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特許7625203熱ストレスの影響推定装置、熱ストレスの影響推定方法、及び、コンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-24
(45)【発行日】2025-02-03
(54)【発明の名称】熱ストレスの影響推定装置、熱ストレスの影響推定方法、及び、コンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/30 20180101AFI20250127BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20250127BHJP
【FI】
G16H50/30
A61B5/00 G
A61B5/00 102C
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020086111
(22)【出願日】2020-05-15
(65)【公開番号】P2020191085
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2019093363
(32)【優先日】2019-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂田 洋子
(72)【発明者】
【氏名】堀 翔太
(72)【発明者】
【氏名】橋本 哲
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 恭良
(72)【発明者】
【氏名】水野 敬
(72)【発明者】
【氏名】森戸 勇介
(72)【発明者】
【氏名】山野 恵美
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 美帆
【審査官】鹿谷 真紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/235536(WO,A1)
【文献】特開2003-185217(JP,A)
【文献】特開2017-086524(JP,A)
【文献】特開2009-092282(JP,A)
【文献】特開2018-060336(JP,A)
【文献】特表2009-518106(JP,A)
【文献】小林 啓倫,IoTビジネスモデル革命,日本,朝日新聞出版 首藤 由之,2015年12月30日,p.81,ISBN: 978-4-02-331469-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
A61B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の周囲温度が当該対象者にもたらす熱ストレスの影響を推定する装置であって、
少なくとも人間の周囲温度及び外気温度と、熱ストレスが人間に及ぼす影響を示す少なくとも1つの指標との相関関係を記憶する記憶部(11)と、
前記記憶部(11)に記憶された前記相関関係と、所定の時点での前記対象者の周囲温度と、前記所定の時点までの外気温度の履歴とに基づいて、前記少なくとも1つの指標に対する前記対象者の状態を推定する演算部(12)と
を備え、
前記相関関係は、熱ストレスが人間に及ぼす影響を、人間の周囲温度の情報と、人間の温度順応特性に起因する誤差を補正するための外気温度の情報とに関連づけた熱ストレス反応モデルであることを特徴とする熱ストレスの影響推定装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記対象者の周囲温度として、前記対象者の周囲湿度、周囲放射熱、周囲気流、代謝量及び着衣量のうちの少なくとも1つを考慮した換算温度を用いることを特徴とする熱ストレスの影響推定装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記少なくとも1つの指標は、覚醒度、疲労度、意欲度、いらだち度、及びリラックス度のうちの少なくとも1つであることを特徴とする熱ストレスの影響推定装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1つにおいて、
前記演算部(12)は、所定の期間に亘って前記状態を推定し、推定された前記状態の累積度数を算出することを特徴とする熱ストレスの影響推定装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1つにおいて、
前記演算部(12)は、推定された前記状態を、当該状態の度合い、当該状態の継続時間、及び、当該状態の発生時刻のうちの少なくとも1つについて分類し、分類ごとに累積度数を算出することを特徴とする熱ストレスの影響推定装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1つにおいて、
前記対象者による設定入力、又は、前記対象者の属性情報に基づき、前記記憶部(11)に記憶された前記相関関係を補正する補正部(23)をさらに備えることを特徴とする熱ストレスの影響推定装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1つにおいて、
