(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-24
(45)【発行日】2025-02-03
(54)【発明の名称】前立腺特異的膜抗原に結合するキメラ抗原受容体
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20250127BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20250127BHJP
C07K 16/40 20060101ALI20250127BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20250127BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20250127BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20250127BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20250127BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250127BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20250127BHJP
【FI】
C07K19/00
C07K16/18
C07K16/40
C12N15/13 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N5/10
A61P35/00
A61K39/395 T
(21)【出願番号】P 2022537320
(86)(22)【出願日】2020-12-14
(86)【国際出願番号】 EP2020086003
(87)【国際公開番号】W WO2021130042
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-09-01
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520343870
【氏名又は名称】アルベルト-ルートヴィヒ-ウニヴェルズィテート フライブルク
(74)【代理人】
【識別番号】110003007
【氏名又は名称】弁理士法人謝国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】トニー カトメン
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ ウルフ
(72)【発明者】
【氏名】ジャマール アルズビ
(72)【発明者】
【氏名】スザンヌ シュルツ-ゼーマン
(72)【発明者】
【氏名】イリーナ ココク
【審査官】坂井田 京
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/178078(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/037836(WO,A2)
【文献】国際公開第2018/111340(WO,A1)
【文献】特表2008-541711(JP,A)
【文献】Zhong XS. et al.,Chimeric antigen receptors combining 4-1BB and CD28 signaling domains augment PI3kinase/AKT/Bcl-XL activation and CD8+ T cell-mediated tumor eradication,Molecular therapy,2010年,18(2),413-420
【文献】Santoro SP. et al.,T cells bearing a chimeric antigen receptor against prostate-specific membrane antigen mediate vascular disruption and result in tumor regression,Cancer immunology research,2015年,3(1),68-84
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 16/00-16/46
C07K 19/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PSMA抗原に特異的に結合する抗原結合断片を含むキメラ抗原受容体であって、PSMAに対する抗原受容体が、ヒト化され、かつ配列番号:1及び配列番号:5を有する一本鎖可変断片A5、膜貫通ドメイン、及び細胞内シグナル伝達ドメインを含み、GFTFSDYY、ISDGGYYT、TRGFPLLRHGAMDYWG、QNVDTN、SAS、及びQQYDSYPYTのアミノ酸配列を有する6つのCDRを含有することを特徴とする、キメラ抗原受容体。
【請求項2】
前記膜貫通ドメインは、CD3ζ細胞質ドメインであり、及び前記細胞内シグナル伝達ドメインは、CD28及び/または4-1BB細胞質ドメインである、請求項1に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項3】
配列番号:16、配列番号:18、配列番号:20、配列番号:22、配列番号:24、配列番号:26、配列番号:28、配列番号:30、配列番号:32、配列番号:34、及び配列番号:36から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項4】
前記キメラ抗原受容体をコードする核酸を含有することを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体をコードする核酸。
【請求項5】
請求項4に記載のキメラ抗原受容体をコードする核酸を含有することを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体をコードするベクター。
【請求項6】
配列番号:37または配列番号:38またはそれらと少なくとも95%同一である配列を含むことを特徴とする、請求項5に記載のベクター。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体を含む免疫細胞を提供するin vitro方法であって、
白血球除去法によ
りドナーから単離された免疫細胞を、キメラ抗原受容体をコードする請求項5に記載のベクターで遺伝子導入/形質導入すること;
遺伝子導入/形質導入された免疫細胞を単離及び増幅すること
を含む、in vitro方法。
【請求項8】
前記免疫細胞は、T細胞である、請求項7に記載のin vitro方法。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体をコードする遺伝子情報を含有することを特徴とする、免疫細胞。
【請求項10】
前記免疫細胞は、T細胞である、請求項9に記載の免疫細胞。
【請求項11】
前立腺癌及び/または前立腺由来腫瘍の治療における使用のための、請求項1~3のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体、または請求項4に記載の核酸、あるいは請求項5または6に記載のベクター。
【請求項12】
PSMAを発現する固形腫瘍の治療に使用するための、請求項1~3のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体及び/または請求項4に記載の核酸及び/または請求項5または6に記載のベクターであって、抗腫瘍活性を有する薬剤が、該固形腫瘍に導入される、キメラ抗原受容体及び/または核酸及び/またはベクター。
【請求項13】
