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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-24
(45)【発行日】2025-02-03
(54)【発明の名称】生体信号測定用センサ
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/256 20210101AFI20250127BHJP
   A61B 5/27 20210101ALI20250127BHJP
   D04B 21/20 20060101ALI20250127BHJP
   A41D 13/12 20060101ALI20250127BHJP
【FI】
A61B5/256 210
A61B5/27
D04B21/20 Z
A41D13/12 181
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021066231
(22)【出願日】2021-04-09
(65)【公開番号】P2022161421
(43)【公開日】2022-10-21
【審査請求日】2024-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】596064846
【氏名又は名称】井上リボン工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】516052870
【氏名又は名称】Siddarmark合同会社
(73)【特許権者】
【識別番号】516305514
【氏名又は名称】株式会社JSC
(74)【代理人】
【識別番号】110003203
【氏名又は名称】弁理士法人大手門国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 浩一
(72)【発明者】
【氏名】鶴岡 秀志
(72)【発明者】
【氏名】久本 豊
【審査官】佐藤 秀樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/230730(WO,A1)
【文献】特開2019-135003(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0323491(US,A1)
【文献】特開2017-27658(JP,A)
【文献】特開2011-231449(JP,A)
【文献】特開2017-213391(JP,A)
【文献】特表2007-501086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/256
A61B 5/27
D04B 21/14-21/18
D03D 15/275
D03D 15/533
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性の編成糸からなる地組織に複数の挿入糸を挿入して編成された電極体と、前記電極体に水分を供給する水分供給部とを備え、衣類の生地に装着される生体信号測定用センサであって、前記電極体は、人体表面に接触する側の一部の領域において前記挿入糸として導電性挿入糸を連続して面状に配置して露出させた電極部と、人体表面に接触する側の前記電極部を囲む領域において前記挿入糸として複数本の絶縁性挿入糸を面状に配置して露出させた当接部とを備え、前記水分供給部は、前記生地の肌側とは反対側において前記電極部に対向する位置に取り付けられた水分保持部を備えている生体信号測定用センサ。
【請求項2】
前記水分供給部は、前記生地の肌側において前記電極部に対向する位置に取り付けられて前記水分保持部から前記電極部に水分を誘導する水分誘導部を備えている請求項1に記載の生体信号測定用センサ。
【請求項3】
前記導電性挿入糸は、カーボンナノチューブからなる糸である請求項1又は2に記載の生体信号測定用センサ。
【請求項4】
前記導電性挿入糸は、平均繊維長が80μm~350μmのカーボンナノチューブからなる繊維材料により形成された紡績糸である請求項3に記載の生体信号測定用センサ。
【請求項5】
前記導電性挿入糸は、電気伝導率が103S/m以上である請求項3又は4に記載の生体信号測定用センサ。
【請求項6】