前記対象者の周囲温度は、前記対象者が携帯する温度センサにより計測されることを特徴とする熱ストレスの影響推定装置。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか1つにおいて、
前記対象者の周囲温度は、複数箇所に設置された温度センサにより計測された温度情報と、前記対象者の移動履歴とに基づいて算出されることを特徴とする熱ストレスの影響推定装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1つにおいて、
推定された前記状態、及び/又は、当該状態に基づき得られた二次情報を表示する表示部(17)をさらに備えることを特徴とする熱ストレスの影響推定装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1つにおいて、
前記演算部(12)は、推定された前記状態を、健康状態別に予め準備された前記少なくとも1つの指標に対する人間の状態と対比して、前記対象者の健康状態を推定することを特徴とする熱ストレスの影響推定装置。
【請求項11】
対象者の周囲温度が当該対象者にもたらす熱ストレスの影響を推定する方法であって、
コンピュータが、少なくとも人間の周囲温度及び外気温度と、熱ストレスが人間に及ぼす影響を示す少なくとも1つの指標との相関関係を求め、当該相関関係を記憶部(11)に記憶させる工程Aと、
前記コンピュータが、前記記憶部(11)に記憶された前記相関関係と、所定の時点での前記対象者の周囲温度と、前記所定の時点までの外気温度の履歴とに基づいて、前記少なくとも1つの指標に対する前記対象者の状態を推定する工程Bと
を備え、
前記相関関係は、熱ストレスが人間に及ぼす影響を、人間の周囲温度の情報と、人間の温度順応特性に起因する誤差を補正するための外気温度の情報とに関連づけた熱ストレス反応モデルであることを特徴とする熱ストレスの影響推定方法。
【請求項12】
請求項11に記載の熱ストレスの影響推定方法をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱ストレスの影響推定装置、熱ストレスの影響推定方法、及び、コンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
人は熱ストレスを長時間或いは頻繁に受けて、その蓄積量が多くなると、熱中症、低体温症、熱帯夜等に起因する不眠症、夏バテ、寒暖差疲労などを発症する確率が高くなる。
【0003】
従来、熱ストレスを表す指標として暑さ指数(WBGT(Wet Bulb Globe Temperature))を用いて、暑熱環境、作業強度、作業パターン等に起因する熱ストレス蓄積量を推定し、熱ストレスを管理するシステムが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2009-518106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された方法では、熱中症のなりやすさといった、熱ストレスによって人に起こる反応の一部を見ているにすぎず、熱ストレスによって起こる他の人体反応、例えば、覚醒(目が覚めている、眠たい)、疲労などには配慮されていない。
【0006】
本開示の目的は、例えば、熱ストレスの蓄積による健康への影響を把握しやすくし、病気の発症を予防できるようにするために、対象者の周囲温度が当該対象者にもたらす熱ストレスの影響を広範且つ容易に推定できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様は、対象者の周囲温度が当該対象者にもたらす熱ストレスの影響を推定する装置であって、少なくとも人間の周囲温度及び外気温度と、熱ストレスが人間に及ぼす影響を示す少なくとも1つの指標との相関関係を記憶する記憶部(11)と、前記記憶部(11)に記憶された前記相関関係と、所定の時点での前記対象者の周囲温度と、前記所定の時点までの外気温度の履歴とに基づいて、前記少なくとも1つの指標に対する前記対象者の状態を推定する演算部(12)とを備えることを特徴とする熱ストレスの影響推定装置である。
【0008】
第1の態様では、人間の周囲温度及び外気温度と、熱ストレスが人間に及ぼす影響を示す指標との相関関係を予め求めておき、当該相関関係と対象者の周囲温度と外気温度の履歴とに基づいて、指標に対する対象者の状態を推定する。このため、指標の選択により、覚醒、疲労など、熱ストレスによって人に起こる様々な反応について、熱ストレスの影響を容易に推定できる。
【0009】
本開示の第2の態様は、第1の態様において、前記対象者の周囲温度として、前記対象者の周囲湿度、周囲放射熱、周囲気流、代謝量及び着衣量のうちの少なくとも1つを考慮した換算温度を用いることを特徴とする熱ストレスの影響推定装置である。
【0010】
第2の態様では、対象者の周囲温度として、対象者の周囲湿度、周囲放射熱、周囲気流、代謝量及び着衣量のうちの少なくとも1つを考慮した換算温度を用いるため、熱ストレスの影響をより正確に推定することができる。
