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特許7625239側鎖結晶性ブロック共重合体を含む成形体、及びその製造方法
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  • 特許-側鎖結晶性ブロック共重合体を含む成形体、及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-24
(45)【発行日】2025-02-03
(54)【発明の名称】側鎖結晶性ブロック共重合体を含む成形体、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/21 20060101AFI20250127BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20250127BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20250127BHJP
   C08L 23/00 20060101ALN20250127BHJP
   C08L 25/00 20060101ALN20250127BHJP
   C08L 33/00 20060101ALN20250127BHJP
   C08L 67/00 20060101ALN20250127BHJP
【FI】
C08J3/21
C08L53/00
C08L101/00
C08L23/00
C08L25/00
C08L33/00
C08L67/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020100915
(22)【出願日】2020-06-10
(65)【公開番号】P2021195403
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(72)【発明者】
【氏名】八尾 滋
(72)【発明者】
【氏名】平井 翔
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-112924(JP,A)
【文献】特開2001-106746(JP,A)
【文献】国際公開第2019/156207(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/073692(WO,A1)
【文献】特開2000-313783(JP,A)
【文献】特開平11-100479(JP,A)
【文献】特開2007-261211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28;99/00
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と、側鎖結晶性ブロック共重合体とを混練した混練樹脂を溶融成形することで、成形体の表面層を改質する成形体の製造方法であり、
前記側鎖結晶性ブロック共重合体が、側鎖に炭素数8以上のアルキル基を有する構成単位の繰り返しである第1の重合ブロックと、機能性基を有する構成単位の繰り返しである第2の重合ブロックとを含み、
前記第1の重合ブロックが、炭素数8以上のアルキル基を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、α-オレフィン及び置換スチレンからなる群から選択されるいずれかのモノマー(A)の重合体であり、
前記第2のブロックが、アミノ基、アミド基、スルホ基、オキシアルキレン基、及びオキシラニル基からなる群から選択されるいずれかの基を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、α-オレフィン及び置換スチレンからなる群から選択されるいずれかのモノマー(B)の重合体であり、
前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、及びポリアクリル系樹脂からなる群から選択される1以上の樹脂であり、
前記混練樹脂における、前記側鎖結晶性ブロック共重合体の含有量(側鎖結晶性ブロック共重合体の質量/混練樹脂の質量)が、0.05~10.0質量%である成形体の製造方法。
【請求項2】
前記機能性基が、極性基及び/または金属吸着能を有する機能性基である請求項に記載の成形体の製造方法。
【請求項3】
熱可塑性樹脂と、側鎖結晶性ブロック共重合体とを含有し、
前記側鎖結晶性ブロック共重合体が選択的に偏在し配列した部分を有する表面層と、
前記表面層に接し、前記側鎖結晶性ブロック共重合体を含む部分を有する表面近傍層と、を有し、
前記側鎖結晶性ブロック共重合体が、側鎖に炭素数8以上のアルキル基を有する構成単位の繰り返しである第1の重合ブロックと、機能性基を有する構成単位の繰り返しである第2の重合ブロックとを含み、
前記第1の重合ブロックが、炭素数8以上のアルキル基を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、α-オレフィン及び置換スチレンからなる群から選択されるいずれかのモノマー(A)の重合体であり、
前記第2のブロックが、アミノ基、アミド基、スルホ基、オキシアルキレン基、及びオキシラニル基からなる群から選択されるいずれかの基を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、α-オレフィン及び置換スチレンからなる群から選択されるいずれかのモノマー(B)の重合体であり、
前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、及びポリアクリル系樹脂からなる群から選択される1以上の樹脂であり、
前記側鎖結晶性ブロック共重合体の含有量が、0.05~10.0質量%である成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側鎖結晶性ブロック共重合体を含む成形体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂など、多くの熱可塑性樹脂が、多様な用途に合わせて成形され、実用化されている。これらの樹脂の成形体は、それぞれの樹脂の性質により物性が異なる。これらの成形体には表面に接着性などの特定の物性を付与することが求められる場合がある。これらの樹脂の成形体の表面の改質には、プラズマ処理や、コロナ処理、フレーム処理、UV照射などにより、表面に接着性などを付与することが行われていた。しかし、このような処理には特殊な装置が必要となり、またその効果が短時間の限定的なものとなる場合があった。
【0003】
このような樹脂成形体の改質方法として、本発明者らは、側鎖に長鎖アルカン鎖を有するブロックと、様々な機能性を発現する機能性ブロックを有する側鎖結晶性ブロック共重合体(Side-Chain Crystalline Block Copolymer:SCCBC)を用いる改質などを提案してきた(特許文献1~3、非特許文献1)。
【0004】
例えば、特許文献1は、少なくとも一部がポリエチレンである基材と、前記ポリエチレンの表面を修飾するポリマーと、を備え、前記ポリマーは、炭素数10以上の長さのアルカン鎖を持つアクリレートである第1のモノマー、及び第3級アミンのアクリレートである第2のモノマーを含むモノマーのブロック共重合体、あるいは炭素数10以上の長さのアルカン鎖を持つ(メタ)アクリレートである第1のモノマー、及び炭素数4以上の-CF2-構造の側鎖を持つ(メタ)アクリレートである第2のモノマーを含むモノマーのブロック共重合体であることを特徴とする表面修飾材料に関する。ここでは、具体的には、表面修飾用組成物により、基材の表面を修飾する方法としては、例えば、ディップ法やコーティング法により、基材の表面に表面修飾用組成物を付着させ、その後、分散媒を除去する方法が開示されている。
【0005】
