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特許7625283線虫の走性行動による血液試料の検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-24
(45)【発行日】2025-02-03
(54)【発明の名称】線虫の走性行動による血液試料の検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20250127BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20250127BHJP
【FI】
G01N33/48 N
G01N33/48 B
C12Q1/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022563753
(86)(22)【出願日】2021-11-16
(86)【国際出願番号】 JP2021041981
(87)【国際公開番号】W WO2022107736
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2024-11-13
(31)【優先権主張番号】P 2020191078
(32)【優先日】2020-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516266031
【氏名又は名称】株式会社HIROTSUバイオサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】広津 崇亮
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-044781(JP,A)
【文献】国際公開第2017/081750(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108424951(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0227491(US,A1)
【文献】HIROTSU Takaaki et al.,A Highly Accurate Inclusive Cancer Screening Test Using Caenorhabtis elegans Scent Detection,PLoS ONE,2015年03月11日,Vol.10, No.3,e0118699
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48,
C12Q 1/06,
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんを有する対象またはがんを有すると疑われる対象の血液試料を検査または分析する方法であって、血液試料に対する線虫の走性行動を評価することを含み、
血液試料が、低減したタンパク質含有量を有する血清試料または血漿試料である
方法。
【請求項2】
血液試料が、血清試料または血漿試料である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
血液試料が、除タンパク処理に供され、低減したタンパク質含有量を有する血液試料である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
除タンパク処理が、メタノール、ギ酸、およびトリクロロ酢酸からなる群から選択される1以上を含む溶液による除タンパク処理、または限外ろ過による除タンパク処理である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
がんが、固形がんである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
がんが、消化器がんである、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線虫の走性行動による血液試料の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体関連物質又はその処理物におけるがん特異的な匂いに誘引される線虫の特性を利用した、がんスクリーニング検査として構築されている。特許文献1では、尿試料に対する線虫の応答性の相違を利用して、試料が由来する対象が、がんを有する可能性があるか否かを判定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2015/088039
【発明の概要】
【0004】
本発明は、線虫の走性行動による血液試料の検査方法を提供する。
【0005】
本発明者らは、線虫の走性行動により血液試料を検査または分析できることを見出した。本発明者らは、がん患者に由来する血液試料に対しては、線虫が誘引行動を示し得ることを見出した。本発明者らはまた、非がん対象(がんを有しない対象)に由来する血液試料に対しては、線虫が忌避行動を示し得ることを見出した。本発明者らはさらに、血液試料に対してタンパク質除去処理をして、低減したタンパク質含量を有する血液試料を用いると、線虫の走性行動の応答性が改善され得ることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0006】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]がんを有する対象またはがんを有すると疑われる対象の血液試料を検査または分析する方法であって、血液試料に対する線虫の走性行動を評価することを含む、方法。