【0011】
本開示の第3の態様は、第1又は2の態様において、前記少なくとも1つの指標は、覚醒度、疲労度、意欲度、いらだち度、及びリラックス度のうちの少なくとも1つであることを特徴とする熱ストレスの影響推定装置である。
【0012】
第3の態様では、熱ストレスが人間に及ぼす影響を示す指標として、覚醒度、疲労度、意欲度、いらだち度、又はリラックス度を用いるため、覚醒度、疲労度、意欲度、いらだち度、又はリラックス度に関する熱ストレスの影響を推定することができる。
【0013】
本開示の第4の態様は、第1乃至3のいずれか1つの態様において、前記演算部(12)は、所定の期間に亘って前記状態を推定し、推定された前記状態の累積度数を算出することを特徴とする熱ストレスの影響推定装置である。
【0014】
第4の態様では、所定の期間における熱ストレスの蓄積量を評価することができる。
【0015】
本開示の第5の態様は、第1乃至4のいずれか1つの態様において、前記演算部(12)は、推定された前記状態を、当該状態の度合い、当該状態の継続時間、及び、当該状態の発生時刻のうちの少なくとも1つについて分類し、分類ごとに累積度数を算出することを特徴とする熱ストレスの影響推定装置である。
【0016】
第5の態様では、熱ストレスの影響を多角的に評価することができる。
【0017】
本開示の第6の態様は、第1乃至5のいずれか1つの態様において、前記対象者による設定入力、又は、前記対象者の属性情報に基づき、前記記憶部(11)に記憶された前記相関関係を補正する補正部(23)をさらに備えることを特徴とする熱ストレスの影響推定装置である。
【0018】
第6の態様では、個人差を考慮して熱ストレスの影響を推定することができる。
【0019】
本開示の第7の態様は、第1乃至6のいずれか1つの態様において、前記対象者の周囲温度は、前記対象者が携帯する温度センサにより計測されることを特徴とする熱ストレスの影響推定装置である。
【0020】
第7の態様では、対象者が移動する場合にも、対象者の周囲温度を容易に計測できる。
【0021】
本開示の第8の態様は、第1乃至6のいずれか1つの態様において、前記対象者の周囲温度は、複数箇所に設置された温度センサにより計測された温度情報と、前記対象者の移動履歴とに基づいて算出されることを特徴とする熱ストレスの影響推定装置である。
【0022】
第8の態様では、対象者が温度センサを携帯せずに移動する場合にも対象者の周囲温度を計測できる。
【0023】
本開示の第9の態様は、第1乃至8のいずれか1つの態様において、推定された前記状態、及び/又は、当該状態に基づき得られた二次情報を表示する表示部(17)をさらに備えることを特徴とする熱ストレスの影響推定装置である。
【0024】
第9の態様では、熱ストレスの影響を分かりやすく評価することができる。
【0025】
本開示の第10の態様は、第1乃至9のいずれか1つの態様において、前記演算部(12)は、推定された前記状態を、健康状態別に予め準備された前記少なくとも1つの指標に対する人間の状態と対比して、前記対象者の健康状態を推定することを特徴とする熱ストレスの影響推定装置である。
【0026】
第10の態様では、熱ストレスの健康への影響を正確に把握しやすくなるので、病気の発症の予防に役立てることができる。
【0027】
本開示の第11の態様は、対象者の周囲温度が当該対象者にもたらす熱ストレスの影響を推定する方法であって、コンピュータを用いて、少なくとも人間の周囲温度及び外気温度と、熱ストレスが人間に及ぼす影響を示す少なくとも1つの指標との相関関係を求め、当該相関関係を記憶部(11)に記憶させる工程Aと、前記コンピュータを用いて、前記記憶部(11)に記憶された前記相関関係と、所定の時点での前記対象者の周囲温度と、前記所定の時点までの外気温度の履歴とに基づいて、前記少なくとも1つの指標に対する前記対象者の状態を推定する工程Bとを備えることを特徴とする熱ストレスの影響推定方法である。
【0028】
第11の態様では、人間の周囲温度及び外気温度と、熱ストレスが人間に及ぼす影響を示す指標との相関関係を予め求めておき、当該相関関係と対象者の周囲温度と外気温度の履歴とに基づいて、指標に対する対象者の状態を推定する。このため、指標の選択により、覚醒、疲労など、熱ストレスによって人に起こる様々な反応について、熱ストレスの影響を容易に推定できる。
【0029】
本開示の第12の態様は、第11の態様の熱ストレスの影響推定方法をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムである。
【0030】
第12の態様では、第11の態様と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、本願発明者らが見出した、室温及び外気温と、眠気(覚醒度)との相関関係の一例を示す図である。
図2図2は、本願発明者らが見出した、室温及び外気温と、疲労度との相関関係の一例を示す図である。
図3図3は、実施形態に係る熱ストレスの影響推定装置のブロック構成図である。
図4A図4Aは、実施形態に係る熱ストレスの影響推定装置により得られた、様々な指標に対する対象者の状態の頻度の一例を示すヒストグラムである。
