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特許7625231研磨具ホルダの制御方法、研磨具ホルダ、および研磨工具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-24
(45)【発行日】2025-02-03
(54)【発明の名称】研磨具ホルダの制御方法、研磨具ホルダ、および研磨工具
(51)【国際特許分類】
   B24B 45/00 20060101AFI20250127BHJP
   B24B 29/00 20060101ALI20250127BHJP
   B24B 47/20 20060101ALI20250127BHJP
   B24D 13/14 20060101ALI20250127BHJP
   B24D 7/00 20060101ALI20250127BHJP
【FI】
B24B45/00 Z
B24B29/00 H
B24B47/20
B24D13/14 A
B24D7/00 T
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022570965
(86)(22)【出願日】2020-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2020048807
(87)【国際公開番号】W WO2022137525
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】597022425
【氏名又は名称】株式会社ジーベックテクノロジー
(73)【特許権者】
【識別番号】391062595
【氏名又は名称】大明化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142619
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100153316
【弁理士】
【氏名又は名称】河口 伸子
(72)【発明者】
【氏名】蔭山 佳輝
(72)【発明者】
【氏名】福島 啓輔
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/138595(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/021460(WO,A1)
【文献】特開2005-169589(JP,A)
【文献】特開平11-070477(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B3/00-3/60
B24B21/00-51/00
B24D3/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械装着部と、研磨具が装着される装着部と、駆動源を備え、前記装着部を前記機械装着部の軸線方向に移動させる移動機構と、前記装着部に装着された前記研磨具にかかる負荷を検出する負荷検出器と、を有する研磨具ホルダの制御方法において、
砥材を有する研磨具を前記装着部に装着するとともに前記機械装着部を工作機械のスピンドルに接続して当該工作機械を動作させ、前記工作機械が前記研磨具ホルダを予め定めた加工経路に沿って移動させる間に、前記負荷検出器からの出力を監視するとともに単位時間当たりの前記負荷の変化量を算出し、前記負荷および前記変化量に基づいて前記駆動源を駆動して前記装着部を移動させて前記研磨具を進退させる突出制御動作を行い、
前記負荷が予め設定された負荷閾値範囲外にあり、かつ、前記変化量が予め設定された変化量閾値よりも小さい場合に、前記突出制御動作を行うことを可能とすることを特徴とする研磨具ホルダの制御方法。
【請求項2】
前記負荷がゼロのときに前記突出制御動作を停止させ、前記変化量が予め設定された設定変化量を下回るまで前記突出制御動作を行わない状態を維持することを特徴とする請求項1に記載の研磨具ホルダの制御方法。
【請求項3】
前記負荷が前記負荷閾値範囲外にあり、かつ、前記変化量が所定の変化量閾値範囲内にある場合に、前記突出制御動作を行わない状態とし、前記負荷が前記負荷閾値範囲外にあり、かつ、前記変化量が前記変化量閾値範囲外にある場合に、前記突出制御動作を行うことを可能とすることを特徴とする請求項1に記載の研磨具ホルダの制御方法。
【請求項4】
前記負荷が前記負荷閾値範囲外となり、かつ、前記変化量が前記変化量閾値以上となると、前記突出制御動作を行わない状態とするとともに前記負荷が前記負荷閾値範囲外にあり、かつ、前記変化量が前記変化量閾値以上にある状態が継続している継続時間を計数し、前記継続時間が予め定めた設定時間に達するまで前記突出制御動作を行わない状態を維持し、前記継続時間が前記設定時間を超えたときに前記突出制御動作を再開することを特徴とする請求項1または3に記載の研磨具ホルダの制御方法。
【請求項5】
予め、前記負荷閾値範囲として、前記軸線方向における前記砥材の長さ寸法に対応付けられた複数の前記負荷閾値範囲を保持し、
前記工作機械よって前記研磨具ホルダを移動させる前に、前記研磨具が装着された前記装着部を前記軸線方向に進退可能な初期位置に配置しておき、
前記突出制御動作において前記装着部を移動させる毎に、前記駆動源の駆動量および前記装着部の移動方向に基づいて前記初期位置から前記機械装着部とは反対側に移動する前記装着部の移動量を算出し、前記移動量に基づいて複数の前記負荷閾値範囲から一の前記負荷閾値範囲を選択することを特徴とすることを特徴とする請求項1、3、または4に記載の研磨具ホルダの制御方法。
【請求項6】
予め、前記負荷閾値範囲として、第1負荷閾値範囲と、前記第1負荷閾値範囲とは異なる第2負荷閾値範囲とを保持し、
前記第1負荷閾値範囲を前記負荷閾値範囲に設定し、前記負荷がゼロとなった時点の回数を計数し、前記回数が所定の設定回数に達したときに前記負荷閾値範囲を前記第2負荷閾値範囲に設定することを特徴とする請求項1、3、4、または5に記載の研磨具ホルダの制御方法。
【請求項7】
記憶部を備えておき、前記工作機械によって前記研磨具ホルダを予め定めた学習経路に沿って移動させて、前記負荷検出器からの出力を監視するとともに単位時間当たりの前記負荷の変化量を逐次に算出し、前記負荷に基づいて前記負荷閾値範囲を設定するとともに前記変化量に基づいて前記変化量閾値を設定して前記記憶部に記憶保持し、
前記工作機械が前記研磨具ホルダを前記加工経路に沿って移動させる際に、前記記憶部を参照して前記負荷閾値範囲および前記変化量閾値を取得することを特徴とする請求項1、3、4、5、または6に記載の研磨具ホルダの制御方法。
【請求項8】
前記研磨具は、長さ方向を前記軸線方向に向けた砥材と、前記砥材の前記軸線方向の一方の端部を保持する砥材ホルダと、を有し、
前記砥材ホルダが前記装着部に装着されることを特徴とする請求項1から7のうちのいずれか一項に記載の研磨具ホルダの制御方法。
【請求項9】
機械装着部と、
砥材を有する研磨具が装着される装着部と、
駆動源を備え、前記装着部を前記機械装着部の軸線方向に移動させる移動機構と、
前記装着部に装着された前記研磨具にかかる負荷を検出する負荷検出器と、
前記負荷検出器からの出力を監視するとともに単位時間当たりの前記負荷の変化量を算出し、前記負荷および前記変化量に基づいて前記駆動源を駆動して前記装着部を移動させて前記研磨具を進退させる突出制御動作を行う制御部と、
を有し、
前記制御部は、前記負荷が予め設定された負荷閾値範囲外にあり、かつ、前記変化量が予め設定された変化量閾値よりも小さい場合に、前記突出制御動作を行うことを可能とすることを特徴とする研磨具ホルダ。
【請求項10】
前記制御部は、前記負荷がゼロのときに前記突出制御動作を停止させ、前記変化量が予め設定された設定変化量を下回るまで前記突出制御動作を行わない状態を維持することを特徴とする請求項9に記載の研磨具ホルダ。
【請求項11】
前記制御部は、前記負荷が前記負荷閾値範囲外にあり、かつ、前記変化量が所定の変化量閾値範囲内にある場合に、前記突出制御動作を行わない状態とし、前記負荷が前記負荷閾値範囲外にあり、かつ、前記変化量が前記変化量閾値範囲外にある場合に、前記突出制
御動作を行うことを可能とすることを特徴とする請求項9に記載の研磨具ホルダ。
【請求項12】
タイマーを有し、
前記制御部は、前記負荷が前記負荷閾値範囲外となり、かつ、前記変化量が前記変化量閾値以上となると、前記突出制御動作を行わない状態とするとともに前記タイマーを駆動して前記負荷が前記負荷閾値範囲外にあり、かつ、前記変化量が前記変化量閾値以上にある状態が継続している継続時間を計数し、前記継続時間が予め定めた設定時間に達するまで前記突出制御動作を行わない状態を維持し、前記継続時間が前記設定時間を超えたときに前記突出制御動作を再開することを特徴とする請求項9または11に記載の研磨具ホルダ。
【請求項13】
前記負荷閾値範囲として、前記軸線方向における前記砥材の長さ寸法に対応付けられた複数の負荷閾値範囲を記憶保持する負荷閾値記憶部を有し、
前記制御部は、前記装着部を前記軸線方向に進退可能な初期位置に配置する初期動作制御部と、前記突出制御動作において前記装着部を移動させる毎に、前記駆動源の駆動量および前記装着部の移動方向に基づいて前記初期位置から前記機械装着部とは反対側に移動する前記装着部の移動量を算出し、前記移動量に基づいて前記負荷閾値記憶部を参照して、複数の前記負荷閾値範囲から一の前記負荷閾値範囲を選択する負荷閾値範囲再設定部を備えることを特徴とする請求項9、11、または12に記載の研磨具ホルダ。