[2]血液試料が、血清試料または血漿試料である、上記[1]記載の方法。
[3]血液試料が、低減したタンパク質含有量を有する血清試料または血漿試料である、上記[1]または[2]に記載の方法。
[4]血液試料が、除タンパク処理に供され、低減したタンパク質含有量を有する血液試料である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]除タンパク処理が、メタノール、ギ酸、およびトリクロロ酢酸からなる群から選択される1以上を含む溶液による除タンパク処理、または限外ろ過による除タンパク処理である上記[4]に記載の方法。
[6]がんが、固形がんである、上記[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]がんが、消化器がんである、上記[6]に記載の方法。
【0007】
本発明によれば、血液試料を分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、がん患者2名とがん陰性のヒト(非がん対象)4名からそれぞれ得られた尿試料に対する線虫の走性行動の評価結果を示す。
図2図2は、がん患者2名と非がん対象2名からそれぞれ得られた血漿試料に対する線虫の走性行動の評価結果を示す。
図3図3は、がん患者2名と非がん対象2名からそれぞれ得られた血清試料に対する線虫の走性行動の評価結果を示す。
図4図4は、がん患者2名と非がん対象2名からそれぞれ得られた血漿試料をタンパク質除去処理に供し、得られた除タンパク処理済みの血漿試料に対する線虫の走性行動の評価結果を示す。
図5図5は、がん患者2名と非がん対象2名からそれぞれ得られた血清試料をタンパク質除去処理に供し、得られた除タンパク処理済みの血清試料に対する線虫の走性行動の評価結果を示す。
図6図6は、図4図5のサマリーである。
【発明の具体的な説明】
【0009】
本明細書では、「対象」とは、哺乳動物を意味し、例えば、ヒトである。また、本明細書では、「対象」には、健常な対象、がんであると疑われる対象およびがんに罹患している対象が含まれる意味で用いられる。本明細書では、「がんであると疑われる対象」は、がんであると明確に疑われる対象に加えて、がんであることが具体的に疑われたことがない対象を含む。
【0010】
本明細書では、「がん」は、悪性腫瘍を意味する。がんには、造血器腫瘍および固形がんに大きく分類され得る。造血器腫瘍としては、白血病、悪性リンパ腫、および骨髄腫などが挙げられる。固形がんとしては、胃がん、食道がん、大腸がん、直腸結腸がん、胆のうがん、膵臓がんなどの消化器がん、肺がん、乳がん、肝がん、子宮がん、卵巣がん、頭頸部がん、および舌がんなどの固形がん;骨肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、線維肉腫、脂肪肉腫、および血管肉腫などの肉腫;軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性血管内皮腫、悪性シュワン腫、骨肉腫、軟部組織肉腫などの肉腫や、肝芽腫、髄芽腫、腎芽腫、神経芽腫、膵芽腫、胸膜肺芽腫、網膜芽腫などの芽腫が挙げられる。
【0011】
本明細書では、「がんを検出する」とは、「がん細胞を検出する」、「がんを同定する」、「がんを判定する」、「がんの診断を補助するための方法」、「がんの診断のための予備的情報を得る方法」等と読み替えることができる。本発明の方法は、産業上利用可能な方法である。ある態様では、本発明の方法は、医師による方法ではない。ある態様では、本発明の方法は医療行為を含まない。
【0012】
本明細書では、「線虫」とは、カエノラブディチス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)を意味する。線虫は、米国ミネソタ大学の生物科学部のCaenorhabditis Genetics Center (CGC)に様々な環境から単離された株が登録および公開され、分譲可能である。従って、当業者であれば、知られているほとんどの株をCGCから入手することができる。自家受精により繁殖できるという観点では、雌雄同体が好ましく用いられ得る。
【0013】
本明細書では、「走性行動」とは、誘引行動または忌避行動を意味する。誘引行動とは、ある物質からの物理的距離を縮める行動を意味し、忌避行動とは、ある物質からの物理的距離を広げる行動を意味する。誘引行動を誘発する物質を誘引物質といい、忌避行動を誘発する物質を忌避物質という。線虫は嗅覚により誘引物質に対して誘引し、忌避物質から忌避するという性質を有している。誘引物質に対して誘引する行動を誘引行動(本明細書では「陽性」ということがある)といい、忌避物質から忌避する行動を忌避行動(本明細書では「陰性」ということがある)という。また、誘引行動と忌避行動とを合わせて走性行動という。