前記絶縁性挿入糸は、マイクロファイバーからなる糸である請求項1から5のいずれかに記載の生体信号測定用センサ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の生体信号測定用センサを装着した衣類。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載の生体信号測定用センサに用いる電極体であって、前記地組織は、経方向に伸縮性を有する経編組織の緯方向に沿って配列された編目列にそれぞれ緯挿入糸を挿入して編成されており、前記電極部は、前記地組織の体表面に接触する側の一部の領域において連続した前記導電性挿入糸を緯方向に折り返しながら前記編目列に挿入して露出させて形成されている電極体。
【請求項9】
前記地組織の経編組織を経方向に所定幅で延設させるとともに前記導電性挿入糸を前記編目列に挿入しながら経方向に延長させた接続部を備えている請求項8に記載の電極体。
【請求項10】
前記接続部には、前記導電性挿入糸を緯方向に折り返しながら前記編目列に挿入して露出させた接点部が形成されている請求項9に記載の電極体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体表面に電極を密着させて生体信号を測定するための生体信号測定用センサに関する。
【背景技術】
【0002】
人体に生体信号測定用センサを装着して生体信号を検出し、検出信号を通信ネットワークを経由してサーバー当の情報処理装置に保存して分析処理を行うことが提案されている。こうした生体信号を検出して分析することで、ヒトの健康状態を常時モニタリングすることが可能となり、例えば、循環器系の健康状態を把握して心臓病や呼吸困難などの疾病を予防することができる。
【0003】
生体信号測定用センサとしては、手首に装着して脈拍を測定するLED素子を備えた腕時計式脈拍測定装置、手指に装着して血中酸素濃度を測定するパルスオキシメータ等の血中酸素測定装置が市販されている。
【0004】
一方、循環器系のモニタリングで必須となる、心電及び筋肉の状態を測定する筋電信号、神経活動を測定する神経信号、及び脳波信号といった生体信号を測定するセンサについても様々なセンサが提案されている。例えば、特許文献1では、導電パターンが設けられた樹脂フィルムと、導電パターン上に樹脂フィルムと対向させて設けられた伸縮性のベースとを有し、導電パターンが、生体信号を検出するための複数の電極部と、複数の電極部に一端を接続された複数の配線部とから形成された生体電極が記載されている。また、特許文献2では、経糸に非導電性糸を用い、緯糸に導電性糸及び非導電性糸を用いて綴れ織りすることにより導電性領域と非導電性領域を形成し、導電性領域からなる電極を複数具備してなる多電極付き織物を用いた生体電気信号計測用電極が記載されている。また、特許文献3では、導電性繊維構造物からなる電極と、生体と接触する電極が取得した生体電気信号を検出処理する測定装置と、電極と測定装置とを導通接続する配線部と、電極、測定装置、および配線部が所定の位置に配置される衣料本体部とを具備する生体信号検出衣料が記載されている。。
【0005】
こうした生体信号測定用センサは、衣類等に取り付けて人体表面に装着するようになっているが、生体から発する電気信号を測定する場合に、センサの電極表面と人体の皮膚との間の接触不良によりノイズが発生して分析可能な生体信号を十分取得できないことがある。
【0006】
そのため、導電性液体または導電性樹脂シートをセンサの電極表面と皮膚との間に介在させることが提案している。導電性液体としては、生理食塩水、エチレングリコール、ヒアルロン酸等の導電性を有する液体またはゲル状のものが使用されているが、導電性液体が蒸発したり、体温による粘度低下で流出したりするため、測定時間に制約を受ける。
【0007】
こうした課題に対処するため、特許文献4では、導電性の多孔質体、または表面および内部の少なくとも一部に良導性材料もしくは不分極材料が固定された非導電性の多孔質体からなる生体信号受信部と、生体信号受信部と電気的に接続されたコネクタ部と、生体と接触する面と反対側の生体信号受信部の面を覆う水分蒸発抑制用覆いと、生体信号受信部に電解質溶液もしくは非電解質液体によって湿気を与える湿気補充機構とを備えた生体電極が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第3923861号公報
【文献】特許第5487469号公報
【文献】特許第6301969号公報
【文献】特許第6073745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載されたように、導電性パターンを形成した樹脂フィルムをセンサに用いた場合、人体に装着した樹脂フィルムの伸縮や捩れ等により導電性パターンが破断しやすく洗濯耐久性が低く、また人体表面に樹脂フィルムが密着した状態では利用者にとって衣類とは異なる違和感が生じるようになる。
【0010】