タキソール誘導体、5-フルオロウラシル、シクロホスファミド、ミトキサントロン、ドセタキセル、及び/またはカバジタキセルから選択される化学療法活性剤の投与、及び/またはタンパク質、抗体、ワクチン、血液、血液成分、アレルギー誘発物質、組換え治療用タンパク質、遺伝子治療剤、体細胞、組織、または細胞治療剤を含む生物的薬剤の投与と組み合わされることを特徴とする、請求項11または12に記載の使用のための
、請求項1~3のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項14】
タキソール誘導体、5-フルオロウラシル、シクロホスファミド、ミトキサントロン、ドセタキセル、及び/またはカバジタキセルから選択される化学療法活性剤の投与、及び/またはプロテインキナーゼ阻害剤、酵素阻害剤、または抗ゲノム治療剤を含む生物的薬剤の投与と組み合わされることを特徴とする、請求項11または12に記載の使用のための
、請求項1~3のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍抗原に結合するキメラ抗原受容体に関し、該抗原は前立腺特異的膜抗原(PSMA)である。該キメラ抗原受容体(以下CARという)は、免疫細胞、特にT細胞、NK細胞、iNKT細胞、及びCIK細胞に導入され、PSMAを発現する腫瘍細胞と特異的に反応し、腫瘍細胞の排除につながる。本発明の構築物は、2つの主要な部分を含む:一つは、前立腺特異的膜抗原(PSMA)に特異的に結合する抗原結合領域であり、もう一つは、免疫細胞のシグナル伝達と活性化に関与する免疫細胞の受容体に由来する共刺激及び活性化ドメインである。
【背景技術】
【0002】
前立腺癌は、世界中の男性の中で2番目に頻繁に診断される癌であり、年間推定110万人の新規症例がある。さらに、30万7千人が死亡すると予想され、癌による死亡の5番目の主要な原因である。原発腫瘍はうまく治療できるが、進行期に対する治療法はない。従って、新たな治療オプションが緊急に必要とされている。
【0003】
前立腺特異的膜抗原(PSMA)は、抗体ベースの診断及び治療的介入のための前立腺癌における最も特徴的な抗原である。該タンパク質は、グルタミン酸カルボキシペプチダーゼII(EC 3.4.17.21)、N-アセチル結合酸性ジペプチダーゼI(NAALADase)、または葉酸加水分解酵素としても知られている。PSMAは、19個のアミノ酸の小さな細胞内ドメイン、24個のアミノ酸の膜貫通ドメイン、及び707個のアミノ酸の大きな細胞外ドメインを有する750個のアミノ酸からなるタイプII膜糖タンパク質である。該細胞外ドメインは、3つの別個のドメイン、即ち、プロテアーゼドメイン(57~116個及び352~590個のアミノ酸)、先端ドメイン(117~351個のアミノ酸)、及びC-末端ドメイン(591~750個のアミノ酸)に折り畳まれる。これは、ヒトトランスフェリン受容体1に高い構造的類似性及び同一性を示す。PSMAは、前立腺癌細胞の表面に高度に制限され、腫瘍の全てのステージにおいて癌細胞上に存在し、アンドロゲン非依存性及び転移性疾患における増強された発現を示す。PSMAは、細胞外空間に分泌されず、PSMA特異的抗体の結合によって増強される恒常的な内部移行を受ける。これらの特徴のため、これは局所及び進行性前立腺癌の標的治療の理想的な候補となっている。さらに、PSMAは、正常な血管内皮で発現することなく、実質的に全ての固体腫瘍型の新生血管内皮で発現されることが見出された。従って、それはユニークな抗血管新生の標的であると考えられている。
【0004】
モノクローナル抗体(mAbs)は、細胞標的化のための高度に特異的で汎用的なツールである。この数十年では、それらは、医学研究に高い関心を集めており、癌を含む様々なヒトの疾病を治療するための最も急拡大している医薬品のクラスになっている。抗体7E11は、最初に公表されたPSMA特異的mAbであり、PSMAの細胞内ドメインのN末端(MWNLLH)に結合することが判明された。7E11のインラベルフォーム(ProstaScint、Cytogen、Philadelphia、PA)は、軟組織における転移性前立腺癌の検出及び画像化について、米国食品医薬品局(FDA)から承認を受けた。しかし、この抗体は、細胞内エピトープに結合するので、7E11は、生存細胞に結合することができない。ProstaScintを用いたin vivoイメージングでの陽性シグナルは、腫瘍塊内の死細胞または瀕死細胞の検出にまでさかのぼる必要があった。従って、生きた細胞によって発現されるPSMAの細胞外エピトープに特異的に結合する新規なクラスの抗PSMA mAbが創出された。
【0005】
EP1 883 698は、前立腺癌細胞及び前立腺組織の試料の表面上のPSMAの細胞外部分への強力で特異的な結合を示す3種の異なるmAb、即ち、3/A12、3/E7、及び3/F11を開示している。放射免疫療法用の臨床的に有効な抗体であるmAb J591(PMID:18552139;PMID:24135437;PMID:25771365;PMID:26175541)との直接的な比較において、mAb 3/A12は、C4-2前立腺癌標的細胞を発現するPSMAに対するより高い結合を示した(3/A12のKd(平均半値飽和濃度(Kd)として定義された)=14 nM;J591のKd =16 nM)。さらに、競合的結合試験は、mAb 3/A12がJ591(PMID:19938014)よりも異なる細胞外PSMAエピトープに結合することを実証した。ヒト正常組織のパネルに対する免疫組織学的試験において、PSMA-陰性組織(副腎、骨髄、小脳、大脳、下垂体、結腸、食道、心臓、腎臓、肝臓、肺、心膜、神経、卵巣、膵臓、骨格筋、皮膚、脾臓、胃、精巣、胸腺、甲状腺、扁桃腺、及び子宮)への3/A12 mAbの結合が検出されなかった。PSMA(PMID:19938014)を発現することが知られている唾液腺及び十二指腸ブラシ境界細胞への分泌細胞への結合のみが観察された。mAb 3/A12は、全ての試験された正常な前立腺組織の腺房分泌上皮細胞に対して中程度の免疫反応性を示した。腺癌のほぼ全ての上皮細胞及びリンパ節転移において、より強力で広範囲な染色が認められた。乳房試料の凍結切片上での免疫組織学的染色は検出されなかった。これに対して、他の公開されたデータによれば、乳房乳管上皮の染色はmAb J591で検出された。乳房組織におけるPSMA発現は、PCRによっても検出されず、またウェスタンブロッティングによっても検出されなかったので、mAb J591は他の抗原と交差反応する可能性が高い。
【0006】
Alzubiらは、2018年10月にスイスのローザンヌで口頭発表を行った(現代医学の変貌に関する会議-幹細胞及び遺伝子治療、スイス、ローザンヌ、2018年10月16~19日)。該口頭発表は、実質的な開示なしに概要のみを示した。CAR中の使用された抗原結合断片は、モノクローナル抗体3/F11から誘導された。該モノクローナル抗体は、モノクローナル抗体3/A12とは異なっている。そこから本発明で使用される抗原結合断片が開発された。
【0007】
(WO 2006/125481に開示されている)単鎖可変断片(scFv)A5は、mAb 3/A12からのファージ表示技術によって産生された。抗PSMA scFvの特異性のための最も重要な断片は、VL及びVH部分であり、これは、好ましくはポリグリシニンリンカーと連結される。A5は、Kd約33 nMのPSMA発現細胞に結合する。
【0008】
本発明によれば、A5 scFvは、PSMAを発現する癌細胞を標的とするための免疫細胞で使用するための構築物を提供するためのキメラ抗原受容体(CAR)の構築に使用された。
【0009】
Maら(The Prostate (2014)74, pp 286-296)は、CD28共刺激ドメイン、CD3ζシグナルドメイン、Northwest Biopharmaceutics,Inc.から市販されているマウス抗ヒトPSMAモノクローナル抗体3D8からの抗原結合部分を含むPSMAに対する第2世代CARを開示している。
【0010】
Santoroら(Cancer Immunol.Res (2015), pp 68-84)は、前立腺特異的膜抗原に対するキメラ抗原受容体を有するT細胞を記載している。該PSMA結合部分が抗体J591に由来する。
【0011】