特許文献2は、第1のモノマー(A)由来の構造と、第2のモノマー(B)由来の構造とを有するポリエチレン改質用の共重合体であって、前記モノマー(A)が、その側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有するモノマーであり、前記モノマー(B)が、その側鎖に特定のフッ素化アルキル基を有するモノマーである共重合体を溶媒に溶解させた共重合体溶液を調製する工程と、前記共重合体溶液をポリエチレン系樹脂の成形品に接触させる工程と、前記成形品に接触させた前記共重合体溶液の溶媒を揮発させることで前記成形品の表層に前記共重合体層を形成させる工程と、を有するポリエチレン系樹脂の成形品の改質方法を開示している。
【0006】
特許文献3は、側鎖結晶性ブロック共重合体を含む共重合体溶液と、ポリプロピレン樹脂成形体とを、前記共重合体溶液の温度を40~120℃で接触させる工程を有するポリプロピレン樹脂成形体の改質方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6445258号公報
【文献】特開2018-030927号公報
【文献】特開2019-137779号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Journal of Adhesion Science and Technology, 2019, 33, 2567-2578.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1~3は、側鎖結晶性ブロック共重合体を溶媒に溶解・分散させた溶液・分散液を用いる手法が開示されている。これらにより、樹脂の成形体を改質することができるが、溶媒を用いた塗工あるいは浸漬を行う必要がある。
【0010】
溶媒を用いる場合、そのための塗工や浸漬する工程を行う必要があり、また溶媒の乾燥工程も必要となるが溶媒の使用が制限される環境や、製品等も考えられる。また、改質される部分も溶液・分散液が接触できる表面のみであった。製造条件の自由度向上等のために、改質された成形体を得ることができる新たな手法等も求められている。
【0011】
係る状況下、本発明の目的は、表面層や表面近傍層が改質された成形体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
【0013】
<1> 熱可塑性樹脂と、側鎖結晶性ブロック共重合体とを混練した混練樹脂を溶融成形することで、成形体の表面層を改質する成形体の製造方法。
<2> 前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、及びポリアクリル系樹脂からなる群から選択される1以上の樹脂であり、
前記混練樹脂における、前記側鎖結晶性ブロック共重合体の含有量(側鎖結晶性ブロック共重合体の質量/混練樹脂の質量)が、0.05~10.0質量%である前記<1>に記載の成形体の製造方法。
<3> 前記側鎖結晶性ブロック共重合体が、側鎖に炭素数8以上のアルキル基を有する構成単位の繰り返しである第1の重合ブロックと、機能性基を有する構成単位の繰り返しである第2の重合ブロックとを含む、前記<1>または<2>に記載の成形体の製造方法。
<4> 前記機能性基が、極性基及び/または金属吸着能を有する機能性基である前記<3>に記載の成形体の製造方法。
<5> 前記第1の重合ブロックが、炭素数8以上のアルキル基を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、α-オレフィン及び置換スチレンからなる群から選択されるいずれかのモノマー(A)の重合体であり、
前記第2のブロックが、アミノ基、アミド基、スルホ基、オキシアルキレン基、及びオキシラニル基からなる群から選択されるいずれかの基を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、α-オレフィン及び置換スチレンからなる群から選択されるいずれかのモノマー(B)の重合体である前記<3>または<4>に記載の成形体の製造方法。
<6> 熱可塑性樹脂と、側鎖結晶性ブロック共重合体とを含有し、
前記側鎖結晶性ブロック共重合体が選択的に偏在し配列した部分を有する表面層と、
前記表面層に接し、前記側鎖結晶性ブロック共重合体を含む部分を有する表面近傍層と、を有する成形体。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、表面層が改質された成形体が得られる。また、本発明の成形体は、表面層や表面近傍層が側鎖結晶性ブロック共重合体を含み、改質された物性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の成形体の原材料の製造に用いる成形装置の一例を示す図である。
図2】本発明の成形体の製造に用いる成形装置の他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値を含む表現として用いる。
【0017】
[本発明の成形体の製造方法]
本発明の成形体の製造方法は、熱可塑性樹脂と、側鎖結晶性ブロック共重合体とを混練した混練樹脂を溶融成形することで、成形体の表面層を改質する成形体の製造方法である。
本発明の成形体の製造方法によれば、表面層が改質された成形体が得られる。この製造方法は、溶媒等による処理を行う必要がなく、任意の形状に成形された成形体の表面層を改質したものとすることができる。
【0018】
[本発明の成形体]
本発明の成形体は、熱可塑性樹脂と、側鎖結晶性ブロック共重合体とを含有し、前記側鎖結晶性ブロック共重合体が選択的に偏在し配列した部分を有する表面層と、前記表面層に接し、前記側鎖結晶性ブロック共重合体を含む部分を有する表面近傍層と、を有する。
【0019】
本発明の成形体は本発明の成形体の製造方法により製造することができ、本願においてそれぞれに対応する構成は相互に利用することができる。
【0020】
本発明者らは、熱可塑性樹脂の表面層や表層近傍層の改質にあたり、側鎖結晶性ブロック共重合体の利用を検討した。熱可塑性樹脂は、射出成形や押出成形などで、溶融成形される。この溶融成形時の熱履歴は、高温での処理であり、耐熱性や加熱時の挙動などの考慮が必要であり混合できるものには制限があると考えられる。
【0021】
側鎖結晶性ブロック共重合体による、各種成形体の改質にあたっては、溶媒に溶解・分散した状態で用いられていた。このときの側鎖結晶性ブロック共重合体の使用量は表面に直接塗工等するもののため、比較的少量でよい。しかし、熱可塑性樹脂組成物の溶融混練等を伴う成形等に使用すると、均一に分散して表面に残存する量などを考慮すると相当多量に用いることが必要になるとも考えられる。一方で、多量の側鎖結晶性ブロック共重合体を混合すると、側鎖結晶性ブロック共重合体単独で自己凝集するミセル化が生じることも懸念される。ミセル化が生じると、成形体の内層等が主に寄与するような物性も大きく変わってしまい、当初の用途に適さなかったり、成形体を得られないことも考えられる。
【0022】
このようなことが想定されるところ、本発明者らは、熱可塑性樹脂に、比較的少量の側鎖結晶性ブロック共重合体を混合させて溶融成形を行った。すると、側鎖結晶性ブロック共重合体は、表面層や表面近傍層に選択的に偏在させることができ、内側層への影響は少なく、表面層や表面近傍層を改質できることを見出した。また、このとき、側鎖結晶性ブロック共重合体は完全に表面に析出するものではなく、構造の一部は熱可塑性樹脂と親和性が高いことから、成形体の内層に向けて配置されるアンカリングのような現象が生じると考えられ、安定した改質効果を奏すると考えられる。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0023】
[熱可塑性樹脂]
本発明における成形体は、熱可塑性樹脂を主たる成分として含む樹脂組成物の成形体である。熱可塑性樹脂は、加熱することで可塑性を示す樹脂である。熱可塑性樹脂は、射出成形や押出成形など加熱などにより流動性を有する状態として成形される任意の樹脂を用いることができる。樹脂組成物は、このような熱可塑性樹脂を主たる成分として含む組成物である。