【請求項14】
前記負荷閾値範囲として、第1負荷閾値範囲と、前記第1負荷閾値範囲とは異なる第2負荷閾値範囲と、を記憶保持する負荷閾値記憶部を有し、
前記制御部は、前記制御部は、前記負荷がゼロとなった時点の回数を計数する計数部と、前記回数が所定の設定回数に達するまで前記第1負荷閾値範囲を前記負荷閾値範囲に設定し、前記回数が前記設定回数に達したときに前記負荷閾値範囲を前記第2負荷閾値範囲に設定する負荷閾値範囲再設定部を備えることを特徴とする請求項9、11、12、または13に記載の研磨具ホルダ。
【請求項15】
記憶部と、
前記制御部は、当該制御部の動作モードを、通常の動作モードと、学習用の動作モードとの間で切り替える動作モード切替部、を有し、前記学習用の動作モードにおいて、前記負荷検出器からの出力を監視するとともに単位時間当たりの前記負荷の変化量を逐次に算出し、前記負荷に基づいて前記負荷閾値範囲を設定するとともに前記変化量に基づいて前記変化量閾値を設定して前記記憶部に記憶保持する学習データ設定部を備え、前記通常の動作モードでは、前記制御部は、前記記憶部を参照して前記負荷閾値範囲および前記変化量閾値を前記記憶部から取得することを特徴とする請求項9、11、12、13、または14に記載の研磨具ホルダ。
【請求項16】
請求項9から15のうちのいずれか一項に記載の研磨具ホルダと、
前記研磨具ホルダの装着部に着脱可能に装着された研磨具と、を有し、
前記研磨具は、長さ方向を前記軸線方向に向けた砥材と、前記砥材の前記軸線方向の一方の端部を保持する砥材ホルダと、を有し、
前記砥材ホルダが前記装着部に装着されることを特徴とする研磨工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砥材を有する研磨具を機械装着部の軸線方向に進退させて砥材による切り込み量を調節する研磨具ホルダ、および研磨具ホルダの制御方法に関する。また、かかる研磨具ホルダと研磨具とからなる研磨工具に関する。
【背景技術】
【0002】
砥材を有する研磨具が着脱可能に装着される研磨具ホルダは特許文献1に記載されている。同文献の研磨具ホルダは、機械装着部であるシャンクと、装着部と、装着部をシャンクの軸線方向に移動可能に支持する支持機構と、を備える。また、研磨具ホルダは、駆動源を備え、装着部を軸線方向に移動させる移動機構と、装着部に装着された研磨具にかかる負荷を検出する負荷検出器と、負荷検出器からの出力に基づいて駆動源を駆動して装着部を軸線方向に移動させる制御部と、を備える。
【0003】
研磨具ホルダを使用してワークを加工する際には、研磨具を装着部に装着して、研磨具と研磨具ホルダとからなる研磨工具を構成する。次に、研磨工具のシャンクを工作機械のスピンドルに接続して、工作機械を動作させる。そして、工作機械によって研磨工具を予め定めた加工経路に沿って移動させながら、砥材をワークの表面に接触させる。加工経路は、研磨具がワークの加工対象面と正対したときに、工作機械のスピンドルと加工対象面との間の距離が一定に維持されるように定められる。
【0004】
加工動作中に砥材が摩耗すると、砥材の先端がワークの表面から離間する方向に後退する。これにより、ワークの側から研磨具にかかる負荷が低下するので、負荷検出器からの出力(負荷)が小さくなる。ここで、負荷検出器からの出力が所定の負荷閾値範囲よりも小さくなると、制御部は、駆動源を駆動して、装着部をワークの側に前進させる突出制御動作を行う。これにより、研磨具が前進するので、砥材がワークに向かって突き出される。よって、加工動作中に砥材が摩耗した場合でも、砥材によるワークの切り込み量を確保できる。
【0005】
また、ワークの寸法誤差などに起因して加工動作中に研磨工具がワークの加工対象面に接近しすぎた場合には、ワークの側から研磨具にかかる負荷が増大するので、負荷検出器からの出力(負荷)が大きくなる。ここで、負荷検出器からの出力が所定の負荷閾値範囲よりも大きくなると、制御部は、駆動源を駆動して、装着部をワークから離間する側に後退させる突出制御動作を行う。この結果、研磨具が後退するので、砥材がワークから離間する方向に後退する。よって、加工動作中に研磨工具がワークに接近し過ぎた場合でも、砥材によるワークの切り込み量を一定とすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2018/123456号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
工作機械が研磨工具を移動させる加工経路は、ワークの手前から、ワークを通過して、ワークよりも奥に達するように設定される場合がある。この場合、研磨工具がワークを通過する間は、砥材がワークの加工対象面を研磨するので、砥材に摩耗が発生する。従って、負荷検出器からの出力(負荷)が低下したときに、突出制御動作を行って砥材によるワークの切り込み量を確保することが必要となる。しかし、研磨工具がワークの手前に位置している間、および、研磨工具がワークよりも奥に達した後は、砥材がワークの加工対象面に接触しない。従って、負荷検出器からの出力が低下した場合でも突出制御動作を行う必要はない。
【0008】
ここで、加工経路に沿って研磨工具を移動させる工作機械は、ワークに対する研磨工具の位置を把握できる。しかし、工作機械に接続されている研磨具ホルダは、ワークに対する研磨工具の位置を把握することができない。従って、研磨工具がワークの手前にある場合や奥にある場合でも、負荷検出器から出力される負荷が低下したときに駆動源を駆動して研磨具を軸線方向に移動させてしまうという問題がある。
【0009】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、研磨具がワークの加工対象面に接触している場合のみに、研磨具を移動させる突出制御動作を行う研磨具ホルダ、および研磨工具を提供することにある。また、かかる研磨具ホルダの制御補法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、機械装着部と、研磨具が装着される装着部と、駆動源を備え、前記装着部を前記機械装着部の軸線方向に移動させる移動機構と、前記装着部に装着された前記研磨具にかかる負荷を検出する負荷検出器と、を有する研磨具ホルダの制御方法において、砥材を有する研磨具を前記装着部に装着するとともに前記機械装着部を工作機械のスピンドルに接続して当該工作機械を動作させ、前記工作機械が前記研磨具ホルダを予め定めた加工経路に沿って移動させる間に、前記負荷検出器からの出力を監視するとともに単位時間当たりの前記負荷の変化量を算出し、前記負荷および前記変化量に基づいて前記駆動源を駆動して前記装着部を移動させて前記研磨具を進退させる突出制御動作を行うことを特徴とする。
【0011】
本発明の研磨具ホルダは、砥材を有する研磨具が装着部に装着され、研磨具と研磨具ホルダとによって研磨工具が構成された状態で使用される。また、研磨工具の機械装着部が工作機械のスピンドルに接続されて使用される。本発明によれば、研磨工具を工作機械が予め定めた加工経路に沿って移動させる間に、負荷検出器からの出力を監視するとともに単位時間当たりの負荷の変化量を逐次に算出し、負荷および変化量に基づいて駆動源を駆動して研磨具を進退させる突出制御動作を行う。ここで、ワークの研磨動作中に研磨具がワークの加工対象面を研磨する間に変化する負荷の変化量は、実験などによって予め把握することができる。従って、研磨具ホルダは、負荷の変化量に基づいて、研磨具がワークの加工対象面に接触している状態か否かを判断できる。よって、負荷と負荷の変化量とに基づいて突出制御動作を行えば、研磨具ホルダは、研磨具がワークの加工対象面に接触している場合のみに、研磨具をワークの側に突き出す突出制御動作を行うことが可能となる。
【0012】
また、本発明は、前記負荷が予め設定された負荷閾値範囲外にあり、かつ、前記変化量
が予め設定された変化量閾値よりも小さい場合に、前記突出制御動作を行うことを可能とすることを特徴とする。すなわち、ワークの研磨動作中に研磨具がワークの加工対象面を研磨する間に変化する負荷の変化量は実験などによって予め把握することができる。従って、実験などで得られた変化量に基づいて変化量閾値を設定しておけば、研磨具ホルダは、変化量が変化量閾値以上となったときに、負荷の変動が砥材の摩耗に起因したものではないことを判断できる。言い換えれば、研磨具ホルダは、変化量が変化量閾値よりも小さい場合には、研磨具がワークの加工対象面を研磨している状態であり、かつ、研磨による砥材の摩耗に起因して負荷が変化している状態であると判断できる。従って、変化量が予め設定された変化量閾値よりも小さく、かつ、負荷が予め設定された負荷閾値範囲外となったときに突出制御動作を行えば、研磨具がワークの加工対象面に接触しており、かつ、砥材の摩耗に起因して負荷が変動した場合に、突出制御動作を行うことができる。
【0013】