Zhongら(Molecular Therapy (2010), pp 413-420)もキメラ抗原受容体も開示している。該PSMA結合断片も抗体J591に由来する。J591の配列は当該技術分野で周知である。WO 2009/017823は、そのVHドメイン及びVLドメインを開示している。
【0012】
Hassaniら(J.Cell Biochem (2019) 120:10787-10795)は、PSMAに対するナノボディを有するキメラ抗原受容体の構築を開示している。ナノボディは、ヒトVHファミリーとの相同性が高いため、該刊行物において使用された。これにより、ヒト抗マウス抗体応答の免疫原性応答のリスクが軽減されるはずである。
【0013】
WO 2018/111340は、キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞の力価及び増殖機能を測定する方法を開示している。
【0014】
Cartellieriら(Blood (2015) 126(23):5549)は、従来のCAR T細胞の限界を克服するはずのキメラ抗原受容体プラットフォームを記載している。
【0015】
WO 2010/037836は、ヒト及び非チンパンジー霊長類CD3YJのエピトープに結合できる交差種特異的PSMA x CD3二重特異性単鎖抗体を開示している。
【0016】
抗原結合断片は、マウス配列に由来する。A5の重鎖(VH)の可変ドメインのマウス配列は、配列番号:1として示され、A5の軽鎖(VL)の可変ドメインのマウス配列は、配列番号:5として示されている。それらの関連性の高い断片として、CDR領域は、以下のように同定された:CDR-H1がGFTFSDYYMのアミノ酸配列を有する配列番号:2と同定され、CDR-H2がIISDGGYのアミノ酸配列を有する配列番号:3と同定され、また、CDR-H3がGFPLLRHGAMDYのアミノ酸配列を有する配列番号:4と同定された。軽鎖におけるCDRについては、CDR-L1(配列番号:6)がアミノ酸配列KASQNVDTNVAを有し、CDR-L2(配列番号:7)がアミノ酸配列SASYRYSを有し、また、CDR-L3(配列番号:8)がアミノ酸配列QQYDSYPYTを有する。
【0017】
上の段落では、Kabat付番システムによるCDRが提供されるが、CDRはまた、IMGT付番に従って測定することもできる。該CDRの以下の配列がIMGT付番に従って測定された:CDR-H1が配列番号:9:GFTFSDYYと測定され、CDR-H2が配列番号:10:ISDGGYYTと測定され、また、CDR-H3が配列番号:11:TRGFPLLRHGAMDYWGと測定された。
【0018】
軽鎖については、IMGT付番に従って測定された:CDR-L1が:配列番号:12:QNVDTNと測定され、CDR-L2が配列番号:13:SASと測定され、また、CDR-L3が:配列番号:14: QQYDSYPYT。
【0019】
マウス抗体のヒト化は、免疫原性を低下させるために、ある抗体から別の抗体への有益な特性(例えば、抗原特異的結合、他の抗原との非交差反応性によるオフターゲット効果の回避)の移転を伴う。患者は通常、非ヒト抗体に対する免疫反応で反応し、治療の効果がなく、最悪の場合、生命を脅かす状況につながる可能性があるため、ヒト化は通常ヒトでの使用に必要である。ヒト化構築物は、それぞれ、配列番号:1及び5に示される抗原結合断片の配列から誘導することができる。CDR領域は、構造的に抗原結合部位、即ち抗原結合断片と抗原との接触部位を規定する。配列の残部は、抗原結合部位の足場を形成するフレームワーク領域をコードする。(例えば、インシリコモデリングによる)ヒト化のプロセスについては、まず、ヒト由来の他の抗原結合配列と比較される。通常、マウス配列の示されるフレームワーク配列と最も類似性の高いヒト配列(受容体フレームワーク)が選択される。該CDR領域は、望ましくないヒト抗マウス抗体(HAMA)免疫反応を引き起こし得るアミノ酸配列を除去するために、ヒト受容体フレームワークに移植される。潜在的に重要な位置での置換(例えば、抗原結合部位またはVH-VL界面の折り畳みに関与するアミノ酸)は、予想される逆突然変異について分析される。CDR配列においてさえ、免疫原性を回避し、抗原結合部位の精確な折り畳みを確実にし、そして抗原特異的結合を維持するために、アミノ酸の例外的な修飾がなされ得る。
【0020】
抗体のヒト化の過程において、好ましくは、対応するマウス配列と最も高い相同性を有するヒト免疫配列の中から、配列が選択される。次いで、CDRの位置が測定される。CDRの測定は、当該技術分野で周知である。留意すべきこととして、様々な測定方法が知られており、それによってCDRの位置が多少異なる可能性がある。本発明の過程において、KabatによるCDRの測定が用いられ、またIMGT(International Immunogene Ticks)による測定も用いられた。
【0021】
本発明の好ましい実施形態では、ヒト化は、いわゆる"CDR移植"に従って行われた。機能性CDRは、好ましくはIMGT法に従って測定され、これらのCDRは、開始マウス抗体に対して最も高い配列相同性を有するヒトフレームワーク領域に転写される。次いで、ヒト化抗体及びマウス抗体のフレームワーク領域における単一のアミノ酸に関する相違を、サイズ、極性または電荷のような生化学的特性に関して測定した。第1ステップでは、類似のアミノ酸が適合され、そして連続的に異なるアミノ酸が、完全なヒトフレームワークで終わるように変更された。
【0022】
本明細書に開示されたヒト化されたバージョンは、完全にまたは非常に大部分のいずれかでCDRを維持しているので、ヒト化変異体は、マウス抗体の同じ機能を有するが、親和性が互いに多少異なる可能性がある。
【0023】
ヒト化実験により得られた配列は、配列番号:15~36として示されている。
【0024】
ヒト化実験の結果は、
図1~
図6に示されている。示されているのは常にコード鎖の核酸配列である。また、CDR領域が灰色で示されるアミノ酸配列が示されている。これらのCDR配列は、本発明の好ましい実施形態である。ほとんどの場合、重鎖のCDRは次のとおりであることが判明された: CDR-H1:GFTFSDYY、CDR-H2:ISDGGYYT、また、CDR-H3:TRGFPLLRHGAMDYWG。
【0025】
軽鎖については、以下のCDRを使用することが好ましい:CDR-L1:GNVDTN、CDR-L2:SAS、また、CDR-L3:QQYDSYPYT。好ましいヒト化CDRは、マウス配列から推定されたが、適切なヒトフレームワークに適合した。
【0026】
好ましい形態では、好ましくはscFv断片等のようなヒト化抗原結合断片は、上記のように、少なくとも3個、好ましくは少なくとも4個、より好ましくは少なくとも5個、特に好ましくは6個のCDRを有する。
【0027】
PSMA陽性細胞への特異的結合の良好な維持のために、特に以下のヒト化VH及びVL鎖が使用されるべきであることが判明された:ヒトA5-VL1、ヒトA5-VL4、ヒトA5-VL5、及びヒトA5-VL6。これらの配列は、好ましくは、ヒト化配列ヒトA5-VH1、ヒトA5-VH2、ヒトA5-VH3、ヒトA5-VH4、及びヒトA5-VH5のいずれかと組み合わせることができる。ヒトA5-VL2及びヒトA5-VL3の使用はあまり好ましくない。
【0028】
近年、免疫系を再指示して腫瘍細胞を除去することにより、異なる癌を治療するための新規概念として養子免疫細胞治療が導入されている。最も成功した概念の一つは、ヒト白血球抗原(HLA)非依存的に腫瘍抗原または腫瘍関連抗原を結合するキメラ抗原受容体(CAR)を発現するT細胞の遺伝子工学に基づくものである。CAR T細胞を標的とするCD19は、B細胞急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)の治療に成功裏に使用されており、いくつかの臨床試験において90%を超える患者が完全寛解に至っている。この成功に基づいて、主に血液悪性腫瘍を治療するために200を超える臨床試験が開始された。しかし、固形腫瘍の場合、CART細胞療法の潜在力はこれまでむしろ低いようである。この失敗の主な理由は、腫瘍が存在する細胞環境である腫瘍微小環境(TME)であると思われる。これは、様々な種類の免疫細胞、線維芽細胞、細胞外マトリックス(ECM)、ならびに周囲の血管を誘発する。TMEにおける細胞毒性T細胞活性の制限を解明する多くのメカニズムが記載され、その中には、PD-1ベースのT細胞免疫チェックポイント阻害の活性化が含まれる。これらの制限を克服することは、T細胞チェックポイント拮抗剤と組み合わせて、TMEにおける抗腫瘍活性の改善に役立つであろう。