特許文献2及び3では、導電性繊維材料を用いて衣類の生地に電極及び配線を形成しているが、特許文献2については電極が市松模様に配置されており、医療関係者の推奨する小さな電極とは異なるため、心電の測定精度が損なわれ低下することは避けられない。また、特許文献3では、電極部分に導電性高分子を含浸させており、導電性高分子の剥離が生じやすく洗濯耐久性で課題がある。
【0011】
特許文献4では、センサの電極表面と人体の皮膚との間に導電性液体を介在させる場合、センサとその周辺を塩類やイオン性物質を含む液体で常時濡れた状態またはその蒸気を保持した状態となるので、塩類やイオン性物質による皮膚のかぶれや、ウエット状態での細菌増殖による皮膚障害が発生するおそれがある。
【0012】
また、生体信号測定用センサについては、人体表面に直接装着するため常に清潔な状態に保持することが必要であり、衣類とともに洗濯することが行われる。その際に、発汗による汗沁みやこれを除去するための洗濯での洗剤による洗浄で電極部分に用いた材料表面の電気伝導性が低下し、電極部分の電気抵抗の増加によりノイズの増加や測定自体が不良となるおそれがある。
【0013】
そこで、本発明は、人体表面に違和感なく装着でき生体信号を安定して測定することができる生体信号測定用センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る生体信号測定用センサは、絶縁性の編成糸からなる地組織に複数の挿入糸を挿入して編成された電極体と、前記電極体に水分を供給する水分供給部とを備え、衣類の生地に装着される生体信号測定用センサであって、前記電極体は、人体表面に接触する側の一部の領域において前記挿入糸として導電性挿入糸を連続して面状に配置して露出させた電極部と、人体表面に接触する側の前記電極部を囲む領域において前記挿入糸として複数本の絶縁性挿入糸を面状に配置して露出させた当接部とを備え、前記水分供給部は、前記生地の肌側とは反対側において前記電極部に対向する位置に取り付けられた水分保持部を備えている。さらに、前記水分供給部は、前記生地の肌側において前記電極部に対向する位置に取り付けられて前記水分保持部から前記電極部に水分を誘導する水分誘導部を備えている。さらに、前記導電性挿入糸は、カーボンナノチューブからなる糸である。さらに、前記導電性挿入糸は、平均繊維長が80μm~350μmのカーボンナノチューブからなる繊維材料により形成された紡績糸である。さらに、前記導電性挿入糸は、電気伝導率が103S/m以上である。さらに、前記絶縁性挿入糸は、マイクロファイバーからなる糸である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、上記の構成を有することで、電極部を編成糸及び挿入糸で編成しているので、衣類の生地と同じ触感となり、生地の肌側とは反対側に設けた水分保持部から水分が生地を通して電極部に沁み出して水分が供給されるようになり、人体表面に違和感なく装着でき生体信号を安定して測定することができる。
【0016】
また、電極部を導電性挿入糸を連続して面状に配置して露出させているので、良好な導通状態を確保することができ、電極部のコンパクト化を図ることが可能となる。また、導電性挿入糸に水分が沁み込んで良好な導通状態を維持することができる。そして、導電性挿入糸を連続して使用することで、配線を継ぎ目なく構成でき伸縮や捩れ等による断線を防止することができる。
【0017】
また、電極部を囲む領域に挿入糸を露出させた当接部を設けているので、当接部が人体表面に密着して電極部を人体表面に接触した状態を保持することができる。また、電極部に供給された水分が当接部にも浸み込むようになり、電極部を囲む領域全体を安定した湿潤状態とすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る生体信号測定用センサに関する概略断面図である。
図2】生体信号測定用センサの電極部に用いる電極体を人体表面側からみた概略平面図である。
図3】電極体を編成するための編組織を例示する組織図である。
図4】生体信号測定用センサを下着に取り付けた例に関する説明図である。
図5】生体信号測定用センサを手足に巻き付けるバンドとして取り付けた例に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0020】
図1は、本発明に係る生体信号測定用センサに関する概略断面図であり、図2は、生体信号測定用センサの電極部に用いる電極体を人体表面側からみた概略平面図である。生体信号測定用センサは、衣類の生地Cの肌側に配置されるとともに電極部10、接続部11及び当接部12を有する電極体1と、電極部10に水分を供給する水分供給部2とを備えている。