図4B図4Bは、実施形態に係る熱ストレスの影響推定装置により得られた、様々な指標に対する対象者の状態の頻度の他例を示すヒストグラムである。
図5A図5Aは、実施形態に係る熱ストレスの影響推定装置により得られた、様々な指標に対する対象者の状態を、当該状態の度合いについて分類し、分類ごとに累積度数を算出した結果の一例を示す図である。
図5B図5Bは、実施形態に係る熱ストレスの影響推定装置により得られた、様々な指標に対する対象者の状態を、当該状態の継続時間について分類し、分類ごとに累積度数を算出した結果の一例を示す図である。
図5C図5Cは、実施形態に係る熱ストレスの影響推定装置により得られた、様々な指標に対する対象者の状態を、当該状態の発生時刻について分類し、分類ごとに累積度数を算出した結果の一例を示す図である。
図6A図6Aは、実施形態に係る熱ストレスの影響推定装置において用いられる、指標に対する健康な人の状態の一例を示す図である。
図6B図6Bは、実施形態に係る熱ストレスの影響推定装置において用いられる、指標に対する未病の人の状態の一例を示す図である。
図7図7は、変形例に係る熱ストレスの影響推定装置のブロック構成図である。
図8図8は、本願発明者らが見出した、室温及び外気温と、意欲度との相関関係の一例を示す図である。
図9図9は、本願発明者らが見出した、室温及び外気温と、いらだち度との相関関係の一例を示す図である。
図10図10は、本願発明者らが見出した、室温及び外気温と、リラックス度との相関関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本開示の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0033】
〈熱ストレス反応モデル〉
本願発明者らは、冬季及び夏季に様々な温湿度環境条件において被験者試験を行った結果、眠気を感じ始める境界となる温度(以下、眠気の境界温度ということもある)を発見すると共に、季節によって眠気の境界温度が異なることを見出した。
【0034】
図1は、本願発明者らが見出した、人間の周囲温度(以下、単に「室温」いうこともある)及び外気温度(以下、単に「気温」いうこともある)と、周囲温度に起因する熱ストレスが人間に及ぼす影響の1つである眠気(覚醒度)との相関関係(以下、「熱ストレス反応モデル」ということもある)の一例を示す図である。
【0035】
図1に示す熱ストレス反応モデルによると、例えば気温が15℃の場合、眠気を誘発する室温は26℃前後であることが分かる。すなわち、気温が分かれば、図1に示す熱ストレス反応モデルを用いて、眠気を誘発する室温や覚醒させる室温を算出可能である。或いは、室温と気温とが分かれば、図1に示す熱ストレス反応モデルを用いて、室内環境における眠気の度合いを推定することも可能である。
【0036】
尚、図1に示す熱ストレス反応モデルの適用において、気温として、気温に対する人体の順応を考慮して、対象時点までの気温の履歴、例えば過去一週間の平均気温を用いる。
【0037】
また、眠気の境界温度には個人差があるので、図1に示す熱ストレス反応モデルの適用対象者が、自らの好みに応じてモデルを補正してもよいし、当該対象者の特性、例えば、性別、年齢、代謝量、体脂肪、血圧などに基づいてモデルを補正してもよい。熱ストレス反応モデルの補正は、例えば、眠気の境界温度の補正により行う。
【0038】
また、図1に示す熱ストレス反応モデルは、室温及び気温と眠気との相関関係を表したものであるが、人間の周囲環境要素として、室温(周囲温度)に加えて、周囲湿度や周囲気流等を加味しても良い。例えば、対象者の周囲湿度、周囲放射熱、周囲気流、代謝量及び着衣量のうちの少なくとも1つを考慮した換算温度、例えば、SET* (標準有効温度)などの体感温度を室温として用いてもよい。
【0039】
また、周囲温度に起因する熱ストレスが人間に及ぼす影響として、疲れ(疲労度)等を用いて、図1に示す熱ストレス反応モデルと同様のモデルを構築してもよい。図2は、本願発明者らが見出した、人間の周囲温度及び外気温度と、周囲温度に起因する熱ストレスが人間に及ぼす影響の1つである疲労度との相関関係の一例を示す図である。
【0040】
〈熱ストレスの影響推定装置の構成〉
図3は、実施形態に係る熱ストレスの影響推定装置のブロック構成図である。
【0041】
図3に示すように、本実施形態の熱ストレスの影響推定装置(10)は、主に、熱ストレス反応モデル記憶部(11)と、演算部(12)とを備える。熱ストレス反応モデル記憶部(11)は、少なくとも人間の周囲温度及び外気温度と、熱ストレスが人間に及ぼす影響を示す少なくとも1つの指標との相関関係、例えば図1に示す熱ストレス反応モデルを記憶する。演算部(12)は、熱ストレス反応モデル記憶部(11)に記憶された相関関係(熱ストレス反応モデル)と、所定の時点での対象者の周囲温度と、所定の時点までの外気温度の履歴とに基づいて、指標に対する対象者の状態を推定する。熱ストレス反応モデルで用いる指標は、例えば、覚醒度、又は疲労度等であってもよい。演算部(12)で用いる外気温度の履歴は、気温に対する人体の順応を考慮して、例えば、対象時点までの過去一週間の平均気温であってもよい。