本発明において、前記負荷がゼロのときに前記突出制御動作を停止させ、前記変化量が予め設定された設定変化量を下回るまで前記突出制御動作を行わない状態を維持するものとすることができる。負荷がゼロとなった状態は、負荷検出器が研磨具にかかる負荷を検出していない状態である。従って、負荷がゼロとなった状態は、研磨具がワークに接触していない状態である。よって、負荷がゼロとなると、研磨具ホルダは、研磨工具がワークの加工対象面の外に位置することを判断できる。ここで、研磨工具がワークの加工対象面の外に位置する場合には、砥材に摩耗が発生することはない。従って、研磨具ホルダは、突出制御動作を行わない状態とする。これにより、必要のない突出制御動作を止めることができる。ここで、研磨工具がワークの外からワークの加工対象面に乗り上げる際には、研磨工具がワークに接触したときに、負荷の変化量は急激に大きくなる。そして、ワークへの乗り上げが終了した時点で負荷の変化量はピークを越え、その後に、小さくなる。従って、ワークへの乗り上げが終了した時点で、変化量は、ゼロに近い値となる。よって、設定変化量をゼロに近い値などに設定しておき、負荷がゼロのときに突出制御動作を停止させ、変化量が予め設定された設定変化量を下回るまで突出制御動作を行わない状態を維持し、その後に突出制御動作を開始するようにすれば、研磨工具がワークに乗り上げるまでは、突出制御動作を行わず、研磨工具がワークに乗り上げた後に突出制御動作を行うことができる。
【0014】
本発明において、前記負荷が前記負荷閾値範囲外にあり、かつ、前記変化量が所定の変化量閾値範囲内にある場合に、前記突出制御動作を行わない状態とし、前記負荷が前記負荷閾値範囲外にあり、かつ、前記変化量が前記変化量閾値範囲外にある場合に、前記突出制御動作を行うものとすることができる。研磨工具がワークの加工対象面から降りる際には、研磨具がワークから離れていく間に、ワークの側から研磨具にかかる負荷が急激に小さくなる。従って、負荷の変化量は急激に大きくなる。ここで、研磨工具がワークから降りる際に急激に小さくなる負荷の変化量は、実験などによって予め把握することができる。従って、試験などで把握した負荷の変化量を含む所定の範囲を変化量閾値範囲に設定しておけば、負荷の変化量が変化量閾値範囲内にあるときに、研磨具ホルダは、研磨工具がワークの加工対象面から降りている途中であると判断できる。従って、負荷が負荷閾値範囲外になった場合でも、変化量が変化量閾値範囲内にあるときに突出制御動作を行わないようにすれば、研磨工具がワークの加工対象面から降りている途中で、必要のない突出制御動作を停止できる。一方、負荷が負荷閾値範囲外になったときに変化量が変化量閾値範囲外にある場合には、突出制御動作を行う。このような状態となる場合は、ワークの端縁を研磨するために、工作機械が研磨工具をワークから降ろす際に、工作機械の側で研磨工具を移動させる移動速度を低下させる移動制御をしている場合である。このような場合に突出制御動作を行えば、研磨具を前進させて砥材をワークの端縁に確実に接触させることができる。ここで、研磨工具がワークから完全に降りると、負荷はゼロとなる。従って、負荷がゼロとなった時点で、突出制御動作は停止する。
【0015】
本発明において、前記負荷が前記負荷閾値範囲外となり、かつ、前記変化量が前記変化量閾値以上となると、前記突出制御動作を行わない状態とするとともに、前記負荷が前記負荷閾値範囲外にあり、かつ、前記変化量が前記変化量閾値以上にある状態が継続している継続時間を計数し、前記継続時間が予め定めた設定時間に達するまで前記突出制御動作を行わない状態を維持し、前記継続時間が前記設定時間を超えたときに前記突出制御動作を再開するものとすることができる。このようにすれば、加工経路上に、切欠き部や陥没が設けられている場合に、研磨工具が切欠き部や陥没を通過する際に突出制御動作を行わないようにすることができる。
【0016】
本発明において、予め、前記負荷閾値範囲として、前記軸線方向における前記砥材の長さ寸法に対応付けられた複数の前記負荷閾値範囲を保持し、前記工作機械よって前記研磨具ホルダを移動させる前に、前記研磨具が装着された前記装着部を前記軸線方向に進退可能な初期位置に配置しておき、前記突出制御動作において前記装着部を移動させる毎に、前記駆動源の駆動量および前記装着部の移動方向に基づいて前記初期位置から前記機械装着部とは反対側に移動する前記装着部の移動量を算出し、前記移動量に基づいて複数の前記負荷閾値範囲から一の前記負荷閾値範囲を選択するものとすることができる。このようにすれば、初期位置から機械装着部とは反対側に移動した装着部の移動量は、砥材の摩耗量に対応する。従って、移動量(砥材の摩耗量)に基づいて複数の負荷閾値範囲から一の負荷閾値範囲を選択すれば、砥材の切削能力を一定に維持することが容易となる。
【0017】
本発明において、予め、前記負荷閾値範囲として、第1負荷閾値範囲と、前記第1負荷閾値範囲とは異なる第2負荷閾値範囲とを保持し、前記第1負荷閾値範囲を前記負荷閾値範囲に設定し、前記負荷がゼロとなった時点の回数を計数し、前記回数が所定の設定回数に達したときに前記負荷閾値範囲を前記第2負荷閾値範囲に設定するものとすることができる。このようにすれば、加工経路に沿って移動する研磨工具がワークの加工対象面への乗り降りを繰り返す場合に、研磨工具が加工対象面から降りた回数が設定回数の達するまでは、負荷閾値範囲を第1負荷閾値範囲とし、それ以降は、負荷閾値範囲を第2負荷閾値範囲とすることができる。これにより、加工経路の途中で、砥材によるワークの切り込み量を調節することができる。
【0018】
本発明において、記憶部を備えておき、前記工作機械によって前記研磨具ホルダを予め定めた学習経路に沿って移動させて、前記負荷検出器からの出力を監視するとともに単位時間当たりの前記負荷の変化量を逐次に算出し、前記負荷に基づいて前記負荷閾値範囲を設定するとともに前記変化量に基づいて前記変化量閾値を設定して前記記憶部に記憶保持し、前記工作機械が前記研磨具ホルダを前記加工経路に沿って移動させる際に、前記記憶部を参照して前記負荷閾値範囲および前記変化量閾値を取得するものとすることができる。このようにすれば、負荷閾値範囲および変化量閾値を設定することが容易となる。
【0019】
本発明において、前記研磨具は、長さ方向を前記軸線方向に向けた砥材と、前記砥材の前記軸線方向の一方の端部を保持する砥材ホルダと、を有し、前記砥材ホルダが前記装着部に装着されるものとすることができる。
【0020】
次に、本発明の研磨具ホルダは、機械装着部と、砥材を有する研磨具が装着される装着部と、駆動源を備え、前記装着部を前記機械装着部の軸線方向に移動させる移動機構と、前記装着部に装着された前記研磨具にかかる負荷を検出する負荷検出器と、前記負荷検出器からの出力を監視するとともに単位時間当たりの前記負荷の変化量を逐次に算出し、前記負荷および前記変化量に基づいて前記駆動源を駆動して前記装着部を移動させて前記研磨具を進退させる突出制御動作を行う制御部と、を有することを特徴とする。
【0021】
本発明の研磨具ホルダは、砥材を有する研磨具が装着部に装着され、研磨具と研磨具ホルダとによって研磨工具が構成された状態で使用される。本発明によれば、研磨工具を工作機械が予め定めた加工経路に沿って移動させる間に、負荷検出器からの出力を監視するとともに単位時間当たりの負荷の変化量を逐次に算出し、負荷および変化量に基づいて駆動源を駆動して研磨具を進退させる突出制御動作を行う。ここで、研磨具ホルダは、負荷の変化量に基づいて、研磨具がワークの加工対象面に接触している状態か否かを判断できる。従って、負荷と負荷の変化量とに基づいて突出制御動作を行えば、研磨具ホルダは、研磨具がワークの加工対象面に接触している場合のみに、研磨具をワークの側に突き出す突出制御動作を行うことが可能となる。
【0022】
また、本発明は、前記制御部は、前記負荷が予め設定された負荷閾値範囲外にあり、かつ、前記変化量が予め設定された変化量閾値よりも小さい場合に、前記突出制御動作を行うことを特徴とする。このようにすれば、研磨具ホルダは、研磨具がワークの加工対象面を研磨している状態であり、かつ、研磨による砥材の摩耗に起因して負荷が変化している状態であるときに、突出制御動作を行うことができる。
【0023】
本発明において、前記制御部は、前記負荷がゼロのときに前記突出制御動作を停止させ、前記変化量が予め設定された設定変化量を下回るまで前記突出制御動作を行わない状態を維持するものとすることができる。このようにすれば、研磨具ホルダは、研磨工具がワークの加工対象面の外に位置している間、および、研磨工具がワークの外からワークに乗り上げるまでの間、突出制御動作を行わない状態とすることができる。
【0024】
本発明において、前記制御部は、前記負荷が前記負荷閾値範囲外にあり、かつ、前記変化量が所定の変化量閾値範囲内にある場合に、前記突出制御動作を行わない状態とし、前記負荷が前記負荷閾値範囲外にあり、かつ、前記変化量が前記変化量閾値範囲外にある場合に、前記突出制御動作を行うものとすることができる。このようにすれば、研磨具ホルダは、研磨工具がワークの加工対象面から降りる際に、突出制御動作を行わない状態とすることができる。また、研磨工具がワークの加工対象面から降りる際に、工作機械が研磨具ホルダを移動させる移動速度を低下させた場合などには、研磨具ホルダが突出制御動作を行って、砥材によってワークの端縁を確実に研磨できる。
【0025】
本発明において、タイマーを有し、前記制御部は、前記負荷が前記負荷閾値範囲外となり、かつ、前記変化量が前記変化量閾値以上となると、前記突出制御動作を行わない状態とするとともに前記タイマーを駆動して前記負荷が前記負荷閾値範囲外にあり、かつ、前記変化量が前記変化量閾値以上にある状態が継続している継続時間を計数し、前記継続時間が予め定めた設定時間に達するまで前記突出制御動作を行わない状態を維持し、前記継続時間が前記設定時間を超えたときに前記突出制御動作を再開するものとすることができる。このようにすれば、ワークにおいて、研磨工具が通過する加工経路上に、複数の小さな切欠き部や複数の小さな陥没が設けられている場合に、これら切欠き部や陥没を通過する区間では、突出制御動作を行わないようにすることができる。