【0021】
電極体1は、絶縁性の編成糸からなる地組織に複数の挿入糸を挿入して編成されており、電極部10は、人体表面に接触する側の一部の領域において地組織G1に導電性挿入糸L1を連続して面状に配置して露出させて構成されている。接続部11は、所定幅で延設された地組織G1に導電性挿入糸L1が延長して取り付けられており、端部には、延長した導電性挿入糸L1を面状に配置して露出させた接点部13が形成されている。また、当接部12は、人体表面に接触する側の電極部10を囲む領域において地組織G2に複数本の絶縁性挿入糸L2を面状に配置して露出させて構成されている。
【0022】
電極体1は、複数の挿入糸が取り付けられた地組織から編成されているので、衣類の生地と同様な素材で構成することができ、衣類に取り付けて着用した場合でも衣類と同様に変形して違和感なく人体表面に装着することができる。
【0023】
導電性挿入糸L1が取り付けられた地組織G1は絶縁性の編成糸により編成されているため、導電性挿入糸L1は電気的に絶縁状態で取り付けられており、接続部11は、導電性挿入糸L1が露出する肌側の面を絶縁性シート等により被覆して生地Cに取り付けることで、絶縁状態を確保することができる。
【0024】
また、導電性挿入糸L1は、連続した1本の糸により構成されて地組織G1に取り付けられているので、地組織G1の伸縮及び捩れ等の変形に追随して変形するようになり、断線等が生じることはない。そして、電極部10及び接点部13では、1本の導電性挿入糸L1を所定幅で折り返しながら面状に配置して露出させて構成されており、コンパクトなサイズで十分な導通面積を確保することができるようになっている。
【0025】
当接部12は、電極部10の両側において電極部10を囲むように配置されており、絶縁性の編成糸からなる地組織G2に複数本の絶縁性挿入糸L2がパイル状に露出して面状に配列されている。そのため、当接部12は、人体表面に対して良好な肌触りで接触した状態とすることができる。
【0026】
図3は、電極体を編成するための編組織を例示する組織図である。この例では、地組織G1及びG2の長手方向が経方向(図3では上下方向)となり、幅方向(図3では左右方向)が緯方向となる。地組織G1及びG2は、編成糸L3を用いて所定間隔で幅方向に配列された複数の鎖編列からなる経編組織を備えており、各鎖編列には、弾性糸L4が各編目を通過して経方向に沿って交絡するように編み込まれている。そのため、各鎖編列は、弾性糸L4により経方向に伸縮可能となるように構成されており、無負荷状態では経方向に縮んだ状態となっているが、経方向に引張るように負荷をかけた状態では引き伸ばされるように伸長した状態となる。
【0027】
また、各鎖編列を編成する際の同一コースの編目は、緯方向に直線状に配列された編目列を形成している。形成された編目列には、地組織G1では緯挿入糸L5が各編目を通過して緯方向に沿って挿入され、地組織G2では緯挿入糸L6が各編目を通過して緯方向に沿って挿入されている。緯挿入糸L5は、地組織G1の1つの編目列に対して全幅にわたって挿入された後折り返して次のコースの編目列に全幅にわたって挿入されており、全幅にわたって振られるように順次編目列に挿入されて鎖編列に編み込まれている。緯挿入糸L6についても、緯挿入糸L5と同様に、地組織G2の全幅にわたって折り返しながら編み込まれている。そして、当接部12の形成部分Hでは、緯挿入糸L5及びL6が折り返し部分で重なり合って鎖編列に挿入されることで連結一体化するように編成されている。
【0028】
鎖編列は、弾性糸21の弾性力により長手方向に縮むように収縮するため、地組織G1及びG2を長手方向に引っ張ることで、全体を引き伸ばすように伸長させることが可能となり、長手方向に高い伸縮性を有するようになる。緯方向に挿入された緯挿入糸L5及びL6により鎖編列の編目が幅方向に連結されているため、地組織G1及びG2が長手方向に伸縮する際に、鎖編列が連動して同じように伸縮するようになる。伸縮動作の際に、鎖編列の緯挿入糸L5及びL6が挿入された編目列は、各編目がずれることなく長手方向に一緒に移動するように地組織G1及びG2が伸縮するので、長手方向に安定した伸縮動作を行うようになる。
【0029】
地組織G1及びG2は、収縮した状態では、緯挿入糸L5及びL6の折り返した直線状の部分が密着した状態で面状に配列されるようになる。また、地組織G1及びG2の緯方向の伸縮については、緯方向に緯挿入糸L5及びL6が編み込まれているため、ほとんど伸縮しないようになっている。
【0030】