【0024】
樹脂組成物において、熱可塑性樹脂は、50質量%以上含むものとすることができる。熱可塑性樹脂の種類や、成形体の用途、他の混合物等に応じて、樹脂組成物における熱可塑性樹脂が占める割合は、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上としてもよい。
【0025】
樹脂組成物における、熱可塑性樹脂以外の成分として、少なくとも側鎖結晶性ブロック共重合体が含まれる。また、これらの他にも、樹脂組成物を用いる成形体に含まれる各種成分を含むものとすることができる。
【0026】
熱可塑性樹脂は、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアクリル系樹脂などを用いることができる。特に、熱可塑性樹脂は、疎水性のものを対象とすることが好ましい。熱可塑性樹脂は複数種のものを含むものを用いてもよい。
【0027】
熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン系樹脂が特に好ましい。ポリオレフィン樹脂とは、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等のように、1位に二重結合をもつα-オレフィンの重合で得られる結晶性を有する高分子である。ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂や、ポリプロピレン系樹脂が挙げられる。ポリエチレンを主成分とするものをポリエチレン系樹脂、ポリプロピレンを主成分とするものをポリプロピレン系樹脂と呼ぶ場合がある。
【0028】
また、これらの熱可塑性樹脂は、リサイクル樹脂を用いてもよい。なお、リサイクル樹脂とは、バージン品のペレットから熱可塑性樹脂組成物を成形する工程で生じる廃棄物や不良品のようなプレコンシューマ品や、容器包装リサイクルプラスチック(いわゆる「容リプラ」)のような成形体として市場流通し、消費された後に廃棄される樹脂の総称である。このようなリサイクル樹脂の一例として、リサイクルポリオレフィン樹脂は、容器包装プラスチックから製造(再生)したポリエチレン樹脂またはポリプロピレン樹脂などが挙げられる。
【0029】
ポリエステル系樹脂は、多価カルボン酸と多価アルコールとを、脱水縮合してエステル結合を形成させることによって合成された重縮合体である。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)などが挙げられる。
【0030】
ポリスチレン系樹脂は、スチレン誘導体をモノマーとして重合されるポリマーである。
【0031】
ポリアクリル系樹脂は、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルをモノマーとして重合されるポリマーである。例えば、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)などが挙げられる。
【0032】
[側鎖結晶性ブロック共重合体]
側鎖結晶性ブロック共重合体は、側鎖に結晶性を示す構造を有する重合体と、改質効果を示す構造を有する重合体とのブロック共重合体であり、熱可塑性樹脂にこのブロック共重合体の一部が相互侵入した部位を形成することができる共重合体である。
【0033】
側鎖結晶性ブロック共重合体は、側鎖に炭素数8以上のアルキル基(アルカン鎖)を有する構成単位の繰り返しである第1の重合ブロックと、機能性基を有する構成単位の繰り返しである第2の重合ブロックとを含む。第1の重合ブロックは、モノマー(A)を重合したものとすることができ、第2の重合ブロックはモノマー(B)を重合したものとすることができ、これらの共重合体とすることができる。
【0034】
モノマー(A)が、その側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、α-オレフィン及び置換スチレンからなる群から選択されるいずれかのモノマーであることが好ましい。また、モノマー(B)が、機能性基を有するモノマーであることが好ましい。
また、モノマー(A)が重合した部分であるモノマー(A)由来重合ブロックと、モノマー(B)が重合した部分であるモノマー(B)由来の重合ブロックとを有するブロック共重合体とすることができる。
【0035】
側鎖結晶性ブロック共重合体において、モノマー(A)由来の構造を「ブロック(A)」とよび、モノマー(B)由来の構造を「ブロック(B)」とよぶ場合がある。
【0036】
なお、本願に用いる側鎖結晶性ブロック共重合体は、特許第6445258号公報や、特開2018-030927号公報、特開2019-137779号公報、特開2018-080329号公報などに開示された側鎖結晶性ブロック共重合体を参照したものを用いることができる。
【0037】
[モノマー(A)]
モノマー(A)は、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、α-オレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーが好ましい。このモノマー(A)を用いることで、側鎖結晶性ブロック共重合体は、モノマー(A)に由来する構成単位(A)を有する。
【0038】
なお、ここで、本願において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタアクリレートの両者を意味する。同様に、「(メタ)アクリルアミド」とは、アクリルアミド及びメタアクリルアミドの両者を意味する。
【0039】
[構成単位(A)]
側鎖のアルカン鎖が結晶性を示す構造となりやすく、熱可塑性樹脂と相互作用しやすくなるため、構成単位(A)は、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレートまたはα-オレフィンのモノマーに由来する構成単位であることが好ましい。
【0040】
構成単位(A)は、その側鎖に炭素数8以上のアルカン鎖を有するものである。このような構成単位(A)の側鎖の炭素数8以上のアルカン鎖としては、例えば、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基(ステアリル基)、ドコシル基(ベヘニル基)等が挙げられる。また、側鎖のアルカン鎖は、主鎖に直接結合してもよく、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、ベンゼン環等の連結基を介して主鎖と結合してもよい。
【0041】
結晶性を示しやすく、共重合体と熱可塑性樹脂との相互作用をより向上させることができるため、構成単位(A)は、炭素数12以上のアルカン鎖を有することが好ましく、16以上のアルカン鎖を有することがより好ましい。なお、このアルカン鎖は直鎖状のアルカン鎖であることが好ましい。
【0042】
一方、その上限は、製造時の溶媒への分散性や溶融成形時の分散性等を考慮し、熱可塑性樹脂の表面を改質することができる範囲で適宜設定することができる。具体的な上限としては、現実的には50以下が好ましく、40以下がより好ましく、30以下がさらに好ましい。アルカン鎖が大きすぎると共重合体として適当な立体構造がとれず熱可塑性樹脂への相互侵入性が低下したりする場合がある。また、側鎖結晶性ブロック共重合体を製造するための重合条件の設定が難しくなったりする場合がある。
【0043】
具体的には、ブロック(A)は、以下の一般式(A-1)または(A-2)で表されるいずれかであることが好ましい。
【0044】
【化1】
【0045】
一般式(A-1)及び(A-2)において、Ra1は、水素原子またはメチル基を表す。
【0046】