【0026】
本発明において、前記負荷閾値範囲として、前記軸線方向における前記砥材の長さ寸法に対応付けられた複数の負荷閾値範囲を記憶保持する負荷閾値記憶部を有し、前記制御部は、前記装着部を前記軸線方向に進退可能な初期位置に配置する初期動作制御部と、前記突出制御動作において前記装着部を移動させる毎に、前記駆動源の駆動量および前記装着部の移動方向に基づいて前記初期位置から前記機械装着部とは反対側に移動する前記装着部の移動量を算出し、前記移動量に基づいて前記負荷閾値記憶部を参照して、複数の前記負荷閾値範囲から一の前記負荷閾値範囲を選択する負荷閾値範囲再設定部を備えるものとすることができる。このようにすれば、砥材の切削能力を一定に維持することが容易となる。
【0027】
本発明において、前記負荷閾値範囲として、第1負荷閾値範囲と、前記第1負荷閾値範囲とは異なる第2負荷閾値範囲と、を記憶保持する負荷閾値記憶部を有し、前記制御部は、前記負荷がゼロとなった時点の回数を計数する計数部と、前記回数が所定の設定回数に達するまで前記第1負荷閾値範囲を前記負荷閾値範囲に設定し、前記回数が前記設定回数に達したときに前記負荷閾値範囲を前記第2負荷閾値範囲に設定する負荷閾値範囲再設定部を備えるものとすることができる。このようにすれば、加工経路に沿って移動する研磨工具がワークの加工対象面への乗り降りを繰り返す場合に、研磨工具が加工対象面から降りた回数が設定回数の達するまでは、負荷閾値範囲を第1負荷閾値範囲とし、それ以降は、負荷閾値範囲を第2負荷閾値範囲とすることができる。これにより、加工経路の途中で、砥材によるワークの切り込み量を調節することができる。
【0028】
本発明において、前記制御部は、当該制御部の動作モードを、通常の動作モードと、学習用の動作モードとの間で切り替える動作モード切替部と、を有し、前記学習用の動作モードにおいて、前記負荷検出器からの出力を監視するとともに単位時間当たりの前記負荷の変化量を逐次に算出し、前記負荷に基づいて前記負荷閾値範囲を設定するとともに前記変化量に基づいて前記変化量閾値を設定して前記記憶部に記憶保持する学習データ設定部を備え、前記通常の動作モードでは、前記制御部は、前記記憶部を参照して前記負荷閾値範囲および前記変化量閾値を前記記憶部から取得するものとすることができる。このようにすれば、負荷閾値範囲および変化量閾値を設定することが容易となる。
【0029】
次に、本発明の研磨工具は、上記の研磨具ホルダと、前記研磨具ホルダの装着部に着脱可能に装着された研磨具と、を有し、前記研磨具は、長さ方向を前記軸線方向に向けた砥材と、前記砥材の前記軸線方向の一方の端部を保持する砥材ホルダと、を有し、前記砥材ホルダが前記装着部に装着されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明の研磨具ホルダは、負荷と負荷の変化量とに基づいて突出制御動作を行う。これにより、研磨工具は、研磨具がワークの研磨対象面に接触している場合にのみ、研磨具を移動させる突出制御動作を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】研磨工具の斜視図である。
図2】研磨具の斜視図である。
図3】研磨工具の概略構造の説明図である。
図4】研磨工具が加工経路を移動する間に研磨具にかかる負荷の説明図である
図5】研磨具ホルダの制御系を示す概略ブロック図である。
図6】研磨工具がワークを通過する際の突出制御動作のフローチャートである。
図7】研磨工具が突出制御動作を行う際の負荷と変化量とを示すグラフである。
図8】研磨工具がワークに乗り上げる際の突出制御動作のフローチャートである。
図9】研磨工具がワークから降りる際の突出制御動作のフローチャートである。
図10】加工経路に切欠き部がある場合の突出制御動作のフローチャーである。
図11】加工経路に切欠きがある場合の負荷と変化量の説明図である
図12】変形例の研磨工具の突出制御動作のフローチャートである。
図13】砥材束の長さ寸法に基づいて負荷閾値範囲を変更する場合の、負荷閾値範囲の説明図である。
図14】研磨工具がワークに乗り降りする際に負荷閾値範囲を変更する場合の説明図である。
図15】研磨工具がワークに乗り降りする際の突出制御動作のフローチャートである。
図16】砥材として弾性砥石を備える研磨具の斜視図である。
図17】砥材として、剛性の砥石を備える研磨具の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態である研磨具ホルダを説明する。図1は本発明を適用した研磨工具の外観斜視図である。図2は、研磨具の斜視図である。図3は、図1の研磨工具の概略構造を示す説明図である。図3では研磨工具を機械装着部の軸線に沿って切断して示す。図4は、研磨工具を加工経路に沿って移動させる間に研磨具にかかる負荷の説明図である。図4の上段は、研磨工具とワークとの位置関係を示す。図4の下段は、ワークの側から研磨具にかかる負荷のグラフである。
【0033】
(研磨工具)
図1に示すように、研磨工具1は、研磨具3と、研磨具3を保持する研磨具ホルダ4と、を備える。研磨具ホルダ4は、シャンク6(機械装着部)と、シャンク6と同軸のスリーブ7と、を備える。シャンク6とスリーブ7との間には、シャンク6およびスリーブ7と比較して大径の大径部8が設けられている。研磨具3は、線状砥材2(砥材)の端部をスリーブ7から突出させた状態で研磨具ホルダ4に保持されている。以下の説明では、シャンク6の軸線Lに沿った方向を軸線方向Xとする。また、軸線方向Xにおいて、シャンク6の側を研磨具ホルダ4の後方X1とし、シャンク6とは反対側を研磨具ホルダ4の前方X2とする。
【0034】
(研磨具)
図2に示すように、研磨具3は、並列に配置された複数本の線状砥材2と、これら複数本の線状砥材2の一方の端部を保持する砥材ホルダ11と、を有する。各線状砥材2は、アルミナ長繊維などといった無機長繊維の集合糸と、集合糸に含侵して硬化した樹脂と、を備える。線状砥材2は、軸線Lと交差する方向に撓む弾性を備える。線状砥材2は、複数本ずつ束ねられている。
【0035】
砥材ホルダ11は、環状の部材であり、中心に軸線方向Xに延びるホルダ貫通穴12を備える。また、砥材ホルダ11は、その前端面に、複数の砥材保持孔13を備える。各砥材保持孔13は円形である。複数の砥材保持孔13は、軸線L回りの等角度間隔に設けられてホルダ貫通穴12を囲む。また、砥材ホルダ11は、図3に示すように、その後端面に、ホルダ貫通穴12を包囲する凹部を備える。凹部は、研磨具3を研磨具ホルダ4に着脱可能に装着するための研磨具側連結部15である。
【0036】
複数本の線状砥材2は、砥材保持孔13に保持される際に、束ねられて砥材束14とされる。砥材束14は、その後端部が砥材保持孔13に挿入される。各砥材束14は、砥材保持孔13に充填された接着剤により砥材ホルダ11に固定されている。
【0037】
(研磨具ホルダ)
図3に示すように、研磨具ホルダ4は、シャンク6と、研磨具3が着脱可能に装着される装着部21と、装着部21を軸線方向Xに移動させる移動機構22と、装着部21に装着された研磨具3にかかる負荷を検出する負荷検出器23と、を有する。シャンク6は、大径部8から後方X1に突出する。
【0038】
装着部21は、環状の部材である。装着部21は、軸線方向Xに移動可能な状態でスリーブ7内に配置されている。装着部21は、スリーブ7の内周面7bと僅かな隙間を開けて対向する環状の対向面25aを備える円盤部25と、円盤部25の中心から前方X2に突き出する突起26を備える。突起26は、研磨具3の研磨具側連結部15に嵌合する形状を備える。研磨具3は、研磨具側連結部15が装着部21の突起26に嵌合することにより、研磨具ホルダ4に着脱可能に装着される。研磨具3が装着部21に連結された状態では、研磨具3と装着部21とは、軸線L回りに相対回転不能な状態で一体となる。装着部21の中心孔28の内周面には、雌ネジ29が設けられている。
【0039】
移動機構22は、軸線方向Xに延びる軸部材36と、軸部材36を軸線方向Xに移動可能、かつ、軸線L回りに回転可能に支持する支持部材37と、駆動源としてのモータ35と、モータ35の回転を軸部材36に伝達する駆動力伝達機構38と、を備える。また、移動機構22は、装着部21と軸部材36とが供回りすることを規制する回転規制機構40を備える。
【0040】
軸部材36は、軸線L上に配置されている。軸部材36は、その外周面に装着部21の雌ネジ29に螺合する雄ネジ39を備える。支持部材37は、軸線Lと直交する方向に広がる円環状の部材であり、中心に軸線L方向に延びる貫通孔41を備える。支持部材37の前面には、スリーブ7の後端部分から外周側に広がるフランジ7aが固定されている。支持部材37とスリーブ7のフランジとは、大径部8の前方X2の端壁を構成する。支持部材37の貫通孔41には、軸部材36が貫通する。貫通孔41を貫通した軸部材36の後端部分は、大径部8の内部に突出する。貫通孔41を貫通した軸部材36の前側部分は、スリーブ7の内側をスリーブ7と同軸に延びる。
【0041】