【0029】
本発明で使用される腫瘍の根絶は、腫瘍抗原特異的免疫細胞、好ましくはT細胞の適切な生存及び腫瘍内活性化を必要とする。これらの要件を満たすために、T細胞は、抗原プライミング及び刺激の際に適切な活性化シグナルを与えられなければならない。従って、本発明のキメラ抗原受容体は、T細胞上の受容体の一部として抗原結合断片を結合する。該抗原結合断片は、T細胞が結合すべき特異的抗原(ここではPSMA)に結合する。さらに、前記受容体は、共刺激シグナルドメインとして、それぞれCD28及び4-1BBからの配列を含有する。CD28配列または他の共刺激シグナルドメインのCD3ζ鎖ベース受容体への付加は、インターロイキン-2の抗原誘導分泌及びin vitro T細胞増幅を増加させることが示されている。本発明の場合、該シグナルドメインは、CD3ζドメイン及び細胞内CD28と4-1BBドメインいずれかからなる。
【0030】
一般に、CARの設計は変化し得る。一方、いくつかの世代のCARが知られている。CARシステムの主要な成分は、T細胞受容体(TCR)複合体のCD3ζ細胞内ドメイン、膜貫通ドメイン、ヒンジ領域、及び抗原結合部分である。CARの設計において、抗原結合ドメインは、スペーサー領域とも呼ばれるヒンジ領域、膜貫通ドメイン、及び細胞質ドメインに連結される。これらの部分は、抗原結合部分の位置、T細胞膜における結合、及び細胞内シグナル伝達に関与する。CARデザインにおけるこの構造的な規則の他に、ヒンジ領域の形態学的特徴(例えば、長さ及び配列等)は、効率的な標的化に重要である。細胞内ドメインは、シグナル変換器として作用する。CD3ζの細胞質セグメントは、活性化されたT細胞及び休止中のT細胞では機能が異なるため、主要な役割を果たす。しかし、この細胞質部分は、休止中のT細胞のみを活性化することができない。従って、T細胞の完全な活性化のための少なくとも二次シグナルが必要となる。本発明では、好ましくは4-1BBまたはCD28共刺激ドメインが使用された。CD27、ICOS、及び0X40から誘導される共刺激ドメインのような他の共刺激ドメインを代用することができる。
【0031】
好ましい形態では、突然変異は、ヒトIgG1 Fcヒンジ領域に導入され、それによって、LcK活性化の防止や先天性疫応答の意図しない開始の副作用が回避される。これらの突然変異の一つは、LcK結合を回避し、突然変異のもう一つは、前記構築物へのTreg細胞の結合を阻害し得る。このような突然変異は、前記構築物の生物学的活性を改善し得る。
【0032】
ヒト患者を治療するために、T細胞は、個々の患者の末梢血(自己設定)から濃縮されなければならず、またはドナー(同種異系設定)によって提供されなければならない。これは、例えば、白血球搬出法で行うことができる。次いで、濃縮されたT細胞は、CARの遺伝子情報を含む適切なベクターでex vivoで遺伝子導入または形質導入される。
【0033】
CARをコードする遺伝子情報は、適切なベクターに挿入される。このようなベクターは、好ましくはレンチウイルスまたはレトロウイルスベクターである。初代T細胞の形質導入のためのゴールドスタンダードは、現在、より単純なレトロウイルスベクターの有効な代替物であると思われるレンチウイルスベクターと考えられている。レンチウイルスベクターのさらなる代替として、前記情報は、トランスポゾンまたはプラスミドの助けを借りてT細胞に導入することができる。ウイルス性及び非ウイルス性の両方の送達の代替物は、CRISPR/Casまたは転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)または亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(ZFN)等のような他のデザイナーヌクレアーゼとして設計された、最近記載された遺伝子編集ツールである。この技術プラットフォームは、標的化された方法で実質的に任意のゲノム部位を標的化する可能性を提供する。前記CRISPR/Casの場合、編集複合体は、Casヌクレアーゼ、及び、通常CRISPR RNA(crRNA)及びトランス作用crRNAからなるガイドRNAを含む。標的配列へのガイドRNAのハイブリダイゼーションの際に、Cas9(または、例えばCpf1/Cas 12aのような他のCasヌクレアーゼ)は、非相同末端結合(NHEJ)によって修復され得る二本鎖破断を産生し、これはゲノム遺伝子座の機能の喪失をもたらし得る事象である。適切なドナーDNAの存在下で、相同性特異的修復(HDR)のメカニズムにより、外因性配列(CAR配列)を標的遺伝子座に導入することができる。これを利用して、内因性遺伝子機能を妨げない所望のゲノム遺伝子座においてCAR発現カセットを送達することができ、これにより、ウイルスベクターを統合することにより経験される遺伝子毒性効果を最小化することができる。さらなる好ましい実施形態では、ゲノム編集は、内在性プロモーターの制御下でCARをコードする配列を配置するために使用される。TRAC遺伝子座のプロモーターのような内在性プロモーターからの発現は、CAR構築物の最適な発現レベルを確実にし、その機能を達成することができる。本発明のCARをコードする核酸配列は、好ましくは、ヒトのコドン使用のために最適化されている。特に好ましい実施形態は、CAR28構築物をコードする配列番号:37(
図7A-D)及びCAR41構築物をコードする配列番号:38(
図8A-D)である。
【0034】
本発明の別の好ましい実施形態では、CAR構築物をコードするRNAは、T細胞のような標的細胞に導入される。CAR構築物をコードする核酸は、電気穿孔法等の物理的手順によって、または適切な小胞との細胞膜の融合によって、標的細胞に導入され得る。この実施形態では、CAR構築物は、T細胞に一過性に発現されることが好ましい。その利点として、形質導入されたT細胞の集団が治療された患者に一時的のみ存在する。
【0035】
他の好ましい形態では、CAR構築物は、ナチュラルキラー細胞(NK)、不変異体ナチュラルキラーT細胞(iNKT)、多様なナチュラルキラー細胞(dNKT)、サイトカイン誘導キラー細胞(CIK)、またはγ-δ T細胞に導入される。さらに、適切な同種異型細胞を使用してもよい。
【0036】
さらなる好ましい実施形態では、本明細書に記載のCAR構築物に加えて、免疫系を調節する別の導入遺伝子、例えばサイトカイン、ケモカイン受容体、及び/またはチェックポイント阻害剤をコードする遺伝子を免疫細胞に導入することができる。さらなる好ましい実施形態では、ゲノム編集は、サイトカイン、ケモカイン受容体、及び/またはチェックポイント阻害剤をコードする遺伝子等の免疫系を調節する遺伝子の発現を破壊するために使用される。
【0037】
別の実施形態では、本発明による構築物及びそのような構築物を含有する免疫細胞は、標的化された腫瘍注入による局所治療に使用することができる。この実施形態は、好ましくは、局所腫瘍領域が位置する患者の体の特定の場所にCAR T細胞を適用する自動装置を用いて実施される。次いで、生検針を用いて試料を引き抜く。これにより、小さな空洞が形成される。この空洞には、形質導入または遺伝子導入されたT細胞が導入され、次いで、針が引き抜かれる。本実施形態は、通常の方法での治療が極めて困難な固体腫瘍が存在する場合に特に有利である。
【0038】