【0042】
熱ストレスの影響推定装置(10)は、対象者の周囲温度、例えば、対象者が在室する部屋の室温を計測する室温計測部(13)を備えていてもよい。熱ストレスの影響推定装置(10)は、室温計測部(13)に加えて、対象者の周囲の湿度、放熱量若しくは気流等、又は、対象者の代謝量若しくは着衣量等を計測又は入力する機能をさらに備えていてもよい。また、熱ストレスの影響推定装置(10)は、外気温度を計測する外気温計測部(14)を備えていてもよい。また、熱ストレスの影響推定装置(10)は、室温計測部(13)により計測された室温、及び、外気温計測部(14)により計測された外気温度を記憶する環境情報記憶部(15)を備えていてもよい。また、熱ストレスの影響推定装置(10)は、熱ストレスの影響を推定する対象期間(例えば一ヶ月、ワンシーズン等)を決定する状態推定対象期間決定部(16)を備えていてもよい。状態推定対象期間決定部(16)によって対象期間を決定する場合、一日24時間のうちの特定時間帯(例えば業務時間帯)のみを対象に設定できるようにしてもよい。
【0043】
以上の構成により、演算部(12)は、状態推定対象期間決定部(16)により決定された所定期間の指標に対する対象者の状態を推定するために、環境情報記憶部(15)に記憶されている室温及び外気温度を用いることができる。この場合、演算部(12)は、環境情報記憶部(15)に記憶されている室温及び外気温度を用いて、毎日の平均室温及び平均外気温を算出し、算出結果を環境情報記憶部(15)に記憶させてもよい。演算部(12)は、環境情報記憶部(15)に記憶されている室温に代えて、エアコンの運転履歴(設定温度の履歴)を使用してもよい。演算部(12)は、環境情報記憶部(15)に記憶されている外気温度に代えて、アメダス等ネットから入手した外気温度情報を使用してもよい。
【0044】
演算部(12)は、所定期間に亘って指標に対する対象者の状態を推定し、推定された状態の累積度数を算出してもよい。
【0045】
演算部(12)は、推定された状態を、当該状態の度合い、当該状態の継続時間、及び、当該状態の発生時刻のうちの少なくとも1つについて分類し、分類ごとに累積度数を算出したり、ヒストグラムを作成してもよい。
【0046】
演算部(12)は、推定された状態を、健康状態別に予め準備された指標に対する人間の状態と対比して、対象者の健康状態を推定してもよい。
【0047】
熱ストレスの影響推定装置(10)は、演算部(12)により推定された指標に対する対象者の状態、及び/又は、当該状態に基づき得られた二次情報(例えば対象者の様々な状態(覚醒状態、眠い状態等の頻度))を表示する表示部(17)を備えていてもよい。
【0048】
熱ストレスの影響推定装置(10)を用いた熱ストレスの影響推定方法においては、周囲(室内)環境が人へ与える影響を、周囲環境の状態を表す周囲温度情報と、人の温度順応特性に起因する誤差を補正するための外気温情報とに関連づけた熱ストレス反応モデル(「周囲環境が人へ与える影響」=F(周囲温度、外気温))を予め作成しておく。また、周囲温度(室温)データ、及び、周囲温度データに対応する外気温データを収集しておき、これらのデータと熱ストレス反応モデル(例えば眠気モデル)とを用いて、周囲温度情報(室温情報)を、熱ストレスが対象者に及ぼす影響へと変換する。さらに、当該影響、つまり、対象者の様々な状態(覚醒状態、眠い状態等の頻度)を見える化する。言い換えると、対象者が体験した温度履歴を、熱ストレスが対象者に及ぼす影響へと変換し、当該影響を見える化する。
【0049】
熱ストレスの影響推定装置(10)において、室温計測部(13)は、対象者が携帯する温度センサであってもよいし、或いは、複数箇所(部屋、公共機関、屋外等)に設置された温度センサであってもよい。後者の場合、対象者の周囲温度は、複数箇所に設置された温度センサにより計測された温度履歴データと、対象者の移動履歴データとに基づいて算出される。対象者の移動履歴データは、予め記憶させておいてもよいし、対象者が適宜又は当日のスケジュールに基づき設定入力してもよい。或いは、対象者の移動履歴データは、例えば、各部屋ごとに設置された在室センサによって対象者の在室状況をセンシングし、対象者の在室情報を蓄積することによって求めてもよい。在室状況のセンシング方法としては、画像認識によって対象者を認識・判別する方法や、携帯電話などの位置検知技術を用いて自動検知する方法などがある。対象者の移動履歴データは、蓄積された複数箇所の温度履歴データとひも付けられ、所定時点の対象者の周囲温度を知ることが可能となる。
【0050】
尚、熱ストレスの影響推定装置(10)は、マイクロコンピュータ等のコンピュータを備えており、当該コンピュータがプログラムを実行することによって、演算部(12)等の各機能、つまり、本実施形態の熱ストレスの影響推定方法が実施される。コンピュータは、プログラムに従って動作するプロセッサを主なハードウェア構成として備える。プロセッサは、プログラムを実行することによって機能を実現することができれば、その種類は問わないが、例えば半導体集積回路(IC)又はLSI(large scale integration)を含む一つ又は複数の電子回路により構成されていてもよい。複数の電子回路は、一つのチップに集積されてもよいし、複数のチップに設けられてもよい。複数のチップは一つの装置に集約されていてもよいし、複数の装置に備えられていてもよい。プログラムは、コンピュータが読み取り可能なROM、光ディスク、ハードディスクドライブなどの非一時的記録媒体に記録される。プログラムは、記録媒体に予め格納されていてもよいし、インターネット等を含む広域通信網を介して記録媒体に供給されてもよい。