【0014】
本明細書では、「野生株」とは、線虫の野生株であり、例えば、一般的な野生株であるN2 Bristol株が挙げられる。
【0015】
本明細書では、「血液試料」とは、対象から得られた血液を含む試料である。血液試料としては、例えば、血清試料および血漿試料が挙げられる。本明細書では、「被検試料」とは、検査対象となる試料をいう。
【0016】
本発明によれば、がんを有するか、がんを有すると疑われる対象においてその生体試料(特に血液試料)を検査する方法(または分析する方法)が供される。本発明によればまた、本発明の方法は、がんを有するか、がんを有すると疑われる対象においてがんを検出する方法(または予測する方法、若しくは診断する方法、あるいは、治療効果の基礎的情報を得る方法)であって、前記対象の尿試料に対する線虫の走性行動を評価することとを含む方法であり得る。本発明の方法は、産業上利用可能な発明であり得る。本発明の方法は、非医療的な方法であり得る。
【0017】
線虫としては、野生型の線虫(例えば、N2 Bristol株)を用いることができる。線虫株は、がん患者の尿に対して誘引行動を示すので、このようながん患者の尿に対して誘引行動を示す線虫は、本発明で用いることができる。
【0018】
血液試料は、対象から得ることができる。血液試料は、本発明の方法で評価する際には、水などの水性溶媒などの溶媒で希釈し、希釈試料として用いることができる。このときの希釈倍率は、例えば、5倍以上、10倍以上、20倍以上、30倍以上、40倍以上、50倍以上、60倍以上、70倍以上、80倍以上、90倍以上、100倍以上、200倍以上、300倍以上、400倍以上、500倍以上、600倍以上、700倍以上、800倍以上、900倍以上、1,000倍以上、2,000倍以上、3,000倍以上、4,000倍以上、5,000倍以上、6,000倍以上、7,000倍以上、8,000倍以上、9,000倍以上、または10,000倍以上の希釈倍率であり得る。希釈倍率はまた、100倍以下、200倍以下、300倍以下、400倍以下、500倍以下、600倍以下、700倍以下、800倍以下、900倍以下、1,000倍以下、2,000倍以下、3,000倍以下、4,000倍以下、5,000倍以下、6,000倍以下、7,000倍以下、8,000倍以下、9,000倍以下、10,000倍以下の希釈倍率であり得る。ある態様では、血液試料を、5倍から100,000倍、例えば、10倍から10,000倍、50倍から2,000倍、50倍から500倍、または500倍から5,000倍の希釈倍率で試料を希釈して希釈試料として用いることができる。
【0019】
尿試料は、対象から得ることができる。尿試料は、本発明の方法で評価する際には、水などの溶媒で希釈してもよい。希釈する場合には、例えば、5倍から20000倍の希釈倍率であってもよく、例えば、10倍から10000倍の希釈倍率であってもよく、例えば、10倍から5000倍の希釈倍率であってもよく、10倍から2000倍の希釈倍率であってもよく、例えば、100倍から1000倍の希釈倍率であってもよく、線虫は希釈された尿試料に対しても走性行動を示す。本発明のある態様では、尿の希釈倍率は、例えば、100倍若しくは1000倍とすることができ、または100倍と1000倍を含む2以上の希釈倍率とすることができる。例えば、イヌの尿試料の希釈倍率は、10倍から2000倍の希釈倍率、例えば、100倍から1000倍の希釈倍率であってもよい。例えば、ネコの尿試料の希釈倍率は、5倍から20000倍の希釈倍率であってもよく、10倍から10000倍の希釈倍率、例えば、500倍から5000倍の希釈倍率であってもよい。また、例えば、マウスの尿試料の希釈倍率は、5倍から20000倍の希釈倍率であってもよく、10倍から10000倍の希釈倍率、例えば、500倍から5000倍の希釈倍率であってもよい。
【0020】
試料の希釈倍率は、がん患者と非がん対象それぞれから得られた被検試料(例えば、血液試料)の希釈系列(例えば、2倍~10倍の希釈系列)を作製して、これらの希釈系列に対する線虫の走性行動を評価し、がん患者と非がん患者からの尿に対して、良好に異なる応答性を示す希釈倍率を当業者であれば適宜決定することができる。希釈倍率は、例えば、100倍から20,000倍、例えば、500倍から10,000倍、例えば、1,000倍から10,000倍であり得る。検査の精度を高める観点では、適宜希釈濃度を検討し、より優れた分離能を示す希釈倍率を決定してから検査または分析を行うことができる。また、分析は、複数の希釈倍率の試料を用いて行うこともできる。
【0021】
試料(例えば、血液試料)からは、常法により血清または血漿を得ることができる。血清は、血液を凝固させたときの液体成分である。血漿は、血液における細胞以外の成分である。具体的には、血漿は、血液を遠心分離して得られる上清であり得る。
【0022】
