(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-24
(45)【発行日】2025-02-03
(54)【発明の名称】鉄基軟磁性合金の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/06 20060101AFI20250127BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20250127BHJP
【FI】
B22D11/06 360B
B22D11/06 370A
B22D11/06 380A
H01F1/147 166
(21)【出願番号】P 2024168474
(22)【出願日】2024-09-27
【審査請求日】2024-09-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523324292
【氏名又は名称】ネクストコアテクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001597
【氏名又は名称】弁理士法人アローレインターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】金清 裕和
【審査官】隅川 佳星
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-35737(JP,A)
【文献】特開2021-193199(JP,A)
【文献】国際公開第2022/196672(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/22002(WO,A1)
【文献】国際公開第2024/48064(WO,A1)
【文献】国際公開第2024/57653(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/06
C22C 45/02
H01F 1/153
H01F 27/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式(Fe
1-mCo
m)
100-x-ySi
x(B
1-nC
n)
yで表現され、組成比率x、y、mおよびnがそれぞれ、
1.0≦x≦3.0 原子%、
11.0≦y≦14.0 原子%、
0.05≦m≦0.5、
0.0≦n≦0.3
を満足する組成の合金溶湯を用意する工程と、
純銅、銅合金、MoおよびWのいずれかを主原料とする冷却ロール上で、ノズルから噴射した前記合金溶湯を急冷凝固する急冷凝固工程とを備え、
前記冷却ロールは、外径が300mm以上2000mm以下であり、冷却水が軸方向に流れる円筒状の冷却水路が内部に形成されており、表面の算術平均粗さ(Ra)が0.01μm以上0.6μm以下であり、表面から前記冷却水路までの径方向の厚みが5mm以上25mm未満であり、
前記急冷凝固工程は、5℃以上60℃未満の冷却水が0.1m
3/min以上20m
3/min未満の流量で通水される前記冷却ロールをロール表面速度15m/sec以上50m/sec以下で回転させながら、前記冷却ロールの表面に前記ノズルから前記合金溶湯を噴射することにより、平均結晶粒径が1nm以下の超微細なα-Feを主相とする厚みが18μm以上40μm未満の薄帯状急冷凝固合金を形成する工程を備える鉄基軟磁性合金の製造方法。
【請求項2】
前記ノズルは、石英(SiO2)、窒化硼素(BN)、炭化珪素(SiC)およびアルミナ(Al2O3)のいずれかを主成分する材料からなり、5kPa以上50kPa以下の圧力で前記合金溶湯を噴射する請求項1に記載の鉄基軟磁性合金の製造方法。
【請求項3】
前記ノズルは、シングルスリットノズルであり、スリットの長手方向が前記冷却ロールの回転方向と直交するように配置されており、
前記スリットの開口幅は、0.2mm以上0.8mm以下であり、
前記ノズルから前記冷却ロールまでの距離は、0.1mm以上2.0mm以下である請求項2に記載の鉄基軟磁性合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄基軟磁性合金の製造方法に関し、より詳しくは、各種ブラシレス直流モータへ適用可能な鉄基軟磁性合金の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品として使用されるインダクタやリアクトルといったパワーエレクトロニクス分野など向けの各種受動素子やトランス向けに、鉄損が低く飽和磁束密度が高い材料が市場から求められており、透磁率が高く、鉄損が低い軟磁性材料として鉄基アモルファス材料や、同じく鉄基のナノ結晶材料といった鉄(Fe)、珪素(Si)、硼素(B)を主原料とする溶湯急冷凝固により作製される厚み17μmから25μm程度のFe-Si-B系急冷凝固合金薄帯が、従来の珪素鋼板(Fe-Si)に代わる低鉄損軟磁性材料として、大型トランスやインダクタ向けへの需要が増えている。