【0051】
また、熱ストレス反応モデル記憶部(11)及び環境情報記憶部(15)としては、コンピュータが読み取り及び書き込みができる記録媒体、例えばRAMなどを用いてもよい。熱ストレス反応モデル記憶部(11)及び環境情報記憶部(15)は、同じ記録媒体で構成されていてもよい。状態推定対象期間決定部(16)としては、例えばキーボード、マウス、タッチパッド等を用いてもよい。表示部(17)としては、例えばCRTや液晶ディスプレイ等の画像表示可能なモニタを用いてもよい。
【0052】
また、熱ストレスの影響推定装置(10)の実装形式は特に制限されないが、例えばエアコンのリモコンに実装してもよい。この場合、リモコンに搭載されたマイクロコンピュータ、メモリ、タッチパネル等を利用して、熱ストレス反応モデル記憶部(11)、演算部(12)、表示部(17)等を構成してもよい。
【0053】
〈熱ストレスの影響の推定結果の利用〉
図4A及び図4Bはそれぞれ、体験した温度履歴が異なる対象者について、本実施形態の熱ストレスの影響推定装置(10)により得られた、様々な指標に対する対象者の状態の頻度(累積時間)の一例を示すヒストグラムである。図4A及び図4Bに示すように、対象者が体験した温度履歴が異なると、ヒストグラムのパターンも異なる。
【0054】
図4A及び図4Bに示すようなヒストグラムで用いる指標に対する対象者の状態は、特に制限されないが、例えば、「目が覚める」、「眠くなる」、「体が楽になる」、「体が疲れる」、「反応時間が上がる」、「反応時間が下がる」、「誤答が減る」、「誤答が増える」、「交感神経が優位になる」、「副交感神経が優位になる」、「肌が潤う」、「肌が乾燥する」などを用いてもよい。
【0055】
尚、図4A及び図4Bでは指標に対する対象者の状態(熱ストレスの影響)をヒストグラムによって表したが、熱ストレスの影響の表し方は、特に制限されない。演算部(12)によって推定された指標に対する対象者の状態に基づいて、所定期間に対象者が受けた熱ストレスの影響(蓄積量)を示す情報として、例えば、指標毎に積算値や統計値(平均値、分散、最大値、最小値、中央値など)を算出したり、指標毎に所定値以上の状態値が継続した頻度(累積時間)を算出し、算出結果を数値或いはグラフで表示部(17)に表示してもよい。
【0056】
図5A図5B及び図5Cは、本実施形態の熱ストレスの影響推定装置(10)により得られた、様々な指標に対する対象者の状態を、当該状態の度合い(基準に対する強弱)、当該状態の継続時間、及び、当該状態の発生時刻のそれぞれについて分類し、分類ごとに累積度数を算出した結果の一例を示す図である。図5A図5B及び図5Cに示すように、指標に対する対象者の状態を、「度合い」、「継続時間」、「発生時刻」に分けて見える化することにより、熱ストレスの影響を多角的に評価することができる。
【0057】
尚、「度合い」、「継続時間」、「発生時刻」の分類の仕方は、特に制限されるものではない。「度合い」については、例えば、強弱を示すレベル1~10で分類してもよい。「継続時間」については、例えば、10分、30分、1時間、5時間等で分類してもよい。「発生時刻」については、例えば、朝、昼、晩で分類してもよいし、7:00~9:00等の時間帯で分類してもよい。
【0058】
図6A及び図6Bは、本実施形態の熱ストレスの影響推定装置(10)において用いられる、指標に対する「健康な人」及び「環境に起因する未病の人」それぞれの状態の一例を示す図である。ここで、「環境に起因する未病」とは、例えば冷え性、寒暖差による自律神経機能低下など、環境に起因する体調不良をいう。図6A及び図6Bに示すような健康状態別の指標に対する人間の状態を予め準備しておけば、これらの健康状態別の指標に対する人間の状態と、推定された指標に対する対象者の状態とを対比することにより、対象者の健康状態を推定することが可能となる。
【0059】
言い換えると、「様々な指標に対して推定された人間の状態の頻度パターン」と「人の健康状態」との結びつきを、例えば、健康な人のヒストグラム(図6A参照)及び未病の人のヒストグラム(図6B参照)のように予めデータ化しておき、対象者のヒストグラム(例えば図4A図4B参照)と対比することによって、対象者が健康か未病か(例えば冷え過ぎによる自律神経の乱れは無いか)を推定できる。
【0060】
尚、以上に説明した、指標に対して推定された状態の対比において、必ずしもヒストグラムを用いる必要は無い。すなわち、適切に選択された指標について、対象者の状態別の履歴を、健康な人や未病の人の状態別の履歴と比較することによって、対象者の健康状態を判別することができる。
【0061】