モータ35および駆動力伝達機構38は、大径部8の内部であって、支持部材37の後方X1に配置されている。モータ35は、ステッピングモータである。駆動力伝達機構38は、モータ35の駆動力が伝達される最終歯車45と、軸部材36に同軸に固定されて最終歯車45と噛合する出力歯車46と、出力歯車46を支持部材37に向かって付勢する付勢部材47と、を備える。最終歯車45は支持部材37から後方X1に延びる支軸48に回転可能に支持されている。支軸48は軸部材36と平行である。従って、最終歯車45と軸部材36に固定された出力歯車46とは平行な回転軸回りに回転する。出力歯車46は、付勢部材47の付勢力により、後方X1から支持部材37に当接する。
【0042】
軸部材36が後方X1に移動すると、軸部材36に固定された出力歯車46は、付勢部材47の付勢力に抗して、後方X1に移動する。従って、軸部材36が後方X1に移動する際には、軸部材36は付勢部材47の付勢力に抗して移動している。軸部材36が後方X1に移動すると、出力歯車46は支持部材37から後方X1に離間する。
【0043】
ここで、出力歯車46が固定された軸部材36と最終歯車45の回転軸は平行である。従って、出力歯車46が軸線方向Xに移動した場合でも、出力歯車46と最終歯車45との噛合状態は維持される。これにより、モータ35の回転は、常に、駆動力伝達機構38を介して、出力歯車46に伝達される。モータ35の駆動力が出力歯車46に伝達されると、軸部材36は軸線L回りに回転する。
【0044】
回転規制機構40は、スリーブ7の内周面7bに設けられた溝部31と、装着部21の対向面25aの周方向の一部分に設けられた突起32と、を備える。溝部31は、スリーブ7の内周面7bを軸線方向Xに延びる。突起32は一定幅で軸線方向Xに延びる。ここで、装着部21は、突起32をスリーブ7の溝部31内に挿入した状態でスリーブ7内に配置される。従って、軸部材36が回転したときに、装着部21の回転が阻止される。
【0045】
負荷検出器23は、圧力センサである。負荷検出器23は、大径部8の内側において、支持部材37の後方X1に配置されている。負荷検出器23は、軸部材36に後方X1から接触して当該軸部材36にかかる軸線方向Xの圧力を検出する。
【0046】
ワークWを加工する際には、研磨工具1のシャンク6を工作機械MのスピンドルNに接続して、工作機械Mを動作させる。これにより、工作機械Mは、予めプログラミングされている加工経路に沿って研磨工具1を移動させる。
【0047】
図4に示すように、工作機械Mが研磨工具1を移動させる加工経路Eは、ワークWの手前から、ワークWを通過して、ワークWよりも奥に達するように設定されている。また、加工経路Eは、研磨工具1がワークWを通過する際に、スピンドルNとワークWの加工対象面Sとの間の距離Dが一定に維持されるように設定されている。研磨工具1がワークWを通過する際には、砥材束14の先端部分が、加工対象面Sに接触する。
【0048】
(制御系)
図5は、研磨具ホルダ4の制御系を示す概略ブロック図である。図6は、研磨工具1がワークWを通過する際の突出制御動作のフローチャートである。図7は、突出制御動作を行う際の負荷と変化量とを示すグラフである。図8は、研磨工具1がワークWに乗り上げる際の突出制御動作のフローチャートである。図9は、研磨工具1がワークWから降りる際の突出制御動作のフローチャートである。図10は、加工経路に切欠きが設けられている場合の突出制御動作のフローチャーである。図11は、加工経路に切欠きが設けられている場合の負荷の説明図である。図11の上段は、研磨工具とワークとの位置関係を軸線L方向から見た場合を示す。図11の下段は、ワークの側から研磨具にかかる負荷のグラフである。
【0049】
図5に示すように、研磨具ホルダ4の制御系は、CPUを備える制御部51と、制御部51に接続された記憶部52と、タイマー53と、を備える。制御部51の入力側には負荷検出器23が接続されている。制御部51の出力側には、モータ35が接続されている。なお、研磨具ホルダ4は、図3に示すように、モータ35に電力を供給するモータ用電池57と、制御部51、およびタイマー53に電力を供給する制御用電池58と、を備える。モータ用電池57および制御用電池58は、外部からケーブルを接続して充電可能である。
【0050】
ここで、研磨工具1が加工経路Eに沿って移動する間、制御部51は、負荷検出器23からの出力(負荷)を監視するとともに、予め定めた単位時間当たりの負荷の変化量を逐次に算出する。
【0051】
より具体的には、制御部51は、負荷検出器23から出力される負荷を一定周期で取得するとともに、時系列に沿って順番に知得した3つの負荷から、単位時間当たりの負荷の変化量を知得する。ここで、負荷は、0.001秒~1秒間の間隔で取得するものとすることができる。負荷の変化量を算出する単位時間は、負荷を取得する間隔の3倍の時間である。負荷の変化量の算出は、負荷を取得する間隔と同一の間隔で行われる。変化量は、負荷(P)が単位時間当たりに増減した幅の絶対値であり、単位時間をdt、負荷が増減した幅をdPとした場合に、以下の式で示すことができる。
|dP/dt|
【0052】
また、制御部51は、逐次に取得する負荷および変化量に基づいて、砥材束14によるワークWの切り込み量を調節する突出制御動作を行う。
【0053】
より具体的には、図6に示すように、制御部51は、負荷を監視するとともに、変化量を逐次に算しており(ステップST1)。変化量が予め設定された変化量閾値Qよりも小さい場合に(ステップST2:Yes)、負荷が予め設定された負荷閾値範囲R外となると(ステップST3:Yes)、モータ35を駆動制御して装着部21を移動させて、研磨具3を進退させる突出制御動作を行う(ステップST4)。この一方で、制御部51は、変化量が変化量閾値Q以上となると(ステップST2:NO)、突出制御動作を行わない(ステップST5)。また、制御部51は、変化量が変化量閾値Qよりも小さい場合でも(ステップST2:Yes)、負荷が負荷閾値範囲R内にある場合には(ステップST3:NO)、突出制御動作を行わない(ステップST5)。かかる制御は、研磨工具1がワークWの加工対象面Sを通過する区間K1(図4参照)において行われる。
【0054】
ここで、ワークWの研磨動作中に研磨具3がワークWの加工対象面Sを研磨する間に変化する負荷の標準的な変化量は、実験などによって予め把握することができる。従って、実験などにより得られた変化量に基づいて予め変化量閾値Qを設定して、記憶部52に記憶保持しておけば、制御部51は、記憶部52を参照して、変化量が変化量閾値Q以上となったときに、負荷の変動が砥材束14の摩耗に起因したものではなく、他の要因によって変動したものであると判断できる。言い換えれば、実験などに基づいて予め変化量閾値Qを設定しておけば、制御部51は、変化量が変化量閾値Qよりも小さい場合に、研磨具3がワークWの加工対象面Sを研磨している状態であり、かつ、研磨による砥材束14の摩耗に起因して負荷が変化しているものと判断できる。
【0055】
また、研磨具3がワークWの加工対象面Sを研磨している状態において、研磨具3がワークWの加工対象面Sを所望の切り込み量で研磨する際の負荷の範囲は、実験などによって予め把握することができる。従って、実験結果に基づいてワークWの研磨に適する負荷の下限である第1閾値R1と、研磨に適する負荷の上限である第2閾値R2とを把握し、第1閾値R1と第2閾値R2との間を負荷閾値範囲Rとして設定して記憶部52に記憶保持しておけば、制御部51は、記憶部52を参照して、砥材束14が摩耗するなどして負荷が負荷閾値範囲Rを外れたときに、砥材束14によるワークWの切り込み量が適切な範囲を下回っていることを判断できる。また、負荷が負荷閾値範囲Rを外れたときに、制御部51は、砥材束14によるワークWの切り込み量が適切な範囲を上回っていると判断できる。なお、第1閾値R1、および第2閾値R2は、いずれもゼロよりも大きい値である。
【0056】
ここで、図7を参照して突出制御動作を説明する。図7は、負荷検出器23からの出力と突出制御動作との関係のグラフである。図7のグラフの時点Gは、変化量(|dP/dt|)が変化量閾値Q(|dP´/dt|)よりも小さいときに、モータ35からの出力が予め定めた第1閾値R1よりも低下した時点である。時点Gでは、制御部51は、モータ35を所定の回転方向に駆動して、装着部21を前方X2に移動させる。さらに、制御部51は、モータ35を駆動して装着部21を移動させているときにモータ35からの出力を監視し、この出力が第2閾値R2に達すると、監視している出力に基づいてモータ35の駆動を停止して装着部21の移動を停止させる。
【0057】
次に、図7のグラフの時点Hは、変化量(|dP/dt|)が変化量閾値Qよりも小さいときに、モータ35からの出力が予め定めた第2閾値R2よりも上昇した時点である。時点Hでは、制御部51は、モータ35を所定の回転方向とは反対方向に駆動して装着部21を後方X1に移動させる。さらに、制御部51は、モータ35を駆動して装着部21を移動させているときにモータ35からの出力を監視し、この出力が第2閾値R2を下回ると、監視している出力に基づいてモータ35の駆動を停止して装着部21の移動を停止させる。これにより、研磨工具1は、研磨具3がワークWの加工対象面Sを研磨している状態であり、かつ、研磨による砥材束14の摩耗に起因して負荷が変化している状態であるときに、突出制御動作を行って、砥材束14によるワークWの切り込み量を適切な範囲に維持する。
【0058】