【0003】
加えて上記Fe-Si-B系急冷凝固合金は、珪素鋼板に比べて低鉄損の特長を活かし、ブラシレス直流(BLDC)モータのステータコアに適用することで、ステータコアに発生する鉄損の低減によるブラシレス直流(BLDC)モータの高効率化が検討されている。特に1万rpmあるいは2万rpmを超えるような高速回転型のモータでは、軟磁性材料の動作域が1kHz以上の高周波帯域となるため、ステータコアに発生する鉄損が抑えられ従来にない高効率が得られることが確認されている。さらに、全世界の60%程度の電力がモータにて消費されている現状において、モータの高効率化はカーボンフリーを実現し得る直接的な手段として、電気自動車や、エアコンをはじめとする白物家電、およびFA向けモータへの展開が期待されている。
【0004】
しかしながら、上記のFe-Si-B系アモルファス合金は、飽和磁束密度が1.6T以下と既存のモータコア材である電磁鋼板の1.8Tにおよばないことから、1万rpm以上の高速回転モータでは必要なモータ出力を確保できるが、FAや空モビリティーといった低速回転域から高トルクが必要なモータには適用が難しい。このため、電磁鋼板並みの1.8T程度の高飽和磁束密度を確保しながら、Fe-Si-B系アモルファス合金並みの低鉄損性能との両立が可能な鉄基軟磁性材料が求められている。
【0005】
上記の市場要求から、最大でもBsが1.6T程度のFe-Si-B系アモルファス合金や、1.4T程度の鉄基ナノ結晶材料(例えば、FINEMET(登録商標))では、Bs:1.8Tの電磁鋼板を代替することが難しく、これまでFe-Si-B系急冷凝固合金を適用したBLDCモータをFAや空モビリティー向けモータとして市場に投入された例はない。
【0006】
上記のFAや空モビリティー向けのBLDCモータは、これまで電磁鋼板のコア材と優れた永久磁石特性を発現する異方性希土類鉄硼素系焼結磁石を組み合わせ、マグネットトルクの活用による高効率が進められてきたが、鉄損が大きい電磁鋼板では、投入電力がステータコアに発生する鉄損で失われ、FAや空モビリティー向けなどのBLDCモータに要求されるモータ効率を得られず、省エネ化に貢献可能な高出力・高効率BLDCモータの市場要求は種々の用途で極めて高い。
【0007】
また、Fe-Si-B系アモルファス合金は、電磁鋼板に対して鉄損を1/10以下まで大幅に低減可能であり、加えて透磁率も高いことから、電磁鋼板よりBsが低いと言う課題を克服できれば、具体的にはBs≧1.7Tを実現することでFAや空モビリティー向けのBLDCモータに必要なモータ出力を確保できる。このため、電磁鋼板からの代替が可能なBs≧1.7Tが得られる鉄基アモルファス合金並みの低鉄損を実現したコア材料へのモータ市場からの期待は世界的に極めて高い。
【0008】
なお、BLDCモータのロータコアおよびステータコアへ適用されている電磁鋼板は、積層コアとして用いられているが、既存のFe-Si-B系アモルファス合金は、合金の厚みが20μm程度と薄いことが原因で打抜き加工が困難であるのに加えて、合金厚みが薄いことに起因して、積層コア化した際の占積率が電磁鋼板の92%以上に対して90%未満の低い占積率に留まることから、電磁鋼板並みのモータトルクを得ることが難しい。
【0009】
非特許文献1ではFe-Si-B系のアモルファス合金は、従来、104~106 K/secといった非常に速い急冷凝固速度で厚み17μmから22μm程度の急冷凝固合金薄帯でなければアモルファス組織を得られなかったが、リン(P)を添加することで急冷凝固速度を低下させ厚み50μm以上の鉄基アモルファス合金薄帯が得られることが開示されているが、P添加は飽和磁束密度Bsの低下を招来するだけでなく、P添加系合金は合金溶解時にP成分が揮発し炉内汚染が著しいことから未だ産業分野での応用例は少ない。
【0010】
非特許文献2ではFe-Si-B‐P‐Cu系の鉄基ナノ結晶合金「NANOMET(登録商標)」は、高い飽和磁束密度Bs:1.85Tと鉄基アモルファス合金並みの低鉄損性能を有する軟磁性材料であることが開示されているが、当該鉄基ナノ結晶合金は、非常に脆く打抜きプレス加工法による積層コア化が困難であることから、量産レベルでBLDCモータのロータコア及びステータコアへ適用が難しく、試作レベルを除き、モータ向けコア材としてとして実用化された例はこれまでない。
【0011】
特許文献1、特許文献2および特許文献3は50μm以上といった厚みの急冷合金薄帯の作製方法が記載されているが、何れもEV駆動用BLDCモータ向け積層コアへの適用を想定したBs≧1.7Tを有するFe-Si-B系のアモルファス合金は実現されておらず、珪素鋼板に代わる軟磁性材料として鉄基のアモルファス合金が産業利用されている例は未だない。
【0012】