本明細書に開示されるキメラ抗原受容体は、PSMAの発現に関連する疾患の治療に使用することができる。PSMAは、前立腺癌由来の腫瘍細胞において発現される。前立腺がんにはいくつかのステージが知られているが、PSMAは前立腺癌の治療に最も適したマーカーの一つであると思われる。"前立腺癌"という用語は、原発腫瘍、転移腫瘍、または循環腫瘍細胞に由来するいずれかの形態の前立腺癌細胞を含む。特に好ましい実施形態では、本発明のキメラ抗原受容体で操作された免疫細胞は、PSMAを発現する固形腫瘍の血管新生に対して使用される。
【0039】
従って、本発明によるキメラ抗原受容体または核酸コード化は、核酸のみとして、または前立腺癌及び前立腺誘導腫瘍の治療における使用のためのベクターに埋め込まれたフォーマットとしてのいずれかで使用され得る。コード核酸が埋め込まれているベクターの使用は好ましい実施形態である。該ベクターは、適切な免疫細胞、好ましくはT細胞で既に患者に導入されるか、または患者の適切な細胞に入ることができる核酸として適用されるかのいずれかの方法で使用することができる。
【0040】
前立腺癌は、男性に高い割合で影響を与え、非常に高い割合で癌による死亡を引き起こす。癌の初期ステージは、前立腺に局在し得るが、この疾患は、しばしば転移に進行し、これは人体の他の器官、即ち骨、肝臓、肝臓系、肺、脳、及び時には他の器官に影響を及ぼす。前立腺癌の転移は、本発明によるキメラ抗原受容体をコードする適切な核酸で形質転換された患者から得られたT細胞を注入することによって治療することができる。あるいは、このような細胞を、例えば注射によって患者の体内の転移ホットスポットに特異的に挿入することも可能である。前立腺癌細胞が局在する場所の分布は、患者の体の放射性核種配列走査で標識されたPSMAに対する抗体のような適切な検出手段を用いて領域を標識することによって行うことができる。
【0041】
本発明のさらなる実施形態では、本明細書に開示されるキメラ抗原受容体で操作された免疫細胞は、治療薬、特に細胞毒性剤と組み合わせて使用される。前立腺癌の治療に使用される細胞毒性剤が知られている。好ましくは、このような物質は、タキソール誘導体、5-フルオロウラシル、シクロホスファミド、ミトキサントロン、ドセタキセル、カバジタキセル、及びエトポシドを含む。以下の薬物は、前立腺癌に対して承認され、好ましく使用される:アビラテロンアセテート、アパルタミド、ビカルタミド、カバジタキセル、カソデックス(ビカルタミド)、デガレリックス、ドセタキセル、エリガード(ロイプロリドアセテート)、エンザルタミド、エルレアダ(アパルタミド)、フィルマゴン(デガレリックス)、フルタミド、ゴセレリンアセテート、ジェバタナ(カバジタキセル)、ロイプロリドアセテート、ルプロンデポ(酢酸リュープロリド)、塩酸ミトキサントロン、ニランドロン(ニルタミド)、ニルタミド、プロベンジ(シプルセル-T)、ジ塩化ラジウム223、シプロイセル-T、タキソテール(ドセタキセル)、ゾフィゴ(ジ塩化ラジウム223)、キサンジ(エンザルタミド)、ゾラデックス(ゴセレリンアセタート)、ザイティガ(アビラテロンアセタート)。理解されるように、本発明のキメラ抗原受容体はまた、ホルモン感受性形態の前立腺癌を治療するために使用される薬物(例えば、ロイプロリドアセテート)と組み合わせて使用され得る。
【0042】
本発明の好ましい実施形態は、本願の図面及び実施例においてさらに記載され、図示される。これらの図面または実施例に開示された全ての形態は、明示的に除外されない限り、本発明に関する。実験部に開示された本発明の単一の特徴は、そのような組合せに対して言及する技術的な理由がない限り、組み合わせることができる。具体的に、これらの図面は、以下のように実験結果を示す。
【0043】
【0044】
言及すべきこととして、本明細書に開示された配列、図面、及び配列プロトコル、特にCDR-配列は、本発明の好ましい実施形態である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【0046】
【
図1-3】
図1-3に示されるのは、A5の重鎖(VH)の可変ドメインの5つのヒト化変異体の配列であり、それにより、CDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3の位置は、IMGTの測定に従って灰色ボックスとして示される。
【0047】
【
図4-6】
図4-6に示されるのは、A5の軽鎖(VL)の可変ドメインの6つのヒト化変異体の配列であり、そのCDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3は灰色ボックスで示された。理解されるように、VH及びVLドメインは互いに結合することができる。例えば、変異体1(ヒトA5-VH1)のVH配列を変異体5(ヒトA5-VL5)のVL配列と組み合わせることが可能である。
【0048】
【
図7】
図7A-Dには、scFv A5抗原結合領域を含む構築物の好ましい実施形態の完全な配列を示す。該抗原結合領域は、CD28及びCD3ζの関連部分に連結されている。
【0049】
【
図8】
図8A-Dは、ヒト4-1BB及びCD3ζの関連部分に結合された抗原結合断片scFv A5の全構築物を示す。
【0050】
【
図9】本発明によるCAR構築物とPSMA抗原結合断片が従来技術に既に記載された構築物との比較
【0051】
(A)第2世代の抗PSMA CARを発現するための自己不活化γ-レトロウイルスベクターの概略図。CAR発現はEFSプロモーターによって駆動される。抗PSMA CARは、単一鎖可変断片(scFv)3D8またはJ59(いずれも従来技術に記載されている)またはA5(PSMAに対するマウスモノクローナル抗体3/A12由来)のいずれかを含み、これは、Fc IgG1由来のヒンジ領域、膜貫通(tm)ドメイン、CD28由来の共刺激ドメイン、及びCD3ζ鎖から誘導された細胞内シグナル伝達ドメインに融合される。前記ヒンジ領域は、最適な標的認識のためにscFvとtmドメインとの間に物理的スペーサーを提供する。前記CD28共刺激ドメインは、LCK結合を防止し、阻害性調節性T細胞(Treg)の存在下で抗腫瘍活性を増強するアミノ酸交換を含有する。産生された全てのレトロウイルス構築物は、同じ足場を有するが、活性及び細胞毒性に関してCAR構築物のサイドバイサイドの比較を可能にするscFv断片においてのみ異なる。
【0052】
(B)Jurkat細胞におけるCAR発現を、3つの異なるPSMA-CARをコードするレトロウイルス粒子で形質導入した。ウイルス形質導入に続いて、Jurkat細胞を16~21日間増殖させ、細胞を回収し、抗ヒトIgG抗体(CAR)で染色して、形質導入効率及びCAR発現レベルを評価した。
【0053】
(C)抗原特異的活性化プロファイル、CARを発現するJurkat細胞を、PSMA陽性、PD-L1陰性C4-2腫瘍細胞(PSMA+/PDL1-)、またはPSMA陽性、PD-L1陽性LNCaP腫瘍細胞(PSMA+/PDL1+)のいずれかと、1:1エフェクター対標的比で24時間刺激した。陰性対照として、CAR細胞をPSMA陰性DU145腫瘍細胞(PSMA-)で共培養した。24時間刺激の後、細胞を回収し、活性化マーカーCD69に対して陽性である細胞の割合を評価することにより活性化プロファイルを評価した。統計的有意差は、****(P<0.001)で示される。
【0054】
(D)使用される前立腺癌細胞株の特性決定。PSMA標的抗原発現(左)及びPD-L 1(CD274)発現(右)の程度をC4-2、LNCaP、及びDU145前立腺細胞株について評価した。フローサイトメトリー分析のために、細胞を3/F11 1抗体(抗PSMA)または抗CD274抗体で染色した。UT:形質導入されていないT細胞;PD-L1:プログラムされた細胞死リガンド1;PSMA:前立腺特異的膜抗原。
【0055】
パネルD(左)に示されるように、C4-2及びLNCaP腫瘍細胞の両方がPSMA抗原を発現し、一方、DU145がPSMA抗原に対して陰性である。パネルD(右)は、大部分のLNCaP及びDU145細胞がPD-L1を発現し、一方、C4-2細胞はPD-L1に対して陰性であったことを示している。
【0056】