一般式(A-1)及び(A-2)において、Ra2は、炭素数8以上のアルカン鎖を表す。上記の通り、Ra2は直鎖状のアルカン鎖であることが好ましい。また、Ra2で表されるアルカン鎖の炭素数は、12以上が好ましく、16以上がより好ましい。また、その上限は、50以下や40以下、30以下、25以下などにすることができる。
【0047】
モノマーの入手のしやすさや、重合条件の制御のしやすさ、炭素数8以上のアルカン鎖同士の相互作用のしやすさなどの観点から、ブロック(A)は、一般式(A-1)であることがより好ましい。
【0048】
一般式(A-1)及び(A-2)において、nは2以上の整数である。nは、側鎖のアルカン鎖の長さや構成単位(A)及び構成単位(B)の配列、構成単位(B)の重合度等に応じて、熱可塑性樹脂の成形体の表面層などを改質することができる範囲で適宜決定される。側鎖結晶性ブロック共重合体がブロック共重合体である場合、nは、2~1,000であることが好ましく、5以上や、10以上とすることがより好ましい。5以上や、10以上とすることで、側鎖が結晶性を有するものとなりやすく、より安定して熱可塑性樹脂と溶融混練して成形体の表面層などを改質することができる。また、側鎖結晶性ブロック共重合体がブロック共重合体である場合、構成単位(A)及び構成単位(B)の効果が十分に得られる範囲で、nは、800以下や、500以下としてもよい。
【0049】
モノマー(A)を具体的に例示すると、ヘキサデシルアクリレート、ドデシルアクリレート(ラウリルアクリレート)、ドデシルメタクリレート(ラウリルメタクリレート)、オクタデシルアクリレート(ステアリルアクリレート)、オクタデシルメタクリレート(ステアリルメタクリレート)、ドコシルアクリレート(ベヘニルアクリレート)、ドコシルメタクリレート(ベヘニルメタクリレート)等が挙げられる。
【0050】
[モノマー(B)]
モノマー(B)が、機能性基を有するモノマーである。機能性基は、極性基を有するものとすることができる。
【0051】
モノマー(B)は、アミノ基、アミド基、スルホ基、オキシアルキレン基、及びオキシラニル基からなる群から選択されるいずれかを有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、α-オレフィン及び置換スチレンからなる群から選択されるいずれかのモノマーとすることができる。
【0052】
[構成単位(B)]
側鎖結晶性ブロック共重合体は、側鎖に機能性基を有する構造を有する構成単位(B)を有するものとすることができる。
【0053】
[機能性基]
ここで機能性基は、重合後の共重合体内に存在し、本発明の成形体で、成形体を改質する機能を奏する基である。機能性としては、例えば、親水性や、イオン伝導性、接着性、重金属担持性、有機溶媒親和性、染色性などが挙げられる。機能性基はこれらに対応する構造である。代表的な極性基としては、アミノ基(-NR2)、カルボキシ基(-COOH)、ヒロドキシ基(-OH)、カルボニル基(-C=O-)、エーテル基(-O-)、スルホ基(-SO3H)、エステル基(-COO-)、アミド基(-CONR2-)、オキシアルキレン基(-Cn2nO-)などが挙げられる。これらの機能性基は、(B)の主鎖中や主鎖となる部分に直接結合、または、連結基(エステル結合、アミド結合、エーテル結合、ベンゼン環等)を介して結合している。
【0054】
[極性基]
側鎖結晶性ブロック共重合体は、側鎖に極性基を有する構造を有する構成単位(B)を有するものとすることができる。ここで極性基は、電荷分布に大きな偏りがある基である。これらの極性基を有する構造がある共重合体を用いることで、改質された成形体が接着性向上や親水性向上、染色性向上などの効果が生じる。
【0055】
[金属吸着能]
側鎖結晶性ブロック共重合体は、側鎖に金属吸着能を奏する構造を持つ構成単位(B)を有するものとすることができる。ここで金属吸着能は、分子構造に極性基を有するために金属や金属イオンと吸着特性を示したり、金属や金属イオンと化学結合したり、錯形成しやすい分子構造が共重合体内に設けられ、その構造が成形体の表面に配置されることで金属や金属イオンが担持され吸着・保持される性質を奏することをいう。
【0056】
[構成単位(B)の基]
構成単位(B)は、アミノ基、アミド基、スルホ基、オキシアルキレン基、及びオキシラニル基からなる群から選択されるいずれか1以上の基を有することが好ましい。
【0057】
より好ましくは、これらの構造を側鎖に有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、α-オレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーに由来する構造である。
【0058】
[アミノ基]
モノマー(B)はアミノ基を有するものであってもよい。このアミノ基は、アミンとして重合後の側鎖結晶性ブロック共重合体の構造内に存在する。ここで、アミンとは、アンモニアの水素原子を炭化水素基で置換した化合物の総称である。置換した数が1つのものを第一級アミン、2つのものを第2級アミン、3つのものを第3級アミン、アルキル基が第3級アミンに結合したものを第4級アンモニウムイオンと呼ぶ。これらの各種アミンが、モノマー(B)由来の構造として側鎖結晶性ブロック共重合体に存在することで、親水性や、イオン伝導性、接着性、染色性、金属吸着能、重金属担持性、有機溶媒親和性などの機能を発揮することができる。また、このような各種アミンを有する共重合体を用いることで、成形体に対する優れたメッキ接着性を奏することができる。メッキ用等に用いるとき、特に第3級アミンを有するモノマーを用いることが好ましい。
【0059】
この前記モノマー(B)を具体的に例示すると、第2級または第3級アミンを有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、α-オレフィン及び置換スチレンからなる群から選択されるいずれかのモノマーが好ましいモノマーとして挙げられる。このモノマーは、アミンが共重合体の側鎖となり、親水性や、イオン伝導性、接着性、染色性、金属吸着能、重金属担持性、有機溶媒親和性等を発揮する。さらに、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、α-オレフィン及び置換スチレンからなる群から選択されるいずれかは、共重合体の主鎖を形成する。
【0060】
特に、これらの機能を発揮させるためには、モノマー(B)の側鎖に、第2級、第3級あるいは、第4級のアミンを有するモノマーを用いることが好ましい。第2級、第3級アミンは、より具体的には、「-N(R1)(R2)」で表される構造を持つ置換基であって、R1及びR2は、それぞれ独立に、H又は炭化水素である。この炭化水素における炭素数は、例えば、1~4とすることができる。
【0061】
モノマー(B)由来の構造は、ブロック(B)として側鎖結晶性ブロック共重合体の構造となる。モノマー(B)由来の構成単位(B)は、アミノ基を側鎖に有する構造が挙げられ、これによりアミン構造を側鎖に有するものとすることができる。例えば、一般式(Y)で表される置換基を側鎖に有するものとすることができる。また、一般式(Y)は、主鎖に直接結合してもよく、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、ベンゼン環、アルキレン鎖(アルキレン基)等の連結基を介して主鎖と結合してもよい。アルキレン鎖は、炭素数1~5程度や、炭素数1~3程度のものとしてもよい。
【0062】
【化2】
【0063】
一般式(Y)において、Ry1、Ry2はそれぞれ独立に、水素原子またはアルキル基、カルボキシアルキレン基である。なお、カルボキシアルキレン基とは、カルボキシ基とアルキレン基が結合した置換基であって、アルキレン基をRalkyleneで表すと、-Ralkylene-COOHで表される置換基である。
中でも、Ry1及びRy2は、水素原子または炭素数1~5の直鎖または分岐アルキル基、炭素数1~5のカルボキシアルキレン基であることが好ましい。アルキル基やカルボキシアルキレン基の炭素数は1~4としてもよい。Ry1及びRy2で表されるアルキル基またはアルキレン基の炭素数が大きくなると、金属と相互作用しにくい場合がある。