特許文献4では、移動する冷却基板上(回転する冷却ロール)に、その移動方向に対しほぼ直角に配列され、かつそれぞれが前記移動方向に対して10~80°の角度をもつ複数の開口部(多孔ノズル)から溶融金属を噴出させ、急冷凝固させることを特徴とする金属薄帯の製造方法を開示しているが、特許文献4は、幅の広い急冷薄帯を作製する際、幅方向における金属薄帯の厚みばらつきの低減を目的になされた発明である。また、10~80°の角度を持つ複数の細長い平行四辺形、台形または楕円形状の開口部を加工することは難しく、ノズル加工費が高騰するという問題もあり工業的に量産レベルでの利用は難しい。
【0013】
特許文献5では、厚み40μm以上のFe-Si-B系アモルファス合金の製造方法を開示しているがBs≧1.7Tを確保でき得る合金組成を開示しておらず、EV駆動用BLDCモータ向け軟磁性材料の提供を発明の目的としていない。
【0014】
特許文献6では、飽和磁束密度Bs≧1.7T、保磁力Hc≦200A/m である厚みが40μm 以上70μm 以下のFe-Si-B 系急冷凝固合金およびその製造方法が記載されているが、急冷凝固過程において表層に0.1体積%以上10 体積%以下のα-Fe相が析出し、残部がアモルファス組織からなる急冷凝固合金となることに起因して、コア形状によっては打抜きプレス加工が困難になるおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開平5-329587
【文献】特開平7-113151
【文献】特開平8-124731
【文献】特開昭63-220950
【文献】特開2018-153828
【文献】特開2021-193199
【非特許文献】
【0016】
【文献】高飽和磁束密度を有する新規バルク金属ガラス/アモルファス厚板の創製(東北大学・金属ガラス総合研究センター)牧野彰宏、久保田健、常春涛
【文献】超低磁心損失・高鉄濃度軟磁性合金「NANOMET」の最新研究開発動向、金属学会誌まてりあ第55巻 第3号(2016年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
トランスや各種モータ等向けに広く利用されている電磁鋼板と同等レベルの飽和磁束密度を確保しながら、大幅なモータ効率の向上が得られるFe-Si-B 系アモルファス合金並みの低鉄損性能を有し、同時に電磁鋼板と同様にプレスにより打抜き加工が可能であり、90%以上のコア占積率を確保でき、様々なモータ向け積層コアとして応用することが可能な電磁鋼板と同等レベルのBs≧1.7Tを有するFe-Si-B 系急冷凝固合金が期待されている。Bs≧1.7Tを確保するには、α‐Fe相の体積比率を上げるために、合金組成として、ホウ素(B)および珪素(Si)の組成比率を下げる必要がある。ところが、B+Si比率を下げるとFe-Si-B 系合金の非晶質生成能が著しく低下することにより、急冷凝固時に粗大なα‐Feが不均一に生成するため、Fe-Si-B系アモルファス合金並みの低鉄損性能を得ることができないことから、B+Si比率を下げても急冷凝固時に粗大なα‐Feが不均一に生成しない急冷凝固速度を確保することが困難であった。
【0018】
そこで、本発明は、Bs≧1.7Tの高BsでかつFe-Si-B系アモルファス合金並みの低鉄損性能を有するFe-Si-B 系急冷凝固合金の製造が可能な鉄基軟磁性合金の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明に係る鉄基軟磁性合金の製造方法は、組成式(Fe1-mCom)100-x-ySix(B1-nCn)yで表現され、組成比率x、y、mおよびnがそれぞれ、1.0≦x≦3.0 原子%、11.0≦y≦14.0 原子%、0.05≦m≦0.5、0.0≦n≦0.3を満足する組成の合金溶湯を用意する工程と、純銅、銅合金、MoおよびWのいずれかを主原料とする冷却ロール上で、ノズルから噴射した前記合金溶湯を急冷凝固する急冷凝固工程とを備え、前記冷却ロールは、外径が300mm以上2000mm以下であり、冷却水が軸方向に流れる円筒状の冷却水路が内部に形成されており、表面の算術平均粗さ(Ra)が0.01μm以上0.6μm以下であり、表面から前記冷却水路までの径方向の厚みが5mm以上25mm未満であり、前記急冷凝固工程は、5℃以上60℃未満の冷却水が0.1m3/min以上20m3/min未満の流量で通水される前記冷却ロールをロール表面速度15m/sec以上50m/sec以下で回転させながら、前記冷却ロールの表面に前記ノズルから前記合金溶湯を噴射することにより、平均結晶粒径が1nm以下の超微細なα-Feを主相とする厚みが18μm以上40μm未満の薄帯状急冷凝固合金を形成する工程を備えるものである。
【0020】
この鉄基軟磁性合金の製造方法において、前記ノズルは、石英(SiO2)、窒化硼素(BN)、炭化珪素(SiC)およびアルミナ(Al2O3)のいずれかを主成分する材料からなることが好ましく、5kPa以上50kPa以下の圧力で前記合金溶湯を噴射することが好ましい。