地組織G1には、中央部分に導電性挿入糸L1が編み込まれており、導電性挿入糸L1の左右両側に緯挿入糸L7及びL8が編み込まれている。
【0031】
電極部10に対応する領域では、導電性挿入糸L1は、所定幅で緯挿入糸L5と重なるように折り返して編目列に挿入されている。そのため、緯挿入糸L5と同様に、地組織G1が導電性挿入糸L1の折り返した直線状の部分がつづら折り状の密着した状態で面状に配列されて電極面が形成されている。導電性挿入糸L1は、地組織G1の表面に配置され、挿入された編目を形成する編成糸L3で止着されており、地組織G1の表面に露出した状態で取り付けられている。緯挿入糸L7及びL8は、導電性挿入糸L1の折り返し部分の両側に緯挿入糸L5と重なるように折り返して編目列に挿入されており、折り返し部分が導電性挿入糸L1の折り返し部分で重なり合って鎖編列に挿入されて連結された状態となっている。そのため、電極部10において導電性挿入糸L1が両側から緯挿入糸L7及びL8により保持されて伸縮、捩れ等の変形に対して形状安定性を備えている。
【0032】
接続部11に対応する領域では、緯挿入糸L7及びL8は、緯挿入糸L5と重なるように折り返して編目列に挿入され、地組織G1の中央部分で折り返し部分が重なり合って鎖編列に挿入されている。
【0033】
導電性挿入糸L1は、緯挿入糸L7及びL8の重なり合って挿入された鎖編列において複数の編目(例えば、3つの編目)を空けて順次編目に挿入して経方向に沿って取り付けられている。そのため、導電性挿入糸L1は、地組織G1の表面に配置され、挿入された編目を形成する編成糸L3で止着されており、地組織G1の表面に露出した状態で取り付けられている。
【0034】
また、導電性挿入糸L1は、地組織G1が伸長した状態で鎖編列に沿って直線状になるように取り付けられており、地組織G1が収縮した状態では、止着された編成糸L3の間で弛んだ状態となり、導電性挿入糸L1として撚糸された曲げ変形が可能な糸を用いることで、緯方向に蛇行した状態で保持されるようになる。そのため、地組織G1が伸縮しても導電性挿入糸L1が糸長方向にほとんど負荷がかかることがなくなる。
【0035】
導電性挿入糸L1は、緯挿入糸とともに編目に保持されているため、地組織G1の長手方向の伸縮動作の際に、緯挿入糸とともに移動するようになる。そのため、地組織G1を長手方向に引張力を加えて伸長させた場合に、導電性挿入糸L1は、編目からほとんどずれることなく蛇行した形状のまま経方向に引き伸ばされるようになる。また、引張力を解除して元の状態に戻る場合にも編目からほとんどずれることなく元の蛇行した形状となり、地組織G1の長手方向の伸縮動作に対して、編目からずれることで生じる導電性挿入糸L1への負荷がほとんど加わらない。
【0036】
当接部12では、複数本の絶縁性挿入糸L2が幅方向に配列されてそれぞれ鎖編列に沿って編目に挿入して取り付けられている。絶縁性挿入糸L2は、複数の編目(例えば、3つの編目)を空けて順次編目に挿入されて編成糸L3で地組織G2に止着されており、地組織G2の表面に露出した状態で取り付けられている。また、絶縁性挿入糸L2は、地組織G2が伸長した状態で鎖編列に沿って直線状になるように取り付けられており、地組織G2が収縮した状態では、止着された編成糸L3の間で弛んだ状態となる。そのため、絶縁性挿入糸L2として無撚糸を用いることで、繊維がパイル状に拡がるようになる。そして、パイル状に拡がった繊維が面状に配置されることで、人体表面に密着した際に衣類と同様の良好な肌触りを得ることができる。
【0037】
地組織に用いる編成糸としては、絶縁性繊維材料からなる糸が好ましく、特に限定されるものではなく、公知の繊維材料から任意に選定できる。鎖編列に用いる糸としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエステル系エラストマー繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリプロピレン系繊維等の合成繊維、綿、麻、ウール等の天然繊維、キュプラレーヨン、ビスコースレーヨン、リヨセル等の再生繊維その他、任意の繊維が挙げられ、複数種類の繊維材料を混繊したものでもよい。また、弾性糸に用いる糸としては、伸縮性を付与するためにポリウレタン系弾性繊維、ポリオレフィン系弾性繊維、天然ゴム及び合成ゴム系弾性繊維等を組み合わせてもよい。
【0038】
緯挿入糸についても特に限定されるものではなく、公知の繊維材料から任意に選定できる。例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエステル系エラストマー繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリプロピレン系繊維等の合成繊維、綿、麻、ウール等の天然繊維、キュプラレーヨン、ビスコースレーヨン、リヨセル等の再生繊維その他、任意の繊維が挙げられ、複数種類の繊維材料を混繊したものでもよい。