【0064】
また、これらの置換基が、適宜、炭素数1~5程度や、炭素数1~3程度のアルキレン鎖を介して、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、α-オレフィン及び置換スチレンのいずれかに結合したものを用いることができる。例えば、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(2-(Dimethylamino) ethyl Methacrylate、DMAEMA)、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート(2-(Dimethylamino) ethyl Acrylate、DMAEA)、2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート(2-(Diethylamino) ethyl Methacrylate、DEAEMA)、2-(ジエチルアミノ)エチルアクリレート(2-(Diethylamino) ethyl Acrylate、DEAEA)、2-(tert-ブチルアミノ)エチルメタクリレート(2-(tert-Butylamino) ethyl Methacrylate、TBAEMA)が挙げられる。
【0065】
[アミド基]
また、モノマー(B)はアミド基を有するものであってもよい。また、アミド基が、適宜、炭素数1~5程度や、炭素数1~3のアルキレン鎖を介して、または直接、主鎖となる構造と結合しているモノマー等を用いることができる。このモノマーを用いた共重合体により、熱可塑性樹脂の成形体に親水性や、イオン伝導性、接着性、染色性、金属吸着能、重金属担持性、有機溶媒親和性等を付与することができる。具体的な、アミド基を側鎖に有するモノマーとしては、N,N-ジメチルアクリルアミド(N、N-Dimethylacrylamide、DMAA)、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(N、N-Dimethylaminopropyl Acrylamide、DMAPAA)、及びN,N-ジエチルアクリルアミド(N、N-Diethylacrylamide、DEAA)などが挙げられる。
【0066】
[スルホ基]
モノマー(B)は、スルホ基を有するものであってもよい。また、スルホ基が、適宜、炭素数1~5程度や、炭素数1~3のアルキレン鎖を介して、または直接、主鎖となる構造と結合しているモノマー等を用いることができる。このモノマーを用いた共重合体により、熱可塑性樹脂の成形体に親水性や、プロトン伝導性、イオン伝導性、接着性、染色性、金属吸着能、重金属担持性、有機溶媒親和性等を付与することができる。スルホ基を有するモノマーとしては、例えば、ビニルスルホン酸や、2-(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸、ATBS(Acrylamide Tertiary Butyl Sulfonic Acid)、そのナトリウム塩であるATBSNaなどが挙げられる。
【0067】
[オキシアルキレン基]
モノマー(B)はオキシアルキレン基を有するものとすることができる。ここで、オキシアルキレン基とは、一般式(-Cn2nO-)で表される基である。この一般式において、nは1~10までの整数であることが好ましい。例えば、nが1のとき、オキシメチレン(-CH2O-)、nが2のときオキシエチレン(-CH2CH2O-)と呼ばれる。これらのオキシアルキレン基が複数つながることで、ポリオキシアルキレン基(一般式、(-Cn2nO)m-)と呼ばれる。代表的な直鎖状のポリオキシアルキレン基((-(CH2nO)m-)としては、ポリオキシエチレン((-CH2CH2O)m-)等が挙げられる。これらのオキシアルキレン基やポリオキシアルキレン基を主鎖や、側鎖として有するモノマーをモノマー(B)として用いて共重合体を作製し利用することで、熱可塑性樹脂の成形体に親水性や、Li等のイオン伝導性、接着性、染色性、金属吸着能、重金属担持性、有機溶媒親和性等を付与することができる。
【0068】
オキシアルキレン基を有するモノマー(B)として、その側鎖にオキシアルキレン基を有する(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、α-オレフィン及び置換スチレンからなる群から選択されるいずれかのモノマーが挙げられる。このモノマーを用いた共重合体により、熱可塑性樹脂の成形体に親水性や、イオン伝導性、接着性、染色性、金属吸着能、重金属担持性、有機溶媒親和性等を付与することができる。また、このような共重合体を用いることで、樹脂成形体に対する優れたメッキ接着性を奏することができる。
【0069】
オキシアルキレン基を側鎖に有する構成単位(B)としては、例えば、一般式(X)で表される置換基を側鎖に有するものとすることができる。また、一般式(X)は、主鎖に直接結合してもよく、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、ベンゼン環、アルキレン鎖等の連結基を介して主鎖と結合してもよい。
【0070】
【化3】
【0071】
一般式(X)において、Rx1は水素原子またはアルキル基であり、pは1以上の整数であり、qは1以上の整数である。
x1で表されるアルキル基は、直鎖であっても分岐していてもよいが、直鎖であることが好ましい。また、アルキル基の炭素数が大きくなると、熱可塑性樹脂の成形体との相互作用が強くなり金属吸着能を十分に発揮できなかったり、金属触媒と相互作用しにくくなる場合がある。そのため、Rx1は水素原子または炭素数1~5のアルキル基であることが好ましく、水素原子、メチル基またはエチル基であることがより好ましい。
【0072】
pは1~10が好ましい。また、キレート効果により金属と相互作用しやすくなるため、qは2~10が好ましい。
【0073】
オキシアルキレン基を有するモノマーとしては、ジ(エチレングリコール)エチルエーテルアクリレート(CH2=CH(CO)O(CH2―CH2―O―)225)、ポリエチレングリコール-モノアクリレート(CH2=CH(CO)O(CH2―CH2―O―)nH)(n=2~10)、メトキシ-ポリエチレングリコール-アクリレート(CH2=CH(CO)O(CH2―CH2-O-)nCH3)(n=2~9)などが挙げられる。また、ポリ(エチレングリコール)モノアクリレート(Poly(ethylene glycol) monoacrylate(PGMA))等のポリオキシアルキレン構造を側鎖に有するモノマーも挙げられる。
【0074】
[オキシラニル基]
モノマー(B)は、オキシラニル基を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、α-オレフィン及び置換スチレンからなる群から選択されるいずれかのモノマーとすることができる。モノマー(B)としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等が挙げられる。
【0075】
これらのモノマーを用いて得られる共重合体は、側鎖にオキシラニル基を有するものとなる。この側鎖のオキシラニル基を反応性基として、イミノ二酢酸等の第3級アミンを有する化合物を反応させると、側鎖に、イミノ二酢酸由来の第3級アミンの構造を有するものとなり、金属吸着能を奏するものとなる。
【0076】
[キレート構造]
構成単位(B)は、キレート構造を側鎖に有することができる。キレート構造を有する構造としては、イミノ二酢酸(IDA)基、低分子ポリアミノ基、アミノリン酸基、イソチオニウム基、ジチオカルバミン酸基、グルカミン基、オキシアルキレン構造等の種々の構造を有するものとすることができる。
【0077】
[一般式(B-1)~(B-4)]