【0021】
前記ノズルは、シングルスリットノズルであり、スリットの長手方向が前記冷却ロールの回転方向と直交するように配置されていることが好ましく、前記スリットの開口幅は、0.2mm以上0.8mm以下であり、前記ノズルから前記冷却ロールまでの距離は、0.1mm以上2.0mm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、Bs≧1.7Tの高BsでかつFe-Si-B系アモルファス合金並みの低鉄損性能を有するFe-Si-B 系急冷凝固合金の製造が可能な鉄基軟磁性合金の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】(a)は本発明の一実施形態に係る鉄基軟磁性合金の製造方法に用いる製造装置の概略構成図であり、(b)はその要部拡大図であり、(c)はノズルの底面拡大図である。
【
図2】(a)は
図1に示す製造装置の冷却ロールの縦断面図であり、(b)は(a)のA-A断面図である。
【
図3】実施例3で得られた鉄基軟磁性合金の粉末X線回折プロファイルである。
【
図4】実施例6で得られた鉄基軟磁性合金の粉末X線回折プロファイルである。
【
図5】比較例9で得られた鉄基軟磁性合金の粉末X線回折プロファイルである。
【
図6】比較例11で得られた鉄基軟磁性合金の粉末X線回折プロファイルである。
【
図7】実施例3の鉄基軟磁性合金の透過型電子顕微鏡(TEM)観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の鉄基軟磁性合金の製造方法は、電磁鋼板に対して鉄損が1/10以下という、Fe-Si-B系アモルファス合金と比較しても同等以上の低鉄損性能を有しながら、製造時の急冷凝固工程において1nm以下の超微細なα‐Feを主相とすることで、FAおよび空モビリティーなど向けのBLDCモータに適用可能な飽和磁束密度Bs≧1.7Tの確保が可能なFe-Si-B 系急冷凝固合金を製造することができる。
【0025】
[合金組成]
Feを必須元素として上述の元素の含有残余を占め、Feの一部をFeと同じく強磁性元素であるCoで置換することでBs≧1.7Tを確保し得る。ただし、Feに対するCoの置換率mが5%未満の場合、Bs≧1.7Tを確保できない。また、Feに対するCoの置換率mが50%を超えるとBsが低下傾向に転ずる。このため、Feに対するCoの置換率mは5%以上50%以下に限定される。置換率mは、10%以上40%以下であることが好ましく、費用対効果の観点から15%以上35%以下であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明により得られる鉄基軟磁性合金において、Siは微細組織を得るための必須元素であるだけでなく、透磁率等の軟磁気特性を発現するためにも重要な働きをする。Siの組成比率xが1.0原子%未満となると、印加磁界10A/m時の透磁率が2000以下まで悪化するだけでなく、1kHz、1.5T時の鉄損(コアロス)が100W/kg以上となるため、電磁鋼板と比較して高透磁率、低鉄損であるという本発明の鉄基軟磁性合金の特徴が減じられる。また、Siの組成比率x が3.0原子%を超えると、磁化を担うFeの存在比率が低下しBs≧1.7Tを得ることができない。このため、Siの組成比率xは、1.0原子%以上3.0原子%以下とする。Siの組成比率xは、好ましくは、1.2原子%以上2.5原子%以下であり、さらに好ましくは、1.3原子%以上2.2原子%以下である。
【0027】
B+Cの組成比率yが11.0原子%未満になると、溶湯急冷にて得られる鉄基軟磁性合金の金属組織が粗大化するため、磁束密度1.5Tで周波数1kHz時の鉄損が50W/kg 以下という低鉄損性能を確保できないだけでなく、プレスによる打抜き工程において、鉄基軟磁性合金に割れが生じ易くなり積層コア化が難しい。また、B+Cの組成比率yが14.0原子%を超えると、磁化を担うFeの存在比率が低下しBs≧1.7Tを得ることができない。このため、B+Cの組成比率yは、11.0原子%以上14.0原子%以下である。B+Cの組成比率yは、11.5原子%以上13.5原子%以下であることが好ましく、12.0原子%以上13.5原子%以下であることがさらに好ましい。
【0028】
Bの一部をCで置換することにより合金溶湯の融点が低下し、溶湯急冷条件が緩和され、本発明の製造方法によりFe-Si-B系急冷凝固合金を作り易くなるが、Bに対するCの置換率nが30%を超えるとBs≧1.7Tを確保できないため好ましくない。このため、置換率nは30%以下に限定する。高Bs特性と低透磁率の両立させる観点から、置換率nは、20%以下が好ましく、15%以下が更に好ましい。
【0029】