以上のように、温熱環境に由来する健康情報を取得できれば、当該健康情報を従来の健康診断書に加えることによって、例えば冷え性など、環境由来の未病等の診断精度を高めることができる。
【0062】
また、温熱環境に由来する健康情報を取得できれば、エアコンの良い使い方をアドバイスするコンサルサービスなどにおいて、根拠データとして利用することもできる。
【0063】
-実施形態の効果-
本実施形態の熱ストレスの影響推定装置(10)によると、少なくとも人間の周囲温度及び外気温度と、熱ストレスが人間に及ぼす影響を示す少なくとも1つの指標との相関関係を記憶する記憶部(11)と、記憶部(11)に記憶された相関関係と、所定の時点での対象者の周囲温度と、所定の時点までの外気温度の履歴とに基づいて、少なくとも1つの指標に対する対象者の状態を推定する演算部(12)とを備える。このため、人間の周囲温度及び外気温度と、熱ストレスが人間に及ぼす影響を示す指標との相関関係を予め求めておき、当該相関関係と対象者の周囲温度と外気温度の履歴とに基づいて、指標に対する対象者の状態を推定することができる。これにより、熱中症のなりやすさといった、熱ストレスによって人に起こる反応のみならず、指標の選択により、覚醒、疲労など、熱ストレスによって人に起こる様々な反応について、熱ストレスの影響を容易に推定できる。従って、例えば、熱ストレスの蓄積による健康への影響が把握しやすくなるので、病気の発症の予防に役立てることができる。
【0064】
ところで、対象者の周囲温度、例えば室温の頻度を求めたり、見える化しただけでは、同じ室温であっても、外気温によって対象者の状態や適した状況(シーン)が変わるので、健康への影響等の評価に利用することはできない。
【0065】
それに対して、本実施形態の熱ストレスの影響推定装置(10)は、例えば、室内環境の状態を表す室内温度情報と、人の温度順応特性に起因する誤差を補正するための平均気温情報とによって、室内環境が人へ与える影響を表した関係モデル式(例えば、眠気の境界温度の関係モデル式)を用いて、室温センサで計測した室温データと、そのときの外気温データとから、対象者の様々な状態(例えば、覚醒状態、眠い状態など)を推定し、所定期間における状態別の累積時間等を見える化するものである。ここで、例えば、眠気の境界温度の関係モデル式は、様々な温湿度環境条件において被験者試験を実施して獲得したデータベースに基づいて、眠気の境界となる室温と外気温との関係を数式化することにより得られたものである。
【0066】
本実施形態の熱ストレスの影響推定装置(10)を用いて、例えば、対象者の状態別の累積時間を可視化したグラフを作成すれば、当該グラフと、予めデータベースに基づいて作成した人の健康状態別のグラフ(健康な人のグラフ、未病の人のグラフなど)とを比較することによって、対象者の健康状態を推定することができる。すなわち、対象者が偏った温熱環境にさらされていなかったかどうか、例えば、常に交換神経が優位になっていて、眠くなる時間が少ない環境にいたのか、或いは、交感神経優位の時間と副交感神経優位の時間とのバランスが良い環境にいたのか等の確認を容易に行うことができる。
【0067】
また、本実施形態の熱ストレスの影響推定装置(10)を用いれば、例えば、対象者の在室環境の室温情報、又は、エアコンの設定温度の履歴から、環境由来の健康状態が分かるので、室内環境を改善して対象者の健康に役立てることが可能となる。また、目的にあった室内環境になっていたかどうか、例えば、昼間であれば、目が覚め、作業性が向上する温熱環境になっていたかどうか、夜間であれば、副交感神経が優位で、やや眠くなる温熱環境になっていたかどうか等の確認を容易に行うことができる。
【0068】
尚、本実施形態の熱ストレスの影響推定装置(10)において、対象者の周囲温度として、対象者の周囲湿度、周囲放射熱、周囲気流、代謝量及び着衣量のうちの少なくとも1つを考慮した換算温度を用いると、熱ストレスの影響をより正確に推定することができる。
【0069】
また、本実施形態の熱ストレスの影響推定装置(10)において、熱ストレスが人間に及ぼす影響を示す指標として、覚醒度、又は疲労度を用いると、覚醒度、又は疲労度に関する熱ストレスの影響を推定することができる。
【0070】
また、本実施形態の熱ストレスの影響推定装置(10)において、演算部(12)を用いて、所定の期間に亘って指標に対する対象者の状態を推定し、推定された状態の累積度数を算出すると、所定の期間における熱ストレスの蓄積量を評価することができる。
【0071】
また、本実施形態の熱ストレスの影響推定装置(10)において、演算部(12)を用いて、推定された状態を、当該状態の度合い、当該状態の継続時間、及び、当該状態の発生時刻のうちの少なくとも1つについて分類し、分類ごとに累積度数を算出すると、熱ストレスの影響を多角的に評価することができる。
【0072】
また、本実施形態の熱ストレスの影響推定装置(10)において、対象者の周囲温度が、対象者が携帯する温度センサにより計測されると、対象者が移動する場合にも、対象者の周囲温度を容易に計測できる。
【0073】
また、本実施形態の熱ストレスの影響推定装置(10)において、対象者の周囲温度が、複数箇所に設置された温度センサにより計測された温度情報と、対象者の移動履歴とに基づいて算出されると、対象者が温度センサを携帯せずに移動する場合にも対象者の周囲温度を計測できる。