【0039】
地組織に用いる編成糸、弾性糸及び緯挿入糸の太さは、衣類に用いることが可能であれば特に限定されることはなく、10デシテックス~4000デシテックスの範囲で適宜選択すればよい。
【0040】
導電性挿入糸としては、耐食性及び防錆性の観点から非金属材料からなる糸が挙げられ、炭素繊維、カーボンナノチューブ等の炭素材料からなる糸が好ましく、カーボンナノチューブからなる糸が特に好ましい。導電性挿入糸は、導電性の高いものが望ましく、具体的には電気伝導率が103S/m以上であることが好ましい。より好ましくは、103S/m~108S/mで、さらに、103S/m~107S/mがより好ましい。導電性挿入糸の太さは、曲げ変形等の柔軟性を備え、断線等が生じないように設定することが望ましく、20デシテックス~1000デシテックスの範囲で適宜選択すればよい。
【0041】
絶縁性挿入糸としては、繊維径が8μm以下のポリエステル系繊維又はナイロン系繊維からなるマイクロファイバーからなる糸が好ましい。マイクロファイバーからなる糸は、吸水性、通気性及び保温性を備えており、電極部の周囲の保水性を高めることができ、良好な肌触りを実現できる。また、無撚糸で用いることで繊維がばらけるように拡がって当接部全体をマイクロファイバーで面状に覆うように形成することができる。
【0042】
電極体を衣類に取り付けて用いる場合、衣類とともに洗濯することが想定されることから、洗濯耐久性を有する導電糸が好ましく、例えば、カーボンナノチューブからなる糸は、耐水性が高く、化学反応性が極めて低いといった特性を有することから特に好ましい。
【0043】
カーボンナノチューブからなる糸は、基板上に垂直に配向して形成された多数のカーボンナノチューブ(カーボンナノチューブアレイ)を引き出して、紡績することによって作製することができる。カーボンナノチューブアレイから引き出された個々のカーボンナノチューブは、引き出された方向に連続的に配向し、複数の繊維を形成する。それらの複数の繊維に撚りをかけることで紡績糸が得られる。各カーボンナノチューブは主に二層カーボンナノチューブからなるものが好ましく、2nm~10nm程度の直径を有しているものが好ましい。
【0044】
これらのカーボンナノチューブが基板上に垂直配向してなるカーボンナノチューブアレイは、紡績性の観点からは、カーボンナノチューブの長さが80~350μm程度であることが好ましく、100~200μmであることがより好ましい。
【0045】
得られたカーボンナノチューブからなる糸は、電気伝導率が103S/m以上であることが好ましい。電気伝導率が103S/m未満では、微弱な生体信号を正確に測定することは難しくなる。
【0046】
カーボンナノチューブからなる糸の洗濯耐久性については、JIS L1930 2014に準拠する洗濯試験方法で、洗濯ネットに収容してトップローディング全自動洗濯機により50回洗濯した後の電気伝導率の低下が5%未満であることが好ましい。
【0047】
以上説明した電極体1の編成については、クロシェット編が可能な公知の経編機を用いて編成することができる。そのため、上述した細幅テープ形状以外の形状に編成することが可能で、例えば、メッシュ状、二股状、三股状といったようにセンサの配置箇所に応じた形状で一体編成することができる。また、経編組織として、鎖編列を複数配列した組織を例に説明したが、緯挿入糸を挿入可能な編目列が編成される経編組織であればこれ以外の経編組織でもよく、特に限定されない。
【0048】
水分供給部2は、生地Cの肌側とは反対側において電極部10に対向する位置に取り付けられた水分保持部20と、生地Cの肌側において電極部10に対向する位置に取り付けられて水分保持部20から電極部10に水分を誘導する水分誘導部21とを備えている。
【0049】
水分保持部20は、スポンジ等の水分を保持可能な素材からなり、生地Cの肌側とは反対側に取り付けられた枠状の支持部22及び支持部22に着脱可能に装着されるカバー部23により生地Cに密着した状態で取り付けられる。支持部22は、例えば、面ファスナーのループ部材を枠状に裁断して生地Cに縫製等により固定し、カバー部23は、例えば、面ファスナーのフック部材を支持部22全体を覆うように裁断して支持部22に着脱可能に取り付けることができる。そして、水分保持部20を覆うカバー部23を手指等で押圧することで、水分保持部20に含浸された水分を生地Cに向かって押し出して生地Cに移行させることができる。