本発明により得られる鉄基軟磁性合金(Fe-Si-B系急冷凝固合金)において、Al、Si、V、Ti、Mn、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、Hf、Ta、W、Pt、AuおよびPbからなる群から選択された1種以上添加元素を加えることも可能であるが、添加濃度が2.0原子%を超えるとBs≧1.7Tが得られないため好ましくなく、不純物としての混在も含め2.0原子%以内であれば許容される。なお、Cuは主原料であるFeには固溶せず、Cuを添加すると超微細なα?Fe組織中に分散したCuが単独で析出することで所望の合金組織形成の妨げになるおそれがあるため、本発明の鉄基軟磁性合金はCuを含まない。
【0030】
[金属組織]
本発明により得られる鉄基軟磁性合金は、特定の方向に配向することなく等方的に析出するα‐Feを主相とすることを特徴とする。主相とは、体積比率が最大の相であり、体積比率50%以上が好ましく、体積比率80%以上がより好ましい。等方的に析出するα‐Fe結晶相は、平均結晶粒径が1nm以下の超微細な結晶である。α‐Fe相の平均結晶粒径は、後述する粉末X線回折(XRD)によるX線回折ビークの半値幅、あるいは透過型電子顕微鏡(TEM)により求めることができる。
【0031】
但し、回転する冷却ロール上で合金溶湯を急冷凝固する際、得られた鉄基軟磁性合金の金属組織内に非晶質相が混在する場合であっても、軟磁気特性に悪影響を与えない量であれば許容される。鉄基軟磁性合金の金属組織内の非晶質相が、金属組織全体に対して20体積%を超えると、Bs≧1.7Tを得ることが困難になるため、非晶質相の含有比率は、20体積%以下である。非晶質相の含有比率は、10体積%以下が好ましく、5.0体積%以下がさらに好ましい。
【0032】
[磁気特性]
本発明により得られる鉄基軟磁性合金の飽和磁束密度Bsは、急冷凝固直後の状態(as-spun)、あるいは、as-spunの状態から歪除去を目的とした180℃以上450℃未満の温度にて熱処理を施した後において、1.7T以上2.0T以下である。Bsが2.0Tを超えると磁束密度1.5Tで周波数1kHz時の鉄損が50W/kgを超えるため、FAおよび空モビリティーなど向けBLDCモータ用のコアに適用した際、電磁鋼板製コアに対して明確なモータ効率の向上が得られない。低速回転域にて必要十分のモータトルクと高効率を両立できる観点から、Bsは1.7T以上2.0T以下であり、1.73T以上1.97Tが好ましく、1.75以上1.95T以下がさらに好ましい。
【0033】
なお、既存の電磁鋼板、鉄基アモルファス合金および鉄基ナノ結晶合金においては、各動作周波数の鉄損値が磁束密度の上昇に伴い増加する傾向を示すのに対して、本発明の鉄基軟磁性合金は、各動作周波数の鉄損値が磁束密度の上昇に伴い明らかな飽和傾向を示すという極めて特異な磁気的性質を示す。特に高周波域である周波数20kHzにおける磁束密度1.5T時の鉄損値が1500W/kg以下であり、5万rpm以上の超高速回転モータや昇電圧ユニットのトランスなどにて問題となる鉄損を大幅に低減できる可能性がある。周波数20kHzにおける磁束密度1.5T時の鉄損値が高すぎると(例えば2000W/kg以上)、鉄基アモルファス合金および鉄基ナノ結晶合金と鉄損が同等レベルになるため、周波数20kHzにおける磁束密度1.5T時の鉄損値は1500W/kg以下であることが好ましく、1300 W/kg以下がより好ましく、1000 W/kg以下がさらに好ましい。
【0034】
[鉄基結晶合金の製造方法]
本発明の鉄基結晶合金の製造方法は、上記の組成を有する合金溶湯を用意する工程と、用意した合金溶湯を急冷凝固する急冷凝固工程とを備える。
【0035】
図1(a)は、本発明の一実施形態に係る鉄基軟磁性合金の製造方法に用いる単ロール溶湯急冷装置の概略構成図であり、
図1(b)はノズルの拡大図であり、
図1(c)はノズル底面の拡大図である。
図1に示す単ロール溶湯急冷装置1は、溶解炉2と、貯湯容器5と、冷却ロール8とを備えている。
【0036】
溶解炉2は、高周波誘導加熱により原料を溶解した合金溶湯3を、傾動軸4の回動により貯湯容器5に供給する。貯湯容器5は、底部にノズル6を備えており、加熱コイル(図示せず)により合金溶湯3を更に加熱して、ノズル6の下端に形成されたスリット7から冷却ロール8の表面(外周面)に合金溶湯3を噴出する。冷却ロール8は、内部に冷却水が供給されることにより、表面に接触する合金溶湯を急冷し、薄帯状の急冷凝固合金9を形成する。ノズル6の材質は、例えば、石英(SiO2)、窒化硼素(BN)、炭化珪素素(SiC)およびアルミナ(Al2O3)のいずれかを主成分とするものから適宜選択可能である。
【0037】