具体的には、ブロック(B)は、以下の一般式(B-1)~(B-4)で表される構造が挙げられる。これらは順に、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステルを有する構造である。
【0078】
【化4】
【0079】
一般式(B-1)~(B-4)において、Rb1は、水素原子またはメチル基を表す。また、RLは、単結合またはアルキレン鎖を表し、単結合または炭素数1~4のアルキレン鎖であることが好ましい。また、アルキレン鎖は、アルコキシ基やヒドロキシ基、ヒドロキシアルキル基等の置換基を有してもよいが、Rb2の自由度が高くなり、金属と相互作用しやすい立体配置を取りやすくなり金属との親和性が向上するため、無置換のアルキレン鎖が好ましい。
【0080】
一般式(B-1)~(B-4)において、Rb2は、水素原子、アルキレン鎖、ヒドロキシ基、アミノ基、スルホ基、オキシラニル基、及び一般式(X)で表される置換基からなる群から選択されるいずれかを表す。なお、一般式(X)で表される置換基は、上記の通りである。
金属と相互作用しやすく、メッキ層の接着性がより優れたものとなるため、Rb2は、アミノ基または一般式(X)で表される置換基であることが好ましい。アミノ基としては、無置換のアミノ基(-NH2)であっても、アルキル基等が置換したアミノ基であってもよいが、上記一般式(Y)で表される構造がより好ましい。
【0081】
一般式(B-2)において、Rb3は、水素原子またはアルキル基を表し、水素原子または炭素数1~5のアルキル基が好ましく、水素原子または炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。
【0082】
[一般式(B-5)~(B-7)]
また、ブロック(B)は、下記一般式(B-5)~(B-7)の構造とすることができる。これらは順に、シロキサン、α-オレフィン、置換スチレンを有する構造である。
【0083】
【化5】
【0084】
一般式(B-5)~(B-7)において、Rb1は、水素原子またはメチル基を表す。また、RLは、単結合またはアルキレン鎖を表し、単結合または炭素数1~4のアルキレン鎖であることが好ましい。また、アルキレン鎖は、アルコキシ基やヒドロキシ基、ヒドロキシアルキル基等の置換基を有してもよいが、無置換のアルキレン鎖が好ましい。
【0085】
b4は、ヒドロキシ基、アミノ基、スルホ基、オキシラニル基、及び一般式(X)で表される置換基からなる群から選択されるいずれかを表す。なお、一般式(X)で表される置換基は、上記の通りである。
【0086】
例えば、メッキに用いる場合、金属と相互作用しやすく、メッキとの接着性がより優れたものとなるため、Rb4は、アミノ基または一般式(X)で表される置換基であることが好ましい。アミノ基としては、無置換のアミノ基(-NH2)であっても、アルキル基等が置換したアミノ基であってもよいが、上記一般式(Y)で表される構造がより好ましい。
【0087】
一般式(B-1)~(B-7)において、mは2以上の整数である。mは、金属吸着能を有する基の構造や構成単位(A)及び構成単位(B)の配列、構成単位(B)の重合度等に応じて適宜決定される。
【0088】
側鎖結晶性ブロック共重合体は、mは2~1,000であることが好ましい。より安定した改質効果を発揮し、熱可塑性樹脂の成形体の表面に金属吸着能を付与するためには、mは、2以上が好ましく、5以上や、10以上とすることがより好ましい。また、mは、構成単位(A)及び構成単位(B)の効果が十分に得られる範囲で、800以下や、500以下としてもよい。
【0089】
[共重合体]
側鎖結晶性ブロック共重合体は、構成単位(A)と、構成単位(B)とを含む共重合体である。側鎖結晶性ブロック共重合体は、本発明の目的を損なわない範囲でさらにその他の構成単位を含んでいてもよい。例えば、後述するように、構成単位(B)が、その前駆体ポリマーの側鎖に金属吸着性部位を導入することで得られるものであるとき、側鎖結晶性ブロック共重合体は、共重合体(A)と共重合体(B)に加えて、構成単位(B)の前駆体モノマーに由来する構造を含みうる。
【0090】
また、側鎖結晶性ブロック共重合体は、構成単位(A)及び構成単位(B)を主成分として含むものであり、構成単位(A)と構成単位(B)との合計の割合が、側鎖結晶性ブロック共重合体中、80質量%以上が好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0091】
好ましい側鎖結晶性ブロック共重合体のひとつは、一般式(A-1)または(A-2)で表されるブロック(A)と、一般式(B-1)で表されるブロック(B)とを含む共重合体であり、より好ましくは、一般式(A-1)で表されるブロック(A)と、一般式(B-1)で表されるブロック(B)とを含む共重合体である。
【0092】
また、側鎖結晶性ブロック共重合体は、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、トリブロック共重合体等のいずれであってもよいが、好ましくは、ブロック共重合体である。ブロック共重合体とすることで、ブロック(A)からなる構造ユニットと、ブロック(B)からなる構造ユニットとのそれぞれの機能が十分に発揮されやすくなる。
【0093】
側鎖結晶性ブロック共重合体において、ブロック(A)に対応する分子量と、ブロック(B)に対応する分子量とは、それぞれ1000以上であることが好ましい。ブロック(A)に対応する分子量が1000以上であることで、基材となる熱可塑性樹脂の成形体に、より強固に接着することができる。ブロック(A)に対応する分子量は、1,500以上であることが好ましく、2,000以上であることがより好ましい。
【0094】
また、ブロック(B)に対応する分子量が1000以上であることで、より金属吸着能に優れた共重合体とすることができる。ブロック(B)に対応する分子量は、1,500以上であることが好ましく、2,000以上であることがより好ましい。
【0095】
なお、これらの分子量は、GPCにより得られる結果から、ポリスチレン換算で求めることができる値「Mw:重量平均分子量」である。また、共重合体が溶媒に溶けにくく重量平均分子量を測定しにくい場合がある。そのような場合には、元素分析、IR、NMRなどの手法により各々の重量平均分子量を算出することができる。
【0096】
側鎖結晶性ブロック共重合体の一例として、下記化学式(I)で表されるポリマーが挙げられる。これは、モノマー(A)として、ベヘニルアクリレート(BHA:側鎖が、炭素数22の直鎖状のアルキル基である。)を重合させ、その後、モノマー(B)としてメタクリル酸2-(tert-ブチルアミノ)エチル(2-(tert-Butylamino)ethyl Methacrylate:TBAEMA)を用いて共重合させたブロック共重合体である。これは、いわゆるAB型のブロック共重合体である。この共重合体は、BHA由来の構造により熱可塑性樹脂の成形体への接着性を示すブロック共重合体部を有し、一方で、TBAEMA由来のアミン構造により、熱可塑性樹脂の成形体(被処理物)に金属吸着能を付与することができる。
【0097】
また、側鎖結晶性ブロック共重合体の例として、化学式(II)、(III)、(IV)のポリマーなども挙げられる。これらは、モノマー(A)としてステアリルアクリレート(STA)を用いている。また、モノマー(B)として、TBAEMA、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアクリレート(DEEA)、アクリル酸(AA)を用いている。
【0098】
【化6】
【0099】
【化7】
【0100】
[重合方法]
側鎖結晶性ブロック共重合体の重合方法は、特に限定されず、各種リビング重合法(ラジカル、アニオン、カチオン)等の公知の技術により重合することが可能である。リビングラジカル重合法としては、NMP法やATRP法、RAFT法などを用いることができる。また、上記のように、側鎖結晶性ブロック共重合体はブロック共重合体であることが好ましく、ブロック共重合体となるように製造することが好ましい。