A5ベースのCAR T Jurkat細胞において、抗原特異的活性化プロファイルを、J59と3D8ベースのCAR T Jurkat細胞とをサイドバイサイドで比較した。パネルCに示されるように、A5ベースのCAR及びJ59ベースのCARは、細胞の約70%で活性化マーカーCD69の発現上昇によって測定されるように、抗原特異的感作時にJurkat細胞の大規模な活性化を仲介することができた。活性化は、阻害性リガンドPD-L1の存在によって影響されなかった。一方、3D8ベースのCAR T細胞は、わずかにしか活性化されなかった(CD69陽性細胞の20%まで)。
【0057】
【
図10】PSMA-CAR T細胞の機能的評価。 (A)PSMA陽性C4-2腫瘍細胞上のCAR T細胞の細胞毒性プロファイル。レトロウイルス形質導入の前に抗CD2/3/28抗体で2~3日間T細胞を活性化した。CAR T細胞を、活性化されたT細胞を自己不活化レトロウイルスベクター構築物で形質導入して第2世代抗PSMA CARを発現することによって産生した(
図9Aを参照)。抗原刺激なしで6~9日間増殖させた後、CAR T細胞を、抗原陽性C4-2(PSMA+/PDL1+)まあたはLNCaP(PSMA+/PDL1-)腫瘍細胞、またはPSMA陰性細胞(DU145)のいずれかで、所定のエフェクター対標的(E:T)比で48時間共培養した。XTT ELISAベースの比色アッセイ(%細胞毒性=100%-%生存率)により細胞毒性を測定した。統計的有意差は、*(P<0.05)または**(P<0.01)で示される。UT:形質導入されていない細胞;PSMA:前立腺特異的膜抗原。
【0058】
A5ベースのCAR T細胞の細胞毒性プロファイルを、J59ベースのCAR T細胞の細胞毒性プロファイルとサイドバイサイドで比較した。A5ベースのCAR T細胞は、両方の腫瘍細胞標的に対して、J59ベースのCAR T細胞と比較して、有意に細胞毒性が高かった。これは、両方の腫瘍細胞株をより低いエフェクター対標的比で除去することができるという事実によって証明される。結論として、A5ベースのCAR T細胞は、活性化及び細胞毒性の点で、先行技術のCARに基づくCAR T細胞よりも優れていた。
【0059】
【
図11】CAR T細胞を標的とするPSMAの増殖及び疲弊。 (A)CAR発現。自己不活化レトロウイルスベクター構築物で活性化T細胞を形質導入して第2世代抗PSMA CARを発現させた後(
図9A、10Aを参照)、CAR T細胞を抗原刺激なしで6日間増殖させた(-Ag)。並行して、CAR T細胞を増殖させ、照射されたPSMA陽性(C4-2)細胞(+Ag)に暴露した。増殖したCAR T細胞を3日毎に回収し、そして新鮮な照射された抗原陽性細胞にエフェクター標的比1:1で最大4回((4X)暴露した。照射されたPSMA陽性細胞への示された暴露時間におけるCAR及びCD3発現を、ヒトIgG (CAR)及びCD3に対する抗体で細胞を染色した後、フローサイトメトリーにより可視化した。UT:形質導入されていない細胞。
【0060】
(B、C、D)CAR T細胞の増殖。CAR T細胞増殖中3日毎に細胞を回収し、抗ヒトIgG抗体(CAR)及びCD3で染色して、CAR陽性細胞(B)、全細胞数(C)、及び細胞分裂数(D)の画分を評価した。統計的有意差は*(P<0.05)で示される。UT:形質導入されていない細胞。
【0061】
示されているように、抗原発現細胞への多重露光は、A5ベースのCAR T細胞及びJ59ベースのCAR T細胞の両方について、細胞集団中のCAR陽性T細胞の富化(>95%)を導く(
図11A-B)。しかし、A5ベースのCAR T細胞は、J59ベースのCAR T細胞と比較して、複数の抗原特異的刺激により有意に良好に増殖する。これは、増殖期間の終了時の総細胞数が約160倍に増加し(
図11C)、細胞分裂数が著しく増加したこと(
図11D)からも明らかである。このデータは、A5ベースのCAR T細胞がJ59ベースのCAR T細胞よりも少なく疲弊することを示唆している。
【0062】
(E)CAR T細胞表現型の定量的評価。T細胞表現型プロファイルがCD62L及びCD45RAの発現に基づいて評価される前に、CAR T細胞をPSMA陽性C4-2腫瘍細胞で1:1のエフェクター対標的(E:T)比で刺激した。3つの実験からの異なるT細胞サブセットの平均割合が示されている。統計的有意差は***(P<0.001、n=3)によって示される。Tn/Tscm:T細胞ナイーブまたはT幹細胞メモリ;Tcm:T細胞中央メモリ;Tem:T細胞エフェクターメモリ;Teff:T細胞エフェクター;UT:形質導入されていない細胞。
【0063】
(F)CAR T細胞疲弊の定量的評価。T細胞疲弊プロファイルがLAG-3及びPD-1発現に基づいて決定される前に、CAR T細胞をPSMA陽性C4-2腫瘍細胞で1:1のエフェクター対標的(E:T)比で刺激した。PD-1及びLAG3二重陽性または二重陰性細胞の平均割合が示されている。統計的有意差は***(P<0.001、n=3)によって示される。UT:形質導入されていない細胞。
【0064】
該実験セットは、CAR T細胞表現型ならびに抗原刺激時のCAR T細胞の疲弊プロファイルを示した。パネル3E及び3Fに見られるように、A5ベース及びJ59ベースのCAR T細胞は、それぞれ、エフェクター細胞に向かって分化し、抗原曝露後にある程度疲弊される。しかし、ナイーブ及びメモリ型CAR T細胞の画分は、J59ベースのCAR T細胞と比較して、A5-CAR T細胞に対して有意に高い(
図11E)。また、A5-CAR T細胞は、非常に高い割合のPD1-陰性/LAG3-陰性CAR T細胞により示されるように、J59ベースのCAR T細胞よりも抗原曝露時にはあまり頻繁に疲弊されない(
図11F)。全体として、CAR T細胞表現型及び抗原曝露時の疲弊プロファイル分析は、J59-CAR T細胞よりもA5-CAR T細胞の好ましい表現型を示しており、これは、J59-CAR T細胞と比較して、A5-CAR T細胞のより良好な増殖と相関している。
【0065】
【
図12】マウスscFv A5の配列(配列番号:1及び5)が提供される。これにより、Kabat法によるCDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3(配列番号:2~4)、CDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3(配列番号:6~8)の領域が示される。
【0066】
【
図13】配列
図13A-Cは、マウス由来のscFv A5を含むCAR構築物A5CAR28のアミノ酸配列("フレーム1")を示す。さらに、コーディング核酸配列及びその相補鎖が提供される。CDR H1~H3及びCDR L1~L3核酸及びアミノ酸配列は、灰色の矢印でマークされている。
【0067】
【
図14】配列
図14A-Cは、マウス由来のscFv抗原結合構築物A5を含むCAR構築物A5CAR 41のアミノ酸配列("フレーム")を示す。さらに、コーディング核酸配列及びその相補鎖が提供される。CDR H1~H3及びCDR L1~L3核酸及びアミノ酸配列は、灰色の矢印でマークされている。A5のscFv断片のアミノ酸配列は、それが抗原結合断片のヒト化のための出発配列である限り、本発明に必須である。ヒト化配列は、それぞれ、配列番号:1または/及び配列番号:5の少なくとも80%の相同性を有する。より好ましい実施形態では、前記配列は、配列番号:1及び/または配列番号:5と少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも98%の相同性を有する。留意されたいこととして、
図13に示されるCDR領域は、非常に高いレベルで保存されている。これは、Kabat法により決定されるCDR領域が、3つ以下のアミノ酸交換、好ましくは1つ以下のアミノ酸交換を有し、好ましくはアミノ酸交換を有さないことを意味する。
図14Aは、A5 CAR41構築物の配列を示しており、上に並べられた好ましい相同性の値は、該構築物にも適用される。
【0068】
【0069】
図面に示された実験の結果は、以下のように解釈することができる。
【0070】