【0050】
生地Cに移行された水分は、水分保持部20に対向配置された水分誘導部21に滲み出るようになる。水分誘導部21は、例えば、シリコン等の柔軟性を有するシート部材に厚さ方向の貫通孔が多数形成されており、滲み出た水分は貫通孔を通過して電極部10に滲み込むようになる。水分誘導部21は、生地Cの肌側の表面に取り付けられており、水分誘導部21の表面には、電極体1の電極部10に対向する裏面が当接するように取り付けられている。水分誘導部21及び電極部10は、生地Cに対して縫製又は接着等により取り付けることができる。
【0051】
水分誘導部21を介して生地Cに取り付けられた電極部10は肌側に突出するようになるため、衣類を着用した際に、電極部10は人体表面に圧接した状態に設定することができ、測定位置に安定して配置することが可能となる。
【0052】
こうして、水分供給部2から水分が電極部10の効率よく供給されるようになる。測定時に水分保持部を押圧して測定することで、電極部10に水分が十分含浸した状態で測定することが可能となり、同じ条件で安定した測定を行うことができる。水分誘導部21では、供給された水分がほとんど保持されることなく通過して電極部10に浸み込むので、保持された水分に雑菌等が繁殖するのを抑えることができる。
【0053】
電極部10に供給された水分は、電極部10の周囲の当接部11にも拡がるように含浸して、湿潤状態を保持することができ、供給する水分が少ない場合でも支障なく測定を行うことが可能となる。
【0054】
また、水分保持部20を衣類に取り付けているので、人体の体温によって温められた状態となり、水分を供給した際の冷感を感じることがほとんどなく、測定を違和感なく行うことができる。また、供給する水には、生理食塩水、有機導電物質といった使用後にべたつき感が残る物質を含まないので、良好な使用感を得ることができる。発汗した状態では、電極部10に汗が含浸した状態となるため、水分を供給する必要はなく、コンパクトなサイズの水分保持部でも実用に問題ないといった利点がある。
【0055】
図4は、生体信号測定用センサを下着に取り付けた例に関する説明図である。この例では、下着の生地(図面では省略している)に胸部に4個のセンサS1~S4を取り付けており、各センサの電極部は左右の肩側及び脇側に配置している。各センサの電極体の接続部は胸部の中央に配置された信号処理部Pに接続するように放射状に配置されている。各センサの電極体の接続部は絶縁性シート等により被覆されて外部と電気的に絶縁された状態となっている。
【0056】
このように取り付けることで、心電計測等の生体信号測定を行うことが可能となり、着用した状態でも身体動作に対して各センサの電極体の接続部が伸縮して追随するようになって安定した測定を行うことができる。
【0057】
図5は、生体信号測定用センサを手足に巻き付けるバンドとして取り付けた例に関する説明図である。この例では、センサS5~S9は、電極体の接続部の端部を電極部に固定してリング状に形成し表面に伸縮性を有する生地を取り付けてバンド状に構成されている。そして、バンド状のセンサS5及びS6を両足首に、センサS7及びS8を両手首に、センサS9を胸回りにそれぞれ巻き付けるように装着している。
【0058】
各センサの接続部は伸縮性を有しているため、取付箇所に密着した状態で取り付けることができ、取付箇所からずれるのを防止する。胸回りに装着したセンサS9には信号処理部Pが取り付けられており、各センサから配線により信号処理部Pに接続されて生体信号を送信するようになっている。この例では、電極体を人体に巻き付けて装着するようにしているので、生地側に縫製等により取り付けなくてもよく、生地側に取り付けた水分供給部と接触した状態に設定すればよい。
【0059】
このように取り付けることで、心電計測等の生体信号測定を行うことが可能となり、センサを装着した状態でも通常の身体動作を支障なく行うことができる。
【0060】
以上説明したように、衣類の生地と同様の伸縮性及び肌触りを有する電極体を用いているので、生体信号測定用センサを違和感なく装着することができ、安定した生体信号測定を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0061】
C・・・生地、G1、G2・・・地組織、L1・・・導電性挿入糸、L2・・・絶縁性挿入糸、1・・・電極体、10・・・電極部、11・・・接続部、12・・・当接部、13・・・接点部、2・・・水分供給部、20・・・水分保持部、21・・・水分誘導部、22・・・支持部、23・・・カバー部
図1
図2
図3
図4
図5