ノズル6は、単一のスリット7が形成されたシングルスリットノズルであり、スリット7の長手方向が、冷却ロール8の回転方向と直交するように(すなわち、冷却ロール8の回転軸と平行になるように)配置されている。スリット7の幅W1は、冷却ロール8に供給される合金溶湯3の出湯レートを調整する役割を果たす。スリット幅W1が小さ過ぎると、スリット加工が困難になり易く、更には溶湯によるスリット7の閉塞が生じ易い一方、スリット幅W1が大き過ぎると、出湯レートが高くなり過ぎて冷却ロール8での抜熱が間に合わず、冷却ロール8に急冷凝固合金が張り付いて安定した溶湯急冷凝固を継続し難いことから、スリット幅W1は、0.2mm以上0.8mm以下である。スリット幅W1は、0.3mm以上0.7mm以下が好ましく、0.3mm以上0.6mm以下がさらに好ましい。
【0038】
ノズル6は、
図1(c)に示すスリットノズルに代えて、複数の孔が冷却ロール8の回転方向と直交するように(すなわち、冷却ロール8の回転軸と平行に)一列に配置されたストランドノズルであってもよい。ストランドノズルの各孔の直径は、0.6mm以上1.3mm以下であり、0.7mm以上1.2mm以下が好ましく、0.7mm以上1.1mm以下がさらに好ましい。孔の直径が0.6mm未満の場合には、1孔当たりの溶湯出湯量が少ないため、ノズル6の先端における温度が低下し、出湯を継続できなくなるおそれがある。一方、孔の直径が1.3mmを超えると、1孔当たりの溶湯出湯量が多くなり過ぎることから、溶湯急冷が不完全となり、磁気特性の低下を招来する粗大なα-Feが析出する可能性がある。また、各孔の間隔は、小さ過ぎると、各孔から出湯する溶湯同士が接触して溶湯急冷が不完全となり、磁気特性の低下を招来する粗大なα-Fe析出する可能性があるため、1.0mm以上が好ましく、3.0mm以上がより好ましく、5.0mm以上が更に好ましい。各孔の間隔は、急冷凝固合金の生産能率およびノズル先端温度低下防止の観点から20mm以下であることが好ましい。なお、ノズル6の開口部の形状は、単一の孔など他の形状にすることも可能である。
【0039】
冷却ロール8の表面に供給された溶湯は、冷却ロール8の回転により薄帯状の急冷凝固合金9となって、冷却ロール8から剥離される。冷却ロール8の表面速度が15m/sec未満の場合、40μm以上の過大な厚みの急冷凝固合金となることで、鉄基軟磁性合金薄帯の急冷ロール面もしくは自由面の表面近傍において、急冷凝固時の不均一核生成にて析出した(200)方向に配向した平均結晶粒径が100nm以上のα-Fe結晶相が10.0体積%を超えるおそれがあるため、Fe-Si-B系アモルファス合金と同等レベルの低鉄損を維持できなくなる。一方、冷却ロール8の表面速度が50m/secを超えると、鉄基軟磁性合金薄帯の厚みが18μm未満となることで、溶湯急冷速度が増しα‐Fe結晶相ではなくアモルファス相が支配的になるため、Bs≧1.7Tの確保が困難になる。このため、冷却ロール8の表面速度は、15m/sec以上50m/sec以下であり、好ましくは、20m/sec以上45m/sec以下であり、さらに好ましくは、25m/sec以上40m/sec以下である。これにより、厚みが18μm以上40μm未満の薄帯状急冷凝固合金を得ることができる。
【0040】
図1(a)において、シングルスリットノズル6の先端から冷却ロール8の表面までの距離dは、小さ過ぎると、急冷合金が冷却ロール8に張り付いて、合金溶湯3の安定した急冷凝固を継続できないおそれがある一方、大き過ぎると、冷却ロール8の表面上に湯だまり(パドル)が形成されずに、合金溶湯3の急冷凝固を実施できないおそれがある。このため、上記の距離dは、0.1mm以上2.0mm以下であり、好ましくは、0.1mm以上1.5mm以下であり、より好ましくは、0.15mm以上1.0mm以下である。
【0041】
ノズル6がストランドノズルの場合には、ノズル6の先端から冷却ロール8の表面までの距離dは、小さ過ぎても大き過ぎても、上記のシングルスリットノズルの場合と同様の問題を生じる。このため、ノズル6がストランドノズルの場合の上記の距離dは、0.5mm以上30.0mm以下であり、好ましくは、1.0mm以上20.0mm以下であり、より好ましくは、2.0mm以上10.0mm以下である。
【0042】
薄帯状の急冷凝固合金9の作製においては、冷却ロール8の外表面に対する合金溶湯3の密着性が重要になるが、この溶湯密着性は、冷却ロール8の表面粗度に大きく依存する。冷却ロール8の表面粗度が小さ過ぎると、冷却ロール8の表面で合金溶湯3が滑ることで十分な冷却が困難になる一方、冷却ロール8の表面粗度が大き過ぎると、急冷合金が冷却ロール8に張り付くおそれがある。このため、冷却ロール8の表面における算術平均粗さ(Ra)は、0.01μm以上0.6μm以下であり、0.05μm以上0.55μm以下が好ましく、0.1μm以上0.5μm以下がさらに好ましい。
【0043】