一般に、CARは、抗原認識scFvを含む細胞外ドメイン、ヒンジ領域、膜貫通領域、及びCD3ζ鎖を含むT細胞を活性化する1つ以上の細胞内シグナルドメインを含む。第2世代または第3世代のCARでは、通常、CD28、4-1BB、0X40、CD27、及び/またはICOSに由来する共刺激ドメインが含まれる。前立腺癌を治療するために、多くの試みが、PSMAエピトープを標的とするCARを利用しており、これらの方法のいくつかは、既に臨床試験に入った(例えば、NCT01140373、NCT01929239)。しかし、これらのCARの効力は、in vitro及びin vivoの両方においてかなり低いようである。特に、抗PSMA scFv 3D8またはJ591(Pzlとして知られている)に基づく第1世代のCARに基づく初期の研究では、100:1までの高いエフェクター対標的(E:T)比を使用して、in vitroで腫瘍細胞を除去する必要があることによって示されるように、得られたCAR T細胞の効力が低いことが示された。D2BまたはJ591由来のscFvに基づく第2世代または第3世代のCARを使用すると、in vitroでの効力が改善された。しかし、非常に高いCART細胞用量、時には最大20x106のCAR T細胞、または複数回の注入が適用された(PMID 16204083、PMID:18026115、PMID:19773745、PMID:25358763、PMID:23242161、PMID:4174378、PMID:25279468)にもかかわらず、これらのPSMAを標的とするCAR T細胞は腫瘍増殖を抑制できたが、in vivoで腫瘍を排除できなかったという事実によって示されたように、これらのCART細胞の効力は、異種移植腫瘍マウスモデルでは低いままであった。これらのむしろ非効率的なPSMA-CAR T細胞との混合した結果を考慮して、scFv A5に基づく新規でより効率的なPSMA標的CARを産生して検証することを意図した。このために、CD28(CAR28)由来の共刺激ドメインを含む第2世代のPSMA-CARを設計した。
【0071】
A5ベースのCAR T細胞をJ59及び3D8ベースのCAR T細胞とサイドバイサイドで比較した(
図9)。抗原特異的活性化プロファイルを、A5、J59、及び3D8ベースのCARをコードする発現ベクターで形質導入されたJurkat細胞中で比較した。A5ベースのCAR及びJ59ベースのCARは、抗原特異的感作時にJurkat細胞の大規模な活性化を媒介できたが(
図9C)、3D8-CARを含む細胞は、弱くしか活性化されなかった。
【0072】
さらに、一次T細胞の形質導入時に、A5ベースのCAR T細胞は、両方の腫瘍細胞株がより低いエフェクター対標的比で除去されたという事実によって証明されるように、2つのPSMA陽性腫瘍細胞株のJ59ベースのCAR T細胞と比較して、優れた細胞毒性プロファイルを示した(
図10A)。また、抗原保有腫瘍細胞の存在下で、製造されたA5-CAR T細胞生成物は、よりよく増殖し(
図11C)、疲弊が少なく(
図11F)、そしてJ59ベースのCAR T細胞と比較して、ナイーブT細胞及びT幹細胞メモリ細胞のような未分化T細胞の割合が高くなった(
図11E)。
【0073】
要約すると、A5ベースの抗PSMA CAR T細胞は、特にそれらの優れたin vitro細胞毒性、ならびにそれらのT細胞表現型及びそれらの抗原特異的刺激時のそれらの増殖及び疲弊プロファイルを考慮して、以前に公表されたPSMA標的CAR T細胞よりも優れた予期しない特性を有することが実証された。これらの結果に基づいて、A5ベースのCAR T細胞は、局所的及び進行性前立腺癌の治療のための新規な免疫療法の開発のための有望なツールである。
【0074】
従って、本発明は、PSMA抗原に特異的に結合する抗原結合断片を含むT細胞のキメラ抗原受容体に関する。該抗原結合断片は、好ましくは、適当なリンカーで連結されたVH及びVL断片を含む。さらに、前記キメラ抗原受容体は、好ましくは、スペーサー要素、膜貫通断片、及びCDR3ζ細胞質ドメインを含む。さらに、前記キメラ抗原受容体は、好ましくは、CD28及び/または4-1BB細胞質ドメインからの断片を含む。
【0075】
本発明のキメラ抗原受容体は、好ましくは、CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3からなる群から選択される少なくとも3つのCDRを含む。該CDRは、アミノ酸配列及び関連する核酸配列コーディングの上に灰色の矢印で示されている。好ましい実施形態では、前記キメラ抗原受容体は、少なくとも3つのCDR (CDR-H1、CDR-H3、CDR-L3)、好ましくは4つのCDR (CDR-H1、CDR-H3、CDR-L2、CDR-L3)、より好ましくは少なくとも5つのCDR (CDR-H1、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2、CDR-L3)を含む。
【0076】
前記キメラ抗原受容体は、好ましくは、ヒト化されたフォーマットで存在する。このようなヒト化されたフォーマットは、少なくとも3つのCDR、好ましくは4つのCDR、より好ましくは5つまたは6つのCDRを、
図1~6に示されるようにマウス足場と高い相同性を有する適切なヒト抗原結合足場に挿入することによって得ることができる。
【0077】
実施例1 レトロウイルス粒子をコードするCARの調製
10%ウシ胎児血清(Biochrom、Berlin、Germany)、ペニシリン(100 U/ml)、ストレプトマイシン(100 mg/L)、及び10 mM HEPES (Sigma-Aldrich)を補充したDMEM (Gibco、Invitrogen、Karlsruhe、Germany)で、5%CO
2の加湿インキュベーターの中、37℃でHEK293T細胞を培養した。遺伝子導入の1日前に、細胞を5×10
6細胞/ディッシュの細胞密度で10 cmのディッシュに播種した。24時間後、ポリエチレンイミン(PEI:0.1 mg PEI/ml, Polysicence Inc., USA)を用いて細胞を遺伝子導入した。10 cmディッシュあたり、3 μgのVSV-Gエンベロープをコードするプラスミド、6 μgのgag/polをコードするプラスミド、及び10 μgの個々のCAR構築物をコードするベクタープラスミド(
図9A)を使用した。遺伝子導入の48時間及び72時間後、ウイルスベクターを含有する上清を集め、超遠心分離(WXウルトラシリーズ;Thermo Scientific:25,000 rpm、4℃で2時間)を用いて濃縮した。濃縮したベクターを、100 μlの冷PBS中に懸濁し、使用まで-80℃に保存した。
【0078】
該ベクター調製物の生物力価は、Jurkat T細胞を形質導入した後、形質導入された細胞を抗ヒトIgGで染色して、CAR陽性細胞の画分を測定することによって測定した。
【0079】
実施例2 PSMAを標的とするCAR T細胞の産生
製造者の推奨に従って相分離(Ficoll、Sigma-Aldrich)を用いて、末梢血単核細胞(PBMC)を単離し、次いで使用するまで液体窒素中で凍結した。CAR T細胞を産生するために、PBMCを解凍し、RPMI完全培地[10%胎児子牛血清(Biochrom、Berlin、Germany)、ペニシリン(100 U/ml)、ストレプトマイシン(100 mg/L)、及び10 mM HEPES 緩衝液(Sigma-Aldrich)を補充したRPMI 1640培地(Gibco、Invitrogen、Karlsruhe、Germany)]の中で24時間回復させた。次いで、PBMCを抗CD2/CD3/CD28抗体(Immunocult、Stemcell Technologies)を用いて活性化し、100 U/mlのIL-2、25 U/mlのIL-7、及び50 U/mlのIL-15(全てMiltenyi Biotech製)を補充したRPMI完全培地の中で2~3日間培養し、細胞あたり50~300形質導入単位の範囲の用量でPSMA標的CAR T細胞のいずれかをコードするγ-レトロウイルス構築物で形質導入した。5 μg/mlの硫酸プロタミン(Sigma-Aldrich)と1000 U/mlのIL-2、25 U/mlのIL-7、及び50 U/mlのIL-15を補充したRPMI完全培地を含むポリ-D-リシン(PDL、Sigma-Aldrich)でコーティングされたウェルの中で形質導入された細胞を培養した。1日後、培地を変え、100 U/mlのIL-2、25 U/mlのIL-7、及び50 U/mlのIL-15を補充したRPMI完全培地で細胞をさらに8~9日間増殖させ、さらに使用するまで液体窒素中で凍結した。