血液試料は、タンパク質除去処理によって、含有タンパク質量を低減させたのちに本発明の分析に供してもよい。したがって、本発明は、血液試料は、低減したタンパク質含有量を有する血液試料であり得る。本発明のある態様では、血液試料は、低減したタンパク質含有量を有する血漿であり得る。本発明のある態様では、血液試料は、低減したタンパク質含有量を有する血清であり得る。低減したタンパク質含量とは、通常の血液試料に含まれるタンパク質含有量よりも、少ないタンパク質含有量である。低減したタンパク質含有量を有する血液試料(例えば、血清および血漿)は、例えば、血液試料(例えば、血清および血漿)をタンパク質除去処理に供することによって得られ得る。タンパク質除去処置としては、特に限定されないが、当業者が通常用いることができる方法を用いることができる。タンパク質除去処理としては、例えば、酸(例えば、ギ酸、過塩素酸、トリクロロ酢酸、およびメタリン酸など)および有機溶媒(例えば、アセトン、アセトニトリル、メタノール、およびエタノールなど)からなる群から選択される1以上の薬剤(例えば、タンパク質変性剤)を試料に添加することによってタンパク質を変性させ、不溶化させることによって試料からタンパク質を除去する方法が挙げられる。タンパク質除去処理としてはまた、限外ろ過、例えば、メンブランフィルター(遠心ろ過デバイスなど)を用いた限外ろ過、透析、および超遠心分離等の物理的手法によって、試料からタンパク質を除去する方法が挙げられる。得られた血液試料は、水等の溶媒により希釈して本発明の分析に供することができる。すなわち、血液試料は、低減したタンパク質含有量を有する血液試料(例えば、血漿および血清など)の希釈物であり得る。
【0023】
線虫の走性行動の評価は、試料(例えば、尿試料または血液試料)と線虫とを一定距離(例えば、約0cm~約5cm程度、例えば、1cm~5cmの距離)離れた位置にそれぞれ配置し、線虫が試料(例えば、尿試料または血液試料)に対して誘引行動を示すか、忌避行動を示すかを観察することによって実施することができる。走性行動の観察は、例えば、寒天培地などの固体培地上で行うことができる。
【0024】
線虫を用いた被検試料の分析方法
線虫を用いた試料の分析方法は、対象から得られた被検試料(例えば、尿または血液試料)と線虫とを一定距離離して配置し、線虫が被検試料に対して誘引行動を示すか、忌避行動を示すかを観察することによって行うことができる。そして、誘引行動を示した場合には、対象は、がんに罹患している、またはその可能性があると評価することができる。また、忌避行動を示した場合には、対象はがんを有しない、またはその可能性があると評価することができる。ヒトの検体を用いた分析方法の例は、引用することでその全体が本明細書に取り込まれるWO2015/088039に開示される通りである。
【0025】
より詳細には、線虫を用いた被検試料(例えば、尿試料または血液試料)の分析方法は例えば、
シャーレ(例えば、固形培地を導入したシャーレ)に対象から得られた被検試料(例えば、尿試料または血液試料)を配置することと、
被検試料が配置されたシャーレに、被検試料と一定距離離れた位置に線虫を配置することと、
配置後、線虫に行動させることと、を含みうる。
【0026】
線虫を用いた試料(例えば、尿試料または血液試料)の分析方法は例えば、線虫が被検試料に対して誘引行動を示した場合には、対象ががんに罹患している、またはがんに罹患している可能性があると決定することを含みうる。また、線虫を用いた試料(例えば、尿試料または血液試料)の分析方法は例えば、線虫が被検試料に対して誘引行動を示した場合には、試料が由来する対象が、がんに罹患している可能性が有ることが示され得る。
【0027】
線虫の走性行動は、被検試料に近づいた線虫数と被検試料から遠のいた線虫数の差や比により評価することができる。線虫数の差に基づく評価の場合には、差が正の値である場合には、全体として被検試料は、誘引行動を誘発するものであり、がん患者に由来するものであると評価することができ、および/または、負の値である場合には、全体として被検試料は、忌避行動を誘発するものであり、がんを有しない対象に由来するものであると評価することができる。また、線虫数の比に基づく評価の場合には、比が1以上である場合には、被検試料は、誘引行動を誘発するものであり、がんの対象に由来するものであると評価することができ、および/または、比が1未満である場合には、被検試料は、忌避行動を誘発するものであり、がんを有しない対象に由来するものであると評価することができる。また、線虫の走性行動は、例えば、以下のように走性インデックスを指標として評価することができる。
【0028】
【数1】
{式中、Aは、被検試料に対して誘引行動を示した線虫の数であり、Bは、被検試料に対して忌避行動を示した線虫の数である。}
【0029】
走性インデックスが正の値である場合には、全体として被検試料は、誘引行動を誘発するものであり、がんを有する対象に由来するものであると評価することができ、負の値である場合には、全体として被検試料は、忌避行動を誘発するものであり、がんを有しない対象に由来するものであると評価することができる。
【0030】