また、図8に示すように、制御部51は、負荷を監視するとともに、変化量を逐次に算出しており(ステップST11)、負荷がゼロのときに突出制御動作を停止させ(ステップST12、ステップST13)、変化量が予め設定された設定変化量Uを下回るまで突出制御動作を行わない状態を維持する(ステップST14:No、ステップST13)。かかる制御は、図4に示すように、ワークWの外に位置していた研磨工具1が、ワークWの加工対象面Sに乗り上げるまでの区間K2において行われる。
【0059】
すなわち、研磨工具1がワークWの加工対象面Sの外に位置する場合には、図4に示すように、研磨具3がワークWに接触していない。従って、研磨具3にかかる負荷はゼロとなる。よって、負荷がゼロとなると、制御部51は、研磨工具1がワークWの加工対象面Sの外に位置することを判断できる。ここで、研磨工具1がワークWの加工対象面Sの外に位置する場合には、砥材束14に摩耗が発生することはない。従って、制御部51は、突出制御動作を行わない状態とする。
【0060】
その後、研磨工具1がワークWの外からワークWの加工対象面Sに乗り上げる際には、図4に示すように、研磨工具1(砥材束14)がワークWに接触したときに、負荷の変化量は急激に大きくなる。そして、ワークWへの乗り上げが終了した時点Jで負荷の変化量はピークを越え、その後に、小さくなる。従って、研磨工具1のワークWへの乗り上げが終了した時点では、変化量は、ゼロに近い値となる。よって、設定変化量Uをゼロに近い値などに設定しておき、制御部51は、負荷がゼロのときに突出制御動作を停止させ、変化量が予め設定された設定変化量Uを下回るまで突出制御動作を行わない状態を維持すれば、研磨工具1がワークWに乗り上げるまでは突出制御動作を行わず、研磨工具1がワークWに乗り上げた後に、突出制御動作を行うことができる。
【0061】
さらに、制御部51は、図9に示すように、制御部51は、負荷を監視するとともに、変化量を逐次に算出しており(ステップST21)、負荷が負荷閾値範囲R外にあり(ステップST22)、かつ、変化量が所定の変化量閾値範囲V内にある場合に(ステップST23:Yes)、突出制御動作を行わない(ステップST23)。この一方で、制御部51は、負荷が負荷閾値範囲R外にあり(ステップST22:No)、かつ、変化量が変化量閾値範囲V外にある場合に、突出制御動作を行う(ステップST24)。かかる制御は、図4に示すように、研磨工具1がワークWの加工対象面Sに接触している状態から、ワークWの外へと外れる際に、行われる。
【0062】
すなわち、研磨工具1がワークWの加工対象面Sから降りる際には、図4に示すように、砥材束14がワークWの縁を通過するときにワークWの側から研磨具3にかかる負荷は、急激に小さくなる。従って、砥材束14がワークWの縁を通過するとき、負荷の変化量が急激に大きくなる。ここで、研磨工具1がワークWから降りる際に急激に小さくなる負荷の変化量は、実験などによって予め把握することができる。従って、試験などで把握した変化量を含む所定の範囲を変化量閾値範囲Vとして設定して記憶部52に記憶保持しておけば、制御部51は、負荷の変化量が変化量閾値範囲V内にあるときに、研磨工具1がワークWの加工対象面Sから降りている途中であると判断できる。よって、負荷が負荷閾値範囲R外になった場合でも、変化量が変化量閾値範囲V内にあるときに(ステップST22、ステップST23:Yes)、制御部51が突出制御動作を行わないようにすれば(ステップST25)、研磨工具1がワークWの加工対象面Sから降りているときに、必要のない突出制御動作を行わないようにすることができる。
【0063】
一方、負荷が負荷閾値範囲R外になり、変化量が変化量閾値範囲Vの外にある場合には(ステップST22、ステップST23:No)、制御部51が突出制御動作を行う。負荷が負荷閾値範囲R外になったときに変化量が変化量閾値範囲V外にある場合とは、例えば、工作機械Mが研磨工具1をワークWから降ろす際に、工作機械Mの側で研磨工具1を移動させる移動速度を低下させる移動制御をしている場合である。このような場合に、突出制御動作を行えば、研磨具3を前進させて砥材束14をワークWの端縁に確実に接触させることができる。また、負荷が負荷閾値範囲R外になったときに変化量が変化量閾値範囲V外にある場合とは、例えば、工作機械Mが研磨工具1をワークWから降ろす際に、工作機械Mの側で研磨工具1を加工対象面Sから離間する方向に緩やかに移動させる移動制御をしている場合である。このような場合に突出制御動作を行えば、研磨具3を前進させて砥材束14をワークWの端縁に確実に接触させることができる。なお、いずれの場合でも、研磨工具1がワークWから降りると、負荷はゼロとなる。従って、負荷がゼロとなった時点で、突出制御動作は停止する。
【0064】
さらに、図10に示すように、制御部51は、負荷を監視するとともに、変化量を逐次に算出しており(ステップST31)、負荷が負荷閾値範囲R外となり、かつ、変化量が変化量閾値Q以上となると(ステップST32)、突出制御動作を行わない状態とするとともに、負荷が閾値範囲外にあり、かつ、変化量が変化量閾値Q以上にある状態が継続している継続時間をタイマー53によって計数する(ステップST33)。そして、制御部51は、負荷が負荷閾値範囲R外となり、かつ、変化量が変化量閾値Q以上となった時点からの継続時間が予め定めた設定時間に達するまで突出制御動作を行わない状態を維持し、継続時間が設定時間を超えたときに突出制御動作を再開する(ステップST34:Yes、ステップST35)。この一方、制御部51は、継続時間が設定時間を超えない場合には、突出制御動作を行わない(ステップST34:No、ステップST36)。かかる制御は、図11の上段に示すように、研磨工具1がワークWを通過する加工経路E上に切欠き部Lや陥没が設けられている区間K4がある場合に、これら切欠き部Lや陥没を通過する間、不必要な突出制御動作を行わないようにするためのものである。
【0065】
すなわち、ワークWの加工対象面Sに切欠き部Lや陥没が存在する場合には、研磨工具1が切欠き部Lや陥没を通過する際に、研磨具3(砥材束14)がワークWに接触する接触面積が急激に減少する。この結果、図11の下段に示すように、ワークWの側から研磨具3の側にかかる負荷が急激に低下して、負荷閾値範囲R外となる。また、負荷の急激な低下に伴って、負荷の変化量が砥材束14の摩耗に起因する負荷の変化量と比較して、急激に大きくなる。従って、制御部51は、負荷が負荷閾値範囲R外となり、かつ、変化量が変化量閾値Q(|dP´/dt|)以上となったときに、ワークWの加工対象面Sに切欠き部Lや陥没が設けられていると判断できる。言い換えれば、制御部51は、負荷が負荷閾値範囲R外となり、かつ、変化量が変化量閾値Q以上となったときに、砥材束14の摩耗に起因して負荷が負荷閾値範囲R外となったのではなく、加工対象面Sの形状に起因して負荷が負荷閾値範囲R外となったものと判断できる。従って、制御部51は、負荷が負荷閾値範囲R外となり、かつ、変化量が変化量閾値Q以上となると、突出制御動作を行わない状態とする。これにより、研磨工具1が、切欠き部Lや陥没と対峙したときに、砥材束14を突き出してしまうことを防止する。
【0066】
さらに、制御部51は、突出制御動作を停止させた後に、負荷が閾値範囲外にあり、かつ、変化量が変化量閾値Q以上にある状態が継続している継続時間をタイマー53によって計数し、継続時間が予め定めた設定継続時間に達するまで突出制御動作を行わない状態を維持する。従って、設定時間を予め適切な値に定めることにより、研磨工具1が切欠き部Lや陥没を通過する間に、突出制御動作を行わないようにすることができる。これにより、研磨工具1が、切欠き部Lや陥没を通過する間に、砥材束14を突き出してしまうことを防止する。
【0067】
(研磨工具が加工経路に沿って移動する間に行われる突出制御動作)
図4に示すように、工作機械Mが研磨工具1を移動させる加工経路Eは、ワークWの手前から、ワークWを通過して、ワークWよりも奥に達するように設定されている。研磨具ホルダ4は、研磨工具1が加工経路Eに沿って移動する間、負荷検出器23からの出力を監視するとともに負荷の変化量を逐次に算出し、負荷および変化量に基づいて駆動源(モータ35)を駆動制御して研磨具3を進退させる突出制御動作を行う。
【0068】
図4に示すように、研磨工具1がワークWの手前に位置する区間K2では、研磨具3がワークWに接触するまで負荷検出器23からの出力はゼロである。従って、制御部51は、突出制御動作を停止させている。また、制御部51は、突出制御動作を停止させた後に変化量が設定変化量Uを下回るまで突出制御動作を行わない状態を維持し、変化量が設定変化量Uを下回った後に、突出制御動作を行うことが可能な状態する。これにより、研磨工具1は、ワークWに乗り上げる際に、ワークWに乗り上げるまでは突出制御動作を行わない状態となり、ワークWに乗り上げた後に突出制御動作を行うことができる状態となる。
【0069】
次に、研磨工具1がワークWの研磨対象面Sを通過する区間K1では、図7に示すように、研磨工具1は、負荷が負荷閾値範囲R外にあり、かつ、変化量が変化量閾値Qよりも小さい場合に、突出制御動作を行う。すなわち、研磨工具1は、研磨具3がワークWの加工対象面Sを研磨している状態であり、かつ、研磨による砥材束14の摩耗に起因して負荷が変化している状態であると判断できる場合に、突出制御動作を行う。
【0070】
突出制御動作では、研磨工具1は、負荷検出器23からの出力が第1閾値R1よりも低下したときに、モータ35を駆動して装着部21を前方X2に移動させる。また、研磨工具1は、モータ35を駆動して装着部21を移動させているときにモータ35からの出力(負荷)を監視し、負荷が第2閾値R2に達すると、モータ35の駆動を停止して装着部21の移動を停止させる。これにより、砥材束14が摩耗して切り込み量が低下したときに研磨具3が前進するので、切り込み量を確保できる。
