第1の受波器26Aと第2の受波器26Bの設置間隔である。
【0038】
図8は、信号処理部32をコンピュータで構成した場合のCPUの動作を説明するフローチャートである。ステップS1では、前述の方法で「同期信号レプリカを発生させる。次にステップS2では、同様に送信信号レプリカを発生させる。ステップS3では、第1の受信アンプ28Aの出力信号である受信信号と、同期信号レプリカとの相関関数を演算して相関関数出力1を得る。次いでステップS4では第1の受信アンプ28Aの出力信号である受信信号と、送信信号レプリカとの相関関数を演算して相関関数出力2を得る。ステップS5では相関関数出力1と相関関数出力2のそれぞれの最大ピークの時間位置から両者の時間差Δ1を求める。ステップS6では時間差Δ1から送信信号の周期の2分の1の時間を減算して送信信号と前記第1の受信アンプ28Aの出力信号である受信信号の時間差Δ2を求める。ステップS7では時間差Δ2と水中音速を用いて、送波器12と第1の受波器26Aとの間の距離を演算する。ステップS8では第2の受信アンプ28Bの出力信号である受信信号と、送信信号レプリカとの相関関数を演算して相関関数出力3を得る。ステップS9では相関関数出力2と相関関数出力3のそれぞれの最大ピークの時間位置から両者の時間差Δ3を求める。ステップS10では時間差Δ3と、水中音速、第1と第2の受波器の設置間隔を用いて到来角θを演算する。
【0039】
上記の相関関数を用いて測位対象物の位置を検出する方法として、ある信号に対して相関関数を計算し、そのピーク位置から信号の時間位置を検出する方法は一般的な方法であり、例えば、独立行政法人港湾空港技術研究所の資料(Nop. 1059 September 2003)の9~10頁 4.4 M系列による伝搬時間の測定には、超音波を利用した水中座標計測技術が示されている。下記に上記資料のURLを示す。
https://www.pari.go.jp/search-pdf/no1059.pdf
【0040】
図9は送信信号と同期信号の周波数関係を示すスペクトル図である。送信信号と同期信号で異なる周波数帯域を用いることでアナログミキサー30の出力後に両者の干渉が起きないようにしている。同期信号は送波器12、受波器26A、26Bの送受周波数帯域と異なる帯域を割り当てることができる。同期信号はアナログミキサー30の入力時に信号が発振しないようにアナログミキサー30の周波数特性内に収まる帯域を割り当てる。
【0041】
測位対象物10から取得した深度をD[m]としたとき、深度、距離、到来角から3次元位置を求める方法を図10に示す。第1の受波器26Aの座標を原点O(0,0,0)とし、測位対象物10(音源位置)座標をQ(xT, yT, zT)とする。座標Qは到来角θが成す平面で原点から距離(半径)Rとなる円の線上であり、かつz座標が深度Dとなる位置に存在するので、3次元位置を示すxT, yT, zTは以下の3つの式でそれぞれ求められる。
【0042】
【数3】
【0043】
【数4】
【0044】
【数5】
【0045】
このようにして求められた3次元位置を示すxT, yT, zTのデータを用いて3次元もしくは2次元のグラフ上に音源位置、すなわち測位対象物の位置をマッピングすることができる。
【0046】
測位対象物10としての水中ロボットに送波器12を取り付けて水中ロボットの3次元位置を特定する測位実験を北海道北見市市民温水プールで実施した。プールの大きさは幅25m,奥行15m,水深1.35mである。送信信号の周波数帯域は12kHz~32kHzであり、同期信号の周波数帯域は2kHz~8kHzである。第1の受波器26Aと第2の受波器26Bの間隔は0.3mとした。測位結果を図11に示す。第1の受波器26Aはxyz座標で(0,0,0)の位置に設置し、その基準点からの送波器12の相対位置を3次元グラフ上にプロットしている。
【0047】
図12は、所定の送波器位置に対する相関関数出力1、相関関数出力2、相関関数出力3の波形である。相関関数出力1と相関関数出力2ピークとの時間差Δ=53[ms]を求めて、Δ2=Δ1-T/2=3[ms]で送信信号と受信信号Ch1の時間差を求める。よって、距離は水中音速C=1500[m/s]を用いて式(2)からR=4.5[m]となる。相関関数出力2と相関関数出力3ピークの時間差はΔ=0.135[ms]であり、受波間隔d=0.3[m]を用いて式(2)から到来角θ=41.8[deg]となる。水中ロボットBlueROVの深度検出装置から出力された深度はD=1.2[m]であり、式(3)~式(5)の各変数に数値を代入すると3次元座標(xT, yT, zT)=(3.1,3.5,1.2)が求められる。なお、図11のグラフはz軸の正負方向が反転しており、(3.1,3.5,-1.2)の位置に測位点をプロットしている。
【0048】
次に、図2に従い本発明の第2の実施の形態について説明する。上述の第1の実施の形態では、水中測位装置20に信号発生器22と送信アンプ24が設けられているが、第2の実施の形態では、信号発生器22と送信アンプ24は、水中測位装置20Aではなく、測位対象物10Aに搭載されている。信号発生器22で発生された送信信号は、送信アンプ24で増幅されて送波器12に与えられ、送波器12から所定の送信信号が送波される。信号発生器22で発生された同期信号は、有線ケーブル18を介して水中測位装置20A内のアナログミキサー30に供給される。測位対象物10Aに搭載された図示省略の深度センサで検出された深度情報は、有線ケーブル16を介して水中測位装置20A内の3次元位置計算部34に供給される。その他の構成は、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0049】
また、図2の第2の実施の形態における信号処理は、上記第1の実施の形態で説明したものと同一であるので、重複した説明は省略する。ここで、第1の実施の形態と第2の実施の形態の差異について検討する。第1の実施の形態では、測位対象物10自体には、信号発生器や送信アンプなどの装置を設ける必要がなく、測位対象物の内部にこれらを収納するための耐圧容器の設計などは不要である。しかし、水中測位装置20に設けられた送信アンプ24から測位対象物10に取り付けられた送波器12に有線ケーブル14で電気信号を送る際にケーブル長に応じた電気信号のエネルギー減衰を考慮する必要があり、高電圧の電気信号を送るため有線ケーブル14が高電圧伝送に耐えられる丈夫な同軸ケーブルである必要がある。これに対し、第2の実施の形態では、信号発生器22と送信アンプ24とを測位対象物10Aの制御装置とともに図示省略の耐圧容器内に収める必要があるが、第1の実施の形態で求められる有線ケーブル14に関する要件が緩和される。なお、第2の実施の形態では、測位対象物10Aの耐圧容器に信号発生器22と送信アンプ24とを収めるように測位対象物10Aの設計が必要である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の水中測位システム/装置は、上記構成を有しているので、2チャンネルのオーディオ入力を有しているパソコン、スマートフォン、タブレットなどを信号処理部に用いることで、簡単な構成で水中の測位対象物の3次元位置を相当な精度で得ることが可能であり、よって、水中の測位対象物の3次元位置の把握が求められる海中や湖沼、河川その他の水中での各種工事、海底や湖底、河川底の把握による船舶航路の安全確保などの行政を含む各種産業や漁業などの産業上有用である。
【符号の説明】
【0051】
10、1A 測位対象物(ROV)
12 送波器
14、16、18 有線ケーブル
20、20A 水中測位装置
22 信号発生器
24 送信アンプ
26A、26B 第1と第2の受波器
28A、28B 第1と第2の受信アンプ
30 アナログミキサー
32 信号処理部
34 3次元位置計算部
A、 B 信号切り出し区間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12