冷却ロール8は、純銅、銅合金、モリブテン(Mo)およびタングステン(W)のいずれかを主原料とする材料により形成することで、熱伝導性や耐久性に優れることが好ましい。主原料とは、重量比において50%以上を占めることをいう。冷却ロール8の表面には、クロム、ニッケル、またはこれらの合金からなるめっきを施してもよく、これによって、冷却ロール8表面の耐熱性および硬度を増し、急冷凝固時におけるロール表面の溶融や劣化を抑制することができる。
【0044】
冷却ロール8の外径は、300mm以上2000mm以下である。外径が300mm未満の場合、ノズル6から冷却ロール8の表面に噴出された溶湯が、冷却ロール8から剥離するまでの最大距離(すなわち、冷却ロール8の円周長さの1/4)が短くなりすぎることで、溶湯が冷却ロール8上で十分な急冷を受けることができない。この結果、鉄基軟磁性合金薄帯の急冷ロール面もしくは自由面の表面近傍において、急冷凝固時の不均一核生成にて析出した(200)方向に配向した平均結晶粒径が100nm以上のα‐Fe結晶相が10.0体積%を超えるおそれがあるため、Fe-Si-B系アモルファス合金と同等レベルの低鉄損を維持できなくなる。一方、冷却ロール8の外径が2000mmを超えると、溶湯が冷却ロール8から剥離されるまでの距離が長すぎることで、溶湯が冷却ロール8上で急冷を受け過ぎることになり、溶湯急冷速度が増して、α‐Fe結晶相ではなくアモルファス相が支配的になる結果、Bs≧1.7Tの確保が困難になる。冷却ロール8の外径は500mm以上2000mm以下が好ましく、冷却ロール8の製造コストも考慮して、500mm以上1600mm以下がより好ましい。
【0045】
図2(a)は、冷却ロール8の縦断面図であり、
図2(b)は、
図2(a)のA-A断面図である。
図2に示すように、冷却ロール8の内部には、円筒状の冷却水路81が形成されている。冷却ロール8の回転軸82の一端側に形成された入口83から供給された冷却水は、連通路84に沿って径方向に放射状に広がり、冷却水路81の一端部に導入されて、冷却ロール8の軸方向に沿って流れた後、冷却水路81の他端部で合流されて、回転軸82の他端側に形成された出口85から排出される。
【0046】
冷却ロール8の表面から冷却水路81までの径方向の厚みTは、5mm以上25mm未満である。厚みTが5mm未満の場合、冷却ロール8が回転することによる遠心力にて冷却ロール8が変形し易くなり、冷却ロール8の表面(外周面)とノズル6の先端とが接触するおそれがある。一方、冷却ロール8の厚みが25mm以上になると、冷却ロール8の熱容量が増し、冷却水による合金溶湯の抜熱効果が低下するため、溶湯急冷速度が低下し、Fe-Si-B系鉄基軟磁性合金薄帯の急冷ロール面もしくは自由面の表面近傍において、急冷凝固時の不均一核生成にて析出した(200)方向に配向した平均結晶粒径が100nm以上のα‐Fe結晶相が10.0体積%を超えるおそれがあるため、Fe-Si-B系アモルファス合金と同等レベルの低鉄損を維持できなくなる。厚みTは、5mm以上23mm未満が好ましく、冷却ロール8の強度および抜熱能力のバランスを考えると、7mm以上20mm未満がより好ましい。
【0047】
冷却ロール8の内部を流れる冷却水量は、0.1m3/min以上20m3/min未満である。冷却水量が0.1m3/min未満の場合、ノズル6から冷却ロール8の表面に供給される溶湯を十分抜熱することができず、冷却ロール8の表面温度が上昇し、ロール表面が局所的に溶融し、Fe-Si-B系鉄基軟磁性合金薄帯が冷却ロール表面に張り付き、溶湯急冷を継続できない。一方、20m3/minを超えると、冷却ロール8の内部に冷却水を供給するためのロータリージョイントから水漏れが生じ易くなるため、溶湯急冷を継続できないおそれがある。冷却ロール8に通水される冷却水の流量は、0.3m3/min以上15m3/min未満が好ましく、0.4m3/min以上10m3/min未満がより好ましい。
【0048】
合金溶湯が冷却ロール8の表面に噴出されてから剥離するまでの間で安定した溶湯急冷速度を確保するために、冷却水の水温は、5℃以上60℃未満とする。冷却ロール8の結露を防止するため、冷却水の水温は、室温(例えば、23℃以上30℃未満)以上60℃未満であることが好ましい。
【0049】
[熱処理]
本発明の鉄基軟磁性合金の製造方法は、急冷凝固工程により得られた薄帯状急冷凝固合金を、180℃以上450℃以下の一定温度にて熱処理する熱処理工程を更に備えることができる。これにより、粉砕時の応力により鉄基軟磁性合金粉末に生じた歪除去が可能となり、さらに透磁率の向上を実現できる。熱処理温度が180℃未満では、歪除去の効果が少なくなる一方、450℃を超えると鉄基軟磁性合金を構成するα‐Feの結晶粒成長により鉄損が上昇する傾向にある。上記の熱処理温度は、200℃以上400℃以下が好ましく、200℃以上350℃以下がより好ましい。なお、上記熱処理は、真空もしくは不活性ガスの雰囲気で行われることが好ましいが、大気中での熱処理も350℃以下であれば許容される。