走性インデックスは、1に近いほど線虫が誘引行動を示す比率が大きいことを意味し、-1に近いほど線虫が忌避行動を示す比率が大きいことを意味し、0に近いほど線虫は誘引行動も忌避行動も示さないことを意味する。走性インデックスの絶対値が大きいほど、行動評価結果は明確になる。走性行動を示した線虫と忌避行動を示した線虫とが同程度である場合は、陽性としてもよいし(陽性とした場合にはさらなる精密な検査を実施してもよく)、評価対象から除外してもよい。本発明では、陽性となった被検試料が由来する個体を更なる精密検査に供して当該個体ががんを有するか否かを決定することができる。異なる2以上の希釈倍率の被検試料を検査する場合には、感度向上の観点で、いずれかの希釈倍率の試料に対して陽性となった場合にがんと決定してもよいし、特異度向上の観点で、いずれもが陽性となった場合にがんと決定してもよい。
【0031】
本発明では、がんを有する対象またはがんを有すると疑われる対象から得られた尿試料を線虫の走性行動の評価系で評価し、その後に、当該対象から得られた血液試料を線虫の走性行動の評価系で評価することを含んでいてもよい。
【0032】
本発明の方法によって、がんを有するまたはその可能性があると評価された対象は、その後、医師によるがんの診断によりがんであるか否かについての確定診断がなされ得る。本発明の方法によって、がんを有するまたはその可能性があると評価された対象は、更に精密検査を受けてがんの確定診断を受けてもよい。本発明の方法によって、がんを有するまたはその可能性があると評価された対象は、その後、がんの治療(例えば、化学療法、放射線療法、および外科的切除、並びにこれらの組合せ等)を受けることができる。
【0033】
本発明によれば、本発明の分析方法、がんを検出する方法、がん細胞を検出する方法、がんを同定する方法、がんを判定する方法、がんの診断を補助するための方法、がんの診断のための予備的情報を得る方法に用いるための、線虫またはその卵を含む組成物またはキットが提供される。キットは、線虫またはその卵に加えて、線虫の行動評価系(例えば、ディッシュ、寒天、および取扱説明書)およびまたその一部を含んでいてもよい。
【0034】
本発明によれば、本発明の本発明の分析方法、がんを検出する方法、がん細胞を検出する方法、がんを同定する方法、がんを判定する方法、がんの診断を補助するための方法、またはがんの診断のための予備的情報を得る方法に用いるための組成物またはキットの製造における線虫の使用が提供される。
【実施例
【0035】
実施例1:尿試料または血液試料の化学走性解析
本実施例では、WO2015/088039に記載される手順「(3)線虫の嗅覚を利用した検出」に基づいて、胃がんを有するヒト患者2名およびがん陰性のヒト対象4名の尿を水で10倍希釈(条件1)、および100倍希釈(条件2)で分析した。その結果、図1に示されるように、胃がん患者2名の尿に対して線虫は誘引行動を示し、がん陰性のヒトの尿に対しては忌避行動を示した。
そこで、前記胃がん患者2名(SE-005、およびSE-006)と前記がん陰性のヒト4名から選択した2名(SE-001、およびSE-002)から血液試料を採取して、常法により血清および血漿を得た。血清および血漿は、未処理、有機溶媒処理(メタノール:ギ酸=1000:1)、もしくは酸処理(10%トリクロロ酢酸)、または限外ろ過(Amicon Ultra 3Kを製造者マニュアルに従って用いる)により処理し、各試料を水で希釈したのちに、当該希釈試料に対する線虫の走性行動を上記手順に基づいて評価した。
【0036】
(1)未処理の血漿・血清に対する線虫の走性
<方法>
更に、実施例1に使用した対象SE-001,SE-002,SE-005およびSE-006の未処理の血漿と血清対する線虫の走性を確認した。未処理の血漿と血清とをそれぞれ水で希釈した。希釈率は10-2,10-3,10-4,または10-5の4通りとし、それらの中でがん患者の誘引が見られる希釈倍率を確認した。
<結果>
血漿について、図2に示されるように、10-2希釈では、実施例1の尿検体と同様に、健常者検体に対して忌避を示し、がん患者に対して誘引を示した。また、健常者の血漿に対しては、希釈倍率を上げていくにつれて、誘引傾向への走性の変化が観察され、一方、がん患者の血漿に対しては、いずれの希釈倍率でも誘引が確認された。
血清について、図3に示されるように、10-2または10-3の希釈倍率のとき、健常者に対しては忌避を、がん患者に対しては誘引を示していた。一方、より希釈倍率を高くした場合には、共通した傾向は見られなかった。
【0037】
(2)除タンパク処理後の血漿・血清に対する線虫の走性
<方法>
次に、血漿および血清それぞれに対して、限外ろ過(Amicon Ultra 3K)、メタノール/ギ酸処理(1000:1)、または10%トリクロロ酢酸(TCA)処理の3通り方法で除タンパク処理を行い、血液試料とした。得られた血液試料をさらに水で希釈した。血液試料の希釈倍率は、10-2,10-3,10-4,または10-5とした。その後、希釈試料に対して線虫の走性を評価した。ただし、メタノール/ギ酸処理で除タンパク処理をした場合、上清を水で2倍に希釈した上で血液試料とした。
<結果>
図4および5に示されるように、血漿および血清を用いた検査では、いずれの除タンパク処理によっても、がんと健常者由来の試料とでの線虫の応答性に関して分離能が高くなる傾向があった。また、血漿を用いた検査において血清を用いた検査よりも分解能の高い検査が可能であった。
血清を用いた検査では、メタノール/ギ酸またはTCAによる除タンパクがより効果的に分離能が高く優れていることがわかった。


図1
図2
図3
図4
図5
図6