【0101】
例えば、その側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、α-オレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかであるモノマー(A)と、側鎖に金属吸着能を有する構造を有するモノマー(B1)とを重合させて得ることができる。
【0102】
具体的には、モノマー(A)を重合溶媒に開始剤と共に混合して、モノマー(A)混合溶液を調製するモノマー(A)混合溶液調製工程を行う。次に、この混合溶液調製工程で調製されたモノマー(A)混合溶液を、適当な重合温度(例えば約90~120℃)で、リアクター内で適宜撹拌しながら、窒素雰囲気等の下でリビングラジカル重合等の開始剤の重合機構に基づくモノマー(A)重合工程を行い、モノマー(A)ブロック重合体を得る。
【0103】
さらに、このモノマー(A)ブロック重合体を混合させている溶液に、側鎖に金属吸着能を有する構造を有するモノマー(B1)(例えば、アミノ基を有する、(メタ)アクリレート)を混合して、溶液中のラジカル等によってさらにモノマー(B1)を重合させるモノマー(B1)重合工程を行う。これにより、モノマー(A)由来ブロックとモノマー(B1)由来ブロックを有するブロック共重合体を得ることができる。モノマー(A)とモノマー(B1)との重合を行う順序は、重合させようとするモノマー種や重量平均分子量、それぞれの重合条件等に応じて変更することもできる。
【0104】
[前駆体ポリマーの利用]
また、モノマー(A)と、その側鎖にオキシラニル基等の反応性基を有するモノマー(B2)(構成単位(B)の前駆体モノマー)とを重合させて、前駆体ポリマーを合成した後、アミノ基等と反応させて得ることができる。
【0105】
具体的には、上記と同様に、モノマー(A)を重合溶媒に開始剤と共に混合して、適当な重合温度(例えば約90~120℃)で、リアクター内で適宜撹拌しながら、窒素雰囲気等の下でリビングラジカル重合等の開始剤の重合機構に基づくモノマー(A)重合工程を行い、モノマー(A)ブロック重合体を得る。
【0106】
このモノマー(A)ブロック重合体を混合させている溶液に、オキシラニル基を有するモノマー(B2)(例えば、オキシラニル基を有する、(メタ)アクリレート)を混合して、溶液中のラジカル等によってさらにモノマー(B2)を重合させるモノマー(B2)重合工程を行う。これにより、モノマー(A)由来ブロックとモノマー(B2)由来ブロックを有する前駆体ポリマーが混合した溶液が得られる。次いで、この前駆体ポリマーにイミノ二酢酸を反応させると、オキシラニル基とイミノ二酢酸とが反応し、イミノ二酢酸由来のアミンの構造を有するものとなり、モノマー(B2)由来ブロックの側鎖に金属吸着能を有する共重合体となる。
【0107】
その他の構成単位を含むときには、モノマー(C)として、モノマー(A)及びモノマー(B)と重合させてもよい。
【0108】
このように合成された側鎖結晶性ブロック共重合体は、適宜、加熱や噴霧乾燥等して、ペースト状や粉体状などに、濃縮や乾燥等した状態で用いることができる。
【0109】
本発明の成形体の製造方法は、混練した混練樹脂を成形体に溶融成形することで、成形体の表面層や表面近傍層を改質する。
【0110】
[混練樹脂]
熱可塑性樹脂と、側鎖結晶性ブロック共重合体とを含む混練樹脂は、任意の方法で混練樹脂とすることができる。混練樹脂は、熱可塑性樹脂と側鎖結晶性ブロック共重合体を、予め溶融混練機で混練して、塊状としたものを適宜破砕等して得たものをマスターバッチとして利用してもよい。
【0111】
なお、このマスターバッチは、改質された成形体におけるものよりも側鎖結晶性ブロック共重合体の濃度が高いものとして、側鎖結晶性ブロック共重合体の取り扱いを行いやすいものとしてもよい。例えば、マスターバッチの樹脂において側鎖結晶性ブロック共重合体の濃度は、5~80質量%や10~80質量%、30~80質量%、40~80質量%などとすることができる。このようなマスターバッチと熱可塑性樹脂を乾燥状態で混合して、本発明の成形体を製造するときの側鎖結晶性ブロック共重合体の濃度を管理してもよい。
【0112】
また、乾燥状態で各成分を分散するように混合して成形機のホッパーに原料として投入することで成形機の溶融混練部で混練樹脂としてもよい。また、予め混合したものをペレッター等で混練してペレット化したペレットをさらなる成形の原料としてもよい。
【0113】
[比率]
混練樹脂における、側鎖結晶性ブロック共重合体の含有量(側鎖結晶性ブロック共重合体の質量/混練樹脂の質量)が、0.05~10.0質量%であることが好ましい。このような含有量の範囲内とすることで、側鎖結晶性ブロック共重合体により表層に改質効果が得られた成形体を効率よく得ることができる。
【0114】
混練樹脂における、側鎖結晶性ブロック共重合体の含有量が10.0質量%を超える場合、成形体表面の改質効果が飽和する可能性がある。また、側鎖結晶性ブロック共重合体が多いことから、自己凝集するミセル化が発生して、側鎖結晶性ブロック共重合体が内層に塊をつくったり、表層に現れても斑状となる恐れがある。混練樹脂における、側鎖結晶性ブロック共重合体の含有量は、7.0質量%以下がより好ましく、6.0質量%以下や、5.0質量%以下、4.0質量%以下、3.5質量%以下、3.0質量%以下としてもよい。
【0115】
側鎖結晶性ブロック共重合体の含有量が0.05質量%未満の場合、改質効果が得られない場合がある。この含有量は、0.08質量%以上がより好ましく、0.10質量%以上や、0.15質量%以上、0.2質量%以上、0.3質量%以上としてもよい。
【0116】
[ペレット成形機10]
図1はペレット化するためのペレット成形機の一例を示すものである。また、図2はフィルム化するためのフィルム成形機の一例を示すものである。これらの成形機は、本発明の製造方法に適している。
【0117】
図1のペレット成形機10は、供給口11と、供給口12と、溶融混練部2と、吐出部3と、ペレタイザー4を有する。このペレット成形機10により、樹脂組成物を溶融してペレット状に成形することができる。得られたペレット61は、フレキシブルコンテナバッグ等のコンテナ5に収集される。以下さらに詳しくペレット成形機10を説明する。
【0118】
[供給口11、12]
供給口11、12は、ホッパー状の供給口である。この供給口11、12の上部から塊状や粉状、ペレット状などの熱可塑性樹脂組成物が供給され、溶融混練部2へと移送される。供給口11、12はそれぞれ異なる原料を投入することができる。例えば、供給口11に熱可塑性樹脂を投入し、供給口12に側鎖結晶性ブロック共重合体を投入することができる。
【0119】
[溶融混練部2]
溶融混練部2は、供給口11、12から供給された熱可塑性樹脂組成物を溶融混練する。この溶融混練部2は、熱可塑性樹脂組成物の溶融温度に加熱されており、モーターMにより、シリンダ21に連結されたスクリュー22を回転させることで熱可塑性樹脂組成物が押し出される。また、この配管とスクリューとの間等を通るとき、熱可塑性樹脂組成物にせん断応力がかかり、熱可塑性樹脂組成物は混練される。
【0120】
[吐出部3]
吐出部3は、溶融混練された後の熱可塑性樹脂組成物をストランド状に吐出する。ペレタイザー4は、吐出部3より吐出されたストランド状の熱可塑性樹脂組成物を細断しペレット化する。なお、本発明の成形機は、吐出部から吐出後、直ちに細断するホットカットやアンダーウォーターカットなどによりペレット化してもよく、ストランド状には、短い状態のものも含む。本発明の成形機は、このような吐出部から吐出された熱可塑性樹脂組成物を細断しペレット化する細断部を有する成形機としてもよい。
【0121】
このペレット成形機10により熱可塑性樹脂組成物をペレット化することで得られる樹脂ペレットはマスターバッチとすることができ、これを成形体を製造するときの原料として用いることもできる。
【0122】
[成形温度]