【0071】
また、突出制御動作では、制御部51は、負荷検出器23からの出力が予め定めた第2閾値R2を超えたときに、モータ35を駆動して装着部21を後方X1に移動させる。さらに、制御部51は、モータ35を駆動して装着部21を移動させているときにモータ35からの出力(負荷)を監視し、負荷が第2閾値R2に戻ると、モータ35の駆動を停止して装着部21の移動を停止させる。ここで、負荷検出器23からの出力が予め定めた第2閾値R2を超える場合とは、ワークWの寸法誤差などにより、工作機械MのスピンドルNとワークWの加工対象面Sとの間の距離が予定した距離よりも短くなり、砥材束142によるワークWの切込み量が適切な範囲を超えて上昇してしまった場合である。このような場合に、制御部51がモータ35を駆動して装着部21を後方X1に移動させれば、研磨具3がワークWから離間する方向に移動する。従って、砥材束14による切込み量を低下させて、ワークWに対する研磨工具1の加工精度を維持することができる。
【0072】
さらに、図4に示すように、研磨工具1がワークWの研磨対象面Sを通過する区間K4では、制御部51は、負荷が負荷閾値範囲R外となり、かつ、変化量が変化量閾値Q以上となると、突出制御動作を行わない状態とするとともに、負荷が負荷閾値範囲R外にあり、かつ、変化量が変化量閾値Q以上にある状態が継続している継続時間を計数し、継続時間が予め定めた設定継続時間に達するまで突出制御動作を行わない状態を維持する。そして、制御部51は、継続時間が設定継続時間を超えたときに突出制御動作を行うことが可能な状態とする。従って、加工経路E上に、図11に示すように切欠き部Lが設けられている場合に、これら切欠き部Lを通過する間、必要のない突出制御動作を行わずに済む。
【0073】
その後、図4に示すように、研磨工具1がワークWの加工対象面Sから降りてワークWの奥に達する区間K3では、研磨工具1は、負荷が負荷閾値範囲R外にあり、かつ、変化量が所定の変化量閾値範囲V内にある場合に、突出制御動作を行わない。すなわち、研磨工具1は、変化量が予め設定した変化量閾値範囲V内にある場合には、負荷の低下が砥材束14の摩耗に起因するものではなく、研磨工具1がワークWから降りることに起因するものと判断して、突出制御動作を行わない。これにより、研磨工具1がワークWから降りる際に、必要のない突出制御動作が行われることを回避できる。
【0074】
また、研磨工具1がワークWの加工対象面Sから降りてワークWの奥に達する区間K3では、負荷が負荷閾値範囲R外になったときに変化量が変化量閾値範囲V外にある場合には、突出制御動作を行う。このような状態となる場合は、工作機械Mの側で研磨工具1に特別な移動制御をしている場合がある。このような場合に、制御部51が突出制御動作を行えば、研磨具3を前進させて砥材束14をワークWの端縁に確実に接触させることができる。
【0075】
ここで、研磨工具1がワークWから完全に降りると、負荷はゼロとなる。従って、負荷がゼロとなった時点で、突出制御動作は停止する。
【0076】
(作用効果)
本例によれば、研磨具ホルダ4は、負荷の変化量に基づいて、研磨具3がワークWの加工対象面Sに接触している状態か否かを判断できる。従って、負荷と負荷の変化量とに基づいて突出制御動作を行えば、研磨工具1は、研磨具3がワークWの加工対象面Sに接触している場合のみに、研磨具3をワークWの側に突き出す突出制御動作を行うことができる。
【0077】
(変形例1)
図12は、変形例1の研磨工具1の突出制御動作のフローチャートである。研磨工具1は、制御部51の動作モードとして、上記のような加工動作を行う通常の動作モードと、負荷閾値範囲R、および変化量閾値Qを設定するための学習用の動作モードとを備えてもよい。
【0078】
この場合には、制御部51は、図5に点線で示すように、制御部51の動作モードを、通常の動作モードと、学習用の動作モードとの間で切り替える動作モード切替部60を備えるものとする。また、この場合には、制御部51は、学習用の動作モードにおいて、学習したデータから負荷閾値範囲R、変化量閾値Q、および変化量閾値範囲Vを設定して、記憶部52に記憶保持する学習データ設定部61を備える。
【0079】
本例では、図12に示すように、負荷閾値範囲R、および変化量閾値Qを設定するために、まず、制御部51の動作モードを学習用の動作モードに設定する(ステップST41)。次に、研磨工具1のシャフトを工作機械MのスピンドルNに接続して工作機械Mを動作させ、研磨工具1を予め定めた学習経路に沿って移動させる。学習経路は、研磨工具1によってワークWの平坦な加工対象面Sを研磨する加工経路部分(図4の区間K1)と、研磨工具1を加工対象面Sから降ろしてワークWから離間させる加工出口経路部分(図4に区間K3)とを含む。加工経路部分(区間K1)では、研磨具3がワークWの加工対象面Sと対峙したときに、工作機械MのスピンドルNと加工対象面Sとの間の距離が一定に維持される。また、加工経路部分(区間K1)では、砥材束14がワークWの表面に接触した状態が維持される。
【0080】
ここで、学習データ設定部61は、研磨工具1が加工経路部分(区間K1)を通過する際に、負荷検出器23からの出力を監視するとともに予め定めた単位時間当たりの負荷の変化量を逐次に算出し、負荷に基づいて負荷閾値範囲Rを設定するとともに、変化量に基づいて変化量閾値Qを設定して記憶部52に記憶保持する(ステップST42)。
【0081】
すなわち、学習データ設定部61は、研磨具3が平坦な加工対象面Sを研磨する際に負荷検出器23から出力される負荷に基づいて、ワークWの研磨に適した切り込み量を確保できる負荷の下限である第1閾値R1と、負荷の上限である第2閾値R2と、を求め、これらの間を負荷閾値範囲Rとして設定する。学習用の動作モードで検出した負荷に基づいて負荷閾値範囲Rを設定する際には、記憶部52に、予め、負荷と変化量閾値範囲Vとを対応付けた表形式のデータや、負荷と変化量閾値範囲Vとの関係を示す数式などを記憶保持しておく。学習データ設定部61は、これらデータや数式を用いて負荷から負荷閾値範囲Rを自動的に算出する。また、学習データ設定部61は、算出した負荷閾値範囲Rを記憶部52に記憶保持する。
【0082】
さらに、学習データ設定部61は、研磨具3が平坦な加工対象面Sを研磨する際に負荷検出器23から出力される負荷の変化量に基づいて、負荷の変動が砥材束14の摩耗に起因したものであると推定できる変化量の下限を、変化量閾値Qとして設定する。学習用の動作モードで算出した変化量に基づいて変化量閾値Qを設定する際には、記憶部52に、予め、変化量と変化量閾値Qとを対応付けた表形式のデータや、変化量と変化量閾値Qとの関係を示す数式を記憶保持しておく、学習データ設定部61は、これらデータや数式を用いて変化量から変化量閾値Qを自動的に算出する。また、学習データ設定部61は、算出した変化量閾値Qを、記憶部52に記憶保持する(ステップST42)。
【0083】
さらに、学習データ設定部61は、研磨工具1が加工出口経路部分を通過する際に、制御部51は、負荷検出器23からの出力を監視するとともに予め定めた単位時間当たりの負荷の変化量を逐次に算出し、負荷に基づいて変化量閾値範囲Vを設定する。すなわち、学習データ設定部61は、研磨具3が平坦な加工対象面Sから降りる際の負荷の変化量を取得し、この変化量を含む範囲を変化量閾値範囲Vに設定する。取得した変化量に基づいて変化量閾値範囲Vを設定する際には、記憶部52に、予め、変化量と変化量閾値範囲Vとを対応付けた表形式のデータや、変化量と変化量閾値範囲Vとの関係の数式を記憶保持しておく。学習データ設定部61は、これらデータや数式を用いて変化量から変化量閾値範囲Vを自動的に算出する。また、学習データ設定部61は、算出した変化量閾値範囲Vを、記憶部52に記憶保持する(ステップST42)。
【0084】
そして、工作機械Mによって研磨工具1を加工経路Eに沿って移動させる際には、制御部51の動作モードを、学習用の動作モードから、通常の動作モードに切り替える(ステップST43)。通常の動作モードでは、制御部51は、記憶部52を参照して、負荷閾値範囲R、変化量閾値Q、および変化量閾値範囲Vを取得する(ステップST44)。
【0085】
本例では、制御部51の動作モードを学習用の動作モードとして研磨工具1でワークWを加工することにより、制御部51の突出制御動作に必要な負荷閾値範囲R、変化量閾値Q、変化量範囲を、設定することが可能となる。
【0086】
(変形例2)
次に、研磨具ホルダ4は、突出制御動作を行うための負荷閾値範囲Rを、加工動作中に変更してもよい。変形例2では、砥材束14の長さ寸法に基づいて、負荷閾値範囲Rを変更する。図13は、砥材束14の長さ寸法に基づいて負荷閾値範囲Rを変更する場合の、負荷閾値範囲Rの説明図である。
【0087】
この場合には、研磨工具1は、記憶部52(負荷閾値記憶部)に、予め、負荷閾値範囲Rとして、軸線L方向における砥材束14の長さ寸法に対応付けられた複数の負荷閾値範囲Rを保持する。本例では、図13に示すように、複数の負荷閾値範囲Rとして、砥材束14の長さ寸法に基づいて負荷閾値範囲Rの下限である第1閾値R1を算出できる第1数式と、砥材束14の長さ寸法に基づいて負荷閾値範囲Rの上限である第2閾値R2を算出できる第2数式とが、記憶部52に記憶保持されている。第1数式F1では、砥材束14の長さ寸法が短くなるにつれて、第1閾値R1が大きくなる。第2数式F2においても、砥材束14の長さ寸法が短くなるにつれて、第2閾値R2が大きくなる。