【0074】
また、本実施形態の熱ストレスの影響推定装置(10)において、推定された状態、及び/又は、当該状態に基づき得られた二次情報を表示する表示部(17)をさらに備えると、熱ストレスの影響を分かりやすく評価することができる。
【0075】
また、本実施形態の熱ストレスの影響推定装置(10)において、演算部(12)を用いて、推定された状態を、健康状態別に予め準備された指標に対する人間の状態と対比して、対象者の健康状態を推定すると、熱ストレスの健康への影響を正確に把握しやすくなるので、病気の発症の予防に役立てることができる。
【0076】
〈変形例〉
図7は、変形例に係る熱ストレスの影響推定装置のブロック構成図である。
【0077】
本変形例に係る熱ストレスの影響推定装置(10)が、図3に示す実施形態の熱ストレスの影響推定装置(10)と異なっている点は、図7に示すように、記憶部(11)に記憶された相関関係(熱ストレス反応モデル)を、対象者の個人差に応じて補正できるように、補正入力部(21)、対象者属性情報入力部(22)、及び、熱ストレス反応モデル補正部(23)をさらに備えていることである。
【0078】
補正入力部(21)は、熱ストレス反応モデルの適用対象者が、自らの好みに応じてモデルを補正するための設定入力を行うものである。対象者は、補正入力部(21)を通じて、例えば境界温度の補正を行うことができる。
【0079】
対象者属性情報入力部(22)は、熱ストレス反応モデルの適用対象者が、自らの属性情報の入力を行うものである。対象者は、対象者属性情報入力部(22)を通じて、例えば、自らの性別、年齢、代謝量、体脂肪、血圧などの入力を行うことができる。
【0080】
補正入力部(21)及び対象者属性情報入力部(22)としては、例えばキーボード、マウス、タッチパッド等を用いてもよい。
【0081】
熱ストレス反応モデル補正部(23)は、補正入力部(21)又は対象者属性情報入力部(22)に入力された内容に基づき、記憶部(11)に記憶された熱ストレス反応モデルを補正する。対象者属性情報入力部(22)を用いる場合、予め属性情報別に複数の熱ストレス反応モデルを用意して記憶部(11)に記憶させておき、当該複数の熱ストレス反応モデルの中から、対象者属性情報入力部(22)に入力された内容に応じて、熱ストレス反応モデル補正部(23)が一のモデルを選択するように構成してもよい。尚、熱ストレス反応モデル補正部(23)は、演算部(12)と一体に構成されていてもよい。
【0082】
-変形例の効果-
本変形例の熱ストレスの影響推定装置(10)によると、補正入力部(21)、対象者属性情報入力部(22)、及び、熱ストレス反応モデル補正部(23)を用いて、対象者による設定入力、又は、対象者の属性情報に基づき、記憶部(11)に記憶された熱ストレス反応モデル(相関関係)を補正することができる。このため、個人差を考慮して熱ストレスの影響を推定することができる。
【0083】
《その他の実施形態》
前記実施形態(変形例を含む)では、熱ストレス反応モデルを用いて、対象者の周囲温度と外気温度の履歴とに基づいて、指標に対する対象者の状態を推定した。ここで、推定された状態の履歴情報の中から、心理的要因などの温熱環境に由来しない要因を削除するために、発汗、脈波、心電などを計測するセンサを対象者に携帯させて生理情報を取得するようにしてもよい。
【0084】
また、前記実施形態(変形例を含む)では、周囲温度に起因する熱ストレスが人間に及ぼす影響として、眠気(覚醒度)、又は疲れ(疲労度)を用いて、熱ストレス反応モデルを構築した。しかし、周囲温度に起因する熱ストレスが人間に及ぼす影響は、特に限定されるものではなく、覚醒度、疲労度の他にも、例えば、意欲(モチベーション)度、いらだち度、リラックス度等を用いて、熱ストレス反応モデルを構築してもよい。図8は、本願発明者らが見出した、人間の周囲温度及び外気温度と、意欲度との相関関係の一例を示す図である。図9は、本願発明者らが見出した、人間の周囲温度及び外気温度と、いらだち度との相関関係の一例を示す図である。図10は、本願発明者らが見出した、人間の周囲温度及び外気温度と、リラックス度との相関関係の一例を示す図である。
【0085】
以上、実施形態及び変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態、変形例、その他の実施形態は、本開示の対象の機能を損なわない限り、適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本開示は、熱ストレスの影響推定装置、及び、熱ストレスの影響推定方法について有用である。
【符号の説明】
【0087】
10、10A 熱ストレスの影響推定装置
11 熱ストレス反応モデル記憶部
12 演算部
13 室温計測部
14 外気温計測部
15 環境情報記憶部
16 状態推定対象期間決定部
17 表示部
21 補正入力部
22 対象者属性情報入力部
23 熱ストレス反応モデル補正部
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10