本発明の成形体の成形温度は、主たる成分となる熱可塑性樹脂の標準的な成形温度で行うことができる。この温度は射出成形機のスクリュー部の設定温度等で管理することができる。
【0123】
図2の成形機101は、図1の成形機10のペレタイザー4に代えて、吐出部3の後、フィルム成形用のTダイ51を取り付けたものである。また、供給口11,供給口12に代えて、供給口1のみとしたものである。そして、Tダイ51から吐出された樹脂組成物は、ローラー52に吐出されて、適宜延伸ローラー(図示省略)などで延伸等されながらフィルム62に成形され巻取り用ローラー53に巻き取られる。
【0124】
[成形体]
本発明の成形体は、熱可塑性樹脂と、側鎖結晶性ブロック共重合体とを含有する。これらの樹脂組成物を用いて成形される成形体の形状としては、特に限定されず、例えば、シート、板、糸、フィラメント、繊維、多孔質材料、各種部材、構造体などの成形体が挙げられる。
【0125】
本発明の成形体は、表面層に側鎖結晶性ブロック共重合体が選択的に偏在し配列している配列層と、配列層に接する表面近傍層に側鎖結晶性ブロック共重合体を含む分散層と、を有する。これらの表面層や、表面近傍層の側鎖結晶性ブロック共重合体は、厚さ方向の各部分についてIRにより側鎖結晶性ブロック共重合体の有無やその程度を同定することで確認してもよい。または、表面を洗浄したとき、表面近傍層が存在することで改質された物性を一定程度維持することで確認してもよい。表面層は、成形体の外部に直接露出している層である。表面近傍層は、この表面層の内側で表面層の近くの層である。
【実施例
【0126】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0127】
[評価項目]
[IRスペクトル]
Perkin Elmer社製フーリエ変換赤外分光分析装置「Spectrum two(登録商標)」を用いて、測定した。
【0128】
[引張せん断試験(接着性)]
JIS K6850(1999)に準じて、引張せん断試験を行い、接着性を評価した。接着剤は、シアノアクリレート系接着剤(製品名:アロンアルファ 201、東亞合成社製)を用いた。試験装置は、SHIMADZU製の小型卓上試験機EZ-LXを用いた。試験片は25mm幅、長さ100mmとし、接着長さを12.5mmとした。
試験片の両端を測定装置の把持具に把持させて10mm/minで離隔する方向に引っ張り、接着力を測定した。
試験を3回行い、全測定範囲の最大荷重の平均値を求めた(表中で「最大荷重 (破断力 N)」と表記)。
【0129】
[原料]
・HDPE:旭化成株式会社「サンテック(登録商標) F184」
・LDPE:宇部丸善ポリエチレン株式会社「UBEポリエチレン F522N」
・L-LDPE:旭化成株式会社「ユメリット(登録商標) 3540N」
・PP:株式会社プライムポリマー「プライムポリプロ(登録商標) J137G」
・ブロックPP:株式会社プライムポリマー「プライムポリプロ(登録商標) B-150」
【0130】
[モノマー(A)]
・モノマー(A-1-1):BHA ベヘニルアクリレートを用いた。このモノマーは、炭素数22のアルキル基を側鎖に有するモノマーである。
【0131】
[モノマー(B)]
・モノマー(B-1-1):TBAEMA メタクリル酸2-(tert-ブチルアミノ)エチル(2-(tert-Butylamino)ethyl methacrylate:TBAEMA)を用いた。このモノマーは、側鎖に第2級アミノ基を有し、メタクリレート構造が主鎖となるモノマーである。
【0132】
[重合開始剤] BlocBuilder(登録商標) MA(アルケマ社製)
[溶媒] 酢酸ブチル
【0133】
[1]ブロック共重合体の製造
(1-1)ブロック共重合体(BHA-TBAEMA)の製造
セパラブルフラスコに、酢酸ブチル5.0質量部、ベヘニルアクリレート(BHA)5.0質量部を入れて、酢酸ブチルとBHAを混合した後、脱気、窒素置換をした。窒素雰囲気下で、酢酸ブチルとBHAの混合液を撹拌し、BHAを酢酸ブチルに溶解させた後、開始剤(Blocbuilder MA)0.38質量部を加えた。窒素雰囲気下、110℃で24時間、BHAを重合させて、BHA重合体の溶液を得た。
BHA重合体の溶液に2-(tert-ブチルアミノ)エチルメタクリレート(TBAEMA)5.0質量部と酢酸ブチル5.0質量部を加えて、さらに窒素雰囲気下、110℃で24時間重合を行った。メタノールを加えて再沈殿し乾燥することで、BHAとTBAEMAのブロック共重合体(BHA-TBAEMA)を得た。
【0134】
得られたBHA-TBAEMAの構造式を以下に一般式(I)として示す。(1-1)で得られたブロック共重合体(BHA-TBAEMA)は、Mwが、10,000であった。
【0135】
【化8】
【0136】
[混練条件]
熱可塑性樹脂と、側鎖結晶性ブロック共重合体を秤量して、乾燥状態で混合した。
・混練機:東洋精機製作所社製「ラボプラストミル 4C150」を用いて、予備混練を行い、マスターバッチを作成した。
PE(HDPE、LDPE、L-LDPE)は、180℃、30rpm、3分で混練を行った。
PP(ブロックPP)は、210℃、30rpm、3分で混練を行った。
【0137】
[ポリエチレン(PE)の製膜条件]
・製膜条件(A):予備混練を行って得られた塊状の混練組成物を、プレス成形機を用いて厚み500μmのスペーサー内に配置し、プレス温度180℃、プレス圧力25MPa、加熱時間2分でプレス成形することでフィルム状の成形体を得た。
・製膜条件(B):製膜条件(A)で製膜したフィルムから、接着試験片を採取した後の残部を回収したものを混練組成物として、製膜条件(A)に準じて製膜した。
・製膜条件(C):熱可塑性樹脂と側鎖結晶性ブロック共重合体を秤量して、直接乾燥状態で混合したものをそのまま用いて、プレス成形機を用いて厚み500μmのスペーサー内に配置し、180℃でプレス成形することでプレス成形機のスペーサー中で溶融混練させて成形し、フィルム状の成形体を得た。
【0138】
[ポリエチレン(PP)の製膜条件]
前述のポリエチレンの製膜条件のプレス温度180℃を、210℃に変更した以外は、同様の条件で製膜を行った。
【0139】
熱可塑性樹脂や側鎖結晶性ブロック共重合体(SCCBC)の種類や濃度等、製膜条件を設定変更しながら行った試験例等について、その条件と評価結果を表1~3に示す。
【0140】
[試験例A1~A14、比較例1について(表1)]
表1は、HDPEを用いた試験に関する。HDPEを用いたとき、再プレス(製膜条件(B))と、混練(製膜条件(A))では0.1wt%以上で接着力の向上が認められた。一方、5wt%以上では接着力の低下が認められた。5wt%では再プレスすることにより接着力が向上したが、10wt%では再プレス後も接着力改質効果は低かった。
【0141】
【表1】
【0142】
[試験例B1~B14について(表2)]
表2は、PPを用いた試験に関する。PPを用いたとき、SCCBCが1.0wt%以上でより接着力の向上が認められた。一方、10wt%以上では接着力が低下し始める傾向が認められる。
【0143】
【表2】
【0144】
[試験例C1~C6について(表3)]
表3は、各種熱可塑性樹脂を用いた評価結果である。LDPE,L-LDPE,ブロックPPはいずれも接着面で剥離するよりも先に基板が伸びたり、破壊したりと強固な接着性を有していた。
【0145】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明により得られる熱可塑性樹脂組成物の成形体は、従来の熱可塑性樹脂組成物の物性を改質したものとして種々の用途に利用することができ、産業上有用である。
【符号の説明】
【0147】
1、11、12 供給口
10、101 成形機
2 溶融混練部
21 シリンダ
22 スクリュー
3 吐出部
4 ペレタイザー
5 コンテナ
51 Tダイ
52 ローラー
53 巻取り用ローラー
61 ペレット
62 フィルム
図1
図2