【0050】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
下記表1の実施例1-8および比較例9-12に示す合金組成となるように、純度99.5%以上のB、C、CoおよびFeの各元素を配合した素原料100kgをアルミナ製坩堝(溶解炉)に収容し、高周波誘導加熱により溶解して合金溶湯を形成した。この合金溶湯50kgを、BN製のシングルスリットノズルを底部に備える内径200mm×高さ400mmのアルミナ製の貯湯容器に注いだ。ノズルのスリット幅およびスリット長さは、表1に示すとおりである。
【0052】
その後、貯湯容器の周囲に設置された高周波加熱用コイルへ通電することで、前記合金溶湯50kgをさらに加熱し、溶湯温度が配合組成合金の融点よりおよそ100℃以上の溶湯温度に到達した後、ノズル上部に配したアルミナ製溶湯ストッパーを引き抜き、ノズルから直下の冷却ロール表面に合金溶湯を噴出した。冷却ロールは、クロムジルコン銅製であり、冷却ロールの外径および厚み、並びにノズルと冷却ロール表面とのギャップは、表1に示すとおりである。また、ノズルからの合金溶湯の噴射圧、冷却ロールのロール表面速度、冷却ロールの厚み(ロール表面から冷却水路までの径方向距離)、ロール冷却水量、ロール冷却水温度、および、冷却ロールのロール表面の算術平均粗さ(Ra)は、表2に示すとおりである。
【0053】
冷却ロールの表面へ噴出された合金溶湯は、冷却ロール表面上に湯だまり(パドル)を形成し、パドルと冷却ロールの界面にて急冷凝固されることで、表3に示す平均厚みおよび平均幅を持つ薄帯状のFe-Si-B系急冷凝固合金を得た。。
【0054】
得られたFe-Si-B系急冷凝固合金に対して粉末X線回折(XRD)による組織評価を行ったところ、実施例1-8の鉄基軟磁性合金は、いずれもα-Fe相が特定の方向に配向せず等方的に析出する金属組織であることがわかった。粉末X線回折結果より計算した非晶質相の体積比率は、表3に示すとおりである。
【0055】
代表例として、実施例3および実施例6について、粉末X線回折プロファイルを、それぞれ
図3および
図4に示す。
図3および
図4のいずれも、α-Feのメインピークである(110)と第2ピークである(200)の回折ピークが確認され、何れも半値幅の広い回折ピークであることから等方的に析出したα-Fe結晶相からなる微細金属組織であることが確認された。実施例3の透過型電子顕微鏡(TEM)観察写真を
図7に示す。
図7に示す実施例3の金属組織は、平均結晶粒径が1nm以下の極めて微細な金属組織であった。
【0056】
実施例1-8の急冷凝固合金の飽和磁束密度Bs、2kHzにおける磁束密度1.5T時の鉄損(コアロス)および透磁率(μ)、ならびに20kHzにおける磁束密度1.5T時の鉄損を測定した結果を、表4に示す。Bsの測定は、東映工業製の振動式試料磁力計により行い、μおよび鉄損の測定は、岩崎通信機製BHアナライザ―にSSTユニット(単板磁気特性試験機)を取り付けて行った。
【0057】
一方、比較例9および12の急冷凝固合金は、粉末X線回折(XRD)による評価により、α-Fe(200)がメインピークになっている回折ピークが観測され、溶湯急冷不足による不均一核生成によって、粗大なα-Feが急冷凝固合金薄帯内にて面内配向している粗大なα-Feを含む結晶組織であることがわかった。代表例として、比較例9および比較例12について、急冷凝固合金薄帯の粉末X線回折プロファイルを、それぞれ
図5および
図6に示す。粉末X線回折結果より計算した非晶質相の体積比率は、表3に示すとおりである。比較例10および11は、急冷凝固合金薄帯を形成することができなかった。
【0058】
実施例1-8と同様に、比較例9および12について、飽和磁束密度Bs、2kHzにおける磁束密度1.5T時の鉄損(コアロス)および透磁率(μ)、ならびに20kHzにおける磁束密度1.5T時の鉄損を測定した結果を表4に示す。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【符号の説明】
【0063】
l 単ロール溶湯急冷装置
2 溶解炉
3 合金溶湯
4 傾動軸
5 貯湯容器
1 出湯ノズル
7 スリット
8 冷却ロール
9 急冷凝固合金
【要約】
【課題】 Bs≧1.7Tの高Bsでかつ低鉄損性能を有する鉄基軟磁性合金の製造方法を提供する。
【解決手段】 組成式(Fe
1-mCo
m)
100-x-ySi
x(B
1-nC
n)
yで表現され、組成比率x、y、mおよびnがそれぞれ、1.0≦x≦3.0 原子%、11.0≦y≦14.0 原子%、0.05≦m≦0.5、0.0≦n≦0.3を満足する組成の合金溶湯を用意する工程と、純銅、銅合金、MoおよびWのいずれかを主原料とする冷却ロール上で、ノズルから噴射した前記合金溶湯を急冷凝固する急冷凝固工程とを備える鉄基軟磁性合金の製造方法である。
【選択図】
図1