【0080】
実施例3 抗原刺激時の細胞活性化
本発明による好ましい構築物の生物学的活性を、PSMA結合断片が抗体から誘導された構築物と比較した。さらに、これを、抗原結合構築物が他の抗体(3D8)から誘導された同様の構築物と比較した。
【0081】
前記構築物をJurkat T細胞株に導入し、抗ヒトIgGで細胞を染色した後、フローサイトメトリーによってCAR発現レベルを測定した。
図9Bに示されるように、全てのCAR構築物はJurkat T細胞において適切に発現された。UT(形質導入されていない細胞)は、染色の陰性対照として機能した。
【0082】
形質導入されたJurkat T細胞の抗原特異的活性化は、抗原刺激時の活性化マーカーCD69の発現をモニターすることによって測定した(
図9C)。A5及びJ59ベースのCARのそれぞれとは対照的に、3D8ベースのCARは、抗原陽性細胞への暴露時に形質導入されたJurkat T細胞の弱い活性化のみを媒介した。これは、阻害性リガンドPD-L1の発現とは無関係であった。CAR構築物は、それらが抗原陰性(DU145)細胞で刺激されたときに活性化されなかった。
【0083】
実施例4 PSMAを標的とするCAR T細胞の増殖
実施例2に記載したようにレトロウイルス形質導入後に、PBMCからCAR T細胞を産生した。形質導入後6日目に、CAR T細胞を照射されたPSMA陽性(C4-2)腫瘍陽性細胞と1:1のエフェクター対標的比で、100 U/mlのIL-2、25 U/mlのIL-7、及び50 U/mlのIL-15(全てMiltenyi Biotech製)を補充したRPMI完全培地で12日間共培養した。3日毎に、細胞を回収し、計数し、新鮮な照射された抗原陽性(C4-2)腫瘍陽性細胞上にプレーティングした。CAR発現レベル及びフローサイトメトリー(FACS Canto IIまたはAccuri, BD Biosciences)によるCAR陽性細胞の画分を測定するために、細胞を抗ヒトIgG-PE (Southern Biotech)で染色した。
【0084】
NucleoCounter(NC-250、ChemoMetec)を用いて、異なる時点でCAR T細胞の数を計数した。細胞分裂の数は、絶対細胞数に基づいて計算した。
【0085】
さらに、CAR T細胞の表現型及び疲弊パターンを確認するために、フローサイトメトリー分析によりCAR T細胞の品質を測定した。
【0086】
実施例5 増殖したCAR T細胞の品質評価
品質評価のために、CAR T細胞を抗原陽性(C4-2)腫瘍細胞に曝露した後、細胞を回収し、抗ヒトCD62L-Bv421(BD Biosciences)、抗ヒトCD45RA-FITC (Biolegend)、抗ヒトCD3-APC/H7(BD Biosciences)、及び抗ヒトIgG-PE (CAR)(Southern Biotec)で染色した。CD62L及びCD45RAの発現に基づいて、T細胞表現型を測定した。細胞を、形質導入されていない(UT)T細胞の場合はCD3 +/CAR-上で、または両方のタイプのCAR T細胞の場合はCD3+/CAR+上でプレゲートした(図示せず)。観察されたように、A5-CAR T細胞は、未分化細胞のナイーブT細胞(Tn)とT幹細胞記憶(Tscm)の割合が高いが、エフェクターT細胞(Teff)の割合が低いことからわかるように、J591CAR T細胞と比較して低分化であった。
【0087】
実施例6 抗原刺激時のCAR T細胞疲弊
抗原特異的刺激時のCAR T細胞の疲弊をモニターするために、CAR T細胞をPSMA陽性腫瘍細胞(C4-2)に曝露してから採取し、抗ヒトCD279-FITC (PD-1、BD Biosciences)、抗ヒトCD223-eFluor710(LAG-3、BD Biosciences)、抗ヒトCD3-APC/H7(BD Biosciences)、及び抗ヒトIgG-PE(Southern Biotec)で染色した。CD279(PD-1)及びCD223(LAG-3)の発現に基づいて、疲弊プロファイルをフローサイトメトリー(FACS Canto II)によって測定した。細胞を、UT T細胞の場合はCD3+/CAR-上で、または両方のタイプのCARの場合はCD3+/CAR+上でプレゲートした(図示せず)。J591-CAR T細胞と比較して、A5-CAR T細胞は、抗原に遭遇した時に有意に増加した数のLAG-3及びPD-1二重陰性細胞を維持し、T細胞表現型の疲弊が少ないことを示している。
【0088】
まとめると、実施例4、5、及び6のデータは、抗原曝露がCAR T細胞表現型、CAR T細胞増殖、及びCART細胞疲弊の主要な決定要因であることを示している。A5-CAR T細胞は、これらのアッセイの全てにおいてJ59-CAR T細胞を上回った。
【0089】
実施例7 製造されたPSMA-CAR T細胞のin vitro細胞毒性
細胞生存能力XTTアッセイを用いてPSMA陽性腫瘍細胞を殺す能力を評価することにより、CAR T細胞を標的とするPSMAの細胞毒性電位を測定した。CAR T細胞をPSMA陽性(C4-2)または(LNCaP)腫瘍細胞または抗原陰性腫瘍対照細胞(DU145)のいずれかで96ウェルプレート中で、異なるエフェクター対標的比で、最終容量200 μml/ウェルのサイトカインを含まないRPMI完全培地の中で48時間共培養した。代謝活性の関数として細胞生存度を測定するために、100μml/ウェルの培地を除去し、100 μl/ウェルのXTT溶液(Sigma-Aldrich)で置換し、37℃で細胞をインキュベートした。450 nmでELISAリーダー(Infinite F50, Tecan)を用いてを比色変化を定量した。細胞毒性は、100%から生存細胞の割合を差し引いた死細胞の割合として示された。生存率は、式[ODE+T-ODEのみ]/[ODTのみ-OD培地のみ](E:エフェクター細胞=CAR T細胞;T:標的細胞=腫瘍細胞)に従って計算した。A5-CAR T細胞は、J59-CAR T細胞と比較して、有意に低いエフェクター対標的比で腫瘍陽性細胞を除去することができた。該結果は、A5-CAR T細胞がin vitro細胞毒性アッセイにおいてJ59-CAR T細胞を上回ったことを示している。
【0090】
通常、キメラ抗原受容体をコードする遺伝子情報は、標的免疫細胞(例えば、T細胞)への適当なベクターの助けにより導入される。このようなベクターは、好ましくは、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、トランスポゾン、またはプラスミドであり得る。あるいは、前記遺伝子情報は、本明細書に記載されるように、CRISPR/Cas技術またはTALEN技術のようなデザイナーヌクレアーゼ技術の助けを借りて、標的様式でT細胞のゲノムに導入することができる。
【0091】
さらなる実施形態では、本発明は、本明細書に記載のキメラ抗原受容体を含むT細胞を提供するin vitro方法に関する。最初のステップでは、T細胞を好ましくは白血球除去法によりドナーから単離する。これにより、T細胞は実質的に濃縮される。次いで、T細胞を、適当なベクターで遺伝子導入するか、またはキメラ抗原受容体の遺伝情報を含むウイルスベクターで形質導入することによって遺伝的に改変する。次いで、このような遺伝的に改変されたT細胞を単離して増幅することができる。それによって、所望の遺伝子情報を含まないT細胞を改変されたT細胞から分離することができるか、または少なくとも減少させることができる。次いで、遺伝子導入されたT細胞を治療すべき患者に適用することができる。
【配列表】