【0088】
また、制御部51は、図5に点線で示すように、装着部21を軸線L方向に進退可能な初期位置に配置する初期動作制御部63を備える。さらに、制御部51は、突出制御動作において装着部21を移動させる毎に、モータ35の駆動量および装着部21の移動方向に基づいて初期位置からシャンク6とは反対側に移動する装着部21の移動量を算出し、移動量に基づいて負荷閾値記憶部52を参照して、複数の負荷閾値範囲Rから一の負荷閾値範囲Rを選択する負荷閾値範囲再設定部64を備える。
【0089】
本例では、工作機械Mよって研磨具ホルダ4を加工経路Eに沿って移動させる前に、研磨具3が装着された装着部21を軸線L方向に進退可能な初期位置に配置する。また、工作機械Mによって研磨具ホルダ4を加工経路Eに沿って移動させる間は、制御部51は、装着部21の初期位置からの移動量を算出し、移動量に基づいて複数の負荷閾値範囲Rから一の負荷閾値範囲Rを選択する。すなわち、算出された移動量を、第1数式F1および第2数式F2のそれぞれに代入して、砥材束14の長さ寸法に対応する第1閾値R1および第2閾値R2を算出する。
【0090】
ここで、弾性を備える砥材束14の束は、軸線L方向の寸法が長いほど柔軟性があるので、切削能力は低い。しかし、摩耗量が大きくなって軸線L方向の長さ寸法が短くなると、砥材束14の束は、剛性が上昇して、切削能力が向上する。また、初期位置からシャンク6とは反対側に移動した装着部21の移動量は、砥材束14の摩耗量に対応する。従って、砥材束14の長さ寸法は、移動量に基づいて、容易に把握できる。従って、移動量(砥材束14の摩耗量)を第1数式F1および第2数式F2に代入して負荷閾値範囲Rを求めれば、砥材束14が短くなったときに、負荷閾値範囲Rを高い値に切り上げて、砥材束14の切削能力を一定に維持することできる。よって、本例によれば、砥材束14の束の長さ寸法に拘わらず、砥材束14の束の切削能力を一定に維持することが可能となる。
【0091】
(変形例3)
突出制御動作を行うための負荷閾値範囲Rを加工動作中に変更する別の例として、研磨具ホルダ4は、負荷検出器23から出力される負荷がゼロとなった前後で、突出制御動作を行うための負荷閾値範囲Rを変更してもよい。ここで、負荷がゼロとなった時点とは、加工経路Eの途中で、研磨工具1がワークWから降りた時点である。
【0092】
図14は、研磨工具1がワークWに乗り降りする際に負荷閾値範囲Rを変更する場合の説明図である。図14の上段は、研磨工具1とワークWとの位置関係を示す。図14の下段は、ワークWの側から研磨具3にかかる負荷と、負荷閾値範囲のグラフである。図15は、研磨工具がワークに乗り降りする際の突出制御動作のフローチャートである。
【0093】
図14の上段に示すように、本例では、研磨工具1は、ワークWに乗り上げてから最初にワークWから降りるまでの間、砥材束4の80%を加工対象面Sに当接させた状態でワークWに加工を施す。そして、研磨工具1は、次にワークWに乗り上げてから降りるまでの間、砥材束4の20%を加工対象面Sに当接させた状態でワークWに加工を施す。
【0094】
この場合、記憶部52には、負荷閾値範囲Rとして、第1負荷閾値範囲R(1)と、第1負荷閾値範囲R(1)とは異なる第2負荷閾値範囲R(2)とを保持する。本例では、第2負荷閾値範囲R(2)の範囲は、第1負荷閾値範囲R(1)よりも小さい値である。また、制御部51は、図5に点線で示すように、負荷がゼロとなった時点の回数を計数する計数部65と、回数が所定の設定回数に達するまで第1負荷閾値範囲Rを負荷閾値範囲Rに設定し、回数が設定回数に達したときに負荷閾値範囲Rを第2負荷閾値範囲Rに設定する負荷閾値範囲再設定部64を備える。
【0095】
これにより、加工開始時に行われる突出制御動作では、制御部51は、負荷が第1負荷閾値範囲R(1)内にあるか否かに基づいてモータ35を駆動制御する(ステップST51)。そして、負荷がゼロとなった回数を計数し(ステップST52)、負荷がゼロとなった回数が設定回数(本例では1回)に達した後は(ステップST53)、制御部51は、負荷が第2負荷閾値範囲R内にあるか否かに基づいて、モータ35を駆動制御する(ステップST54)。従って、加工経路Eに沿って移動する研磨工具1がワークWの加工対象面Sへの乗り降りを繰り返す場合に、設定回数の乗り降りを行った後に、更に、ワークWに乗り上げる時点で、砥材束14によるワークWの切り込み量を調節できる。
【0096】
(その他の実施の形態)
研磨工具1が備える研磨具3は、砥材として、弾性砥石を備えてもよい。図16は、研磨工具が備える別の研磨具の斜視図である。図16に示す研磨具3Aは、砥材として、軸線方向Xに延びる円柱形状の弾性砥石2Aを備える。また、研磨具3Aは、弾性砥石2Aを保持する砥材ホルダを備える。なお、弾性砥石2Aの形状は、角柱形状としてもよい。
【0097】
弾性砥石2Aは、弾性発泡体と、ポリマーと、砥粒とを含む。弾性発泡体は、例えば、メラミン樹脂発泡体である。また、弾性発泡体は、一方向に圧縮されることにより弾性力に異方性が付与された異方弾性発泡体とすることができる。ポリマーは、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、或いは、ポリロタキサンのうちのいずれかである。砥粒は、ワークWの種類によって適宜選択される。砥粒としては、ダイヤ、アルミナ、シリカ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ホウ素、チタニア、酸化セリウム、又はジルコニアを用いることができる。かかる弾性砥石の基材は、異方弾性発泡体に、ポリマーと砥粒を含む分散液を含浸させ、焼成することにより得られる。異方弾性発泡体において弾性力が最も強い方向は圧縮方向である。
【0098】
砥材ホルダ11は、環状の部材であり、中心に軸線方向Xに延びるホルダ貫通穴12を備える。また、砥材ホルダ11は、その前端面に、円形の砥材保持孔13Aを備える。砥材ホルダ11は、弾性砥石2Aの軸線方向Xの一方の端部を保持する。また、砥材ホルダ11は、その後端面に、ホルダ貫通穴12を包囲する凹部を備える。凹部は、研磨具3を研磨具ホルダ4に着脱可能に装着するための研磨具側連結部15である。研磨具3Aは、研磨具ホルダ4に保持されて研磨工具1を構成する。
【0099】
ここで、砥材が弾性砥石2Aの場合には、軸線方向Xの寸法が長いほど柔軟性があるので、切削能力は低い。しかし、摩耗量が大きくなって砥材の軸線方向の長さ寸法が短くなると、剛性が上昇して、切削能力が向上する。また、砥材が弾性砥石2Aの場合には、負荷検出器23から出力される負荷は、研磨加工時に弾性砥石2Aの前端面がワークWの加工対象面Sから垂直に押される反力である。このような反力は、弾性砥石2Aの前端面がワークWの加工対象面Sと接触する接触面積に比例する。従って、接触面積が小さければ負荷は小さくなり、接触面積が大きければ、負荷は大きくなる。よって、砥材が弾性砥石2Aである場合でも、砥材が線状砥材2の束である場合と同様に、本発明を適用できる。
【0100】
次に、研磨工具1が備える研磨具3は、砥材として、剛性の砥石を備えていてもよい。図17は、研磨工具が備える別の研磨具の斜視図である。図17に示す研磨具3Bは、砥材として、軸線方向Xに延びる剛性の砥石2Bを備える。また、研磨具3Bは、砥石2Bを保持する砥材ホルダ11を備える。砥材ホルダ11は、図16に示す研磨具3Aの砥材ホルダ11と同一である。
【0101】
ここで、剛性の砥石2Bはヤング率が大きいので、砥石2B自体の撓みは発生しないと考えられる。また、砥材が砥石2Bの場合には、軸線方向Xの寸法に起因する切削能力の変動はないと考えられる。しかし、研磨工具1では、砥石2Bの前端面をワークWの加工対象面Sに接触させる必要がある。従って、砥石2Bは、砥材ホルダ11に片持ち状態で保持される。同様に、砥石2Bは、砥材ホルダ11を介して、研磨具ホルダ4に片持ち状態で保持される。よって、砥石2Bには、片持ち梁先端集中荷重の撓みが発生する。
【0102】
片持ち梁先端集中荷重により発生する撓みの撓み量は、軸線方向Xの長さ寸法の3乗に比例する。従って、軸線方向Xの寸法が長いほど撓み量が大きくなり、切削能力は低下しやすくなる。一方、摩耗量が大きくなって砥材の軸線方向の長さ寸法が短くなると、撓み量が小さくなるので、剛性が上昇して、切削能力が向上する。また、砥材が砥石2Bの場合には、負荷検出器23から出力される負荷は、研磨加工時に砥石2Bの前端面がワークWの加工対象面Sから垂直に押される反力である。このような反力は、砥石2Bの前端面がワークWの加工対象面Sと接触する接触面積に比例する。従って、接触面積が小さければ負荷は小さくなり、接触面積が大きければ、負荷は大きくなる。よって、砥材が剛性の砥石2Bである場合でも、砥材が線状砥材2の束である場合と同様に、本発明を適用できる。
【0103】
なお、剛性の砥石2Bは、弾性を備える砥材と比較して、軸線方向Xの寸法が長いほど、割れが発生しやすいという問題がある。このような問題に対して、砥石2Bの軸線方向Xの長さ寸法に基づいて、負荷閾値範囲を変更すれば、砥石2Bに割れが発生することを抑制することが可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17